アスパラギニル−β−ヒドロキシラーゼ発現腫瘍に対する樹状細胞ワクチン
哺乳動物被験体におけるAAH発現腫瘍の治療のための、AAHが負荷された成熟樹状細胞を含有するワクチンを提供する。プライムされた樹状細胞を産生する方法は、単離された樹状細胞を抗原、例えばAAHと接触させることにより実施する。抗原接触工程後、この樹状細胞をサイトカインの組み合わせ、例えばGM-CSFおよびIFN-γと接触させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年7月24日出願のU.S.S.N 61/228,429、2009年8月4日出願のU.S.S.N 61/231,127、2009年9月2日出願のU.S.S.N 61/239,288、および2009年9月9日出願のU.S.S.N 61/240,745の恩典を主張する。これらの出願の内容は、その全体が参照により組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
肝細胞癌および胆管細胞癌を含む肝がんは、世界で最も多いがんの一つである。米国において、肝がんは、男性では5番目、女性では9番目に多いがんによる死亡の原因である。肝がんの診断および局所管理が劇的に進歩しているにもかかわらず、米国における死亡率は増加を続けている。死亡率増加の理由の一つとしては、肝がんが、乳がんや結腸直腸がんを含む他のがんと異なり、全身治療、例えば化学療法に対して抵抗性であることが挙げられ得る。したがって、肝がんが全身疾患になってしまうと、その有効な治療法は存在しない。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、がんと診断された患者の治療のための化学療法に代わる手段についての長年の問題に対する解決策を提供する。被験体におけるアスパルチル(アスパラギニル)-β-ヒドロキシラーゼ(AAHまたはASPH)発現腫瘍の増殖を低下させる方法は、単離されたAAH負荷成熟樹状細胞または細胞集団を被験体に投与することを含む。AAH発現腫瘍の増殖は、このような樹状細胞ワクチンの投与後に低下する。例えば、腫瘍増殖および腫瘍量は、10%、20%、50%、75%、2倍、5倍、10倍、またはそれ以上低下する。本発明の方法は、哺乳動物被験体、例えばヒト患者からAAH発現腫瘍を減少および消滅させるのに使用される。本発明の組成物および方法はまた、伴侶動物および家畜、例えばヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、またはブタ被験体に対する使用にも適している。
【0004】
AAH発現腫瘍には、ほとんどの腫瘍型、例えば胃腸組織(例えば、食道、胃、結腸)、膵臓、肝臓(例えば、胆管細胞癌、肝細胞癌)、乳房、前立腺、子宮頸、卵巣、卵管、喉頭、肺、甲状腺、胆嚢、腎臓、膀胱、および脳(例えば、神経膠芽腫)の腫瘍ならびに後述するその他多数が含まれる。AAH発現腫瘍には、正常組織と比較して高レベルのAAHを発現する原発腫瘍およびそのようなAAH過剰発現の原発腫瘍からの転移により生じる腫瘍が含まれる。
【0005】
ワクチン接種法において使用される樹状細胞は、好ましくは、被験体に投与する前に、GM-CSFおよびIFN-γを含むサイトカインの組み合わせを用いてエクスビボで活性化させる。後者の工程は、抗腫瘍活性が向上した樹状細胞集団を生成する。
【0006】
プライムされた樹状細胞を産生するための改良された方法は、単離された樹状細胞を抗原、例えばAAHと接触させるか、または腫瘍抗原の組み合わせ、例えばAAHおよびα-フェトプロテイン(AFP)と接触させ、かつ同細胞を処理して、成熟および活性化された抗原提示細胞の集団を生成することにより実施する。抗原接触工程の後、樹状細胞をサイトカインの組み合わせと接触させる。その組み合わせは、例えば、GM-CSFおよびIFN-γを含む。他の例では、その組み合わせはさらにIL-4を含む。任意で、その組み合わせはCD40Lを含む。樹状細胞は、少なくとも10時間(例えば、12、24、36、40、48時間またはそれ以上)、サイトカインの組み合わせと接触させる。抗原は、可溶型であるかまたは固体支持体に結合させたものである。例えば、固体支持体には、ポリスチレンビーズ、例えば生分解性ビーズまたは粒子が含まれる。樹状細胞は、公知の方法、例えば、白血球アフェレーシスまたは血球アフェレーシスによって被験体から得る。
【0007】
細胞を得る被験体は、がんを患っているかまたはがんの発生のリスクを有する。例えば、患者は、腫瘍、例えばAAH発現腫瘍の診断を受けている。がん、例えばAAH保有腫瘍の発生のリスクのある患者には、そのようながんを有することが特定された個体の家族歴を有する患者が含まれる。
【0008】
上述のようにして産生されたプライムされた樹状細胞を含むワクチン組成物もまた、本発明に包含される。本発明のワクチンは、腫瘍の増殖を阻害するのに、腫瘍の増殖を防止するのに、および転移を阻害または減少させるのに有用である。哺乳動物における腫瘍の増殖を阻害する方法は、AAH保有腫瘍を患っている被験体を特定し、かつ上記の方法に従いプライムされた自己樹状細胞をその被験体に投与することにより実施する。哺乳動物における腫瘍の発生を予防する方法は、AAH保有腫瘍の発生のリスクのある被験体(例えば、がんの家族歴を有する被験体)を特定する工程、および抗原によりプライムされかつ活性化された自己樹状細胞をその被験体に投与する工程を含む。AAH保有腫瘍の転移を予防する方法は、AAH保有腫瘍を患っている被験体を特定し、かつ上記のような自己樹状細胞をその被験体に投与することにより実施する。
【0009】
本発明のポリペプチドおよびその他の組成物は精製されている。例えば、実質的に純粋なAAHポリペプチドの変異体は、好ましくは、そのポリペプチドをコードする組換え核酸の発現により、またはそのタンパク質の化学合成により得られる。ポリペプチドまたはタンパク質は、天然の状態ではそれに付随している混在物質(タンパク質およびその他の天然に存在する有機分子)から分離されている場合、実質的に純粋である。典型的には、ポリペプチドは、その調製物中のタンパク質の少なくとも60重量%を構成する場合、実質的に純粋である。好ましくは、調製物中のタンパク質は、少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、および最も好ましくは少なくとも99重量%がAAHである。純度は、任意の適切な方法、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定される。したがって、実質的に純粋なポリペプチドには、真核生物起源であるが、大腸菌(E.coli)もしくは別の原核生物において産生された、またはそのポリペプチドの元々の起源とは別の真核生物において産生された組換えポリペプチドが含まれる。
【0010】
本発明の方法において使用する樹状細胞またはその他の細胞、例えば免疫細胞、例えばマクロファージ、B細胞、T細胞は、精製または単離されている。細胞との関連で、「単離された」という用語は、その細胞が、天然ではその細胞と共に存在している他の細胞型または細胞物質を、実質的に含まないことを意味する。例えば、特定の組織型または表現型の細胞試料は、それが細胞集団の少なくとも60%である場合に、「実質的に純粋」である。好ましくは、その調製物は、その細胞集団の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%または100%である。純度は、任意の適切な標準的方法、例えば蛍光励起細胞選別法(FACS)により測定される。
【0011】
抗原でプライムされたDCを作製する方法は、以前の方法に対していくつもの利点を有する。細胞は抗原が負荷されるだけでなく、その後のサイトカインインキュベーションにより、改善された抗腫瘍活性および抗転移活性を有する、高度に活性化された、抗原でプライムされた抗原提示細胞が生成される。
【0012】
本発明のこれらおよびその他の可能性は、以下の図面、詳細な説明、および特許請求の範囲を閲覧することで、本発明そのものとともに、より十分に理解されるであろう。本明細書中で引用される全ての参考文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】単離されたDCによるIL-12産生を示す棒グラフである。
【図2】単離されたDCにおける様々な表面DCマーカーの発現を示す一連の線グラフである。
【図3】表面DCマーカーの平均蛍光を示す棒グラフである。
【図4】サイトカインの存在下で増殖させたCD8+ DC集団の増加を示す一連のフローサイトメトリーグラフおよび棒グラフである。
【図5】IFN-γの分泌を示す棒グラフである。
【図6】IL-4の分泌を示す棒グラフである。
【図7】細胞傷害性アッセイの結果を示す線グラフである。
【図8】細胞により発現されるAAHの概略図である。
【図9】抗原が負荷された成熟DCを作製する方法の概略図である。
【図10】AAH負荷DCを用いる免疫処置スケジュールのフローチャートである。
【図11】マウスにおける腫瘍の増殖に対するAAHワクチン接種の治療効果を決定するためのプロトコルを示す概略図である。
【図12】マウスにおける腫瘍の増殖に対するAAHワクチン接種の治療効果を示す線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
AAHは、その発現が多くのがん型に関連しているタンパク質である(例えば、USPN 6,815,415; USPN 6,812,206; USPN 6,797,696; USPN 6,783,758; USPN 6,835,370;およびUSPN 7,094,556を参照のこと)。HAAHの過剰発現は、多くのがん性の肺(例えば、腺癌、気管支肺胞上皮癌、およびその他の非小細胞肺がん、例えば有棘細胞癌サブタイプ)(Luu et al., 2009, Hum. Pathol. 40: 639-644)、肝臓(例えば、肝細胞癌、胆管癌、および胆管上皮細胞のがん)(Wang et al., 2010, Hepatology 52: 164-173)、胃腸組織(例えば、結腸、胃、食道)、膵臓、前立腺、卵巣、胆管、乳房、腎臓、膀胱、および脳(例えば神経膠芽腫および神経芽腫)において免疫組織化学染色(IHC)により検出されている。別の腫瘍組織試料および細胞株の調査では、(非がん性組織と比較して)以下のさらなるがんにおいてAAHの発現が確認された:喉頭癌、子宮頸がん、卵管がん、肝がん(例えば、胆管癌)、腎がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、卵管癌、喉頭がん、肺がん、甲状腺がん、膵がん、胸腺癌、前立腺がん、膀胱がん、食道がん、胃がん、胆嚢がん、結腸がん、および直腸がん(Song et al., 2010, Chinese J. of Cell. and Mol. Immunol. 26: 141-144)。HAAHは、がんに非常に特異的であり、試験された腫瘍標本(n>1000)の>99%において免疫組織化学により検出されているが、隣接する非罹患組織または健常な個体由来の組織試料には存在しない。
【0015】
AAHでプライムされた細胞を用いる免疫療法は、細胞表面にAAHを発現している腫瘍を有する患者に対して施行される。そのような腫瘍には、肝がん、例えば肝細胞癌および胆管癌ならびに乳房および結腸の腺癌が含まれる。そのような治療方針は、がんの治療だけでなくその予防にも有用である。
【0016】
本発明以前、肝がんの診断および局所管理は進歩したものの、この疾患に対する有効な全身治療は存在しなかった。免疫療法は、その特異性から、全身および局所の肝がんを治療するのに使用される。
【0017】
AAHを用いる樹状細胞ワクチンは、免疫機能正常(immunocompetent)マウスにおいて既存の肝細胞癌を治癒することが見出された。AAH樹状細胞ワクチンは、AAH発現腫瘍の増殖を低下させることで腫瘍量を減少させ、かつヒトにおいても腫瘍を根絶する。
【0018】
免疫療法
悪性腫瘍の免疫療法は、腫瘍細胞に対する特異的応答が魅力である。免疫療法の原理は、抗原提示細胞によってヘルパー細胞および細胞傷害性T細胞に提示された場合に免疫原性となる潜在的抗原をがん細胞が豊富に有していることである。肝がんに対する免疫療法は、それが全身のものであろうとなかろうと、見込みのある臨床アプローチである。なぜならば、肝がん細胞は、正常組織では発現されないかまたはわずかに発現されるのみのいくつかの腫瘍関連タンパク質を発現するからである。例えば、AFPは、成体組織では発現されないが、肝細胞癌(HCC)では豊富に発現される。いくつかの研究は、AFP特異的な免疫反応をマウスだけでなくヒトにおいても誘導できることを示している。しかし、AFPを標的とするHCC免疫療法の臨床試験は、部分的な腫瘍応答さえ示さなかった。いくつかの考えられる理由は、AFPはがんの進行に関与しないため、AFPを発現しないがん細胞がAPP標的免疫療法時に支配的であった、というものである。AFPは細胞表面に分布していないため、HCC細胞がAFP応答性のT細胞によって認識されるためには、AFPが、主要組織適合抗原複合体(MHC)クラスI分子によって細胞表面上に提示されなければならない。しかし、MHCクラスI分子は多くのがん細胞においてしばしばダウンレギュレートされるので、AFPはT細胞によって適切に認識されない可能性がある。この肝がん免疫療法の問題を克服するために、細胞ベースの治療においてプライムされる細胞に使用する、肝がんに関連する別の抗原を同定する研究を行った。AFPを抗原として用いた結果からみて、AAHによる抗腫瘍の結果は驚くべきものであった。
【0019】
AAHは、ASPHとしても知られており、肝細胞癌および胆管細胞癌において強く発現されるが、これらの組織型の対応正常細胞では発現されない。したがってAAHは腫瘍関連タンパク質である。AAHは、その特有の性質から、肝がんの免疫療法に有用である。第一に、AAHは、がん細胞に運動性を付与し、がんの転移に関与する;したがって、AAH発現細胞を標的とする治療は、原発腫瘍に加えて転移巣を抑制するのに有効である。第二に、AAHは、その大部分が細胞外空間に露出している膜タンパク質なので、クラスI分子がダウンレギュレートされている場合であっても免疫細胞がこのタンパク質にアクセスするのが容易である。第三に、AAH以外に、胆管細胞癌に特異的な抗原性タンパク質は知られていない。このように、AAHは、肝がんに対する免疫療法の標的分子として比類なく適格である。
【0020】
免疫療法アプローチでは、関心対象のタンパク質が負荷された樹状細胞(DC)の注入を必要とする。DCは、抗原を捕捉、処理し、それをT細胞に提示することでT細胞媒介性免疫を誘導および制御する特殊な細胞である。DCは、実験動物だけでなく腫瘍保有患者を免疫処置するのに広く利用されている。本明細書に記載される方法は、AAHに対する免疫を誘導するためのDCベースの免疫処置を包含する。本発明の方法は、関心対象のタンパク質が負荷された免疫原性マウスDCを作製するための以前に記載された方法(Gehring et al., 2008, J. Immunol. Meth. 332: 18-30)を、少なくとも二つの点で改良するものである。一点目は、DCを刺激するために、以前はリポ多糖(LPS)が使用されていたが、これはインビボ利用に適さない可能性のある強発熱物質であるという点である。二点目は、DC刺激は、DCによるIL-12分泌および様々な表面DCマーカーの発現から判断すると、比較的弱かったという点である。そのため、免疫原性DCの作製方法の改良を行った。
【0021】
樹状細胞ワクチン
HCC免疫療法の最も有望なアプローチはDCを用いるものである。なぜならば、DCはT細胞媒介性腫瘍免疫を誘導する能力が高いからである。DCは造血細胞由来であり、抗原を捕捉および処理し、タンパク質を、MHC分子上に提示されT細胞によって認識されるペプチドに変換することに特化している。DCは、T細胞媒介性免疫を強く誘導し、かつ制御する。
【0022】
DCベースの免疫療法は、腫瘍が潜在的抗原を豊富に有しており、かつこれらはDCによって提示された場合に免疫原性となるという事実に基づいている。DCは、例えば血球アフェレーシスによって被験体から得られる。この細胞は、現在ではエクスビボで、腫瘍抗原(例えば、腫瘍細胞溶解産物;アポトーシス性もしくは壊死性の腫瘍細胞;組換え、合成、もしくは精製された腫瘍抗原ペプチドもしくはタンパク質;または核酸、例えば腫瘍抗原をコードするRNA)が負荷され(すなわち接触させ)、成熟するよう刺激され、かつ患者に再注入されて、強いT細胞性免疫が誘導される。
【0023】
AAH腫瘍抗原
AAHは、C末端領域に触媒ドメインを有するII型膜タンパク質である。このタンパク質の大部分は細胞膜の外側に位置し、そのため免疫細胞がこのタンパク質にアクセスすることができる。AAHタンパク質は、HCC、胆管癌、および乳房または結腸起源の腺癌において強く発現され、対応正常組織ではほとんど検出できないか全く検出不可能である。したがって、AAHは、HCCおよびその他のAAH保有腫瘍に対するDCベースの免疫療法における理想的な標的分子である。
【0024】
腫瘍細胞において過剰発現されたAAHは、細胞運動性を高め、腫瘍細胞に悪性の表現型を付与する。HCCに関する臨床病理学的研究は、AAHの過剰発現が組織学的悪性度および肝内転移に関与していることを明らかにした。したがって、AAH発現腫瘍細胞集団を標的化することにより、AAH保有腫瘍の発生および進行が抑制される。
【0025】
(表1)ヒトAAHのアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 1;GENBANKアクセッション番号S83325; Hisモチーフに下線を引いてある;触媒ドメイン内の保存配列を太字で示す;触媒ドメインは、SEQ ID NO: 1の残基650〜700を含む。)
【0026】
(表2)ヒトAAHのcDNA配列
(SEQ ID NO: 2;GENBANKアクセッション番号S83325;開始メチオニンをコードするコドンに下線を引いてある。)
【0027】
臨床用途
抗原提示細胞(APC)、例えばDCは、被験体から、例えばがんを患っているまたはがんの発生のリスクのあるヒト患者から、白血球アフェレーシスプロセスを用いて得る。このような手順は、典型的にはアフェレーシスセンターで行う(第1日)。公知の方法を用いて樹状細胞を精製し、抗原、例えばAAHまたはAAHおよびAFPの両方と接触させる。抗原との接触の後、細胞をサイトカイン混合物と共に培養する(第2〜3日)。次いで、抗原によりプライムされ活性化されたDCを患者に投与する(第3〜4日)。例示的な治療過程には、4週間で3回のDC投与が含まれる。
【0028】
本明細書に記載されるデータを得るために以下の材料および方法を使用した。
【0029】
動物
7〜8週齢のメスのBALB/c(H-2d)マウスをHarlan Sprague Dawley, Inc.から購入し、病原体フリーの特別な条件下で管理した。
【0030】
磁気マイクロビーズの調製
免疫磁気ビーズ(1.3μm;Calbiochem)を50mMホウ酸緩衝液、pH8.5で3回洗浄し、0.1mg/ml AAHまたはGFPタンパク質を含む50mMホウ酸緩衝液、pH9.0に再懸濁した。次いで、この懸濁液を、絶えず撹拌しながら室温で一晩インキュベートした。このビーズをペレット化し、PBSで洗浄し、30mg固形分/mlの濃度になるようPBSに再懸濁した。
【0031】
DCの単離
DCの単離は、公知の方法を用いて行った(例えば、Gehring et al., 2008, J. Immunol. Meth. 332: 18-30)。細胞は、任意で白血球アフェレーシスにより得る。Fms様チロシンキナーゼ受容体3リガンド(FLT3L)をコードする発現プラスミドである10μgのpUMVC3-hFLexを、第0日および第6日にマウスの尾静脈に注射した。FLT3Lを注射したマウスから脾細胞を、NH4Cl赤血球溶解緩衝液を用いて調製し、5×107個の細胞を10μlの磁気マイクロビーズと共に無血清DMEM中で4〜6時間インキュベートした。この細胞を回収し、MACS MSカラム(Miltenyi)を用いて磁場を通し、磁気ビーズを取り込んだ細胞を濃縮した。次いで細胞を、Lympholyte M(Cedarlane)を用いた密度勾配遠心分離に供し、フリーのビーズおよび死細胞を排除した。生細胞を回収し、ハンクス緩衝塩溶液(HBSS)で二回洗浄し、これをその後の実験に使用した。単離された細胞の生存度は>90%であり、単離された細胞におけるCD11c陽性集団の割合は70〜80%であった。
【0032】
細胞の培養
DCを、10%マウス血清(Equitech Bio)、2mM L-グルタミン、50μM 2-メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、20ng/ml GMCSF、100ng/ml IL-4、20ng/ml IFN-γ、および1μg/ml CD40Lを補充したHEPES緩衝RPMI1640中、6ウェル超低接着プレート(Corning)上で、40時間培養した(すべてのサイトカインをPeprotechから購入した)。サイトカイン放出用に、脾細胞を、2mM L-グルタミン、50nM 2-メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを補充した無血清X-VIVO 15(Lonza)中で増殖させた。細胞傷害性アッセイ用に、脾細胞を、10%ウシ胎仔血清(Atlantic Bio)、2mM L-グルタミン、50μM 2-メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、1×非必須アミノ酸(Lonza)、0.5×アミノ酸溶液(Invitrogen)、および1mMピルビン酸ナトリウムを補充したHEPES緩衝RPMI1640からなる完全培地中で増殖させた。SP2/0細胞は、20%ウシ胎仔血清、2mM L-グルタミン、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを補充したダルベッコ最小必須培地中で培養した。
【0033】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
DCまたは脾細胞を、AAHタンパク質を含むまたは含まない無血清培地中で48時間増殖させた。次いで、その培養上清を回収し、遠心分離し、ELISAアッセイに供した。ELISA Ready-SET-Go!キット(eBioscience)を製造元の説明書に従い用いて、IL-12、p70、IFN-γ、およびIL-4に対するELISAを行った。
【0034】
フローサイトメトリー
細胞表面マーカーの発現は、以前に記載されたようにフローサイトメトリーにより分析した(Gehring et al., 2008)。3〜6×105個の細胞を染色に使用した。細胞を染色緩衝液(5% FBSを含有するHBSS)で洗浄し、2.5μg/ml Mouse BD Fc Block(BD Biosciences)と共に4℃で5分間インキュベートし、さらに、染色抗体と共に4℃で30分間インキュベートした。使用した抗体は、抗CD11c(HL3;BD Biosciences)、抗CD40(3/23;BD Biosciences)、抗CD54(3E2;BD Biosciences)、抗CD80(16-10A1;BD Biosciences)、抗CD86(GLI;BD Biosciences)、抗I-Ad(AMS-32.1;BD Biosciences)、および抗CD8a(53-6.7;eBioscience)であり、これらはすべて蛍光色素と結合したものであった。染色対照として、ハムスター、ラット、およびマウスの免疫グロブリンGアイソタイプ適合対照も使用した。二回の洗浄後、細胞を染色緩衝液に再懸濁し、FACSCalibur(BD Biosciences)を用いたフローサイトメトリーに供した。細胞を7-アミノ-アクチノマイシンD(eBioscience)で染色することにより、死細胞を分析から排除した。データは、CellQuestソフトウェア(BD Biosciences)およびその後にFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いて処理した。
【0035】
ワクチン接種
サイトカインと共に40時間培養した後、2.5×105個の細胞を、第0日および第14日に、左右側腹に皮下注射した(マウス一匹あたり5×105個の細胞)。第28日に、免疫処置したマウスをサイトカイン放出および細胞傷害性アッセイを含むさらなる実験に使用した。
【0036】
細胞傷害性アッセイ
脾細胞を免疫処置したマウスから調製し、5×107個の脾細胞を、0.5μg/ml AAHタンパク質を含む完全培地中で2日間増殖させ、10ng/ml IL-2を添加した後さらに2日間増殖させた。2×104個の標的SP2/0細胞を、無血清培地中で、6〜60×104個のエフェクター脾細胞と混合し、200×gで5分間遠心分離し、CO2インキュベーター内で4時間インキュベートした。培養上清を回収し、上清中に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ活性を、LDH Cytotoxity Detection Kit(Roche)を製造元の説明書に従い用いて測定した。標的細胞溶解%を、以下の式を用いて算出した:
((Aエフェクター+標的−Aエフェクター−A標的)÷(A標的+TritonX−A標的))×100
式中、Aは490nmにおける吸光度を示す。
【0037】
インビトロでの様々なサイトカインにより刺激された単離されたDCによるIL-12の分泌
以前から使用されているプロトコルは、DCのインビボでの増殖、LPSおよび抗CD40抗体を含むDCの抗原および刺激因子でコートした磁気マイクロビーズの取り込み、および磁気カラムを通すことによるDCの単離を含む。刺激因子は細胞表面上の対応する受容体と相互作用しなければならないが、DCによって取り込まれたビーズ上の刺激因子はそれができないため、改良法では、DCをビーズ上にコートされた刺激因子で刺激することに代えて、単離されたDCを様々なサイトカインの存在下で2日間増殖させることにより刺激することを含んだ。DCを刺激し、かつその成熟を促進するいくつかのサイトカインが存在し、それにはIL-4、IFN-γ、およびCD40Lが含まれる。したがって、DCの成熟に対するこれらのサイトカインの併用効果を試験した。DCの増殖、取り込み、および単離を行った。単離された細胞を、GM-CSFおよび/またはIL-4、および/またはIFN-γ、および/またはCD40Lの存在下で40時間培養した。GM-CSFはDCの生存上必要となるため、これは常に添加した。成熟DCは、ヘルパー細胞および細胞傷害性T細胞を極性化するのに必須のIL-12を活発に産生するが、未成熟DCはそうではない。したがって、IL-12レベルをDC刺激の指標として用いた。培養上清を回収し、IL-12 p70の濃度をELISAにより測定した。その結果は、IL-12 p70が、すべてのサイトカインがDC培養物中に存在する場合に最も高くなることを示した(図1)。各サイトカインは単独でまたは組み合わせて刺激に使用される。好ましくは、すべてのサイトカインがDCを刺激するのに使用される。しかし、CD40Lは任意である。
【0038】
刺激されたDCの表面における成熟DCマーカーの発現
成熟DCマーカーの発現に対するサイトカイン刺激の効果を調査するため、サイトカインの存在下で40時間増殖させたDCのマーカー発現を、培養しなかったDCのそれに対して測定した。汎DCマーカーであるCD11cの発現は培養後に変化しなかった(図2、3)。しかし、CD40、CD54、CD80、CD86、およびMHCクラスII(I-Ad)を含むすべての成熟DCマーカーが、40時間増殖させたDCにおいて有意にアップレギュレートされていた(図2、3)。CD8a+ DCはCTLを効率的に刺激することができるDCのサブセットである。CD8a+ DC集団に対するサイトカイン刺激の効果を評価した。図4に示されるように、DC中のCD8a+集団の割合は、刺激の間に有意に増加した。これらの結果は、LPSを使用しない本方法によって作製された細胞が、DCベースの免疫処置にとって十分な品質を有していたことを示している。
【0039】
AAH免疫処置マウス由来の脾細胞によるAAH応答性のIFN-γ分泌
TH1応答がAAH免疫処置によって誘導されるかどうかを試験するために、AAHタンパク質応答性のTH1サイトカインIFN-γの産生を測定した。マウスを、二週間の間隔をあけて二回、AAHもしくはGFPコートビーズまたは抗原を有さないビーズを取り込んだDCで免疫処置した。最後の免疫処置から二週間後、免疫処置マウスから脾細胞を調製し、AAHの存在下で48時間培養し、培養上清中のIFN-γの濃度を測定することで、AAH免疫処置マウス由来の脾細胞がAAH刺激に応答してIFN-γを産生するかどうかを試験した。AAH免疫処置マウス由来の脾細胞は、用量依存的な様式でIFN-γを活発に産生した(図5)。コンカナバリンA(Con A)の存在下では、3つのグループ由来の脾細胞は、かなりのIFN-γを産生したが、AAHで刺激した場合では、対照脾細胞は、わずかなIFN-γしか産生しなかった(図5)。この結果は、免疫処置マウスにおいてAAH応答性のTH1細胞が生成されたことを示している。
【0040】
AAH免疫処置マウス由来の脾細胞によるAAH応答性のIL-4分泌
AAHに対する液性免疫が、AAHが負荷されたDCにより誘導されるかどうかを調査するために、IFN-γと同じ試料中のTH2サイトカインIL-4の濃度を測定した。Con Aで刺激した脾細胞は、免疫処置に非依存的に多量のIL-4を産生した(図6)。対照的に、3つのタイプのDCで免疫処置したマウスから調製した脾細胞は、微量のIL-4しか産生せず(図6)、これによりAAH応答性のTH2細胞はAAH免疫によって効率的には誘導されなかったことが示された。
【0041】
AAH免疫処置マウスにおけるAAH発現細胞に対するCTL活性
AAH応答性のCTLがAAH免疫処置マウスにおいて誘導されるかどうかを決定するために、AAH発現SP2/0細胞を標的細胞として使用することにより細胞傷害性を評価した。SP2/0細胞を、AAHタンパク質およびIL-2で活性化した後の免疫処置マウス由来の脾細胞と共に4時間共培養した。標的細胞溶解の効率は、死滅した標的細胞から放出された乳酸デヒドロゲナーゼ活性を測定することにより概算した。図7に示されるように、AAH免疫処置マウス由来の脾細胞は、他の対照脾細胞よりも強いCTL活性を有し、これにより、AAHによる免疫処置がAAH応答性のCTLを誘導したことが示唆された。
【0042】
AAH免疫処置マウスにおけるAAH応答性T細胞
AAHが負荷されたDCでマウスを免疫処置したところ、AAH応答性TH1細胞およびCTLが誘導された。抗原特異的なT細胞の増殖は、抗原応答性のT細胞が産生されたことを示す別の重要な指標である。
【0043】
インビボにおけるAAH免疫処置の抗腫瘍効果
AAHでプライムされたDCを用いるAAH免疫処置は、抗腫瘍免疫を誘導する。AAHが負荷されたDCで、マウスを二週間の間隔をあけて二回免疫処置し、そして最後の免疫処置から二週間後、SP2/0細胞を皮膚下に移植し、移植した腫瘍のサイズの増大を測定する。この腫瘍量モデルから得られたデータは、免疫処置の予防的効果を反映する。AAH免疫処置の治癒効果を評価するために、SP2/0細胞をまず移植し、次いで腫瘍が5mm径に増大したときに、AAHが負荷されたDCでマウスを免疫処置し、腫瘍の増殖に対する効果を測定する。
【0044】
AAH標的免疫療法は転移も抑制する。AAHが負荷されたDCでマウスを免疫処置し、その後、SP2/0細胞を尾静脈に注射する。二週間後、肺を切除し、形成された結節の数を計数する。免疫処置マウスにおける結節数が非免疫処置マウスにおける結節数と比較して減少していることは、AAHが負荷されたDCによる免疫処置レジメンが、AAH保有腫瘍の転移を抑制していることを示す。
【0045】
AAHが負荷された成熟樹状細胞を用いるワクチン接種は、AAH発現腫瘍の腫瘍量(腫瘍の体積)を劇的に減少させた。マウスにおける腫瘍の増殖に対するAAHワクチン接種の治療効果を図11および12に示す。5×105個のBNL 1MEA.7R.1マウス肝癌細胞を、6週齢のBALB/cマウスの側腹に皮下移植した。第10日および第15日に、HBSS 、またはAAHもしくはGFPが負荷された5×105個の成熟DCを、腫瘍保有マウスに皮下注射した。腫瘍サイズを週ごとに測定した。腫瘍の体積を以下の式により決定した:0.52×(長さ)×(幅)2。各データ点は、平均腫瘍体積±標準誤差を表す(n=6)。腫瘍体積は、AAHが負荷されたDCによる免疫処置後に有意に減少することが見出された。当技術分野で知られた腫瘍モデルを用いたこれらのデータは、AAHが負荷された成熟DCを用いる治療法が、AAH保有腫瘍をインビボで減少および消滅させるのに有効であることを示している。このような樹状細胞ワクチンは、あらゆるAAH発現腫瘍に対して強力な抗腫瘍効果を示す。
【0046】
AAHおよびAFPの同時免疫処置による抗腫瘍効果の強化
AFPは、マウスおよびヒトに対して抗原性を示し得る唯一のHCC結合タンパク質である。しかし、その抗腫瘍効果はヒトHCC患者に対して十分ではないことも示されている。しかし、AAHおよびAFPの同時免疫処置は、HCCのような、AAHおよびAFPの両方を発現する腫瘍に対する免疫応答を強化する。
【0047】
AFP発現プラスミドDNAを導入することにより、AFP発現SP2/0細胞の安定株を作製する。この細胞を使用することにより、AFPおよびAAHが負荷されたDCで免疫処置したマウスにおけるインビトロCTL活性を測定する。免疫処置後の細胞傷害性の向上は、免疫処置が、AAHおよび/またはAFP保有腫瘍の増殖に対するAAHおよびAFPの組み合わせ免疫処置の抗腫瘍効果をもたらすことを示す。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年7月24日出願のU.S.S.N 61/228,429、2009年8月4日出願のU.S.S.N 61/231,127、2009年9月2日出願のU.S.S.N 61/239,288、および2009年9月9日出願のU.S.S.N 61/240,745の恩典を主張する。これらの出願の内容は、その全体が参照により組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
肝細胞癌および胆管細胞癌を含む肝がんは、世界で最も多いがんの一つである。米国において、肝がんは、男性では5番目、女性では9番目に多いがんによる死亡の原因である。肝がんの診断および局所管理が劇的に進歩しているにもかかわらず、米国における死亡率は増加を続けている。死亡率増加の理由の一つとしては、肝がんが、乳がんや結腸直腸がんを含む他のがんと異なり、全身治療、例えば化学療法に対して抵抗性であることが挙げられ得る。したがって、肝がんが全身疾患になってしまうと、その有効な治療法は存在しない。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、がんと診断された患者の治療のための化学療法に代わる手段についての長年の問題に対する解決策を提供する。被験体におけるアスパルチル(アスパラギニル)-β-ヒドロキシラーゼ(AAHまたはASPH)発現腫瘍の増殖を低下させる方法は、単離されたAAH負荷成熟樹状細胞または細胞集団を被験体に投与することを含む。AAH発現腫瘍の増殖は、このような樹状細胞ワクチンの投与後に低下する。例えば、腫瘍増殖および腫瘍量は、10%、20%、50%、75%、2倍、5倍、10倍、またはそれ以上低下する。本発明の方法は、哺乳動物被験体、例えばヒト患者からAAH発現腫瘍を減少および消滅させるのに使用される。本発明の組成物および方法はまた、伴侶動物および家畜、例えばヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、またはブタ被験体に対する使用にも適している。
【0004】
AAH発現腫瘍には、ほとんどの腫瘍型、例えば胃腸組織(例えば、食道、胃、結腸)、膵臓、肝臓(例えば、胆管細胞癌、肝細胞癌)、乳房、前立腺、子宮頸、卵巣、卵管、喉頭、肺、甲状腺、胆嚢、腎臓、膀胱、および脳(例えば、神経膠芽腫)の腫瘍ならびに後述するその他多数が含まれる。AAH発現腫瘍には、正常組織と比較して高レベルのAAHを発現する原発腫瘍およびそのようなAAH過剰発現の原発腫瘍からの転移により生じる腫瘍が含まれる。
【0005】
ワクチン接種法において使用される樹状細胞は、好ましくは、被験体に投与する前に、GM-CSFおよびIFN-γを含むサイトカインの組み合わせを用いてエクスビボで活性化させる。後者の工程は、抗腫瘍活性が向上した樹状細胞集団を生成する。
【0006】
プライムされた樹状細胞を産生するための改良された方法は、単離された樹状細胞を抗原、例えばAAHと接触させるか、または腫瘍抗原の組み合わせ、例えばAAHおよびα-フェトプロテイン(AFP)と接触させ、かつ同細胞を処理して、成熟および活性化された抗原提示細胞の集団を生成することにより実施する。抗原接触工程の後、樹状細胞をサイトカインの組み合わせと接触させる。その組み合わせは、例えば、GM-CSFおよびIFN-γを含む。他の例では、その組み合わせはさらにIL-4を含む。任意で、その組み合わせはCD40Lを含む。樹状細胞は、少なくとも10時間(例えば、12、24、36、40、48時間またはそれ以上)、サイトカインの組み合わせと接触させる。抗原は、可溶型であるかまたは固体支持体に結合させたものである。例えば、固体支持体には、ポリスチレンビーズ、例えば生分解性ビーズまたは粒子が含まれる。樹状細胞は、公知の方法、例えば、白血球アフェレーシスまたは血球アフェレーシスによって被験体から得る。
【0007】
細胞を得る被験体は、がんを患っているかまたはがんの発生のリスクを有する。例えば、患者は、腫瘍、例えばAAH発現腫瘍の診断を受けている。がん、例えばAAH保有腫瘍の発生のリスクのある患者には、そのようながんを有することが特定された個体の家族歴を有する患者が含まれる。
【0008】
上述のようにして産生されたプライムされた樹状細胞を含むワクチン組成物もまた、本発明に包含される。本発明のワクチンは、腫瘍の増殖を阻害するのに、腫瘍の増殖を防止するのに、および転移を阻害または減少させるのに有用である。哺乳動物における腫瘍の増殖を阻害する方法は、AAH保有腫瘍を患っている被験体を特定し、かつ上記の方法に従いプライムされた自己樹状細胞をその被験体に投与することにより実施する。哺乳動物における腫瘍の発生を予防する方法は、AAH保有腫瘍の発生のリスクのある被験体(例えば、がんの家族歴を有する被験体)を特定する工程、および抗原によりプライムされかつ活性化された自己樹状細胞をその被験体に投与する工程を含む。AAH保有腫瘍の転移を予防する方法は、AAH保有腫瘍を患っている被験体を特定し、かつ上記のような自己樹状細胞をその被験体に投与することにより実施する。
【0009】
本発明のポリペプチドおよびその他の組成物は精製されている。例えば、実質的に純粋なAAHポリペプチドの変異体は、好ましくは、そのポリペプチドをコードする組換え核酸の発現により、またはそのタンパク質の化学合成により得られる。ポリペプチドまたはタンパク質は、天然の状態ではそれに付随している混在物質(タンパク質およびその他の天然に存在する有機分子)から分離されている場合、実質的に純粋である。典型的には、ポリペプチドは、その調製物中のタンパク質の少なくとも60重量%を構成する場合、実質的に純粋である。好ましくは、調製物中のタンパク質は、少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、および最も好ましくは少なくとも99重量%がAAHである。純度は、任意の適切な方法、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定される。したがって、実質的に純粋なポリペプチドには、真核生物起源であるが、大腸菌(E.coli)もしくは別の原核生物において産生された、またはそのポリペプチドの元々の起源とは別の真核生物において産生された組換えポリペプチドが含まれる。
【0010】
本発明の方法において使用する樹状細胞またはその他の細胞、例えば免疫細胞、例えばマクロファージ、B細胞、T細胞は、精製または単離されている。細胞との関連で、「単離された」という用語は、その細胞が、天然ではその細胞と共に存在している他の細胞型または細胞物質を、実質的に含まないことを意味する。例えば、特定の組織型または表現型の細胞試料は、それが細胞集団の少なくとも60%である場合に、「実質的に純粋」である。好ましくは、その調製物は、その細胞集団の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%または100%である。純度は、任意の適切な標準的方法、例えば蛍光励起細胞選別法(FACS)により測定される。
【0011】
抗原でプライムされたDCを作製する方法は、以前の方法に対していくつもの利点を有する。細胞は抗原が負荷されるだけでなく、その後のサイトカインインキュベーションにより、改善された抗腫瘍活性および抗転移活性を有する、高度に活性化された、抗原でプライムされた抗原提示細胞が生成される。
【0012】
本発明のこれらおよびその他の可能性は、以下の図面、詳細な説明、および特許請求の範囲を閲覧することで、本発明そのものとともに、より十分に理解されるであろう。本明細書中で引用される全ての参考文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】単離されたDCによるIL-12産生を示す棒グラフである。
【図2】単離されたDCにおける様々な表面DCマーカーの発現を示す一連の線グラフである。
【図3】表面DCマーカーの平均蛍光を示す棒グラフである。
【図4】サイトカインの存在下で増殖させたCD8+ DC集団の増加を示す一連のフローサイトメトリーグラフおよび棒グラフである。
【図5】IFN-γの分泌を示す棒グラフである。
【図6】IL-4の分泌を示す棒グラフである。
【図7】細胞傷害性アッセイの結果を示す線グラフである。
【図8】細胞により発現されるAAHの概略図である。
【図9】抗原が負荷された成熟DCを作製する方法の概略図である。
【図10】AAH負荷DCを用いる免疫処置スケジュールのフローチャートである。
【図11】マウスにおける腫瘍の増殖に対するAAHワクチン接種の治療効果を決定するためのプロトコルを示す概略図である。
【図12】マウスにおける腫瘍の増殖に対するAAHワクチン接種の治療効果を示す線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
AAHは、その発現が多くのがん型に関連しているタンパク質である(例えば、USPN 6,815,415; USPN 6,812,206; USPN 6,797,696; USPN 6,783,758; USPN 6,835,370;およびUSPN 7,094,556を参照のこと)。HAAHの過剰発現は、多くのがん性の肺(例えば、腺癌、気管支肺胞上皮癌、およびその他の非小細胞肺がん、例えば有棘細胞癌サブタイプ)(Luu et al., 2009, Hum. Pathol. 40: 639-644)、肝臓(例えば、肝細胞癌、胆管癌、および胆管上皮細胞のがん)(Wang et al., 2010, Hepatology 52: 164-173)、胃腸組織(例えば、結腸、胃、食道)、膵臓、前立腺、卵巣、胆管、乳房、腎臓、膀胱、および脳(例えば神経膠芽腫および神経芽腫)において免疫組織化学染色(IHC)により検出されている。別の腫瘍組織試料および細胞株の調査では、(非がん性組織と比較して)以下のさらなるがんにおいてAAHの発現が確認された:喉頭癌、子宮頸がん、卵管がん、肝がん(例えば、胆管癌)、腎がん、乳がん、子宮頸がん、卵巣がん、卵管癌、喉頭がん、肺がん、甲状腺がん、膵がん、胸腺癌、前立腺がん、膀胱がん、食道がん、胃がん、胆嚢がん、結腸がん、および直腸がん(Song et al., 2010, Chinese J. of Cell. and Mol. Immunol. 26: 141-144)。HAAHは、がんに非常に特異的であり、試験された腫瘍標本(n>1000)の>99%において免疫組織化学により検出されているが、隣接する非罹患組織または健常な個体由来の組織試料には存在しない。
【0015】
AAHでプライムされた細胞を用いる免疫療法は、細胞表面にAAHを発現している腫瘍を有する患者に対して施行される。そのような腫瘍には、肝がん、例えば肝細胞癌および胆管癌ならびに乳房および結腸の腺癌が含まれる。そのような治療方針は、がんの治療だけでなくその予防にも有用である。
【0016】
本発明以前、肝がんの診断および局所管理は進歩したものの、この疾患に対する有効な全身治療は存在しなかった。免疫療法は、その特異性から、全身および局所の肝がんを治療するのに使用される。
【0017】
AAHを用いる樹状細胞ワクチンは、免疫機能正常(immunocompetent)マウスにおいて既存の肝細胞癌を治癒することが見出された。AAH樹状細胞ワクチンは、AAH発現腫瘍の増殖を低下させることで腫瘍量を減少させ、かつヒトにおいても腫瘍を根絶する。
【0018】
免疫療法
悪性腫瘍の免疫療法は、腫瘍細胞に対する特異的応答が魅力である。免疫療法の原理は、抗原提示細胞によってヘルパー細胞および細胞傷害性T細胞に提示された場合に免疫原性となる潜在的抗原をがん細胞が豊富に有していることである。肝がんに対する免疫療法は、それが全身のものであろうとなかろうと、見込みのある臨床アプローチである。なぜならば、肝がん細胞は、正常組織では発現されないかまたはわずかに発現されるのみのいくつかの腫瘍関連タンパク質を発現するからである。例えば、AFPは、成体組織では発現されないが、肝細胞癌(HCC)では豊富に発現される。いくつかの研究は、AFP特異的な免疫反応をマウスだけでなくヒトにおいても誘導できることを示している。しかし、AFPを標的とするHCC免疫療法の臨床試験は、部分的な腫瘍応答さえ示さなかった。いくつかの考えられる理由は、AFPはがんの進行に関与しないため、AFPを発現しないがん細胞がAPP標的免疫療法時に支配的であった、というものである。AFPは細胞表面に分布していないため、HCC細胞がAFP応答性のT細胞によって認識されるためには、AFPが、主要組織適合抗原複合体(MHC)クラスI分子によって細胞表面上に提示されなければならない。しかし、MHCクラスI分子は多くのがん細胞においてしばしばダウンレギュレートされるので、AFPはT細胞によって適切に認識されない可能性がある。この肝がん免疫療法の問題を克服するために、細胞ベースの治療においてプライムされる細胞に使用する、肝がんに関連する別の抗原を同定する研究を行った。AFPを抗原として用いた結果からみて、AAHによる抗腫瘍の結果は驚くべきものであった。
【0019】
AAHは、ASPHとしても知られており、肝細胞癌および胆管細胞癌において強く発現されるが、これらの組織型の対応正常細胞では発現されない。したがってAAHは腫瘍関連タンパク質である。AAHは、その特有の性質から、肝がんの免疫療法に有用である。第一に、AAHは、がん細胞に運動性を付与し、がんの転移に関与する;したがって、AAH発現細胞を標的とする治療は、原発腫瘍に加えて転移巣を抑制するのに有効である。第二に、AAHは、その大部分が細胞外空間に露出している膜タンパク質なので、クラスI分子がダウンレギュレートされている場合であっても免疫細胞がこのタンパク質にアクセスするのが容易である。第三に、AAH以外に、胆管細胞癌に特異的な抗原性タンパク質は知られていない。このように、AAHは、肝がんに対する免疫療法の標的分子として比類なく適格である。
【0020】
免疫療法アプローチでは、関心対象のタンパク質が負荷された樹状細胞(DC)の注入を必要とする。DCは、抗原を捕捉、処理し、それをT細胞に提示することでT細胞媒介性免疫を誘導および制御する特殊な細胞である。DCは、実験動物だけでなく腫瘍保有患者を免疫処置するのに広く利用されている。本明細書に記載される方法は、AAHに対する免疫を誘導するためのDCベースの免疫処置を包含する。本発明の方法は、関心対象のタンパク質が負荷された免疫原性マウスDCを作製するための以前に記載された方法(Gehring et al., 2008, J. Immunol. Meth. 332: 18-30)を、少なくとも二つの点で改良するものである。一点目は、DCを刺激するために、以前はリポ多糖(LPS)が使用されていたが、これはインビボ利用に適さない可能性のある強発熱物質であるという点である。二点目は、DC刺激は、DCによるIL-12分泌および様々な表面DCマーカーの発現から判断すると、比較的弱かったという点である。そのため、免疫原性DCの作製方法の改良を行った。
【0021】
樹状細胞ワクチン
HCC免疫療法の最も有望なアプローチはDCを用いるものである。なぜならば、DCはT細胞媒介性腫瘍免疫を誘導する能力が高いからである。DCは造血細胞由来であり、抗原を捕捉および処理し、タンパク質を、MHC分子上に提示されT細胞によって認識されるペプチドに変換することに特化している。DCは、T細胞媒介性免疫を強く誘導し、かつ制御する。
【0022】
DCベースの免疫療法は、腫瘍が潜在的抗原を豊富に有しており、かつこれらはDCによって提示された場合に免疫原性となるという事実に基づいている。DCは、例えば血球アフェレーシスによって被験体から得られる。この細胞は、現在ではエクスビボで、腫瘍抗原(例えば、腫瘍細胞溶解産物;アポトーシス性もしくは壊死性の腫瘍細胞;組換え、合成、もしくは精製された腫瘍抗原ペプチドもしくはタンパク質;または核酸、例えば腫瘍抗原をコードするRNA)が負荷され(すなわち接触させ)、成熟するよう刺激され、かつ患者に再注入されて、強いT細胞性免疫が誘導される。
【0023】
AAH腫瘍抗原
AAHは、C末端領域に触媒ドメインを有するII型膜タンパク質である。このタンパク質の大部分は細胞膜の外側に位置し、そのため免疫細胞がこのタンパク質にアクセスすることができる。AAHタンパク質は、HCC、胆管癌、および乳房または結腸起源の腺癌において強く発現され、対応正常組織ではほとんど検出できないか全く検出不可能である。したがって、AAHは、HCCおよびその他のAAH保有腫瘍に対するDCベースの免疫療法における理想的な標的分子である。
【0024】
腫瘍細胞において過剰発現されたAAHは、細胞運動性を高め、腫瘍細胞に悪性の表現型を付与する。HCCに関する臨床病理学的研究は、AAHの過剰発現が組織学的悪性度および肝内転移に関与していることを明らかにした。したがって、AAH発現腫瘍細胞集団を標的化することにより、AAH保有腫瘍の発生および進行が抑制される。
【0025】
(表1)ヒトAAHのアミノ酸配列
(SEQ ID NO: 1;GENBANKアクセッション番号S83325; Hisモチーフに下線を引いてある;触媒ドメイン内の保存配列を太字で示す;触媒ドメインは、SEQ ID NO: 1の残基650〜700を含む。)
【0026】
(表2)ヒトAAHのcDNA配列
(SEQ ID NO: 2;GENBANKアクセッション番号S83325;開始メチオニンをコードするコドンに下線を引いてある。)
【0027】
臨床用途
抗原提示細胞(APC)、例えばDCは、被験体から、例えばがんを患っているまたはがんの発生のリスクのあるヒト患者から、白血球アフェレーシスプロセスを用いて得る。このような手順は、典型的にはアフェレーシスセンターで行う(第1日)。公知の方法を用いて樹状細胞を精製し、抗原、例えばAAHまたはAAHおよびAFPの両方と接触させる。抗原との接触の後、細胞をサイトカイン混合物と共に培養する(第2〜3日)。次いで、抗原によりプライムされ活性化されたDCを患者に投与する(第3〜4日)。例示的な治療過程には、4週間で3回のDC投与が含まれる。
【0028】
本明細書に記載されるデータを得るために以下の材料および方法を使用した。
【0029】
動物
7〜8週齢のメスのBALB/c(H-2d)マウスをHarlan Sprague Dawley, Inc.から購入し、病原体フリーの特別な条件下で管理した。
【0030】
磁気マイクロビーズの調製
免疫磁気ビーズ(1.3μm;Calbiochem)を50mMホウ酸緩衝液、pH8.5で3回洗浄し、0.1mg/ml AAHまたはGFPタンパク質を含む50mMホウ酸緩衝液、pH9.0に再懸濁した。次いで、この懸濁液を、絶えず撹拌しながら室温で一晩インキュベートした。このビーズをペレット化し、PBSで洗浄し、30mg固形分/mlの濃度になるようPBSに再懸濁した。
【0031】
DCの単離
DCの単離は、公知の方法を用いて行った(例えば、Gehring et al., 2008, J. Immunol. Meth. 332: 18-30)。細胞は、任意で白血球アフェレーシスにより得る。Fms様チロシンキナーゼ受容体3リガンド(FLT3L)をコードする発現プラスミドである10μgのpUMVC3-hFLexを、第0日および第6日にマウスの尾静脈に注射した。FLT3Lを注射したマウスから脾細胞を、NH4Cl赤血球溶解緩衝液を用いて調製し、5×107個の細胞を10μlの磁気マイクロビーズと共に無血清DMEM中で4〜6時間インキュベートした。この細胞を回収し、MACS MSカラム(Miltenyi)を用いて磁場を通し、磁気ビーズを取り込んだ細胞を濃縮した。次いで細胞を、Lympholyte M(Cedarlane)を用いた密度勾配遠心分離に供し、フリーのビーズおよび死細胞を排除した。生細胞を回収し、ハンクス緩衝塩溶液(HBSS)で二回洗浄し、これをその後の実験に使用した。単離された細胞の生存度は>90%であり、単離された細胞におけるCD11c陽性集団の割合は70〜80%であった。
【0032】
細胞の培養
DCを、10%マウス血清(Equitech Bio)、2mM L-グルタミン、50μM 2-メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、20ng/ml GMCSF、100ng/ml IL-4、20ng/ml IFN-γ、および1μg/ml CD40Lを補充したHEPES緩衝RPMI1640中、6ウェル超低接着プレート(Corning)上で、40時間培養した(すべてのサイトカインをPeprotechから購入した)。サイトカイン放出用に、脾細胞を、2mM L-グルタミン、50nM 2-メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを補充した無血清X-VIVO 15(Lonza)中で増殖させた。細胞傷害性アッセイ用に、脾細胞を、10%ウシ胎仔血清(Atlantic Bio)、2mM L-グルタミン、50μM 2-メルカプトエタノール、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、1×非必須アミノ酸(Lonza)、0.5×アミノ酸溶液(Invitrogen)、および1mMピルビン酸ナトリウムを補充したHEPES緩衝RPMI1640からなる完全培地中で増殖させた。SP2/0細胞は、20%ウシ胎仔血清、2mM L-グルタミン、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを補充したダルベッコ最小必須培地中で培養した。
【0033】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
DCまたは脾細胞を、AAHタンパク質を含むまたは含まない無血清培地中で48時間増殖させた。次いで、その培養上清を回収し、遠心分離し、ELISAアッセイに供した。ELISA Ready-SET-Go!キット(eBioscience)を製造元の説明書に従い用いて、IL-12、p70、IFN-γ、およびIL-4に対するELISAを行った。
【0034】
フローサイトメトリー
細胞表面マーカーの発現は、以前に記載されたようにフローサイトメトリーにより分析した(Gehring et al., 2008)。3〜6×105個の細胞を染色に使用した。細胞を染色緩衝液(5% FBSを含有するHBSS)で洗浄し、2.5μg/ml Mouse BD Fc Block(BD Biosciences)と共に4℃で5分間インキュベートし、さらに、染色抗体と共に4℃で30分間インキュベートした。使用した抗体は、抗CD11c(HL3;BD Biosciences)、抗CD40(3/23;BD Biosciences)、抗CD54(3E2;BD Biosciences)、抗CD80(16-10A1;BD Biosciences)、抗CD86(GLI;BD Biosciences)、抗I-Ad(AMS-32.1;BD Biosciences)、および抗CD8a(53-6.7;eBioscience)であり、これらはすべて蛍光色素と結合したものであった。染色対照として、ハムスター、ラット、およびマウスの免疫グロブリンGアイソタイプ適合対照も使用した。二回の洗浄後、細胞を染色緩衝液に再懸濁し、FACSCalibur(BD Biosciences)を用いたフローサイトメトリーに供した。細胞を7-アミノ-アクチノマイシンD(eBioscience)で染色することにより、死細胞を分析から排除した。データは、CellQuestソフトウェア(BD Biosciences)およびその後にFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いて処理した。
【0035】
ワクチン接種
サイトカインと共に40時間培養した後、2.5×105個の細胞を、第0日および第14日に、左右側腹に皮下注射した(マウス一匹あたり5×105個の細胞)。第28日に、免疫処置したマウスをサイトカイン放出および細胞傷害性アッセイを含むさらなる実験に使用した。
【0036】
細胞傷害性アッセイ
脾細胞を免疫処置したマウスから調製し、5×107個の脾細胞を、0.5μg/ml AAHタンパク質を含む完全培地中で2日間増殖させ、10ng/ml IL-2を添加した後さらに2日間増殖させた。2×104個の標的SP2/0細胞を、無血清培地中で、6〜60×104個のエフェクター脾細胞と混合し、200×gで5分間遠心分離し、CO2インキュベーター内で4時間インキュベートした。培養上清を回収し、上清中に放出された乳酸デヒドロゲナーゼ活性を、LDH Cytotoxity Detection Kit(Roche)を製造元の説明書に従い用いて測定した。標的細胞溶解%を、以下の式を用いて算出した:
((Aエフェクター+標的−Aエフェクター−A標的)÷(A標的+TritonX−A標的))×100
式中、Aは490nmにおける吸光度を示す。
【0037】
インビトロでの様々なサイトカインにより刺激された単離されたDCによるIL-12の分泌
以前から使用されているプロトコルは、DCのインビボでの増殖、LPSおよび抗CD40抗体を含むDCの抗原および刺激因子でコートした磁気マイクロビーズの取り込み、および磁気カラムを通すことによるDCの単離を含む。刺激因子は細胞表面上の対応する受容体と相互作用しなければならないが、DCによって取り込まれたビーズ上の刺激因子はそれができないため、改良法では、DCをビーズ上にコートされた刺激因子で刺激することに代えて、単離されたDCを様々なサイトカインの存在下で2日間増殖させることにより刺激することを含んだ。DCを刺激し、かつその成熟を促進するいくつかのサイトカインが存在し、それにはIL-4、IFN-γ、およびCD40Lが含まれる。したがって、DCの成熟に対するこれらのサイトカインの併用効果を試験した。DCの増殖、取り込み、および単離を行った。単離された細胞を、GM-CSFおよび/またはIL-4、および/またはIFN-γ、および/またはCD40Lの存在下で40時間培養した。GM-CSFはDCの生存上必要となるため、これは常に添加した。成熟DCは、ヘルパー細胞および細胞傷害性T細胞を極性化するのに必須のIL-12を活発に産生するが、未成熟DCはそうではない。したがって、IL-12レベルをDC刺激の指標として用いた。培養上清を回収し、IL-12 p70の濃度をELISAにより測定した。その結果は、IL-12 p70が、すべてのサイトカインがDC培養物中に存在する場合に最も高くなることを示した(図1)。各サイトカインは単独でまたは組み合わせて刺激に使用される。好ましくは、すべてのサイトカインがDCを刺激するのに使用される。しかし、CD40Lは任意である。
【0038】
刺激されたDCの表面における成熟DCマーカーの発現
成熟DCマーカーの発現に対するサイトカイン刺激の効果を調査するため、サイトカインの存在下で40時間増殖させたDCのマーカー発現を、培養しなかったDCのそれに対して測定した。汎DCマーカーであるCD11cの発現は培養後に変化しなかった(図2、3)。しかし、CD40、CD54、CD80、CD86、およびMHCクラスII(I-Ad)を含むすべての成熟DCマーカーが、40時間増殖させたDCにおいて有意にアップレギュレートされていた(図2、3)。CD8a+ DCはCTLを効率的に刺激することができるDCのサブセットである。CD8a+ DC集団に対するサイトカイン刺激の効果を評価した。図4に示されるように、DC中のCD8a+集団の割合は、刺激の間に有意に増加した。これらの結果は、LPSを使用しない本方法によって作製された細胞が、DCベースの免疫処置にとって十分な品質を有していたことを示している。
【0039】
AAH免疫処置マウス由来の脾細胞によるAAH応答性のIFN-γ分泌
TH1応答がAAH免疫処置によって誘導されるかどうかを試験するために、AAHタンパク質応答性のTH1サイトカインIFN-γの産生を測定した。マウスを、二週間の間隔をあけて二回、AAHもしくはGFPコートビーズまたは抗原を有さないビーズを取り込んだDCで免疫処置した。最後の免疫処置から二週間後、免疫処置マウスから脾細胞を調製し、AAHの存在下で48時間培養し、培養上清中のIFN-γの濃度を測定することで、AAH免疫処置マウス由来の脾細胞がAAH刺激に応答してIFN-γを産生するかどうかを試験した。AAH免疫処置マウス由来の脾細胞は、用量依存的な様式でIFN-γを活発に産生した(図5)。コンカナバリンA(Con A)の存在下では、3つのグループ由来の脾細胞は、かなりのIFN-γを産生したが、AAHで刺激した場合では、対照脾細胞は、わずかなIFN-γしか産生しなかった(図5)。この結果は、免疫処置マウスにおいてAAH応答性のTH1細胞が生成されたことを示している。
【0040】
AAH免疫処置マウス由来の脾細胞によるAAH応答性のIL-4分泌
AAHに対する液性免疫が、AAHが負荷されたDCにより誘導されるかどうかを調査するために、IFN-γと同じ試料中のTH2サイトカインIL-4の濃度を測定した。Con Aで刺激した脾細胞は、免疫処置に非依存的に多量のIL-4を産生した(図6)。対照的に、3つのタイプのDCで免疫処置したマウスから調製した脾細胞は、微量のIL-4しか産生せず(図6)、これによりAAH応答性のTH2細胞はAAH免疫によって効率的には誘導されなかったことが示された。
【0041】
AAH免疫処置マウスにおけるAAH発現細胞に対するCTL活性
AAH応答性のCTLがAAH免疫処置マウスにおいて誘導されるかどうかを決定するために、AAH発現SP2/0細胞を標的細胞として使用することにより細胞傷害性を評価した。SP2/0細胞を、AAHタンパク質およびIL-2で活性化した後の免疫処置マウス由来の脾細胞と共に4時間共培養した。標的細胞溶解の効率は、死滅した標的細胞から放出された乳酸デヒドロゲナーゼ活性を測定することにより概算した。図7に示されるように、AAH免疫処置マウス由来の脾細胞は、他の対照脾細胞よりも強いCTL活性を有し、これにより、AAHによる免疫処置がAAH応答性のCTLを誘導したことが示唆された。
【0042】
AAH免疫処置マウスにおけるAAH応答性T細胞
AAHが負荷されたDCでマウスを免疫処置したところ、AAH応答性TH1細胞およびCTLが誘導された。抗原特異的なT細胞の増殖は、抗原応答性のT細胞が産生されたことを示す別の重要な指標である。
【0043】
インビボにおけるAAH免疫処置の抗腫瘍効果
AAHでプライムされたDCを用いるAAH免疫処置は、抗腫瘍免疫を誘導する。AAHが負荷されたDCで、マウスを二週間の間隔をあけて二回免疫処置し、そして最後の免疫処置から二週間後、SP2/0細胞を皮膚下に移植し、移植した腫瘍のサイズの増大を測定する。この腫瘍量モデルから得られたデータは、免疫処置の予防的効果を反映する。AAH免疫処置の治癒効果を評価するために、SP2/0細胞をまず移植し、次いで腫瘍が5mm径に増大したときに、AAHが負荷されたDCでマウスを免疫処置し、腫瘍の増殖に対する効果を測定する。
【0044】
AAH標的免疫療法は転移も抑制する。AAHが負荷されたDCでマウスを免疫処置し、その後、SP2/0細胞を尾静脈に注射する。二週間後、肺を切除し、形成された結節の数を計数する。免疫処置マウスにおける結節数が非免疫処置マウスにおける結節数と比較して減少していることは、AAHが負荷されたDCによる免疫処置レジメンが、AAH保有腫瘍の転移を抑制していることを示す。
【0045】
AAHが負荷された成熟樹状細胞を用いるワクチン接種は、AAH発現腫瘍の腫瘍量(腫瘍の体積)を劇的に減少させた。マウスにおける腫瘍の増殖に対するAAHワクチン接種の治療効果を図11および12に示す。5×105個のBNL 1MEA.7R.1マウス肝癌細胞を、6週齢のBALB/cマウスの側腹に皮下移植した。第10日および第15日に、HBSS 、またはAAHもしくはGFPが負荷された5×105個の成熟DCを、腫瘍保有マウスに皮下注射した。腫瘍サイズを週ごとに測定した。腫瘍の体積を以下の式により決定した:0.52×(長さ)×(幅)2。各データ点は、平均腫瘍体積±標準誤差を表す(n=6)。腫瘍体積は、AAHが負荷されたDCによる免疫処置後に有意に減少することが見出された。当技術分野で知られた腫瘍モデルを用いたこれらのデータは、AAHが負荷された成熟DCを用いる治療法が、AAH保有腫瘍をインビボで減少および消滅させるのに有効であることを示している。このような樹状細胞ワクチンは、あらゆるAAH発現腫瘍に対して強力な抗腫瘍効果を示す。
【0046】
AAHおよびAFPの同時免疫処置による抗腫瘍効果の強化
AFPは、マウスおよびヒトに対して抗原性を示し得る唯一のHCC結合タンパク質である。しかし、その抗腫瘍効果はヒトHCC患者に対して十分ではないことも示されている。しかし、AAHおよびAFPの同時免疫処置は、HCCのような、AAHおよびAFPの両方を発現する腫瘍に対する免疫応答を強化する。
【0047】
AFP発現プラスミドDNAを導入することにより、AFP発現SP2/0細胞の安定株を作製する。この細胞を使用することにより、AFPおよびAAHが負荷されたDCで免疫処置したマウスにおけるインビトロCTL活性を測定する。免疫処置後の細胞傷害性の向上は、免疫処置が、AAHおよび/またはAFP保有腫瘍の増殖に対するAAHおよびAFPの組み合わせ免疫処置の抗腫瘍効果をもたらすことを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたアスパルチル(アスパラギニル)-β-ヒドロキシラーゼ(AAH)負荷成熟樹状細胞を被験体に投与する工程を含む、被験体におけるAAH発現腫瘍の増殖を低下させる方法であって、該樹状細胞の投与後にAAH発現腫瘍の増殖が低下する、方法。
【請求項2】
腫瘍が、肝臓、胃腸、膵臓、乳房、前立腺、子宮頸、卵巣、卵管、喉頭、肺、甲状腺、胆嚢、腎臓、膀胱、および脳のがんからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
樹状細胞が、被験体への投与前に、GM-CSFおよびIFN-γを含むサイトカインの組み合わせによりエクスビボで活性化される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
単離された樹状細胞を抗原と接触させる工程、および抗原接触工程後に、該樹状細胞をサイトカインの組み合わせと接触させる工程を含む、プライムされた樹状細胞を産生する方法であって、該組み合わせがGM-CSFおよびIFN-γを含む、方法。
【請求項5】
組み合わせがIL-4をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
組み合わせがCD40Lをさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくとも10時間、樹状細胞をサイトカインの組み合わせと接触させる、請求項3記載の方法。
【請求項8】
少なくとも40時間、樹状細胞をサイトカインの組み合わせと接触させる、請求項3記載の方法。
【請求項9】
抗原がAAHを含む、請求項3記載の方法。
【請求項10】
抗原がAAHおよびAFPの両方を含む、請求項3記載の方法。
【請求項11】
抗原が可溶型である、請求項3記載の方法。
【請求項12】
抗原が固体支持体と結合している、請求項3記載の方法。
【請求項13】
固体支持体がポリスチレンビーズを含む、請求項3記載の方法。
【請求項14】
固体支持体が生分解性である、請求項3記載の方法。
【請求項15】
樹状細胞が、白血球アフェレーシスにより被験体から得られる、請求項3記載の方法。
【請求項16】
被験体が、がんを患っているかまたはがんの発生のリスクがある、請求項15記載の方法。
【請求項17】
請求項4記載の方法により産生されたプライムされた樹状細胞を含む、ワクチン組成物。
【請求項18】
哺乳動物被験体におけるAAH発現腫瘍の治療のための、AAHが負荷された成熟樹状細胞を含むワクチン。
【請求項19】
AAH保有腫瘍を患っている被験体を特定する工程、および請求項4記載の方法によりプライムされた自己樹状細胞を該被験体に投与する工程を含む、哺乳動物における腫瘍の増殖を阻害する方法。
【請求項20】
AAH保有腫瘍の発生のリスクのある被験体を特定する工程、および請求項3記載の方法によりプライムされた自己樹状細胞を該被験体に投与する工程を含む、哺乳動物における腫瘍の発生を予防する方法。
【請求項21】
AAH保有腫瘍を患っている被験体を特定する工程、および請求項4記載の方法によりプライムされた自己樹状細胞を該被験体に投与する工程を含む、AAH保有腫瘍の転移を予防する方法。
【請求項22】
被験体がヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、またはブタ被験体である、請求項1、15、16、18、19、20、または21記載の方法。
【請求項1】
単離されたアスパルチル(アスパラギニル)-β-ヒドロキシラーゼ(AAH)負荷成熟樹状細胞を被験体に投与する工程を含む、被験体におけるAAH発現腫瘍の増殖を低下させる方法であって、該樹状細胞の投与後にAAH発現腫瘍の増殖が低下する、方法。
【請求項2】
腫瘍が、肝臓、胃腸、膵臓、乳房、前立腺、子宮頸、卵巣、卵管、喉頭、肺、甲状腺、胆嚢、腎臓、膀胱、および脳のがんからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
樹状細胞が、被験体への投与前に、GM-CSFおよびIFN-γを含むサイトカインの組み合わせによりエクスビボで活性化される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
単離された樹状細胞を抗原と接触させる工程、および抗原接触工程後に、該樹状細胞をサイトカインの組み合わせと接触させる工程を含む、プライムされた樹状細胞を産生する方法であって、該組み合わせがGM-CSFおよびIFN-γを含む、方法。
【請求項5】
組み合わせがIL-4をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
組み合わせがCD40Lをさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくとも10時間、樹状細胞をサイトカインの組み合わせと接触させる、請求項3記載の方法。
【請求項8】
少なくとも40時間、樹状細胞をサイトカインの組み合わせと接触させる、請求項3記載の方法。
【請求項9】
抗原がAAHを含む、請求項3記載の方法。
【請求項10】
抗原がAAHおよびAFPの両方を含む、請求項3記載の方法。
【請求項11】
抗原が可溶型である、請求項3記載の方法。
【請求項12】
抗原が固体支持体と結合している、請求項3記載の方法。
【請求項13】
固体支持体がポリスチレンビーズを含む、請求項3記載の方法。
【請求項14】
固体支持体が生分解性である、請求項3記載の方法。
【請求項15】
樹状細胞が、白血球アフェレーシスにより被験体から得られる、請求項3記載の方法。
【請求項16】
被験体が、がんを患っているかまたはがんの発生のリスクがある、請求項15記載の方法。
【請求項17】
請求項4記載の方法により産生されたプライムされた樹状細胞を含む、ワクチン組成物。
【請求項18】
哺乳動物被験体におけるAAH発現腫瘍の治療のための、AAHが負荷された成熟樹状細胞を含むワクチン。
【請求項19】
AAH保有腫瘍を患っている被験体を特定する工程、および請求項4記載の方法によりプライムされた自己樹状細胞を該被験体に投与する工程を含む、哺乳動物における腫瘍の増殖を阻害する方法。
【請求項20】
AAH保有腫瘍の発生のリスクのある被験体を特定する工程、および請求項3記載の方法によりプライムされた自己樹状細胞を該被験体に投与する工程を含む、哺乳動物における腫瘍の発生を予防する方法。
【請求項21】
AAH保有腫瘍を患っている被験体を特定する工程、および請求項4記載の方法によりプライムされた自己樹状細胞を該被験体に投与する工程を含む、AAH保有腫瘍の転移を予防する方法。
【請求項22】
被験体がヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、またはブタ被験体である、請求項1、15、16、18、19、20、または21記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−500261(P2013−500261A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521829(P2012−521829)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/043056
【国際公開番号】WO2011/011688
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(500430718)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/043056
【国際公開番号】WO2011/011688
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(500430718)
【Fターム(参考)】
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