説明

アクリル系樹脂及びそれを含む組成物

【課題】容易に低コストな重合方法で製造でき、防水性及び防湿性に優れ、上塗り剤のハジキを生じないアクリル系樹脂及びその樹脂を含有する組成物を提供する。
【解決手段】(a1)アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステル及び(a2)アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステルから選択される少なくとも1種の(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステル:0.5〜24重量部と、(b1)スチレン系誘導体及び(b2)アルキル基の炭素数が8以下であるアルキル(メタ)アクリル酸エステルを含む(B)エチレン性二重結合を有する単量体:76〜99.5重量部とを共重合して得られるアクリル系樹脂及びその樹脂を含む組成物である。共重合は、乳化重合で行うことが好ましく、その組成物は、無機質成形部材用シーラーとして好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル系樹脂及びそれを含む組成物に関するものであり、特に無機質成形部材のシーラーとして利用されるアクリル系樹脂及びそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種基材(建築材料や紙等)に防湿性を付与する方法として、防湿性を有するフィルム及びコーティング材を利用する方法が知られている。フィルムを基材に貼付すると、操作が煩雑で人件費及び材料費等がかかる。また、コーティング材として、合成樹脂に塩素化パラフィン樹脂を混合した樹脂組成物が提案されているが、塩素系化合物を含むので、環境面で好ましくない。
【0003】
このような課題を解決するため、ワックスの水分散体にアクリルエマルジョン又はゴム系ラテックスを混合する方法が既知である。例えば、特許文献1は、水性アクリル樹脂にワックス系エマルジョンを添加することで防水性、防湿性に優れた塗料用樹脂が得られることを開示する。しかし、この塗料用樹脂を基材に塗工し、さらに、上塗り剤を重ね塗りすると、上塗り剤がこの塗料用樹脂にはじかれる傾向を有する。塗料用樹脂を塗工して乾燥する時に、防湿成分であるワックスが塗料用樹脂表面にブリードアウトした結果、このワックスによって上塗り剤がはじかれるから、このような現象が生ずると考えられる。
【0004】
また、特許文献2には、ステアリル(メタ)アクリレート(そのアルキル基の炭素数は18である)を用いることで、防湿性能がより向上した防湿剤が記載されている。しかしながら、炭素数が18のステアリル基を有する(メタ)アクリレートは重合性が不十分なので、特許文献2の段落番号0015〜0018に記載されているような、特殊な分散剤が必要となる。更に、この特殊な分散剤は、水溶性成分であるカルボキシル基を多く含み、分子量も低いので、この特殊な分散剤を樹脂に配合すると、樹脂の耐水性が低下し、樹脂の製造コストも高くなる。更に、本発明者の検討によると、後に比較例4で示すように、ステアリル(メタ)アクリレートを用いると、良好な基材密着性を得られないことも明らかとなった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−189839号公報
【特許文献2】特開平8−239407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、環境面から好ましくない、防水性及び防湿性が不十分である、上塗り剤のハジキを生ずる、特許文献2に記載されたような特殊な分散剤を必要とし、容易に低コストな重合方法で製造できない、良好な基材密着性を得られないという課題の少なくとも一を緩和し、好ましくは実質的に解消するアクリル系樹脂及びその樹脂を含有する組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アクリル系樹脂を含む防湿樹脂組成物を製造する場合、(A)アルキル基が特定の範囲の炭素数を有するアルキル(メタ)アクリル酸エステルと、スチレン系誘導体及びアルキル基が比較的少ない炭素数を有するアルキル(メタ)アクリル酸エステルを含む(B)エチレン性二重結合を有する単量体を、特定の重量比で、共重合することで得られるアクリル系樹脂が、上述の課題を解決することができることを見出して、本発明を完成することに至ったものである。
【0008】
即ち、本発明は、一の要旨において、新たなアクリル系樹脂を提供し、それは、
(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステル:0.5〜24重量部と、
(B)エチレン性二重結合を有する単量体:76〜99.5重量部とを、
共重合することで得られるアクリル系樹脂であって、
(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルは、
(a1)アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステル及び
(a2)アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステル
から選択される少なくとも1種であり(以下、(A)の有するアルキル基を「長鎖アルキル基」ともいう)、
(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、
(b1)スチレン系誘導体及び
(b2)アルキル基の炭素数が8以下であるアルキル(メタ)アクリル酸エステル
を含む。このアクリル樹脂は、防湿性を有する防湿アクリル樹脂として好適に使用することができる。
【0009】
本発明の一の態様において、
(a1)アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステルは、ラウリルアクリレートであり、
(a2)アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステルは、セチルメタクリレートであるアクリル系樹脂を提供する。
【0010】
本発明の他の態様において、(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、さらに、(b3)エチレン性二重結合を有するアルコキシシランを含むアクリル系樹脂を提供する。
本発明の好ましい態様において、(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルと(B)エチレン性二重結合を有する単量体との総和を100重量部として、(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、(b3)エチレン性二重結合を有するアルコキシシランを0.01〜5.0重量部含有するアクリル系樹脂を提供する。
本発明の更に好ましい態様において、共重合を乳化重合で行うアクリル系樹脂を提供する。
【0011】
本発明の他の要旨において、上述のアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂組成物を提供する。このアクリル系樹脂組成物は、防湿性を有する防湿アクリル系樹脂組成物として好適に使用することができる。
本発明の好ましい要旨において、無機質成形部材用シーラーとして用いられる上述のアクリル系樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアクリル系樹脂は、
(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステル:0.5〜24重量部と、
(B)エチレン性二重結合を有する単量体:76〜99.5重量部とを、
共重合することで得られるアクリル系樹脂であって、
(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルは、
(a1)アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステル及び
(a2)アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステル
から選択される少なくとも1種であり、
(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、
(b1)スチレン系誘導体及び
(b2)アルキル基の炭素数が8以下であるアルキル(メタ)アクリル酸エステル
を含み、
アルキル基の炭素数が18以上であるアルキル(メタ)アクリル酸エステルを含むものではない。即ち、(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステル及び(B)エチレン性二重結合を有する単量体の双方は、重合性を低下させるほど鎖長が長いアルキル基を有するモノマーを含むものではないので、それらを共重合するために特許文献2に記載の特殊な重合用分散剤を必要とするものでもない。更に、アルキル基の炭素数が18以上であるアルキル(メタ)アクリル酸エステルを含むものではないので、基材密着性も更に向上され得る。
【0013】
これに対し、特許文献2に記載の防湿剤は、(メタ)アクリル酸ステアリルを必須成分として含み、特許文献2の段落番号0015に記載されるように、特殊な重合用分散剤も必須成分として含むことが必要である。このように特許文献2に記載の防湿剤は、(メタ)アクリル酸ステアリルを必須成分として含み、かつ、特殊な重合用分散剤を重合するために必要とするので、本発明に係るアクリル系樹脂と特許文献2に記載の防湿剤とは異なるものである。
従って、本発明のアクリル系樹脂は、環境面から好ましくない、防水性及び防湿性が不十分である、上塗り剤のハジキを生ずる、特許文献2に記載されたような特殊な分散剤を必要とし、容易に低コストな重合方法で製造できない、良好な基材密着性を得られないという課題の少なくとも一を緩和し、好ましくは実質的に解消することができる。
【0014】
本発明のアクリル系樹脂は、
(a1)アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステルは、ラウリルアクリレートであり、
(a2)アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステルは、セチルメタクリレートである請求項1に記載のアクリル系樹脂の場合、
より防水性及び防湿性が向上される。
【0015】
本発明のアクリル系樹脂は、
(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、さらに、(b3)エチレン性二重結合を有するアルコキシシランを含む場合、より基材密着性が向上する。
【0016】
(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルと(B)エチレン性二重結合を有する単量体との総和を100重量部として、(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、(b3)エチレン性二重結合を有するアルコキシシランを0.01〜5.0重量部含有する場合、重合性を損なうことなく、より基材密着性を向上することができる。
本発明のアクリル系樹脂は、共重合を乳化重合で行う場合、より高分子量化が可能となり、防水性及び防湿性が向上する。
【0017】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、上述の本発明のアクリル系樹脂を含むので、環境面から好ましくない、防水性及び防湿性が不十分である、上塗り剤のハジキを生ずる、特許文献2に記載されたような特殊な分散剤を必要とし、容易に低コストな重合方法で製造できない、良好な基材密着性を得られないという課題の少なくとも一を緩和し、好ましくは実質的に解消することができる。
更に、本発明のアクリル系樹脂組成物は、上述の本発明のアクリル系樹脂を含んで成るので、無機質成形部材用シーラーとして好適に用いることができる。
【0018】
尚、本明細書において、「エチレン性二重結合」とは、ラジカル重合可能な炭素原子間二重結合をいう。そのようなエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基(CH=CH−)、(メタ)アリル基(CH=CH−CH−及びCH=C(CH)−CH−)、(メタ)アクリロキシ基(CH=CH−COO−及びCH=C(CH)−COO−)、及び−COO−CH=CH−COO−等を例示できる。「エチレン性二重結合を有する単量体」は、エチレン性二重結合を有する官能基を単独で又は組み合わせて有してよく、エチレン性二重結合を有する単量体の単独又は組み合わせであってよい。尚、本明細書においては、アクリル酸とメタクリル酸を総称して「(メタ)アクリル酸」ともいい、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルを総称して「(メタ)アクリル酸エステル」又は「(メタ)アクリレート」ともいう。その他も同様である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルとは、(a1)アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステル及び(a2)アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステルから選択される少なくとも1種を意味する。アルキルアクリル酸エステルが有するアルキル基の炭素数が9以下の場合防湿性が劣り、炭素数が16を超える場合重合性が低下し、共重合が困難と成り得るとともに良好な基材密着性を得られない。また、アルキルメタクリル酸エステルが有するアルキル基の炭素数が13以下の場合樹脂の防湿性が劣り、炭素数が16を超える場合樹脂を製造する際の重合性が低下して共重合が困難と成り得るとともに良好な基材密着性を得られない。
【0020】
(a1)アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステルは、例えば炭素数が10〜16の長鎖アルキルアルコールとアクリル酸とをエステル化することにより得ることができ、そのような化合物としてより具体的には例えばデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ミリスチルアクリレート及びセチルアクリレート等を例示できる。アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステルとして、より防水性及び防湿性を向上することができるから、ラウリルアクリレートが特に好ましい。
【0021】
(a2)アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステルは、例えば炭素数が14〜16の長鎖アルキルアルコールとメタクリル酸とをエステル化することにより得ることができ、そのような化合物としてより具体的には例えばミリスチルメタクリレート及びセチルメタクリレートを例示できる。アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステルとして、これらの中でも、セチルメタクリレートが特に好ましい。
従って、(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルは、ラウリルアクリレート及びセチルメタクリレートから選択される少なくとも一種であることが、より防水性及び防湿性を向上することができることから、特に好ましい。
【0022】
本発明に係る(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、上述のような「エチレン性二重結合」を有する単量体であって、更に(b1)スチレン系誘導体及び(b2)アルキル基の炭素数が8以下であるアルキル(メタ)アクリル酸エステルを含んで成る。
(b1)スチレン系誘導体とは、スチレンに基づく誘導体を意味し、通常、スチレンの誘導体と認められるものが含まれる。本発明が目的とするアクリル系樹脂を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。スチレン系誘導体として、例えばスチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン等を例示できる。本発明では、スチレンが好ましい。
【0023】
(b2)アルキル基の炭素数が8以下であるアルキル(メタ)アクリル酸エステルは、例えば炭素数が8以下のアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とをエステル化することにより得ることができ、本発明が目的とするアクリル系樹脂を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。そのような化合物としてより具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を例示できる。(尚、アルキル基は直鎖状でも、分枝状でも、環状でもよく、例えば、ヒドロキシル基等の置換基を有しても良い)。これらは単独で又は2種以上併せて用いることができる。
【0024】
(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、(b3)エチレン性二重結合を有するアルコキシシランを更に含んでもよい。(b3)エチレン性二重結合を有するアルコキシシランを更に含むことで、本発明に係る「アクリル系樹脂」は、基材密着性がより向上される。(b3)「エチレン性二重結合を有するアルコキシシラン」とは、エチレン性二重結合を有し、少なくとも一のアルコキシ基を有するシランであって、本発明が目的とするアクリル樹脂を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。そのようなエチレン性二重結合を有するアルコキシシランとして、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジプロポキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリス(イソプロポキシ)シラン等を例示できる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。エチレン性二重結合を有するアルコキシシランとして、エチレン性二重結合を有するジアルコキシシラン及びエチレン性二重結合を有するトリアルコキシシランが好ましく、エチレン性二重結合を有するトリアルコキシシランがより好ましく、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0025】
(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、本発明が目的とするアクリル系樹脂を得られる限り、上述した(A)、(b1)、(b2)及び(b3)以外の他の単量体を含んでいても良い。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸等の(b4)不飽和カルボン酸類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルエーテル類;アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体;アクリルアミド等の窒素含有単量体等;ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の2〜3個の二重結合を有する単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルイアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等の反応性単量体を含んでも良い。
(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、上述の(b4)不飽和カルボン酸類を含むことが好ましく、(b4)不飽和カルボン酸を含むことで、重合性がより向上し得る。
【0026】
尚、(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、アルキル基の炭素数が18以上であるアクリル(メタ)アクリル酸エステルを含まない。更に、アルキル基の炭素数が16を超えるアルキル(メタ)アクリル酸エステルを含まないことが、(B)エチレン性二重結合を有する単量体の重合性、得られるアクリル系樹脂組成物の基材密着性の点から特に好ましい。
【0027】
更に、(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、アルキル(メタ)アクリレート以外の単量体であって、エチレン性二重結合を有し炭素数が18以上のアルキル基を有する単量体を含まない。更にまた、(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、アルキル(メタ)アクリレート以外の単量体であって、エチレン性二重結合を有し炭素数が16を超えるアルキル基を有する単量体を含まないことが、(B)エチレン性二重結合を有する単量体の重合性、得られるアクリル系樹脂組成物の基材密着性の点から特に好ましい。
【0028】
本発明では、(A)と(B)の総和を100重量部として、0.5〜24重量部の(A)と99.5重量部〜76重量部の(B)が共重合されるが、10〜20重量部の(A)と90〜80重量部の(B)が共重合されることがより好ましい。(A)が0.5重量部未満である場合防湿性に劣り、(A)が24重量部を超えた場合、上塗り剤を塗工した場合ハジキを生ずる。
【0029】
(B)が(b3)を含む場合、(b3)の含有量は(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルと(B)エチレン性二重結合を有する単量体との総和を100重量部として、0.01〜5重量部であることが好ましく、0.1〜3重量部であることが好ましい。(b3)の含有量が0.01〜5重量部の場合、基材密着性が向上し得、0.1〜3重量部の場合、防水性を損なわず、基材密着性を向上し得るので、更に好ましい。(b3)の含有量が5重量部を超える場合、重合性の低下及び造膜性の低下を生じ得、その結果、防水性及び防湿性も低下し得る。
【0030】
(B)が(b4)を含む場合、(b4)の含有量は(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルと(B)エチレン性二重結合を有する単量体との総和を100重量部として、0.5〜5重量部であることが好ましく、1〜3重量部であることが好ましい。(b4)の含有量が0.5〜5重量部である場合、重合性について好ましく、(b4)の含有量が1〜3重量部である場合、重合性についてより好ましい。
【0031】
本発明のアクリル系樹脂は上述の単量体(A)及び(B)を、公知のラジカル重合方法を用いて重合することで得ることができる。そのような重合方法として例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合を例示できる。
これらの重合のうち、乳化重合が特に好ましい。乳化重合は水を媒体とした乳化剤を用いたラジカル重合であり、公知の方法を用いることができる。乳化重合の方法として、例えば、エチレン性二重結合を有する単量体と乳化剤を水性媒体中に仕込んで重合させる方法、エチレン性二重結合を有する単量体と乳化剤を連続的又は間欠的に水性媒体中に滴下して重合させる方法、エチレン性二重結合を有する単量体と乳化剤に水を加えて乳化液を調製し、これを連続的又は間欠的に水性媒体中に滴下して重合させる方法等を例示することができる。
【0032】
乳化剤はモノマー乳化力を有し、乳化重合の過程ではミセルを形成してモノマーに重合の場を提供し、重合中又は重合後はポリマー粒子の表面に固定化して粒子の分散安定性を図る。乳化剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等を例示できる。
【0033】
また、耐水性、耐アルカリ性、及び防水性の向上のために乳化剤の一分子内にラジカル重合可能な二重結合を有する「反応性界面活性剤」を使用するのが好ましい。尚、「反応性界面活性剤」は、(B)エチレン性二重結合を有する単量体に含まれるものではない。
【0034】
アニオン系界面活性剤として、例えば、
ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等のアルカリ金属アルキルサルフェート;
ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;
アンモニウムドデシルサルフェート等のアンモニウムアルキルサルフェート;
ナトリウムスルホシノエート;
スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート;
ナトリウムラウレート、トリエタールアミンオレエート、トリエタールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;
ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルアリールスルホネート;
高アルキルナフタレンスルホン酸塩;
ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;
ジアルキルスルホコハク酸塩;
ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;
ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩
等を例示できる。
【0035】
ノニオン系界面活性剤として、例えば、
ポリオキシエチレンアルキルエーテル;
ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;
ソルビタン脂肪酸エステル;
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;
グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド;
ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;
エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物
等を例示できる。
【0036】
カチオン系界面活性剤として、例えば、
モノアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、エチレンオキサイド付加型アルキルアンモニウム塩等を例示できる。
【0037】
両性界面活性剤として、例えば、
アミドプロピルベタイン、アミノ酢酸ベタイン等を例示できる。
【0038】
高分子界面活性剤として、例えば、
ポリビニルアルコール;
ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム;
ポリ(メタ)アクリレート等を例示できる。
【0039】
反応性界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルの硫酸エステル塩(アデカリアソープSEシリーズ、旭電化工業社製)、α−スルホ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)のアンモニウム塩(アデカリアソープSRシリーズ、旭電化工業社製)、ポリオキシエチレン(又はアルキレン)アルキル(又はアルケニル)エーテル硫酸アンモニウム塩(PDシリーズ、花王社製)、スルホコハク酸型反応性活性剤(ラテムル180シリーズ、花王社製)、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩(エレミノールJS−2、三洋化成工業社製)、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(アクアロンHSシリーズ、第一工業製薬社製)、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(アクアロンKHシリーズ、第一工業製薬社製)、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテル(アデカリアソープNEシリーズ、旭電化工業社製)、ポリオキシエチレンノニルプロペニルエーテル(アクアロンRNシリーズ、第一工業製薬社製)、α−ヒドロ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)(アデカリアソープERシリーズ、旭電化工業社製)等を例示できる。
これらは単独で又は2種以上併せて用いられる。これらの中でも、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩(エレミノールJS−2、三洋化成工業社製)が好ましい。
【0040】
本発明では、乳化剤の添加量は、(A)と(B)の総和を100重量部として、0.1〜20重量部であることが好ましく、0.5〜3重量部であることがより好ましい。乳化剤の添加量が0.1重量部未満である場合(A)と(B)との重合性が困難になり得、乳化剤の添加量が20重量部を超えると、得られたアクリル系樹脂の耐水性が劣り得る傾向が見られる。
【0041】
重合に際しては、(A)と(B)とを重合させるために重合開始剤が使用される。重合開始剤として、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等を例示できる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等を更に例示できる。また、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L−アスコルビン酸、塩化第一鉄、有機アミン等の還元剤を併用したレドックス開始剤を使用することもできる。本発明では、過硫酸ナトリウムが好ましい。
【0042】
上記重合開始剤の使用量は、(A)と(B)の総和100重量部に対して、0.05〜5重量部であることが好ましく、0.1〜2重量部であることがより好ましい。
【0043】
また、乳化重合に際しては、樹脂の分子量を調整するために必要に応じて連鎖移動剤を使用することができる。
上記連鎖移動剤として、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、2−メルカプトエタノール、トリクロロブロモメタン等を例示することができる。
上記連鎖移動剤の使用量は、(A)と(B)の総和を100重量部として、0〜5重量部程度であることが好ましい。
【0044】
乳化重合により得られたアクリル系樹脂は安定性を保つために、必要であれば、アンモニア、各種有機アミン類、水酸化ナトリウム等でアルカリ性領域のpH、即ち、7.5〜9.0に調整することが望ましい。
【0045】
本発明に係るアクリル系樹脂は、防湿性を有する防湿アクリル系樹脂として好適に使用することができる。本発明において「防湿」とは、後述する実施例に記載の防水性及び防湿性の評価方法を用いて、防水性及び防湿性を評価して、防水性については、透水量が、0.2ml以下又は防湿性については、透湿量が75g/m以下であることをいう。
好ましくは、防水性については、透水量が、0.2ml以下及び防湿性については、透湿量が75g/m以下である。より好ましくは、防水性については、透水量が、0.1ml以下及び防湿性については、透湿量が75g/m以下であり、またより好ましくは、防水性については、透水量が、0.2ml以下及び防湿性については、透湿量が55g/m以下である。特に好ましくは、防水性については、透水量が、0.1ml以下及び防湿性については、透湿量が55g/m以下であることをいう。
【0046】
本発明は、上記アクリル系樹脂を含有するアクリル系樹脂組成物を提供する。
上記アクリル系樹脂組成物は、当業者に周知の顔料、防錆剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、成膜助剤等を必要に応じて含有してよい。
【0047】
顔料とは、通常、顔料とされるものであれば特に限定されることはない。顔料は、通常、有機顔料と無機顔料に分類される。
有機顔料として、例えば、ファストエロ、ジアゾエロー、ジアゾオレンジ及びナフトールレッド等の不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、ファナールレーキ、タンニンレーキ及びカタノール等の染色レーキ、イソインドリノエローグリーニッシュ及びイソエンドリノエローレディッシュ等のイソインドリノ系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレンスーカット及びペリレンマルーン等のペリレン系顔料等を例示できる。
無機顔料として、例えば、カーボンブラック、鉛白、鉛丹、黄鉛、銀朱、群青、酸化コバルト、二酸化チタン、チタニウムイエロー、ストロンチウムクロメート、モリブテン赤、モリブテンホワイト、鉄黒、リトボン、エメラルドグリーン、ギネー緑、コバルト青等を例示できる。
【0048】
充填剤とは、性能向上、コスト低減等の目的で添加される物質をいい、通常充填剤とされるものであれば、特に制限されるものではない。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、クレー、アルミナ等を例示できる。
防錆剤とは、素材の腐食を抑制するために加えられる物質をいい、通常、防錆剤とされるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、鉛丹、白鉛、亜鉛化鉛、塩基性硫酸白鉛、塩基性クロム酸鉛、鉛酸カルシウム、クロム酸亜鉛、鉛酸シアナミド、亜粉末、ジクロロメート、バリウムクロメート、亜硝酸ソーダ、ジシクロヘキシルアンモニウムニトリル、シクロヘキシルアミンカーボネート、防錆油等を例示できる。
さらに、上述のアクリル系樹脂組成物には必要に応じて種々性能を上げる目的で他の樹脂を混和することもできる。他の樹脂として例えば、キシレン樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、タッキファイヤー、ワックスエマルジョン等を例示できる。
【0049】
本明細書において、混和とは、「混合」及び「分散」の双方を含むこととする。「混合」及び「分散」する方法として、通常使用されている方法、例えばボールミキサー、ホモジナイザー又は羽付き攪拌機等の混合機を用いる方法を使用することができる。「混合」及び「分散」することができる限り、これら混合機の使用について特に制限されることはない。
【0050】
上記方法で得られた本発明に係る「アクリル系樹脂組成物」は、無機質成形部材に好適に使用することができ、特に、例えば、ALC板、セメント板及び瓦等の無機質成形板に塗工(又は塗布)して使用される。ここで「塗工」とは、アクリル系樹脂組成物を塗工する方法として通常用いられる方法であれば、限定されることなく使用できる。例えば、ロールコーター、カーテンフローコーターおよびスプレー塗装等の塗料を塗工する方法及び塗料を塗布する方法を例示できる。
【0051】
尚、上述のアクリル系樹脂組成物は、上塗り剤としても下塗り剤(中塗り剤及びいわゆるシーラーを含む)としても使用できるが、下塗り剤、特にシーラーとして使用することが好ましい。ここで「上塗り剤」とは、トップコートとも呼ばれ、最も外側に塗工される塗料をいい、外観の向上、つやだし、耐水性の向上、耐候性の向上等を目的として塗工される塗料をいう。一方、「下塗り剤」とは、上塗り剤以外の塗料をいい、主に防水性、防湿性、基材密着性の向上等を目的として、基材に直接塗工されるシーラー(下地調整剤又はプライマーと呼ばれることもある)、並びに主に上塗り剤とシーラーとの間をつなぎ、防水性、防湿性、耐ブリスター性の向上等を目的として塗工される中塗り剤を含む。
【0052】
本発明に係るアクリル系樹脂組成物は、防湿性を有する防湿アクリル系樹脂組成物として好適に使用することができる。本発明に係る防湿アクリル系樹脂組成物において「防湿」とは、防湿アクリル系樹脂について記載したことと同様であり、その好ましい範囲、より好ましい範囲及び特に好ましい範囲についても、防湿アクリル系樹脂について記載したことと同様である。
【0053】
本発明に係るアクリル系樹脂組成物は、無機質成形部材用シーラーとして好適である。無機質成形部材とは、例えば、珪酸カルシウム、石膏、ロックウール、コンクリート、セメント、モルタル及びスレート等の無機質の材料が、種々の形態(板、ブロック等)に、例えば、押し出し成形等によって成形された部材をいう。
無機質成形部材の好ましい態様の一つとして、「無機質成形板」を例示できる。「無機質成形板」とは、例えば、珪カル板、セメント系押出し成形板、ALC板(軽量気泡コンクリート板)、硬質木片セメント板、瓦及び炭酸マグネシウム板等の無機質の材料が成形された板状の部材をいう。
【実施例】
【0054】
次に、実施例について比較例と併せて説明する。
まず、アクリル系樹脂を調製するために下記成分を準備した。
(A)成分:アルキル(メタ)アクリル酸エステル
(a1−1)ラウリルアクリレート(日本油脂社製)
(a2−1)セチルメタクリレート(日本油脂社製)
(B)成分:エチレン性二重結合を有する単量体
(b1−1)スチレン(和光純薬工業社製)
(b2−1)メチルメタクリレート(和光純薬工業社製)
(b2−2)2−エチルヘキシルアクリレート(和光純薬工業社製)
(b3−1)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカ社製)
(b4−1)メタクリル酸(和光純薬工業社製)
アルキル基の炭素数が18であるアルキル(メタ)アクリル酸エステルとして、
(a’−1)ステアリルアクリレート(日本油脂社製)
更に、下記添加剤も準備した。
乳化剤(反応性界面活性剤)
アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩
(エレミノールJS−2、三洋化成工業社製)
防腐剤
複合型イソチアゾリン系防腐剤(ACTICIDE MBS、ソージャパン社製)
消泡剤
疎水性シリカ系消泡剤(ノプコ8034、サンノプコ社製)
【0055】
実施例1
1重量部の乳化剤(エレミノールJS−2、三洋化成工業社製)を、30重量部の蒸留水に溶解し、これに(A)成分として、5重量部の(a1−1)ラウリルアクリレート、及び(B)成分として、30重量部の(b1−1)スチレン、27重量部の(b2−1)メチルメタクリレート、36重量部の(b2−2)2−エチルヘキシルアクリレート及び2重量部の(b4−1)メタクリル酸を加えて乳化して、乳化液(又はエマルジョン)を調製した。一方、攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、60重量部の蒸留水及び1重量部の乳化剤(エレミノールJS−2、三洋化成工業社製)を加え、窒素ガスを吹き込みながら攪拌しながら加熱して、液温を75℃に調節した。これに、まず、先に調製した乳化液の約5体積%の部分と、開始剤水溶液(0.2重量部の過硫酸ナトリウムを10重量部の蒸留水に溶解したもの)の10体積%の部分を、攪拌しながら加えた後、さらに乳化液の残りの部分と開始剤水溶液の残りの部分の各々を約3時間かけて、攪拌しながら、滴下して反応させた。更に、同温度(75℃)で、約1時間攪拌を続けて反応を完結させた。得られた反応混合物を冷却後、アンモニア水を加えてpHを9に調整して、実施例1のアクリル系樹脂を得た。更に、0.2重量部の防腐剤(ACTICIDE MBS、ソージャパン社製)、0.1重量部の消泡剤(ノプコ8034、サンノプコ社製)を加えて、実施例1のアクリル系樹脂組成物を得た。
【0056】
実施例2〜8
表1に示すような種類の成分を、表1に示すような量で用い、実施例1と同様の方法を用いて実施例2〜8のアクリル系樹脂を得た。尚、実施例7、8では(A)成分の一種として、(a2−1)セチルメタクリレートを配合した。実施例1と同様に、0.2重量部の防腐剤(ACTICIDE MBS、ソージャパン社製)及び0.1重量部の消泡剤(ノプコ8034、サンノプコ社製)を各アクリル系樹脂組成物に添加して、実施例2〜8のアクリル系樹脂組成物を得た。
【0057】
実施例9〜11
(b3)エチレン性二重結合を有するアルコキシシランとして、(b3−1)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー社製)を、(b1−1)スチレン、(b2−1)メチルメタクリレート、(b2−2)2−エチルヘキシルアクリレート、(b4−1)メタクリル酸と共に用いた。表1に示すような割合で各成分を用い、実施例1と同様に重合して、実施例9〜11のアクリル系樹脂を得た。更に0.2重量部の防腐剤(ACTICIDE MBS、ソージャパン社製)、0.1重量部の消泡剤(ノプコ8034、サンノプコ社製)を添加して、実施例9〜11のアクリル系樹脂組成物を得た。
【0058】
比較例1〜5
表1に示すような割合で各成分を用いて、実施例1と同様に重合して、比較例1〜5のアクリル系樹脂を得た。実施例1と同様に0.2重量部の防腐剤(ACTICIDE MBS、ソージャパン社製)、0.1重量部の消泡剤(ノプコ8034、サンノプコ社製)を添加して、比較例1〜5のアクリル系樹脂組成物を得た。
【0059】
アクリル系樹脂組成物の評価方法
実施例及び比較例のアクリル系樹脂組成物の評価は以下の様に行った。
[防水性]
JIS A6909(透水試験B法)に準拠して、透水量を測定することによって行った。即ち、各樹脂組成物を15重量%の水溶液となるように希釈し、また、必要であれば適宜ブチルセロソルブ(可塑剤)を加えて最低造膜温度を0℃に低下させ試験液とした。この試験液をケイカル板(比重0.8)に100g/mの量となるようにはけ塗りし、100℃にて10分間乾燥して塗板を作製した。44cmの面積の塗板を1日で透過する水量(ml)を測定することで透水量を測定した。透水量が大きいほど防水性は小さく、透水量が小さいほど防水性が大きい。評価結果は以下のように表示した。
◎:透水量は0.1ml以下である。
○:透水量は0.1mlより多く、0.2ml以下である。
×:透水量は0.2mlより多い。
【0060】
[防湿性]
各樹脂組成物を35重量%の水溶液となるように希釈し、必要であれば適宜ブチルセロソルブ(可塑剤)を加えて最低造膜温度を0℃に低下させ試験液とした。次に、5mil又は10milのアプリケーターを用いて、この試験液を濾紙(東洋濾紙社製 ♯131)に塗工し、100℃で10分間乾燥して塗工紙を作製した。塗工紙を直径が3.4cmである円形に切断した後、瞬間接着剤を用いて予め10gの塩化カルシウムを入れたシャーレ(直径3cm)の上部に隙間が生じないように接着し、濾紙を接着したシャーレの重量を測定した。さらに、硝酸バリウム飽和水溶液を入れたデシケーターの中に上述の濾紙を接着したシャーレを並べた後、デシケーターを20℃、湿度65%の恒温室内に保管した。定常状態と成った後、濾紙を接着したシャーレの重量を測定し、試験前の重量との差から透湿量(g/m)を求めて、防湿性を評価した。透湿量が大きいほど防湿性は小さく、透湿量が小さいほど防湿性は大きい。評価結果は以下のように表示した。
◎:大変良好であり、透湿量は55g/m以下である。
○:良好であり、透湿量は55g/mより多く、75g/m以下である。
×:不良であり、透湿量は75g/mより多い。
【0061】
[上塗りハジキ性]
各樹脂組成物を15重量%の水溶液となるように希釈し、また、必要であれば適宜ブチルセロソルブ(可塑剤)を加えて最低造膜温度を0℃に低下させ試験液とした。この試験液を、ケイカル板(比重0.8)に100g/mの量となるようにはけ塗りし、100℃にて10分間乾燥して塗板を作製した。さらに、上塗り用樹脂組成物(日本エヌエスシー(株)製のヨドゾールAD137(商品名))を上述の塗膜の上に100g/mの量となるようにはけ塗りした。このときに、塗板上で上塗り用樹脂組成物のハジキの有無、均一に塗布されるか否かを目視にて確認した。評価結果は以下のように表示した。
○:良好であり、上塗り用樹脂組成物は塗板上でハジキがなく、均一に塗布される。
×:不良であり、上塗り用樹脂組成物は塗板上でハジキを生じ、均一に塗布されない。
【0062】
[重合性]
各樹脂重合時の機台汚れ、濾過残渣等から総合判断した。評価結果は以下のように表示した。
◎:大変良好。
○:良好。
×:不良。
【0063】
[基材密着性]
各樹脂組成物を15重量%の水溶液となるように希釈し、また、必要であれば適宜ブチルセロソルブ(可塑剤)を加えて最低造膜温度を0℃に低下させ試験液とした。この試験液をケイカル板(比重0.8)に100g/mの量となるようにはけ塗りし、100℃にて10分間乾燥して塗板を作製した。さらに、上塗り用樹脂組成物(日本エヌエスシー(株)製のヨドゾールAD137(商品名))を上述の塗膜の上に100g/mの量となるようにはけ塗りした。塗板上の皮膜をカッターにて4mm間隔で碁盤の目状に切り、25個の桝目を形成し、その上を粘着テープで圧着した。その後、粘着テープを一気に引き剥がし、剥がれずに塗板上に残存した皮膜の面積を確認することで、基材密着性を評価した。皮膜の残存面積が大きいほど、基材密着性は良く、皮膜の残存面積が小さいほど、基材密着性は悪い。評価結果は以下のように表示した。
◎:大変良好であり、皮膜の残存面積は90%以上である。
○:良好である、皮膜の残存面積は70%以上、90%未満である。
△:普通であり、皮膜の残存面積は50%以上、70%未満である。
×:不良であり、皮膜の残存面積は50%未満である。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示すように、実施例の樹脂組成物はいずれも防水性、防湿性、重合性、基材密着性に優れ、上塗りを塗工してもハジキが見られないことがわかる。
これに対し比較例1、比較例2の樹脂は(A)成分である長鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリル酸エステルの量が少ないため、防水性、防湿性が劣ると考えられる。また、比較例3の樹脂は(A)成分である長鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリル酸エステルの量が多いため上塗りを塗工したときにハジキが発生すると考えられる。比較例4の樹脂は、アルキル基の炭素数が18であるアルキル(メタ)アクリル酸エステルを含むので、重合性が劣り、更にシーラーとしての基本的な特性である基材密着性も低下し得、良好な基材密着性を得られないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステル:0.5〜24重量部と、
(B)エチレン性二重結合を有する単量体:76〜99.5重量部とを、
共重合することで得られるアクリル系樹脂であって、
(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルは、
(a1)アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステル及び
(a2)アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステル
から選択される少なくとも1種であり、
(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、
(b1)スチレン系誘導体及び
(b2)アルキル基の炭素数が8以下であるアルキル(メタ)アクリル酸エステル
を含むアクリル系樹脂。
【請求項2】
(a1)アルキル基の炭素数が10〜16であるアルキルアクリル酸エステルは、ラウリルアクリレートであり、
(a2)アルキル基の炭素数が14〜16であるアルキルメタクリル酸エステルは、セチルメタクリレートである請求項1に記載のアクリル系樹脂。
【請求項3】
(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、さらに、(b3)エチレン性二重結合を有するアルコキシシランを含む請求項1又は2に記載のアクリル系樹脂。
【請求項4】
(A)アルキル(メタ)アクリル酸エステルと(B)エチレン性二重結合を有する単量体との総和を100重量部として、(B)エチレン性二重結合を有する単量体は、(b3)エチレン性二重結合を有するアルコキシシランを0.01〜5.0重量部含有する請求項3に記載のアクリル系樹脂。
【請求項5】
上記共重合を乳化重合で行う請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
無機質成形部材用シーラーとして用いられる請求項6に記載のアクリル系樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−254632(P2007−254632A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82363(P2006−82363)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(397020537)日本エヌエスシー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】