説明

アスコルビン酸製剤

【課題】吸収性の高いアスコルビン酸製剤を提供する。
【解決手段】アスコルビン酸及び/又は水溶性アスコルビン酸誘導体、と非水溶性アスコルビン酸誘導体を含有する経口用製剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸含有製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アスコルビン酸もしくはその塩は(以下アスコルビン酸)、生体内の酵素の働きを活発にし、また副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、コリン等の働きを賦活する。さらには、血管壁を緻密にして強化し、血小板の生成を促し、またトロンビン作用を賦活し、出血防止や止血にあずかる等の生体ホメオスタシスを維持し、メラニンの生成を抑制して色素の沈着を防ぐなどさまざまな効果を有している。
【0003】
一方、アスコルビン酸がさまざまな原因により生体内に不足すると、例えば、壊血病、小児におけるメルレルバロー病、アジソン病のようなホルモン失調、栄養低下、脱力などの疾病が起こる。また、血管壁の脆弱化、骨、歯牙の発育の遅延、更には免疫、抗体産生能力や感染に対する抵抗力、傷創の治癒能力の低下を引き起こす。
【0004】
具体的な症状としては、口内炎、歯齦炎、腎炎、腎出血、胃出血、腸出血等の炎症及び出血時、肺結核、肺炎、風邪、脳炎、リウマチ、癌等の疾患時、更にはアレルギー中毒、軽微感染症等の疾患時等、多方面にまたがる。
【0005】
しかし、ヒトにあってはアスコルビン酸を生体内で合成することができないため、これらの疾患を予防するためには日常的にアスコルビン酸を食物や製剤として摂取しなければならない。
一方、アスコルビン酸は、体内に高濃度に長くとどまることがなく、一定濃度以上を投与しても吸収されずに体外へ排泄される。特に、注射による投与は、速効性を期待する場合以外は、経口投与より更に体内残留時間が短く、投与方法が煩雑である等のため、アスコルビン酸の投与は経口投与が一般的とされている。しかし、経口投与の場合も投与量がある一定の濃度に達すると、それ以上の吸収は望めなくなり、その生物学的利用価値は低下する。
【0006】
近年アスコルビン酸の吸収にかかわる腸管内のトランスポーターが発見され、この結果に基づいてアスコルビン酸トランスポーターの産生を促進する物質とアスコルビン酸を同時投与して吸収性を改善する提案がなされている(特許文献1:国際公開第2007/094312号、特許文献2:特表2008−533078号公報参照)。
また植物油またはショ糖脂肪酸エステルとトウモロコシタンパク質の組み合わせでアスコルビン酸の持続性を改善する提案(特許文献3:特開平6−271465公報)がある。
これらの提案や製剤学的な処方でアスコルビン酸の吸収性を改善する試みは必ずしも有効ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/094312号
【特許文献2】特表2008−533078号公報
【特許文献3】特開平06−271465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
吸収性の高い経口用アスコルビン酸製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成である。
(1)アスコルビン酸及び/又は水溶性アスコルビン酸誘導体、と非水溶性アスコルビン酸誘導体を含有する経口用製剤。
(2)アスコルビン酸及び/又は水溶性アスコルビン酸誘導体、と非水溶性アスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸換算で同量を含有する(1)記載の製剤。
(3)水溶性アスコルビン酸誘導体がアスコルビン酸2グルコシドである(1)又は(2)記載の製剤。
(4)非水溶性アスコルビン酸誘導体がアスコルビン酸パルミテートである(1)〜(3)のいずれかに記載の製剤。
(5)さらにナトリウム塩を含有する(1)〜(4)のいずれかに記載の製剤。
(6)ナトリウム塩がカルボキシメチルセルロースナトリウムである(5)記載の製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明により吸収性の高いアスコルビン酸製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の構成のアスコルビン酸溶液を経口投与した動物の血中アスコルビン酸濃度の経時変化を示す
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施形態を更に詳細に説明する。
本発明は、水溶性のアスコルビン酸を必須成分として含有する。好ましくはL−アスコルビン酸又はアスコルビン酸2グルコシドであり、特に好ましくはアスコルビン酸2グルコシドである。アスコルビン酸2グルコシドは、L−アスコルビン酸(ビタミンC)の酸化還元反応に関与する部分にグルコースを結合させたもの。化学式C12H18O11。分子量338.26。CAS番号129499-78-1。化学名は2-O-α-D-Glucopyranosyl-L-ascorbic Acidである。アスコルビン酸は酸化されやすいことが弱点の一つだったが、この分子はビタミンCに近い生理活性を持ちつつ、酸化されないという特徴を持つ。
アスコルビン酸2グルコシドはそれ自体が生体内で酵素分解されてアスコルビン酸となるため遅効性であり、本発明に使用することでより効率的な製剤とすることができる。
【0013】
さらに本発明は、非水溶性アスコルビン酸誘導体を必須成分として含有する。非水溶性のアスコルビン酸誘導体として、アスコルビン酸の脂肪酸エステルを例示できる。アスコルビン酸の脂肪酸エステルとしてはアスコルビン酸パルミテートやアスコルビン酸ステアレートを例示できる。本発明においてはアスコルビン酸パルミテートが好ましい。
アスコルビン酸パルミテートはパルミチン酸とアスコルビン酸のエステルであり、経口で摂取すると、消化管内で加水分解されてアスコルビン酸となって吸収される。このため、経口投与では一般的には使用されることがなく、化粧品など経皮的な投与目的に使用されることが多い物質である。本発明者らは、このアスコルビン酸パルミテートと水溶性アスコルビン酸誘導体の一種であるアスコルビン酸2グルコシドを併用すると吸収性が高まることを始めて見出した。
【0014】
本発明のアスコルビン酸の製剤を調製する場合にはアスコルビン酸及び/又は水溶性アスコルビン酸誘導体と非水溶性アスコルビン酸誘導体を含有させる。このときアスコルビン酸及び/又は水溶性アスコルビン酸誘導体と非水溶性アスコルビン酸の比率は0.5:1〜1:0.5とすることが好ましい。
【0015】
またアスコルビン酸及び/又は水溶性アスコルビン酸誘導体と非水溶性アスコルビン酸誘導体の合計重量の1重量部に、さらにカルボキシメチルセルロースナトリウムを0.01重量部〜0.1重量部(1〜10重量%)配合することで体内持続性の向上した経口製剤を得ることができる。このとき、カルボキシメチルセルロースナトリウムが0.01重量部以下である場合は所望の効果を得ることができず、0.1重量部を越えても効果は特に上昇せず、製剤化に当たって障害になる場合ある。
カルボキシメチルセルロースナトリウム(Sodium Carboxymethyl Cellose)は、別名CMC-Na、繊維素グリコール酸ナトリウムとも言われ、一般にはCMCと呼ばれている。
セルロースとカセイソーダ・モノクロル酢酸を反応させ、セルロースの水酸基を部分的にカルボキシメチル基でエーテル化して得られるアニオン系高分子電解質で、増粘剤、分散安定剤、粘着剤、保護コロイド剤などとして用いられている。
【0016】
本願発明の経口製剤を製造するために必要な乳糖やステアリン酸カルシウムなどの賦型剤や滑沢などは製剤設計に応じて適宜配合することができる。また錠剤や顆粒剤、散剤など目的に応じた剤型を選択することができる。
【0017】
本願発明においては上記したとおり、L−アスコルビン酸またはアスコルビン酸2グルコシドを使用できる。その中でもアスコルビン酸2グルコシドは水溶液中の安定性が高いため、液剤とする場合には特に適している。また必要に応じて香料や甘味料、酸味料、果汁などを配合して飲料の形態とすることもできる。
【実施例】
【0018】
以下に、試験例、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【0019】
<試験例>
アスコルビン酸(AA)、水溶性アスコルビン酸誘導体(アスコルビン酸2グルコシド;AA2G)、非水溶性アスコルビン酸誘導体(アスコルビン酸パルミチン酸エステル;AP)を選択して各剤を配合した液剤を調製し、これを経口投与したモルモットの投与後24時間までの血中濃度推移を測定し、バイオアベイラビリティを評価した。
【0020】
実験動物・投与群
・実験動物 モルモット(n=18+予備3)、6週齢(体重約300〜400g)
・群設定 各群n=6
(1)AA 200mg投与群
(2)AA 400mg投与群
(3)AA2G 384.12mg投与群
(4)AP 407.72mg投与群、
(5)AA 200mg + AP 470.72mg投与群
(6)AA2G 384.12mg+ AP 470.72mg投与群
(7)無投与群(CMC投与)
なお各アスコルビン酸誘導体はアスコルビン酸換算で200mgに相当する。

実験操作
前日処理
後肢部の露出、断食(24時間となるように)、チューブ準備、試薬準備等

検体投与
※アスコルビン酸の安定性を考慮し、投与懸濁液は直前に調製する。上記の通りアスコルビン酸換算で200又は400mg/head、0.25%カルボキシルメチルセルロースナトリウム(CMC)溶液に各検体を全量で4mlとなるよう調製。
ゾンデにて4mlを投与する。※投与後の動物の様子等は詳細に記録する。

経時採血
(1)0時の採血を投与前に行う。
(2)ゾンデを使用し、各投与物質を投与する。ここから時間をスタートする。
(3)採血は後肢部静脈から投与後1,2,4,8,12,24時間後に実施する。
(4)得られた血液は随時、検体調製を行う。
【0021】
検体調製
(1)得られた血液は遠心し(5000rpm, 10min, 4℃)血漿を採取する。
(2)血漿に4倍量の20%メタリン酸を加え攪拌後、遠心(10000g, 15min, 4℃)する。(タンパク除去)
血中アスコルビン酸の測定
コスモバイオ社の販売するビタミンC測定キットを用いて総アスコルビン酸を定量する。
還元型のアスコルビン酸と酸化型のデヒドロアスコルビン酸があり、これを合計した総アスコルビン酸として定量する。
【0022】
血中アスコルビン酸の測定結果を図1に示す。またアスコルビン酸の吸収指標としてグラフから求めた最高血中濃度(CMAX:μg/ml、最高血中濃度到達時間(TMAX:hour)を下記表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
アスコルビン酸とアスコルビン酸パルミテートを併用した群のCMAXは103.9μg/mlであり、アスコルビン酸単独とアスコルビン酸パルミテート単独群のCMAXの合計値である94.9μg/mlより9μg/mg高値であった。またアスコルビン酸2グルコシドとアスコルビン酸パルミテートを併用した群のCMAXは97.3μg/mlであり、アスコルビン酸単独とアスコルビン酸パルミテート単独群のCMAXの合計値である80.6μg/mlより16.7μg/ml高値であった。これはTMAXが短縮されていることから、水溶性アスコルビン酸の吸収を何らかの機構で非水溶性のアスコルビン酸が促進しているものと推測された。この効果は特にL−アスコルビン酸に対して顕著であった。またアスコルビン酸を400mg/kg投与した群の血中濃度は、アスコル分散パルミテートを407mg(アスコルビン酸換算で200mg)を投与した群とほぼ同等であった。
以上の試験結果から、アスコルビン酸又はアスコルビン酸2グルコシドを投与した群は吸収効率が高く、さらにTMAXが短いことがわかった。すなわち、アスコルビン酸及び/又は水溶性アスコルビン酸誘導体、と非水溶性アスコルビン酸誘導体であるアスコルビン酸パルミテートは経口投与による毛中アスコルビン酸の濃度を高め、吸収性を改善することがわかった。
【0025】
以下に試験結果に基づく製剤の処方例を示す。
実施例1
アスコルビン酸2000g、アスコルビ酸パルミテート4700g、粉末還元麦芽糖水飴351g、結晶セルロース240.8gを流動層造粒機(FD-5S、パウレック)にて、6%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L)水溶液2700gを噴霧することにより、流動層造粒する。
流動層造粒後、給気温度70℃で、排気温度48℃まで乾燥を行い、造粒末を得た。その後、整粒機(パワーミル、昭和化学機械)にて整粒し、整粒末を得た。得られた整粒末3318g、L−システイン640g、パントテン酸カルシウム タイプS 184.8g、結晶セルロース345.2g、低置換度ヒドロキシプルピルセルロース240g、特殊ケイ酸カルシウム(フローライトRE)24g、ステアリン酸マグネシウム48gを混合機(タンブラー混合機、昭和化学機械)にて混合し、得られた混合末をロータリー式打錠機で直径8.8mmの臼、曲率半径7.0mmのR面杵にて、1錠当たりの重量300mg、厚み5.2mmとなるように製錠し、素錠を得た。
上記の素錠3240gに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC-5MW)120gを精製水1080gに溶解したコーティング液を用い、コーティング機(ドリアコーター DRC-500、パウレック)にて、給気温度70℃、給気風量 4m3/min、注液速度10g/minのコーティング条件にて、素錠重量に対して2%量コーティングし、更にその上に、エリスリトール918.5g、タルク485.3g、酸化チタン34.7g、結晶セルロース(アビセルPH-F20)86.6g、アラビアゴム末207.9gを精製水2827gに溶解、懸濁したコーティング液を用い、コーティング機(ドリアコーター DRC-500、パウレック)にて、給気温度60℃、給気風量4m3/min、注液速度20g/minのコーティング条件にて、素錠重量に対して38%量コーティングする。
更にその上に、エリスリトール540g、マクロゴール6000 60gを精製水980gに溶解したコーティング液を用い、コーティング機(ドリアコーター DRC-500、パウレック)にて、給気温度55℃、給気風量4m3/min、注液速度17g/minのコーティング条件にて、素錠重量に対して5%量コーティングし、薄層糖衣錠を得た。なお、薄層糖衣錠に、艶出し液(カルナウバロウ、白ロウを溶解させた エタノール−n−ヘキサン溶液)を微量、コーティングし、艶出しを行った。
【0026】
実施例2
アスコルビン酸2グルコシド3840g、アスコルビン酸パルミテート4700g、カルボキシメチルセルロース151g、結晶セルロース251.1gを流動層造粒機(FD-5S、パウレック)にて、6%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L)水溶液2700gを噴霧することにより、流動層造粒する。
流動層造粒後、給気温度70℃で、排気温度48℃まで乾燥を行い、造粒末を得た。その後、整粒機(パワーミル、昭和化学機械)にて整粒し、整粒末を得た。得られた整粒末3512g、L−システイン640g、結晶セルロース336g、低置換度ヒドロキシプルピルセルロース240g、特殊ケイ酸カルシウム(フローライトRE)24g、ステアリン酸マグネシウム48gを混合機(タンブラー混合機、昭和化学機械)にて混合し、得られた混合末をロータリー式打錠機で直径8.8mmの臼、曲率半径7.0mmのR面杵にて、1錠当たりの重量300mg、厚み5.2mmとなるように製錠し、素錠を得た。
上記の素錠3240gに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC-5MW)120gを精製水1080gに溶解したコーティング液を用い、コーティング機(ドリアコーター DRC-500、パウレック)にて、給気温度70℃、給気風量4m3/min、注液速度10g/minのコーティング条件にて、素錠重量に対して2%量コーティングし、更にその上に、エリスリトール918.5g、タルク485.3g、酸化チタン34.7g、結晶セルロース(アビセルPH-F20)86.6g、アラビアゴム末207.9gを精製水2827gに溶解、懸濁したコーティング液を用い、コーティング機(ドリアコーター DRC-500、パウレック)にて、給気温度60℃、給気風量4m3/min、注液速度20g/minのコーティング条件にて、素錠重量に対して38%量コーティングする。
更にその上に、エリスリトール540g、マクロゴール6000 60gを精製水980gに溶解したコーティング液を用い、コーティング機(ドリアコーター DRC-500、パウレック)にて、給気温度55℃、給気風量4m3/min、注液速度17g/minのコーティング条件にて、素錠重量に対して5%量コーティングし、薄層糖衣錠を得た。なお、薄層糖衣錠に、艶出し液(カルナウバロウ、白ロウを溶解させた エタノール−n−ヘキサン溶液)を微量、コーティングし、艶出しを行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸及び/又は水溶性アスコルビン酸誘導体、と非水溶性アスコルビン酸誘導体を含有する経口用製剤。
【請求項2】
アスコルビン酸及び/又は水溶性アスコルビン酸誘導体、と非水溶性アスコルビン酸誘導体をアスコルビン酸換算で同量を含有する請求項1記載の製剤。
【請求項3】
水溶性アスコルビン酸誘導体がアスコルビン酸2グルコシドである請求項請求項1又は2記載の製剤。
【請求項4】
非水溶性アスコルビン酸誘導体がアスコルビン酸パルミテートである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の製剤。
【請求項5】
さらにナトリウム塩を含有する請求項1〜請求項4のいずれかに記載の製剤。
【請求項6】
ナトリウム塩がカルボキシメチルセルロースナトリウムである請求項5記載の製剤。


【図1】
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【公開番号】特開2013−49670(P2013−49670A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171862(P2012−171862)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】