説明

アクリル系樹脂組成物よりなるフィルム

【課題】製膜性に優れるアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなる、透明性、柔軟性に優れるフィルムを提供すること。
【解決手段】上記課題を解決する本発明は、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体(A)100質量部に対し、メタクリル酸メチル単位60質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位40質量%以下からなり、平均重合度が3,000〜40,000である高分子加工助剤(B)0.3〜3質量部を配合してなるアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなるフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなるフィルムに関する。より詳細には、本発明は製膜性に優れるアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなる、透明性、柔軟性に優れるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル酸エステル重合体ブロックの両末端にメタクリル酸エステル重合体ブロックが結合した構造を有するアクリル系ブロック共重合体は、柔軟でありながら透明性、耐候性に優れているため、種々の分野で有用であることが知られている。このようなアクリル系ブロック共重合体は、例えば、シート状に成形され、光学分野におけるフィルム・シートならびに屋外建材用途等において用いられている。
【0003】
しかし、アクリル系ブロック共重合体には溶融押出で薄く伸長して薄肉フィルムを製膜する場合に、ドローレゾナンスと呼ばれる、ダイから引きおとされたメルトカーテンの両端部のネックインや厚みが周期的に大きく変動する現象が発生し、厚み均一性に優れる薄肉フィルムを製造するのは困難である。これに対し、2種のブロックポリマーとアクリル系樹脂を含む組成物が提案されている(特許文献1参照)が、透明性が損なわれる場合があり、ブロック単独、あるいは最低限の配合組成物での加工性の改善が望まれている。また、特許文献2にはアクリル系ブロック共重合体と加工助剤ならびに発泡剤を含む発泡体組成物が提案されているが、フィルム用途の記載はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際出願公開WO2010/055798
【特許文献2】特開2010−106253 公報
【特許文献3】特公平7−25859号 公報
【特許文献4】特開平11−335432号 公報
【特許文献5】特開平6−93060号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】マクロモレキュラケミカルフィジックス(MacromoI.Chem.Phys.)201巻,1108〜1114頁(2000年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、製膜性に優れるアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなる、透明性、柔軟性に優れるフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成すべく本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、アクリル系ブロック共重合体に対して、特定の高分子加工助剤を特定の割合で配合することによって、上記問題点が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体(A)100質量部に対し、メタクリル酸メチル単位60質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位40質量%以下からなり、平均重合度が3,000〜40,000である高分子加工助剤(B)0.3〜3質量部を配合してなるアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなるフィルムを提供する。
【0009】
また、本発明は、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体(A)と、メタクリル酸メチル単位80質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位20質量%以下からなり、平均重合度が2,000以下であるアクリル系熱可塑性樹脂(C)とが、30重量部/70重量部〜97重量部/3重量部に対し、メタクリル酸メチル単位60質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位40質量%以下からなり、平均重合度が3,000〜40,000である高分子加工助剤(B)0.3〜3質量部を配合してなるアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなるフィルムを提供する。
【0010】
本発明の好ましい実施態様の一つは、全光線透過率が90%以上であることを特徴とする前記のフィルムである。
【0011】
本発明の好ましい実施態様の一つは、高分子加工助剤(B)におけるメタクリル酸メチル単位と共重合可能なビニル系単量体単位がアクリル酸ブチル単位である前記のフィルムである。
【0012】
好適には、本発明のフィルムを構成するアクリル系樹脂組成物は、キャピログラフのメルトテンション測定装置を用いて、押出温度210℃で、1mmφのキャピラリーから、10mm/分のピストンスピードで押出したストランドを、10倍のドロー比で引取った際の、ストランド線径の変動値(標準偏差/線径の平均値×100)が3.1%以下のものである。
【0013】
好適には、本発明のフィルムを構成するアクリル系樹脂組成物は、キャピログラフのメルトテンション測定装置を用いて、押出温度210℃で、1mmφのキャピラリーから、10mm/分のピストンスピードで押出したストランドを引取った際の、ストランドが破断するドロー比が15倍以上のものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記構成をとることにより、製膜性に優れたアクリル系樹脂組成物からなる、透明性、柔軟性に優れたアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなるフィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のアクリル系樹脂組成物は、アクリル系ブロック共重合体(A)が、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体であり、平均重合度が3,000〜40,000である高分子加工助剤(B)0.3〜3質量部を配合してなるアクリル系溶融押出フィルムである。
【0016】
本発明における第1の成分であるアクリル系ブロック共重合体(A)は、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造、すなわち、(a2)−(a1)−(a2)の構造(構造中「−」は、化学結合を示す)を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体である。アクリル系ブロック共重合体(A)における、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)は、主としてアクリル酸エステル単位から構成される重合体ブロックである。重合体ブロック(a1)を形成させるためのアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチルなどを挙げることができる。これらの中でも、柔軟性を向上させる観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチルなどのアクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましい。重合体ブロック(a1)は、これらのアクリル酸エステルの1種から構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。
【0017】
また、本発明の目的および効果の妨げにならない限りにおいて、重合体ブロック(a1)は、反応基を有するアクリル酸エステル単位、例えば、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、またはアクリル酸エステル単位以外の他の重合性単量体単位、例えば、下記メタクリル酸エステル、メタクリル酸、アクリル酸、芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、オレフィンなどのモノマーを共重合成分として含んでいてもよい。これら反応基を有するアクリル酸エステル単位または他の重合性単量体単位は本発明の効果を発現させる観点から少量であることが好ましく、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0018】
上記アクリル系ブロック共重合体(A)における、メタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)は、主としてメタクリル酸エステル単位から構成される重合体ブロックである。重合体ブロック(a2)を形成させるためのメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチルなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性、耐熱性を向上させる観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。重合体ブロック(a2)は、これらのメタクリル酸エステルの1種から構成されていても、2種以上から構成されていてもよい。
【0019】
また、本発明の目的および効果の妨げにならない限りにおいて、重合体ブロック(a2)は、反応基を有するメタクリル酸エステル単位、例えば、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル、またはメタクリルエステル単位以外の他の重合性単量体単位、例えば、前記アクリル酸エステル、メタクリル酸、アクリル酸、芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、オレフィンなどのモノマーを共重合成分として少量、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下含んでいてもよい。
【0020】
アクリル系ブロック共重合体(A)は、1個のアクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)と2個のメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)からなる(a2)−(a1)−(a2)構造を分子内に少なくとも1個を有する。アクリル系ブロック共重合体(A)の分子鎖形態は、特に限定されることなく、例えば、線状、分枝状、放射状などのいずれでもよい。その中でも(a2)−(a1)−(a2)で表されるトリブロック体を用いることが好ましい。ここで、(a1)の両端の(a2)の分子量、組成などは同じであってもよいし、相互に異なっていてもよい。
【0021】
本発明の目的および効果の妨げにならない限りにおいて、アクリル系ブロック共重合体(A)は、これらの重合体ブロック(a1)および(a2)とは別の重合体ブロックとして、アクリル酸エステルモノマーおよびメタクリル酸エステルモノマー以外のモノマーから誘導される重合体ブロック(d)を有しても良い。重合体ブロック(d)と上記アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)、メタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)との結合の形態は特には限定されないが、例えば、
(a2)−((a1)−(a2))n−(d)や、(d)−(a2)−((a1)−(a2))n−(d)などの構造(nは1〜20の整数である)が挙げられる。
【0022】
上記重合体ブロック(d)を構成するモノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン1,3−ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン化合物、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、酢酸ビニル、ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、アクリルアミド、メタクリルアミド、ε−カプロラクトン、バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0023】
本発明に用いるアクリル系ブロック共重合体(A)は、必要に応じて、分子鎖中または分子鎖末端に水酸基、カルボキシル基、酸無水物、アミノ基などの官能基を有していてもよい。
【0024】
アクリル系ブロック共重合体(A)の重量平均分子量は、10,000〜150,000であり、本発明のアクリル系樹脂組成物からなるフィルムの柔軟性、成形加工性などを向上させる観点から、30,000〜100,000であるのが好ましく、アクリル系ブロック共重合体(A)の重量平均分子量が10,000よりも小さいと、溶融押出成形において十分な溶融張力を保持できず、良好なフィルムが得られにくく、また得られたフィルムの破断強度などの力学物性が劣ることになる。一方、150,000よりも大きいと、溶融樹脂が高粘度化し、溶融押出成形で得られるフィルムの表面に微細なシボ調の凹凸や未溶融物(高分子量体)に起因するブツが発生し、良好なフィルムが得られにくい傾向がある。
【0025】
アクリル系ブロック共重合体(A)における、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の重量平均分子量は、2,000〜80,000であるのが好ましく、5,000〜70,000であるのがより好ましい。また、メタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)の重量平均分子量は、2,000〜80,000であるのが好ましく、5,000〜70,000であるのがより好ましい。
【0026】
また、アクリル系ブロック共重合体(A)の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、1.01以上1.50未満の範囲内にあるのがよく、1.01以上1.35以下の範囲内にあるのがより好ましい。このような範囲を取ることにより、本発明のアクリル系樹脂組成物からなるフィルムにおけるブツの発生原因となる未溶融物の含有量を極めて少量とすることができる。
【0027】
アクリル系ブロック共重合体(A)の製造方法としては、特に限定されず、公知の手法に準じた方法を採用することができる。例えば、アクリル系ブロック共重合体(A)を得る方法としては、各ブロックを構成するモノマーをリビング重合する方法が一般に使用される。このようなリビング重合の手法としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法(特許文献3参照)、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法(特許文献4参照)、有機希土類金属錯体を重合開始剤として重合する方法(特許文献5参照)、α−ハロゲン化エステル化合物を開始剤として銅化合物の存在下ラジカル重合する方法(非特許文献1参照)などが挙げられる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて、各ブロックを構成するモノマーを重合させ、本発明のアクリル系ブロック共重合体(A)を含有する混合物として製造する方法なども挙げられる。これらの方法中、特に、アクリル系ブロック共重合体が高純度で得られ、また分子量や組成比の制御が容易であり、かつ経済的であることから、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法が推奨される。
【0028】
本発明において高分子加工助剤(B)は、メタクリル酸メチル単位60質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位40質量%以下からなり、平均重合度が3,000〜40,000の高分子化合物である。メタクリル酸メチルと共重合可能なビニル系単量体の例としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸エステル、スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系化合物、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート等の多官能性単量体を挙げることができる。
【0029】
高分子加工助剤(B)を製造するための重合法については、特に制限はないが、乳化重合によるのが好適である。乳化重合に用いることのできる乳化剤としては、例えば、アニオン系乳化剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、ノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等、ノニオン・アニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウムなどのアルキルエーテルカルボン酸塩等を使用することができる。
【0030】
また、使用する乳化剤の種類によって重合系のpHがアルカリ側になるときは、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステルの加水分解を防止するために適当なpH調整剤を使用することができる。使用するpH調節剤としては、ホウ酸−塩化カリウム−水酸化カリウム、リン酸二水素カリウム−リン酸水素二ナトリウム、ホウ酸−塩化カリウム−炭酸カリウム、クエン酸−クエン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム−ホウ酸、リン酸水素二ナトリウム−クエン酸等を使用することができる。
【0031】
また、重合開始剤としては、水溶性開始剤あるいは油溶性開始剤の単独系、もしくはレドックス系のもので良く、水溶性開始剤の例としては通常の過硫酸塩等の無機開始剤を単独で用いるか、あるいは亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩等との組み合わせによってレドックス系開始剤として用いることもできる。
【0032】
油溶性開始剤の例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の有機過酸化物、アゾ化合物等を単独で用いるか、あるいはナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート等との組み合わせによってレドックス系開始剤として用いることもできるが、かかる具体例のみに限定されるものではない。
【0033】
また、高分子加工助剤(B)の平均重合度は、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等の連鎖移動剤や重合条件等で任意に調整が可能である。
【0034】
本発明において、高分子加工助剤(B)の平均重合度が3,000〜40,000の範囲が好ましい。高分子加工助剤(B)の平均重合度が3,000未満ではフィルム製膜性の十分な改善効果が認められない。一方、高分子加工助剤(B)の平均重合度が40,000を超えると、透明性が低下すること、または、溶融張力が高くなりすぎて製膜時にメルトカーテンの両端部がちぎれやすくなることがある。高分子加工助剤(B)の配合量は、アクリル系ブロック共重合体(A)100質量部に対し、0.3〜3質量部であり、好ましくは0.5〜2質量部である。高分子加工助剤の配合量が0.3質量部未満であると、アクリル系樹脂組成物のフィルム製膜性の十分な改善効果が発現しなくなる。一方、高分子加工助剤の配合量が3質量部を超えると、透明性が低下すること、または、溶融張力が高くなりすぎて製膜時にメルトカーテンの両端部がちぎれやすくなることがある。
【0035】
本発明において、アクリル系樹脂組成物には、アクリル系ブロック共重合体(A)および高分子加工助剤(B)のほかにさらにアクリル系熱可塑性樹脂(C)を配合することができる。使用可能なアクリル系熱可塑性樹脂(C)は、メタクリル酸メチル単位80質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位20質量%以下から構成される、平均重合度が2,000以下のものである。ここで共重合可能なビニル系単量体の例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα、β不飽和カルボン酸、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物などを挙げることができる。これらのビニル系単量体は2種以上を併用することができる。
【0036】
ここで、配合されるアクリル系熱可塑性樹脂(C)の平均重合度は、2,000以下である。これより高いと、配合後のアクリル系樹脂組成物の粘度が非常に高くなり、溶融押出が困難となる。
【0037】
アクリル系ブロック共重合体(A)と、アクリル系熱可塑性樹脂(C)の配合割合は30質量部/70質量部〜97質量部/3質量部である。アクリル系熱可塑性樹脂(C)の配合割合が70質量部を超えると、柔軟性が損なわれるため好ましくない。
【0038】
アクリル系熱可塑性樹脂(C)は、上記の条件が満たされる限り、市販のメタクリル樹脂であってもよく、さらにはISO 8257−1:1997(E)「プラスチック−ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)成形用および押し出し用材料」(“Plastics−Poly(Methyl Methacrylate)(PMMA)moulding and extrusion material−”)に規定されている材料から選択されてもよい。本発明においてアクリル系熱可塑性樹脂(C)を製造するための重合法については、特に制限はなく、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等の公知の重合方法を採用することができる。
【0039】
本発明の熱可塑性重合体組成物を調製する方法は特に制限されないが、該熱可塑性重合体組成物を構成する各成分の分散性を高めるため、溶融混練して混合する方法が推奨される。該調製方法としては、例えば、アクリル系ブロック共重合体(A)および高分子加工助剤(B)及びアクリル樹脂(C)を溶融混練する方法が挙げられるが、必要に応じてこれらと下記の添加剤とを同時に混合しても良いし、アクリル系ブロック共重合体(A)を、下記の添加剤とともに混合後、高分子加工助剤(B)およびアクリル樹脂(C)と混合してもよい。混合操作は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合または混練装置を使用して行なうことができる。特に、アクリル系ブロック共重合体(A)と高分子加工助剤(B)およびアクリル樹脂(C)の混練性、相溶性を向上させる観点から、二軸押出機を使用することが好ましい。
【0040】
混合・混練時の温度は、使用するアクリル系ブロック共重合体(A)、アクリル樹脂(C)等の溶融温度などに応じて適宜調節するのがよく、通常110℃〜300℃の範囲内の温度で混合するとよい。二軸押出機を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練および、あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。このようにして、本発明のアクリル系樹脂組成物を、ペレット、粉末などの任意の形態で得ることができる。ペレット、粉末などの形態のアクリル系樹脂組成物は、成形材料として使用するのに好適である。また、アクリル系ブロック共重合体(A)をアクリル系モノマーとトルエン等の溶媒の混合溶液に溶解し、アクリル系モノマーを重合することにより、アクリル系ブロック共重合体を含むアクリル樹脂組成物を製造することもできる。
【0041】
本発明において、アクリル系樹脂組成物を溶融押出してなるフィルムには、上記した成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、老化防止剤、可塑剤、染料、顔料、滑剤などの他の成分の1種または2種以上を含有していてもよい。これらの成分の含有量は、一般に、アクリル系樹脂組成物100質量%に対して0.01〜20質量%である。
【0042】
本発明のアクリル系溶融押出フィルムは、厚みが0.5mm以下のものを指す。
【0043】
本発明のアクリル系溶融押出フィルムを製造する方法としては、製造工程性、コストなどの点からTダイ法、インフレーション法、溶融流延法等による溶融押出成形が好ましく、生産性、厚み精度に優れる点からTダイ法がより好ましい。
【0044】
Tダイ法による製造方法の場合、Tダイとしては、特に制限されず、例えば、コートハンガー型やストレート型などの公知のダイが挙げられる。ダイの材質としては、SCM系の鋼鉄、SUSなどのステンレス材などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0045】
Tダイ法による製造方法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明のフィルムを製造するための溶融押出温度は好ましくは100〜300℃、より好ましくは200〜250℃である。また、溶融押出装置を使用し溶融押出しする場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融押出しあるいは窒素気流下での溶融押出しを行なうことが好ましい。
【0046】
Tダイ法による製膜方法の場合、フィルムの表面性の観点から、Tダイにより押出されたフィルム状の樹脂の少なくとも片面を、ロールまたはベルトに接触させて製膜する方法が好ましく、さらに、フィルム状の樹脂の両面を、2本のロール又は/及びベルトに接触させて製膜する方法が、より好ましい。ロールおよびベルトの材質、構成および配置には、特に制限はなく、公知のものを使用することができるが、高い平滑性のフィルムを得る為には、鏡面処理を施した金属製ロールを使用することが好ましい。又、金属製外筒が弾性変形性を有するロール(金属弾性ロール)を使用すると、成形時の歪みを低減することができるため、より好ましい。又、ロールまたはベルトの表面に、エンボス加工または任意の彫刻を施し、溶融製膜の際に、フィルムにそれらの形状を転写することで、表面に任意の形状を賦形することもできる。
【0047】
必要に応じて、製膜後のフィルムを延伸することもできる。延伸の方法としては、来公知の延伸方法を使用することができ、一軸延伸や、逐次二軸延伸や同時二軸延伸等の二軸延伸法が挙げられる。
【0048】
本発明のアクリル系溶融押出フィルムは、単層で用いてもよく、2層以上の積層体として用いてもよい。積層体として用いる場合には、本発明のフィルムのみを積層してもよく、本発明のフィルムと他の素材を積層してもよい。積層体を形成する場合には、公知の方法で各層を製造することが可能である。すなわち、Tダイ法やインフレーション法などの押出成形による共押出法、溶融押出ラミネート法、熱融着、超音波融着、高周波融着などの融着法、紫外線、熱、放射線などで硬化する公知の接着剤を利用する方法等が挙げられる。また、融着あるいは接着される面は、公知のプライマーを塗布しても良く、コロナ放電処理、プラズマ処理などを行なってもよい。積層体を形成する場合、積層、印刷あるいは表面形状の付与、目的の大きさへの切削の順番は特に限定されない。本発明のフィルムを、積層型光学部品として用いる場合など、他素材と組み合わせて光学部品を形成する場合、他素材としては、所望の特性に合わせて適宜選択したものを用いることができ、有機系化合物もしくは重合体、無機物質やこれらを含む組成物などをいずれも用いることができる。具体的には、例えば本発明のフィルムと、他素材とを積層して光学部品を形成する場合には、他素材としては、ハードコート材、反射防止材、液晶などの有機系化合物もしくは組成物、環状オレフィン系開環重合体もしくはその水素添加物、付加重合型環状オレフィン系重合体、脂肪族系オレフィン樹脂、アクリル系重合体、ポリカーボネート系樹脂、液晶ポリマーなどの有機系重合体もしくは組成物、ソーダガラスや石英ガラスなどの無機物質もしくは組成物などの市販もしくは公知の素材を使用することができる。
【0049】
本発明のアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなるフィルムの用途は特に限定されないが、光学分野、食品分野、医療分野、民生分野、自動車分野、電気・電子分野などの多岐の用途で利用することができる。特に本発明のシート状成形体は、表面平滑性・成形加工性に優れ、且つ柔軟性に優れ、短波長光の光線透過率等の光学特性に優れている点から、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、映像・光記録・光通信・情報機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ、各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター、液晶ディスプレイ、液晶ディスプレイ用導光フィルム・シート、フラットパネルディスプレイ、フラットパネルディスプレイ用導光フィルム・シート、プラズマディスプレイ、プラズマディスプレイ用導光フィルム・シート、位相差フィルム・シート、偏光フィルム・シート、偏光板保護フィルム・シート、波長板、光拡散フィルム・シート、プリズムフィルム・シート、反射フィルム・シート、反射防止フィルム・シート、視野角拡大フィルム・シート、防眩フィルム・シート、輝度向上フィルム・シート、液晶やエレクトロルミネッセンス用途の表示素子基板、タッチパネル、タッチパネル用導光フィルム・シート、各種前面板と各種モジュール間のスペーサーなど、公知の光学用途へ好適に適用可能である。具体的には、例えば、携帯電話、デジタル情報端末、ポケットベル、ナビゲーション、車載用液晶ディスプレイ、液晶モニター、調光パネル、OA機器用ディスプレイ、AV機器用ディスプレイ等の各種液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子あるいはタッチパネルなどに用いることができる。また、耐候性、柔軟性などに優れている点から、例えば、建築用内・外装用部材、カーテンウォール、屋根用部材、屋根材、窓用部材、雨どい、エクステリア類、壁材、床材、造作材、道路建設用部材、再帰反射フィルム・シート、農業用フィルム・シート、照明カバー、看板、透光性遮音壁など、公知の建材用途へも好適に適用可能である。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の各種物性は以下の方法により測定または評価した。
【0051】
(1)重量平均分子量
アクリル系ブロック共重合体(A1)、(A2)およびアクリル樹脂(B)の重量平均分子量はゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下GPCと略記する)によりポリスチレン換算分子量で求めた。
装置:東ソー株式会社製GPC装置「HLC−8020」
・分離カラム:東ソー株式会社製の「TSKgeIGMHXL」、「G4000HxL」および「G5000HxL」を直列に連結
・溶離剤:テトラヒドロフラン
・溶離剤流量:1.OmI/分
・カラム温度:400℃
【0052】
(2)平均重合度
高分子加工助剤(B)およびアクリル系熱可塑性樹脂(C)の平均重合度は自動希釈型毛細管粘度計(ウベローデ型、毛細管内径=0.5mm)を用い、クロロホルムを溶媒として20℃で測定して、PMMA換算重合度で求めた。
【0053】
(3)MMA組成
高分子加工助剤(B)のMMA組成は、重水素化クロロホルムを溶媒とし、1H−NMRスペクトル(日本電子製 JNM−GX270)より測定した。
【0054】
(4)ストランド線径変動値
実施例または比較例で得られたアクリル系樹脂組成物のペレットを、キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製 型式1D)を用いて、押出温度210℃で、直径1mmφ長さ40mmのキャピラリーより、ピストンスピード10mm/分で押出して得られるストランドを、付属のメルトテンション測定器で、9.8m/分(ドロー比10倍)で引取り、キャピラリー吐出口から8mmの線径を、付属のレーザー式ダイスウェル測定器にて、測定間隔0.125秒で、30秒間測定し、線径変動値を式(1)より求めた。
線径変動値=線径の標準偏差値σ/線径の平均値×100 (1)
【0055】
(5)破断ドロー比
実施例または比較例で得られたアクリル系樹脂組成物のペレットを、キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製 型式1D)を用いて、押出温度210℃で、直径1mmφ長さ40mmのキャピラリーより、ピストンスピード10mm/分で押出して得られるストランドを、付属のメルトテンション測定器で、開始引取り速度2m/分から、タイムスケール4分で引取り速度を増速し、ストランドが破断するドロー比を求めた。
【0056】
(6)製膜性評価
65mmΦベント式1軸押出機を用い、幅400mmのダイより押出温度210℃にて、吐出量12kg/hにて押出し、30℃と50℃の金属鏡面ロールでニップし、5m/分で引き取り、厚さ100μmのフィルムを製膜した。この際、ダイから引き落とされたメルトカーテンの両端部のネックインの変動やちぎれを評価した。
○:メルトカーテンの両端部のネックインの変動やちぎれがない。
×:メルトカーテンの両端部のネックインの変動やちぎれがある。
【0057】
(7)透明性
製膜性評価で得られた厚さ100μのフィルムから50mm×50mmの試験片を切り出し、村上色彩技術研究所株式会社製ヘイズメーターHM−150にて、JIS−K7105に準拠し、ヘイズ、全光線透過率を測定した。
【0058】
(8)導光性
キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製 型式1D)を用い、押出温度210℃で、直径1mmφ長さ40mmのキャピラリーより、ピストンスピード10mm/分で押し出して得られるストランドから、長さ127mmの試験片を切り出し、LED光源装置にて試験片の端面からLED光を入光させ、反対端面から出る光の輝度を目視により評価し、これを導光性の指標とした。
○:吸収および拡散による光損失が極めて少なく、出光面の輝度が高い
△:吸収および拡散による光損失が多少影響し、出光面の輝度が若干低い
×:吸収および拡散による光損失が大きく、出光面の輝度が極めて低い
【0059】
以下に示す合成例においては、化合物は常法により乾燥精製し、窒素にて脱気したものを使用した。また、化合物の移送および供給は窒素雰囲気下で行なった。
【0060】
<参考例1>[有機アルミニウム化合物:イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムの調製]
ナトリウムで乾燥後、アルゴン雰囲気下に蒸留して得た乾燥トルエン25mlと、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール11gを、内部雰囲気をアルゴンで置換した内容積200mlのフラスコ内に添加し、室温で撹拝しながら溶解した。得られた溶液にトリイソブチルアルミニウム6.8mlを添加し、80℃で約18時間撹拝することによって、対応する有機アルミニウム化合物[イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム]をO.6mol/lの濃度で含有するトルエン溶液を調製した。
【0061】
<参考例2>[アクリル系ブロック共重合体(A1)の合成]
イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウムの存在下、sec−ブチルリチウムを重合開始剤として用い、トルエン中で各ブロックに相当するモノマー、即ち、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルを、この順で逐次添加してアニオンリビング重合する方法により合成し、用いたアルミニウム分、リチウム分を除去後、脱揮2軸押出機によりアクリル系トリブロック共重合体を得た。
得られたアクリル系ブロック共重合体は、PMMA含量=50質量%、重量平均分子量=62,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)=1.11であった。
【0062】
<参考例3>[アクリル系ブロック共重合体(A2)の合成]
イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウムの存在下、sec−ブチルリチウムを重合開始剤として用い、トルエン中で各ブロックに相当するモノマー、即ち、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルを、この順で逐次添加してアニオンリビング重合する方法により合成し、用いたアルミニウム分、リチウム分を除去後、脱揮2軸押出機によりアクリル系トリブロック共重合体を得た。
得られたアクリル系ブロック共重合体は、PMMA含量=50質量%、重量平均分子量=105,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)=1.09であった。
【0063】
<実施例1〜6、比較例1〜3>
上記参考例で得られたアクリル系ブロック共重合体(A1、A2)と、高分子加工助剤として[B1:株式会社三菱レーヨン社製メタブレンP530A(平均重合度:24455、MMA80質量%/BA20質量%)、B2:株式会社三菱レーヨン社製メタブレンP531A(平均重合度:37162、MMA80質量%/BA20質量%)、B3:株式会社三菱レーヨン社製メタブレンP550A(平均重合度:7734、MMA88質量%/BA12質量%)、B4:株式会社ローム・アンド・ハース社製パラロイドK125P(平均重合度:19874、MMA79質量%/BA21質量%)、B5:三菱レーヨン社製メタブレンP570A(平均重合度:2384、MMA53重量%/BA47重量%)]およびアクリル樹脂[C1:株式会社クラレ製パラペットH−1000B (平均重合度:820、MMA90質量%/MA10質量%)]を、下記の表1に示す配合割合で、二軸押出機により230℃で溶融混練した後、押出し、ストランドを切断することによって、熱可塑性重合体組成物のペレットを製造した。このペレットを用いて、上記方法にて、ストランド線径変動値、破断ドロー比、製膜性、導光性、透明性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果より、高分子加工助剤(B)の含有量が少なすぎる場合(比較例1)、高分子加工助剤(B)の平均重合度が小さすぎる場合(比較例2)および高分子加工助剤(B)の含有量が多すぎる場合(比較例3)ではいずれも製膜性が不良であったのに対し、本発明の実施例1〜6においては、良好な製膜性が得られていることがわかる。また、実施例1〜6においては、製膜性の他の特性についても良好な結果が得られており、性能と製造安定性に優れるフィルムが得られている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体(A)100質量部に対し、
メタクリル酸メチル単位60質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位40質量%以下からなり、平均重合度3,000〜40,000である高分子加工助剤(B)0.3〜3質量部を配合してなるアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなるフィルム。
【請求項2】
アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a1)の両末端にそれぞれメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロック(a2)が結合した構造を分子内に少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体(A)と、メタクリル酸メチル単位80質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位20質量%以下からなり、平均重合度が2,000以下であるアクリル系熱可塑性樹脂(C)とが、30重量部/70重量部〜97重量部/3重量部に対し、メタクリル酸メチル単位60質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位40質量%以下からなり、平均重合度3,000〜40,000である高分子加工助剤(B)0.3〜3質量部を配合してなるアクリル系樹脂組成物を溶融押出してなるフィルム。
【請求項3】
高分子加工助剤(B)におけるメタクリル酸メチル単位と共重合可能なビニル系単量体単位がアクリル酸ブチル単位である請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
全光線透過率が90%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記アクリル系樹脂組成物が、キャピログラフのメルトテンション測定装置を用いて、押出温度210℃で、1mmφのキャピラリーから、10mm/分のピストンスピードで押出したストランドを、10倍のドロー比で引取った際の、ストランド線径の変動値(標準偏差/線径の平均値×100)が3.1%以下のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂組成物が、キャピログラフのメルトテンション測定装置を用いて、押出温度210℃で、1mmφのキャピラリーから、10mm/分のピストンスピードで押出したストランドを引取った際の、ストランドが破断するドロー比が15倍以上のものである請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルム。

【公開番号】特開2013−43964(P2013−43964A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184656(P2011−184656)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】