説明

アシュワガンダの葉抽出物の構成成分であるウィザノンを含む正常細胞の寿命延長などのための組成物

【課題】アシュワガンダ葉抽出物に含まれるウィザノン(Withanone)の薬理作用を解明し、その薬理作用に基づいて、新しい医薬用途及び保健用途のための組成物を提供すること。
【解決手段】ウィザノン(Withanone)又はその誘導体を有効成分として含む、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発及び活性保持、正常細胞の酸化的ストレスからの保護作用、正常細胞の紫外線によるDNA損傷または化学毒性からの保護、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性若しくはG6PD欠損症の治療、腫瘍若しくはがんの治療作用若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強作用のための組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシュワガンダの葉抽出物の構成成分であるウィザノンを有効成分として含む、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発及び活性保持、正常細胞の酸化的ストレスからの保護、正常細胞の紫外線によるDNA損傷若しくは化学毒性からの保護、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性若しくはG6PD欠損症の治療、腫瘍若しくはがんの治療若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アーユルベーダは、インドを起源とする5,000年に及ぶ、世界でもっとも古い医学体系の一つである。アーユルベーダは古代サンスクリット語の語源からきており’ayu’は生命を、’ved’は知識を意味し、多くの場合、生命の科学と訳されている。何世紀もの間、預言者や自然科学者たちが考えぬき、発展させてきた健康維持法で、研究・実験を繰り返し、討論を重ね、さらに熟考が加えられてきた。彼らの教えは何千年もの間、師からその弟子へと語り継がれていき、紀元前5-6世紀には、懇切丁寧な指導書が古代インド語のサンスクリット語で書かれている。アーユルベーダは病気の予防、若返り促進、そして寿命を延長する効果がある言われている。さらに最近では、世界中の科学者達がアーユルベーダのハーブ調剤を医療現場で実証する試みをはじめている。
【0003】
アシュワガンダ(Withania somnifera)はアーユルベーダの中で最もすぐれた薬草で、’アーユルベーダの女王’または、’アーユルベーダの賜物’等と呼ばれており、常緑樹でインドの乾燥地帯で見かけられ、高さは1mほどに成長する。葉を一年中付けており、肥沃で、適度の湿気と水はけの良い土地で生育する。根の使用は3,000年以上前から行われている。なお、アシュワガンダは下記のいくつかの呼び名で呼ばれている。Withania somnifera(ラテン語)、アシュワガンダ(サンスクリット語)、アシュガンダ(ヒンズー語)、及びインディアンジンセン(インド人参)または、ウィンターチェリー(英語)
【0004】
アシュワガンダは強壮薬(アーユルベーダ薬草の中で最も信頼されている)として分類され、健康増進、若返り促進薬そして寿命延長をもたらす力があるとして広く評価されている。一般的に信じられている効能は以下の通りである。
【0005】
(抗ストレス作用)
アシュワガンダはアーユルベーダの中でも抗ストレス効果のある薬草として位置付けられており、過酷なストレスに適応できる自然の力を養い、必要に応じて精神力を強化させる。現代語で、adaptogen”適応薬”と言える。さらに勉学や仕事で肉体的、精神的疲労が加えられた時にストレスに適応できる自然の力を向上させる(非特許文献1から3)。
【0006】
(抗炎症作用)
アシュワガンダには抗炎症作用があり、関節の不具合を和らげる。また、アシュワガンダの持つ温感や浸透性は体内の血液の循環を良くする。このためアシュワガンダは 発熱、関節炎、腫瘍や様々な感染症などの処方によく使われている。体力、精力、持久力維持を促進し(非特許文献4から7)、その効力はチョウセンニンジンに匹敵すると言える。
【0007】
(抗酸化作用)
アシュワガンダは重要な抗酸化栄養素である。特に脳細胞においてフリーラジカルによる損傷を抑制することが証明されている。アシュワガンダに含まれている化学物質は強力な抗酸化物と考えられ、これらは体内の三つの抗酸化酵素(スーパーオキサイドジスムターゼ、カタラーゼそしてグルタチオンペルオキシターゼ)を増加させる(非特許文献8から10)。
【0008】
(抗菌作用)
アシュワガンダのアルコールおよび水抽出物は広い範囲の抗菌活性を持っていることが認められている(非特許文献11及び12)。
【0009】
(糖尿病予防)
血液中の血糖値やコレステロール値を低下させることができ、これにより心血管系の状態を良好に保つ(非特許文献13及び14)。
【0010】
(関節炎・月経不順)
関節炎の治療と月経不順に効果があると考えられる(非特許文献15)。
【0011】
(強精作用)
特に男性の生殖機能の強壮薬としての作用があり、健全な性衝動を呼び起こす。さらに精神的安定性を促進しながら性機能を修復し、全体としての活力を引き出す効力がある(非特許文献16)。
【0012】
(神経の刺激)
アシュワガンダは精神を強化するラサヤナ(強壮薬)で、行為を強める効果がある。記憶や問題解決能力を引き出し、脳全体の調和のとれた機能性を高め強化する。さらに神経系に滋養を与える効果があり、神経を強め、神経機能を維持する。
永い間インドの人々はアシュワガンダを認知障害の老人の脳疾患の治療薬として処方してきた(非特許文献17及び18)。
【0013】
(老人性疾患の治療薬)
アシュワガンダは特に老人の健康改善と病気予防に使われている(非特許文献19)。
【0014】
(化学療法)
アシュワガンダの効能は放射線や化学療法を受けている患者に対して、有益な加療法になると考えられる(非特許文献20から22)。
【0015】
元来インドにおいてアーユルベーダ薬として一般的に使用されてきたのは、アシュワガンダの根の部分である。本発明者らは、アシュワガンダの葉の抽出物に効能があるかについて研究を行った。根の部分に比べて葉は採取しやすい上、大量に入手可能だからである。本発明者らはすでに、葉の抽出物に抗変異原効果があることを発表している(非特許文献23及び24)。さらに今回、この葉の抽出物がガン細胞を特異的に死滅させることがわかった(非特許文献25、及び特許文献1)。逆相クロマトグラフィーにより抽出物を成分ごとに分画し実験を行ったところ、葉の抽出物及びその構成成分(ピーク21、NMRによりWithanoneと同定されている)はヒトの正常細胞に影響を与えないこともわかっている(特許文献1)。
【0016】
【非特許文献1】Archana, R., and Namasivayam, A. (1999) J Ethnopharmacol 64, 91-93.
【非特許文献2】Singh, B., Chandan, B. K., Sharma, N., Singh, S., Khajuria, A., and Gupta, D. K. (2005) Phytomedicine 12, 468-481
【非特許文献3】Bhattacharya, S. K., and Muruganandam, A. V. (2003) Pharmacol Biochem Behav 75, 547-555.
【非特許文献4】Anbalagan, K., and Sadique, J. (1981) Indian J Exp Biol 19, 245-249.
【非特許文献5】al-Hindawi, M. K., al-Khafaji, S. H., and Abdul-Nabi, M. H. (1992) J Ethnopharmacol 37, 113-116.
【非特許文献6】Agarwal, R., Diwanay, S., Patki, P., and Patwardhan, B. (1999) J Ethnopharmacol 67, 27-35.
【非特許文献7】Rasool, M., and Varalakshmi, P. (2006) Vascul Pharmacol 44, 406-410
【非特許文献8】Bhattacharya, S. K., Satyan, K. S., and Ghosal, S. (1997) Indian J Exp Biol 35, 236-239
【非特許文献9】Bhattacharya, A., Ghosal, S., and Bhattacharya, S. K. (2001) J Ethnopharmacol 74, 1-6.
【非特許文献10】Russo, A., Izzo, A. A., Cardile, V., Borrelli, F., and Vanella, A. (2001) Phytomedicine 8, 125-132.
【非特許文献11】Owais, M., Sharad, K. S., Shehbaz, A., and Saleemuddin, M. (2005) Phytomedicine 12, 229-235
【非特許文献12】Arora, S., Dhillon, S., Rani, G., and Nagpal, A. (2004) Fitoterapia 75, 385-388
【非特許文献13】Hemalatha, S., Wahi, A. K., Singh, P. N., and Chansouria, J. P. (2004) J Ethnopharmacol 93, 261-264
【非特許文献14】Parihar, M. S., Chaudhary, M., Shetty, R., and Hemnani, T. (2004) J Clin Neurosci 11, 397-402
【非特許文献15】Begum, V. H., and Sadique, J. (1988) Indian J Exp Biol 26, 877-882
【非特許文献16】Ilayperuma, I., Ratnasooriya, W. D., and Weerasooriya, T. R. (2002) Asian J Androl 4, 295-298.
【非特許文献17】Jain, S., Shukla, S. D., Sharma, K., and Bhatnagar, M. (2001) Phytother Res 15, 544-548
【非特許文献18】Shukla, S. D., Jain, S., Sharma, K., and Bhatnagar, M. (2000) Indian J Exp Biol 38, 1007-1013
【非特許文献19】Mishra, L. C., Singh, B. B., and Dagenais, S. (2000) Altern Med Rev 5, 334-346.
【非特許文献20】Prakash, J., Gupta, S. K., Kochupillai, V., Singh, N., Gupta, Y. K., and Joshi, S. (2001) Phytother Res 15, 240-244.
【非特許文献21】Prakash, J., Gupta, S. K., and Dinda, A. K. (2002) Nutr Cancer 42, 91-97
【非特許文献22】Park, E. J., and Pezzuto, J. M. (2002) Cancer Metastasis Rev 21, 231-255
【非特許文献23】Kaur, K., Rani, G., Widodo, N., Nagpal, A., Taira, K., Kaul, S. C., and Wadhwa, R. (2004) Food Chem Toxicol 42, 2015-2020
【非特許文献24】Rani, G., Kaur, K., Wadhwa, R., Kaul, S. C., and Nagpal, A. (2004) Food and Chemical Toxicology in press
【非特許文献25】Widodo, N., Kaur, K., Shreshtha, B., Takagi, Y., Ishii, H., Kaul, S. C., and Wadhwa, R. (2006) Clinc. Cancer. Res.
【特許文献1】WO2005/082392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、アシュワガンダ葉抽出物に含まれるウィザノン(Withanone)の薬理作用を解明し、その薬理作用に基づいて、新しい医薬用途及び保健用途のための組成物を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アシュワガンダ葉抽出物に含まれるウィザノン(Withanone)が正常細胞の寿命延長作用、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発作用及び活性保持作用、正常細胞の酸化的ストレスからの保護作用、正常細胞の紫外線によるDNA損傷及び化学毒性からの保護作用、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性作用及びG6PD欠損症の治療作用、腫瘍及びがんの治療作用及び予防作用、並びにがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強作用を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明によれば、下記式(1):
【化1】

[式中、Xは酸素、窒素、硫黄原子または、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−OCONH−、−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCSNH−基を表し、R1、R2は同一又は異なって、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す]
で示されるウィザノン(Withanone)またはその誘導体を有効成分として含む、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発及び活性保持、又は正常細胞の酸化的ストレスからの保護のための組成物が提供される。
【0020】
本発明によればさらに、下記式で示されるウィザノン(Withanone)を有効成分として含む、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発及び活性保持、又は正常細胞の酸化的ストレスからの保護のための組成物が提供される。
【化2】

【0021】
本発明によればさらに、アシュワガンダの葉抽出物を有効成分として含む、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発及び活性保持、又は正常細胞の酸化的ストレスからの保護のための組成物が提供される。
【0022】
本発明によればさらに、下記式(1):
【化3】

[式中、Xは酸素、窒素、硫黄原子または、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−OCONH−、−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCSNH−基を表し、R1、R2は同一又は異なって、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す]
で示されるウィザノン(Withanone)またはその誘導体を有効成分として含む、正常細胞の紫外線によるDNA損傷または化学毒性からの保護のための組成物が提供される。
【0023】
本発明によればさらに、下記式で示されるウィザノン(Withanone)を有効成分として含む、正常細胞の紫外線によるDNA損傷または化学毒性からの保護のための組成物が提供される。
【化4】

【0024】
本発明によればさらに、アシュワガンダの葉抽出物を有効成分として含む、正常細胞の紫外線によるDNA損傷または化学毒性からの保護のための組成物が提供される。
【0025】
好ましくは、本発明の組成物は、上記化学毒性が治療に用いられる薬剤または環境毒物である。
【0026】
本発明によればさらに、下記式(1):
【化5】

[式中、Xは酸素、窒素、硫黄原子または、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−OCONH−、−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCSNH−基を表し、R1、R2は同一又は異なって、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す]
で示されるウィザノン(Withanone)またはその誘導体を有効成分として含む、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性化又はG6PD欠損症の治療のための組成物が提供される。
【0027】
本発明によればさらに、下記式で示されるウィザノン(Withanone)を有効成分として含む、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性化又はG6PD欠損症の治療のための組成物が提供される。
【化6】

【0028】
本発明によればさらに、アシュワガンダの葉抽出物を有効成分として含む、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性化又はG6PD欠損症の治療のための組成物が提供される。
【0029】
本発明によればさらに、下記式(1)
【化7】

[式中、Xは酸素、窒素、硫黄原子または、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−OCONH−、−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCSNH−基を表し、R1、R2は同一又は異なって、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す]
で示されるウィザノン(Withanone)またはその誘導体を有効成分として含む、腫瘍若しくはがんの治療若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強のための組成物が提供される。
【0030】
本発明によればさらに、下記式で示されるウィザノン(Withanone)を有効成分として含む、腫瘍若しくはがんの治療若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強のための組成物が提供される。
【化8】

【0031】
本発明によればさらに、アシュワガンダの葉抽出物を有効成分として含む、腫瘍若しくはがんの治療若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強のための組成物が提供される。
【0032】
好ましくは、上記した本発明の腫瘍若しくはがんの治療若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強のための組成物は、抗がん剤、より好ましくはドキソルビシン、エトポシドまたは5FUと併用される。
【0033】
本発明によればさらに、組成物が食品、栄養補助食品、医薬品、医薬部外品または化粧品である、上記した本発明の組成物が提供される。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、ウィザノン(Withanone)の正常細胞の寿命延長作用、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発作用及び活性保持作用、正常細胞の酸化的ストレスからの保護作用、正常細胞の紫外線によるDNA損傷及び化学毒性からの保護作用、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性作用及びG6PD欠損症の治療作用、腫瘍及びがんの治療作用及び予防作用、並びにがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強作用が科学的に明らかとなり、その新しい医薬用途もしくは保健用途もしくは医薬部外品用途もしくは化粧品用途の開拓に資することが可能となった。例えば、アシュワガンダ葉抽出物は、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発作用及び活性保持作用、正常細胞の酸化的ストレスからの保護作用、正常細胞の紫外線によるDNA損傷若しくは化学毒性からの保護作用、又は正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性作用が関連する疾患の治療用または予防用組成物の生産に利用することができる。特に、G6PD欠損症、腫瘍若しくはがんの治療用または予防用組成物の生産に利用することができ、がんの治療においては他の抗がん剤と併用することで、上記抗がん剤のがん細胞に対する感受性を増強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(1)アシュワガンダ葉抽出物
アシュワガンダとしては学名Withania somniferaを用いる。アシュワガンダ葉抽出物とは、アシュワガンダの葉を抽出して得られる抽出物である。アシュワガンダの葉は採取したままの新鮮葉、それを乾燥させたもの、または焙煎させたものいずれでもよいが、乾燥させたものが望ましい。原料とするアシュワガンダは天然に生育するものに限定されず、in vitroで培養したものであってもよいが、アシュワガンダ葉に含有される成分の組成はアシュワガンダの産地や樹齢等により若干の差があると考えられるため、本発明のアシュワガンダ葉抽出物を得るためには、インド国内で種から栽培した2〜4年目の植物を用いることが望ましい。
【0036】
本発明におけるアシュワガンダ葉抽出物としては、アシュワガンダの葉をアルコール(水性アルコール)で抽出、濃縮して得られるアルコール抽出物、およびここで得られるアルコール抽出物からクロロフィルなどの色素を除いた残渣をジエチルエーテルで抽出、濃縮して得られるエーテル抽出物、又はこれらの抽出物の成分を用いる。
アルコール抽出物を得るのに使用される水性アルコールとしては、炭素数1〜3の脂肪族アルコールが望ましく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。
【0037】
エーテル抽出物を得るには、上記のようにして得られたアルコール抽出物に水を加えた含水アルコール抽出物をさらに適当な溶媒(例えばヘキサン)で抽出してクロロフィルその他の色素を除いた残渣をジエチルエーテルで抽出、濃縮して得るのが適当である。
本発明におけるアシュワガンダ葉抽出物としては、上記で得られたエーテル抽出物をさらにカラムクロマトグラフィーなどにより精製した画分を用いてもよい。クロマトグラフィーとしては逆相が適当である。
【0038】
エーテル抽出物を逆相に付した場合、次に示す式I(ウィザフェリンA)、式II(12-Deoxywithastramonolide)、式III(ウィザノライドA)、式IV(ウィザノン)に対応する複数のピークを得ることができる。本発明においては、上記の中でも特に、式IV(ウィザノン)に対応するピークを示す成分を精製することにより単離することができる化合物を用いることができる。
【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
本発明における有効成分として、アシュワガンダ葉のエーテル抽出物を逆相クロマトグラフィーにより精製した画分を用いる場合、特に有用であるのは本明細書の実施例2で得られたピーク21の成分を精製して得られた化合物(以下、単にピーク21と称することもある)である。
【0044】
本発明者らは、ピーク21が前記式IVの化合物であるウィザノンに対応することを見出した。よって、正常細胞の寿命延長作用、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発作用及び活性保持作用、正常細胞の酸化的ストレスからの保護作用、正常細胞の紫外線によるDNA損傷及び化学毒性からの保護作用、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性作用及びG6PD欠損症の治療作用、腫瘍及びがんの治療作用及び予防作用、並びにがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強作用を有するようなウィザノン及びウィザノンの誘導体を、本発明においては有効成分として用いることができる。ウィザノン及びウィザノンの誘導体の製造方法は特に限定されるものではなく、アシュワガンダ葉から単離されるほか、単離化合物の化学的変換または合成等によっても製造することができる。かかる化学的変換または合成等の方法は、例えば”Natural Product Reports”(8(4), 415(1991))その他に記載されるような当業者に周知の適当な方法によることができる。
【0045】
ウィザノン又はその誘導体として適切なものを以下の式で示す。
【化13】

【0046】
上記式において、Xは酸素、窒素、硫黄原子または、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−OCONH−、−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCSNH−基を表し、R1、R2は同一または異なって、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す。
【0047】
本発明において「アルキル」としては、例えば、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜5のものを挙げることができる。具体的には、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルを挙げることができる。当該「アルキル」は置換されていてもよく、かかる置換基としては、例えば、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、シアノ、ニトロ、トリメチルシリルを挙げることができ、これらが1〜3個置換されている。
本発明において「アリール」としては、例えば、炭素数6〜12のものを挙げることができる。具体的には、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニルを挙げることができる。当該「アリール」は置換されていてもよく、かかる置換基としては、例えば、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、シアノ、ニトロを挙げることができ、これらが1〜3個置換されている。
本発明において「ヘテロアリール」としては、窒素、酸素、又は硫黄原子を含む1〜2環性の複素環を表す。当該「ヘテロアリール」は置換されていてもよく、かかる置換基としては、例えば、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、シアノ、ニトロを挙げることができ、これらが1〜3個置換されている。
本発明におけるアシュワガンダ葉抽出物として、ピーク21(ウィザノン)あるいはその誘導体を他のアシュワガンダ葉抽出物の成分等その他の化合物と組合わせて用いることもできる。
【0048】
(2)組成物
本発明はさらに、ウィザノン(Withanone)またはその誘導体を有効成分として含む、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発及び活性保持、正常細胞の酸化的ストレスからの保護、正常細胞の紫外線によるDNA損傷または化学毒性からの保護、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性若しくはG6PD欠損症の治療、腫瘍若しくはがんの治療若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強のための組成物を提供し、組成物は食品、栄養補助食品、医薬品、医薬部外品または化粧品の形でありうる。
【0049】
本発明の組成物が医薬用組成物であるときの投与方法は特に限定されるものではなく、経口、経鼻、非経口、経肺、経皮、経粘膜などが可能である。本発明の医薬用組成物は種々の剤形とすることができる。例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができるが、これらに限定されない。また、製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、ビタミンC、抗酸化剤を含むことができるが、これらに限定されない。
【0050】
本発明の医薬用組成物の投与量は、一般的には、アシュワガンダ葉抽出物に換算して成人1日用量として1mg〜1000mg、好ましくは100mg〜500mgを使用する。もちろん個別的に、投与されるヒトの年齢、体重、症状、投与経路、投与期間、治療経過等に応じて変化させることもできる。1日あたりの量を数回に分けて投与することもできる。また、他の抗腫瘍剤や治療法と組み合わせて投与することもできる。
【0051】
本発明の組成物は、食品又は栄養補助食品の形態とすることもできる。例えば、アシュワガンダ葉抽出物を原材料に配合することにより、麺類、パン、キャンディー、ゼリー、クッキー、スープ、健康飲料、焼酎などのアルコール飲料等の形態とすることができる。このような食品、栄養補助食品にはアシュワガンダ葉抽出物の他に、鉄、カルシウム等の無機成分、種々のビタミン類、オリゴ糖、キトサン等の食物繊維、大豆抽出物等のタンパク質、レシチンなどの脂質、ショ糖、乳糖等の糖類を加えることができる。
【0052】
本発明の組成物は、アシュワガンダ葉抽出物を原材料に配合することにより、医薬部外品または化粧品の形態とすることもできる。本発明の組成物を医薬部外品または化粧品とするときは、本発明の効果を損なわない範囲で、アシュワガンダ葉抽出物に加えて、通常医薬部外品や化粧品に用いられる他の成分、例えば油分、湿潤剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、保湿剤、香料、水、アルコール、増粘剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0053】
(3)本発明の組成物が有用な症状
本発明の組成物は、正常細胞の寿命延長作用、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発作用及び活性保持作用、正常細胞の酸化的ストレスからの保護作用、正常細胞の紫外線によるDNA損傷及び化学毒性からの保護作用、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性作用及びG6PD欠損症の治療作用、腫瘍及びがんの治療作用及び予防作用、並びにがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強作用を有する。従って、本発明の組成物はこれらの作用が有用である症状に有効である。本発明の組成物が有用である症状には老化が含まれるが、これに限定されない。本発明の組成物が、正常細胞の寿命延長作用、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発作用及び活性保持作用、正常細胞の酸化的ストレスからの保護作用、正常細胞の紫外線によるDNA損傷及び化学毒性からの保護作用、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性作用及びG6PD欠損症の治療作用、腫瘍及びがんの治療作用及び予防作用、並びにがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強作用を有するかどうかについては、以下に記載する実施例に記載の各方法を用いることができるが含まれるが、これに限定されない。
【0054】
本発明を以下の実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例】
【0055】
実施例1:アシュワガンダ葉抽出物の調製
インド北部で種から栽培した3年目の植物(in vivo 植物)から、10月に、アシュワガンダ(Withania somnifera)の葉を採取した。流水で洗浄し、空気乾燥してから細かい粉末状に破砕した。この粉末状となった葉を、改変ソックスレー法により抽出した(Lavie et al., 1968)。温メタノール(60℃)を用いて、ソックスレー装置で4〜5日間、葉の粉末を徹底的に抽出した。得られたメタノール抽出物をさらにヘキサンで抽出してクロロフィルおよび他の色素を除き、次いで、ジエチルエーテルで抽出し、エバポレーションによりエーテル抽出物を得た。抽出手順のフローチャートを以下に示す。
【化14】

この調製法を用いることにより、アシュワガンダの葉の粉末40gから1.4gの葉抽出物が得られた。
【0056】
実験室でアシュワガンダ(Withania somnifera)のin vitro培養を行う場合は、無菌的に発芽させた幼植物の茎端からin vitroで苗木を育てた。
腋生の茎基部のカルスから栽培した苗条を、6−ベンジルアデニン(BA、2mg/l)あるいはN(2−イソペンテニル)アデノシン単独(2−iP、4mg/l)、あるいはこれら2つの組合わせ(BA、1mg/lおよび2−iP、1mg/l)を添加したMS培地(Murashige and Skoog's medium)で栽培した。これらの植物生長調節物質を用いて栽培された葉を、30日目、60日目、90日目で採取し、空気乾燥して上述の方法で抽出した。
【0057】
実施例2:Lashの構成成分の分析
実施例1の方法でin vivo植物から得たLashのエーテル抽出物を逆相HLPCに付し、構成成分を分析した。
HLPCは次の条件で行った。
カラム:YMC-Pack Pro C-18 (4.6 mm × 150mm)
移動相:A液;1% MeOH水溶液
B液;MeOH:EtOH:i-PrOH=52.25:45.30:2.45
Gradient: 35%B→45%B (25min)
検出:UV: 220nm
カラム温度:50 ℃
流速:1ml / min
図1中の左側のチャートが、この抽出物のものである。標準試料と比較することにより、ピークのうちの3つはウィザフェリンA(Withaferin A:溶出時間16.7mins)、ウィザノライドA若しくはD(Withanolide A or D:19.3mins)、12-deoxywithastramonolide(18.8mins)と同定された。次に、一つのメジャーなピークであるピーク21(Peak 21:21.9mins)の化合物を単離し(図1中の右側のチャート)、以下の実験に用いた。(以下、単にピーク21とも称することがある)
【0058】
また、ピーク21をMASSとNMRとに供し、以下の化合物として同定した。実施例1でin vivo植物から得られたLashエーテル抽出物300mgをシリカゲル薄層クロマトグラフィー(Merck、シリカゲル60F254、ジクロロメタン:メタノール=10:1、Rf=0.43)にて精製し、淡緑色化合物を得た。これをジクロロメタン-メタノールにて、白色粉末18mgを得た。ESI-MASSの結果は、[M+Na]+=493.2であった。1H-NMR及び13C-NMRのケミカルシフト測定値を以下に示す。
1D-NMR
1H-NMR (500MHz, CDCl3):
0.86(S,3H,H-18),1.04(d,J=7Hz,3H,H-21),1.18(S,3H,H-19),1.26-1.40(m,3H,H-11,15),1.53-1.62(m,2H,H-9,H-12),1.67-1.80(m,2H,H-8,H-12),1.88(S,3H,H-27),1.94(S,3H,H-28),1.88-1.95(m,2H,H-16),1.98-2.07(m,1H,H-14),2.30-2.35(m,1H,H-20),2.42-2.56(m,4H,17-OH,H-4,23),2.67-2.71(m,1H,H-4),2.80-2.84(m,1H,H-11),3.05(d,J=3.7Hz,1H,H-6),3.15-3.16(m,1H,5-OH),3.31-3.33(m,1H,H-7),4.59-4.63(m,1H,H-22),5.85(dd,J=10.1,2.6Hz,1H,H-2),6.58-6.61(m,1H,H-3)
13C-NMR (125MHz, CDCl3):
9.5(C-21),12.3(C-27),14.7(C-19),15.1(C-18),20.5(C-28),21.6(C-11),22.9(C-15),32.5(C-12),32.8(C-23),35.2(C-9),36.0(C-8),36.7(C-16),36.8(C-4),42.9(C-20),45.9(C-14),48.7(C-13),51.0(C-10),56.3(C-6),57.2(C-7),73.2(C-5),78.7(C-22),84.6(C-17),121.4(C-25),129.0(C-2),139.7(C-3),150.4(C-24),167.1(C-26),203.1(C-1)
以上より、ピーク21は既知化合物のウィザノン(Withanone)であることが判明した。
【0059】
実施例3:ウィザノンによるガン細胞の死滅
ヒト正常細胞(TIG-1)と様々なガン細胞( PC14, SKBR3, HS578T, MCF7)を異なる濃度のLashもしくはウィザノンで処理した(図2)。細胞の生死はWSTアッセイで測定した。図2でみられるように、 Lashやウィザノンで処理したガン細胞は、死滅した。一方、正常細胞の生死には顕著な影響は見られなかった。
【0060】
実施例4:ウィザノンが正常細胞の寿命に与える効果
正常ヒト肺繊維芽細胞(TIG-1)を、加湿インキュベーター内(37℃及び5%CO2) で、10%胎児ウシ血清(FBS)を補充したダルベッコ改変イーグル最小必須培地(DMEM, Gibco)中でウィザノン(2.5μg/ml及び5μg/ml)の非存在下又は存在下において培養した。細胞はコンフルエントになった時点で、1:8又は1:16の分割比で継代した。連続的な継代を、細胞が老化して分裂を停止するまで行った。細胞分裂の総数は、実験終了時に、分割比(1:8分割は、3回の細胞分裂、1:16分割は4回の細胞分裂)及び継代の数に基づいて計算した。細胞は、細胞分裂50回までは4〜5日に1度継代し、その後は6〜8日に一度継代した。非分裂状態が2週間以上継続した。ウィザノンを添加した培養物の寿命は5〜8回細胞が分裂するまで延びた(図3)
【0061】
実施例5:ウィザノンによる老化細胞に対する抗老化作用
対照及びウィザノンを供給した老化細胞(PD 62)をUV顕微鏡で観察した。自由に選択した領域内について自己蛍光を示す細胞の数を計測し、自己蛍光細胞の百分率をプロットした。老化したヒトの繊維芽細胞(TIG-1)をウィザノンの存在下培養すると、老化のマーカーである自己蛍光が正常細胞よりも弱いことが示された(図4)。
【0062】
実施例6:ウィザノンによる老化細胞に対する抗老化作用
対照及びウィザノンを供給した細胞を、細胞染色老化バイオアッセイキット(Cell Staining Senescent BioAssayTM Kit) (US Biological, USA)を用いて内生β−galについて染色した。β−gal陽性細胞の数をランダムに選択した領域で3回の独立した実験で計測し、β−gal陽性細胞の百分率をプロットした。老化したヒトの繊維芽細胞(TIG-1)をウィザノンの存在下で培養すると、老化のマーカーであるβ−gal陽性細胞の数が正常細胞よりも少なくなった(図5)。
【0063】
実施例7:ウィザノンによるプロテアソーム活性化作用
TIG-1細胞をウィザノン(5μg/ml)で48時間処理した。細胞を溶解バッファー(20 mM Tris pH-7.6, 0.5%tritonX-100, 250mM NaCl, 3mM EDTA 及びprotease inhibitor cocktail (Complete Mini; Roche Diagnostics K.K., Basel, Switzerland))中で溶解した。プロテアソームアッセイは以下の通り行った。20 μgのタンパク質溶解物をHepes緩衝液(0.1 M, pH-7.8)中の10μMのN-succinyl-LLVY-AMCとともに37℃で45分間インキュベートした。停止溶液(30mM酢酸ナトリウム, 70 mM酢酸、及び100 mMモノクロロ酢酸ナトリウム)を添加して反応を停止し、350/460 (励起/放射)の吸光度を分光光度計で測定した。ECGC (200 μg/ml、48時間の処理)及びCurcumin (15μg/ml,処理)をポジティブコントロールとして用いた。正常細胞をwithanoneで処理するとプロテアソーム活性が誘導された(図6)。
【0064】
実施例8:ウィザノンによる酸化ストレスに対する防護作用
TIG-1細胞を、ウィザノンの存在下又は非存在下で、Hで2時間処理することにより酸化ストレスに供した。細胞を、Hで処理した後、48時間培養し、顕微鏡下で観察し撮影した。細胞をメタノール:アセトン(1:1)で固定化し、クリスタルバイオレット(メタノール中5%)で染色した。染色した細胞を顕微鏡下で撮影した。細胞の生存を、WST−1細胞生存キット(ロシュ)を用いて測定した。その結果、ウィザノンは正常細胞を酸化ストレスから保護した。細胞をウィザノンの存在下及び非存在下で酸化剤H2O2により2時間処理した場合、ウィザノンの存在下では細胞の生存率が上昇した(図7)。
【0065】
実施例9:ウィザノンによる、プロテアソーム阻害剤(Expoximicin)により引き起こされる老化の早期化の防止
TIG-1細胞を、プロテアソーム阻害剤(Epoximicin)で1時間処理して、老化の早期化を誘導した。細胞を48時間培養し、顕微鏡で観察し、撮影した。細胞をメタノール:アセトン(1:1)で固定化し、クリスタルバイオレット(メタノール中5%)で染色した。染色した細胞を顕微鏡下で撮影した。細胞の生存を、WST−1細胞生存キット(ロシュ)を用いて測定した。ウィザノンは、プロテアソーム阻害剤であるExpoximicinにより引き起こされる老化の早期化から正常細胞を保護した(図8)。
【0066】
(実施例の考察)
老化は複雑な現象であり、個人の遺伝子や環境といった様々な要因によって影響される。老化に伴いタンパク質が損傷されたり、酸化されたタンパク質が除かれなくなると、それらの酸化されたタンパク質は次第に蓄積される。プロテアソームは通常のタンパク質の他に、損傷を受けたり変異、もしくは誤った立体構造をとったタンパク質を分解するのに重要な役割を果たしている。生物は老化に伴い次第にタンパク質の分解効率が悪くなり、通常損傷されたタンパク質を除去することにより保たれているタンパク質の質の維持や、分解されたタンパク質の維持管理が適切に行われなくなると、変異などの修飾を受けたタンパク質が蓄積され、老化した人の機能低下に大きな影響を与えると言われている(Richter-Landsberg, C., and Bauer, N. G. (2004) Int J Dev Neurosci 22, 443-451; Farout, L., and Friguet, B. (2006) Antioxid Redox Signal 8, 205-216;Proctor, C. J., Soti, C., Boys, R. J., Gillespie, C. S., Shanley, D. P., Wilkinson, D. J., and Kirkwood, T. B. (2005) Mech Ageing Dev 126, 119-131;Grune, T. (2000) Biogerontology1, 31-40;及びMartinez-Vicente, M., Sovak, G., and Cuervo, A. M. (2005) Exp Gerontol 40, 622-633)。プロテアソームの機能を巧みに操作することにより、分解されたタンパク質の蓄積を管理することができ、また老化した体を若返らせることが出来る可能性もある。プロテアソームの機能を刺激することはアンチエイジングの重要な手法であると考えられる(Rattan, S. I. (2004) Ann N Y Acad Sci 1019, 554-558)。このことから考えると、withanoneは単独もしくはlashなどの他の因子などと組み合わせる事により、アンチエイジングに効果的な化合物である可能性がある(図7及び図8を参照)。
さらにプロテアソームの機能を生化学レベルで刺激することで、細胞を酸化的損傷や化学物質によるプロテアソームの阻害から守っている正常細胞をwithanoneで処理すると損傷の蓄積が押さえられ、老化を抑制し細胞の寿命が長くなる。
【0067】
実施例10:ウィザノンによる、紫外線により引き起こされるDNAダメージの防護
ウィザノンが、紫外線により引き起こされるDNAダメージからヒト正常細胞を防御することを検証した(図9)。ヒト間葉系幹細胞を紫外線(10MJ/cm)に暴露後、DMEM培地内でウィザノンの存在下または非存在下で約12時間培養した。DNA損傷マーカーであるp53タンパク質のレベルをウェスタンブロッティングによって検出した。図9に示したように、ウィザノンで処理した細胞中のp53レベルは、コントロールよりも低く、ウィザノンが細胞を紫外線により引き起こされるDNA損傷から防御する事を示唆している。
【0068】
実施例11:ウィザノンによる抗がん作用
アシュワガンダの葉抽出物とその成分であるウィザノンがGlucose 6 phospho dehydrogenase(G6PD)を活性化することを検証した(図10)。ヒト正常繊維芽細胞をアシュワガンダの葉抽出物(Lash)と精製した成分(ウィザノン)の混合物で12〜24時間処理し、G6PDの酵素活性をティアンらの方法(Tian, et al., 1994, JBC, 269, 14798-14805)を用いて測定した。図10に示すように上記混合物はG6PDの酵素を活性化した。
【0069】
なお、G6PDはエネルギー産生において酸化還元反応を触媒する必須酵素であり、その欠失は溶血性貧血として知られる貧血の原因となる。G6PDはX染色体上に存在し、G6PD欠損症は男性においては一染色体上の変異が原因となりを引き起こされる。全世界で4億人がこの病気にかかっている。
【0070】
実施例12:ウィザノンによる化学毒性防護作用
ウィザノンを豊富に含むアシュワガンダ葉抽出物(i−FALP)の抗がん作用を測定した(図11)。図11のAのウィザノンをin vivo腫瘍抑制実験(ヌードマウスを使用)と毒性実験(通常マウスを使用)に使用した。マウスに通常の固形飼料と水を十分量与え、飼育室の環境に3日間適応させた(温度24±2℃、湿度55〜65%、12時間毎の照明サイクル)。i−FALPを一日おきに2ヶ月与え続けた。i−FALPは滅菌した2%カルボキシメチルセルロース(CMC)と混合し、柔軟性テフロン(登録商標)ニードルで食道にインジェクションした。体重測定と一般的な健康状態のチェックを2ヶ月間行った。in vivo腫瘍形成実験においてはBalb/cヌードマウスに対してヒト繊維肉腫細胞(HT1080)を腹の両側2箇所に皮下注射した(液体培地0.5 mlに10個の細胞)。その後15−20日間、i−FALPを与えたマウス群とコントロールのマウス群を観察した。
【0071】
i−FALPを経口投与することにより腫瘍の形成が著しく阻害された(図11のB、C)。コントロールマウス群においては15−20日の間に18匹中17匹で大きな腫瘍が形成されたが、i−FALPを投与したマウスにおいては18匹中3匹で大きな腫瘍が形成され、3匹で小さな腫瘍が、3匹で腫瘍芽が、残りの6匹では完全に腫瘍の形成を抑制がみられた。インジェクションしたがん細胞が少ないほう(マウスあたり10個と比較して10個程度)が腫瘍形成の抑制効果が高かったことから、i−FALPは穏やかな抗がん作用を持つことが考えられ、がんの予防薬として効果が期待できる。さらに、i−FALPを一日おきに与え続ける6週間の長期投与実験では、図11のDに示すように、コントロール群との間に体重において大きな差は見られなかった。
【0072】
実施例13:ウィザノンによる、正常細胞における化学毒性からの保護−増殖アッセイ
ウィザノンを豊富に含むアシュワガンダ葉抽出物(図11Aに示したi−Factor)を用いて、抗がん剤(ドキソルビシン、エトポシド、5FU)によって引き起こされる細胞毒性の影響を正常細胞で検証した(図12)。細胞増殖アッセイで示したように、i−Factorはヒトがん細胞の3種類すべての抗がん剤に対する感受性を高めるが、正常細胞では細胞毒性を抑制した。
【0073】
実施例14:ウィザノンによる、正常細胞における化学毒性からの保護−細胞周期アッセイ
Withaferi−Aは正常細胞においてG2期で細胞周期を停止させることによって、細胞毒性を示す(図13のA−cとA−aの比較)。i−Factorの添加によって細胞毒性(図13のA−cとA−dの比較)と細胞周期の異常(図13のB−cとB−d)は見られなくなる。細胞周期の定量的解析はパネルC、Dに示した。
i−FactorとWithaferin−Aのヒト正常細胞に対する影響を細胞周期解析により検討した。Witaferin−AはG2期で細胞周期を停止させたが、Witaferin−Aとi−Factorを同時に作用させると細胞周期の停止が見られなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、Lashの逆相クロマトグラフィーによる成分分析とwithanoneの同定を示す。ピーク21がwithanoneである。
【図2】図2は、ウィザノンがガン細胞に与える効果を測定した結果を示す。
【図3】図3は、ウィザノンが正常細胞の寿命に与える効果を測定した結果を示す。
【図4】図4は、ウィザノンによる老化細胞に対する抗老化作用を測定した結果を示す。
【図5】図5は、ウィザノンによる老化細胞に対する抗老化作用を測定した結果を示す。
【図6】図6は、ウィザノンによるプロテアソーム活性化作用を測定した結果を示す。
【図7】図7は、ウィザノンによる酸化ストレスに対する防護作用を測定した結果を示す。
【図8】図8は、ウィザノンによる、プロテアソーム阻害剤(Expoximicin)により引き起こされる老化の早期化の防止を測定した結果を示す。
【図9】図9は、ウィザノンによる、紫外線により引き起こされるDNAダメージの防護作用を測定した結果を示す。
【図10】図10は、ウィザノンによるグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性化を測定した結果を示す。
【図11】図11は、ウィザノンによる抗がん作用を測定した結果を示す。
【図12】図12は、ウィザノンによる化学毒性防護作用を測定した結果を示す。
【図13】図13は、ウィザノンによる、ウィザフェリ−A(Withaferi−A)により引き起こされる細胞周期異常を回復させる作用を測定した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

[式中、Xは酸素、窒素、硫黄原子または、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−OCONH−、−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCSNH−基を表し、R1、R2は同一又は異なって、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す]
で示されるウィザノン(Withanone)またはその誘導体を有効成分として含む、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発及び活性保持、又は正常細胞の酸化的ストレスからの保護のための組成物。
【請求項2】
下記式で示されるウィザノン(Withanone)を有効成分として含む、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発及び活性保持、又は正常細胞の酸化的ストレスからの保護のための組成物。
【化2】

【請求項3】
アシュワガンダの葉抽出物を有効成分として含む、正常細胞の寿命延長、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発及び活性保持、又は正常細胞の酸化的ストレスからの保護のための組成物。
【請求項4】
下記式(1):
【化3】

[式中、Xは酸素、窒素、硫黄原子または、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−OCONH−、−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCSNH−基を表し、R1、R2は同一又は異なって、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す]
で示されるウィザノン(Withanone)またはその誘導体を有効成分として含む、正常細胞の紫外線によるDNA損傷または化学毒性からの保護のための組成物。
【請求項5】
下記式で示されるウィザノン(Withanone)を有効成分として含む、正常細胞の紫外線によるDNA損傷または化学毒性からの保護のための組成物。
【化4】

【請求項6】
アシュワガンダの葉抽出物を有効成分として含む、正常細胞の紫外線によるDNA損傷または化学毒性からの保護のための組成物。
【請求項7】
上記化学毒性が、治療に用いられる薬剤または環境毒物である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
下記式(1):
【化5】

[式中、Xは酸素、窒素、硫黄原子または、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−OCONH−、−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCSNH−基を表し、R1、R2は同一又は異なって、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す]
で示されるウィザノン(Withanone)またはその誘導体を有効成分として含む、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性化又はG6PD欠損症の治療のための組成物。
【請求項9】
下記式で示されるウィザノン(Withanone)を有効成分として含む、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性化又はG6PD欠損症の治療のための組成物。
【化6】

【請求項10】
アシュワガンダの葉抽出物を有効成分として含む、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼ(G6PD)の活性化又はG6PD欠損症の治療のための組成物。
【請求項11】
下記式(1):
【化7】

[式中、Xは酸素、窒素、硫黄原子または、−OCO−、−COO−、−CONH−、−NHCO−、−OCONH−、−NHCOO−、−NHCONH−、−NHCSNH−基を表し、R1、R2は同一又は異なって、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールを表す]
で示されるウィザノン(Withanone)またはその誘導体を有効成分として含む、腫瘍若しくはがんの治療若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強のための組成物。
【請求項12】
下記式で示されるウィザノン(Withanone)を有効成分として含む、腫瘍若しくはがんの治療若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強のための組成物。
【化8】

【請求項13】
アシュワガンダの葉抽出物を有効成分として含む、腫瘍若しくはがんの治療若しくは予防、又はがん細胞の抗がん剤に対する感受性増強のための組成物。
【請求項14】
抗がん剤と併用される、請求項11〜13に記載の組成物。
【請求項15】
上記抗がん剤がドキソルビシン、エトポシドまたは5FUである、請求項14に記載に組成物。
【請求項16】
組成物が食品、栄養補助食品、医薬品、医薬部外品または化粧品である、請求項1から15のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−195704(P2008−195704A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316852(P2007−316852)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】