説明

アクリル系フィルムの製造方法およびアクリル系フィルム

【課題】 品位、生産性、光学等方性に優れたフィルムの製造方法、および、これを用いたアクリル系フィルムを提供する。
【解決手段】 (1)〜(4)工程を有し、厚み20〜80μmであるフィルムを流延してから実質的に30分以内で得る、アクリル系フィルムの製造方法。
(1)アクリル系ポリマーの有機溶剤溶液を基材上に流延し、自己支持性を示すまで乾燥する。
(2)アクリル系ポリマーの自己支持性フィルムを基材から剥離する。
(3)自己支持性フィルムの両端をテンターにより把持する方法、または自己支持性フィルムの両端に耐熱性テープを貼り補強する方法を用い、アクリル系ポリマーのガラス転移温度をTg(℃)、熱処理温度をT(℃)、熱処理時間をθ(秒)としたとき式(A)〜(B)を満たす条件で熱処理する。

(4) 延伸温度をT(℃)、延伸時間をθ(秒)、延伸倍率をE(倍)としたとき式(D)〜(H)を満たす条件で延伸を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は品位、生産性、光学等方性に優れたアクリル系フィルムの製造方法、および、これを用いたアクリル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶液製膜法は、得られるフィルムの厚みムラや表面平滑性に優れているため、偏光板保護フィルムや位相差フィルムなど、様々な光学材料の製造方法として広範な分野で使用されている。
【0003】
溶液製膜方法では、例えば、ポリマー溶液を基材上に流延し、その後溶媒を乾燥させて最終フィルムを得る。しかし、一般に溶液製膜法では、乾燥工程での溶媒の乾燥に長時間を要するため、生産性の低下が問題となっている。
【0004】
アクリル系フィルムの溶液製膜方法に関し、特許文献1に記載があるが、製膜に長時間を要し生産性が十分とは言えない。
【0005】
また他の高分子フィルムの溶液製膜方法について、例えば、特許文献2にポリカーボネートフィルムの製膜においてフィルム中の溶媒を効率よく減少させる方法として、遠赤外線を熱源とした方法が記載されている。また、特許文献3にはピンテンターを用いて乾燥する方法について記載されている。しかし、これらの方法を用いても乾燥時間が長いため更なる生産性向上が必要であった。また、特許文献4にはセルロースフィルムの製膜において混合溶媒を用いて、フィルム中の残存溶媒を低減させる方法について記載されている。しかし、該方法を用いると乾燥は促進されるものの、数種類の溶媒を混合して用いるため溶媒の回収設備が複雑となり生産性が低下する問題があった。また、沸点の高い溶媒を用いるため乾燥に時間がかかり、更なる生産性向上が必要であった。
【特許文献1】特開昭62−42499号公報
【特許文献2】特開平6−335932号公報(1頁)
【特許文献3】特開平9−187828号公報(1頁)
【特許文献4】特開2003−334832号公報(1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、品位、生産性、光学等方性に優れたフィルムの製造方法、および、これを用いたアクリル系フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するための本発明は、下記の(1)〜(4)工程を有し、流延してから実質的に30分以内で厚み20μm以上80μm以下であるフィルムを得る、アクリル系フィルムの製造方法によって達成される。
(1)アクリル系ポリマーの有機溶剤溶液を基材上に流延し、自己支持性を示すまで乾燥する。
(2)アクリル系ポリマーの自己支持性フィルムを基材から剥離する。
(3)自己支持性フィルムの両端をテンターにより把持する方法、または自己支持性フィルムの両端に耐熱性テープを貼り補強する方法を用い、アクリル系ポリマーのガラス転移温度をTg(℃)、熱処理温度をT(℃)、熱処理時間をθ(秒)としたとき下記式(A)〜(B)を満たす条件で熱処理する。
【0008】
Tg+10≦T≦Tg+150 ・・・(A)
30≦θ≦600 ・・・(B)
(T−Tg)×θ≧5000 ・・・(C)
(4) 延伸温度をT(℃)、延伸時間をθ(秒)、延伸倍率をE(倍)としたとき下記式(D)〜(H)を満たす条件で延伸を行う。
【0009】
Tg−50≦T≦Tg ・・・(D)
1≦θ≦60 ・・・(E)
1.05≦E≦5.00 ・・・(F)
(Tg−T)≦−13×E+65 ・・・(G)
−Tg≦40×E+70 ・・・(H)
【発明の効果】
【0010】
本発明のアクリル系フィルムは、品位、生産性、光学等方性に優れるため、光学用フィルムとして好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いるアクリル系ポリマーは、透明性、耐熱性、機械特性など、光学用途に必要な特性を満たしていれば特に構造は限定されないが、下記構造式(a)〜(c)で表される構造単位のうち少なくとも1つ以上を含有するアクリル系ポリマーが耐熱性に優れるため好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
(上記式中、R1、R2は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。また、上記式中、X1、X2は、同一または相異なるCHまたはC=Oを表す。Xは、O、またはNRを表す。Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。)
特に耐熱性の点から、R1,R2は水素またはメチル基またはカルボキシメチル基が好ましく、とりわけメチル基が好ましく、X1、X2は、C=Oが好ましい。また、透明性の観点からXは、Oが好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
(上記式中、R、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。)
特に耐熱性の点から、Rはメチル基が好ましい。
【0016】
【化3】

【0017】
(上記式中、Rは炭素数6〜15の脂環式構造を含有する置換基を表す。)
特に低吸湿性の点から、Rは下記構造式(d)、(e)で表される置換基であることが好ましい。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
構造式(a)〜(c)の中でも、特に構造式(f)に示す環化構造を有するアクリル系ポリマーを用いると、透明性、耐熱性、生産性に優れ、また、光学等方性に優れたフィルムを得ることができるため好ましい。
【0021】
特に耐熱性の点からは、R1,R2は水素またはメチル基が好ましく、とりわけメチル基
が好ましい。
【0022】
【化6】

【0023】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
次に、上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル系ポリマー(あ)の製造方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
すなわち、後の加熱工程により上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位を与える不飽和カルボン酸単量体(i)および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)と、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体(iii)とを重合させ、共重合体(ア)とした後、かかる共重合体(ア)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコールおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることにより製造することができる。この場合、典型的には共重合体(ア)を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の前記グルタル酸無水物単位が生成される。この際用いられる不飽和カルボン酸単量体(i)としては、特に限定はなく、他のビニル化合物(iii)と共重合させることが可能な、構造式(g)の不飽和カルボン酸単量体が使用できる。
【0025】
【化7】

【0026】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
特に、熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種、または2種以上用いることができる。なお、上記構造式(g)で表される不飽和カルボン酸単量体(i)は共重合すると上記構造式(f)で表される構造の不飽和カルボン酸単位を与える。
【0027】
また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)としては特に制限はないが、好ましい例として、下記構造式(h)で表されるものを挙げることができる。
【0028】
【化8】

【0029】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。R10は水素原子または炭素数1〜6の脂肪族、もしくは脂環式炭化水素基を示す。)
これらのうち、炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基または置換基を有する該炭化水素基をもつアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが熱安定性が優れる点で特に好適である。なお、上記構造式(h)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記構造式(f)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0030】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、中でもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
また、本発明で用いるアクリル系ポリマー(あ)の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミドなど、他のビニル系単量体(iii)を用いてもかまわないが、透明性、複屈折、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0032】
アクリル系ポリマー(あ)の重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の重合方法を用いることができるが、不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合が特に好ましい。
【0033】
重合温度については、特に制限はないが、色調の観点から、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を95℃以下の重合温度で重合することが好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上である。重合収率あるいは重合速度を向上させる目的で、重合進行に従い重合温度を昇温することも可能である。また重合時間は、必要な重合度を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましい。
【0034】
本発明において、アクリル系ポリマー(あ)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100質量部として、不飽和カルボン酸単量体(i)が5〜50質量部、より好ましくは9〜33質量部、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)は好ましくは50〜95質量部、より好ましくは67〜91質量部、これらに共重合可能な他のビニル系単量体(iii)を用いる場合、その好ましい割合は0〜5質量部であり、より好ましい割合は0〜3質量部である。
【0035】
不飽和カルボン酸単量体量(i)が5質量部未満の場合には、共重合体(ア)の加熱などによる上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位の生成量が少なくなり、本発明のアクリル系フィルムの耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体量(i)が50質量部を超える場合には、共重合体(ア)の加熱による環化反応後に、不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0036】
また、本発明のアクリル系フィルムに使用するアクリル系ポリマー(あ)は、質量平均分子量が8万〜15万であることが好ましい。このような分子量を有するアクリル系ポリマー(あ)は、共重合体(ア)の製造時に、共重合体(ア)を所望の分子量、すなわち質量平均分子量で5万〜15万に予め制御しておくことにより、達成することができる。質量平均分子量が、15万を越える場合、後工程の環化時に着色する傾向が見られる。一方、質量平均分子量が、5万未満の場合、アクリル系フィルムの機械的強度が低下する傾向見られる。
【0037】
本発明に好ましく用いられるアクリル系ポリマー(あ)の製造に用いる共重合体(ア)を加熱し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応を行いグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を製造する方法としては、特に制限はないが、ベントを有する加熱した押出機に通して製造する方法や不活性ガス雰囲気または真空下で加熱脱気できる装置内で製造する方法が生産性の観点から好ましい。中でも、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。また、これらに窒素などの不活性ガスが導入可能な構造を有した装置であることがより好ましい。例えば、二軸押出機に、窒素などの不活性ガスを導入する方法としては、ホッパー上部および/または下部より、10〜100リットル/分程度の不活性ガス気流の配管を繋ぐ方法などが挙げられる。
【0038】
なお、環化時の温度は、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは180〜300℃の範囲、特に200〜280℃の範囲が好ましい。
【0039】
また、この際の環化時間も特に限定されず、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間、好ましくは2分間〜30分間、とりわけ3〜20分間の範囲が好ましい。特に、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機スクリューの長さ/直径比(L/D)が40以上であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向や成形滞留時に色調が大幅に悪化する傾向がある。
【0040】
さらに本発明では、共重合体(ア)を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を添加することができる。その添加量は特に制限はなく、共重合体(ア)100質量部に対し、0.01〜1質量部程度が適当である。
【0041】
アクリル系ポリマー(あ)は、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であることが耐熱性の面で好ましい。ガラス転移温度を上げる方法としては、特に限定されないが、アクリル系ポリマー(あ)中の、例えば、前記構造式(f)で表される様な環化構造単位の含有量を増やすことが効果的である。また、得られたフィルムを延伸により配向させることも有効である。
【0042】
本発明のアクリル系ポリマー(あ)としては、上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からなる共重合体を好ましく使用することができる。不飽和カルボン酸アルキルエステル単位とグルタル酸無水物単位の含有量は、特に制限はないが、耐熱性が向上することから、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位とグルタル酸無水物単位の合計を100質量部としたときに、好ましくは不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜90質量部およびグルタル酸無水物単位10〜50質量部からなり、より好ましくは、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位55〜80質量部およびグルタル酸無水物単位20〜45質量部からなる。グルタル酸無水物単位が10質量部未満である場合、耐熱性向上効果が小さくなるだけでなく、十分な低複屈折性(光学等方性)や耐薬品性が得られない傾向がある。
【0043】
また、本発明のアクリル系ポリマー(あ)における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物単位は、1800cm-1及び1760cm-1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、1H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0044】
また、本発明のアクリル系ポリマー(あ)は、アクリル系ポリマー(あ)中に他の不飽和カルボン酸単位および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0045】
上記の熱可塑性重合体100質量部中に含有される他の不飽和カルボン酸単位量は10質量部以下、すなわち0〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0〜5質量部、最も好ましくは0〜1質量部である。不飽和カルボン酸単位が10質量部を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0046】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は上記熱可塑性重合体100質量部中、5質量部以下、すなわち0〜5質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜3質量部である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が上記範囲を超えると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0047】
本発明においては、上記のアクリル系ポリマー(あ)に弾性体粒子(い)を分散せしめることにより、アクリル系ポリマー(あ)の優れた特性を大きく損なうことなく伸度や靭性が向上し優れた加工性を付与することができる。弾性体粒子(い)としては、1以上のゴム質重合体を含む層と、それとは異種の重合体から構成される1以上の層から構成さる、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)や、ゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体などからなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体である弾性体粒子(い−2)等が好ましく使用でき、より好ましくは多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)である。
【0048】
本発明に使用されるコアシェル型の多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)としては、これを構成する層の数は、特に限定されるものではなく、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に少なくとも1層以上のゴム質重合体よりなるゴム弾性体層を有する多層構造重合体であることが必要である。
【0049】
本発明の多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)において、ゴム弾性体層の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴム弾性体としては、例えば、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分から構成されるゴム弾性体である。また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴム弾性体も好ましく、例えば、(1)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分から構成されるゴム弾性体、(2)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴム弾性体、(3)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分およびブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分から構成されるゴム弾性体、および(4)アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分およびスチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分から構成されるゴム弾性体などが挙げられる。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位およびブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分から構成される共重合体を架橋させたゴム弾性体も好ましい。
【0050】
本発明の多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)において、ゴム弾性体層以外の層の種類は、熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されるものではないが、ゴム弾性体層よりもガラス転移温度が高い重合体成分であることが好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位およびその他のビニル系単位などから選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が好ましく、さらには不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体がより好ましい。
【0051】
上記不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルおよびメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、(メタ)アクリル酸メチルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0052】
上記不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【0053】
上記不飽和グリシジル基含有単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではなく、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルおよび4−グリシジルスチレンなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0054】
上記不飽和ジカルボン酸無水物系単位の原料となる単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸および無水アコニット酸などが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、無水マレイン酸が好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0055】
また、上記脂肪族ビニル系単位の原料となる単量体としては、エチレン、プロピレンおよびブタジエンなどを、上記芳香族ビニル系単位の原料となる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンおよびハロゲン化スチレンなどを、上記シアン化ビニル系単位の原料となる単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどを、上記マレイミド系単位の原料となる単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(p−ブロモフェニル)マレイミドおよびN−(クロロフェニル)マレイミドなどを、上記不飽和ジカルボン酸系単位の原料となる単量体としては、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸およびフタル酸などを、上記その他のビニル系単位の原料となる単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを、それぞれ挙げることができ、これらの単量体は単独ないし2種以上を用いることができる。
【0056】
本発明のゴム質重合体を含有する多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)において、最外層の種類は、特に限定されるものではなく、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位およびその他のビニル系単位などを含有する重合体などから選ばれた少なくとも1種が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位、不飽和グリシジル基含有単位および不飽和ジカルボン酸無水物系単位を含有する重合体から選ばれた少なくとも1種が好ましく、さらには不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体がより好ましい。
【0057】
さらに、上記の多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)における最外層が不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体である場合、加熱することにより、前述した本発明のアクリル系ポリマー(あ)の製造時と同様に、分子内環化反応が進行し、上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位が生成することを見出した。従って、最外層に不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位および不飽和カルボン酸系単位を含有する重合体を有する多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)をアクリル系ポリマー(あ)に配合し、適当な条件で、加熱溶融混練することにより、連続相(マトリックス相)となるアクリル系ポリマー(あ)中に、最外層に上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位を含有してなる重合体を有する多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)が分散することにより、凝集することなく、良好な分散状態が可能となり、耐衝撃性等の機械特性向上とともに、極めて高度な透明性が発現しうるものと考えられる。
【0058】
ここでいう不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらには(メタ)アクリル酸メチルがより好ましく使用される。
【0059】
また、不飽和カルボン酸系単位の原料となる単量体としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸が好ましく、さらにはメタクリル酸がより好ましく使用される。
【0060】
本発明の多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)の好ましい例としては、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるもの、コア層がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、コア層がブタンジエン/スチレン重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるもの、およびコア層がアクリル酸ブチル重合体で最外層がメタクリル酸メチル重合体であるものなどが挙げられる(“/”は共重合を示す)。さらに、ゴム弾性体層または最外層のいずれか一つもしくは両方の層がメタクリル酸グリシジル単位を含有する重合体であるものも好ましい例として挙げられる。中でも、コア層がアクリル酸ブチル/スチレン重合体で、最外層がメタクリル酸メチル/上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位からなる共重合体、またはメタクリル酸メチル/上記構造式(f)で表されるグルタル酸無水物単位/メタクリル酸重合体であるものが、連続相(マトリックス相)であるアクリル系ポリマー(あ)との屈折率を近似させること、およびポリマー組成物中での良好な分散状態を得ることが可能となり、近年より高度化する要求を満足しうる透明性が発現するため、好ましく使用することができる。
【0061】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)の粒子径については、特に限定されるものではないが、10nm以上、1000μm以下であることが好ましく、さらに、20nm以上、100μm以下であることがより好ましく、特に50nm以上、400nm以下であることが最も好ましい。
【0062】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)において、コアとシェルの質量比は、特に限定されるものではないが、多層構造重合体全体を100質量部としたときに、コア層が50質量部以上、90質量部以下であることが好ましく、さらに、60質量部以上、80質量部以下であることがより好ましい。
【0063】
本発明に好ましく用いられる多層構造重合体としては、上述した条件を満たす市販品を用いてもよい。
【0064】
このような多層構造重合体の市販品の例としては、例えば、三菱レイヨン社製”メタブレン”、鐘淵化学工業社製”カネエース”、呉羽化学工業社製”パラロイド”、ロームアンドハース社製”アクリロイド”、ガンツ化成工業社製”スタフィロイド”およびクラレ社製”パラペットSA”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0065】
また、本発明に好ましく用いられる弾性体粒子(い)として好適に使用されるグラフト共重合体である弾性体粒子(い−2)の具体例としては、ゴム質重合体の存在下に、不飽和カルボン酸エステル系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、芳香族ビニル系単量体、および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体混合物を共重合せしめたグラフト共重合体が挙げられる。
【0066】
グラフト共重合体である弾性体粒子(い−2)に用いられるゴム質重合体には特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴムなどが使用できる。具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体、およびエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能である。
【0067】
本発明におけるグラフト共重合体である弾性体粒子(い−2)を構成するゴム質重合体の質量平均粒子径には特に制限はないが、0.01〜0.5μm、特に0.05〜0.4μmの範囲が好ましい。上記の範囲未満では得られる熱可塑性組成物の衝撃強度が低下する傾向を生じ、上記の範囲を越えると透明性が低下する場合がある。なお、ゴム質重合体の質量平均粒子径は「Rubber Age, Vol.88, p.484-490 (1960), by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法、つまりアルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した質量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積質量分率より累積質量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0068】
本発明におけるグラフト共重合体である弾性体粒子(い−2)は、該粒子を100質量部としたときに、ゴム質重合体10〜80質量部、好ましくは20〜70質量部、より好ましくは30〜60質量部の存在下に、上記の単量体(混合物)20〜90質量部、好ましくは30〜80質量部、より好ましくは40〜70質量部を共重合することによって得られる。ゴム質重合体の割合が上記の範囲未満、または上記の範囲を越える場合には、衝撃強度や表面外観が低下する場合がある。
【0069】
なお、グラフト共重合体である弾性体粒子(い−2)は、ゴム質重合体に単量体混合物をグラフト共重合させる際に生成するグラフトしていない共重合体を含んでいてもよい。ただし、衝撃強度の観点からは、グラフト率は10〜100%であることが好ましい。ここで、グラフト率とは、ゴム質重合体に対するグラフトした単量体混合物の質量割合である。また、グラフトしていない共重合体のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には特に制限はないが、0.1〜0.6dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられる。
【0070】
本発明におけるグラフト共重合体である弾性体粒子(い−2)のメチルエチルケトン溶媒、30℃で測定した極限粘度には、特に制限はないが、0.2〜1.0dl/gのものが、衝撃強度と成形加工性とのバランスの観点から好ましく用いられ、より好ましくは0.3〜0.7dl/gのものである。
【0071】
本発明におけるグラフト共重合体である弾性体粒子(い−2)の製造方法には、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合などの重合法により得ることができる。
【0072】
また、アクリル系ポリマー(あ)および弾性体粒子(い)のそれぞれの屈折率が近似している場合、本発明のアクリル系フィルムの透明性を得ることができるため、好ましい。具体的には、弾性体粒子(い)とアクリル系ポリマー(あ)の屈折率差が0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.02以下、とりわけ0.01以下であることが好ましい。このような屈折率条件を満たすためには、アクリル系ポリマー(あ)の各単量体単位組成比を調整する方法、および/または弾性体粒子(い)に使用されるゴム質重合体あるいは単量体の組成比を調製する方法などにより、屈折率差を小さくすることができ、透明性に優れたアクリル系フィルムを得ることができる。
【0073】
尚、ここで言う屈折率差とは、アクリル系ポリマー(あ)が可溶な溶媒に、本発明のアクリル系フィルムを適当な条件で十分に溶解させ白濁溶液とし、これを遠心分離等の操作により、溶媒可溶部分と不溶部分に分離し、この可溶部分(アクリル系ポリマー(あ))と不溶部分(弾性体粒子(い))をそれぞれ精製した後、測定した屈折率(23℃、測定波長:550nm)の差を示す。
【0074】
アクリル弾性体粒子(い)の平均粒子径としては、10〜1000nmとすることが好ましく、より好ましくは100〜200nmである。10nm以上とすることで靱性向上の実効を得ることができ、1000nm以下とすることで、耐熱性の低下を抑えることができる。
【0075】
弾性体粒子(い)のアクリル系フィルムに対する含有量としては、0.1〜50重量部とすることが好ましく、より好ましくは5重量%〜20重量%である。弾性体粒子の含有量を上記範囲にすることにより、耐折れ性などの加工適性と耐熱性が特に優れたアクリル系フィルムを得ることが出来る。
【0076】
また、実質的なアクリル系フィルム中でのアクリル系ポリマー(あ)と弾性体粒子(い)の共重合組成は、上記の溶媒による可溶成分と不溶成分の分離操作により、各成分を個別に分析可能である。
【0077】
また、本発明のアクリル系フィルムには本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど)、熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)の一種以上をさらに含有させることができ、また、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0078】
本発明においてアクリル系ポリマー(あ)に弾性体粒子(い)あるいはその他の添加剤などの任意成分を配合する方法には、特に制限はなく、アクリル系ポリマー(あ)とその他の任意成分を予めブレンドした後、通常200〜350℃において、一軸または二軸押出機により均一に溶融混練する方法が好ましく用いられる。また、弾性体粒子(い)を配合する場合には、(あ)、(い)成分の両者を溶解する溶媒の溶液中で混合した後に溶媒を除く方法を用いることができる。
【0079】
次に、アクリル系フィルムの製膜に用いるポリマー溶液調整方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0080】
本発明のアクリル系フィルムの製膜方法としては、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から流延法による溶液製膜が用いられる。
【0081】
製膜原液としては、溶液重合などによりポリマーを重合した場合は、ポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、一旦単離したポリマーを、溶媒に溶解したものを用いてもよい。
【0082】
溶媒としては、テトラヒドロフラン、アセトン、メチレンクロライド、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤が使用可能であり、好ましくはアセトン、メチルエチルケトンあるいはN−メチルピロリドン等が使用できる。溶媒は1種類の溶媒を用いてもよいし、2種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。また、溶媒の乾燥促進や基材からの剥離性向上を目的に乾燥助剤や剥離剤などを添加してもよい。製膜原液中のポリマー濃度は2〜50質量%程度が好ましい。濃度が低いとフィルムの表面性が悪化したり、溶媒乾燥に長時間を要するため好ましくない。濃度が高いとポリマー溶液の流動性が低下したり、溶解性が悪化したりする。ポリマー濃度は、より好ましくは10〜45質量%、さらに好ましくは15〜40質量%である。
【0083】
濃度調整後のポリマー溶液は、濾過を行い、異物やゲル状物を取り除くことが好ましい。異物を除去することにより、欠点が減少し光学用フィルムとして有用に使用できる。濾過精度は50μm以上の異物を除去できることが好ましい。さらに好ましくは10μm、最も好ましくは1μmである。濾過精度の異なる複数のフィルターにより段階的に濾過を行うと濾過寿命が延長されるため好ましい。濾過は、25℃以上100℃以下の温度で行うことができる。フィルターは、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網等野中から適宜選択し用いることができる。
【0084】
次に、アクリル系フィルムの製膜方法の例を説明する。
【0085】
従来、アクリルフィルムは一般に溶融製膜法で製膜されていた。しかしながら、アクリルポリマーは極性が大きいため、そのTgに対し、溶融粘度が著しく大きいという問題があった。これはPMMA等、Tgの低いアクリルを製膜する場合に大きな問題とはならないが、高耐熱、即ちTgの高い本発明のアクリル系ポリマーの場合には、製膜が可能となる温度と、ポリマーの熱分解温度が近くなり、ポリマーが一部分解して着色や品位が低下する問題があった。
【0086】
一方、溶液製膜においてもアクリルフィルムはその極性が大きいため、Tg以下の温度では溶媒の乾燥に長大な時間を要する問題があった。このため、Tgを越える温度での加熱が好ましいが、本発明の(2)工程を有さない、即ち基材上で乾燥する場合には基材側は基材によって乾燥が阻害される問題があった。一方、本発明の(2)工程を有し、即ち基材から剥離してアクリル系フィルムのみとし、Tgを越える温度で乾燥をすると、両面からの乾燥が可能であり、乾燥速度の面では有利であるが、Tgを越えるために搬送張力が掛かる通常の搬送方法ではフィルムが伸びて、平面性が著しく悪化したり、また、搬送が行えない場合があり、光学用途に使用可能なフィルムの製膜は出来ない。
【0087】
これら従来の方法に対し、本発明の製膜方法はアクリル系フィルムをTg以上に加熱しながらも、搬送方法や製膜条件を工夫し、(1)〜(4)工程を有する製膜方法とすることで、品位、生産性、光学等方性に優れたアクリル系フィルムの製膜を可能にせしめたものである。
【0088】
本発明のアクリル系フィルムは、(1)〜(4)工程を有する方法によって製造されることが必要である。
(1)アクリル系ポリマーの有機溶剤溶液を基材上に流延し、自己支持性を示すまで乾燥する。
(2)アクリル系ポリマーの自己支持性フィルムを基材から剥離する。
(3)自己支持性フィルムの両端を把持または補強し、アクリル系ポリマーのガラス転移温度をTg(℃)、熱処理温度をT(℃)、熱処理時間をθ(秒)としたとき下記式(1)〜(3)を満たす条件で熱処理する。
【0089】
Tg+10≦T≦Tg+150 ・・・(A)
30≦θ≦600 ・・・(B)
(T−Tg)×θ≧5000 ・・・(C)
(4) 延伸温度をT(℃)、延伸時間をθ(秒)、延伸倍率をE(倍)としたとき下記式(4)〜(8)を満たす条件で延伸を行う。
【0090】
Tg−50≦T≦Tg ・・・(D)
1≦θ≦60 ・・・(E)
1.05≦E≦5.00 ・・・(F)
(Tg−T)≦−13×E+65 ・・・(G)
−Tg≦40×E+70 ・・・(H)
ただし、ここで温度TおよびTは、工程中のフィルムの温度を言う。フィルムの温度は、熱処理中または延伸中のフィルム表面に熱電対を貼り付け、温度を測定することにより確認可能である。
【0091】
溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあり、本発明の(1)〜(4)工程を有していれば、いずれの方法で製膜されても差し支えないが、ここでは乾式法を例にとって説明する。
【0092】
工程(1)で製膜原液を口金からドラム、エンドレスベルト、工程フィルム等の支持体上に押し出して膜を形成し、続く乾燥工程でかかる膜層から溶媒を飛散させ膜が自己支持性をもつまで乾燥し、支持体から剥離可能なフィルムを得る。
【0093】
工程(1)における乾燥工程の温度条件は例えば、室温〜220℃の範囲で行うことが出来る。効率よく溶媒量を減少させるため、段階的に乾燥温度を上昇させることが好ましい。初期の乾燥温度は使用する溶媒の沸点をbpとすると、(bp−40℃)〜bpの範囲にあることが好ましい。より好ましくは(bp−40℃)〜(bp−20℃)である。初期の乾燥温度が低すぎると溶媒乾燥に時間がかかり生産性が悪化する。温度が溶媒の沸点より高いと、発泡欠点が生じる場合がある。通常(1)工程に要する時間は、30秒〜20分程度である。
【0094】
またこの乾燥工程で用いられるドラム、エンドレスベルト、工程フィルム等の表面はできるだけ平滑であれば表面の平滑なフィルムが得られる。
【0095】
次に、工程(2)では、初期乾燥を終えたフィルムを支持体から剥離する。剥離した自己支持性フィルムを続く工程で熱処理することにより、フィルムの両面から効率よく溶媒量を減少させることが可能となる。
【0096】
続いて、工程(3)では、アクリル系ポリマーのガラス転移温度をTg(℃)、熱処理温度をT(℃)、熱処理時間をθ(秒)としたとき下記式(A)〜(C)を満たす条件で熱処理を行い、フィルム中の残存溶媒を減少させる。
【0097】
Tg+10≦T≦Tg+150 ・・・(A)
30≦θ≦600 ・・・(B)
(T−Tg)×θ≧5000 ・・・(C)
(Tg+10℃)以上で熱処理を行うことにより、フィルム中の溶媒の拡散係数を著しく増大させることができ乾燥時間が大幅に短縮され、生産性が向上する。更に、上記温度範囲で熱処理することにより、フィルム密度が向上し、吸湿率の低く、引張弾性率が高いフィルムを得ることが可能となる。また、ヘイズ値を低下させる要因となる基材の転写跡が、熱処理により改良されるためヘイズ値の低いフィルムを得ることが可能となる。熱処理温度が(Tg+10℃)未満では溶媒量を減少させるのに長時間を要するため生産性が低下する場合がある。熱処理温度が(Tg+150℃)を越えるとフィルムの平面性が損なわれたり、破断する場合がある。溶媒をより効率よく減少させ、引張弾性率が高くなることから、熱処理温度は(Tg+20℃)以上(Tg+150℃)以下であることがより好ましく、吸湿率が低くなることから、(Tg+80℃)以上(Tg+150℃)以下であることが更に好ましい。また、熱処理時間は30秒未満では十分に溶媒を減少させることができない場合があり、10分を越えると長時間高温下にさらされることによりポリマーが変質したり、フィルムが軟化して平面性が損なわれたり破断する場合がある。また、生産性が低下するため好ましくない。溶媒をより効率よく減少させることができ、平面性も保たれることから、熱処理時間は45秒以上8分以下であることがより好ましく、60秒以上5分以下であることがより好ましい。
【0098】
上述したように、式(A)及び、式(B)の範囲内で熱処理を行うことにより、平面性良く、また短時間での熱処理が可能となる。しかし上記範囲内においても、熱処理温度が低く、かつ熱処理時間が短い条件においては、フィルム中の残存溶媒が多くなり、ブリードアウトなどの問題から光学用フィルムとして使用できない場合がある。そこで、熱処理温度をT(℃)と熱処理時間をθ(秒)の関係が上述した式(C)を満たす条件で熱処理を行う。上記範囲内で熱処理を行うことにより十分に溶媒を減少させることができる。
【0099】
更に熱処理機の中で温度を段階的に変更した場合は、熱処理温度をT1.1、T1.2、・・・、T1.n(℃)とし、各温度における熱処理時間をθ1.1、θ1.2、・・・、θ1.n(秒)とすると下記式(J)を満たしていればよい。
【0100】
(T1.1−Tg)×θ1.1+(T1.2−Tg)×θ1.2
・・・+(T1.n−Tg)×θ1.n+≧5000 ・・・(J)
また、本工程(3)の熱処理前に余熱区間を設け、Tg以下の所定の温度まで徐々に予熱すると、急激な昇温による発泡やフィルム破れを防ぐことができるため好ましい。また、熱処理中はフィルムが軟化して伸び、自重によりたわんだり、熱処理機内の風によりばたつき、熱源などと接触してフィルムが破れる場合がある。この場合、フィルムの伸びにあわせて、1.05倍以上3.0倍以下の倍率で把持幅を広げながら、熱処理を行うことが好ましい。また、フィルム下部からのエアによりフィルムを浮き上がらせ、自重によるたわみを防止することも好ましい。本工程(3)の熱処理前のフィルム中の溶媒含有量は15wt%以下であることが好ましい。溶媒含有量が15wt%を越えると、平面性が悪化したり、発泡が生じるため好ましくない。生産性良く溶媒含有量が15wt%以下のフィルムを得るには、(2)工程で温度を段階的に昇温し溶媒の乾燥を行うことが好ましい。
【0101】
次に、(4)工程でフィルムの平面性を改良するため、延伸温度をT(℃)、延伸時間をθ(秒)、延伸倍率をE(倍)としたとき下記式(D)〜(H)を満たす条件で延伸を行う。
【0102】
Tg−50≦T≦Tg ・・・(D)
1≦θ≦60 ・・・(E)
1.05≦E≦5.00 ・・・(F)
(Tg−T)≦−13×E+65 ・・・(G)
−Tg≦40×E+70 ・・・(H)
延伸温度が(Tg−50℃)未満では、フィルムが破断する場合がある。Tgを越えると、フィルムが軟化しすぎるため延伸しても平面性が改良しない場合がある。平面性がより良くなることから、延伸温度は(Tg−30℃)以上Tg以下の温度であることがより好ましい。延伸区間における時間は、1秒未満であると延伸速度が速いため、フィルムが破断する場合がある。60秒を越えると生産性が低下する。延伸倍率は1.05倍未満であると、十分な平面性が得られない場合がある。5.0倍を越えるとフィルムが破断し生産性が低下する場合がある。平面性改善と生産性の観点から、延伸倍率は1.1倍以上3.0倍以下であることがより好ましい。また、延伸温度をT(℃)と延伸倍率E(倍)の関係が上述した式(G)を満たす条件で延伸を行う。式(G)の範囲外では、延伸倍率に対して延伸温度が低いため、分子が配向し易くなり、本発明の目的である光学等方性に優れたフィルムを得られない場合がある。また、延伸温度に対する延伸倍率の限界値を越え、フィルムが破断する場合がある。
また、上述したように、式(D)〜式(H)の範囲内で延伸を行っても、前工程である工程(3)での熱処理温度T(℃)が高いと、熱処理時に損なわれたフィルムの平面性を十分に改良できない場合がある。そこで、T(℃)と工程(4)における延伸倍率E(倍)の関係が上述した式(H)を満たす条件で延伸を行うことにより平面性に優れたフィルムを得ることが可能となる。
【0103】
通常、製膜中にフィルムが延伸されると、複屈折が大きくなり、光学等方性部材として用いることが困難となる場合があるが、構造式(a)〜(c)および(f)に示したアクリル系ポリマーを用いると光学等方性に極めて優れるため、生産性良く、複屈折の小さいフィルムを得ることが可能となる。
【0104】
以上の工程(3)の熱処理工程および工程(4)の延伸工程は、フィルムの両端を把持または補強して行う。例えば、フィルムの幅方向両端部に連続的にテープを貼り補強して熱処理機導入する方法や、テンターを用いてフィルムの両端部を把持して搬送する方法が挙げられる。
【0105】
テンターを用いると温度と倍率の制御が容易となるため好ましい。
【0106】
テンターでの加熱方式は、スチームや電気ヒーターによる熱風加熱方式、遠赤外線加熱方式などいずれの方法を用いても良いが、テンター内の風によるフィルムのばたつきを低減するため、フィルム面に当たる風の風速は5.0m/秒以下であることが好ましく、遠赤外線加熱方式を用いるか、または遠赤外線加熱方式と熱風加熱方式を併用することが好ましい。
【0107】
テンターでのフィルム搬送方式は、ピンテンター、クリップテンターなどいずれの方法を用いても良いが、高温下での破断が改善されることから、クリップテンター方式であることが好ましい。
【0108】
また、フィルムのテンター把持部への融着を防止するため、把持部の温度はTg以下に冷却することが好ましい。
【0109】
得られたフィルムは、後工程で延伸、ハードコート層や反射防止層の積層などの処理を行ってもよい。
【0110】
本発明のアクリル系フィルムは、面内の複屈折が0.0001以下であるであることが好ましい。より好ましくは0.00005以下である。面内の複屈折が0.0001を越えると、画面表示素子の光学等方性部材として用いたとき、色調が変化するため使用できない場合がある。0.0001以下の複屈折は、構造式(a)〜(c)および(f)に示したアクリル系ポリマーを用い、(4)の工程において上述した式(4)〜(7)の範囲内の条件で製膜することにより達成される。尚、ここで言う複屈折とは、セルギャップ検査装置RETS−1100(大塚電子社製)を用いて測定したフィルムの位相差を、フィルム厚みで除して求めた値である。
【0111】
本発明のアクリル系フィルムの厚みは20μm以上80μm以下である。フィルムの厚みが20μm未満であるとフィルム強度が低下し加工性が悪化する。厚みが80μmを越えると、乾燥に長時間を要し生産性が低下する。なお、フィルムの厚みは用途により適宜選定すればよい。
【0112】
本発明のアクリル系フィルムは、全光線透過率が90%以上であることが好ましい。より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。90%未満であると輝度が低下するため画像表示用部材として使用できない場合がある。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、構造式(a)〜(c)および(f)に示したアクリル系ポリマーを用い、(3)工程において上述した式(A)の範囲を越えない温度条件で製膜することが重要である。また、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。また、製膜時のフィルム接触部(塗布基材、搬送ロールなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることや、アクリル系ポリマー(あ)の屈折率を小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。
【0113】
本発明のアクリル系フィルムは、透明性を表す指標の1つであるヘイズ値(濁度)が、2%以下であることが好ましい。2%を越えると輝度が低下するため画像表示用部材として使用できない場合がある。より好ましくは1.5%以下、最も好ましくは0.5%以下である。かかるヘイズ値を達成するには、(3)工程において上述した式(A)〜(C)の範囲内の条件で製膜すると、ヘイズ値を低下させる要因となる基材の転写跡が、熱処理により改良されるため有効である。また、前述のようにアクリル系ポリマー(あ)と弾性体粒子(い)との屈折率差を小さくすることが有効である。また、表面の粗さも表面ヘイズとしてヘイズ値に影響するため、弾性体粒子(い)の粒子径や添加量を前記範囲内に抑えたり、製膜時のフィルム接触部の表面粗さを小さくすることも、有効である。また、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散を低減させることが有効である。
【0114】
尚、全光線透過率およびヘイズ値は、JIS−K7361−1−1997およびJIS−K7136−2000に従い、測定した値である。
【0115】
本発明のアクリル系フィルムは、フィルム中の残存溶媒がポリマー重量に対して2wt%未満であることが好ましい。フィルム中の残存溶媒が2wt%以上であると、製品として使用したときに溶媒が溶出する場合がある。フィルムの剛性が優れることから残存溶媒はより好ましくは1wt%未満である。また、残存溶媒が2wt%未満のフィルムを得るために要する時間は流延した後、実質的に30分以内である。本発明では上述した(1)〜(4)工程を含む製法であれば、例えば、(2)の工程を終えた後、自己支持性フィルムを一度巻き取り、別の機械で巻き出して、(3)と(4)の工程を行っても差し支えないが、この場合、実質的に30分とは、巻き換えなどの時間を含まず、フィルムが製膜機で処理されている時間の合計が30分以内であることを意味する。
【0116】
本発明のアクリル系フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であることが好ましい。より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。120℃未満の場合、プロジェクターのような高温になる機器や、車載用表示機器のような、高温の環境下で使用できない場合がある。また、フィルム表面にハードコート処理などを行うときに熱により変形し平面性を損なう場合がある。更に、Tgが低いと、溶媒の乾燥工程で、フィルムの耐熱性の問題から乾燥温度が制限され、溶媒乾燥に長時間を要し生産性が悪化する場合がある。ガラス転移温度の高いアクリル系ポリマーを得るには、構造式(a)〜(c)および、構造式(f)のいずれかに示したような環化構造を含有するポリマーを用いればよい。尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0117】
本発明のアクリル系フィルムは、JIS−K7127−1999に準拠した測定において、少なくとも一方向の破断伸度が、5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上である。伸度が低いと成形、加工時の破断が生じやすくなくなる。破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には250%程度である。破断伸度を大きくするには異物や発泡に起因するフィルム中の欠点を抑制することが有効である。また、ポリマーに屈曲性分を導入することや、可塑剤などの添加も破断伸度の増加に有効であるが、耐熱性や剛性が低くなる場合がある。
【0118】
本発明のアクリル系フィルムは、JIS−K7127−1999に準拠した測定において、少なくとも一方向の引張弾性率が3.0GPa以上であることが好ましい。引張弾性率が3.0GPa未満であるとフィルムの剛性が十分とは言えず、製膜工程や後加工工程において、フィルムにかかる張力により変形して位相差が発現し、画像表示素子の光学等方性部材として用いたとき、色調が変化する場合がある。また、薄膜化が困難になるため好ましくない。引張弾性率は工程(3)の熱処理において(Tg+20℃)以上(Tg+150℃)以下で熱処理すると、上昇させることができるため好ましい。
【0119】
本発明のアクリル系フィルムは、吸湿率が1.3wt%未満であることが好ましい。吸湿率が1.3%以上であると、フィルムが吸湿により寸法変化をおこし、画像表示素子の光学等方性部材として用いたとき、色調が変化する場合がある。吸湿率は工程(3)の熱処理において(Tg+80℃)以上(Tg+150℃)以下で熱処理すると、低減させることができるため好ましい。尚、ここで言う吸湿率とは、20cm四方のフィルムを110℃の熱風オーブン中で2時間置き、このときのフィルム重量wを秤量し、次にこのフィルムを温度23℃、相対湿度65%の雰囲気中で48時間静置し、フィルム重量wを秤量し、以下の式から求めた値である。
【0120】
吸湿率(%)=(w−w)/w×100。
【0121】
本発明のアクリル系フィルムは、透明性に優れるため、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、に用いることができるが、特に光学等方性に優れるため、基板フィルムや、偏光板保護フィルムとして極めて有用である。
【実施例】
【0122】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0123】
1.ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。サンプル量は5mgとした。
【0124】
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い、求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0125】
2.透明性(全光線透過率、ヘイズ値)
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ値(%)を3回測定し、平均値で透明性を評価した。光源にはハロゲンランプ(12V50W)を用い、全光線透過率はJIS−K7361−1997、ヘイズはJIS−K7136−2000に準じて測定を行った。
【0126】
3.破断伸度・引張弾性率
JIS K7127−1999に規定された方法によりロボットテンシロンRTA100(オリエンテック社製)を用いて、25℃、65%RH雰囲気で5回測定を行い、平均値を求めた。ただし、試験片は幅10mmで長さ50mmの試料とした。試験を開始してから荷重が1Nを通過した点を伸びの原点とした。
【0127】
4.フィルム厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて5点測定し、平均値を求めた。
【0128】
5.屈折率、屈折率差
本発明のアクリル系フィルムにアセトンを加え、4時間還流し、この溶液を9,000rpmで30分間遠心分離により、アセトン可溶分((あ)成分)と不溶分((い)成分)に分離した。これらを60℃で5時間減圧乾燥した。得られたそれぞれの固形物を250℃でプレス成形し、厚さ0.1mmのフィルムとした後、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製、DR−M2)によって、23℃、550nm波長における屈折率を測定した。尚、(あ)成分と(い)成分の屈折率差については、その絶対値を用いた。
【0129】
6.複屈折(Δn)
下記測定器を用いて波長550nmの時の位相差(R(550))を測定し、フィルム厚みdから下式を用いて計算した。測定は幅方向等間隔に5点行い、平均値を求めた。
【0130】
装置:セルギャップ検査装置RETS−1100(大塚電子社製)
測定径:φ5mm
測定波長:400〜800nm
Δn=R(550)/d。
【0131】
7.吸湿率
20cm四方のフィルムを110℃の熱風オーブン中で2時間置き、このときのフィルム重量wを秤量した。次にこのフィルムを温度23℃、相対湿度65%の雰囲気中で48時間静置し、フィルム重量wを秤量し、以下の式からフィルムの吸湿率を求めた。なお、測定は2回行い平均値を求めた。
【0132】
吸湿率(%)=(w−w)/w×100。
【0133】
8.質量平均分子量(絶対分子量)
ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて測定した。
【0134】
9.平均粒子径
フィルムを厚さ方向に100〜800nm程度の超薄切片とし、ルテニウム酸で染色した後に透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM-1200EX)を用いて、10万倍の倍率で場所を変えながら100個の粒子について円相当径を求め、平均値を平均粒子径とした。なお、コア・シェル型やグラフト共重合型の弾性体粒子(い)においては、ゴム質重合体部分の粒子径を測定した。
【0135】
10.残存溶媒
製膜直後のフィルムを20cm四方でサンプリングし、フィルム重量wを秤量した。次にこのフィルムを温度200℃の熱風オーブン中で10分間熱処理した後、フィルム重量wを秤量し、以下の式からフィルム中の残存溶媒を求めた。なお、測定は2回行い平均値を求めた。
【0136】
残存溶媒(%)=(w−w)/w×100。
【0137】
11.平面性評価
フィルムを20cm四方のサンプルに切り出し、水平かつ平面な測定台上に置いた。フィルムの4辺について、各々、フィルムが水平面から最も浮き上がった点について、フィルムと測定台間の距離を測定し、4辺の平均値B(mm)を求めた。フィルムを裏返して同様の測定を行い、平均値B(mm)を求めた。BとBの最大値をB(mm)として、平面性を以下の基準で評価した。サンプリングは製膜幅方向中央部で行った。
○:B<1
△:1≦B<3
×:3≦B
【0138】
[実施例1]
(1)アクリル系ポリマーの調製
アクリル系ポリマー(あ−1)
先ず、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を、次の様にして調整した。
メタクリル酸メチル20質量部、
アクリルアミド80質量部、
過硫酸カリウム0.3質量部、
イオン交換水1500質量部
を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら、単量体が完全に重合体に転化するまで、70℃に保ち反応を進行させた。得られた水溶液を懸濁剤とした。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、上記懸濁剤0.05質量部をイオン交換水165質量部に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら400rpmで撹拌した。
次に、下記仕込み組成の混合物質を、反応系を撹拌しながら添加した。
メタクリル酸 :27質量部
メタクリル酸メチル :73質量部
t−ドデシルメルカプタン :1.2質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.4質量部
添加後、70℃まで昇温し、内温が70℃に達した時点を重合開始時点として、180分間保ち、重合を進行させた。
【0139】
その後、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体を得た。この共重合体の重合率は97%であり、質量平均分子量は13万であった。上記共重合体に添加剤(NaOCH3)を0.2質量%配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル系ポリマー(あ−1)を得た。アクリル系ポリマー(あ−1)の分子量は13万、Tgは140℃であった。
【0140】
(2)弾性体粒子の調製
多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に、初期調整溶液として、
脱イオン水120質量部、
炭酸カリウム0.5質量部、
スルホコハク酸ジオクチル0.5質量部、
過硫酸カリウム0.005質量部
を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、
アクリル酸ブチル53質量部、
スチレン17質量部、
メタクリル酸アリル(架橋剤)1質量部
を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、ゴム質重合体を得た。
次いで、メタクリル酸メチル21質量部、
メタクリル酸9質量部、
過硫酸カリウム0.005質量部
の混合物を引き続き70℃で90分かけて連続的に添加し、更に90分間保持して、シェル層を重合させた。
【0141】
この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、多層構造重合体である弾性体粒子(い−1)を得た。電子顕微鏡で測定した弾性体粒子のゴム質重合体部分の平均粒子径は140nmであった。
【0142】
(3)アクリル系ポリマー(あ)と弾性体粒子(い)との配合
アクリル系ポリマー(あ)80質量部と弾性体粒子(い)20質量部とを配合し、2軸押出機(日本製鋼社製TEX30、L/D=44.5)を用いて、スクリュー回転数150rpm、シリンダ温度280℃で混練し、ペレット状のアクリル系ポリマー組成物を得た。ポリマーのTgは137℃であった。
【0143】
(4)製膜
アクリル系ポリマー組成物を80℃で8時間真空乾燥した後、メチルエチルケトンに固形分濃度30質量%となるように溶解させ、1μmカットフィルターを用いて濾過を行い、ホッパーにて24時間静置して溶液中の泡を除去してポリマー溶液aを得た。このポリマー溶液aを、ギアポンプを用い、リップ間隙0.5mm、幅400mmのTダイを通じてPETフィルム上に流延し、50℃で5分、100℃で5分、130℃で10分の3段階で加熱して溶媒を蒸発させ、自己支持性を発現した重合体シートを支持体から剥離した。続いて剥離したフィルムを、クリップ搬送方式を用いたテンターに導入した。導入前のフィルムの残存溶媒は12wt%であった。テンター内でフィルムを遠赤外線加熱により200℃で3分間、幅方向に1.05倍の延伸を行いながら高温熱処理した。続けて125℃で1分間、幅方向に1.1倍の延伸を行いながら熱処理を行い、最後に両端部80mmずつを切り落として、厚み40μmのアクリル系フィルムを得た。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0144】
[実施例2〜9]
実施例1において、テンターでの熱処理条件を変更した以外は実施例1と同様の方法でアクリル系フィルムを作製した。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0145】
[実施例10]
実施例1のポリマー溶液aを、ギアポンプを用い、リップ間隙0.5mm、幅400mmのTダイを通じてPETフィルム上に流延し、50℃で10分、100℃で10分加熱して溶媒を蒸発させ、自己支持性を発現した重合体シートを支持体から剥離した以外は実施例1と同様の方法でアクリル系フィルムを作製した。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。テンター導入前の残存溶媒が17wt%とやや高く、テンター内の熱処理で若干発泡が生じたため平面性評価が△となった。
【0146】
[比較例1〜8]
実施例1において、テンターでの熱処理条件((3)と(4)工程の条件)を変更した以外は実施例1と同様の方法でアクリル系フィルムを作製した。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。比較例1では工程(3)の温度Tが高いため平面性が悪化し、また破れも多発した。比較例2では工程(3)の温度Tが低いため、残存溶媒の多いフィルムとなった。比較例3では工程(3)の時間θが短いため、残存溶媒の多いフィルムとなった。比較例4では工程(4)の延伸処理を行わなかったため、平面性が悪化した。比較例5では工程(4)の延伸温度が低いため、フィルムが破れ製膜できなかった。比較例6では工程(4)の延伸温度Tが高いため、平面性が悪化した。比較例7では工程(3)の熱処理温度Tと工程(4)の延伸倍率Eが、工程(4)における製膜条件の式(H)を満たさなかったため、平面性が悪化した。比較例8では工程(4)の延伸温度Tに対し、延伸倍率Eが大きいため、フィルムが破れ製膜が行えなかった。
【0147】
[比較例9]
工程(2)の剥離を行わず、PET上で最後まで乾燥を行った。得られたフィルムの物性、評価結果を表1に示す。平面性は良好であったが、PET面から溶媒が除去されないため乾燥速度が遅く、残存溶媒の多いフィルムとなった。
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明のアクリル系フィルムは、透明性に優れるため、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、に用いることができるが、特に光学等方性に優れるため、基板フィルムや、偏光板保護フィルムとして極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(4)工程を有し、流延してから実質的に30分以内で厚み20μm以上80μm以下であるフィルムを得る、アクリル系フィルムの製造方法。
(1)アクリル系ポリマーの有機溶剤溶液を基材上に流延し、自己支持性を示すまで乾燥する。
(2)アクリル系ポリマーの自己支持性フィルムを基材から剥離する。
(3)自己支持性フィルムの両端をテンターにより把持する方法、または自己支持性フィルムの両端に耐熱性テープを貼り補強する方法を用い、アクリル系ポリマーのガラス転移温度をTg(℃)、熱処理温度をT(℃)、熱処理時間をθ(秒)としたとき下記式(A)〜(B)を満たす条件で熱処理する。
Tg+10≦T≦Tg+150 ・・・(A)
30≦θ≦600 ・・・(B)
(T−Tg)×θ≧5000 ・・・(C)
(4) 延伸温度をT(℃)、延伸時間をθ(秒)、延伸倍率をE(倍)としたとき下記式(D)〜(H)を満たす条件で延伸を行う。
Tg−50≦T≦Tg ・・・(D)
1≦θ≦60 ・・・(E)
1.05≦E≦5.00 ・・・(F)
(Tg−T)≦−13×E+65 ・・・(G)
−Tg≦40×E+70 ・・・(H)
【請求項2】
前記(3)工程で延伸倍率をE(倍)としたとき下記式(I)を満たす請求項1記載のアクリル系フィルムの製造方法。
1.05≦E≦3.00 ・・・(I)
【請求項3】
(3)工程に導入する前の自己支持性フィルムの溶媒含有量が15wt%以下である、請求項1または2に記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項4】
(3)工程を、テンターを用いて行い、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項5】
アクリル系ポリマーが、下記構造式(a)〜(c)で表される構造単位のうち少なくとも1つ以上を含有するアクリル系ポリマー(あ)からなる、請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【化1】

(上記式中、R1、R2は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。また、上記式中、X1、X2は、同一または相異なるCHまたはC=Oを表す。Xは、O、またはNRを表す。Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。)
【化2】

(上記式中、R、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。)
【化3】

(上記式中、Rは炭素数6〜15の脂環式構造を含有する置換基を表す。)
【請求項6】
アクリル系ポリマーが、下記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル系ポリマー(あ)からなる、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【化4】

(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項7】
アクリル系ポリマー(あ)が不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と、グルタル酸無水物単位を含んでなり、アクリル系ポリマー(あ)を100質量部としたとき、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜90質量部およびグルタル酸無水物単位10〜50質量部を含有する請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項8】
アクリル系フィルムが、粒子径が10nm以上1000nm以下である弾性体粒子(い)を、アクリル系フィルム100質量部に対し、0.1〜50質量部含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項9】
弾性体粒子(い)が1以上のゴム質重合体を含む層と、該ゴム質重合体以外の重合体から構成される1以上の層から構成される多層構造重合体である請求項8に記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項10】
弾性体粒子(い)とアクリル系ポリマー(あ)の屈折率差が0.05以下である請求項8または9に記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項11】
アクリル系フィルムのガラス転移温度が120℃以上であり、引張弾性率が3.0GPa以上である請求項1〜10のいずれかに記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項12】
アクリル系フィルムの吸湿率が1.3wt%未満であり、全光線透過率が90%以上であり、ヘイズ値が2%以下である、請求項1〜11のいずれかに記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法を用いて製膜されたアクリル系フィルム。

【公開番号】特開2007−118266(P2007−118266A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310903(P2005−310903)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】