説明

アクリル酸製造用触媒とこれを用いるアクリル酸製造方法

【課題】 長時間のアクロレインの酸化反応において、目的生成物となるアクリル酸の選択率がより一層高いアクリル酸製造用触媒を提供するとともに、この触媒を用いるアクリル酸の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明にかかるアクリル酸製造用触媒は、一般式(1):
MoCu (1)
(ここで、a=12のとき、1≦b≦14、0≦c≦12、0≦d≦10であり、かつ、0<c+dであり、xは各元素の酸化状態により定まる数値である。)
で表される金属元素組成の酸化物および/または複合酸化物を必須の触媒成分とするアクリル酸製造用触媒において、銅が該触媒の表面側に偏在するか、および/または、タングステンが該触媒の芯側に偏在することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸製造用触媒、および、この触媒を用いるアクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクロレインを接触気相酸化することによりアクリル酸を効率よく製造するための触媒(アクリル酸製造用触媒)としては、モリブデンおよびバナジウムを必須の触媒成分として含む触媒が汎用されており、その製造方法について種々の提案がなされている。
これら製造方法としては、例えば、(a)出発原料混合液を蒸発乾固して得られた乾燥物に、ポリビニルアルコール、吸水能を有する樹脂および水を加え、混練した後、押出し成形する方法(例えば、特許文献1参照。)、(b)出発原料混合液を噴霧乾燥し、次いで400℃で焼成して得られた焼成体を、水をバインダーとして用い、回転ドラム式担持装置などを用いて、担体に担持させる方法(例えば、特許文献2参照。)、(c)出発原料混合液を蒸発乾固・噴霧乾燥・ドラム乾燥および気流乾燥のいずれかの方法で乾燥して得られた乾燥物に、プロピルアルコールおよび水を添加、混合して押出し成形する方法(例えば、特許文献3参照。)、(d)出発原料混合液を噴霧乾燥し、次いで400℃で焼成することによって得られた焼成体を、水および常圧での沸点または昇華温度が100℃よりも高い有機化合物からなる液状バインダーを用いて担体に担持させる方法(例えば、特許文献4参照。)や、(e)出発原料混合液を乾燥した後、250〜500℃で焼成することによって得られた焼成体を、グリセリン水溶液等をバインダーとして用いて転動造粒機により担体に担持させる方法(例えば、特許文献5および特許文献6参照。)などが挙げられる。
【特許文献1】特開平5−96183号公報
【特許文献2】特開平6−279030号公報
【特許文献3】特開平8−10621号公報
【特許文献4】特開平8−252464号公報
【特許文献5】特開平8−299797号公報
【特許文献6】特開2001−79408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の諸製法により得られるアクリル酸製造用触媒は、いずれも、目的生成物であるアクリル酸の選択率が未だ十分ではなかった。
そこで、本発明の解決しようとする課題は、目的生成物となるアクリル酸の選択率がより一層高いアクリル酸製造用触媒を提供するとともに、この触媒を用いるアクリル酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その過程において、触媒を構成する必須の金属元素として、モリブデンとバナジウムの他に、タングステンおよび/または銅を使用することとし、しかも、触媒の表面側に銅を偏在させるか、および/または、触媒の芯側にタングステンを偏在させるようにすると、目的生成物となるアクリル酸の選択率がより一層高くなることを見出し、これを確認して本発明を完成した。
したがって、本発明にかかるアクリル酸製造用触媒は、下記一般式(1):
MoCu (1)
(ここで、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、ならびに、Oは酸素であり、a、b、c、dおよびxはそれぞれMo、V、W、CuおよびOの原子比を表し、a=12のとき、1≦b≦14、0≦c≦12、0≦d≦10であり、かつ、0<c+dであり、xは各元素の酸化状態により定まる数値である。)
で表される金属元素組成の酸化物および/または複合酸化物を必須の触媒成分とするアクリル酸製造用触媒において、銅が該触媒の表面側に偏在するか、および/または、タングステンが該触媒の芯側に偏在することを特徴とする。
【0005】
また、本発明にかかるアクリル酸の製造方法は、アクロレインを分子状酸素の存在下で接触気相酸化することによりアクリル酸を製造する際に、上記本発明にかかるアクリル酸製造用触媒を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、長時間のアクロレインの酸化反応において、目的生成物となるアクリル酸の選択率がより一層高いアクリル酸製造用触媒を提供するとともに、この触媒を用いるアクリル酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明にかかるアクリル酸製造用触媒およびこれを用いるアクリル酸の製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明にかかるアクリル酸製造用触媒(以下、本発明の触媒と称することがある。)は、前記一般式(1)で表される金属元素組成の酸化物および/または複合酸化物を必須の触媒成分とする触媒であり、前述したように、銅が該触媒の表面側(以下、単に「表面側」と称することがある。)に偏在しているか、および/または、タングステンが該触媒の芯側(以下、単に「芯側」と称することがある。)に偏在していることが重要である。また、本発明においては、上記金属元素組成が、一般式(1)中に表されている金属元素(Mo、V、WおよびCu)以外に、任意成分としてニオブ、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ビスマス、スズおよびアンチモン等を含んでいてもよい。
【0008】
本発明の触媒の形態としては、限定はされず、例えば、
1) 触媒成分を含む触媒材料を、押出し成形等の成形をして得られる触媒、すなわち、担体は構成材料とせず、触媒成分を必須の構成材料として成形されてなる触媒(以下、成形触媒と称することがある。)であってもよいし、
2) 触媒成分を含む触媒材料を担体に担持させて得られる触媒、すなわち、触媒成分と担体とを共に必須の構成材料とし、上記触媒成分が上記担体の表面および/または内部に担持されてなる触媒(以下、担持触媒と称することがある。)であってもよい。
なかでも、上記2)の担持触媒の形態としては、例えば、
2-1) 触媒成分が担体の表面に担持(表面担持)されてなり(実質的に、担体表面に触媒成分が担持されていればよく、触媒成分の一部が担体内部に存在していてもよい。)、用いた担体と得られた触媒との、形状面での特性に実質的に変化が認められる(具体的には、担体のみよりも触媒成分が担持された後の方が粒径が大きくなる等)、いわゆるエッグシェル型の触媒や、
2-2) 担体として多孔質の内部担持可能な担体等が用いられ、触媒成分が少なくとも該担体の内部に(例えば、該担体の内部のみか、内部および表面のいずれにも)担持されてなる触媒、などが挙げられる。
【0009】
さらに、上記2-2)の担持触媒の形態としては、
2-2-1) 触媒成分が担体の内部のみに担持(内部担持)されてなり(実質的に、担体内部にのみ触媒成分が担持されていればよく、触媒成分の一部が担体表面に存在していてもよい。)、用いた担体と得られた触媒との、形状面での特性に実質的に変化が認められない(具体的には、担体のみと触媒成分が担持された後とで粒径が同じである等)、いわゆるユニフォーム型の触媒や、
2-2-2) 上記2-1)と2-2-1)の2種の形態を複合した触媒、すなわち、触媒成分が担体の内部および表面のいずれにも担持されてなる、複合型の触媒(ユニフォーム型とエッグシェル型との複合型触媒)、などが挙げられる。
【0010】
本発明の触媒の形状としては、例えば、球状(真球状の他、楕円球状等の球を押し潰してなる様な扁平球状、および、実質的に球状であるものも含む。)、柱状(円柱状、楕円柱状、角柱状)、サイコロ状等の(正)多面体形、リング状および不定形などの任意の形状が挙げられる。
本発明の触媒の粒径(平均外径)は、限定はされないが、1〜15mmであることが好ましく、より好ましくは3〜10mmである。なお、本発明において「平均外径」とは、触媒の粒子径における最長部分と最短部分との長さの平均値を意味するものとし、例えば、真球状の触媒では直径と平均外径が同じになるが、真球状でない触媒では最長外径と最短外径との平均値が平均外径となる。
【0011】
また、本発明の触媒が、前記2-1)のエッグシェル型触媒の場合については、担体に担持させた触媒成分の厚みが、どの部分においても一定値以上であることが好ましい。具体的には、上記厚みは30μm以上であることが好ましく、より好ましくは60μm〜5mm、さらに好ましくは100μm〜3mmである。
本発明の触媒における上記偏在の程度については、表面側への偏在であれば、触媒成分に含有されている銅(銅元素)について、表面側にその全含有量の半分を超える量が偏って存在していればよく、一方、芯側への偏在であれば、触媒成分に含有されているタングステン(タングステン元素)について、芯側にその全含有量の半分を超える量が偏って存在していればよい。このように、所定の金属元素を表面側あるいは芯側に偏在させることによって、前述した課題を容易に解決することができる。
【0012】
本発明において、銅が表面側に偏在しているとは、前述した触媒成分に含まれる各種金属元素のうちの銅が表面側に偏在していることであり、詳しくは、上記銅がアクリル酸製造用触媒の表層部および/またはその近傍に偏って存在していることを意味し、さらに詳しくは、上記銅が上記表層部に主に存在しているか、および/または、上記表層部よりも深さ方向にある程度の広さの分布域をもって該表層部近傍に主に存在していることを意味するものとする。なお、ここでいう表面側偏在の規定は、前述した各種触媒形態(例えば、前記2-1)のエッグシェル型、前記2-2-1)のユニフォーム型、前記2-2-2)の複合型、および、前記1)の成形型など。)の種類に関わらず全てに同様に適用できる。
【0013】
本発明において、タングステンが芯側に偏在しているとは、前述した触媒成分に含まれる各種金属元素のうちのタングステンが芯側に偏在していることであり、詳しくは、前述した触媒形態の種類に応じて以下のように規定できる。
すなわち、本発明の触媒が、前記2-1)のエッグシェル型触媒の場合においては、タングステンが芯側に偏在しているとは、上記タングステンが、アクリル酸製造用触媒における、担体に担持された触媒成分における該担体の表面と接する部分および/またはその近傍に偏って存在していることを意味し、さらに詳しくは、上記タングステンが上記接する部分に主に存在しているか、および/または、上記接する部分よりも深さ方向の逆方向にある程度の広さの分布域をもって該接する部分の近傍に主に存在していることを意味するものとする。
【0014】
一方、本発明の触媒が、前記2-2-1)のユニフォーム型、前記2-2-2)の複合型、および、前記1)の成形型などの場合においては、タングステンが芯側に偏在しているとは、上記タングステンがアクリル酸製造用触媒の中心部および/またはその近傍に偏って存在していることを意味し、さらに詳しくは、上記タングステンが上記中心部に主に存在しているか、および/または、上記中心部からその周辺にある程度の広さの分布域をもって該中心部の近傍に主に存在していることを意味するものとする。
本発明の触媒に関しては、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)装置を用いる測定により、触媒成分に含有される所定の金属元素(銅やタングステン)の表面側への偏在および芯側への偏在について、下記(i)〜(iii)で示した方法および基準により評価することができる。詳しくは、銅が表面側に偏在しているかどうか(銅の表面側偏在率)については下記(i)および(ii)で評価することができ、タングステンが芯側に偏在しているかどうか(タングステンの芯側偏在率)については下記(i)および(iii)で評価することができる。下記(i)〜(iii)においては、触媒形態の種類に応じて、測定条件や評価方法を説明する。なお、後述する実施例においても、銅の表面側偏在率およびタングステンの芯側偏在率の評価については、以下に記載した方法により行うこととする。
【0015】
(i) EPMA装置を用いる測定により、所定の金属元素(銅またはタングステン)ごとに、分析的に確認する。具体的には、触媒の中心部を含む断面を対象とし、この断面における一方の外表面から中心部を通る方向に他方の外表面まで所定の金属元素(銅またはタングステン)について連続的に測定(線分析測定)する。次いで、触媒形態の種類に応じて以下の図(グラフ)を得る。
すなわち、本発明の触媒が、前記2-1)のエッグシェル型触媒の場合は、上記中心部から上記外表面までの測定位置範囲のうち、担体表面から上記外表面までを分析対象の位置範囲とし、上記担体表面(x=0)から上記外表面(x=r)までの距離r(x軸)と、所定の金属元素の存在量に対応して測定されるX線強度I(y軸)との関係を示す図(グラフ)を得る。
【0016】
一方、本発明の触媒が、前記2-2-1)のユニフォーム型、前記2-2-2)の複合型、および、前記1)の成形型などの場合は、上記中心部から上記外表面までを分析対象の位置範囲とし、上記中心部(x=0)から上記外表面(x=r)までの距離r(x軸)と、所定の金属元素の存在量に対応して測定されるX線強度I(y軸)との関係を示す図(グラフ)を得る。
(ii) 表面側への偏在の評価方法および評価基準を、触媒形態の種類に応じて規定する。
すなわち、前記2-1)のエッグシェル型触媒の場合は、銅元素について、上記担体表面(x=0)から上記外表面(x=r)までの分析対象となる位置範囲全体におけるX線強度Iの積分値N10を求め、上記担体表面(x=0)から上記外表面(x=r)に向かって1/2rの位置(基準位置)を含めてこれより外表面側の位置全体におけるX線強度Iの積分値をN11としたとき、下記式(a):
Ma(%)=(N11/N10)×100 (a)
から求められる表面側偏在率Ma(%)が、50%を超えることが好ましく、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上である。また、この場合、上記基準位置は、より好ましくは3/5rであり、さらに好ましくは2/3rである。上記評価基準を満たさない場合は、前述した課題を容易に解決できないおそれがある。
【0017】
一方、本発明の触媒が、前記2-2-1)のユニフォーム型、前記2-2-2)の複合型、および、前記1)の成形型などの場合は、銅元素について、上記中心部(x=0)から上記外表面(x=r)までの分析対象となる位置範囲全体におけるX線強度Iの積分値N20を求め、上記中心部(x=0)から上記外表面(x=r)に向かって1/2rの位置(基準位置)を含めてこれより外表面側の位置全体におけるX線強度Iの積分値をN21としたとき、下記式(b):
Mb(%)=(N21/N20)×100 (b)
から求められる表面側偏在率Mb(%)が、50%を超えることが好ましく、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上である。また、この場合、上記基準位置は、より好ましくは3/5rであり、さらに好ましくは2/3rである。上記評価基準を満たさない場合は、前述した課題を容易に解決できないおそれがある。
【0018】
(iii) 芯側への偏在の評価方法および評価基準を、触媒形態の種類に応じて規定する。
すなわち、前記2-1)のエッグシェル型触媒の場合は、タングステン元素について、上記担体表面(x=0)から上記外表面(x=r)までの分析対象となる位置範囲全体におけるX線強度Iの積分値N30を求め、上記担体表面(x=0)から上記外表面(x=r)に向かって1/2rの位置(基準位置)を含めてこれより担体表面側の位置全体におけるX線強度Iの積分値をN31としたとき、下記式(c):
Mc(%)=(N31/N30)×100 (c)
から求められる芯側偏在率Mc(%)が、50%を超えることが好ましく、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上である。また、この場合、上記基準位置は、より好ましくは2/5rであり、さらに好ましくは1/3rである。上記評価基準を満たさない場合は、前述した課題を容易に解決できないおそれがある。
【0019】
一方、本発明の触媒が、前記2-2-1)のユニフォーム型、前記2-2-2)の複合型、および、前記1)の成形型などの場合は、タングステン元素について、上記中心部(x=0)から上記外表面(x=r)までの分析対象となる位置範囲全体におけるX線強度Iの積分値N40を求め、上記中心部(x=0)から上記外表面(x=r)に向かって1/2rの位置(基準位置)を含めてこれより中心部側の位置全体におけるX線強度Iの積分値をN41としたとき、下記式(d):
Md(%)=(N41/N40)×100 (d)
から求められる芯側偏在率Md(%)が、50%を超えることが好ましく、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上である。また、この場合、上記基準位置は、より好ましくは2/5rであり、さらに好ましくは1/3rである。上記評価基準を満たさない場合は、前述した課題を容易に解決できないおそれがある。
【0020】
本発明の触媒に関し、前述のようにEPMA装置を用いて各種測定および分析を行う場合、測定対象とする触媒の形状としては、例えば、球状(特に、真球状および実質的に真球状など)、柱状(特に、円柱状など)、リング状(特に、リングの断面が円であるリング状など)などであることが好ましく、より好ましくは、球状(特に、真球状および実質的に真球状など)である。なお、触媒の形状によっては、EPMA装置を用いた分析・評価方法に当てはめて所定の金属元素の分布を確認することが困難な場合もあり得るが、通常、一般的に知られているアクリル酸製造用触媒の形状であれば全て分析・評価可能である。また、EPMA装置により分析を行う際の触媒断面については、例えば、円柱状触媒であれば、円柱の中心線に直交する横断面(円形の断面)でみるのがよく、球状触媒であれば、球の中心を通る面であり、リング状触媒であれば、リングが作る平面に直交する平面であって、かつ、リングの中心線を通る面で、リングを作っている肉部分を切った断面でみるのがよい。
【0021】
EPMA装置を用い、前記(i)〜(iii)で示した方法・基準による評価を行う場合は、本発明の触媒の粒径(平均外径)は、1〜15mmであることが好ましく、より好ましくは3〜10mmである。粒径が上記範囲内であれば、EPMA装置を用いた分析方法により規定される所定の金属元素の偏在状態とその効果とに、良好な相関関係が認められることとなる。
また、上記同様の評価を行う場合であって、本発明の触媒が、前記2-1)のエッグシェル型触媒の場合については、担体に担持させた触媒成分の厚みが、どの部分においても一定値以上であることが好ましい。具体的には、上記厚みは30μm以上であることが好ましく、より好ましくは60μm〜5mm、さらに好ましくは100μm〜3mmである。
【0022】
本発明にかかるアクリル酸製造用触媒は、一般的には、モリブデンおよびバナジウムと共に銅および/またはタングステンをも必須成分とする出発原料混合液(水溶液または水性スラリーの状態である)を乾燥して乾燥物を得る工程、この乾燥物を液状バインダー等を用いて成形する工程、得られた成形体を焼成する工程、などの工程を備えた方法により得られる。
上記モリブデンおよびバナジウムと共に銅および/またはタングステンをも必須金属元素とする酸化物および/または複合酸化物を得させるための出発原料については、この種の触媒に一般に使用される金属元素のアンモニウム塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、水酸化物、有機酸塩および酸化物の中から選ばれるが、アンモニウム塩および硝酸塩が好適に用いられる。
【0023】
出発原料の混合液は、この種の触媒の製造に一般に用いられている方法により調製すればよく、したがって、出発原料を順次水に混合して水溶液あるいは水性スラリーとなるようにするが、出発原料の種類に応じて複数の水溶液または水性スラリーを調製した場合はこれらを順次混合すればよい。上記混合の条件(混合順序、温度、圧力、pH等)については特に制限はない。
こうして得られた出発原料の混合液は、各種方法により乾燥させて乾燥物とする。例えば、加熱により乾燥させる方法や、減圧により乾燥させる方法が挙げられる。
乾燥物を得るための加熱方法および乾燥物の形態については、例えば、スプレードライヤー、ドラムドライヤー等を用いて粉末状の乾燥物を得るようにしてもよいし、箱型乾燥機、トンネル型乾燥機等を用いて気流中で加熱してブロック状またはフレーク状の乾燥物を得るようにしてもよい。
【0024】
得られた乾燥物は、必要に応じて適当な粒度の粉体を得るための粉砕工程や分級工程を経て、続く成形工程に送られる。なお、上記乾燥物の粉体の粒度は、限定はされないが、500μm以下が好ましい。
成形工程においては、得られた乾燥物を成形するにあたり液状バインダー等を用いることができる。具体的には、得られた乾燥物に対して液状バインダーを添加し混合しておいて成形する方法、あるいは、乾燥物を所望の担体に担持する(担持触媒を得る)場合においては、該担体を液状バインダーで湿らせておいてこれに乾燥物を添加して担持する方法などが採用できる。
【0025】
なお、本発明の触媒を得るにあたっては、前述した一般的な製法のほかに、出発原料混合液を乾燥させずに液のまま用い、所望の担体に該液を吸収させたり、塗布したり、付着させたりしておいて、焼成する方法も採用できる。よって、担体に触媒成分を担持させる形態としては、前述した乾燥物を担持させる形態のほかに、出発原料混合液そのものを担持させる形態も挙げることができる。
上記液状バインダーとしては、限定はされないが、一般にこの種の触媒の成形や担持に用いられるバインダーを使用できる。具体的には、水のほか、エチレングリコール、グリセリン、プロピオン酸、マレイン酸、ベンジルアルコール、プロピルアルコール、ポリビニルアルコール、フェノールなどの有機化合物や、硝酸、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、シリカゾルなどが使用できる。また、これらは1種のみで用いても、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記液状バインダーの使用量(添加量)は、限定はされないが、採用する成形や担持の方法、および、乾燥物粉末の物性などによって適宜設定すればよい。
本発明の触媒を得る場合には、成形性を向上させ得る成形助剤や、触媒の強度を向上させる補強剤、触媒に適度な細孔を形成させる気孔形成剤など、一般に触媒の製造においてこれらの効果を目的として使用されている各種物質を用いることができる。これら各種物質としては、例えば、ステアリン酸、グラファイト、でんぷん、セルロース、シリカ、アルミナ、ガラス繊維、炭化珪素、窒化珪素などが挙げられ、添加によって触媒性能(例えば、活性、目的生成物の選択性等)に悪影響を及ぼさないものが好ましい。これら各種物質は、例えば、上記液状バインダーや、出発原料混合液に添加・混合して用いることができる。これら各種物質は、添加量が過剰な場合、触媒の機械的強度を著しく低下させる場合があるので、工業触媒として実用不可能な程度まで触媒の機械的強度が低下しない程度の量を添加することが好ましい。
【0027】
前記担体としては、一定の形状を有する任意の不活性担体を用いることができ、具体的には、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、チタニア、マグネシア、ステアタイトおよび炭化ケイ素等を含んでなる一定の形状を有する担体を用いることができる。
担持触媒の場合、触媒の担持率は、酸化反応の条件、触媒の活性および強度等を勘案して適宜決定されるが、好ましくは10〜70質量%であり、より好ましくは15〜50質量%である。担持率は、後述の実施例において記載する算出方法により求められる値とする。
成形工程において採用できる成形方法としては、従来公知の方法・手段を用いればよく、例えば、押出し成形法(押出し成形機)、造粒法(転動造粒装置、遠心流動コーティング装置)、マルメライザー法、打錠成形法、含浸法、蒸発乾固法およびスプレー法などの成形方法が適用できる。これらの方法は、適宜選択し、組み合わせて使用することもできる。
【0028】
本発明の触媒において触媒成分となる銅やタングステンの、触媒表面側あるいは触媒芯側(触媒中心側)での分布量・存在量を適宜調整・制御するための方法(触媒表面側あるいは触媒芯側(触媒中心側)に偏在させるための方法)としては、例えば、(A)触媒成分となる銅および/またはタングステンについての組成分量が異なる複数の触媒材料(例えば、触媒成分混合液やその乾燥物)を予め用意し、それぞれを、銅および/またはタングステンの分布量が触媒表面側と触媒芯側とで差が生じ且つ所定の存在量となるように制御して、成形(担持含む)する方法等を採用することができる。
(A)の方法については、詳しくは、例えば、上記複数の触媒材料としての触媒材料Xおよび触媒材料Yを別々に準備しておき、下記1)〜5)の方法、すなわち、1)触媒材料Xを打錠成形し、次いで、この打錠成形して得られた成形体を核にして更に触媒材料Yを打錠成形する方法(有核打錠法)、2)触媒材料Xを押出成形し、次いで、この押出し成形して得られた成形体について触媒材料Yを打錠成形する方法(有核打錠法)、3)担体に触媒材料Xを蒸発乾固法にて担持し、次いで、触媒材料Yを蒸発乾固法にて担持する方法、4)担体に触媒材料Xを蒸発乾固法にて担持し、次いで、触媒材料Yを転動造粒法にて担持する方法、5)担体に触媒材料Xを蒸発乾固法にて担持し、次いで触媒材料Yをスプレー法にて担持する方法、などを適用することができる。なお、上記1)〜5)の方法においては、複数回行う成形や担持の各処理間に、乾燥や焼成などの熱処理を行うことができる。また、上記1)〜5)の方法においては、複数回行う成形や担持の各処理時に用いる触媒材料の量は、限定はされず、前述した所定の触媒成分の偏在が達成されるよう(すなわち本発明の触媒が得られるよう)適宜設定すればよい。
【0029】
本発明の触媒を得るに際し、成形体の焼成を行う場合は、焼成温度は350〜450℃が好ましく、より好ましくは380℃〜420℃であり、焼成時間は1〜10時間程度が好ましい。上記焼成の前に、上記焼成温度よりも低い温度で予め熱処理しておいてもよい。
本発明にかかるアクリル酸の製造方法は、アクロレインを、分子状酸素の存在下、接触気相酸化することによりアクリル酸を製造する方法において、上記本発明にかかるアクリル酸製造用触媒を用いることを特徴とする。本発明の触媒を用いることで、前述した課題を一挙にかつ容易に解決することができる。
【0030】
アクロレインを接触気相酸化することにより、アクリル酸を製造する方法としては、触媒として本発明の触媒を使用する点を除けば特に制限はなく、一般に用いられている装置、方法および条件下で実施することができる。
上記アクロレインは、一般に、これを含む原料ガスの状態で接触気相酸化に供せられるが、このような原料ガスとしては、アクロレイン、酸素および不活性ガスからなる混合ガスはもとよりのこと、プロピレンを直接酸化して得られるアクロレイン含有の混合ガスも、必要に応じて空気または酸素、さらには水蒸気やその他のガスを添加して使用することができる。プロピレンを直接酸化して得られるアクロレイン含有の混合ガス中に含まれる副生成物としてのアクリル酸、酢酸、酸化炭素、プロパンあるいは未反応プロピレンなどは、本発明で使用するアクリル酸製造用触媒に対して何ら害をもたらすものではない。
【0031】
本発明における接触気相酸化反応は、単流通法とリサイクル法のいずれで行ってもよく、反応器としては固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器などを用いることができる。
上記反応の条件について言えば、接触気相酸化反応によるアクリル酸の製造に一般に用いられている条件を採用することができ、例えば、1〜15容量%(好ましくは4〜12容量%)のアクロレイン、0.5〜25容量%(好ましくは2〜20容量%)の酸素、0〜30容量%(好ましくは0〜25容量%)の水蒸気、および、20〜80容量%(好ましくは50〜70容量%)の窒素などの不活性ガスなどからなる混合ガスを、200〜400℃(好ましくは220〜380℃)の温度範囲で、0.1〜1MPaの圧力下に、300〜10000hr−1(STP)(好ましくは500〜5000hr−1(STP))の空間速度で、上記本発明のアクリル酸製造用触媒と接触させて反応させればよい。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。詳しくは、不活性担体の表面のみに触媒成分を担持させた担持触媒(エッグシェル型触媒)を例に挙げて説明するが、本発明は、この種の触媒、および、この種の触媒の使用によるアクリル酸製造方法に限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。
以下の実施例および比較例における各種測定方法、算出方法の詳細を以下に示す。
<担持率の算出方法>
担持率(質量%)
=〔(得られた触媒の質量−用いた担体の質量)/得られた触媒の質量〕
×100
<アクロレインの転化率>
アクロレイン転化率(モル%)
=(反応したアクロレインのモル数/供給したアクロレインのモル数)×100
<アクリル酸の収率>
アクリル酸収率(モル%)
=(生成したアクリル酸のモル数/供給したアクロレインのモル数)×100
<アクリル酸の選択率>
アクリル酸選択率(モル%)
=(生成したアクリル酸のモル数/反応したアクロレインのモル数)×100
<EPMA断面線分析>
分析装置:(株)島津製作所製、製品名:EPMA−1610
X線ビーム直径:1μm
加速電圧:15kV
ビーム電流:0.1μA
測定時間:20msec
データポイント:1024×1024
X線ビームのステップ幅(移動幅):5μm
〔調製例〕
(乾燥物の調製)
純水20000部を加熱混合しながら、モリブデン酸アンモニウム3000部、メタバナジン酸アンモニウム663部、パラタングステン酸アンモニウム268部を溶解させた。別に純水2000部を加熱混合しながら硝酸銅三水和物1026部を溶解させた。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン62部を添加して出発原料混合液を得た。得られた出発原料混合液をドラムドライヤーを用いて乾燥したのち、これを500μm以下に粉砕して乾燥物(A)を得た。
【0033】
このようにして得られた乾燥物(A)の酸素を除く金属元素の組成比は次に示す通りであった。
乾燥物(A):Mo124.00.7Cu3.0Sb0.3
上記乾燥物(A)の調製方法において、それぞれ、メタバナジン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、硝酸銅三水和物の使用量を変更した以外は乾燥物(A)の調製方法と同様にして乾燥物(B)〜(F)を得た。これら乾燥物の酸素を除く金属元素の組成比はそれぞれ次に示す通りであった。
乾燥物(B):Mo124.01.3Cu3.0Sb0.3
乾燥物(C):Mo124.00.7Cu2.0Sb0.3
乾燥物(D):Mo124.01.3Cu2.0Sb0.3
乾燥物(E):Mo123.51.3Cu2.0Sb0.3
乾燥物(F):Mo125.01.3Cu2.0Sb0.3
〔実施例1〕
(触媒製造)
皿型転動造粒機の回転皿に、平均直径が5.0mmのシリカ・アルミナ担体を収容した。回転皿を水平面に対して30°傾斜させた状態で、回転数15rpmで回転させながら10質量%のエチレングリコール水溶液を噴霧した。10分間噴霧した後、まず、乾燥物(B)を投入して担体に乾燥物(B)を担持した。続いて乾燥物(A)を投入して乾燥物(B)の外側に乾燥物(A)を担持し、担持体とした。
【0034】
次いで、この担持体を取り出し、空気雰囲気下にて400℃で6時間焼成して、球状の触媒(1)を得た。なお、乾燥物(A)および乾燥物(B)は、焼成後の担持率がそれぞれ10質量%となるように転動造粒機への投入量を調節した。
得られた触媒(1)を、該触媒の中心を通る面で切断して半球状にした。この半球状の触媒の切断面における、一方の外表面から中心部を通って他方の外表面まで、銅およびタングステンについてEPMA装置を用いて線分析した。分析結果に基づき、銅について、前述した式(a)より、基準位置を1/2rとしたときの表面側偏在率Ma(%)を求めた。併せて、タングステンについて、前述した式(c)より、基準位置を1/2rとしたときの芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
【0035】
(酸化反応)
溶融硝酸塩にて加熱した内径25mm、長さ800mmのステンレス製反応管に、触媒(1)を100mL充填し、アクロレイン4容量%、酸素4容量%、水蒸気30容量%、窒素62容量%の混合ガスを空間速度2500hr−1(STP)で導入し、アクロレイン酸化反応を継続して行った。この間アクロレイン転化率が98〜99モル%を維持するように反応温度を調節した。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔比較例1〕
(触媒製造)
皿型転動造粒機の回転皿に、直径が4.5〜5.0mmのシリカ・アルミナ担体を収容した。回転皿を水平面に対して30°傾斜させた状態で、回転数15rpmで回転させながら10質量%のエチレングリコール水溶液を噴霧した。10分間噴霧した後、乾燥物(A)を投入して担体に乾燥物(A)を担持した。得られた担持体を取り出し、空気雰囲気下にて400℃で6時間焼成して、球状の触媒(c1)を得た。なお、乾燥物(A)は焼成後の担持率が20質量%となるように転動造粒機への投入量を調節した。
【0036】
得られた触媒(c1)に関し、実施例1と同様にして、銅についての表面側偏在率Ma(%)、および、タングステンについての芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
(酸化反応)
実施例1の酸化反応において、触媒(1)の代わりに触媒(c1)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化反応を行った。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔比較例2〕
(触媒製造)
比較例1の触媒製造法において、乾燥物(A)の代わりに乾燥物(B)を用いた以外は比較例1と同様にして、球状の触媒(c2)を得た。
【0037】
得られた触媒(c2)に関し、実施例1と同様にして、銅についての表面側偏在率Ma(%)、および、タングステンについての芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
(酸化反応)
実施例1の酸化反応において、触媒(1)の代わりに触媒(c2)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化反応を行った。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔比較例3〕
(触媒製造)
比較例1の触媒製造法において、乾燥物(A)の代わりに、乾燥物(A)と乾燥物(B)とを等量ずつ均一に混合した混合粉末を用いた以外は比較例1と同様にして、球状の触媒(c3)を得た。なお、乾燥物(A)および乾燥物(B)は焼成後の担持率がそれぞれ10質量%となるように転動造粒機への投入量を調節した。
【0038】
得られた触媒(c3)に関し、実施例1と同様にして、銅についての表面側偏在率Ma(%)、および、タングステンについての芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
(酸化反応)
実施例1の酸化反応において、触媒(1)の代わりに触媒(c3)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化反応を行った。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔実施例2〕
(触媒製造)
実施例1の触媒製造法において、乾燥物(B)の代わりに乾燥物(C)を用いた以外は実施例1と同様にして、球状の触媒(2)を得た。
【0039】
得られた触媒(2)に関し、実施例1と同様にして、銅についての表面側偏在率Ma(%)、および、タングステンについての芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
(酸化反応)
実施例1の酸化反応において、触媒(1)の代わりに触媒(2)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化反応を行った。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔比較例4〕
(触媒製造)
比較例1の触媒製造法において、乾燥物(A)の代わりに乾燥物(C)を用いた以外は比較例1と同様にして、球状の触媒(c4)を得た。
【0040】
得られた触媒(c4)に関し、実施例1と同様にして、銅についての表面側偏在率Ma(%)、および、タングステンについての芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
(酸化反応)
実施例1の酸化反応において、触媒(1)の代わりに触媒(c4)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化反応を行った。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔比較例5〕
(触媒製造)
実施例1の触媒製造法において、乾燥物(B)の代わりに乾燥物(A)を、乾燥物(A)の代わりに乾燥物(C)を用いた以外は実施例1と同様にして、球状の触媒(c5)を得た。
【0041】
得られた触媒(c5)に関し、実施例1と同様にして、銅についての表面側偏在率Ma(%)、および、タングステンについての芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
(酸化反応)
実施例1の酸化反応において、触媒(1)の代わりに触媒(c5)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化反応を行った。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔比較例6〕
(触媒製造)
実施例1の触媒製造法において、乾燥物(B)の代わりに乾燥物(C)を、乾燥物(A)の代わりに乾燥物(F)を用いた以外は実施例1と同様にして、球状の触媒(c6)を得た。
【0042】
得られた触媒(c6)に関し、実施例1と同様にして、銅についての表面側偏在率Ma(%)、および、タングステンについての芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
(酸化反応)
実施例1の酸化反応において、触媒(1)の代わりに触媒(c6)を用いた以外は実施例1と同様にして酸化反応を行った。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔実施例3、4〕
(触媒製造)
実施例1の触媒製造法において、乾燥物(B)の代わりに、乾燥物(E)、(F)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、球状の触媒(3)、(4)をそれぞれ得た。
【0043】
得られた触媒(3)、(4)に関し、実施例1と同様にして、銅についての表面側偏在率Ma(%)、および、タングステンについての芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
(酸化反応)
実施例1の酸化反応において、触媒(1)の代わりに、触媒(3)、(4)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして酸化反応をそれぞれ行った。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔実施例5〜8〕
(触媒製造)
実施例1の触媒製造法において、乾燥物(B)の代わりに、乾燥物(E)および(F)のいずれかを用い、乾燥物(A)の代わりに、乾燥物(B)および(C)のいずれかを用いた以外は実施例1と同様にして、球状の触媒(5)、(6)、(7)、(8)をそれぞれ得た(用いた乾燥物の具体的な組み合わせは表1および表2参照)。
【0044】
得られた触媒(5)、(6)、(7)、(8)に関し、実施例1と同様にして、銅についての表面側偏在率Ma(%)、および、タングステンについての芯側偏在率Mc(%)を求めた。これらの結果を表1に示した。
(酸化反応)
実施例1の酸化反応において、触媒(1)の代わりに、触媒(5)、(6)、(7)、(8)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして酸化反応をそれぞれ行った。酸化反応を開始してから100時間経過時の反応温度およびアクリル酸選択率を表2に示した。
〔実施例9〕
(酸化反応)
溶融硝酸塩にて加熱した内径25mm、長さ3000mmのステンレス製反応管に、触媒(2)を1000mL充填し、アクロレイン5容量%、空気25容量%、水蒸気30容量%、窒素等の不活性ガス40容量%の混合ガスを空間速度1600hr−1(STP)で導入して酸化反応を行った。酸化反応開始から100時間経過後の酸化反応結果は、反応温度264℃においてアクロレイン転化率は99.0モル%、アクリル酸選択率は95.9モル%、アクリル酸収率は94.9モル%であった。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の触媒は、アクリル酸製造用触媒として好適である。
本発明の製造方法は、アクリル酸の製造に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
MoCu (1)
(ここで、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、ならびに、Oは酸素であり、a、b、c、dおよびxはそれぞれMo、V、W、CuおよびOの原子比を表し、a=12のとき、1≦b≦14、0≦c≦12、0≦d≦10であり、かつ、0<c+dであり、xは各元素の酸化状態により定まる数値である。)
で表される金属元素組成の酸化物および/または複合酸化物を必須の触媒成分とするアクリル酸製造用触媒において、
銅が該触媒の表面側に偏在するか、および/または、タングステンが該触媒の芯側に偏在する、
ことを特徴とする、アクリル酸製造用触媒。
【請求項2】
前記触媒成分と担体とを共に必須の構成材料として前記触媒成分が前記担体の表面に担持されてなり、
前記触媒の表面側は触媒の表層部および/またはその近傍であり、かつ、前記触媒の芯側は前記担持された触媒成分における前記担体の表面と接する部分および/またはその近傍である、
請求項1に記載のアクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
前記触媒成分と担体とを共に必須の構成材料として前記触媒成分が少なくとも前記担体の内部に担持されてなるか、または、前記触媒成分を必須の構成材料として成形されてなり、
前記触媒の表面側は触媒の表層部および/またはその近傍であり、かつ、前記触媒の芯側は触媒の中心部および/またはその近傍である、
請求項1に記載のアクリル酸製造用触媒。
【請求項4】
アクロレインを分子状酸素の存在下で接触気相酸化することによりアクリル酸を製造する際に、請求項1から3までのいずれかに記載のアクリル酸製造用触媒を用いることを特徴とする、アクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2006−15330(P2006−15330A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86945(P2005−86945)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】