説明

アスタキサンチンを含む練粉焼成食品

【課題】アスタキサンチンを含む練粉焼成食品であって、この食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうる食品を提供することにある。
【解決手段】本発明の焼成食品は、穀粉類と、油脂分、必要に応じて乳化成分と、アスタキサンチンとを含んでなる練粉焼成食品であって、食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アスタキサンチンを含む練粉焼成食品、詳しくは、食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうる、練粉焼成食品に関する。
【0002】
背景技術
近年、アスタキサンチン(astaxanthin)の健康増進をはじめとする各種機能に注目が集まっている。アスタキサンチンは、カロテノイドの一種あり、エビ、カニ等の甲殻類、サケ、タイ等の魚類、緑藻ヘマトコッカス等の藻類、赤色酵母ファフィア等の酵母類等、広く天然に分布しており、赤色色素として用いられている。アスタキサンチンは、生体内での抗酸効果を有すること(特許文献1、2)、ストレス改善効果を有すること(特許文献3)、および筋肉損傷や疾病を改善する効果を有すること(特許文献4)などが知られている。
【0003】
ところが、アスタキサンチン自体は必ずしも良好は食味を有するわけではなく、そのまま日常的に、手軽に摂取でき、外観からも食欲をそそるものとする工夫が望まれる。食事中、運動時や間食として、アスタキサンチンを、手軽に違和感なく摂取させるためには、栄養食品の形態や、嗜好性の飲食品などとして摂取することが考えられる。
【0004】
しかしながら、アスタキサンチンはそのままでは不安定な物質であることが知られており、高温においては容易に分解するといわれている(特許文献5)。また、特許文献6には、アスタキサンチンを粉末化した場合の室温下での不安定性が指摘されている。
【0005】
アスタキサンチンを含む飲食品としては、例えば、特許文献7に、シクロデキストリンで包接したアスタキサンチンを飲食品(クッキーを含む)に配合することが記載されている。また特許文献8には、噴霧乾燥して粉末化したアスタキサンチンに、亜鉛およびセレンを配合した抗酸化組成物が開示されており、その製造例の一つとしてビスケットが記載されている。しかしながら、これらは、油脂分や乳化成分を配合の記載がなく、また安定化するために粉末化したアスタキサンチンを用いている。またこれら文献には、アスタキサンチンを飲食品中で長期に安定化させることについては何ら記載されていない。
【0006】
本発明者等の知る限り、アスタキサンチンが長期に安定して保持されるように調製された練粉焼成飲食品は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−49091号公報
【特許文献2】特開2008−110942号公報
【特許文献3】特開平9−124470号公報
【特許文献4】特表2001−514215号公報
【特許文献5】特開平8−012896号公報
【特許文献6】特開2002−348275号公報
【特許文献7】特開2002−348275号公報
【特許文献8】特開2008−110942号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明者等は今般、焼成時並びに焼成後も食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうる、アスタキサンチンを含む練粉焼成食品を製造することに成功した。アスタキサンチン自体は上記のように加熱によって分解される可能性が高いと予想していたところ、意外にも、焼成をしたにもかかわらずアスタキサンチンはほとんど分解されなかった。さらに予想外であったことには、得られた練粉焼成食品に含まれるアスタキサンチンは、練粉焼成食品の長期保存後であってもほとんど分解されずに、依然として高レベルで保持されることが判明した。このとき、練粉焼成食品の調製に際しては、アスタキサンチンとしてその油状抽出物を使用し、アスタキサンチンが原料成分の混合物中に十分に分散するよう混練した後、得られた生地を焼成したものであった。一方、アスタキサンチンを含むチョコレートを調製したところ、得られたチョコレートでは、アスタキサンチンを長期間安定して維持することはできなかった。このため、アスタキサンチンと油分との関係のみではなく、アスタキサンチンと、穀粉類と、油脂分、さらには必要に応じて乳化成分とを使用して、これらを適切に混練して得た焼成食品の場合に、食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持することができると考えられた。
本発明はこれら知見に基づくものである。
【0009】
よって本発明は、アスタキサンチンを含む練粉焼成食品であって、食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうるものの提供をその目的とする。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)穀粉類と、油脂分と、アスタキサンチンとを含んでなる練粉焼成食品であって、食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうる、練粉焼成食品。
【0011】
(2) 乳化成分をさらに含んでなる、前記(1)に記載の練粉焼成食品。
【0012】
(3) 穀粉類の澱粉から形成されるスポンジ状構造の空孔中に、アスタキサンチンを含む油脂分を保持する構造を有する、前記(1)または(2)に記載の練粉焼成食品。
(3’) アスタキサンチンが溶解するのに充分な程度、及びスポンジ状構造が形成されるのに充分な程度、アスタキサンチン、穀粉類、必要に応じて乳化成分とを混練して、生地を調製し、次いで、該生地を焼成することによって得られる、前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0013】
(4) 焼成して少なくとも3ヶ月から1年の間、室温条件下にて、焼成直後の食品中のアスタキサンチン含有量に対して90重量%以上の量のアスタキサンチンを食品中に保持しうるものである、前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0014】
(5) アスタキサンチンが、アスタキサンチン油状抽出物、ヘマトコッカス藻の細胞壁破砕物、またはファフィア酵母破砕物のいずれかである、前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0015】
(6) 穀粉類が、小麦粉、大豆粉、米粉、とうもろこし粉、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、馬鈴薯粉、おから粉、およびコーンスターチからなる群より選択される少なくとも1種以上である、前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0016】
(7) 油脂分が、バター、ショートニング、マーガリン、ラード、卵油、ナタネ油、大豆油、コーン油、ヤシ油、パーム油、サフラワー油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、ツバキ油、米油、およびココナツ油からなる群より選択される少なくとも1種以上である、前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0017】
(8) 乳化成分が、卵、レシチン、リゾレシチン、サポニン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種以上である、前記(2)〜(7)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0018】
(9) 穀粉類と油脂分の配合比(重量基準)が、穀粉類:油脂分=100:0.1〜150である、前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0019】
(10) 穀粉類と乳化成分の配合比(重量基準)が、穀粉類:乳化成分=0.1〜10である、前記(2)〜(9)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0020】
(11) 穀粉類、油脂分、および乳化成分の合計量に対するアスタキサンチンの配合量の比(重量基準)が、100:0.0001〜1である、前記(1)〜(10)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0021】
(12) 空隙率が1〜85%である、前記(1)〜(11)のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【0022】
(13) アスタキサンチンと、穀粉類と、油脂分と、必要に応じて乳化成分とを主要成分として含んでなる、食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうる、練粉焼成食品の製造方法であって、
アスタキサンチンが主要成分の混合物中に均一に分散するように、主要成分を混ぜて充分に混練して生地を調製し、次いで、該生地を焼成することを含んでなる、方法。
【0023】
本発明によれば、アスタキサンチンを含む練粉焼成食品であって、食品中のアスタキサンチンを長期に安定して保持しうるものを提供することができる。本発明の練粉焼成食品は、アスタキサンチンを含むため、それを摂取することによって、アスタキサンチンにより期待される効果、例えば、生体内での抗酸化、ストレス改善、筋肉損傷や疾病の改善などの効果が期待できる。また、本発明による練粉焼成食品はアスタキサンチンを含む一方で、日常的に手軽に摂取し易い形態をしているため、アスタキサンチンを簡便かつ日常的に摂取すること希望する需要者に受け入れられやすい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1の長期安定性試験の結果を示す図である。
【図2】実施例2の長期安定性試験の結果を示す図である。
【図3】実施例5の長期安定性試験の結果を示す図である。
【図4】実施例2のバター・卵配合の練粉焼成食品の電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例2のバター・卵なしの練粉焼成食品の電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例2のバター・卵配合、バター・卵なしの練粉焼成食品、及び小麦粉のX−RDチャートである。
【発明の具体的説明】
【0025】
練粉焼成食品
本発明の練粉焼成食品は、前記したように、穀粉類と、油脂分及び/又は乳化成分と、アスタキサンチンとを含んでなるものである。したがって、油脂分と乳化成分については、いずれか一方又は両方を含む。好ましくは、該練粉焼成食品は、油脂分と乳化成分の両方を含む。
【0026】
また本発明の練粉焼成食品は、食品中でのアスタキサンチンを長期に安定して保持しうるものである。「食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうる」とは、食品焼成後、少なくとも3ヶ月から1年の間、室温条件下にて、焼成直後の食品中のアスタキサンチン含有量に対して90重量%以上、好ましくは94重量%以上の量のアスタキサンチンを食品中に保持しうることをいう。
【0027】
アスタキサンチン
本明細書において「アスタキサンチン」とは、天然物由来のもの又は合成により得られるものを意味する。天然物由来のものとしては、例えば、エビ、オキアミ、カニなどの甲殻類の甲殻、卵及び臓器、種々の魚介類の皮及び卵、緑藻ヘマトコッカスなどの藻類、赤色酵母ファフィアなどの酵母類、海洋性細菌、福寿草及び金鳳花などの種子植物から得られるものをあげることができる。天然からの抽出物及び化学合成品は市販されており、入手は容易である。
【0028】
アスタキサンチンは、3,3'−ジヒドロキシ−β,β−カロテン−4,4'−ジオンであり、立体異性体を有する。具体的には、(3R,3'R)−アスタキサンチン、(3R,3'S)−アスタキサンチン及び(3S,3'S)−アスタキサンチンの3種の立体異性体が知られているが、本発明にはそのいずれも用いることができる。
【0029】
アスタキサンチンは突然変異原性が観察されず、安全性が高い化合物であることが知られて、食品添加物として広く用いられている(高橋二郎ほか:ヘマトコッカス藻アスタキサンチンの毒性試験―Ames試験、ラット単回投与毒性試験、ラット90日反復経口投与性毒性試験―,臨床医薬,20:867−881,2004)。
【0030】
本発明において、アスタキサンチンとはアスタキサンチンのフリー体、モノエステル体及びジエステルを含む。
【0031】
本発明の練粉焼成食品においては、アスタキサンチンの遊離体、モノエステル体、ジエステル体の少なくとも一種を用いることができる。ジエステル体は2つの水酸基がエステル結合により保護されているため物理的に遊離体やモノエステル体よりも安定性が高く組成物中で酸化分解されにくい。しかし、生体中に取り込まれると生体内酵素により速やかに遊離体のアスタキサンチンに加水分解され、効果を示すものと考えられている。
【0032】
アスタキサンチンのモノエステルとしては、低級又は高級飽和脂肪酸、あるいは低級又は高級不飽和脂肪酸によりエステル化されたエステル類をあげることができる。前記低級又は高級飽和脂肪酸、あるいは低級又は高級不飽和脂肪酸の具体例としては、酢酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトオレイン酸、へブタデカン酸、エライジン酸、リシノール酸、ベトロセリン酸、バクセン酸、エレオステアリン酸、プニシン酸、リカン酸、パリナリン酸、ガドール酸、5−エイコセン酸、5−ドコセン酸、セトール酸、エルシン酸、5,13−ドコサジエン酸、セラコール酸、デセン酸、ステリング酸、ドデセン酸、オレイン酸、ステアリン酸、エイコサオペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などをあげることができる。また、アスタキサンチンのジエステルとしては前記脂肪酸からなる群から選択される同一又は異種の脂肪酸によりエステル化されたジエステル類をあげることができる。
【0033】
さらに、アスタキサンチンのモノエステルとしては、グリシン、アラニンなどのアミノ酸;酢酸、クエン酸などの一価又は多価カルボン酸;リン酸、硫酸などの無機酸;グルコシドなどの糖;グリセロ糖脂肪酸、スフィンゴ糖脂肪酸などの糖脂肪酸;グリセロ脂肪酸などの脂肪酸;グリセロリン酸などによりエステル化されたモノエステル類をあげることができる。なお、考えられ得る場合は前記モノエステル類の塩も含む。
【0034】
アスタキサンチンのジエステルとしては、前記低級飽和脂肪酸、高級飽和脂肪酸、低級不飽和脂肪酸、高級不飽和脂肪酸、アミノ酸、一価又は多価カルボン酸、無機酸、糖、糖脂肪酸、脂肪酸及びグリセロリン酸からなる群から選択される同一又は異種の酸によりエステル化されたジエステル類をあげることができる。なお、考えられ得る場合は前記ジエステル類の塩も含む。グリセロリン酸のジエステルとしては、グリセロリン酸の飽和脂肪酸エステル類、又は高級不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸から選択される脂肪酸類を含有するグリセロリン酸エステル類などをあげることができる。
【0035】
本発明において、アスタキサンチンは、天然物由来のもの又は合成により得られるもののいずれも用いることができるが、体内での吸収からアスタキサンチンエステルが各種の油脂に溶解した天然物由来が好ましい。天然物由来には、例えば、オキアミ抽出物、ファフィア酵母抽出物、ヘマトコッカス藻抽出物があるが、特に好ましいのはアスタキサンチンの安定性とアスタキサンチンのエステルの種類によりヘマトコッカス藻抽出物である。中でも、「アスタリール」(商標、富士化学工業株式会社製)が、安定性、吸収性が良く最も好ましい。
【0036】
ヘマトコッカス藻は、ボルボックス目クラミドモナス科に属する緑藻類である。通常は緑藻藻であるためクロロフィル含量が高く緑色であり、2本の鞭毛によって水中を遊泳している。しかし、栄養源欠乏や温度変化等の飢餓条件では休眠胞子を形成し、アスタキサンチン含量が高くなり赤い球形となる。本発明においては、いずれの状態でのヘマトコッカスを用いることができるが、アスタキサンチンを多く含有した休眠胞子となったヘマトコッカスを用いるのが好ましい。また、ヘマトコッカス属に属する緑藻類では、例えば、ヘマトコッカス・プルビイアリス(Haematococcus pluviaris)が好ましい。
【0037】
ヘマトコッカス緑藻類の培養方法としては、異種微生物の混入・繁殖がなく、その他の夾雑物の混入が少ない密閉型の培養方法が好ましく、例えば、一部解放型のドーム形状、円錐形状又は円筒形状の培養装置と装置内で移動自在のガス吐出装置を有する培養基を用いて培養する方法(国際公開第99/50384号公報)や、密閉型の培養装置に光源を入れ内部から光を照射して培養する方法、平板状の培養槽やチューブ型の培養層を用いる方法が適している。
【0038】
本発明のヘマトコッカス藻から抽出物を得る方法としては、
(1)ヘマトコッカスを乾燥し破砕した後、二酸化炭素を抽出溶媒として超臨界抽出を行い、二酸化炭素を除去して抽出物を得る方法、
(2)ヘマトコッカス(湿末)を有機溶媒に懸濁した後、粉砕機に通して細胞を粉砕して抽出し、有機溶媒を除去して抽出物を得る方法
が挙げられる。
【0039】
超臨界抽出による抽出方法は、常法によって行うことができ、例えば、広瀬らの方法(Ind Eng Chem Res、2006、45(10)、3652-3657、Extraction of Astaxanthin from Haematococcus pluvialis Using Supercritical CO2 and Ethanol as Entrainer)で行うことができる。
【0040】
有機溶媒による抽出方法については種々の方法が知られている。例えば、アスタキサンチン及びそのエステルは油溶性物質であることから、アスタキサンチンを含有する天然物からアセトン、アルコール、酢酸エチル、ベンゼン、クロロホルムなどの油溶性有機溶媒でアスタキサンチン含有成分を抽出することができる。また、二酸化炭素や水などを用い超臨界抽出を行うこともできる。抽出後、常法に従って溶媒を除去してモノエステル型のアスタキサンチンとジエステル型のアスタキサンチンの混合濃縮物を得ることができる。得られた濃縮物は、所望により分離カラムやリパーゼ分解によりさらに精製することができる。
【0041】
前記のドーム型培養装置や密閉型の培養装置で培養したヘマトコッカス藻を乾燥させ、粉砕後にアセトンで抽出又は、アセトン中で粉砕と抽出を同時に行ったのち、アセトンを除去してアスタキサンチン抽出する製法(特開2006−70114号公報)が、空気に触れることがないことからアスタキサンチンの酸化がほとんどなく、夾雑物が少なく、すなわち本発明の効果を阻害する物質が少なく、アスタキサンチンとトリグリセリドを純度良く多く含むことができ好適である。
【0042】
アスタキサンチンの使用形態としては、前述方法で得たアスタキサンチンの抽出物及びそれらを含有した粉末や水溶液、油状物、又は赤色酵母ファフィア、ヘマトコッカス藻、海洋性細菌などの乾燥品及びそれらの破砕品(例えば細胞壁破砕品)を用いることができる。本発明の好ましい態様によれば、前記したように、アスタキサンチンは、アスタキサンチン油状抽出物又はヘマトコッカス藻の細胞壁破砕品である。
【0043】
穀粉類
本発明においては、穀粉類は澱粉粒子を含む植物由来の粉末であり、穀粉類や穀粉から得られる澱粉を含み、穀粉類としては、例えば、該穀粉類としては、小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉、全粒粉など)、大豆粉、米粉、おから粉、とうもろこし粉(コーンスターチ)、大麦粉、デュラム小麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、オートミール、発芽小麦、馬鈴薯粉、片栗粉等が挙げられる。澱粉粉末としては、例えば、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉等や加工澱粉等も前記穀粉類に適宜組み合わせて使用してもよい。これらの穀粉を1種以上組み合わせてもよい。
【0044】
本発明の好ましい態様によれば、穀粉類は、小麦粉、大豆粉、米粉、コーンスターチ、おから粉からなる群より選択される少なくとも1種以上である。さらに好ましくは、小麦粉である。上記穀粉類のうち、結合力の乏しい穀粉、例えば、おから粉や片栗粉を使用する場合、小麦粉と組みあせて使用することが望ましい。
【0045】
油脂分
本発明においては、油脂分は、焼成食品用に一般的に供されている食用油脂分であれば特に制限はなく、植物油脂、動物油脂、加工油脂のいずれであってもよい。具体的には、例えば、ナタネ油、大豆油、コーン油、ヤシ油、パーム油、サフラワー油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、ツバキ油、米油、ココナツ油等のような植物油、バター、ラード、牛脂、豚脂、鳥脂、卵油、魚油、マーガリン類、ショートニング等が挙げられる。これらは1種以上を組み合わせて用いることができる。卵においては、食用部分の約10%は油脂分であり、卵を多く配合する場合は、卵に含まれる油脂分を用いることができる。
本発明における油脂分としては、好ましくは、バター、ショートニング、マーガリン、からなる群より選択される少なくとも1種以上である。
【0046】
乳化成分
本発明においては、乳化成分は、焼成食品用に一般的に乳化目的で供されているものであれば特に制限はなく、例えば、卵、レシチン(好ましくは、卵黄レシチン)、リゾレシチンなどのレシチン誘導体、サポニン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの乳化成分を1種以上組み合わせてもよい。
本発明おける乳化成分としては、好ましくは卵又はレシチンである。
【0047】
配合量
本発明においては、練粉焼成食品中におけるアスタキサンチンの含有量は、練粉焼成食品が食品の形態が保てる範囲で有ればよく、多くはアスタキサンチンが滲み出ない程度、少なくは均一に添加できる範囲で有ればよく、例えば、1回の食事で摂取する食品において全体で、0.01mg〜100mg程度を配合することができる。アスタキサンチンの配合量は、穀粉類、油脂分、必要に応じて乳化成分の合計量に対して定義し、その配合比(重量基準)は、該合計量:アスタキサンチン=100:0.0001〜1であり、好ましくは100:0.0005〜0.1、より好ましくは100:0.01〜0.05である。
【0048】
本発明においては、練粉焼成食品中における穀粉類と油脂成分の配合比(重量基準)は、穀粉類:油脂成分=100:0.1〜150、好ましくは穀粉類:油脂成分=100:1〜100、より好ましくは穀粉類:油脂成分=100:10〜50である。
本発明においては、穀粉の配合量は練粉焼成食品全体100重量部に対して、典型的には10〜80重量部であり、好ましくは20〜60重量%であり、さらに好ましくは25〜50重量%である。
【0049】
本発明においては、練粉焼成食品中における乳化成分の含有量は、穀粉類に対して定義し、その配合比(重量基準)は、穀粉類:乳化成分=100:0.1〜10であり、好ましくは穀粉類:乳化成分=100:0.5〜8であり、さらに好ましくは穀粉類:乳化成分=100:1〜6である。卵を配合する場合、生卵に含まれるリン脂質に基づく。例えば、卵はリン脂質の他蛋白質を含みこれらは生産条件によって変化するが、穀粉類:生卵=100:1〜100、好ましくは穀粉類:生卵=100:5〜80、より好ましくは穀粉類:生卵=100:10〜60である。
【0050】
他の成分
本発明による練粉焼成食品は、甘味の付与、風味、澱粉粒子の結合のしやすさ、生地調製のしやすさのために糖質成分をさらに含むことができる。
糖質成分としては、例えば、果糖、ブドウ糖のような単糖類、ショ糖、麦芽糖のような二糖類、及びオリゴ糖が包含され、さらにこれらの還元誘導体、例えば糖アルコールも包含されるものとする。糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0051】
本発明において糖質成分が加えられる場合、焼成食品中における糖質成分の含量は、穀粉に対して定義し、その配合比(重量基準)は、例えば、穀粉:糖質=100:0.1〜120であり、好ましくは穀粉:糖質=100:1〜80であり、より好ましくは穀粉:糖質=100:2〜50である。
【0052】
本発明の練粉焼成食品においては、他の成分として、香料、着色料、調味成分、安定剤、膨張剤、重曹、ベーキングパウダー、抗酸化剤等をさらに含んでなることができる。
この内、調味成分としては、ココアパウダー、練乳、生クリーム、ヨーグルト粉末、チーズ、チョコレート、カカオマス、胡麻、ハーブ、果汁、野菜汁、乾燥果実粉末、果実断片、抹茶、香辛料、ナッツ、塩等が挙げられる。
【0053】
抗酸化剤としては特に限定されるものでなく、抗酸化作用を有するものであれば配合可能であり、例えば、レチノール、3,4−ジデヒドロレチノールなどのビタミンA類;ビタミンB;D−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸などのビタミンC類;トコフェロール、トコトリエノール、酢酸ビタミンE、コハク酸ビタミンE、リン酸ビタミンE類などのビタミンE類;β−カロチン、ルテインなどのカロテノイド類及びこれらの薬学的に許容できる塩;コエンザイムQ、フラボノイド、タンニン、エラグ酸、ポリフェノール類、核酸類、漢方薬類、海草類、無機物など、並びにそれらの混合物からなる群から1種または2種以上選択することができる。また、これらを含んだ果実や藻類、菌類などを配合することによっても、同様の効果を得ることができる。
【0054】
本発明の練粉焼成食品においては、アスタキサンチン以外の栄養強化成分をさらに加えても良い。このような栄養強化成分としては、例えば、カルシウム成分、鉄分、ビタミン類、繊維質等が挙げられる。
【0055】
本発明の練粉焼成食品の形態としては、バー状焼き菓子、ビスケット、クッキー、マカロン、チュイール、スポンジケーキ、シフォンケーキ、ホットケーキ、スフレ、パイ、ナン、パン、ベーグル、シュークリーム、チップス、スナック菓子、せんべい、草加せんべい、饅頭、お焼き、五平餅などがあげられる。また、これらにクリームなどを挟み又は含む食品形態もここに包含される。
【0056】
練粉焼成食品の製造方法
本発明の練粉焼成食品は、前記したとおり、アスタキサンチンと、穀粉類と、油脂分と、必要に応じて乳化成分とを主要成分とし、
(i) アスタキサンチンがこの主要成分の混合物中に均一に分散するように、主要成分を混ぜて充分に混練して生地を調製し、次いで、
(ii) 該生地を焼成することにより、目的の焼成食品を得ることができる。
前記工程(i)における混合物の混練により、生地内で、アスタキサンチンを含む油滴が形成され、これが生地内に均一に分散する。これを次の工程(ii)において、焼成して水分を除去し、「穀粉類の澱粉から形成されるスポンジ状構造の空孔中に、アスタキサンチンを含む油脂分を保持する構造」を、目的とする焼成食品において形成することができる。
【0057】
ここで、「穀粉類の澱粉から形成されるスポンジ状構造」とは、穀粉由来の澱粉粒子が、α化澱粉、穀粉由来の蛋白質や卵由来の蛋白質、砂糖などの結合成分によって結合し、焼成食品中に中空を形成する構造をいう。そして、該スポンジ状構造とされる場合、形成される中空の直径は典型的には10〜500μmであり、好ましくは20〜300μmである。また、かかるスポンジ状構造をとっている焼成食品では、単位当たりの重量、すなわち、空隙率は、典型的には1〜85%、好ましくは2〜70%、より好ましくは5〜50%、さらに好ましくは10〜40%となる。
ここで、空隙率は、具体的には、該食品のみなし体積から真密度に基づく真体積を減じ、みなし体積で除し百分率で表して求めることができる。
また、このような焼成食品中のスポンジ状構造およびその中空径は、顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)にて確認し、求めることができる。
【0058】
そして、本発明の練粉焼成食品は、「穀粉類の澱粉から形成されるスポンジ状構造の空孔中に、アスタキサンチンを含む油脂分を保持する構造」を有していることが望ましい。このような構造を焼成食品が有していることは、前記と同様に、顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)にて確認することができる。
かかる構造の具体例を挙げると、後述する実施例で撮影された顕微鏡写真(図4)の構造で示される。ここでは、空孔部分にアスタキサンチンが溶解した油脂成分、アスタキサンチンを乳化成分によって被覆された油滴が保持された構造である。
なお、実施例で撮影された顕微鏡写真(図5)の構造は、アスタキサンチンおよびその油滴が含まれない状態を示しており、ここからはスポンジ状構造がみてとれる。本発明の練粉焼成食品の構造(図4)が図5の構造を内蔵していることは、走査型顕微鏡の結晶パターンを求め(例えば実施例の図6)、この結果が双方(図4と図5の場合)ほぼ同じであって、穀粉由来の澱粉のパターンに類似していることから推測できる。
【0059】
したがって、本発明の練粉焼成食品は、アスタキサンチンの長期安定性を有しているため、長期保存が可能な形態をとっている。長期保存が可能な形態は、単位当たりの重量すなわち空隙率が上記のように小さい食品であって、積層時に形状が変化しない充分な強度を有する形態である。
【0060】
生地の生成方法では、通常、穀粉類からなる焼成食品の製造方法に従って生地を製造する。アスタキサンチン、油脂分、乳化成分、穀粉類、必要により糖などその他の成分の添加順番は、混練さえ均一にできればどのような順番でも構わない。穀粉類の焼成食品は、原料の添加順番によって、テクスチャ、風味などの食感が変わることから、求める形態の食品での添加順番に従えばよい。また、アスタキサンチンは最初から最後のどの段階に添加しても構わない。これは、生地はO/Wエマルジョンであり、アスタキサンチンを添加すると直ちに油脂分に溶解するためである。
【0061】
水の存在下で穀粉は、混練することにより澱粉と蛋白質が分離する。そこの油脂分が存在することによって水性物質である澱粉類、蛋白、砂糖などの結合剤の連続相と、油脂分の液滴からなるエマルジョンが形成される。焼成により連続相の水分が除去されることとなり、スポンジ状構造が形成されると考えられる(なおこれらは理論であって本発明を限定するものではない)。
【0062】
よって、本発明の焼成食品において適度な「スポンジ状構造」を形成するためには、生地製造時の穀粉類と水分量の割合が重要である。水分が多すぎる場合は澱粉粒子のα化など溶解が進行や構造の低下のため好ましくない。原料の混合物において、穀粉類対水分の割合(重量基準)は、典型的には100:5〜150がよく、好ましくは100:5〜100である。穀粉類対水分の割合が100:150であると、生地が液状かするので好ましくない。
したがって、本発明の一つの好ましい態様によれば、アスタキサンチンと、穀粉類と、油脂分と、必要に応じて乳化成分とを含む主要成分の混合物であって、穀粉類と水分との割合を上記範囲に設定した混合物中にて、アスタキサンチンが均一に分散するように、主要成分を混ぜて充分に混練して生地を調製し、次いで、該生地を焼成することによって、本発明による練粉焼成食品を得ることができる。
【0063】
例えば、ビスケット状の穀粉食品を製造する場合は、アスタキサンチン、油脂分を混合し、砂糖、卵の順に混合して均一に混合し、次いで小麦粉を徐々に添加して混練して均一にし、水分などの均一にするため生地を低温で保持して、生地を製造する。
【0064】
パン状の食品を製造する場合は、小麦粉、水、ベーキングパウダーなどを混練し、ショートニングに溶解したアスタキサンチンを加えて混練したあと、寝かして生地を製造する。
【0065】
生地は食品に合致する形状とし、水分が適時除去できる温度で焼成を行えばよく、焼成の温度としては100〜250℃、好ましくは120〜220℃である。焼成時間は適時選ぶことができ、2〜60分、好ましくは10〜30分である。抗酸化効果を有する成分は熱に弱く、なるべく低温、短時間が必要ではあるが、本発明の練粉焼成食品は通常の製造条件で製造することができる。焼成は、型枠で形成した生地、生地を型に入れたままのいずれでもよい。
【0066】
調味成分などの他の成分は、生地の調製時のいずれの段階で配合してもよい。どの段階で配合するかは製造が、容易な条件で適宜選べばよい。例えば、ドライフルーツやナッツ類を配合する場合は、アスタキサンチン、バター、砂糖、卵の順に混合したのちに、ドライフルーツやナッツを添加混合したのち、大豆粉や小麦粉を添加して混練する。生地を休ませた後、160℃で15分程度焼成する。
【実施例】
【0067】
下記は、本発明の例を示して本発明を具体的に説明するものである。本発明は、これらに限定されるものではない。
【0068】
アスタキサンチン含有量定方法
アスタキサンチン含有試料を乳鉢で擦り潰してアセトンでアスタキサンチンを抽出したのち、自期分光光度計(島津製作所社製)で波長474nmの吸光度を測定してアスタキサンチンの含量を求めた。オイル状のアスタリール50Fはアセトンで希釈した後、同様の方法で吸光度を測定した。
焼成後のアスタキサンチン含量(残存率)は、仕込量をもとに理論値を100%として計算したものである。長期試験でのアスタキサンチン含量(残存率)は、焼成直後のアスタキサンチン含量を100%として計算した。
【0069】
実施例1: アスタキサンチンを含む練粉焼成食品とチョコレートとの長期安定性試験
(1) アスタキサンチン含有の練粉焼成食品
表1のアスタキサンチン0.226g、バター35g、砂糖30g、卵25gの順に加えて均一に混合しのち、薄力粉(小麦粉)100gを加えて均一に混練した。4℃で30分間保持したのち、5mmの厚さに伸ばして円盤状に型抜きし、170℃で16分間焼成して練粉焼成食品を得た。アスタキサンチンは、アスタキサンチン油状抽出物(アスタリール50F、富士化学工業社製、アスタキサンチンフリー体としてアスタキサンチンを約5%含有)またはヘマトコッカスバイオマス(バイオリールスウェーデン社製、アスタキサンチンフリー体としてアスタキサンチンを約5%含有)を用いた。アスタキサンチン油状抽出物を含む練粉焼成食品の空隙率は26%であった。
【0070】
(2) アスタキサンチンを含むチョコレート
チョコレート200gを45℃に加温して溶解し、30℃に冷却して、アスタキサンチン油状抽出物1.2gを加えて混合したのち、冷却して固化し、アスタキサンチン含有チョコレートを得た。
【0071】
(3) 長期安定性試験
得られた練粉焼成食品及びチョコレート、アスタキサンチン油状抽出物、ヘマトコッカスバイオマスをビニール製の袋に密封し、25℃、暗所にて保存した。保存期間中の所定の時期にサンプルを取り出し、そこに含まれるアスタキサンチン量を測定した。結果を表2および図1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1より、焼成によってアスタキサンチン油状抽出物やバイオマスに含まれるアスタキサンチンは破壊され、残存率が減少していた。対して、練粉焼成食品に配合したアスタキサンチンは、焼成によって減少はしていない。
表2より、アスタキサンチン油状抽出物やバイオマスを配合したチョコレートは、時間と共にアスタキサンチンの含有量が低下していた。対して本発明の練粉焼成食品にアスタキサンチン油状抽出物やバイオマスを配合したアスタキサンチンは、12ヶ月が経過しても、アスタキサンチンは有意に減少してはいない。チョコレートはアスタキサンチンを油脂成分に内包し、内部に空隙がなく比表面積が少なく、酸化安定性は高く、練粉穀粉食品は内部に空隙が多く比表面積が大きく酸化に対する安定性は低いと予想されたが、逆の結果となった。
【0075】
実施例2: 他のカロテノイド関する安定性試験
表6のカロテノイド油状抽出物に換えて、実施例1のアスタキサンチン含有の練粉焼成食品と同様の操作で混練焼成食品を得た。カロテノイド油状抽出物はそれぞれリコピン、ルテインを用いた。これらはいずれも油状抽出物であることから、アスタキサンチンのものと同様いずれも親油性である。焼成後のアスタキサンチンの残存率の結果を表3に、長期安定性試験の結果を表4、図2に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
カロテノイドの種類によって焼成自体による安定性につての差は見られなかった。長期の安定性試験において、アスタキサンチン以外のリコピン、ルテイン、パーム油カロテンなどのカロテノイド類は90%以下と安定性が劣っていた。また、低下する傾向にあるため、さらに長期間保持すると残存率の低下が予想される。アスタキサンチンのみが本発明の練粉焼成食品としたときに安定性効果があることが分かる。
【0079】
実施例3: バター及び卵の確認試験
バター及び/又は卵を含まない練粉焼成食品を、実施例1のアスタキサンチン含有の練粉焼成食品と同様の操作で練粉焼成食品を得た。バター及び/又は卵を含まないものは、混練を行うために適量の水を用いて混練した。焼成直後のアスタキサンチンの残存率を表5に、長期安定性試験のアスタキサンチンの残存率を表6、図3に示す。
バターと卵を含む練粉焼成食品の走査型電子顕微鏡(S−3000N、日立製作所社製)写真を図4に、バターと卵を含まない練粉焼成食品の電子顕微鏡写真を図5に示す。また、バターと卵を含む練粉焼成食品及びバターと卵を含まない練粉焼成食品のX−RD(X‘Pert−MPD型、フィリップス社製)チャートを図6に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
油脂成分であるバター、及び/又は乳化成分である卵を含んでいる練粉焼成食品は、アスタキサンチンの焼成時、長期保存での両方の残存率がともに90%以上と安定性は良好であった。対して、バターと卵を含んでいない練粉焼成食品は、残存率が80%と安定性は低い結果であった。
本発明の練粉焼成食品のアスタキサンチンの安定性が高いのは、電子顕微鏡写真とX−RDより、澱粉のスポンジ状構造中を形成し、その空孔にアスタキサンチンを含む油脂成分が内接している構造を有していることが原因と考えられる。バター・卵なしの写真は丸い粒子が結合物によって結合されたスポンジ状である。バター・卵なしの写真は油脂分で充填されていることにより内部の構造は不明であるが、X−RDパターンでは同じパターンを示すことから、同様の構造体が内部に形成していることが分かる。
【0083】
実施例4: バターの配合量の効果
卵の配合量を0gとし、表7のバターの配合量に変化させた以外は、実施例1のアスタキサンチン含有の練粉焼成食品と同様の操作で練粉焼成食品を得た。卵などの水分がなく混練式しにくい場合は必要に応じて混練可能な分量の水の適量を徐々に加えて均一に混練した。焼成後のアスタキサンチンの残存率の結果を表7に示す。
【0084】
【表7】

【0085】
焼成後のアスタキサンチンの残存率が90%以上と、油脂分であるバターを添加することによって、アスタキサンチンの安定性が向上していることが分かる。対してバターを含んでいない練粉焼成食品はアスタキサンチンの残存率が65.3%と低い安定性であった。
【0086】
実施例5: 乳化成分の配合量の効果
バターの配合量を0gとし、表8の卵の配合量に変化させた以外は、実施例1のアスタキサンチン含有の練粉焼成食品と同様の操作で練粉焼成食品を得た。卵などの水分がなく混練式しにくい場合は必要に応じて混練可能な分量の水の適量を徐々に加えて均一に混練した。焼成後のアスタキサンチンの残存率の結果を表8に示す。
【0087】
【表8】

【0088】
卵の配合量が多く、卵が25g以上配合の場合、アスタキサンチンの安定化効果が高いことが分かる。卵は、乳化効果のあるレシチン、蛋白質、脂質からなり、これらの量が増加していることが、安定性への原因である。
【0089】
実施例6: 穀粉と乳化成分種類の効果
穀粉種類と乳化成分を表9のとおりに換えて、実施例1のアスタキサンチン含有の練粉焼成食品と同様の操作で練粉焼成食品を得た。焼成直後のアスタキサンチンの残存率を表9に、長期安定性試験のアスタキサンチンの残存率を表10に示す。ここで、おから粉は、市販のおから粉と薄力粉を1:2で混合したものである。
【0090】
【表9】

【0091】
【表10】

【0092】
穀粉や乳化成分の種類を種々に換えても、本発明の練粉焼成食品のアスタキサンチンはいずれも安定であった。穀粉や乳化成分は種類によらず効果があることが分かる。
【0093】
実施例6:油脂分種類の効果
油脂成分を表11のとおりに換えて、実施例1のアスタキサンチン含有の練粉焼成食品と同様の操作で練粉焼成食品を得た。焼成直後のアスタキサンチンの残存率を表11に示す。
【0094】
【表11】

【0095】
油脂成分の種類を種々に換えても、本発明の練粉焼成食品のアスタキサンチンはいずれも安定であった。油脂成分は種類によらず効果があることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類と、油脂分と、アスタキサンチンとを含んでなる練粉焼成食品であって、食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうる、練粉焼成食品。
【請求項2】
乳化成分をさらに含んでなる、請求項1に記載の練粉焼成食品。
【請求項3】
穀粉類の澱粉から形成されるスポンジ状構造の空孔中に、アスタキサンチンを含む油脂分を保持する構造を有する、請求項1または2に記載の練粉焼成食品。
【請求項4】
焼成して少なくとも3ヶ月から1年の間、室温条件下にて、焼成直後の食品中のアスタキサンチン含有量に対して90重量%以上の量のアスタキサンチンを食品中に保持しうるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【請求項5】
アスタキサンチンが、アスタキサンチン油状抽出物、ヘマトコッカス藻の細胞壁破砕物、またはファフィア酵母破砕物のいずれかである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【請求項6】
穀粉類が、小麦粉、大豆粉、米粉、とうもろこし粉、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、馬鈴薯粉、おから粉、およびコーンスターチからなる群より選択される少なくとも1種以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【請求項7】
油脂分が、バター、ショートニング、マーガリン、ラード、卵油、ナタネ油、大豆油、コーン油、ヤシ油、パーム油、サフラワー油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、ツバキ油、米油、およびココナツ油からなる群より選択される少なくとも1種以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【請求項8】
乳化成分が、卵、レシチン、リゾレシチン、サポニン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種以上である、請求項2〜7のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【請求項9】
穀粉類と油脂分の配合比(重量基準)が、穀粉類:油脂分=100:0.1〜150である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【請求項10】
穀粉類と乳化成分の配合比(重量基準)が、穀粉類:乳化成分=0.1〜10である、請求項2〜9のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【請求項11】
穀粉類、油脂分、および乳化成分の合計量に対するアスタキサンチンの配合量の比(重量基準)が、100:0.0001〜1である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【請求項12】
空隙率が1〜85%である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の練粉焼成食品。
【請求項13】
アスタキサンチンと、穀粉類と、油脂分と、必要に応じて乳化成分とを主要成分として含んでなる、食品中にアスタキサンチンを長期に安定して保持しうる、練粉焼成食品の製造方法であって、
アスタキサンチンが主要成分の混合物中に均一に分散するように、主要成分を混ぜて充分に混練して生地を調製し、次いで、該生地を焼成することを含んでなる、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−229505(P2011−229505A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105592(P2010−105592)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【特許番号】特許第4647712号(P4647712)
【特許公報発行日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品科学工学会誌 第56巻 第11号(通巻第611号)(平成21年11月15日) 社団法人 日本食品科学工学会発行 第579〜584頁に発表
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】