説明

アスファルト材料及びアスファルト材料の製造方法

【課題】針入度が低く機械的強度にすぐれ、電磁吸収率が高い機能的なアスファルト材料を提供する。
【解決手段】界面活性剤とアスファルトとを含有するアスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブが分散してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木材料、建築材料、橋梁又は車両・船舶用構造材料等の幅広い用途に用いられるアスファルト材料及びアスファルト材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、ナノテクノロジーを具現化する素材として応用研究が活発に行われている。これまでのところ、カーボンナノチューブの製造コストの負荷が大きいため、それに見合う製品開発への応用が主体であるが、量産効果が出るようになれば用途の範囲は拡大されると考えられる。
【0003】
近年、水素の需要が多大となり、その製造方法として、メタン直接改質法が注目されている。この製造方法によると、カーボンナノチューブを含むナノカーボンが副産物として多量に生成される。これに対し現行の主流技術であるメタン水蒸気改質法では、反応原料としてメタンと水蒸気を用いるので、水素のほかに二酸化炭素を生成する。今後、二酸化炭素排出抑制の観点からメタン直接改質法の導入が国内外で急速に進み、上記ナノカーボンが大量に供給されるようになり、それに伴ってカーボンナノチューブの製造コストが大幅に下がることが予想される。このような背景から、従来のカーボンナノチューブにメタン直接改質法由来ナノカーボンを加えた広義のカーボンナノチューブについて、産業上有効に利用するための研究が、現在、行われている。
【0004】
特許文献1には、メタンを含むガスを原料とし、酸化鉄を含有する鉱石を触媒として、800℃を超える温度で化学的気相成長させることにより得られる紐状炭素と、その利用方法として電磁波シールド材、建材、紙、吸着剤について開示されている。カーボンナノチューブなどの紐状炭素の紐状炭素の磁性体としての特性や気体・液体などの吸着性能を生かした電磁波シールド材、建材、紙、吸着剤として利用しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−290928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した背景にかんがみ、本願発明者らは鋭意研究開発した結果、カーボンナノチューブをアスファルトに混入することで、アスファルトの機械的強度を上げ、電磁波吸収性を高められ、土木材料、建築材料、橋梁、車両・船舶用構造材料等の幅広い用途として応用できる可能性に着目した。そこで、カーボンナノチューブをアスファルトに混入して新たな素材を製造することを試みた。
【0007】
しかしながら、本願発明者らがこの素材の製造を試みたところ、カーボンナノチューブがアスファルトに対して充分に均一には分散せず、予想する機械的強度及び電磁波吸収性を得ることができなかった。これは、メタン直接改質法で得られたカーボンナノチューブが、(1)互いに絡まっており分散しにくいこと、(2)アスファルトに対しては均一に分散しにくいためであると推察された。また、アスファルトは粘度が高いため、カーボンナノチューブを混合させるために効果的に撹拌することができず、分散させることが困難であることも原因であると推察された。このような推察事項をもふまえて、本願発明者らは、土木材料、建築材料、橋梁、車両・船舶用構造材料等の幅広い用途を開発するため、特にアスファルトへのカーボンナノチューブの分散性を高めるための研究を積み重ねた。
【0008】
本発明はこのような研究の積み重ねの結果として得られたものであり、本発明の目的は、針入度が低く機械的強度にすぐれ、しかも電磁波吸収率が高い機能的なアスファルト材料及びアスファルト材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアスファルト材料は、界面活性剤とアスファルトとを含有するアスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブが分散してなる。
【0010】
アスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブを互いに絡まった状態から分離した状態で分散させることができる。撹拌時にそれぞれのカーボンナノチューブがアスファルト乳剤に対して分散されやすい。アスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブを比較的に多く、しかも一様に分散させることができる。アスファルト乳剤に添加されたカーボンナノチューブはアスファルトに対してフィラーとして作用することにより機械的強度を増大させ、また導電材として作用することにより電磁波吸収性を増大させる。アスファルト乳剤が固化してなるアスファルトは、カーボンナノチューブが分散することで一様に硬化しアスファルト材料が機械的強度を有するようになり、またアスファルト材料にカーボンナノチューブに分散していることでアスファルト材料が一様に電磁波を吸収する素材となる。
【0011】
カーボンナノチューブが、アスファルト乳剤に対して均一に分散してなることが好ましい。このアスファルト乳剤が固化したアスファルトはカーボンナノチューブが均一に分散するので、高い機械的強度及び電磁波吸収性が得られ、またどの部位でも一様にこれらが高いアスファルト材料となる。
【0012】
界面活性剤は、非イオン性界面活性剤又は陰イオン性界面活性剤であることが好ましい。非イオン性界面活性剤を用いたアスファルト乳剤は、アスファルト粒子が電荷を持たないためカーボンナノチューブの混和性及び分散性に優れる。陰イオン性界面活性剤を用いたアスファルト乳剤は、カーボンナノチューブに生成時の触媒などに由来する金属成分が含有されている場合に電荷が干渉することがなく、カーボンナノチューブの混和性及び分散性に優れる。そのため、カーボンナノチューブをアスファルト乳剤に対して互いに絡まった状態から分離した状態で均一に分散させることができる。
【0013】
界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤であることも好ましい。界面活性剤として比較的多く用いられている界面活性剤を用いることで製造や応用が容易となる。
【0014】
カーボンナノチューブは、金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブであることが好ましい。カーボンナノチューブの含有する金属元素を除去することで、水中でイオン化した金属元素の電荷が界面活性剤と干渉しにくくなる。金属元素の干渉によってカーボンナノチューブの絡まりが減少する。これらの作用から、アスファルト乳剤にカーボンナノチューブが分散しやすくなり、アスファルトにカーボンナノチューブが均一に分散したアスファルト材料が得られる。特に、金属元素の陽電荷が除去されることで、陽イオン性界面活性剤の陽電荷との反発が起こらなくなるので、陽イオン性界面活性剤による分散を有効に行うことができる。
【0015】
金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブを酸溶液と接触させ酸溶液を除去して得られたものであることが好ましい。酸溶液によってカーボンナノチューブ内の金属が酸化されイオンとなって酸溶液に溶け込むので、酸溶液を除去することで金属元素が除去されたカーボンナノチューブが得られる。
【0016】
カーボンナノチューブは、金属元素の含有量が2.5重量%未満であることが好ましい。金属元素が充分に少なく陽イオン性界面活性剤に対しても干渉せず、カーボンナノチューブがアスファルト乳剤に均一に分散する。
【0017】
カーボンナノチューブは、かさ密度が0.1g/cm以上であることが好ましい。互いに絡まって不規則に配置されているカーボンナノチューブはかさ密度が小さく、絡まりによってアスファルト乳剤に対して均一に分散しにくいが、これに対してかさ密度が小さく絡まりが少ないカーボンナノチューブはアスファルト乳剤に対して均一に分散しやすい。
【0018】
カーボンナノチューブはメタン直接改質法により合成されたものであることが望ましい。化学的気相合成法により合成されたカーボンナノチューブは針入度と電磁波吸収率を保つのに適度な物理的性質及び純度を持ち多量かつ安価に製造できる。
【0019】
アスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブを0.005〜2.0重量%含有することも好ましい。添加量に応じてアスファルトに含まれるカーボンナノチューブによるアスファルト乳剤のアスファルト残留物の低針入度と電磁波吸収率の高さを発揮することができ、2.0重量%以下であることで、粘度が低く保たれて均一な分散を行うことができる。
【0020】
アスファルトは、ストレートアスファルト、カットバックアスファルト、改質アスファルト、天然ビチューメン又は再生アスファルトのいずれかであることが好ましい。これらのアスファルトは特殊な工程や手法を用いずとも非イオン性界面活性剤を使用して好適に乳化させることができ、カーボンナノチューブの分散性がより高まる。
【0021】
本発明のアスファルト材料の製造方法は、界面活性剤と、水と、アスファルトとを混合してアスファルト乳剤とする工程と、アスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブを分散させる工程とを含む。
【0022】
界面活性剤と水とアスファルトとを混合してアスファルト乳剤とし、カーボンナノチューブとを混合すると、カーボンナノチューブをアスファルト乳剤に対して互いに絡まった状態から分離した状態で分散させることができる。撹拌時にそれぞれのカーボンナノチューブがアスファルト乳剤に対して分散されやすい。アスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブを比較的に多く分散させることができる。アスファルト乳剤に添加されたカーボンナノチューブはアスファルトに対してフィラーとして作用することにより機械的強度を増大させ、また導電材として作用することにより電磁波吸収性を増大させる。アスファルト乳剤が固化してなるアスファルトは、カーボンナノチューブが分散することで一様に硬化しアスファルト材料が機械的強度を有するようになり、またアスファルト材料にカーボンナノチューブが分散していることで一様に電磁波を吸収するアスファルト材料が製造される。
【0023】
分散工程は、カーボンナノチューブをアスファルト乳剤に対して均一に分散させる工程であることが好ましい。
【0024】
界面活性剤は、非イオン性界面活性剤又は陰イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0025】
界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤を用いることも好ましい。
【0026】
カーボンナノチューブは、金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブを用いることが好ましい。
【0027】
金属元素除去処理は、カーボンナノチューブを酸溶液と接触させ酸溶液を除去する工程を含むことが好ましい。
【0028】
カーボンナノチューブは、金属元素の含有量が2.5重量%未満のものを用いることが好ましい。
【0029】
カーボンナノチューブは、かさ密度が0.1g/cm以上のものを用いることが好ましい。
【0030】
乳化工程は、アスファルト乳剤に対して、カーボンナノチューブを0.005〜2.0重量%含有するよう添加する工程であることが好ましい。
【0031】
乳化工程は、アスファルト乳剤のアスファルトがストレートアスファルト、カットバックアスファルト、改質アスファルト、天然ビチューメン及び再生アスファルトのいずれかを用いる工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、アスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブを互いに絡まった状態から分離した状態で分散させることができる。撹拌時にそれぞれのカーボンナノチューブがアスファルト乳剤に対して分散されやすい。アスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブを比較的に多く、しかも一様に分散させることができる。アスファルト乳剤に添加されたカーボンナノチューブはアスファルトに対してフィラーとして作用することにより機械的強度を増大させ、また導電材として作用することにより電磁波吸収性を増大させる。アスファルト乳剤が固化してなるアスファルトは、カーボンナノチューブが分散することで一様に硬化しアスファルト材料が機械的強度を有するようになり、またアスファルト材料にカーボンナノチューブに分散していることでアスファルト材料が一様に電磁波を吸収する素材となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例におけるアスファルト材料の製造時の撹拌直後を示す写真図である。
【図2】本発明の一実施例におけるアスファルト材料の製造時の乾燥後を示す写真図である。
【図3】本発明の一実施例におけるアスファルト材料の針入度を測定した結果を示すグラフである。
【図4】本発明の他の実施例におけるアスファルト材料の針入度を測定した結果を示すグラフである。
【図5】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図6】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図7】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図8】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図9】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図10】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図11】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図12】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図13】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図14】有機溶媒・アスファルト混合溶液とナノカーボン(H)の混合状態を示す写真図である。
【図15】ミル処理及び金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真(20000倍)を示す写真図である。
【図16】ミル処理及び金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真(5000倍)を示す写真図である。
【図17】ミル処理及び金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブのかさ密度の比較を示す写真図である。
【図18】金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブを添加したアスファルト材料の針入度を測定した結果を示すグラフである。
【図19】金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブを添加したアスファルト材料のマイクロ波照射後の表面温度変化を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態に係るアスファルト材料について説明する。
【0035】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係るアスファルト材料は、界面活性剤とアスファルトとを含有するアスファルト乳剤内にカーボンナノチューブが分散してなる。アスファルト乳剤は、界面活性剤とアスファルトとを含有するもので、水分を含んだ常温の状態では、乳化して流動状態にあるものである。アスファルト乳剤は、安定剤を含有していても良い。このアスファルト乳剤は、乾燥により水分を失うとアスファルトと同様の形態の固体となるが、本実施形態のアスファルト乳剤とはこの固体の状態のものを含む。
【0036】
界面活性剤は、親水基及び疎水基(親油基)を同一分子内に備えた物質の総称で、非イオン性(ノニオン系)、陽イオン性(カチオン系)、陰イオン性(アニオン系)のものがある。アスファルト乳剤の製造にはいずれも用いることができるが、本実施形態では非イオン性界面活性剤を用いる。
【0037】
非イオン性界面活性剤とは、ノニオンの界面活性剤とも呼ばれ、pHが中性付近となるものである。非イオン性界面活性剤には、ポリエチレングリコール型(親油基に高級アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸、高級脂肪酸アミン又は脂肪酸アミド、親水基にエチレンオキサイド等を使用した界面活性剤)又は多価アルコール型(親油基に脂肪酸、親水基にグリセリンやソルビット等を使用した界面活性剤)などがある。非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルポリグルコシド、アルキルモノグリセリルエーテルなどがある。
【0038】
アスファルトは、ストレートアスファルト、カットバックアスファルト、改質アスファルト、天然ビチューメン又は再生アスファルトのいずれも使用できるが、界面活性剤やカーボンナノチューブに対する化学的な影響が小さいストレートアスファルトが望ましい。ブローンアスファルト及びセミブローンアスファルトも適用可能だが、乳化しづらく、特に非イオン界面活性剤を使用する場合には、特殊な手法が必要となる。本実施形態では、グレード60/80、80/100、150/200のストレートアスファルトを使用している。
【0039】
カーボンナノチューブとは、ナノサイズ(長さが1000nm未満)のチューブ状グラファイト結晶である。本発明に用いるカーボンナノチューブは、アスファルト乳剤と均一に混合されるものであれば特に限定されるものではない。本実施例では、大幅な製造コスト低下を期待できるメタン直接改質法によって合成されたカーボンナノチューブを精製せずに用いたが、これはあくまでも例示にすぎない。
【0040】
カーボンナノチューブを構成するナノサイズのグラファイト結晶、いわゆるナノカーボンは、直径4〜200nmのアスペクト比の高さ、中空構造によるかさ密度の低さ、カーボンブラックの10倍の高い熱伝導率、1.72GPa前後の引張強度と0.45TPa前後のヤング率といった高い力学特性、高い導電性や電磁波吸収特性、紫外線や溶剤等への耐候性を有する。実測値の一例として、導電性が工業用カーボンブラックの0.2017Ω/mに対して、多層カーボンナノチューブからなるナノカーボンは0.00894Ω/mである。
【0041】
カーボンナノチューブは、アスファルト乳剤に対して均一に分散している。均一とはカーボンナノチューブの含有率の分布が一様であることである。
【0042】
本実施形態のアスファルト材料は、アスファルト乳剤に対して、カーボンナノチューブを0.005〜2.0重量%含有している。カーボンナノチューブの添加量に応じて機械的強度及び電磁波吸収性が得られるが、添加量が2.0重量%を上回ると、アスファルト素材の乾燥前の粘度が高くなるためカーボンナノチューブの均一分散が妨げられ、添加量に応じた機械的強度及び電磁波吸収性が得られなくなる。
【0043】
特に、カーボンナノチューブを0.5重量%以上添加するとカーボンナノチューブのフィラーとしての物性面での特性、すなわち熱的特性、力学特性などが確保できるので望ましい。2.0重量%以下であると充分な物性面での特性が得られ、かつコストが安い。1.0重量%以上添加した際に電磁波吸収性が最も高くなり、1.5重量%以下でコスト面でも最適なので、1.0〜1.5重量%であることが特に望ましい。
【0044】
このアスファルト材料は、アスファルト乳剤にカーボンナノチューブが分散している。カーボンナノチューブが一様に分散していることで、カーボンナノチューブによるアスファルト材料の硬度の上昇が一様に起こっており、アスファルト材料全体にわたって機械的強度が上昇している。カーボンナノチューブを分散させることによって面積あたりの炭素の含有量を高めることができるため、カーボンの電磁波吸収性を高めることができる。さらに、カーボンナノチューブがアスファルト材料内で一様に分布していることで、アスファルト材料の全面にカーボンナノチューブが分布し、電磁波吸収性が高まる。
【0045】
次に、本実施形態のアスファルト材料の製造方法について説明する。この製造方法では、非イオン性界面活性剤と、水と、アスファルトとを混合してアスファルト乳剤とする。アスファルト乳剤の混合時には、安定剤を混合してもよい。ついでこのアスファルト乳剤に対して、カーボンナノチューブを混合する。
【0046】
カーボンナノチューブは、製造方法の如何を問わないが、化学的気相合成法によって合成されたものが望ましい。化学的気相合成法により合成されたカーボンナノチューブは、触媒が混入していることがある等、純度や物理的性質の品質がやや低く、精度を要求される用途には適切に精製する必要がある。しかしながら本実施形態のアスファルト材料に使用すると、土木材料、建築材料等の用途には純度や品質は大きくは問題にならないので、好適に利用することができる。特に、メタン直接改質法は、触媒を使用してメタンから炭素と水素を得るための製造方法であり、炭素はカーボンナノチューブとして得られる。メタン直接改質法は、エネルギー源として近年利用されている水素を、二酸化炭素を発生せず地球環境に悪影響を及ぼさずに得られる方法として期待されているが、本実施形態はこの方法で発生するカーボンナノチューブを有効に利用することができる。
【0047】
具体的には、前述の化学的気相合成法などで合成された、カーボンナノチューブを5〜100重量%含有するカーボン素材を、アスファルト乳剤と混合し、均一に分散するまで撹拌し、乳剤混合物とする。撹拌は機械的撹拌、超音波撹拌装置などカーボンナノチューブを破壊しない強さのものならば適宜使用できる。温度が高いとアスファルトの粘度が下がり分散性が向上するので、アスファルト乳剤が変質しない程度までならば加熱を行ってもよく、撹拌の操作に伴って温度の上昇が起こってもよい。本実施形態では乳剤を用いて分散しているため攪拌しやすく、常温でも充分に攪拌が可能である。
【0048】
アスファルト乳剤へのカーボンナノチューブの添加は、一度に全量を添加する(一括添加)よりも分割して添加する(分割添加)ことが望ましく、攪拌しながら少しずつ添加していくことがさらに望ましい。一度に添加しないこと、また分散を行わせるのと並行して徐々に添加していくことで、凝集塊が生じにくく、均一な分散が起こりやすくなる。
【0049】
この乳剤混合物の水分を乾燥させ、アスファルト材料とする。アスファルト乳剤は、水分を乾燥させるとアスファルトと同等の性能が得られる。そのため、アスファルト材料は水分の乾燥後、そのまま機能性材料として各種用途に使用することができる。
【0050】
本実施形態の変更態様として、上述の乳剤混合物を乾燥させる前に、さらに適量のアスファルトを混合し、その後乾燥させることで、従来のアスファルトとの合材を製造することができる。この合材は、土木材料、建築材料、橋梁、車両・船舶用構造材料等に使用することができる。なお、アスファルトを加熱すると粘度が低下し、カーボンナノチューブを混合させやすくなるが、本実施形態のアスファルト材料とアスファルトとを混合し合材とする際もアスファルトを加熱することで、さらに分散性を高めてもよい。
【0051】
なお、さらにナノサイズ(1μm未満、例えば26nm程度のサイズ)のフィラーをアスファルトに対して添加してもよい。これらのフィラーを加えることで、耐流動性、骨材との接着性、骨材飛散抵抗性、耐水安定性及び難燃性を付与する効果がある。
【0052】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るアスファルト材料の製造方法は、カーボンナノチューブに、有機溶媒とアスファルトの混合溶液とを混合する工程を含む。なお、第1の実施形態と構成及び作用を同じくする要素については説明を省略する。
【0053】
有機溶媒としては、体積の加成性の点から、特に芳香族系有機溶媒が望ましい。芳香族系有機溶媒とは、環状有機化合物を主とする一群の有機化合物を主成分とする液体である。芳香族系有機溶媒としては、主にトルエン、ベンゼン又はキシレンを用いることができ、人体に対して影響が少ない点でトルエン又はキシレンが好ましく、アスファルトを溶解させやすい点からはトルエンが特に好ましい。
【0054】
有機溶媒はアスファルトを溶解させ液状にする作用があり、アスファルトの粘度を低くして撹拌、分散させやすくすることで、カーボンナノチューブをアスファルトに均一に分布しやすくすると考えられる。有機溶媒とカーボンナノチューブ又はアスファルトとカーボンナノチューブのみを混合しても、カーボンナノチューブを分散させることはできないが、カーボンナノチューブ、有機溶媒及びアスファルトの混合によって有効に分散する。
【0055】
本実施形態の作用及び効果は、付加的に上述した点を除くと第1の実施形態の作用及び効果と同じである。
【0056】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係るアスファルト材料は、陰イオン性界面活性剤とアスファルトとを含有するアスファルト乳剤内にカーボンナノチューブが分散してなる。なお、第1の実施形態と構成及び作用を同じくする要素については説明を省略する。
【0057】
陰イオン性界面活性剤は、アニオン系界面活性剤又はアニオン系乳剤などとも呼ばれ、陰イオン性の親水基をもつ界面活性剤である。例としては石鹸及び高級アルコール硫酸エステル塩などがある。一般に陰イオン性界面活性剤は、分解が遅く付着性に劣るので、添加時の攪拌に時間を要するが、それ以外は非イオン性界面活性剤を用いた場合とほぼ同様に行うことができる。
【0058】
本実施形態の作用及び効果は、付加的に上述した点を除くと第1の実施形態の作用及び効果と同じである。
【0059】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態に係るアスファルト材料は、陽イオン性界面活性剤とアスファルトとを含有するアスファルト乳剤内にカーボンナノチューブが分散してなる。なお、第1の実施形態と構成及び作用を同じくする要素については説明を省略する。
【0060】
陽イオン性界面活性剤は、陽イオン性の親水基をもつ界面活性剤で、アミン塩型やアンモニウム塩型などがある。従来アスファルト乳剤の分野で使用されているものとしては、表面処理用の改質アスファルト乳剤、タックコート用の改質アスファルト乳剤、JIS K 2208に規定される混合用のMK−2などがある。
【0061】
本実施形態では、カーボンナノチューブは、金属元素除去処理を行ったものを使用する。カーボンナノチューブに含有される金属元素は、含有量が多いものとしてはカーボンナノチューブの製造時の触媒として使用されている金属が残留しているものがある。具体的には、触媒として用いられていた鉄元素がある。金属元素除去処理は、例えば酸などに金属元素を溶解させる手段があり、具体的には塩酸(HCl)、硝酸(HNO)などの酸の溶液、例えば0.5〜2.0mol/L程度の希塩酸などにカーボンナノチューブを浸漬し、金属元素を酸化、水溶液に溶解させ、除去する手段がある。本実施形態では1.0mol/L塩酸溶液にカーボンナノチューブを浸漬し、アスピレータ装置で塩酸溶液を吸引ろ過によって除去し、このカーボンナノチューブを純水に加えて10分間スターラーで攪拌、水を除去する操作を3回繰り返している。塩酸によって金属鉄が酸化され鉄イオン(2価又は3価)となり、塩酸溶液側に溶解し除去される。
【0062】
金属元素を除去することで、金属元素がイオン化した際の電荷が界面活性剤の電荷と干渉しにくくなり、アスファルト乳剤と親和性が高くなる。特に、陽イオン性界面活性剤は金属元素のイオン化した陽イオンと反発、干渉しやすいので、カーボンナノチューブの金属元素の除去によって分散が可能となる。また金属元素を除去する操作によって、嵩密度が上昇する。これは無秩序に絡み合っていたカーボンナノチューブが金属元素の除去又は吸引によってある程度解離し、整列に近い状態となると考えられる。また、金属元素が除去されることで、カーボンナノチューブの純度が改善され、アスファルト乳剤との親和性も改善する。このため、金属元素除去処理によってアスファルト乳剤の効果が上昇する。
【0063】
本実施形態の作用及び効果は、付加的に上述した点を除くと第1の実施形態の作用及び効果と同じである。
【0064】
[その他の実施形態]
その他の実施形態として、第1の実施形態のカーボンナノチューブを、第4の実施形態で記載した酸処理を行ったものを用いてもよい。カーボンナノチューブのかさ密度を高めることで、非イオン性及び陰イオン性の界面活性剤を乳剤に用いた場合でも有効に分散を行うことができる。
【0065】
酸処理に替えて、又は併用して、カーボンナノチューブのかさ密度を減少させるための機械的な操作を加えてもよい。例えば、ミルによる粉砕処理でかさ密度を減少させ0.5g/cm以上、望ましくは1.0/cm以上とする。かさ密度がこのように上昇したカーボンナノチューブは、チューブ同士の絡まりが解消され、分散しやすくなっているので、アスファルト乳剤にカーボンナノチューブが均一に分散したアスファルト材料を得ることができる。
【実施例】
【0066】
[試験1]
[アスファルト材料の製造]
非イオン性界面活性剤と水とアスファルトと安定剤を含有するアスファルト乳剤(ニチレキ製「アスゾルA」、ストレートアスファルト57重量%、水40重量%、微量の界面活性剤、B型粘度39mPas、pH7.0)及びカチオン系界面活性剤(陽イオン性界面活性剤)と水とアスファルトと安定剤を含むアスファルト乳剤(ニチレキ製「PK−4」)に対して、メタン直接改質法によって製造されたカーボンナノチューブを90重量%含むナノカーボン(H)を、各乳剤に対して1重量%となるよう添加し、マグネットスターラーを用いて撹拌した。
【0067】
図1に添加・撹拌直後の写真を示す。非イオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤にナノカーボン(H)を添加したもの(符号1)は、目視上はよく分散されている。一方、カチオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤に添加したものはナノカーボン(H)が表面層に偏在する傾向が見られる。
【0068】
[アスファルト材料の針入度試験]
上記で製造した2種類のサンプルをドライオーブン(70℃)に入れ、水分を抜いた状態を図2に示す。重量計測結果から含水比を算出した結果、非イオン性界面活性剤を用いたものの含水比は41.3%、カチオン性は同46.1%であった。2種類のサンプルは、表面性状に差異があり、目視上、カチオン性(符号2)は凹凸が多く、非イオン性(符号1)は滑らかな表面をしている。
【0069】
これらのサンプル(No.2、4)及び、ナノカーボン(H)を無添加にした以外は同様に製造したサンプル(No.1、3)に対してJIS K 2207に規定する針入度を測定した。結果を表1及び図3に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤に対して、ナノカーボン(H)を添加することでいずれも針入度が小さくなる(硬化する)傾向がある。非イオン性にナノカーボン(H)を添加したものはいずれも針入度が48〜50と、カチオン性に比べばらつきが少なくなっている。これはカーボンナノチューブが非イオン性の方に比較的に均一分散していることを示している。
【0072】
以上の実験結果から、カーボンナノチューブの均一分散には、非イオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤が比較的に優れていると考えられる。
【0073】
[アスファルト材料の電磁波吸収性試験]
上記針入度試験で使用したサンプルに対してマイクロ波を照射し、直後の表面温度を計測することで、各サンプルの電磁波の吸収性を測定した。各サンプルを70〜80℃のドライオーブンによってアスファルト乳剤の水分を乾燥させ、各サンプルの実験開始時の表面温度を25.0〜25.5℃の範囲に調整したあと、500Wの電子レンジへ投入してマイクロ波を10秒間照射し、直後の表面温度を放射温度計で計測した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
カチオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤にナノカーボン(H)を1重量%添加したサンプルについては、照射3回目以降は投入直後にレンジ内で発火するようになったため、実験を中止せざるを得なかった。カチオン性の場合、水分を蒸発させた後、表面層にナノカーボン(H)が偏在する傾向が見られた。このことが発火を招いた要因と考えられる。ナノカーボン(H)を添加した非イオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤無添加の場合に比べて適度に温度が上昇し、安定した電磁波吸収性を示した。
【0076】
[試験2]
[アスファルト材料の粘度測定]
アスファルト材料を土木材料、建築材料、橋梁、車両・船舶用構造材料等の用途に応用するには、施工のしやすさの関係から粘度は高すぎないものである必要がある。その見地から、上記アスファルト材料の粘度をナノカーボン(H)の添加量ごとに測定した。非イオン性界面活性剤を含むアスファルト乳剤(ニチレキ製「アスゾルA」)30gに対し、ナノカーボン(H)を0.5重量%刻みで各0〜2.5重量%添加した6種類のサンプル(No.1〜6)を作製し、粘度計(計測範囲:1〜100Pa・s)で粘度を計測した。温度条件は24〜26℃であった。
【0077】
0〜1.5重量%添加までは計測範囲外、すなわち1Pa・s未満で流動性の高い液体であったが、2.0重量%以上添加した場合は粘りが強い半塑性状となった。計測された粘度は、No.6(添加量2.0重量%)では10.3Pa・s、No.7(添加量2.5重量%)では24.4Pa・sであった。このNo.6とNo.7のサンプルは粘度が高いため、例えば常温アスファルト合材に混入する場合、均一分散を妨げる可能性がある。そのため、作業性からは添加量は2.0重量%までとする必要があると思われた。
【0078】
[カーボンナノチューブ添加量ごとの針入度試験]
上記のナノカーボン(H)の各添加量のサンプル(No.1〜6)、比較例としてカーボンナノチューブの含有量が5重量%未満のナノカーボン(L)を1.0重量%添加したサンプル(No.7)、ナノカーボン(H)にかえて導電性カーボンブラックを添加したサンプル(No.8)に対してJIS K 2207に規定する針入度を測定した結果を表3及び図4に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
ナノカーボン(H)の添加による針入度の低下は1.0重量%で導電性カーボンブラック添加サンプルとほぼ同じであり、ナノカーボン(H)の添加量に応じてさらに低下が見られた。ナノカーボン(L)1.0重量%添加サンプルの針入度はナノカーボン(H)添加サンプルとほぼ同じであった。この結果により、従来アスファルトへの混合が困難であったカーボンナノチューブを用いて、導電性カーボンブラックと同等以上にアスファルトの機械的強度を高めることができることが示された。
【0081】
[カーボンナノチューブ添加量ごとの電磁波吸収性試験]
上記針入度試験で使用したサンプルに対してマイクロ波を照射し、直後の表面温度を計測することで、各サンプルの電磁波の吸収性を評価した。各サンプルの実験開始時の表面温度を約24.5℃に調整したあと、500Wの電子レンジへ投入してマイクロ波を10秒間照射し、直後の表面温度を放射温度計で計測した。結果を表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
ナノカーボン(H)を添加しない比較サンプルでも、試験前(24.5℃)より温度が上昇した。サンプル2〜6を考察すると、1.0重量%で108.0℃に達したが、添加量をそれ以上増やしてもあまり変化がない。この結果と、先般の作業性(粘度)の結果から、1.0〜2.0重量%の範囲内がナノカーボン(H)の添加効果を発揮できる範囲と考えられる。
【0084】
また、サンプル7及びサンプル8と比較すると、カーボンナノチューブの割合の少ないナノカーボン(L)、導電性カーボンブラックのいずれも、それらを添加しないサンプルとほぼ同じ結果であるため、添加による電磁波吸収効果は小さいと考えられる。以上の結果は、カーボンナノチューブは導電性カーボンブラックよりも電磁波吸収効果を発現しやすいことを示している。
【0085】
[試験3]
[有機溶媒・アスファルト混合溶液の分散性能の評価]
カーボンナノチューブを90重量%含むカーボン素材と、有機溶媒としてトルエン、アスファルト、比較用の液体として不純物を含まない蒸留水及び不純物の成分を多く含む緑茶飲料を以下の条件で混合した。ナノカーボン添加後、超音波で5分間処理を行い、その後の様子を観察した。
設定条件:
(1)ナノカーボン(H)(0.263g)+トルエン(30ml)
(2)ナノカーボン(H)(0.263g)+トルエン(30ml)+アスファルト(0.263g)
(3)ナノカーボン(H)(0.263g)+蒸留水(30ml)
(4)ナノカーボン(H)(0.263g)+緑茶飲料(30ml)
【0086】
観察した写真を図5〜14に示し、各写真の超音波処理後の経過時間との対応を表5に示す。
【表5】

【0087】
図6に示すように、処理直後の時点で(3)には分離が見られた。24時間の経過後は(1)にも分離が見られた。一方で、(2)及び(4)は24時間後も分散状態を保った。この結果から、トルエンに微量のアスファルトを加えた混合溶液を用いることにより、分散状態を保つことができると思われた。
【0088】
[試験4]
試験1〜3までは金属元素除去処理を行っていないカーボンナノチューブについて試験を行ってきたが、本試験では金属元素除去処理を行っていないカーボンナノチューブを用いた場合の各乳剤への分散の影響を調べた。未処理ナノカーボンのサンプルB)と、1.0mol/L塩酸C)及び硝酸溶液D)にカーボンナノチューブを浸漬し、アスピレータ装置で塩酸溶液を吸引ろ過によって除去し、このカーボンナノチューブを純水に加えて10分間スターラーで攪拌、水を除去する操作を3回繰り返したサンプルC)及びD)と、比較例としてのカーボンブラックのサンプルF)について、陽イオン性界面活性剤(カチオン系乳剤)、非イオン性界面活性剤(ノニオン系乳剤)、陰イオン性界面活性剤(アニオン系乳剤)との分散状態を調査した。
【0089】
結果を表6に示す。なお、塩酸(HCl)、硝酸(HNO)を用いた結果は同様であったため、表6ではサンプルC)とD)を同欄とした。表中に特に記載がない場合、サンプルB)〜F)の添加量は1重量%とした。
【0090】
【表6】

【0091】
この結果より、ノニオン系乳剤では未処理のナノカーボン、金属元素除去処理を行ったナノカーボン、カーボンブラックのいずれに対しても特に良好に分散することが示された。アニオン系乳剤では、これらのいずれに対しても問題なく分散した。カチオン系乳剤では、金属元素除去操作を行ったナノカーボンとは問題なく分散したが、その際に添加を一括で行った場合、やや分散が悪くなり、表面処理用改質アスファルト乳剤に対しては一括添加では分散しなかった。カチオン系乳剤は、未処理ナノカーボンに対しては、タックコート用アスファルト乳剤及びMK−2乳剤は分割添加では分散したが、表面処理用改質アスファルト乳剤では分散せず、一括添加ではいずれも分散しなかった。表面処理用改質アスファルト乳剤では、少量に分けて分割添加しても、0.3重量%付近が限界であり、これ以上の添加量では凝集塊を生じた。これらの結果から、金属元素除去操作を行ったナノカーボンを添加することで分散が良好となり、陽イオン性界面活性剤への分散が一括添加、分割添加にかかわらず可能となることが示された。また、分割添加によって、金属元素除去操作を行わないナノカーボンが陽イオン性界面活性剤に対してある程度分散が可能なことが示された。
【0092】
[試験5]
カーボンナノチューブのミル処理及び塩酸、硝酸の処理を行ったSEM画像比較を図15(20000倍)、図16(5000倍)に示す。サンプルA)は処理前、サンプルB)は吸引ろ過を行い、その後ボールミルによる処理を加えたもの、サンプルC)及びD)は1.0mol/L塩酸C)及び硝酸溶液D)によって実験4と同様に処理したもの、比較例としてE)は非繊維型のナノサイズのカーボン、F)は工業用カーボンブラックを示す。
【0093】
図15及び図16に示すように、未処理のサンプルA)はカーボンナノチューブ同士に絡まりが生じて立体的に空隙を多く形成していると考えられるが、この絡まりがカーボンナノチューブの凝集を招き、試験4に示すように分散が充分でないものにしていると考えられる。これに対して、ミル処理を行ったサンプルB)は空隙が少なく、嵩密度が高まっているが、カーボンナノチューブ同士には絡まりが見られる。これは触媒金属が残存しているためと考えられる。これに対して、塩酸及び硝酸処理を行ったサンプルC)及びD)は、サンプルA)及びB)に比べて黒色の空隙部分がさらに小さく、カーボンナノチューブの嵩密度が小さくなり、絡まりが解消されているので、凝集せずに乳剤に分散ができると考えられる。
【0094】
サンプルA)〜F)を1gずつ容器に取り分けて目視したものを図17に示す。サンプルA)〜F)の嵩密度を実験的に求めた結果を表7に示す。
【0095】
【表7】

【0096】
未処理のサンプルA)に比べて、ミル処理を行ったB)、塩酸及び硝酸で吸引ろ過処理を行ったサンプルC)及びD)が嵩密度が増大している。ミル処理又は金属元素除去処理によってかさ密度が0.1g/cm以上、望ましくは1.5g/cm以上となったカーボンナノチューブであれば有効に分散すると考えられる。
【0097】
[試験6]
試験5と同様に製造したアスファルト材料について、添加混合後、70℃に設定したドライオーブン中に投入し、質量が変化しなくなるまで水分を蒸発させてから、JIS K 2208に基づき針入度試験を行った。結果を図18に示す。図中の1)は表面処理用の改質アスファルト乳剤、2)はタックコート用の改質アスファルト乳剤、3)はMK−2(JIS K 2208)のカチオン乳剤を指す。
【0098】
いずれの場合も、添加量が同量であればカーボンナノチューブはカーボンブラックよりも硬化する結果を示し、カーボンブラックより少ない量で同等の針入度をアスファルトに付与できることを示す。カーボンナノチューブは添加量が少ないことからアスファルト本来の性能を阻害することがない効果も期待することができる。
【0099】
[試験7]
試験5と同様に製造したアスファルト材料について、電磁波吸収能を検証するため、マイクロ波吸収の試験を行った。各アスファルト材料のサンプルに、高周波出力500Wの家庭用電子レンジを用いて10秒間マイクロ波を照射し、表面温度の変化を放射温度計によって測定した。結果を図19に示す。図中の1)は表面処理用の改質アスファルト乳剤、2)はタックコート用の改質アスファルト乳剤、3)はMK−2(JIS K 2208)のカチオン乳剤を指す。
【0100】
いずれの場合も、添加量が同量であればカーボンナノチューブはカーボンブラックよりも硬化する結果を示し、カーボンブラックより少ない量で同等の針入度をアスファルトに付与できることを示す。カーボンナノチューブは添加量が少ないことからアスファルト本来の性能を阻害することがない効果も期待することができる。
【0101】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のアスファルト素材は高い機能性を有する素材として主に土木材料、建築材料、橋梁、車両・船舶用構造材料等の用途に応用できるものである。
【符号の説明】
【0103】
1 非イオン性界面活性剤を用いたアスファルト乳剤とナノカーボン(H)の混合物
2 カチオン性界面活性剤を用いたアスファルト乳剤とナノカーボン(H)の混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤とアスファルトとを含有するアスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブが分散してなることを特徴とするアスファルト材料。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが、前記アスファルト乳剤に対して均一に分散してなることを特徴とする請求項1に記載のアスファルト材料。
【請求項3】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤又は陰イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアスファルト材料。
【請求項4】
前記界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアスファルト材料。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のアスファルト材料。
【請求項6】
前記金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブを酸溶液と接触させ前記酸溶液を除去して得られたものであることを特徴とする請求項5に記載のアスファルト材料。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは、金属元素の含有量が2.5重量%未満であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のアスファルト材料。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブは、かさ密度が0.1g/cm以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のアスファルト材料。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブは、メタン直接改質法により合成されたものであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のアスファルト材料の製造方法。
【請求項10】
前記アスファルト乳剤に対して、前記カーボンナノチューブを0.005〜2.0重量%含有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のアスファルト材料。
【請求項11】
前記アスファルト乳剤は、前記アスファルトがストレートアスファルト、カットバックアスファルト、改質アスファルト、天然ビチューメン及び再生アスファルトのいずれかであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のアスファルト材料。
【請求項12】
界面活性剤と、水と、アスファルトとを混合してアスファルト乳剤とする乳化工程と、前記アスファルト乳剤に対してカーボンナノチューブを分散させる分散工程を含むことを特徴とするアスファルト材料の製造方法。
【請求項13】
前記分散工程は、カーボンナノチューブを前記アスファルト乳剤に対して均一に分散させる工程であることを特徴とする請求項12に記載のアスファルト材料の製造方法。
【請求項14】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤又は陰イオン性界面活性剤を用いることを特徴とする請求項12又は13に記載のアスファルト材料の製造方法。
【請求項15】
前記界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤を用いることを特徴とする請求項12又は13に記載のアスファルト材料の製造方法。
【請求項16】
前記カーボンナノチューブは、金属元素除去処理を行ったカーボンナノチューブを用いることを特徴とする請求項12から15のいずれか1項に記載のアスファルト材料の製造方法。
【請求項17】
前記金属元素除去処理は、カーボンナノチューブを酸溶液と接触させ前記酸溶液を除去する工程を含むことを特徴とする請求項16に記載のアスファルト材料の製造方法。
【請求項18】
前記カーボンナノチューブは、金属元素の含有量が2.5重量%未満のものを用いることを特徴とする請求項12から17のいずれか1項に記載のアスファルト材料の製造方法。
【請求項19】
前記カーボンナノチューブは、かさ密度が0.1g/cm以上のものを用いることを特徴とする請求項12から18のいずれか1項に記載のアスファルト材料の製造方法。
【請求項20】
前記乳化工程は、前記アスファルト乳剤に対して、前記カーボンナノチューブを0.005〜2.0重量%含有するよう添加する工程であることを特徴とする請求項12から19のいずれか1項に記載のアスファルト材料の製造方法。
【請求項21】
前記乳化工程は、前記アスファルト乳剤の前記アスファルトがストレートアスファルト、カットバックアスファルト、改質アスファルト、天然ビチューメン又は再生アスファルトのいずれかを用いる工程であることを特徴とする請求項12から20のいずれか1項に記載のアスファルト材料の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図18】
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【図19】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−67277(P2012−67277A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155196(P2011−155196)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(504238806)国立大学法人北見工業大学 (80)
【出願人】(000233653)ニチレキ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】