説明

アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂を含む位相差フィルム

【課題】光学特性、生産性、耐熱性に優れるIPSモ−ドをはじめとする各種方式の液晶表示装置に用いられる位相差フィルムを得ることを目的とする。
【解決手段】アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂を含む位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性、生産性、耐熱性、紫外線吸収性に優れる位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムとは、レタデ−ション(位相差)を有し、光の偏光状態を変換する機能をもつフィルムであり、任意の偏光を他の任意の偏光状態に変えることにより機能を発現するフィルムである。例えば、液晶ディスプレイにおける液晶分子は、光学異方性を持つため、液晶セルを光が通過する時に直線偏光が維持されず、光が漏れ、斜め方向から見たときのコントラスト低下や色相の変化のような表示上の問題を生じる。これを改善するために位相差フィルムが用いられる。つまり、この場合は液晶セル通過で直線偏光からずれた光を、直線偏光に戻すことにより機能を発現している。
【0003】
ところで、最近の液晶テレビに代表される薄型ディスプレイ市場の拡大に伴い、より鮮明な画像をより低価格で得たいという要求が高まっている。この目的のために実用化され、今後も大いに期待されているのがIPSモ−ドの液晶表示装置である(特許文献1)。
IPSモ−ドは、他のモ−ドと異なり、電界の印加が基板にほぼ平行に行われることからIPS(In− Plane Switching)モ−ドと呼ばれる。IPSモ−ドの液晶表示装置は、非駆動状態において液晶分子が基板面に対して略平行なホモジニアス配向を有するため、光は液晶層を、その偏光面をほとんど変化させること無く通過し、その結果、基板の上下に偏光板を配置することにより非駆動状態でほぼ完全な黒表示が可能である。
【0004】
しかし、IPSモ−ドを利用した液晶表示装置であっても、特定の斜め方向から見た場合に、階調反転、着色、コントラストの低下が生じ、その方向では視野角が小さくなることがある。そのため、他の液晶表示方式と同様に、位相差フィルムを用いて光学補償を行い視野角を拡大することが必要である。
【0005】
上述のように、IPSモ−ドでは、液晶分子が基板面に対して略平行なホモジニアス配向を有するために、その光学補償には基板面に対して垂直な方向に屈折率の高いフィルムを用いることが有効である(例えば、特許文献4の図3、および「ディスプレイ用光学フィルム」(シ−エムシ−出版、2004)104ペ−ジ参照)。
【0006】
IPSモ−ド液晶表示装置以外でも、表示面に対して垂直な方向に屈折率の高いフィルムを用いることが有効である場合がある。
例えば、特許文献6には、VAモ−ド液晶表示装置において、負の複屈折性を有するポリマ−であるポリスチレンを利用して基板面に対して垂直な方向に高い屈折率を有する位相差フイルム(ネガティブAプレ−ト)を作製し、光学補償を行うことが記載されている
また、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリカ−ボネ−ト、ポリサルファン、ポリエ−テルサルフォンに代表されるような正の固有複屈折を有する樹脂を液晶セル基板に使用した液晶表示装置(特許文献7)においては、ガラスを基板に使用したものとは異なり、基板自体が光学異方性を有するため、これを光学補償する必要が生じる。具体的には、このような基板は、基板面と垂直な方向の屈折率より、基板面と平行な面内の方向に大きな屈折率を持つので、表示装置の表示面に対して垂直な方向に屈折率の高いフィルムを用いることが有効となる。
【0007】
このために、IPSモ−ドの液晶表示装置をはじめとする各種方式の液晶表示装置に用いる位相差フィルムにおいては、負の複屈折性を有する材料を用いたり、正の複屈折性を有する材料に特殊な処理を施したりして、基板面に対して垂直な方向に屈折率を高める工夫が施されている。
【0008】
例えば、IPSモ−ドの液晶表示装置に用いられる位相差フィルムの製造方法としては、ポリカ−ボネ−トフィルムやノルボルネンなどのシクロオレフィン系フィルム等の正の複屈折性を有するフィルムを用い、これに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下に延伸処理及び/又は収縮処理して傾斜配向させる方法が知られている(特許文献2)。
しかしながら、この方法では単一のフィルムの処理工程だけでなく、熱収縮フィルムの接着工程や剥離工程が入るので生産性に問題がある。つまり、正の複屈折性の材料を用いる場合は、生産性に劣るという欠点があった。
【0009】
また、IPSモ−ドの液晶表示装置に用いるために負の複屈折性の材料を利用することも試みられている。例えば、負の光学異方性を有する炭酸ストロンチウム等の微粒子を用いたり(特許文献3)、負の固有複屈折を有するポリマ−としてスチレン系ポリマ−を用いる方法(特許文献4)が考案されている。前者は、負の複屈折性(特に厚み方向の屈折率を高くするとき)を出すために、多量の微粒子を配合する必要があるため、樹脂の機械物性が低下したり、微粒子の多量配合の工程で、取り扱い上生産性に問題があった。また、後者はスチレン系樹脂のため光弾性係数の絶対値が高いため、表示装置に用いた場合は温度、湿度の変化により画質が悪くなったり、安定しないという問題点があった。
【0010】
同様に、負の固有複屈折を有するポリマ−としてスチレン系樹脂を用いる方法としては、スチレン系樹脂およびポリカ−ボネ−ト系樹脂を含有する高分子フィルムを延伸して用いる方法(特許文献5)も考案されているが、この方法では基本的に2つの樹脂が完全相溶系でないため、ディスプレイの使用環境下で相分離を起こし透明性、光学的安定性で問題があった。また、光弾性係数も実用上、十分なレベルではなかった。
【0011】
ところで、位相差フィルムは、偏光板保護フィルムを兼ねて用いられることもあり(特許文献8)、従来偏光板保護フィルムとして多く用いられているトリアセチルセルロ−ス(TAC)と同等の紫外線吸収性が求められることがある。
【0012】
このような状況から、光学特性、生産性、紫外線吸収性に優れる位相差フィルムが望まれている。つまり、別フィルムの接着・剥離といった特殊な処理や、特別な微粒子の添加を行うことなく、フィルムを単純に延伸するだけで製造でき、相分離を起こさない、光弾性係数の絶対値が小さく、負の複屈折性を有する位相差フィルムが求められている。
【0013】
【特許文献1】特開平7−261152号公報
【特許文献2】特開2006−106180号公報
【特許文献3】特開2005−156863号公報
【特許文献4】特開平10−54982号公報
【特許文献5】特開2005−31621号公報
【特許文献6】特表2006−514754号公報
【特許文献7】特開昭60−177320号公報
【特許文献8】特開2006−58825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、光学特性、生産性、耐熱性、紫外線吸収性に優れる位相差フィルムを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、このような位相差フイルムを利用して、各種の液晶表示装置における表示の安定性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂を含むフィルムは、特殊な処理を施さなくても、光弾性係数の絶対値が小さく、負の複屈折性を有し、しかも、耐熱性に優れ、相分離も起こさないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、光学特性、生産性、耐熱性、紫外線吸収性に優れ、各種方式の液晶表示装置に好適に使用できる位相差フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.アクリル系樹脂の説明
本発明において、アクリル系樹脂とはアクリル系単量体を50質量%以上含む樹脂をいう。ここで、アクリル系単量体とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体をいう。
【0018】
アクリル系樹脂の具体例としては、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルより選ばれる1種以上の単量体を重合したもの等が挙げられ、これらの単独重合体であっても他の単量体との共重合体であってもよい。
これらの中でも、メタクリル酸メチルの単独重合体またはメタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体が好ましい。
【0019】
メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、他のメタクリル酸アルキルエステル類、アクリル酸アルキルエステル類;スチレン及びo−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類等が挙げられる。
これらは一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0020】
これらメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体の中でも、特にアクリル酸アルキルエステル類は耐熱分解性に優れ、これを共重合させて得られるメタクリル系樹脂の成形加工時の流動性が高いため好ましい。
メタクリル酸メチルに、アクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の共重合割合は、耐熱分解性の観点から0.1質量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15質量%以下であることが好ましい。0.2質量%以上14質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以上12質量%以下であることがとりわけ好ましい。
【0021】
アクリル酸アルキルエステル類の中でも、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルは、0.1〜1質量%といった少量でメタクリル酸メチルと共重合させても前述の成形加工時の流動性改良効果が著しく得られるため、好ましい。
【0022】
本発明においては、アクリル系樹脂として、耐熱アクリル系樹脂を用いることができる。耐熱アクリル系樹脂の具体例としては、メタクリル酸エステルおよび/またはアクリル酸エステルと、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類との共重合体等が挙げられる。
【0023】
好ましい耐熱アクリル系樹脂としては、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体が挙げられ、特に、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が40〜90質量%、無水マレイン酸単位が3〜20質量%、スチレン単位が7〜40質量%、かつ無水マレイン酸単位の共重合割合に対するスチレン単位の共重合割合(スチレン単位/無水マレイン酸単位)が1〜3倍であることが耐熱性、光弾性係数の点から好ましい。さらに好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が40〜90質量%、無水マレイン酸単位が5〜19質量%、スチレン単位が10〜40質量%であり、とりわけ好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が45〜88質量%、無水マレイン酸単位が6〜15質量%、スチレン単位が16〜40質量%である。
このような耐熱アクリル系樹脂の製造には、特公昭63−1964等に記載されている方法等を用いることができる。
【0024】
本発明で好適に用いることができるアクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル/無水マレイン酸/スチレン共重合体であり、成形加工時の流動性と耐熱性の両方をバランスよく兼ね備えているという点で、特に、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体が好ましい。
【0025】
本発明のアクリル系樹脂には、分子量、組成等が異なる2種以上のものを同時に用いることができる。
【0026】
アクリル系樹脂の重量平均分子量は5万〜20万であることが好ましい。重量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上が好ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下が好ましい。さらに好ましい範囲は7万〜15万である。
また、本発明においてはアイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
【0027】
アクリル系樹脂を製造する方法として、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、光学用途としては微小な異物の混入はできるだけ避けるのが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が好ましい。
溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調製した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0028】
重合反応に用いられる開始剤としては、ラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えばアゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパ−オキサイド、ラウロイルパ−オキサイド、t−ブチルパ−オキシ−2−エチルヘキサノエ−ト等の有機過酸化物を用いることができる。
特に、90℃以上の高温下で重合を行う場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤等が好ましい。具体的には1,1−ビス(t−ブチルパ−オキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパ−オキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパ−オキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。
これらの開始剤は、0.005〜5wt%の範囲で用いられることが好ましい。
【0029】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤としては、ラジカル重合において用いる任意のものが使用でき、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコ−ル酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。
これらの分子量調節剤は、アクリル系樹脂の重合度が好ましい範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
【0030】
2.スチレン系樹脂の説明
本発明におけるスチレン系樹脂とは、スチレン系単量体を50質量%以上含む樹脂をいう。ここで、スチレン系単量体とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体をいう。
【0031】
スチレン系単量体の具体例としては、スチレンのほかo−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレン等のビニル芳香族化合物単量体が挙げられ、代表的なものはスチレンである。
【0032】
また、スチレン系樹脂にはスチレン系単量体成分に他の単量体成分を共重合したものも含まれる。共重合可能な単量体としては、メチルメタクリレ−ト、シクロヘキシルメタクリレ−ト、メチルフェニルメタクリレ−ト、イソプロピルメタクリレ−ト等のアルキルメタクリレ−ト;メチルアクリレ−ト、エチルアクリレ−ト、ブチルアクリレ−ト、2−エチルヘキシルアクリレ−ト、シクロヘキシルアクリレ−ト等のアルキルアクリレ−ト等の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン等が挙げられ、これらの2種以上を共重合することも可能である。
【0033】
本発明で好適に用いることができるスチレン系樹脂は、耐熱性が高いという理由から、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体である。
また、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体は、アクリル系樹脂との相溶性が高いため、透明性が高く、使用中に相分離を起こして透明性が低下することがないフィルムを得られることからも好ましい。このような観点からは、特に、アクリル系樹脂としてメタクリル酸メチルを単量体成分として含む重合体を用いる場合に好ましい。
【0034】
スチレン−アクリロニトリル共重合体の場合、共重合体中のアクリロニトリルの共重合体割合は1〜40質量%であることが好ましい。さらに好ましい範囲は1〜30質量%であり、とりわけ好ましい範囲は1〜25%である。共重合体中のアクリロニトリルの共重合体割合が1〜40質量%の場合、透明性に優れるため好ましい。
スチレン−メタクリル酸共重合体の場合、共重合体中のメタクリル酸の共重合体割合は0.1〜50質量%であることが好ましい。より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1〜30質量%である。共重合体中のメタクリル酸の共重合体割合が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%以下の範囲であれば透明性に優れるので好ましい。
スチレン−無水マレイン酸共重合体の場合、共重合体中の無水マレイン酸の共重合体割合は0.1〜50質量%であることが好ましい。より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1質量%〜30質量%である。共重合体中の無水マレイン酸含量が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%以下の範囲であれば透明性に優れるので好ましい。
【0035】
これらの中でも、耐熱性の観点から、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体が特に好ましい。
【0036】
スチレン系樹脂として、組成、分子量等が異なる複数種類のものを併用することができる。
スチレン系樹脂は、公知のアニオン、塊状、懸濁、乳化または溶液重合方法により得ることができる。また、スチレン系樹脂においては、共役ジエンやスチレン系単量体のベンゼン環の不飽和二重結合が水素添加されていてもよい。水素添加率は核磁気共鳴装置(NMR)によって測定できる。
【0037】
3.位相差フィルムの材料となるアクリル系樹脂とスチレン系樹脂を含む樹脂組成物の説明
本発明の位相差フィルムは、アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂を含む樹脂組成物を用いて製造される。このときのアクリル系樹脂の割合は、光弾性係数、耐熱性、レタデ−ション制御の観点から、アクリル系樹脂とスチレン系樹脂の合計量100質量部に対して、アクリル系樹脂を0.1〜99.9質量部含有することが好ましく、1〜90質量部であることがさらに好ましく、5〜85質量部であることがとりわけ好ましい。
【0038】
本発明の位相差フィルムの材料となる樹脂組成物には、その効果を損なわない範囲で、アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂以外の他の樹脂成分を加えることができる。このときの、他の樹脂成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエ−テルエ−テルケトン、ポリエステル、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエ−テルイミド、ポリアセタ−ル等の熱可塑性樹脂;およびフェノ−ル樹脂、メラミン樹脂、シリコ−ン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種以上を用いることができる。
また、その他の樹脂成分の割合は、アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂の合計量100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。
【0039】
さらに、本発明の位相差フィルムの材料となる樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。二酸化珪素等の無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸,ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダ−ドフェノ−ル系酸化防止剤、りん系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダ−ドアミン系光安定剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;紫外線吸収剤、その他添加剤、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
これら添加剤は、アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂の合計量100質量部に対して0.01質量部以上50質量部以下添加することが好ましい。
【0040】
添加剤の20℃における蒸気圧(P)は、1.0×10-4Pa以下であることが成形加工性に優れるため好ましい。さらに好ましい範囲は蒸気圧(P)が1.0×10-6Pa以下であり、とりわけ好ましい範囲は蒸気圧(P)が1.0×10-8Pa以下である。ここで、成形加工性に優れるとは、例えば、フィルム成形時に、添加剤のロ−ルへの付着が少ないこと等を示す。添加剤がロ−ルへ付着すると、例えば成形体表面へ付着し外観、光学特性を悪化させるため、光学用材料として好ましくないものとなる。
【0041】
添加剤の融点(Tm)は、80℃以上であることが成形加工性に優れるため好ましい。さらに好ましい範囲は融点(Tm)が130℃以上であり、とりわけ好ましい範囲は融点(Tm)が160℃以上である。
【0042】
添加剤を23℃から260℃まで20℃/分の速度で昇温した場合の添加剤の質量減少率は、50%以下であることが、成形加工性に優れるため好ましい。さらに好ましい範囲は質量減少率が15%以下であり、とりわけ好ましい範囲は質量減少率が2%以下である。
【0043】
上記のような添加剤の中でも、特に、紫外線吸収剤は、これを添加した樹脂組成物の光弾性係数の絶対値を小さくする効果があり好ましい。
ただし、紫外線吸収剤を多量に添加すると、樹脂組成物の光弾性係数の絶対値が大きくなるため好ましくない。したがって、紫外線吸収剤の添加量は、アクリル系樹脂とスチレン系樹脂の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜2質量部であり、とりわけ好ましくは0.1〜1.5質量部以下である。
なお、紫外線吸収剤の含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)によりプロトンNMRを測定し、ピ−クシグナルの積分値の比から求める方法や、または良溶媒を用い樹脂から抽出後、ガスクロマトグラフ(GC)で測定する方法等により定量できる。
【0044】
また、本発明の位相差フィルムは、偏光板保護フィルムとしての機能を兼ねることもできるが、この場合、従来偏光板保護フィルムとして多く用いられているトリアセチルセルロ−ス(TAC)と同等の紫外線吸収性が求められる(例えば、KONIKA TECHNICAL REPORT VOL.16(2003)によれば、偏光板保護フイルムの紫外線透過率に関し、波長380nmの光における透過率が10%以下であることが必要であるとされており、TACの測定結果は5%であると記載されている。)ので、紫外線吸収剤を添加することが有効である。
このときの添加量は、紫外線吸収効果と光学特性、機械特性、耐熱性の低下とのバランスから、アクリル系樹脂とスチレン系樹脂の合計100質量部に対して、0.1質量〜5質量部であることが好ましい。
なお、偏光板保護フイルムとしての機能を兼ねる場合、本発明の位相差フィルムは偏光膜等(例えば、ヨウ素や染料で染色されたポリビニルアルコ−ルの延伸フィルムなど)に直接貼り付ければよい。
【0045】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエ−ト系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノ−ル系化合物、オキサゾ−ル系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレ−ト系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられる。好ましくは、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。これらを単独で用いても、2種以上併用して用いてもよい。
【0046】
紫外線吸収剤の20℃における蒸気圧(P)は、他の添加剤と同様に、1.0×10−4Pa以下であることが、成形加工性に優れるため好ましい。さらに好ましくは、蒸気圧(P)が1.0×10−6Pa以下であり、とりわけ好ましくは、蒸気圧(P)が1.0×10−8Pa以下である。
紫外線吸収剤の融点(Tm)は、他の添加剤と同様に、80℃以上であることが、成形加工性に優れるため好ましい。さらに好ましいくは融点(Tm)が130℃以上であり、とりわけ好ましくは融点(Tm)が160℃以上である。
また、紫外線吸収剤を23℃〜260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の質量減少率は、他の添加剤と同様に、50%以下であることが、成形加工性に優れるため好ましい。さらに好ましい範囲は質量減少率が15%以下であり、とりわけ好ましい範囲は質量減少率が2%以下である。
【0047】
本発明における位相差フィルムの材料となる樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が利用できる。例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリ−ミキサ−、ブラベンダ−、各種ニ−ダ−等の溶融混練機を用いて、樹脂成分、必要に応じて耐加水分解抑制剤や上記その他の成分を添加して溶融混練して製造することができる。
【0048】
本発明の位相差フィルムの材料となる樹脂組成物は、その光弾性係数の絶対値が0Pa-1以上、5.0×10-12Pa-1以下であることが好ましい。光弾性係数とは、外力による複屈折の変化の生じやすさを表す係数で、これに関しては種種の文献に記載がある(例えば化学総説、No.39、1998(学会出版センタ−発行))。本発明では下式により定義する。
C=Δn/σ Δn=n1−n2
(式中、C:光弾性係数、σ:伸張応力[Pa]、Δn:応力付加時の平面方向の複屈折、n1:伸張方向と平行な方向に偏光面を有する光に対する屈折率、n2:伸張方向と垂直な方向に偏光面を有する光に対する屈折率)
【0049】
光弾性係数の絶対値がゼロに近いほど外力による複屈折の変化が小さいことを示しており、各用途において設計された複屈折の変化が小さいことを意味し、光学特性に優れることになる。
【0050】
光弾性係数の絶対値は0以上、4.5×10-12Pa-1以下であることがさらに好ましく、0以上、4.0×10-12Pa-1以下であることがとりわけ好ましい。
【0051】
本発明の位相差フィルムの材料となる樹脂組成物においては、このような光弾性係数のコントロ−ルは、配合される樹脂成分の配合比により行うことができる。つまり、樹脂組成物のアクリル系樹脂およびスチレン系樹脂の配合比によりコントロ−ルできる。
【0052】
4.位相差フィルムの成形方法の説明
本発明の位相差フィルムの成形方法は、特に制限されるものではなく、射出成形、シ−ト成形、ブロ−成形、インジェクションブロ−成形、インフレ−ション成形、押出成形、発泡成形、キャスト成形等、公知の方法でフィルムに成形することが可能であり、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。中でも、押出成形、キャスト成形が好ましく用いられる。このとき例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを押出成形することができる。押出成形により成形品を得る場合は、事前に各種樹脂成分、添加剤等を溶融混練した材料を用いることもできれば、押出成形時に溶融混練を経て成形することもできる。また、各種樹脂成分に共通な溶媒、例えばクロロホルム、二塩化メチレン等の溶媒を用いて、各種樹脂成分を溶解後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形することもできる。
【0053】
さらに必要に応じて、未延伸フィルムを機械的流れ方向に一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向に一軸延伸することができ、またロ−ル延伸とテンタ−延伸の逐次二軸延伸法、テンタ−延伸による同時二軸延伸法、チュ−ブラ−延伸による二軸延伸法等によって延伸することにより二軸延伸フィルムを製造することもできる。
【0054】
5.位相差フィルムの光学特性の説明
本発明の位相差フィルムは、フィルム面に対して垂直な方向の屈折率が高いことが好ましい。すなわち、その厚み方向のレタデ−ション(Rth)が、負の値であることが好ましい。これは、例えば、前述のようにIPSモ−ドの液晶表示装置では、液晶分子が基板面に対して略平行なホモジニアス配向を有するために、その光学補償にフィルム面に対して垂直な方向に屈折率の高いフィルムを用いることが有効となるためである。
【0055】
具体的には、本発明の位相差フィルムの厚み方向のレタデ−ション(Rth)は、−2000〜−10nmであることが好ましく、さらに好ましくは−1500〜−20nm、とりわけ好ましくは−1000〜−30nmである。
【0056】
本発明において、平面方向のレタデ−ション(Re)、厚み方向のレタデ−ション(Rth)、Nzを次のように定義する。
Re=(nx−ny)×d、
Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d
Nz=(nx−nz)/|(nx−ny)|
(式中、nx:フイルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フイルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フイルム厚み方向の主屈折率、d:フイルムの厚み(nm)である。)
【0057】
このようなレタデ−ションを利用することにより、本発明の位相差フィルムは、IPSモ−ドをはじめとする各種方式の液晶表示装置用光学補償フィルム、1/4波長板、1/2波長板等の位相差フィルムとして活用される。
【0058】
また、液晶表示装置の位相差フィルムには、液晶セルの光学補償のみならず、偏光板、その他の部材の光学補償を行うことで、画質をさらに高めることが要求される。このため、そのレタデ−ションは、広い範囲でコントロ−ルできることが望まれる。
【0059】
位相差フィルムのレタデ−ションのコントロ−ルは通常、フィルムの延伸条件を制御することにより行われる。これは、レタデ−ションが、フィルムの延伸による分子の配向度合いとフィルム自体の厚みに起因するからである。Reを10nm以上、Rthを−10nm以下にするときには、延伸倍率の高い一軸延伸や、機械的流れ方向および機械的流れ方向に直行する方向の延伸倍率が大きく異なる二軸延伸が好ましく用いられる。一軸延伸の場合は、延伸倍率を10%以上とすることが好ましく、30%以上が更に好ましく、50%以上が最も好ましい。二軸延伸の場合は、機械的流れ方向(MD方向)と機械的流れ方向に直行する方向(TD方向)の延伸倍率の比(MD方向/TD方向)を、0.67以下あるいは1.5以上とすることが好ましく、0.55以下あるいは1.8以上が更に好ましく、0.5以下あるいは2以上が最も好ましい。
【0060】
上記のような延伸倍率は、目的とするレタデ−ションを得るときの目安であり、目的とするレタデ−ションを得るために様々な延伸条件を適用することが可能である。但し、耐熱性、強度の観点からは、延伸倍率は機械的流れ方向および機械的流れ方向に直行する方向の少なくともどちらか一方向に0.1%以上1000%以下であることが好ましく、0.2%以上600%以下であることがさらに好ましく、0.3%以上300%以下であることがとりわけ好ましい。この範囲に設計することにより、耐熱性、強度で好ましい位相差フィルムが得られる。
【0061】
本発明において、位相差フィルムの厚さは、ハンドリング性の観点から0.1μm以上であることが好ましく、当該技術分野で求められている薄肉化の観点から300μm以下であることが好ましい。そして、同様の理由から0.2〜250μmの範囲がさらに好ましく、0.3〜200μmの範囲がとりわけ好ましい。
【0062】
本発明においては、位相差フイルムは、屈折率分布がny<nx=nzを満足する負の一軸性光学素子であることが好ましい。理想的には、上記の屈折率分布がny<nx=nzを満足する負の一軸性光学素子は、面内の一方向に光軸を有する。なお、本発明において、nx=nzとは、nxとnzが完全に同一である場合だけでなく、nyとnzとが実質的に同一である場合も包含する。ここで「nxとnzとが実質的に同一である場合」とは、nx−nz(=Nz×Re/d)の絶対値が1.0×10-3以下であることをいう。なお、Nz、Re、dの定義は前述のとおりである。
このような関係を満足する位相差フイルムは、ネガティブAプレ−トと呼ばれ、偏光板や、偏光板と液晶セルの間に配置される構成部材の位相差値に起因して生じる液晶パネル(液晶表示装置)の黒表示における斜め方向の光漏れを、小さくするために用いられる。
【0063】
本発明の位相差フイルムをネガティブAプレ−トとして用いる場合、面内レタデ−ション(Re)は、40nm〜1100nmであり、好ましくは40nm〜500nmであり、より好ましくは50nm〜300nmである。上記の範囲にすることにより、各光学素子の持つ機能が相乗効果的に発揮され、液晶表示装置の斜め方向のコントラスト比を高め、斜め方向のカラ−シフト量を小さくすることができる。
【0064】
本発明の位相差フイルムをネガティブAプレ−トとして用いる場合、好ましいNz係数は、−0.5以上0以下であり、さらに好ましくは−0.4以上0以下であり、とりわけ好ましくは−0.3以下0以下である。理想のネガティブAプレ−トのNz係数は0であり、Nz係数が0に近いほどより液晶表示装置の斜め方向のコントラスト比を高め、斜め方向のカラ−シフト量を小さくすることができる。
【0065】
また、本発明においては、位相差フイルムがnx=ny<nzを満足するものであることも好ましい。このような関係を満足する位相差フイルムは、ポジティブCプレ−トと呼ばれる。負の一軸軸性光学素子をいう。理想的には、上記の屈折率分布がnx=ny<nzを満足する負の一軸性光学素子は、面内の一方向に光軸を有する。なお、本発明において、nx=nyとは、nxとnyが完全に同一である場合だけでなく、nxとnyとが実質的に同一である場合も包含する。ここで「nxとnyとが実質的に同一である場合」とは、nx−ny=(Re/d)の絶対値が1.0×10-3以下であることをいう。なお、Re、dの定義は前述のとおりである。
【0066】
本発明の位相差フイルムをポジティブCプレ−トとして用いる場合、面内レタデ−ション(Re)は、40nm未満であり、好ましくは20nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。なお、ポジティブCプレ−トの面内レタデ−ション(Re)の理論上の限界値は0nmである。
【0067】
本発明の位相差フイルムをポジティブCプレ−トとして用いる場合、好ましい厚み方向レタデ−ション(Rth)は、−20nm以下であり、さらに好ましくは−60nm以下であり、とりわけ好ましくは−90nm以下である。上記の範囲にすることにより、位相差フイルムの持つ機能が相乗効果的に発揮され、液晶表示装置の斜め方向のコントラスト比を高め、斜め方向のカラ−シフト量を小さくすることができる。
【0068】
6.偏光板保護フイルムの説明
本発明の位相差フイルムは、高い機械強度を有するので、各種光学素子用の保護フィルムとして用いることもできる。特に、本発明の位相差フイルムは、光学的に異方性を持っているため、偏光板保護フイルムとして好適に用いることができる。以下に、本発明の位相差フイルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合について説明する。
【0069】
本発明の位相差フィルムを偏光板保護フイルムとして偏光フィルムに積層することにより偏光板を製造することができる。本発明においては、偏光フィルムの一方の面に位相差フィルムを積層し、他方の面に光学的に等方性を持つ保護フイルムを積層することが好ましい。
通常、保護フィルムは、偏光フィルムの保護を目的としているので、トリアセチルセルロ−ス系フィルムのような光学的に等方性を持つフィルムが用いられている。
これに対し、本発明においては、一方の面に本発明の光学的に異方性を持つ位相差フィルムを保護フイルムとして積層し、他方の面に光学的に等方性を持つ保護フィルムを積層する。これにより、一方の面の保護フィルムが位相差フィルムを兼ねるので、通常は偏光板の保護フィルムの上に貼り付けられるポリカ−ボネ−ト樹脂やシクロオレフィン系の樹脂などからなる位相差フィルムを省き、偏光板の薄肉化と生産性の向上を図ることができる。
また、保護フィルムの上に別の位相差フィルムを接着する工程がないので生産性に優れる。
【0070】
一方の面に積層する相差フイルムとして、Reが10nm以上の位相差フィルムを使用する場合は、1/4波長板、1/2波長板、その他位相差フィルムとしての機能と保護フイルムとしての機能を併せもつことになる
【0071】
また、偏光フィルムの他方の面に積層する光学的に等方性を持つ保護フィルムのReは小さい方が好ましく、好ましくはReは10nm以下、より好ましくは8nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。
【0072】
本発明においては、他方の面に積層する光学的に等方性を持つ保護フィルムとして、アクリル系樹脂を含み、スチレン系樹脂を含まない樹脂組成物を成形して得られるフィルムを用いることが好ましい。なお、本発明において、「アクリル系樹脂を含み、スチレン系樹脂を含まない樹脂組成物」は、アクリル系樹脂も含む。
ここで、アクリル系樹脂の定義は、前述のとおりである。
【0073】
アクリル系樹脂の具体例としては、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルより選ばれる1種以上の単量体を重合したものが挙げられる。
【0074】
これらの中でも、メタクリル酸メチルの単独重合体またはメタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体が特に好ましい。
メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、他のメタリル酸アルキルエステル類、アクリル酸アルキルエステル類、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類等が挙げられる。これらは一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0075】
これらメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体の中でも、特に、アクリル酸アルキルエステル類は、耐熱分解性に優れ、これを共重合させて得られるメタクリル系樹脂の成形加工時の流動性が高いため好ましい。
メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15質量%以下であることが好ましい。0.2〜14質量%であることがさらに好ましく、1〜12質量%であることがとりわけ好ましい。
アクリル酸アルキルエステル類としては、アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルが、少量メタクリル酸メチルと共重合させるだけでも前述の成形加工時の流動性の改良効果が著しく得られるため好ましい。
【0076】
アクリル系樹脂の質量平均分子量は、5万〜20万であることが好ましい。質量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上であることが好ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下であることが好ましい。さらに好ましい範囲は7万〜15万である。また、本発明においてはアイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
【0077】
アクリル系樹脂を製造する方法として、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、光学用途としては微小な異物の混入はできるだけ避けることが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が好ましい。具体的には、特公昭63−1964号公報等に記載されている方法等を用いることができる。
溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調整した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0078】
重合反応に用いられる開始剤としては、ラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えばアゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパ−オキサイド、ラウロイルパ−オキサイド、t−ブチルパ−オキシ−2−エチルヘキサノエ−ト等の有機過酸化物を用いることができる。
特に、90℃以上の高温下で重合を行わせる場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上でかつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤などが好ましい。具体的には1,1−ビス(t−ブチルパ−オキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパ−オキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパ−オキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。これらの開始剤は、例えば、0.005〜5質量%の範囲で用いることができる。
【0079】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤としては、ラジカル重合において用いられる任意のものが使用でき、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコ−ル酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、アクリル系樹脂(d)の重合度が好ましい範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
【0080】
本発明で用いるアクリル系樹脂としては、メタクリル酸エステルおよび/またはアクリル酸エステル単位と芳香族ビニル化合物単位と下記一般式[1]で表される化合物単位を有する共重合体が好ましい。
【0081】
一般式[1]
【0082】
【化1】

(XはOまたは、N−Rを示す。Oは酸素原子、Nは窒素原子、Rは水素原子、アルキル基、アリ−ル基またはシクロアルカン基である)
【0083】
一般式[1]で表される化合物と共重合させるメタクリル酸エステルおよび/またはアクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチルが好ましい。芳香族ビニル化合物としては、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
【0084】
上記一般式[1]で表される化合物としては、X=Oであるもの、すなわち無水マレイン酸が好ましい。さらに、耐熱性、光弾性係数の点から、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が40〜90質量%、スチレン単位が5〜40質量%、マレイン酸単位が5〜20質量%であり、かつマレイン酸単位の共重合割合に対するスチレン単位の共重合割合が1〜3倍であることが好ましい。さらに好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が40〜90質量%、無水マレイン酸単位が5〜19質量%、スチレン単位が10〜40質量%であり、とりわけ好ましくは、共重合体中のメタクリル酸メチル単位が45〜88質量%、無水マレイン酸単位が6〜15質量%、スチレン単位が16〜40質量%である。
【0085】
また、アクリル樹脂の別の好適な例として、メタクリル酸エステルおよび/またアクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位及び6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体が挙げられる。この6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体は、耐熱性に優れると共に、これから得られる成形体のレタデ−ション設計が容易であることから、光学材料に適している。
この6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体の第一の単量体成分であるメタクリル酸エステルおよび/またはアクリル酸エステルとしてはメタクリル酸メチルが好ましく、第二の単量体成分である芳香族ビニル化合物としては、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
また、6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体の第三の単位である6員環構造の酸無水物単位は、不飽和カルボン酸単量体及び、必要に応じて不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他の単量体成分と重合させ、共重合体とした後、かかる共重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコ−ルおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることにより生成することができる。この場合、典型的には共重合体を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコ−ルの脱離により1単位の6員環構造の酸無水物単位が生成される。
6員環構造の酸無水物単位を生成するための不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。
6員環構造の酸無水物単位を含む共重合体は、特公平02−26641号公報、特開2006−266543号公報、特開2006−274069号公報、特開2006−274071号公報、特開2006−283013公報、特開2005−162835公報に記載の方法を参照して、組成比を決定し、製造、評価することができる。
【0086】
本発明で用いるアクリル系樹脂のメルトインデックス(ASTM D1238;I条件)は、これを成形して得られる保護フイルムの強度の観点から10g/10分以下であることが好ましい。より好ましくは6g/10分以下、さらに好ましくは3g/10分以下である。
【0087】
本発明における偏光フイルムの他方の面に積層する光学的に等方性を持つ保護フィルムには、アクリル系樹脂の他に、脂肪族ポリエステル系樹脂を含むことができる。
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコ−ルを主たる構成成分とする重合体などが挙げられる。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体の具体例としては、ポリグリコ−ル酸、ポリ乳酸、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸およびポリカプロラクトンなどが挙げられ、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコ−ルを主たる構成成分とする重合体の具体例としては、ポリエチレンアジペ−ト、ポリエチレンサクシネ−ト、ポリブチレンアジペ−トおよびポリブチレンサクシネ−トなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエステル系樹脂は、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0088】
これらの脂肪族ポリエステル系樹脂の中でも、ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体が好ましく、特にポリ乳酸系樹脂が好ましく使用される。これらの(e)成分は1種以上を用いることができる。
【0089】
ポリ乳酸系樹脂としては、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とする重合体が挙げられる。
【0090】
ポリ乳酸系樹脂において、L−乳酸単位と、D−乳酸単位の構成モル比は、L−体とD−体あわせて100%に対し、L体ないしD体いずれかが85%以上が好ましく、より好ましくは一方が90%以上であり、さらに好ましくは一方が94%以上の重合体である。本発明においてはL−乳酸を主体とするポリL乳酸とD−乳酸を主体とするポリD乳酸を同時に用いることもできる。
ポリ乳酸系樹脂は、L体ないしD体以外の乳酸誘導体モノマ−または、ラクチドと共重合可能な他成分を共重合していてもよく、このような成分としてはジカルボン酸、多価アルコ−ル、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂は、直接脱水縮合、ラクチドの開環重合等公知の重合法で重合することができる。また必要に応じてポリイソシアネ−ト等の結合剤を用いて、高分子量化することもできる。
ポリ乳酸系樹脂の好ましい質量平均分子量範囲は、機械的性質の観点から質量平均分子量が30,000以上であることが好ましく、加工性の観点から1000,000以下であることがより好ましい。さらに好ましくは50,000〜500,000、最も好ましくは100,000〜280,000である。
【0091】
また、ポリ乳酸系樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、乳酸以外の他の共重合成分0.1〜30質量%を含んでいてもよい。かかる他の共重合成分単位としては、例えば、多価カルボン酸、多価アルコ−ル、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類;エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、ブタンジオ−ル、ヘプタンジオ−ル、ヘキサンジオ−ル、オクタンジオ−ル、ノナンジオ−ル、デカンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、グリセリン、トリメチロ−ルプロパン、ペンタエリスリト−ル、ビスフェノ−ルA、ビスフェノ−ルにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、ポリテトラメチレングリコ−ルなどの多価アルコ−ル類;グリコ−ル酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類;グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などを使用することができる。これらの共重合成分は、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0092】
脂肪族ポリエステル系樹脂の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができ、特にポリ乳酸系樹脂については、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを採用することができる。
【0093】
本発明において、光学的に等方性を持つ保護フイルムがアクリル系樹脂と脂肪族ポリエステル系樹脂を含む場合、アクリル系樹脂の割合(質量部)は、アクリル系樹脂と脂肪族ポリエステル系樹脂の合計量100質量部に対して、光弾性係数、強度、耐熱性、ヘイズ値の点から0.1〜99.9質量部であることが好ましく、50〜99.9質量部であることがさらに好ましく、60〜95質量部であることがとりわけ好ましい。50質量部以上であると、湿熱雰囲気下でのヘイズ値が小さくなり好ましい。ヘイズ値が小さい、または変化が小さいと、ディスプレイ用途等に好適に用いることが可能となる。
【0094】
脂肪族ポリエステル系樹脂の割合(質量部)は、アクリル系樹脂と脂肪族ポリエステル系樹脂の合計量100質量部に対して、光弾性係数、強度、耐熱性、ヘイズ値の点から0.1〜99.9質量部であることが好ましく、0.1〜50質量部であることがさらに好ましく、5〜40質量部であることがとりわけ好ましい。50質量部以下であると、湿熱雰囲気下でのヘイズ値が小さくなり好ましい。ヘイズ値が小さい、または変化が小さいと、ディスプレイ用途に好適に用いることが可能となる。
【0095】
本発明において、光学的に等方性を持つ保護フィルムの厚さは、ハンドリング性の観点から0.1μm以上であることが好ましく、薄肉化の観点から300μm以下が好ましい。そして、同様の理由から0.2〜250μmの範囲がさらに好ましく、0.3〜200μmの範囲がとりわけ好ましい。
【0096】
偏光フィルムと位相差フイルム、保護フィルムとの貼合には、光学的に等方性を有する接着剤を用いるのが好ましく、かかる接着剤としては、ポリビニルアルコ−ル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤などが挙げられる。偏光フィルムと保護フィルムとの接着性が悪い場合は、保護フィルムに適宜、コロナ処理、プライマ処理、コ−ティング処理などの易接着処理を施してから、偏光フィルムと貼合することが好ましい。
【0097】
偏光フイルムの一方の面に本発明の位相差フィルムを積層し、他方の面にアクリル系樹脂を含みスチレン系樹脂を含まない樹脂組成物を成形して得られる光学的に等方性を持つ保護フィルムを積層すると、樹脂間の特性差による反りやカ−ルといった不具合や、吸湿性の差に起因する応力による異常を生じることが少なくなる。
【0098】
本発明における偏光フイルムの他方の面に積層する光学的に等方性を持つ保護フィルムには、アクリル系樹脂の他に効果を損なわない範囲で他の樹脂を添加することができる。このときの、他の樹脂成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエ−テルエ−テルケトン、ポリエステル、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエ−テルイミド、ポリアセタ−ル等の熱可塑性樹脂;およびフェノ−ル樹脂、メラミン樹脂、シリコ−ン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種以上を用いることができる。
【0099】
本発明において、偏光フィルムは、特に限定されるものではないが、例えば、一軸延伸された樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させた偏光フィルムが好ましい。
このような偏光フィルムは公知の方法を用いて製造することができ、例えば特開2002−174729号公報等に記載されている方法により製造することができる。具体的には以下の通りである。
偏光フィルムを構成する樹脂としては、ポリビニルアルコ−ル系樹脂が好ましく、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られポリビニルアルコ−ル系樹脂が好ましい。ここで、ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニル及びこれと共重合可能な他の単量体の共重合体などが挙げられる。酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエ−テル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。また、ポリビニルアルコ−ル系樹脂のケン化度は、85〜100モル%であることが好ましく、より好ましくは98〜100モル%である。このポリビニルアルコ−ル系樹脂はさらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマ−ルやポリビニルアセタ−ルなども使用し得る。ポリビニルアルコ−ル系樹脂の重合度は、1000〜10000であることが好ましく、より好ましくは1500〜10000である。
【0100】
偏光フィルムは、例えば、樹脂からフィルムを作製して一軸延伸する工程、延伸されたポリビニルアルコ−ル系樹脂フィルムを二色性色素で染色してヨウ素や二色性染料を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコ−ル系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、ホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造できる。
一軸延伸は、二色性色素による染色の前に行ってもよいし、二色性色素による染色と同時に行ってもよいし、二色性色素による染色の後に行ってもよい。一軸延伸を二色性色素による染色後に行う場合、一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。また、複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。
一軸延伸するには、周速の異なるロ−ル間で一軸に延伸してもよいし、熱ロ−ルを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤で膨潤した状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。
【0101】
樹脂フィルムを二色性色素で染色するには、例えば、樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬すればよい。ここで、二色性色素としては、例えば、ヨウ素や二色性染料が挙げられる。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用できる。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100質量部あたり0.01〜0.5質量部程度であることが好ましく、ヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり0.5〜10質量部程度であることが好ましい。この水溶液の温度は、20〜40℃程度であることが好ましく、また、この水溶液への浸漬時間は、30〜300秒程度であることが好ましい。
二色性色素として二色性染料を用いる場合は、二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコ−ル系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用できる。この水溶液における二色性染料の含有量は、水100質量部あたり1×10-3〜1×10-2質量部程度であることが好ましい。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を含有していてもよい。この水溶液の温度は、20〜80℃程度であることが好ましく、また、この水溶液への浸漬時間は、30〜300秒程度であることが好ましい。
【0102】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色された樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することにより行われる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100質量部あたり2〜15質量部程度であることが好ましく、さらに好ましくは5〜12質量部程度である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有するのが好ましい。ホウ酸水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり2〜20質量部程度であることが好ましく、さらに好ましくは5〜15質量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、100〜1200秒程度あることが好ましく、より好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。またホウ酸水溶液の温度は、50℃以上であることが好ましく、より好ましくは50〜85℃である。
【0103】
ホウ酸処理後の樹脂フィルムは、水洗処理されることが好ましい。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコ−ル系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行われる。水洗後は適宜乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。水洗処理における水の温度は、5〜40℃程度であることが好ましく、浸漬時間は、2〜120秒程度であることが好ましく。その後に行われる乾燥処理は、熱風乾燥機や遠赤外線ヒ−タ−を用いて行われることが好ましい。乾燥温度は、40〜100℃であることが好ましく。乾燥処理における処理時間は、120秒〜600秒程度であるあることが好ましい。
最終的なフィルム厚は、フィルムの取り扱い易さ、ディスプレイの薄肉化要求の観点から、5〜200μmが好ましく、10〜150μmが更に好ましく、15〜100μmがとりわけ好ましい。
【0104】
偏光フィルムと位相差フイルムや保護フィルムとの貼合には、光学的に等方性の接着剤を用いるのが好ましく、かかる接着剤としては、ポリビニルアルコール系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤などが挙げられる。偏光フィルムと樹脂フィルムの接着性が悪い場合は、適宜、コロナ処理、プラズマ処理、コーティング処理、などの易接着処理を施してから、偏光フィルムと貼合される。
【0105】
本発明の位相差フィルムには、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【0106】
本発明の位相差フィルムは、テレビ、パソコン、携帯電話、カ−ナビゲ−ション、医療機器、産業機器等の各種ディスプレイに用いられるIPSモ−ドの液晶表示装置の画質向上に有用である。
また、本発明の位相差フィルムと偏光フイルムとを貼合した円偏光板は、反射型液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに用いると表示装置の内部反射を低減することができ、有用である。
【0107】
[実施例]
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
本願発明および実施例で用いた評価法をまず説明する。
<1>評価方法
<1−1>レタデ−ション(Re、Rth、Nz)の測定
大塚電子株式会社製のレタデ−ション測定装置「RETS−100」を用いて測定を行った。
<1−2>光弾性係数の測定
5cm×1cmにフィルムを切り出し、チャック間が3cmとなるようにチャッキング後、0.1mm/分のスピ−ドで引張試験を行いながら、レタデ−ション測定装置(RETS−100)を用いてレタデ−ションを測定し、平面方向の複屈折を測定した。
このようにして測定した値を、複屈折(Δn)をy軸、伸張応力(σ)をx軸としてプロットしたグラフを作成し、その初期直線部の傾きを求め、これを光学弾性係数とした。
<1−3>ガラス転移温度の測定(DSC法)
パ−キンエルマ−社製、示差走査熱量計「Pyris1」を用いて測定を行った。
<1−4>光線透過率の測定
日立製作所製、U−3310を用いて分光スペクトルを測定し、380nmにおける透過率を求めた。
<1−5>偏光板の反りの測定
偏光板を200mm×200mmの正方形に裁断し、水平で平坦な台の上にフィルムの中央が台に接するように置き、23℃、50%RHの雰囲気下で72時間静置し、裁断したフィルムの四隅が台から反り上がった高さを平均して算出した。
<1−6>偏光板の高温多湿時の耐久性の測定
60℃、90%RH条件で1000時間保持した前後の偏光度を下式に従って求め、この値を用いて偏光度保持率を算出して耐久性を評価した。
偏光度(%)={〔(H2−H1)/(H2+H1)〕×1/2}×100
ここで、H2は2枚の偏光板の配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で分光光度計を用いて測定した値(平行透過率)であり、H1は2枚の偏光板の配向方向が互いに直交方向になるように重ね合わせた状態で測定した値(直交透過率)である。偏光度の測定は、島津製作所UV−3150分光光度計を使用した。
偏光度保持率とは、60℃、90%RH条件、1000時間保持試験後の偏光度を試験前の偏光度で除した値に100を掛けた数値である。数値が大きいほど耐久性がよい。
また偏光度の測定は、第1の面と第2の面の面内レタデ−ション(Re)が共に10nm以上である場合には、円偏光の影響が強くなり本発明の評価としては適切ではないので実施しなかった。また、同様の理由から、第1の面又は第2の面のいずれかの面内レタデ−ション(Re)が10nm以下の場合には、2枚の偏光板を重ね合わせる際に、Reが10nm以下の層が内側になるように重ね合わせて評価を行った。
【0108】
<2>原料の準備
<2−1>メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体(P−1)
メタクリル酸メチル89.2質量部、アクリル酸メチル5.8質量部、およびキシレン5質量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパ−オキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.0294質量部、およびn−オクチルメルカプタン0.115質量部を添加し、均一に混合した。
この溶液を内容積10リットルの密閉式耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯槽に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらにこれを押出機に連続的に溶融状態で移送し、押出機にてメタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体(P−1)のペレットを得た。
得られた共重合体(P−1)のアクリル酸メチルの共重合割合は6.0質量%、ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8キログラム荷重のメルトフロ−レ−ト値は1.0g/10分であった。
【0109】
<2−2>スチレン/メタクリル酸共重合体(P−2)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン75.2質量%、メタクリル酸4.8質量%、エチルベンゼン20質量%を調合液とし、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパ−オキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを用いた。この調合液を1l/hrの速度で連続して、内容積2lの攪拌機付きの完全混合重合器へ供給し、136℃で重合を行なった。固形分49%を含有する重合液を連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温され、20Torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出し、これを押出機に連続的に溶融状態で移送し、押出機にてスチレン/メタクリル酸共重合体(P−2)のペレットを得た。
得られた共重合体(P−2)は無色透明で、このポリマ−の中和滴定による組成分析の結果、スチレンの共重合割合は92質量%、メタクリル酸の共重合割合は8.1質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、3.8キログラム荷重のメルトフロ−レ−ト値は5.1g/10分であった。
【0110】
<2−3>スチレン/無水マレイン酸共重合体(P−3)
装置の全てがステンレス鋼で製作されているものを用いて、連続溶液重合を行った。スチレン91.7質量部、無水マレイン酸8.3質量部の比率で合計100質量部を準備した。(ただし、両者は混合しない。)メチルアルコ−ル5質量部、重合開始剤として1,1−tert−ブチルパ−オキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.03質量部をスチレンに混合し、第1調合液とした。この第1調合液を0.95kg/hr.の速度で連続して内容積4Lのジャケット付き完全混合重合機に供給した。
一方、70℃に加熱した無水マレイン酸を、第二調合液として0.10kg/hr.の速度で同一重合機へ供給し、111℃で重合を行った。重合転化率が54%となったところで、重合液を重合機から連続して取り出し、まず230℃に予熱後、230℃に保温し、20torrに減圧された脱揮器に供給し、平均滞留0.3時間経過後、脱揮器の低部のギヤポンプより連続して排出し、これを押出機に連続的に溶融状態で移送し、押出機にてスチレン/無水マレイン酸共重合体(P−3)のペレットを得た。
得られたスチレン/無水マレイン酸共重合体(P−3)は無色透明で、このポリマ−の中和滴定による組成分析の結果、スチレンの共重合割合は85質量%、無水マレイン酸単位の共重合割合は15質量%であった。ASTM−D1238に準拠して測定した230℃、2.16kg荷重のメルトフロ−レ−ト値は2.0g/10分であった。また、その光弾性係数(未延伸)は、4.1×10−12Pa−1であった。
<2−4>ポリスチレン樹脂(P−4)
一般的なポリスチレン樹脂としてPSジャパン株式会社製の標準グレ−ドであるHF77を用意した。
<2−5>脂肪族ポリエステル系樹脂(P−5)
ポリ乳酸(カ−ギルダウ社製4032D)を用いた。
<2−6>紫外線吸収剤(U−1)
ベンゾトリアゾ−ル系化合物(U−1)(旭電化(株)社製、アデカスタブLA−31(融点(Tm):195℃)を用意した。理学電気(株)社製、ThermoPlus TG8120を用いて、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の質量減少率を測定したところ、0.03%であった。
【0111】
[実施例1〜22、比較例1〜4]
表1〜3に示す組成の樹脂組成物を用い、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)のシリンダ−内樹脂温度、Tダイの温度を表1〜3に示す条件に調整して押し出し成形をすることにより未延伸フィルムを得た。フィルムの流れ(押し出し方向)をMD方向、MD方向に垂直な方向をTD方向とした。
そして、未延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1〜3に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、一軸延伸フィルムを得た。
さらに、一軸延伸フィルムを幅が50mmになるように切り出し、表1〜3に示す条件で一軸延伸(チャック間:50mm、チャック移動速度:500mm/分)を引っ張り試験機を用いて行い、実施例1〜22、比較例1〜4、の二軸延伸フィルムを得た。
【0112】
実施例1〜9、比較例1〜3の位相差フィルムの光学特性を表1に示す。
実施例1〜9の位相差フイルムはいずれも、Reを550nmの1/4波長、1/2波長付近に設定したときに、Rthが負の値となった。さらに、これらの位相差フィルムにおいては、その材料の組成や、延伸条件等を制御することによりRthを−382〜−77nmと幅広くコントロ−ルできることが分かる。
このことから、本発明の位相差フィルムは、IPSモ−ドの液晶表示装置はもちろん、様々な光学補償条件に対応できることが分かる。
【0113】
また、本実施例1〜9の位相差フイルムは、ガラス転移温度が120℃程度以上と、実用に耐えるのに十分な耐熱性がある。さらに、光弾性係数の絶対値は2×10-12Pa-1以下であり、比較例2や比較例3のような代表的な負の複屈折性の材料であるスチレン系樹脂(ポリスチレン樹脂を含む)の光弾性係数の絶対値の1/3以下という優れた光学的安定性を示すことが分かる。
【0114】
また、実施例7〜9の位相差フイルムにおいては、その光弾性係数の絶対値が1×10-12Pa-1以下となり、同じ樹脂組成の実施例6の位相差フイルムと比べてさらに低くなった。これは、紫外線吸収剤が樹脂成分の光弾性係数を打ち消すように作用したためと推測される。なお、紫外線吸収剤の添加により、ガラス転移温度は紫外線吸収剤を添加しない場合(実施例6)と比較して若干下がる傾向にあったが、依然として125℃以上であり、実用に耐えるのに十分な耐熱性を有していた。
さらに、実施例7〜9の位相差フイルムにおいては、紫外線吸収剤の添加により、380nmでの光線透過率が1%程度であった。この値は、偏光板保護フイルムに一般的に要求されるレベルを満たしており、本発明の位相差フイルムが偏光板保護フィルムとしても有用であることが分かる。
【0115】
【表1】

【0116】
実施例10〜17、比較例4の位相差フィルムの光学特性を表2に示す。
実施例10〜17の位相差フイルムにおいては、延伸条件等を制御することにより面内レタデ−ションReを幅広く(140〜1039nm)変化させたが、いずれの場合においもRthを負の値に設計することができた。また、実施例10〜17の位相差フイルムは、ポリスチレン系樹脂からなる位相差フイルム(比較例4)と比較して小さい光弾性係数の絶対値を有していた。
また、実施例10〜17の位相差フイルムはいずれも、面内レタデ−ション(Re=(nx−ny)×d)が正の値で、かつ、nx−nz(=Nz×Re/d)の絶対値が1.0×10-3以下であるから、ny<nx=nzの関係を満たし、ネガティブAプレ−トとして用いることができるものであった。このように、本発明の位相差フイルムにおいては、ネガティブAプレ−トとして用いることができるように光学特性を設計できることが確認できた。
【0117】
【表2】

【0118】
実施例18〜22の位相差フイルムの光学特性を表3に示す。
実施例18〜22の位相差フイルムは、いずれも、厚み方向レタデ−ション(Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d)が負の値で、かつ、nx−ny(=Re/d)の絶対値が1.0×10-3以下であるから、nx=ny<nzの関係を満たし、ポジティブCプレ−トとして用いることができるものであった。このように、本発明の位相差フイルムにおいては、ポジティブCプレ−トとして用いることができるように光学特性を設計できることが確認できた。
【0119】
【表3】

【0120】
[実施例23〜36、比較例5]
(偏光フィルムの製造)
ポリ酢酸ビニルをケン化後(ケン化度98モル%)、成形し、得られたポリビニルアルコ−ルフィルム(厚さ75μm)を水1000質量部、ヨウ素7質量部、ヨウ化カリウム105質量部からなる水溶液に5分間浸漬し、フィルムにヨウ素を吸着させた。次いでこのフィルムを40℃の4質量%ホウ酸水溶液中で、5倍に縦方向一軸延伸をした後、緊張状態のまま乾燥して偏光フィルムを得た。
(比較のための保護フイルムの製造)
i)アクリル系樹脂保護フイルム(参考例1、2)
実施例1〜22、比較例1〜4と同様にして、表4に示す樹脂組成物を用い、表4に示す条件で参考例1、2の保護フイルムを製造した。
参考例1、2のフイルムの厚みと面内レタデーションを表4に示す。
ii)トリアセチルセルロ−ス系保護フィルム(参考例3)
従来技術の偏光板保護フィルムの代表例としてトリアセチルセルロ−ス系保護フィルムを以下の様にして製造した。
トリアセチルセルロ−ス21質量部、トリフェニルホスフェ−ト(可塑剤)2質量部およびビフェニルジフェニルホスフェ−ト(可塑剤)1質量部を、メチレンクロライド62質量部、メタノ−ル12質量部およびn−ブタノ−ル2質量部に溶解してド−プを調製した。ド−プをエンドレスの金属支持体上に流延し、フィルムを支持体上に形成した。フィルム中の有機溶剤の量が60質量%になるまでフィルムを支持体上で乾燥し、フィルムを支持体から剥ぎ取った。
テンタ−を用いてフィルムの横方向の寸法を固定し、その状態で、フィルム中の有機溶剤の量が15質量%になるまで、3分間、フィルムを両面から乾燥した(一次乾燥)。フィルムを支持体から剥ぎ取ってから、フィルムの一次乾燥が終了するまでの間のフィルムの縦方向の寸法の伸び率は、4.5%であった。さらに、ロ−ラ−を用いてフィルム中の有機溶剤の量が0.5質量%になるまで、フィルムを乾燥した(二次乾燥)。得られたフィルムを巻き取り、最後に表面にケン化処理を施して厚さが81μmのトリアセチルセルロ−スフィルムを作製した。このフィルムの面内レタデ−ションは6nmであった(表4)。
iii)シクロオレフィン系保護フィルム(参考例4)
従来技術の偏光板保護フィルムの代表例として非晶性ポリオレフィン系樹脂であるシクロオレフィン系樹脂フィルムを以下の様にして製造した。
環状ポリオレフィンとしてエチレンとノルボルネンとの付加重合を行い、エチレン−ノルボルネンランダム共重合体(エチレン含量:65mol%、MFR:30g/10分、数平均分子量:68000)を製造した。ここで得た樹脂100質量部をシクロヘキサン80質量部、トルエン80質量部、キシレン80質量部の混合溶剤に溶解し、流延法により厚さ75μmのフィルムを作製した。このフィルムの面内レタデ−ションは5nmであった(表4)。
iv)耐熱アクリル系樹脂系保護フィルム(参考例5)
特公昭63−1964号公報に記載の方法に従い、メタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体を得た。
得られたメタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体の組成は、メタクリル酸メチル74質量%、無水マレイン酸10質量%、スチレン16質量%であり、共重合体メルトフロ−レ−ト値(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は1.5g/10分であった。 このメタクリル酸メチル−無水マレイン酸−スチレン共重合体を表4に示す条件で成形・延伸し、参考例5の保護フィルムを製造した。
参考例5のフイルムの厚みと面内レタデーションを表4に示す。
【0121】
【表4】

【0122】
(偏光板の製造)
接着剤としてポリビニルアルコ−ル系樹脂の10%水溶液を用いて、偏光フィルムの両面に実施例9、10、21、試験例1の位相差フイルム、参考例1〜5の保護フィルムを表4、5に示す組み合わせで貼り合わせ、偏光板を得た。
【0123】
実施例23〜36、比較例5の偏光板の反り、偏光度保持率を表4、5に示す。
表4、5より、保護フィルムとして、本発明の位相差フイルムを用いた偏光板は、反りが少なく、高温多湿時の耐久性にも優れることが確認できた。特に、第1面の保護フイルムとして参考例3のフイルムを用いている点で比較例5と共通している実施例23〜25の偏光板の反りが比較例5の偏光板の反りより小さいのは、第2の面の保護フイルムとして用いた本発明の位相差フイルムが水素結合が可能な官能を有し、水分との相互作用があるためであると考えられる。
【0124】
【表5】

【0125】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の位相差フィルムは、光学特性、生産性、耐熱性に優れ、IPSモ−ドをはじめとする各種方式の液晶表示装置に用いる位相差フィルムとして好適に用いることができる。
また、本発明の位相差フィルムと偏光フイルムとを貼合した偏光板は、反射型液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ用の円偏光板として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂を含む位相差フィルム。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂および前記スチレン系樹脂の合計量100質量部に対して、アクリル系樹脂を0.1〜99.9質量部含む請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂が、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体である請求項1又は2項に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記スチレン系樹脂が、スチレン/メタクリル酸共重合体である請求項1〜3いずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂が、スチレン/無水マレイン酸共重合体である請求項1〜3いずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
前記位相差フィルムの面内レタデ−ション(Re)が40〜1100nmであり、Nz係数が−0.5以上0以下である請求項1〜5いずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
Reが40〜1100nmで、かつ、ny<nx=nzを満足する請求項6に記載の位相差フィルム:
式中、nx:フイルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フイルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フイルム厚み方向の主屈折率である。
【請求項8】
前記位相差フィルムの面内レタデ−ション(Re)が40nm未満であり、厚み方向レタデ−ション(Rth)が−20nm以下である請求項1〜5いずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項9】
Reが40nm未満で、かつ、nx=ny<nzを満足する請求項8に記載の位相差フィルム:
式中、nx:フイルム面内において屈折率が最大となる方向(遅相軸方向)をxとした場合のx方向の主屈折率、ny:フイルム面内においてx方向に垂直な方向(進相軸方向)をyとした場合のy方向の主屈折率、nz:フイルム厚み方向の主屈折率である。
【請求項10】
IPSモ−ドの液晶表示装置用である請求項1〜9のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項11】
正の固有複屈折を有する樹脂により形成される液晶セル基板を使用した液晶表示装置用である請求項1〜9のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
【請求項12】
偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも一方が、請求項1〜11のいずれか1項に記載された位相差フィルムである偏光板。
【請求項13】
偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの一方が請求項1〜11のいずれか1項に記載された位相差フィルムであり、他方がアクリル系樹脂を含み、スチレン系樹脂を含まない樹脂組成物を成形して得られるフィルムである請求項12に記載の偏光板。
【請求項14】
偏光フィルムの両面に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの両方が、請求項1〜11のいずれか1項に記載された位相差フィルムである偏光板。

【公開番号】特開2008−146003(P2008−146003A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63850(P2007−63850)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】