説明

アクリル系合成繊維およびその製造方法

【課題】アクリル系合成繊維の製造時の操業性および加工性を損なうことなく、白色でかつ優れた導電性を有するアクリル系合成繊維およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維表面において、アクリル系重合体の海成分に、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体が繊維軸方向に沿って筋状にかつ網目構造状に島成分を形成してなるアクリル系合成繊維であって、前記白色導電材が繊維重量当たり10重量%〜35重量%含有されてなることを特徴とするアクリル系合成繊維、およびアクリル系重合体と、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体を混合紡糸して導電性を有するアクリル系合成繊維を製造する導電性アクリル系合成繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れたアクリル系合繊維およびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、アクリル系繊維の特徴である、良好な染色性、風合いを保ち、かつ繊維の基本特性である、単繊維の強度、伸度を保持し、優れた導電性能を有するアクリル系合繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性を有するアクリル系合成繊維の製造方法としては、導電性物質を繊維表面にメッキもしくはコーティングする方法(特許文献1、特許文献4参照)、導電性物質を繊維に練り混む方法(特許文献2参照)、導電性物質を繊維軸方向に3層以上接合して複合紡糸する方法(特許文献5参照)などが知られている。
【0003】
特許文献1や特許文献4により提案されている方法では、導電性物質が繊維表面を覆っているため、染色性、紡績性などの加工性が悪化したり、摩擦などにより脱落が起こりやすく耐久性が劣ったりする懸念があるが、特許文献2や特許文献5により提案されている方法では、繊維内部に導電性物質が存在するため、耐久性や加工性が大きく悪化する懸念は小さい。
【0004】
一方、導電性物質として最も良く使われているのがカーボンブラックであるが、黒色であるため、添加量や添加方法により程度の差はあるものの、繊維が黒色化してしまう。そのため、デザインが重視される衣料用途、特にアウター向けには使いずらい面があった。
また、導電性物質として白色金属化合物を用い、繊維全体に均一に練り混んだものもあるが、高い導電性を得るには大量に練り混む必要があり、強度などの繊維物性が低下してしまうという問題がある。
【0005】
かかる強度低下を防ぐために、白色導電性物質を芯鞘構造繊維の芯部にのみ、存在させるようにする技術も提案されている(特許文献3)。
【0006】
しかし、この場合、芯鞘口金のような精密な口金を用いるため導電性物質が口金に詰まりやすく、操業性に劣るばかりか、導電性微粒子を含む部分が不導体であるアクリル系重合体に覆われているため、導電性(除電性)に劣るという問題がある。
【0007】
また、特許文献5のように導電性微粒子を繊維軸方向に多層複合構造にする方法は、繊維中の導電性微粒子の多層複合構造に斑が発生しやすく、強度低下、導電性低下等が発生する懸念がある。
【0008】
【特許文献1】特開2001−40578号公報
【特許文献2】特開2002−138323号公報
【特許文献3】特開平8−337925号公報
【特許文献4】特開昭58−31168号公報
【特許文献5】特開2007−119992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来の技術が有する問題を解決すること、すなわち、アクリル系合成繊維の製造時の操業性および加工性を損なうことなく、白色でかつ優れた導電性を有するアクリル系合成繊維およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明のアクリル系合成繊維は、次の(1)の構成を有する。
【0011】
(1)繊維表面において、アクリル系重合体の海成分に、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体が繊維軸方向に沿って筋状にかつ網目構造状に島成分を形成してなるアクリル系合成繊維であって、前記白色導電材が繊維重量当たり10重量%〜35重量%含有されてなることを特徴とするアクリル系合成繊維。
【0012】
また、かかる本発明のアクリル系合成繊維において、より具体的構成として好ましくは、(2)〜(6)のいずれかの構成を有するものである。
【0013】
(2)前記白色導電材が、その表面にアミンを有するものであることを特徴とする上記(1)記載のアクリル系合成繊維。
【0014】
(3)前記白色導電材が、白色金属酸化物を導電化させ、該導電化された白色金属酸化物の表面にアミン類が付与されてなるものであることを特徴とする上記(1)または(2)記載のアクリル系合成繊維。
【0015】
(4)前記白色金属酸化物が、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジュウムおよび酸化アンチモンよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記(3)記載のアクリル系合成繊維。
【0016】
(5)前記アミン類の付与が、アミノ基を持つカップリング剤を表面処理剤として使用して付与されたものであることを特徴する上記(3)記載のアクリル系合成繊維。
【0017】
(6)前記白色金属酸化物が、該白色金属酸化物を形成する結晶体のうち、20重量%以上が微粒子金属酸化物であることを特徴とする上記(3)記載のアクリル系合成繊維。
【0018】
また、上述した目的を達成する本発明のアクリル系合成繊維の製造方法は、以下(7)の構成を有するものである。
【0019】
(7)アクリル系重合体と、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体を混合紡糸して前記(1)〜(6)のいずれかに記載の導電性アクリル系合成繊維を得ることを特徴とする導電性アクリル系合成繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアクリル系合成繊維は、ポリアルキレングリコール系重合体に沿って白色導電材が継続的に接合配置されるとともに、また、白色導電材を含む島成分が不導体であるアクリル系重合体に覆われていない部分を有するので、白色導電材の使用量を抑えて、従来にない優れた導電性を発現するとともに、その耐久性や加工性が優れたものとなる。
【0021】
また、本発明のアクリル系合成繊維の製造方法によれば、かかるアクリル系合成繊維を、操業性を損ねることなく、安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の優れた導電性を有するアクリル系合成繊維およびその製造方法について、より詳細に説明する。
【0023】
本発明で使用するアクリル系重合体としては、単量体としてアクリロニトリル(以下、ANという)を30重量%以上重合してなるアクリル系ポリマーであって、繊維形成能を有していればよい。AN以外の単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸およびそれらのアルキルエステル類、イタコン類、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、塩化ビニリデンなどのビニル系化合物の他に、ビニルスルホン酸、アクリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、パラスチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸およびそれらの塩類を用いることができる。
【0024】
本発明で使用するポリアルキレングリコール系重合体は、例えば2万〜50万の高分子量ポリエチレングリコールや、ポリプロピレングリコール及びそのエステル、誘導体としては、例えばポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリエチレンセバケート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンアゼレート等のポリエステル及びこれらの共重合ポリエステルとポリエチレングリコール或いはポリプロピレングリコールとのブロックポリエステル系共重合体が挙げられる。実施例で用いるポリアルキレングリコール系重合体はブロックポリエステルエーテル共重合体とアクリロニトリルとその他の共重成分を1種あるいは2種以上を含む共重合成分をグラフト重合した共重合体である。
【0025】
本発明のアクリル系合成繊維は、繊維表面において、アクリル系重合体の海成分に、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体が繊維軸方向に沿って筋状にかつ網目構造状に島成分を形成しているものである。すなわち、繊維の長手方向に延在するアクリル系共重合体の中に、繊維の長手方向に沿って、白色導電材がポリアルキレングリコール系重合体中に包含された状態で筋状にかつ網目構造状に配置されている。
【0026】
本発明のアクリル系合成繊維の一実施態様を示す繊維側面の概略図を図1に示す。
【0027】
本発明のアクリル系合性繊維は、その繊維表面において、アクリル系重合体12の海成分の中に、白色導電材を含むポリアルキレングリコール系重合体11が繊維軸方向に筋状にかつ網目構造状となって島成分を形成している。
【0028】
本発明において、「繊維軸方向に沿って筋状に」とは、繊維軸方向に沿って細長く一続きになっている状態を呈して繊維表面側面上に白色導電材を含むポリアルキレングリコール系重合体が存在していることをいう。また、「網目構造状に」とは、網の目の模様の状態を呈して繊維表面側面上に白色導電材を含むポリアルキレングリコール系重合体が存在していることをいう。そして、「筋状にかつ網目構造状に島を形成している」とは、繊維軸方向に沿って細長く一続きになって網の目の模様の状態で海成分の中に島成分を形成しているような状態を呈して繊維表面側面上に白色導電材を含むポリアルキレングリコール系重合体が存在していることをいう。 本発明のアクリル系合成繊維は、繊維表面で、アクリル系重合体の海成分に、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体が繊維軸方向に沿って筋状にかつ網目構造状に島成分を形成しているので、導電材が脱落しにくく、また、導電材が繊維軸方向に継続接合されるため、優れた導電性を有するようになる。
【0029】
また、島成分は繊維表面に露出しているので、不導体であるアクリル系重合体で絶縁されることなく、導電性を高めることができる。導電材がアクリル系重合体に覆われていると白色導電材表面のアミンとの架橋反応を起こさないので白色導電材がアクリル系重合体の中に包括されないが、ポリアルキレングリコール系重合体に覆われていることで、白色導電材表面のアミンとの架橋反応が起こり、白色導電材がポリアルキレングリコール系重合体中に包括され、白色導電材が繊維中に継続接合することによって優れた導電性が得られるのである。
【0030】
本発明において、白色導電材は、繊維重量当たり10重量%〜35重量%含有されていることが必要である。白色導電材の含有量が10重量%未満と少なすぎると、導電性が不足し、35重量%を超えるほどに多すぎると、繊維物性を阻害するので好ましくない。
【0031】
また、本発明において、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体と、アクリル系重合体との重量比率は、前者が30重量%〜40重量%、後者が70重量%〜60重量%とするのがよい。白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体の含有量が30重量%未満と少なすぎると、導電材が脱落しやすくなり好ましくない。また70重量%よりも多すぎると、繊維物性を阻害することが多い。
【0032】
白色導電材は、その表面にアミンを有するものが好ましい。白色導電材の表面にアミンが存在することにより、ポリアルキレングリコール系重合体中のエステル化合物とアミンの架橋反応が起こり、白色導電剤がポリアルキレングリコール系重合体の中に包括される。
【0033】
白色導電材としては、白色金属酸化物を導電化させ、その表面にアミン類の表面処理剤により処理されてアミン類が付与されてなるものが好ましく用いられる。白色金属酸化物としては、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジュウム、及び酸化アンチモンなどがあげられ、これらのうち1種あるいは複数種を適宜に用いることができる。
【0034】
具体的には、異種元素をドープすることによる半導体化や、白色金属酸化物にその半導体化したものを被覆させるという操作をして導電化させる。アミン類の表面処理剤としては、通常、アミノ基を持つカップリング剤が用いられ、アミノ基を持つカップリング剤としては、具体的には、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート等が挙げられる。
【0035】
白色金属酸化物は、それを形成する結晶体のうち、20重量%以上が微粒子金属酸化物であることが好ましい。それにより、白色金属酸化物を導電化させるという効果が生じる。
【0036】
白色導電材は、一般には、後述する紡糸溶液に使用しているものと同じ溶媒に分散した白色導電材の分散液となして用いられる。
【0037】
この白色導電材の分散液とポリアルキレングリコール系重合体を混合し、例えば、ホモミキサー、プロペラ攪拌機などを用いて容器中で攪拌混合を行う。攪拌混合後、均一に分散した液をサンドグラインダー(ビーズミル)にて処理して、ポリアルキレングリコール系重合体に白色導電材を含ませるのが好ましい。
【0038】
上記した本発明のアクリル系合成繊維を得る方法について、次に説明する。
【0039】
本発明のアクリル系合成繊維は、前記したアクリル系重合体と、前記した白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体を混合紡糸して製造できる。
【0040】
用いるアクリル系重合体は、懸濁重合、溶液重合、乳化重合等のいずれの方法で製造されたものでもよい。また、アクリル系重合体と、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体はそれぞれ、溶媒に溶解された溶液として準備されるが、用いる溶媒はアクリル系重合体を溶解するものであればよく、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOという)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトン等の有機系溶媒や硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛等の無機塩水溶液等の無機系溶媒が好ましく用いられる。溶媒に、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体が溶解した第1の紡糸溶液と、溶媒に、アクリル系重合体が溶解した第2の紡糸溶液とを用意する。紡糸溶液中の重合体濃度は10〜30重量%に設定する。
【0041】
これら紡糸溶液中には、繊維形成能および操業性が損なわれない範囲内で、紫外線吸収剤、染料、顔料などの添加剤を練り込んでも構わない。
【0042】
本発明において、第2の紡糸溶液には、通常、白色導電材を含んでいない。第1の紡糸溶液における白色導電材の濃度は、使用する白色導電材の導電性、要求される導電性および製糸条件などにもよるが、10重量%以上、好ましくは15〜25重量%、さらに好ましくは20〜30重量%とするのが良い。かかる濃度が10重量%未満であると得られる繊維において高い導電性が得られないことが多い。白色導電材が多いほど、得られる繊維に高い導電性を与えることができるが、その反面、口金圧が上がりやすくなるなど、操業性が悪化することが多く、繊維強度も低下することが多い。
【0043】
第1の紡糸溶液と第2の紡糸溶液を混合紡糸する方法を、図2などを用いて説明する。
【0044】
図2は本発明の繊維を製造するための混合紡糸装置の一実施態様を示した概略平面図である。
【0045】
第1の紡糸溶液1と第2の紡糸溶液2は、各々濾過部(図示せず)を通過した後、混合エレメント3に供給され、混合エレメント内の6段のミキサーを通過させることで両方の紡糸溶液が完全に均一混合されない程度に混練される。すなわち、この混合エレメント3によって、第1の紡糸溶液1が、第2の紡糸溶液2の海の中に、筋状にかつ網目構造状の島を形成するまで混錬される。混合エレメント3で上記のように混錬された後、口金ユニット4に入り、紡糸孔5より流出されフィラメント群として凝固浴に吐出される。
【0046】
混合エレメント3としては、例えば、東レエンジニアリング(株)社製「ハイミキサー」(登録商標)のエレメント内の6段のミキサーなどが好適に用いられる。
【0047】
繊維の断面形状は、紡糸孔の形状により、丸断面、三角断面、C型断面、扁平断面などの任意の形状を選択することができる。
【0048】
凝固方法としては、凝固浴は凝固速度が速いことが重要で、無機溶剤に比して凝固速度の速いジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、DMSO等の有機溶剤を、水と混合して用いるのがよい。
【0049】
中でも凝固速度が速いDMSOが好ましく使用される。なお、凝固浴の組成としては、好ましくは有機溶剤10〜70重量%/水90〜30重量%、より好ましくは有機溶剤30〜60重量%/水70〜40重量%とする。
【0050】
さらに凝固浴温度は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは20〜45℃の範囲に保持する。凝固浴温度が5℃より低いと紡糸性、特に可紡性が低下しやすく、凝固浴温度が60℃より高いと、得られる繊維に失透現象が起き、染色性が低下しやすい。
【0051】
凝固浴より導出された凝固糸条は、水洗処理、水洗と同時に延伸処理、延伸後水洗処理、水洗後延伸処理のいずれかの処理をした後に、必要に応じて、1次油剤付与、乾燥緻密化、2次油剤付与後、機械捲縮を付与し、60〜95℃の熱風で乾燥した後、所定の長さにカットすることにより短繊維集合体として、本発明のアクリル系合成繊維を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明において、各種特性は次のようにして測定される。
【0053】
1.洗濯処理
家庭用洗濯機(NAW−305:松下電器産業(株)製)に中性洗剤(“ザブ”(登録商標):花王(株)製)0.2重量%の洗濯液を投入し、温度40℃±2℃、繊維束または織編物と洗濯液との浴比を1:50とし5分間強反転で洗濯し、その後、排液、オーバーフローさせながらすすぎを2分間行う操作を2回繰り返し、これを洗濯1回とし、5回の洗濯を繰り返した後乾燥させる。
【0054】
2.電気抵抗・電気比抵抗
測定すべき繊維集合体を用いて、総繊度1100dtex、長さ10cmの繊維束を得る。得られた繊維束について、前記した洗濯処理の前後において、60%RH、25℃の雰囲気で、その繊維束の両端をクランプで把持し、100Vの印加電圧をかけ電気抵抗Rを測定する。
次いで、電気抵抗Rから、次の式によって電気比抵抗ρを求める。10Ω・cm以下の電気比抵抗である場合、導電性ありとした。
ρ=(R×D)/(10×L×SG)×10-5 (Ω・cm)
上記式において、R:電気抵抗値(Ω)、D:総繊度(dtex)、L:試料長(cm)、
SG:繊維の比重
【0055】
3.織編物の摩擦帯電圧
JIS−L1094(1997年改訂)、5.2摩擦帯電圧測定法によって摩擦帯電圧を測定する。
【0056】
4.繊維表面状態の観察
単繊維の表面を走査型電子顕微鏡を用い1000倍で撮影して観察した。
【0057】
実施例1
白色導電材、ポリアルキレングリコール系重合体として、次に示すようにして得たものを用い、白色導電材の濃度が40重量%、ポリアルキレングリコール系重合体の濃度が60重量%となるようにDMSOに溶解されてなる第1の紡糸溶液を得た。
白色導電材としては、白色金属酸化物を導電化させ、その表面にアミン類の表面処理剤を付与してなるものが好ましく用いられる。白色金属酸化物としては、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジュウム、及び酸化アンチモンなどがあげられる。
この白色金属酸化物を用い、それをアミノ基を持つカップリング剤としては、具体的には、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネートを用いて、異種元素をドープすることによる半導体化や、白色金属酸化物にその半導体化したものを被覆させるという操作をして導電化させ表面にアミンが存在する白色導電材を得た。用いた白色金属酸化物において、結晶体のサイズは、微粒子金属酸化物が粒径0.03μm〜0.06μmであり、針状金属酸化物が長軸長1.7μm〜5.2μm、短軸長0.13μm〜0.27μmであり、結晶体のうち、微粒子金属酸化物が75重量%、針状金属酸化物が25重量%の割合で混合された白色金属酸化物からなっている。
ポリアルキレングリコール系重合体はエチレングリコール40重量%、アゼライン酸40重量%、アジピン酸20重量%をエステル化重合したものにポリエチレングリコールを縮合重合し、ブロックポリエステル共重合体を得た。このブロックポリエステル共重合体をDMSO溶媒に30重量%になるよう溶解後、AN9.7重量%、メチルメタクリレート2.3重量%を過硫酸アンモニウムを触媒としてグラフト重合してポリアルキレングリコール系重合体を得た。
一方、AN94モル%、アクリル酸メチル5.5モル%、およびメタクリルスルホン酸ソーダ0.5モル%を重合してなるアクリル系重合体がDMSOにポリマー濃度25重量%になるよう溶解されてなる第2の紡糸溶液を得た。
この第1の紡糸溶液と第2の紡糸溶液を、供給量を調整して、両方の合計重量に対して白色導電材が12重量%になるよう、混合エレメントである東レエンジニアリング(株)製「ハイミキサー」に、図2に示すように供給して6段のエレメントを用いて混合し、口金ユニットにおける紡糸孔より凝固浴中に吐出し、凝固させて凝固糸条を得た。凝固浴はDMSO濃度55重量%、温度35℃の水溶液であった。口金ユニットにおける紡糸孔は、孔径0.055mmφの丸型であった。この凝固糸条を98℃の熱水中で5.5倍に延伸し、この延伸糸条を温水で十分洗浄した後、160℃で乾燥緻密化した。次にこの糸条を75℃で予熱し、機械捲縮を付与した後、80℃の熱風で乾燥し単糸繊度2.2dtexの繊維集合体を得た。
得られた繊維集合体から単繊維を採取し、繊維表面状態の観察を行ったところ、繊維表面に白色導電材が筋状にかつ網目構造状に配置されていた。
また、得られた繊維集合体を用いて電気抵抗および電気比抵抗を測定した結果を表1に示す。得られた繊維集合体は、優れた導電性を有するものであった。
次に得られた繊維集合体を、長さ51mmに切断することにより、短繊維集合体を得た。得られた短繊維集合体と通常のアクリル系短繊維集合体(短繊維長51mm切断品)を重量比5:95の割合で混綿し、常法によりカード、練条、粗紡を行い、精紡工程でZ方向に360ターン/mのヨリをかけて、1/36番手の紡績糸となし、その紡績糸を天竺組織に編成して編地を得た。得られた編地について、帯電性試験を実施したところ、表2に示すように、優れた摩擦帯電圧を有していた。
【0058】
実施例2
混合エレメントに供給する第1の紡糸溶液と第2の紡糸溶液の供給量を、両方の合計重量に対して白色導電材が18重量%になるように変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維集合体、短繊維集合体および編地を得た。得られた繊維集合体から単繊維を採取し、繊維表面状態の観察を行ったところ、繊維表面に白色導電材が筋状にかつ網目構造状に配置されていた。
また、得られた繊維集合体を用いて電気抵抗および電気比抵抗を測定した結果を表1に示す。得られた繊維集合体は、優れた導電性を有するものであった。さらに、得られた編地について、帯電性試験を実施したところ、表1に示すように、優れた摩擦帯電圧を有していた。
【0059】
実施例3
混合エレメントに供給する第1の紡糸溶液と第2の紡糸溶液の供給量を、両方の合計重量に対して白色導電材が22重量%になるように変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維集合体、短繊維集合体および編地を得た。得られた繊維集合体から単繊維を採取し、繊維表面状態の観察を行ったところ、繊維表面に白色導電材が筋状にかつ網目構造状に配置されていた。
また、得られた繊維集合体を用いて電気抵抗および電気比抵抗を測定した結果を表1に示す。得られた繊維集合体は、優れた導電性を有するものであった。さらに、得られた編地について、帯電性試験を実施したところ、表1に示すように、優れた摩擦耐電圧を有していた。
【0060】
比較例1
第1の紡糸溶液を用いず、混合エレメントも用いなかった以外は、実施例1と同様にして、繊維集合体、短繊維集合体および編地を得た。得られた繊維集合体から単繊維を採取し、第1の紡糸溶液を用いていないため、操業性は良好であった。
得られた繊維集合体を用いて電気抵抗および電気比抵抗を測定した結果を表1に、得られた編地について、帯電性試験を実施した結果を表1に示す。得られた繊維は強度、伸度の物性は満足するものであったが、導電性、摩擦帯電圧がかなり低く満足のできるものではなかった。
【0061】
比較例2
混合エレメントに供給する第1の紡糸溶液と第2の紡糸溶液の供給量を、両方の合計重量に対して白色導電材が1重量%になるように変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維集合体、短繊維集合体および編地を得た。得られた繊維集合体から単繊維を採取し、繊維表面状態の観察を行ったところ、繊維表面に白色導電材が筋状にかつ網目構造状に配置されていた。
また、得られた繊維集合体を用いて電気抵抗および電気比抵抗を測定した結果を表1に示す。得られた繊維集合体は、導電性が低く満足できるものではなかった。さらに、得られた編地について、帯電性試験を実施したところ、表1に示すように、摩擦帯電圧が低く満足できるものではなかった。
【0062】
比較例3
混合エレメントに供給する第1の紡糸溶液と第2の紡糸溶液の供給量を、両方の合計重量に対して白色導電材が5重量%になるように変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維集合体、短繊維集合体および編地を得た。得られた繊維集合体から単繊維を採取し、繊維表面状態の観察を行ったところ、繊維表面に白色導電材が筋状にかつ網目構造状に配置されていた。
また、得られた繊維集合体を用いて電気抵抗および電気比抵抗を測定した結果を表1に示す。得られた繊維集合体は、導電性が低く満足できるものではなかった。さらに、得られた編地について、帯電性試験を実施したところ、表1に示すように、摩擦帯電圧が低く満足できるものではなかった。
【0063】
比較例4
混合エレメントに供給する第1の紡糸溶液と第2の紡糸溶液の供給量を、両方の合計重量に対して白色導電材が40重量%になるように変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維集合体および短繊維集合体を得た。白色導電材の添加量が多過ぎるため、口金圧上昇が大きく、頻繁に口金交換が必要であった。得られた繊維集合体から単繊維を採取し、繊維表面状態の観察を行ったところ、繊維表面に白色導電材が筋状にかつ網目構造状に配置されていた。また、得られた繊維集合体を用いて電気抵抗および電気比抵抗を測定した結果を表1に示す。得られた繊維集合体は、導電性は満足できるものであったが、強度、伸度等の物性が悪いため、編地を作製することはできなかった。
【0064】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明のアクリル系合成繊維の一実施態様を示す繊維側面の概略図である。
【図2】図2は、本発明のアクリル系合成繊維を製造するに好適に用いられる混合紡糸装置の概略図である。
【符号の説明】
【0066】
1 第1の紡糸溶液
2 第2の紡糸溶液
3 混合エレメント
4 口金ユニット
5 紡糸孔
11 白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体
12 アクリル系重合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面において、アクリル系重合体の海成分に、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体が繊維軸方向に沿って筋状にかつ網目構造状に島成分を形成してなるアクリル系合成繊維であって、前記白色導電材が繊維重量当たり10重量%〜35重量%含有されてなることを特徴とするアクリル系合成繊維。
【請求項2】
前記白色導電材が、その表面にアミンを有するものであることを特徴とする請求項1記載のアクリル系合成繊維。
【請求項3】
前記白色導電材が、白色金属酸化物を導電化させ、該導電化された白色金属酸化物の表面にアミン類が付与されてなるものであることを特徴とする請求項1または2記載のアクリル系合成繊維。
【請求項4】
前記白色金属酸化物が、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジュウムおよび酸化アンチモンよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3記載のアクリル系合成繊維。
【請求項5】
前記アミン類の付与が、アミノ基を持つカップリング剤を表面処理剤として使用して付与されたものであることを特徴する請求項3記載のアクリル系合成繊維。
【請求項6】
前記白色金属酸化物が、該白色金属酸化物を形成する結晶体のうち、20重量%以上が微粒子金属酸化物であることを特徴とする請求項3記載のアクリル系合成繊維。
【請求項7】
アクリル系重合体と、白色導電材を含有するポリアルキレングリコール系重合体を混合紡糸して導電性を有する請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル系合成繊維を製造することを特徴とする導電性アクリル系合成繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−299205(P2009−299205A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152197(P2008−152197)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(593149926)レジノカラー工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】