説明

アジルサルタン有機アミン塩、その製造方法及び使用

アジルサルタンアミン塩、その製造方法及び使用を開示する。具体的には、式(I)で表されるアジルサルタンアミン塩、その製造方法、前記化合物の治療的有効量を含有する医薬組成物及び抗高血圧薬の製造におけるその使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジルサルタンアミン塩、その製造方法、当該化合物の治療的有効量を含有する医薬組成物及び抗高血圧薬の製造におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アジルサルタンはアンジオテンシンII1受容体(AT1)の選択的拮抗薬に属し、アンジオテンシンIIの血管平滑筋AT1受容体への結合を選択的に阻害することにより、アンジオテンシンIIにより誘発される血管収縮を妨げ、血圧を下げる。
【0003】
アジルサルタンの分子構造中にはカルボキシル基が存在し、アジルサルタンの生体内での低い吸収性の原因となっている。そのためアジルサルタンは医薬剤形へと調製することが容易ではない。アジルサルタンの生物学的利用率を改善するため、化学修飾によりアジルサルタンはエステルに調製されるが、生物学的利用率は依然として満足できるものではない。また係る修飾によりアジルサルタンの分子構造は複雑となり、合成上の困難が増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アジルサルタンとアミンとにより形成される塩が、優れた薬物動態学的特徴と高い生物学的利用率を有し、また当該塩が、通常の製造プロセスに、より適していることを示す。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(I)で表されるアジルサルタンアミン塩を提供する:
【0006】
【化1】

【0007】
[式中、
Bは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ピペラジン、ジベンジルエチレンジアミン、メグルミン、トロメタミン、テトラメチル第4級アンモニウム、テトラエチル第4級アンモニウム及びコリンから選ばれるアミンであり;好ましくは、エタノールアミン又はコリンである。]
【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【0010】
また本発明は上記化合物の製造方法を提供する。当該方法は、アジルサルタンの酸性型とアミンBとを別々にアルコールなどの有機溶媒に添加し、室温又は加熱下で対応する塩を得ることを含み、前記溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる。
【0011】
また本発明は、有効成分としてアジルサルタンアミン塩の治療的有効量及び製薬学的に許容される担体を含有する、高血圧の治療に使用するための医薬組成物を提供する。
【0012】
さらに本発明は、抗高血圧医薬品の製造における、アジルサルタンアミン塩及びその医薬組成物の使用を提供する。
【0013】
医薬組成物の製造プロセスにおいて、工業的に利用できる製造の観点のみならず、有効成分を含有する医薬品剤形の製造の観点においても、薬物を都合よく適切な剤形に調製することは重要である。
【0014】
他の態様において、患者に投与した後、信頼性があり、再現性があり、かつ一定の薬物血漿濃度曲線を提供することは重要である。
【0015】
他の重要な要素としては、有効成分の化学的耐久性、固体安定性及び保管寿命がある。薬物及び薬物を含む組成物は、これらの有効成分について、化学組成、濃度、吸湿性及び溶解性などの物理的及び化学的性質に明らかな変化がなく、比較的長期にわたり保管できることが望ましい。
【0016】
薬物をできるだけ純粋に提供することも重要である。
【0017】
一般的に、薬物が安定な結晶形などの安定型で得られる場合、当該薬物は下記の利点を提供する:すなわち、簡便な取り扱い、適切な薬物剤形の容易な製造及び信頼できる溶解性であり、この点は当業者に周知である。
【0018】
上記のように、医薬投与単位において有効成分の有効量は無毒性であり、好ましくは0.001〜100mg/kg総重量の範囲から選ばれ、より好ましくは0.001〜50mg/kg総重量の範囲から選ばれる。患者をアジルサルタンアミン塩で治療する場合、選ばれた投与量は好ましくは経口又は非経口で投与される。好ましい非経口形態には、局所投与形態、直腸投与形態、経皮投与形態、注射剤及び連続点滴が含まれる。ヒトへの投与を目的とする経口投与単位は、好ましくは0.05〜3500mgの有効成分を含有し、最も好ましくは0.5〜1000mgの有効成分を含有する。より低用量である経口投与がより好ましい。しかしながら、患者にとって安全であり、かつ簡便であれば、高用量での非経口投与も用いることができる。上記の投与量は、遊離酸として見なされる有効成分の好ましい量と関連する。
【0019】
当業者であれば、個々の患者に対する有効成分投与の最適量及び最適期は、治療する個々の患者の症状の特徴や程度、投与形態、投与経路及び投与部位に依存し、係る最適量及び最適期は従来技術により決定することができるということを理解することができる。また当業者であれば、最適の治療過程、すなわち規定された日数に対する有効成分の1日当たりの投与回数は、従来の試験方法を用いて確定することができるということを理解することができる。
【0020】
本発明において請求されている化合物は経口又は非経口で投与することができ、当該化合物は、異なる投与経路で使用される錠剤、丸薬、粉剤及び顆粒剤に調製することができる。上記固形投与形態において、有効成分は少なくとも1種類の不活性希釈剤と混合される。従来の操作によれば、経口投与形態は、不活性希釈剤に加えて潤滑剤、流動促進剤及び抗酸化剤などの他の物質も含有する。カプセル剤、錠剤及び丸薬にする場合、投与形態は緩衝剤を含有する。また錠剤及び丸薬は、徐放投与形態とすることもできる。
【0021】
非水乳剤を用いることができるが、本発明の非経口投与形態は無菌水溶液を含み、また、例えば防腐剤、湿潤剤、浸透剤、緩衝剤、乳化剤及び分散剤である補助剤をも含有する。滅菌工程では細菌保持フィルターを使用することができ、滅菌剤を組成物に添加することができ、若しくは放射線を使用することができ、又は加熱滅菌することができる。
【発明の効果】
【0022】
アジルサルタンとアジルサルタンのエステルを比較すると、本発明の塩は主に下記の利点を有する:
(1)本発明の塩は水、メタノール、0.1%塩酸などの通常の溶媒に容易に溶解し、通常の投与形態への調製に適合する。
(2)本発明の塩は安定性が改善されている。
(3)本発明の塩は、より優れた生物学的利用率を有する。
(4)本発明の塩の製造方法は、高収率、高純度、迅速性、簡便性及び低価格という利点を有する。ここで、エタノールアミン塩及びコリン塩は、工程経路においてより有利である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0023】
アジルサルタンエタノールアミンの製造
アジルサルタン(酸性型)(1.37 g)をメタノール(30 mL)に添加した後、この混合物に室温でエタノールアミン(0.183 g)を添加し、得られた混合物を加熱還流した。不溶物を濾過して取り除き、濾液を減圧濃縮して溶媒を除去した。残渣にアセトン(20 mL)を加えた後、混合物を2時間撹拌し、濾過し、乾燥させて、白色固体のアジルサルタンエタノールアミン1.45 gを得た。
1H NMR(DMSO-d6+D2O)データ: δ:1.35(t, 3H, CH3), 2.83(t, 2H, CH2),
3.55(t, 2H, CH2), 4.52(q, 2H, CH2), 5.65(s, 2H, CH2),
7.03〜7.51(m, 11H).
【実施例2】
【0024】
アジルサルタンコリンの製造
アジルサルタン(1.37 g)及びコリン(0.79 g)の46%水溶液をエタノール(20 mL)に添加した。この混合物を2時間加熱還流した後、室温で1日間撹拌した。この混合物を減圧下で乾燥させ、溶媒を除去した。酢酸エチル(20 mL)を添加した後、混合物を2時間撹拌し、濾過して、固体のアジルサルタンコリンを得た。
1H NMR(DMSO-d6+D2O)データ: δ:1.35(t, 3H, CH3),
3.83(t, 2H, CH2), 3.55(t, 2H, CH2), 3.06(s, 9H), 4.52(q,
2H, CH2), 5.65(s, 2H, CH2), 7.05〜7.50(m, 11H).
【試験例1】
【0025】
アンジオテンシンII誘発高血圧ラットの血圧に対する本発明の化合物の効果
雄性スプラーグドーリーラット(9〜11週齢、日本クレア株式会社)をペントバルビタール溶液(50 mg/kg、腹腔内投与)で麻酔して手術の準備をした。手術の手順は以下のとおりとした:すなわち、腹部皮膚及び腹壁を切開し、大静脈から大動脈及び静脈を分離し、血流を閉塞してヘパリン(200 U/mL)を含む生理食塩水で満たしたポリエチレン(PE)チューブを血管内に導入し、皮下の切り込みを通してPEチューブを出し、頸背部にPEチューブを固定した。回復期の後、ラットに100 ng/kgのアンジオテンシンII(AII)を静脈内投与して高血圧を誘発した。PEチューブは、血圧計増幅器(2238、NEC三栄)に連結した圧力トランスデューサーに結合させた。動物は、24時間を通しての平均収縮期血圧に基づき登録した。平均収縮期血圧が140 mmHg未満の動物は本試験からすべて除外し、残りの動物を2群に分けた。各群には等モル量の被検物質を単回経口投与した。ラットには24時間後に再度AIIを静脈内注射し、ラットの血圧を血圧計により測定した。投与後のラット血圧抑制率を算出した。被検物質は0.5%メチルセルロース中の処方とし、すべての動物に対して投与量を2 mL/kgとした。結果は平均±標準誤差(S.E.)で表わした(表1)。
【0026】
【表1】

【0027】
試験結果: 本発明の化合物による処置後、血圧は顕著に低下し、抑制は長時間持続した。
【試験例2】
【0028】
アンジオテンシンII誘発高血圧犬の血圧に対する本発明の化合物の効果
この試験では、雄性ビーグル犬(体重12.0〜14.7 kg、北山ラベス株式会社)を使用した。犬はペントバルビタール溶液(50 mg/kg、腹腔内投与)で麻酔し、手術の準備をした。手術の手順は以下のとおりとした:すなわち、呼吸を制御するため気管内挿管し、大腿部及び頸背部を毛刈りして、犬を仰臥位に固定し、イソジン溶液(明治製菓株式会社)により皮膚を滅菌し、右大腿部の皮膚を切開し、大腿動脈を分離し、血流を閉塞して鏡カテーテル(5 F、ミラー社)及びポリウレタンチューブを大動脈及び静脈にそれぞれ導入し、皮下の切り込みを通してチューブを出し、背部にチューブを固定した。次に壁を閉じ、皮膚を縫合してから、滅菌するためペニシリンGカリウム(明治製菓株式会社、40000単位)を筋注した。動物には、術後介護のため40000単位のペニシリンGカリウムを1日1回、3日間筋注した。試験を進める前に回復期間を置いた。
【0029】
動物は代謝ケージで個飼いし、実験期間中は絶食させた。鏡カテーテルはトランスデューサーユニット(ミラー社)に連結した。直流増幅器(N4777、NEC三栄)と血圧計増幅器(N4441、NEC三栄)とを経由して、記録計(RECTI-HORIZ 8 K、NEC三栄)により血圧を表示した。高血圧モデルを確立するため、犬には、被検物質を投薬する前に、100 ng/kgのAIIを3又は4回静脈内投与した。被検物質は0.5%メチルセルロースに懸濁した等モル用量とし、すべての動物に対して投与量を2 mL/kgとした。投与後、血圧を血圧計により測定した。投与後の犬の血圧抑制率を算出し、結果を平均±標準誤差(S.E.)で表わした(表2)。
【0030】
【表2】

【0031】
試験結果: 本発明の化合物による処置後、血圧は顕著に低下した。また抑制効果は長時間持続した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるアジルサルタンアミン塩。
【化4】

[式中、Bはアミンである。]
【請求項2】
Bが、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ピペラジン、ジベンジルエチレンジアミン、メグルミン、トロメタミン、テトラメチル第4級アンモニウム、テトラエチル第4級アンモニウム及びコリンからなる群より選ばれる、請求項1に記載のアジルサルタンアミン塩。
【請求項3】
Bが、式(II)で表されるエタノールアミンである、請求項1に記載のアジルサルタンアミン塩。
【化5】

【請求項4】
Bが、式(III)で表されるコリンである、請求項1に記載のアジルサルタンアミン塩。
【化6】

【請求項5】
アジルサルタンの酸性型とアミンBとを別々にアルコール溶媒に添加し、室温又は加熱下で対応する塩を得ることを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアジルサルタン有機アミン塩の製造方法。
【請求項6】
前記アルコール溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
有効成分として請求項1〜4のいずれか1項に記載のアジルサルタンアミン塩の治療的有効量及び製薬学的に許容される担体を含有する、高血圧の治療に使用するための医薬組成物。
【請求項8】
抗高血圧医薬品の製造における、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアジルサルタンアミン塩又は請求項7に記載の医薬組成物の使用。


【公表番号】特表2013−512199(P2013−512199A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540278(P2012−540278)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【国際出願番号】PCT/CN2010/079222
【国際公開番号】WO2011/063764
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(509152219)ジエンス ハンセン ファーマセウティカル カンパニー リミテッド (5)
【Fターム(参考)】