説明

アクリル系樹脂組成物及び成形品

【課題】環境に対する負荷が少なく、柔軟性、成形加工性及び制電性に優れたアクリル系樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】アクリル系重合体(A)100質量部、ポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールの誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)をアクリル系重合体(A)100質量部に対して20〜90質量部、並びにアルカリ金属塩及びアルカリ土類塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)をアクリル系重合体(A)100質量部に対して0.01〜5質量部を含有するアクリル系樹脂組成物及びその成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル系樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
軟質材料は様々な産業分野で用いられており、従来、その主流となる材料はポリ塩化ビニル樹脂を可塑剤によって可塑化した、いわゆる軟質ポリ塩化ビニル樹脂であった。軟質材料に対する社会的ニーズは今後も伸びていくと予想される。しかしながら、近年、軟質材料として、環境保護の観点からポリ塩化ビニル樹脂から非ハロゲン系樹脂への代替が求められている。
また、軟質材料は自動車部品及び電気・電子部品等の材料として広く使用されているが、軟質ポリ塩化ビニル樹脂等の材料は帯電しやすく、これら材料を成形して得られる成形品の表面にほこり等が付着するため、成形品の外観を損なう、また、成形品に帯電した電気が障害を与えるという問題があった。
【0003】
このような背景から、アクリル系樹脂を可塑剤により可塑化させた材料が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この技術では可塑剤としてフタル酸エステル系化合物が使用されており、環境上の問題について完全に明確化されておらず、また、帯電防止機能の開示もない。
一方、帯電の問題を解決する方法として、ポリアルキレンオキサイドのカルボン酸エステル化物とアルカリ金属塩を併用した帯電防止剤を使用することが提案されている。(特許文献2)しかしながら、この技術で開示されている樹脂は硬質アクリル系樹脂であり、軟質材料への適用については開示されてない。
【特許文献1】国際公開第2005/012425号パンフレット
【特許文献2】特開平10−87944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、環境に対する負荷が少なく、柔軟性、成形加工性及び制電性に優れたアクリル系樹脂組成物及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に対して鋭意検討を行なった結果、アクリル系重合体に対してポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールの誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物を可塑剤として使用することで環境に対する負荷を少なくし、また、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を併用することで帯電防止機能を顕著に発現させることにより上記課題を解決することを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明の要旨とするところは、アクリル系重合体(A)(以下、「(A)成分」という)100質量部、ポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールの誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)(以下、「(B)成分」という)をアクリル系重合体(A)100質量部に対して20〜90質量部、並びにアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)(以下、「(C)成分」という)をアクリル系重合体(A)100質量部に対して0.01〜5質量部を含有するアクリル系樹脂組成物を第1の発明とし、このアクリル系樹脂組成物を成形して得られる成形品を第2の発明とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアクリル系樹脂組成物は環境に対する負荷が少なく、柔軟性、成形加工性及び制電性に優れていることから、得られる成形品を自動車部品、電気・電子部品等の各種用途に広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いられる(A)成分は、(B)成分を良好に保持するためのものとして機能し、得られるアクリル系樹脂組成物に柔軟性を付与することができる。
(A)成分の質量平均分子量は10万〜200万が好ましい。質量平均分子量が10万以上で、(B)成分の保持性を良好とすることができ、得られる成形品に充分な機械的強度を付与できる傾向にある。また、質量平均分子量が200万以下で、アクリル系樹脂組成物の加熱溶融時の流動性が低下せず、良好な成形加工性が得られる傾向にある。
【0008】
本発明において、(A)成分は、得られる成形品の機械的強度と、アクリル系樹脂組成物の加熱溶融時の流動性を向上し、射出成形等の加工性を容易にするために、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを測定して得られるクロマトグラムが、分子量5万〜35万の低分子量領域と、分子量40万〜200万の高分子量領域の両方にピークを持つものがより好ましい。
(A)成分の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定する。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを測定して得られたクロマトグラムが明確に2つのピークに分かれていない場合には、波形分離処理を行なって2つのピークに分離し、各ピークの分子量を求めることができる。
【0009】
クロマトグラムが、分子量5万〜35万の低分子量領域と、分子量40万〜200万の高分子量領域の両方にピークを持つ重合体を得る方法としては、例えば、低分子量領域の重合体と高分子量領域の重合体をブレンドする方法、及び多段重合等により低分子量領域の重合体成分と高分子量領域の重合体成分を有する重合体を得る方法が挙げられる。
【0010】
(A)成分を得るための原料として使用される単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
本発明においては、必要に応じて、単量体中に架橋剤を含有させることができる。架橋剤としては、例えば、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びアリルメタクリレートが挙げられる。
上記単量体は1種で又は2種以上を併用して使用できる。尚、本発明において(メタ)アクリレートの表示はメタクリレート又はアクリレートを表す。
【0011】
本発明において、(A)成分は、単独重合体にしたときのガラス転移温度が0℃以下を与える単量体単位(以下、「軟質単量体単位」という)を有することが好ましい。(A)成分中に軟質単量体単位を含有させることにより、後述する(B)成分と同様に重合体を軟質化することができ、(B)成分の添加量を低減することができる傾向にある。その結果、得られる成形品からの(B)成分の浸出をより抑制することができる傾向にある。また、(A)成分中に軟質単量体単位を含有させることにより、得られる成形品の低温特性(低温での伸び、柔軟性等)を向上することができる傾向にある。
【0012】
軟質単量体単位を形成するための原料である軟質単量体としては、例えば、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート及びオクチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
(A)成分中の軟質単量体単位の含有率は、得られる成形品の機械的強度(特に引裂強度)の点で、60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。(A)成分中の軟質単量体単位の含有率は、得られる成形品の低温特性の点で、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
【0013】
本発明においては、(A)成分は、後述する(B)成分との相溶性の点で、以下に示す溶解度パラメーター(SP値)を有していることが好ましい。
例えば、(B)成分としてポリエチレングリコールを用いる場合は、(A)成分のSP値は20.5(J/cm1/2以下が好ましい。また、(B)成分としてポリプロピレングリコールを用いる場合は、(A)成分のSP値は19.8〜20.5(J/cm1/2が好ましい。更に、(B)成分としてポリブチレングリコールを用いる場合は、(A)成分のSP値は19.6(J/cm1/2以上が好ましい。
尚、本発明におけるSP値は公知のFedorsの式(Polymer Eng.& Sci.,第14巻、第2号(1974)、第147頁〜第154頁参照)によって計算により得られる値である。
【0014】
本発明において、(A)成分の構造としては特に限定されないが、重合体に種々の性能を付与できる点で粒子構造を有するものが好適である。また、(A)成分の粒子構造も特に限定されるものではない。(A)成分の低分子量成分、高分子量成分又は軟質単量体単位が独立した別個の粒子の混合状態で存在してもよく、また単一の粒子の内部に何らかの構造を持って存在しても良い。粒子の内部に構造を持つ例としてはコアシェル構造(多層構造)が挙げられる。例えば、コアとして高分子量成分及びシェルとして低分子量成分を有するコアシェル構造が挙げられる。また、第1段目として軟質単量体単位を与える成分を、第2段目として高分子量成分を、及び第3段目として低分子量成分を順次重合して得られる多段重合粒子が挙げられる。
【0015】
(A)成分の重合方法としては公知の重合方法が挙げられる。しかしながら、後述する(B)成分及び(C)成分との均一混合の点で粉体状又は顆粒状の形態で得られるものが好ましいことから、(A)成分の重合方法としては乳化重合法、ソープフリー重合法、懸濁重合法、微細懸濁重合法、分散重合法等が好ましい。
(A)成分の粒子としてコアシェル構造の粒子又は多段重合粒子とする場合、(A)成分の重合方法としては、例えば、各層又は各段における重合体成分を構成するために使用される単量体又は単量体混合物を順次滴下しながら重合する公知の方法が挙げられる。
また、乳化重合法等で得られる(A)成分のラテックスを粉体化する方法としては、凝固法及びスプレードライ法が挙げられるが、生産性よく安価に製造できることからスプレードライ法が好ましい。
【0016】
本発明に用いる(B)成分はポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールの誘導体から選ばれる少なくとも1種である。
尚、本発明においてポリアルキレングリコールの誘導体とはポリアルキレングリコールの末端に存在する水酸基の一部又は全部を他の官能基に変えた構造の化合物を意味する。
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体等の2種以上のグリコール単位を持つポリアルキレングリコール、及びグリセリン等の多官能アルコールを用いた分岐状ポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0017】
また、ポリアルキレングリコールの誘導体としては、例えば、モノアルコキシポリアルキレングリコール、ジアルコキシポリアルキレングリコール等の末端エーテル化化合物が挙げられる。
上記の中で、(B)成分としては、(A)成分との相溶性に優れ、(A)成分の分散性に優れる点で、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
−O−(−R−O−)−R (1)
式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは炭素数2〜12の直鎖又は分岐状のアルキレン基を表す。nは5〜200の整数である。nは10以上の整数が好ましい。また、nは100以下の整数が好ましく、50以下の整数がより好ましい。nが5以上の場合、本発明のアクリル系樹脂組成物を成形加工する時に(B)成分が揮発しにくい傾向にある。また、nが200以下の場合、(A)成分を効率的に可塑化できる傾向にある。
【0018】
上記一般式(1)で表される化合物の中で、(A)成分との相溶性に優れる点、得られる成形品を効率よく可塑化することが可能である点、及びコストの点でポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリブチレングリコールから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
(B)成分は1種で又は2種以上を併用して使用できる。
【0019】
本発明のアクリル系樹脂組成物中の(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して20〜90質量部、好ましくは40〜90質量部である。(B)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して20質量部以上で、得られる成形品に良好な柔軟性と制電性を付与できる。また、(B)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して90質量部以下で、本発明のアクリル系樹脂組成物をカレンダー成形、射出成形、押出成形等で成形する際に良好な成形加工性が得られる。
【0020】
本発明で使用される(C)成分としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム又はカルシウムのドデシルスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩又はトリフルオロメタンスルホン酸塩のスルホン酸塩;トリフルオロ酢酸塩、パーフルオロ酢酸塩、パーフルオロステアリン酸塩等のカルボン酸塩;過塩素酸塩、塩化塩、臭化塩、ヨウ化塩等の無機又は有機塩が挙げられる。
(C)成分は1種で又は2種以上を併用して使用できる。
【0021】
本発明のアクリル系樹脂組成物中の(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜5質量部である。(C)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して0.01質量部以上で、良好な制電性が得られる傾向にある。また、(C)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して5質量部以下で、得られる成形品の表面へのブリードが抑制され、外観が良好となる傾向にある。
【0022】
本発明のアクリル系樹脂組成物は上述した(A)成分、(B)成分及び(C)成分を配合して得られる。
(A)成分、(B)成分及び(C)成分の配合方法としては特に限定されず、加工時に同時に配合する、又は加工に先立って事前に配合しておくことができるが、(B)成分の配合量が多い場合には事前に配合しておく方法が作業性の点で好ましい。事前に配合する方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー及びバンバリーミキサーによる配合が挙げられる。
【0023】
本発明のアクリル系樹脂組成物には、必要に応じて、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク等の充填材、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、消泡剤、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、安定剤、加工助剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤、艶消し剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0024】
本発明の成形品は上記のアクリル系樹脂組成物を成形して得られる。
本発明のアクリル系樹脂組成物の成形方法としては、例えば、カレンダー成形法、射出成形法、Tダイ押出成形法、異型押出成形法、ブロー成形法、真空成形法及びインフレーション成形法が挙げられる。これらの中でカレンダー成形法が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
また、アクリル系重合体の質量平均分子量及びクロマトグラム並びにアクリル系樹脂組成物の成形時及び得られた成形品の各種評価を以下に示す方法により実施した。
【0026】
(1)質量平均分子量及びクロマトグラム
アクリル系重合体の質量平均分子量はアクリル系重合体のテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
GPCを測定して得られたクロマトグラムに2つのピークが検出された際には、それぞれのピークについて分子量を算出した。
【0027】
(2)バンク回り性
ロール成形時におけるロール間にある樹脂のバンク回り性を外観により以下の基準で評価した。
◎:ロールの回転に合わせて樹脂のバンクが綺麗に回る。
○:ロールの回転に合わせて樹脂のバンクが回るが、若干スリップする。
×:ロールの回転に合わせて樹脂のバンクが綺麗に回らず、スリップする。
【0028】
(3)シート収縮性
ロール成形において、成形されたシートをロールより剥離させた後、得られたシートの収縮の程度を以下の基準で評価した。
◎:収縮が小さい。
○:収縮が若干ある。
×:収縮が大きい。
【0029】
(4)制電性
ロール成形で得られたシートから、幅50mm×長さ50mm×厚さ1mmの試験片を切出した。試験片を温度23℃及び湿度50%の雰囲気に24時間放置した後、同雰囲気中で超絶縁計(東亜電波工業(株)製、商品名:SM−10E型)を使用して表面抵抗値を測定し、制電性を以下の基準で評価した。
◎:表面抵抗値が1.0×1014Ω以下である。
×:表面抵抗値が1.0×1014Ωを超える。
【0030】
(5)柔軟性
ロール成形で得られたシート(幅200mm×長さ200mm×厚さ1mm)を7枚重ね、後述するロール成形温度と同じ温度でプレス成形を行ない、厚さ6mmの試験片を得た。
得られた試験片を、JIS K7215に準拠してタイプAデュロメータにより硬度を測定した。得られた硬度から、以下の基準で柔軟性を評価した。
◎:硬度が80未満である。
○:硬度が80以上90以下である。
×:硬度が90を超えている。
【0031】
[製造例1]アクリル系重合体(A1)の製造
温度計、窒素導入管、攪拌機、滴下漏斗及び冷却管を装備した300mlの4つ口フラスコに、下記の原料を仕込んだ。
200rpmで攪拌しながら、窒素を30分間通気し、フラスコ内を窒素で置換した。
脱イオン水 80部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.1部
(商品名:ペレックスOT−P、花王(株)製)
【0032】
窒素の通気を停止した後、下記のシード用単量体混合物を投入し、80℃に昇温した。
シード用単量体混合物:
メチルメタクリレート 5.14部
n−ブチルメタクリレート 4.86部
フラスコの内温が80℃で安定した後、下記の開始剤水溶液を投入した。発熱ピークを確認して、シード粒子を形成した。
開始剤水溶液:
過硫酸カリウム 0.1部
脱イオン水 5部
【0033】
下記の原料を混合して、ホモディスパーを用いて強制乳化し、単量体乳化液を得た。
メチルメタクリレート 46.26部
n−ブチルメタクリレート 43.74部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.5部
脱イオン水 50部
得られた単量体乳化液を、4.7時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下中は、フラスコの内温が80℃となるように温度を制御した。滴下終了後、加熱攪拌を80℃で1時間継続し、アクリル系重合体(A1)ラテックスを得た。
【0034】
得られたアクリル系重合体(A1)ラテックスを#100メッシュナイロン濾布で濾過した後、スプレードライヤー(大河原化工機(株)製、商品名:L-8型)を用いて噴霧乾燥して粉体化し、アクリル系重合体(A1)を得た。
アクリル系重合体(A1)の質量平均分子量は76.0万であり、分子量93.0万にピークを1つ有するものであった。
尚、スプレードライヤーのアトマイザーは回転ディスク式とし、回転数は22,000rpmとした。また、乾燥用ガスの入口温度は190℃、乾燥用ガスの出口温度は90℃とした。
【0035】
[製造例2]アクリル系重合体(A2)の製造
用いる原料を表1に記載した種類及び量とし、それ以外は製造例1と同様にしてアクリル系重合体(A2)を得た。
アクリル系重合体(A2)の質量平均分子量及び分子量ピークを表1に示す。
【0036】
[製造例3]アクリル系重合体(A3)の製造
温度計、窒素導入管、攪拌機、滴下漏斗及び冷却管を装備した300mlの4つ口フラスコに、下記の脱イオン水を仕込んだ。
200rpmで攪拌しながら、窒素を30分間通気し、フラスコ内を窒素で置換した。
脱イオン水 80部
【0037】
窒素の通気を停止した後、下記のシード用単量体混合物を投入し、80℃に昇温した。
シード用単量体混合物:
メチルメタクリレート 3.1部
n−ブチルメタクリレート 2.4部
フラスコの内温が80℃で安定した後、下記の開始剤の水溶液を投入した。発熱ピークを確認して、シード粒子を形成した。
開始剤水溶液:
過硫酸カリウム 0.05部
脱イオン水 5部
【0038】
下記の原料を混合して、ホモディスパーを用いて強制乳化し、第1単量体乳化液を得た。
メチルメタクリレート 3.7部
n−ブチルアクリレート 11.8部
スチレン 2.83部
エチレングリコールジメタクリレート 0.63部
2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 0.2部
(商品名:V−65、和光純薬工業(株)製)
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.2部
脱イオン水 10部
得られた第1単量体乳化液を、1時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下中は、フラスコの内温が80℃となるように温度を制御した。滴下終了後、加熱攪拌を80℃で30分間継続した。
【0039】
下記の原料を混合して、ホモディスパーを用いて強制乳化し、第2単量体乳化液を得た。
メチルメタクリレート 21.4部
n−ブチルメタクリレート 16.4部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.1部
脱イオン水 20部
得られた第2単量体乳化液を、2時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下中は、フラスコの内温が80℃となるように温度を制御した。滴下終了後、加熱攪拌を80℃で30分間継続した。
【0040】
下記の原料を混合して、ホモディスパーを用いて強制乳化し、第3単量体乳化液を得た。
メチルメタクリレート 36.7部
n−ブチルアクリレート 1.04部
n−オクチルメルカプタン 0.08部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.2部
脱イオン水 20部
得られた第3単量体乳化液を、2時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下中は、フラスコの内温が80℃となるように温度を制御した。滴下終了後、加熱攪拌を80℃で1時間継続し、アクリル系重合体(A3)ラテックスを得た。
【0041】
アクリル系重合体(A3)ラテックスを製造例1と同様にして噴霧乾燥して粉体化し、アクリル系重合体(A3)を得た。アクリル系重合体(A3)の質量平均分子量及び分子量ピークを表1に示す。
【0042】
【表1】

表中の略号は下記の通り。
MMA :メチルメタクリレート
nBMA:n−ブチルメタクリレート
nBA :n−ブチルアクリレート
St :スチレン
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
nOM :n−オクチルメルカプタン
OT−P:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:ペレックスOT−P、花王(株)製)
KPS :過硫酸カリウム
V−65:2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名、和光純薬工業(株)製)
【0043】
[実施例1〜6及び比較例1〜3]
(A)成分としてアクリル系重合体(A1)〜(A3)、(B)成分としてプロピレングリコール(商品名:アデカポリエーテルP−700、質量平均分子量:700、平均重合度12、(株)ADEKA製)又はフタル酸ジイソノニル(商品名:DINP、(株)ジェイ・プラス製)及び(C)成分として過塩素酸リチウム、又はトリフルオロメタンスルホン酸リチウム50%水溶液(商品名:サンコノールAQ−50T、三光化学工業(株)製)を、表2に示す割合で配合し、ヘンシェルミキサーにて攪拌混合して配合物を得た。
得られた配合物を、6インチテストロール成形機(商品名:ラボラトリーミル、関西ロール(株)製)を使用し、表2に示すロール温度で混練し、シートを作製した。ロール成形時の評価結果及び得られたシートの評価結果を表3に示す。
実施例5ではアクリル系重合体(A1)とアクリル系重合体(A2)を50/50で配合したものを(A)成分として用いた。このときの質量平均分子量及び分子量ピークを表1に示した。
【0044】
【表2】

表中の略号は下記の通り。
PPG :プロピレングリコール(商品名:アデカポリエーテルP−700、質量平均分子量:700、平均重合度12、(株)ADEKA製)
DINP:フタル酸ジイソノニル(商品名:DINP、(株)ジェイ・プラス製)
AQ−50T:トリフルオロメタンスルホン酸リチウム50%水溶液(商品名:サンコノールAQ−50T、三光化学工業(株)製)
【0045】
【表3】

【0046】
表3から明らかなように、実施例1では(B)成分が少量であるため、柔軟性が若干低いものの、バンク回り性、シート収縮性及び制電性がいずれも良好であった。
実施例2〜4ではバンク回り性、シート収縮性、制電性及び柔軟性がいずれも良好であった。
実施例5では(A)成分に軟質単量体単位が含まれていないため、柔軟性が若干低いものの、バンク回り性、シート収縮性、及び制電性がいずれも良好であった。
実施例6では(A)成分に低分子量領域の重合体及び軟質単量体単位が含まれていないため、バンク回り性、シート収縮性及び柔軟性が若干低いものの、制電性は良好であった。
【0047】
比較例1では実施例1と比較して(C)成分を含まないため、バンク回り性及びシート収縮性は良好なものの、制電性が不十分であった。
比較例2では実施例2と比較して、(B)成分としてDINPを使用し、(C)成分を含まないため、バンク回り性、シート収縮性及び柔軟性は良好なものの、制電性が不十分であった。
比較例3では実施例1と比較して(A)成分100部に対する(B)成分の配合量が20部を下回るため、バンク回り性、シート収縮性、制電性及び柔軟性のいずれも不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体(A)100質量部、ポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールの誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)をアクリル系重合体(A)100質量部に対して20〜90質量部、並びにアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の化合物(C)をアクリル系重合体(A)100質量部に対して0.01〜5質量部を含有するアクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
アクリル系重合体(A)の質量平均分子量が10万〜200万である請求項1に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを測定して得られるクロマトグラムが、分子量5万〜35万と分子量40万〜200万の両方にピークを持つ請求項2に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
アクリル系重合体(A)が、単独重合体にしたときのガラス転移温度が0℃以下を与える単量体単位5〜60質量%を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2008−280441(P2008−280441A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126523(P2007−126523)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】