説明

アクリル酸およびその重合体の製造方法

【課題】未反応のヒドロキシプロピオン酸類が少なく、また副反応で生成する重質化した生成物等の副生物の発生量を減らしつつ、臭気および着色のないアクリル酸を長時間にわたり安定して製造することができるアクリル酸の製造方法を提供することにある。また、不純物の少ないアクリル酸を原料として性能および安全面に優れる吸水性樹脂の製造方法を提供する
【解決手段】ヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸およびそれらの塩のうち少なくとも一種以上の化合物を含む組成物からアクリル酸を製造する方法であって、(a)前記組成物に含まれるタンパク質および核酸を除去して、前記タンパク質および核酸の総量を特定濃度以下の組成物を得る工程、(b)前記(a)工程で得られた組成物を加熱してアクリル酸を得る工程を有する製法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはそれらの塩からアクリル酸を調製する方法、吸水性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は吸水性樹脂などの原料として工業的に広く利用されており、通常、アクリル酸の製法としては、固定床多管式反応器を用い酸化物触媒の存在下、プロピレンの接触気相酸化によりアクロレインとし、得られたアクロレインの接触気相酸化によりアクリル酸を製造する二段酸化方法が一般的である。別のアクリル酸製法として、最近ではプロパンの酸化によりアクリル酸を製造する技術が開示されているが、商業化はされていない。プロピレンは石油など化石燃料から容易に入手できるが、石油不足の高まりによりその価格は上昇している。プロパンは石油または液化天然ガスから入手でき、一般にプロピレンよりも安いが、エネルギー産生におけるその石油燃料代替物としての使用が増加するにつれ、その価格が上昇してきた。プロピレンおよびプロパンはどちらも再生不能資源であるため、再生可能資源から製造することが望まれている。
【0003】
再生可能な資源であるバイオマスなどを利用して、アクリル酸を商業的規模で経済的に製造する試みが行われている。バイオマスからのアクリル酸の生成方法としては、天然物であり容易に入手可能な乳酸(2−ヒドロキシプロピオン酸、2HPとも称す)やセルロース等を分解して得られる糖類をさらに発酵により調製される3−ヒドロキシプロピオン酸(3HPとも称す)等のヒドロキシプロピオン酸(HPとも称す)を脱水することにより、またはその重合体(以下、ポリヒドロキシプロピオン酸又はポリHPとも称す)を分解することにより、比較的容易にアクリル酸を調製できる。
【0004】
特許文献1は、発酵などにより得られたβ−ヒドロキシカルボン酸又はその塩を含む水溶液または溶液を準備し、その溶液を脱水触媒の存在または非存在の下で加熱することにより脱水を施し不飽和カルボン酸又はその塩を製造する方法を開示している。特許文献2は、α−または、β−ヒドロキシカルボン酸を含む水溶液を不活性なセラミック等や酸又は塩基の固体触媒を保持したところへ導入して加熱することによりα,β−不飽和カルボン酸を調製する方法を開示している。さらにα−または、β−ヒドロキシカルボン酸から形成されるポリマー、オリゴマー、ラクチド、ラクトン等を含む水溶液を用いることができるとの記載はあるが、具体的に実施した例の開示はない。
【0005】
ヒドロキシ酸の一種であるHPの水溶液またはスラリー、もしくはポリヒドロキシカルボン酸の一種であるポリヒドロキシプロピオン酸を含む水溶液またはスラリーを用いて前記方法を実施した場合、得られたアクリル酸に臭気があり、また経時的に着色してしまうという問題がある。これは、バイオマスなどを原料として発酵により得られたHPやポリHPの水溶液は、バイオマス残渣、発酵副生成物、菌体由来のタンパク質や核酸等の不純物が含まれており、これら不純物がポリヒドロキシプロピオン酸を加熱してアクリル酸を得る際に分解してアクリル酸に混入してしまうことが原因と考えられる。また前記方法においてはこのような不純物を含んだHP含有水溶液やポリHP含有水溶液を用いると固体触媒の表面にタンパク質や核酸が付着しアクリル酸への転化が不完全となる。転化が不完全の場合、原料のモノマーやポリマーが未反応のまま残存することに加え、ポリマーの加水分解で副生したヒドロキシプロピオン酸のオリゴマーやモノマーが残存してしまう問題がある。さらに残存するモノマーやオリゴマーは生成したアクリル酸と反応してアクリル酸の収率低下を起こすという欠点もある。前記の方法では高い収率が得られないことに加え、いずれの場合も固体のセラミックや固体の触媒を用いているために、副反応で生成した重質化した生成物が固体触媒表面へ付着しHPまたはポリHPと触媒の接触を低下させ、反応活性の低下を引き起こしたり、反応管を閉塞するなど、長時間の製造を困難にするという問題もあった。
【0006】
吸水性樹脂はその中の残存モノマー含量を低減することが性能面及び安全面から望まれている。そのため、吸水性樹脂の調製に用いるアクリル酸原料は、吸水性樹脂中の残存モノマー発生の原因となるヒドロキシプロピオン酸やダイマー酸ないしオリゴマー等の不純物が少ないことが強く求められている(特許文献3、特許文献4)。しかし、前記方法のヒドロキシプロピオン酸から形成されるポリマーを含む混合物を用いてアクリル酸を製造する方法では、得られたアクリル酸中に未反応のヒドロキシプロピオン酸モノマーの残存量やオリゴマー及び重質化した副生物の発生量が多いことから、煩雑な精製工程の追加が必要であるため、吸水性樹脂の原料となるアクリル酸を得る方法としては不十分な技術であり、工夫の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2005−521718号公報
【特許文献2】国際公開第2005/095320号
【特許文献3】特開平6−122707号公報
【特許文献4】特表2008−534695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、ヒドロキシプロピオン酸類またはポリヒドロキシプロピオン酸類の転化を低下させることなく、副反応で生成する副生物の発生量を減らし、臭気と着色のないアクリル酸を長時間にわたり安定して製造することができるアクリル酸の製造方法を提供することにある。また、不純物の少ないアクリル酸を原料として性能および安全面に優れる吸水性樹脂を含む親水性樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々検討の結果、バイオマス由来のヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはそれらの塩を含む組成物からアクリル酸を製造するにあたり、前記組成物に含まれるタンパク質および核酸を除去して、タンパク質および核酸の総量が、前記化合物、タンパク質および核酸の総量に対して50質量%以下の組成物を加熱することにより、ヒドロキシプロピオン酸類またはポリヒドロキシプロピオン酸類を効率良くアクリル酸に転化することができ、副生物の発生量を減らしつつ、長期間にわたり安定して、臭気と着色のないアクリル酸を製造することができることを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)バイオマス由来のヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸の塩、ポリヒドロキシプロピオン酸およびポリヒドロキシプロピオン酸の塩から選ばれる化合物のうち少なくとも一種以上の化合物を含む組成物からアクリル酸を製造する方法であって、
(a)前記組成物中に含まれるタンパク質および核酸を除去して、タンパク質および核酸の総量が、前記化合物、タンパク質および核酸の総量に対して50質量%以下に調整する工程、
(b)前記(a)工程で得られた組成物を加熱してアクリル酸を得る工程、
を有することを特徴とするアクリル酸の製造方法。
(2)前記(b)工程において、触媒を用いることを特徴とする請求項1記載のアクリル酸の製造方法。
(3)前記(b)工程において、ガスを導入しながら行うことを特徴とする(1)または(2)に記載のアクリル酸の製造方法。
(4)前記ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を加水分解してヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩に転化する工程を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のアクリル酸の製造方法。
(5)(4)記載の加水分解を触媒の存在下で行うことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
(6)前記(b)工程の後にさらに晶析によりアクリル酸を精製する工程を含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のアクリル酸の製造方法。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする親水性樹脂の製造方法。
(8)前記親水性樹脂が吸水性樹脂である(7)に記載の親水性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によればヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはそれらの塩を効率良く転化することができ、副生物の発生量を減らしつつ、臭気および着色のないアクリル酸を長期間にわたり安定して製造することができるアクリル酸の製造方法を提供することができる。この製造方法を使用すればアクリル酸を高収率で安定的かつ連続的に製造することができる。また、本製法で得られたアクリル酸を使用して吸水性樹脂の製造をすることにより、吸水性樹脂中の残存モノマー含有量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】は本発明の代表的な反応装置図を示すものである。
【図2】は本発明の代表的な反応装置図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、バイオマス由来のヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸の塩、ポリヒドロキシプロピオン酸およびポリヒドロキシプロピオン酸の塩から選ばれる化合物のうち少なくとも一種以上の化合物を含む組成物からアクリル酸を製造する方法であって、(a)前記組成物物中に含まれるタンパク質および核酸を除去して、タンパク質および核酸の総量が、前記化合物、タンパク質および核酸の総量に対して50質量%以下に調整する工程、(b)前記(a)工程で得られた組成物を加熱してアクリル酸を得る工程、を有する。
【0014】
本発明におけるヒドロキシプロピオン酸は、2−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸であり。ヒドロキシプロピオン酸の塩は、上記化合物の塩であり、ポリヒドロキシプロピオン酸およびポリヒドロキシプロピオン酸の塩は、上記ヒドロキシプロピオン酸およびヒドロキシプロピオン酸の塩から形成されるポリマー、オリゴマー、エステルダイマーおよびエーテルダイマーをいう。上記ポリヒドロキシプロピオン酸およびその塩を構成するヒドロキシプロピオン酸としては、好ましくは2−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸およびそれらの塩であり、ポリヒドロキシプロピオン酸およびその塩を構成する成分の80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。その他含まれても良い構成成分としてはグリコール酸、ヒドロキシメチルプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸等のヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0015】
前記ヒドロキシプロピオン酸の塩またはポリヒドロキシプロピオン酸の塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などの塩を用いることができ、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩又はそれらの混合物である。
【0016】
尚、本発明の製造方法は、ヒドロキシプロピオン酸またはその塩だけでなく、他のヒドロキシカルボン酸またはその塩にも用いることができ、また、ポリヒドロキシプロピオン酸またはそれらの塩だけでなく、他のポリヒドロキシカルボン酸またはその塩にも用いることができる。ヒドロキシカルボン酸、ポリヒドロキシカルボン酸またはそれらの塩としては、後述する温度で加熱し反応を起こして不飽和カルボン酸を生成し、その不飽和カルボン酸が引き続いて蒸発しうる化合物であればよい。ヒドロキシカルボン酸の例としてはヒドロキシメチルプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸等の酸またはその塩、ポリヒドロキシカルボン酸の例としては、ポリヒドロキシメチルプロピオン酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸等の酸またはその塩が挙げられる。例えば、ヒドロキシメチルプロピオン酸を用いて脱水反応を施す、またはポリヒドロキシメチルプロピオン酸を加熱するかまたは加水分解の後、脱水反応を施すとメタクリル酸を得ることができる。上記ヒドロキシカルボン酸は本発明のバイオマス由来の組成物に含まれていても良いが、製造するアクリル酸の収率や純度が低下するため、20質量%未満が好ましく、10質量%未満がより好ましい。
【0017】
本発明でいう組成物は、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸の塩、ポリヒドロキシプロピオン酸およびポリヒドロキシプロピオン酸の塩から選ばれる化合物のうち少なくとも一種以上の化合物を含んでいれば良く、該化合物や組成物の形態は固体でも良いし、溶媒を含んでいてもよい。好ましくは溶媒を含んでいる形態である。溶媒は、ヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸またはそれらの塩を溶解すればよく、特に限定されないが、水、アルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミドまたはこれらを組合せた溶媒を用いることができる。好適には水である。
【0018】
本発明において溶媒を含む組成物を用いる場合、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の濃度は、少なくとも5質量%、好ましくは5質量%から99質量%、更に好ましくは7質量%から95質量%、最も好ましくは10質量%から90質量%である。該組成物中のヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の濃度が小さすぎると、反応生成物および溶媒の蒸発にかかる熱量が大きくなり、コストアップの要因となる。またあまり高すぎると、濃度を上げるためのコストやロスが大きくなる可能性がある。
【0019】
また、ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を含む組成物において、前記溶媒が含まれている場合には完全に溶解していても、一部不溶のスラリー状態であっても良い。組成物中のポリヒドロキシプロピオン酸、そのポリマーの塩またはその混合物の含有量としては、特に限定されないが、10質量%以上であれば良く、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。10質量%以下であると溶媒が多いことになり、反応生成物および溶媒の蒸発にかかる熱量が大きくなり、コストアップの要因になったり、装置が大きくなったり、加水分解工程、反応脱水工程での用役費が過大になる恐れがある。
【0020】
ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸の塩、ポリヒドロキシプロピオン酸およびポリヒドロキシプロピオン酸の塩から選ばれる化合物のうち少なくとも一種以上の化合物を含む組成物には、ヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸またはそれらの塩以外の成分としては例えばヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸およびそれらの塩を発酵により合成する際の副生物等が挙げられる。例えば、発酵においてヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸およびそれらの塩と共に副生される可能性のあるプロピオン酸、ギ酸、酢酸、酪酸、エタノール、アミノ酸類等が例示できる。
【0021】
本発明においては、ヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸およびそれらの塩を回収する際に混入する可能性のある化合物としては、タンパク質、核酸、リン脂質、脂肪酸類等が例示できる。この内、タンパク質および核酸の量が組成物中に少ない場合に本願発明の効果が得られ、組成物中のタンパク質および核酸の総量が50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは5質量%以下のヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸の塩、ポリヒドロキシプロピオン酸およびポリヒドロキシプロピオン酸の塩から選ばれる化合物のうち少なくとも一種以上の化合物を含む組成物を用いるのが良い。原料組成物中のタンパク質および核酸の総量が50質量%を超えると、得られるアクリル酸には臭気、着色が生じ、収率も大幅に低下する。また、組成物中のタンパク質および核酸の総量が20質量%以下の原料を使用することで、製造したアクリル酸の臭気を抑制することができる。さらに、組成物中のタンパク質および核酸の総量を5質量%以下とすることで、着色がないアクリル酸を製造することが可能となる。
タンパク質や核酸は公知の方法により分析することができ、例えばタンパク質は、プロテインアッセイLowryキット(ナカライテスク社)やCoomassie Protein Assay Kit(タカラバイオ社)等の市販のタンパク質定量キットを使用することで定量可能である。また、核酸の定量には、General DNA Quantification Kit,Fit Amp(EPIGENTEK社)やRiboGreen RNA Quantification kit(インビトロジェン社)を用いることができる。
【0022】
また本発明で用いる、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸の塩、ポリヒドロキシプロピオン酸およびポリヒドロキシプロピオン酸の塩から選ばれる化合物のうち少なくとも一種以上の化合物を含む組成物中には、培養工程において微生物の炭素源として用いる糖類が共存する場合がある。糖類は例えば、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース等の六炭糖類、キシロース等の五炭糖類、デンプンの加水分解等により得られた糖類、セルロース系バイオマスを糖化処理することにより得られる糖類等が挙げられる。糖類の量は、前記化合物に対して、総量で1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が一層好ましい。糖類の量が1質量%以上であると、HPの脱水工程で析出して閉塞の原因となったり、脱水工程で用いる触媒に吸着して触媒の活性を低下させることがある。
【0023】
本発明で用いられるヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはそれらの塩は種々の源から得ることができ、好適には地球温暖化及び環境保護の観点から、天然物から入手した2−ヒドロキシプロピオン酸や炭素源としてリサイクル可能な生物由来資源を用いるのが良く、セルロース等を分解して得られる糖類をさらに発酵により調製された2−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、ポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を用いることができる。
【0024】
2−ヒドロキシプロピオン酸水溶液は、公知の方法により入手可能であり、例えば、Advances in AppliedMicrobiology 42巻 45−95頁 1996年記載の乳酸菌を用いた発酵や、EnzymeandMicrobialTechnology 26巻 87−107頁2000年に記載されているカビ(Rhizopus oryzae)を用いた発酵により得ることが可能である。
【0025】
3−ヒドロキシプロピオン酸水溶液もまた、公知の方法で入手可能であり、例えば国際公開第2008/027742号に記載されている、Streptomyces griseus ATCC21897由来beta−alanine aminotransferase遺伝子導入大腸菌を用いた、グルコースを炭素源とした発酵により得ることができる。また、国際公開第2001/016346号に記載されている、Klebsiella pneumoniae由来グリセリン脱水酵素および大腸菌由来アルデヒド酸化酵素導入大腸菌を用いた、グリセリンを炭素源とした発酵によっても得ることができる。3−ヒドロキシプロピオン酸水溶液の入手方法の例として上記公知文献を記載したが、本特許の方法を用いる限り、発酵に用いる細菌または組換え細菌は特に限定されず、3−ヒドロキシプロピオン酸生成能を有する生物を用いた発酵により入手した3−ヒドロキシプロピオン酸水溶液であれば本特許記載の方法で利用可能である。また、発酵以外にも原料とする糖類と生物とを接触させることで生成した3−ヒドロキシプロピオン酸水溶液でも本特許記載の方法でアクリル酸へ変換することができる。糖類と生物を接触させるとは、原料として利用する糖類の存在下で微生物又はその処理物を用いて反応を行うことをも包含する。該処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、菌死体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、これらから酵素を抽出した粗酵素液、精製酵素等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いて反応を行うことにより入手した3−ヒドロキシプロピオン酸水溶液も用いることができる。
【0026】
本発明では、生物由来資源を用いて発酵によりヒドロキシプロピオン酸を得る具体的実施形態に係る方法において、固体、特に微細な植物の部分又は細胞及び/又は細胞断片、特に発酵の後に得られるヒドロキシプロピオン酸及び微生物等を含む水性組成物から微生物や生物的材料等を分離するのが良い。前記分離は、固体を液状組成物から分離するための、当業者に公知の全ての方法により実施することができるが、好ましくは沈殿法、遠心分離法又は濾過法、最も好ましくは濾過法により分離するのがよい。
【0027】
ヒドロキシプロピオン酸及び微生物等を含む水性組成物から微生物等を分離する処理においては、そこに含まれる微生物に処理を施すことなく行っても良いが、加熱処理して、そこに含まれる微生物を殺菌する処理工程を含んでも良い。前記水性組成物から微生物等を殺菌する処理は、微生物を分離する前、その間若しくは後に行うことができる。上記加熱処理の方法としては、ヒドロキシプロピオン酸及び微生物等を含む水性組成物を少なくとも60秒、好ましくは少なくとも10分、更に好ましくは少なくとも30分間にわたり、少なくとも100℃、特に好ましくは少なくとも110℃、更に好ましくは少なくとも120℃の温度で加熱することによって実施するのが好ましく、当該加熱処理は、当業者に公知の装置(例えばオートクレーブ)において実施するのが好ましい。高エネルギー照射(例えば紫外線照射)により微生物を殺菌してもよいが、加熱による微生物の殺菌が特に好適である。
【0028】
本発明に用いる2−HPまたは3−HPは、より不純物が少ない2−HPまたは3−HPを用いることが好ましく、不純物が少ない2−HPまたは3−HPを得る方法としては、公知の方法が利用可能である。具体的には、発酵により得られた粗製2−HPまたは3−HPを、カルシウム塩を用いて沈殿させて2−HPまたは3−HPのカルシウム塩として回収し、その後、硫酸等の酸と反応させて2−HPまたは3−HPを精製する方法、または発酵により得たアンモニウム型の2−HPまたは3−HPを電気透析または陽イオン交換法によって2−HPまたは3−HPに化学変換させて精製する方法等が利用できる。
【0029】
本発明に用いられるポリヒドロキシプロピオン酸は、特に限定されるものではないが公知の方法により入手可能であり、ポリ2−ヒドロキシプロピオン酸は、例えばBiotechnology and Bioengineering 105巻 161−171頁 2010年記載の遺伝子組換え大腸菌を用いた発酵および菌体内からポリ2−ヒドロキシプロピオン酸を回収することにより得ることができ、ポリ3−ヒドロキシプロピオン酸もまた、例えばApplied and Environmetal Microbiology 76巻 622−626頁 2010年に記載の遺伝子組換え大腸菌を用いた発酵および菌体内からポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を回収することにより得ることができる。
【0030】
糖を原料として発酵によりアクリル酸を製造する方法としては、発酵によりポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を得た後に、モノマー化、脱水してアクリル酸を得る方法以外に、発酵により3−ヒドロキシプロピオン酸を生成し、3−ヒドロキシプロピオン酸を培養液から回収後、脱水してアクリル酸を得る方法が知られている。このような3−ヒドロキシプロピオン酸を最終発酵産物として発酵生産する方法をとった場合、3−ヒドロキシプロピオン酸生成に伴う培養液中のpH低下を抑制するために水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムやアンモニア水等のアルカリ水溶液を培養液に適時添加し、培養液中のpHを中性付近に保つ必要があり、アルカリ水溶液の使用量が莫大となりコストが増加する、アルカリ水溶液を添加することで発酵液中の3−ヒドロキシプロピオン酸濃度の低下を招く等の問題がある。加えて、3−ヒドロキシプロピオン酸を発酵液から回収する場合、3−ヒドロキシプロピオン酸塩から3−ヒドロキシプロピオン酸酸型への変換工程が必要となる場合があったり、3−ヒドロキシプロピオン酸と培地成分や乳酸、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、酪酸、エタノール、アミノ酸類等の他の発酵産物と3−ヒドロキシプロピオン酸を分離する工程が別途必要となる等、3−ヒドロキシプロピオン酸の回収工程が複雑かつ複数の工程となる問題がある。さらに、発酵工程においてアルカリ水溶液を添加してpH低下を抑制したとしても、3−ヒドロキシプロピオン酸塩の状態で発酵液中に存在するため、3−ヒドロキシプロピオン酸塩が発酵液中に高濃度に蓄積すると宿主細胞の成育を抑制、発酵の継続が困難となり3−ヒドロキシプロピオン酸の生産性が低下することが問題となる。
一方で、ポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を発酵最終産物として生産した場合には、発酵における中和の必要がなくなり、加えて、発酵により生成した3−ヒドロキシプロピオン酸または3−ヒドロキシプロピオン酸塩が及ぼす宿主細胞への生育阻害を大幅に低減することが可能となる。また、ポリ3−ヒドロキシプロピオン酸は細胞内で生成されるため、発酵終了後、培養液からポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を内在する細胞を遠心分離等により回収することで、培養液中に生成した他の発酵産物、例えば、乳酸、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、エタノール、アミノ酸類等や、培地成分との分離が容易となり、3−ヒドロキシプロピオン酸の回収工程を大幅に削減でき、かつ最終産物であるアクリル酸に含まれる不純物を大幅に低減することが可能となり非常に有利である。
【0031】
発酵によりポリヒドロキシプロピオン酸等を得る場合は、発酵に使用する微生物または組換え微生物は特に限定されず、ポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸の生成能を有する生物を用いた発酵、または菌体内からの回収・精製によりポリヒドロキシプロピオン酸等を得ることができ、いずれの方法で得たポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸であっても本発明に用いることができる。
【0032】
また、遺伝子組換え植物を利用して合成したポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸であっても本発明の方法に利用可能である。
【0033】
さらに、発酵以外にも原料とする糖類と生物とを接触させることで生成したポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸でも本発明の方法でアクリル酸へ変換することができる。糖類と生物を接触させるとは、原料として利用する糖類の存在下で微生物又はその処理物を用いて反応を行うことをも包含する。該処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、菌死体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、これらから酵素を抽出した粗酵素液、精製酵素等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いて反応を行うことで合成したポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸も用いることができる。
【0034】
発酵によりポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を生産した場合、ポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸は菌体内に蓄積されるため、菌体内からポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を回収する必要がある。菌体内からのポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸の回収は、公知の方法を用いることができる。本発明では、より不純物の少ないポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を得る方法を選択することが好ましい。
例えば、培養終了後、培養液から遠心分離等により菌体を分離し、その菌体を蒸留水およびメタノール等により洗浄し、乾燥させる。この乾燥菌体からの回収方法としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等の塩化炭化水素溶媒を使用して抽出する方法、プロピレンやエチレンカーボネートのような環状炭酸エステルを溶媒として使用する方法、クロロホルム/メタノール、ジクロロメタン/メタノールのような混合溶媒を使用して抽出する方法等がある。溶媒抽出溶液から濾過等によって菌体成分など固形物を除去し、そのろ液にメタノールやヘキサン等の貧溶媒を加えて、ポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を沈殿させる。さらに濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させて不純物の少ないポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を回収することができる。
【0035】
また、溶媒に代えてドデシル硫酸ナトリウムを添加、混合後、加熱処理することで精製度の高いポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を得る方法もある。その他に、次亜塩素酸ナトリウムを用いる方法や、次亜塩素酸ナトリウムとクロロホルムを併用して使用する方法、次亜塩素酸ナトリウムと界面活性剤を併用して使用する方法等がある。溶媒抽出法以外の方法としては、ビーズや高圧ホモジナイザーを用いて菌体を破壊する方法、超臨界流体を使用して菌体を破壊する方法等がある。上記記載以外の公知の回収方法が本特許では利用可能である。菌体内からのポリヒドロキシプロピオン酸類の回収方法として上記のような方法を記載したが、菌体内からのポリヒドロキシプロピオン酸の回収方法であれば、どのような方法で回収したポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸であっても本特許記載の方法が利用可能である。さらに前記回収方法に加えて、菌体由来成分や生物材料等の分離方法を併用して用いることで、より不純物の少ないポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を得ることも可能である。具体的には沈殿法、遠心分離法又は濾過法、好ましくは濾過法により分離するのがよい。
【0036】
菌体内からポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を回収する前に有機溶剤等を用いた前処理を行うことで、ポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸回収効率を向上させ、かつ不純物混入の少ないポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を得ることも可能である。前処理としては、熱処理を行う方法や菌体を凍結処理する方法、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液で処理する方法等、公知の方法を利用することができる。このような方法で得たポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸もまた本特許記載の方法で利用できる。
【0037】
菌体内からポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸の回収した後に、ポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を精製する精製工程を加えることで、さらにポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸に含まれる不純物を除去することも可能であり、このような方法で得たポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸も本特許記載の方法で利用可能である。ポリ2−ヒドロキシプロピオン酸またはポリ3−ヒドロキシプロピオン酸の精製工程としては、公知の方法が利用可能であり、例えば、オゾンを使用した方法や過酸化水素を利用した方法が適応可能である。
【0038】
上記方法により、本発明で用いられる、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸の塩、ポリヒドロキシプロピオン酸およびポリヒドロキシプロピオン酸の塩から選ばれる化合物のうち少なくとも一種以上の化合物を含む組成物であって、タンパク質および核酸の総量が化合物、タンパク質および核酸の総量に対して50質量%以下に調整された組成物(以下、原料組成物ともいう)を得ることができるが、本発明は上記の方法に限定されるものではない。
【0039】
本発明の方法において、原料組成物からアクリル酸を得る工程は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。触媒の存在下あるいは非存在下、原料組成物を加熱して脱水あるいは分解反応を起こし、アクリル酸を得る工程を含む。アクリル酸を得る工程は特に限定されず、液相または気相での反応が可能である。また反応形式は回分式、半回分式、連続式のいずれも好適に使用できる。反応器としては、固定床反応器、流動床反応器、撹拌槽型反応器、膜反応器、押出流れ反応器、トリクルベッド反応器、反応蒸留塔等が例示できる。
【0040】
本発明の原料組成物を加熱してアクリル酸を得る工程を気相で実施する例として、原料組成物を、不活性なセラミック等や中性、酸性又は塩基性の触媒を保持したところへ導入して加熱することにより行うことができる。不活性なセラミックとしては1000℃以上の高温で焼成した酸化アルミニウムや酸化ケイ素等である。中性の触媒としてはリン酸カルシウム、乳酸カルシウム及び3−ヒドロキシカルボン酸カルシウム等であり、酸触媒としては塩酸、硫酸またはリン酸等の強鉱酸を前記セラミック等の担体に接触して得た触媒や、リン酸水素ナトリウムやリン酸水素カリウム等のリン酸塩を担体に担持した触媒、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ゼオライト及びその他のルイス酸等の固体酸触媒が挙げられる。塩基触媒としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等の金属酸化物及び水酸化物、トリカプリルアミン、トリデシルアミン及びトリドデシルアミン等のアミン類が挙げられる。好適には酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸やリン酸塩を担体に担持した触媒である。
【0041】
気相で原料組成物を加熱する際の温度としては、セラミックや触媒を保持した層を150℃〜500℃に保持することが好ましい。好ましくは200℃〜450℃である。温度が150℃より低いとヒドロキシプロピオン酸が十分気化せず反応管の閉塞が起こったり、反応速度が遅くアクリル酸収率が低下する恐れがあり、500℃より高いと、副反応の進行によりアクリル酸の収率が低下したり、コーキングにより触媒性能が低下することがあり好ましくない。
【0042】
本発明において、原料組成物に高分子量のポリヒドロキシプロピオン酸や、ヒドロキシプロピオン酸の塩、ポリヒドロキシプロピオン酸の塩が含まれる場合、これらは反応器内で気化しない場合があるが、これらが液体あるいは固体の状態で触媒と接触し、生成したアクリル酸や水が蒸気となり系外へ除去されて反応が進行するため、気相反応の実施の範囲内である。
【0043】
本発明の原料組成物を加熱する工程において好ましい形態は、加熱する際にガスを導入しながら反応を施す形態である。気相での反応の際に窒素、ヘリウム、アルゴン、水蒸気等のガスを導入すると、ヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸またはそれらの塩の反応および生成物の脱離が促進され、安定な反応を継続できるため好ましい形態である。ガスとしては窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、水蒸気を用いることができ、好適には窒素、水蒸気である。ガスの流量としては、原料が気化した流量に対して、0.1倍〜20倍が好ましく、特に0.2倍〜15倍が好ましい。
【0044】
また、原料のヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸またはそれらの塩を含む組成物を反応器に供給するに際し、触媒層より前に設けられた蒸発層にて、原料を蒸発させて、原料をガス状で触媒と接触させ、反応することが好ましい。反応器の前に予熱槽を設けて、原料を蒸発させ、その蒸気を反応器に導入しても良いし、触媒層の上流に予熱層を積層させて、予熱層に原料を供給し、発生した蒸気を触媒層へ引き続き導入しても良い。
【0045】
気相反応の場合、原料組成物の気化のしやすさから、ヒドロキシプロピオン酸が多く含まれていることが好ましい。原料組成物中のヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸またはそれらの塩に占める、ヒドロキシプロピオン酸の割合が、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上である。
【0046】
液相で原料組成物を加熱する場合、原料組成物を、反応器に保持されていて加熱された状態の溶媒および/または触媒からなる液相に導入して加熱することにより行うことができる。溶媒の種類は、特に限定されないが、本反応において不活性であれば良く、例えば水、アルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミド等を用いることができる。好ましくは、水、エーテル、ケトン類である。
【0047】
液相での反応では、液相中に触媒が存在する形態または触媒単独で液相である形態が好ましい形態である。触媒としては、溶媒に溶解するものでも、分散している状態のものでもよく、液相反応において効果を示すものであれば良い。酸触媒や塩基触媒を用いることができ、特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸の縮合物、硫酸、ヘテロポリ酸、塩酸、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア等を用いることができる。好適には酸触媒であり、最も好ましいものとしては、反応を施す際の温度において、溶媒を含まないで液状で存在するものが良く、リン酸、リン酸の縮合物、硫酸、ヘテロポリ酸が挙げられる。従来の固体触媒を用いて反応を行う方法では、ヒドロキシプロピオン酸の塩を原料とした場合に、反応で生成したアクリル酸塩が固体触媒上に付着し触媒活性の低下や閉塞の原因となっていた。しかし、液相で酸触媒を用いることにより、反応で生成したアクリル酸塩はアクリル酸となって気化し、系外へ留去されるため選択率の向上が図られ、一方、ヒドロキシプロピオン酸塩中のカチオンは触媒の酸と塩を形成することになるため、塩が液相触媒中に存在するものの閉塞の恐れが小さくなり、長期にわたって安定な反応が可能となる。
【0048】
上記液相と原料組成物を接触させることで、効率よくアクリル酸を製造することができる。液相中に導入されたヒドロキシプロピオン酸の濃度は低下するので、ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマー化等の副反応を抑制でき、アクリル酸収率を向上させることができる。また、液相からの速やかな熱の供給により、生成したアクリル酸や水が速やかに気化、液相より除去されることにより、平衡が移動し、ヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸またはそれらの塩の転化率を高めることもできる。
【0049】
液相温度は反応速度が十分速く、また反応生成物が反応生成後にすみやかに蒸発できる温度であればよく、好適には150℃〜400℃である。温度が低いと反応速度が遅く、反応生成物の蒸発も遅くなり液相中に滞留して重質化が進むため、収率の低下、触媒活性低下の原因となる。温度が高いと副反応の増加による選択率の低下や、溶媒の使用時には溶媒の流出が多くなり、後で反応生成物と溶媒を分離する工程でのエネルギーコストが増大する。より好ましい温度範囲は170℃〜380℃である。反応圧力は、前記温度範囲で反応生成物が蒸発する圧力であれば良く、減圧、常圧、加圧であってよく、特に限定されない。
【0050】
原料組成物を反応器へ導入する速度は、触媒や反応温度により異なるが、液相中のアクリル酸濃度として1質量%以下になるように調整することが好ましい。より好ましくは0.5質量%以下である。前記液相中のアクリル酸濃度が1質量%を越えると、平衡反応であるヒドロキシプロピオン酸の見かけの反応速度が遅くなり、ヒドロキシプロピオン酸の転化率が低下したり、生成したアクリル酸が副反応により消費され、アクリル酸の収率が低下する恐れがあり好ましくない。
【0051】
液相反応において好ましい形態の一つは、反応を施し反応生成物を気化させる際に、ガスを導入する形態である。ガスの種類としては、特に限定されないが、窒素、炭酸ガスや空気等の非凝縮性のガス、水蒸気、過熱水蒸気等の凝縮性のガスを用いることができる。好適には、窒素、水蒸気、過熱水蒸気である。導入するガスの温度は、非凝縮性のガスの場合、20℃〜350℃であり、反応温度の維持および生成ガスの凝縮の観点より好ましくは50℃〜330℃、より好ましくは100℃〜300℃である。凝縮性のガスの場合、反応圧力における沸点〜350℃であり、反応温度の維持および生成ガスの凝縮の観点より好ましくは反応圧力における沸点+20℃〜330℃である。導入するガスの流量は、原料組成物の流量に対して、0.1〜100重量倍の範囲であれば良い。少なすぎると反応生成物の気化による除去効率が低下し、反応収率が低下する可能性があり、多すぎると反応器から流出するガスの冷却に多大なエネルギーがかかるため良くない。好適には0.5〜50重量倍の範囲である。
【0052】
本発明で用いる反応器は、生成物の水やアクリル酸を速やかに気化して除去することができるように気相や液相に効率的に熱を与える設備が好ましい。反応器の壁面からの加熱だけでなく、外部熱交換器に液相を循環させても良い。気相で反応を行う場合は、例えば反応器の壁面からの加熱に加えて、原料の蒸気を加熱して反応器に供給しても良い。液相で反応を行う場合、例えば液膜式の熱交換器が使用できる。具体的には上昇液膜型、流下液膜型、撹拌液膜型等の公知の装置が使用できる。また熱交換器そのものを反応器と使用しても良い。また、ガスを供給する場合には、加熱したガスにより熱を供給しても良い。
【0053】
本発明の方法において、ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩に加水分解を施しヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩に転化する工程を加える形態は好ましい形態の一つである。加水分解反応は特に限定されないが、例えばポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を水の共存下で加熱することで実施できる。ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を加水分解して、ヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を製造するために必要な水の量は、ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を完全に加水分解するのに必要な量の1〜500倍、好ましくは1.5倍〜300倍、より好ましくは2倍〜100倍である。水が少なすぎると、完全に加水分解せず、ポリマーやオリゴマーが残存してしまう場合がある。また水が多すぎると、装置が大きくなったり、用役費が過大になる恐れがある。
【0054】
本発明の方法において、加水分解に当たり、触媒は用いても良いし、用いなくても良い。HP自身が酸触媒作用を示すため、別途触媒を添加しなくても反応は進行する。しかし、反応速度を速くしたいときには、触媒の使用は好適である。本発明の好ましい実施形態は、加水分解反応において触媒を用いる形態である。触媒はエステル結合を加水分解するものであれば特に限定はされず、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等の鉱酸類、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸類、ゼオライト、イオン交換樹脂等の固体酸類、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム等の金属酸化物、スズ、チタン、鉛等の遷移金属を含む化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等が挙げられる。
【0055】
また、加水分解は水以外の溶媒の存在下に実施しても良い。ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の分子量が大きい場合、水に溶解しない場合があるため、溶媒を用いることでポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を溶解させて反応することができる。溶媒としてはアルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミド、ハロゲン化炭化水素またはこれらを組合せた溶媒が例示できる。溶媒の量は特に限定されないが、例えばポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩の0.5質量倍〜100質量倍が使用でき、より好ましくは1質量倍〜50質量倍である。0.5質量倍以下の場合、溶解効果が小さく、100質量倍以上では、装置費や用役費が高くなる。
【0056】
加水分解の反応温度は、50〜300℃が好ましく、80〜250℃が好ましい。反応温度が50℃より低いと加水分解の反応速度が遅くなり生産性低下の原因となり、300℃を超える温度では副反応によってヒドロキシプロピオン酸の収率低下を引き起こす恐れがある。
【0057】
反応圧力は、特に限定されないが、反応温度によって設定すれば良く、通常13kPaから10MPaの範囲で実施される。反応は、回分式、半回分式、連続式のいずれも好適に実施できる。反応形式も、使用する触媒や、反応条件に応じて選択でき、例えば撹拌槽型反応器、固定床反応器、流動床反応器、連続撹拌槽型反応器、オートクレーブ等が挙げられる。
【0058】
加水分解によって得られたヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩は、脱水反応に用いることで、さらにアクリル酸に変換することができる。加水分解反応にて得られたヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩はそのまま脱水反応に使用しても良いし、精製や濃縮等の工程を経た後、脱水反応に供しても良い。精製や濃縮は公知の方法を使用することができ、例えば蒸発、蒸留、抽出、濾過、膜分離等が例示できる。
【0059】
本発明において、反応生成物を冷却してアクリル酸を含む組成物を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、反応生成ガスを熱交換器に導入し反応生成ガスの露点以下の温度で凝縮して得る方法や、または反応生成ガスを溶剤等の捕集剤に接触させて吸収する方法等により冷却して、アクリル酸を含む組成物を得ることができる。該組成物中のアクリル酸濃度は5質量%〜80質量%である。
【0060】
このようにして得られた反応生成物の組成物中には主な反応生成物である水、アクリル酸が含まれており、その他には液相に用いる溶媒や、原料中の溶媒が含まれる場合がある。溶媒が水の場合は、アクリル酸の水溶液の状態で重合物製造の原料とすることができる。また精製工程を加えることにより高純度のアクリル酸にすることができる。該組成物中に液相に用いた溶媒が含まれる場合は、蒸留により分離するか、または膜などを用いて一旦溶媒を分離し水溶液とした後、再度、蒸留または晶析により精製を行うことで高純度のアクリル酸を得ることができる。
【0061】
このように、本発明で得られたアクリル酸の組成物を精製することにより高純度のアクリル酸を得ることができる。したがって、本発明の方法は高純度のアクリル酸の製造方法をも提供する。
【0062】
上記のガス状の反応生成物を冷却凝縮や溶剤捕集などにより液化し、必要に応じて、この液化物に含まれる水や捕集溶剤を従来公知の方法(例えば、蒸留)により除去したものを、晶析方法によって高純度のアクリル酸を得る方法を以下に示す。ここで、粗アクリル酸とは、冷却工程で得られたアクリル酸を含む組成物を指し、特にアクリル酸の水溶液が好適に用いられる。
【0063】
晶析工程は、粗アクリル酸を晶析装置に供給して結晶化させることにより、精製アクリル酸を得る工程である。晶析工程は、粗アクリル酸からプロピオン酸を分離することができる従来公知の方法、例えば、特開平9−227445号公報や特表2002−519402号公報に記載された方法を用いて行うことができる。なお、結晶化の方法としては、従来公知の結晶化方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、結晶化は、例えば、連続式または回分式の晶析装置を用いて、1段または2段以上で実施することができる。得られたアクリル酸の結晶は、必要に応じて、さらに洗浄や発汗などの精製を行うことにより、さらに純度の高い精製アクリル酸を得ることができる。
【0064】
連続式の晶析装置としては、例えば、結晶化部、固液分離部および結晶精製部が一体になった晶析装置(例えば、新日鐵化学社製のBMC(Backmixing Column Crystallizer)装置、月島機械社製の連続溶融精製システム)や、結晶化部(例えば、GMF GOUDA社製のCDC(Cooling Disk Crystallizer)装置)、固液分離部(例えば、遠心分離器、ベルトフィルター)および結晶精製部(例えば、呉羽テクノエンジ社製のKCP(Kureha Crystal Purifier)精製装置)を組合せた晶析装置などを使用することができる。
回分式の晶析装置としては、例えば、Sulzer Chemtech社製の層結晶化装置(動的結晶化装置)、BEFS PROKEM社製の静的結晶化装置などを使用することができる。
【0065】
動的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクと、結晶器に粗アクリル酸を供給する循環ポンプとを備え、結晶器の下部に設けた貯蔵器から循環ポンプにより粗アクリル酸を結晶器の管内上部に移送できる動的結晶化装置を使用して晶析を行う方法である。また、静的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器であり、下部に抜き出し弁を有する結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクとを備えた静的結晶化装置を使用して晶析を行う方法である。
【0066】
具体的には、粗アクリル酸を液相として結晶器に導入し、液相中のアクリル酸を冷却面(管壁面)に凝固・生成させる。冷却面に生成した固相の質量が、結晶器に導入した粗アクリル酸に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%になったら、直ちに、液相を結晶器から排出し、固相と液相とを分離する。液相の排出は、ポンプで汲み出す方式(動的結晶化)、結晶器から流出させる方式(静的結晶化)のいずれであってもよい。他方、固相は、結晶器から取り出した後、さらに純度を向上させるために、洗浄や発汗などの精製を行ってもよい。
動的結晶化や静的結晶化を多段で行う場合、向流の原理を採用すれば、有利に実施することができる。このとき、各段階で結晶化されたアクリル酸は、残留母液から分離され、より高い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。他方、残留母液は、より低い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。
なお、動的結晶化では、アクリル酸の純度が低くなると、結晶化が困難になるが、静的結晶化では、動的結晶化に比べて、残留母液が冷却面に接触する時間が長く、また、温度の影響が伝わり易いので、アクリル酸の純度が低下しても、結晶化が容易である。それゆえ、アクリル酸の回収率を向上させるために、動的結晶化における最終的な残留母液を静的結晶化に付して、さらに結晶化を行ってもよい。
【0067】
必要となる結晶化段数は、どの程度の純度が要求されるかに依存するが、高純度のアクリル酸を得るために必要な段数は、精製段階(動的結晶化)が通常1〜6回、好ましくは2〜5回、より好ましくは2〜4回であり、ストリッピング段階(動的結晶化および/または静的結晶化)が通常0〜5回、好ましくは0〜3回である。通常、供給される粗アクリル酸より高い純度を有するアクリル酸が得られる段階は、すべて精製段階であり、それ以外の段階は、すべてストリッピング段階である。ストリッピング段階は、精製段階から残留母液に含まれるアクリル酸を回収するために実施される。なお、ストリッピング段階は、必ずしも設ける必要はなく、例えば、蒸留塔を用いて、晶析装置の残留母液から低沸点成分を分離する場合には、ストリッピング段階は省略してもよい。
動的結晶化および静的結晶化のいずれを採用する場合であっても、晶析工程で得られるアクリル酸の結晶は、そのまま製品としてもよいし、必要に応じて、さらに洗浄や発汗などの精製を行ってから製品としてもよい。他方、晶析工程で排出される残留母液は、系外に取り出してもよい。
【0068】
以上の方法により、アクリル酸を製造することができる。かくして製造されたアクリル酸は、すでに公知となっているように、アクリル酸エステルなどのアクリル酸誘導体;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどの親水性樹脂;などの合成原料として有用である。従って、本発明によるアクリル酸の製造方法は、アクリル酸誘導体や親水性樹脂の製造方法に取り入れることが当然可能である。
【0069】
≪親水性樹脂の製造方法≫
本発明による親水性樹脂の製造方法は、上記のようなアクリル酸の製造方法により得られるアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法により得られたアクリル酸は、吸水性樹脂または水溶性樹脂などの親水性樹脂の原料として用いることができる。
【0070】
本発明の製造方法により得られたアクリル酸を、吸水性樹脂または水溶性樹脂などの親水性樹脂を製造するための原料として用いた場合、重合反応を制御しやすく、得られた親水性樹脂の品質が安定し、吸水性能、無機材料の分散性能などの各種性能が改善される。
【0071】
吸水性樹脂を製造する場合には、例えば、本発明の製造方法により得られたアクリル酸および/またはその塩を単量体成分の主成分(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)とし、さらに0.001〜5モル%(アクリル酸に対する値)程度の架橋剤、0.001〜2モル%(単量体成分に対する値)程度のラジカル重合開始剤を用いて、架橋重合させた後、乾燥・粉砕することにより、吸水性樹脂が得られる。
【0072】
ここで、吸水性樹脂とは、架橋構造を有する水膨潤性水不溶性のポリアクリル酸であって、自重の3倍以上、好ましくは10〜1,000倍の純水または生理食塩水を吸水することにより、水溶性成分(水可溶分)が好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下である水不溶性ヒドロゲルを生成するポリアクリル酸を意味する。このような吸水性樹脂の具体例や物性測定法は、例えば、米国特許第6,107,358号明細書 、米国特許第6,174,978号明細書 、米国特許第6,241,928号明細書 などに記載されている。また、生産性向上の観点から好ましい製造方法は、例えば、米国特許第6,867,269号明細書 、米国特許第6,906,159号明細書 、米国特許第7,091,253号明細書 、国際公開第WO01/038402号、国際公開第WO2006/034806号などに記載されている。
【0073】
アクリル酸を出発原料として、中和、重合、乾燥などにより、吸水性樹脂を製造する一連の工程は、例えば、以下の通りである。
本発明の製造方法により得られるアクリル酸の一部は、ラインを介して、吸水性樹脂の製造プロセスに供給される。吸収性樹脂の製造プロセスにおいては、アクリル酸を中和工程,重合工程,乾燥工程に導入して、所望の処理を施すことにより、吸水性樹脂を製造する。各種物性の改善を目的として所望の処理を施してもよく、例えば、重合中または重合後に架橋工程を介在させてもよい。
【0074】
中和工程は、任意の工程であり、例えば、所定量の塩基性物質の粉末または水溶液と、アクリル酸やポリアクリル酸(塩)とを混合する方法が例示されるが、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではない。なお、中和工程は、重合前または重合後のいずれで行なってもよく、また、重合前後の両方で行なってもよい。アクリル酸やポリアクリル酸(塩)の中和に用いられる塩基性物質としては、例えば、炭酸(水素)塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミンなど、従来公知の塩基性物質を適宜用いればよい。また、ポリアクリル酸の中和率は、特に限定されるものではなく、任意の中和率(例えば、30〜100モル%の範囲内における任意の値)となるように調整すればよい。
【0075】
重合工程における重合方法は、特に限定されるものではなく、ラジカル重合開始剤による重合、放射線重合、電子線や活性エネルギー線の照射による重合、光増感剤による紫外線重合など、従来公知の重合方法を用いればよい。また、重合開始剤、重合条件など各種条件については、任意に選択することができる。もちろん、必要に応じて、架橋剤や他の単量体、さらには水溶性連鎖移動剤や親水性高分子など、従来公知の添加剤を添加してもよい。
【0076】
重合後のアクリル酸塩系ポリマー(すなわち、吸水性樹脂)は、乾燥工程に付される。乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、熱風乾燥機,流動層乾燥機,ナウター式乾燥機など、従来公知の乾燥手段を用いて、所望の乾燥温度、好ましくは70〜230℃で、適宜乾燥させればよい。
【0077】
乾燥工程を経て得られた吸水性樹脂は、そのまま用いてもよく、さらに所望の形状に造粒・粉砕、表面架橋をしてから用いてもよく、還元剤、香料、バインダーなど、従来公知の添加剤を添加するなど、用途に応じた後処理を施してから用いてもよい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下ことわりのない場合、「%」は「質量%」を示すものとする。
【0079】
(実施例1)
3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)を含む組成物の取得方法
Klebsiella pneumoniae ATCC25955株 のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてグリセロールデヒドラターゼ遺伝子(GD遺伝子)およびグリセロールデヒドラターゼ再活性化因子(GDR遺伝子)を含む領域を、下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。
フォワードプライマー:
5’−GCGCGCCATATGTTAATTCGCCTGACCGGCC−3’
リバースプライマー:
5’−GCGCGCAGATCTTCAGTTTCTCTCACTTAACG−3’
pACYCDuet−1プラスミド(タカラバイオ社)をテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pACYCDuet−1プラスミドのT7プロモーターの後ろにNdeIサイトおよびBglIIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−GAAGGAGATATACATATGGCGCGC−3’
リバースプライマー:
5’−CCGATATCCAATTGAGATCTGCGCGC−3’
増幅断片を制限酵素BglIIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、クロラムフェニコール含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素NdeIで切断し、電気泳動によって切断断片のサイズを確認したところライゲーションに使用した元の2本のDNA断片のサイズの合計と同じサイズであることがわかった。構築した組換えプラスミドをGD−GDR/pACYCDuet−1と命名し、以降の実験に用いた。
【0080】
大腸菌K−12 W3110株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてaldA遺伝子を下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。
フォワードプライマー:
5’−GGGGGGCCATATGTCAGTACCCGTTCAACATCCTATG−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCAGATCTTTAAGACTGTAAATAAACCACCTGGGTC−3’
pUC18プラスミドをテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pUC18プラスミドのlacプロモーターの後ろにNdeIサイトを持ち、lacZ遺伝子の終始コドンの位置にBamHIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−CCCCCCCATATGTGTTTCCTGTGTGAAATTGTTATCCGCTCACAATTCCACACAATATACGAGCC−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCGGATCCTTAGTTAAGCCAGCCCCGACACCCGCCAACACC−3’
増幅断片を制限酵素BamHIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、アンピシリン含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素NdeIで切断し、電気泳動によって切断断片のサイズを確認したところライゲーションに使用した元の2本のDNA断片(の合計)と同じサイズの1本のバンドを確認することができた。構築した組換えプラスミドをaldA/pUC18と命名し、以降の実験で使用した。
【0081】
構築したGD−GDR/pACYCDuet−1およびaldA/pUC18をEscherichia coli BL21(DE3)competent cell(Merck社)のプロトコールに従って、ヒートショック法により導入し、E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldA/pUC18)を作出した。
E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldA/pUC18)を、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm添加LB液体培地5mL(LB培地1Lあたりの組成:トリプトン10g、酵母エキス5g、NaCl10g)で37℃、16時間、振盪培養し、前培養液を得た。次に前培養液5mLを、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm、グリセリン40g/L添加LB液体培地1Lに植菌し、37℃、攪拌速度725rpm、通気量1L/min、で通気攪拌培養を行った。なお培養には、バイオット製ジャーファーメンター:BMJ−02NP2を使用し、培養中はアンモニア水を用いて培養液中のpHを7にコントロールした。培養8時間後に1M−IPTG溶液を1mL、8mMアデノシルコバラミン溶液を1mL添加してさらに64時間培養を行った。得られた培養液を遠心分離にかけ、培養液上清を回収した。以下記載の方法で培養液上清中の生成物の確認を行ったところ、生成物である3−ヒドロキシプロピオン酸のピークを7.9分の位置に確認することができ、培養液中の3−ヒドロキシプロピオン酸の濃度は2wt%であった。
【0082】
高速液体クロマトグラフィーでの分析条件
使用カラム:YMC−pACK FA
流量:1 mL/min
インジェクション量:10 mL
溶離液:メタノール/アセトニトリル/HO=40/5/55(V/V/V)
内部標準:2−Hydroxy−2−methyl−n−butyric acid
検出:UV 400nm
培養上清100μLに内部標準液200μLを加えた。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬A液200μL、試薬B液200μLを加え、よく混合した後、60℃、20分間処理した。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬C液200μLを添加し、よく混合した。60℃、15分間処理後、室温まで冷えたら0.45mmフィルターに通し、LC分析サンプルとして供した。
【0083】
菌体を除去した2wt%3−ヒドロキシプロピオン酸含有培養液30g、トリデシルアミン180g、ドデカノール20gを500mL三つ口フラスコに加え、これを次に油浴に沈め、真空ポンプに接続した。溶液を攪拌しながらフラスコを加熱した。溶液の温度が85℃に達した段階で真空ポンプのスイッチを入れた。反応の間、3−ヒドロキシプロピオン酸アンモニウムの分解によりアンモニアと水が放出され、これらは減圧下に低温トラップへと除去された。これと同時に3−ヒドロキシプロピオン酸アンモニウムの分解により生成した3−ヒドロキシプロピオン酸は、トリデシルアミンとドデカノールから形成された有機相中に抽出された。3−ヒドロキシプロピオン酸を含むトリデシルアミンとドデカノールから形成された有機相に、1/5容量の水を加えて混合、140℃まで加熱することで、3−ヒドロキシプロピオン酸を含む水溶液を得た。得られた原料組成物中のタンパク質および核酸の総量は50質量%以下であった。
【0084】
3HPの脱水
原料として、上記で得た3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)を12質量%水溶液に調整し、メトキノンを100質量ppmになるように添加した。内径10mmのステンレス製反応管に、高さ5cmで固体触媒としてγ−アルミナを充填し、その上にステンレス製の1.5mmのディクソンパッキンを蒸発層として積層した。反応管を電気炉にて300℃に加熱し、上記原料を毎時8.3gの速度で反応管の上部に供給した。同時に、毎時1.5Lの速度で窒素ガスを流した。反応管の下部から抜き出した反応ガスを、冷却捕集し反応液を得た。得られた反応液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は99%、アクリル酸の収率は98モル%であった。アクリル酸を分析した結果、3−ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマー等の不純物は検出されなかった。また10日間保管しても着色は見られなかった。
【0085】
(比較例1)
実施例1で得られた3−ヒドロキシプロピオン酸を含む培養液(菌体は除去したもの)を実施例1と同じように固体触媒を充填した反応管の上部に、毎時8.3gの速度で供給した。同時に、毎時1.5Lの速度で窒素ガスを流した。しかし供給の途中で反応管が閉塞し、アクリル酸の製造が困難となったため、水溶液の供給を停止した。尚、水溶液の供給を開始した初期に反応管から抜き出した反応ガスを冷却し、捕集した反応液を液体クロマトグラフィー分析したところ、アクリル酸の他に実施例1では検出されなかった未知の不純物が多数確認された。また捕集液は黄色く着色していた。本比較例1で原料として用いた、実施例1記載の方法で得た3−ヒドロキシプロピオン酸を含む培養液 (菌体は除去したもの)に含まれる、タンパク質および核酸の総量は50質量%以上であった。
【0086】
(実施例2)
ポリ3−ヒドロキシプロピオン酸(ポリ3HP)を含む組成物の取得方法
Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhimurium株のゲノムDNAをテンプレートとし、以下に示したpduP_F及びpduP_Rプライマーを用いて、Phusion DNA High Fidelity DNA Polymerases(Finnzyme社)によるPCR増幅を行い、propionaldehyde dehydrogenase(pduP)遺伝子断片を得た。また、pETDuet−1ベクター(Merck社)をテンプレートとし、以下に示したpET_F及びpET_Rプライマーを用いて、Phusion DNA High−Fidelity DNA Polymerases(Finnzyme社)によるPCR増幅を行い、pETベクター断片を得た。PCR増幅により得たpduP遺伝子断片及びpETベクター断片を用いて、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Takara社)によるクローニングを実施し、pduP/pETを構築した。
・pduP_F:AGAAGGAGATATACCATGAATACTTCTGAACTCGA
・pduP_R:AGCAGCCTAGGTTAATTAGCGAATAGAAAAGCCGT
・pET_F:TTAACCTAGGCTGCTGCCA
・pET_R:GGTATATCTCCTTCTTAAAG
Clostridium butyricum DSM2478株のゲノムDNAをテンプレートとし、以下に示したdhaB1B2_F及びdhaB1B2_Rプライマーを用いて、Phusion DNA High−Fidelity DNA Polymerases(Finnzyme社)によるPCR増幅を行い、Glycerol dehydratase(dhaB1B2)遺伝子断片を得た。次にpCDFDuet−1ベクター(Merck社)をテンプレートとし、以下に示したpCDF_F及びpCDF_Rプライマーを用いて、Phusion DNA High−Fidelity DNA Polymerases(Finnzyme社)によるPCR増幅を行い、pCDFベクター断片を得た。PCR増幅により得たdhaB1B2遺伝子断片及びpCDFベクター断片を用いて、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Takara社)によるクローニングを実施し、dhaB1B2/pCDFを構築した。
・dhaB1B2_F:ATAAGGAGATATACCATGGAGTAAAAATGATAAG
・dhaB1B2_R:AGCAGCCTAGGTTAATTACTCAGCTCCAATTGTG
・pCDF_F:TTAACCTAGGCTGCTGCCAC
・pCEF_R:GGTATATCTCCTTATTAAAG
Ralstonia eutropha H16株のゲノムDNAをテンプレートとし、以下に示したphaC1_F及びphaC1_Rプライマーを用いて、Phusion DNA High−Fidelity DNA Polymerases(Finnzyme社)によるPCR増幅を行い、PHA synthase (phaC1)遺伝子断片を得た。次に、pCOLADuet−1ベクター(Merck社)をテンプレートとし、以下に示したpCOLA_F及びpCOLA_Rプライマーを用いて、Phusion DNA High−Fidelity DNA Polymerases(Finnzyme社)によるPCR増幅を行い、pCOLAベクター断片を得た。PCR増幅により得たphaC1遺伝子断片及びpCOLAベクター断片を用いて、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Takara社)によるクローニングを実施し、phaC1/pCOLAを構築した。
・phaC1_F:ATAAGGAGATATACCATGGCGACCGGCAAAGG
・phaC1_R:AGCAGCCTAGGTTAATCATGCCTTGGCTTTGACGTATC
・pCOLA_F:TTAACCTAGGCTGCTGCCAC
・pCOLA_R:GGTATATCTCCTTATTAAAG
構築したpduP/pET、dhaB1B2/pCDF及びphaC1/pCOLAを、Escherichia coli BL21(DE3) competent cell(Merck社)のプロトコールに従って、ヒートショック法により導入し、E.coli(pduP/pET、dhaB1B2/pCDF、phaC1/pCOLA)を作出した。
E.coli(pduP/pET、dhaB1B2/pCDF、phaC1/pCOLA)をアンピシリン終濃度100ppm、ストレプトマイシン終濃度50ppm、カナマイシン終濃度30ppmとなるように各抗生物質を添加したLB培地に植菌し、37℃で振盪培養し、前培養液とした。
【0087】
次に、アンピシリン終濃度100ppm、ストレプトマイシン終濃度50ppm、カナマイシン終濃度30ppmとなるように各抗生物質を添加した0.3Mグリセリン含有Riesenberg−medim(Rb)培地1L(Rb培地の1Lあたりの組成:KHPO=13.3g,(NHHPO=4g、MgSO・7HO=1.2g、クエン酸=1.7g、EDTA=8.4mg、CoCl・6HO=2.5mg、MnCl・4HO=15mg、CuCl・2HO=1.5mg、HBO=3mg、NaMoO・2HO=2.5mg、Zn(CHCOO)・2HO=13mg、クエン酸鉄(III)=0.1g、チアミン塩酸塩=4.5mg)に前培養液20mLを植菌し、攪拌速度:400rpm、培養温度:37℃、通気量:2.5mL/h、で通気攪拌培養を開始した。なお培養には、バイオット製ジャーファーメンター:BMJ−02NP2を使用し、培養中はアンモニア水を用いて培養液中のpHを6.7にコントロールした。培養15時間後、遺伝子組換え大腸菌の生育が定常期に達した段階で、2Mグリセリン添加流加Rb培地(流加Rb培地の1Lあたりの組成:MgSO・7HO=20g、EDTA=13mg、CoCl・6HO=4mg、MnCl・4HO=23.5mg、CuCl・2HO=2.5mg、HBO=5mg、NaMoO・2HO=4mg、Zn(CHCOO)・2HO=16mg、クエン酸鉄(III)=40mg)を20mL/hの流速で流加を開始した。流加開始後は、流加液と同じ速度で培養液を抜き出した。培養開始から45時間後、空気の通気を止め、窒素を流し、嫌気培養を開始した。嫌気培養中は、フマル酸ジナトリウム終濃度0.5M、酒石酸カリウムナトリウム終濃度0.5M、IPTG終濃度1mM添加Rb培地を20mL/hで流加した。培養90時間で培養を停止し、ジャーファーメンターから培養液を回収、遠心分離後、上清を廃棄し3−ヒドロキシプロピオン酸ポリマーを内在した菌体ペレットを得た。
【0088】
菌体ペレットを凍結乾燥処理した後に、クロロホルムを用いた溶媒抽出を行った。抽出液を遠心分離に供し、上澄み溶液を回収することで、不溶成分を除去した。遠心分離後の上澄み液をエバポレーターを用いて濃縮し、10倍容量の冷エタノール溶液を添加してポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を析出させた。析出したポリ3−ヒドロキシプロピオン酸を濾過により回収し、乾燥させてポリ3−ヒドロキシプロピオン酸粉体を得た。得られたポリ3−ヒドロキシプロピオン酸粉体中のタンパク質および核酸の総量は50質量%以下であった。
【0089】
ポリ3HPの加水分解
内容積500mLのオートクレーブに、上記で得られたポリ3−ヒドロキシプロピオン酸10g、水200g、加水分解触媒として濃硫酸2.0gを仕込み、気相部を窒素で置換後、150℃まで昇温した。そのまま24時間保持し、加水分解反応を行った。冷却後、反応液を抜き出し、液体クロマトグラフィーで分析したところ、3−ヒドロキシプロピオン酸の収率は75%であった。抜き出した反応液を、薄膜蒸発器を用いて濃縮および重質分カットを行い、脱水反応原料を調製した。
【0090】
3HPの脱水
原料として、実施例2で得た3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)を12質量%水溶液に調整し、メトキノンを100質量ppmになるように添加した。内径10mmのステンレス製反応管に、高さ5cmで固体触媒としてγ−アルミナを充填し、その上にステンレス製の1.5mmのディクソンパッキンを蒸発層として積層した。反応管を電気炉にて300℃に加熱し、上記原料を毎時8.3gの速度で反応管の上部に供給した。同時に、毎時1.5Lの速度で窒素ガスを流した。反応管の下部から抜き出した反応ガスを、冷却捕集し反応液を得た。得られた反応液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は99%、アクリル酸の収率は98モル%であった。アクリル酸を分析した結果、3−ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマー等の不純物は検出されなかった。また10日間保管しても着色は見られなかった。
【0091】
(比較例2)
実施例2のポリ3HPの取得において、クロロホルムを用いた溶媒抽出で得られた上澄み溶液から、エバポレーターでクロロホルムを留去し、ポリ3HPを得た。このポリ3HPの加水分解を、実施例2と同様に行い、得られた反応液を薄膜蒸発器を用いて濃縮のみを実施して3−ヒドロキシプロピオン酸を得た。この3HPを12質量%の水溶液に調製し、メトキノンを100ppmになるように添加した。この水溶液を実施例1と同じように固体触媒を充填した反応管の上部に、毎時8.3gの速度で供給した。同時に、毎時1.5Lの速度で窒素ガスを流した。しかし供給の途中で反応管が閉塞し、アクリル酸の製造が困難となったため、水溶液の供給を停止した。尚、水溶液の供給を開始した初期に反応管から抜き出した反応ガスを冷却し、捕集した反応液を液体クロマトグラフィー分析したところ、アクリル酸の他に実施例1では検出されなかった未知の不純物が多数確認された。また捕集液は黄色く着色していた。
【0092】
(実施例3)
原料として、実施例2で得た3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)を16質量%水溶液に調整し、メトキノンを100質量ppmになるように添加した。温度計を備えた1Lのフラスコに、85%リン酸440gを仕込み、250℃まで昇温した。水を毎分5gの速度で、電気ヒーターを巻いた蒸発管に供給し、水を蒸発させ、蒸気を250℃まで昇温した後、フラスコ内のリン酸相(液相)に吹き込み、系が安定になるまで保持した。その後、上記原料を60℃に加熱し、毎分0.75gの速度で液相に滴下した。生成物は過熱水蒸気と共に、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を85分間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は97%、アクリル酸の収率は93モル%であった。
【0093】
(実施例4)
温度計および攪拌翼を備えた1Lのフラスコに、85%リン酸440gを仕込み、250℃まで昇温した。メトキノン100質量ppmを添加した、実施例2で得た3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)12質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.84gの速度で液相に滴下した。生成物は、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を6時間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は99%、アクリル酸の収率は98モル%であった。アクリル酸を分析した結果、3−ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマー等の不純物は検出されなかった。また10日間保管しても着色は見られなかった。
【0094】
(実施例5)
ポリ3HPの加水分解
内容積500mLのオートクレーブに、実施例2で得られたポリ3−ヒドロキシプロピオン酸5gとクロロホルム100gを入れ撹拌して均一とした。さらに水100g、加水分解触媒として強酸性イオン交換樹脂10gを仕込み、気相部を窒素で置換後、150℃まで昇温した。そのまま24時間保持し、加水分解反応を行った。冷却後、反応液を抜き出し、液体クロマトグラフィーで分析したところ、3−ヒドロキシプロピオン酸の収率は82%であった。抜き出した反応液を油水分離し、水相を薄膜蒸発器を用いて濃縮および重質分カットを行い、脱水反応原料を調製した。
【0095】
3HPの脱水
温度計および攪拌翼を備えた1Lのフラスコに、テトラエチレングリコールジメチルエーテル320gを仕込み、250℃まで昇温した。そこにメトキノン100質量ppmを添加した、上記で得た3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)12質量%水溶液を60℃に加熱し、毎分0.99gの速度で液相に滴下した。生成物は、フラスコから気体で抜き出し、冷却器にて凝縮させた。3HP水溶液を7時間、連続的に供給した。得られた凝縮液とフラスコ内の液相を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPの転化率は55%、アクリル酸の収率は51モル%であった。
【0096】
(実施例7)
アクリル酸の晶析精製
実施例1で得られたアクリル酸の水溶液を蒸留し、塔低より、アクリル酸86.5質量%を含む粗製アクリル酸を得た。この粗製アクリル酸を、母液として、室温(約15℃)〜−5.8℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。分離した結晶を融解させてから、一部をサンプリングして分析し、残りを母液として室温(約15℃)〜4.8℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。合計2回の晶析操作により、精製アクリル酸を得た。アクリル酸純度は99.9質量%以上であった。
【0097】
(実施例8)
吸水性樹脂の製造
得られた精製アクリル酸に重合禁止剤を60質量ppm添加した。別途、鉄を0.2質量ppm含有する苛性ソーダから得られたNaOH水溶液に対して、上記の重合禁止剤添加アクリル酸を冷却下(液温35℃)で添加することにより、75モル%中和を行った。得られた、中和率75モル%、濃度35質量%のアクリル酸ナトリウム水溶液に、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート0.05モル%(アクリル酸ナトリウム水溶液に対する値)を溶解させることにより、単量体成分を得た。この単量体成分350gを容積1Lの円筒容器に入れ、2L/minの割合で窒素を吹き込んで、20分間脱気した。次いで、過硫酸ナトリウム0.12g/モル(単量体成分に対する値)およびL−アスコルビン酸0.005g/モル(単量体成分に対する値)の水溶液をスターラー攪拌下で添加して、重合を開始させた。重合開始後に攪拌を停止し、静置水溶液重合を行った。単量体成分の温度が約15分(重合ピーク時間)後にピーク重合温度108℃を示した後、30分間重合を進行させた。その後、重合物を円筒容器から取り出し、含水ゲル状架橋重合体を得た。得られた含水ゲル状架橋重合体は、45℃でミートチョッパー(孔径:8mm)により細分化した後、170℃の熱風乾燥機で、20分間加熱乾燥させた。さらに、乾燥重合体(固形分:約95%)をロールミルで粉砕し、JIS標準篩で粒径600〜300μmに分級することにより、ポリアクリル酸系吸水性樹脂(中和率:75%)を得た。
本発明によるアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性は、プロピレンを原料とするアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性と同等であり、得られた吸水性樹脂は、臭気がなく、物性も同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、リサイクル可能な生物由来資源(例えばバイオマス)から入手または調製されたヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはそれらの塩を原料として高品質のアクリル酸を高収率で安定的かつ連続的に製造することを可能にするので、地球温暖化対策に多大の貢献をなすものである。
【符号の説明】
【0099】
11 培養槽
12 遠心分離器
13 溶媒タンク
14 塩分解槽
15 油水分離装置
16 水タンク
17 逆抽出槽
18 脱水反応器
19 凝縮器
20 粗アクリル酸タンク
31 培養槽
32 遠心分離器
33 凍結乾燥機
34 抽出溶媒タンク
35 抽出槽
36 濾過器
37 エバポレーター
38 貧溶媒タンク
39 晶析槽
40 濾過器
41 水タンク
42 触媒タンク
43 加水分解槽
44 薄膜蒸発器
45 脱水反応器
46 凝縮器
47 粗アクリル酸タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス由来のヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸の塩、ポリヒドロキシプロピオン酸およびポリヒドロキシプロピオン酸の塩から選ばれる化合物のうち少なくとも一種以上の化合物を含む組成物からアクリル酸を製造する方法であって、
(a)前記組成物中に含まれるタンパク質および核酸を除去して、タンパク質および核酸の総量が、前記化合物、タンパク質および核酸の総量に対して50質量%以下に調整する工程、
(b)前記(a)工程で得られた組成物を加熱してアクリル酸を得る工程、
を有することを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記(b)工程において、触媒を用いることを特徴とする請求項1記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記(b)工程において、ガスを導入しながら行うことを特徴とする請求項1または2に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩を加水分解してヒドロキシプロピオン酸および/またはその塩に転化する工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の加水分解を触媒の存在下で行うことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
前記(b)工程の後にさらに晶析によりアクリル酸を精製する工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合することを特徴とする親水性樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記親水性樹脂が吸水性樹脂である請求項7に記載の親水性樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162471(P2012−162471A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22541(P2011−22541)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】