説明

アジド分解活性を有する微生物、及びその利用

【課題】新規アジドの分解経路を解明すると共に、アジドの安全かつ簡便な分解処理を行う新規技術を提供すること。
【解決手段】Rhizobiaceae科Agrobacterium属に属し、アジド分解活性を有する微生物を提供する。該微生物は、毒性や爆発性を有するアジドを、穏和な条件下で分解することができる。そのため、本発明に係る微生物を用いれば、安全かつ簡便に、アジドを分解することが可能である。また、本発明に係る微生物は、毒性や爆発性を有するアジドを、穏和な条件下で分解し、アミンを生産することができる。アミンは、有用物質も多く、毒性のないものがほとんどであるため、有用なアミンの生産へも大きく貢献することが期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジド分解活性を有する微生物に関する。より詳しくは、Rhizobiaceae科Agrobacterium属に属し、アジド分解活性を有する微生物、並びに、該微生物を使用したアジド分解方法及びアミン生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アジドは、化学式1で示すように、3原子の窒素が互いに二重結合で繋がった官能基を持つ化合物の総称である。
【0003】
【化1】

【0004】
アジドは極めて反応性に富む化合物であり、その多くが毒性や爆発性を有している。このようなアジドの性質を利用して、例えば、大変強力な爆発性を持つ重金属のアジド塩の一種であるアジ化鉛(PbN)は、銃弾や地雷の信管として、また、アジ化ナトリウム(NaN)は、自動車エアバックの起爆剤として用いられている。
【0005】
また、アジドは、ペルオキシダーゼやチトクロームCオキシダーゼ等の金属酵素を阻害する作用も有するため、分析カラムの緩衝液や抗原検出試薬などに静菌剤として用いられている。
【0006】
一方、アジドの毒性を利用した種々の開発も進んでいる。その代表的なものとして、化学式2に示すデオキシチミジン3’位の水素原子をアジド基に置換した3’−アジド−3’−デオキシチミジン(AZT)は、AIDS治療薬として使用されている。
【0007】
【化2】

【0008】
AIDS治療薬のように、アジドを薬剤として利用する技術は、近年、飛躍的に開発が進められている。例えば、特許文献1には、3’−アジド−3’−デオキシチミジン(AZT)の副作用を軽減し、抗ウイルス活性と安全性が高く、かつ物理化学的にも安定な3′−アジド −3′−デオキシチミジル−(5′,5′)−2′,3′−ジデオキシ−5′−イノシン酸(AZT−P−DDI)カルシウム塩が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、毒性を持たず、高い抗レトロウイルス活性を有する(+)−S−アデノシルメチオニン(SAM)及び3’−アジド −2’,3’−ジデオキシヌクレオシド及び/またはこれらの塩からなる化合物が開示されている。
【0010】
このように、アジドは種々の分野で利用されている化合物であるが、その多くは毒性や爆発性がある上に、廃棄処理技術が不十分であるため、利用が敬遠される傾向にある。廃棄処理技術としては、例えば、特許文献3に、廃棄処分しようとするアジド含有溶液を、チオ硫酸塩の存在下において、沃素および沃化物を含有する溶液で処理することを特徴とするアジドを酸化分解する方法および処理剤が開示されている。
【0011】
一方、天然界では、赤潮の構成生物である渦鞭毛虫(Gymnodinium breve)が、毒性を示すアジド6-azidotetrazolo[5,1-α]phthalazine(化学式3参照)を実際に生産していることが分かっている。
【0012】
【化3】

【0013】
このように、天然界にもアジド化合物が存在することから、生物によるアジドの生合成のみならず、アジドの分解も行われているものと予想されるが、如何にして生合成・生分解されるかについての報告は全く無く、その代謝およびそれに関わる酵素等に関する研究は報告されていないのが現実である。
【0014】
【特許文献1】特開平09−48793号公報
【特許文献2】特開平10−139795号公報
【特許文献3】特開平06−206082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述の通り、種々の分野において利用価値のあるアジドは、今後、更なる応用分野の構築が期待されるが、その一方で、廃棄処理技術の開発が停滞していると、有用物質としてのアジドの開発に関しても停滞を招く恐れがある。
【0016】
そこで、本発明では、新規アジドの分解経路を解明すると共に、アジドの安全かつ簡便な分解処理を行う新規技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者らは、前記課題を解決すべく、あらゆる方法を用いて、アジド分解活性を有する微生物の探索を行った。そして、アジドに耐性を示す微生物に着目し、アジドに耐性を示す微生物を更に探索することで、本発明を完成させるに至った。
【0018】
本発明では、まず、Rhizobiaceae科Agrobacterium属に属し、アジド分解活性を有する微生物を提供する。
本発明に係る微生物は、アジド分解活性を有していれば、その菌学的性質は特に限定されないが、例えば、以下の表1に記載された菌学的性質を有する微生物を挙げることができる。
【表1】

また、本発明に係る微生物は、アジド分解活性を有していれば、該微生物が有する塩基配列も特に限定されないが、例えば、配列番号1に示す塩基配列に対して95%以上の相同性を有する塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物を挙げることができる。
以上の特徴を有している微生物は全て本発明に係る微生物に含有されるが、具体的な一例としては、アジド分解活性を有する微生物TM16株(FERM P−21489)またはその変異株を挙げることができる。
【0019】
本発明に係る前記微生物は、アジド分解活性を有するため、アジド分解に好適に用いることが可能である。
本発明に係るアジド分解方法では、炭素源として、Lactose monohydrate、Succinic acid disodium salt、D-(-)-Mannitolの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養させた後に、アジド分解を行うことが好ましい。
また、本発明に係るアジド分解方法では、窒素源として、Beef extract、Meat extract、Yeast extract、Casitone、NZ Amine,Type A、Peptoneの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養させた後に、アジドの分解を行うことも好ましい。
更に、本発明に係るアジド分解方法では、4-Azidobenzoic acid、及び/又はp-Tolylhydrazine hydrochlorideを少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養させた後に、アジドの分解を行うことも好ましい。
加えて、本発明に係る微生物は、アジドを分解してアミンを生産するアミン生産方法に好適に用いることが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る微生物は、毒性や爆発性を有するアジドを、穏和な条件下で分解することができる。そのため、本発明に係る微生物を用いれば、安全かつ簡便に、アジドを分解することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0022】
<微生物>
本発明に係る微生物は、Rhizobiaceae科Agrobacterium属に属し、アジド分解活性を有する微生物である。
【0023】
本発明に係る微生物は、アジド分解活性を有していれば、その菌学的性質は特に限定されないが、例えば、前記表1に記載された菌学的性質を有する微生物を挙げることができる。
【0024】
また、本発明に係る微生物は、アジド分解活性を有していれば、該微生物が有する塩基配列も特に限定されないが、例えば、配列番号1に示す塩基配列に対して95%以上の相同性を有する塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物を挙げることができる。
【0025】
以上の特徴を有している微生物は全て本発明に係る微生物に含有されるが、具体的な一例としては、アジド分解活性を有する微生物TM16株(FERM P−21489)を挙げることができる。該微生物は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(郵便番号305−8566 日本国茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6)に受託番号FERM P−21489で寄託した。
【0026】
TM16株は、Rhizobiaceae科Agrobacterium属に属するAgrobacterim tumefaciensに帰属する微生物であることが示唆されている(後述の実施例4参照)。
【0027】
なお、前記微生物TM16株(FERM P−21489)を親株とし、TM16株と同様にアジド分解活性を有する変異株も、本発明に係る微生物に含まれる。
【0028】
本発明に係る微生物は、土壌または汚泥中の存在する微生物を、アジドを用いて多段階的にスクリーニングすることにより得ることができる。
【0029】
スクリーニングの具体的方法は、アジドを用いていれば、その方法は特に限定されず、自由に設計することが可能である。例えば、アジドを単一窒素源として生育する微生物をスクリーニングする方法、アジドに耐性を有する微生物をスクリーニングする方法など選択することが可能であるが、本発明に係る微生物を確実に得るには、アジドに対する耐性を利用してスクリーニングする方法が好ましい。
【0030】
アジドに対する耐性を利用してスクリーニングする場合、アジドの毒性としての選択圧を高めるために、培地中に基質として用いるアジドを、高濃度に含有させることが望ましい。例えば、アジドとして、化学式4に示す4-Azidobenzoic acid(以下、「AzBA」と称する。)を用いる場合には、0.001%以上含有させると良い。なお、本発明に係る微生物のスクリーニングの具体例は、後述の実施例2に示している。
【0031】
【化4】

【0032】
本発明に係る微生物は、一般的な培地を用いて培養することができるが、特に、炭素源として、Lactose monohydrate、Succinic acid disodium salt、D-(-)-Mannitolの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で培養することが好ましい。得られる菌体量を増加させることができるからである。この中でも特に、D-(-)-Mannitolを含有した培地がより好適である。D-(-)-Mannitolを含有した培地で本発明に係る微生物を培養すると、高いアジド分解活性を維持したまま菌体量を増加させることができるからである。
【0033】
また、窒素源として、Meat extract、Yeast extract、Casitone、NZ Amine,Type A、Peptoneの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養することが好ましい。得られる菌体量を増加させることができるからである。また、窒素源として、Beef extractを含有させると、本発明に係る微生物のアジド分解活性が上昇するため、より好適である。
【0034】
また、前記化学式4に示すAzBA及び/又は下記化学式5に示すp-Tolylhydrazine hydrochloride(以下「pTH」と称する。)を少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養することが好ましい。これらの物質は、本発明に係る微生物のアジド分解活性を上昇させるためである。なお、pTHを用いる場合には、好ましくは、0.015%以上0・030%未満、より好ましくは、0.015%以上0.025%の濃度で用いることとよい。
【0035】
【化5】

【0036】
本発明に係る微生物が分解することができるアジドの種類は特に限定されないが、例えば、前記化学式4で示すAzBA、Azidomethyl Phenyl Sulfide、Azido-o-benzoyl lactic acidなどのアジドを分解することができる。なお、本発明に係る微生物が、AzBAを分解すると、下記化学式6に示すp-Aminobenzoic acid(以下「AmBA」と称する。)が生成すると考えられる。
【0037】
【化6】

【0038】
<アジド分解方法>
本発明に係る微生物は、アジド分解活性を有するため、毒性や爆発性を有するアジドの分解に好適に用いることができる。
【0039】
本発明に係るアジド分解方法は、本発明に係る微生物を用いてアジド分解を行えばその方法は特に限定されず、自由に設計することができる。例えば、(1)本発明に係る微生物の培養液や、本発明に係る微生物の凍結乾燥品を培地、緩衝液、生理食塩水、水などに懸濁した懸濁液を、分解目的のアジドに添加する方法、(2)前記培養液または懸濁液中に、分解目的のアジドを含有させる方法、(3)本発明に係る微生物を含む組成物を予め調製し、該組成物を分解目的のアジドに添加する方法、などが挙げられる。なお、組成物の調製には、前記培養液または懸濁液などを用いることができる。
【0040】
本発明に係るアジド分解方法は、本発明に係る微生物を用いてアジド分解を行えば、その前工程は特に限定されないが、炭素源として、Lactose monohydrate、Succinic acid disodium salt、D-(-)-Mannitolの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養させた後に、アジド分解を行うことが好ましい。アジド分解に利用できる菌体量を増加させることができるからである。この中でも特に、D-(-)-Mannitolを含有した培地がより好適である。D-(-)-Mannitolを含有した培地で本発明に係る微生物を培養すると、高いアジド分解活性を維持したまま菌体量を増加させることができるからである。
【0041】
また、窒素源として、Meat extract、Yeast extract、Casitone、NZ Amine,Type A、Peptoneの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養させた後に、アジド分解を行うことが好ましい。アジド分解に利用できる菌体量を増加させることができるからである。また、窒素源として、Beef extractを含有させた培地で、本発明に係る微生物を培養させた後にアジド分解を行うと、本発明に係る微生物のアジド分解活性が上昇するため、より好適である。
【0042】
また、前記化学式4に示すAzBA及び/又は前記化学式5に示すpTHを少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養させた後に、アジド分解を行うことが好ましい。これらの物質は、本発明に係る微生物のアジド分解活性を上昇させるためである。なお、pTHを用いる場合には、好ましくは、0.015%以上0・030%未満、より好ましくは、0.015%以上0.025%の濃度で用いることとよい。
【0043】
本発明に係るアジド分解方法で分解することができるアジドの種類は特に限定されないが、例えば、前記化学式4で示すAzBA、Azidomethyl Phenyl Sulfide、Azido-o-benzoyl lactic acidなどのアジドを分解することができる。
【0044】
<アミン生産方法>
本発明に係る微生物は、アジド分解活性を有し、アジドを分解してアミンを生成することができため、アミンの生産に好適に用いることができる。
【0045】
本発明に係るアミン生産方法は、本発明に係る微生物を用いてアジド分解し、アミンの生産を行えばその方法は特に限定されず、自由に設計することができる。例えば、(1)本発明に係る微生物の培養液や、本発明に係る微生物の凍結乾燥品を培地、緩衝液、生理食塩水、水などに懸濁した懸濁液を、アジドに添加してアミンを生産する方法、(2)前記培養液または懸濁液中に、アジドを含有させて、アミンを生産する方法、(3)本発明に係る微生物を含む組成物を予め調製し、該組成物をアジドに添加してアミンを生産する方法、などが挙げられる。なお、組成物の調製には、前記培養液または懸濁液などを用いることができる。
【0046】
本発明に係るアミン生産方法は、本発明に係る微生物を用いてアジドを分解し、アミンの生産を行えば、その前工程は特に限定されないが、炭素源として、Lactose monohydrate、Succinic acid disodium salt、D-(-)-Mannitolの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養させた後に、アミンの生成を行うことが好ましい。アミン生産に利用できる菌体量を増加させることができるからである。この中でも特に、D-(-)-Mannitolを含有した培地がより好適である。D-(-)-Mannitolを含有した培地で本発明に係る微生物を培養すると、高いアジド分解活性、即ち、アミン生産能力を維持したまま菌体量を増加させることができるからである。
【0047】
また、窒素源として、Meat extract、Yeast extract、Casitone、NZ Amine,Type A、Peptoneの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養させた後に、アミンの生産を行うことが好ましい。アミンの生産に利用できる菌体量を増加させることができるからである。また、窒素源として、Beef extractを含有させた培地で、本発明に係る微生物を培養させた後にアミンの生産を行うと、本発明に係る微生物のアジド分解活性、即ち、アミン生産能力が向上するため、より好適である。
【0048】
また、前記化学式4に示すAzBA及び/又は前記化学式5に示すpTHを少なくとも含む培地で、本発明に係る微生物を培養させた後に、アミンの生産を行うことが好ましい。これらの物質は、本発明に係る微生物のアジド分解活、即ち、アミン生産能力を向上させるためである。なお、pTHを用いる場合には、好ましくは、0.015%以上0・030%未満、より好ましくは、0.015%以上0.025%の濃度で用いることとよい。
【0049】
本発明に係るアミン生産方法を用いれば、あらゆる種類のアミンが生産できる。例えば、前記化学式6に示すAmBA、Aminomethyl Phenyl Sulfide、Amino-o-benzoyl lactic acidなどを生産することが可能である。
【実施例1】
【0050】
<スクリーニング方法の構築>
実施例1では、本発明に係る微生物のスクリーニング方法の構築を行った。具体的には、アジド単一窒素源培地を用いたスクリーニングを行った。なお、本文中に特に購入先の記載がない試薬は、東京化成工業株式会社、ナカライテスク株式会社、和光純薬株式会社より購入した(以下の実施例も同様)。
【0051】
(1)培地の作製
まず、表2に示すアジド単一窒素源液体培地を作製した。単一窒素源として、4-Azidobenzoic acid(以下、「AzBA」と称する。)(東京化成工業株式会社製)を0.01%で用いた。また、寒天平板培地は、表2に示す液体培地組成に1.5%(w/v)Agarを添加したものを用いた。なお、表2中のVitamin mixtureの配合組成は、表3に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
(2)単離
AzBA培地10mL(25×200mm試験管)に、茨城県つくば市、茨城県板東市周辺で春から秋にかけて採取した計148種類の土壌及び湖沼サンプルを加えて、28℃で振盪培養した。その後、1週間単位で新しい液体培地に1%ずつ植菌した。この操作を3回繰り返すことで集積をかけ、得られた菌体培養液を寒天平板培地上に適量塗布し、28℃で静置培養を行った。発生した単一コロニーを新しい寒天平板培地に植菌し、単離を行った。
【0055】
(3)菌体懸濁液の調製
単離した各菌株を、それぞれAzBA培地10mL(25×200mm試験管)に植菌し、28℃で1週間培養した。菌体を遠心(15,000rpm、10min、4℃)することにより集菌し、0.1MのPotassium phosphate buffer(以下「KPB」と称する。)(pH7.5)で2回洗浄して、0.1MのKPB(pH7.5)でOD600=10程度に懸濁し各菌体懸濁液とした。
【0056】
(4)アジド分解活性測定
調製した各菌体懸濁液に、2mMのAzBA、0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.5)を加え、全量を1mLとし、培養温度28℃で6時間反応させ、15,000rpm、10min、4℃で遠心を行った。その後、表4に示す条件で、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(LC−6Aシステム(株式会社島津製作所製))を用いてアジド分解活性を測定した。なお、酵素活性の目安となる1unit(U)を、1分間当たりに1μmolの4-Aminobenzoic acid(以下「AmBA」と称する。)(ナカライテスク株式会社製)を生成する酵素量と定義し、比活性はOD600=10あたりの活性値(U/OD600=10)で表した。
【0057】
【表4】

【0058】
(5)結果・考察
TSK-GEL AMIDE-80分析カラムを用いた場合の市販品のAzBA(アジド基質)、AmBA(推定アジド分解産物)の分析チャート、休止菌体反応後の分析チャートを、それぞれ、図1から図3に示す。
【0059】
AzBA培地を用いたスクリーニングにより、5つのアジド分解微生物を単離することには成功したが、いずれも得られる菌種やAzBA培地での菌体量が少ない上に、活性についても著しく低いものばかりであった。
【0060】
実施例1では、アジドを単一窒素源としたスクリーニング方法には限界があることが確認できた。この結果により、本発明に係る微生物のスクリーニングは、AzBA培地に補助的に栄養源を加えた培地を用いる方法が有効であると示唆された。
【実施例2】
【0061】
<スクリーニング>
実施例2では、実施例1の結果に基づき、アジド自体の栄養源(窒素源)で選択圧をかけるのではなく、アジドの顕著な特徴である毒性に着目し、選択圧をかけるという手法で、本発明に係る微生物のスクリーニングを行った。
【0062】
また、得られる菌種や菌体量を増やすために、AzBA培地に補助的な栄養源(窒素源)として、Casamino acids(日本製薬株式会社製)を用いた。
【0063】
(1)培地の作製
まず、表5に示すCasamino acids添加液体培地を作製した。添加するCasamino acidsは0.3%の濃度で添加し、アジド(AzBA)は、毒性としての選択圧を高めるために、実施例1で作製したAzBA培地より高い濃度である0.02%に設定して用いた。また、寒天平板培地は、表2に示す液体培地組成に1.5%(w/v)Agarを添加したものを用いた。なお、表5中のVitamin mixtureの配合組成は、前記表3と同様である。
【0064】
【表5】

【0065】
(2)単離
AzBA−Cas培地10mL(25×200mm試験管)に、茨城県つくば市、茨城県板東市周辺で5月にかけて採取した計20種類の土壌及び湖沼サンプルを加えて、28℃で振盪培養した。その後、1週間単位で新しい液体培地に1%ずつ植菌した。この操作を3回繰り返すことで集積をかけた後、3回目の菌体培養液を集菌して、実施例1と同様の方法で活性測定を行い、活性の見られるサンプルのみを選抜した。
【0066】
選抜した菌体培養液を寒天平板培地上に適量塗布し、28℃で静置培養を行った。発生した単一コロニーを新しい寒天平板培地に植菌し、単離を行った。
【0067】
(3)菌体懸濁液の調製
単離した各菌株を、それぞれAzBA−Cas培地10mL(25×200mm試験管)に植菌し、28℃で1週間培養した。菌体を遠心(15,000rpm、10min、4℃)することにより集菌し、0.1MのPotassium phosphate buffer(以下「KPB」と称する。)(pH7.5)で2回洗浄してOD600=10程度に調製し、0.1MのKPB(pH7.5)0.5mLに懸濁し各菌体懸濁液とした。
【0068】
(4)アジド分解活性測定
調製した各菌体懸濁液を、実施例1と同様の方法で、アジド分解活性を測定し、アジド分解の高い微生物を上位10株まで絞り込んだ。
【0069】
各候補微生物を、AzBA−Cas培地で三日間培養した後、新しいAzBA−Cas培地に1%ずつ植菌して、それぞれの生育曲線を記録した。得られた生育曲線をもとに、各微生物の対数増殖期と定常期における培養液を採取し、最も生育の悪い株の吸光度に濁度を合わせて、実施例1と同様の方法で活性測定を行った。吸光度はOD600で測定した。
【0070】
(5)結果・考察
各候補微生物のアジド分解活性の測定結果を図4に示す。アジド分解活性の測定は、定常期(Stationary Phase)及び対数増殖期(Logarithmic Phase)のそれぞれにおいて行った。図4に示す通り、5−5株について有意なアジド分解活性が確認できたため、これを「TM16株」と命名した。
【実施例3】
【0071】
<TM16株の形態的解析、資化性試験、生化学的解析>
実施例3では、実施例2で得たTM16株の菌学的諸性質の解析を行った。具体的には、形態的解析(細胞形態、グラム染色、胞子形成、運動性、コロニー形態)、資化性試験、生化学的試験(API 20NE、bioMerieux)、グラム染色写真撮影、電子顕微鏡写真(JSM−5800LV、JEOL)撮影を行った。なお、実際の試験は、株式会社テクノスルガ・ラボへ委託した。
【0072】
(1)結果・考察
グラム染色写真を図5に、電子顕微鏡写真(JSM−5800LV、JEOL)を図6にそれぞれ示す。TM16株は、形態的に、グラム陰性(図5参照)の桿菌(0.7−0.8×1.0−2.0μm)(図6参照)で、胞子形成を行わず、運動性を持つことが分かった。また、LB寒天培地で24時間培養した場合のコロニー形態は、表6に示す特徴を示した。
【0073】
【表6】

【0074】
また、生化学試験の結果を表7に、資化性試験の結果を表8にそれぞれ示す。
【0075】
【表7】

【0076】
【表8】

【実施例4】
【0077】
<塩基配列解析>
実施例4では、実施例2で得たTM16株の16S ribosomal DNAの塩基配列の解析を行った。
【0078】
(1)PCR(Polymerase Chain Reaction)
実施例2で得たTM16株を、28℃で3日間、実施例2で作製したAzBA−Cas培地を用いて培養し、Mag Extractor MFX−6000システム(東洋紡株式会社製)を用い、Mag Extracter -genome- DNA fragment purification kit(東洋紡株式会社製)でDNAを抽出後、表9に示すオリゴヌクレオチドプライマーと酵素KOD plus DNA polymerase(東洋紡株式会社製)を用いて、TM16株の16Sribosomal DNA配列を増幅した。
【0079】
【表9】

【0080】
なお、前記PCRは宝酒造株式会社製のPCR Thermal Cycler MPを用い、温度サイクルは(i)94℃,2分;1サイクル、(ii)94℃,30秒;53℃,30秒;68℃,3分;30サイクルで行った。
【0081】
(2)ゲル抽出
増幅させたDNA断片を、1%アガロースゲルを用いた電気泳動を行い、エチジウムブロマイドで染色した。目的のバンドをゲルより切り出し、Mag Extracter -PCR & Gel Clean Up- DNA fragment purification kit(東洋紡株式会社製)を用いてゲル抽出を行った。
【0082】
(3)シークエンス反応
シークエンス反応は、は前記で得たPCR産物を鋳型とし、表10AからFに示すいずれかのオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた。反応はDNA Sequenceing Kit BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction(アプライドバイオシステムズ ジャパン株式会社製)を用いたジデオキシ法で行った。
【0083】
【表10】

【0084】
(4)DNA配列の決定
反応産物をエタノール沈澱によって濃縮・乾燥させ、HiDi Formamide(アプライドバイオシステムズ ジャパン株式会社製)を加えて、95℃で2分間加熱・急冷後、ABI Prism 310 genetic analyzer(アプライドバイオシステムズ ジャパン株式会社製)に供し、16S ribosomal DNA配列を決定した。16S ribosomal DNA配列を配列表中の配列番号1に示す。
【0085】
(5)配列相同性解析
前記で決定したTM16株の16S ribosomal DNA塩基配列を、Ribosomal Database Project IIによるオンライン相同性検索(http://rdp.cme.msu.edu/)を行った結果、Agrobacterium tumefaciens type strain ATCC19358(配列番号2)と99.1%の一致を示した。
【0086】
(6)結果・考察
TM16株の16S ribosomal DNA塩基配列と、Agrobacterium tumefaciens type strain ATCC19358(配列番号2)との比較結果を図7に示す。図7中下線部分の配列は、不一致箇所を示す。
【0087】
実施例3の形態的解析、資化性試験、生化学的解析の結果、及びTM16株の16S ribosomal DNA塩基配列より、TM16株はAgrobacterium tumefaciensに帰属されることが示唆された。
【0088】
なお、Agrobacteriumは、Rhizobiaceae科に属する植物病原菌の一種であり、植物細胞に感染しクラウンゴール腫瘍を形成する害菌である一方、植物へ外来遺伝子を導入するための形質転換系として現在広く利用されている有用菌種でもある。
【実施例5】
【0089】
<培養条件の検討>
実施例5では、TM16株の菌体量及びアジド分解活性を上昇させるために、最適な培養条件の検討を行った。具体的には、最適な炭素及び窒素源の探索を行った。
【0090】
(1)培地の作製
a)炭素源比較用の培地
実施例2で作製したAzBA−Cas培地中のGlycerol(ナカライテスク株式会社製)を、同濃度の炭素源(i)Succinic acid disodium salt(ナカライテスク株式会社製)、(ii)Starch, soluble(ナカライテスク株式会社製)、(iii)Citric acid monohydrate(ナカライテスク株式会社製)、(iv)Lactose monohydrate(ナカライテスク株式会社製)、(v)Maltose monohydrate(ナカライテスク株式会社製)、(vi)Sucrose(ナカライテスク株式会社製)、(vii)D-Glucitol (Sorbitol) (ナカライテスク株式会社製)、(viii)D-(-)-Mannitol(ナカライテスク株式会社製)、(ix)D-(+)-Glucose(ナカライテスク株式会社製)に置換した培地を作製した。
【0091】
b)窒素源比較用の培地
実施例2で作製したAzBA−Cas培地中のCasamino acids(日本製薬株式会社製)を、同濃度の窒素源(i)Beef extract(REMEL Inc.製)、(ii)Extract, from Bonito(和光純薬株式会社製)、(iii)Meat extract(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)、(iv)Yeast extract(日本ベクトンディッキンソン株式会社製)、(v)Casitone(日本ベクトンディッキンソン株式会社製)、(vi)NZ Amine, Type A(和光純薬株式会社製)、(vii)Peptone(和光純薬株式会社製)、(viii)NHPO(ナカライテスク株式会社製)、(ix)(NHPO(ナカライテスク株式会社製)、(x)NHCl(ナカライテスク株式会社製)、(xi)KNO(ナカライテスク株式会社製)に置換した培地を作製した。
【0092】
(2)各培地での培養
TM16株を実施例2で作製したAzBA−Cas培地10mLを用いて24時間、28℃で前培養を行い、定常期の菌体を遠心(15,000rpm、10min、4℃)することにより集菌した。0.1MのKBP(pH7.5)で2回洗浄後、0.1MのKBP(pH7.5)10mLに懸濁し、前記で作製した炭素源または窒素源を置換したそれぞれの培地10mLに1%ずつ植菌した。各培地で3日間、28℃で培養した。
【0093】
(3)アジド分解活性測定
アジド分解活性測定は、実施例1と同様の方法で行った。
【0094】
(4)結果・考察
各炭素源を用いた場合の菌体量及びアジド分解活性の比較を図8に、各窒素源を用いた場合の菌体量及びアジド分解活性の比較を図9にそれぞれ示す。図8では、Glycerolで培養した際の菌体量及びアジド分解活性を100%として、図9では、Casamino acids(DAIGO)で培養した際の菌体量及びアジド分解活性を100%として比較した。なお、Glycerolで培養した際の比活性は、0.002U/OD600=10、Casamino acids(DAIGO)で培養した際の比活性は0.002U/OD600=10であった。
【0095】
図8に示す通り、炭素源をGlycerolから他の炭素源へ置換した場合、アジド分解活性の上昇は確認できなかった。しかし、菌体量については、(iv)Lactose monohydrate、(i)Succinic acid disodium salt 、(viii)D-(-)-Mannitolで置換した場合に、有意な増加が見られた。中でも、(viii)D-(-)-Mannitolは、高いアジド分解活性を維持したまま菌体量を増加させることが示唆された。従って、本発明に係る微生物の培養条件における炭素源としては、(viii)D-(-)-Mannitolが好適であることが分かった。
【0096】
図9に示す通り、窒素源をCasamino acids(DAIGO)から(i)Beef extractに置換した場合、アジド分解活性の上昇が確認できた。また、窒素源をCasamino acids(DAIGO)から(iii)Meat extract、(iv)Yeast extract、(v)Casitone、(vi)NZ Amine,Type A、(vii)Peptoneで置換した場合、菌体量の増加が確認できた。特に(iii)Meat extract、(iv)Yeast extractにおいて顕著な増加が見られた。これはAgrobacterium 属の特徴と合致している(Bergey's manual of determinative bacteriology, 8th ed.1974)。
【0097】
前記の通り、窒素源をCasamino acids(DAIGO)から(i)Beef extractに置換した場合、アジド分解活性の上昇が確認できたが、図9に示す通り、菌体量は4割程度低下した。しかし、4割程度低下しても十分量の菌体である。従って、本発明に係る微生物の培養条件における窒素源としては、(i)Beef extractが好適であることが分かった。
【0098】
また、(viii)NHPO、(ix)(NHPO、(x)NHCl、(xi)KNOを用いた場合でも菌株が生育したことから、最小培地の窒素源としてこれらを利用できることが示唆された。
【実施例6】
【0099】
<アジド分解活性の誘導性の検討>
実施例6では、TM16株のアジド分解活性に対する誘導性を検討した。具体的には、アジド基質の有無による活性値の変化を調査した。
【0100】
(1)培地の作製
実施例2で作製した実施例2で作製したAzBA−Cas培地中のAzBAの濃度を、0%、0.02%とする培地をそれぞれ作製した。
【0101】
(2)各培地での培養
TM16株を、実施例2で用いた2xYT培地10mLを用いて24時間、28℃で前培養を行い、定常期の菌体を遠心(15,000rpm、10min、4℃)することにより集菌した。0.1MのKPB(pH7.5)で2回洗浄後、0.1MのKPB(pH7.5)10mLに懸濁し、前記で作製した各培地10mLに、1%ずつ植菌し、3日間培養した。
【0102】
(3)アジド分解活性測定
アジド分解活性測定は、実施例1と同様の方法で行った。なお、活性測定を行う際の反応時間は10、30、60分間で行った。
【0103】
(4)結果・考察
アジド分解活性測定の結果を図10に示す。図10に示す通り、休止菌体反応60分以下におけるアジド分解産物AmBAの検出量は、顕著な差が認められた(培養時アジド有り[10分〜60分]:比活性0.0020U/OD600=10、培養時アジド無し[10分〜60分]:比活性0.0002U/OD600=10)。本活性は誘導型であると判断した。しかし、図示しないが、その後の経時変化においては、培養時のアジドの有無に関わらずAmBAの生成速度に大きな違いが表れなかったことから(休止菌体反応60分以降において、比活性:0.0020U/OD600=10)、TM16株は休止菌体反応中にアジド分解活性が誘導されることが示唆された。
【実施例7】
【0104】
<アジド分解活性の誘導物質の検討>
実施例7では、TM16株のアジド分解活性を誘導する物質について検討した。具体的には、比較的AzBAに類似した構造の化合物を選択し、TM16株のアジド分解活性の誘導性の有無を調べた。
【0105】
(1)培地の作製
炭素源をD-(-)-Mannitol、窒素源をBeef extractとした培地(以下「MB培地」と称する。)に、各化合物(i)4-Azidobenzoic acid(東京化成工業株式会社製)、(ii)p-Nitrobenzoic acid(和光純薬株式会社製)、(iii)p-Cyanobenzoic acid(東京化成工業株式会社製)、(iv)p-Tolylhydrazine hydrochloride(和光純薬株式会社製)、(v)4-Aminoantipyrine(和光純薬株式会社製)、(vi)4-Chlorophenyl hydroxylamine(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)、(vii)α-picolinyl hydrazide(東京化成工業株式会社製)、(viii)Benzamidine hydrochloride(ナカライテスク株式会社製)、(ix)Nicotinic acid hydrazide(東京化成工業株式会社製)をそれぞれ0.02%含有させた培地を作製した。
【0106】
(2)各培地での培養
TM16株を、実施例2で用いた2xYT培地10mLを用いて24時間、28℃で前培養を行い、定常期の菌体を遠心(15,000rpm、10min、4℃)することにより集菌した。0.1MのKPB(pH7.5)で2回洗浄後、0.1MのKPB(pH7.5)10mLに懸濁し、前記で作製した各培地10mL及び前記化合物を含まないMB培地10mLに、それぞれ1%ずつ植菌し、2日間培養した。
【0107】
(3)アジド分解活性測定
アジド分解活性測定は、実施例1と同様の方法で行った。なお、活性測定を行う際の反応時間は10分間で行った。
【0108】
(4)結果・考察
アジド分解活性測定の結果を図11に示す。図11に示す通り、(i)4-Azidobenzoic acid、(ii)p-Tolylhydrazine hydrochloride(以下「pTH」と称する。)を用いた場合に、アジド分解活性の有意な上昇が見られた。特に、(ii)pTHを用いた場合に、アジド分解活性の上昇が著しかった。
【0109】
実施例7では、(i)4-Azidobenzoic acid、及び(ii)pTHが、本発明に係る微生物のアジド分解活性を誘導することが示唆された。
【実施例8】
【0110】
<pTHの最適濃度の検討>
実施例8では、実施例7でアジド分解活性誘導作用が確認されたpTHについて、最適濃度の検討を行った。
【0111】
(1)培地の作製
MB培地に、pTHを、0.015%、0.02%、0.025%、0.030%、0.035%、0.040%の濃度で加えた培地を作製した。
【0112】
(2)各培地での培養
前記で作製した各培地において、実施例7と同様に培養を行った。
【0113】
(3)アジド分解活性測定
実施例7と同様の方法で、活性測定を行った。
【0114】
(4)結果・考察
アジド分解活性測定の結果を図12に示す。図12に示す通り、pTHを0.02%を添加した場合のアジド分解活性が有意に上昇しており、pTHの濃度が0.030%を超えると、アジド分解活性が低下することが確認できた。
【0115】
以上の結果より、アジド分解活性を誘導するpTHの好ましい濃度は、0.015%以上0・030%未満、より好ましくは、0.015%以上0.025%以下であることが分かった。
【0116】
実施例5から8の結果に基づいて、本発明に係る微生物の最適培地として、表11に示す組成の培地(以下「MBT培地」と称する。)を作製した。なお、表11中のVitamin mixtureの配合組成は、前記表3と同様である。
【0117】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明に係る微生物は、毒性や爆発性を有するアジドを、穏和な条件下で分解することができる。そのため、本発明に係る微生物を用いれば、安全かつ簡便に、アジドを分解することが可能である。従って、毒性や爆発性を有する上に処理技術が不十分であるために、利用が敬遠されてきたアジドに関し、その有用性の研究等の促進にも貢献することができる。
【0119】
また、本発明に係るアミン生産方法では、毒性や爆発性を有するアジドを、穏和な条件下で分解し、アミンを生産することができる。アミンは、有用物質も多く、毒性のないものがほとんどであるため、有用なアミンの生産へも大きく貢献することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施例1におけるAzBA(アジド基質)の分析チャートを示す図面代用グラフである。
【図2】実施例1におけるAmBA(アジド分解産物)の分析チャートを示す図面代用グラフである。
【図3】実施例1における休止菌体反応後の分析チャートを示す図面代用グラフである。
【図4】定常期(Stationary Phase)及び対数増殖期(Logarithmic Phase)における候補微生物のアジド分解活性を比較した図面代用グラフである。
【図5】実施例3におけるTM16株のグラム染色写真(倍率2000倍)を示す図面代用写真である。
【図6】実施例3におけるTM16株の電子顕微鏡写真(SEM、倍率20000倍)を示す図面代用写真である。
【図7】実施例4におけるTM16株の16S ribosomal DNA塩基配列と、Agrobacterium tumefaciens type strain ATCC19358(配列番号2)との比較結果を示す図である。
【図8】実施例5において、各炭素源を用いた場合の菌体量及びアジド分解活性の比較を示す図面代用グラフである。
【図9】実施例5において、各窒素源を用いた場合の菌体量及びアジド分解活性の比較を示す図面代用グラフである。
【図10】実施例6において、アジド分解活性測定の結果を示す図面代用グラフである。
【図11】実施例7において、アジド分解活性測定の結果を示す図面代用グラフである。
【図12】実施例8において、アジド分解活性測定の結果を示す図面代用グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rhizobiaceae科Agrobacterium属に属し、アジド分解活性を有する微生物。
【請求項2】
以下の表1に記載された菌学的性質を有することを特徴とする請求項1記載の微生物。
【表1】

【請求項3】
配列番号1に示す塩基配列に対して95%以上の相同性を有する塩基配列からなる16SrDNAを有することを特徴とする請求項1又は2記載の微生物。
【請求項4】
アジド分解活性を有する微生物TM16株(FERM P−21489)またはその変異株。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物を用いて、アジドを分解するアジド分解方法。
【請求項6】
炭素源として、Lactose monohydrate、Succinic acid disodium salt、D-(-)-Mannitolの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で前記微生物を培養させた後に、アジドの分解を行うことを特徴とする請求項5記載のアジド分解方法。
【請求項7】
窒素源として、Beef extract、Meat extract、Yeast extract、Casitone、NZ Amine,Type A、Peptoneの中から選択される一または二以上の物質を少なくとも含む培地で前記微生物を培養させた後に、アジドの分解を行うことを特徴とする請求項5または6記載のアジド分解方法。
【請求項8】
4-Azidobenzoic acid、及び/又はp-Tolylhydrazine hydrochlorideを少なくとも含む培地で前記微生物を培養させた後に、アジドの分解を行うことを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載のアジド分解方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物を用いて、アジドを分解してアミンを生産するアミン生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−207378(P2009−207378A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51830(P2008−51830)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】