説明

アジスロマイシン含有可逆性熱ゲル化水性組成物

【課題】
ゲル化温度がより低い新規可逆性熱ゲル化水性組成物を提供する。
【解決手段】
従来の可逆性熱ゲル化水性組成物に、アジスロマイシンを添加した新規可逆性熱ゲル化水性組成物である。これにより、従来の組成物よりも、ゲル化温度の低い可逆性熱ゲル化水性組成物が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジスロマイシンを配合した可逆性熱ゲル化水性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許2729859号には、メチルセルロースを用いた体温でゲル化する可逆性熱ゲル化水性医薬組成物が開示されている。この組成物は、投与前は液体で投与しやすく、かつ、投与後体温でゲル化し粘性が上昇するので投与部位における薬物の滞留性が向上し、薬物のバイオアベイラビリティ(BA)が向上するという利点を持つ。現在、この特徴を活かした点眼剤が実用化されている。
【0003】
また、特許3450805号には、2w/v%水溶液の20℃における粘度が12mPa・s以下であるメチルセルロースを必須成分として含有する可逆性熱ゲル化水性医薬組成物が開示されている。この可逆性熱ゲル化水性医薬組成物は、上記の特許2729859号の組成物に比較して、ゲル化温度が低く、かつ、熱(体温)による粘度上昇が速い組成物であることが示されている。さらに、この薬物含有組成物を点眼剤とした場合、特許2729859号により調製された組成物に比較して、数倍高い薬物の眼組織移行性を示したことが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許2729859号公報
【特許文献2】特許3450805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、より低い温度でゲル化する新規の可逆性熱ゲル化水性組成物または可逆性熱ゲル化水性抗菌組成物の構築にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、メチルセルロースとアジスロマイシンとを配合することを最も主要な特徴とする、従来の可逆性熱ゲル化水性医薬組成物よりも、低温でゲル化する可逆性熱ゲル化水性医薬組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は、より低温でゲル化する。そのため、従来の可逆性熱ゲル化水性組成物よりも、生体に投与した場合、薬物の高いBAが得られ、より効果的な治療効果が期待できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物のゲル化温度は、冷所では液体であり哺乳類の体温でゲル化することが所望されることから、約20℃〜約40℃であることが好ましい。
【0009】
本発明で用いられるアジスロマイシンには、特に制限はないが、アジスロマイシン無水物、アジスロマイシン1水和物、アジスロマイシン2水和物などが好適である。また、アジスロマイシンの薬学的に許容される塩、例えばクエン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩またはフマル酸塩などの多価カルボン酸塩も好適である。
【0010】
本発明におけるアジスロマイシンの使用濃度範囲は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、アジスロマイシンとして0.1〜5w/v%であることが好ましい。アジスロマイシンの濃度が5w/v%以下の場合、アジスロマイシンが水溶液として調製しやすい範囲にあるので好ましく、また、0.1w/v%以上の場合、組成物のゲル化温度がより低くなるので好ましい。
【0011】
本発明に用いられるメチルセルロース(以下、MCと略称する)は、そのw/v%水溶液の20℃における粘度が3〜12000ミリパスカル・秒の範囲のものであればいずれのMCでも単独または混合して使用することができる。メトキシル基の含有率は水に対する溶解性の観点から26〜33%の範囲が好ましい。さらにMCはその水溶液の粘度により区別され、例えば、市販品の品種には表示粘度4、15、25、100、400、1500または8000(数字は 2w/v%水溶液の20℃粘度のミリパスカル・秒)のものがあり、容易に入手可能である。好ましくは表示粘度4〜400のMCが、取り扱いやすいため好ましい。MCの概要、規格、用途、使用量及び商品名などについては医薬品添加物事典(日本医薬品添加物協会編集、薬事日報社発行)に詳細に記載されている。
【0012】
本発明におけるMCの使用濃度範囲は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、0.2〜7w/v%であることが好ましい。MCの濃度が7w/v%以下の場合、組成物の粘度が取り扱いやすい範囲にあるので好ましく、また、MCの濃度が0.2w/v%以上の場合、体温でゲル化しやすいので好ましい。
【0013】
本発明に用いられるポリエチレングリコール(以下、PEGと略称する)は、PEG-200、-300、-600、-1000、-1540、-2000、-4000、-6000、-20000、-50000、-500000、-2000000及び-4000000の商品名で和光純薬工業(株)からまたマクロゴール-200、-300、-400、-600、-1000、-1540、-4000、-6000または-20000の商品名で日本油脂(株)より販売されている。本発明の基剤に用いられるPEGの重量平均分子量は300〜50000が好ましく、1000〜20000が特に好ましい。重量平均分子量が300以上の場合には体温による液体-ゲル相転移を起こしやすく、重量平均分子量が50000以下の場合には液体状態での粘度が高くなりすぎないため好ましい。また、2種以上のPEGを混合して重量平均分子量を上記の至適範囲内に調整することも可能である。PEGの概要、規格、用途、使用量及び商品名などについては医薬品添加物事典(日本医薬品添加物協会編集、薬事日報社発行)に詳細に記載されている。
【0014】
本発明に用いられるアミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、プロリンまたはメチオニンなどが好適である。また、薬学的に許容し得る塩としては、塩酸塩、硫酸塩、ナトリウム塩またはカリウム塩などが好適である。
【0015】
本発明のPEG、アミノ酸もしくはその薬学的に許容される塩の使用濃度範囲は、本発明の効果が得られれば特に制限はない。例えば、PEGの使用濃度は0.1〜13w/v%が好適である。アミノ酸の使用濃度は0.01〜7w/v%が好適で、より好ましくは0.05〜4w/v%である。
【0016】
本発明に用いられるオキシ酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸または乳酸などが好適である。また、オキシ酸の薬学的に許容し得る塩としては、ナトリウム塩またはカリウム塩などが好適である。
【0017】
本発明のオキシ酸もしくはその薬学的に許容される塩の使用濃度範囲は、本発明の効果が得られれば特に制限はない。例えば、オキシ酸として0.01〜7w/v%が好適で、より好ましくは0.1〜4w/v%である。
【0018】
従って、0.1〜5w/v%のアジスロマイシン、0.2〜7w/v%のMC、0.1〜13w/v%のPEG及び0.1〜4w/v%のオキシ酸からなる可逆性熱ゲル化水性組成物は本発明の好ましい態様のひとつである。
【0019】
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物に配合されているアジスロマイシンは、ゲル化温度を下げる物質として添加することを目的としているが、アジスロマイシンの性質上、抗菌作用を目的として本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を投与することができる。
【0020】
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物に、さらに、別の薬物も配合することができる。薬物としては、例えば、レボフロキサシン、オフロキサシン、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、トスフロキサシン、ガチフロキサシンまたはモキシフロキサシンなどのニューキノロン類、塩酸セフメノキシムなどのセフェム系抗生物質、スルベニシリンナトリウムなどの合成ペニシリン薬、硫酸ミクロノマイシン、硫酸シソマイシン、硫酸ジベカシン、硫酸ゲンタマイシンまたはトブラマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質、クロラムフェニコールなどの抗生物質、アシクロビルまたはイドクスウリジンなどの抗ウイルス剤、フルオロメトロン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、リン酸ベタメタゾンナトリウム、酢酸ヒドロコルチゾン、メタスルホ安息香酸デキサメタゾンナトリウム、リン酸デキサメタゾンナトリウム、フルオロシノロンアセトニドまたはジフルプレドナートなどのステロイド、ジクロフェナクナトリウム、プラノプロフェン、ブロムフェナクナトリウムまたはインドメタシンなどの非ステロイド抗炎症剤、塩酸フェニレフリン、トロピカミド、硫酸アトロピン、塩酸ジピベフリン、塩酸シクロペントラートまたは臭化水素酸ホマトロピンなどの散瞳剤、塩酸ピロカルピンまたは臭化ジスチグミンなどの縮瞳剤、塩酸オキシブプロカインまたは塩酸リドカインなどの局所麻酔剤、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、マレイン酸チモロール、塩酸カルテオロール、塩酸ドルゾラミド、ブリンゾラミド、塩酸ニプラジロール、塩酸レボブノロール、塩酸ベタキソロール、塩酸ブナゾシン、塩酸ジピベフリン、塩酸アプラクロニジンまたは塩酸ベフノロールなどの緑内障薬、などを好適には挙げることができる。これら薬物の配合量は期待される薬効が得られる濃度であれば特に制限はない。
【0021】
本発明で用いられる可逆性熱ゲル化水性組成物は、その特性を生かして、注射剤、経口剤、点耳剤、点鼻剤、点眼剤または塗布剤などに使用することができる。
【0022】
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は、好適にはpH4〜10に調整され、pH6〜8で調整されることがより好ましい。本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物のpHを調整するために、通常添加される種々のpH調整剤が使用される。酸類としては、例えば、アスコルビン酸、塩酸、グルコン酸、酢酸、乳酸、リン酸、硫酸またはクエン酸などが挙げられる。塩基類としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンなどが挙げられる。その他のpH調整剤として、グリシン、ヒスチジンまたはイプシロンアミノカプロン酸などのアミノ酸類なども挙げることができる。ただし、ホウ酸もしくはその塩の添加はアジスロマイシンの分解を促進するので禁忌である。
【0023】
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製するにあたって、薬学的に許容し得る等張化剤、可溶化剤、保存剤及び防腐剤などを必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物に添加することができる。等張化剤としてはキシリトール、マンニトール、ブドウ糖等の糖類、プロピレングリコール、グリセリン、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムなどが挙げられる。可溶化剤としては、ポリソルベート80またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。保存剤としては塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムまたはグルコン酸クロルヘキシジンなどの逆性石鹸類、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、パラヒドロキシ安息香酸ブチル等のパラベン類、クロロブタノール、フェニルエチルアルコールまたはベンジルアルコールなどのアルコール類、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムなどの有機酸及びその塩類またはチメロサールなどの水銀類が使用できる。また、その他の添加剤としてヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールまたはポリアクリル酸ナトリウム等の増粘剤、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)及びそれらの薬学的に許容される塩、トコフェロール及びその誘導体または亜硫酸ナトリウムなどの安定化剤が挙げられる。
【0024】
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物の製法を例示する。アジスロマイシンと多価カルボン酸を水に溶解する。これとは別にMCとPEGを70℃以上の熱水に分散させ、氷冷する。ここに、先のアジスロマイシンと多価カルボン酸溶液を添加し、氷冷下よく混合する。さらに、オキシ酸もしくはアミノ酸、薬物、添加剤などを添加し、溶解し、良く混合する。pH調整剤でpHを調整し、滅菌精製水でメスアップし、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を調製する。
本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物を点眼剤とするために、調製した本発明の組成物をメンブランフィルターによるろ過滅菌後、プラスチック製点眼ボトルなどの容器に充填する。
【実施例】
【0025】
〔実施例1〜4〕
アジスロマイシン1.0gを滅菌精製水30mLに分散後、クエン酸1水和物0.2gを徐々に添加し、攪拌溶解する。これとは別にメチルセルロース(信越化学工業(株)製、メトローズ(登録商標)SM-4)およびポエチレングリコール(マクロゴール4000、日本油脂(株)製)を所定量混合し、ここに85℃に加熱した滅菌精製水50mLを添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、クエン酸ナトリウムもしくはグリシンを所定量徐々に添加し、溶解後均一に混合した。ここに、先に調製したアジスロマイシン-クエン酸水溶液を添加し、氷冷下均一になるまで攪拌混合した。さらに、1NのNaOHもしくは1NのHClでpHを7.0に調整後、滅菌精製水で全容量を100mLとし、本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物(実施例1〜4)を調製した。
また、比較例(比較例1〜4)として、アジスロマイシンを添加しない比較用可逆性熱ゲル化水性組成物を同様な方法で調製した。
【0026】
〔試験例〕
上記の実施例及び比較例で調製した可逆性熱ゲル化水性組成物のゲル化温度を評価した。
・ゲル化温度の測定:
調製した可逆性熱ゲル化水性組成物をB型粘度計用のステンレス製容器に入れ、所定の温度に保持した水槽に容器ごと5分間静置した。静置後直ちに、B型粘度計を用いて粘度を測定した。各温度における可逆性熱ゲル化水性組成物の粘度を測定し、ゲル化温度を求めた。
表1に調製した可逆性熱ゲル化水性組成物の処方とゲル化温度を示した。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例で示された本発明の可逆性熱ゲル化水性組成物は、何れの処方でも、アジスロマイシンを含まない比較例の可逆性熱ゲル化水性組成物に比較して、ゲル化温度が低いことが示された。
【0029】
〔実施例5〕
アジスロマイシン1.0gを滅菌精製水30mLに分散後後、クエン酸1水和物0.2gを徐々に添加し、攪拌溶解する。さらに、レボフロキサシン0.3を添加し、攪拌溶解した。これとは別にメチルセルロース(SM-4)3.0gおよびポエチレングリコール(マクロゴール4000)3.0gを混合し、ここに85℃に加熱した滅菌精製水50mLを添加し、攪拌することで分散させた。均一に分散したことを確認後、攪拌しながら氷冷した。全体が澄明になったことを確認し、クエン酸ナトリウム2.4gを徐々に添加し、溶解後均一に混合した。ここに、先に調製したレボフロキサシン-アジスロマイシン-クエン酸水溶液を添加し、氷冷下均一になるまで攪拌混合した。さらに、1NのNaOHもしくは1NのHClでpHを7.0に調整後、滅菌精製水で全容量を100mLとし、本発明のレボフロキサシン-アジスロマイシン含有可逆性熱ゲル化水性組成物を調製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルセルロースとアジスロマイシンからなる可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項2】
さらに、ポリエチレングリコール、アミノ酸もしくはその薬学的に許容される塩、もしくは、オキシ酸もしくはその薬学的に許容される塩から選ばれる少なくともいずれか1種を含む請求項1に記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項3】
オキシ酸がクエン酸もしくはその薬学的に許容される塩である請求項3に記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。
【請求項4】
さらに、薬物を含む請求項1〜3に記載の可逆性熱ゲル化水性組成物。

【公開番号】特開2007−277095(P2007−277095A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196515(P2004−196515)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000100492)わかもと製薬株式会社 (22)
【Fターム(参考)】