説明

アクリル繊維紙およびその製造方法

【課題】本発明は、耐熱性および耐油性が高く、絶縁性のあるアクリル繊維紙およびその製造方法に関するものである。
【解決手段】本発明の第1の要旨は、アクリロニトリル93質量%以上を重合して得たアクリロニトリル共重合体からなり、単繊維繊度が1dtex以下のアクリル繊維に、220℃以上270℃以下の温度で熱処理を施し、その後、抄造したアクリル繊維紙である。
また、第2の要旨は、アクリロニトリル93質量%以上を重合して得たアクリロニトリル共重合体からなり、単繊維繊度が1dtex以下のアクリル繊維に、220℃以上270℃以下の温度で熱処理を施し、その後、抄造したアクリル繊維紙の製造方法にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および耐油性が高く、絶縁性のあるアクリル繊維紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から合成繊維を原料とした合成紙は、セルロースを原料とする紙と比較し吸水による寸法の変化が少ないことから、電池セパレータやオイルフィルター、電子配線基盤などに利用されてきた。
【0003】
湿式紡糸で製造されるアクリル繊維を抄造して製造されるアクリル繊維紙は、合成紙の分野では広く使用されてきた素材の一つである。ポリエステル繊維やポリオレフィン繊維とは異なり、アクリル繊維は難熱可塑性を示すために、熱カレンダー加工を行っても溶融接着することなく、また、親水性で耐薬品性にも優れることから、アクリル繊維紙は、アルカリ電池のセパレータ等の分野で広く使用されてきた。(特許文献1)
【0004】
近年においては、電気二重層コンデンサ等の電子部品用セパレータとして耐薬品性を向上させるために、アクリロニトリル含有率の高いポリアクリロニトリルからなるアクリル繊維を使用することが開示されている。(特許文献2)しかしながら、このような技術においては酸に対するアクリル繊維の耐久性は改善されるものの、耐熱性や耐油性は点においては不十分であった。
【0005】
耐熱性および耐油性を同時に満たす合成紙としては、アラミド繊維、ガラス繊維等を原料とする合成紙が挙げられる。アラミド繊維は耐熱性が高いものの、合成紙として使用するには繊度が大きいため、アラミド繊維を叩解しアラミドフィブリットしてアラミド紙を製造することが一般的である。このようなアラミド紙として耐熱性を向上させるために、予め熱処理をアラミド繊維と熱処理をしていないアラミドフィブリットを混合して抄造を行う方法が開示されている。(特許文献3)
該製造方法で得られるアラミド紙は、耐熱性に優れるものの、アラミドフィブリットは湿式で叩解されるために、アラミド繊維のみ熱処理を行いアラミド紙の製造を行っているために、実質的に熱処理をされていないアラミドフィブリットの耐熱性が不十分であり、アラミド紙としてみた場合、繊度のことなる原料を抄造しているために均質性に劣る。
【0006】
一方、アラミド繊維および、またはポリアリレート繊維と扁平ガラス繊維を配合することにより、バッテリーセパレータや耐熱性オイルフィルターへ適性のある耐熱性多孔紙を得る方法が開示されている。(特許文献4)このような方法で耐熱性と耐油性を備えた合成紙が得られるものの、ガラス繊維が配合されているために、柔軟性に乏しく、オイルフィルターへ使用する際にも形状が制限されるなどの問題があった。また、アラミド繊維やアラミドフィブリット、或いはポリアリレート繊維は、原料そのものが高価であり、経済的な観点からも、汎用樹脂を使用した合成繊維を原料として、安価に合成紙を製造する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−7760号公報
【特許文献2】特開2001−20195号公報
【特許文献3】特開平7−70976号公報
【特許文献4】特開平10−46484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような実情を鑑み、電子部品用セパレータやオイルフィルター、或いはプリント配線基盤等に適用される合成紙を製造するにあたり、従来湿式紡糸により製造される汎用素材であるアクリル繊維を利用して、耐熱性と耐油性を持ちながら、絶縁性および熱成形性に優れた繊維紙とそれを安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、アクリロニトリル93質量%以上を重合して得たアクリロニトリル共重合体からなり、単繊維繊度が1dtex以下のアクリル繊維に、220℃以上270℃以下の温度で熱処理を施し、その後、抄造したアクリル繊維紙にある。
また、第2の要旨は、アクリロニトリル93質量%以上を重合して得たアクリロニトリル共重合体からなり、単繊維繊度が1dtex以下のアクリル繊維に、220℃以上270℃以下の温度で熱処理を施し、その後、抄造するアクリル繊維紙の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアクリル繊維紙は、耐熱性と耐溶剤性を兼ね備えたアクリル繊維紙であって電子部品用セパレータやオイルフィルター、或いはプリント配線基盤等に用いることができる。さらに、本発明によれば、従来湿式紡糸により製造される汎用素材であるアクリル繊維を利用して、耐熱性と耐油性を持ちながら、絶縁性および熱成形性に優れた繊維紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(アクリル繊維)
本発明のアクリル繊維紙に用いることが可能なアクリル繊維とは、公知の方法で紡糸されるアクリル繊維であって、アクリロニトリル100質量%を重合して得た重合体であることが好ましく、アクリロニトリル93質量%以上を重合して得た共重合体であることが必要である。アクリロニトリル93質量%以上である場合は、後述するようにアクリル繊維の紡糸後に、200℃以上の温度で熱処理を行った際、アクリル繊維の熱可塑性が適度であるため、収縮および融着等の問題が発生しないので好ましい。さらに熱処理時の融着抑制の観点からアクリロニトリル96質量%以上であることがさらに好ましい。
【0012】
アクリロニトリル単位以外の成分は、アクリロニトリルと共重合可能な不飽和モノマー、またはその重合体であればよい。アクリロニトリルと共重合可能な不飽和モノマーとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等の不飽和モノマーが挙げられる。
【0013】
本発明のアクリル繊維紙に用いることが可能なアクリル繊維の横断面は、特に限定されない。例えば通常の丸断面であってもよく、丸断面の一部が凹状に変形した(いわゆる、そら豆状)断面や、扁平断面或いはY字型断面など任意の断面が採用されてよい。
【0014】
本発明のアクリル繊維紙に用いることが可能なアクリル繊維は、単繊維繊度が1.0dtex以下であることが必要である。1.0dtex以下であれば、抄造した際に、繊維間の絡み合いが適度となるために好ましい。たとえば、目付け量が40g/m以下の紙を抄造しようとした場合でも、均質な紙が製造できる。さらに、単繊維繊度が0.01dtex以上0.2dtex以下の範囲であれば、抄造工程の均質性が優れ、また、工業的な生産性も確保できるのでさらに好ましい。
【0015】
(抄造工程)
本発明のアクリル繊維紙の製造方法としては、液体の媒体中にアクリル繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中にアクリル繊維を分散させて降り積もらせる乾式法などの抄紙方法を適用できるが、繊維を均一に分散・混合させて、抄造するうえで湿式法が好ましい。また必要に応じてアクリル繊維以外の繊維を混抄する場合、耐熱性および耐油性を損なわない範囲であれば、任意の割合で用いても良い。
【0016】
さらに、必要に応じてアクリル繊維を接着するために、バインダーを用いても良い。バインダーとしては、高分子バインダーと繊維バインダーが挙げられるが、耐油性の点から、適正なものを選ばなければならない。例えば、高分子バインダーとしてポリビニルアルコールやアクリル系樹脂を使用した場合、プロピレンカーボネート等の有機溶剤中でバインダーが溶出し、アクリル繊維紙が形状を保てなくなるために好ましくない。このためバインダーとしては、繊維バインダーを用いることがより好ましい。
【0017】
アクリル繊維とアクリル繊維以外の繊維とを混合する方法としては、水中で攪拌分散させる方法や、直接混ぜ込む方法が挙げられるが、均一に分散させるためには水中で拡散分散させる方法が好ましい。
また、アクリル繊維紙は連続法またはバッチ法のいずれによっても製造できるが、アクリル繊維紙の生産性および機械的強度の観点からは連続法で製造することが好ましい。
【0018】
(繊維バインダー)
本発明のアクリル繊維紙に用いることが可能な繊維バインダーとしては、融点が160℃以下である繊維が好ましく、さらに耐油性の優れたものが好ましい。例えばポリプロピレン繊維を繊維バインダーとして使用することが可能である。繊維バインダーの添加量はアクリル繊維紙の全質量に対して0.1〜5質量%の範囲にあることが好ましい。この範囲であると、繊維バインダーの融点以上でアクリル繊維紙を使用した場合であっても、アクリル繊維紙の寸法安定性が損なわれず、耐熱性を維持できるので好ましい。さらに繊維バインダーの添加量はアクリル繊維紙の全質量に対して1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
(熱処理)
本発明のアクリル繊維紙を得るためには、アクリル繊維を220℃から270℃までの温度範囲で熱処理することが必要である。あらかじめアクリル繊維に熱処理を行った場合、アクリル繊維紙が220℃以上の温度になった場合でも、波状に変形(皺)する等して、寸法変化が起こることはなく、さらにプロピレンカーボネート等の有機溶剤に対する100℃での耐溶剤性が得られるなど、十分な耐熱性と耐油剤性を得ることができるため好ましくない。これは、アクリル繊維を適切な温度範囲で熱処理することにより、アクリル繊維が変質し、耐熱性と耐油性が付与されるのである。
【0020】
アクリル繊維を熱処理するにあたり、220℃から270℃までの温度範囲で熱処理した場合、アクリル繊維を十分に変質させることができ、アクリル繊維に耐油性が十分付与される。また、熱融着等の問題を生じることがなく好ましい。
さらに、熱処理を高温で長時間行った場合、繊維が部分的に耐炎化、或いは炭化した状態となり、導電性を発現するために好ましくない。220℃以下でも長時間熱処理を行えばアクリル繊維がアクリル繊維紙として必要な耐熱性と耐油性を満たす場合があるが、生産性が低いため経済的観点から好ましくない。
【0021】
本発明のアクリル繊維紙は、電気部品用セパレータとして使用されることを想定し、絶縁性がなければならず、ある特定の熱処理条件において、アクリル繊維に耐熱性と耐油性を付与しながら、同時にアクリル繊維紙として加工するための熱可塑性を維持し、さらに絶縁性を具備するように調整されなければならない。
【0022】
アクリル繊維を熱処理するにあたり、アクリル繊維紙に加工してから熱処理するのではなく、アクリル長繊維を熱処理することがより好ましい。アクリル繊維紙に加工してから熱処理を行う場合、とくに加熱したローラーと接触する方法で熱処理する場合には、熱処理斑が発生し、全体が均一にならない等の問題が発生する。また、アクリル繊維紙を非接触方式で熱処理する場合、皺が発生するなどの問題が起こるために好ましくない。さらに、アクリル長繊維を切断した短繊維の状態で熱処理を行う場合、アクリル短繊維が収縮し、部分的に融着を起こすために好ましくない。均質なアクリル繊維紙を得るためには、アクリル長繊維に熱処理を施し、その後アクリル長繊維を切断し、アクリル短繊維としてから、抄造を行うことで、アクリル繊維紙を製造することがもっとも好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(アクリル繊維および繊維紙の電気抵抗値測定方法)
繊維の抵抗値を測定するために、繊維を長さ方向に3cmの長さに切断してから、絶縁性の試料台に両端を固定し、さらに導電性ペースト(藤倉化成株式会社製、製品名:ドータイト)をペースト間が1cmとなるように塗布して、絶縁計のテストピンで接地点を作成した。その後、導電性ペーストで被覆されていない部分の繊維を切り取り、超絶縁計(日置電機製、製品名: SM−8216)を用いて、10Vの印加電圧で導電性ペースト間の抵抗値を測定した。なお、抵抗値が測定範囲以上に高く、抵抗値が表示されない場合を絶縁体とみなした。
【0024】
(アクリル繊維紙の厚さ方向の電気抵抗値測定方法)
アクリル繊維紙を横2cm、縦5cm、厚さ0.5mmの鉄板二枚で挟み、デジタルマルチメータ(三和電気計器株式会社製、製品名:PM11)を用いて、鉄板間の抵抗値を測定した。本測定器による抵抗値の測定上限は40MΩであり、本測定器で測定して抵抗値が測定上限以上となった場合、アクリル繊維紙を絶縁体とみなした。
【0025】
(耐油性評価方法)
ネジ口ビン(内容量:20cm)に長さ2cmに切断したアクリル繊維を0.5g投入した。また、アクリル繊維紙は、長さ1cm、幅1cmに切断にして同様にネジ口ビンに投入した。さらに有機溶剤(プロピレンカーボネート)を2cm投入して、ネジ口ビンを密封し、乾熱乾燥機にて150℃、1時間保持した後のアクリル繊維またはアクリル繊維紙の様子を目視にて確認した。アクリル繊維またはアクリル繊維紙が完全に溶解しておらず、一部残存している場合は耐油性ありとした。
【0026】
(耐熱性評価方法)
ネジ口ビン(内容量:20cm)に長さ2cmに切断したアクリル繊維を0.5g投入した。また、アクリル繊維紙は、長さ1cm、幅1cmに切断にして同様にネジ口ビンに投入した。さらに有機溶剤(プロピレンカーボネート)を2cm投入して、ネジ口ビンを密封し、乾熱乾燥機にて150℃、1時間保持した後のアクリル繊維またはアクリル繊維紙の様子を目視にて確認した。アクリル繊維またはアクリル繊維紙に収縮が起こらず寸法が維持された場合は耐熱性ありとした。
(実施例1)
【0027】
アクリロニトリル93質量%、酢酸ビニル7質量%を水系懸濁重合して得たポリアクリロニトリル共重合体を、ジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液を得た。紡糸原液中のポリアクリロニトリル共重合体の含有量は、20質量%とした。紡糸原液を口径60μm、口数400個の紡糸ノズルから、ジメチルアセトアミド水溶液を入れた紡浴(ジメチルアセトアミドの濃度:30質量%、温度:41℃)中へ押出して凝固し繊維化した。凝固した糸条は、連続で熱水槽へ供給し、糸条に残存した溶媒を90℃の熱水と置換しながら5.5倍の延伸を行った。延伸が終了した繊維糸条に紡糸油剤を付与した後、乾熱ローラーにより乾燥することによって、単繊維繊度0.5dtex、強度2.34cN/dtex、伸度15%のアクリル繊維を得た。
【0028】
得られたアクリル繊維を長さ方向に寸法を固定した状態で、240℃、30分間の熱処理を行った。熱処理後のアクリル繊維の電気抵抗値を測定したところ、絶縁体であることが確認された。また、前記アクリル繊維を耐油性評価した結果、形状を維持した状態で残っていることが確認でき、耐油性を付与できていることがわかった。
【0029】
上記の熱処理を行ったアクリル繊維を3mmの長さに切断し、32g/mで抄紙を作成し、プレス乾燥(110℃、5分間)し、次いで電動式加熱ロール延伸機(株式会社井元製作所製)を使用し、上熱ローラー、下熱ローラー共に設定値175℃に加熱した状態で、上下熱ローラー間のクリアランスを20μmとし、速度0.5m/minでカレンダー加工を行い、厚さ52μmのアクリル繊維紙を得た。
【0030】
得られたアクリル繊維紙についてシートの厚さ方向の電気抵抗値を測定した結果、絶縁体であることが確認された。さらに、前記アクリル繊維紙の耐油性および耐熱性を確認した結果、プロピレンカーボネート中で150℃まで昇温してもアクリル繊維紙は変形せず、耐油性および耐熱性を有するアクリル繊維紙が得られたことが確認された。
【0031】
(実施例2)
ポリアクリロニトリル共重合体の組成をアクリロニトリル95質量%、酢酸ビニル5質量%とした以外は、実施例1と同様の方法により、単繊維強度0.5dtex、強度2.43cN/dtex、伸度13%のアクリル繊維を得た。
得られたアクリル繊維の電気抵抗値を測定したところ、絶縁体であることが確認された。
前記アクリル繊維を長さ3mmに切断し、32g/mで抄紙を作成し、プレス乾燥(110℃、5分間)を行った後、実施例1と同様の方法によりカレンダー加工を行い厚さ45μmのアクリル繊維紙を得た。
【0032】
得られたアクリル繊維紙についてシートの厚さ方向の電気抵抗値を測定したところ、絶縁体であることが確認できた。さらに前記アクリル繊維紙の耐油性を確認したところ、プロピレンカーバイト中で溶解し、耐油性がないことが確認された。
該アクリル繊維紙を縦横方向に寸法を固定した状態で、220℃で30分熱処理を行ったところ、繊維紙には波状の変形が見られ、実用上使用に耐えうるが、やや均質性が劣るものであった。熱処理を行ったアクリル繊維紙の耐油性および耐熱性を確認したところ、繊維シートの変形が見られなかった。
(実施例3)
【0033】
実施例1と同様の方法により紡糸を行い、単繊維繊度1.0dtex、強度1.98cN/dtex、伸度15%のアクリル繊維を得た。前記アクリル繊維を長さ方向に寸法を固定した状態で熱処理(230℃、30分間)を行うことにより、耐熱性および耐油性を有するアクリル繊維を得ることができた。
【0034】
上記のように熱処理を行ったアクリル繊維を長さ3mmに切断し、ポリビニルアルコール繊維(3dtex、3mm)とアクリル繊維95質量部、ポリビニルアルコール繊維5質量部の割合で混合し、32g/mで抄紙を行い、次いで実施例1同様の方法によりカレンダー加工を行い、厚さ50μm、シート厚さ方向に絶縁体であるアクリル繊維紙を得ることができた。該アクリル繊維紙の耐油性を確認したところ、プロピレンカーバイト中へポリビニルアルコール繊維が溶出していることが確認されたが、繊維紙は形状を保っており、耐熱性が得られていることが確認された。
(比較例1)
【0035】
ポリアクリロニトリル共重合体の組成をアクリロニトリル92質量%、酢酸ビニル7質量%とした以外は、実施例1と同様の方法により、単繊維強度1.0dtex、強度2.22cN/dtex、伸度19%のアクリル繊維を得た。得られたアクリル繊維を長さ方向に寸法を固定した状態で、240℃、30分加熱したところ繊維が融解収縮し、分繊可能なアクリル繊維を得ることができなかった。
(比較例2)
【0036】
実施例1と同様の方法によって、単繊維繊度2.0dtex、強度1.93cN/dtex、伸度15%のアクリル繊維を得た。前記アクリル繊維を長さ方向に固定した状態で熱処理(230℃、30分間)を行うことにより、耐熱性および耐油性を有するアクリル繊維を得た。さらに前記アクリル繊維を長さ3mmに切断し、32g/mで抄紙を行ったところ、抄紙は繊維の粗密があり不均一となった。
(比較例3)
【0037】
実施例1と同様の方法により、単繊維強度1.0dtex、強度2.22cN/dtex、伸度19%のアクリル繊維を得た。得られたアクリル繊維を長さ方向に固定した状態で、240℃、30分間、加熱した後、長さ3mmに切断し、ポリビニルアルコール繊維(3dtex、3mm)とアクリル繊維85質量部、ポリビニルアルコール繊維15質量部の割合で混合して、32g/mで抄紙を行い、アクリル繊維紙を得た。前記アクリル繊維紙の耐油性を確認したところ、プロピレンカーバイト中へポリビニルアルコール繊維が溶出し、アクリル繊維がほぐれアクリル繊維紙の形状を保つことができなかった。
(比較例4)
【0038】
実施例1と同様の方法により得られたアクリル繊維を、長さ方向に固定した状態で、熱処理(280℃、30分間)を行ったところ、アクリル繊維に柔軟性がなくなり、アクリル繊維紙に加工することができない状態となった。また、繊維の電気抵抗値を測定したところ、通電があることが確認され、絶縁体となっていないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル93質量%以上を重合して得たアクリロニトリル共重合体からなり、単繊維繊度が1dtex以下のアクリル繊維に、220℃以上270℃以下の温度で熱処理を施し、その後、抄造したアクリル繊維紙。
【請求項2】
前記熱処理されるアクリル繊維が長繊維である請求項1のアクリル繊維紙。
【請求項3】
前記熱処理後に、アクリル長繊維を短繊維に切断する請求項2のアクリル繊維紙。
【請求項4】
前記熱処理を施す時間が、10〜60分である請求項1〜3のいずれか一項に記載のあるアクリル繊維紙。
【請求項5】
繊維バインダー0.1〜5質量%をさらに含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のあるアクリル繊維紙。
【請求項6】
厚さ方向の電気抵抗値が10MΩ/cm以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載のあるアクリル繊維紙。
【請求項7】
アクリロニトリル93質量%以上を重合して得たアクリロニトリル共重合体からなり、単繊維繊度が1dtex以下のアクリル繊維に、220℃以上270℃以下の温度で熱処理を施し、その後、抄造したアクリル繊維紙の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理されるアクリル繊維が長繊維である請求項7のアクリル繊維紙の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理後に、アクリル長繊維を短繊維に切断する請求項8のアクリル繊維紙の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理を施す時間が、10〜60分である請求項7〜9のいずれか一項に記載のあるアクリル繊維紙の製造方法。
【請求項11】
繊維バインダー0.1〜5質量%をさらに含む請求項7〜10のいずれか一項に記載のあるアクリル繊維紙の製造方法。

【公開番号】特開2012−72519(P2012−72519A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218600(P2010−218600)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】