アクリル酸およびその重合体の製造方法
【課題】未反応のヒドロキシプロピオン酸が少なく、また副反応で生成する重質化した生成物等の副生物の発生量を減らしつつ、アクリル酸を長時間にわたり安定して製造することができるアクリル酸の製造方法を提供することにある。また、不純物の少ないアクリル酸を原料として性能および安全面に優れる吸水性樹脂の製造方法を提供する
【解決手段】ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造する方法において、(a)前記原料組成物を、反応器内に保持されて加熱した液相に接触させて脱水反応を施し、反応生成物を得る工程、(b)前記反応生成物を液相から気化する工程、(c)気化した反応生成物を冷却する工程を含む製法により達成される。
【解決手段】ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造する方法において、(a)前記原料組成物を、反応器内に保持されて加熱した液相に接触させて脱水反応を施し、反応生成物を得る工程、(b)前記反応生成物を液相から気化する工程、(c)気化した反応生成物を冷却する工程を含む製法により達成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシプロピオン酸からアクリル酸を調製する方法、吸水性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は吸水性樹脂などの原料として工業的に広く利用されており、通常、アクリル酸の製法としては、固定床多管式反応器を用い酸化物触媒の存在下、プロピレンを接触気相酸化によりアクロレインとし、得られたアクロレインの接触気相酸化によりアクリル酸を製造する二段酸化方法が一般的である。別のアクリル酸製法として、最近ではプロパンの酸化によりアクリル酸を製造する技術が開示されているが、商業化はされていない。プロピレンは石油など化石燃料から容易に入手できるが、石油の需要増加によりその価格は上昇している。プロパンは石油または液化天然ガスから入手でき、一般にプロピレンよりも安いが、エネルギー産生におけるその石油燃料代替物としての使用が増加するにつれ、その価格が上昇してきた。プロピレンおよびプロパンはどちらも化石資源由来の原料であるため、再生可能資源から製造することが望まれている。
【0003】
再生可能な資源であるバイオマスなどを利用して、アクリル酸を商業的規模で経済的に製造する試みが行われている。バイオマスからのアクリル酸の生成方法としては、天然物であり容易に入手可能な乳酸(2−ヒドロキシプロピオン酸、2HPとも称す)や、天然の糖類あるいはセルロース等を分解して得られる糖類をさらに発酵により調製される3−ヒドロキシプロピオン酸(3HPとも称す)等のヒドロキシプロピオン酸(HPとも称す)を脱水することによりアクリル酸を調製する方法が挙げられる。
【0004】
特許文献1は、発酵などにより得られたβ−ヒドロキシカルボン酸又はその塩を含む水溶液または溶液を準備し、その溶液を脱水触媒の存在または非存在の下で加熱することにより脱水を施し不飽和カルボン酸又はその塩を製造する方法を開示している。
【0005】
特許文献2は、α−または、β−ヒドロキシカルボン酸を含む水溶液を不活性なセラミック等や酸性の固体触媒を保持したところへ導入して加熱することによりα,β−不飽和カルボン酸を調製する方法を開示している。さらにα−または、β−ヒドロキシカルボン酸から形成されるポリマー、オリゴマー、ラクチド、ラクトン等を含む水溶液を用いることができるとの記載はあるが、具体的に実施した例の開示はない。
【0006】
ヒドロキシカルボン酸を含む原料組成物を、蒸発させて触媒と接触させる気相脱水反応によりアクリル酸を製造する場合、反応管内に付着物が生成し、最終的に反応管が閉塞してしまい、長時間安定に製造することが困難であるという問題がある。また付着物が触媒表面を覆うことによって、触媒活性が低下し、ヒドロキシプロピオン酸の転化率が低下する問題もある。またその結果、生成したアクリル酸に未転化のヒドロキシプロピオン酸が混入し、反応後の精製工程において、アクリル酸の純度が低下したり、ヒドロキシプロピオン酸がアクリル酸と反応し、アクリル酸の収量が低下するという問題も生じる。
【0007】
吸水性樹脂はその中の残存モノマー含量を低減することが性能面及び安全面から望まれている。そのため、吸水性樹脂の調製に用いるアクリル酸原料は、吸水性樹脂中の残存モノマー発生の原因となるヒドロキシプロピオン酸やそのダイマーないしオリゴマー等の不純物が少ないことが強く求められている(特許文献3、特許文献4)。しかし、前記方法では、得られたアクリル酸中に未反応のヒドロキシプロピオン酸モノマーや重質化した副生物が多いことから、煩雑な精製工程の追加が必要であるため、吸水性樹脂の原料となるアクリル酸を得る方法としては不十分な技術であり、工夫の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−521718号公報
【特許文献2】国際公開第2005/095320号
【特許文献3】特開平6−122707号公報
【特許文献4】特表2008−534695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の課題は、未反応のヒドロキシプロピオン酸が少なく、また副反応で生成する重質化した生成物等の副生物の発生量を減らしつつ、アクリル酸を長時間にわたり安定して製造することができるアクリル酸の製造方法を提供することにある。また、不純物の少ないアクリル酸を原料として性能および安全面に優れる吸水性樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々検討の結果、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造するにあたり、前記原料組成物を加熱した液相中に供給して接触させることにより、非常に短い時間で脱水反応を進行させて、さらに反応生成物が液相中に滞留することなく気化させることにより、ヒドロキシプロピオン酸を効率良く転化することができ、副生物の発生量を減らしつつ、長期間にわたり安定して製造することができることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造する方法であって、(a)前記原料組成物を、反応器内に保持されて加熱した液相に接触させて脱水反応を施し、反応生成物を得る工程、(b)前記反応生成物を液相から気化する工程、(c)気化した反応生成物を冷却して、アクリル酸を含む組成物を得る工程を含むことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
(2)上記(a)工程の液相中に触媒が存在することを特徴する上記(1)に記載の製造方法。
(3)上記(b)工程が水および/または不活性ガスを導入することにより気化することを特徴する上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)前記原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の少なくとも一部または全部が、発酵により得られるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
(5)さらに晶析工程を含む上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする親水性樹脂の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を効率良く転化することができ、副生物の発生量を減らしつつ、長期間にわたり安定して製造することができるアクリル酸の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】は本発明の代表的な反応装置図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造する方法を提供し、(a)前記組成物を、反応器内に保持されて加熱した液相に接触させて脱水反応を施し反応生成物を得る工程、(b)前記反応生成物を液相から気化する工程、(c)気化した反応生成物を冷却して、アクリル酸を含む組成物を得る工程を含む。
【0015】
本発明の方法において、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物は2−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、これらの酸の塩またはそれらの混合物を含有する任意の溶液であればよい。この溶液には、ヒドロキシプロピオン酸のエステルダイマーやエーテルダイマーを含んでいても良い。
【0016】
尚、本発明の方法は、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩だけでなく、他のヒドロキシカルボン酸またはその塩にも用いることができる。ヒドロキシカルボン酸またはその塩としては、後述する液相温度で脱水反応を起こして不飽和カルボン酸を生成し、その不飽和カルボン酸が引き続いて蒸発しうる化合物であればよく、ヒドロキシメチルプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸等の酸またはその塩が挙げられる。例えば、ヒドロキシメチルプロピオン酸を用いて脱水反応を施すとメタクリル酸を得ることができる。
【0017】
ヒドロキシプロピオン酸、その塩またはそれらの混合物を含む原料組成物は溶媒を含んでいても良い。溶媒としては、ヒドロキシプロピオン酸またはその塩を溶解する溶媒であればよく、特に限定されないが、水、アルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミドまたはこれらを組合せた溶媒を用いることができる。好適には水である。上記ヒドロキシプロピオン酸の塩は、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩又はそれらの混合物である。
【0018】
本発明に用いるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の濃度は、少なくとも5質量%、好ましくは5質量%から95質量%、更に好ましくは7質量%から90質量%、最も好ましくは10質量%から85質量%である。該原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の濃度が小さすぎると、反応生成物および溶媒の蒸発にかかる熱量が大きくなり、コストアップの要因となる。濃度が高すぎるとオリゴマーの生成等、アクリル酸収率が低下する恐れがある。
【0019】
ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物に含まれる溶媒成分は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。原料のヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物に含まれる溶媒成分が、液相と接触することにより気化し、気化したガスが液相中で生成した水やアクリル酸の気化を促進したり、気相中のアクリル酸濃度を低下させることで、平衡の移動によるヒドロキシプロピオン酸の転化率向上や、副反応抑制によるアクリル酸収率の向上が可能となる。
【0020】
また、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物には、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩、溶媒以外にも他の成分を含んでいても良い。例えばヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を合成する際の副生物等が挙げられる。ヒドロキシプロピオン酸を発酵にて合成する場合には、例えば、ギ酸、酢酸、酪酸、エタノール等が例示できる。これらの不純物は、原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩に対して、それぞれ2%以下が好ましい。
【0021】
ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物を反応器へ供給する速度は、触媒や反応温度により異なるが、液相中のアクリル酸濃度として1質量%以下になるように調整することが好ましい。より好ましくは0.5質量%以下である。前記液相中のアクリル酸濃度が1質量%を越えると、平衡反応であるヒドロキシプロピオン酸の見かけの転化速度が遅くなり、ヒドロキシプロピオン酸の転化率が低下したり、生成したアクリル酸が副反応により消費され、アクリル酸の収率が低下する恐れがあり好ましくない。
【0022】
本発明で用いられるヒドロキシプロピオン酸またはその塩は種々の源から得ることができ、好適には地球温暖化抑制及び環境保護の観点から、炭素源としてリサイクル可能な生物由来資源を用いるのが良く、セルロース等の炭水化物を触媒により分解して調製された2−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩や、農作物等から得られる糖類や、セルロース等を分解して得られる糖類から、さらに発酵により調製された2−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩、3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩を用いることができる。本発明において、原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸またはその塩の少なくとも一部または全部が発酵により得られるヒドロキシプロピオン酸またはその塩であることが好ましい。本発明における発酵とは、有機物が微生物の作用によって変換され、原料有機物とは異なる化合物が生産されることを指す。
【0023】
2−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩は、公知の方法により入手可能であり、例えば、特開2008−120796号公報記載のセルロース系バイオマス原料等の炭水化物含有原料を、ルイス酸触媒を含む溶媒中で加熱処理することにより得ることができる。また、Advances in Applied Microbiology、42巻45−95頁1996年記載の乳酸菌を用いた発酵や、Enzymeand Microbial Technology、26巻87−107頁2000年に記載されているカビ(Rhizopus oryzae)を用いた発酵により得ることが可能である。
【0024】
3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩もまた、公知の方法で入手可能であり、例えば国際公開第2008/027742号に記載されている、Streptomyces griseus ATCC21897由来beta−alanine aminotransferase遺伝子導入大腸菌を用いた、グルコースを炭素源とした発酵により得ることができる。また、国際公開第2001/016346号に記載されている、Klebsiella pneumoniae由来グリセリン脱水酵素および大腸菌由来アルデヒド酸化酵素導入大腸菌を用いた、グリセリンを炭素源とした発酵によっても得ることができる。
3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩の入手方法の例として上記公知文献を記載したが、本特許の方法を用いる限り、発酵に用いる細菌または組換え細菌は特に限定されず、3−ヒドロキシプロピオン酸生成能を有する生物を用いた発酵により入手した3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩であれば本特許記載の方法で利用可能である。また、発酵以外にも原料とする糖類と生物とを接触させることで生成した3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩でも本特許記載の方法でアクリル酸へ変換することができる。糖類と生物を接触させるとは、原料として利用する糖類の存在下で微生物又はその処理物を用いて反応を行うことをも包含する。該処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、菌死体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、これらから酵素を抽出した粗酵素液、精製酵素等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いて反応を行うことにより入手した3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩も用いることができる。
【0025】
生物由来資源を用いて発酵によりヒドロキシプロピオン酸またはその塩を得る具体的実施形態に係る方法においては、好ましくは、固体、特に微細な植物の部分又は細胞及び/又は細胞断片、特に発酵の後に得られるヒドロキシプロピオン酸またはその塩及び微生物等を含む水性組成物から微生物や生物的材料等を分離するのが良い。前記分離は、固体を液状組成物から分離するための、当業者に公知の全ての方法により実施することができるが、好ましくは沈殿法、遠心分離法又は濾過法、最も好ましくは濾過法により分離するのがよい。
【0026】
ヒドロキシプロピオン酸またはその塩及び微生物等を含む水性組成物から微生物等を分離する処理においては、そこに含まれる微生物に処理を施すことなく行っても良いが、加熱処理して、そこに含まれる微生物を殺菌する処理工程を含んでも良い。前記水性組成物から微生物等を殺菌する処理は、微生物を分離する前、その間若しくは後に行うことができる。上記加熱処理の方法としては、ヒドロキシプロピオン酸またはその塩及び微生物等を含む水性組成物を少なくとも60秒、好ましくは少なくとも10分、更に好ましくは少なくとも30分間にわたり、少なくとも100℃、特に好ましくは少なくとも110℃、更に好ましくは少なくとも120℃の温度で加熱することによって実施するのが好ましく、当該加熱処理は、当業者に公知の装置(例えばオートクレーブ)において実施するのが好ましい。高エネルギー照射(例えば紫外線照射)により微生物を殺菌してもよいが、加熱による微生物の殺菌が特に好適である。
【0027】
本発明に用いるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物は、より不純物が少ない原料組成物を用いることが好ましく、不純物が少ない原料組成物を得る方法としては、公知の方法が利用可能である。具体的には、発酵により得られた粗製ヒドロキシプロピオン酸を、カルシウム塩を用いて沈殿させてヒドロキシプロピオン酸のカルシウム塩として回収し、その後、硫酸等の酸と反応させてヒドロキシプロピオン酸を精製する方法、または発酵により得たアンモニウム型のヒドロキシプロピオン酸を電気透析または陽イオン交換法によってヒドロキシプロピオン酸に化学変換させて精製する方法等が利用できる。
また、発酵により得られたアンモニウム型のヒドロキシプロピオン酸に、水に不混和性のアミン溶媒を添加し加熱することで、アンモニアを除去してヒドロキシプロピオン酸のアミン溶液を得ることができる。そこに水を加えて加熱することで、ヒドロキシプロピオン酸の水溶液を得ることができる。
【0028】
本発明の方法において、反応器内に保持されて加熱した液相とは、反応器に保持されていて加熱された状態の溶媒および/または触媒からなる。溶媒の種類は、特に限定されないが、本反応において不活性であれば良く、例えば水、アルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミド等を用いることができる。好ましくは、水、エーテル、ケトン類である。
【0029】
本発明において、液相中に触媒が存在する形態または触媒単独で液相である形態が好ましい形態である。触媒としては、溶媒に溶解するものでも、分散している状態のものでもよく、脱水反応において脱水の効果を示すものであれば良い。酸触媒や塩基触媒を用いることができ、特に限定されないが、例えばリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム等の塩類や、酸触媒としては塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸類、ケイタングステン酸、リンタングステン酸等のヘテロポリ酸類、塩酸、硫酸、リン酸またはヘテロポリ酸等の酸性化合物をシリカ等の担体に接触して得た触媒、リン酸水素ナトリウムやリン酸水素カリウム等のリン酸塩を担体に担持した触媒、酸性イオン交換樹脂、シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ、チタニア、ジルコニア、ゼオライト及びその他のルイス酸またはブレンステッド酸等の固体酸触媒が挙げられる。塩基触媒としては、酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、トリカプリルアミン、トリデシルアミン及びトリドデシルアミン等のアミン類、塩基性イオン交換樹脂等が挙げられる。好適には酸触媒であり、最も好ましいものとしては、脱水反応を施す際の温度において、溶媒を含まないで液状で存在するものが良く、リン酸、リン酸の縮合物、硫酸、ヘテロポリ酸が挙げられる。こうした酸触媒を用いることにより、脱水反応で生成したアクリル酸塩はアクリル酸として遊離し、気化することができる。
【0030】
上記液相とヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物を接触させることで、効率よくアクリル酸を製造することができる。液相中に供給されたヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の濃度は低下するので、ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマー化等の副反応を抑制でき、アクリル酸収率を向上させることができる。また、液相からの速やかな熱の供給により、生成したアクリル酸や水が速やかに気化、液相より除去されることにより、平衡が移動し、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の転化率を高めることもできる。
【0031】
液相温度は反応生成物が反応生成後にすみやかに蒸発できる温度であればよく、好適には200℃〜350℃である。温度が低いと脱水反応速度が遅く、反応生成物の蒸発も遅くなり液相中に滞留して重質化が進むため、収率の低下や触媒活性低下の原因となる。温度が高いと溶媒の流出が多くなり、後で反応生成物と溶媒を分離する工程でのエネルギーコストが増大する。より好ましい温度範囲は210℃〜330℃である。反応圧力は、前記温度範囲で反応生成物が蒸発する圧力であれば良く、減圧、常圧、加圧であってよく、特に限定されない。
【0032】
本発明の好ましい形態の一つは、脱水反応を施した反応生成物を気化させる際に、水および/または不活性ガスを導入する形態である。不活性ガスの種類としては、特に限定されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスや空気等の非凝縮性のガス、水蒸気、過熱水蒸気等の凝縮性のガスを用いることができる。使用する不活性ガスは、複数のガスを併用しても良い。また水と不活性ガスを同時に使用してもかまわない。好適には、窒素、水蒸気、過熱水蒸気である。導入するガスの温度は、非凝縮性のガスの場合、20℃〜350℃であり、反応温度の維持および生成ガスの凝縮の観点より好ましくは50℃〜330℃、より好ましくは100℃〜300℃である。凝縮性のガスの場合、反応圧力における沸点〜350℃であり、反応温度の維持および生成ガスの凝縮の観点より好ましくは反応圧力における沸点〜330℃である。
また、反応器に水を供給することは、反応器中で蒸発して水蒸気となるため、上記の水蒸気を供給する場合と同様の効果が得られる。水は原料のヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む組成物と別に供給しても良いし、ヒドロキシプロピオン酸組成物に含まれていても良い。
【0033】
水および/または不活性ガスの流量としては、原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸の流量に対して、水および/または不活性ガスの総量が1.5モル倍〜200モル倍が好ましく、特に2モル倍〜100モル倍が好ましい。1.5モル倍以上であれば、生成物のアクリル酸や水の除去が速やかに起こり、アクリル酸収率が向上する。また200モル倍以下であれば、反応器からの流出ガスの冷却に過大なエネルギーがかかることはない。
【0034】
本発明で用いる反応器は、生成物の水やアクリル酸を速やかに気化して除去することができるように液相に効率的に熱を与える設備が好ましい。反応器の壁面からの加熱だけでなく、外部熱交換器に液相を循環させても良い。例えば液膜式の熱交換器が使用できる。具体的には上昇液膜型、流下液膜型、撹拌液膜型等の公知の装置が使用できる。また熱交換器そのものを反応器と使用しても良い。また、ガスを供給する場合には、加熱したガスにより熱を供給しても良い。
【0035】
本発明の(c)の工程において、気化した反応生成物を冷却してアクリル酸を含む組成物を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、反応生成ガスを熱交換器に導入し反応生成ガスの露点以下の温度で凝縮して得る方法や、または反応生成ガスを溶剤等の捕集剤に接触させて吸収する方法等により冷却して、アクリル酸を含む組成物を得ることができる。該組成物中のアクリル酸濃度は5質量%〜90質量%である。
【0036】
このようにして得られた反応生成物の組成物中には主な反応生成物である水、アクリル酸が含まれており、その他には液相に用いる溶媒や、原料中の溶媒が含まれる場合がある。溶媒が水の場合は、アクリル酸の水溶液の状態で重合物製造の原料とすることができる。また精製工程を加えることにより高純度のアクリル酸にすることができる。該組成物中に液相に用いた溶媒が含まれる場合は、蒸留により分離するか、または膜などを用いて一旦溶媒を分離し水溶液とした後、再度、蒸留または晶析により精製を行うことで高純度のアクリル酸を得ることができる。
このように、本発明で得られたアクリル酸の組成物を精製することにより高純度のアクリル酸を得ることができる。したがって、本発明の方法は高純度のアクリル酸の製造方法をも提供する。
【0037】
上記のガス状の反応生成物を冷却凝縮や溶剤捕集などにより液化し、必要に応じて、この液化物に含まれる水や捕集溶剤を従来公知の方法(例えば、蒸留)により除去したものを、晶析工程によって高純度のアクリル酸を得る方法も本発明の形態である。
【0038】
晶析工程は、粗アクリル酸からプロピオン酸を分離することができる従来公知の方法、例えば、特開平9−227445号公報や特表2002−519402号公報に記載された方法を用いて行うことができる。
晶析工程は、粗アクリル酸を晶析装置に供給して結晶化させることにより、精製アクリル酸を得る工程である。ここで、粗アクリル酸とは、工程(c)の冷却工程で得られたアクリル酸を含む組成物を指し、特にアクリル酸の水溶液が好適に用いられる。なお、結晶化の方法としては、従来公知の結晶化方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、結晶化は、例えば、連続式または回分式の晶析装置を用いて、1段または2段以上で実施することができる。得られたアクリル酸の結晶は、必要に応じて、さらに洗浄や発汗などの精製を行うことにより、さらに純度の高い精製アクリル酸を得ることができる。
【0039】
連続式の晶析装置としては、例えば、結晶化部、固液分離部および結晶精製部が一体になった晶析装置(例えば、新日鐵化学社製のBMC(Backmixing Column Crystallizer)装置、月島機械社製の連続溶融精製システム)や、結晶化部(例えば、GMF GOUDA社製のCDC(Cooling Disk Crystallizer)装置)、固液分離部(例えば、遠心分離器、ベルトフィルター)および結晶精製部(例えば、呉羽テクノエンジ社製のKCP(Kureha Crystal Purifier)精製装置)を組合せた晶析装置などを使用することができる。
回分式の晶析装置としては、例えば、Sulzer Chemtech社製の層結晶化装置(動的結晶化装置)、BEFS PROKEM社製の静的結晶化装置などを使用することができる。
【0040】
動的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクと、結晶器に粗アクリル酸を供給する循環ポンプとを備え、結晶器の下部に設けた貯蔵器から循環ポンプにより粗アクリル酸を結晶器の管内上部に移送できる動的結晶化装置を使用して晶析を行う方法である。また、静的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器であり、下部に抜き出し弁を有する結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクとを備えた静的結晶化装置を使用して晶析を行う方法である。
具体的には、粗アクリル酸を液相として結晶器に導入し、液相中のアクリル酸を冷却面(管壁面)に凝固・生成させる。冷却面に生成した固相の質量が、結晶器に導入した粗アクリル酸に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%になったら、直ちに、液相を結晶器から排出し、固相と液相とを分離する。液相の排出は、ポンプで汲み出す方式(動的結晶化)、結晶器から流出させる方式(静的結晶化)のいずれであってもよい。他方、固相は、結晶器から取り出した後、さらに純度を向上させるために、洗浄や発汗などの精製を行ってもよい。
【0041】
動的結晶化や静的結晶化を多段で行う場合、向流の原理を採用すれば、有利に実施することができる。このとき、各段階で結晶化されたアクリル酸は、残留母液から分離され、より高い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。他方、残留母液は、より低い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。
【0042】
なお、動的結晶化では、アクリル酸の純度が低くなると、結晶化が困難になるが、静的結晶化では、動的結晶化に比べて、残留母液が冷却面に接触する時間が長く、また、温度の影響が伝わり易いので、アクリル酸の純度が低下しても、結晶化が容易である。それゆえ、アクリル酸の回収率を向上させるために、動的結晶化における最終的な残留母液を静的結晶化に付して、さらに結晶化を行ってもよい。
【0043】
必要となる結晶化段数は、どの程度の純度が要求されるかに依存するが、高純度のアクリル酸を得るために必要な段数は、精製段階(動的結晶化)が通常1〜6回、好ましくは2〜5回、より好ましくは2〜4回であり、ストリッピング段階(動的結晶化および/または静的結晶化)が通常0〜5回、好ましくは0〜3回である。通常、供給される粗アクリル酸より高い純度を有するアクリル酸が得られる段階は、すべて精製段階であり、それ以外の段階は、すべてストリッピング段階である。ストリッピング段階は、精製段階から残留母液に含まれるアクリル酸を回収するために実施される。なお、ストリッピング段階は、必ずしも設ける必要はなく、例えば、蒸留塔を用いて、晶析装置の残留母液から低沸点成分を分離する場合には、ストリッピング段階は省略してもよい。
【0044】
動的結晶化および静的結晶化のいずれを採用する場合であっても、晶析工程で得られるアクリル酸の結晶は、そのまま製品としてもよいし、必要に応じて、さらに洗浄や発汗などの精製を行ってから製品としてもよい。他方、晶析工程で排出される残留母液は、系外に取り出してもよい。
【0045】
以上の方法により、アクリル酸を製造することができる。かくして製造されたアクリル酸は、すでに公知となっているように、アクリル酸エステルなどのアクリル酸誘導体;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどの親水性樹脂;などの合成原料として有用である。従って、本発明によるアクリル酸の製造方法は、アクリル酸誘導体や親水性樹脂の製造方法に取り入れることが当然可能である。
【0046】
≪親水性樹脂の製造方法≫
本発明による親水性樹脂の製造方法は、上記のようなアクリル酸の製造方法により得られるアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法により得られたアクリル酸は、吸水性樹脂または水溶性樹脂などの親水性樹脂の原料として用いることができる。
【0047】
本発明の製造方法により得られたアクリル酸を、吸水性樹脂または水溶性樹脂などの親水性樹脂を製造するための原料として用いた場合、重合反応を制御しやすく、得られた親水性樹脂の品質が安定し、吸水性能、無機材料の分散性能などの各種性能が改善される。
【0048】
吸水性樹脂を製造する場合には、例えば、本発明の製造方法により得られたアクリル酸および/またはその塩を単量体成分の主成分(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)とし、さらに0.001〜5モル%(アクリル酸に対する値)程度の架橋剤、0.001〜2モル%(単量体成分に対する値)程度のラジカル重合開始剤を用いて、架橋重合させた後、乾燥・粉砕することにより、吸水性樹脂が得られる。
【0049】
ここで、吸水性樹脂とは、架橋構造を有する水膨潤性水不溶性のポリアクリル酸であって、自重の3倍以上、好ましくは10〜1,000倍の純水または生理食塩水を吸水することにより、水溶性成分(水可溶分)が好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下である水不溶性ヒドロゲルを生成するポリアクリル酸を意味する。このような吸水性樹脂の具体例や物性測定法は、例えば、米国特許第6,107,358号、米国特許第6,174,978号、米国特許第6,241,928号などに記載されている。
【0050】
また、生産性向上の観点から好ましい製造方法は、例えば、米国特許第6,867,269号、米国特許第6,906,159号、米国特許第7,091,253号、国際公開第01/038402号、国際公開第2006/034806号などに記載されている。
【0051】
アクリル酸を出発原料として、中和、重合、乾燥などにより、吸水性樹脂を製造する一連の工程は、例えば、以下の通りである。
【0052】
本発明の製造方法により得られるアクリル酸の一部は、ラインを介して、吸水性樹脂の製造プロセスに供給される。吸水性樹脂の製造プロセスにおいては、アクリル酸を中和工程,重合工程,乾燥工程に導入して、所望の処理を施すことにより、吸水性樹脂を製造する。各種物性の改善を目的として所望の処理を施してもよく、例えば、重合中または重合後に架橋工程を介在させてもよい。
【0053】
中和工程は、任意の工程であり、例えば、所定量の塩基性物質の粉末または水溶液と、アクリル酸やポリアクリル酸(塩)とを混合する方法が例示されるが、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではない。なお、中和工程は、重合前または重合後のいずれで行なってもよく、また、重合前後の両方で行なってもよい。アクリル酸やポリアクリル酸(塩)の中和に用いられる塩基性物質としては、例えば、炭酸(水素)塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミンなど、従来公知の塩基性物質を適宜用いればよい。また、ポリアクリル酸の中和率は、特に限定されるものではなく、任意の中和率(例えば、30〜100モル%の範囲内における任意の値)となるように調整すればよい。
【0054】
重合工程における重合方法は、特に限定されるものではなく、ラジカル重合開始剤による重合、放射線重合、電子線や活性エネルギー線の照射による重合、光増感剤による紫外線重合など、従来公知の重合方法を用いればよい。また、重合開始剤、重合条件など各種条件については、任意に選択することができる。もちろん、必要に応じて、架橋剤や他の単量体、さらには水溶性連鎖移動剤や親水性高分子など、従来公知の添加剤を添加してもよい。
【0055】
重合後のアクリル酸塩系ポリマー(すなわち、吸水性樹脂)は、乾燥工程に付される。乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、熱風乾燥機,流動層乾燥機,ナウター式乾燥機など、従来公知の乾燥手段を用いて、所望の乾燥温度、好ましくは70〜230℃で、適宜乾燥させればよい。
【0056】
乾燥工程を経て得られた吸水性樹脂は、そのまま用いてもよく、さらに所望の形状に造粒・粉砕、表面架橋をしてから用いてもよく、還元剤、香料、バインダーなど、従来公知の添加剤を添加するなど、用途に応じた後処理を施してから用いてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下ことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0058】
(実施例1)
3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)を含む組成物の取得方法
Klebsiella pneumoniae ATCC25955株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてグリセロールデヒドラターゼ遺伝子(GD遺伝子)およびグリセロールデヒドラターゼ再活性化因子(GDR遺伝子)を含む領域を、下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。
フォワードプライマー:
5’−GCGCGCCATATGTTAATTCGCCTGACCGGCC−3’
リバースプライマー:
5’−GCGCGCAGATCTTCAGTTTCTCTCACTTAACG−3’
pACYCDuet−1プラスミド(タカラバイオ社)をテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pACYCDuet−1プラスミドのT7プロモーターの後ろにNdeIサイトおよびBgl IIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−GAAGGAGATATACATATGGCGCGC−3’
リバースプライマー:
5’−CCGATATCCAATTGAGATCTGCGCGC−3’
増幅断片を制限酵素BglIIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、クロラムフェニコール含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素NdeIで切断し、電気泳動によって切断断片のサイズを確認したところライゲーションに使用した元の2本のDNA断片サイズの合計と同じサイズであることがわかった。構築した組換えプラスミドをGD−GDR/pACYCDuet−1と命名し、以降の実験に用いた。
【0059】
大腸菌K−12 W3110株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてaldA遺伝子を下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。
フォワードプライマー:
5’−GGGGGGCCATATGTCAGTACCCGTTCAACATCCTATG−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCAGATCTTTAAGACTGTAAATAAACCACCTGGGTC−3’
pUC18プラスミドをテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pUC18プラスミドのlacプロモーターの後ろにNdeIサイトを持ち、lacZ遺伝子の終始コドンの位置にBamHIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−CCCCCCCATATGTGTTTCCTGTGTGAAATTGTTATCCGCTCACAATTCCACACAATATACGAGCC−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCGGATCCTTAGTTAAGCCAGCCCCGACACCCGCCAACACC−3’
増幅断片を制限酵素BamHIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、アンピシリン含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素NdeIで切断し、電気泳動によって切断断片のサイズを確認したところライゲーションに使用した元の2本のDNA断片(の合計)と同じサイズの1本のバンドを確認することができた。構築した組換えプラスミドをaldA/pUC18と命名し、以降の実験で使用した。
構築したGD−GDR/pACYCDuet−1およびaldA/pUC18をEscherichia coli BL21(DE3) competent cell(Merck社)のプロトコールに従って、ヒートショック法により導入し、E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldA/pUC18)を作出した。
E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldA/pUC18)を、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm添加LB液体培地5mL(LB培地1Lあたりの組成:トリプトン10g、酵母エキス5g、NaCl10g)で37℃、16時間、振盪培養し、前培養液を得た。次に前培養液5mLを、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm、グリセリン40g/L添加LB液体培地1Lに植菌し、37℃、攪拌速度725rpm、通気量1L/min、で通気攪拌培養を行った。なお培養には、バイオット製ジャーファーメンター:BMJ−02NP2を使用し、培養中はアンモニア水を用いて培養液中のpHを7にコントロールした。培養8時間後に1M IPTG溶液を1mL、8mMアデノシルコバラミン溶液を1mL添加してさらに64時間培養を行った。得られた培養液を遠心分離にかけ、培養液上清を回収した。以下記載の方法で培養液上清中の生成物の確認を行ったところ、生成物である3−ヒドロキシプロピオン酸のピークを7.9分の位置に確認することができ、培養液中の3−ヒドロキシプロピオン酸の濃度は2質量%であった。
【0060】
高速液体クロマトグラフィーでの分析条件:
使用カラム:YMC−pACK FA
流量:1mL/min
インジェクション量:10mL
溶離液:メタノール/アセトニトリル/H2O=40/5/55(V/V/V)
内部標準:2−Hydroxy−2−methyl−n−butyricAcid
検出:UV400nm
培養上清100μLに内部標準液200μLを加えた。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬A液200μL、試薬B液200μLを加え、よく混合した後、60℃、20分間処理した。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬C液200μLを添加し、よく混合した。60℃、15分間処理後、室温まで冷えたら0.45mmフィルターに通し、LC分析サンプルとして供した。
【0061】
菌体を除去した2wt%3−ヒドロキシプロピオン酸含有培養液30g、トリデシルアミン180g、ドデカノール20gを500mL三つ首フラスコに加え、これを次に油浴に沈め、真空ポンプに接続した。溶液を攪拌しながらフラスコを加熱した。溶液の温度が85℃に達した段階で真空ポンプのスイッチを入れた。反応の間、3−ヒドロキシプロピオン酸アンモニウムの分解によりアンモニアと水が放出され、これらは減圧下に低温トラップへと除去された。これと同時に3−ヒドロキシプロピオン酸アンモニウムの分解により生成した3−ヒドロキシプロピオン酸は、トリデシルアミンとドデカノールから形成された有機相中に抽出された。3−ヒドロキシプロピオン酸を含むトリデシルアミンとドデカノールから形成された有機相に、1/5容量の水を加えて混合、140℃まで加熱することで、3−ヒドロキシプロピオン酸を含む水溶液を得た。
温度計を備えた1Lのフラスコに、85%リン酸440gを仕込み、250℃まで昇温した。水を毎分5gの速度で、電気ヒーターを巻いた蒸発管に供給し、水を蒸発させ、蒸気を250℃まで昇温した後、フラスコ内のリン酸相(液相)に吹き込み、系が安定になるまで保持した。その後、メトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)16質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.75gの速度で液相に滴下した。
生成物は過熱水蒸気と共に、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を85分間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は97%、アクリル酸の収率は93%であった。
【0062】
(実施例2)
温度計および攪拌翼を備えた1Lのフラスコに、85%リン酸440gを仕込み、250℃まで昇温した。メトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)16質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.75gの速度で液相に滴下した。
生成物は、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を225分間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は98%、アクリル酸の収率は91%であった。フラスコ内の液相中のアクリル酸濃度は0.05%であった。
【0063】
(実施例3)
温度計および攪拌翼を備えた1Lのフラスコに、85%リン酸440gを仕込み、200℃まで昇温した。メトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)79質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.13gの速度で液相に滴下した。同時に、200℃に加熱した窒素を、毎分1.3Lの速度で液相中に供給した。
生成物は、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を300分間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は97%、アクリル酸の収率は90%であった。
【0064】
(比較例1)
加熱した窒素を供給しなかった以外は、実施例3と同様に反応を実施した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は95%、アクリル酸の収率は26%であった。
【0065】
(実施例4)
温度計および攪拌翼を備えた1Lのフラスコに、テトラエチレングリコールジメチルエーテル350gを仕込み、250℃まで昇温した。そこにメトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)16質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.75gの速度で液相に滴下した。
生成物は、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を120分間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は63%、アクリル酸の収率は32%であった。
【0066】
(比較例2)
内径10mmのステンレス製反応管に、高さ5cmで固体触媒としてγ−アルミナを充填した。反応管を電気炉にて300℃に加熱し、メトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)12質量%水溶液を、毎分0.53gの速度で反応管の上部に供給した。同時に、毎分0.1Lの速度で窒素ガスを流した。
反応管の下部から抜き出した反応ガスを、冷却捕集し反応液を得た。得られた反応液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HP供給開始後1時間の3HPの転化率は92%、アクリル酸の収率は84%であった。3HP供給開始後1.2時間で、反応管の圧力が上昇したため、反応を停止した。触媒を抜き出すと、褐色で粘ちょうな液体が触媒上に付着しており、これにより反応管が閉塞し、圧力が上昇したものと考えられる。
【0067】
(実施例5)アクリル酸の晶析精製
実施例1で得られたアクリル酸の水溶液を蒸留し、塔低より、アクリル酸86.5質量%を含む粗製アクリル酸を得た。この粗製アクリル酸を、母液として、室温(約15℃)〜−5.8℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。分離した結晶を融解させてから、一部をサンプリングして分析し、残りを母液として室温(約15℃)〜4.8℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。合計2回の晶析操作により、精製アクリル酸を得た。アクリル酸純度は99.9質量%以上であった。
【0068】
(実施例6)吸水性樹脂の製造例
得られた精製アクリル酸に重合禁止剤を60質量ppm添加した。別途、鉄を0.2質量ppm含有する苛性ソーダから得られたNaOH水溶液に対して、上記の重合禁止剤添加アクリル酸を冷却下(液温35℃)で添加することにより、75モル%中和を行った。得られた、中和率75モル%、濃度35質量%のアクリル酸ナトリウム水溶液に、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート0.05モル%(アクリル酸ナトリウム水溶液に対する値)を溶解させることにより、単量体成分を得た。この単量体成分350gを容積1Lの円筒容器に入れ、2L/minの割合で窒素を吹き込んで、20分間脱気した。次いで、過硫酸ナトリウム0.12g/モル(単量体成分に対する値)およびL−アスコルビン酸0.005g/モル(単量体成分に対する値)の水溶液をスターラー攪拌下で添加して、重合を開始させた。重合開始後に攪拌を停止し、静置水溶液重合を行った。単量体成分の温度が約15分(重合ピーク時間)後にピーク重合温度108℃を示した後、30分間重合を進行させた。その後、重合物を円筒容器から取り出し、含水ゲル状架橋重合体を得た。
得られた含水ゲル状架橋重合体は、45℃でミートチョッパー(孔径:8mm)により細分化した後、170℃の熱風乾燥機で、20分間加熱乾燥させた。さらに、乾燥重合体(固形分:約95%)をロールミルで粉砕し、JIS標準篩で粒径600〜300μmに分級することにより、ポリアクリル酸系吸水性樹脂(中和率:75%)を得た。
【0069】
本発明によるアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性は、プロピレンを原料とするアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性と同等であり、得られた吸水性樹脂は、臭気がなく、物性も同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、ヒドロキシプロピオン酸やその塩、特にリサイクル可能な生物由来資源から入手または調製されたヒドロキシプロピオン酸やその塩を原料として、アクリル酸を高収率で安定的かつ連続的に製造することを可能にするので、地球温暖化対策に多大の貢献をなすものである。
【符号の説明】
【0071】
11 原料3HPタンク
12 3HP供給ポンプ
13 水(不活性ガス)タンク
14 水(不活性ガス)供給ポンプ
15 加熱器
16 反応器
17 凝縮器
18 粗アクリル酸タンク
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシプロピオン酸からアクリル酸を調製する方法、吸水性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は吸水性樹脂などの原料として工業的に広く利用されており、通常、アクリル酸の製法としては、固定床多管式反応器を用い酸化物触媒の存在下、プロピレンを接触気相酸化によりアクロレインとし、得られたアクロレインの接触気相酸化によりアクリル酸を製造する二段酸化方法が一般的である。別のアクリル酸製法として、最近ではプロパンの酸化によりアクリル酸を製造する技術が開示されているが、商業化はされていない。プロピレンは石油など化石燃料から容易に入手できるが、石油の需要増加によりその価格は上昇している。プロパンは石油または液化天然ガスから入手でき、一般にプロピレンよりも安いが、エネルギー産生におけるその石油燃料代替物としての使用が増加するにつれ、その価格が上昇してきた。プロピレンおよびプロパンはどちらも化石資源由来の原料であるため、再生可能資源から製造することが望まれている。
【0003】
再生可能な資源であるバイオマスなどを利用して、アクリル酸を商業的規模で経済的に製造する試みが行われている。バイオマスからのアクリル酸の生成方法としては、天然物であり容易に入手可能な乳酸(2−ヒドロキシプロピオン酸、2HPとも称す)や、天然の糖類あるいはセルロース等を分解して得られる糖類をさらに発酵により調製される3−ヒドロキシプロピオン酸(3HPとも称す)等のヒドロキシプロピオン酸(HPとも称す)を脱水することによりアクリル酸を調製する方法が挙げられる。
【0004】
特許文献1は、発酵などにより得られたβ−ヒドロキシカルボン酸又はその塩を含む水溶液または溶液を準備し、その溶液を脱水触媒の存在または非存在の下で加熱することにより脱水を施し不飽和カルボン酸又はその塩を製造する方法を開示している。
【0005】
特許文献2は、α−または、β−ヒドロキシカルボン酸を含む水溶液を不活性なセラミック等や酸性の固体触媒を保持したところへ導入して加熱することによりα,β−不飽和カルボン酸を調製する方法を開示している。さらにα−または、β−ヒドロキシカルボン酸から形成されるポリマー、オリゴマー、ラクチド、ラクトン等を含む水溶液を用いることができるとの記載はあるが、具体的に実施した例の開示はない。
【0006】
ヒドロキシカルボン酸を含む原料組成物を、蒸発させて触媒と接触させる気相脱水反応によりアクリル酸を製造する場合、反応管内に付着物が生成し、最終的に反応管が閉塞してしまい、長時間安定に製造することが困難であるという問題がある。また付着物が触媒表面を覆うことによって、触媒活性が低下し、ヒドロキシプロピオン酸の転化率が低下する問題もある。またその結果、生成したアクリル酸に未転化のヒドロキシプロピオン酸が混入し、反応後の精製工程において、アクリル酸の純度が低下したり、ヒドロキシプロピオン酸がアクリル酸と反応し、アクリル酸の収量が低下するという問題も生じる。
【0007】
吸水性樹脂はその中の残存モノマー含量を低減することが性能面及び安全面から望まれている。そのため、吸水性樹脂の調製に用いるアクリル酸原料は、吸水性樹脂中の残存モノマー発生の原因となるヒドロキシプロピオン酸やそのダイマーないしオリゴマー等の不純物が少ないことが強く求められている(特許文献3、特許文献4)。しかし、前記方法では、得られたアクリル酸中に未反応のヒドロキシプロピオン酸モノマーや重質化した副生物が多いことから、煩雑な精製工程の追加が必要であるため、吸水性樹脂の原料となるアクリル酸を得る方法としては不十分な技術であり、工夫の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−521718号公報
【特許文献2】国際公開第2005/095320号
【特許文献3】特開平6−122707号公報
【特許文献4】特表2008−534695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の課題は、未反応のヒドロキシプロピオン酸が少なく、また副反応で生成する重質化した生成物等の副生物の発生量を減らしつつ、アクリル酸を長時間にわたり安定して製造することができるアクリル酸の製造方法を提供することにある。また、不純物の少ないアクリル酸を原料として性能および安全面に優れる吸水性樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々検討の結果、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造するにあたり、前記原料組成物を加熱した液相中に供給して接触させることにより、非常に短い時間で脱水反応を進行させて、さらに反応生成物が液相中に滞留することなく気化させることにより、ヒドロキシプロピオン酸を効率良く転化することができ、副生物の発生量を減らしつつ、長期間にわたり安定して製造することができることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造する方法であって、(a)前記原料組成物を、反応器内に保持されて加熱した液相に接触させて脱水反応を施し、反応生成物を得る工程、(b)前記反応生成物を液相から気化する工程、(c)気化した反応生成物を冷却して、アクリル酸を含む組成物を得る工程を含むことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
(2)上記(a)工程の液相中に触媒が存在することを特徴する上記(1)に記載の製造方法。
(3)上記(b)工程が水および/または不活性ガスを導入することにより気化することを特徴する上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)前記原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の少なくとも一部または全部が、発酵により得られるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
(5)さらに晶析工程を含む上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする親水性樹脂の製造方法。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を効率良く転化することができ、副生物の発生量を減らしつつ、長期間にわたり安定して製造することができるアクリル酸の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】は本発明の代表的な反応装置図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造する方法を提供し、(a)前記組成物を、反応器内に保持されて加熱した液相に接触させて脱水反応を施し反応生成物を得る工程、(b)前記反応生成物を液相から気化する工程、(c)気化した反応生成物を冷却して、アクリル酸を含む組成物を得る工程を含む。
【0015】
本発明の方法において、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物は2−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、これらの酸の塩またはそれらの混合物を含有する任意の溶液であればよい。この溶液には、ヒドロキシプロピオン酸のエステルダイマーやエーテルダイマーを含んでいても良い。
【0016】
尚、本発明の方法は、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩だけでなく、他のヒドロキシカルボン酸またはその塩にも用いることができる。ヒドロキシカルボン酸またはその塩としては、後述する液相温度で脱水反応を起こして不飽和カルボン酸を生成し、その不飽和カルボン酸が引き続いて蒸発しうる化合物であればよく、ヒドロキシメチルプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸等の酸またはその塩が挙げられる。例えば、ヒドロキシメチルプロピオン酸を用いて脱水反応を施すとメタクリル酸を得ることができる。
【0017】
ヒドロキシプロピオン酸、その塩またはそれらの混合物を含む原料組成物は溶媒を含んでいても良い。溶媒としては、ヒドロキシプロピオン酸またはその塩を溶解する溶媒であればよく、特に限定されないが、水、アルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミドまたはこれらを組合せた溶媒を用いることができる。好適には水である。上記ヒドロキシプロピオン酸の塩は、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩又はそれらの混合物である。
【0018】
本発明に用いるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の濃度は、少なくとも5質量%、好ましくは5質量%から95質量%、更に好ましくは7質量%から90質量%、最も好ましくは10質量%から85質量%である。該原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の濃度が小さすぎると、反応生成物および溶媒の蒸発にかかる熱量が大きくなり、コストアップの要因となる。濃度が高すぎるとオリゴマーの生成等、アクリル酸収率が低下する恐れがある。
【0019】
ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物に含まれる溶媒成分は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。原料のヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物に含まれる溶媒成分が、液相と接触することにより気化し、気化したガスが液相中で生成した水やアクリル酸の気化を促進したり、気相中のアクリル酸濃度を低下させることで、平衡の移動によるヒドロキシプロピオン酸の転化率向上や、副反応抑制によるアクリル酸収率の向上が可能となる。
【0020】
また、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物には、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩、溶媒以外にも他の成分を含んでいても良い。例えばヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を合成する際の副生物等が挙げられる。ヒドロキシプロピオン酸を発酵にて合成する場合には、例えば、ギ酸、酢酸、酪酸、エタノール等が例示できる。これらの不純物は、原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩に対して、それぞれ2%以下が好ましい。
【0021】
ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物を反応器へ供給する速度は、触媒や反応温度により異なるが、液相中のアクリル酸濃度として1質量%以下になるように調整することが好ましい。より好ましくは0.5質量%以下である。前記液相中のアクリル酸濃度が1質量%を越えると、平衡反応であるヒドロキシプロピオン酸の見かけの転化速度が遅くなり、ヒドロキシプロピオン酸の転化率が低下したり、生成したアクリル酸が副反応により消費され、アクリル酸の収率が低下する恐れがあり好ましくない。
【0022】
本発明で用いられるヒドロキシプロピオン酸またはその塩は種々の源から得ることができ、好適には地球温暖化抑制及び環境保護の観点から、炭素源としてリサイクル可能な生物由来資源を用いるのが良く、セルロース等の炭水化物を触媒により分解して調製された2−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩や、農作物等から得られる糖類や、セルロース等を分解して得られる糖類から、さらに発酵により調製された2−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩、3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩を用いることができる。本発明において、原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸またはその塩の少なくとも一部または全部が発酵により得られるヒドロキシプロピオン酸またはその塩であることが好ましい。本発明における発酵とは、有機物が微生物の作用によって変換され、原料有機物とは異なる化合物が生産されることを指す。
【0023】
2−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩は、公知の方法により入手可能であり、例えば、特開2008−120796号公報記載のセルロース系バイオマス原料等の炭水化物含有原料を、ルイス酸触媒を含む溶媒中で加熱処理することにより得ることができる。また、Advances in Applied Microbiology、42巻45−95頁1996年記載の乳酸菌を用いた発酵や、Enzymeand Microbial Technology、26巻87−107頁2000年に記載されているカビ(Rhizopus oryzae)を用いた発酵により得ることが可能である。
【0024】
3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩もまた、公知の方法で入手可能であり、例えば国際公開第2008/027742号に記載されている、Streptomyces griseus ATCC21897由来beta−alanine aminotransferase遺伝子導入大腸菌を用いた、グルコースを炭素源とした発酵により得ることができる。また、国際公開第2001/016346号に記載されている、Klebsiella pneumoniae由来グリセリン脱水酵素および大腸菌由来アルデヒド酸化酵素導入大腸菌を用いた、グリセリンを炭素源とした発酵によっても得ることができる。
3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩の入手方法の例として上記公知文献を記載したが、本特許の方法を用いる限り、発酵に用いる細菌または組換え細菌は特に限定されず、3−ヒドロキシプロピオン酸生成能を有する生物を用いた発酵により入手した3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩であれば本特許記載の方法で利用可能である。また、発酵以外にも原料とする糖類と生物とを接触させることで生成した3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩でも本特許記載の方法でアクリル酸へ変換することができる。糖類と生物を接触させるとは、原料として利用する糖類の存在下で微生物又はその処理物を用いて反応を行うことをも包含する。該処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、菌死体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、これらから酵素を抽出した粗酵素液、精製酵素等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いて反応を行うことにより入手した3−ヒドロキシプロピオン酸またはその塩も用いることができる。
【0025】
生物由来資源を用いて発酵によりヒドロキシプロピオン酸またはその塩を得る具体的実施形態に係る方法においては、好ましくは、固体、特に微細な植物の部分又は細胞及び/又は細胞断片、特に発酵の後に得られるヒドロキシプロピオン酸またはその塩及び微生物等を含む水性組成物から微生物や生物的材料等を分離するのが良い。前記分離は、固体を液状組成物から分離するための、当業者に公知の全ての方法により実施することができるが、好ましくは沈殿法、遠心分離法又は濾過法、最も好ましくは濾過法により分離するのがよい。
【0026】
ヒドロキシプロピオン酸またはその塩及び微生物等を含む水性組成物から微生物等を分離する処理においては、そこに含まれる微生物に処理を施すことなく行っても良いが、加熱処理して、そこに含まれる微生物を殺菌する処理工程を含んでも良い。前記水性組成物から微生物等を殺菌する処理は、微生物を分離する前、その間若しくは後に行うことができる。上記加熱処理の方法としては、ヒドロキシプロピオン酸またはその塩及び微生物等を含む水性組成物を少なくとも60秒、好ましくは少なくとも10分、更に好ましくは少なくとも30分間にわたり、少なくとも100℃、特に好ましくは少なくとも110℃、更に好ましくは少なくとも120℃の温度で加熱することによって実施するのが好ましく、当該加熱処理は、当業者に公知の装置(例えばオートクレーブ)において実施するのが好ましい。高エネルギー照射(例えば紫外線照射)により微生物を殺菌してもよいが、加熱による微生物の殺菌が特に好適である。
【0027】
本発明に用いるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物は、より不純物が少ない原料組成物を用いることが好ましく、不純物が少ない原料組成物を得る方法としては、公知の方法が利用可能である。具体的には、発酵により得られた粗製ヒドロキシプロピオン酸を、カルシウム塩を用いて沈殿させてヒドロキシプロピオン酸のカルシウム塩として回収し、その後、硫酸等の酸と反応させてヒドロキシプロピオン酸を精製する方法、または発酵により得たアンモニウム型のヒドロキシプロピオン酸を電気透析または陽イオン交換法によってヒドロキシプロピオン酸に化学変換させて精製する方法等が利用できる。
また、発酵により得られたアンモニウム型のヒドロキシプロピオン酸に、水に不混和性のアミン溶媒を添加し加熱することで、アンモニアを除去してヒドロキシプロピオン酸のアミン溶液を得ることができる。そこに水を加えて加熱することで、ヒドロキシプロピオン酸の水溶液を得ることができる。
【0028】
本発明の方法において、反応器内に保持されて加熱した液相とは、反応器に保持されていて加熱された状態の溶媒および/または触媒からなる。溶媒の種類は、特に限定されないが、本反応において不活性であれば良く、例えば水、アルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミド等を用いることができる。好ましくは、水、エーテル、ケトン類である。
【0029】
本発明において、液相中に触媒が存在する形態または触媒単独で液相である形態が好ましい形態である。触媒としては、溶媒に溶解するものでも、分散している状態のものでもよく、脱水反応において脱水の効果を示すものであれば良い。酸触媒や塩基触媒を用いることができ、特に限定されないが、例えばリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム等の塩類や、酸触媒としては塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸類、ケイタングステン酸、リンタングステン酸等のヘテロポリ酸類、塩酸、硫酸、リン酸またはヘテロポリ酸等の酸性化合物をシリカ等の担体に接触して得た触媒、リン酸水素ナトリウムやリン酸水素カリウム等のリン酸塩を担体に担持した触媒、酸性イオン交換樹脂、シリカ、アルミナ、シリカ/アルミナ、チタニア、ジルコニア、ゼオライト及びその他のルイス酸またはブレンステッド酸等の固体酸触媒が挙げられる。塩基触媒としては、酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、トリカプリルアミン、トリデシルアミン及びトリドデシルアミン等のアミン類、塩基性イオン交換樹脂等が挙げられる。好適には酸触媒であり、最も好ましいものとしては、脱水反応を施す際の温度において、溶媒を含まないで液状で存在するものが良く、リン酸、リン酸の縮合物、硫酸、ヘテロポリ酸が挙げられる。こうした酸触媒を用いることにより、脱水反応で生成したアクリル酸塩はアクリル酸として遊離し、気化することができる。
【0030】
上記液相とヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物を接触させることで、効率よくアクリル酸を製造することができる。液相中に供給されたヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の濃度は低下するので、ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマー化等の副反応を抑制でき、アクリル酸収率を向上させることができる。また、液相からの速やかな熱の供給により、生成したアクリル酸や水が速やかに気化、液相より除去されることにより、平衡が移動し、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の転化率を高めることもできる。
【0031】
液相温度は反応生成物が反応生成後にすみやかに蒸発できる温度であればよく、好適には200℃〜350℃である。温度が低いと脱水反応速度が遅く、反応生成物の蒸発も遅くなり液相中に滞留して重質化が進むため、収率の低下や触媒活性低下の原因となる。温度が高いと溶媒の流出が多くなり、後で反応生成物と溶媒を分離する工程でのエネルギーコストが増大する。より好ましい温度範囲は210℃〜330℃である。反応圧力は、前記温度範囲で反応生成物が蒸発する圧力であれば良く、減圧、常圧、加圧であってよく、特に限定されない。
【0032】
本発明の好ましい形態の一つは、脱水反応を施した反応生成物を気化させる際に、水および/または不活性ガスを導入する形態である。不活性ガスの種類としては、特に限定されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスや空気等の非凝縮性のガス、水蒸気、過熱水蒸気等の凝縮性のガスを用いることができる。使用する不活性ガスは、複数のガスを併用しても良い。また水と不活性ガスを同時に使用してもかまわない。好適には、窒素、水蒸気、過熱水蒸気である。導入するガスの温度は、非凝縮性のガスの場合、20℃〜350℃であり、反応温度の維持および生成ガスの凝縮の観点より好ましくは50℃〜330℃、より好ましくは100℃〜300℃である。凝縮性のガスの場合、反応圧力における沸点〜350℃であり、反応温度の維持および生成ガスの凝縮の観点より好ましくは反応圧力における沸点〜330℃である。
また、反応器に水を供給することは、反応器中で蒸発して水蒸気となるため、上記の水蒸気を供給する場合と同様の効果が得られる。水は原料のヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む組成物と別に供給しても良いし、ヒドロキシプロピオン酸組成物に含まれていても良い。
【0033】
水および/または不活性ガスの流量としては、原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸の流量に対して、水および/または不活性ガスの総量が1.5モル倍〜200モル倍が好ましく、特に2モル倍〜100モル倍が好ましい。1.5モル倍以上であれば、生成物のアクリル酸や水の除去が速やかに起こり、アクリル酸収率が向上する。また200モル倍以下であれば、反応器からの流出ガスの冷却に過大なエネルギーがかかることはない。
【0034】
本発明で用いる反応器は、生成物の水やアクリル酸を速やかに気化して除去することができるように液相に効率的に熱を与える設備が好ましい。反応器の壁面からの加熱だけでなく、外部熱交換器に液相を循環させても良い。例えば液膜式の熱交換器が使用できる。具体的には上昇液膜型、流下液膜型、撹拌液膜型等の公知の装置が使用できる。また熱交換器そのものを反応器と使用しても良い。また、ガスを供給する場合には、加熱したガスにより熱を供給しても良い。
【0035】
本発明の(c)の工程において、気化した反応生成物を冷却してアクリル酸を含む組成物を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、反応生成ガスを熱交換器に導入し反応生成ガスの露点以下の温度で凝縮して得る方法や、または反応生成ガスを溶剤等の捕集剤に接触させて吸収する方法等により冷却して、アクリル酸を含む組成物を得ることができる。該組成物中のアクリル酸濃度は5質量%〜90質量%である。
【0036】
このようにして得られた反応生成物の組成物中には主な反応生成物である水、アクリル酸が含まれており、その他には液相に用いる溶媒や、原料中の溶媒が含まれる場合がある。溶媒が水の場合は、アクリル酸の水溶液の状態で重合物製造の原料とすることができる。また精製工程を加えることにより高純度のアクリル酸にすることができる。該組成物中に液相に用いた溶媒が含まれる場合は、蒸留により分離するか、または膜などを用いて一旦溶媒を分離し水溶液とした後、再度、蒸留または晶析により精製を行うことで高純度のアクリル酸を得ることができる。
このように、本発明で得られたアクリル酸の組成物を精製することにより高純度のアクリル酸を得ることができる。したがって、本発明の方法は高純度のアクリル酸の製造方法をも提供する。
【0037】
上記のガス状の反応生成物を冷却凝縮や溶剤捕集などにより液化し、必要に応じて、この液化物に含まれる水や捕集溶剤を従来公知の方法(例えば、蒸留)により除去したものを、晶析工程によって高純度のアクリル酸を得る方法も本発明の形態である。
【0038】
晶析工程は、粗アクリル酸からプロピオン酸を分離することができる従来公知の方法、例えば、特開平9−227445号公報や特表2002−519402号公報に記載された方法を用いて行うことができる。
晶析工程は、粗アクリル酸を晶析装置に供給して結晶化させることにより、精製アクリル酸を得る工程である。ここで、粗アクリル酸とは、工程(c)の冷却工程で得られたアクリル酸を含む組成物を指し、特にアクリル酸の水溶液が好適に用いられる。なお、結晶化の方法としては、従来公知の結晶化方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、結晶化は、例えば、連続式または回分式の晶析装置を用いて、1段または2段以上で実施することができる。得られたアクリル酸の結晶は、必要に応じて、さらに洗浄や発汗などの精製を行うことにより、さらに純度の高い精製アクリル酸を得ることができる。
【0039】
連続式の晶析装置としては、例えば、結晶化部、固液分離部および結晶精製部が一体になった晶析装置(例えば、新日鐵化学社製のBMC(Backmixing Column Crystallizer)装置、月島機械社製の連続溶融精製システム)や、結晶化部(例えば、GMF GOUDA社製のCDC(Cooling Disk Crystallizer)装置)、固液分離部(例えば、遠心分離器、ベルトフィルター)および結晶精製部(例えば、呉羽テクノエンジ社製のKCP(Kureha Crystal Purifier)精製装置)を組合せた晶析装置などを使用することができる。
回分式の晶析装置としては、例えば、Sulzer Chemtech社製の層結晶化装置(動的結晶化装置)、BEFS PROKEM社製の静的結晶化装置などを使用することができる。
【0040】
動的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクと、結晶器に粗アクリル酸を供給する循環ポンプとを備え、結晶器の下部に設けた貯蔵器から循環ポンプにより粗アクリル酸を結晶器の管内上部に移送できる動的結晶化装置を使用して晶析を行う方法である。また、静的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器であり、下部に抜き出し弁を有する結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクとを備えた静的結晶化装置を使用して晶析を行う方法である。
具体的には、粗アクリル酸を液相として結晶器に導入し、液相中のアクリル酸を冷却面(管壁面)に凝固・生成させる。冷却面に生成した固相の質量が、結晶器に導入した粗アクリル酸に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%になったら、直ちに、液相を結晶器から排出し、固相と液相とを分離する。液相の排出は、ポンプで汲み出す方式(動的結晶化)、結晶器から流出させる方式(静的結晶化)のいずれであってもよい。他方、固相は、結晶器から取り出した後、さらに純度を向上させるために、洗浄や発汗などの精製を行ってもよい。
【0041】
動的結晶化や静的結晶化を多段で行う場合、向流の原理を採用すれば、有利に実施することができる。このとき、各段階で結晶化されたアクリル酸は、残留母液から分離され、より高い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。他方、残留母液は、より低い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。
【0042】
なお、動的結晶化では、アクリル酸の純度が低くなると、結晶化が困難になるが、静的結晶化では、動的結晶化に比べて、残留母液が冷却面に接触する時間が長く、また、温度の影響が伝わり易いので、アクリル酸の純度が低下しても、結晶化が容易である。それゆえ、アクリル酸の回収率を向上させるために、動的結晶化における最終的な残留母液を静的結晶化に付して、さらに結晶化を行ってもよい。
【0043】
必要となる結晶化段数は、どの程度の純度が要求されるかに依存するが、高純度のアクリル酸を得るために必要な段数は、精製段階(動的結晶化)が通常1〜6回、好ましくは2〜5回、より好ましくは2〜4回であり、ストリッピング段階(動的結晶化および/または静的結晶化)が通常0〜5回、好ましくは0〜3回である。通常、供給される粗アクリル酸より高い純度を有するアクリル酸が得られる段階は、すべて精製段階であり、それ以外の段階は、すべてストリッピング段階である。ストリッピング段階は、精製段階から残留母液に含まれるアクリル酸を回収するために実施される。なお、ストリッピング段階は、必ずしも設ける必要はなく、例えば、蒸留塔を用いて、晶析装置の残留母液から低沸点成分を分離する場合には、ストリッピング段階は省略してもよい。
【0044】
動的結晶化および静的結晶化のいずれを採用する場合であっても、晶析工程で得られるアクリル酸の結晶は、そのまま製品としてもよいし、必要に応じて、さらに洗浄や発汗などの精製を行ってから製品としてもよい。他方、晶析工程で排出される残留母液は、系外に取り出してもよい。
【0045】
以上の方法により、アクリル酸を製造することができる。かくして製造されたアクリル酸は、すでに公知となっているように、アクリル酸エステルなどのアクリル酸誘導体;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどの親水性樹脂;などの合成原料として有用である。従って、本発明によるアクリル酸の製造方法は、アクリル酸誘導体や親水性樹脂の製造方法に取り入れることが当然可能である。
【0046】
≪親水性樹脂の製造方法≫
本発明による親水性樹脂の製造方法は、上記のようなアクリル酸の製造方法により得られるアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法により得られたアクリル酸は、吸水性樹脂または水溶性樹脂などの親水性樹脂の原料として用いることができる。
【0047】
本発明の製造方法により得られたアクリル酸を、吸水性樹脂または水溶性樹脂などの親水性樹脂を製造するための原料として用いた場合、重合反応を制御しやすく、得られた親水性樹脂の品質が安定し、吸水性能、無機材料の分散性能などの各種性能が改善される。
【0048】
吸水性樹脂を製造する場合には、例えば、本発明の製造方法により得られたアクリル酸および/またはその塩を単量体成分の主成分(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)とし、さらに0.001〜5モル%(アクリル酸に対する値)程度の架橋剤、0.001〜2モル%(単量体成分に対する値)程度のラジカル重合開始剤を用いて、架橋重合させた後、乾燥・粉砕することにより、吸水性樹脂が得られる。
【0049】
ここで、吸水性樹脂とは、架橋構造を有する水膨潤性水不溶性のポリアクリル酸であって、自重の3倍以上、好ましくは10〜1,000倍の純水または生理食塩水を吸水することにより、水溶性成分(水可溶分)が好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下である水不溶性ヒドロゲルを生成するポリアクリル酸を意味する。このような吸水性樹脂の具体例や物性測定法は、例えば、米国特許第6,107,358号、米国特許第6,174,978号、米国特許第6,241,928号などに記載されている。
【0050】
また、生産性向上の観点から好ましい製造方法は、例えば、米国特許第6,867,269号、米国特許第6,906,159号、米国特許第7,091,253号、国際公開第01/038402号、国際公開第2006/034806号などに記載されている。
【0051】
アクリル酸を出発原料として、中和、重合、乾燥などにより、吸水性樹脂を製造する一連の工程は、例えば、以下の通りである。
【0052】
本発明の製造方法により得られるアクリル酸の一部は、ラインを介して、吸水性樹脂の製造プロセスに供給される。吸水性樹脂の製造プロセスにおいては、アクリル酸を中和工程,重合工程,乾燥工程に導入して、所望の処理を施すことにより、吸水性樹脂を製造する。各種物性の改善を目的として所望の処理を施してもよく、例えば、重合中または重合後に架橋工程を介在させてもよい。
【0053】
中和工程は、任意の工程であり、例えば、所定量の塩基性物質の粉末または水溶液と、アクリル酸やポリアクリル酸(塩)とを混合する方法が例示されるが、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではない。なお、中和工程は、重合前または重合後のいずれで行なってもよく、また、重合前後の両方で行なってもよい。アクリル酸やポリアクリル酸(塩)の中和に用いられる塩基性物質としては、例えば、炭酸(水素)塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミンなど、従来公知の塩基性物質を適宜用いればよい。また、ポリアクリル酸の中和率は、特に限定されるものではなく、任意の中和率(例えば、30〜100モル%の範囲内における任意の値)となるように調整すればよい。
【0054】
重合工程における重合方法は、特に限定されるものではなく、ラジカル重合開始剤による重合、放射線重合、電子線や活性エネルギー線の照射による重合、光増感剤による紫外線重合など、従来公知の重合方法を用いればよい。また、重合開始剤、重合条件など各種条件については、任意に選択することができる。もちろん、必要に応じて、架橋剤や他の単量体、さらには水溶性連鎖移動剤や親水性高分子など、従来公知の添加剤を添加してもよい。
【0055】
重合後のアクリル酸塩系ポリマー(すなわち、吸水性樹脂)は、乾燥工程に付される。乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、熱風乾燥機,流動層乾燥機,ナウター式乾燥機など、従来公知の乾燥手段を用いて、所望の乾燥温度、好ましくは70〜230℃で、適宜乾燥させればよい。
【0056】
乾燥工程を経て得られた吸水性樹脂は、そのまま用いてもよく、さらに所望の形状に造粒・粉砕、表面架橋をしてから用いてもよく、還元剤、香料、バインダーなど、従来公知の添加剤を添加するなど、用途に応じた後処理を施してから用いてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下ことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0058】
(実施例1)
3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)を含む組成物の取得方法
Klebsiella pneumoniae ATCC25955株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてグリセロールデヒドラターゼ遺伝子(GD遺伝子)およびグリセロールデヒドラターゼ再活性化因子(GDR遺伝子)を含む領域を、下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。
フォワードプライマー:
5’−GCGCGCCATATGTTAATTCGCCTGACCGGCC−3’
リバースプライマー:
5’−GCGCGCAGATCTTCAGTTTCTCTCACTTAACG−3’
pACYCDuet−1プラスミド(タカラバイオ社)をテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pACYCDuet−1プラスミドのT7プロモーターの後ろにNdeIサイトおよびBgl IIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−GAAGGAGATATACATATGGCGCGC−3’
リバースプライマー:
5’−CCGATATCCAATTGAGATCTGCGCGC−3’
増幅断片を制限酵素BglIIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、クロラムフェニコール含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素NdeIで切断し、電気泳動によって切断断片のサイズを確認したところライゲーションに使用した元の2本のDNA断片サイズの合計と同じサイズであることがわかった。構築した組換えプラスミドをGD−GDR/pACYCDuet−1と命名し、以降の実験に用いた。
【0059】
大腸菌K−12 W3110株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてaldA遺伝子を下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。
フォワードプライマー:
5’−GGGGGGCCATATGTCAGTACCCGTTCAACATCCTATG−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCAGATCTTTAAGACTGTAAATAAACCACCTGGGTC−3’
pUC18プラスミドをテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pUC18プラスミドのlacプロモーターの後ろにNdeIサイトを持ち、lacZ遺伝子の終始コドンの位置にBamHIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−CCCCCCCATATGTGTTTCCTGTGTGAAATTGTTATCCGCTCACAATTCCACACAATATACGAGCC−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCGGATCCTTAGTTAAGCCAGCCCCGACACCCGCCAACACC−3’
増幅断片を制限酵素BamHIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、アンピシリン含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素NdeIで切断し、電気泳動によって切断断片のサイズを確認したところライゲーションに使用した元の2本のDNA断片(の合計)と同じサイズの1本のバンドを確認することができた。構築した組換えプラスミドをaldA/pUC18と命名し、以降の実験で使用した。
構築したGD−GDR/pACYCDuet−1およびaldA/pUC18をEscherichia coli BL21(DE3) competent cell(Merck社)のプロトコールに従って、ヒートショック法により導入し、E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldA/pUC18)を作出した。
E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldA/pUC18)を、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm添加LB液体培地5mL(LB培地1Lあたりの組成:トリプトン10g、酵母エキス5g、NaCl10g)で37℃、16時間、振盪培養し、前培養液を得た。次に前培養液5mLを、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm、グリセリン40g/L添加LB液体培地1Lに植菌し、37℃、攪拌速度725rpm、通気量1L/min、で通気攪拌培養を行った。なお培養には、バイオット製ジャーファーメンター:BMJ−02NP2を使用し、培養中はアンモニア水を用いて培養液中のpHを7にコントロールした。培養8時間後に1M IPTG溶液を1mL、8mMアデノシルコバラミン溶液を1mL添加してさらに64時間培養を行った。得られた培養液を遠心分離にかけ、培養液上清を回収した。以下記載の方法で培養液上清中の生成物の確認を行ったところ、生成物である3−ヒドロキシプロピオン酸のピークを7.9分の位置に確認することができ、培養液中の3−ヒドロキシプロピオン酸の濃度は2質量%であった。
【0060】
高速液体クロマトグラフィーでの分析条件:
使用カラム:YMC−pACK FA
流量:1mL/min
インジェクション量:10mL
溶離液:メタノール/アセトニトリル/H2O=40/5/55(V/V/V)
内部標準:2−Hydroxy−2−methyl−n−butyricAcid
検出:UV400nm
培養上清100μLに内部標準液200μLを加えた。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬A液200μL、試薬B液200μLを加え、よく混合した後、60℃、20分間処理した。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬C液200μLを添加し、よく混合した。60℃、15分間処理後、室温まで冷えたら0.45mmフィルターに通し、LC分析サンプルとして供した。
【0061】
菌体を除去した2wt%3−ヒドロキシプロピオン酸含有培養液30g、トリデシルアミン180g、ドデカノール20gを500mL三つ首フラスコに加え、これを次に油浴に沈め、真空ポンプに接続した。溶液を攪拌しながらフラスコを加熱した。溶液の温度が85℃に達した段階で真空ポンプのスイッチを入れた。反応の間、3−ヒドロキシプロピオン酸アンモニウムの分解によりアンモニアと水が放出され、これらは減圧下に低温トラップへと除去された。これと同時に3−ヒドロキシプロピオン酸アンモニウムの分解により生成した3−ヒドロキシプロピオン酸は、トリデシルアミンとドデカノールから形成された有機相中に抽出された。3−ヒドロキシプロピオン酸を含むトリデシルアミンとドデカノールから形成された有機相に、1/5容量の水を加えて混合、140℃まで加熱することで、3−ヒドロキシプロピオン酸を含む水溶液を得た。
温度計を備えた1Lのフラスコに、85%リン酸440gを仕込み、250℃まで昇温した。水を毎分5gの速度で、電気ヒーターを巻いた蒸発管に供給し、水を蒸発させ、蒸気を250℃まで昇温した後、フラスコ内のリン酸相(液相)に吹き込み、系が安定になるまで保持した。その後、メトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)16質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.75gの速度で液相に滴下した。
生成物は過熱水蒸気と共に、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を85分間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は97%、アクリル酸の収率は93%であった。
【0062】
(実施例2)
温度計および攪拌翼を備えた1Lのフラスコに、85%リン酸440gを仕込み、250℃まで昇温した。メトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)16質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.75gの速度で液相に滴下した。
生成物は、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を225分間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は98%、アクリル酸の収率は91%であった。フラスコ内の液相中のアクリル酸濃度は0.05%であった。
【0063】
(実施例3)
温度計および攪拌翼を備えた1Lのフラスコに、85%リン酸440gを仕込み、200℃まで昇温した。メトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)79質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.13gの速度で液相に滴下した。同時に、200℃に加熱した窒素を、毎分1.3Lの速度で液相中に供給した。
生成物は、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を300分間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は97%、アクリル酸の収率は90%であった。
【0064】
(比較例1)
加熱した窒素を供給しなかった以外は、実施例3と同様に反応を実施した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は95%、アクリル酸の収率は26%であった。
【0065】
(実施例4)
温度計および攪拌翼を備えた1Lのフラスコに、テトラエチレングリコールジメチルエーテル350gを仕込み、250℃まで昇温した。そこにメトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)16質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.75gの速度で液相に滴下した。
生成物は、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を120分間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は63%、アクリル酸の収率は32%であった。
【0066】
(比較例2)
内径10mmのステンレス製反応管に、高さ5cmで固体触媒としてγ−アルミナを充填した。反応管を電気炉にて300℃に加熱し、メトキノン100質量ppmを含んだ、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)12質量%水溶液を、毎分0.53gの速度で反応管の上部に供給した。同時に、毎分0.1Lの速度で窒素ガスを流した。
反応管の下部から抜き出した反応ガスを、冷却捕集し反応液を得た。得られた反応液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HP供給開始後1時間の3HPの転化率は92%、アクリル酸の収率は84%であった。3HP供給開始後1.2時間で、反応管の圧力が上昇したため、反応を停止した。触媒を抜き出すと、褐色で粘ちょうな液体が触媒上に付着しており、これにより反応管が閉塞し、圧力が上昇したものと考えられる。
【0067】
(実施例5)アクリル酸の晶析精製
実施例1で得られたアクリル酸の水溶液を蒸留し、塔低より、アクリル酸86.5質量%を含む粗製アクリル酸を得た。この粗製アクリル酸を、母液として、室温(約15℃)〜−5.8℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。分離した結晶を融解させてから、一部をサンプリングして分析し、残りを母液として室温(約15℃)〜4.8℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。合計2回の晶析操作により、精製アクリル酸を得た。アクリル酸純度は99.9質量%以上であった。
【0068】
(実施例6)吸水性樹脂の製造例
得られた精製アクリル酸に重合禁止剤を60質量ppm添加した。別途、鉄を0.2質量ppm含有する苛性ソーダから得られたNaOH水溶液に対して、上記の重合禁止剤添加アクリル酸を冷却下(液温35℃)で添加することにより、75モル%中和を行った。得られた、中和率75モル%、濃度35質量%のアクリル酸ナトリウム水溶液に、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート0.05モル%(アクリル酸ナトリウム水溶液に対する値)を溶解させることにより、単量体成分を得た。この単量体成分350gを容積1Lの円筒容器に入れ、2L/minの割合で窒素を吹き込んで、20分間脱気した。次いで、過硫酸ナトリウム0.12g/モル(単量体成分に対する値)およびL−アスコルビン酸0.005g/モル(単量体成分に対する値)の水溶液をスターラー攪拌下で添加して、重合を開始させた。重合開始後に攪拌を停止し、静置水溶液重合を行った。単量体成分の温度が約15分(重合ピーク時間)後にピーク重合温度108℃を示した後、30分間重合を進行させた。その後、重合物を円筒容器から取り出し、含水ゲル状架橋重合体を得た。
得られた含水ゲル状架橋重合体は、45℃でミートチョッパー(孔径:8mm)により細分化した後、170℃の熱風乾燥機で、20分間加熱乾燥させた。さらに、乾燥重合体(固形分:約95%)をロールミルで粉砕し、JIS標準篩で粒径600〜300μmに分級することにより、ポリアクリル酸系吸水性樹脂(中和率:75%)を得た。
【0069】
本発明によるアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性は、プロピレンを原料とするアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性と同等であり、得られた吸水性樹脂は、臭気がなく、物性も同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、ヒドロキシプロピオン酸やその塩、特にリサイクル可能な生物由来資源から入手または調製されたヒドロキシプロピオン酸やその塩を原料として、アクリル酸を高収率で安定的かつ連続的に製造することを可能にするので、地球温暖化対策に多大の貢献をなすものである。
【符号の説明】
【0071】
11 原料3HPタンク
12 3HP供給ポンプ
13 水(不活性ガス)タンク
14 水(不活性ガス)供給ポンプ
15 加熱器
16 反応器
17 凝縮器
18 粗アクリル酸タンク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造する方法であって、
(a)前記原料組成物を、反応器内に保持されて加熱した液相に接触させて脱水反応を施し、反応生成物を得る工程、
(b)前記反応生成物を液相から気化する工程、
(c)気化した反応生成物を冷却して、アクリル酸を含む組成物を得る工程
を含むことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記(a)工程の液相中に触媒が存在することを特徴する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(b)工程が水および/または不活性ガスを導入することにより気化することを特徴する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の少なくとも一部または全部が、発酵により得られるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
さらに晶析工程を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする親水性樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
【請求項1】
ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む原料組成物からアクリル酸を製造する方法であって、
(a)前記原料組成物を、反応器内に保持されて加熱した液相に接触させて脱水反応を施し、反応生成物を得る工程、
(b)前記反応生成物を液相から気化する工程、
(c)気化した反応生成物を冷却して、アクリル酸を含む組成物を得る工程
を含むことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記(a)工程の液相中に触媒が存在することを特徴する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(b)工程が水および/または不活性ガスを導入することにより気化することを特徴する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料組成物中に含まれるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の少なくとも一部または全部が、発酵により得られるヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
さらに晶析工程を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする親水性樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
【図1】
【公開番号】特開2011−225533(P2011−225533A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55605(P2011−55605)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】
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