説明

アスタキサンチン含有水系組成物、化粧料、及びアスタキサンチンの分解抑制方法

【課題】含有されるアスタキサンチンの経時安定性に優れたアスタキサンチン含有水系組成物、これを含む化粧料、及びアスタキサンチンの分解抑制方法の提供。
【解決手段】少なくとも、(A)アスタキサンチン、(B)20μg/L以上の鉄、及び(C)鉄キレート剤を含有する水系化粧料、並びに、少なくとも、(A)アスタキサンチン、及び(B)20μg/L以上の鉄を含有する水系組成物中に、(C)鉄キレート剤を含有させるアスタキサンチンの分解抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスタキサンチン含有水系組成物、化粧料、及びアスタキサンチンの分解抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスタキサンチンは、酸化防止効果、抗炎症効果などの機能を有することも知られている天然由来のカロテノイドであり、食品、化粧品、医薬品及びその他の加工品等に添加使用される。アスタキサンチンが有する種々の機能に着目した適用例としては、例えば、特許文献1には、皮膚外用剤に活性酸素除去剤としてアスタキチンサンチン含むものが開示される。特許文献2には、光老化抑制剤に一重項酸素消去能を有する成分としてアスタキチンサンチンを含むものが開示される。また、特許文献3には、アスタキサンチン類と薬効剤とを含有する組成物が開示される。
【0003】
一方で、アスタキサンチン等を含むカロテノイドは、不安定な構造であることから、熱、光、酸素、等により分解され、経時安定性を維持することが困難であった。カロテノイドの安定性を維持する方法に関しては、例えば、特許文献4には、カロテノイドの含有物に有機酸を添加する方法が開示される。特許文献5には、カロテノイド含有エマルション組成物に含有される不純物や酸化に起因する臭気を抑制し、経時安定性を向上させるために、カロテノイドと共に脱酸素水及び鉄キレート剤を含有させることが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−136123号公報
【特許文献2】特開2002−128651号公報
【特許文献3】特開平9143063号公報
【特許文献4】特開平6−264055号公報
【特許文献5】特開2008−74717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、含有されるアスタキサンチンの経時安定性に優れたアスタキサンチン含有水系組成物、及びこれを含む化粧料を提供することを目的とする。
また、本発明は、アスタキサンチンの分解抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 少なくとも、アスタキサンチン、20μg/L以上の鉄イオン、及び鉄キレート剤を含有するアスタキサンチン含有水系組成物。
<2> 更に、ジプロピレングリコールを含有する<1>に記載のアスタキサンチン含有水系組成物。
<3> 前記鉄キレート剤が、鉄キレート剤が、クエン酸若しくはその塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)若しくはその塩、エチドロン酸若しくはその塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA若しくはその塩)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)若しくはその塩、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸(EDTMP)若しくはその塩、及び酒石酸若しくはその塩からなる群から選択される少なくとも1種である<1>又は<2>に記載のアスタキサンチン含有水系組成物。
<4> 更に、水溶性酸化防止剤を含有する<1>〜<3>のいずれか1項に記載のアスタキサンチン含有水系組成物。
<5> <1>〜<4>のいずれか1項に記載のアスタキサンチン含有水系組成物を含む化粧料。
<6> 少なくとも、アスタキサンチン、及び20μg/L以上の鉄イオンを含有する水系組成物中に、鉄キレート剤を含有させるアスタキサンチンの分解抑制方法。
<7> 更に、ジプロピレングリコールを含有する請求項7に記載のアスタキサンチンの分解抑制方法。
<8> 前記鉄キレート剤が、クエン酸若しくはその塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチドロン酸、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸(EDTMP)、及び酒石酸からなる群から選択される少なくとも1種である<6>又は<7>に記載のアスタキサンチンの分解抑制方法。
<9> 前記水系組成物が、更に、水溶性酸化防止剤を含有する<6>〜<8>のずれか1項に記載のアスタキサンチンの分解抑制方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、含有されるアスタキサンチンの経時安定性に優れたアスタキサンチン含有水系組成物、及びこれを含む化粧料を提供することができる。
また、本発明は、アスタキサンチンの分解抑制方法を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のアスタキサンチン含有水系組成物、これを含む化粧料、及びアスタキサンチンの分解抑制方法について詳細に説明する。
【0009】
<アスタキサンチン含有水系組成物>
本発明のアスタキサンチン含有水系組成物(以下、単に「水系組成物」とも称する。)は、少なくとも、アスタキサンチン、20μg/L以上の鉄イオン、及び鉄キレート剤を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明のアスタキサンチン含有水系組成物は、上記構成を有することにより、組成物中に含有されるアスタキサンチンの分解が効果的に抑制されて、その経時安定性が飛躍的に向上する。このことは、アスタキサンチンを含む水系組成物に鉄イオンが特定量以上で共存すると、その分解が著しく促進されるとの本発明者により得られた知見に基づくものである。
【0011】
水系組成物中に鉄イオンが混入する要因の一つとしては、製造原料に含まれる不純物として含有される鉄成分による混入が挙げられる。例えば、多価アルコールの一種であるジプロピレングリコールは、保湿機能や粘度調整機能等を付与するための成分として、化粧料等の原料に用いられる成分であるが、鉄イオンを不純物として含む傾向が大きい。また、鉄イオンは、製造時のステンレスの釜、配管からの溶出などによっても組成物中に混入しうる。
【0012】
本発明においては、鉄イオンを組成物中に混入させる可能性が高い成分を用いる場合であっても、鉄イオンによるアスタキサンチンの分解が効果的に抑制することが可能であるため、鉄イオンによるアスタキサンチンの分解を危惧することなく、各種の成分を選択することが可能となる。これにより、水系組成物の設計の自由度が大きく向上する。
【0013】
本発明のアスタキサンチン含有水系組成物は、水中油滴型のエマルション組成物であることが好ましい。
【0014】
ここで、本発明において「水系」とは、水及び/又は水溶性溶媒を、少なくとも50質量%含有する系を意味する。
また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0015】
以下では、本発明の水系組成物が、必須及び任意に含む各種の成分について説明する。
【0016】
(1)アスタキサンチン
本発明の水系組成物が含有するアスタキサンチンは、酸化防止効果、抗炎症効果、皮膚老化防止効果、美白効果などを有し、優れたエモリエント効果、皮膚の老化防止効果や酸化防止効果を付与することができる成分として知られている。
なお、本発明に「アスタキサンチン」とは、アスタキサンチン及びアスタキサンチンのエステル等の誘導体の双方を包含する(以下、適宜「アスタキサンチン類」とも称する。)。
【0017】
本発明におけるアスタキサンチンとしては、植物類、藻類及びバクテリア等の天然物に由来するものの他、常法に従って得られるものであれば、いずれのものであってもよい。
前記天然物としては、例えば、赤色酵母ファフィア、緑藻ヘマトコッカス、海洋性細菌、オキアミ等にが挙げられる。また、その培養物からの抽出物等からの抽出物を挙げることができる。
アスタキサンチン類は、アスタキサンチン類を含有する天然物から分離・抽出(さらに必要に応じて適宜精製)したアスタキサンチン含有オイルとして、本発明の水系組成物に含まれていてもよい。
【0018】
アスタキサンチン含有オイルとして、例えば、赤色酵母ファフィア、緑藻ヘマトコッカス、海洋性細菌等を培養し、その培養物からの抽出物、南極オキアミ等からの抽出物を挙げることができる。
ヘマトコッカス藻抽出物(ヘマトコッカス藻由来色素)は、オキアミ由来の色素や、合成されたアスタキサンチンとはエステルの種類、及び、その含有率の点で異なることが知られている。
【0019】
本発明におけるアスタキサンチン類は、前記抽出物、また更にこの抽出物を必要に応じて適宜精製したものでもよく、また合成品であってもよい。
前記アスタキサンチン類としては、ヘマトコッカス藻から抽出されたもの(ヘマトコッカス藻抽出物ともいう。)が、品質、生産性の点から特に好ましい。
【0020】
本発明に使用できるヘマトコッカス藻抽出物の由来としては、具体的には、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)、ヘマトコッカス・ラキュストリス(Haematococcus lacustris)、ヘマトコッカス・カペンシス(Haematococcus capensis)、ヘマトコッカス・ドロエバゲンシス(Haematococcus droebakensis)、ヘマトコッカス・ジンバビエンシス(Haematococcus zimbabwiensis)等が挙げられる。
【0021】
また、本発明において、広く市販されているヘマトコッカス藻抽出物を用いることができ、例えば、武田紙器(株)製のASTOTS−S、同−2.5 O、同−5 O、同−10 O等、富士化学工業(株)製のアスタリールオイル50F、同 5F等、東洋酵素化学(株)製のBioAstin SCE7等として入手できる。
【0022】
本発明に使用できるヘマトコッカス藻抽出物中のアスタキサチン類の色素純分としての含有量は、水系組成物の製造時の取り扱いの観点から、好ましくは0.001〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜25質量%である。
【0023】
なお、本発明に使用できるヘマトコッカス藻抽出物は、特開平2−49091号公報に記載されるような、色素同様色素純分としてアスタキサンチンもしくはそのエステル体を含み、エステル体を、一般的には50モル%以上、好ましくは75モル%以上、より好ましくは90%モル以上含むものである。
さらに詳細な説明は「アスタキサンチンの化学」、平成17年、インターネット〈URL:http://www.astaxanthin.co.jp/chemical/basic.htm〉に記載されている。
【0024】
(2)鉄イオン
本発明の水系組成物には、20μg/L以上の鉄イオンが含まれる。
アスタキサンチンを含有する水系組成物は、20μg/L以上の鉄イオンを含有する場合に、アスタキサンチンの分解が著しく進行し、水系組成物の経時安定性が実用上問題となる程度に損なわれる。特に、50μg/L以上の鉄イオンの含有は、アスタキサンチンの含有による効果が殆ど得られない程度に、アスタキサンチンの分解を進行させてしまうが、本発明の水系組成物は、このような量の鉄イオンを含有する場合であっても、優れた経時安定性を発揮する。
本発明の水系組成物が含有する鉄イオン量の上限値に制限はないが、水系組成物が含有する他の成分の機能を考慮すると、その上限値は200μg/Lである。
【0025】
本発明の水系組成物が含有する鉄イオンの量は、HR−ICP−MS(サーモフィッシャー製 ELEMENT−XR)により測定した値である。
【0026】
(3)鉄キレート剤
本発明の水系組成物が含有する鉄キレート剤としては、鉄イオンとキレート結合を形成しうる化合物であればよい。
【0027】
鉄キレート剤としては、例えば、クエン酸若しくはその塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)若しくはその塩、エチドロン酸若しくはその塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA若しくはその塩)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)若しくはその塩、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸(EDTMP)若しくはその塩、酒石酸若しくはその塩、フィチン酸若しくはその塩、ピロリン酸若しくはその塩、ポリリン酸若しくはその塩、メタリン酸若しくはその塩等が挙げられ、錯塩による沈殿物を生じない観点からは、クエン酸若しくはその塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)若しくはその塩、エチドロン酸若しくはその塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA若しくはその塩)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)若しくはその塩、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸(EDTMP)若しくはその塩、及び酒石酸若しくはその塩からなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましく、クエン酸若しくはその塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)若しくはその塩、及びエチドロン酸若しくはその塩がより好ましく、エチドロン酸若しくはその塩が更に好ましい。
【0028】
水系組成物が含有する鉄キレート剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0029】
鉄キレート剤の含有量は、鉄イオンの封鎖能の観点から、水系組成物中に存在する鉄イオンに対して、0.5モル倍〜10モル倍が好ましく、0.7モル倍〜5モル倍がより好ましく、1モル倍〜3モル倍が更に好ましい。
また、水系組成物の全質量に対する鉄キレート剤の含有量としては、0.001質量%〜10質量%の範囲が好ましく、0.01質量%〜3質量%の範囲がより好ましく、0.1質量%〜1質量%の範囲が更に好ましい。
【0030】
(4)水溶性酸化防止剤
本発明の水系組成物は、更に、水溶性酸化防止剤を含有することが好ましい。
水溶性酸化防止剤を含有することにより、水系組成物の経時安定性をより向上させることができる。
【0031】
水溶性酸化防止剤としては、例えば、公知の水溶性酸化防止剤を適用できる。好適な水溶性酸化防止剤としては、例えば、(I)アスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体又はそれらの塩、及び、エリソルビン酸又はエリソルビン酸誘導体又はそれらの塩からなる化合物群、(II)ポリフェノール類からなる化合物群を挙げることができる。
【0032】
(I)アスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体又はそれらの塩、並びに、エリソルビン酸又はエリソルビン酸誘導体又はそれらの塩からなる化合物群
アスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体又はその塩としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸Na、L−アスコルビン酸K、L−アスコルビン酸Ca、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩、L−アスコルビン酸硫酸エステル、L−アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸2−グルコシド、L−アスコルビル酸パルミチン酸エステル、テトライソパルミチン酸L−アスコルビル等が挙げられる。
これらのうち、L−アスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩が特に好ましい。
【0033】
エリソルビン酸又はエリソルビン酸誘導体又はその塩としては、エリソルビン酸、エリソルビン酸Na、エリソルビン酸K、エリソルビン酸Ca、エリソルビン酸リン酸エステル、エリソルビン酸硫酸エステル、等が挙げられる。
【0034】
化合物群(I)に属する水溶性酸化防止剤としては、一般に市販されているものを適宜用いることができる。例えば、L−アスコルビン酸(武田薬品工業、扶桑化学、BASFジャパン、第一製薬ほか)、L−アスコルビン酸Na(武田薬品工業、扶桑化学、BASFジャパン、第一製薬ほか)、アスコルビン酸2−グルコシド(和光純薬、商品名 AA−2G(林原生物化学研究所))、L−アスコルビン酸燐酸Mg(商品名:アスコルビン酸PM「SDK」(昭和電工)、商品名:NIKKOL VC−PMG(日光ケミカルズ)、商品名:シーメート(武田薬品工業))、パルミチン酸アスコルビル(商品名:DSM、ニュートリション ジャパン、金剛薬品、メルク、ほか)等が挙げられる。
【0035】
(II)ポリフェノール類からなる化合物群
ポリフェノール類からなる化合物群としては、フラボノイド類(カテキン、アントシアニン、フラボン配糖体、イソフラボン配糖体、フラバン配糖体、フラバノン、ルチン配糖体)、フェノール酸類(クロロゲン酸、エラグ酸、没食子酸、没食子酸プロピル)、リグナン配糖体類、クルクミン配糖体類、クマリン類、などが挙げられる。また、これらの化合物は、天然物由来の抽出物中に多く含まれるため、抽出物という状態で利用することができる。
【0036】
化合物群(II)に属する水溶性酸化防止剤としては、一般に市販されているものを適宜用いることができる。例えば、エラグ酸(和光純薬ほか)、ローズマリー抽出物(商品名:RM−21A、RM−21E、三菱化学フーズほか)、カテキン(商品名:サンカトールW−5、No.1、太陽化学、ほか)、没食子酸Na(商品名:サンカトール、太陽化学、ほか)、ルチン・グルコシルルチン・酵素分解ルチン(商品名:ルチンK−2、P−10:キリヤ化学、商品名:αGルチン、林原生物化学研究所、ほか)等が挙げられる。
【0037】
これらの水溶性酸化防止剤の中でも、酸化防止能の強さの観点から、アスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体が特に好ましい。
【0038】
本発明の水系組成物における水溶性酸化防止剤の含有量は、水系組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%〜6質量%、より好ましくは0.5質量%〜5質量%、更に好ましくは1質量%〜3質量%である。
【0039】
(5)多価アルコール
本発明の水系組成物は、更に多価アルコールを含有してもよい。
多価アルコールは、保湿機能や粘度調整機能等を有している。
また、多価アルコールは、本発明の水系組成物がエマルション組成物組成物である場合には、水と油脂成分との界面張力を低下させ、界面を広がりやすくし、微細で、かつ、安定なエマルション組成物粒子を形成しやすくする機能も有している。従って、本発明の水系組成物が多価アルコールを含有することは、本発明の水系組成物をエマルション組成物組成物として構成する場合において、エマルション組成物粒子径がより小さくなり、かつ該粒子径が小さな状態のま長期に亘り安定して保持される観点から好ましい。
また、多価アルコールの添加により、本発明の水系組成物の水分活性を下げることができ、微生物の繁殖を抑えることができる。
【0040】
本発明の水系組成物が含有しうる多価アルコールとしては、二価以上のアルコールであれば特に限定されず用いることができる。
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、イソプレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、マルチトール、還元水あめ、蔗糖、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、キシロース、グルコース、ラクトース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フルクトース、イノシトール、ペンタエリスリトール、マルトトリオース、ソルビタン、トレハロース、澱粉分解糖、澱粉分解糖還元アルコール等が挙げられ、これらを、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
【0041】
上記した多価アルコールの中でも、ジプロピレングリコールは、製造過程において、不純物として鉄イオンを多く含む傾向にあり、水系組成物中に鉄イオンを導入させ易く、このような多価アルコールの使用は、アスタキサンチンの分解を生じるが、本発明の水系組成物は、このような多価アルコールを用いた場合であっても、アスタキサンチンの分解が抑制されて優れた経時安定性を示す。
【0042】
また、多価アルコールとしては、その1分子中における水酸基の数が、3個以上であるものを用いるのが好ましい。これにより、エマルション組成物組成物において、水系溶媒と油脂成分との界面張力をより効果的に低下させることができ、より微細で、かつ、安定な微粒子を形成させることができる。その結果、本発明の水系組成物を、例えば、食品用途とする場合は、腸管吸収性を、経皮医薬品用途や化粧品用途の場合は皮膚吸収性をより高いものとすることができる。
【0043】
本発明の水系組成物における多価アルコールの含有量は、水系組成物の全質量に対して、10質量%〜60質量%が好ましく、好ましくは20質量%〜55質量%、さらに好ましくは30〜50質量%である。多価アルコールの含有量が10質量%以上あれば、油溶性成分の種類や含有量等に拘わらず、充分な経時安定性を得ることができる。一方、多価アルコールの含有量が60質量%以下であれば、エマルション組成物組成物の粘度を適切な範囲に調整しつつ目的とする効果を得ることができる。
【0044】
(6)乳化剤
本発明の水系組成物を、その好適な態様である水中油滴型のエマルション組成物として構成する場合、乳化剤を含有することが好ましい。
【0045】
乳化剤としては、特に制限は無いが、ノニオン性乳化剤が好ましい。ノニオン性乳化剤の例としては、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。より好ましい例は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルである。また、乳化剤は蒸留などで高度に精製されたものであることは必ずしも必要ではなく、反応混合物であってもよい。
【0046】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、平均重合度が2以上、好ましくは6〜15、より好ましくは8〜10のポリグリセリンと、炭素数8〜18の脂肪酸、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびリノール酸とのエステルである。ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノパルミチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル等が挙げられる。これらのポリグリセリン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。市販品としては、例えば、日光ケミカルズ(株)社製、NIKKOL DGMS,NIKKOL DGMO−CV,NIKKOL DGMO−90V,NIKKOL DGDO,NIKKOL DGMIS,NIKKOL DGTIS,NIKKOL Tetraglyn 1−SV,NIKKOL Tetraglyn 1−O,NIKKOL Tetraglyn 3−S,NIKKOL Tetraglyn 5−S,NIKKOL Tetraglyn 5−O,NIKKOL Hexaglyn 1−L,NIKKOL Hexaglyn 1−M,NIKKOL Hexaglyn 1−SV,NIKKOL Hexaglyn 1−O,NIKKOL Hexaglyn 3−S,NIKKOL Hexaglyn 4−B,NIKKOL Hexaglyn 5−S,NIKKOL Hexaglyn 5−O,NIKKOL Hexaglyn PR−15,NIKKOL Decaglyn 1−L,NIKKOL Decaglyn 1−M,NIKKOL Decaglyn 1−SV,NIKKOL Decaglyn 1−50SV,NIKKOL Decaglyn 1−ISV,NIKKOL Decaglyn 1−O,NIKKOL Decaglyn 1−OV,NIKKOL Decaglyn 1−LN,NIKKOL Decaglyn 2−SV,NIKKOL Decaglyn 2−ISV,NIKKOL Decaglyn 3−SV,NIKKOL Decaglyn 3−OV,NIKKOL Decaglyn 5−SV,NIKKOL Decaglyn 5−HS,NIKKOL Decaglyn 5−IS,NIKKOL Decaglyn 5−OV,NIKKOL Decaglyn 5−O−R,NIKKOL Decaglyn 7−S,NIKKOL Decaglyn 7−O,NIKKOL Decaglyn 10−SV,NIKKOL Decaglyn 10−IS,NIKKOL Decaglyn 10−OV,NIKKOL Decaglyn 10−MAC,NIKKOL Decaglyn PR−20,三菱化学フーズ(株)社製リョートーポリグリエステル L−10D、L−7D、M−10D、M−7D、P−8D、S−28D、S−24D、SWA−20D、SWA−15D、SWA−10D、O−50D、O−15D、B−100D、B−70D、ER−60D、太陽化学(株)社製サンソフトQ−17UL、サンソフトQ−14S、サンソフトA−141C、理研ビタミン(株)社製ポエムDO−100、ポエムJ−0021などが挙げられる。
【0047】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸の炭素数が8以上のものが好ましく、12以上のものがより好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルの好ましい例としては、モノカプリル酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、セキステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、イソステアリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。これらのソルビタン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。市販品としては、例えば、日光ケミカルズ(株)社製、NIKKOL SL−10,SP−10V,SS−10V,SS−10MV,SS−15V,SS−30V,SI−10RV,SI−15RV,SO−10V,SO−15MV,SO−15V,SO−30V,SO−10R,SO−15R,SO−30R,SO−15EX,第一工業製薬(株)社製の、ソルゲン30V、40V、50V、90、110などが挙げられる。
【0048】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、脂肪酸の炭素数が12以上のものが好ましく、12〜20のものがより好ましい。ショ糖脂肪酸エステルの好ましい例としては、ショ糖ジオレイン酸エステル、ショ糖ジステアリン酸エステル、ショ糖ジパルミチン酸エステル、ショ糖ジミリスチン酸エステル、ショ糖ジラウリン酸エステル、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステル等が挙げられる。本発明においては、これらのショ糖脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。市販品としては、例えば、三菱化学フーズ(株)社製リョートーシュガーエステル S−070、S−170、S−270、S−370、S−370F、S−570、S−770、S−970、S−1170、S−1170F、S−1570、S−1670、P−070、P−170、P−1570、P−1670、M−1695、O−170、O−1570、OWA−1570、L−195、L−595、L−1695、LWA−1570、B−370、B−370F、ER−190、ER−290、POS−135、第一工業製薬(株)社製の、DKエステルSS、F160、F140、F110、F90、F70、F50、F−A50、F−20W、F−10、F−A10E、コスメライクB−30、S−10、S−50、S−70、S−110、S−160、S−190、SA−10、SA−50、P−10、P−160、M−160、L−10、L−50、L−160、L−150A、L−160A、R−10、R−20、O−10、O−150等が挙げられる。
【0049】
上記の乳化剤を使用する添加量は、組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%〜50質量%、より好ましくは0.5質量%〜20質量%、更に好ましくは質量%〜15質量%である。
【0050】
また、乳化剤の他の例としては、レシチンも有効である。レシチンとは、グリセリン骨格と脂肪酸残基及びリン酸残基を必須構成成分とし、これに、塩基や多価アルコール等が結合したもので、リン脂質とも称されるものである。レシチンは、分子内に親水基と疎水基を有していることから、従来より、食品、医薬品、化粧品分野で、広く乳化剤として使用されている。
【0051】
産業的にはレシチン純度60%以上のものがレシチンとして利用されており、本発明でも利用できるが、好ましくは一般に高純度レシチンと称されるものであり、これはレシチン純度が80%以上、より好ましくは90%以上のものである。このレシチン純度は、レシチンがトルエンに溶解しやすくアセトンに溶解しない性質を利用して、トルエン不溶物とアセトン可溶物の重量を差し引くことにより求められる。
【0052】
レシチンとしては、植物、動物及び微生物の生体から抽出分離された従来公知の各種のものを挙げることができる。このようなレシチンの具体例としては、例えば、大豆、トウモロコシ、落花生、ナタネ、麦等の植物や、卵黄、牛等の動物及び大腸菌等の微生物等から由来する各種レシチンを挙げることができる。このようなレシチンを化合物名で示すと、例えば、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルメチルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ビスホスアチジン酸、ジホスファチジルグリセリン(カルジオリピン)等のグリセロレシチン;スフィンゴミエリン等のスフィンゴレシチン等が挙げられる。
また、本発明においては、上記の高純度レシチン以外にも、水素添加レシチン、酵素分解レシチン、酵素分解水素添加レシチン、ヒドロキシレシチン等を使用することができる。これらのレシチンは、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
【0053】
レシチンを用いる場合、その含有量は、組成物の全質量に対して、0.1質量%〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%〜5質量%、更に好ましくは0.5質量%〜2質量%である。
【0054】
(7)他の油性成分
本発明の水系組成物においては、上述したアスタキサンチンの他に種々の油性成分を含むことができる。
本発明で使用可能な油性成分としては、水性媒体、特に水に不溶又は難溶の、油性媒体に溶解する成分であれば、特に限定は無い。なお、水性媒体に不溶とは、水性媒体100mLに対する溶解度が、25℃において、0.01g以下であることをいい、水性媒体に難溶とは、水性媒体100mLに対する溶解度が、25℃において、0.01gを超え0.1g以下であることをいう。また、本明細書における「機能性成分」とは、生体に適用した場合に、適用された生体において所定の生理学的効果の誘導が期待され得る成分を意味する。
【0055】
これらの油性成分の例としては、化粧品に使用した際に有用な効果を示す油性成分を広く挙げることができる。化学構造面からは、油脂類、炭化水素類、ロウ類、エステル類、高級アルコール類、高分子類、油溶性色素類、油溶性蛋白質類などがある。また、それらの混合物である、各種の植物油、動物油も含まれる。
【0056】
これらの油性成分の例としては、ヤシ油、オリーブ油、コーン油、ホホバ油などの油脂類;ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セタノールなどの高級アルコール類;コレステロール、フィトステロールなどのステロール類;パルミチン酸エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシルなどのエステル類;スクワラン、水添ポリデセン、水添ポリイソブテンなどの炭化水素類が挙げられる。
【0057】
また、特徴のある機能を有する機能性油性成分として、βカロテン、ゼアキサンチン、リコピン、ルテインなどのカロテノイド類、トコフェロール、トコトリエノールなどのビタミンE類、コエンザイムQ10などのユビキノン類、EPA、DHA、リノレン酸などのω−3油脂類なども含むことができる。
【0058】
更に、保湿機能を持った油性成分として高価ではあるが、セラミドI、セラミドII、セラミドIII、セラミドV、セラミドVIなどの活性セラミド類;グルコシルセラミド、ガラクトシルセラミドなどのスフィンゴ糖脂質類;スフィンゴミエリン類;疑似セラミド類も含むことができる。
【0059】
本発明の水系組成物において、上記他の油性成分の含有量としては、組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%〜50質量%、より好ましくは0.2質量%〜25質量%、更に好ましくは0.5質量%〜10質量%である。油性成分の含有量が前記0.1質量%以上であれば、有効成分の効能を充分に発揮でき、本発明の水系組成物を、化粧料へ応用し易くなるため好ましい。一方、50質量%以下であれば、分散粒子径の増大や乳化安定性の悪化を抑制し、安定な組成物が得られるため、好ましい。
【0060】
<アスタキサンチンの分解抑制方法>
本発明のアスタキサンチンの分解抑制方法は、アスタキサンチンを含有する水系組成物に適用されるアスタキサンチンの分解抑制方法であり、少なくとも、アスタキサンチン、及び20μg/L以上の鉄イオンを含有する水系組成物中に、鉄キレート剤を含有させることを特徴とする。
【0061】
以下、本発明のアスタキサンチンの分解抑制方法を、本発明の水系組成物をその好適な態様であるエマルション組成物として製造する方法に即して説明する。
【0062】
本発明の分解抑制方法が適用される水系組成物の製造方法は、特に限定されないが、少なくとも、アスタキサンチン、鉄キレート剤を混合してエマルション組成物を形成する工程を有することが好ましい。例えば、a)水性媒体に、鉄キレート剤、水溶性乳化剤、水溶性酸化防止剤、多価アルコールを溶解させて、水相を得、b)アスタキサンチン、油溶性乳化剤、油溶性酸化防止剤及び必要に応じてその他の油脂を混合・溶解して、油相を得、c)攪拌下で水相と油相を混合して、乳化分散を行い、エマルション組成物を得る、各工程を有することが好ましい。
【0063】
また、一旦、鉄キレート剤を含まない高濃度のアスタキサンチン含有エマルション組成物を製造し、次いでこれに鉄キレート剤を添加し、水等の水性溶媒で希釈して、本発明の水系組成物とすることができる。同様に、一旦、鉄キレート剤を含む高濃度のアスタキサンチン含有エマルション組成物を製造し、次いで、これに鉄キレート剤を添加することなく、あるいは鉄キレート剤を添加し、水等の水性溶媒で希釈して本発明の水系組成物とすることができる。
また、一旦、高濃度のアスタキサンチン含有エマルション組成物を調製し、これを水等の水性溶媒で希釈した後、鉄キレート剤、多価アルコール、水溶性酸化防止剤等の水性成分を添加することもできる。
これらの方法を採る場合、高濃度のアスタキサンチン含有エマルション組成物の希釈割合は、適宜に選択することが可能であり、10倍以上200倍以下が好ましく、20倍以上150倍以下が更に好ましく40倍以上100倍以下がより好ましい。
【0064】
乳化分散の際には、例えば、スターラーやインペラー攪拌、ホモミキサー、連続流通式剪断装置等の剪断作用を利用する通常の乳化装置を用いて乳化をした後、高圧ホモジナイザーを通す等の方法で2種以上の乳化装置を併用することが特に好ましい。高圧ホモジナイザーを使用することで、乳化物を更に均一な微粒子の液滴に揃えることができる。また、更に均一な粒子径の液滴とする目的で複数回行ってもよい。
【0065】
高圧ホモジナイザーには、処理液の流路が固定されたチャンバーを有するチャンバー型高圧ホモジナイザー及び均質バルブを有する均質バルブ型高圧ホモジナイザーが挙げられる。これらの中では、均質バルブ型高圧ホモジナイザーは、処理液の流路の幅を容易に調節することができるので、操作時の圧力及び流量を任意に設定することができ、その操作範囲が広いため特に食品や化粧品などの乳化分野で広く用いられている。これに対し、操作の自由度は低いが、圧力を高める機構が作りやすいため、超高圧を必要とする用途にはチャンバー型高圧ホモジナイザーが用いられる。
【0066】
チャンバー型高圧ホモジナイザーとしては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、アルティマイザー((株)スギノマシン製)等が挙げられる。
均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等が挙げられる。
【0067】
高圧ホモジナイザーによる分散は、液体が非常に狭い(小さな)間隙を高速度で通過する際に発生する大きな剪断力によるものと考えられる。この剪断力の大きさは、ほぼ圧力に比例し、高圧になればなるほど液体中に分散された粒子にかかる剪断力すなわち分散力は強くなる。しかし、液体が高速で流れるときの運動エネルギーの大半は熱に変わるため、高圧になればなるほど液体の温度は上昇し、これによって分散液成分の劣化や粒子の再凝集が促進されることがある。従って、高圧ホモジナイザーの圧力は最適点が存在するが、その最適点は分散される物、狙うべく粒径によっても異なると考えられる。本発明において、ホモジナイザーの圧力は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは50MPa〜250MPa、更に好ましくは100MPa〜250MPaで処理することが好ましい。また、乳化液はチャンバー通過直後30秒以内、好ましくは3秒以内に何らかの冷却器を通して冷却することが好ましい。
【0068】
微細な乳化物を得るもう一つの有力な方法としては、超音波ホモジナイザーの使用が挙げられる。超音波ホモジナイザーの例としては、超音波ホモジナイザーUS−1200T、同RUS−1200T、同MUS−1200T(以上、(株)日本精機製作所製)、超音波プロセッサーUIP2000,同UIP−4000、同UIP−8000,同UIP−16000(以上、ヒールッシャー社製)等が挙げられる。本発明においては、これらの超音波ホモジナイザーを用いて、25kHz以下の周波数、好ましくは15〜20kHzの周波数で、且つ分散部のエネルギー密度が100W/cm以上、好ましくは120W/cmとすることにより、微細乳化をしてもよい。
【0069】
超音波照射はバッチ式でもよいが、その際には分散液全体を攪拌する手段と併用することが好ましい。併用する攪拌手段としてはアジテーター、マグネチックスターラー、ディスパー等の攪拌が用いられる。更に好ましくはフロー式の超音波照射を行うことができる。フロー式とはすなわち分散液供給タンク、供給ポンプを備え、一定流量で超音波照射部を備えたチャンバー中に分散液を送るものである。チャンバーへの液の供給はどういう方向でも効果があるが、超音波照射面に対し液の流れが垂直に衝突する方向に供給する方法が特に好ましい。
【0070】
超音波照射を行う時間は、特に制限されないが、実質的に容器内で超音波が照射されている時間で、2分/kg〜200分/kgであることが好ましい。短すぎると乳化が不充分であり、長すぎると再凝集が起こる可能性がある。乳化物により最適時間は変化するが、一般に好ましくは10分〜100分の間である。
【0071】
高エネルギー密度の超音波照射による乳化液の温度上昇により、乳化物中の構成成分の劣化や粒子の再凝集が起こる可能性があるため、冷却手段を併用することが好ましい。バッチ照射の場合には照射容器を外から冷却したり、容器の中に冷却ユニット設置することができる。また、フロー式の場合には、超音波照射チャンバーを外から冷却するほかにフロー循環の途中に熱交換器等の冷却手段を設置することが好ましい。
【0072】
超音波ホモジナイザーを超高圧ホモジナイザーと併用すると更に好ましい分散が得られる。すなわち、剪断作用を利用する通常の乳化装置を用いて乳化をした後に、超高圧ホモジナイザー分散を行うことで超高圧ホモジナイザー分散の効率が高まり、パス回数の低減が図られると共に、粗大粒子の低減により高品質な乳化物を得ることが可能となる。また、超高圧ホモジナイザー乳化を行った後に、更に超音波照射を行うことで、粗大粒子を低減させることができる。また、超高圧分散と超音波照射を交互に行うなど任意の順序でこれらの工程を繰り返し行うこともできる。
【0073】
<用途>
本発明の水系組成物は、アスタキサンチンに起因した各種機能性に優れるだけではなく、経時安定性に優れている。このため、アスタキサンチン及び組成物中に含有される他の成分が有する機能に応じた種々の用途に、そのまま又は成分材料として好ましく用いられる。
【0074】
このような用途としては、例えば、医薬品(外用剤、皮膚製剤)、化粧料、食品などの広く用途が挙げられる。ここで、医薬品としては、坐剤、塗布剤等(皮膚外用剤)の非経口剤など、化粧料としては、化粧水、美容液、ジェル、乳液、クリーム等、水系化粧料として知られている一般的な剤型のいかなる態様であってよい。
本発明のアスタキサンチン含有分散物を、皮膚外用剤、化粧品に使用する場合、必要に応じて、医薬品や化粧品に添加可能な成分を適宜添加することができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1〜7、比較例1〜6)
下記の成分を、70℃で加熱しながら1時間溶解して、水相組成物を得た。
・ショ糖オレイン酸エステル 13g
・モノオレイン酸デカグリセリル(HLB=12) 25g
・グリセリン 500g
・純水 332g
【0077】
<油相組成物の調製>
また、下記成分を、70℃で加熱しながら1時間溶解して、油相組成物を得た。
・ヘマトコッカス藻抽出物(アスタキサンチン類含有率20質量%) 40g
・レシチン(大豆由来) 90g
【0078】
水相を70℃に保ったままホモジナイザーで攪拌し(10000rpm)、そこへ上記油相を添加して乳化物を得た。得られた乳化物を、アルティマイザーHJP−25005(株式会社スギノマシン製)を用いて、200MPaの圧力で高圧乳化を行った。
その後、乳化物を平均孔径1μmのミクロフィルターでろ過して、アスタキサンチン含有エマルション組成物K−01を調製した。
【0079】
水相組成物及び油相組成物に用いた各成分の詳細は以下の通りである。
ショ糖オレイン酸エステルとしては、三菱化学フーズ株式会社製リョートーシュガーエステルO−1670(HLB=15)、モノオレイン酸デカグリセリルとしては、日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL Decaglyn 1-O(HLB=12)を使用した。ヘマトコッカス藻抽出物としては、武田紙器株式会社製ASTOTS−Sを使用した。レシチン(大豆由来)としては、理研ビタミン株式会社製のレシオンPを使用した。
【0080】
<希釈>
比較例1については、0.05gのエマルション組成物K−01を、純水に添加して希釈し、総量を100gとした。
比較例2〜4については、0.05gのエマルション組成物K−01を純水90mLに添加して希釈した後、表1に記載の鉄イオン量となるように塩化鉄(II)四水和物を添加し、更に純水を加えて総量を100gとした。
【0081】
比較例5〜6については、0.05gのエマルション組成物K−01を純水90mLに添加して希釈した後、更に、表1に記載の鉄イオン量となる量の塩化鉄(III)、及び、表1に記載される鉄キレート剤、プロピレングリコール(表1中、DPGと示す。)、及びリン酸L−アスコルビルマグネシウム(表1中、APMと示す。)を、表1に記載の含有量となるように添加し、更に純水を加えて総量を100gとした。
【0082】
実施例1〜7については、0.05gのエマルション組成物K−01を純水に添加して希釈した後、更に、表1に記載の鉄イオン量となる量の塩化鉄(II)四水和物、及び、表1に記載される他の成分を表1に記載の含有量となるように添加して、総量を100gとした。
【0083】
以上により、実施例1〜7の組成物1〜7、及び比較例1〜6の組成物1C〜6Cを調製した。
【0084】
表1中に記載の各成分の詳細は、以下の通りである。
塩化鉄(II)四水和物としては、和光純薬株式会社製の塩化鉄(II)四水和物、クエン酸としては、和光純薬株式会社製のクエン酸、EDTA・2Naとしては、和光純薬株式会社製のエデト酸ナトリウム水和物「製造専用」、エチドロン酸Naとしては、キレスト株式会社製の「キレストPH−210」を使用した。また、ジプロピレングリコール(DPG)としては、ADEKA社製DPG−RF、リン酸L−アスコルビルマグネシウム(APM)としては、昭和電工株式会社製アスコルビン酸「PM」を使用した。
【0085】
なお、各組成物中における鉄イオン量は、前述の方法により測定した。
【0086】
<評価>
1.経時安定性評価(1)
経時安定性評価(1)では、実施例1〜7で得られた組成物1〜7、及び比較例1〜6で得られた組成物1C〜6Cについて、高温(50℃)で保存した前後における吸光度を測定することで、アスタキサンチンの経時安定性を評価した。
詳細には、組成物1〜7及び組成物1C〜6Cを、蓋付きガラス瓶(日電理科硝子社製SV−15)に15mLずつ入れたものを各1本ずつ用意した。次いで、各蓋付きガラス瓶を、高温(50℃)に保たれた恒温槽中で6日間保存した。
保存前後の各組成物を10mmセルに入れ、UV−VIBLEスペクトルフォトメーターUV−2550((株)島津製作所製)を使用して、波長478nmにおける吸光度を測定し、保存前後における吸光度変化率(%)を、下記式(1)により算出した。得られた吸光度変化率を経時安定性(1)の指標とした。
吸光度変化率(%)=保存後の吸光度/保存前の吸光度×100 式(1)
吸光度変化率(%)の値が大きい程、高温環境下におけるアスタキサンチンの分解が抑制されており、経時安定性に優れていることを示す。
結果を表1に示す。
【0087】
2.経時安定性評価(2)
経時安定性評価(2)では、実施例1〜7で得られた組成物1〜7、及び比較例1〜6で得られた組成物1C〜6Cについて、室温(23℃)で保存した前後における吸光度を測定することで、アスタキサンチンの経時安定性を評価した。
詳細には、経時安定性評価(1)における蓋付きガラス瓶の保存条件を、室温(23℃)に保たれた恒温槽中で3ヵ月間保存することに変更した以外は、経時安定性評価(1)と同様にして、組成物1〜7及び組成物1C〜6Cを入れた蓋付きガラス瓶を保存した。各組成物の保存前後における吸光度を測定し、変化率(%)を算出した。得られた吸光度変化率を経時安定性(2)の指標とした。
吸光度変化率(%)の値が大きい程、室温下におけるアスタキサンチンの分解が抑制されており、経時安定性に優れていることを示す。
結果を表1に示す。
【0088】
経時安定性評価(1)及び(2)のいずれの場合についても、経時安定性評価の指標とした吸光度変化率(%)が80%未満であることは、実用上問題となる程度にアスタキサンチンが分解されていることを示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に示される結果より以下のことが分る。
比較例の組成物である、塩化鉄(II)四水和物を添加していない組成物C1と、塩化鉄(II)四水和物を添加した組成物C2〜C4対比からは、組成物中における鉄イオンの含有量が増加するに従って、吸光度の変化率(%)が低下しており、鉄イオンの存在がアスタキサンチンの経時安定性を悪化させることが確認された。
特に、20μg/L以上の鉄イオンを含む組成物C3及びC4では、経時安定性が実用上問題となる程度に著しく悪化していることが分る。
【0091】
一方、実施例の組成物である組成物1〜7は、組成物に含有される鉄イオン量に拘らず、室温(23℃)及び高温(50℃)のいずれの環境下に保存した場合においても、実用上の問題とならない良好な経時安定性を示すことが分る。より詳細には、以下のことが確認された。
【0092】
鉄キレート剤を含有する組成物1〜3と、鉄キレート剤を含有していない以外は同様の組成を有する組成物C3との対比からは、実施例の組成物である組成物1〜3は、いずれも鉄イオンが含有されているにも拘らず、経時安定性が良好である。
【0093】
ジプロピレングリーコールを含有する組成物C5では、ジプロピレングリーコールに由来すると考えられる鉄イオンの増加により、アスタキサンチンの安定性の著しい悪化が示されている。一方、鉄キレート剤を含有する実施例4〜6の組成物4〜6では、ジプロピレングリーコールを含有することで、組成物C5と同量の鉄イオンを含まれているにも拘らず、経時安定性が極めて良好である。
【0094】
また、鉄キレート剤及び水溶性酸化防止剤を併用した実施例7の組成物7は、鉄キレート剤及び水溶性酸化防止剤を含有しない比較例5の組成物C5との対比において、経時安定性が極めて良好である。更に、組成物7は、水溶性酸化防止剤のみを含有し、鉄キレート剤を含有しない比較例6の組成物C6との対比においても、経時安定性が良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、アスタキサンチン、20μg/L以上の鉄イオン、及び鉄キレート剤を含有するアスタキサンチン含有水系組成物。
【請求項2】
更に、ジプロピレングリコールを含有する請求項1に記載のアスタキサンチン含有水系組成物。
【請求項3】
前記鉄キレート剤が、クエン酸若しくはその塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)若しくはその塩、エチドロン酸若しくはその塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA若しくはその塩)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)若しくはその塩、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸(EDTMP)若しくはその塩、及び酒石酸若しくはその塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載のアスタキサンチン含有水系組成物
【請求項4】
更に、水溶性酸化防止剤を含有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のアスタキサンチン含有水系組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のアスタキサンチン含有水系組成物を含む化粧料。
【請求項6】
少なくとも、アスタキサンチン、及び20μg/L以上の鉄イオンを含有する水系組成物中に、鉄キレート剤を含有させるアスタキサンチンの分解抑制方法。
【請求項7】
更に、ジプロピレングリコールを含有する請求項6に記載のアスタキサンチンの分解抑制方法。
【請求項8】
前記鉄キレート剤が、クエン酸若しくはその塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)若しくはその塩、エチドロン酸若しくはその塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA若しくはその塩)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)若しくはその塩、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸(EDTMP)若しくはその塩、及び酒石酸若しくはその塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項6又は請求項7に記載のアスタキサンチンの分解抑制方法。
【請求項9】
前記水系組成物が、更に、水溶性酸化防止剤を含有する請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載のアスタキサンチンの分解抑制方法。

【公開番号】特開2012−31067(P2012−31067A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169443(P2010−169443)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】