説明

アクリル系水性粘着剤組成物の製造方法

【課題】 接着力と保持力が共に優れ、特に粗面接着性に優れるアクリル系水性粘着剤組成物、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 (a)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、0.1〜10重量%と(b)炭素原子数が1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート45〜99.9重量%とを含有する重合性単量体成分を、重合開始剤存在下、水性媒体中で乳化重合する製造方法であって、使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量が、反応系内の重合性単量体成分1リットル当たり、毎分2×10-13〜150×10-13モルの範囲であり、かつ該製造方法によって得られる水分散体から形成される乾燥被膜のガラス転移温度が−25℃以下であることを特徴とするアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系水性粘着剤組成物の製造方法に関する。更に詳しくは、接着力と保持力に優れ、特に粗面に対する接着力に優れるアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の点で溶剤型樹脂から、より環境への付加が少ない水性樹脂への移行が進んでいる。粘着剤分野においても、水性粘着剤に置換することが望まれている。そして、この水性粘着剤の代表的なものとして、水性媒体中で各種エチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られるアクリルエマルジョン型粘着剤がある。
【0003】
アクリル系粘着剤を使用する場合、溶剤型、水性樹脂に限らず、保持力(粘着剤層にかかる剪断方向に対する抵抗性)を付与するため、架橋剤を添加する方法が一般的に用いられる。この方法により、保持力は向上するが接着力は低下する傾向にあり、接着力と保持力をバランス良く発現させることが必要である。しかし、アクリルエマルジョン型粘着剤は、一般的に溶剤型粘着剤と比較して、接着力と保持力をバランス良く発現することが難しく、特にウレタンフォームなどの凹凸のある粗面に対する接着力が低下し易い。
【0004】
この粗面接着性が低下する原因として、一つは溶剤型樹脂と水性樹脂によるポリマー構造の違いが考えられる。一般に乳化重合によって得られるポリマーは反応系内に過剰に存在するラジカルによりポリマー鎖の水素引き抜き反応等の副反応、すなわち枝分かれ反応が起き、ポリマー鎖が架橋構造をとってしまう。この架橋構造により、粘着剤被膜の柔軟性が低下し、更に架橋剤を添加することで一層被膜の柔軟性が損なわれるためと考えられる。このことは水性粘着剤へ移行する上での課題の一つである。
【0005】
このような粗面に対する接着性を解決する方法として、アクリル系単量体を10時間半減期温度が70℃以下の重合開始剤を用いて乳化重合した水性分散体と、アクリル系単量体の乳化物を滴下しながら乳化重合した水分散体とを混合するアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法によって得られる粘着剤は、特にウレタンフォームなどの粗面に対する接着力は不充分である。
【0006】
【特許文献1】特開2002−60713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、乳化重合時の枝分かれ反応を抑制することで、架橋剤を添加した後でも被膜の柔軟性を維持し、接着力と保持力ともに優れ、特にウレタンフォームのような粗面に対する接着力に優れるアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等は、上記の課題を解決すべく、鋭意検討の結果、下記の知見を得た。
(1)使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量を、反応系内に存在する重合性単量体成分1リットル当たり、毎分2×10-13〜150×10-13モルの範囲に制御することで枝分かれ反応が抑制され、得られるポリマー鎖は直線構造となること。
(2)分岐構造の少ないポリマーを架橋した場合、粘着剤被膜の柔軟性を維持することができ、接着力、特にウレタンフォームのような粗面に対する接着力を維持したまま保持力が向上すること。
【0009】
本発明は、このような知見に基づくものである。
【0010】
即ち、本発明は、(a)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、0.1〜10重量%と(b)炭素原子数が1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート45〜99.9重量%とを含有する重合性単量体成分を、重合開始剤存在下、水性媒体中で、乳化重合する製造方法であって、使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量が、反応系内に存在する重合性単量体成分1リットル当たり、毎分2×10-13〜150×10-13モルの範囲であり、かつ、該製造方法によって得られる水分散体から形成される乾燥被膜のガラス転移温度が−25℃以下であることを特徴とするアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ポリマー鎖を分岐の少ない直線構造とすることで、架橋剤を添加し架橋反応させた後でも粘着剤被膜の柔軟性を維持し、接着力と保持力が両立でき、特にウレタンフォフォームなどの粗面に対する接着力に優れるアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の製造方法、すなわち乳化重合時のラジカル発生量であるが、使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量を、反応系内に存在する重合性単量体成分1リットル当たり、毎分2×10-13〜150×10-13モルの範囲に制御することで、枝分かれ反応が抑制され、得られるポリマー鎖は直線構造となる。ここで言う「使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量」とは、後記実施例に記載の計算式によって求められる反応系内に存在する重合性単量体成分1リットル当たり、毎分発生するラジカルの量であり、以下、2×10-13〜150×10-13mol/l/minのように記載する。また、ラジカル発生量は、5×10-13〜120×10-13mol/l/minであるとより好ましく、更には10×10-13〜100×10-13mol/l/minであると、重合安定性が良く、かつポリマーの枝分かれ反応が更に抑制され、より柔軟な粘着剤被膜となり、ウレタンフォームに対する接着性が向上するため特に好ましい。
【0013】
計算上求められるラジカル発生量が、150×10-13mol/l/minを超えると、反応系内に過剰に存在するラジカルにより副反応、すなわち枝分かれ反応が起こり易くなる。そのため、得られるポリマー鎖は架橋構造をとるため、形成される被膜の柔軟性が損なわれ、粘着剤として使用するため架橋剤を添加した場合に接着力、特にウレタンフォームに対する接着力が低下する。また、2×10-13mol/l/minより少ないと発生するラジカルの濃度が低すぎて反応が進行しない。
【0014】
また、本発明の製造方法で用いる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が用いられる。ラジカル重合開始剤の種類は特に制限は無く、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、過酸化水素、または、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系開始剤などの種々の開始剤を使用できる。これらのなかでも過硫酸塩類、アゾ系開始剤が水素引き抜きなどの副反応が起こりづらいため好ましい。
【0015】
乳化重合の反応温度は特に制限されるものでは無いが、これらの中でも30〜90℃の範囲で行うことが好ましい。30℃より低い場合はラジカルが発生しづらく、重合安定性が低下する。また、90℃を超える場合は、反応中のラジカル発生量を前述の範囲に制御しようとすると、開始剤量が非常に少なくなるため、反応操作上困難である。また、重合中のラジカル発生量を前述の範囲内に制御することが容易であることから、反応に用いる重合開始剤の10時間半減期温度以下で反応することが特に好ましい。
【0016】
また、重合中のラジカル発生量を前述の範囲に制御すると、重合中の枝分かれ反応が抑えられるため、得られるアクリル系ポリマーから形成される被膜のゲル分率を20重量%以下に制御することができる。このゲル分率は、架橋前のゲル分率、すなわち架橋剤等で故意に架橋反応を起こさせる前のゲル分率を指す。架橋剤を添加する前のポリマーから形成される被膜のゲル分率は低いほど好ましく、具体的には10重量%以下とすると架橋剤を添加した後でも被膜の柔軟性が維持できるため好ましい。更には5%重量以下に制御すると特に好ましい。本発明で使用するゲル分率とは、アクリル系ポリマーから形成される被膜のトルエンに対する不溶解分の比率を意味する。ゲル分率は、後記実施例に記載した測定方法及び式により求められる数値に基づくものである。
【0017】
被膜の架橋前ゲル分率が20重量%を超えた場合、ポリマー鎖の直線構造が損なわれる、すなわちポリマー鎖の分岐度合いが高くなり、被膜の柔軟性は低下する傾向にある。
【0018】
また、本発明で得られるアクリル系ポリマーを、実際に粘着剤として使用する場合の実質的なゲル分率としては、架橋剤等の添加等により10〜50重量%に調整することが好ましく、更に15〜45重量%であると特に好ましい。かかる範囲にあると接着力と保持力を維持しつつ、ウレタンフォームに対する接着性に優れるため好ましい。
【0019】
上記範囲にゲル分率を調整する場合の架橋剤は特に制限は無く、架橋性を有する単量体を乳化重合することや、水溶性、或いは水分散性の架橋剤を重合後に添加しても良い。この場合、架橋剤としては、例えば、多官能性エポキシ化合物、多官能性メラミン化合物、多官能性ポリアミン化合物、多官能性ポリエチレンイミン化合物、多官能性(ブロック)イソシアネート化合物、金属塩化合物等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物として使用することができる他に、水溶性または水分散性の熱硬化性樹脂、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等を混和して使用することもできる。中でも、粘着剤被膜の柔軟性を維持し易いことから、重合後に添加することが好ましい。
【0020】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系水性粘着剤組成物から形成される被膜のガラス転移温度(以下、Tgという。)は−25℃以下であることが好ましい。中でも−25℃〜−60℃の範囲にあることが、接着力と保持力等の物性のバランスに優れるため特に好ましい。本発明におけるTgは後記実施例に記載した測定方法で得られた数値に基づく。
【0021】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系水性粘着剤組成物に含有されるアクリル系ポリマーの分子量は、ポリマーのTHF溶解分をGPCで測定した場合の重量平均分子量が10万〜150万の範囲であると、粗面接着性と保持力を両立できる。中でも、20万〜120万の範囲であることが好ましく、更には、25万〜100万の範囲であることが特に好ましい。なお、GPCの測定は、ポリマーを濃度が0.4%となるようにTHFに完全に溶解し、不溶分を濾過で取り除いた後、溶解分のみを測定した。
【0022】
本発明の製造方法で使用する単量体成分は、(a)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体0.1〜10重量%、(b)炭素原子数が1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート45〜99.9重量%の範囲で使用することが好ましい。その他の単量体成分は特に制限は無く、必要に応じて前述のTgの範囲内で任意の比率で組み合わせることができる。
【0023】
前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a)としては、分子内にカルボキシル基とエチレン性不飽和基を有するものであれば特に限定されず使用することができる。かかるエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(メタ)アクリレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、β−(メタ)ヒドロキシエチルハイドロゲンフタレート、及びこれらの塩等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも、特に、単量体成分の重合時の安定性及び接着物性、耐水白化性に優れる点で、アクリル酸、またはメタクリル酸を用いることが好ましい。前記カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体の使用量は0.1〜10重量%の範囲であることが好ましく、1〜10重量%の範囲がより好ましく、2.5〜10重量%が更に好ましい。この範囲にある時に優れた接着力と保持力が発現する。
【0024】
前記炭素原子数が1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(b)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、iso−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらのうち、炭素原子数4〜9のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが、重合性が良好であり好ましい。かかる、炭素原子数が1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの使用量は45〜99.9重量%の範囲になる量であり、より好ましくは80〜99.9重量%である。この範囲にある時、前述した粘着剤被膜のTgを所望の範囲に調整でき、優れた接着力と保持力が発現するため好ましい。
【0025】
これらの炭素原子数が1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(b)の中でも、炭素原子数が4以上アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、例えば、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等を単量体成分の80重量%以上用いると、本発明の組成物を用いた粘着剤被膜のTgを所望の範囲に調整できることから好ましい。
【0026】
また、前記これらの炭素原子数が1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(b)の中でも、炭素原子数が1〜3のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等を単量体成分の1〜15重量%の範囲で用いると、本発明の組成物を用いた粘着剤被膜の凝集力を向上することから好ましい。
【0027】
前記共重合反応の際、必要に応じて、(a)、(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)を共重合させることが出来る。(a)、(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)として、例えば、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、β−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有エチレン性不飽和単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチラート、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有エチレン性不飽和単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルアニソール、α−ハロスチレン、ビニルナフタリン、ジビニルスチレン等の芳香族環を有するビニル化合物;イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、エチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。これらの中でも、特に、単量体成分の重合時の安定性に優れる点で、(メタ)アクリル酸エステル類を用いることが好ましい。
【0028】
また、(a)、(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)として、水性粘着剤のゲル分率を所望の範囲まで向上させることを目的とした場合は、カルボニル基やカルボキシル基以外の架橋性反応基を含有するエチレン性不飽和単量体を使用することもできる。これらの例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有重合性単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性単量体;アミノエチル(メタ)アクリレート、N−モノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有重合性単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のメチロールアミド基またはそのアルコキシ化物含有重合性単量体;ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩等のシリル基含有重合性単量体;2−アジリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアジリジニル基含有重合性単量体;(メタ)アクリロイルイソシアナート、(メタ)アクリロイルイソシアナートエチルのフェノール或いはメチルエチルケトオキシム付加物等のイソシアナート基及び/またはブロック化イソシアナート基含有重合性単量体;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基含有重合性単量体;(メタ)アクリルアミド、N−モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有重合性単量体;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等のシクロペンテニル基含有重合性単量体;アリル(メタ)アクリレート等のアリル基含有重合性単量体;アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のカルボニル基含有重合性単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセチル基含有重合性単量体等が挙げられる。
【0029】
また、さらに(a)、(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)としては、水性粘着剤のゲル分率を所望の範囲まで向上させることを目的とした場合には、分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を含有する多官能性エチレン性不飽和単量体を使用することもできる。これらの例としては、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
前記多官能性エチレン性不飽和単量体を使用すると粘着剤の凝集力を向上させ、保持力が良好なものとなるが、接着力と保持力を共に優れたものとするためには、多官能性エチレン性不飽和単量体の使用量は、前述の如く粘着剤被膜のゲル分率が10〜50重量%、好ましくは15〜45重量%の範囲となる量で使用することが好ましい。
【0031】
また、(a)、(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)として、乳化重合時の安定性、水分散型アクリル系ポリマーの貯蔵安定性を向上させることを目的とした場合には、必要に応じてスルホン酸基及び/またはサルフェート基(及び/またはその塩)、リン酸基及び/またはリン酸エステル基(及び/またはその塩)を含有する単量体を使用することができ、例えばビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等のビニルスルホン酸類またはその塩、アリルスルホン酸、2−メチルアリルスルホン酸等のアリル基含有スルホン酸類またはその塩、(メタ)アクリル酸2−スルホエチル、(メタ)アクリル酸2−スルホプロピル等の(メタ)アクリレート基含有スルホン酸類またはその塩、(メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸等の(メタ)アクリルアミド基含有スルホン酸類またはその塩が挙げられる。リン酸基を有するエチレン性不飽和単量体の市販品としては、「アデカリアソープPP−70、PPE−710」[旭電化工業(株)製]等が挙げられる。
【0032】
また、本発明の製造方法において、前述の分子量の範囲内に調整するために分子量調整剤を使用しても良い。その場合に単量体成分を乳化重合する際に、連鎖移動能を有する化合物、例えばラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリセリン等のメルカプタン類、またはα−メチルスチレン・ダイマー等を添加してもよい。
【0033】
次に、本発明の製造方法で、単量体成分を水性媒体中で乳化重合する際には、乳化剤やその他の分散安定剤を使用して重合することができる。本発明で使用できる乳化剤としては、陰イオン性乳化剤、非イオン性乳化剤、陽イオン性乳化剤の種々のものが使用できる。本発明で使用する陰イオン性乳化剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等が挙げられ、非イオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0034】
更に、一般的に「反応性乳化剤」と称される重合性不飽和基を分子内に有する乳化剤を使用することもできる。本発明で使用できる反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基及びその塩を有する「ラテムルS−180」[花王(株)製]、「エレミノールJS−2、RS−30」[三洋化成工業(株)製]等;硫酸基及びその塩を有する「アクアロンHS−10、HS−20、KH−05、KH−10」[第一工業製薬(株)製]、「アデカリアソープSE−10、SE−20、SR−10N、SR−20N」[旭電化工業(株)製]等;リン酸基を有する「ニューフロンティアA−229E」[第一工業製薬(株)製]等;非イオン性親水基を有する「アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、ER−10、ER−20、ER−30、ER−40」[第一工業製薬(株)製]等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。反応性乳化剤を使用することは、重合安定性に加え被膜の耐水性が向上するため好ましい。
【0035】
また、前記製造方法で使用することのできる乳化剤以外のその他の分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、繊維素エーテル、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリアミド樹脂、水性ポリウレタン樹脂等の合成或いは天然の水溶性高分子物質が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0036】
本発明のアクリル系水性粘着剤の製造方法としては、例えば、以下の(1)〜(3)の方法が挙げられる。即ち、(1)水、重合性単量体成分、重合開始剤、必要に応じて乳化剤及び分散安定剤を一括混合して乳化重合する方法、(2)水、エチレン性不飽和単量体、乳化剤を予め混合したものと、重合開始剤を並行して供給して乳化重合する、いわゆるプレエマルジョン法、(3)水、重合性単量体成分、重合開始剤、必要に応じて乳化剤及び分散安定剤を別々に並行して供給して乳化重合する方法が挙げられる。
【0037】
これら本発明のアクリル系水性粘着剤の製造方法においては、乳化重合の最初からラジカル発生量をコントロールして行ってもよいが、中でも重合性単量体成分と重合開始剤のそれぞれ一部を用いて乳化重合して、初期に樹脂粒子の分散体を製造した後、これをシードとして、ラジカル発生量を制御した乳化重合を行うことが好ましい。ここで用いる重合性単量体成分量は、通常、全ての重合性単量体成分量の0.3〜5重量%の範囲であり、ラジカル発生量に制限はないが、重合開始剤の80%以上が消費されるまで反応させることが好ましい。
【0038】
前記(1)〜(3)の方法の中でも、(2)の方法は重合安定性が高いため好ましい。更には、方法(4)として、予め調製した乳化液の一部を滴下した後、残りの乳化液とともに反応性乳化剤を滴下する方法がある。この方法(4)であると、重合安定性が向上するだけでなく、得られるアクリル系水性粘着剤組成物の被膜の耐水性が向上するため好ましい。
【0039】
このとき後から添加する反応性乳化剤の供給方法は、特に制限されるものではなく、残りの乳化液に混合して供給する方法、または乳化液と別々に並行して反応容器内に供給する方法などがある。
【0040】
また、後から添加する反応性乳化剤は特に制限されるものでは無く前述の反応性乳化剤から任意に使用することができる。これらの中でも、下記一般式で表される乳化剤を使用すると、理由ははっきりしないが、ウレタンフォームに対する接着性に優れるため特に好ましい。
【0041】
【化1】

【0042】
(式中、Rはアルキル基、nは整数を示す。)
【0043】
上記一般式で表される反応性乳化剤を添加する乳化液(残りの乳化液)の割合は、全乳化液の10〜90重量%であると、粗面接着性に優れる。また、20〜80重量%であることが好ましい。更には30〜70重量%であると、ウレタンフォームに対する接着性に優れるため特に好ましい。
【0044】
また、重合開始剤の供給方法は、常に一定速度(一定のラジカル発生量)で供給する方法、供給速度が徐々に変化する方法、更に、前記した重合性単量体成分を分割して供給する場合は、一段目と二段目で異なる速度で重合開始剤を供給する方法などがあるが、前述のラジカル発生量の範囲内になるように供給する方法であれば特に制限はない。中でも、常に一定速度(一定のラジカル発生量)で供給することが、重合安定性や、ポリマー構造のコントロールが容易であるため好ましい。
【0045】
また、本発明の水性粘着剤組成物の製造方法で得られるアクリル系水性粘着剤組成物の平均粒子径は特に制限されるものではない。一般的な使用範囲として考えられる50〜1000nmが好ましい。ここでの粒子の平均粒子径とは、エマルジョン粒子の体積基準での50%メジアン径をいい、数値は後記実施例に記載の動的光散乱法により測定して得られる値に基づくものである。
【0046】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系水性粘着剤組成物の固形分濃度は、特に制限されるものではないが、製造時の作業性や輸送コストという点、及び乾燥して使用する際の乾燥性に優れるという点から、固形分濃度が40〜70重量%であることが好ましい。
【0047】
また、本発明の製造方法においては、必要に応じて、アクリル系水性粘着剤組成物の所望の効果を阻害しない範囲で、充填剤、顔料、pH調整剤、被膜形成助剤、レベリング剤、増粘剤、撥水剤、粘着付与剤、消泡剤等公知のものを適宜添加して使用することができる。
【0048】
本発明で得られるアクリル系水性粘着剤組成物は、種々の粘着製品に利用できる。その粘着製品は、基材と上記のアクリル系水性粘着剤組成物の層とから構成されている。この基材には特に制限は無く、紙、プラスチックフィルム、不織布等用途に応じて選択し、使用することができる。
【0049】
本発明で得られるアクリル系水性粘着剤組成物を用いて粘着剤組成物の層を形成する方法としては、上記基材の上に、該アクリル系水性粘着剤組成物を直接塗工して乾燥させる直接法、シリコーン等で離型処理された紙、またはプラスチックフィルム等の離型材の上に、該水性粘着材組成物を塗工して乾燥させ、粘着剤層を形成させた後、該粘着剤層の上に基材を重ねて加圧し、該基材上に粘着剤層を転写する転写法が挙げられる。
【0050】
塗工方法としては、塗工機としてロールコーター、コンマコーター、リップコーター、ファウンテンダイコーター、グラビアコーター等を使用する方法が挙げられる。
【0051】
アクリル系水性粘着剤組成物は、一般に固形分濃度が40〜70重量%、粘度が10〜10,000mPa・s(BM型粘度計、60回転、25℃)、pHが6〜9程度である。上記の直接法で塗工する場合には、塗工方法の種類にもよるが、一般的により高速に塗工するためには低粘度であることが求められることが多い。また転写法で塗工する場合には、粘度が300〜10,000mPa・s(同上)のものが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例と比較例により、一層、具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「%」は重量%、「部」は重量部をそれぞれ示すものとする。
【0053】
[ラジカル発生量の計算方法]
反応系内に存在する重合性単量体成分1リットル当たり、毎分発生するラジカルの量(C)は、以下の式で求めた。
【0054】
C=c/2/t/60 (mol/l/min)
c;重合開始剤の濃度(mol/l)
t;半減期(h)
前述の式中の半減期(t)は、以下の式で求めた。
【0055】
t=ln2/k
k;分解速度定数
前述の分解速度定数(k)は以下のArrheniusの式より求めた。
【0056】
k=A×exp(−ΔE/RT)
A;頻度因子
ΔE;活性化エネルギー(J/mol)
R ;気体定数
T ;温度(K)
【0057】
[ゲル分率の測定方法]
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、乾燥後における膜厚が25μmとなるように後記実施例で得られたアクリル系水性粘着剤組成物を塗布し、100℃で2分間乾燥して粘着シートを作成し、これを50mm×50mmの大きさに切り取ったものを試料とした。次に、予め上記試料のトルエン浸漬前の重量(G1)と粘着剤塗布前(基材のみ)の重量(G0)を測定しておき、トルエン溶液中に常温で24時間浸漬した。そして、浸漬後の試料のトルエン不溶解分を300メッシュ金網で濾過することにより分離し、110℃で1時間乾燥した後の残さの重量(G2)を測定し、以下の式に従ってゲル分率を求めた。
【0058】
ゲル分率(重量%)=〔(G2−G0)/(G1−G0)〕×100
【0059】
[Tgの測定方法]
後記実施例で得られた水分散型アクリル系ポリマーを乾燥後の膜厚が0.3mmとなるようにガラス板に塗工し、25℃で24時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に100℃で5分間乾燥したものを試料とし、直径5mm、深さ2mmのアルミニウム製円筒型セルに試料約10mgを秤取し、TAインスツルメント社製のDSC−2920モジュレイテッド型示差走査型熱量計を用い、窒素雰囲気下で−150℃から昇温速度20℃/分で100℃まで昇温した時の吸熱曲線を測定して求めた。
【0060】
[平均粒子径の測定方法]
日機装(株)製マイクロトラックUPA型粒度分布測定装置にて測定した平均粒子径(体積基準での50%メジアン径)の値を求めた。
【0061】
[接着力の測定方法]
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、乾燥後における膜厚が25μmとなるように後記実施例で得られたアクリル系水性粘着剤組成物を塗布し、100℃で2分間乾燥して粘着シートを作成した。粘着シートおよび被着体として鏡面仕上げしたステンレス板を用い、JIS Z−0237に準じて23℃、50%RHの雰囲気下で180度剥離強度を測定し、接着力とした。
【0062】
[ウレタンフォームに対する接着性の測定方法]
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、乾燥後における膜厚が25μmとなるように後記実施例で得られたアクリル系水性粘着剤組成物を塗布し、100℃で2分間乾燥して粘着シートを作成した。この基材を23℃、50%RHの雰囲気下でECS系ウレタンフォームへ2kgロールにて貼り合わせ、直後に手でゆっくりと引き剥がした。このときのウレタンフォーム表面の破壊状態を以下の基準で評価した。
【0063】
○;ウレタンフォーム材破
△;ウレタンフォーム表面の粘着剤層への転着あり
×;ウレタンフォーム表面の粘着剤層への転着なし
【0064】
[保持力の測定方法]
接着力測定時と同様にして粘着シートを作成し、ステンレス板に接着面積が25mm×25mmとなるように粘着シートを貼付け、40℃にて1kgの荷重をかけてずれ落ちるまでの時間を測定し、その保持時間を保持力とした。また、12時間後にも保持されていた場合には、保持時間を12時間以上とし、初期貼付け位置からのずれ幅を測定し、併記した。
【0065】
[タックの測定方法]
接着力測定時と同様にして粘着シートを作成し、JIS Z−0237の球転法に準じて23℃、50%RHの雰囲気下で測定した。
【0066】
実施例1
(1)乳化液Aの調製
容器に、ラテムルE−118B[花王(株)製;有効成分25%]10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、2−エチルヘキシルアクリレート245部、n−ブチルアクリレート245部、アクリル酸10部、ラウリルメルカプタン1部を加えて乳化し、乳化液Aを得た。
【0067】
(2)水分散型アクリル系ポリマーの製造
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルE−118Bを0.2部と、脱イオン水375部を入れ、窒素を吹き込みながら55℃まで昇温した。攪拌下、過硫酸アンモニウム水溶液5.2部(有効成分5%)を添加し、続いて乳化液Aを6.1部仕込み、55℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液Aの一部(300部)と、過硫酸アンモニウム水溶液10部(有効成分5%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を55℃に保ちながら3時間かけて滴下して重合した。この間、滴下しなかった乳化液A(304.9部)に、アクアロンKH−10[第一工業製薬(株)製反応性乳化剤;有効成分100%]5部を加え、均一になるまで攪拌し、乳化液Bを調製した。
【0068】
乳化液Aの滴下終了後、直ちに乳化液B(309.9部)と、過硫酸アンモニウム10部(有効成分5%)を別々の滴下漏斗を使用して反応容器を55℃に保ちながら3時間かけて滴下重合した。
【0069】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。ここで得られた水分散型アクリル系ポリマーは、固形分濃度49.9%、粘度310mPa・s、平均粒子径は290nmであった。
【0070】
(3)水性粘着剤組成物の製造
上記の水分散型アクリル系ポリマーに、レベリング剤としてサーフィノール420[エアー・プロダクツ・ジャパン(株)製:有効成分100%]1.2部、エポクロスWS−500[(株)日本触媒製;有効成分50%]1部を添加した後、100メッシュ金網で濾過し、本発明のアクリル系水性粘着剤組成物を得た。このアクリル系水性粘着剤組成物を用いて得た被膜のガラス転移温度(実測Tg)、ゲル分率(トルエン不溶解分率)、および粘着シートの接着力、粗面接着力、保持力、タックの評価結果を第1表に示した。
【0071】
実施例2
(1)乳化液Aの調製
容器に、ラテムルE−118B[花王(株)製;有効成分25%]10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、2−エチルヘキシルアクリレート245部、n−ブチルアクリレート245部、アクリル酸10部、ラウリルメルカプタン1部を加えて乳化し、乳化液Aを得た。
【0072】
(2)水分散型アクリル系ポリマーの製造
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルE−118Bを0.2部と、脱イオン水375部を入れ、窒素を吹き込みながら70℃まで昇温した。攪拌下、過硫酸アンモニウム水溶液2.6部を添加し、続いて乳化液Aを6.1部仕込み、70℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液Aの一部(604.9部)と、過硫酸アンモニウム水溶液20部(有効成分2.5%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を70℃に保ちながら6時間かけて滴下して重合した。
【0073】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。
【0074】
実施例3
(1)乳化液Aの調製
容器に、ラテムルE−118B[花王(株)製;有効成分25%]10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、2−エチルヘキシルアクリレート425部、メチルメタクリレート70部、アクリル酸5部、ラウリルメルカプタン0.5部を加えて乳化し、乳化液Aを得た。
【0075】
(2)水分散型アクリル系ポリマーの製造
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルE−118Bを0.2部と、脱イオン水375部を入れ、窒素を吹き込みながら80℃まで昇温した。攪拌下、過硫酸カリウム水溶液5.2部を添加し、続いて乳化液Aを6.1部仕込み、80℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液Aの一部(513.7部)と、過硫酸カリウム水溶液17部(有効成分1.5%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を80℃に保ちながら5時間かけて滴下して重合した。この間、滴下しなかった乳化液A(90.7部)に、アクアロンKH−0530[第一工業製薬(株)製反応性乳化剤;有効成分30%]5部を加え、均一になるまで攪拌し、乳化液Bを調製した。
【0076】
乳化液Aの滴下終了後、直ちに乳化液B(95.7部)と、過硫酸カリウム水溶液3部(有効成分1.5%)を別々の滴下漏斗を使用して反応容器を80℃に保ちながら1時間かけて滴下重合した。
【0077】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。
【0078】
実施例4
(1)乳化液Aの調製
容器に、ラテムルE−118B[花王(株)製;有効成分25%]10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、n−ブチルアクリレート485部、アクリル酸15部、グリシジルメタアクリレート2.5部、ラウリルメルカプタン0.5部を加えて乳化し、乳化液Aを得た。
【0079】
(2)水分散型アクリル系ポリマーの製造
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルE−118Bを0.2部と、脱イオン水375部を入れ、窒素を吹き込みながら70℃まで昇温した。攪拌下、過硫酸アンモニウム水溶液5.2部を添加し、続いて乳化液Aを6.1部仕込み、70℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液Aの一部(423.1部)と、過硫酸カリウム水溶液14部(有効成分5%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を70℃に保ちながら4時間かけて滴下して重合した。この間、滴下しなかった乳化液A(181.3部)に、アクアロンKH−0530[第一工業製薬(株)製反応性乳化剤;有効成分30%]8.3部を加え、均一になるまで攪拌し、乳化液Bを調製した。
【0080】
乳化液Aの滴下終了後、直ちに乳化液B(189.6部)と、過硫酸アンモニウム6部(有効成分5%)を別々の滴下漏斗を使用して反応容器を70℃に保ちながら2時間かけて滴下重合した。
【0081】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。
【0082】
実施例5
(1)乳化液Aの調製
容器に、ラテムルE−118B[花王(株)製;有効成分25%]10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、2−エチルヘキシルアクリレート150部、n−ブチルアクリレート290部、メチルメタクリレート40部、アクリル酸20部、ラウリルメルカプタン0.5部を加えて乳化し、乳化液Aを得た。
【0083】
(2)水分散型アクリル系ポリマーの製造
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルE−118Bを0.2部と、脱イオン水355部を入れ、窒素を吹き込みながら55℃まで昇温した。攪拌下、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)5.2部を添加し、続いて乳化液Aを6.1部仕込み、55℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液Aの一部(241.8部)と、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)水溶液16部(有効成分5%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を55℃に保ちながら3時間かけて滴下して重合した。この間、滴下しなかった乳化液A(362.6部)に、アクアロンKH−10[第一工業製薬(株)製反応性乳化剤;有効成分100%]5部を加え、均一になるまで攪拌し、乳化液Bを調製した。
【0084】
乳化液Aの滴下終了後、直ちに乳化液B(367.6部)と、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)24部(有効成分7.5%)を別々の滴下漏斗を使用して反応容器を55℃に保ちながら3時間かけて滴下重合した。
【0085】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。
【0086】
比較例1
(1)分散液Cの製造
攪拌機、窒素導入管、コンデンンサー(冷却管)、原料仕込口、温度計を備えた内容積が2Lの反応容器に、25℃の脱イオン水75部を仕込み、攪拌下、窒素導入管から50mL/minの流量で窒素ガス導入した。120分後、反応容器内の溶存酸素濃度を測定したところ、2.3ppmであった。反応容器内を攪拌下、窒素ガスを導入しながら、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル[HLB=14]1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1部、2−エチルヘキシルアクリレート70部、アクリル酸エチル27部、アクリル酸5部を仕込み、全体を均一に乳化した。その後、反応容器内温度を50℃に調整した。次に、反応容器内温度が50℃であることを確認後、2、2−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)−プロピオンアミジン]ジハイドロクロライド0.02部を加え、50℃に8時間維持して乳化重合を行った後、内容物を冷却し、分散液Cを得た。
【0087】
(2)乳化液Dの調製
まず、容器内にポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル[HLB=14]4部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ4部、脱イオン水60部を加え、均一に溶解した。そこに、2−エチルヘキシルアクリレート280部、アクリル酸エチル108部、アクリル酸10部を仕込み、全体を均一に乳化した。
【0088】
(3)水性粘着剤組成物の製造
攪拌機、窒素導入管、コンデンンサー(冷却管)、原料仕込口、温度計を備えた反応容器に、25℃の脱イオン水280部、過硫酸アンモニウム1部を水40部に溶解した溶液を加え、窒素置換しながら70℃に加温した。これに、前述の乳化液Dを、滴下漏斗を用いて3時間かけて滴下重合させた。滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却した。
【0089】
冷却後、同反応容器内に、別途合成した分散液Cを混合し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、水分散型アクリル系ポリマーを得た。ここで得られた水分散型アクリル系ポリマーは、固形分濃度50.9%、粘度230mPa・s、平均粒子径は210nmであった。
【0090】
上記の水分散型アクリル系ポリマーに、レベリング剤としてサーフィノール420[エアー・プロダクツ・ジャパン(株)製:有効成分100%]2.4部、エポキシ架橋剤TEPIC[日産化学工業(株)製]を、0.025部を水1部に溶解した水溶液を添加した後、100メッシュ金網で濾過し、アクリル系水性粘着剤組成物を得た。
【0091】
このアクリル系水性粘着剤組成物を用いて得た被膜のガラス転移温度(実測Tg)、ゲル分率(トルエン不溶解分率)、および粘着シートの接着力、粗面接着力、保持力、タックの評価結果を表1に示した。
【0092】
【表1】

【0093】
表1中の略号の正式名称を下記に示す。
2EHA ;2−エチルヘキシルアクリレート
BA ;n−ブチルアクリレート
EA ;エチルアクリレート
MMA ;メチルメタクリレート
AA ;アクリル酸
GMA ;グリシジルメタクリレート
L−SH ;ラウリルメルカプタン
APS ;過硫酸アンモニウム
KPS ;過硫酸カリウム
CVA ;4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)
AMP ;2,2−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)−プロピオンアミジン]ジハイドロクロライド
KH−0530;[第一工業製薬(株)製]、アクアロンKH−0530



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、0.1〜10重量%と(b)炭素原子数が1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート45〜99.9重量%とを含有する重合性単量体成分を、重合開始剤存在下、水性媒体中で、乳化重合する製造方法であって、使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量が、反応系内の重合性単量体成分1リットル当たり、毎分2×10-13〜150×10-13モルの範囲であり、かつ、該製造方法によって得られる水分散体から形成される乾燥被膜のガラス転移温度が−25℃以下であることを特徴とするアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法。
【請求項2】
乳化重合時の反応容器内の温度が、30〜90℃である請求項1記載のアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法。
【請求項3】
前記製造方法で得られるアクリル系水性粘着剤組成物に含有されるアクリル系ポリマーの重量平均分子量が、10万〜150万である請求項1又は2記載のアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法。
【請求項4】
前記重合性単量体成分と界面活性剤とを含有する乳化液を水性媒体が存在する反応容器内に供給して反応する製造方法であって、第1段階目の反応として前記乳化液の全量の10〜90重量%を供給し反応する反応工程(I)と、残りの乳化液と前記重合性単量体成分と重合し得る不飽和基を分子中に有する界面活性剤とを同時に供給して反応する工程(II)を有する請求項1〜3の何れか一項に記載のアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法。
【請求項5】
使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量が、反応系内の重合性単量体成分1リットル当たり、毎分5×10-13〜120×10-13モルの範囲となるように前記乳化液を連続して供給して反応する反応工程(I)と、該ラジカル発生量が、反応系内の重合性単量体成分1リットル当たり、毎分5×10-13〜120×10-13モルの範囲となるように、残りの乳化液と前記重合性単量体成分と重合し得る不飽和基を分子中に有する界面活性剤とを同時に連続して供給して反応する反応工程(II)を有する請求項4に記載のアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法。
【請求項6】
使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量が、反応系内の重合性単量体成分1リットル当たり、毎分5×10-13〜120×10-13モルの範囲である請求項1〜3の何れか一項に記載のアクリル系水性粘着剤組成物の製造方法。




【公開番号】特開2007−84781(P2007−84781A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17494(P2006−17494)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】