説明

アクリル系熱可塑性樹脂組成物

【課題】 透明性、高い表面硬度、高剛性、耐候性、耐熱性などのメタクリル系樹脂の特長を保持し、且つ良好な靭性を持ち、安定な成形性、高い耐熱性、高い熱安定性および高品質が必要とされる用途においても好適に使用することが可能なアクリル系熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 メタクリル系樹脂(A)と、 粘度平均重合度が500〜2000で且つけん化度が99.5モル%以上であるポリビニルアルコール樹脂をアセタール化度65〜88モル%でアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂(B)と を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系熱可塑性樹脂組成物に関する。より詳細に、本発明は、高い透明性、高い表面硬度、高剛性、優れた耐候性、耐熱性などのメタクリル系樹脂の特長を保持し、且つ良好な靭性を持ち、安定な成形性、高い耐熱性、高い熱安定性および高品質の成形品が必要とされる用途においても好適に使用することが可能なアクリル系熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸メチルを主に含有する単量体を重合してなるメタクリル系樹脂は、可視光領域における全光線透過率が高く、表面硬度が高いなどの特長を有している。メタクリル系樹脂は、様々な分野で使用されている一方で、耐衝撃性や靭性が若干低く、その改良が求められている。さらに、高温度における耐熱性、熱安定性および成形性の改良も求められている。
【0003】
このような要求に応えるものとして、特許文献1に、メタクリル系樹脂とポリビニルアセタール樹脂とからなるアクリル系熱可塑性樹脂組成物が開示されている。このアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、透明性が高く、表面硬度に優れ、耐衝撃性や靱性などが良好である。しかし、以下に説明するような理由で、高温度での溶融成形性などに難がある。
【0004】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドによってアセタール化することによって製造される。ポリビニルアセタール樹脂は、自動車のフロントガラス用や安全ガラス用の中間膜、各種バインダー、接着剤などの幅広い分野において使用されている。ポリビニルアセタール樹脂そのものは、熱安定性が十分でなく、高温度において熱分解や熱劣化し、分解ガスの発生や架橋ゲル化物の発生などを引き起こすため、高温度での溶融成形に適さない。
【0005】
ポリビニルアセタール樹脂の高温度での溶融成形性を改善するために、可塑剤をポリビニルアセタール樹脂に配合することが、一般的に行われている(特許文献2〜4)。ところが、可塑剤の添加は、成形品の強度、弾性率および表面硬度を低下させることがある。また、成形品から可塑剤が徐々にブリードアウトすることがある。
特許文献5には、合わせガラス用中間膜の原料として、可塑剤の代わりにポリ(ε−カプロラクトン)を配合してなるポリビニルアセタール樹脂が開示されている。ポリ(ε−カプロラクトン)の配合は、成形性を向上させる。ところが、ポリ(ε−カプロラクトン)は融点が低く、耐熱性が低いため、利用範囲が限られる。また、ポリ(ε−カプロラクトン)を配合して成る樹脂の成形品は表面硬度が低い。
【0006】
その他にも、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、加工助剤など、各種添加剤の配合が検討されているが、ポリビニルアセタール樹脂の熱安定性を根本的に改善するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−133452号公報
【特許文献2】特開2001−206741号公報
【特許文献3】特開2001−226152号公報
【特許文献4】特開2008−105942号公報
【特許文献5】特開平7−17745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高い透明性、高い表面硬度、高剛性、優れた耐候性、耐熱性などのメタクリル系樹脂の特長を保持し、且つ良好な靭性を持ち、安定な成形性、高い耐熱性、高い熱安定性および高品質が必要とされる用途においても好適に使用することが可能なアクリル系熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリビニルアセタール樹脂の熱安定性を左右する因子としては、原料となるポリビニルアルコール樹脂の重合度、けん化度、変性種および変性量、またポリビニルアセタール樹脂のアセタール種およびアセタール化度、さらには樹脂中に残存する金属残渣や未反応アルデヒドおよび副生物等が考えられ、それらの因子が複雑に絡み合って、分解、架橋ゲル化、着色等の熱劣化が起こっていると考えられている。しかし、これらの因子について、どのような機構で熱劣化が進行しているのかについては明確には理解されていないため、十分な熱安定性を有するポリビニルアセタール樹脂を得ることができず、ポリビニルアセタール樹脂を用いて熱安定性に優れた組成物を得ることもできなかった。
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、重合度が特定範囲内にあり、けん化度が非常に高いポリビニルアルコール樹脂を、特定のアセタール化度でアセタール化することによって得られるポリビニルアセタール樹脂を、メタクリル系樹脂に配合することによって得られる樹脂組成物は、高温での熱安定性に優れ、且つ成形性が良好であることを見出した。本発明はこの知見に基づいてさらに検討を重ねることによって完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のものを包含する。
〔1〕 メタクリル系樹脂(A)と、
粘度平均重合度が500〜2000で且つけん化度が99.5モル%以上であるポリビニルアルコール樹脂をアセタール化度65〜88モル%でアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂(B)と
を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
〔2〕 ポリビニルアセタール樹脂(B)100質量部に対して20質量部以下で可塑剤を含有する〔1〕に記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
〔3〕 ポリビニルアセタール樹脂(B)に可塑剤が含まれない〔1〕または〔2〕に記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
〔4〕 ポリビニルアセタール樹脂(B)は、ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化し、得られたスラリーのpHを6〜8に調整した後に、乾燥処理を施して得られたものである、〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
〔5〕 ポリビニルアセタール樹脂(B)は、水分率0.005〜2%に調整されたものである、〔1〕〜〔4〕のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
〔6〕 ポリビニルアセタール樹脂(B)は、炭素数4以上のアルデヒドと炭素数3以下のアルデヒドとでアセタール化して得られる樹脂であり、
アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の総量が全繰り返し単位の65〜88モル%であり、且つ炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比が90/10〜0/100である〔1〕〜〔5〕のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
〔7〕 メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との質量比(A)/(B)が99/1〜51/49である〔1〕〜〔6〕のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
〔8〕 前記〔1〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
〔9〕 前記〔1〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム。
〔10〕 前記〔1〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を加熱成形することを含む成形品の製造方法。
〔11〕 前記〔1〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を加熱成形することを含むフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、ポリビニルアセタール樹脂とメタクリル系樹脂とを含有し、透明性が高く、表面硬度が高く、剛性が高く、靱性、表面平滑性、耐候性、耐熱性および熱安定性に優れるなどの特長を持つ。本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物によれば、安定的に高品質の成形品を溶融成形法などによって得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを含有するものである。
【0015】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸エステル(アルキルメタクリレート)を含有する単量体混合物を重合することによって得られる。
【0016】
メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、s−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレートなどが挙げられる。メタリル酸エステルは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、アルキル基の炭素数が1〜4であるアルキルメタクリレートが好ましく、メチルメタクリレートが特に好ましい。
【0017】
単量体混合物にはメタクリル酸エステル以外に、アクリル酸エステルが含まれていてもよい。
アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、ミリスチルアクリレート、パルミチルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレートなどが挙げられる。アクリル酸エステルは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、アルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートが好ましい。
【0018】
また、前記の単量体混合物には、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルに共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体が含まれていてもよい。
当該エチレン性不飽和単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレンなどのジエン系化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、ハロゲンで核置換されたスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンなどのビニル芳香族化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのエチレン性不飽和ニトリル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、無水マレイン酸、マレイン酸イミド、モノメチルマレエート、ジメチルマレエートなどを挙げることができる。エチレン性不飽和単量体は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)は、メタクリル酸エステル単位の割合が、耐候性の観点から、50〜100質量%であることが好ましく、80〜99.9質量%であることがより好ましい。また、耐熱性の観点から0.1〜20質量%の範囲でアクリル酸エステル単位を含有することが好ましい。
【0020】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)は、強度特性および溶融性の点から、重量平均分子量(以下、Mwと表記することがある。)が、好ましくは40,000以上、より好ましくは40,000〜10,000,000、特に好ましくは80,000〜1,000,000である。
本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)は、単量体が線状に連なって結合したものであっても良いし、分岐を有するものであっても良いし、環状構造を有するものであっても良い。
【0021】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)の製造法は、エチレン性不飽和化合物を重合させることができる方法であれば、特に制限されない。本発明に用いられるメタクリル系樹脂(A)は、ラジカル重合によって製造されるものが好ましい。重合法としては、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合などが挙げられる。
【0022】
重合時に用いられるラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスγ−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、クミルパーオキサイド、オキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物が挙げられる。重合開始剤は、全単量体100質量部に対して、好ましくは0.05〜0.5質量部で用いられる。重合時の温度は、好ましくは50〜140℃であり、重合時間は、好ましくは2〜20時間である。
【0023】
メタクリル系樹脂(A)の分子量を制御するためには、連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、エチルチオグリコエート、メルカプトエタノール、チオ−β−ナフトール、チオフェノール等が挙げられる。連鎖移動剤は、全単量体100質量部に対して、好ましくは0.005〜0.5質量部で用いられる。
【0024】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)は、ビニルアルコール単位(式(I))、ビニルエステル単位(式(II))およびビニルアセタール単位(2個のビニルアルコール単位がアルデヒドでアセタール化されたもの : 式(III))を有する樹脂である。下記の式において、lはビニルアルコール単位のモル比であり、mはビニルエステル単位のモル比であり、k/2はビニルアセタール単位のモル比であり、kはアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比であり、Raはアセタール化に用いたアルデヒド(Ra−CHO)中のRaである。Rbはビニルエステル(RbCOOCH=CH2)中のRbである。ただし、lおよび/またはmはゼロであってもよい。ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位およびビニルアセタール単位のみからなるポリビニルアセタール樹脂(B)においては、k+l+m=1である。各単位は、配列順序によって特に制限されず、ランダムに配列されていてもよいし、ブロック状に配列されていてもよいし、テーパー状に配列されていてもよい。また、繰り返し単位間の結合は、Head-to-Tailであってもよいし、Head-to-Headであってもよい。
【0025】
【化1】

【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)は、例えばポリビニルアルコール樹脂(以下、PVAと表記することがある。)をアルデヒドでアセタール化することによって得ることができる。
【0029】
上記ポリビニルアルコール樹脂は、ビニルアルコール単位のみからなるホモポリマーであってもよいし、ビニルアルコールとこれに共重合可能なモノマーとからなるコポリマー(以下、PVAコポリマーと表記することがある。)であってもよい。さらに、分子鎖の途中、末端、または側鎖にカルボキシル基などの官能基が導入された変性ポリビニルアルコール樹脂であってもよい。これらポリビニルアルコール樹脂は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ポリビニルアルコール樹脂は、その製法によって特に限定されず、例えば、ポリ酢酸ビニルなどのビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるものを用いることができる。ビニルエステル単位を形成するためのビニルエステル単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニルなどが挙げられる。これらの中でもPVAを良好な生産性で得ることができる点で酢酸ビニルが好ましい。
【0031】
PVAコポリマーを構成する共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミドなどのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテルなどのヒドロキシ基含有のビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテルなどのアリルエーテル類;ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基などのオキシアルキレン基を有する単量体;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン類;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オールなどのヒドロキシ基含有のα−オレフィン類またはそのエステル化物;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸などに由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などに由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミンなどに由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。
【0032】
これら共重合可能な単量体の単位(以下、コモノマー単位と表記することがある。)の含有量は、PVAコポリマーを構成する全単量体単位100モル%の中で、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。また、共重合されていることのメリットを発揮するためには、0.01モル%以上がコモノマー単位であることが好ましい。
【0033】
ビニルエステル系重合体の製造において使用される重合法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒またはアルコールなどの溶媒中で重合する方法である、塊状重合法や溶液重合法が好ましい。溶液重合法において使用される溶媒としてのアルコールには、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが通常用いられる。重合開始剤としては、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)などのアゾ化合物や、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物などが挙げられる。重合温度については特に制限はないが、通常、0℃〜200℃である。
【0034】
ビニルエステル系重合体をけん化する際に触媒としてアルカリ性物質が、通常、使用される。アルカリ性物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。けん化触媒に使用されるアルカリ性物質のモル比は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単位に対して、好ましくは0.004〜0.5、より好ましくは0.005〜0.05である。けん化触媒としてのアルカリ性物質は、けん化反応の初期に一括添加してもよいし、けん化反応の途中で追加添加してもよい。
けん化反応時に使用可能な溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましい。使用される溶媒は含水率を調整されたものが好ましい。溶媒の含水率は、好ましくは0.001〜1質量%、より好ましくは0.003〜0.9質量%、さらに好ましくは0.005〜0.8質量%である。
PVAのけん化度は、通常、99.5モル%以上、好ましくは99.7モル%以上、より好ましくは99.9モル%以上である。けん化度が99.5モル%未満の場合には、得られるポリビニルアセタール樹脂(B)の熱安定性が十分ではなく、熱分解や架橋ゲル化によって安定な溶融成形を行なうことが困難になる。
【0035】
けん化反応の後、生成したPVAを洗浄する。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられる。これらの中でも、メタノール、酢酸メチル、水、もしくはこれらの混合液が好ましい。
洗浄液の使用量は、後述するアルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量を満足するように設定するのが好ましく、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜100時間が好ましく、1時間〜50時間がより好ましい。
【0036】
本発明で使用するPVAにおけるアルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量は、PVA100質量部に対して、好ましくは0.00001〜1質量部である。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量が0.00001質量部未満のものは工業的に製造困難である。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量が1質量部より多い場合には、得られるポリビニルアセタール樹脂中に残存するアルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量が多くなり、分解、ゲル化により安定に溶融成形することができない場合がある。なお、アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、バリウムなどが挙げられる。なお、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0037】
PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は、通常、500〜2000、好ましくは800〜1700、より好ましくは1000〜1500である。PVAの重合度が500未満であると、得られるポリビニルアセタール樹脂(B)の力学物性が不足し、特に靭性が不足する場合がある。一方、PVAの重合度が2000を超えると、ポリビニルアセタール樹脂(B)として熱成形する際の溶融粘度が高くなり、成形品の製造が困難になる。
【0038】
PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを完全に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から一般式(i)により求められるものである。
【0039】
【数1】

【0040】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の製造に用いられるアルデヒドは特に制限されない。
炭素数3以下のアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、グリオキザールなどが挙げられる。炭素数3以下のアルデヒドは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これら炭素数3以下のアルデヒドのうち、製造の容易さの観点から、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)およびホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)を主体とするものが好ましく、アセトアルデヒドが特に好ましい。
炭素数4以上のアルデヒドとしては、例えば、ブチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。炭素数4以上のアルデヒドは1種単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。これら炭素数4以上のアルデヒドのうち、製造の容易度の観点から、ブチルアルデヒドが特に好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂の製造に用いられる炭素数4以上のアルデヒドと炭素数3以下のアルデヒドの組み合わせとしては、製造の容易さ、耐熱性及び力学物性の観点から、ブチルアルデヒドとアセトアルデヒドの組み合わせが好ましい。
【0041】
ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとの反応、すなわちアセタール化反応は、公知の方法で行なうことができる。例えば、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解させ、酸触媒の存在下にアルデヒドと反応させて樹脂粒子を析出させる方法(水媒法); ポリビニルアルコール樹脂を有機溶媒に分散させ、酸触媒の存在下、アルデヒドと反応させ、得られた反応液を水などの貧溶媒に添加して樹脂粒子を析出させる(溶媒法)などが挙げられる。これらのうち水媒法が好ましい。
【0042】
アセタール化に用いられるアルデヒドは、すべてを同時に仕込んでも良いし、1種類ずつを別々に仕込んでも良い。アルデヒドの添加順序および酸触媒の添加順序、熟成温度や時間を変えることで、ポリビニルアセタール樹脂中のビニルアセタール単位のランダム性を変化させることができる。
【0043】
アセタール化反応に用いられる酸触媒は特に限定されず、例えば、酢酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸類;硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸類;炭酸ガスなどの水溶液にした際に酸性を示す気体、陽イオン交換体や金属酸化物などの固体酸触媒などが挙げられる。
【0044】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)のアセタール化度は、通常、65〜88モル%、好ましくは70〜86モル%、より好ましくは75〜84モル%である。アセタール化度が65モル%未満のポリビニルアセタール化樹脂(B)は、熱安定性が十分ではなく、また溶融加工性が乏しい。一方、アセタール化度が88モル%を超えるポリビニルアセタール樹脂は、製造が非常に困難であり、アセタール化反応に長時間を要するので製造コストが高くなる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタール樹脂を用いると、力学特性、特に靭性に優れ、成形品を容易に且つ安価に得ることができる。
【0045】
なお、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、JIS K6728(1977年)等に記載の方法に則って決定することができる。
先ず、アセタール化されなかったビニルアルコール単位の質量比(l0)および酢酸ビニル単位の質量比(m0)を滴定によって求める。アセタール化されたビニルアルコール単位の質量比(k0)をk0=1−l0−m0によって算出する。これらから、アセタール化されなかったビニルアルコール単位のモル比(l)および酢酸ビニル単位のモル比(m)を計算し、k=1−l−mによって、アセタール化されたビニルアルコール単位のモル比(k)を算出する。
または、ポリビニルアセタール樹脂を重水素化ジメチルスルフォキサイドに溶解し、1H−MMR、または13C−NMRを測定して、アセタール化されなかったビニルアルコール単位のモル比(l)、ビニルエステル単位のモル比(m)およびアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比(k)を算出する。ただし、k0+l0+m0=1、k+l+m=1である。
そして、 k/(k+l+m)×100 によって、アセタール化度を、算出する。
【0046】
また、複数のアルデヒドでアセタール化した場合、アルデヒドごとのアセタール化度は、次に示すような方法で求めることができる。たとえば、ブチルアルデヒド、アセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂において、ブチルアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比k(BA)、アセトアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比k(AA)、ホルムアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比k(FA)、アセタール化されなかったビニルアルコール単位のモル比l、およびビニルエステル単位のモル比mであるとしたとき、ブチルアセタール化度(ブチラール化度とも呼ばれる。)は、 式:k(BA)/{(k(BA)+k(AA)+k(FA))+l+m}×100で求められる。アセトアセタール化度は、式:k(AA)/{(k(BA)+k(AA)+k(FA))+l+m}×100で求められる。ホルムアセタール化度(ホルマール化度とも呼ばれる。)は、式:k(FA)/{(k(BA)+k(AA)+k(FA))+l+m}×100で求められる。なお、アルデヒドごとのアセタール化度は、1H−NMRまたは13C−NMRによって、アセタール化したアルデヒドの比率を測定することによって算出することができる。ただし、k(BA)+k(AA)+k(FA)+l+m=1 である。
【0047】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)は、炭素数4以上のアルデヒドと炭素数3以下のアルデヒドとでアセタール化して得られる樹脂であることが好ましい。本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)は、力学物性および耐熱性の観点から、炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比は、好ましくは90/10〜0/100、より好ましくは80/20〜0/100、さらに好ましくは50/50〜0/100、特に好ましくは40/60〜1/99である。このようなポリビニルアセタール樹脂(B)を用いることで、ポリビニルアセタール樹脂が本来有している強度・弾性率や表面硬度、表面の平滑性、透明度などの特長を保持しつつ、力学物性および耐熱性に優れた成形品を得ることができる。
【0048】
ポリビニルアセタール樹脂を構成するビニルエステル単位の量は、好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0.3モル%以下、更に好ましくは0.1モル%以下である。ビニルエステル単位が0.5モル%より多い場合、耐熱性の低下、連続生産性の低下などが起きやすい。ビニルエステル単位が多すぎる場合には、ポリビニルアセタール樹脂(B)の熱安定性が十分ではなく、熱分解や架橋ゲル化によって安定な溶融成形を行なうことが困難になる傾向がある。
【0049】
なお、アセタール化することによっても重合度が変化することはないため、ポリビニルアルコール樹脂と、そのポリビニルアルコールをアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂(B)の重合度は同じである。したがって、ポリビニルアセタール樹脂(B)の重合度は、好ましくは500〜2000、より好ましくは800〜1700、さらに好ましくは1000〜1500である。ポリビニルアセタール樹脂(B)の重合度が500未満であると、ポリビニルアセタール樹脂(B)の力学物性が不足し、特に靭性が不足する傾向があり、重合度が2000を超えると、組成物として熱成形する際の溶融粘度が高くなり、成形品の製造が困難になる傾向がある。
【0050】
水媒法及び溶媒法等において生成したスラリーは、通常、酸触媒のために酸性を呈しているので、酸触媒を除去することが好ましい。酸触媒の除去方法として、スラリーを、pHが、好ましくは6〜8、より好ましくは6.5〜7.5になるまで水洗を繰り返す方法;スラリーに中和剤を添加して、pHを好ましくは6〜8、より好ましくは6.5〜7.5にする方法や、アルキレンオキサイド類などを添加する方法が挙げられる。スラリーのpHが小さすぎる場合には、酸によりポリビニルアセタール樹脂の分解や架橋が起こり、安定な成形品を得ることができない傾向がある。一方、スラリーのpHが大きすぎる場合には、ポリマー劣化が進行し、成形品の着色等を引き起こす傾向がある。
【0051】
酸触媒除去のために用いられる中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属化合物;アンモニア、アンモニア水溶液が挙げられる。酸触媒除去のために用いられるアルキレンオキサイド類としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド;エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0052】
次に、触媒残渣、中和剤残渣、中和により生成した塩、未反応のアルデヒド、アルカリ金属、アルカリ土類金属、副生物などを除去して、ポリビニルアセタール樹脂を精製する。
精製方法は特に制限されず、脱液と洗浄を繰り返すなどの方法が通常用いられる。精製に用いられる液としては、水や、水にメタノールやエタノールなどのアルコールを加えた混合液などが挙げられる。中でも、ポリビニルアセタール樹脂を中和した後に、水とアルコール(メタノール、エタノールなど)との混合溶液で、pHが好ましくは6〜8、より好ましくは6.5〜7.5になるまで、脱液と洗浄を繰り返す方法が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を効率よく低減でき、ポリビニルアセタール樹脂を安定に製造することができる点で好ましい。水/アルコールの混合比率は、質量比で50/50〜95/5であることが好ましく、60/40〜90/10であることがより好ましい。水の割合が少なすぎると、ポリビニルアセタール樹脂の混合液中への溶出が多くなる傾向がある。水の割合が多すぎると、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の除去効率が低下する傾向がある。
【0053】
ポリビニルアセタール樹脂(B)中に上記のような残渣が多量に残存すると、ポリマー劣化を引き起こし、安定な熱成形を行なうことができない場合がある。中でも中和剤に含まれるアルカリ金属は熱分解を引き起こしやすく、多量に残存すると激しいポリマー分解や架橋ゲル化を引き起こし、安定な溶融成形を行なうことができない場合がある。
具体的に、ポリビニルアセタール樹脂(B)中のアルカリ金属含有量は、0.1〜200ppmであることが好ましく、0.1〜50ppmであることがより好ましく、0.1〜10ppmであることが特に好ましい。なお、アルカリ金属の含有量が0.1ppm未満のものは工業的に製造が難しく、洗浄に長時間を要するので製造コストが高くなる。上記の残渣を除去する方法は特に制限されず、水で脱液と洗浄を繰り返すなどの方法が通常用いられる。
【0054】
残渣等が除去された含水状態のポリビニルアセタール樹脂(B)は、必要に応じて乾燥され、必要に応じてパウダー状、顆粒状あるいはペレット状に加工され、本発明の組成物の製造に供される。パウダー状、顆粒状あるいはペレット状に加工される際に、減圧状態で脱気することにより未反応アルデヒドや水分などを低減しておくことが好ましい。
【0055】
また、本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)は、水分率が、好ましくは0.005〜2%、より好ましくは0.01〜1%である。水分率が0.005%未満のものは製造が難しく、過度な熱履歴を経るため、着色を起こすなど品質が低下する場合がある。一方、水分率が2%を超えると、通常の成形方法では安定な熱成形を行なうことが困難な場合がある。なお、水分率はカールフィッシャー法で測定することができる。
【0056】
さらに、本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)の主分散ピーク温度TαBは、好ましくは85℃〜125℃、より好ましくは90℃〜120℃である。TαBが85℃未満の場合、耐熱性に優れた組成物の提供が難しい場合がある。一方、TαBが125℃を超えると成形加工性が低下する場合があり、使用範囲が制限される場合がある。
なお、主分散ピーク温度(Tα)は、動的粘弾性測定によって求めることができる。例えば、株式会社レオロジ製DVE RHEOSPECTOLER DVE−V4を用いて、長さ20mm×幅3mm×厚さ120〜200μmの試験片を正弦波振動10Hz、昇温速度3℃/分の条件において測定した損失正接(tan δ)から求めることができる。主分散ピーク温度(Tα)は、損失正接(tan δ)の主分散のピークを示す温度である。広義にはガラス転移温度(Tg)と呼ばれることがある。
【0057】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)に含まれる可塑剤の量は、ポリビニルアセタール樹脂100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。ポリビニルアセタール樹脂(B)に可塑剤が含まれないことがより好ましい。可塑剤が20質量部より多くなると、可塑剤が成形品からブリードアウトして、外観不良などを引き起こしやすくなる。本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)に含まれる可塑剤としては、一価カルボン酸エステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤などのカルボン酸エステル系可塑剤;リン酸エステル系可塑剤、有機亜リン酸エステル系可塑剤;カルボン酸ポリエステル系可塑剤、炭酸ポリエステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤などの高分子可塑剤が挙げられる。これら可塑剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、可塑化効果に優れている点で、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジ2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジn−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールn−ヘプタノエートが好ましい。
【0058】
さらに、本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂(B)には耐候性を向上させる目的で紫外線吸収剤を添加することができる。紫外線吸収剤の種類は特に限定されないが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、または、トリアジン系のものが好ましい。紫外線吸収剤の添加量は、ポリビニルアセタール樹脂に対して、通常0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜2質量%である。
【0059】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との質量比(A)/(B)が、好ましくは99/1〜1/99、より好ましくは99/1〜51/49、さらに好ましくは95/5〜60/40、特に好ましくは90/10〜60/40である。ポリビニルアセタール樹脂(B)の割合が少なすぎると、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物の靭性・耐衝撃性などの力学物性が低下する傾向がなる。一方、ポリビニルアセタール樹脂(B)の割合が多すぎると、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物の表面硬度(および剛性)が不足する傾向がある。
【0060】
メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを含有する樹脂組成物には、当該樹脂組成物中のメタクリル系樹脂(A)に起因する主分散ピーク温度(TαAP)と、当該樹脂組成物中のポリビニルアセタール樹脂(B)に起因する主分散ピーク温度(TαBP)とがある。また、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物では主分散ピーク温度が一つしか観測できないことがある。すなわちTαAP=TαBPとなる場合がある。TαAP=TαBPとなる場合は、熱可塑性樹脂組成物中のメタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とが完全な相溶状態になっていることを示している。
【0061】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物中のメタクリル系樹脂(A)に起因する主分散ピーク温度(TαAP)が、メタクリル系樹脂(A)単独での主分散ピーク温度(TαA)とポリビニルアセタール樹脂(B)単独での主分散ピーク温度(TαB)との間の値であることが好ましい。すなわち、TαB<TαAP<TαA、又はTαA<TαAP<TαBの関係を満たしていることが好ましい。このような関係を満たすTαAPを持つ本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とが部分的にまたは完全に相溶した状態になっていると考えられる。なお、本発明において、メタクリル系樹脂(A)が二以上のメタクリル系樹脂の組み合わせである場合は、その組み合わせたもののうちのいずれか一つの主分散ピーク温度をTαAとし、ポリビニルアセタール樹脂(B)が二以上のポリビニルアセタール樹脂の組み合わせである場合は、その組み合わせたもののうちのいずれか一つの主分散ピーク温度をTαBとし、上記関係、すなわちTαB<TαAP<TαA、又はTαA<TαAP<TαBの関係を満たしていればよい。
メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とが部分的にまたは完全に相溶した状態である場合には、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性、表面硬度および剛性がメタクリル系樹脂とほぼ同等であり、且つ延伸した時、折り曲げた時、衝撃を受けた時および/または長時間湿熱条件下に置かれた時に白化し難くなる。また、靭性、取扱い性なども優れている。
【0062】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、連続相がメタクリル系樹脂(A)によって形成されていることが好ましい。本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、四酸化ルテニウムで染色された分散相が電子顕微鏡にて視認できる場合がある。染色された分散相には、ポリビニルアセタール樹脂(B)が含まれていると考えられる。該分散相は非常に小さいかまたは無い方が好ましい。分散相の平均径は、通常、200nm以下、好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。なお、分散相の平均径が0nmという場合には、ポリビニルアセタール樹脂(B)がメタクリル系樹脂(A)に完全相溶して、視認可能な分散相がないことを含む。
なお、熱可塑性樹脂組成物の相構造の観察は、例えば、ウルトラミクロトーム(RICA社製Reichert ULTRACUT−S)を用いて超薄切片を作製し、次いで四酸化ルテニウムで電子染色し、株式会社日立製作所製透過型電子顕微鏡H−800NAを用いて行なう。
【0063】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を得るための好適な製法は、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを混合、好ましくは溶融条件下で混合し、次いで樹脂温度160℃以上にまで昇温し、その後、樹脂温度120℃以下に冷却する工程を含むものである。
別の好適な製法は、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを樹脂温度140℃以上で溶融混練し、次いで樹脂温度120℃以下に冷却する工程を含むものである。
特に好適な製法は、メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とを、樹脂温度160℃以上で溶融混練する工程に、せん断速度100sec-1以上のせん断を印加する段階と、該せん断をせん断速度50sec-1以下にする段階とをそれぞれ少なくとも2回経る工程を含むものである。
【0064】
メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との溶融混練は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、オープンロール、ニーダーなどの公知の混練機を用いて行なうのが好ましい。これら混練機のうち、メタクリル系樹脂(A)が連続相を形成しやすく、生産性に優れることから二軸押出機が好ましい。
【0065】
溶融混練する際の樹脂温度は、140℃以上が好ましく、140〜270℃がより好ましく、160〜250℃が特に好ましい。 溶融混練する際にアクリル系熱可塑性樹脂組成物に与える剪断は、剪断速度が100sec-1以上であることが好ましく、200sec-1以上であることがより好ましい。
【0066】
本発明の製法では、樹脂温度160℃以上にまで昇温、または、樹脂温度140℃以上で溶融混練した後、樹脂温度120℃以下の温度に冷却することが好ましい。冷却は溶融状態のストランドを冷水を溜めた槽に浸すなどの方法で自然放冷に比べて急速に行なうことが好ましい。急速冷却することによって、メタクリル系樹脂(A)が連続相を形成し、且つメタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)とが部分相溶または完全相溶しやすくなる。さらに、分散相の大きさが非常に小さくなる。
【0067】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物に、必要に応じて各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、安定化剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、艶消し剤などを添加してもよい。なお、アクリル系熱可塑性樹脂組成物の力学物性および表面硬度の観点から軟化剤や可塑剤は多量に添加しないことが好ましい。
さらに、耐候性を向上させる目的で紫外線吸収剤を添加することができる。紫外線吸収剤の種類は特に限定されないが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、または、トリアジン系のものが好ましい。紫外線吸収剤の添加量は、アクリル系熱可塑性樹脂組成物に対して、通常0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%であり、さらに好ましくは0.1〜2質量%である。
なお、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物に添加される上記添加剤は、原料となるメタクリル系樹脂(A)または/およびポリビニルアセタール樹脂(B)に添加してもよいし、アクリル系熱可塑性樹脂組成物を製造する際に添加してもよいし、アクリル系熱可塑性樹脂組成物を成形する際に添加してもよい。
【0068】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、例えば、粉体形状やペレット形状の成形材料として使用される。そして、この成形材料を用いて、押出成形、射出成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、トランスファー成形、回転成形、パウダースラッシュなど公知の成形方法を行なうことによって様々な成形品を製造することができる。
【0069】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を、Tダイ法、カレンダー法、インフレーション法などのような熱可塑性樹脂組成物に高いせん断力の掛かる溶融押出成形法および射出成形法に適用することが、透明性に優れ、改善された靭性を持ち、取り扱い性に優れ、靭性と表面硬度および剛性とのバランスに優れた成形品を得るために好ましい。フィルム状成形品を得るためには、比較的経済的で高品質な製品を得られる点で、Tダイ法が好ましく用いられる。
【0070】
溶融成形を行うにあたっての、好ましい樹脂温度は、160〜270℃である。成形後は、成形品を自然放冷に比べて急速に冷却することが好ましい。例えば、押し出された直後のフィルム状成形品を冷却ロールに接触させて急速冷却することが好ましい。このような急速な冷却を行うことによって、分散相が小さくなり、緩和も発生しずらくなるため、高品質の成形品を得ることができる。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形することによって各種の成形品を得ることができる。例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板等の看板部品やマーキングフィルム;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリア等の照明部品;家具、ペンダント、ミラー等のインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根等の建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、自動車内装部材、バンパーなどの自動車外装部材等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機、携帯電話、パソコン等の電子機器部品;保育器、レントゲン部品等の医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓等の機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板等の光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁等の交通関係部品;その他、温室、大型水槽、箱水槽、浴室部材、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスク;パソコン、携帯電話、家具、自動販売機、浴室部材などに用いる表面材料等が挙げられる。
【0072】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を用いると、靭性、耐衝撃性、表面硬度および剛性とのバランスに優れ、取扱いが容易で、しかも延伸した時、折り曲げた時および/または衝撃を受けた時に白化しないので外観美に優れた成形品を得ることができる。本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム状またはシート状成形品を、鋼材、プラスチックシート、木材、ガラス等からなる基材に接着、ラミネート、インサート成形、あるいはインモールド成形などで成形すると、それら基材の外観美を向上させ、また基材を保護することができる。さらに、基材に複合させた本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物の上に紫外線(UV)または電子線(EB)の照射によって硬化してなるコーティング層を付与することによって、さらに外観美と保護性を高めることができる。本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物と、鋼材、プラスチック、木材、ガラス等からなる基材とを共押し出しすることによって基材の外観美を向上させることができる。また、優れた外観美を活かして、壁紙;自動車内装部材表面;バンパーなどの自動車外装部材表面;携帯電話表面;家具表面;パソコン表面;自動販売機表面;浴槽などの浴室部材表面等にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は、特に断りのない限り「質量部」を表し、「%」は、特に断りのない限り「質量%」を表す。
【0074】
(重量平均分子量)
テトラヒドロフランを溶媒に用い、昭和電工株式会社製Shodex(商標)GPC SYSTEM11に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー用カラムとしてShodex(商標)KF−806Lを繋ぎ、検出器としてShodex(商標)示差屈折率検出器RI−101を用いて測定した。試料溶液は、重合体を3mg精秤し、これを3mlのテトラヒドロフランに溶解し、0.45μmのメンブランフィルターでろ過することにより調製した。測定の際の流量は、1.0ml/分とし、ポリマーラボラトリーズ製標準ポリメタクリル酸メチルで作製した検量線に基づいて、ポリメタクリル酸メチル換算分子量として重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0075】
(アセタール化度)
ポリビニルアセタール樹脂(B)の組成は、13C−NMRスペクトルを測定することで、炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%(k(BA))および炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%(k(AA))を算出した。
【0076】
(アルカリ金属の含有量)
ポリビニルアセタール樹脂(B)を、白金るつぼ及びホットプレートで炭化し、次いで電気炉で灰化し、残渣を酸に溶解して、原子吸光光度計を用いて測定した。
【0077】
(主分散ピーク温度(Tα))
株式会社レオロジ製、DVE RHEOSPECTOLER DVE−V4を用いて、長さ20mm×幅3mm×厚さ200μmの試験片を、チャック間距離10mm、正弦波振動10Hzおよび昇温速度3℃/分の条件で測定し、損失正接(tanδ)の主分散ピーク温度(Tα)を求めた。
【0078】
(透過電子顕微鏡によるモルフォロジー観察)
アクリル系熱可塑性樹脂組成物を溶融混練後、冷却した。ウルトラミクロトーム(RICA社製ReichertULTRACUT−S)を用いて超薄切片を作製した。該切片を四酸化ルテニウムで電子染色し、試料を作製した。アクリル系熱可塑性樹脂組成物中のポリビニルアセタール樹脂(B)部分が染色された。こうして作製した試料のモルフォロジーを株式会社日立製作所製透過型電子顕微鏡H−800NAを用いて観察した。観察されたモルフォロジーにおいて非染色部(メタクリル系樹脂(A))が連続相を形成していたものを○、メタクリル系樹脂(A)が不連続であったものを×として評価した。また、染色されたポリビニルアセタール樹脂(B)部分の平均分散粒子径を計測した。
【0079】
(熱安定性)
TAインスツルメント社製「SDTQ600」を用いて、窒素流量100ml/分の条件下で30℃から260℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、260℃で60分間等温保持した際の「260℃に達した直後の熱可塑性樹脂組成物の質量に対する熱可塑性樹脂組成物重量減少比率(wt%)、 すなわち、重量減少比率(wt%)=〔(昇温開始(30℃)時重量−昇温終了(260℃60分保持後)時重量)/昇温終了(260℃60分保持後)時重量〕×100」で比較した。この重量減少比率(wt%)の値が小さいほど熱安定性が優れていることを示す。
【0080】
(YI、可視光線透過率)
株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計U−4100を用い、厚さ100μmのフィルムについて測定した。可視光線透過率は、波長380〜780nmにおける透過率を測定し、JIS−R3106に従って算出した。
【0081】
(ヘイズ)
厚さ100μmのフィルムについて、JIS−K7136に従って測定した。
【0082】
(ブツの数)
偏光顕微鏡および蛍光顕微鏡を用い、厚さ100μm、サイズ10cm×10cmのアクリル系熱可塑性樹脂組成物のフィルムについて、製膜開始後、1時間および6時間後のブツの数をカウントした。
【0083】
(ゲル評価)
連続生産性の指標として、ゲル評価を行った。二軸押出機で得た各組成のペレットを260℃で2時間熱処理を実施した。そのペレット500mgをテトラヒドロフラン50gで溶解し、この溶液をメンブランフィルターでろ過を行った。このフィルターを真空乾燥で乾燥処理して、重量増加分からゲル分率を評価した。このゲル分率が小さいほど耐熱性に優れていることを示す。
【0084】
(成形性)
熱成形時の溶融樹脂の粘度、得られるフィルムの強度等の観点から、連続して、安定してフィルムを製造することができるか否かの評価を行なった。
【0085】
製造例1 〔メタクリル系樹脂〕
メタクリル酸メチル単位91質量%およびアクリル酸メチル単位9質量%からなるメタクリル系樹脂(A−1)をバルク重合法により作製した。作製したメタクリル系樹脂は、重量平均分子量(Mw)が100,000、主分散ピーク温度TαAが128℃であった。
【0086】
製造例2 〔ポリビニルアセタール樹脂〕
表1に示す粘度平均重合度およびけん化度を有するポリビニルアルコール樹脂を水に溶解させた。該水溶液を12℃に冷却した。その後、所定量のブチルアルデヒドおよび/またはアセトアルデヒドならびに60質量%の硝酸を添加し、攪拌してアセタール化した。該反応の進行に伴って樹脂が析出した。反応完了後、過剰の水でpH=6になるまで洗浄した。次いでアルカリ性にした水性媒体中に添加し撹拌して懸濁させた。再びpH=7になるまで水で洗浄した。揮発分が1.0%になるまで乾燥することにより、表1に示す特性を有するポリビニルアセタール樹脂(B−1)〜(B−14)および(B−16)〜(B−19)を得た。
【0087】
ポリビニルアセタール樹脂の組成は、13C−NMRを測定することで、炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%(k(BA))、炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%(k(AA))を算出した。
【0088】
【表1】

【0089】
実施例1
メタクリル系樹脂(A−1)75部、及びポリビニルアセタール樹脂(B−1)25部を、東洋精機製LABO PLASTOMILL 2D30W2 二軸押出機を用いて、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数100rpmで混練し、アクリル系熱可塑性樹脂組成物を得た。混練を終える直前の樹脂温度は260℃であった。得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物のモルフォロジー観察を行い、これらの結果を表2に示す。
さらに、得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを東洋精機製LABO PLASTOMILL D2025を用いて押出し成形することで薄膜試料を作製した。その物性評価結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
実施例2〜14
ポリビニルアセタール樹脂(B−1)に代えてポリビニルアセタール樹脂(B−2)〜(B−14)を用いた以外は、実施例1と同じ方法でアクリル系熱可塑性樹脂組成物を得た。得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物の物性評価・モルフォロジー観察を実施例1と同じ方法で行った。これらの結果を表2および表3に示す。
【0092】
実施例15
実施例1で得られたポリビニルアセタール樹脂(B−1)100質量部に対して、可塑剤として、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキサノエートを10質量部添加した。可塑剤を添加して得られたポリビニルアセタール樹脂(B−15)について、株式会社東洋精機製LABO PLASTOMILL 2D30W2 二軸押出機を用いてシリンダー温度230℃、スクリュー回転数100rpmで混練し、アクリル系熱可塑性樹脂組成物を得た。混練を終える直前の樹脂温度は260℃であった。さらに、得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを東洋精機製LABO PLASTOMILL D2025を用いて押出し成形することで薄膜試料を作製した。作製したフィルムについて実施例1と同じ方法にて評価を行なった。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
比較例1〜3
実施例1で用いたポリビニルアセタール樹脂(B−1)の代わりに、表3に示すポリビニルアセタール樹脂(B−16)〜(B−18)を用いた以外は、実施例1と同じ方法にて、ペレットおよびフィルムを得、それらの評価を行った。結果を表3に示す。
【0095】
比較例1については、重合度360のポリビニルアルコール樹脂を用いて作製した、ポリビニルアセタール樹脂(B−16)を用いた。その結果、アクリル系熱可塑性樹脂組成物のフィルムの強度が小さく、脆いため、安定に引き取りを継続することができず、連続してフィルムを製造することができなかった。逆に比較例2については、重合度2400のポリビニルアルコール樹脂を用いて作製した、ポリビニルアセタール樹脂(B−17)を用いた。その結果、アクリル系熱可塑性樹脂組成物の溶融樹脂の粘度が大きく、Tダイから安定に樹脂を吐出することができないため、引き取りを継続することができず、またトルクも徐々に上昇し、連続してフィルムを製造することができなかった。また、比較例3については、けん化度98.5モル%のポリビニルアルコール樹脂を用いて作製した、ポリビニルアセタール樹脂(B−18)を用いた。その結果、アクリル系熱可塑性樹脂組成物のフィルムは、開始1時間後のフィルムに比べ、6時間後のフィルムでブツの数が大幅に増加し、フィルムの状態が悪化した。
【0096】
比較例4
実施例1で用いたポリビニルアセタール樹脂(B−1)の代わりに、表2に示すポリビニルアセタール樹脂(B−19)を用いた以外は、実施例1と同じ方法にて、ペレットおよびフィルムを得、それらの評価を行った。結果を表3に示す。
【0097】
比較例4については、アセタール化度54モル%のポリビニルアセタール樹脂(B−19)を用いて作製した。その結果、開始1時間後のフィルムに比べ、6時間後のフィルムでブツの数が大幅に増加し、フィルムの状態が悪化した。ま

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル系樹脂(A)と、
粘度平均重合度が500〜2000で且つけん化度が99.5モル%以上であるポリビニルアルコール樹脂をアセタール化度65〜88モル%でアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂(B)と
を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂(B)100質量部に対して20質量部以下で可塑剤を含有する請求項1に記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリビニルアセタール樹脂(B)に可塑剤が含まれない請求項1または2に記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリビニルアセタール樹脂(B)は、ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化し、得られたスラリーのpHを6〜8に調整し、次いで乾燥処理を施して得られたものである、請求項1〜3のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリビニルアセタール樹脂(B)は、水分率0.005〜2%に調整されたものである、請求項1〜4のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ポリビニルアセタール樹脂(B)は、炭素数4以上のアルデヒドと炭素数3以下のアルデヒドとでアセタール化して得られる樹脂であり、
アルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の総量が全繰り返し単位の65〜88モル%であり、且つ炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位/炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比が90/10〜0/100である、請求項1〜5のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
メタクリル系樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との質量比(A)/(B)が99/1〜51/49である請求項1〜6のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を加熱成形することを含む成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかひとつに記載のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を加熱成形することを含むフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−23598(P2013−23598A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160374(P2011−160374)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】