説明

アスタキサンチン含有加齢臭抑制組成物

【課題】アルデヒド類物質の発生に寄因する加齢臭の抑制に効果があるアスタキサンチン含有加齢臭抑制組成物の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る加齢臭抑制組成物は、アスタキサンチンを有効成分として含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、年を重ねると出やすくなるとされる加齢臭の抑制作用を有する加齢臭抑制組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、男性中高年に特有的に発生するといわれる臭いを加齢とともに発生するという意味で加齢臭と表現されている。
特許文献1によれば、紫外線やリポキシゲナーゼ等の酵素の働きにより、生体中に過酸化脂質が生成し、生体中に生成された過酸化脂質は通常ペルオキシダーゼ等による生体防御機能により分解されるが、加齢と共にこの生体防御機能が衰える。
一方、若年時に豊富であった皮脂中のcis−6−ヘキサデセン酸の比率が相対的に減り、パルミトレイン酸(9−ヘキサデセン酸)の比率が高まることから、このパルミトレイン酸と生体中の過酸化脂質の作用によりオクテナールやノネナール等のアルデヒド類が多くなり、加齢臭になると説明されている。
特許文献1は、上記の仮説のもとにリポキシゲナーゼ阻害剤を含む加齢臭抑制用組成物を提案している。
その他、加齢臭抑制効果に関するものとして、特許文献2に、ポリフェノールを有効成分とするもの、特許文献3に、プロアントシアニジンを有効成分とするもの、特許文献4に、イミダゾールジペプチド類化合物を有効成分とするものが提案されている。
しかし、いずれもその効果が不充分であった。
【0003】
特許文献5に、アスタキサンチンに高い酸化防止活性があることを開示する。
従って、アスタキサンチンに高い酸化防止活性、活性酸素消去能が存在することは公知といえ、加齢臭抑制効果も有することが推定されるものの、具体的に加齢臭の原因とされる特定のアルデヒドに抑制効果があるか否かは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−286424号公報
【特許文献2】特開2007−314472号公報
【特許文献3】特開2001−72563号公報
【特許文献4】特開2008−187928号公報
【特許文献5】特開平2−49091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルデヒド類物質の発生に寄因する加齢臭の抑制に効果があるアスタキサンチン含有加齢臭抑制組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る加齢臭抑制組成物は、アスタキサンチンを有効成分として含有することを特徴とする。
本発明に係る組成物は、加齢臭の原因物質として揮発性のアルデヒド類に寄因する場合に効果が高く、例えば、不飽和アルデヒドであるノネナール、オクテナール、あるいは飽和アルデヒドであるヘプタナール、ヘキサナール等に効果があり、その中でも特にノネナールの発生の抑制に効果が高い。
【0007】
本発明に用いる、アスタキサンチンは、キサントフィル類に分類されるカロテノイドの一種である。
IUPAC名は、3,3’−ジヒドロキシ−β,βカロテン−4、4’ジオンであり、3及び3’位のヒドロキシ基の位置により(3R,3’R)体、(3R,3’S)体(メソ体)、(3S,3’S)体の三種が存在し、共役二重結合のシス−トランスによる異性体を有する。
本発明では、いずれのアスタキサンチンを用いても良い。
また、遊離型、モノエステル型、ジエステル型として存在可能である。
天然物由来のものとしては、例えば、緑藻ヘマトコッカスなどの微細藻類、赤色酵母フ
ァフィアなどの酵母類、エビ、オキアミ、カニ、ミジンコなどの節足動物類の甲殻、イカ
、タコなどの軟体動物類の内臓や生殖巣、種々の魚介類の皮、ナツザキフクジュソウなど
のフクジュソウ属の花弁、Paracoccus sp. N81106、Brevun
dimonas sp. SD212、Erythrobacter sp. PC6な
どのα−プロテオバクテリア類、Gordonia sp. KANMONKAZ−11
29などのゴードニア属、Schizochytriuym sp. KH105などの
ラビリンチュラ類(特にヤブレツボカビ科)やアスタキサンチン産生遺伝子組み換え生物
体などから得られるものをあげることができる。
【0008】
本発明のアスタキサンチンを有効成分として含有する加齢臭抑制組成物は、外用としても内用としても用いることができ、外用の形態には、医薬品用の皮膚外用剤や化粧品の形態を含み、特に限定されず、例えば、乳液、クリーム、化粧水、パック、分散液、洗浄料、メーキャップ化粧料、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤等の医薬品などとすることができる。
上記成分以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、各種皮膚栄養成分、紫外線吸収剤、酸化防止剤、油性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、色剤、水、防腐剤、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。
内用の形態にあっては、サプリメント、健康食品、栄養機能食品や特定保健用食品などの保健機能食、特別用途食品、一般食品、医薬部外品さらにはスポーツ用のサプリメントとして用いることができ、摂取のしやすさや摂取量が決めやすいことから、サプリメント、スポーツ用のサプリメント、保健機能食、特別用途食品が好ましく、前述医薬品と同様の形態、錠剤、口腔内速崩壊錠、カプセル、顆粒、細粒などの固形投与形態、液剤、ドリンク、シロップ及び懸濁液のような液体投与形態で摂取することができる。
また、食物繊維等の繊維物質と組み合わせても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明者らにより、初めて、アスタキサンチンに特定のアルデヒド類の発生を抑制する効果のあることが明らかになったので、加齢臭を抑制するアスタキサンチンを有効成分として含有した外用組成物及び内用組成物が得られる。
特に、揮発性アルデヒド類のうち、トコフェロールと比較して、アスタキサンチンの方が、ノネナールの発生を抑制する効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】試験1の評価結果を示す。
【図2】試験2の評価結果を示す。
【図3】試験3の評価結果を示す。
【図4】アスタキサンチンを添加した場合の試験3後のGC−MS分析チャートを示す。
【図5】トコフェロールを添加した場合の試験3後のGC−MS分析チャートを示す。
【図6】モデル皮脂のみの場合の試験3後のGC−MS分析チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
モデル皮脂を対象に、In vitroで試験評価したので以下説明する。
【0012】
[試験1]
<試験サンプルの作成>
モデル皮脂として、リノール酸とパルミトレイン酸を1:1で混合したものを用い、具体的には50%エタノール水溶液にリノール酸(シグマ社)2%、パルミトレイン酸(シグマ社)2%を加え、この試験液をコントロールサンプルとした。
(1)本発明に係る実施例として、上記コントロール用試験液にアスタキサンチンを0.005%添加した。
(2)比較例として、上記コントロール用試験液にトコフェロールを0.005%添加した。
<試験方法>
上記実施例サンプル、比較例サンプル及びコントロールサンプルに光増感剤を5μg/mLになるように添加し、1800Luxの白色光を一晩照射してモデル皮脂の酸化反応を促進した。
<評価方法>
モデル皮脂酸化度の評価
皮脂酸化反応後の各サンプルに20%トリクロロ酢酸水溶液および0.67%チオバルビツール酸水溶液を各0.5μL添加後、それを100℃で1時間インキュベートし、TBA反応を行なった。
反応後のサンプルをエーテルで洗浄し、水層の530nmにおける吸光度を測定した。
コントロールサンプルの吸光度に対する相対値をモデル皮脂の酸化度とした。
官能評価
4名の専門パネラーが、ノネナールの標準品(和光純薬社)と加齢臭発生反応後の各サンプルの臭いを比較し、各サンプルにおけるノネナール臭の強さを、0:加齢臭なし、1:弱い加齢臭あり、2:加齢臭あり、3:強い加齢臭あり、の4段階で評価した。
<評価結果>
その評価結果を図1に表とグラフにて示す。
光増感剤を加えた白色光照射にて一重項酸素曝露した試験では、トコフェロールよりもアスタキサンチンの方が過酸化抑制効果が高く、官能評価ではアスタキサンチンだけが加齢臭の発生が認められなかった。
従って、TBA反応による評価と官能評価が一致しなかった。
【0013】
[試験2]
<試験サンプルの作成>
モデル皮脂として、リノール酸とパルミトレイン酸を1:1で混合したものを用い、具体的にはエタノールにリノール酸(シグマ社)2%、パルミトレイン酸(シグマ社)2%を加え、この試験液をコントロールサンプルとした。
(1)本発明に係る実施例として、上記コントロール用試験液にアスタキサンチンを0.005%添加した。
(2)比較例として、上記コントロール用試験液にトコフェロールを0.005%添加した。
<試験方法>
上記実施例サンプル、比較例サンプル及びコントロールサンプルを80℃で15分間過熱してモデル皮脂の酸化反応を促進した。
<評価方法>
モデル皮脂酸化度及び官能評価を試験1と同様に実施した。
<評価結果>
試験2は試験1の白色光照射の替わりに80℃×15分間空気自動酸化を行ったものであるが、この結果からは空気自動酸化においては、トコフェロールの方がアスタキサンチンよりも過酸化抑制効果が高い結果になったが、この場合も官能評価と一致しなった。
【0014】
[試験3]
<試験サンプルの作成>
モデル皮脂として、リノール酸とパルミトレイン酸を1:1で混合したものを用い、具体的には50%エタノール水溶液にリノール酸(シグマ社)1%、パルミトレイン酸(シグマ社)1%を加え、この試験液をコントロールサンプルとした。
(1)本発明に係る実施例として、上記コントロール用試験液にアスタキサンチンを0.005%添加した。
(2)比較例として、上記コントロール用試験液にトコフェロールを0.005%添加した。
<試験方法>
上記実施例サンプル、比較例サンプル及びコントロールサンプルに光増感剤を5μg/mLになるように添加し、1800Luxの白色光を一晩照射してモデル皮脂の酸化反応を促進した。
モデル皮脂の酸化反応終了後、ジエチルエーテルで各サンプルの脂質を抽出して乾固し、これを更に37℃で24時間インキュベートして加齢臭の発生を促した。
上記のように処理した各サンプルの容器に窒素ガスを流し、ガス出口に取り付けたTENAX吸着管に揮発成分を吸着させ、GS−MS分析機(Gas Chromatograph−Mass Spectrometer、GSMS−QP5050H,島津製作所)にてDB−WAX60m×0.25mmカラムを用いて分析した。
そのクロマトグラムチャートを図4〜図6に示す。
また、官能試験として前回と同様に4名のパネラーがノネナールの標準品(和光純薬社)と上記インキュベートした後の各サンプルとの臭いを比較し、各サンプルのノネナール臭の強さを評価した。
【0015】
評価結果を図3の表に示し、この結果からアスタキサンチンは官能評価及びGS−MS分析の両方にて、加齢臭の原因となるアルデヒド類の発生が抑えられていることが明らかになった。
分析チャートを詳しく比較すると、まず図6に示したコントロールでは、17分付近にヘキサナール(Hexと表示)、21分30秒付近にヘプタナール(Hepと表示)、30分15秒付近にオクテナール(Oと表示)、33分30秒付近にノネナール(Nと表示)が確認された。
図5に示した比較例サンプル(トコフェロール)の分析チャートにもコントロールと同様のピークが現れた。
これに対して、図4に示した実施例(アスタキサンチン)の分析チャートでは、上記加齢臭の原因物質とされる4種類のアルデヒドのいずれも検出限界以内であった。
【0016】
<考察>
コントロールの試験結果からすると、アルデヒド類が生成されていることから加齢臭の再現ができている。
これは、モデル皮脂中のリノール酸が酸化され、その酸化伝播により、パルミトレイン酸も酸化され、アルデヒド類が生成したと推定される。
比較例のトコフェロールや、アスタキサンチンに過酸化抑制作用があることは試験1及び2にて確認されている。
ところが、意外にも、トコフェロールには、官能評価でノネナールの生成が認められ、分析チャートでもその事実が確認された。
これに対して、実施例のアスタキサンチンを添加したものは、特定のアルデヒド類の生成が抑制され、それらは加齢臭の原因物質と言われるものであり、その中でも特に、ノネナールの生成が抑えられていることが官能評価、及びGS−MS分析の両方にて確認できた。
このことから、アスタキサンチンは過酸化抑制作用だけは説明の付かない効果、即ち、加齢臭の原因なる特定のアルデヒド類の生成を抑制する効果が認められることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチンを有効成分として含有する加齢臭抑制組成物。
【請求項2】
加齢臭がアルデヒド類に寄因するものである請求項1記載の加齢臭抑制組成物。
【請求項3】
加齢臭の原因となるアルデヒド類は、ノネナール、オクテナール、ヘプタナール及びヘキサナールのうちいずれか1つ以上を含むものである請求項2記載の加齢臭抑制組成物。
【請求項4】
アルデヒド類は、ノネナールを含むものである請求項3記載の加齢臭抑制組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−236171(P2011−236171A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110255(P2010−110255)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】