説明

アスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法

【課題】アスコルビン酸を含有する食品を冷凍貯蔵の対象とし、当該食品を長期間安全に冷凍貯蔵し得るとともに、当該食品をその栄養価を損なわずに長期間冷凍貯蔵し得る冷凍貯蔵方法を提供する。
【解決手段】アスコルビン酸を含有する食品を、強酸性の電解生成酸性水にてグレーズ処理して、当該食品の表面に電解生成酸性水からなる薄氷層を形成し、薄氷層を形成された当該食品を急速冷凍して冷凍貯蔵する。当該食品を被覆する薄氷層は、その殺菌能に起因して、冷凍貯蔵中の当該食品を殺菌状態および/または無菌状態に保持し、また、その酸性に起因して、当該食品が含有する酵素成分であるタンパク質を変性して酵素を不活性化し、当該食品が含有するアスコルビン酸の分解を大幅に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸を含有する食品をグレーズ処理して、これを冷凍貯蔵する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍食材や冷凍加工食品等、冷凍食品の消費は大幅に拡大しており、食材や加工食品等の食品は、冷凍状態で長期間貯蔵される傾向にある。従来、食品を冷凍貯蔵するには、生の食品や、ブランチング処理した食品をグレーズ処理して、当該食品の表面に薄氷層を形成し、表面を薄氷層で被覆した状態の当該食品を冷凍貯蔵する方法が採られている。
近年、食の安全性の面から、食品を長期間安全に冷凍貯蔵し得る冷凍貯蔵方法が要請されており、本出願人は、冷凍食品を長期間安全に冷凍貯蔵し得る一方法について、「食品の冷凍貯蔵方法」なる名称で、すでに特許出願している(特許文献1を参照)。
【0003】
当該特許文献1に記載の発明は、食品を長期間安全に冷凍貯蔵することを意図したもので、食品を冷凍貯蔵するに先立って、食品の表面に、殺菌能を有する殺菌性水の氷被膜を形成し、この状態の当該食品を冷凍貯蔵する方法である。当該冷凍貯蔵方法により、当該食品は、氷被膜の殺菌能により、冷凍貯蔵中、殺菌状態および/または無菌状態に保持され、長期間安全に冷凍貯蔵される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−33053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した特許文献1に記載の発明は、「食品を長期間安全に冷凍貯蔵する」ことを意図したものであって、特許文献1には、「食品をその栄養価を損なわずに長期間冷凍貯蔵する」ことについては何等の開示もない。
【0006】
従って、本発明の目的は、「冷凍食品を長期間安全に冷凍貯蔵」し得ることは勿論のこと、「冷凍食品をその栄養価を損なわずに長期間冷凍貯蔵」し得る、冷凍貯蔵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法に関する。本発明に係る冷凍貯蔵方法は、アスコルビン酸を含有する根菜類や葉物類等の食品をグレーズ処理して冷凍貯蔵する方法であり、強酸性の電解生成酸性水をグレーズ処理水として採用し、当該食品を強酸性の電解生成酸性水でグレーズ処理して、グレーズ処理した当該食品を急速冷凍して冷凍貯蔵することを特徴とするものである。
本発明に係る冷凍貯蔵方法においては、当該食品として、生鮮な根菜類や葉物類等の食品、これらの食品をカットした加工状態の食品(加工食品)を採用することできるとともに、当該食品をブランチング処理した食品を採用することができる。
また、本発明に係る冷凍貯蔵方法においては、当該食品のグレーズ処理に使用する処理水として、食塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて、陽極側電解室で生成される電解生成水(強酸性の電解生成酸性水)を採用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る冷凍貯蔵方法においては、グレーズ処理された食品の表面に、強酸性の電解生成酸性水からなる薄氷層が形成される。当該食品の表面に形成された薄氷層は、その殺菌能に起因して、冷凍貯蔵中の当該食品を殺菌状態および/または無菌状態に保持し、また、その酸性に起因して、当該食品が含有する酵素成分であるタンパク質を変性して酵素を不活性化し、当該食品が含有する栄養成分であるアスコルビン酸の分解を大幅に抑制する。
このため、本発明に係る冷凍貯蔵方法によれば、当該薄氷層のこれら両作用に起因して、当該食品を長期間安全に冷凍貯蔵することができるとともに、当該食品をその栄養価を損なわずに長期間冷凍貯蔵することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る冷凍貯蔵方法の一実施形態である各工程をブロックで示す工程図である。
【図2】グレーズ処理した各食品(根菜類)の生菌数に及ぼす冷凍貯蔵の影響を示すグラフ(a),(b)である。
【図3】グレーズ処理した各食品(葉物類)の生菌数に及ぼす冷凍貯蔵の影響を示すグラフ(a),(b)である。
【図4】グレーズ処理した各食品(根菜類)のアスコルビン酸含有量に及ぼす冷凍貯蔵の影響を示すグラフ(a),(b)である。
【図5】グレーズ処理した各食品(葉物類)のアスコルビン酸含有量に及ぼす冷凍貯蔵の影響を示すグラフ(a),(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、アスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法に関する。本発明に係る冷凍貯蔵方法は、アスコルビン酸を含有する食品を、強酸性の電解生成酸性水を処理水としてグレーズ処理して、これを急速冷凍して冷凍貯蔵することを特徴とするものである。
本発明に係る冷凍貯蔵方法においては、アスコルビン酸を含有する食品を冷凍貯蔵の対象とするものであり、当該食品の代表例は根菜類や葉物類等のアスコルビン酸を含有する野菜であって、ジャガイモ、ニンジン、ブロッコリー、アスパラガス、ホウレンソウ、ネギ等を挙げることができる。これらの野菜は、そのままの形態で、または、適宜にカットした加工状態で冷凍貯蔵に供することができる。
本発明に係る冷凍貯蔵方法で規定するグレーズ処理は、一般に行われているグレーズ処理と同様、冷凍すべき食品をグレーズ処理水に浸漬しまたは潜らす等して、当該食品の表面に薄氷層を形成するものである。但し、本発明に係る冷凍貯蔵方法では、冷凍貯蔵の対象を、アスコルビン酸を含有する食品に特定するとともに、グレーズ処理水として、強酸性の電解生成酸性水を採用することを特徴とするものである。当該電解生成酸性水としては、食塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成される電解生成酸性水(強酸性の電解生成酸性水)を、好適に採用することができる。
【0011】
また、本発明に係る冷凍貯蔵方法で規定するグレーズ処理では、生の食品を採用し得ることは勿論であるが、食品を茹でる等の熱処理(ブランチング処理)した食品を採用することができる。
【0012】
このようにグレーズ処理された食品は、当該食品の表面に、強酸性の電解生成酸性水からなる薄氷層が形成される。当該薄氷層を形成された食品は、急速冷凍されて、冷凍庫内にて冷凍貯蔵される。
【0013】
図1は、本発明に係る冷凍貯蔵方法の一実施形態を示すもので、同図には、当該冷凍貯蔵方法の各工程をブロックにて示している。当該実施形態では、冷凍貯蔵の対象として、生の食品と、ブランチング処理した食品を採用している。このため、当該実施形態は、ブランチング処理工程、グレーズ処理工程、および、冷凍貯蔵工程の3つの工程にて構成されている。
【0014】
ブランチング処理工程は、スチームコンベクション型のオーブンを備え、当該オーブンによるスチーム熱処理により、食品をブランチング処理する。本実施形態では、食品を1分間スチーム熱処理して半生状態とする態様と、食品を3分間スチーム熱処理して完全加熱状態とする態様を採っている。従って、本実施形態では、グレーズ処理の対象は、ブランチング処理されていない生の食品と、ブランチング処理された半生の食品および完全加熱の食品の3種類の食品である。
【0015】
グレーズ処理工程では、生の食品、冷凍した半生の食品、および、完全加熱の食品をグレーズ処理水に浸漬して、当該食品の表面に薄氷層を形成することになる。本実施形態では、グレーズ処理水として、強酸性の電解生成酸性水(実施例)と、純水(比較例)を採用している。
【0016】
本実施形態では、強酸性の電解生成酸性水として、食塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて、有隔膜電解槽の陽極側電解室で生成される電解生成酸性水を採用している。当該電解生成酸性水は、pHが2〜3.5程度の強酸性の電解生成水である。
【0017】
冷凍貯蔵工程は、グレーズ処理された食品を急速冷凍して、これを冷凍庫内にて冷凍貯蔵するものである。本実施形態では、約−20℃に設定した冷凍庫内にて、7日間冷凍貯蔵している。
【0018】
このように、長期間冷凍貯蔵されている食品は、グレーズ処理工程にて、当該食品の表面に強酸性の電解生成酸性水からなる薄氷層が形成されているが、薄氷層が強酸性の電解生成酸性水にて形成されている場合には、当該薄氷層は殺菌能を有するとともに、当該食品が含有する酵素成分であるタンパク質を変性して酵素を不活性化し、当該食品が含有するアスコルビン酸の分解を大幅に抑制する分解抑制能を有している。
【0019】
このため、当該冷凍食品の冷凍貯蔵中、当該薄氷層は、その殺菌能に起因して、冷凍貯蔵中の当該食品を殺菌状態および/または無菌状態に保持し、また、その分解阻止能に起因して、当該食品が含有するアスコルビン酸の分解を防止する。
従って、当該冷凍貯蔵方法によれば、強酸性の電解生成酸性水にて形成されている薄氷層におけるこれらの両作用に起因して、当該食品を長期間安全に冷凍貯蔵することができるとともに、当該食品をその栄養価(アスコルビン酸)を損なうことなく長期間冷凍貯蔵することができる。
【実施例】
【0020】
本実施例では、食品として、各種の根菜類および葉物類等の野菜を採用して、図1に示す本発明に係る冷凍貯蔵方法の一実施形態に則って、冷凍貯蔵する実験を試みた。本実験では、アスコルビン酸を含有する食品として、根菜類であるジャイガイモ、ニンジンを、葉物類であるブロッコリー、アスパラガス、ホウレンソウ、ネギを採用している。
【0021】
これらの食品中、ジャイガイモおよびニンジンについては(縦5mm×横5mm×高さ3mm)のサイズにスライスしたもの、ブロッコリーについては一口サイズにカットしたもの、アスパラガスおよびホウレンソウについては3〜4cmにカットしたもの、ネギについてはみじん切りにカットしたものを試供食品とした。
【0022】
(1)ブランチング処理:本実験では、ブランチング処理工程では、スチームコンベクション型のオーブンを使用し、ブランチング処理(スチームモード100℃)を0分間、1分間、3分間行い、生の食品、半生の食品、および、完全加熱の食品の3種類を調製した。
【0023】
(2)グレーズ処理:本実験では、グレーズ処理水として純水、および、強酸性の電解生成酸性水の2種類のグレーズ処理水を採用して、上記した生食品、半生食品、および、完全加熱食品を、グレーズ処理水に浸漬してグレーズ処理を行い、各食品の表面に、採用した各グレーズ処理水に起因する薄氷層を形成した。
(3)冷凍貯蔵処理:本実験では、グレーズ処理した各食品を急速冷凍して、約−20℃に設定した冷凍庫内にて、7日間冷凍貯蔵した。
(4)測定項目:本実験では、冷凍貯蔵した各冷凍食品について、生菌数およびアスコルビン酸の含有量を測定した。生菌数の測定には寒天培地による常法を用い、アスコルビン酸の含有量の測定にはヒドラジン比色法を用いた。なお、本実験では、各冷凍食品の外観も観察して、その変化の有無を確認した。
(5)結果および考察(生菌数):生菌数については、全ての冷凍食品において、強酸性の電解生成酸性水でグレーズ処理した冷凍食品は、純水でグレーズ処理した冷凍食品に比べて、早くかつ大幅に減少していることを確認している。グレーズ処理した冷凍食品の生菌数に及ぼす冷凍貯蔵の影響については、図2(a:ジャガイモ、b:ニンジン)、および、図3(a:ブロッコリー、b:アスパラガス)のグラフに示す。
(6)結果および考察(アスコルビン酸含有量):アスコルビン酸の含有量については、全ての冷凍食品において、強酸性の電解生成酸性水でグレーズ処理した冷凍食品は、純水でグレーズ処理した冷凍食品に比べて、より多くのアスコルビン酸を保持していることを確認している。グレーズ処理した冷凍食品のアスコルビン酸の含有量に及ぼす冷凍貯蔵の影響については、図4(a:ジャガイモ、b:ニンジン)、および、図5(a:ホウレンソウ、b:ネギ)のグラフに示す。
(7)結果および考察(外観の変化):外観については、根菜類と葉物類では若干様相を異にしている。根菜類の外観は、強酸性の電解生成酸性水でグレーズ処理した冷凍食品と、純水でグレーズ処理した冷凍食品との間には変化は認められない。これに対して、葉物類(緑色野菜)の外観は、ブランチング処理を行っていない物(生)は、強酸性の電解生成酸性水でグレーズ処理した冷凍食品と、純水でグレーズ処理した冷凍食品との間には変化は認められない。これに対して、ブランチング処理を行った物(半生、完全加熱)は、強酸性の電解生成酸性水でグレーズ処理した冷凍食品は、純水でグレーズ処理した冷凍食品より、緑色の退色(緑色減)が認められた。当該緑色の退色は、半生物より完全加熱の方が酷いことから、ブランチング処理の影響であるものと推測される。グレーズ処理後の冷凍貯蔵における冷凍食品の外観の変化を、根菜類については表1に示し、葉物(緑色野菜)については表2に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸を含有する食品をグレーズ処理して冷凍貯蔵する方法であり、当該食品を強酸性の電解生成酸性水を処理水としてグレーズ処理し、グレーズ処理した当該食品を急速冷凍して冷凍貯蔵することを特徴とするアスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法において、当該食品として生鮮な食品を採用することを特徴とするアスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法。
【請求項3】
請求項1に記載のアスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法において、当該食品としてブランチング処理された食品を採用することを特徴とするアスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のアスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法において、当該食品のグレーズ処理に使用する処理水は、食塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成される電解生成酸性水であることを特徴とするアスコルビン酸を含有する食品の冷凍貯蔵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−223139(P2012−223139A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94127(P2011−94127)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000194893)ホシザキ電機株式会社 (989)
【Fターム(参考)】