説明

アクリル系接着剤除去用品及びアクリル系接着剤除去処理方法

【課題】液晶モジュールのリワーク工程において、液晶パネルのガラス基板の表面に付着しているアクリル系接着剤を手作業で効率良く拭き取る方法を提供する。
【解決手段】(A)未開封のアクリル系接着剤除去用品1を用意する。このアクリル系接着剤除去用品1は、溶剤を適量含浸させたワイパ2を容器3に収容し密封してなる。溶剤は、酢酸エチル80〜90質量%及び二塩基酸エステル10〜20質量%からなる。(B)アクリル系接着剤除去用品1の容器3を開封する。(C)容器3からワイパ2を一枚摘み出す。(D)容器3の開封端近傍を折り曲げ、再封止状態保持部材5の部分を押圧することにより袋体4を再封止する。(E)液晶パネル10のガラス基板11の表面に付着しているアクリル系接着剤12をワイパ2を使用して手作業で拭き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系接着剤を溶剤を使用して除去する技術に関し、詳しくは、液晶パネルのガラス基板等に付着したアクリル系接着剤を除去するのに好適な用品及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶モジュールの製造過程では、二枚のガラス基板を液晶層を挟んで貼り合わせてなる液晶パネルの両ガラス基板の表面に偏光フィルムを貼り付ける工程が実施される。そして、偏光フィルムを貼り付けた液晶パネルの周辺部分に、駆動用LSIが実装されたフィルム基板(TCP)やプリント基板を取り付けた後、検査工程を経て液晶モジュールが完成する。
【0003】
偏光フィルムをガラス基板に貼り付ける工程において、偏光フィルムとガラス基板との間に気泡や異物の混入などによる欠陥が発生する場合がある。液晶モジュールは高価であるため、この種の欠陥が発見された液晶モジュールはリワーク工程に送られる。
【0004】
リワーク工程では、液晶モジュールのガラス基板から偏光フィルムを剥がし取り、そのガラス基板の表面に付着しているアクリル系接着剤を除去した後、そのガラス基板の表面に偏光フィルムを貼り直す作業が行われる。
【0005】
リワーク工程において、ガラス基板の表面に付着しているアクリル系接着剤を除去する処理は、溶剤を含浸させたワイパを使用して作業者が手作業でアクリル系接着剤を拭き取ることにより行われる。
【0006】
しかし、アクリル系接着剤はガラス基板の表面に強固に付着しているため、これを除去することは容易ではなく、接着剤の除去効率を高めたいという作業者の心理から溶剤の使用量が過剰になる傾向がある。また、作業者が手作業でアクリル系接着剤を拭き取る際、力余ってガラス基板を破損してしまうという事態も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−108031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ガラス基板等に付着したアクリル系接着剤を手作業で効率良く拭き取って除去することができるアクリル系接着剤除去用品及びアクリル系接着剤除去処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[アクリル系接着剤除去用品]
本発明のアクリル系接着剤除去用品は、溶剤を含浸させたワイパと、前記ワイパを気密に収容した密封容器とを有し、前記溶剤は、酢酸エチル80〜90質量%及び二塩基酸エステル10〜20質量%からなることを特徴とする。
【0010】
本発明のアクリル系接着剤除去用品において、前記二塩基酸エステルは、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルの混合液であることが望ましい。
【0011】
本発明のアクリル系接着剤除去用品において、前記ワイパは、ポリエステル繊維からなる布、又は、ポリエステル80質量%及びナイロン20質量%を含む分割繊維からなる布であることが望ましい。当該布は、編物又は織物であることが望ましい。分割繊維とは、異なる種類の樹脂を同じ口金から押し出して形成される繊維であり、例えば、断面扇形の7つの花弁部(繊維要素)と、隣り合う花弁部同士の間に介在する7つの仕切部を放射状に結合させた断面がほぼアステリスク形状の茎部(繊維要素)とから構成され、これらの繊維要素が断面円形に統合され、且つ分割可能に形成されているものである。
【0012】
本発明のアクリル系接着剤除去用品において、前記容器は、開封後にその開封端近傍を折り曲げることにより再封止可能な耐溶剤性の袋体と、当該袋体の開封端近傍の折り曲げに伴って変形してその変形後の形状を維持することにより当該袋体を再封止状態に保つ再封止状態保持部材と、を備えていることが望ましい。当該再封止状態保持部材は、前記袋体の表面に固定されていることが望ましい。
【0013】
[アクリル系接着剤除去方法]
本発明のアクリル系接着剤除去処理方法は、被処理対象物に付着しているアクリル系接着剤を手作業で拭き取り除去するアクリル系接着剤除去処理方法であって、
酢酸エチル80〜90質量%及び二塩基酸エステル10〜20質量%からなる溶剤を含浸させたワイパと、当該ワイパを気密に収容した容器とを有するアクリル系接着剤除去用品を用意するステップと、
前記容器から前記ワイパを取り出すステップと、
当該ワイパを用いて被処理対象物に付着しているアクリル系接着剤を手作業で拭き取るステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のアクリル系接着剤除去処理方法において、前記被処理対象物は、液晶パネルのガラス基板であることが望ましい。
【0015】
本発明のアクリル系接着剤除去処理方法において、前記二塩基酸エステルは、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルの混合液であることが望ましい。
【0016】
本発明のアクリル系接着剤除去処理方法において、前記ワイパは、ポリエステル繊維からなる布又は、ポリエステル80質量%及びナイロン20質量%を含む分割繊維からなる布であることが望ましい。当該布は、編物又は織物であることが望ましい。
【0017】
本発明のアクリル系接着剤除去処理方法において、前記容器は、開封後にその開封端近傍を折り曲げることにより簡易に再封止可能な袋体と、当該袋体の開封端近傍の折り曲げに伴って変形してその変形後の形状を維持することにより当該袋体を再封止状態に保つ再封止状態保持部材と、を備えていることが望ましい。当該再封止状態保持部材は、前記袋体の表面に固定されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガラス基板等に付着しているアクリル系接着剤を手作業で効率良く拭き取って除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のアクリル系接着剤除去用品の実施形態を例示する部分破断斜視図
【図2】本発明のアクリル系接着剤除去処理方法の実施形態を例示する一連の工程図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態につき添付図面を参照して説明する。
図1に示すように、この実施形態のアクリル系接着剤除去用品1は、溶剤を適量含浸させたワイパ2と、ワイパ2を気密に収容した容器3とを有する。ワイパ2は、所定枚数たとえば30枚重ねた状態で容器3内に収容されている。
前記溶剤は、酢酸エチル80〜90質量%及び二塩基酸エステル10〜20質量%からなる。二塩基酸エステルとして、グルタル酸ジメチル55〜65質量%、コハク酸ジメチル15〜25質量%及びアジピン酸ジメチル10〜25質量%からなる混合液が使用される。
【0021】
ワイパ2は、ポリエステル80質量%及びナイロン20質量%を含む分割繊維からなる矩形状(例えば正方形)の布に溶剤を含浸させたものである。当該布は、直径が10ミクロン以下の分割繊維からなる編物である。このワイパ2に使用される分割繊維は、断面扇形の7つのポリエステル製の花弁部(繊維要素)と、隣り合う花弁部同士の間に介在する7つの仕切部を放射状に結合させた断面がほぼアステリスク形状のナイロン製の茎部(繊維要素)とから構成され、これらの繊維要素が断面円形に統合され、且つ分割可能に形成されている。
【0022】
容器3は、耐溶剤性の二枚のシートを重ねてその周縁部を加圧しつつ融着させることにより気密に封止された袋体4を有し、この袋体4内にワイパ2が収容されている。袋体4の開封側端縁4aの近傍両端には、開封用のV字状の切り込み8が形成されている。
袋体4は、開封後にその開封端近傍を折り曲げることにより簡易に再封止可能である。袋体4の表面には、再封止状態保持部材5が設けられている。再封止状態保持部材5は、袋体4の開封端近傍の折り曲げに伴って変形してその変形後の形状を維持することにより袋体4を再封止状態(図2(D)参照)に保つ。再封止状態保持部材5は、袋体4の表面に接着により固定されている。再封止状態保持部材5は、自在に変形してその変形後の形状を維持する金属製のワイヤ6を、帯状の柔軟な樹脂膜7で被覆してなる。この例では、再封止状態保持部材5は、袋体4の開封端近傍の二カ所に、袋体4の開封側端縁4aに対して各々垂直に且つ互いに平行に配置されている。
【0023】
つぎに、このアクリル系接着剤除去用品1を使用して、液晶モジュールのリワーク工程において液晶パネルのガラス基板の表面に付着しているアクリル系接着剤を除去するアクリル系接着剤除去処理方法について、図2を参照して説明する。
Step1:図2(A)に示すように、未開封のアクリル系接着剤除去用品1を用意する。
Step2:図2(B)に示すように、アクリル系接着剤除去用品1の容器3を開封する。容器3の開封は、袋体4を切り込み8から封止部9に沿って裂くことにより容易に行うことができる。
Step3:図2(C)に示すように、袋体4からワイパ2を一枚摘み出す。
Step4:図2(D)に示すように、袋体4の開封端近傍を折り曲げ、再封止状態保持部材5の部分を押圧することにより袋体4を再封止(簡易封止)する。
Step5:図2(E)に示すように、液晶パネル10のガラス基板11の表面に付着しているアクリル系接着剤12をワイパ2を使用して手作業で拭き取る。
【0024】
この方法によれば、液晶パネル10のガラス基板11の表面に付着しているアクリル系接着剤12をワイパ2を使用して手作業で効率良く拭き取ることができる。
【0025】
ワイパ2には、酢酸エチル80〜90質量%及び二塩基酸エステル(グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルからなる混合液)10〜20質量%からなる溶剤が予め適量含浸されているので、常に必要最小限の一定の溶剤使用量でアクリル系接着剤12の除去処理を行うことができる。例えば、寸法17.8センチメートル角のワイパの場合、1枚当たりの溶剤使用量をほぼ正確に10ミリリットルに規定することができる。これにより、溶剤使用量を従来よりも大幅に削減できる。従来、寸法17.8センチメートル角のワイパの場合の1枚当たりの溶剤使用量は約25ミリリットルであったので、例えば、1月にワイパを120,000枚使用する作業場においては、1月当たり約1,800リットルもの溶剤を節約できる計算になる。
【0026】
溶剤に占める酢酸エチルの成分量が80〜90質量%に規定されていることにより、アクリル系接着剤12に対する安定した高い溶剤性能を発揮する。これにより、ガラス基板一枚当たりに要する作業時間を極力短くできるとともに、作業者に要求される技能レベルを緩和できる。リワーク工程における作業ミスによる液晶パネル10のスクラップ発生率も減少する。
溶剤に占める二塩基酸エステル(グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルからなる混合液)の成分量が10〜20質量%に規定されていることにより、酢酸エチルによるアクリル系接着剤12に対する安定した高い溶剤性能を損なうことなく、溶剤に含まれる酢酸エチルの揮発を効果的に抑制できる。
【0027】
従来のリワーク工程においては、アクリル系接着剤12の拭き取り作業を行うに際し、溶剤に使用する薬液を大型コンテナからディスペンサボトルへ注入し混合する作業が行われていたため溶剤及びそれに使用する薬液の取扱性が悪く、また揮発性の高い薬液を使用するため高い安全対策が必要とされてきたが、この方法によれば、揮発性を抑えた一定の成分の溶剤を予め適量含浸したワイパ2を袋体4から摘み出して直ぐに拭き取り作業を行うことができるので、溶剤及びそれに使用する薬液の取扱いに煩わされることなく、安全に作業を行うことができる。複数の薬液を混合して溶剤を造る作業が不要であることによる利便性及び安全面でのメリットは計り知れない。
また、従来は溶剤とワイパをそれぞれ別個に保管しておく必要があったのに対し、本発明のアクリル系接着剤除去用品1は一カ所に保管できるため、保管場所の確保に要するコストを従来と比較して大幅に低減できる。
【0028】
なお、上記の実施形態では、ワイパ2として、ポリエステル80質量%及びナイロン20質量%を含む分割繊維からなる布を使用しているが、分割繊維を構成するポリエステル及びナイロンの割合はこれに限定されない。また、ワイパ2の繊維として、ポリエステル、ナイロンといった複数種類の繊維要素からなる分割繊維を使用することが望ましいが、ポリエステルからなる単一成分の分割繊維を使用することも可能である。また、分割繊維の代わりに、分割されていない単純な構造のポリエステル繊維を使用することも可能である。
また、上記の実施形態では、ワイパ2に使用する布として編物を使用したが、織物を使用することも可能である。
また、上記の実施形態では、ワイパ2が一容器3当たり30枚収容されているが、一容器3当たりのワイパ2の収容枚数は任意である。
【符号の説明】
【0029】
1 アクリル系接着剤除去用品
2 ワイパ
3 容器
4 袋体
5 再封止状態保持部材
11 ガラス基板(被処理対象物)
12 アクリル系接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸エチル80〜90質量%及び二塩基酸エステル10〜20質量%からなる溶剤を含浸させたワイパと当該ワイパを気密に収容した容器とを有するアクリル系接着剤除去用品。
【請求項2】
前記二塩基酸エステルは、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルの混合液である請求項1のアクリル系接着剤除去用品。
【請求項3】
前記ワイパは、ポリエステル繊維からなる布である請求項1のアクリル系接着剤除去用品。
【請求項4】
前記ワイパは、ポリエステル80質量%及びナイロン20質量%を含む分割繊維からなる布である請求項1のアクリル系接着剤除去用品。
【請求項5】
前記布は、編物又は織物である請求項3又は4のアクリル系接着剤除去用品。
【請求項6】
前記容器は、開封後にその開封端近傍を折り曲げることにより再封止可能な耐溶剤性の袋体と、当該袋体の開封端近傍の折り曲げに伴って変形してその変形後の形状を維持することにより当該袋体を再封止状態に保つ再封止状態保持部材と、を備えている請求項1のアクリル系接着剤除去用品。
【請求項7】
前記再封止状態保持部材は、前記袋体の表面に固定されている請求項6のアクリル系接着剤除去用品。
【請求項8】
被処理対象物に付着しているアクリル系接着剤を手作業で拭き取り除去するアクリル系接着剤除去処理方法であって、
酢酸エチル80〜90質量%及び二塩基酸エステル10〜20質量%からなる溶剤を含浸させたワイパと、当該ワイパを気密に収容した容器とを有するアクリル系接着剤除去用品を用意するステップと、
前記容器から前記ワイパを取り出すステップと、
当該ワイパを用いて被処理対象物に付着しているアクリル系接着剤を手作業で拭き取るステップと、を含む、アクリル系接着剤除去処理方法。
【請求項9】
前記被処理対象物は、液晶パネルのガラス基板である請求項8のアクリル系接着剤除去処理方法。
【請求項10】
前記二塩基酸エステルは、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルの混合液である請求項8のアクリル系接着剤除去処理方法。
【請求項11】
前記ワイパは、ポリエステル繊維からなる布である請求項8のアクリル系接着剤除去処理方法。
【請求項12】
前記ワイパは、ポリエステル80質量%及びナイロン20質量%を含む分割繊維からなる布である請求項8のアクリル系接着剤除去処理方法。
【請求項13】
前記布は、編物又は織物である請求項11又は12のアクリル系接着剤除去処理方法。
【請求項14】
前記容器は、開封後にその開封端近傍を折り曲げることにより簡易に再封止可能な袋体と、当該袋体の開封端近傍の折り曲げに伴って変形してその変形後の形状を維持することにより当該袋体を再封止状態に保つ再封止状態保持部材と、を備えている請求項8のアクリル系接着剤除去処理方法。
【請求項15】
前記再封止状態保持部材は、前記袋体の表面に固定されている請求項14のアクリル系接着剤除去処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−160961(P2011−160961A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26606(P2010−26606)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(591145483)原田産業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】