説明

アクリル酸の製造用触媒および該触媒を用いたアクリル酸の製造方法ならびに当該アクリル酸を用いた吸水性樹脂の製造方法

【課題】アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスで接触気相酸化することによりアクリル酸を製造する際、触媒層の局所的な異常高温部(ホットスポット部)の発生を抑制し、長期に渡り安定に高いアクリル酸収率を得ることができる方法を提供する。
【解決手段】モリブデンおよびバナジウムを必須成分として含有し、その触媒粒径の相対標準偏差が0.02以上、0.20以下である酸化物触媒媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクロレインの接触気相酸化によるアクリル酸の製造に用いる触媒に関する。詳しくはモリブデンおよびバナジウムを必須成分として含有する酸化物触媒であって特定の粒子径分布をもつアクリル酸製造用触媒に関する。また、本発明は、該触媒を用いたアクリル酸の製造方法ならびに当該アクリル酸を用いた吸水性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は吸水性樹脂などの原料として工業的に広く利用されており、通常、アクリル酸の製法としては、固定床多管式反応器を用い酸化物触媒の存在下、プロピレンの接触気相酸化によりアクロレインとし、得られたアクロレインの接触気相酸化によりアクリル酸を製造する二段酸化方法が一般的である。
【0003】
この接触気相酸化反応は非常な発熱反応を伴うことから、触媒層に局所的な異常高温部(以下、「ホットスポット部」と称することがある)が発生する。ホットスポット部は他の部分に比べ高温であるがため、酸化反応が過度に進行し、目的とするアクリル酸の収率が低下する。さらに、ホットスポット部は高温に曝されるため、触媒の物理的および化学的性質が短期で変化し、シンタリング等による活性や選択性の低下が著しい。特に、モリブデンを含有する触媒においては、ホットスポット部における高温のため、モリブデンの昇華が促進されて触媒組成比が変化し、触媒の劣化が顕著である。また、アクリル酸の生産性を向上させるため、高い空間速度や高い原料ガス濃度での反応すなわち高負荷反応を行った場合、この現象は促進されるという問題がある。
これらの問題に対処するため、アクロレインからアクリル酸を製造する方法においては、例えば、原料ガス入口側の触媒を不活性物質で希釈する方法(特許文献1)、担持型触媒を用いる方法において、該触媒の触媒活性物質の担持率が原料ガス入口側から出口側に向けてよりが高くなるように反応管に充填する方法(特許文献2)、触媒に添加するアルカリ金属の種類および/または量を変更して調製した活性の異なる複数種の触媒を、原料ガス入口側から出口側に向けてより活性が高くなるように反応管に充填する方法(特許文献3)、反応管に充填される触媒の体積が原料ガス入口側から出口側に向けてより小さくなるように反応管に充填する方法(特許文献4)など種々の改良がされている。
しかしながら、不活性物質で希釈する方法、担持率を変える方法や活性の異なる触媒を用いる方法などでは、反応管内に充填される反応に有効な触媒成分量が減少し、アクリル酸の生産性が悪化する。また、複数種の触媒を調製することは、単一品種を生産する場合に比べ、多大な労力およびコストを要する。
【0004】
さらに、これらいずれの提案も、ホットスポット部の温度を抑制するという点ではある程度の改善は達成されるもののまだ十分なものではない。すなわち、いずれの方法においても、触媒寿命およびアクリル酸収率の面においても、なお改善の余地を有する状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭53−30688号公報
【特許文献2】特開平7−10802号公報
【特許文献3】特開2000−336060号公報
【特許文献4】特開平9−241209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、固定床多管式反応器を用いたアクロレインの接触気相酸化によるアクリル酸の製造に際し、触媒層のホットスポット部の発生を抑制し、長期に渡り安定して高いアクリル酸収率を得ることが可能となる触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、固定床多管式反応器を用いたアクロレインの接触気相酸化によるアクリル酸の製造方法において、反応器に充填する触媒の粒子径が特定の分布を有することで、触媒粒子間の空隙を均等かつ大きく存在させ、アクリル酸の生産性が低下することなく触媒層のホットスポット部の発生を抑制でき長期間安定してアクリル酸が得られることを見出し本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスで接触気相酸化することによりアクリル酸を製造するためのモリブデンおよびバナジウムを必須成分として含有する酸化物触媒であって、下記式(1)により求められる粒径の相対標準偏差が0.02以上、0.20以下であることを特徴とする酸化物触媒である。
粒径の相対標準偏差 = 粒径の標準偏差/平均粒径 (1)

【0009】
(Nは粒径を測定した個数、Xnは各粒子の粒径であって、各粒子の3方向の直径を測り平均を求める三軸平均径を表す)であり、平均粒径はN個の粒子の粒径の算術平均を表す。
【0010】
また、本発明は、アクロレインを分子状酸素または分子状酸素含有ガスで接触気相酸化することによりアクリル酸を製造する方法において当該触媒用いることを特徴とするアクリル酸の製造方法である。また、本発明は、当該方法で得られたアクリル酸を用いた吸水性樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
固定床多管式反応器を用いたアクロレインの接触気相酸化によるアクリル酸製造用の触媒として好適に使用でき、触媒層のホットスポット部の発生を抑制し、長期に渡り安定して高いアクリル酸収率を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の触媒は、モリブデンおよびバナジウムを必須成分として含有し、その粒径が、式(1)で求められる粒径の相対標準偏差が0.02以上、0.20以下、好ましくは0.04以上、0.15以下の範囲内のものであればよく、それによって、反応管あたりに充填されている触媒成分の量を適度に維持した上で、ホットスポット部の発生が抑制され、高負荷反応を行うことができ長期間安定してアクリル酸の高い生産性を維持することが可能となる。触媒粒径の相対標準偏差が上記範囲より小さい、すなわち触媒の粒径が均一に揃っている場合、反応管に触媒を充填した際に触媒粒子間の空隙が均等にかつ大きく存在することになる。この場合、ホットスポット部の発生を抑えることは可能であるが、反応管あたりに充填される触媒成分量が少なくなるため、十分な反応原料転化率を達成するには反応温度を高める必要があり、その結果として、目的生成物の選択率の低下、触媒の劣化の促進などによりアクリル酸の生産性が低下すると考えられる。一方、触媒粒径の相対標準偏差が上記範囲より大きい、すなわち触媒粒径があまりにも大きな分布を持っていると、反応管に触媒を充填した際に大きな粒子間に存在する空隙に小さな粒子が入り込むため触媒粒子間の空隙が大幅に少なくなる。このため、反応管あたりに充填される触媒成分量は増大するものの、ホットスポット部の発生が抑制できず、その結果、高温による燃焼反応の増大、触媒劣化の促進に繋がり、アクリル酸の生産性が低下すると推測される。
【0013】
本発明において、触媒の形状としては実質的に球状であればよく、真球である必要はない。また、粒径は、粒子の3方向の直径を測り平均を求める方法(三軸平均径)により求められ、粒径の測定は、測定する個数が十分多ければ、全ての粒子を測定する必要はなく、全体から無作為に一部分をサンプリングしたもので良い。
【0014】
尚、触媒の平均粒径としては、用いる反応管の内径に応じて適宜選択でき、1〜12mmのものが好ましく、より好ましくは3〜10mmである。
【0015】
本発明におけるアクロレインを分子状酸素または分子状酸素含有ガスで接触気相酸化によりアクリル酸を製造するための触媒は、モリブデンおよびバナジウムを必須成分とする酸化物であればよいが、下記式(2)で表される活性成分を有する触媒が好適である。
【0016】
Mo12Cu (2)
(ここで、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Eはコバルト、ニッケル、鉄、鉛およびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素、Fはアンチモン、ニオブおよびスズから選ばれる少なくとも1種の元素、Gはシリコン、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Hはアルカリ金属から選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、g、h、i、j、k、l、mおよびyはそれぞれ、V、W、Cu、E、F、G、HおよびOの原子比を表し、2≦g≦15、0≦h≦10、0<i≦6、0≦j≦30、0≦k≦6、0≦l≦60、0≦m≦6であり、yはそれぞれの元素の酸化状態によって定まる数値である。)
本発明の触媒は、上記触媒活性成分をそのまま成型した成型触媒としても、反応に不活性な担体に上記触媒活性成分を担持した担持触媒としてもよい。上記触媒活性成分はこの種の調製に一般に用いられている原料を用いて一般に用いられている方法により調製することができる。原料としては、例えば、各元素の酸化物、水酸化物、アンモニウム塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩などの塩類や、それらの水溶液、ゾルなど、あるいは、複数の元素を含む化合物などを用いることもできる。
【0017】
成型触媒の調製に際しては、これら原料を順次水などの溶媒に加え水溶液、懸濁液またはスラリーとし、得られた触媒成分を含有する水溶液、懸濁液またはスラリーは適当な方法により乾燥する。乾燥の方法としては、例えば、蒸発乾固による乾燥も可能であるが、スプレードライヤーやドラムドライヤーなどを用いて粉末の乾燥物を得るようにしてもよく、また、箱型乾燥機やトンネル型乾燥機などを用いて気流中で加熱してブロック状またはフレーク状の乾燥物を得るようにしてもよい。あるいは、真空乾燥機などを用いて、減圧下で乾燥し、ブロック状または粉末状の乾燥物を得ることもできる。得られた乾燥物は、必要に応じて適当な粒度の粉体を得るための粉砕工程は分級工程を経て、成型工程に送られる。また、成型工程前に必要により乾燥物を焼成して用いてもよい。触媒の成型方法は、実質的に球状に形成できる方法であれば特に限定はされず、例えば、マルメライザー成形など、従来公知の方法を用いることができる。得られた成型体を、必要の応じて乾燥を行った後、300〜600℃、好ましくは350〜500℃の温度で1〜10時間ほど焼成することにより酸化物触媒を得ることができる。
【0018】
担持触媒の調製に際しては、担体に均一に上記触媒活性成分を担持できる方法であればいずれも有効である。例えば、上記触媒活性成分を含有する水溶液、懸濁液またはスラリーを乾燥、粉砕し、さらに場合によっては焼成を行った後、回転ドラム式担持装置、転動造粒機や回転揺動型混合装置などを用いて、必要に応じアルコールや水などの結合剤などを添加して担持を行うことができる。また、上記触媒活性成分を含有する水溶液、懸濁液またはスラリーに担体を含浸させる方法も有効である。このようにして触媒活性成分を担持後、必要の応じて乾燥を行った後、300〜600℃、好ましくは350〜500℃の温度で1〜10時間ほど焼成することにより担持型の酸化物触媒を得ることができる。
【0019】
担持触媒の担体としては、各種触媒、特にアクロレインの酸化反応触媒に用いられる担体であればいずれも使用可能であり、実質的に球形であればよい。具体的には、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどが使用可能である。中でも、アルミナ、シリカ−アルミナが好適である。
【0020】
担体は、市販のものでもかまわないが、上記構成元素を含む原料から調製することも可能である。
【0021】
担体の粒径としては1〜12mmのものが好ましく、更に好ましくは3〜10mmである。好ましくは、粒径が上記範囲内であり、式(1)で求められる相対標準偏差が0.02以上、0.20以下のものが好適に使用できる。それによって、活性成分量が比較的揃い、かつ、粒径の相対標準偏差が本発明の範囲内となる触媒を容易に調製することができる。尚、担体の調製時に上記の条件を満たすようにする、あるいは、調製後に篩い分けて用いることも可能である。また、成型触媒でも同様であるが、できあがった触媒自体をその粒径の相対標準偏差の条件を満たすように篩い分けてもよい。
【0022】
本発明の触媒においては、上記の触媒活性成分以外に硝酸アンモニウム、セルロースなどの成型助剤やグラスファイバー、セラミックファイバーなどの補強剤を加えることもできる。
【0023】
本発明は、上記の触媒活性成分を含む触媒であればいずれも有効であるが、特に活性の高い触媒においてはさらに有効である。また、アクリル酸の生産性を向上させるため、高負荷反応を行う際には、本発明は非常に有効となる。
【0024】
固定床多管式反応器を用いたアクロレインの接触気相酸化によるアクリル酸の製造に際に、本発明の触媒を使用することによって、反応管に触媒を充填する様態としては、反応管を複数の層に分割する必要はなく、単一種の触媒を充填する方法においてもホットスポット部の発生を抑制し、高い空間速度や高原料ガス濃度での反応下でも、高いアクリル酸の生産性を維持することが可能である。尚、反応管を複数の層に分割し、一部を不活性物質で希釈する方法や成分、調製方法、焼成条件などを変更して調製した複数種の異なる酸化物触媒を組み合わせて使用する方法を用いても、本発明の効果を損なうものではない。また、反応管を複数の層に分割し、占有容積が異なる複数種の酸化物触媒を用いる方法も採用できるが、その場合、分割した各層における酸化物触媒が本願の規定する相対標準偏差の範囲内になるようにすれば良い。
【0025】
本発明における、アクロレインからアクリル酸を製造する反応条件には特に制限は無く、この種の反応に一般に用いられている条件であればいずれも実施することが可能である。例えば、原料ガスとして1〜15体積%、好ましくは4〜12体積%のアクロレイン、0.5〜25体積%、好ましくは2〜20体積%の分子状酸素、0〜30体積%、好ましくは0〜25体積%の水蒸気、残部が窒素などの不活性ガスからなる混合ガスを200〜400℃の温度範囲で0.1〜1.0MPaの圧力下、300〜5,000h−1(STP)の空間速度で酸化物触媒に接触させればよい。尚、アクロレイン含有ガスとして、プロピレンの接触気相酸化により得られるアクロレイン含有ガスが使用できることは言うまでもない。この時のプロピレンからアクロレインを製造する反応条件には特に制限は無く、この種の反応に一般に用いられている条件であればいずれも実施することが可能である。例えば、原料ガスとして1〜15体積%、好ましくは4〜12体積%のプロピレン、0.5〜25体積%、好ましくは2〜20体積%の分子状酸素、0〜30体積%、好ましくは0〜25体積%の水蒸気、残部が窒素などの不活性ガスからなる混合ガスを200〜400℃の温度範囲で0.1〜1.0MPaの圧力下、300〜5,000h−1(STP)の空間速度で酸化物触媒に接触させればよい。その際、プロピレンの酸化用触媒を充填した第1反応器およびアクロレイン酸化用触媒を充填した第2反応器の2つの反応器を用い、第1反応器からのアクロレインを含有する反応ガスと、リサイクルガス、酸素、あるいは窒素や水蒸気などの不活性ガスとを第2反応器に導入しアクロレインを更に酸化してアクリル酸を製造する方法や、1つの反応器を2つの反応帯に分割し、一方の反応帯にはプロピレンの酸化用触媒を充填し、もう一方の反応帯にはアクロレイン酸化用触媒を充填した1つの反応器を用いプロピレンからアクリル酸を製造する方法など公知の方法が採用できる。また、プロパンを原料として得られるアクロレイン含有の混合ガスも使用可能であり、これらの混合ガスに必要に応じ、空気または酸素などを添加することもできる。
【0026】
このように接触気相酸化により得られたアクリル酸含有ガスを水や高沸点の疎水性有機物などの溶剤で吸収、あるいは直接凝縮など公知の方法でアクリル酸含有液として、得られたアクリル酸含有液を公知の抽出法、蒸留法、晶析法などで精製することにより精製アクリル酸が得られる。得られた精製アクリル酸および/ またはその塩を単量体の主成分( 好ましくは70モル% 以上、より好ましくは90モル% 以上 ) とし、さらに0.001〜5モル%(アクリル酸に対する値)程度の架橋剤、0.001〜2モル%程度のラジカル重合開始剤を用いて架橋重合させ、乾燥、粉砕することにより吸水性樹脂が得られる。
吸水性樹脂とは、架橋構造を有した水膨潤性水不溶性のポリアクリル酸であり、自重の3倍以上、好ましくは10〜1000倍の純水或いは生理食塩水を吸水し、水溶性成分(水可溶分)が好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下の水不溶性ヒドロゲルを生成するものをいう。この様な吸水性樹脂の例示や物性測定方法としては例えば米国特許第第6107358号, 同第6174978号, 同第6241928号が例示される。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」、と記すことがある。また、アクロレイン転化率およびアクリル酸収率は次の通り定義される。
アクロレイン転化率(モル%)
=(反応したアクロレインのモル数/供給したアクロレインのモル数)×100
アクリル酸収率(モル%)
=(生成したアクリル酸のモル数/供給したアクロレインのモル数)×100
<実施例1>
−担体の調製−
平均粒径2〜10μmのα‐アルミナ粉体90部と、有機結合剤としてのメチルセルロース5部とを混練機に投入し、充分に混合した。次いで、この混合物に、平均粒径2〜20nmのアルミナゾル3部(Al含有量として)と、平均粒径2〜20nmのコロイド状シリカ7部(SiO含有量として)とを添加し、さらに水を投入し、充分に混合して、シリカを添加したアルミナ混合物を得た。次いで、この混合物を押出し成型し、直径約5.5mm、長さ約5.5mmの円柱状成型物を得た。これを球状物が形成されるまで造粒処理し、乾燥した後、1400℃で2時間焼成を行った。これを目開き5.6mm以下、4.0mm以上の篩で篩い分けた。得られた担体から100gをサンプリングし粒径を測定した。平均粒子径は5.00mm、式(1)における標準偏差は0.25、相対標準偏差は0.05であった。
−触媒調製−
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、そのなかにパラモリブデン酸アンモニウム513部、メタバナジン酸アンモニウム170部、パラタングステン酸アンモニウム78.5部を溶解した。別に蒸留水200部を加熱攪拌しながら、硝酸銅146部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに酸化チタン48.4部、三酸化アンチモン35.3部を添加し、懸濁液を得た。その懸濁液を湯浴上の磁製蒸発器に入れ、これに上記で得られた担体1750部を加え、攪拌しながら蒸発乾固して担体に付着させ、担持体を得た。次いで、この担持体を取り出し、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして酸化物触媒を得た。触媒活性成分の酸素を除く金属元素の組成は次のとおりであった。
【0028】
Mo121.2Cu2.5SbTi2.5
また、この酸化物触媒の担持率は約30質量%であった。
なお、得られた酸化物触媒の平均粒子径は5.16mm、標準偏差は0.21、相対標準偏差は0.04であった。
−反応−
得られた酸化物触媒を内径25mm、長さ3000mmの鋼鉄製反応管に充填層長が2000mmとなるように充填した。また、触媒層の反応ガス入口側に予熱層として平均粒径5mmの不活性なアルミナボールを200mm充填した。これに、アクロレイン7容量%、空気35容量%、水蒸気15容量%および残部が窒素などの不活性ガスからなる組成の混合ガスを導入し、酸化物触媒に対する空間速度1500hr−1(STP)で反応を行った。このときの、反応初期および2000時間経過時の性能を表1に示した。
<実施例2>
実施例1において、担体調製時に目開きを5.6mm以下、3.4mm以上の篩で篩分けた以外は、実施例1と同様に触媒調製および反応を行った。結果を表1に示した。なお、得られた酸化物触媒の平均粒子径は5.16mm、標準偏差は0.67、相対標準偏差は0.13であった。
<比較例1>
実施例1において、担体調製時に目開きを5.6mm以下、2.4mm以上の篩で篩分けた以外は、実施例1と同様に触媒調製および反応を行った。結果を表1に示した。なお、得られた酸化物触媒の平均粒子径は5.16mm、標準偏差は1.08、相対標準偏差は0.21であった。
<比較例2>
実施例1において、担体調製時に目開き5.6mm以下、4.6mm以上の篩で篩分けた以外は、実施例1と同様に触媒調製および反応を行った。結果を表1に示した。なお、得られた酸化物触媒の平均粒子径は5.19mm、標準偏差は0.07、相対標準偏差は0.01であった。
<実施例3>
比較例1において得られた酸化物触媒を目開き5.6mm以下、3.4mm以上の篩で篩い分けた。それ以外は比較例1と同様に行った。また、篩い分けた後の酸化物触媒の平均粒子径は5.13mm、標準偏差は0.77、相対標準偏差は0.15であった。
結果を表2に示した。
<実施例4>
−担体の調製−
平均粒径2〜10μmのα‐アルミナ粉体75部と、有機結合剤としてのメチルセルロース5部とを混練機に投入し、充分に混合した。次いで、この混合物に、平均粒径2〜20nmのアルミナゾル8部(Al含有量として)と、平均粒径2〜20nmのコロイド状シリカ17部(SiO含有量として)とを添加し、さらに水を投入し、充分に混合して、シリカを添加したアルミナ混合物を得た。次いで、この混合物を押出し成型し、直径約8.5mm、長さ約8.5mmの円柱状成型物を得た。これを球状物が形成されるまで造粒処理し、乾燥した後、1400℃で2時間焼成を行った。これを目開き8.5mm以下、7.2mm以上の篩で篩い分けた。得られた担体の平均粒子径は8.00mm、標準偏差は0.32、相対標準偏差は0.04であった。
−触媒調製−
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、そのなかにパラモリブデン酸アンモニウム530部、メタバナジン酸アンモニウム87.7部、パラタングステン酸アンモニウム74.2部を溶解した。別に蒸留水200部を加熱攪拌しながら、硝酸銅72.4部、硝酸コバルト14.5部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン29.1部を添加し、懸濁液を得た。その懸濁液を湯浴上の磁製蒸発器に入れ、これに上記担体1750部を加え、攪拌しながら蒸発乾固して担体に付着させ、担持体を得た。次いで、この担持体を取り出し、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして酸化物触媒を得た。この酸化物触媒の担持率は約30質量%であり、酸素を除く金属元素の組成は次のとおりであった。
【0029】
Mo121.1Cu1.2Sb0.8Co0.2
また、得られた酸化物触媒の平均粒子径は8.50mm、標準偏差は0.34、相対標準偏差は0.04であった。
−反応−
得られた酸化物触媒を用いて実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示した。
<実施例5>
−触媒調製−
蒸留水4000部を加熱攪拌しながら、そのなかにパラモリブデン酸アンモニウム530部、メタバナジン酸アンモニウム87.7部、パラタングステン酸アンモニウム74.2部を溶解した。別に蒸留水200部を加熱攪拌しながら、硝酸銅72.4部、硝酸コバルト14.5部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン29.1部を添加し、懸濁液を得た。この懸濁液を、噴霧乾燥機にて乾燥を行った。得られた顆粒状粉体を、390℃で約5時間焼成を行った。このとき、顆粒状粉体中に温度計を挿入し、急激な温度上昇が起こらないよう、炉の温度を調整しながら上昇させた。焼成後の顆粒状粉体を150μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に実施例4で得た担体1750部を投入し、次いで結合剤として20質量%のグリセリン水溶液と共に触媒粉体を90℃の熱風を通しながら投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして酸化物触媒を得た。この酸化物触媒の担持率は約30質量%であり、触媒活性成分の酸素を除く金属元素の組成は次のとおりであった。
【0030】
Mo121.1Cu1.2Sb0.8Co0.2
また、得られた酸化物触媒の平均粒子径は8.95mm、標準偏差は0.36、相対標準偏差は0.04であった。
−反応−
得られた酸化物触媒を用いて実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示した。
<実施例6>
実施例4の担体調製において、目開き9.0mm以下、6.7mm以上の篩で篩分けた以外は、実施例4と同様に行った。結果を表1に示した。なお、このとき担体の平均粒子径は8.02mm、標準偏差は0.64、相対標準偏差は0.08であった。また、得られた酸化物触媒の平均粒子径は8.52mm、標準偏差は0.68、相対標準偏差は0.08であった。
<実施例7>
実施例5において、用いた担体を目開き9.0mm以下、6.7mm以上の篩で篩分けたものに変えた以外は、実施例5と同様に行った。結果を表1に示した。なお、このとき用いた担体の平均粒子径は8.02mm、標準偏差は0.64、相対標準偏差は0.08であった。また、得られた酸化物触媒の平均粒子径は8.97mm、標準偏差は0.72、相対標準偏差は0.08であった。
<比較例3>
実施例4の担体調製において、目開き8.2mm以下、7.8mm以上の篩で篩分けた以外は、実施例4と同様に行った。結果を表1に示した。なお、このとき担体の平均粒子径は8.00mm、標準偏差は0.08、相対標準偏差は0.01であった。また、得られた酸化物触媒の平均粒子径は8.50mm、標準偏差は0.09、相対標準偏差は0.01であった。
<比較例4>
実施例5において、用いた担体を目開き8.2mm以下、7.8mm以上の篩で篩分けたものに変えた以外は、実施例5と同様に行った。結果を表1に示した。なお、このとき用いた担体の平均粒子径は8.00mm、標準偏差は0.08、相対標準偏差は0.01であった。また、得られた酸化物触媒の平均粒子径は8.95mm、標準偏差は0.09、相対標準偏差は0.01であった。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスで接触気相酸化することによりアクリル酸を製造するためのモリブデンおよびバナジウムを必須成分とする酸化物触媒であって、下記式(1)により求められる粒径の相対標準偏差が0.02以上、0.20以下であることを特徴とするアクリル酸製造用触媒。
粒径の相対標準偏差 = 粒径の標準偏差/平均粒径 (1)

(Nは粒径を測定した個数、Xnは各粒子の粒径であって、各粒子の3方向の直径を測り平均を求める三軸平均径を表す)であり、平均粒径はN個の粒子の粒径の算術平均を表す。
【請求項2】
モリブデンおよびバナジウムを必須成分とする酸化物が下記一般式(2)
Mo12Cu (2)
(ここで、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Eはコバルト、ニッケル、鉄、鉛およびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素、Fはアンチモン、ニオブおよびスズから選ばれる少なくとも1種の元素、Gはシリコン、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Hはアルカリ金属から選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、g、h、i、j、k、l、mおよびyはそれぞれ、V、W、Cu、E、F、G、HおよびOの原子比を表し、2≦g≦15、0≦h≦10、0<i≦6、0≦j≦30、0≦k≦6、0≦l≦60、0≦m≦6であり、yはそれぞれの元素の酸化状態によって定まる数値である。)で表される請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
モリブデンおよびバナジウムを必須成分とした酸化物を担体に担持させてなることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項4】
アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスで接触気相酸化することによりアクリル酸を製造する方法において、請求項1から3のいずれか1項に記載の触媒の存在下で行うことを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法で得られたアクリル酸を用いることを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2009−214105(P2009−214105A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116151(P2009−116151)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【分割の表示】特願2007−294353(P2007−294353)の分割
【原出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】