説明

アクリル酸系化合物、該化合物を用いた色素増感太陽電池

【課題】
近赤外領域に吸収極大を有し、増感色素として高い光電変換効率を可能にする新規な化合物、およびこの化合物を用いた色素増感太陽電池を提供する。

【解決手段】
下記の一般式(1)で表されるアクリル酸系化合物。


〔式中、Aは近赤外線領域に吸収極大を有する原子団を表し、Yはπ電子共役構造を有する原子団を表し、Xは水素原子または電子吸引性置換基を表し、nおよびmは1または2の整数を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線領域に吸収極大を有する新規なアクリル酸系化合物、ならびにこの化合物を増感色素として用いた色素増感太陽電池に関する。詳しくは、色素増感太陽電池において、近赤外線領域にわたる太陽光エネルギーを効率よく光吸収する新規なアクリル酸系化合物およびこれを用いた光電変換効率の高い色素増感太陽電池に関する。

【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題に関する関心が高まるとともに、クリーンな代替エネルギーとして、太陽光を効率よく電気に変換することができる太陽電池の研究が盛んになっている。すでにいくつかは実用化され、アモルファスシリコンや多結晶シリコンを利用したシリコン系の太陽電池が普及し始めている。しかしながら、これらシリコン系の太陽電池は製造コストが高く、高純度シリコンを安価にかつ大量に供給することが困難であることから、幅広く普及するには大きな問題を抱えている。従って、シリコン系太陽電池に変わる新しいタイプの太陽電池の研究が進められており、そのひとつとして色素増感太陽電池が関心を集めている。
色素増感太陽電池は、製造コストが比較的低いこと、酸化チタン等の酸化物半導体を高純度に精製することなく原料として使用できること、製造に際して使用する設備が安価で済むことなどシリコン系太陽電池と比較して多くの利点を有している。さらに、色素増感太陽電池は、色素による色調を生かした意匠性の高い分野への応用が可能であり、携帯電子機器の外装、服飾品、建造物の壁面といった様々な分野で実用化が期待されるなど次世代の太陽電池として普及することが期待されている(特許文献1)。
色素増感太陽電池は、通常の電池と同様に、陽極と、陰極と、電解質とを備えているが、陰極が、透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有しており、この酸化物薄膜電極に特定の増感色素が吸着されている構造に特徴がある。
色素増感太陽電池においては、光電変換効率は増感色素に大きく依存することが知られており、増感色素としては、例えば「N719」と呼ばれる色素、或いは「ブラック・ダイ」と呼ばれるルテニウム錯体が知られている(非特許文献1および2)。
このような、ルテニウム錯体を用いた色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を示すものの、シリコン系太陽電池と比較すると光電変換効率は低く、耐久性も十分でなく、更に前記ルテニウム錯体は、高価で希少な金属であるため、コスト上昇の要因となるなど解決すべき問題点がある。
【0003】
このような問題を解決するために、ルテニウム錯体以上の光電変換効率と、低コストを両立する新規増感色素の探索が活発に行われている。特に、クマリン系色素、インドリン型色素など新規な増感色素が盛んに開発され、ルテニウム錯体に匹敵する光電変換特性が報告されている(特許文献2および非特許文献3)。しかしながら、これら増感色素の主な吸収帯は400〜700nmの間の可視光領域であり、700nmを越す近赤外領域の光がほとんど利用されていないなどの課題がある。
この課題に対しては、例えば、長波長領域の光を更に効率よく利用するため、スクアリリウム系色素を用いる色素増感太陽電池やヘプタメチン-シアニン系色素を用いる色素増感太陽電池が開示されている(非特許文献4および5)。さらには、太陽光を効率よく利用する観点から、可視領域に吸収を持つ長い共役系と、溶媒への適度な溶解度を併せ持つ骨格を基本とする増感色素としてフタロシアニン系色素を用いる色素増感太陽電池も開示されている(非特許文献6および特許文献3)。その一例として、立体障害の大きいtert-ブチル基3つを、それぞれフタロシアニン骨格に導入し、色素同士の会合と凝集を抑制しつつ、溶解度の向上と電荷の再結合抑制効果があるフタロシアニン色素が提案されている(非特許文献6)。しかし、これらの増感色素は700nmを越す近赤外領域の光を利用しているが、色素増感太陽電池としての光電変換効率や耐久性の面では十分ではなかった。
このように、色素増感太陽電池の構成材料となる増感色素は種々検討されているが、700nm以上の近赤外線領域で効率的な増感作用を有し、かつ耐久性も兼備した増感色素は未だ開発されていない。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4927721号
【特許文献2】特開2007-287694号公報
【特許文献3】特開平9−199744号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,115、1993、6382
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,123、2001、1613
【非特許文献3】Angew.Chem.Int.Ed.,47,1923,2008
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.,129、2007、10320
【非特許文献5】Chem.Lett., 2008、37、176
【非特許文献6】Angew.Chem.,Int.Ed.,46,313,2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、近赤外領域に吸収極大を有し、増感色素として高い光電変換効率を可能にする新規な化合物を提供し、さらにはこの化合物を用いた色素増感太陽電池を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アクリル酸残基を末端に有する特定構造の置換基を有し、かつ近赤外線領域に吸収極大を有する化合物が、上記した目的にきわめて好適であることを見出し、本発明を完成させるに至った。

すなわち、本発明は、
(i)下記の一般式(1)で表されるアクリル酸系化合物に関し、

〔式中、Aは近赤外線領域に吸収極大を有する原子団を表し、Yはπ電子共役構造を有する原子団を表し、Xは水素原子または電子吸引性置換基を表し、nおよびmは1または2の整数を表す。〕

(ii)下記の一般式(2)で表される前記(i)記載のアクリル酸系化合物。

〔式中、M1は金属原子、金属化合物または2個の水素原子を表し、Yはπ電子共役構造を有する原子団、Xは水素原子または電子吸引性置換基、nおよびmは1または2の整数、Q1〜Q4は各々独立に環状構造を表す。但し、式中の置換基(1−1):

は、Q1〜Q4で表される環状構造に置換している。〕

【0008】
また、本発明は、
(iii)前記式(2)において、Q1〜Q4の環状構造が、置換基(1−1)以外に、各々独立に置換基を有しても良いベンゼン環、置換基を有してもよいナフタレン環、置換基を有しても良いフェノチアジン環を表す(ii)記載のアクリル酸系化合物。

(iv)前記式(2)において、Q1〜Q4の環状構造のうち、少なくとも3個が同一である(ii)又は(iii)記載のアクリル酸系化合物。

(v)前記式(2)において、Q1〜Q4上の置換基が、ハロゲン原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアルコキシ基、置換または未置換のアリール基、置換または未置換のアリールオキシ基、置換または未置換のアルキルチオ基、置換または未置換のアリールチオ基、置換のアミノ基である(ii)〜(iv)いずれかに記載のアクリル酸系化合物、

(vi)Yが、少なくともアリーレン基を1つ有する(i)〜(v)いずれかに記載のアクリル酸系化合物。

(vii)Xが水素原子、シアノ基、カルボキシル基、トリフルオロメチル基から選ばれる(i)〜(vii)いずれかに記載のアクリル酸系化合物に関し、
さらに、

(viii)(i)〜(vii)のいずれかに記載のアクリル酸系化合物を増感色素として用いることを特徴とする色素増感太陽電池に関するものである。

【発明の効果】
【0009】
本発明のアクリル酸系化合物を増感色素として用いた場合、従来の増感色素と比べ、優れた光電変換効率と波長吸収特性を有する色素増感太陽電池を提供することが可能になった。

【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。

<アクリル酸系化合物>
本発明のアクリル酸系化合物は、下記一般式(1)で表わされることを特徴としている。

(式中、Aは近赤外線領域に吸収極大を有する原子団を表し、Yはπ電子共役構造を有する原子団を表し、Xは水素原子または電子吸引性置換基を表し、nおよびmは1または2の整数を表す。)

一般式(1)で表されるアクリル酸系化合物において、Aは近赤外線領域に吸収極大を有する原子団であり、600nm〜1100nmに極大吸収波長を有する化合物を表す。
上記における、近赤外線領域に吸収極大を有する原子団としては、ジイモニウム系化合物、シアニン系化合物、インドシアニン系化合物、ポリメチン系化合物、スクアリリウム系化合物、ポルフィリン系化合物、ジチオール錯体系化合物、アゾ系化合物、ピロメテン系金属錯体化合物が挙げられる。
本発明のアクリル酸系化合物において、近赤外線領域に吸収極大を有する原子団としてはポルフィリン系化合物が好ましい。

【0011】
以下に、一般式(2)で表されるアクリル酸系化合物についてより具体的に説明する。

〔式中、M1は金属原子、金属化合物または2個の水素原子を表し、Yはπ電子共役構造を有する原子団、Xは水素原子または電子吸引性置換基、nおよびmは1または2の整数、Q1〜Q4は各々独立に環状構造を表す。但し、式中の置換基(1−1):

は、Q1〜Q4で表される環状構造に置換している。〕

一般式(2)において、Q1〜Q4は、それぞれ独立に置換基を有しても良い環状構造を表す。
上記における環状構造としては、それぞれ独立に、炭素原子、窒素原子、及び水素原子より選ばれる原子で構成される環状構造であり、置換基を有しても良い炭素環式芳香族環、置換基を有しても良い複素環式芳香族基等があげられる。

【0012】
好ましくは、それぞれ独立に、炭素原子、窒素原子、及び水素原子より選ばれる原子で構成される6員環を形成する置換基を有しても良い環状構造、該環状構造に、炭素原子、窒素原子、硫黄原子、及び水素原子より選ばれる原子で構成される5員環以上の環がさらに縮合している置換基を有しても良い環状構造が挙げられる。

一般式(2)における、Q1〜Q4の環状構造の具体例としては、特に限定されるものではないが、それぞれ独立に、炭素原子、窒素原子、及び水素原子より選ばれる原子で構成される6員環を形成する環状構造としては、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環が挙げられ、ベンゼン環が特に好ましい。
該環状構造に、炭素原子、窒素原子、硫黄原子、及び水素原子より選ばれる原子で構成される5員環以上の環がさらに縮合している環状構造としては、例えば、ナフタレン環、キノリン環、キノキサリン環、フェノチアジン環が挙げられ、ナフタレン環、フェノチアジン環が特に好ましい。

一般式(2)において、Q1〜Q4で表される環状構造に置換している置換基として、1又は2個は置換基(1−1)で表される基(以下、適宜「特定置換基L」と称する)である。

〔式中、Yはπ電子共役構造を有する原子団を表し、Xは水素原子または電子吸引性置換基を表し、mは1または2の整数を表す。〕

特定置換基Lにおいて、Yはπ電子共役構造を有する原子団を表す。
上記におけるπ電子共役構造を有する原子団としては、π共役平面を有する構造であればよく、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族炭化水素環、例えば、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、フラン環、イソチアゾール環、チオフェン環などの芳香族複素環等が挙げられる。

【0013】
尚、本明細書においては、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環から、二個の環炭素原子のそれぞれ一個の水素原子を除去することにより生成される二価基を総じて「アリーレン基」と表わす。
好ましくは、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジレン基、ピラジレン基、ピリミジレン基、ピロリレン基、フリレン基、チエニレン基、チアゾリレン基、イミダゾリレン基、オキサゾリレン基、トリアゾリレン基、インドリレン基、ベンゾイミダゾリレン基、ベンゾフリレン基、ベンゾチエニレン基、イソキノリレン基、イソチアゾリレン基が挙げられる。
より好ましくは、フェニレン基、ナフチレン基、フリレン基、ピロリレン基、チエニレン基が挙げられる。

なお、特定置換基Lにおいて、mは1または2を表し、mが2である場合、Yで表されるアリーレン基は同一でも異なっていても良い。

特定置換基Lにおいて、Xは、水素原子または電子吸引性置換基を表す。
上記における電子吸引性基としては、例えば、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、トシル基、メシル基、アシル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基を表す。

好ましくは、シアノ基、ハロゲン原子、トシル基、メシル基、アシル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基が挙げられる。
より好ましくは、シアノ基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基が挙げられる。

【0014】
以下、特定置換基Lの具体例を式(L−1)〜式(L−23)で示す。但し、本発明においてはこれらに限定されるものではない。なお、式(L−1)〜式(L−23)において、(+)は結合位置を示し、好ましくは、式(L−1)、式(L−4)、式(L−5)、式(L−6)、式(L−12)、式(L−16)、または式(L−19)である。






置換基(1−1)以外の置換基としては、各々独立にハロゲン原子、炭素数1〜24の置換または未置換のアルキル基、炭素数1〜24の置換または未置換のアルコキシ基、炭素数6〜30の置換または未置換のアリール基、炭素数6〜30の置換または未置換のアリールオキシ基、炭素数1〜24の置換または未置換のアルキルチオ基、炭素数6〜30の置換または未置換のアリールチオ基、炭素数1〜20の置換のアミノ基等が挙げられる。

【0015】
尚、本明細書において、アリール基とは、例えば、フェニル基、ナフチル基などの炭素環式芳香族基、例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基などの複素環式芳香族基を表す。

より好ましくは、各々独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜16の置換または未置換のアルキル基、炭素数1〜16の置換または未置換のアルコキシ基、炭素数4〜26の置換または未置換のアリール基、炭素数4〜26の置換または未置換のアリールオキシ基、炭素数1〜16の置換または未置換のアルキルチオ基、炭素数4〜26の置換または未置換のアリールチオ基、炭素数1〜14の置換のアミノ基が挙げられる。

さらに好ましくは、各々独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜12の置換または未置換のアルキル基、炭素数1〜12の置換または未置換のアルコキシ基、炭素数6〜20の置換または未置換のアリール基、炭素数6〜20の置換または未置換のアリールオキシ基、炭素数1〜12の置換または未置換のアルキルチオ基、炭素数6〜20の置換または未置換のアリールチオ基、炭素数1〜12の置換のアミノ基が挙げられる。

一般式(2)における、Q1〜Q4上の置換基の具体例としては、特に限定されるものではないが、それぞれ独立に、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、

【0016】
未置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、n−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、2−プロピルペンチル基、n−ノニル基、2,2−ジメチルヘプチル基、2,6−ジメチル−4−ヘプチル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、1−エチルオクチル基、n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、1−ヘキシルヘプチル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、1−ヘプチルオクチル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、1−オクチルノニル基、n−オクタデシル基、1−ノニルデシル基、1−デシルウンデシル基、n−エイコシル基、n−ドコシル基、n−テトラコシル基、1−アダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基などの炭素原子と水素原子のみからなる直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられる。
また、置換基を有するアルキル基の具体例としては、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基、n−ブトキシメチル基、n−ヘキシルオキシメチル基、(2−エチルブチルオキシ)メチル基、n−オクチルオキシメチル基、n−デシルオキシメチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−n−プロポキシエチル基、2−イソプロポキシエチル基、2−n−ブトキシエチル基、2−n−ペンチルオキシエチル基、2−n−ヘキシルオキシエチル基、2−(2'−エチルブチルオキシ)エチル基、2−n−ヘプチルオキシエチル基、2−n−オクチルオキシエチル基、2−(2'−エチルヘキシルオキシ)エチル基、2−n−デシルオキシエチル基、2−n−ドデシルオキシエチル基、2−n−テトラデシルオキシエチル基、2−シクロヘキシルオキシエチル基、2−メトキシプロピル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、3−n−プロポキシプロピル基、3−イソプロポキシプロピル基、3−(n−ブトキシ)プロピル基、3−(n−ペンチルオキシ)プロピル基、3−(n−ヘキシルオキシ)プロピル基、3−(2'−エチルブトキシ)プロピル基、3−(n−オクチルオキシ)プロピル基、3−(2'−エチルヘキシルオキシ)プロピル基、3−(n−デシルオキシ)プロピル基、3−(n−ドデシルオキシ)プロピル基、3−(n−テトラデシルオキシ)プロピル基、3−シクロヘキシルオキシプロピル基、4−メトキシブチル基、4−エトキシブチル基、4−n−プロポキシブチル基、4−イソプロポキシブチル基、4−n−ブトキシブチル基、4−n−ヘキシルオキシブチル基、4−n−オクチルオキシブチル基、4−n−デシルオキシブチル基、4−n−ドデシルオキシブチル基、5−メトキシペンチル基、5−エトキシペンチル基、5−n−プロポキシペンチル基、6−エトキシヘキシル基、6−イソプロポキシヘキシル基、6−n−ブトキシヘキシル基、6−n−ヘキシルオキシヘキシル基、6−n−デシルオキシヘキシル基、4−メトキシシクロヘキシル基、7−エトキシヘプチル基、7−イソプロポキシヘプチル基、8−メトキシオクチル基、10−メトキシデシル基、10−n−ブトキシデシル基、12−エトキシドデシル基、12−イソプロポキシドデシル基、テトラヒドロフルフリル基などの、アルキルオキシ基を有するアルキル基。
例えば、(2−メトキシエトキシ)メチル基、(2−エトキシエトキシ)メチル基、(2−n−ブチルオキシエトキシ)メチル基、(2−n−ヘキシルオキシエトキシ)メチル基、(3−メトキシプロピルオキシ)メチル基、(3−エトキシプロピルオキシ)メチル基、(3−n−ブチルオキシプロピルオキシ)メチル基、(3−n−ペンチルオキシプロピルオキシ)メチル基、(4−メトキシブチルオキシ)メチル基、(6−メトキシヘキシルオキシ)メチル基、(10−エトキシデシルオキシ)メチル基、2−(2’−メトキシエトキシ)エチル基、2−(2’−エトキシエトキシ)エチル基、2−(2’−n−ブトキシエトキシ)エチル基、3−(2’−エトキシエトキシ)プロピル基、3−(2’−メトキシプロピルオキシ)プロピル基、3−(2’−イソプロピルオキシプロピルオキシ)プロピル基、3−(3’−メトキシプロピルオキシ)プロピル基、3−(3’−エトキシプロピルオキシ)プロピル基などの、アルキルオキシアルキルオキシ基を有するアルキル基。
例えば、ベンジルオキシメチル基、2−ベンジルオキシエチル基、2−フェネチルオキシエチル基、2−(4'−メチルベンジルオキシ)エチル基、2−(2'−メチルベンジルオキシ)エチル基、2−(4'−フルオロベンジルオキシ)エチル基、2−(4'−クロロベンジルオキシ)エチル基、3−ベンジルオキシプロピル基、3−(4'−メトキシベンジルオキシ)プロピル基、4−ベンジルオキシブチル基、2−(ベンジルオキシメトキシ)エチル基、2−(4'−メチルベンジルオキシメトキシ)エチル基などの、アラルキルオキシ基を有するアルキル基。
【0017】
例えば、フェニルオキシメチル基、4−メチルフェニルオキシメチル基、3−メチルフェニルオキシメチル基、2−メチルフェニルオキシメチル基、4−メトキシフェニルオキシメチル基、4−フルオロフェニルオキシメチル基、4−クロロフェニルオキシメチル基、2−クロロフェニルオキシメチル基、2−フェニルオキシエチル基、2−(4'−メチルフェニルオキシ)エチル基、2−(4'−エチルフェニルオキシ)エチル基、2−(4'−メトキシフェニルオキシ)エチル基、2−(4'−クロロフェニルオキシ)エチル基、2−(4'−ブロモフェニルオキシ)エチル基、2−(1'−ナフチルオキシ)エチル基、2−(2'−ナフチルオキシ)エチル基、3−フェニルオキシプロピル基、3−(2'−ナフチルオキシ)プロピル基、4−フェニルオキシブチル基、4−(2'−エチルフェニルオキシ)ブチル基、5−(4'−tert−ブチルフェニルオキシ)ペンチル基、6−(2'−クロロフェニルオキシ)ヘキシル基、8−フェニルオキシオクチル基、10−フェニルオキシデシル基、10−(3'−クロロフェニルオキシ)デシル基、2−(2'−フェニルオキシエトキシ)エチル基、3−(2'−フェニルオキシエトキシ)プロピル基、4−(2'−フェニルオキシエトキシ)ブチル基などの、アリールオキシ基を有するアルキル基。
例えば、n−ブチルチオメチル基、n−ヘキシルチオメチル基、2−メチルチオエチル基、2−エチルチオエチル基、2−n−ブチルチオエチル基、2−n−ヘキシルチオエチル基、2−n−オクチルチオエチル基、2−n−デシルチオエチル基、3−メチルチオプロピル基、3−エチルチオプロピル基、3−n−ブチルチオプロピル基、4−エチルチオブチル基、4−n−プロピルチオブチル基、4−n−ブチルチオブチル基、5−エチルチオペンチル基、6−メチルチオヘキシル基、6−エチルチオヘキシル基、6−n−ブチルチオヘキシル基、8−メチルチオオクチル基などのアルキルチオ基を有するアルキル基。
例えば、フルオロメチル基、3−フルオロプロピル基、6−フルオロヘキシル基、8−フルオロオクチル基、トリフルオロメチル基、1,1−ジヒドロ−パーフルオロエチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−プロピル基、1,1,3−トリヒドローパーフルオローn−プロピル基、2−ヒドロ−パーフルオロ−2−プロピル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−ブチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−ペンチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−ヘキシル基、6−フルオロヘキシル基、4−フルオロシクロヘキシル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−オクチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−デシル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−ドデシル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−テトラデシル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−ヘキサデシル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロ−n−プロピル基、パーフルオロ−n−ペンチル基、パーフルオロ−n−ヘキシル基、2,2−ビス(トリフルオロメチル)プロピル基、ジクロロメチル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基、4−クロロシクロヘキシル基、7−クロロヘプチル基、8−クロロオクチル基、2,2,2−トリクロロエチル基などのハロゲン原子を有するアルキル基。
例えば、フルオロメチルオキシメチル基、3−フルオロ−n−プロピルオキシメチル基、6−フルオロ−n−ヘキシルオキシメチル基、トリフルオロメチルオキシメチル基、1,1−ジヒドロ−パーフルオロエチルオキシメチル基、1,1−ジヒドローパーフルオロ−n−プロピルオキシメチル基、2−ヒドロ−パーフルオロ−2−プロピルオキシメチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−ブチルオキシメチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−ペンチルオキシメチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−ヘキシルオキシメチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−オクチルオキシメチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−デシルオキシメチル基、1,1−ジヒドローパーフルオローn−テトラデシルオキシメチル基、2,2−ビス(トリフルオロメチル)プロピルオキシメチル基、3−クロロ−n−プロピルオキシメチル基、2−(8−フルオロ−n−オクチルオキシ)エチル基、2−(1,1−ジヒドロ−パーフルオロエチルオキシ)エチル基、2−(1,1,3−トリヒドローパーフルオローn−プロピルオキシ)エチル基、2−(1,1−ジヒドローパーフルオローn−ペンチルオキシ)エチル基、2−(6−フルオロ−n−ヘキシルオキシ)エチル基、2−(1,1−ジヒドローパーフルオローn−オクチルオキシ)エチル基、3−(4−フルオロシクロヘキシルオキシ)プロピル基、3−(1,1−ジヒドロ−パーフルオロエチルオキシ)プロピル基、3−(1,1−ジヒドローパーフルオローn−ドデシルオキシ)プロピル基、4−(パーフルオロ−n−ヘキシルオキシ)ブチル基、4−(1,1−ジヒドロ−パーフルオロエチルオキシ)ブチル基、6−(2−クロロエチルオキシ)ヘキシル基、6−(1,1−ジヒドロ−パーフルオロエチルオキシ)ヘキシル基などの、ハロゲノアルキルオキシ基を有するアルキル基。
【0018】
例えば、フェニルオキシメチル基、4−メチルフェニルオキシメチル基、3−メチルフェニルオキシメチル基、2−メチルフェニルオキシメチル基、4−エチルフェニルオキシメチル基、4−n−プロピルフェニルオキシメチル基、4−n−ブチルフェニルオキシメチル基、4−tert−ブチルフェニルオキシメチル基、4−n−ヘキシルフェニルオキシメチル基、4−n−オクチルフェニルオキシメチル基、4−n−デシルフェニルオキシメチル基、4−メトキシフェニルオキシメチル基、4−エトキシフェニルオキシメチル基、4−ブトキシフェニルオキシメチル基、4−n−ペンチルオキシフェニルオキシメチル基、4−フルオロフェニルオキシメチル基、3−フルオロフェニルオキシメチル基、2−フルオロフェニルオキシメチル基、3,4−ジフルオロフェニルオキシメチル基、4−クロロフェニルオキシメチル基、2−クロロフェニルオキシメチル基、4−フェニルフェニルオキシメチル基、1−ナフチルオキシメチル基、2−ナフチルオキシメチル基、2−フリルオキシメチル基、1−フェニルオキシエチル基、2−フェニルオキシエチル基、2−(4’−メチルフェニルオキシ)エチル基、2−(4’−エチルフェニルオキシ)エチル基、2−(4’−n−ヘキシルフェニルオキシ)エチル基、2−(4’−メトキシフェニルオキシ)エチル基、2−(4’−n−ブトキシフェニルオキシ)エチル基、2−(4’−フルオロフェニルオキシ)エチル基、2−(4’−クロロフェニルオキシ)エチル基、2−(4’−ブロモフェニルオキシ)エチル基、2−(1’−ナフチルオキシ)エチル基、2−(2’−ナフチルオキシ)エチル基、2−フェニルオキシプロピル基、3−フェニルオキシプロピル基、3−(4’−メチルフェニルオキシ)プロピル基、3−(2’−ナフチルオキシ)プロピル基、4−フェニルオキシブチル基、4−(2’−エチルフェニルオキシ)ブチル基、4−フェニルオキシペンチル基、5−フェニルオキシペンチル基、5−(4’−tert−ブチルフェニルオキシ)ペンチル基、6−フェニルオキシヘキシル基、6−(2’−クロロフェニルオキシ)ヘキシル基、8−フェニルオキシオクチル基、10−フェニルオキシデシル基、10−(3’−メチルフェニルオキシ)デシル基などの、アリールオキシ基を有するアルキル基があげられる。

【0019】
置換または未置換のアルコキシ基としては、前記に挙げたアルキル基と同様な置換基を有しても良いアルコキシ基であり、前記アルキル基の具体例として示したアルキル基から誘導されるアルコキシ基が挙げられる。

未置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−アントラセニル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、1−ピレニル基、2−ピレニル基、2−ペリレニル基、3−ペリレニル基、2−フルオランテニル基、3−フルオランテニル基、7−フルオランテニル基、8−フルオランテニル基。
置換基を有するアリール基の具体例としては、例えば、1−メチル−2−ピレニル基、2−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−(4'−tert−ブチルシクロヘキシル)フェニル基、3−シクロヘキシルフェニル基、2−シクロヘキシルフェニル基、4−エチル−1−ナフチル基、6−n−ブチル−2−ナフチル基、2,4−ジメチルフェニル基などのアルキル基を有するアリール基。
例えば、4−メトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、4−n−プロポキシフェニル基、3−n−プロポキシフェニル基、4−イソプロポキシフェニル基、3−イソプロポキシフェニル基、2−イソプロポキシフェニル基、2−sec−ブトキシフェニル基、4−n−ペンチルオキシフェニル基、4−イソペンチルオキシフェニル基、2−メチル−5−メトキシフェニル基、2−フェニルオキシフェニル基などのアルコキシ基及びアリ−ルオキシ基を有するアリール基。
例えば、4−フェニルフェニル基、3−フェニルフェニル基、2−フェニルフェニル基、2,6−ジフェニルフェニル基、4−(2'−ナフチル)フェニル基、2−フェニル−1−ナフチル基、1−フェニル−2−ナフチル基、7−フェニルー1−ピレニル基などのアリ−ル基を有するアリール基。
例えば、4−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、2−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−クロロ−5−メチルフェニル基、2−クロロ−6−メチルフェニル基、2−メチル−3−クロロフェニル基、2−メトキシ−4−フルオロフェニル基、2−フルオロ−4−メトキシフェニル基などのハロゲン原子を有するアリール基。
さらには、2−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル基、4−パ−フルオロエチルフェニル基、4−メチルチオフェニル基、4−エチルチオフェニル基、4−シアノフェニル基、3−シアノフェニル基などが挙げられる。

【0020】
置換または未置換のアリ−ルオキシ基としては、前記に挙げたアリール基と同様な置換基を有しても良いアリ−ルオキシ基であり、前記に挙げた置換のアリール基の具体例として示した置換基から誘導される置換または未置換のアリールオキシ基が挙げられる。

置換または未置換のアルキルチオ基としては、前記に挙げたアルキル基と同様な置換基を有しても良いアルキルチオ基であり、前記アルキル基の具体例として示したアルキル基から誘導されるアルキルチオ基が挙げられる。

置換または未置換のアリールチオ基としては、前記に挙げたアリール基と同様な置換基を有しても良いアリールチオ基であり、前記に挙げた置換のアリール基の具体例として示した置換基から誘導される置換または未置換のアリールチオ基が挙げられる。

置換アミノ基としては、例えば、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−n−ブチルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基、N−n−オクチルアミノ基、N−n−デシルアミノ基などのアルキル基を有するアミノ基。
例えば、N−ベンジルアミノ基、N−フェニルアミノ基、N−(3−メチルフェニル)アミノ基、N−(4−メチルフェニル)アミノ基、N−(4−n−ブチルフェニル)アミノ基、N−(4−メトキシフェニル)アミノ基、N−(3−フルオロフェニル)アミノ基、N−(4−クロロフェニル)アミノ基、N−(1−ナフチル)アミノ基、N−(2−ナフチル)アミノ基などのアラルキル基またはアリール基を有するアミノ基。
例えば、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジ−n−ブチルアミノ基、N,N−ジ−n−ヘキシルアミノ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノ基、N,N−ジ−n−デシルアミノ基、N,N−ジ−n−ドデシルアミノ基、N−メチル−N−エチルアミノ基、N−エチル−N−n−ブチルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、N−n−ブチル−N−フェニルアミノ基などのアルキル基またはアラルキル基二置換されたアミノ基。
例えば、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジ(3−メチルフェニル)アミノ基、N,N−ジ(4−メチルフェニル)アミノ基、N,N−ジ(4−エチルフェニル)アミノ基、N,N−ジ(4−tert−ブチルフェニル)アミノ基、N,N−ジ(4−n−ヘキシルフェニル)アミノ基、N,N−ジ(4−メトキシフェニル)アミノ基、N,N−ジ(4−エトキシフェニル)アミノ基、N,N−ジ(4−n−ブトキシフェニル)アミノ基、N,N−ジ(4−n−ヘキシルオキシフェニル)アミノ基、N,N−ジ(1−ナフチル)アミノ基、N,N−ジ(2−ナフチル)アミノ基、N−フェニル−N−(3−メチルフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−メチルフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−オクチルフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−メトキシフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−エトキシフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−n−ヘキシルオキシフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−フルオロフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(1−ナフチル)アミノ基、N−フェニル−N−(2−ナフチル)アミノ基、N−フェニル−N−(3−フェニルフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−フェニルフェニル基などのアリール基で二置換されたアミノ基などが挙げられる。

一般式(2)において、M1は、金属原子、金属化合物または2個の水素原子を表す。

上記における金属原子または金属化合物としては、錯体を形成可能な金属原子または金属化合物であればいずれであってもよく、例えば、2価の金属原子、金属酸化物、金属水酸化物、または金属塩化物等を挙げることができる。

【0021】
なお、M1が2個の水素原子を表す場合は、2つの水素原子が異なる2つの窒素原子にそれぞれ結合している。
2価の金属原子としては、例えばCu、Zn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Mn、Mg、Ti、Be、Ca、Ba、Cd、Hg、Pb、Snなどを表す。
金属酸化物としては、例えば、VO、TiOなどを表す。
金属水酸化物としては、例えば、MnOH、Si(OH)などを表す。
金属塩化物としては、例えば、AlCl、InCl、FeCl、TiCl
SnCl、SiCl、GeClなどを表す。
好ましくはMg、AlCl、FeCl、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、SnCl、InCl、VO、MnOH、TiO挙げられる。
より好ましくはCu、Co、Ni、Pd、MnOH、AlCl、FeCl、InCl,SnCl、VO、TiO、Znが挙げられる。
特に好ましくはVO、Pd、Cu、Znが挙げられる。

【0022】
以下、一般式(2)で表されるアクリル酸系化合物の好ましい形態を、一般式(2−1)〜一般式(2−8)で示すが、本発明においてはこれらに限定されるものではない。






上記一般式(2−1)〜(2−8)におけるM11、M21、M31、M41、M51、M61、M71およびM81はいずれも上記一般式(2)のM1と同じものを意味する。

【0023】
一般式(2−1)中のZ11及びZ12、一般式(2−2)中のZ21及びZ22、一般式(2−3)中のZ31及びZ32、一般式(2−4)中のZ41及びZ42、一般式(2−5)中のZ51及びZ52、一般式(2−6)中のZ61及びZ62、一般式(2−7)中のZ71及びZ72、並びに一般式(2−8)中のZ81及びZ82は各々独立に、水素原子又は特定置換基Lを表す。但し、同時に水素原子となることはない。

上記一般式(2−1)〜(2−8)におけるR101〜R114、R201〜R216、R301〜R320、R401〜R422、R501〜R520、R601〜R620、R701〜R722およびR801〜R822は、上記一般式(2)におけるQ1〜Q4上の置換基と同じものを意味する。

【0024】
次に、一般式(2)で表されるアクリル酸系化合物の具体例としては、例えば以下の化合物を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。




【0025】





【0026】





【0027】

【0028】

【0029】







【0030】





【0031】







【0032】


【0033】

【0034】




【0035】


【0036】




【0037】







【0038】








【0039】





【0040】






【0041】





【0042】








【0043】





【0044】
<製造方法>
一般式(2)で表されアクリル酸系化合物は、それ自体公知の方法を参考にして製造することができる。例えば一般式(2)において、Q1〜Q4上の置換基として臭素原子を有する化合物と、下記一般式(3a)で表されるホウ素酸化合物を、鈴木−宮浦反応でカップリングした反応化合物に、下記一般式(4a)で表される化合物を、脱水縮合反応させることによって製造することができる。

〔式中、Y、およびmは、一般式(2)中のY、およびmと同じ意味を表す。〕

〔式中、Xは、一般式(2)中のXと同じ意味を表す。〕

【0045】
なお、製造例については、上述の例示化合物P−1の場合を参照にして記述する。

例示化合物P−1における、下記式(2−P−1)で表される中間体化合物:

は、式(5−P−1)で表される化合物と式(6−P−1)で表される化合物、もしくは、式(7−P−1)で表される化合物と式(8−P−1)で表される化合物に、ハロゲン化金属として塩化亜鉛を、所望により塩基(例えば、モリブデン酸アンモニウム、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、トリアルキルアミン、アンモニア)の存在下で反応させることにより製造することができる[例えば、国際公開第01/50199号公報に記載の方法に従って製造することができる]。

【0046】
また、前記式(2−P−1)で表される中間体化合物は、例えば、式(5−P−1)で表される化合物とホウ素化合物(例えば、三塩化ホウ素)を作用させて製造したサブフタロシアニンホウ素錯体のハロゲン化物に[例えば、特開2005−289854号公報に記載の方法に従って製造することができる]、式(8−P−1)で表される化合物を作用させて、式(2−P−1)で表される化合物の無金属体を製造し[例えば、特開平02−9882号公報に記載の方法に従って製造することができる]、さらに、無金属体と、亜鉛もしくは酸化亜鉛などの金属酸化物とを、塩基(例えば、トリエチルアミン、ナトリウムハイドライド)の存在下で反応させることにより製造することができる[例えば、特開2005−290282号公報に記載の方法に従って製造することができる]。

【0047】
なお、式(5−P−1)で表される化合物と、式(6−P−1)で表される化合物と、塩化亜鉛とを反応させて、式(2−P−1)で表される中間体化合物を製造すると、一般には、置換基の結合している位置の異なる複数の構造異性体が存在し得る。
例えば、式(2−P−1)で表される化合物とは、実際には、式(2−P−1a)〜式(2−P−1h)で表される化合物から選ばれる1種の化合物または2種以上の構造異性体からなる混合物を表している。このような複数の構造異性体からなる混合物の構造の記載に際しても、本明細書においては便宜上、例えば、式(2−P−1)で表されるひとつの構造式を記載しているものである。



特定置換基Lを構造単位に含む本発明のアクリル酸系化合物においても例外ではなく、本明細書中、例示化合物P−1〜P−68で示した構造式も、あるひとつの構造異性体を示すものであり、この構造に限定はされない。
なお、本発明のアクリル酸系化合物の形態は単一の化合物として用いてもよいし、2種以上の構造異性体からなる混合物として用いることもできる。
構造異性体からなる混合物として用いる場合には、構造異性体の混合比率はいかなるものでもよい。

【0048】
次に、式(2−P−1)で表される中間体化合物と、一般式(3a)で表されるホウ素酸化合物として、5−ホルミル−2,2’−ビチオフェン−5−ホウ素酸を、塩基およびリガンドの存在下又は非存在下、遷移金属触媒の存在下、好ましくは溶媒を用いて鈴木−宮浦カップリング反応により、一般式(2−P−2)で表される前駆体化合物を製造する。

鈴木−宮浦カップリング反応に用いる前記の溶媒としては、本反応を阻害しないものであれば特に限定されず、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3-ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ピリジン等を挙げることができる。

【0049】
これらの溶媒は反応の起こりやすさにしたがって適宜選択され、1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。なお、必要に応じて適当な脱水剤や乾燥剤により水分を除去し、非水溶媒として用いてもよい。

溶媒を用いる場合、一般に、溶媒の量が多くなると反応の効率が低下し、反対に少なくなると、均一に加熱・撹拌するのが困難になったり、副反応が起り易くなる。したがって、溶媒の量を重量比で中間体化合物全体の100倍まで、好ましくは5〜50倍にするのが望ましい。

反応に用いる前記の塩基としては、例えば水素化ナトリウム等のアルカリ金属水素化物、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基類等を挙げることができる。
塩基の使用量は、例えば、式(2−P−1)で表される中間体化合物に対して、1.0〜10.0倍モルの範囲で適宜選択すれば良い。

反応に用いる前記の遷移金属触媒としては、例えば、酢酸パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムおよびトリス(ジベンジルアセトン)パラジウム等のパラジウム化合物類、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルクロリドおよびテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルなどのニッケル化合物等を挙げることができる。

【0050】
遷移金属触媒の使用量は、例えば、式(2−P−1)で表される中間体化合物に対して、0.0001〜0.2倍モルの範囲で適宜選択すれば良いが、好ましくは0.001〜0.15倍モルの範囲である。

反応に用いる前記のリガンドとしては、例えば、トリフェニルホスフィン、1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン、1,3−ビスジフェニルホスフィノプロパン、1,4−ビスジフェニルホスフィノブタン等のホスフィン類等を挙げることができる。
リガンドの使用量としては遷移金属触媒に対して0.5〜100倍モルの範囲で適宜選択すれば良いが、好ましくは1.0〜10.0倍モルの範囲であるが、非存在下でも良い。

反応温度は、0〜200℃の範囲で適宜選択すれば良いが、好ましくは室温〜溶媒還流温度の範囲である。

反応時間は、反応スケール、反応温度により一定しないが、1〜48時間の範囲で適宜選択すれば良い。

本反応は等モル反応であるので、例えば、式(2−P−1)で表される中間体化合物と、一般式(3a)で表されるホウ素酸化合物とを、等モル反応させれば良いが、一般式(3a)で表されるホウ素酸化合物の使用量としては、、例えば、式(2−P−1)で表される中間体化合物のハロゲン原子の個数に対して、0.5〜5.0倍モルの範囲で適宜選択すれば良く、好ましくは1.0〜3.0倍モルの範囲である。

【0051】
反応終了後、水に溶解する溶媒を用いた場合は、水中に反応溶液を排出して析出物を濾別してメタノールで洗浄する。水に不溶の溶媒を用いた場合は、減圧下溶媒を留去し、水を加えて析出物を濾別してメタノールで洗浄する。必要に応じて析出物を、カラムクロマトグラフィー等の方法で精製することができる。

そして、既述した鈴木−宮浦カップリング反応で製造された、一般式(2−P−2)で表される前駆体化合物と、一般式(4a)で表される化合物として、シアノ酢酸を、塩基の存在下、好ましくは溶媒を用いて脱水縮合反応させることにより、一般式(2)で表されアクリル酸系化合物を製造することができる。

【0052】
脱水縮合反応に用いる前記の溶媒としては、本反応を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、α−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化物、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、フェノール、ベンジルアルコール、クレゾール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類およびフェノール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、アニソール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、メチルカルビトール、エチルカルビトールなどのエーテル類、酢酸、無水酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、酢酸エチル、炭酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチル燐酸トリアミドなどの酸および酸誘導体、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫化合物を挙げることができる。

【0053】
これらの溶媒は反応の起こりやすさに従って適宜選択され、1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。なお、必要に応じて適当な脱水剤や乾燥剤により水分を除去し、非水溶媒として用いてもよい。

溶媒を用いる場合、一般に、溶媒の量が多くなると反応の効率が低下し、反対に少なくなると、均一に加熱・撹拌するのが困難になったり、副反応が起り易くなる。したがって、溶媒の量を重量比で、鈴木−宮浦カップリング反応で製造された、例えば、式(2−P−2)で表される前駆体化合物全体の100倍まで、好ましくは5〜50倍にするのが望ましい。

反応に用いる前記の塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ピペリジン、ピリジン、ピロリジン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等を挙げることができる。
塩基の使用量は、鈴木−宮浦カップリング反応で製造された、例えば、式(2−P−2)で表される前駆体化合物に対して1〜10倍モルの範囲で適宜選択すれば良い。

反応温度は0〜200℃の範囲で適宜選択すれば良いが、好ましくは室温〜溶媒還流温度の範囲である。

反応時間は反応スケール、反応温度により一定しないが、1〜48時間の範囲で適宜選択すれば良い。

本反応は等モル反応であるので鈴木−宮浦カップリング反応で製造された化合物と、一般式(4a)で表される化合物とを、等モル反応させれば良いが、一般式(4a)で表される化合物の使用量としては、鈴木−宮浦カップリング反応で製造された、例えば、式(2−P−2)で表される前駆体化合物の−CHO基の個数に対して、0.5〜5倍モルの範囲で適宜選択すれば良く、好ましくは1〜3倍モルの範囲である。

【0054】
反応終了後、水に溶解する溶媒を用いた場合は、水中に反応溶液を排出して析出物を濾別して水で洗浄する。水に不溶の溶媒を用いた場合は、減圧下溶媒を留去し、水を加えて析出物を濾別して水で洗浄する。必要に応じて析出物を、カラムクロマトグラフィー等の方法で精製することができる。

本発明のアクリル酸系化合物は、可視光を吸収する有機化合物を必要とする諸分野において有利に用いることができる。また、カルボキシル基を有するために、酸化チタン表面に化合物が固定できるなど色素増感太陽電池の材料として極めて有用である。

本発明の色素増感太陽電池においては、本発明のアクリル酸系化合物は、1種を単独で使用してもよく、あるいは複数を併用しても良い。なお、本発明のアクリル酸系化合物とは、結晶はもちろんであるが、無定形(アモルファス体)をも包含するものである。
要求される本発明の色素増感太陽電池の特性を考慮し、本発明のアクリル酸系化合物としては、好ましくは、550nm〜1200nmに極大吸収波長を有する化合物であり、より好ましくは600nm〜1100nmに極大吸収を有する化合物である。

【0055】
<色素増感太陽電池>
本発明の色素増感太陽電池の実施形態としては、例えば、陽極と、陰極と、電解質とを備え、前記陰極は、透明導電性ガラスもしくはポリマーからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有している。そして、前記、酸化物薄膜電極には、本発明のアクリル酸系化合物が吸着されている。このような色素増感太陽電池は、従来の色素増感太陽電池と比べ、優れた光電変換効率を示し、耐候性および耐熱性等の耐久性にも優れたものとなる。

陽極は、導電性を有する物質で構成されていれば足り、構成物質の種類について特に制限はない。例えば、透明導電性ガラスからなる基材の表面に、微量の白金又は導電性カーボンを付着させたものを好適に用いることができる。透明導電性ガラスとしては、例えば、酸化スズ、インジウム−スズ酸化物(ITO)からなるガラス等を用いることができる。

陰極は、透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有し、その酸化物薄膜電極に、既に述べた本発明のアクリル酸系化合物が吸着されているものである。透明導電性ガラスとしては、陽極の項で例示した物質からなるガラス等を用いることができる。基材の形状については特に制限はなく、例えば、板状のもの等を用いることができる。

【0056】
酸化物薄膜電極は、酸化物からなる薄膜であり、この酸化物薄膜電極を構成する酸化物としては、例えば、金属酸化物、より具体的には、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化タングステン、酸化インジウム等を挙げることができる。これらの酸化物の中でも、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化スズが好ましく、酸化チタンが特に好ましいこの酸化物薄膜電極には、本発明のアクリル酸系化合物を吸着させた状態で用いる。

電解質としては、電解質からなる液体又は固体、或いは電解質を含む溶液等を用いることができる。中でも、レドックス電解質を用いることが好ましい。レドックス電解質とは、レドックス系を構成する物質(酸化剤、還元剤)を含有する溶液であり、例えば、下記式(イ)に示すようなレドックス系(I/I3−系)を構成する、ヨウ素およびヨウ素のイミダゾリウム塩を含む溶液を好適に用いることができる。この溶液の溶媒としては、電気化学的に不活性な物質、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等を好適に用いることができる。
+2e←→3I+I :(イ)

色素増感太陽電池は、陽極と陰極の間を電解質が満たすように構成すればよい。例えば、容器中に電解質溶液を満たした上で、その電解質溶液中において、陽極と陰極とが対向するように配置する構成を挙げることができる

本発明のアクリル酸系化合物は、太陽光エネルギーを効率よく光吸収する化合物である。したがって、本発明のアクリル酸系化合物を増感色素として用いた場合、従来の増感色素と比べ、優れた光電変換効率と波長吸収特性を有する色素増感太陽電池を提供することができる。

【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、以下の製造例および実施例において各化合物の物性は以下の方法で測定した。
吸収スペクトル:濃度0.01g/Lの N,N−ジメチルホルムアミド溶液を、測定機器として株式会社日立製作所製U−3500型自記分光光時計を使用し、光路長10mmで測定した。
質量分析スペクトル(MASS):日本ウオーターズ製Quattro micro API システム Masslynxを用い、エレクトロスプレーイオン化法によるシリンジポンプを用いたインヒュージョン分析にて測定した。

【0058】
(実施例1)例示化合物P−1の合成
N,N−ジメチルアミノ−2-エタノール90mlに、4−ブロモフタロニトリル2.0g、4−tert−ブチルフタロニトリル8.90g、塩化亜鉛1.98gを加え、120〜125℃で、6時間撹拌した。その後、反応溶液を室温にまで冷却し、水100mlを加え、更に、1.5時間撹拌した後、析出物を濾取し、メタノール50mlで4回洗浄した。60℃で乾燥した後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=1/1)で分離を行い、前記式(2−P−1)で表される中間体化合物を4.21g(収率52.8%)を結晶として得た。
MASSスペクトル(M+1)+ = 825.1
次いで、1,3-ジメチル−2−イミダゾリジノン100mlに、上記の中間体化合物4.0g、5−ホルミル−2,2’−ビチオフェン−5−ホウ素酸1.16g、炭酸カリウム2.01g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.28gを加え、80〜85℃で、8時間撹拌した。その後、反応溶液を室温にまで冷却し、水150mlを加え、更に、1.5時間撹拌した後、析出物を濾取し、メタノール50mlで4回洗浄し、1.5gの前駆体化合物を結晶として得た。
更に、得られた前駆体化合物0.75g、シアノ酢酸0.82g、酢酸アンモニウム、1.48gを酢酸37.5g中に加え、90〜95℃で、8時間撹拌した。その後、反応溶液を室温にまで冷却し、水20mlを加え、更に、1.5時間撹拌した後、析出物を濾取し、水50mlで4回洗浄した。60℃で乾燥した後、得られた粗製物を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=1/1)で分離を行い、153mg(収率3.8%)の例示化合物P−1を結晶として得た。
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の吸収極大波長 676nm
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中のグラム吸光係数 1.4×10 ml/gcm
MASSスペクトル(M+1)+ = 1004.2

【0059】
(実施例2)例示化合物P−6の合成
N,N−ジメチルアミノ−2−エタノール135mlに、5−ブロモイソインドリンジイミン4.50g、4−(2,4−ジメチルペンタン−3−イルオキシ)イソインドリンジイミン15.6g、塩化亜鉛(II)2.74gを加え、120〜125℃で、11時間撹拌した。その後、反応溶液を室温にまで冷却し、水500mlを加え、更に、1.5時間撹拌した後、析出物を濾取し、メタノール200mlで2回洗浄した。60℃で乾燥した後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/ヘキサン=5/1)で分離を行い、3.21g(収率16.0%)の中間体化合物を得た。
次いで、1,3-ジメチル−2−イミダゾリジノン200mlに、上記の中間体化合物2.0g、5−ホルミル−2,2’−ビチオフェン−5−ホウ素酸0.95g、炭酸カリウム1.66g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.23gを加え、80〜85℃で、18時間撹拌した。その後、反応溶液を室温にまで冷却し、水150mlを加え、更に、1.5時間撹拌した後、析出物を濾取し、メタノール25mlで2回洗浄し、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=5/1)で分離を行い、1.15gの前駆体化合物を結晶として得た。
更に、得られた前駆体化合物1.15g、シアノ酢酸0.92g、酢酸アンモニウム、1.66gを酢酸50g中に加え、90〜95℃で、8時間撹拌した。その後、反応溶液を室温にまで冷却し、水20mlを加え、更に、1.5時間撹拌した後、析出物を濾取し、水50mlで4回洗浄した。60℃で乾燥した後、得られた粗製物を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=1/1)で分離を行い、233mg(収率19.1%)の例示化合物P−6を結晶として得た。
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の吸収極大波長 704nm
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中のグラム吸光係数 1.26×10 ml/gcm
MASSスペクトル(M+1)+ = 1178

【0060】
(実施例3)例示化合物P−7の合成
実施例2において、塩化亜鉛(II)の代わりに酢酸銅(II)3.66gを用いること以外は、実施例2と同様の方法により3.45g(収率17.2%)の中間体化合物を結晶として得た。
次いで、中間体化合物1.0gを用いた以外は、実施例2と同様の方法により、255mg(収率19.7%)の例示化合物P−6を結晶として得た。
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の吸収極大波長 705nm
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中のグラム吸光係数 1.37×10ml/gcm
MASSスペクトル(M+1)+ = 1177

【0061】
(実施例4)例示化合物P−8の合成
実施例2において、塩化亜鉛(II)の代わりに酢酸パラジウム(II)4.51gを用いること以外は、実施例2と同様の方法により3.22g(収率15.4%)の中間体化合物を結晶として得た。
次いで、中間体化合物1.0gを用いた以外は、実施例2と同様の方法により、178mg(収率15.2%)の例示化合物P−8を結晶として得た。
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の吸収極大波長 695nm
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中のグラム吸光係数 1.32×10ml/gcm
MASSスペクトル(M+1)+ = 1220

【0062】
(実施例5)例示化合物P−9の合成
実施例2において、塩化亜鉛(II)を用いないこと以外は、実施例2と同様の方法により2.22g(収率11.8%)の中間体化合物を結晶として得た。
次いで、中間体化合物1.0gを用いた以外は、実施例2と同様の方法により、229mg(収率19.2%)の例示化合物P−9を結晶として得た。
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の吸収極大波長 715nm
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中のグラム吸光係数 1.29×10ml/gcm
MASSスペクトル(M+1)+ = 1116

【0063】
(実施例6)例示化合物P−10の合成
実施例2において、中間体化合物2.0g、5−ホルミル−2,2’−ビチオフェン−5−ホウ素酸0.95gの代わりに、中間体化合物1.0g、5−ホルミル−2−チオフェン−5−ホウ素酸0.31gを用いること以外は実施例2と同様の方法により、301mg(収率27.4%)の例示化合物P−10を結晶として得た。
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の吸収極大波長 703nm
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中のグラム吸光係数 1.36×10 ml/gcm
MASSスペクトル(M+1)+ = 1096

【0064】
(実施例7)例示化合物P−12の合成
実施例2において、前駆体化合物1.15g、シアノ酢酸0.92gの代わりに、前駆体化合物1.0g、3,3,3,−トリフルオロプロピオン酸1.38gを用いること以外は実施例2と同様の方法により、321mg(収率32.3%)の例示化合物P−12を結晶として得た。
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の吸収極大波長 707nm
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中のグラム吸光係数 1.11×10 ml/gcm
MASSスペクトル(M+1)+ = 1221

【0065】
(実施例8)例示化合物P−13の合成
実施例2において、前駆体化合物1.15g、シアノ酢酸0.92gの代わりに、前駆体化合物1.0g、マロン酸1.12gを用いること以外は実施例2と同様の方法により、270mg(収率25.1%)の例示化合物P−12を結晶として得た。
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の吸収極大波長 706nm
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中のグラム吸光係数 1.24×10 ml/gcm
MASSスペクトル(M+1)+ = 1197

【0066】
(実施例9)例示化合物P−35の合成
N,N−ジメチルアミノ−2−エタノール50mlを134℃に昇温し、1,3−ジイミノ−6,7−ジブロモベンゾ[f]イソインドリン0.70g、1,3−ジイミノ−4,9−ビス(2−エトキシエトキシ(2−エトキシ)2−エトキシ)ベンゾ[f]イソインドリン、塩化亜鉛(II)2.18gを加え、125〜135℃で、18時間撹拌した。その後、反応溶液を室温にまで冷却し、得られた溶液を減圧濃縮した後、水100ml、トルエン300mlを加え、1.0時間撹拌した後、有機層を取り出し、水200mlで2回洗浄した。得られた有機層にシリカゲル30gを加え、90℃で30分間撹拌し、目的物が吸着したシリカゲルを濾取した。得られたシリカゲルをトルエン300mlでよく洗浄した後、酢酸エチル300ml、次いでエタノール300mlで目的物を抽出し、得られた酢酸エチル・エタノール混合溶液を減圧濃縮し、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)で分離を行い、0.70gの中間体化合物を油状物として得た。
【0067】
次いで、1,3-ジメチル−2−イミダゾリジノン50mlに、上記の化合物0.70g、5−ホルミル−2,2’−ビチオフェン−5−ホウ素酸0.48g、炭酸カリウム0.21g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.03gを加え、80〜85℃で、18時間撹拌した。その後、反応溶液を室温にまで冷却し、水150ml、酢酸30ml、トルエン200mlを加え、更に、1.5時間撹拌した後、分液漏斗で有機層を取り出し、減圧濃縮後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル〜酢酸エチル/エタノール=10/1)で分離を行い、0.50gの前駆体化合物を油状物として得た。
更に、得られた前駆体化合物0.5g、シアノ酢酸0.60g、酢酸アンモニウム、0.54gを酢酸25g中に加え、90〜95℃で、24時間撹拌した。その後、反応溶液を室温にまで冷却し、トルエン100ml、水50mlを加え、更に、1.5時間撹拌した後、有機層を取り出し、水100mlで2回洗浄した。得られた有機層を減圧濃縮し、得られた粗製物を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/エタノール=10/1)で分離を行い、152mg(収率3.1%)の例示化合物P−35を結晶として得た。
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中の吸収極大波長 808nm
N,N−ジメチルホルムアミド溶液中のグラム吸光係数 1.22×10 ml/gcm
MASSスペクトル(M+1)2+ = 1177

【0068】
(実施例10)色素増感太陽電池の製造
アセチルアセトン0.4mlとイオン交換水20mlの混合媒体中に、酸化チタン微粒子12g及び分散剤(商品名「Triton X−100」、アルドリッチ社製)0.2gを添加し、酸化物スラリーを調製した。この酸化物スラリーを、エタノールで洗浄した透明導電性ガラス(フッ素をドープしたSnOを導電層として有するもの)からなる基材の表面に塗布し、空気雰囲気中、500℃で0.5時間加熱することにより、透明導電性ガラスからなる基材の表面に、酸化チタンからなる酸化物薄膜電極を形成して、陰極用部材を得た。
次いで、実施例1で製造した、例示化合物P−1と共吸着剤としてケノデオキシコール酸(3.0×10−4M)をエタノールに溶解させて、化合物P−1の濃度が0.5mmol/Lである溶液を調製した。そして、この溶液中に、上記陰極用部材を23℃にて24時間浸漬することにより、酸化物薄膜電極に化合物P−1が担持された陰極を製造した。
更に、透明導電性ガラスからなる基材(厚さ4mm、酸化スズ製、抵抗値=10Ω/cm)の表面に白金を焼結した白金電極を陽極とし、陽極の白金焼結面と陰極の酸化物薄膜電極形成面とが対向し、両電極の間隔が25μmとなるように、陽極と陰極をセル容器中の適所へ、汎用のアイオノマー樹脂製スペーサーを取り付けて配置した。
その後、このセル容器中にレドックス電解液(0.45mMヨウ素、30mMヨウ化リチウムを含有するアセトニトリル溶液)を注入し、色素増感太陽電池を製造した。

【0069】
(実施例11)
実施例10において、実施例1で製造した、例示化合物P−1の代わりに、実施例2で製造した例示化合物P−6を、濃度が0.5mmol/Lになるように溶解させた以外は用いた以外は実施例10と同様の操作を行って色素増感太陽電池を作製した。

【0070】
(実施例12)
実施例10において、実施例1で製造した、例示化合物P−1の代わりに、実施例3で製造した例示化合物P−7を、濃度が0.5mmol/Lになるように溶解させた以外は実施例10と同様の操作を行って色素増感太陽電池を作製した。

【0071】
(実施例13)
実施例10において、実施例1で製造した、例示化合物P−1の代わりに、実施例4で製造した例示化合物P−8を、濃度が0.5mmol/Lになるように溶解させた以外は実施例10と同様の操作を行って色素増感太陽電池を作製した。

【0072】
(実施例14)
実施例10において、実施例1で製造した、例示化合物P−1の代わりに、実施例5で製造した例示化合物P−9を、濃度が0.5mmol/Lになるように溶解させた以外は実施例10と同様の操作を行って色素増感太陽電池を作製した。

【0073】
(実施例15)
実施例10において、実施例1で製造した、例示化合物P−1の代わりに、実施例6で製造した例示化合物P−10を、濃度が0.5mmol/Lになるように溶解させた以外は実施例10と同様の操作を行って色素増感太陽電池を作製した。

【0074】
(実施例16)
実施例10において、実施例1で製造した、例示化合物P−1の代わりに、実施例7で製造した例示化合物P−12を、濃度が0.5mmol/Lになるように溶解させた以外は実施例10と同様の操作を行って色素増感太陽電池を作製した。

【0075】
(実施例17)
実施例10において、実施例1で製造した、例示化合物P−1の代わりに、実施例8で製造した例示化合物P−13を、濃度が0.5mmol/Lになるように溶解させた以外は実施例10と同様の操作を行って色素増感太陽電池を作製した。

【0076】
(実施例18)
実施例10において、実施例1で製造した、例示化合物P−1の代わりに、実施例9で製造した例示化合物P−35を、濃度が0.5mmol/Lになるように溶解させた以外は実施例10と同様の操作を行って色素増感太陽電池を作製した。

【0077】
(比較例1)
実施例10において、実施例1で製造した、例示化合物P−1の代わりに、ルテニウム錯体(
商品名:N3、Solaronix社製 )を、濃度が0.5mmol/Lになるように溶解させた以外は実施例10と同様の操作を行って色素増感太陽電池を作製した。

【0078】
(実施例19)色素増感太陽電池の光電変換特性評価
以下の操作によって色素増感太陽電池の光電変換特性を実施した。この試験には、IPCE(Incident Photon to Current Conversion Efficiency)測定装置(日本オプテル社製)を用い、実施例10から実施例18で得られた色素増感太陽電池の光電変換極吸収波長と波長800nmにおける外部量子収率を求めた。この結果を表1に示す。

【0079】
(比較例2)
比較例1で作製した色素増感太陽電池について、実施例19と同様にして評価を行った。この結果を表1に示す。



表から明らかなように、本発明のアクリル酸系化合物を用いた色素増感太陽電池は近赤外領域において高い光電変換効率を示すことがわかった。

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のアクリル酸系化合物を増感色素として用いることにより、優れた光電変換効率と波長吸収特性を有する色素増感太陽電池を提供することが可能になった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるアクリル酸系化合物。

〔式中、Aは近赤外線領域に吸収極大を有する原子団を表し、Yはπ電子共役構造を有する原子団を表し、Xは水素原子または電子吸引性置換基を表し、nおよびmは1または2の整数を表す。〕

【請求項2】
下記の一般式(2)で表される前記請求項1記載のアクリル酸系化合物。

〔式中、M1は金属原子、金属化合物または2個の水素原子を表し、Yはπ電子共役構造を有する原子団、Xは水素原子または電子吸引性置換基、nおよびmは1または2の整数、Q1〜Q4は各々独立に環状構造を表す。但し、式中の置換基(1−1):

は、Q1〜Q4で表される環状構造に置換している。〕

【請求項3】
前記式(2)において、Q1〜Q4の環状構造が、置換基(1−1)以外に、各々独立に置換基を有しても良いベンゼン環、置換基を有してもよいナフタレン環、置換基を有しても良いフェノチアジン環を表す請求項2記載のアクリル酸系化合物。

【請求項4】
前記式(2)において、Q1〜Q4の環状構造のうち、少なくとも3個が同一である請求項2又は3記載のアクリル酸系化合物。

【請求項5】
前記式(2)において、Q1〜Q4上の置換基が、ハロゲン原子、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアルコキシ基、置換または未置換のアリール基、置換または未置換のアリールオキシ基、置換または未置換のアルキルチオ基、置換または未置換のアリールチオ基、置換のアミノ基である請求項2〜4のいずれかに記載のアクリル酸系化合物。

【請求項6】
Yが、少なくともアリーレン基を1つ有する、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル酸系化合物。

【請求項7】
Xが、水素原子、シアノ基、カルボキシル基、トリフルオロメチル基から選ばれる請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル酸系化合物。

【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル酸系化合物を増感色素として用いることを特徴とする色素増感太陽電池。


【公開番号】特開2012−72228(P2012−72228A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216880(P2010−216880)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000179904)山本化成株式会社 (70)
【Fターム(参考)】