説明

アクリル酸系重合体の製造方法

【課題】反応溶媒を再利用した、アクリル酸系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の、アクリル酸系重合体の製造方法は、水溶性アルコールを含む水系媒体中、メルカプト基含有化合物の存在下、アクリル酸を含む単量体の重合によりアクリル酸系重合体を繰り返し製造するに際し、重合後、重合溶液を加熱して留去された、水溶性アルコール及びメルカプト基含有化合物を含む液体混合物に、塩基性物質を添加してpH6〜14とし、その後、このpH調整物を加熱して得られた、水溶性アルコールを主とする留去物を、次回のアクリル酸系重合体の製造のために再利用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸系重合体の製造方法に関する。更に詳しくは、反応溶媒を再利用した、アクリル酸系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体の製造方法において、比較的分子量の小さい重合体を得るために、メルカプト基含有化合物等の連鎖移動剤が用いられている。
例えば、特許文献1には、メチルイソブチルケトン中でメルカプト基含有化合物を用い、ヒドロキシアクリル樹脂を製造する方法が開示されている。
特許文献2には、酢酸ブチル中でメルカプト基含有化合物を用い、アクリレート樹脂を製造する方法が開示されている。
特許文献3には、水溶媒中でメルカプト基含有化合物を用い、p−スチレンスルホン酸の重合物を製造する方法が開示されている。
また、特許文献4には、連鎖移動効果をも有するイソプロパノールを含む水溶媒中でメルカプト基含有化合物を用い、アクリルアミド等を重合する方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−157961号公報
【特許文献2】特表昭61−501922号公報
【特許文献3】特開平10−139816号公報
【特許文献4】特開平10−245795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような、メルカプト基含有化合物を用いた樹脂又は重合体の製造において、製造コスト、製造効率等を改良する方法等が、種々検討されている。
例えば、アクリル酸等の重合のために、反応溶媒として、イソプロパノール等の水溶性アルコールを用い、連鎖移動剤として、メルカプト基含有化合物等を用いた場合、重合体の製造後、その精製のために蒸留され、回収されたイソプロパノールは、不純物の混在等により再利用することができず、産業廃棄物とされていた。この回収物を再利用した場合には、得られる重合体が着色物となり、外観性不良を招くことがあった。
本発明の目的は、反応溶媒としての水溶性アルコールと、メルカプト基含有化合物とを含む水系媒体中、アクリル酸を含む単量体の重合によりアクリル酸系重合体を繰り返し製造するに際し、水溶性アルコールを再利用した場合であっても、不純物の混在及びそれによる着色が抑制された重合体を得ることができる、アクリル酸系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、アクリル酸系重合体の製造装置1が、通常、ステンレス等の金属系材料からなる反応器11、還流冷却機15、連結管17等で構成されている(図1参照)ことから、上記不純物が、上記蒸留を行ったときの、メルカプト基含有化合物と、金属系材料に由来する金属成分(例えば、Fe)とが関与した物質であることを見出し、この不純物を含む上記回収物を精製し、再利用する製造方法の検討を行い、本発明を完成するに至った。
本発明は、水溶性アルコールを含む水系媒体中、メルカプト基含有化合物の存在下、アクリル酸を含む単量体の重合によりアクリル酸系重合体を繰り返し製造するに際し、重合後、重合溶液を加熱して留去された、水溶性アルコール及びメルカプト基含有化合物を含む液体混合物に、塩基性物質を添加してpH6〜14とし、その後、このpH調整物を加熱して得られた、水溶性アルコールを主とする留去物を、次回のアクリル酸系重合体の製造のために再利用することを特徴とする、アクリル酸系重合体の製造方法である。
上記水溶性アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール及びイソプロパノールから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
上記メルカプト基含有化合物が、エタンチオール、ブタンチオール、ドデカンチオール、ベンゼンチオール、トルエンチオール、α−トルエンチオール、フェネチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、チオグリセリン、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトイソ酪酸、メルカプトプロピオン酸メチル、メルカプトプロピオン酸エチル、チオ酢酸、チオリンゴ酸及びチオサリチル酸から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
上記塩基性物質が、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。
再利用する上記留去物に含まれる鉄量が、5.0質量ppm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、再利用する留去物中のFe量を5.0質量ppm以下とすることができるので、その留去物を再利用して、不純物の混在及びそれによる着色が抑制されたアクリル酸系重合体を得ることができる。これにより、産業廃棄物の量が低減され、新たな水溶性アルコールの使用量をも低減することができるので、特に、製造コストの面でメリットが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のアクリル酸系重合体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」という。)は、水溶性アルコールを含む水系媒体中、メルカプト基含有化合物の存在下、アクリル酸を含む単量体の重合によりアクリル酸系重合体を繰り返し製造するに際し、重合後、重合溶液を加熱して留去された、水溶性アルコール及びメルカプト基含有化合物を含む液体混合物に、塩基性物質を添加してpH6〜14とし、その後、このpH調整物を加熱して得られた、水溶性アルコールを主とする留去物を、次回のアクリル酸系重合体の製造のために再利用することを特徴とする。
【0008】
上記単量体は、アクリル酸のみであってもよいし、アクリル酸、及び、このアクリル酸と共重合可能な化合物から構成されてもよい。尚、アクリル酸の使用量は、上記単量体の全量に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40〜100質量%、更に好ましくは50〜100質量%である。
アクリル酸と共重合可能な化合物としては、不飽和カルボン酸及びその塩(ナトリウム塩等)、不飽和酸無水物、不飽和スルホン酸及びその塩(ナトリウム塩等)、アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、不飽和アミド、ポリアルキレンオキシド骨格を含むアクリル酸又はメタクリル酸のエステル、等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0009】
不飽和カルボン酸としては、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。
不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。
不飽和スルホン酸としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、アクリロオキシベンゼンスルホン酸、メタクリロキシベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。
【0010】
アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル等が挙げられる。
アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸3−ヒドロキシブチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等が挙げられる。
また、メタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル等が挙げられる。
メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸3−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0011】
不飽和アミドとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等が挙げられる。
ポリアルキレンオキシド骨格を含むアクリル酸又はメタクリル酸のエステルとしては、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリブチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリブチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリブチレングリコールモノメタクリレート等の、ポリアルキレングリコール(アルキレングリコール単位数は、2以上。)のモノアクリル酸エステル又はモノメタクリル酸エステル;、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノアクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノアクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、エトキシポリプロピレングリコールモノアクリレート、エトキシポリブチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、エトキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート、エトキシポリブチレングリコールモノメタクリレート等の、アルコキシポリアルキレングリコールのモノアクリル酸エステル又はモノメタクリル酸エステル等が挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法において、上記単量体の重合は、水溶性アルコールを含む水系媒体中、メルカプト基含有化合物の存在下で行う。
水溶性アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール及びイソプロパノールが挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、イソプロパノールを含むことが好ましい。イソプロパノールは、溶媒であると同時に、連鎖移動効果を有するので、低分子量の重合体の製造に好適である。
【0013】
水系媒体中の水溶性アルコールの含有割合は、特に限定されないが、水及び水溶性アルコールの合計を100質量部とした場合、これらの質量比は、好ましくは、(20〜80質量部):(80〜20質量部)であり、より好ましくは(30〜70質量部):(70〜30質量部)である。水溶性アルコールの使用量が多すぎると、水に対する溶解度において、使用原料に制約が生じることがある。また、水溶性アルコールとしてイソプロパノールを用いた場合には、使用量が少ないと、連鎖移動効果が十分でない場合がある。
【0014】
また、メルカプト基含有化合物としては、従来、連鎖移動剤として用いられている化合物であれば、特に限定されないが、例えば、エタンチオール、ブタンチオール、ドデカンチオール、ベンゼンチオール(チオフェノール)、トルエンチオール(チオクレゾール)、α−トルエンチオール、フェネチルメルカプタン、メルカプトエタノール(チオグリコール)、3−メルカプトプロパノール、チオグリセリン(メルカプトグリセリン)、チオグリコール酸(メルカプト酢酸)、2−メルカプトプロピオン酸(チオ乳酸)、3−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトイソ酪酸、メルカプトプロピオン酸メチル、メルカプトプロピオン酸エチル、チオ酢酸、チオリンゴ酸(メルカプトコハク酸)、チオサリチル酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、メルカプトエタノール及びチオグリコール酸が好ましい。
上記メルカプト基含有化合物の使用量は、上記単量体100質量部に対して、通常、2〜10質量部であり、好ましくは4〜8質量部である。この使用量が少なすぎると、連鎖移動剤としての効果が十分に発揮されず、低分子量の重合体が得られない場合がある。一方、多すぎると、低分子量の重合体を得ることができるが、配合効果が低下する場合がある。
【0015】
本発明の製造方法において用いる製造装置1は、反応器11と、温度計と、回転軸及び撹拌翼を有する攪拌機12と、還流冷却機15と、反応器11及び還流冷却機15を接続する連結管17とを備える(図1参照)。反応器11の外周には、反応溶液を加熱及び冷却するためのジャケット13を備えることもできる。尚、攪拌機における回転軸及び撹拌翼、反応器、還流冷却機並びに連結管は、通常、ステンレス製(SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等)である。
【0016】
上記単量体の重合方法としては、通常、重合開始剤を用いたラジカル重合が適用される。この重合開始剤は、重合条件下で分解して遊離基を生成する物質であればよく、重合条件によって選択される。例えば、過酸化物、アゾ系化合物等が用いられる。
過酸化物としては、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の無機過酸化物;ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、過コハク酸等の有機過酸化物が挙げられる。また、アゾ化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等が挙げられる。
上記重合開始剤の使用量は、その種類、重合条件等により異なるが、上記単量体100質量部に対して、通常、0.1〜5質量部である。
【0017】
上記単量体を重合する場合の具体的な方法としては、(i)所定温度に加温された水系媒体の攪拌下に、単量体、メルカプト基含有化合物及び重合開始剤を添加する方法、(ii)所定温度に加温された、単量体及び水系媒体の攪拌下、メルカプト基含有化合物及び重合開始剤を添加する方法、(iii)所定温度に加温された、単量体、メルカプト基含有化合物及び水系媒体の攪拌下、重合開始剤を添加する方法、(iv)所定温度に加温された一部の単量体を含む水系媒体の攪拌下、残りの単量体、メルカプト基含有化合物及び重合開始剤を添加する方法等が挙げられる。
上記単量体の重合温度は、反応性、反応器への負荷等を考慮し、通常、50〜100℃の範囲であり、重合は、還流しながら進められる。
【0018】
重合後の重合溶液は、水溶性アルコールを含む水系媒体と、この水系媒体に溶解している、上記単量体からなる重合体と、を含有している。
その後、再利用する水系媒体、特に、水溶性アルコールを除去するために、この重合溶液を、好ましくは40〜100℃の範囲の温度に加熱し、濃縮する(水系媒体を蒸留する)。このとき、濃縮後(蒸留後)の反応溶液における水系媒体の含有量が、30〜70質量%となるまで、また、残りの水系媒体のうちの水溶性アルコールが、5質量%以下となるまで、留去することが好ましい。尚、この濃縮(蒸留)は、常圧下及び減圧下のいずれで行ってもよい。
【0019】
上記反応溶液から最終製品とするために、中和剤を用いて、一部中和(25%以上100%未満)又は完全中和(100%)してもよい。この中和剤としては、水酸化ナトリウム(水溶液)、アンモニア(水溶液)、水酸化カリウム(水溶液)等が挙げられる。
上記により得られたアクリル酸系重合体の重量平均分子量(以下、「Mw」という。)は、通常、1,000〜30,000であり、好ましくは2,000〜20,000である。また、反応器、攪拌機及び還流冷却機から選ばれた部位を構成する材料に由来する鉄量は、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは4質量ppm以下である。
【0020】
一方、上記加熱(蒸留)により留去された液は、水と、水溶性アルコールと、メルカプト基含有化合物とを少なくとも含有する液体混合物であり、強酸性である。このメルカプト基含有化合物の詳細は明らかではないが、反応原料として配合したメルカプト基含有化合物、及び、このメルカプト基含有化合物と、反応器、攪拌機、還流冷却機及び連結管から選ばれた部位を構成する材料との反応生成物、等が考えられる。従って、上記液体混合物における、反応器、攪拌機、還流冷却機及び連結管から選ばれた部位を構成する材料に由来する鉄量は、通常、10質量ppm以上である。
尚、上記鉄量は、原子吸光分析法等により測定することができる。
【0021】
上記液体混合物は、次回のアクリル系重合体の製造で再利用するために、まず、塩基性物質を添加して、pH6〜14、好ましくはpH7〜12に調整され、pH調整物とされる。尚、pH6未満では、腐食性を有しやすく、後の留去物を再利用した場合に、反応器、攪拌機、還流冷却機及び連結管から選ばれた部位を構成する材料に由来する成分が溶出する場合があり、好ましくない。
この塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等をそのままで、あるいは、水溶液として用いることができる。
【0022】
その後、上記pH調整物を、必要に応じて、濾過した後、pH調整物が蒸発する温度に加熱し、水溶性アルコールを主とする、即ち、このアルコールを全体に対して、20質量%以上含む留去物が蒸留される。尚、この加熱は、常圧下及び減圧下のいずれで行ってもよい。
この留去物中の鉄量は、好ましくは5.0質量ppm以下、より好ましくは4.0質量ppm以下である。
【0023】
上記留去物を用いて、上記と同様にして、アクリル酸系重合体を繰り返し製造することができる。即ち、上記留去物は、そのまま用いてよいし、必要に応じて、新たな水溶性アルコール及び/又は水と併用してもよい。尚、再利用時には、通常、上記回収媒体中の水溶性アルコールの含量を測定してから、重合を行う。
繰り返し製造により得られたアクリル酸系重合体の重量平均分子量(以下、「Mw」という。)は、通常、1,000〜30,000であり、好ましくは2,000〜20,000である。また、反応器、攪拌機及び還流冷却機から選ばれた部位を構成する材料に由来する鉄量は、好ましくは5.0質量ppm以下、より好ましくは4.0質量ppm以下である。
【0024】
本発明においては、上記留去物を再利用しても、得られるアクリル酸系重合体の物性が所定の範囲にあり、金属成分等による着色も抑制される。また、上記留去物を繰り返し利用することにより、産業廃棄物の量を低減することができる。
【0025】
本発明において、物性が所定の範囲にあり、金属成分等による着色が抑制されたアクリル酸系重合体を製造するために、再利用する留去物を含む反応溶媒に含有される鉄量は、5.0質量ppm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
下記の例において、重合反応は、温度計と、槽型反応器11(SUS304製)と、攪拌機12と、還流冷却機15(SUS304製)と、槽型反応器及び還流冷却機を接続する連結管17(SUS304製)と、を備える製造装置1(図1)を用いて行った。
【0027】
実施例1
槽型反応器に、イソプロパノール(以下、「IPA」という。)780kg及び脱イオン水520kgを仕込み、80℃に昇温した。その後、反応系の温度を82℃(反応液の沸点)に保ちながら、攪拌下、アクリル酸1,000kgを脱イオン水1,500kgにより希釈した単量体水溶液と、30質量%メルカプトエタノール水溶液220kgと、30質量%過硫酸ナトリウム水溶液66kgとを、4時間かけて滴下供給し、重合を行った。全量滴下後、80℃で更に2時間重合させ、反応を完結させた。
次いで、反応器内を減圧して20kPaとし、加熱(温度60℃)により、水を含むIPA(液体混合物)2,000kgを回収した。このIPA水溶液(液体混合物)は、pH1であり、鉄量は、45質量ppmであった。
その後、反応器内に残った反応溶液に、32質量%水酸化ナトリウム水溶液1,500kgを供給して中和してpH7とした。これにより、固形分濃度38質量%のアクリル酸系重合体(1−a)を得た。このアクリル酸系重合体(1−a)のGPCによるMwは、4,000であり、鉄量は、1.1質量ppmであり、色相(APHA)は、40であった。
【0028】
次に、上記回収したIPA水溶液(液体混合物)2,000kgを別の槽型反応器(SUS304製)に仕込み、その後、32質量%水酸化ナトリウム水溶液(塩基性物質)2kgを供給して中和してpH7とした。この中和液を、常圧で加熱(温度82℃)し、1,500kgの留去物を得た。この留去物は、IPA及び水の質量比が1:1であり、pH6であり、鉄量が0.8質量ppmであった。
次回のアクリル酸系重合体の製造のために、上記留去物のうちの1,040kgと、新たなIPA260kgとを、上記製造装置の槽型反応器に仕込んだ以外は、上記と同様にして、固形分濃度38質量%のアクリル酸系重合体(1−b)を製造した。このアクリル酸系重合体(1−b)のGPCによるMwは、4,000であり、鉄量は、2.1質量ppmであり、色相(APHA)は、70であった。
尚、上記鉄量は、原子吸光光度計のファーネス分析法により測定した。また、pH調整物を加熱して得られた、上記留去物中のIPA量は、ガスクロマトグラフ法により測定した。
以上の結果を表1に示す。尚、表1の「反応原料」における、「再利用のIPA/水」は、pH調整物を加熱して得られた、上記留去物であり、表1の「処理途中の物性」における、「pH調整物の留去物」を用いるものである。
【0029】
実施例2
実施例1と同様にして、アクリル酸系重合体(1−a)を得た。
その後、回収したIPA水溶液2,000kgを別の槽型反応器(SUS304製)に仕込み、32質量%水酸化カリウム水溶液3kgを供給して中和してpH8とした。この中和液を、常圧で加熱(温度82℃)し、1,500kgの留去物を得た。この留去物は、IPA及び水の質量比が1:1であり、pH6であり、鉄量が0.9質量ppmであった。
次回のアクリル酸系重合体の製造のために、上記留去物のうちの1,040kgと、新たなIPA260kgとを、上記製造装置の槽型反応器に仕込んだ以外は、上記と同様にして、固形分濃度38質量%のアクリル酸系重合体(2−b)を製造した。このアクリル酸系重合体(2−b)のGPCによるMwは、4,000であり、鉄量は、2.2質量ppmであり、色相(APHA)は、70であった。
以上の結果を表1に示す。
【0030】
実施例3
実施例1と同様にして、アクリル酸系重合体(1−a)を得た。
その後、回収したIPA水溶液2,000kgを別の槽型反応器(SUS304製)に仕込み、32質量%水酸化カリウム水溶液2kgを供給して中和してpH6とした。この中和液を、常圧で加熱(温度82℃)し、1,500kgの留去物を得た。この留去物は、IPA及び水の質量比が1:1であり、pH6であり、鉄量が1.4質量ppmであった。
次回のアクリル酸系重合体の製造のために、上記留去物のうちの1,040kgと、新たなIPA260kgとを、上記製造装置の槽型反応器に仕込んだ以外は、上記と同様にして、固形分濃度38質量%のアクリル酸系重合体(3−b)を製造した。このアクリル酸系重合体(3−b)のGPCによるMwは、4,000であり、鉄量は、2.5質量ppmであり、色相(APHA)は、90であった。
以上の結果を表1に示す。
【0031】
実施例4
メルカプトエタノールに代えて、チオグリコール酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、アクリル酸系重合体(4−a)及び(4−b)を得た。
アクリル酸系重合体(4−a)のGPCによるMwは、5,000であり、鉄量は、1.4質量ppmであり、色相(APHA)は、50であった。また、アクリル酸系重合体(4−b)のGPCによるMwは、5,000であり、鉄量は、2.4質量ppmであり、色相(APHA)は、80であった。
以上の結果を表1に示す。
【0032】
実施例5
2回用いるアクリル酸1,000kgに代えて、2回ともアクリル酸700kg及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸300kgの混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして、アクリル酸系重合体(5−a)及び(5−b)を得た。
アクリル酸系重合体(5−a)のGPCによるMwは、4,000であり、鉄量は、1.3質量ppmであり、色相(APHA)は、50であった。また、アクリル酸系重合体(5−b)のGPCによるMwは、4,000であり、鉄量は、2.2質量ppmであり、色相(APHA)は、80であった。
以上の結果を表1に示す。
【0033】
比較例1
実施例1と同様にして、アクリル酸系重合体(1−a)を得た。
その後、回収したIPA水溶液2,000kgを、水酸化ナトリウム水溶液(塩基性物質)により処理せず、常圧で加熱(温度82℃)し、1,500kgの留去物を得た。この留去物は、IPA及び水の質量比が1:1であり、pH1であり、鉄量が18質量ppmであった。
次回のアクリル酸系重合体の製造のために、上記留去物のうちの1,040kgと、新たなIPA260kgとを、上記製造装置の槽型反応器に仕込んだ以外は、上記と同様にして、固形分濃度38質量%のアクリル酸系重合体(6−b)を製造した。このアクリル酸系重合体(6−b)のGPCによるMwは、4,000であり、鉄量は、7.1質量ppmであり、色相(APHA)は、400であった。
【0034】
比較例2
実施例1と同様にして、アクリル酸系重合体(1−a)を得た。
その後、反応溶液からアクリル酸系重合体(1−a)を除去、回収し、残りの媒体のうちの800kg(IPA及び水の質量比;35:65、pH1、鉄量;45質量ppm)と、新たなIPA500kgとを用いた以外は、上記と同様にして、固形分濃度38質量%のアクリル酸系重合体(7−b)を製造した。このアクリル酸系重合体(7−b)のGPCによるMwは、4,000であり、鉄量は、9.5質量ppmであり、色相(APHA)は、500であった。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法により製造されたアクリル酸系重合体は、スケールコントロール剤、分散剤、洗剤ビルダー、染色助剤等として有用であり、特に、Mwが2,000〜6,000の範囲にある低分子量重合体は、スケールコントロール剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】アクリル酸系重合体の製造装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0038】
1;製造装置
11;反応器
12;攪拌機(回転軸及び撹拌翼)
13;ジャケット
15;還流冷却機
17;連結管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性アルコールを含む水系媒体中、メルカプト基含有化合物の存在下、アクリル酸を含む単量体の重合によりアクリル酸系重合体を繰り返し製造するに際し、重合後、重合溶液を加熱して留去された、水溶性アルコール及びメルカプト基含有化合物を含む液体混合物に、塩基性物質を添加してpH6〜14とし、その後、このpH調整物を加熱して得られた、水溶性アルコールを主とする留去物を、次回のアクリル酸系重合体の製造のために再利用することを特徴とする、アクリル酸系重合体の製造方法。
【請求項2】
上記水溶性アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール及びイソプロパノールから選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のアクリル酸系重合体の製造方法。
【請求項3】
上記メルカプト基含有化合物が、エタンチオール、ブタンチオール、ドデカンチオール、ベンゼンチオール、トルエンチオール、α−トルエンチオール、フェネチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、チオグリセリン、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトイソ酪酸、メルカプトプロピオン酸メチル、メルカプトプロピオン酸エチル、チオ酢酸、チオリンゴ酸及びチオサリチル酸から選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2に記載のアクリル酸系重合体の製造方法。
【請求項4】
上記塩基性物質が、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれた少なくとも1種を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のアクリル酸系重合体の製造方法。
【請求項5】
再利用する上記留去物に含まれる鉄量が、5.0質量ppm以下である請求項1乃至4のいずれかに記載のアクリル酸系重合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−37967(P2008−37967A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212625(P2006−212625)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】