説明

アスパラギナーゼ活性の中和を推定するための検査法

アスパラギナーゼ活性を中和する因子の存在を、該患者から得た、中和因子を含有する可能性のある血液、血漿、血清又は誘導された媒質の試料においてインビトロで判定する方法であって、該試料をアスパラギナーゼと混合し、その混合物をインキュベートし、次いで混合物中の残留アスパラギナーゼ活性を測定して、中和因子の存在を判定又は定量することを含む方法。アスパラギナーゼによる処置の有効性を推定するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、療法用酵素アスパラギナーゼによる処置に対する患者の応答能を診断するための検査法に関する。本発明は特に、特定の患者においてアスパラギナーゼを用いる処置の有効性を推定するための検査法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−アスパラギナーゼは、急性リンパ芽球性白血病の処置のために30年以上使われている化学療法プロトコルの必須成分である。それの作用機序は、リンパ芽球の腫瘍性増殖にとって必須要素である血漿アミノ酸アスパラギンの加水分解に基づく。正常細胞と対照的に、癌性リンパ芽球は自身のアスパラギンを自ら産生することができず、細胞外供給源に依存している。アスパラギナーゼによる処置は、それらからこの必須構成要素を枯渇させ、こうしてそれらを死滅させる。
【0003】
微生物から調製した酵素が、現在3つの形態で市販されている:最初の2つは細菌源である大腸菌(Escherichia coli)及びエルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)に由来し、第3は大腸菌の天然アスパラギナーゼにポリエチレングリコールを共有結合させることにより得られる(PEG−アスパラギナーゼ)。
【0004】
アスパラギナーゼによる処置は、そのかなりの抗白血病効力にもかかわらず、この酵素の免疫原性に関係する一定数の合併症を伴う。これらの合併症は臨床症状発現又は無症候性不活性化に反映される場合がある。
【0005】
中等度のアレルギー反応からアナフィラキシーショックまで重傷度が変動する過敏反応が多数の著者により報告されている(Wang et al., Journal of Immunological Methods 239 (2000) 75-83)。前記3形態のアスパラギナーゼについてみられるこのタイプの反応が発現すると、より重篤な反応の懸念のため一般に処置が中断される。
【0006】
さらに、アスパラギナーゼは中和特性をもつ循環抗体を出現させ、これは細網内皮系による酵素クリアランスの増大及びその療法効力の低下に反映される(Mueller H.J., Boos J. Crit Rev Oncol/hematol 1998; (28): 97-113)。これらの抗体は前記3形態の酵素(大腸菌、エルウィニア及びPEG−アスパラギナーゼ)について観察されており、この場合はアスパラギナーゼの療法目的、すなわち迅速かつ完全な長期間の血漿アスパラギン枯渇の達成は実現しない。
【0007】
患者の血清中に存在する中和因子、主に抗体、によるこの酵素不活性化は臨床徴候を伴わず、臨床医にとって無症候性である。
したがって、臨床医には患者の血清中に存在するアスパラギナーゼ中和因子、主に抗体、の存在を推定するための自由に使用できる迅速で使いやすい検査法を求めるかなりの要望があることを本発明者らは確認した。この検査法があれば、酵素の用量を調整すること、又は使用するアスパラギナーゼをこれらの中和因子に対して感受性でないかもしくはより感受性の低い他の形態のアスパラギナーゼと交換することが可能になるであろう。
【0008】
患者のアスパラギナーゼ活性をモニターするために幾つかの可能性が考慮された:
・血漿L−アスパラギンのアッセイ;
・血漿L−アスパラギナーゼ活性のアッセイ;
・抗−アスパラギナーゼ抗体のアッセイ。
【0009】
血漿アスパラギンのレベルは、アスパラギナーゼについて目的とする療法効果、すなわち迅速、完全かつ持続的なアスパラギン枯渇を反映する主要な生化学的パラメーターである。したがって、それのアッセイに関して幾つかの方法が記載されている。それらは大部分が、アッセイすべき試料の成分を高速液体クロマトグラフィーにより分離する段階、及び蛍光分析による検出又は質量分析による定量の組合せに基づく。これらの方法は冗長であり、訓練された人員を必要とし、かつそれらに要する経費及び時間は日常的な臨床使用に適合しない。
【0010】
より最近になってVermaらは、L−アスパラギナーゼと有色指示薬を種々の支持体(ニトロセルロース膜、シリコーンゲル又はアルギン酸カルシウムビーズ)上に共固定化することに基づく、アスパラギンの迅速アッセイ法を記載した。これらの支持体のいずれかを患者の血清試料と接触させると、固定化されたL−アスパラギナーゼは存在するアスパラギンを分解するであろう。この加水分解反応に伴うアンモニウムの生成により、フェノールレッド指示薬が変色するであろう。この方法は使用の簡単さ及び迅速さという要求を満たすように思われるが、その著者らは実証できる試験データを提供しておらず、それの精度についてはなお疑問がある。
【0011】
容易かつ迅速に使用できる実証された方法がないこととは別に、血漿L−アスパラギンのアッセイは下記の問題によって制限される。インビボではアスパラギナーゼの作用によるアスパラギンの分解は生理的なアスパラギン産生により反対平衡が保たれるのに対し、インビトロではアスパラギンに対するこの酵素の触媒作用が持続するであろう。直接的な結果として、アスパラギナーゼで処置した患者から血清試料を採取した場合、残留量の酵素がアスパラギンレベルの測定値を偏らせ、生理的レベルより“誤って”低くなるであろう(Boos et al., European journal of cancer (1996) 32, 1544-1550)。分析操作におけるこの干渉の結果、被験患者における生理的アスパラギナーゼ活性との相関性がなくなる。
【0012】
血漿L−アスパラギナーゼをアッセイするための幾つかの方法が記載されており、最もよく使用されている方法、はL−アスパラギナーゼを含有する血清をL−アスパラギン含有緩衝液中でインキュベートし、次いで反応を停止した後、生成アンモニウムをネスラー試薬により測定することに基づく。Orsonneauらは、血漿L−アスパラギナーゼで処置した患者をモニターできる、より迅速でより正確な自動化された変法を提唱した(J. L. Orsonneau et al. Ann Biol Clin 2004, 62: 568-72)。この方法はグルタミン酸デヒドロゲナーゼの作用を基礎とする;これは、L−アスパラギナーゼによりL−アスパラギンが加水分解される際に生成したアンモニウムを利用して、α−ケトグルタレートをグルタミン酸に変換する。
【0013】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ
α−ケトグルタレート+NH4++NADPH→L−グルタメート+NADP+H2O
この反応において、反応経過中に酸化されるNADPHの量は、試料に含有されていたアンモニアの量と同等であり、光学濃度の低下を測定することにより判定できる。したがってアンモニウム出現の動態をモニターして、L−アスパラギナーゼの活性を計算することができる。この方法は患者のL−アスパラギナーゼ活性をモニターするのを可能にするが、血清中に存在する因子によるこの酵素の中和に関しては何ら推定情報を与えない。
【0014】
Wangらは、患者からの血漿試料において抗アスパラギナーゼIgGを定量するための標準化されたELISA検査法を開発した(B. Wang et al., Journal of Immunological Methods 239 (2000) 75-83)。この検査法は、L−アスパラギナーゼで処置されてアレルギー反応を発現した又は発現しなかった急性リンパ芽球性白血病患者の血清中における抗アスパラギナーゼ抗体の濃度を測定するために、臨床試験の範囲内で使用された(M. H. Woo et al., Leukemia (1998) 12, 1527-1533)。その著者らは、測定をアレルギー反応が起きる前に実施したか又は後に実施したかに関係なく、アレルギー反応を発現した患者において抗アスパラギナーゼ抗体の中間濃度がより高いことを示すことができた。彼らは、将来のアレルギー反応の発現を推定するために、そのような検査法を使用することには臨床業務において有益性があると結論している。
【0015】
それにもかかわらず、そのような検査の推定値には疑問の可能性がある;アレルギー反応の発現前に測定した抗アスパラギナーゼ抗体の濃度の変動範囲が重複し、それぞれ下記のとおりである:
・後にアレルギー反応を発現した患者については0.001から0.375単位までのOD;
・後にアレルギー反応を発現しなかった患者については0.004から0.064単位までのOD。
【0016】
さらに、抗体濃度の測定は、患者におけるアスパラギナーゼの薬理活性及び血清中に存在する因子によるその中和の可能性に関しては何ら情報を与えない。
E.H. Panosyan et al., J. Pediatr. Hematol. Oncol. 2004, 26, 4 : 217-226は、患者の血清において抗アスパラギナーゼ抗体及びアスパラギナーゼ酵素活性を調べた。その著者らは、抗アスパラギナーゼ抗体の供給源として患者の血清検体を用いて実施したエクスビボ中和アッセイを記載している。血清検体を天然又はPEG−アスパラギナーゼ抗原溶液と共にインキュベートし、残留するアスパラギナーゼ酵素活性を測定した。その著者らは、臨床状況での抗アスパラギナーゼ抗体の標準モニタリングを最終的に推奨した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Wang et al., Journal of Immunological Methods 239 (2000) 75-83
【非特許文献2】Mueller H.J., Boos J. Crit Rev Oncol/hematol 1998; (28): 97-113
【非特許文献3】Boos et al., European journal of cancer (1996) 32, 1544-1550
【非特許文献4】J. L. Orsonneau et al. Ann Biol Clin 2004, 62: 568-72
【非特許文献5】M. H. Woo et al., Leukemia (1998) 12, 1527-1533
【非特許文献6】E.H. Panosyan et al., J. Pediatr. Hematol. Oncol. 2004, 26, 4 : 217-226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって本発明の目的は、先行技術の欠点を克服し、アスパラギナーゼ活性を中和する可能性のある因子を患者がもつかどうかを特定の時点で知るのを可能にする新規方法を提唱することである。この方法は、完全に推定性であるという利点をもたなければならない;すなわち、その方法は診断すべき患者にその酵素を投与する段階が必要であってはならない。それは、いずれかの形態のアスパラギナーゼに対する患者の応答能を反映しなければならない。したがって患者は、初めてこの酵素を用いて処置する予定の患者、又はアスパラギナーゼで処置されていたかもしくは現在処置されている患者であってもよい。過去又は現在の処置に使用した酵素の活性を中和する可能性のある因子の存在を検査することができ、これにより、この酵素による処置を再開又は継続できるかどうかを知り、場合により調整することが可能になる。その患者の処置のために考慮している酵素の活性を中和する可能性のある因子の存在を検出することもでき、これによって特定の酵素の使用を確証又は除外することが可能になる。
【0019】
この知見は、処置の形態(薬量、投与計画)又は酵素の選択もしくはそれの投与形態について、先行技術の方法よりはるかに適切な指針を専門医に提供するであろう。中和因子は存在しないか、あるいは場合により投与量又は投与計画を増強して被験酵素により処置することが可能な十分に低いレベルで存在する。あるいは、そのような処置の継続又は開始には高すぎるレベルで中和因子が存在し、その場合、本発明は他の形態の酵素又は中和因子に対してより感受性が低いかもしくは感受性でない形態、たとえばバイオベクターに収容された酵素を用いる別の解決策の試験及び/又は推奨を可能にする。
【0020】
したがって本発明は、患者からの血液試料におけるアスパラギナーゼ活性を中和する因子の存在を判定するインビトロ法を提唱することを目的とする。
本発明は、(i)アスパラギナーゼによる処置に対して陽性に応答する、又は(ii)それに対して応答しない、又は(iii)不完全に応答するにすぎない、患者の応答能をインビトロで判定するための方法を提唱することをも目的とする。
【0021】
本発明は、アスパラギナーゼによる処置の有効性を推定するための、又はこの酵素が直ちに中和因子によるその活性の実質的な不活性化の対象にはならないであろうという事実を推定するための方法を提唱することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
したがって本発明は、アスパラギナーゼが患者において活性でありうるかを推定するための方法であって、アスパラギナーゼ活性を中和する因子の存在を、該患者から得た、中和因子を含有する可能性のある血液、血漿、血清又は誘導された媒質の試料においてインビトロで判定する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、アスパラギナーゼ活性を中和する因子の存在を、患者から得た、中和因子を含有する可能性のある血液、血漿、血清又は誘導された媒質の試料においてインビトロで判定する方法であって、試料をアスパラギナーゼと混合し、その混合物をインキュベートし、次いで混合物中のこのアスパラギナーゼの残留活性を測定することを含む方法に関する;これは、試料中の、したがってインビボでの患者における、中和因子の存在を反映し、それの判定又は定量を可能にする。この方法により、患者におけるアスパラギナーゼ中和因子の存在を定性的及び定量的に診断することが可能になる。中和因子とは、抗アスパラギナーゼ抗体のみでなく、アスパラギナーゼ又はその酵素活性を阻害することができる他のいずれかの因子、たとえばプロテアーゼ、たとえばヒト・アスパラギニルエンドペプチダーゼも表わすものとする。
【0024】
本発明はさらに、特定のアスパラギナーゼが特定の患者において活性である可能性があるかどうかを推定するための方法に関する。この方法は、あるアスパラギナーゼによる処置に対する患者の応答能をインビトロで判定する方法を含み、その際、患者から得た、アスパラギナーゼ活性を中和する因子を含有する可能性のある血液、血漿、血清又は誘導された媒質の試料に、そのアスパラギナーゼと混合し、その混合物をインキュベートし、次いで混合物中のこのアスパラギナーゼの残留酵素活性を測定することを含む方法を施す;これは、試料中の、したがってインビボでの患者における、アスパラギナーゼ活性を中和する可能性のある中和因子の存在を反映し、それの判定又は定量を可能にし、したがってこの酵素による処置に対する患者の応答能の判定を可能にする。したがって本発明は、特定の患者に対するアスパラギナーゼの有効性を検査するための方法を提供する。
【0025】
中和因子の存在又は不存在、及び場合によりそれらのレベルに応じて、本発明のプロセス及び方法は、患者が(i)アスパラギナーゼによる処置に対して陽性に応答する、又は(ii)それに対して応答しない、又は(iii)不完全に応答するにすぎない可能性を判定するのを可能にする。
【0026】
試料は、アスパラギナーゼで現在処置されている患者又はアスパラギナーゼで処置されていた患者に由来するものであってもよい。
試料は、アスパラギナーゼ又はこのアスパラギナーゼで処置されたことがない患者に由来するものであってもよい。
【0027】
検査に使用するアスパラギナーゼは、患者に対して行なった処置に使用されているか又は使用されたものであってもよい。
それは、その有効性を推定するために患者において検査したいものとは異なる供給源からの酵素であってもよい。種々の酵素を同時又は逐次検査して、その患者に最適な処置を決定することも可能である。
【0028】
したがって本発明は、アスパラギナーゼによる処置の有効性を推定するための、又はこの酵素が直ちに中和因子による実質的な不活性化を受けることはないであろうという事実を推定するための方法を提供する。
【0029】
本発明はすべての形態のアスパラギナーゼ、たとえばL−アスパラギナーゼに適用される。それらに限定されず、いずれかの細菌源から得た天然酵素、たとえば大腸菌により産生されたL−アスパラギナーゼ、エルウィニア属菌により産生された酵素、変異酵素、又は修飾された酵素、たとえばPEG化された酵素(PEG−アスパラギナーゼ)も挙げることができる。酵素は、天然、合成、又は組換え由来のものであってもよい。それは遊離していてもよく、あるいはバイオベクター、たとえば赤血球に収容されていてもよい。
【0030】
混合物中のアスパラギナーゼの残留活性は、その混合物にアスパラギン、好ましくはL−アスパラギン、及び活性アスパラギナーゼによるアスパラギンの酵素分解を検出できる試薬系を添加することにより測定できる。
【0031】
有利な形態によれば、本発明方法は下記の段階を含む:
(a)試料を既知量のアスパラギナーゼと共にインキュベートし;
(b)前記混合物を既知量の、好ましくはアスパラギナーゼに対比して飽和を生じる量のアスパラギンと共にインキュベートし;
(c)前記混合物を、残留酵素活性をアッセイできる試薬系と共にインキュベートし;
(d)酵素活性の損失又は保持を定性的又は定量的に評価し、これと試料中のアスパラギナーゼ活性を中和する因子の存在又は含量との相関関係を求める。
【0032】
段階(a)のインキュベーションは、特に1分間から60分間までを要する。酵素含量は、特に0.1から5IU/mlまでである。
被験試料中の痕跡量の活性酵素はいずれも不活性化又は除去することが有用かつ有利な可能性がある。したがって、1特徴によれば、段階(a)の前に、試料中に存在するいずれかのアスパラギナーゼを除去又は不活性化する段階(a)を実施する。
【0033】
変法として、段階(a)の前に、試料のアスパラギナーゼのベースライン含量を測定する段階(a)を実施することができ、これにより、その活性がゼロであるか又は無視できることを実証するか、あるいはその活性をこの方法により測定するものから差し引くことができる。
【0034】
変法として、検査前に患者に投与した酵素の半減期が分かると、最終投与と血液試料採取の間に必要な時間を待つことができる。
特定の態様によれば、段階(a)に続いて抗体−アスパラギナーゼ免疫複合体を除去する段階(a)を実施する。この除去は遠心によって容易に実施でき、したがって段階(b)に関係する混合物は上清である。好ましくは、遠心は3000〜25000gで1〜30分間、特定した速度で実施される。
【0035】
1特徴によれば、試薬系はアスパラギナーゼによるアスパラギンの酵素分解から生じるアンモニウムイオンの出現に対して感受性である。したがって、中和因子の存在は、アンモニウムイオンを定量的に消費する反応を実施することにより判定又は測定できる。続いてこのアンモニウムイオンの消費を、有利には混合物の光学濃度(吸光度)の低下の測定により定量することができる。特に、下記の反応を実施する:
(1)アスパラギナーゼ+アスパラギン→アスパラギン酸+NH4+
(2)α−ケトグルタレート+NH4++NADPH+グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(触媒)→グルタメート+NADP++H2O
アスパラギンとのインキュベーションは、好ましくは2〜60分間、飽和量のアスパラギン(導入した酵素の量に対比して)、特に10〜50mg/mlを用いて実施される。
【0036】
試薬系とのインキュベーションは、好ましくは3分間から20分間までを要する。
したがって本発明は、患者が(i)アスパラギナーゼによる処置に対して陽性に応答する、又は(ii)それに対して応答しない、又は(iii)不完全に応答するにすぎない可能性を判定する方法を提供する。したがって、これにより被験酵素による処置を採用する可能性を確認又は除外することができ、あるいは投与計画を改変するか又はその患者を異なるアスパラギナーゼ、特にバイオベクターに封入された形態により処置するという決定を行なうことができる。
【0037】
したがって本発明は、下記を含む、患者のアスパラギナーゼ感受性病態を処置する方法にも関する:
(A)特定の形態のアスパラギナーゼ(特に遊離形態又は修飾された形態)による処置に対する患者の応答能をインビトロで判定する方法を適用し、その際、該患者から得た、アスパラギナーゼ中和因子を含有する可能性のある血液、血漿、血清又は誘導された媒質の試料に、該試料を該形態のアスパラギナーゼと混合し、この混合物をインキュベートし、次いで混合物中のアスパラギナーゼの残留活性を測定し、中和活性、及び(i)この形態のアスパラギナーゼによる処置に対して陽性に応答する、又は(ii)それに対して応答しない、又は(iii)不完全に応答するにすぎない、患者の応答能を判定することを含む方法を施し、そして
(B)症例(i)においてはその病態をこのアスパラギナーゼにより処置し、あるいは他の症例においては他の形態のアスパラギナーゼにより処置する。
【0038】
好ましい態様によれば、他の形態のアスパラギナーゼはバイオベクターに封入又は収容された、好ましくは赤血球に封入されたアスパラギナーゼである。特に、それらはたとえばフランス特許出願No.0408667の教示に従って細胞溶解及び再シーリングにより調製された赤血球である。
【0039】
この方法が有益な可能性のある病態には、特に白血病、たとえば急性リンパ芽球性白血病が含まれる。充実性腫瘍(WO2007/103290)、特に膵臓癌及び卵巣癌も挙げることができるが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、7種類の一定のL−アスパラギナーゼ濃度(0から800IU/Lまでの範囲)を3つのヒト血清及び緩衝液対照において測定した結果を示したグラフである。
【図2】図2は、最終濃度500IU/LのL−アスパラギナーゼと混合した52のヒト血清について測定した活性の分布を示したグラフである。
【図3】図3は、L−アスパラギナーゼ活性阻害−対−抗アスパラギナーゼIgG濃度を示したグラフである。
【図4】図4は、L−アスパラギナーゼ活性阻害−対−抗アスパラギナーゼIgG低濃度を示したグラフである。
【図5】図5は、L−アスパラギナーゼ活性阻害−対−L−アスパラギナーゼ濃度を示したグラフである
【図6】図6は、L−アスパラギナーゼで処置した患者17人からの57のヒト血清の検査結果を示したグラフである
【実施例】
【0041】
本発明を以下に実施例によってより詳細に記載する;これらは本発明を説明するものであり、限定するものではない。
実施例1:L−アスパラギナーゼによるウサギの免疫化
免疫前血清を得るために、1回目免疫化の前に数ミリリットルの血清をウサギから採取する。次いでウサギに500μgのL−アスパラギナーゼ(Kidrolase(登録商標),OPI−EUSA Limonest France)を4回注射する。1回目と2回目の免疫化の間、及び2回目と3回目の免疫化の間に血清を採取する。最後に、最終免疫化後に全血清を回収し、−20℃で保存する。最終血清をそれの総タンパク質濃度(ビウレット法)及びそれの総免疫グロブリン濃度により特性分析する。
【0042】
実施例2:ウサギ総IgGの精製
抗アスパラギナーゼIgGを含有する最終血清からのウサギ総IgGの精製を、SigmaからのKit pure 1A(#PURE1A)で実施する。要約すると、IgG精製の前に、2mlの血清を遠心又は0.45μmフィルターでの濾過により澄明化する。次いで4mlの“結合緩衝液”を2mlの澄明化した血清に添加する。混合物をカラムに通し、次いでSigmaが推奨するプロトコルに従って溶離する。それらを動物に注射できるように、溶離緩衝液をPBSと交換するために、総IgGを閾値10 000ダルトンの濾過カラム内で遠心する。
【0043】
実施例3a:L−アスパラギナーゼ酵素活性に対する中間血清の阻害の測定(混合物のアッセイ)
L−アスパラギナーゼのアッセイを下記に公表されたプロトコルに従って実施した: Orsonneau et al., “Automatic kinetic assay of plasma L-asparaginase activity in therapeutic monitoring of acute lymphoblastic leukaemias”, Ann Biol Clin, 62: 568-572。
【0044】
まず中間血清(1回目と2回目の免疫化の間に採取)を、酵素活性の阻害の測定について論じるために用いた。濃度2IU/mlのL−アスパラギナーゼを使用する。酵素を数種類の血清希釈液と共に37℃で15分間プレインキュベートし、次いで混合物において酵素活性を測定する。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1には混合物におけるL−アスパラギナーゼの残留酵素活性の測定値をまとめる(試験管2〜7)。ウサギ血清はL−アスパラギナーゼの酵素活性を阻害する:血清の希釈度が大きいほど、阻害はより弱い。
【0047】
試験管1は対照を構成し、酵素だけを37℃で15分間インキュベートしてもそれの酵素活性には影響がないことを示す。
実施例3b:L−アスパラギナーゼ酵素活性に対する中間血清の阻害の測定(上清のアッセイ)
中間血清(1回目と2回目の免疫化の間に採取)を用いた。
【0048】
細網内皮系による抗原−抗体複合体の食作用を模倣するためにL−アスパラギナーゼ/血清混合物を37℃で15分間インキュベートし、次いで免疫複合体を除去するために17500g、4℃で10分間遠心する。上清において酵素活性をアッセイする。アッケイ結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
L−アスパラギナーゼと血清中に存在する抗アスパラギナーゼ抗体の相互作用の特異性を検査するために、血清を免疫前血清で置き換えた対照を加えた。これは、90%を超える酵素が非特異的抗体との相互作用に関与しないことを証明する。
【0051】
希釈度1/4、1/16、1/32及び1/128について、血清中に存在する抗体はすべての酵素と相互作用した。
実施例4:ウサギ総IgGの、L−アスパラギナーゼ酵素活性からの阻害の測定
実施例3bに示したものと同じ実験を、ウサギ総IgGs及び濃度1.25IU/mlのL−アスパラギナーゼを用いて実施した。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
抗アスパラギナーゼIgGを含有するウサギ総IgGは、希釈度1/64からL−アスパラギナーゼとの相互作用を開始し、酵素活性を完全阻害する(推定酵素の99.02%)。
【0054】
実施例5:ウサギ総IgGによる、マウスに注射した遊離L−アスパラギナーゼの不活性化
マウス(16匹)について、インビボで抗アスパラギナーゼIgGによるL−アスパラギナーゼの阻害を調べる実験を設定した。
【0055】
実験条件は下記のとおりであった:
−用量100IU/kgのL−アスパラギナーゼ、25gのマウスにおいて1.25IU/mlの循環に相当
−7.5μgのウサギ総IgGの注射。
【0056】
IgG又はPBSの注射を、遊離L−アスパラギナーゼ又はマウス赤血球に封入したL−アスパラギナーゼ(Asp−RBC)の注射の20分前に実施する。次いで、この最終注射の6時間後、マウスをと殺し、血液を採集する。
【0057】
次いで血漿及びRBC中のL−アスパラギナーゼ活性をアッセイする。得られた数値を表4にまとめる。
【0058】
【表4】

【0059】
Asp−RBCを投与されたマウスのRBCにおけるL−アスパラギナーゼのアッセイにより、IgG又はPBSの存在下でそれぞれ0.798及び0.879IU/mlが検出される。したがって、血漿中に存在するIgGは封入酵素に対して阻害作用をもたなかった。これらの同じマウスの血漿において、Asp−RBCと共に注射された遊離L−アスパラギナーゼ(実際には、用量の10%程度の少量の遊離酵素がなおRBC外にある)はIgGの存在下で阻害され(0.013IU/ml)、PBSの存在下では活性を保持する(0.126IU/ml)。
【0060】
遊離L−アスパラギナーゼを注射した場合、それの活性をIgGが阻害し(0.002IU/ml)、これに対しPBSの注射は酵素活性に対して影響をもたなかった(0.417IU/ml)。遊離L−アスパラギナーゼの半減期(10時間)を考慮すると、L−アスパラギナーゼ0.417IU/ml血漿という測定値は、遊離酵素の注射後6時間目の遊離酵素残留活性に相当する。
【0061】
L−アスパラギンの血漿濃度を、被験マウス14匹(2匹は容量が小さすぎるため採用できなかった)の血漿において測定した。結果を表5に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
マウスをAsp−RBCで処理した場合、又はマウスに遊離L−アスパラギナーゼをPBSの存在下で投与した場合、L−アスパラギンの枯渇は完全であった。
IgGの存在下に遊離L−アスパラギナーゼで処理したマウスのみ、28.09μMの血漿L−アスパラギン濃度をもつ。したがって、この酵素は血漿中でIgGにより阻害された。
【0064】
実施例6:PEG−アスパラギナーゼの酵素活性に対するウサギ総IgGの阻害の測定
抗アスパラギナーゼIgGを含有するウサギ総IgGを、PEG−アスパラギナーゼ(Sigma # A5336)に対して検査した。実施例4に示したものと同じ実験をPEG−アスパラギナーゼについて実施した。結果を表6に示す。
【0065】
【表6】

【0066】
抗アスパラギナーゼIgGを含有するウサギIgGはPEG−アスパラギナーゼと相互作用した。上清中に検出された活性は、最初にIgGと混合した活性の4%未満である。
実施例7:検査プロトコル
このプロトコルは特定のアスパラギナーゼによる処置について考慮中である患者に適用される。少量の血液試料をこの患者から採取し、慣例に従って処理して血清試料を得る。
【0067】
次いで下記の操作に従う:
(a)血清試料中に存在するいずれかのアスパラギナーゼを場合により不活性化又は除去するか、あるいは残留酵素活性を測定する;
(a)試料を0.1〜5IU/mlのアスパラギナーゼと共に1〜60分間インキュベートする;
(a)場合により、免疫複合体を好ましくは3000〜25000gで1〜30分間、特定速度での遠心により除去する;
(b)(a)からの混合物又は(a)からの上清を、飽和量、特に10〜50mg/mlのアスパラギンと共に2〜60分間インキュベートする;
(c)前記混合物を、残留酵素活性を検出することができる試薬系(α−ケトグルタレート、NADPH、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ)と共に、特に3〜20分間インキュベートする;
(d)酵素活性の損失又は保持を定性的又は定量的に評価し、これと試料中のアスパラギナーゼ中和因子の存在又は含量との相関関係を求める。
【0068】
段階(a)を含めるか否かに応じて、残留酵素活性のレベル又はレベルの閾値を測定することができる。
既に処置した患者において、この方法が中和因子の顕著な存在を示す場合、異なる形態のアスパラギナーゼを用いる代替療法を推奨及び適用する。特に、遊離形態又は修飾形態が阻害される可能性のある場合、赤血球に封入した酵素を推奨する。
【0069】
患者におけるアスパラギナーゼの潜在的有効性を検査するために、同じプロトコルを簡単に適用できる。
実施例8:患者血清マトリックスがL−アスパラギナーゼ活性測定に及ぼす影響
ヒト血清がL−アスパラギナーゼ活性測定に対して干渉しないことを確実にするために、L−アスパラギナーゼ処理に対してナイーブな3つのヒト血清を7種類の濃度のL−アスパラギナーゼ(0から800IU/Lまで)と混合した。試料を37℃で15分間インキュベートし、17500g、4℃で10分間遠心した。L−アスパラギナーゼ活性を上清において検査する。対照として、緩衝液1×PBS 4%BSAを同じ濃度のL−アスパラギナーゼと混合した。結果を表7に示す。
【0070】
【表7】

【0071】
:測定しなかった。
L−アスパラギナーゼ活性測定に対するヒト血清の干渉はみられなかった(緩衝液対照と対比;表7及び図1を参照)。
【0072】
実施例9:患者血清マトリックスがL−アスパラギナーゼ活性測定に及ぼす影響及びヒト血清の基礎活性の測定
ヒト血清がL−アスパラギナーゼ活性測定に対して干渉しないことを確実にするために、L−アスパラギナーゼ処理に対してナイーブな52のヒト血清を最終濃度500IU/LのL−アスパラギナーゼと混合した。試料を37℃で15分間インキュベートし、17500g、4℃で10分間遠心した。L−アスパラギナーゼ活性を上清において検査する。対照として、緩衝液1×PBS 4%BSAを同じ最終濃度のL−アスパラギナーゼと混合した。結果を表8に示す。
【0073】
表8:L−アスパラギナーゼを最終濃度500(IU/L)で添加した52のヒト血清についてのl−アスパラギナーゼ活性の測定
【0074】
【表8−1】

【0075】
【表8−2】

【0076】
52のヒト血清について測定した平均活性は473IU/Lであり、標準偏差(SD)は13.4IU/Lである。血清について測定したこの平均活性は対照活性と有意差がない。すべての数値が許容範囲内に含まれる:52の測定値について3つだけが信頼範囲[平均−2SD;平均+2SD]外にある。アッセイした血清に従って測定した活性の分布は、L−アスパラギナーゼ活性がマトリックス血清により影響されないことを指摘する(図2)。
【0077】
ヒト血清中に酵素活性信号が存在しないことを検査するために、L−アスパラギナーゼ処理に対してナイーブな25のヒト血清をl−アスパラギナーゼ活性についてアッセイした。
【0078】
表9:L−アスパラギナーゼ処理に対してナイーブな25のヒト血清についてのl−アスパラギナーゼ活性の測定
【0079】
【表9】

【0080】
アッセイした25のヒト血清それぞれについて、L−アスパラギナーゼ活性はゼロに近い。測定した平均活性は0.88IU/Lであり、標準偏差は1.27IU/Lである。測定した最大活性は血清17についての5IU/Lであり、これは最終濃度500IU/LのL−アスパラギナーゼと混合した血清について測定された活性の1%であるので、この基礎活性信号はL−アスパラギナーゼ活性の測定に影響しないと思われる。
【0081】
実施例10:抗アスパラギナーゼIgGをスパイクしたヒト血清によるL−アスパラギナーゼ活性阻害
L−アスパラギナーゼ処理に対してナイーブな2つのヒト血清をプールし、濃度範囲1〜100μg/mL(1、2、5、10、20、40、80、100μg/mL)の抗アスパラギナーゼIgGをスパイクした。抗アスパラギナーゼIgGは実施例1及び2の記載に従って得られた。
【0082】
次いで500IU/LのL−アスパラギナーゼを添加した。試料を37℃で15分間インキュベートし、17500g、4℃で10分間遠心した。残留L−アスパラギナーゼ活性を上清において測定した。対照として、ヒト血清プールの代わりに緩衝液1×PBS 4%BSAを用いた。結果を表10及び図3に示す。
【0083】
【表10】

【0084】
:測定しなかった。
L−アスパラギナーゼを漸増濃度の抗アスパラギナーゼIgG(特異的IgG)と混合すると、ヒト血清又は緩衝液対照において、濃度20μg/mL以上のigGで完全な酵素活性阻害が起きる。酵素を5〜20μg/mLの抗アスパラギナーゼIgGと混合すると、部分阻害が起きる。5μg/mL未満の抗アスパラギナーゼIgGでは、L−アスパラギナーゼ活性は阻害されない。
【0085】
L−アスパラギナーゼを非特異的IgGと共にインキュベートした場合には阻害はみられない(表10において添加した対照IgGを参照)。
10〜20μg/mL濃度の抗アスパラギナーゼIgGのL−アスパラギナーゼ活性に対する阻害反応を改良するために、8から22μg/mLまでの範囲の濃度のIgGを用いて実験を行なった。通常どおりL−アスパラギナーゼを最終濃度500IU/Lになるように添加する。すべての試料を37℃で15分間インキュベートし、17500g、4℃で10分間遠心した。残留L−アスパラギナーゼ活性を上清において測定する。このアッセイはヒト血清プールについて実施される。結果を表11及び図4に示す。
【0086】
【表11】

【0087】
IgG濃度16μg/mLでL−アスパラギナーゼ活性の完全阻害がみられる。16μg/mL未満では、L−アスパラギナーゼ阻害は部分的である。
反対の反応を調べた:一定濃度の抗アスパラギナーゼIgG(13,64μg/mL、80%阻害に相当)を濃度範囲500から10000lU/LまでのL−アスパラギナーゼと混合した。試料を37℃で15分間インキュベートし、17500g、4℃で10分間遠心した。残留L−アスパラギナーゼ活性を上清において測定する。結果を表12及び図5に示す。
【0088】
【表12】

【0089】
L−アスパラギナーゼ濃度が高いほど、それの活性を一定濃度のIgG(13.64μg/mL)はより少なく阻害する。一定量の抗アスパラギナーゼIgGは一定量のL−アスパラギナーゼを阻害する。したがって、L−アスパラギナーゼ活性阻害は用量依存性である。
【0090】
実施例11:L−アスパラギナーゼで処置した患者17人からの57のヒト血清の検査
このアッセイ法が患者においてアスパラギナーゼの中和を定量する能力をもつことを確認するために、L−アスパラギナーゼで処置中の17人の急性リンパ芽球性白血病患者からサンプリングした57のヒト血清を、実施例7に記載した検査プロトコルに従って検査した。試料を処置コースの種々の時点で採取し、残留L−アスパラギナーゼ酵素活性の測定を実施して、この活性が無視できるものであって検査操作に干渉しないであろうということを実証した。
【0091】
次いで血清を最終濃度500IU/1のL−アスパラギナーゼと混合し、室温で15分間インキュベートした。次いで、7800rpmで6分間の遠心の前と後にL−アスパラギナーゼ活性を測定した。対照として、緩衝液1×PBS 4%BSAを最終濃度500IU/1のL−アスパラギナーゼと混合した。結果を下記の表13及び図6に示す。
【0092】
表13:L−アスパラギナーゼで処置中の患者17人からの57のヒト血清の検査
【0093】
【表13−1】

【0094】
【表13−2】

【0095】
ND:測定しなかった;
NA:適用できない。
すべての試料が無視できる残留アスパラギナーゼ活性をもち、最高の残留活性は15IU/Lであり、これはL−アスパラギナーゼの理論添加量の3%にすぎないので、検査プロトコルに干渉しないはずである。対照について測定したアスパラギナーゼ活性は、予想より高い(予想した500IU/Lと比較して、3つの対照についてそれぞれ655、636及び661IU/L)。アスパラギナーゼ活性の阻害率パーセントを、対照について測定した酵素活性に基づいて計算した。阻害率パーセントの多くの数値がマイナスであるという事実は、測定操作における偏りを指摘する。
【0096】
アスパラギナーゼ活性の阻害率パーセントは遠心後の方が高く、これは、アスパラギナーゼと抗アスパラギナーゼ抗体の間に形成された若干の免疫複合体が遠心工程により除去されたことを示唆する。
【0097】
アッセイした17人の患者において、14人はそれらの血清中に存在する因子によるアスパラギナーゼ活性阻害を示す(図6)。高い患者は20%を超える阻害率パーセントをもつが、40%より高い阻害率パーセントをもつのは3人の患者のみである(図6)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラギナーゼが患者において活性でありうるかを推定するための方法であって、アスパラギナーゼ活性を中和する因子の存在を、該患者から得た、中和因子を含有する可能性のある血液、血漿、血清又は誘導された媒質の試料においてインビトロで判定する方法。
【請求項2】
試料をアスパラギナーゼと混合し、その混合物をインキュベートし、次いで混合物中の該アスパラギナーゼの残留活性を測定して、中和因子の存在を判定又は定量することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料が、アスパラギナーゼで現在処置されている患者からのもの、又はアスパラギナーゼで処置された患者からのものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
混合物中の残留アスパラギナーゼ活性の測定を、その混合物にアスパラギン、及び残留酵素活性のアッセイに適した試薬系を添加することにより実施する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
下記の段階を含む、請求項4に記載の方法:
(a)試料を既知量のアスパラギナーゼと共にインキュベートし;
(b)前記混合物を既知量のアスパラギンと共にインキュベートし;
(c)前記混合物を残留酵素活性のアッセイに適した試薬系と共にインキュベートし;
(d)酵素活性の損失又は保持を定性的又は定量的に評価し、これと試料中のアスパラギナーゼ中和因子の存在又は含量との相関関係を求める。
【請求項6】
段階(a)の前に、試料中に存在する可能性のあるいずれかのアスパラギナーゼを除去又は不活性化する段階(a)を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
段階(a)の前に、試料中のアスパラギナーゼのベースライン含量を測定する段階(a)を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
試薬系が、アスパラギナーゼによるアスパラギンの酵素分解から生じるアンモニウムイオンの出現に対して感受性である、請求項4〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
アンモニウムイオンを定量的に消費する反応を用いる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アンモニウムイオンの定量的消費を、混合物の光学濃度の低下の測定により測定する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
下記の反応を用いる、請求項4〜10のいずれか1項に記載の方法:
(1)アスパラギナーゼ+アスパラギン→アスパラギン酸+NH4+
(2)α−ケトグルタレート+NH4++NADPH+グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(触媒)→グルタメート+NADP++H2O
【請求項12】
患者の応答能を(i)この形態のアスパラギナーゼによる処置に対して陽性に応答する、又は(ii)それに対して応答しない、又は(iii)不完全に応答するにすぎない、と判定することを含む、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
症例(ii)及び(iii)について、その患者を他のいずれかのアスパラギナーゼにより処置するという決定を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
症例(i)について、その患者をこのアスパラギナーゼにより処置するという決定を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
他のアスパラギナーゼが、バイオベクターに収容された、好ましくは赤血球に封入されたアスパラギナーゼである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
下記を含む、患者のアスパラギナーゼ感受性病態を処置する方法:
(A)特定の形態のアスパラギナーゼ(特に遊離形態又は修飾された形態)による処置に対する患者の応答能をインビトロで判定する方法を適用し、その際、該患者から得た、アスパラギナーゼ中和因子を含有する可能性のある血液、血漿、血清又は誘導された媒質の試料に、該試料を該形態のアスパラギナーゼと混合し、この混合物をインキュベートし、次いで混合物中のアスパラギナーゼの残留活性、及び(i)この形態のアスパラギナーゼによる処置に対して陽性に応答する、又は(ii)それに対して応答しない、又は(iii)不完全に応答するにすぎない、と患者の応答能を判定することを含む方法を施し、そして
(B)症例(i)においてはその病態をこのアスパラギナーゼにより処置し、又は症例(ii)及び(iii)においては他の形態のアスパラギナーゼにより処置する。
【請求項17】
他の形態が、アスパラギナーゼを収容したバイオベクター、好ましくはアスパラギナーゼを封入した赤血球からなる、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−507998(P2012−507998A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535120(P2011−535120)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064793
【国際公開番号】WO2010/052315
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(510242222)エリテック・ファーマ (1)
【Fターム(参考)】