説明

アクリル系樹脂成型品用被覆材組成物およびアクリル系樹脂成型品

【課題】一般のアクリル系樹脂成型品に長期に亘って密着性に優れた被覆を形成し、アクリル系樹脂成型品の透明性や耐候性などを損なうことなく硬度が高く長期に亘って優れた耐磨耗性などを維持することができるアクリル系樹脂成型品を得ることができるアクリル系樹脂成型品用被覆組成物を提供する。
【解決手段】(a−1)特定のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート15〜50質量%、(a−2)一般式(I)


で示される紫外線硬化性多官能モノマー15〜50質量%、(a−3)ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート30〜40質量%からなる紫外線硬化型被覆材組成物A、光重合開始剤B、紫外線吸収剤C、およびヒンダードアミン系光安定剤Dを含む被覆材組成物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂成型品用被覆材組成物や被覆が形成されたアクリル系樹脂成型品に関し、より詳しくは、アクリル系樹脂成型品に対して硬度が高く優れた耐磨耗性を有し、密着性に優れた被覆を形成することができるアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物や、被覆が形成されることにより長期に亘って硬度が高く優れた耐磨耗性を備えたアクリル系樹脂成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にメタクリル酸メチルに代表されるアクリル系モノマーから製造されるポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂は、透明性、耐候性、着色性、易成型性に優れている。そのため、携帯電話の表示窓、液晶ディスプレイ用バックライトの導光板など様々な用途に使用されている。耐候性が非常に良好なため、近年では自動車のテールランプのレンズなどに使用されているが、アクリル樹脂は表面硬度が不足しているため表面が損害を受けやすく、組立て工程における製品歩留まりが低下したり、美観が損なわれたりするため耐摩耗性を改良することが強く要求されている。このようなアクリル樹脂の欠点を補う方法として、アクリル系、メラミン系、ウレタン系、シリコン系などの高い架橋密度を有する被覆剤組成物を成型品表面に塗布し、熱あるいは紫外線、電子線などの活性エネルギー線を用いて硬化させ被膜を形成する方法が開発されている。
【0003】
しかしアクリル系樹脂は、ポリカーボネート樹脂に比べ耐薬品性が強く、耐摩耗性を向上させる被覆材組成物との密着性が乏しい。特に、塗装初期状態において密着性良好な塗膜も、キセノンウェザーメーター、サンシャインウェザーメーター、メタルウェザーに代表される耐候性試験機による曝露試験や屋外曝露試験によって、著しく密着性が低下する。この点を踏まえ、ジペンタエリスリトールジアクリレートに代表される多官能アクリレート、イソシアヌル環骨格を有する多官能アクリレートおよびテトラフルフリルアクリレートに代表される単官能アクリレートからなる樹脂を光硬化させて得られる塗膜において、塗膜の密着性を改善する提案がされている(特許文献1)。またこの他、耐候性試験後の密着性を改善する提案がされている(特許文献2〜4)。
【0004】
さらに、ジペンタエリスリトールジアクリレートに代表される多官能アクリレート、イソシアヌル環骨格を有する多官能アクリレートおよびヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレートに代表される2官能アクリレートからなる樹脂を光硬化させて得られる被膜を設けた耐熱性樹脂成形品において、被膜の密着性が改善されたことが報告されている(特許文献5)。
【0005】
しかしながら、特許文献5に記載の架橋硬化性樹脂材料はメタクリルイミド系樹脂成型品用の硬化被膜となるものであって、メタクリルイミド系樹脂成型品との密着性や、硬化被膜の耐熱性には優れたものであるが、メタクリルイミド単位を含有しない一般のアクリル樹脂成型品への密着性は充分なものではなかった。
【特許文献1】特許第2083277号
【特許文献2】特開平01−045633号公報
【特許文献3】特開平01−045634号公報
【特許文献4】特開平01−045635号公報
【特許文献5】特開昭64−045636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明の目的は、一般のアクリル系樹脂成型品に長期に亘って密着性に優れた被覆を形成し、アクリル系樹脂成型品の透明性や耐候性などを損なうことなく硬度が高く長期に亘って優れた耐磨耗性などを維持することができるアクリル系樹脂成型品を得ることができるアクリル系樹脂成型品用被覆組成物や、アクリル系樹脂成型品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のアクリル系樹脂成型品は、(a−1)ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートよりなる群から選ばれた1種または2種以上のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート15〜50質量%、(a−2)一般式(I)、
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、nは1〜8の整数を表し、Xは少なくとも2個がCH2=CH−COO−基、CH2=C(CH3)−COO−基の群から選ばれる基を表し、残りはCH2=CH−COO−(CH2)5-COO-基、CH2=C(CH3)−COO−(CH2)5-COO-基、-OH基の群から選ばれる基を表す。)で示される紫外線硬化性多官能モノマー15〜50質量%、(a−3)ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート30〜40質量%からなる紫外線硬化型被覆材組成物(A)、光重合開始剤(B)、紫外線吸収剤(C)、およびヒンダードアミン系光安定剤(D)を含む被覆材組成物を紫外線硬化させた被覆を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被覆材組成物は、これを一般のアクリル系樹脂成型品に塗布して硬化することにより、長期に亘って密着性に優れた被覆を形成することができ、アクリル系樹脂成型品の透明性、耐候性などを損なうことなく、硬度が高く優れた耐磨耗性などを長期に亘って維持することができる。また、本発明のアクリル系樹脂成型品においては、透明性、耐候性が損なわれず、硬度が高く優れた耐磨耗性などを長期に亘って維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物は、(a−1)ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートよりなる群から選ばれた1種または2種以上のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート15〜50質量%、(a−2)一般式(I)、
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、nは1〜8の整数を表し、Xは少なくとも2個がCH2=CH−COO−基、CH2=C(CH3)−COO−基の群から選ばれる基を表し、残りはCH2=CH−COO−(CH2)5-COO-基、CH2=C(CH3)−COO−(CH2)5-COO-基、-OH基の群から選ばれる基を表す。)で示される紫外線硬化性多官能モノマー15〜50質量%、(a−3)ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート30〜40質量%からなる紫外線硬化型被覆材組成物(A)、光重合開始剤(B)、紫外線吸収剤(C)、およびヒンダードアミン系光安定剤(D)を含むものであれば、特に制限されるものではない。
【0014】
本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物に使用される紫外線硬化型被覆材組成物(A)を構成するジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(a−1)成分は、形成する被覆において良好な耐候性およびアクリル系樹脂成型品との密着性を発現するための必須成分である。かかるジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(a−1)としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートよりなる群れから選ばれた1種類または2種以上であり、紫外線硬化型被覆材組成物(A)中の含量が15〜50質量%、好ましくは20〜40質量%である。ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(a−1)成分が15質量%以上であれば、形成される被覆が優れた耐候性、耐薬品性、耐擦傷性を有し、また50質量%以下であれば、形成される被覆が優れた耐候性、アクリル系樹脂成型品との密着性を有する。紫外線硬化型被覆材組成物(A)中の含量が20〜40質量%であれば、上記効果をより顕著に得ることができる。ここで、本発明において「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」および「メタクリレート」を含む総称である。
【0015】
本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物に使用される紫外線硬化型被覆材組成物(A)を構成する紫外線硬化性多官能モノマー(a−2)成分は、形成される被覆において良好な耐候性を発現するための必須成分である。紫外線硬化性多官能モノマー(a−2)としては、一般式(I)で表され、式中、nは1〜8の整数であり、Xは少なくとも2
個がCH2=CH−COO−基、CH2=C(CH3)−COO−基の群より選ばれる基を表し、残りはCH2=CH−COO−(CH2)5-COO-基、CH2=C(CH3)−COO−(CH2)5-COO-基、-OH基の群から選ばれる基を表す。紫外線硬化性多官能モノマー(a−2)の紫外線硬化型被覆材組成物(A)中の含量は15〜50質量%、好ましくは20〜40質量%である。紫外線硬化性多官能モノマー(a−2)の紫外線硬化型被覆材組成物(A)中の含量が15〜50質量%であれば、形成される被覆が優れた耐候性を有し、20〜40質量%であれば、上記効果をより顕著に得ることができる。
【0016】
本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物に使用される紫外線硬化型被覆材組成物(A)を構成するヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート(a−3)は、紫外線硬化性モノマーであり、形成される被覆とアクリル系樹脂成型品との密着性を付与するための必須成分である。ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート(a−3)成分の紫外線硬化型被覆材組成物(A)中の含量は、30〜40質量%、好ましくは30〜35質量%である。ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート(a−3)成分の紫外線硬化型被覆材組成物(A)中の含量が30質量%以上であれば、形成される被覆がアクリル系樹脂成型品との優れた密着性を有し、また40質量%以下であれば、形成される被覆が優れた耐擦傷性、耐薬品性、硬化性、耐温水性を有する。ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート(a−3)成分の紫外線硬化型被覆材組成物(A)中の含量が30〜35質量%であれば、上記効果をより顕著に得ることができる。
【0017】
本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物に使用される光重合開始剤(B)としては、紫外線硬化型被覆材組成物(A)との関連および被覆材組成物中での相溶性の観点から適宜選択することができる。かかる光重合開始剤(B)成分としては、具体的に、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドなどの硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドなどのリン酸化合物;2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1やカンファーキノン等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用して用いてもよく、要求される被膜性能に応じて、任意に組み合わせて使用することができる。
【0018】
上記光重合開始剤(B)の本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物中の含有量は、特に制限されるものではないが、好ましくは紫外線硬化型被覆材組成物(A)成分100質量部に対して1〜10質量部の範囲であり、より好ましい下限値は2質量部であり、より好ましい上限値は8質量部である。光重合開始剤(B)の含量が紫外線硬化型被覆材組成物(A)成分100質量部に対して1質量部以上の場合は、アクリル系樹脂成型品に塗布した塗膜の硬化速度を促進させることができ、得られる被覆が優れた硬度(耐摩耗性)を有し、アクリル系樹脂成型品との優れた密着性および耐候性を有する傾向が強い。一方、光重合開始剤(B)の含量が紫外線硬化型被覆材組成物(A)成分100質量部に対して10質量部以下の場合は、被覆の着色、密着性、耐候性の低下を抑制する傾向が強くなる。
【0019】
本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物に使用される紫外線吸収剤(C)成分としては、被覆材組成物中での溶解性に優れ、形成される被覆において紫外線を吸収し耐候性を付与できるものであればいずれのものも使用可能である。その中でも、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、安息香酸フェニル系から誘導された化合物で、それらの最大吸収波長が240〜380nmの範囲にあるものが好ましく、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系がより好ましく、ベンゾフェノン系とベンゾトリアゾール系との組み合わせが特に好ましい。かかる紫外線吸収剤(C)としては、具体的には、2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、フェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレート、p−(1,1,3,3、−テトラメチルブチル)フェニルサリシレート、3−ヒドロキシフェニルベンゾエート、フェニレン−1,3−ジベンゾエート、2−(2−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ3,5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンとグリシジルアルキル(C12−C13)エーテルとの反応生成物等を挙げることができる。これらの中でも、ベンゾフェノン系の2−ヒドロキシ4−オクトキシベンゾフェノン、や2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール系の2−(2−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましく、これらの2種以上を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0020】
上記紫外線吸収剤(C)の本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物中の含有量は、特に制限はないが、(A)成分100質量部に対して、0.5〜10質量部の範囲が好ましく、より好ましくは1〜5質量部の範囲である。紫外線吸収剤(C)の本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物中の含有量が0.5質量部以上の場合、形成される被覆が優れた耐候性を有する傾向が強く、また10質量部以下であれば、形成される被覆が優れた硬化性を有する傾向が強い。
【0021】
本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物に使用されるヒンダードアミン系光安定剤(D)成分としては、形成される被覆に耐光性を付与するものであれば、特に制限されるものではなく、具体的には、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケ−ト、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ブトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ペンチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ヘキシロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ヘプチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジ−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ノニロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−デカニロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ドデシロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等を挙げることができる。これらの中でも、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートは硬化被膜の耐候性を向上させる効果に非常に優れることから特に好ましい。
【0022】
上記ヒンダードアミン系光安定剤(D)の本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物中の含有量は、特に制限はないが、(A)成分100質量部に対して、0.1〜5質量部の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜2質量部の範囲である。ヒンダードアミン系光安定剤(D)の本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物中の含有量が0.1質量部以上の場合、形成される被覆が優れた耐候性を有する傾向が強く、5質量部以下の場合、アクリル系樹脂成型品に塗布した塗膜の硬化速度を促進させることができ、また得られる被覆が硬度が高く、強靭性、耐摩耗性を有する傾向が強い。
【0023】
このような本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物には、アクリル系樹脂成型品に塗布して被覆を形成する塗布液としてそのまま使用することができるように、必要に応じて適宜粘度を調整する粘度調整剤を配合してもよい。粘度調整剤としては、有機溶剤を適宜選択して用いることができる。かかる有機溶剤は、(A)〜(D)成分の他、必要に応じて配合される各種配合剤を含む固形分100質量部に対して、30〜500質量部の範囲で用いることが好ましい。有機溶剤の配合量が30質量部以上であれば、被覆材組成物の塗工性が良好となり、500質量部以下であれば、各種塗工方法における塗布液として好適な粘度となり、好ましい。また、スプレー塗工法やフローコート塗工法に用いる場合は、下限値を100質量部、上限値を300質量部とすることが良好な塗膜が得られ、塗工が容易であるため好ましい。
【0024】
さらに本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物には、その他必要に応じて、酸化防止剤、黄変防止剤、ブルーイング剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、帯電防止剤、防曇剤等の各種の添加剤等の成分が含有させることができる。
【0025】
本発明のアクリル系樹脂成型品は、本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物を硬化させた被覆を有するものであれば、特に制限されるものではなく、本発明のアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物を塗布液としてアクリル系樹脂成型品に塗布し塗膜を形成した後、塗布液が有機溶剤を含有する場合は有機溶剤を揮発させ、その後これを架橋硬化して被覆を形成し、表面に被覆を有するものが好ましい。被覆材組成物のアクリル系樹脂成型品への塗布方法としては、例えばスプレーコート法、スピンコート法、シャワーフローコート法、カーテンフローコート法、ディップ法等の公知の方法を適用することができる。
【0026】
また、前記被覆材組成物の硬化方法としては、紫外線、電子線などの活性エネルギー線の照射および/または加熱などの方法も使用することができ、例えば紫外線の照射による硬化においては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、フュージョンに代表される無電極放電ランプ等公知のものを用いることができる。また、紫外線照射は、空気中でも、窒素、アルゴン等の不活性ガス中でも行なうことができる。
【0027】
本発明のアクリル系樹脂成型品における被覆の膜厚は3〜10μmなどとすることができ、より好ましくは3〜7μmである。膜厚が3μm以上であると、硬度が高く、優れた耐磨耗性やアクリル系樹脂成型品との密着性が強い傾向を示し、10μm以下であると、優れた耐水性を有する傾向が強い。
【0028】
本発明のアクリル系樹脂成型品に用いられる被覆を有するアクリル系樹脂成型品の材質としては、メタクリル酸メチルを代表とするメタクリルモノマーを主成分とし、各種ラジカル重合性モノマーとラジカル重合した熱可塑性ポリマーのアクリル系樹脂が好ましい。例えば、三菱レイヨン社製アクリペットVH、住友化学社製スミペックスMH、旭化成社製デルペット80N、クラレ社製パラペットHR1000Lなどを具体的に挙げることができる。
【0029】
本発明のアクリル系樹脂成型品としては、アクリル系樹脂を射出成型、押出成型、加圧成型等して得られる成型品に硬化被膜を形成したものが好ましい。特に自動車に装備される照明灯用レンズであることが好ましく、ヘッドランプレンズ、テールランプレンズ、フォッグランプレンズなどに好適に使用することができる。またこの他に、信号機のランプ、各種看板、窓ガラス代替品にも使用することができる。
【0030】
このような本発明のアクリル系樹脂成型品は、表面が改質され、優れた透明性、耐候性、耐磨耗性などを有する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されない。実施例中の「部」は総て「質量部」を、「%」は総て「質量%」を示す。
【0032】
実施例中の測定評価は次のような方法で行った。
[被覆の外観評価]
本発明の被覆材組成物を塗布、硬化して得られた試験片の外観を目視評価した。表面が平滑で、透明であるものを○とし、白化、黄変、クモリが観察されるものを×とした。
[耐摩耗性評価]
テーバー摩耗試験器を使用し摩耗輪CS−10、500g荷重にて試験片を300回転摩耗した後、拡散透過率(ヘイズ値)を測定し、耐摩耗性の判定を行った。耐摩耗性の判定基準は次の通りである。
○…増加ヘイズ値=0〜20未満
×…増加ヘイズ値=20以上
[密着性評価]
試験片上の被覆に1mm間隔で基材まで達するクロスカットを入れ、1mm2の碁板目を100個作り、その上にセロテ−プを貼り付け急激にはがし、剥離した碁盤目を数えた。剥離が全くないものを○とし、剥離の数が1〜100個のものを×とした。
[耐熱性評価]
試験片を120℃の熱風乾燥機に24時間入れ、試験片上の被覆の外観変化を目視により観察した。変化がないものを○とし、塗板の全面にクラックが発生したものを×とした。
[耐候性評価]
試験片をサンシャインカ−ボンウエザオメ−タ−(スガ試験機製、WEL−SUN−HC−B型)耐候試験機(ブラックパネル温度63±3℃、降雨12分間、照射48分間のサイクル)を用いて試験した。2000時間曝露後の被覆の変化を観察し、上記耐候試験を行わずに評価した密着性評価と同様の方法で密着性を評価した。
(a)外観の変色については、初期に比べて殆ど変色がないものを○とし、黄変が大きかったものを×とした。
(b)クラックの発生及び膜の剥離については、剥離が認められなかったものを○とし、剥離が認められたものを×とした。
[実施例1〜5]
表1に示す配合比で被覆材組成物を調製し、厚さ3mmのアクリル樹脂板(三菱レイヨン社製、商品名:アクリペットVHの射出成形品)に、硬化後の被覆の厚さが5μmになるようにスプレー塗布した。60℃の加熱炉中にて90秒間加熱し有機溶剤を揮発させた後、空気中で高圧水銀ランプを用い、波長340〜380nmの積算光量が1500mJ/cm2のエネルギーを照射し、塗膜を硬化した。得られた被覆について、上記の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
なお、表1、2中の化合物の記号は次の通りである。
DPHA:日本化薬製カヤラッドDPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)
TAIC:東亞合成製アロニックスM−315(トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート)
UK4101:三菱レイヨン製ダイヤビームUK−4101(ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート)
BNP:ベンゾフェノン
BIP:精工化学製セイクオールBIP(ベンゾインイソプロピルエーテル)
HBPB:チバガイギー製チヌビンPS(2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール)
BOTS:三共化成製サノールLS−765(ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート)
[比較例1〜5]
組成物を構成する構成物の配合割合を表2に示すものに変えた他は、実施例と同様にして被覆を形成し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
結果から、実施例1〜5において、被覆は優れた密着性を有し、また耐候性試験後の密着性も良好であることが分かった。
【0037】
一方、(a−3)成分が全く含まれない比較例1は、密着性、および耐候性後の密着性が不十分であった。(a−3)成分の含有量が(A)成分100質量部に対し30質量部未満である比較例2は、耐候性試験後の密着性が不十分であった。(a−3)成分の含有量が(A)成分100質量部中40質量部を超えている比較例3は、被覆材組成物の硬化性が低く、外観、摩耗性、密着性、耐熱性、耐候性が不十分であった。(a−1)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して15質量部未満であり、かつ(a−2)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して50質量部を超えている比較例4は、外観、摩耗性、密着性、耐熱性、耐候性が不十分であった。(a−1)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して50質量部を超えており、かつ(a−2)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して15質量部未満である比較例5は、密着性、耐熱性、耐候性が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a−1)ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートよりなる群から選ばれた1種または2種以上のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート15〜50質量%、(a−2)一般式(I)
【化1】

(式中、nは1〜8の整数を表し、Xは少なくとも2個がCH2=CH−COO−基、CH2=C(CH3)−COO−基の群から選ばれる基を表し、残りはCH2=CH−COO−(CH2)5-COO-基、CH2=C(CH3)−COO−(CH2)5-COO-基、-OH基の群から選ばれる基を表す。)で示される紫外線硬化性多官能モノマー15〜50質量%、(a−3)ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート30〜40質量%からなる紫外線硬化型被覆材組成物(A)、光重合開始剤(B)、紫外線吸収剤(C)、およびヒンダードアミン系光安定剤(D)を含む被覆材組成物を硬化させた被覆を有するアクリル系樹脂成型品。
【請求項2】
自動車に装備される照明灯用レンズである請求項1記載のアクリル系樹脂成型品。
【請求項3】
(a−1)ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートよりなる群から選ばれた1種または2種以上のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート15〜50質量%、(a−2)一般式(I)
【化2】

(式中、nは1〜8の整数を表し、Xは少なくとも2個がCH2=CH−COO−基、CH2=C(CH3)−COO−基の群から選ばれる基を表し、残りはCH2=CH−COO−(CH2)5-COO-基、CH2=C(CH3)−COO−(CH2)5-COO-基、-OH基の群から選ばれる基を表す。)で示される紫外線硬化性多官能モノマー15〜50質量%、(a−3)ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール変性ジアクリレート30〜40質量%からなる紫外線硬化型被覆材組成物(A)、光重合開始剤(B)、紫外線吸収剤(C)、およびヒンダードアミン系光安定剤(D)を含むアクリル系樹脂成型品用被覆材組成物。


【公開番号】特開2006−198823(P2006−198823A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11296(P2005−11296)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】