説明

アクリル系共重合体水性分散液

【課題】塗工用水系エマルジョンとして、造膜性、密着性、スクラッチ強度、耐溶剤性等を兼ね備え、界面活性剤を使用しない、粒子径とその分布が制御された水性アクリル系共重合体分散液を提供すること。
【解決手段】分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体及び/又は分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体を、水分散可能な高分子化合物の存在下で重合することによって得られる水性アクリル系共重合体分散液により、前記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築資材、紙等の多孔質材料及び金属、プラスチック、塗面等に好適に利用される水性アクリル系共重合体分散液に関し、詳しくは、アクリル系単量体、分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体及び/又は分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体、分子内にメチロール基を有する不飽和カルボン酸アミドを含有するアクリル系単量体を水分散可能な高分子化合物の存在下で、重合して得られる水性アクリル系共重合体の水分散液に関し、造膜性、基材に対する密着性、スクラッチ強度、耐溶剤性等の優れた性質を兼ね備える卓越した新規の水性アクリル系共重合体分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築資材、紙等の多孔質材料及び金属、プラスチック、塗面等に塗布する事と目的とした水性分散液は、塗工被膜の高性能化・薄膜化等への改良及び溶剤系塗工液の代替に伴い、種々の改良が試みられている。
従来、水系ではエマルジョン系塗工液、或いは水溶性塗工液を中心として改良が進められてきた。たとえば特開2000−313168号(特許文献1)等には表面塗工用の水系エマルジョンが開示されている。
【0003】
ところが 特許文献1に開示されたような界面活性剤を含有する重合系においては生成する水系エマルジョン中に界面活性剤が残留することが避けられず、特に耐水性において十分な物性を得ることが困難であった。
【0004】
一方 水系媒体中で界面活性剤あるいは分散剤等の安定化剤が存在しないかまたは微小量存在する条件で、主に過硫酸塩を開始剤としてビニル系モノマーを重合するソープフリー重合は、比較的大粒子径のポリマー粒子を得る重合方法として知られている。しかしながら、このソープフリー重合は、重合系が不安定なことから重合の際の細かな条件変化の影響を受けやすく、粒子径とその分布の制御が困難であり、粒子系をコントロールするために界面活性剤を後添加するような製法も提案されている特許文献2 (特開平11−116608号)。
【0005】
本発明者らは、塗工用水系エマルジョンとして、造膜性、密着性、スクラッチ強度、耐溶剤性等を兼ね備え、界面活性剤を使用しない、粒子径とその分布が制御された水性アクリル系共重合体分散液を開発すべく鋭意研究を行った結果、分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体及び/又は分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体、分子内にメチロール基を有する不飽和カルボン酸アミドを含有する特定のアクリル系単量体を、水分散可能な高分子化合物の存在下で重合することによって得られる水性アクリル系共重合体の分散液が、前記の問題点を解決した極めて優れた水性アクリル系共重合体分散液であることを見出し、更に研究を継続して本発明を完成した。
【特許文献1】特開2000−313168号
【特許文献2】特開平11−116608号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、ソープフリー重合によって重合された界面活性剤を含まない、コーティング用の水性アクリル系共重合体分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、研究の結果、下記アクリル系共重合体水性分散体が本課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成した。
すなわち 反応基を有する単量体(a)〜(d)を、水媒体中、重量平均分子量 5000〜100000の水分散可能な高分子化合物(e)の存在下で重合して得られるアクリル系共重合体水性分散液。
(a) (メタ)アクリル酸エステル単量体 40〜99重量%、
(b)分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体(b-1)及び/又は、分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体(b-2) 0.5〜30重量%
(c)分子内にメチロール基を有する不飽和カルボン酸アミド 0〜15重量%、
(d)上記(a)〜(c)と共重合可能な該(a)〜(c)以外の単量体 0〜30重量%、〔但し、(a)〜(d)の合計を100重量%とする〕
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の実施の形態にかかるアクリル系共重合体水性分散液は (メタ)アクリル酸エステル単量体(a)、分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体(b-1)、及び/又は分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体(b-2)、分子内にメチロール基を有する不飽和カルボン酸アミド(c)、上記(a)〜(c)と共重合可能な該(a)〜(c)以外の単量体(d)、及び水分散可能な高分子化合物(e)から構成される。
【0009】
本発明の実施の形態にかかる(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)の具体例としては、 例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステル;例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の炭素数5〜12のシクロアルキルエステル;例えば、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の炭素数7〜12のアラルキルエステル;などを挙げることができる。
【0010】
またその他の(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)の具体例としては、(パー)フルオロアルキル基などの水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭素数1〜18のアルキル基又は炭素数6〜8のシクロアルキル基を挙げることができ、このような単量体は、例えば、「ビスコート
8F」、「ビスコート 8FM」、「ビスコート 3FM」〔以上、大阪有機化学工業(株)製〕等として市販されている。本発明の実施の形態にかかる(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)は、2種類以上を用いてもよい。
【0011】
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)の使用量は、本発明における共重合体を構成する単量体(a)〜(d)の合計100重量%に対して、40〜99重量%、好ましくは80〜99重量%、である。該単量体(a)の使用量が該上限値未満であれば、重合安定性十分となりがちであり、また得られる水性アクリル系共重合体分散液の被膜性能も十分であるので好ましい。一方、該下限値以上であれば、得られる水性アクリル系共重合体分散液で形成される被膜の耐候性、造膜性等が低下することがないので好ましい。
【0012】
本発明の実施の形態にかかるアクリル系共重合体水性分散液は、分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体(b-1)、及び/又は分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体(b-2)を含有する。
本発明の実施の形態にかかる分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体(b-1)は、分子内に一個又は二個以上のカルボキシル基を含むエチレン系不飽和単量体(b-1)であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸等の不飽和モノ-もしくはジ-カルボン酸単量体が好適に使用できる。
【0013】
さらに分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体(b-1)として、上記の他、例えば、モノブチルマレート、モノ-2-エチルヘキシルフマレート等の不飽和ジカルボン酸モノアル
キルエステル単量体;例えば、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2-ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のジカルボン酸モノ多価アルコールエステルの(メタ)アクリル酸エステル;例えば、(メタ)アクリル酸ダイマー(好ましくはnの平均値約1.4のもの)、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート(好ましくはnの平均
値約2のもの)等;も使用することができる。
【0014】
これらの分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体(b-1)の中では、入手の容易さ、共重合性の
よさ、得られる水性アクリル系共重合体分散液の貯蔵安定性のよさ等の観点からアクリル酸またはメタクリル酸の使用が特に好ましい。
【0015】
このような分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体(b-1)の使用量は、単量体(a)〜(d)の合計100重量%中、0.5〜30重量%、好ましくは0.8〜10重量%である。該単量体(b)使用量が該下限値以上であれば、得られる水性アクリル系共重合体分散液の機械安定性が十分で、架橋密度が低下しないため好ましく、該上限値を未満であれば、該共重合体分散液の製造時の粘度が高くなり過ぎないので好ましい。
【0016】
同様に、分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体(b-2)としては、例えば、2-ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシルエチル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシルプロピル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシルプロピル(メタ)アリルエーテル、4-ヒドロキシルブチル(メタ)アリルエーテル、アリルアルコール、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の分子内に水酸基有する単量体を用いることができる。
【0017】
本発明の実施の形態にかかるアクリル系共重合体水性分散液は上記分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体(b-1) と分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体(b-2)とのどちらか一方を含むことが必要であり、両単量体を含むものであってもよい。両単量体を含む場合は 単量体合計として 単量体(a)〜(d)の合計100重量%中、0.5〜30重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0018】
本発明の実施の形態にかかるアクリル系共重合体水性分散液は、分子内にメチロール基を有する不飽和カルボン酸アミド(c)を含有する。
本発明の実施の形態にかかる分子内にメチロール基を有する不飽和カルボン酸アミド(c)としては、N−メチロールアクリルアミド及びN−メチロールメタクリルアミド等を使用することができる。
【0019】
これらは、単独或いは併用して使用することができ、単量体(c)の使用量は、単量体(a)〜(d)の合計100重量%中、0.5〜15重量%、好ましくは0.8〜10重量%である。上限値を未満であれは、該分散液の製造安定性が良いので好ましく、下限値以上であれば、 被膜強度及び耐溶剤性等が十分であるので好ましい。
【0020】
単量体(a)〜(c)と共重合可能な該(a)〜(c)以外の単量体(d)としては、例えば、
グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクレート、グリシジルビニルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテルなどの分子内にグリシジル基を有する単量体;
【0021】
例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチ ル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のエチレン系不飽和カルボン酸のアミノアルキルエステル類;例えば、アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、メチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のエチレン系不飽和カルボン酸アミノアルキルアミド類などの分子内にアミノ基又は置換アミノ基を有する単量体;
【0022】
例えば、2-アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2-アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、4-アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレート等の分子内にアセトアセチル基を有する単量体;
【0023】
例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の2個以上のラジカル重合性不飽和基を持つ単量体;
【0024】
例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシランを有する単量体;
【0025】
例えば、チッソ株式会社製サイラプレーンFM−0711、FM−0721、FM−0725等に代表されるジメチルシロキサン骨格を有する単量体;
【0026】
例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン系単量体;
【0027】
例えば、スチレン、αーメチルスチレン、tーブチルスチレ ン、pークロロスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエンの芳香族ビニル単量体;
【0028】
例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、「バーサチック酸ビニル」等の飽和脂肪酸ビニル単量体;例えば、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体を挙げることができ、またこれらの他、N-プロピル-N-[β-(メタ)アクリロキシエチル]パーフルオロオクタンスルホンアミド等の特殊なフッ素原子含有単量体も使用できる。
【0029】
これら単量体は、得られる水性アクリル系共重合体分散液の安定性及びこれより形成される被膜性能の観点から、任意に選択し使用する事ができ、上述していないものでも、使用する事は可能である。
【0030】
これら単量体(d)の共重合量は、単量体(a)〜(d)の合計100重量%に対して、一般に0〜30重量%、好ましくは0〜25重量%、特に好ましくは0〜20重量%の範囲であるのがよい。
【0031】
本発明の実施の形態にかかるアクリル系共重合体水性分散液は、水分散可能な高分子化合物(e)の存在下に前記単量体を重合して得られるものである。
該高分子化合物(e)は 分子量5,000以上、100,000以下、好ましくは50,000以下の水分散可能な高分子化合物であり、分子量が5,000以上であれば耐水性が良好であり、分子量が100,000以下であれば アクリル系共重合体水性分散液の生産安定性が良好である。
【0032】
該高分子化合物(e)は、親水性官能基を含み、且つ、水に可溶或いは分散可能な樹脂であり、親水性官能基の導入のし易さ及び重合時の安定性の点からアクリル系樹脂(e-1)、またはポリエステル系樹脂(e-2)が好適であり、アクリル系共重合体(固形分)に対して、10重量%以上、35重量%以下、好ましくは15重量%以上25重量%以下で使用するのがよい。
【0033】
親水性官能基としてはたとえばカルボキシル基、水酸基が上げられ、(b-1)または(b-2)として列挙した分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体及び/または分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体を共重合した高分子化合物が高分子化合物(e)として好適に使用できる。
【0034】
本発明の実施の形態にかかる高分子化合物(e)として使用されるアクリル系樹脂(e-1)は、主単量体として CH2=CH−COOR1
(1)(式中、R1は炭素数2〜12の直鎖もしくは分枝アルキル基を示す)及び、分子内に1個のラジカル重合性不飽和基の他に少なくとも1個の官能基を有する単量体であって上記単量体と共重合可能な主単量体以外の共単量体を共重合してなるものである。
【0035】
前記の必須単量体成分である主単量体は、前記一般式(1)で表され、るアクリル酸エステル単量体であり、前記一般式(1)における基R1の例としては、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、i-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、i-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基などを挙げることができる。
【0036】
このようなアクリル酸エステルの好適な具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、i-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニルアクリレート、i-ノニルアクリレート等を挙げることができる。
【0037】
アクリル系樹脂(e-1)は、前記の主単量体と共に、分子内にカルボキシル基、水酸基等の親水性官能基を有するエチレン系不飽和単量体、を共重合成分として含むものであることが好ましい。
【0038】
親水性官能基を有するエチレン系不飽和単量体の具体例としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸;アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-n-ブトキシメチルアクリルアミド、N-i-ブトキシメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド(好ましくはアクリルアミド、メタクリルアミド)等のアミド基もしくは置換アミド基含有単量体;例えば、アミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート(好ましくはN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート)等のアミノ基もしくは置換アミノ基含有単量体;
【0039】
例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、メタリルアルコール、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、(好ましくは2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート)等のヒドロキシル基含有単量体;
【0040】
例えば、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-n-ブトキシエチルアクリレート、2-メトキシエトキシエチルアクリレート、2-エトキシエトキシエチルアクリレート、2-n-ブトキシエトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-n-ブトキシエチルメタクリレート、2-メトキシエトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエトキシエチルメタクリレート、2-n-ブトキシエトキシエチルメタクリレート(好ましくは2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート)等の低級アルコキシル基含有単量体;
【0041】
例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の2個以上のラジカル重合性不飽和基を有する単量体;等の単量体群を挙げることができる。
【0042】
本発明の実施の形態にかかるアクリル系樹脂(e-1)は、前記の主単量体、親水性官能基含有単量体と共に、必要に応じて、分子内に1個のラジカル重合性不飽和基の他に少なくとも1個の官能基を有する単量体であって、上記単量体以外の単量体を共重合することもできる。
【0043】
本発明の実施の形態にかかる高分子化合物(e)として使用されるポリエステル系樹脂(e-2)は、分子内にカルボキシル基等の水親和性に富む官能基を有するもので、且つ、水に可溶或いは分散可能な分子量である事が必要である。
【0044】
ポリエステル系樹脂(e-2)は、ポリオールとポリカルボン酸または酸無水物とのポリエステル化によって合成されるものである。
【0045】
ポリオールの例としては、トリメチロールプロパン及びヘキサントリオールのようなトリオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、カプロラクトンジオール及びビスヒドロキシエチルタウリンのようなジオールが挙げられる。
【0046】
また、ポリカルボン酸の例としては、フタル酸及びイソフタル酸のような芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸及びテトラヒドロフタル酸のような脂肪族ジカルボン酸、及びトリメリット酸のようなトリカルボン酸等が挙げられる。対応する酸無水物も好ましく用いられる。使用される長鎖脂肪酸の例としては、ステアリン酸及びラウリル酸のような飽和脂肪酸、オレイン酸及びミリスチン酸のような不飽和脂肪酸、及びひまし油、パーム油及び大豆油のような天然油脂及びそれらの変性物が挙げられる。
【0047】
本発明の実施の形態にかかるポリエステル系樹脂(e-2)は、分子量5,000以上、100,000以下、好ましくは50,000以下であって、分子内にカルボキシル基等の水親和性に富む官能基を有し、且つ、水に可溶或いは分散可能である事が必要である。
【0048】
本発明の実施の形態にかかるアクリル系共重合体水性分散液中の共重合体分散粒子のTgは−10℃〜95℃、好ましくは0℃〜85℃であるのが良い。Tgが該上限値以下であれば、造膜性が良く、水性アクリル系共重合体分散液により形成される被膜の性能が十分に発揮でき、該下限値以上であれば基材に対する密着性及びスクラッチ強度が十分なので好ましい。
【0049】
なお本発明において、アクリル系共重合体のTgとは、単量体(a)〜(d)それぞれの単量体成分の単独重合体のTgを用いて次式によって求めた値である。
【0050】
1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+・・・・・・・・・+w/Tg
【0051】
但し、Tgは共重合体のガラス転移温度であり、Tg1、Tg2、・・・・・・Tgkは各単量体成分の単独重合体のTgであり、w1、w2、・・・・・・wkは各単量体成分の重量分率を表わし、w1+w2+・・・・・・+wk=1である。
【0052】
本発明の実施の形態にかかるアクリル系共重合体水性分散液の乳化重合に際しては、通常、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩類;t-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、p-メンタンヒドロパーオキシドなどの有機過酸化物類;過酸化水素;などの重合開始剤が使用される。これら重合開始剤も一種もしくは複数種併用のいずれの態様でも利用できる。これらの重合開始剤は、前記反応基を有する界面活性剤及び単量体(a)〜(f)の合計100重量部に対して、0.1〜1重量用いるのが好ましい。
【0053】
また乳化重合に際して、所望により、重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート金属塩等の還元性有機化合物;チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム等の還元性無機化合物;を例示できる。これら還元剤は、前記反応基を有する界面活性剤及び単量体(a)〜(f)の合計100重量部に対して、0.1〜1重量部用いるのが好ましい。
【0054】
更にまた、乳化重合に際しては連鎖移動剤を使用することができる。このような連鎖移動剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート、2-メルカプトエタノール、トリクロロブロモメタン等を挙げることができる。これら連鎖移動剤は、前記及び単量体(a)〜(d)合計100重量部に対して0〜5重量部用いるのが好ましい。
【0055】
本発明に用いるアクリル系共重合体の乳化重合において好適に採用される重合温度は、約30〜100℃、特には約40〜90℃である。
【0056】
かくして得られた水性アクリル系共重合体分散液中の分散粒子の平均粒子径は1500nm以下、好ましくは30〜120nmの範囲内であることが必要である。平均粒子径が該上限値未満であれば、形成される被膜外観が良く、造膜性は十分であり好ましい。一方該下限値以上であれば、耐溶剤性及び密着性が確保できるので好ましい。
【0057】
なお本明細書において、共重合体分散粒子の平均粒子径は、日本化学会編「新実験化学講座4 基礎技術3 光(II)」第725〜741頁(昭和51年7月20日丸善株式会社発行)に記載された動的光散乱法に より測定された値であり、具体的には以下に述べる方法で測定決定した値である。
【0058】
平均粒子径:
共重合体分散液を蒸留水で5万〜15万倍に希釈し、十分に攪拌混合した後、10mm角のガラスセル或いはポリスチレンセル中にパスツールピペットを用いて規定量採取し、これを動的光散乱光度計「ゼータサイザー1000HS」〔シスメックス(株)製〕の所定の位置にセットして、以下の測
定条件下で測定し、測定結果をコンピュータ処理して平均粒子径を求める。
【0059】
〔測定条件〕
測定温度 25±1 °C
光散乱角 90°
【0060】
前記のようにして得られる本発明の実施の形態にかかる水性アクリル系共重合体分散液は、必要に応じてアンモニア水、アミン水溶液、水酸化アルカリの水溶液等によってpH調節してもよい。このような分散液は、通常、固形分濃度が、一般に10〜70重量%、好ましくは15〜60重量%、さらに好ましくは20〜50重量%の範囲内、粘度が通常10000cps以下、特に約10〜5000cps(BH型回転粘度計、25℃、20rpm;粘度測定条件以下同様)、pHは通常2〜10、特に5〜9の範囲内であることが望ま
しい。
【0061】
本発明の実施の形態にかかる水性アクリル系共重合体分散液は、必要に応じメラミン樹脂系架橋剤を併用することができる。例えば、メチロールメラミン;該メチロールメラミンの水酸基の少なくとも1部をメチルアルコール、エチルアルコール、n-ブチルアルコールなどでエーテル化した水溶性メラミン樹脂をあげることができる。
【0062】
このようなメラミン樹脂のうち、本発明に好適に利用できる水溶性メラミン樹脂の市販品としては、例えば、「ニカラック MW−30M」、「MW−30」、「MW−22」、「MW−12LF」、「MS−21」、「MX−730」、「MX−708」、「MX−706」、「MX−042」、「MX−035」、「MX−45」〔(商品名)、三和ケミカル(株)製〕、「スミテックスレジン M−3」、「M−6」、「MK」、「M−55」、「MC」、〔(商品名)、住友化学工業(株)製〕等を挙げることができる。
【0063】
前記メラミン樹脂系架橋剤の使用量としては、アクリル系重合体粒子の重量に対して、固形分換算にて0.5〜10重量%での使用が好ましく、該範囲内の使用量であれば、形成される被膜の強度及び性能等に不都合が生じ難いので好ましい。
【0064】
また、前記メラミン樹脂以外にイソシアネート誘導体等下記の架橋剤の使用も可能である。
【0065】
前記イソシアネート誘導体としては、アジリジン化合物及びブロック化イソシアネートが例示でき、いずれも水分散性のものが好適に用いられる。
【0066】
アジリジン化合物としては、ポリイソシアネート化合物とエチレンイミンとの反応生成物が使用できる。
【0067】
このようなアジリジン化合物のうち、本発明に好適に利用できる水分散性アジリジン化合物の市販品としては、例えば、「SU-125F」〔(商品名)、明成化学工業(株)製〕、「DZ-22E」〔(商品名)、日本触媒(株)製〕等を挙げることができる。
【0068】
上記ポリイソシアネート化合物としては、例えば 1,3-又は1,4-フエニレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4'-ジフエニルメタンジイソシアネート、3,3'-ジメチルジフエニルメタン-4,4'-ジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,8-オクタメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;例えば、1,3-又は1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、1-メチルシクロヘキサン-1,3-又は-1,4-ジイソシアネート、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3-イソシアノメチルシクロヘキサン等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;これらイソシアネートの2量体または3量体;これらイソシアネートと、例えば、エチレングリコール、トリメチロールプロパン等の2価または3価のポリオールとのアダクト体などを例示できる。
【0069】
このようなイソシアネート誘導体として、本発明に好適に利用できる水分散性ブロック化イソシアネートの市販品としては、「デュラネートWB40−100」、「WB40−80」、「WT20−100」、「WT30−100」、「WE50−100」〔(商品名)、以上、旭化成工業(株)製〕
【0070】
またブロック化イソシアネートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリトリレンジイソシアネートメチルエチルケトオキシムアダクトなど、前記ポリイソシアネート化合物に揮発性低分子活性水素化合物を付加させたものを挙げることができる。
【0071】
このような揮発性低分子活性水素化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-ブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、フェノール等の脂肪族、脂環族または芳香族アルコール;例えば、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノールなどのヒドロキシ第3アミン;例えば、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム等のケトオキシム類;例えば、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エステル等の活性メチレン化合物;ε-カプロラクタム等のラクタム類;などを例示できる。
【0072】
このようなブロック化イソシアネートのうち、本発明に好適に利用できる水分散性ブロック化イソシアネートの市販品としては、例えば、「DM-30」、「DM-60」〔(商品名)、以上明成化学工業(株)製〕、「エラストロン BN-69」、「エラストロン BN-44」、「エラストロン
BN-08」〔(商品名)、以上第一工業製薬(株)製〕等を挙げることができる。
【0073】
水溶性多価金属塩、例えば、酢酸亜鉛、蟻酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛塩;例えば、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどアルミニウム塩;例えば、酢酸カルシウム、義酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等のカルシウム塩;例えば、酢酸バリウム、塩化バリウム、亜硫酸バリウム等のバリウム塩;酢酸マグネシウム、蟻酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩;例えば、酢酸鉛、蟻酸鉛等の鉛塩;例えば、酢酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル等のニッケル塩;例えば、酢酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン等のマンガン塩;例えば、塩化銅、硝酸銅、硫酸銅等の銅塩;など、
【0074】
水溶性エポキシ樹脂、例えば、グリセロールジグリシジルエーテルなどの使用が可能である。
【0075】
これらの架橋剤の使用量は、得られる水性アクリル系共重合体分散液の粘度の経時変化抑制等の観点から、該分散液中の重合体粒子100重量部に対して、例えば、0〜10重量部、好ましくは0.5〜10、特に好ましくは1〜5重量部の範囲内を例示することができる。
【0076】
また、前記以外にオキサゾリン基を有する重合体を添加する事もできる。市販品としては、「エポクロスK−1010E」、「K−1020E」、「K−1030E」、「K−2010E」、「K−2020E」、「K−2030E」、「RPS−1001」、「RPS−1005」、「RAS−1005」、「WS-500」〔(商品名)、(株)日本触媒製〕を挙げることができる。
【0077】
これらの架橋剤の使用量は、得られる水性アクリル系共重合体分散液の粘度の経時変化抑制等の観点から、該分散液中の重合体粒子100重量部に対して、例えば、0〜20重量部、好ましくは0.5〜15、特に好ましくは1〜10重量部の範囲内を例示することができる。
【0078】
また、必要に応じブロック化スルホン酸誘導体、或いは、ブロック化燐酸誘導体を使用する事ができる。特にメラミン樹脂との併用にて、架橋速度の向上、処理温度の低温化等の相乗効果が期待できる。
【0079】
これらの市販品として、「NACURE X49−110」、「3525」、「5225」、「5925」、「5543」、「2500X」、「4167」〔(商品名)、USA:KING INDUSTRIES〕を挙げることができる。
【0080】
また本発明の実施の形態にかかる水性アクリル系共重合体分散液は、さらに必要に応じて、シリコン系などの消泡剤;ポリカルボン酸系樹脂、界面活性剤系等の増粘剤及び粘性改良剤;エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート等の造膜助剤;老化防止剤;防腐剤・防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;等を添加混合することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例とともに比較例を挙げて、本発明を一層詳細に説明する。なお上記実施例及び比較例において、用いた試験用サンプルの作成及びその被膜性能の各種物性試験方法は次の通りである。
【0082】
(1) 試験片の作成
東レ製188μm未処理PETフィルムに、乾燥厚みで0.1μmになるように水性アクリル系共重合体分散液の濃度を調整・塗工し、熱風循環式乾燥器にて170℃で2分間熱処理したものを試験片とした。
【0083】
(2)密着性試験
(1)にて作成した試験片を試料とし、ゴバン目試験機[スガ試験機(株)製]を用いて、表面から縦、横各々1mm間隔で基材に達する深さのカット線を入れて1cm2中に100個のゴバン目を作成する。このゴバン目に24mm幅のセロハンテープ[ニチバン(株)製]を貼り付けた後、手で素早く180゜剥離を行い、被膜の残存した目を数え、被膜残存目数/100と表示した。
【0084】
(3)Haze(濁度)
(1)にて作成した試験片を試料とし、日本電色工業(株)製、濁度計NDH2000を用い、Hazeを測定した。また、同試料片を23℃の水に1日浸漬し取り出して水分を除去した後、同様にHazeを測定した。評価はHaze値を用いた。
【0085】
(4)接着性
(1)にて作成した試験片の上に、紫外線硬化型印刷インキ(FDO紅APN)を厚み4.5μmになるように塗布し、ウシオ電機製UVC-5035を用いてキュアリングを行い試料とした。このUVインキ層の上に(2)同様の方法にて縦横2mm間隔、1cm2中に25個の碁盤目を作成し、このゴバン目に24mm幅のセロハンテープ[ニチバン(株)製]を貼り付けた後、手で素早く180゜剥離を行い、被膜の残存した目を数え、被膜残存目数/25と表示した。
【0086】
(5)耐溶剤性
(1)にて作成した試験片を試料とし、その表面に酢酸エチルを滴下し、そのときの被膜の膨潤程度を次の様に評価した。
◎:膨潤 全くせず
○:膨潤 少
△:膨潤 多
×:溶解
【0087】
参考例1 高分子化合物(e−1;「アクリル1」)の製造1
ステンレス容器に、メチルメタクリレート(MMA)110重量部及びエチルアクリレート(EA)130重量部、メタクリル酸(MAA)60重量部、n−ドデシルメルカプタン3重量部を仕込み、攪拌混合した。
撹拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応容器に、上記混合液の内60重量部及びイソプロピルアルコール200重量部、2-2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル0.6重量部を仕込みリフラックスするまで昇温した。
リフラックス状態にて、20分間保持した後、混合液の残りとイソプロピルアルコール50重量部、2-2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル1.7重量部の混合液を120分間にて滴下した。滴下終了20分後、イソプロピルアルコール40重量部と2-2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル1.7重量部の混合液を120分間で滴下し、滴下終了後、120分間リフラックスを保持した。
反応液を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移し、25%アンモニア水60重量部及び脱イオン水900重量部を仕込み、60℃減圧下にてイソプロピルアルコール及び未反応モノマーを回収し、アクリル系水分散液(A−1)を得た。
得られた水溶液は、不揮発分23.5%、pH6.9、粘度40mPa・sであった。また、得られた水溶液を乾燥し、THFに溶解後、GPC測定を行った結果、(ポリスチレン換算)重量平均分子量が15,000であった。
【0088】
参考例2 高分子化合物(e−2;「ポリエステル1」)の製造
撹拌機、環流冷却管、温度計及び減圧装置を備えた反応容器に、テレフタル酸ジメチル100重量部、イソフタル酸ジメチル90重量部、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル10重量部、エチレングリコール100重量部、ネオぺンチルグリコール100重量部及びジブチル錫ラウレート1重量部を仕込み、150℃にて溶解・攪拌を行った。180℃〜220℃で4時間エステル交換反応を行った後、260℃まで昇温しつつ系内を徐々に減圧して所定の粘度が得られるまで重縮合を行った。
圧力を開放後、80℃まで冷却し、高攪拌下にて脱イオン水900重量部を添加し、固形分約30%のポリエステル系水分散液(ポリエステル1)を得た。
得られた水分散液は、不揮発分30.5%、pH5.5、粘度150mPa・sであった。また、得られた水溶液を乾燥し、THFに溶解後、GPC測定を行った結果、(ポリスチレン換算)重量平均分子量が12,000であった。
【0089】
参考例3 高分子化合物(e−1;「アクリル3」)の製造
参考例1において、n−ドデシルメルカプタンを無し、2-2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルを各々半量にした以外は、同様にして同操作を行いアクリル系水分散液(アクリル2)を得た。
得られた水溶液は、不揮発分22.5%、pH7.2、粘度3600mPa・sの白濁液であった。また得られた水溶液を乾燥し、THFに溶解後、GPC測定を行った結果、(ポリスチレン換算)重量平均分子量が110,000であった。
【0090】
実施例1
撹拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応容器に、脱イオン水326重量部、参考例1で得られたアクリル系水分散液 (「アクリル1」) 313重量部、N-メチロールアクリルアミド3重量部を仕込み、窒素フローしながら80℃に昇温した。次に、別の容器にエチルアクリレート(EA)93重量部及びメチルメタクリレート(MMA)201重量部、アクリル酸3重量部を計量し攪拌混合した。
【0091】
2重量%過硫酸カリウム水溶液10重量部 及び2重量%炭酸水素アンモニウム水溶液10重量部を添加して、直ちに単量体混合液の滴下及び2重量%過硫酸カリウム水溶液40重量部及び2重量%炭酸水素アンモニウム水溶液40重量部を2時間で滴下し、同温度にて4時間保持した。
続けて、40℃以下に冷却しアンモニア水適量にてpHを約8〜9に調整し、濃度35重量%になるように水適量を加えて、アクリル系共重合体水性分散液を得た。アクリル系共重合体水分散液に使用した単量体組成及び組成比率及び得られたアクリル系共重合体水分散液の固形分(NV)、pH、粘度(Vis)、粒子径を表1に、該アクリル系共重合体水分散液より形成された被膜の特性を表2に示す。
【0092】
実施例2 及び比較例1
実施例1において「アクリル1」を「ポリエステル1」または「アクリル2」に変更する以外は実施例1同様に反応を行い、アクリル系共重合体水性分散液を得た。
【0093】
アクリル系共重合体水性分散液に使用した単量体組成及び組成比率及び得られたアクリル系共重合体水分散液の固形分(NV)、pH、粘度(Vis)、粒子径を表1に、該アクリル系共重合体水分散液より形成された被膜の特性を表2に示す。
【0094】
実施例3、4
実施例1において、「アクリル1」の代わりにA−210 (高松油脂製ポリエステル系分散液,固形分濃度:約30% 分子量 11,000 )を使用し、高分子化合物(e)の使用割合を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様に反応を行い、アクリル系共重合体水性分散液を得た。
【0095】
アクリル系共重合体水分散液に使用した単量体組成及び組成比率及び得られたアクリル系共重合体水分散液の固形分(NV)、pH、粘度(Vis)、粒子径を表1に、該アクリル系共重合体水分散液より形成された被膜の特性を表2に示す。
【0096】
実施例5
実施例1において、アクリル酸を2−ヒドロキシエチルメタクリレートに変更する以外は実施例1と同様に反応を行い、アクリル系共重合体水性分散液を得た。
【0097】
アクリル系共重合体水性分散液に使用した単量体組成及び組成比率及び得られたアクリル系共重合体水性分散液の固形分(NV)、pH、粘度(Vis)、粒子径を表1に、該アクリル系共重合体水分散液より形成された被膜の特性を表2に示す。
【0098】
比較例2
実施例1において、「アクリル1」を使用する代わりにハイテノールN−08(第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルファイドのアンモニウム塩(乳化剤,分子量:約600)を使用する以外は実施例1と同様に反応を行い、アクリル系共重合体水性分散液を得た。
【0099】
アクリル系共重合体水分散液に使用した単量体組成及び組成比率及び得られたアクリル系共重合体水分散液の固形分(NV)、pH、粘度(Vis)、粒子径を表1に、該アクリル系共重合体水分散液より形成された被膜の特性を表2に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
本発明は、分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体、及び/又は、分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体を特定の水分散可能な高分子化合物の存在下にて重合して得られるアクリル系共重合体水分散液に関し、これらは建築資材、紙等の多孔質材料及び金属、プラスチック、塗面等に使用した場合、耐水性の優れた性質を兼ね備える卓越した新規の水性アクリル系共重合体分散液に関する。
【0103】
本発明の実施の形態にかかるアクリル系共重合体水性分散液は、フィルム等プラスチック用コーティング剤として有用であり、従来、成し得なかったエマルジョン系及び水溶性樹脂の欠点を補う優れたアクリル系共重合体水分散液の提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記反応基を有する単量体(a)〜(d)、を、水媒体中、重量平均分子量5,000〜 100,000の水分散可能な高分子化合物(e)の存在下で重合して得られるアクリル系共重合体水性分散液。
(a) (メタ)アクリル酸エステル単量体 40〜99重量%、
(b)分子内にカルボキシル基を有するエチレン系不飽和単量体(b-1)及び/又は、分子内に水酸基を有するエチレン系不飽和単量体(b-2) 0.5〜30重量%
(c)分子内にメチロール基を有する不飽和カルボン酸アミド 0〜15重量%、
(d)上記(a)〜(c)と共重合可能な該(a)〜(c)以外の単量体 0〜30重量%、〔但し、(a)〜(d)の合計を100重量%とする〕
【請求項2】
該分散液中の共重合体分散粒子の平均粒子径が150nm以下であり、且つ、共重合体分散粒子のガラス転移温度(以後、Tgと略する場合もある)が−10℃〜95℃である事を特徴とする請求項1記載アクリル系共重合体水性分散液。
【請求項3】
水分散可能な高分子化合物(e)がアクリル系樹脂またはポリエステル系樹脂である請求項1または請求項2記載のアクリル系共重合体水性分散液。
【請求項4】
水分散可能な高分子化合物(e)がアクリル系共重合体(固形分)の35重量%以下である請求項1〜請求項3いずれかに記載のアクリル系共重合体水性分散液。

【公開番号】特開2010−53227(P2010−53227A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218483(P2008−218483)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】