説明

アクリレートの製造方法及びアクリル酸の回収方法

【課題】有機溶剤による未反応アクリル酸の抽出工程が不要で、回収液中のアクリル酸濃度を高濃度とし、未反応アクリル酸の回収効率に優れ、回収液中の不純物量が少ないアクリレートの製造方法、及びアクリル酸の回収方法の提供。
【解決手段】下記工程を実施するアクリレートの製造方法。
第1工程:酸触媒存在下、アクリル酸とアルコールをエステル化反応させる
第2工程:第1工程の反応液をアルカリ水溶液で中和後、有機相と水相に分離させ、有機相を分取しアクリレートを回収する
第3工程:第2工程の水相を分取し、水相に硫酸水溶液を添加し、pH4.0以下にしつつ冷却するか、又は4.0以下にした後に冷却し、アクリル酸(塩)を多く含む水相〔水相(3)〕と固相に相分離させ、かつ
水相(3)中のアクリル酸(塩)の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする
第4工程:第3工程の固相を分離した後、アクリル酸(塩)を含む水相を回収する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリレート、好ましくは高沸点のアクリレートの製造において、反応で生じる未反応のアクリル酸の回収・再使用を主目的とするアクリレートの製造方法、及びアクリル酸の回収方法に関し、アクリレートを製造・使用する技術分野及びアクリル酸を使用する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
アクリレートは、アクリル酸とアルコールとを、酸触媒の存在下にエステル化反応させて製造されることが多い。
低沸点アクリレートの製造では、反応液を蒸留して精製される。
一方、高沸点アクリレートの製造においては蒸留が容易でないため、反応溶媒を含むエステル化反応液を中和して酸触媒及び未反応アクリル酸を除去し、有機相と水相の2層分離した有機層を分離し、さらに有機層中の反応溶媒を脱溶剤して製造される。この場合、目的物であるアクリレートと原料アルコールの分離が困難なため、アクリル酸を過剰に使用して原料アルコールをなるべく多く反応させ、反応液中に未反応アルコールが残らないようにする方法が一般的に採用されている。
しかしながら、アクリル酸を過剰に用いると、未反応アクリル酸を除去する中和・水洗を行う必要が生じ、その結果、アクリル酸をロスするばかりか、化学的酸素要求量(COD)の値が高い廃水を生じるという問題を含んでいる。
【0003】
上記の問題を解決するために、エステル化反応液を中和し、アクリル酸又はそのアルカリ金属塩を含有する水性液を酸性化し、有機溶剤によりアクリル酸を抽出回収する方法が提案されている(特許文献1及び2)。
しかし、これらの方法は、有機溶剤で抽出回収するため、抽出を行うための設備、有機溶剤を回収するための設備が必要になること、回収液中のアクリル酸濃度は30重量%以下と低く、回収したアクリル酸を再利用するには蒸留等により精製する必要があること等、十分とはいえない状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−213647公報
【特許文献2】特開昭61-243046公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、有機溶剤による未反応アクリル酸の抽出工程が不要であり、回収液中のアクリル酸濃度を高濃度とし、未反応アクリル酸の回収効率に優れ、回収液中の不純物量が少ないアクリレートの製造方法、及びアクリル酸の回収方法を見出すため、鋭意検討を行ったのである。
ができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、エステル化反応液にアルカリ水溶液を添加して中和した際に、水相中のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩の含有割合を特定割合以上とし、これに硫酸を添加してpHを特定値にした後冷却すると、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を多く含む水溶液(水相)と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相の2相に分離することを見出し、固体相を分離すれば高濃度のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩として回収できることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機溶剤による未反応アクリル酸の抽出工程が不要であり、水相と固相に分離した固相を除去するという簡便な方法で容易に未反応アクリル酸を回収することができる。しかも、回収液中のアクリル酸濃度を高濃度とすることができ、回収効率に優れたアクリレート製造方法及びアクリル酸の回収方法とすることができる。又、回収液中の硫酸アルカリ量が少ないという、不純物の少ない高純度でアクリル酸を回収することができる。
回収液中のアクリル酸濃度としては、約20%以上、好ましくは25〜60重量%、より好ましくは30〜60重量%とすることができる。この様な高濃度とすることができることにより、アクリル酸を再使用する場合の精製工程を容易にすることができ、アクリル酸濃度が高濃度となるので、回収液の量を少なくすることができ、第3工程及び第4工程で使用する装置の小型化が可能となる。
回収されたアクリル酸は、そのまま又は精製して、アクリレートやポリマーの製造に再使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施態様の1例を示す、処理槽を2器連結した製造又は処理装置の例である。
【図2】本発明の実施態様の1例を示す、処理槽を3器連結した製造又は処理装置の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、下記第1工程〜第4工程を順次実施するアクリレートの製造方法に関する。
第1工程:酸触媒の存在下に、アクリル酸とアルコールを攪拌・混合し、エステル化反応させアクリレートを含む反応液を得る工程
第2工程:第1工程で得られた反応液にアルカリ水溶液を添加して中和した後、有機相と水相の2相に相分離させ、有機相を分取しアクリレートを回収する工程
第3工程:第2工程で得られた水相を分取し、水相に硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整しながら冷却するか、又は4.0以下に調整した後に冷却し、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を多く含む水相〔以下、「水相(3)」という〕と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させ、かつ
水相(3)中のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程
第4工程:第3工程で得られた固相を分離した後、水相からアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を含む水相を回収する工程
又、本発明は、下記第2’工程〜第4’工程を順次実施するアクリル酸の回収方法にも関する。
第2’工程:アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩、硫酸アルカリ金属塩、並びに水を含有する液を調整する工程
第3’工程:第2’工程で得られた液に、硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整しながら冷却するか、又は4.0以下に調整した後に冷却し、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を多く含む水相〔以下、「水相(3)’」という〕と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させ、かつ
水相(3)’中のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程
第4’工程:第3’工程で得られた固相を分離した後、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を含む水相を回収する工程
【0010】
1.アクリレートの製造方法
本発明の製造方法によれば、種々のアクリレートを製造することが可能であり、高沸点アクリレートの製造に好ましく適用でき、特に13.3kPaの圧力下の沸点が100℃以上のアクリレートの製造に好ましく適用できる。
【0011】
13.3kPaの圧力下の沸点が100℃以上のアクリレートとしては、例えば、
フェノールアルキレンオキサイド付加物のアクリレート、ノニルフェノールアルキレンオキサイド付加物のアクリレート及びp−クミルフェノールアルキレンオキサイド付加物のアクリレート等のフェノール類のアルキレンオキサイド付加物のアクリレート;
2−エチルヘキシルアルコールアルキレンオキサイド付加物のアクリレート;
トリシクロデカンジメチロールのアクリレート等の多環式アルキルアクリレート;
トリシクロデカンジメチロールジアクリレート等の多環式アルキルジアクリレート;
エチレングリコールのモノ又はジアクリレート、プロピレングリコールのモノ又はジアクリレート、ペンタンジオールのモノ又はジアクリレート及びヘキサンジオールのモノ又はジアクリレート等のアルキレングリコールのモノ又はジアクリレート;
ジエチレングリコールのモノ又はジアクリレート、トリエチレングリコールのモノ又はジアクリレート、テトラエチレングリコールのモノ又はジアクリレート、ポリエチレングリコールのモノ又はジアクリレート、ジプロピレングリコールのモノ又はジアクリレート、トリプロピレングリコールのモノ又はジアクリレート及びポリプロピレングリコールのモノ又はジアクリレート等のポリアルキレングリコールのモノ又はジアクリレート;
グリセリンのジ又はトリアクリレート及びジグリセリンのジ又はトリアクリレート等のグリセリン類のジ又はトリアクリレート;グリセリン類のアルキレンオキサイド付加物のジ又はトリアクリレート;
ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のモノ又はジアクリレート及びビスフェノールFアルキレンオキサイド付加物のモノ又はジアクリレート等のビスフェノールアルキレンオキサイド付加物のモノ又はジアクリレート;
トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のポリオールポリアクリレート;これらポリオールのアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;
イソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のジ又はトリ(メタ)アクリレート; 並びにポリエステルアクリレート等が挙げられる。
アルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。又、アルキレンオキサイドの付加数としては1〜20が好ましい。
【0012】
これらアクリレートの中でも、後記する第2工程で水相側にアクリレートが溶解することを防止できる点で、アルキレングリコールのモノ又はジアクリレート等の親水性アクリレートより、疎水性のアクリレートの製造方法に適するものである。
【0013】
以下、前記した第1工程〜第5工程について説明する。
【0014】
1)第1工程
第1工程は、酸触媒の存在下に、アクリル酸とアルコールを攪拌・混合し、エステル化反応させアクリレートを含む反応液を得る工程である。
エステル化反応としては、常法に従えば良く、有機溶媒中、酸触媒の存在下にアクリル酸及び高沸点アルコールを加熱・攪拌する方法等が挙げられる。
【0015】
アルコールとしては、前記したアクリレートに対応するものを使用すれば良い。
具体的には、
フェノールアルキレンオキサイド付加物、ノニルフェノールアルキレンオキサイド付加物及びp−クミルフェノールアルキレンオキサイド付加物等のフェノール類のアルキレンオキサイド付加物;
2−エチルヘキシルアルコールアルキレンオキサイド付加物;
トリシクロデカンジメチロール等の多環式アルキルアルコール;
トリシクロデカンジメチロール等の多環式アルキルジアルコール;
エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタンジオール及びヘキサンジオール等のアルキレングリコール;
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;
グリセリン及びジグリセリン等のグリセリン類;
グリセリン類のアルキレンオキサイド付加物;
ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物及びビスフェノールFアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノール類アルキレンオキサイド付加物;
トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート及びジペンタエリスリトール等のポリオール;
これらポリオールのアルキレンオキサイド付加物;
イソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物; 並びにポリエステルポリオール等が挙げられる。
アルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。又、アルキレンオキサイドの付加数としては1〜20が好ましい。
これらアルコールの中でも、前記した通り、得られるアクリレートが疎水性となるアルコールが好ましい。
【0016】
アクリル酸の使用割合は、目的とするアクリレートに応じて適宜設定すれば良く、高沸点アルコールの全水酸基1モルに対して1.0〜2.0モルが好ましく、より好ましくは1.1〜1.5モルである。
【0017】
酸触媒としては、硫酸等の鉱酸、並びにp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸等が挙げられる。
酸触媒の使用割合としては、有機溶媒を含む反応液の重量に対して0.1〜10重量%が好ましい。
【0018】
エステル化反応は、常法に従い実施すれば良い。
反応温度は、使用する原料及び目的に応じて適宜設定すればよいが、反応時間の短縮と重合防止の観点から65〜140℃が好ましく、75〜120℃がより好ましい。反応温度を65℃以上とすることでエステル化反応を迅速に行い、収率の低下を防止することができ、一方反応温度を140℃以下とすることで、アクリル酸又は生成したアクリレートの熱重合を防止することができる。
反応における圧力としては、常圧でも、減圧でも良い。後記する通り、アクリル酸又は生成したアクリレートの熱重合を防止することを目的としては、減圧状態で行うことが好ましい。
【0019】
エステル化反応に際しては、エステル化反応で生成する水を有機溶媒と共沸させながら脱水を促進することが好ましい。
好ましい有機溶媒としては、例えばトルエン、ベンゼン及びキシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン及びヘプタン等の脂肪族炭化水素並びにシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
有機溶媒の使用量は、前記アルコールとアクリル酸の合計量に対して10〜75重量%となる割合が好ましく、より好ましくは15〜55重量%となる割合である。
【0020】
エステル化反応は、アクリル酸又は生成したアクリレートの熱重合を防止することを目的とし、好ましくは75〜120℃にて行うことが好ましい。又、重合防止のためにエステル化反応を酸素の存在下で行うことが好ましい。
同様の目的で、反応液に重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤としては、有機化合物及び金属塩等が挙げられる。
有機化合物としては、例えば、ベンゾキノン、ハイドロキノン、カテコール、ジフェニルベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ナフトキノン、t−ブチルカテコール、t−ブチルフェノール、ジメチル−t−ブチルフェノール、t−ブチルクレゾール、ジブチルヒドロキシトルエン及びフェノチアジン等が挙げられる。
金属塩としては、塩化第二銅及び硫酸銅等の金属銅化合物、並びに硫酸第一鉄等の金属鉄化合物等が挙げられる。
重合禁止剤の添加量は、原料であるアクリル酸の使用量に対して重量で10〜50000ppmが好ましく、100〜10000ppmがより好ましい。100ppm以上とすることで重合防止効果を十分にすることができ、10000ppm以下とすることで、着色を防止したり、生成物の硬化性低下を防止することができる。
エステル化反応の進行度は、エステル化反応により生成する水の量、すなわち脱水量を監視したり、反応液中の酸分濃度を分析したり、生成物アクリレートの組成を分析し、目的とする組成であるのかを確認して判断する。
【0021】
又、前記した酸素存在下の反応としては、具体的には、酸素含有気体の雰囲気下で反応したり、酸素含有気体を反応液中に導入しながら反応する方法がある。典型的な酸素含有気体は空気であるが、工業的には引火爆発危険を考えて酸素濃度3〜15容量%に下げた気体が好適に使用される。酸素含有気体は、酸素又は空気と、不活性ガスを混合することによって調製できる。不活性ガスとしては窒素やアルゴンが常用される。
【0022】
2)第2工程
第2工程は、第1工程で得られた反応液にアルカリ水溶液を添加して中和した後、有機相と水相の2相に分離させ、有機相を分取しアクリレートを回収する工程である。
第1工程で得られた反応液にアルカリ水溶液で添加することで、反応液から未反応アクリル酸及び酸触媒等の酸分をアルカリ水溶液で分離・除去することができる。
当該中和処理は、複数回に分けて実施することもできる。
【0023】
中和で使用するアルカリ水溶液において、アルカリ成分としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、並びに炭酸ナトリウム等のアルカリ金属塩及び水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物が、中和の効果が高い点で好ましい。
【0024】
アルカリ水溶液におけるアルカリ成分の量は通常、反応液の酸分に対してモル比で1倍以上が好ましく、より好ましくは1.0〜1.6倍である。この添加量が、反応液の酸分に対してモル比で1倍未満では、酸分の中和が不十分となるので好ましくない。
又、アルカリ水溶液の濃度は、1〜25重量%であることが好ましく、より好ましくは3〜25重量%であり、特に好ましくは10〜25重量%である。この濃度が1重量%以上とすることで中和処理後の排水量が増大することを防止することができ、25重量%以下とすることで、アクリレートの重合を防止することができる。
【0025】
第2工程の中和処理は、反応液及びアルカリ水溶液を、槽型装置に供給して攪拌して処理するか、又はスタティックミキサー等を使用して処理する。尚、比重調整等の目的で、中和前に有機溶媒を反応液に加えることもできる。
【0026】
●前処理
中和工程を実施する前において、種々の目的で反応液の水洗処理を行うことができる。
特に、エステル化反応で銅系の重合禁止剤を使用した場合において、効率的に銅系の重合禁止剤を除去することができ、好ましい。
水洗処理の方法としては、常法に従えば良く、具体的には、エステル化反応により得られた反応液に水を添加し、攪拌及び混合する方法等が挙げられる。
水としては、純水を使用することが好ましい。
【0027】
●有機相の処理
第2工程では、前記中和処理後に、有機相と水相の2相に分離させ、有機相を分取し、アクリレートを回収する。
有機相の分取方法としては、下層である水相を抜き出せば良い。抜き出した水相は、後記する第3工程を実施する。
前記で水相を分取した後の有機層は、必要に応じて有機溶媒を除去し最終製品のアクリレートとすることができる。
脱溶剤処理は、常法に従えば良く、例えば脱溶剤槽を減圧にし、有機溶媒を除去する方法等が挙げられる。脱溶剤槽の真空度としては、使用する原料及び目的に応じて適宜設定すれば良く、好ましくは0.1〜50kPaであり、溶剤の除去程度により徐々に減圧度を増す方法が好ましい。
【0028】
この脱溶剤処理は、アクリレートの熱重合を抑えるために、酸素を供給したり、重合禁止剤を添加したりするとともに、温度を例えば80℃以下に維持して、減圧下に行うことが好ましい。
必要に応じて、前記脱溶剤処理において有機相から有機溶媒を脱溶剤槽で除去するとともに、脱溶剤槽へ濾過助剤を供給し、脱溶剤槽に接続された竪型水平濾板式の濾過器に濾過助剤を堆積させて反応生成物の濾過処理を行うこともできる。
【0029】
又、有機層は、必要に応じて脱溶剤処理を行う前に、再度中和処理を行ったり、水洗処理を行うこともできる。
【0030】
3)第3工程
第3工程は、第2工程で得られた水相〔以下、水相(2)という〕を分取し、水相に硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整しながら冷却するか、又は4.0以下に調整した後に冷却し、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩〔以下、「アクリル酸(塩)」という〕を多く含む水相〔水相(3)〕と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させ、かつ
水相(3)中のアクリル酸(塩)の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程である。
【0031】
第3工程では、前記で分取した水相(2)に、硫酸水溶液を添加する。
硫酸水溶液の硫酸濃度は、70重量%以上である。70重量%未満のものを使用する場合、回収するアクリル酸水溶液から硫酸ナトリウムを十分に除去できない。硫酸水溶液の硫酸濃度としては、75重量%以上が好ましく、好ましい上限は99重量%である。
【0032】
第3工程では、水相(2)に硫酸水溶液を添加して、pHを4.0以下とする。pHが4.0を超過する場合は、第4工程の固・液分離が困難となり、アクリル酸(塩)の回収率が低下してしまう。好ましい水相のpHとしては、1〜4.0、より好ましくは1〜3.5の範囲である。
水相(2)に添加する硫酸水溶液の添加量としては、水相のpHが4.0以下となる量であれば任意である。
【0033】
第3工程では、水相(2)に硫酸を添加しつつpHを4.0以下に調整しながら冷却するか、又は硫酸を添加してpHを4.0以下に調整した後に冷却して、硫酸アルカリ金属塩を析出させる。
水相(2)に硫酸水溶液を添加しつつpHを4.0以下にしながら冷却する場合の温度としては、具体的には60℃以下が好ましく、より好ましく0℃以上〜60℃以下であり、さらに好ましくは0℃以上〜30℃以下であり、特に好ましくは0℃以上〜20℃以下℃である。この温度範囲に維持することにより、硫酸アルカリ金属塩を効率良く析出させることができ、回収するアクリル酸(塩)水溶液中の硫酸アルカリ金属塩の割合を低減させることができる。
一方、水相(2)に硫酸水溶液を添加してpHを4.0以下に調整した後に冷却する場合の好ましい温度としては、後記にする通りである。
【0034】
冷却方法としては、ジャケット付き撹拌槽を使用してジャケットを通じて冷却するか、又は、撹拌槽に付帯した熱交換器を使用して冷却する方法等が挙げられる。
冷却においては、撹拌槽を使用して撹拌下に冷却する等といった、液を流動させながら冷却することが好ましい。これにより、析出する硫酸アルカリ金属塩の粒径を小さく、具体的には数mm以下の粒径にすることができる。析出する硫酸アルカリ金属塩の粒径が大きくなると、その後の処理が困難となる。
冷却方法は、析出する硫酸アルカリ金属塩を好ましい粒子径とするために、前記した好ましい温度を維持するようにして管理する。
アクリル酸(塩)水溶液中に硫酸アルカリ金属塩がある程度析出した段階で静置し、後記第4工程を実施する。
【0035】
本発明では、第3工程において、液中のアクリル酸(塩)の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とし、20重量%以上が好ましく、特に好ましくは20〜40重量%である。この割合が10重量%より低いと、回収するアクリル酸(塩)を含む水相から硫酸金属塩を含む固相を十分に除去できない。
液中のアクリル酸(塩)の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする方法としては、第2工程で使用するアルカリ水溶液の濃度及びアルカリ水溶液の使用量を調整する方法等が挙げられる。又、液中のアクリル酸(塩)の含有割合が10重量%に満たない場合は、水を留去したり、アクリル酸(塩)を追加したり、又は回収したアクリル酸(塩)をリサイクルして、アクリル酸(塩)の含有割合が前記割合となるようにすることもできる。
尚、水相中のアクリル酸(塩)の割合は、液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ及びイオンクロマトグラフィ等の方法で測定することができる。この場合、事前にアクリル酸(塩)を使用して検量線を作成しておき、測定した値を絶対検量線法により補正して割合を決定することができる。アクリル酸塩として測定した場合には、計算によりアクリル酸に換算する。
【0036】
水相の処理においては、アクリル酸(塩)の重合を抑えるために、前記温度管理操作を実施する他、酸素を供給したり、重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤としては、前記と同様の化合物を使用できる。
重合禁止剤を添加する場合は、第2工程終了後に重合禁止剤を添加することも、第3工程の水相の処理工程のいずれかの段階で添加することもできる。
【0037】
前記した通り、本発明では、水相(2)に硫酸水溶液を添加してpHを4.0以下に調整した後に冷却することもできる。
当該方法としては、前記第3工程を、下記2段階で実施することが好ましい。
第3−1工程:第2工程で得られた水相を分取し、水相に硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整し、水相中のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程
第3−2工程:第3−1工程で得られた液を冷却し、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を多く含む水相と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させる工程
【0038】
第3−1工程では、前記で分取した水相(2)に、硫酸水溶液を添加する。
硫酸水溶液の硫酸濃度は、前記と同様の理由で70重量%以上であり、前記と同様に75重量%以上が好ましく、好ましい上限は99重量%である。
第3−1工程では、水相(2)に硫酸水溶液を添加して、前記と同様の理由でpHを4.0以下とする。pHとしては前記と同様に1〜4.0が好ましく、より好ましくは1〜3.5の範囲である。
水相(2)に添加する硫酸水溶液の添加量としては、水相のpHが4.0以下となる量であれば任意である。
【0039】
第3−1工程において、水相(2)に硫酸水溶液を添加する場合における温度としては、水相(2)が沸騰しない温度が好ましく、具体的には60℃以下が好ましく、より好ましくは20℃超過〜60℃以下であり、さらに好ましくは20℃超過〜40℃以下であり、特に好ましくは25℃以上〜40℃以下である。この温度を60℃以下とすることにより、回収するアクリル酸(塩)の重合を防止することができ、特に40℃以下の場合には、回収するアクリル酸(塩)の重合を防止できることに加え、マイケル付加反応によるアクルル酸ダイマーの増加抑制等の副反応を防止することができる点で好ましい。
【0040】
第3−2工程は、第3−1工程で得られた水相を冷却し、アクリル酸(塩)を多く含む水相と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させる工程である。
この場合の冷却温度としては、硫酸アルカリ金属塩が析出し、かつ水相が固化しない温度であれば良く、20℃以下が好ましく、0℃以上〜20℃以下がより好ましい。この温度範囲に維持とすることにより、硫酸アルカリ金属塩を効率良く析出させることができ、回収するアクリル酸(塩)水溶液中の硫酸アルカリ金属塩の割合を低減できる。
【0041】
冷却方法としては、前記と同様にして、ジャケット付き撹拌槽を使用してジャケットを通じて冷却するか、又は、撹拌槽に付帯した熱交換器を使用して冷却する方法等が挙げられる。
冷却においては、撹拌槽を使用して撹拌下に冷却する等といった、液を流動させながら冷却することが好ましい。
アクリル酸(塩)水溶液中に硫酸アルカリ金属塩がある程度析出した段階で静置し、後記第4工程を実施する。
【0042】
4)第4工程
第4工程は、第3工程で得られた固相を分離した後、アクリル酸(塩)を含む水相を回収する工程である。
【0043】
第3工程で水相を冷却することにより、水相中に硫酸アルカリ金属塩が析出し、最終的には、固相と液相の2相に相分離する。
第4工程では、第3工程後の液から固相を分離する。
固相の分離方法としては、常法に従えば良く、デカンテーション、遠心分離及び濾過等が挙げられる。
固相を分離した後、残った水相にはアクリル酸(塩)を多く含んでおり、これからアクリル酸(塩)を回収することができる。
【0044】
回収された相中のアクリル酸(塩)の割合は、使用する原料や条件により異なるが、通常、約20%以上、好ましくは25〜60重量%、より好ましくは30〜60重量%、特に好ましくは33〜60重量%のアクリル酸(塩)を含む水溶液が得られる。
本発明によれば、回収液中のアクリル酸(塩)を高濃度とすることができることにより、アクリル酸を再使用する場合の精製工程を容易にすることができる。又、回収したアクリル酸を使用してアクリレートやポリマーの原料として使用する場合でも、高濃度の方が有利となる又、アクリル酸濃度(塩)が高濃度となるので、回収液の量を少なくすることができ、第3工程及び第4工程等で使用する装置の小型化が可能となる。
又、回収液中の硫酸アルカリ割合が少ないという、具体的には硫酸アルカリを3.0重量%以下とする不純物の少ない高純度でアクリル酸(塩)を回収することができる。
【0045】
●アクリル酸(塩)の再利用
回収されたアクリル酸(塩)水溶液は、処理条件により変動するが、アクリル酸を主成分とし、アクリル酸のアルカリ金属塩をわずかに含む水溶液として得られる。回収されたアクリル酸(塩)水溶液はそのまま使用することもでき、又、回収されたアクリル酸(塩)水溶液を濃縮又は分離精製して使用することもできる。
【0046】
具体的には、回収されたアクリル酸(塩)水溶液を、そのままアクリレートやポリアクリル酸等のポリマーの原料として使用することができ、又は精製アクリル酸を添加して適正なアクリル酸濃度、量に調整した後、アクリレートやポリアクリル酸等のポリマーの原料として使用できる。
又、回収されたアクリル酸(塩)水溶液を水と共沸する溶剤を用いて水を留去し、アクリル酸を濃縮する方法、抽出溶剤を用いてアクリル酸を抽出した後、蒸留や晶析等により精製する方法が挙げられる。
【0047】
●固相の処理
分離された硫酸アルカリ金属塩を主成分とする固相の処理方法は特に限定されるものではないが、そのまま燃焼処理して付着する有機物を除去した後に有効利用するか、水に溶解してそのまま廃棄する方法、産業廃棄物として処理する方法が挙げられる。
【0048】
2.アクリル酸の回収方法
本発明のアクリル酸の回収方法は、下記第2’工程〜第4’工程を順次実施する方法に関する。
第2’工程:アクリル酸(塩)、硫酸アルカリ金属塩、並びに水を含有する液を調整する工程
第3’工程:第2’工程で得られた液に、硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整しながら冷却するか、又は4.0以下に調整した後に冷却し、アクリル酸(塩)を多く含む水相(3)’と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させ、かつ
水相(3)’中のアクリル酸(塩)の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程
第4’工程:第3’工程で得られた固相を分離した後、アクリル酸(塩)を含む水相を回収する工程
【0049】
1)第2’工程
第2’工程は、アクリル酸(塩)、硫酸アルカリ金属塩、並びに水を含有する液を調整する工程
第2’工程で得られる液としては、前記アクリレートの製造方法における第1工程及び第3工程で得られる液が好ましい。
【0050】
2)第3’工程
第3’工程は、第2’工程で得られた液に、硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整しながら冷却するか、又は4.0以下に調整した後に冷却し、アクリル酸(塩)を多く含む水相(3)’と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させ、かつ
水相(3)’中のアクリル酸(塩)の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程である。
【0051】
第3’工程は、第2工程で得られた液の代わりに第2’工程で得られた液に、硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整しながら冷却するか、又は4.0以下に調整した後に冷却し、アクリル酸(塩)を多く含む水相(3)’と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させる以外は、第3工程と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0052】
又、第3’工程は、第2工程における水相(3)の代わりに水相(3)’中のアクリル酸(塩)の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする以外は、前記と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0053】
前記第3’工程は、下記2段階で実施することが好ましい。
第3−1’工程:第2’工程で得られた水相を分取し、水相に硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整し、水相中のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程
第3−2’工程:第3−1’工程で得られた液を冷却し、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を多く含む水相と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させる工程
この場合も、第3−1’工程を、前記第3−1工程における第2工程で得られた液を第第2’工程で得られた液に代え、第3−2’工程を、前記第3−2工程における第3−1工程で得られた液を第3−1’に代えた以外は前記と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0054】
3)第4’工程
第4’工程は、第3’工程で得られた固相を分離した後、アクリル酸(塩)を含む水相を回収する工程である。
第4’工程は、第3工程で得られた固相の代わりに第3’工程で得られた固相を分離し、アクリル酸(塩)を含む水相を回収する以外は、第4工程と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0055】
又、回収したアクリル酸(塩)の再利用方法及び固相の処理方法についても、具体的態様及び好ましい態様は前記と同様である。
【0056】
3.製造装置
本発明のアクリレートの製造方法又はアクリル酸の回収方法で使用する装置の一例を、図1及び図2の模式図に基づき説明する。
図1は、処理槽を2器使用した例であり、図2は、処理槽を3器使用した例である。
図1及び2では、処理槽として、加熱装置としてジャケット(11)1を付帯し、撹拌翼(11)2を備えた装置を例示している。処理槽としては、加熱装置としてジャケットに代え、外部熱交換機を付帯したものであっても良い。
又、図1及び2では、固液分離を遠心分離機を使用する例を示しているが、遠心分離機に代え、濾過装置やデカンターを使用しても良い。
【0057】
図1の装置を使用する製造方法又は回収方法について説明する。
反応槽で、第1工程のエステル化反応を実施した後(図示せず)、反応液を供給管(11)3を通じて第1処理槽(11)に供給する。
第1処理槽(11)に、撹拌下に供給管(11)4を通じてアルカリ水溶液を添加して中和し、有機相と水相の2相に相分離させる。この時点で、水相中のアクリル酸(塩)の濃度をアクリル酸換算で10重量%以上にすることが好ましい。
第1処理槽(11)で、有機相と水相に分離した水相(下相)を、供給管(11)5から抜き出す。
第1処理槽(11)に残った有機相は、第1処理槽(11)を減圧し加熱して、有機溶媒を減圧蒸留で除去し、アクリレート製品を得る。
一方、前記で抜き出した水相は、供給管(11)5を通じて第2処理槽(12)に供給する。
第2処理槽(12)において、撹拌下に供給管(12)1から硫酸水溶液を添加し、pH4.0以下に調整しつつ冷却するか、又はpH4.0以下に調整した後冷却する。
第2処理槽(12)を撹拌下にジャケットを使用して液を冷却し、硫酸アルカリ金属塩を析出させる。この時点において、水相中のアクリル酸(塩)の濃度をアクリル酸換算で10重量%以上とする。10重量%に満たない場合には、水を留去したり、又は(メタ)アクリル酸(塩)を添加する。
この後、第2処理槽(12)の液を、供給管(12)2を通じて遠心分離機(13)に供給し、固液分離を行い、固相(15)と水相(14)に分離する。
水相で回収されたアクリル酸(塩)水溶液は、そのまま使用することもでき、又精製して使用することもでき、さらにアクリル酸を分離して使用することもできる。
【0058】
次に、図2の装置を使用する製造方法又は処理方法について説明する。当該装置は、アクリレートの製造方法において、第3工程を2段階で実施する場合、好ましくは第3−1工程及び第3−2工程で実施する場合に特に適した装置であり、アクリル酸の回収方法において、第3’工程を2段階で実施する場合、好ましくは第3−1’工程及び第3−2’工程で実施する場合に特に適した装置である。
当該装置を使用する製造方法又は回収方法は、硫酸水溶液の添加と冷却を、それぞれ別の処理槽を使用することにより、硫酸水溶液の添加における発熱と、冷却における硫酸金属塩析出による析出熱及び水和熱を緩和できるため、上記の例と比較して処理時間を短縮することができる。
反応槽で、第1工程のエステル化反応を実施した後(図示せず)、反応液を供給管(21)3を通じて第1処理槽(21)に供給する。
第1処理槽(21)に、撹拌下に供給管(21)4を通じてアルカリ水溶液を添加して中和し、有機相と水相の2相に相分離させる。この時点で、水相中のアクリル酸(塩)の濃度をアクリル酸換算で10重量%以上にすることが好ましい。
第1処理槽(21)で、有機相と水相に分離した水相(下相)を、供給管(21)5から抜き出す。
第1処理槽(21)に残った有機相は、第1処理槽(21)を減圧し加熱して、有機溶媒を減圧蒸留で除去し、アクリレート製品を得る。
一方、前記で抜き出した水相は、供給管(21)5を通じて第2処理槽(22)に供給する。
処理槽(22)において、撹拌下に供給管(22)1から硫酸水溶液を添加し、pH4.0以下に調整する。この時点において、水相中のアクリル酸(塩)の濃度をアクリル酸換算で10重量%以上とする。10重量%に満たない場合には、水を留去したり、又は(メタ)アクリル酸(塩)を添加する。
硫酸水溶液を添加した後の液を、供給管(22)2を通じて第3処理槽(23)に供給する。
第3処理槽(23)を撹拌下にジャケットを使用して液を冷却し、硫酸アルカリ金属塩を析出させる。
この後、第3処理槽(23)の液を、供給管(23)1を通じて遠心分離機(24)に供給し、固液分離を行い、固相(26)と水相(25)に分離する。
水相で回収されたアクリル酸(塩)水溶液は、そのまま使用することもでき、又精製して使用することもでき、さらにアクリル酸を分離して使用することもできる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。尚、以下において、「%」は重量%を意味する。
【0060】
○実施例1
アクリル酸3,000g、ジペンタエリスリトール(以下、「DPET」という)1,470g、78%硫酸70g、ハイドロキノン(以下、「HQ」という)10g及びトルエン2,450gを10L反応釜に仕込み、53kPaの圧力下、100℃に設定したオイルバス中で加熱し、縮合水をトルエンとの共沸水として除去しながら、10時間反応させた。このときの反応液重量は6,400gであった。
反応終了後に、トルエン3,500gを追加した。次いで、純水325gを加えて攪拌した後、静置し、上層(有機相)と下層(水相)に相分離した。
【0061】
この上層(有機相)に、20%水酸化ナトリウム水溶液1,700gを加えて攪拌した後、静置し、9,280gの上層(有機相)と2,270gの下層(水相)を得た。
反応釜からこの下層(水相)(以下、「中和廃水」という)を抜き出し、以下に示す実施例2〜同4、及び比較例1に使用した。
得られた中和廃水を、液体クロマトグラフィー〔島津製作所(株)製、製品名LC−10A〕を使用して、絶対検量線法にて分析したところ、アクリル酸ナトリウムが32.8%(アクリル酸として、25.1%)含有されていた。
【0062】
尚、上層(有機相)については、更に20%水酸化ナトリウム水溶液1,360g加えて攪拌した後、静置し、上層(有機相)と下層(水相)に分離した。この上層(有機相)に、純水400gを加えて攪拌した後、静置し、8,940gの上層(有機相)と下層(水相)に分離した。得られた上層(有機相)にハイドロキノンモノメチルエーテル(以下、「MQ」という)を1.3g添加し、減圧下にトルエンを留去して、2,990gのアクリレートを得た。
【0063】
上記で得られた中和廃水300gに、98%硫酸をpH3になるまで徐々に加えた。添加した98%硫酸は49.2gであった。この時の温度は、22〜37℃であった。
次いで、硫酸を添加した後の液を撹拌しながら液温が10℃になるように冷却し、徐々に硫酸ナトリウムを析出させ、硫酸ナトリウム(固相)とアクリル酸及びアクリル酸ナトリウム(以下、「アクリル酸(塩)」という)を含有する水溶液(水相)に分離させた。硫酸ナトリウム(固相)を、濾過により分離し、アクリル酸(塩)を含有する水溶液(水相)を得た。
得られたアクリル酸(塩)を含有する水溶液は、169.6gであり、アクリル酸(塩)がアクリル酸換算で37.4%含有されており、中和廃水に含まれていたアクリル酸に対してアクリル酸換算で84.2%のアクリル酸(塩)を回収することができた。又、アクリル酸(塩)水溶液中の硫酸ナトリウム濃度をイオンクロマトグラフィー〔日本ダイオネクス(株)製ICS1000型〕で測定した結果は2.5%であった。
尚、析出、回収した硫酸ナトリウムは10水和物の状態であり、179.6gが得られた。
【0064】
○比較例1
実施例1で得られた中和廃水300gに98%硫酸をpH4.2になるまで徐々に加えた。添加した98%硫酸は32gであった。この時の温度は、22〜36℃であった。
次いで、硫酸を添加した後の液を撹拌しながら液温を10℃になるように冷却し、徐々に硫酸ナトリウムを析出させ、アクリル酸(塩)を含有する水溶液と、硫酸ナトリウム(固相)とに分離した。硫酸ナトリウム(固相)を、濾過により分離し、アクリル酸(塩)を含有する水溶液(水相)を得た。
得られたアクリル酸(塩)を含有する水溶液は212gであり、実施例1よりも多い量であった。又、そのアクリル酸(塩)濃度はアクリル酸換算で29.7%で、実施例1より低濃度であり、中和廃水に含まれていたアクリル酸(塩)に対してアクリル酸換算で83.4%のアクリル酸(塩)しか回収できなかった。又、アクリル酸水溶液中の硫酸ナトリウム濃度は4.3%で、実施例1より約2倍含まれ純度が低いものであった。
尚、析出、回収した硫酸ナトリウムは10水和物の状態であり、120.1gが得られた。
【0065】
○実施例2
アクリル酸1,690g、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート1,850g、パラトルエンスルホン酸50g、MQ10g、トルエン3,400gを反応釜に仕込み、60kPaの圧力下、110℃に設定したオイルバス中で加熱し、縮合水を除去しながら、7時間反応させた。このときの反応液重量は6,650gであった。
反応終了後に、トルエン5,000gを追加した。次いで20%水酸化ナトリウム水溶液を770g添加して撹拌した後、静置して上層(有機相)11,400gおよび下層(水相)1,020gに分離した。
この下層(水相)(以下、「中和廃水」という)を抜出し、以下に示す実施例、及び比較例に使用した。
得られた中和廃水を、前記と同様にして分析したところ、アクリル酸ナトリウムが32.0%(アクリル酸として、24.5%)含有されていた。
【0066】
尚、上層(有機相)については、更に20%水酸化ナトリウム水溶液180g加えて攪拌した後、静置し、上層(有機相)と下層(水相)に分離した。この上層(有機相)に、純水400gを加えて攪拌した後、静置し、11,360gの上層(有機相)と下層(水相)に分離した。
得られた上層(有機相)にMQを3.0g添加し、減圧下にトルエンを留去して、2,960gのアクリレートを得た。
【0067】
上記で得られた中和廃水300gに98%硫酸をpH3になるまで徐々に加えた。添加した98%硫酸は49.0gであった。この時の温度は、28〜32℃であった。
次いで、硫酸を添加した後の液を撹拌しながら液温が10℃になるように冷却し、徐々に硫酸ナトリウムを析出させ、アクリル酸(塩)を含有する水溶液と、硫酸ナトリウム(固相)とに分離した。硫酸ナトリウム(固相)を、濾過により分離し、アクリル酸(塩)を含有する水溶液(水相)を得た。
得られたアクリル酸(塩)を含有する水溶液はアクリル酸換算で184.4gであり、アクリル酸(塩)濃度は36.9%含有されており、中和廃水に含まれていたアクリル酸(塩)に対してアクリル酸換算で92.5%のアクリル酸(塩)を回収することができた。又、アクリル酸水溶液中の硫酸ナトリウム濃度は1.8%であった。
尚、析出、回収した硫酸ナトリウムは10水和物の状態であり、164.6gが得られた。
【0068】
○応用例
反応釜にイオン交換水40gを仕込み、窒素シールしながら80℃まで昇温後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1gを添加した。続いて、実施例3で回収したアクリル酸水溶液210gに次亜リン酸ナトリウム5gを溶解したモノマー溶液と10%過硫酸ナトリウム水溶液10gを、重合温度80℃を維持しながら、別々の注入口より反応器に4時間連続的に滴下し、ポリアクリル酸水溶液を得た。
このポリアクリル酸水溶液を48%水酸化ナトリウムにてpH=7.5に中和し、
固形分41.9重量%、粘度264mPa・sのポリアクリル酸ナトリウム水溶液が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のアクリレートの製造方法及びアクリル酸の回収方法によれば、アクリレートの製造に利用することができ、より好ましくは高沸点アクリレートの製造に利用することができ、分離・回収したアクリル酸は、アクリレートやポリマーの製造に再使用することができる。
【符号の説明】
【0070】
(11):第1処理槽
(11)1:処理槽のジャケット
(11)2:処理槽の撹拌翼
(11)3:反応槽からの供給管
(11)4:アルカリ水溶液供給管
(11)5:供給管
(12):第2処理槽
(12)1:硫酸水溶液供給管
(12)2:遠心分離機への供給管
(21):第1処理槽
(21)3:反応槽からの供給管
(21)4:アルカリ水溶液供給管
(21)5:供給管
(22):第2処理槽
(22)1:硫酸水溶液供給管
(22)2:供給管
(23):第3処理槽
(22)1:遠心分離機への供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記第1工程〜第4工程を順次実施するアクリレートの製造方法。
第1工程:酸触媒の存在下に、アクリル酸とアルコールを攪拌・混合し、エステル化反応させアクリレートを含む反応液を得る工程
第2工程:第1工程で得られた反応液にアルカリ水溶液を添加して中和した後、有機相と水相の2相に相分離させ、有機相を分取しアクリレートを回収する工程
第3工程:第2工程で得られた水相を分取し、水相に硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整しながら冷却するか、又は4.0以下に調整した後に冷却し、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を多く含む水相〔以下、「水相(3)」という〕と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させ、かつ
水相(3)中のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程
第4工程:第3工程で得られた固相を分離した後、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を含む水相を回収する工程
【請求項2】
アクリレートが13.3kPaの圧力下の沸点が100℃以上のアクリレートである請求項1記載のアクリレートの製造方法。
【請求項3】
第3工程を0℃以上〜60℃以下の温度で実施する請求項1又は請求項2に記載のアクリレートの製造方法。
【請求項4】
前記第3工程を、下記2段階で実施する請求項1又は請求項2に記載のアクリレートの製造方法。
第3−1工程:第2工程で得られた水相を分取し、水相に硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整し、水相中のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程
第3−2工程:第3−1工程で得られた液を冷却し、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を多く含む水相と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させる工程
【請求項5】
第3−1工程における水相に硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整する操作を、20℃超過〜60℃以下の温度で実施する請求項4に記載のアクリレートの製造方法。
【請求項6】
第3−2工程を0℃以上〜20℃以下の温度で実施する請求項4又は請求項5に記載のアクリレートの製造方法。
【請求項7】
下記第2’工程〜第4’工程を順次実施するアクリル酸の回収方法。
第2’工程:アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩、硫酸アルカリ金属塩、並びに水を含有する液を調整する工程
第3’工程:第2’工程で得られた液に、硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整しながら冷却するか、又は4.0以下に調整した後に冷却し、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を多く含む水相〔以下、「水相(3)’」という〕と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させ、かつ
水相(3)’中のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程
第4’工程:第3’工程で得られた固相を分離した後、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を含む水相を回収する工程
【請求項8】
第3’工程を0℃以上〜60℃以下の温度で実施する請求項7に記載のアクリル酸の回収方法。
【請求項9】
前記第3’工程を、下記2段階で実施する請求項7に記載のアクリル酸の回収方法。
第3−1’工程:第2工程で得られた水相を分取し、水相に硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整し、水相中のアクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩の含有割合をアクリル酸換算で10重量%以上とする工程
第3−2’工程:第3−1’工程で得られた液を冷却し、アクリル酸及び/又はそのアルカリ金属塩を多く含む水相と、硫酸アルカリ金属塩を含む固相に相分離させる工程
【請求項10】
第3−1’工程における水相に硫酸濃度70重量%以上の硫酸水溶液を添加し、pHを4.0以下に調整する操作を、20℃超過〜60℃以下の温度で実施する請求項9に記載のアクリル酸の回収方法。
【請求項11】
第3−2’工程を0℃以上〜20℃以下の温度で実施する請求項9又は請求項10に記載のアクリル酸の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87097(P2013−87097A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230049(P2011−230049)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】