アスファルト舗装構造及びアスファルト舗装方法
【課題】可及的少量のシート部材によりアスファルト混合物の耐流動性を上げ、以って舗装面における「わだち掘れ」の発生を好適に抑制する。
【解決手段】アスファルト舗装された少なくとも一つの車線L1を有する舗装道路において、通行車両の左右の車輪走行位置に対応する車線L1の幅員方向両側部分で車両の通行方向に沿って表層3bに埋設されたシート部材4を有する。シート部材4は、天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布であり、そのシート面4aは車線L1の幅員方向に対して直交ないしは傾斜している。
【解決手段】アスファルト舗装された少なくとも一つの車線L1を有する舗装道路において、通行車両の左右の車輪走行位置に対応する車線L1の幅員方向両側部分で車両の通行方向に沿って表層3bに埋設されたシート部材4を有する。シート部材4は、天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布であり、そのシート面4aは車線L1の幅員方向に対して直交ないしは傾斜している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通荷重によるアスファルト混合物の流動変形を抑制する技術に係わり、特に表層材料(アスファルト混合物)の流動による「わだち掘れ」の発生を抑制することのできるアスファルト舗装構造及びアスファルト舗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路面の舗装として、アスファルト舗装やセメントコンクリート舗装が知られている。このうち、アスファルト舗装は、表層、基層、及び路盤からなるものが一般的であるが、幅員が狭く交通量の少ない道路では簡易舗装といって基層を省略することもある。
【0003】
ここに、表層および基層は、アスファルト混合物を締め固めて形成されるが、高温時において軟化する傾向があり、特にアスファルト混合物として加熱アスファルト混合物が用いられるものでは、夏季などの高温時における軟化が顕著となる。そして、軟化した舗装面に交通荷重が作用すると、表層を形成するアスファルト混合物が流動変形し、通行車両の車輪走行位置において「わだち掘れ」と呼ばれる凹部が形成される。
【0004】
「わだち掘れ」が進行すると、車線変更するときなどにハンドルを取られるなど交通安全に支障を来たすことになるので、「わだち掘れ」が進行した舗装面には舗装の供用性を回復するべく表面処理やアスファルトオーバーレイ施工が施されるが、これには長い工期と多くの工費が掛かるのみならず、交通規制による渋滞を招くという問題がある。
【0005】
そこで、アスファルト混合物の耐流動対策として、アスファルトにポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を混合して高温時の流動抵抗性を改善した熱可塑性樹脂入りアスファルトに代表される改質アスファルト混合物を利用したり、天然繊維などからなるシート(舗装用シート)をアスファルト舗装内に敷設したりすることが行われている。
【0006】
尚、シートの利用による耐流動対策には、繊維からなる帯状物をその繊維方向が道路の幅方向となるようにして配置する方法(例えば、特許文献1)や、高弾性率繊維からなるシート状補強材をアスファルトコンクリート舗装内に敷設する方法(例えば、特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−292305号公報
【特許文献2】特開平06−248609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2では、帯状物や補強材と称する舗装用シートを舗装面に平行してアスファルト舗装内に敷設しているに過ぎない。このため、舗装用シートよりも上の表層の流動変形を抑えきれず、交通荷重の作用時において車線両側の車輪走行位置に「わだち掘れ」が発生することを好適に防止することはできない。又、舗装用シートを舗装内全域に敷設するものでは、舗装用シートの使用量が増して工費が高くなる。
【0009】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は可及的少量のシート部材によりアスファルト混合物の耐流動性を上げ、以って舗装面における「わだち掘れ」の発生を好適に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するため、
アスファルト舗装された少なくとも一つの車線を有する舗装道路において、
通行車両の左右の車輪走行位置に対応する車線の幅員方向両側部分で車両の通行方向に沿って表層に埋設されたシート部材を有し、
前記シート部材は、前記車線の幅員方向に対してシート面が直交ないしは傾斜していることを特徴とするアスファルト舗装構造を提供する。
【0011】
尚、前記シート部材は、好ましくは天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布であり、更に好ましくは、ケナフ繊維、シマツナソ繊維、黄麻繊維、ローゼル繊維、又はジュート繊維からなる網状の布帛である。
【0012】
又、本発明は、少なくとも一つの車線を有する道路をアスファルト舗装する方法であり、前記車線の幅員方向両側に通行車両の左右の車輪走行位置に対応して所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域を設定し、その舗装補強帯域に属する表層に、当該表層の表面に対して直交ないしは傾斜するスリットを車両の通行方向に沿って形成し、そのスリット内にシート部材を挿入した後、前記スリットを舗装材料の充填ないしは前記表層の転圧により閉鎖することを特徴とする。
【0013】
更に、本発明は、少なくとも一つの車線を有する道路をアスファルト舗装する方法であり、前記車線の幅員方向両側に通行車両の左右の車輪走行位置に対応して所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域を設定し、その舗装補強帯域に属する基層もしくは路盤上に、車両の通行方向に沿って延びるアスファルト混合物からなる連続構造物であって左右両面が斜面部とされる三角形もしくは台形の横断面を有する凸条を設けると共に、その凸条の斜面部にシート部材を宛がい、次いで前記基層もしくは路盤上の全域に表層用アスファルト混合物を敷き均し、その後その表層用アスファルト混合物を転圧して締め固めることを特徴とする。
【0014】
尚、上記舗装方法において、シート部材には、天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアスファルト舗装構造によれば、車線の幅員方向両側部分で車両の通行方向に沿って表層にシート部材が埋設されると共に、そのシート部材は、車線の幅員方向に対してシート面が直交ないしは傾斜していることから、シート部材の使用量を減らしながら交通荷重による表層材料の流動変形を抑制して「わだち掘れ」の発生を抑制することができる。
【0016】
又、シート部材が繊維材料からなる布帛あるいは不織布であれば、表層の磨耗によりシート部材の一端縁が舗装面上に露出しても、通行車両のタイヤを傷付けない。特に、ケナフ繊維、シマツナソ繊維、黄麻繊維、ローゼル繊維、又はジュート繊維からなる網状の布帛であれば、それらの植物が成長段階で吸収した二酸化炭素を舗装内に閉じ込め、地球温暖化の要因とされる大気中への二酸化炭素排出量を削減して環境負荷を軽減することができる。
【0017】
一方、表層にスリットを形成してシート部材を埋設する方法では、シート部材の埋設を容易かつ迅速に行え、しかも既設のアスファルト舗装に対しても表層全体を排除せずして改修舗装を短期間で容易に行うことができる。
【0018】
又、基層もしくは路盤上にアスファルト混合物からなる凸条を設け、その斜面部にシート部材を宛がって埋設する方法でも、車線の幅員方向に対してシート面が傾斜する状態にしてシート部材を適切に埋設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るアスファルト舗装構造を示す車線の横断面図
【図2】車線の縦断面図
【図3】一つの車線の舗装部分を示す横断面図
【図4】本発明に係る舗装方法の説明図
【図5】シート部材が挿入されたスリットの部分を示す拡大断面図
【図6】本発明に係るアスファルト舗装構造の変更例を示す横断面図
【図7】本発明に係るアスファルト舗装構造の変更例を示す横断面図
【図8】本発明に係るアスファルト舗装構造の変更例を示す横断面図
【図9】スリットの変形例を示す説明図
【図10】本発明に係る舗装方法の他の実施形態を示す説明図
【図11】本発明に係る舗装方法の他の実施形態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。先ず、図1に本発明の適用例として片側1車線の舗装道路(第1の車線L1と当該車線L1とは車両の通行方向が逆むきとなる第2の車線L2とを有する舗装道路)の横断面を示す。尚、車線L1,L2の幅員はそれぞれ2.75〜3.75mであり、その両車線L1,L2はセンターラインCLにより区分されている。
【0021】
図1において、1は路床、2は路床1上に設けられる路盤である。路盤2は砕石などから形成される層であって、下層路盤2aと上層路盤2bとに分けられており、上層路盤2b上には所定厚のアスファルト層3が形成されている。
【0022】
アスファルト層3は、粗粒度アスファルト混合物から形成される基層3aと、密粒度アスファルト混合物から形成される表層3bとにより構成されている。
【0023】
基層3aを形成する粗粒度アスファルト混合物は、粗骨材、細骨材、フィラ、及びアスファルトからなる加熱アスファルト混合物で、合成粒度における2.5mmふるい通過分が20〜35%のものであり、例えば粗骨材として5号砕石30重量%、6号砕石20重量%、細骨材として粗砂17重量%、細砂5重量%、フィラとして石灰岩を粉砕した石粉5重量%、及びアスファルトとしてストレートアスファルト4.8重量%が用いられる。尚、基層4は簡易舗装にして省略することもできる。
【0024】
一方、表層3bを形成する密粒度アスファルト混合物は、粗骨材、細骨材、フィラ、及びアスファルトからなる加熱アスファルト混合物で、合成粒度における2.5mmふるい通過分が35〜50%のものであり、例えば粗骨材として6号砕石34重量%、7号砕石24重量%、細骨材として粗砂33重量%、細砂4重量%、フィラとして石灰岩を粉砕した石粉5重量%、及びアスファルトとしてストレートアスファルト5.6重量%が用いられる。
【0025】
又、表層3bには、通行車両の左右の車輪走行位置に対応する車線L1,L2の幅員方向両側部分においてシート部材4が並列状に埋設されている。特に、シート部材4は、車線L1,L2の幅員方向に所定の間隔をあけて配列される複数枚を一組として、車線L1,L2の幅員方向両側部分に一組ずつ埋設されている。
【0026】
図1および図2から明らかなように、シート部材4は、車線L1,L2上での車両の通行方向(車線L1,L2の長さ方向)に沿って延びる帯状の形態であり、本例では車線L1,L2の幅員方向に対して各々そのシート面4aが直交する状態で埋設されている。
【0027】
尚、シート部材4には、金属板や金網などを用いることもできるが、好ましくはケナフ繊維(ケナフの靭皮繊維)、シマツナソ(モロヘイヤ)繊維、黄麻繊維、ローゼル繊維、ジュート繊維などの天然植物繊維、炭素繊維やガラス繊維といった無機繊維、ビスコースレーヨンなどの再生繊維、ポリエステルやアクリル繊維といった合成繊維、又はアセテートなどの半合成繊維からなる布帛(織布)もしくは不織布が用いられる。このような可撓性を有する柔軟な布帛もしくは不織布であれば、舗装面の摩耗によりシート部材4の上縁部が舗装面上に突出しても、通行車両のタイヤを傷付けず、シート部材4によるパンクを防止することができる。又、布帛として上記のような植物繊維を用いれば、それら植物が成長段階で吸収した二酸化炭素を舗装内に閉じ込めて大気中への二酸化炭素の排出量を削減することが可能になる。
【0028】
次に、図3は一つの車線の舗装部分の横断面を示す。この図で明らかなように、シート部材4の埋設部分は、通行車両の左右の車輪走行位置と対応するよう車両のトレッドT(左右車輪Lw,Rwの中心間距離)を基に定められ、その埋設部分の上に車輪Lw,Rw(正確には車輪に装着したタイヤ)が載る構成とされる。ここに、上記トレッドTは車種により異なり、軽自動車で1.5m程度、大型トラックでは2mを超える。よって、シート部材4は、車線L1,L2上での通行を許容される各種車両のトレッドTに対応して、車線L1,L2の幅員方向に所定幅の帯域(舗装補強帯域Lb,Rb)を設定し、その範囲内において複数枚を埋設することが好ましい。例えば、車線L1,L2の中央から左右にそれぞれ0.5m隔ててその外側に1m幅の舗装補強帯域Lb,Rbを設定し、その左右双方の舗装補強帯域Lb,Rb内にそれぞれ20cm間隔でシート部材4を埋設する。
【0029】
そして、係るシート部材4によれば、交通荷重による表層材料(アスファルト混合物)の流動変形を抑制し、その流動変形に起因する「わだち掘れ」の発生を抑制することができる。ここに、本発明は車線L1,L2の幅員方向両側部分にのみシート部材4を埋設することに限らず、上記のような舗装補強帯域Lb,Rbを設定せずして車線L1,L2の全幅にわたってシート部材4を所定の間隔で埋設するようにしてもよいが、車線L1,L2の中央部分を車両の車輪が走行することは障害物を避けるときなど特別の事情を除いて有り得ない。したがって、車線L1,L2の中央部分にシート部材4を付加的に埋設しても、これによる「わだち掘れ」の抑制効果は得られない。
【0030】
尚、アスファルトコンクリートの供試体(ストレートアスファルト混合物を締め固めた厚さ10cmの塊状物)を用いたWT(Wheel Tracking)試験での供試体断面の画像解析によれば、アスファルト混合物中の骨材は、車輪による加圧部(載荷位置)を中心として、その左右方向に図3の点線で示されるような軌跡をもって移動するところ、本発明に係る舗装構造では、舗装面に対してシートを平行に埋設する舗装に比べて表層材料の流動変形による「わだち掘れ」の発生をより好適に抑制することができる。
【0031】
但し、シート部材4としてケナフの靭皮繊維などからなる布帛を用いた場合、その織目(網目)が粗骨材の粒径より大きいと、多くの骨材がシート部材4を透過して流動抑制効果が低下してしまう。よって、織目は1辺10mm以下、好ましくは0.01〜5mm、更に好ましくは0.01〜2mmとする。これによれば、粗骨材のみならず細骨材の透過を阻止して流動抑制効果、ひいては「わだち掘れ」抑制効果をより高めることができる。
【0032】
次に、以上のようなアスファルト構造物を築造する方法を図4に基づき説明する。尚、図4には一つの車線(L1又はL2)のみを示すが、本発明は車線数に関係なくアスファルト舗装される全ての舗装道路に適用できる。ここに、本例では常法によってアスファルト混合物による表層3bを形成した後、その表層3bに対してシート部材4を埋め込むためのスリットSを形成する。詳しくは、図4(a)のように、車線L1,L2の幅員方向両側に所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域Lb,Rbを設定し、その舗装補強帯域Lb,Rbに属する表層3bに複数条のスリットSを形成する。舗装補強帯域Lb,Rbは、上述のように車線L1,L2を通行する各種車両のトレッドを基に定められる車両の左右の車輪走行位置に対応する領域であり、スリットSはその舗装補強帯域Lb,Rb内において回転刃などにより車両の通行方向に沿って連続的に形成される。尚、本例において、スリットSは表層3bの表面から基層3aに達する深さを有して舗装面(表層3bの表面)に直交する状態に形成される。
【0033】
しかして、表層3bにスリットSを形成したら、その各スリットS内にシート部材4を挿入するのであるが、可撓性を有する柔軟なシート部材4では、幅の狭いスリットSに対して平面状に挿入すること困難である。そこで、図4(b)のように、シート部材4をスリットSに沿って表層3b上に敷き、その中心部を挿入すべきスリットSに向けて金属の薄板などからなるガイドプレート5により押し込む。これによれば、図5のようにシート部材4を二つ折りにした状態でスリットS内に平面状態にして容易かつ迅速に挿入することができる。こうして、全てのスリットSにシート部材4を挿入し終えたら、スリットSにストレートアスファルトなどの舗装材料を充填するか、あるいはその種の舗装材料を充填せずして表層3b(特に舗装補強帯域Lb,Rbの周辺)を転圧し、以ってスリットSを閉鎖する。これにより、図4(c)のように、シート部材4を表層3b内に一体的に埋設することができる。
【0034】
以上、本発明の好適な一例を説明したが、シート部材4は車線L1,L2の幅員方向に対して、シート面4aが直交する状態に埋設されることに限らず、例えば、図6のようにシート面4aが車線L1,L2の幅員方向に対して直交する状態と傾斜する状態に埋設して、その各シート部材4のシート面4aがいずれも図6の点線で示される交通荷重によるアスファルト混合物の移動軌跡に対し直交するような態様としてもよい。これによれば、シート部材4によるアスファルト混合物の流動抑制効果をより一層高めることができる。
【0035】
又、図7のように、シート部材4は各シート面4aが車線L1,L2の幅員方向に対して傾斜する状態に埋設するようにしてもよい。尚、図7ではシート部材4を左右の舗装補強帯域Lb,Rbにそれぞれ横断面M字形にして埋設した状態を便宜的に示しているが、実際の態様として、シート部材4は図8のように横断面鋸歯形となる状態で左右の舗装補強帯域Lb,Rbに属する表層3bに埋設される。
【0036】
ここに、シート部材4を図7、図8のように埋設するには、図9に示される方法や図10に示される方法が適用される。
【0037】
図9に示される方法は、上記例のように車両の通行方向(図示面の直交方向)に沿って舗装補強帯域Lb,Rb内における表層3bにスリットSを形成するものである。特に、本例では、表層3bの表面に対してスリットSを傾斜させ、しかも隣り合うスリットSの傾斜方向を逆向きにして横断面逆V字形(ハの字形でも可)となるよう形成する。しかして、その各スリットSに上記例と同様にしてシート部材4(図7では省略)を挿入した後、スリットSへの舗装材料の充填ないしは表層3bの転圧によりスリットSを閉鎖する。これにより、図7〜図8に示されるような横断面を有するアスファルト舗装構造を得ることができる。
【0038】
一方、図10に示される方法では、舗装補強帯域Lb,Rbに属する基層3b(基層3aを省略する簡易舗装では上層路盤2b)上に、車両の通行方向に沿って延びる凸条6を設ける。特に、凸条6は並列する複数条(図10において2条)を一組として、舗装補強帯域Lb,Rbのそれぞれに一組ずつ設ける。各凸条6は、表層3bの厚さより若干低い高さを有して表層材料と同じアスファルト混合物から形成されるもので、その形態は本例において横断面三角形(二等辺三角形)とされ、その左右両面が車線L1,L2の幅員方向に対して傾斜する斜面部6aとされる。尚、この種の凸条6は、工場などで製作したブロックにして基層3a上に配置したり、基層3a上にてアスファルト混合物を図示せぬモールドにより押し固めたりして形成することができる。又、舗装補強帯域Lb,Rb内において基層3b上にアスファルト混合物を盛って固め、これを横断面三角形に切削するなどしてもよい。
【0039】
続いて、図10(a)のように、複数一組の凸条6に対して一枚のシート部材4を被せ、そのシート部材4を各凸条6に沿って折り曲げて各凸条6の左右の斜面部6aに宛がう。しかして、アスファルトスプレッダなどを用いて基層3a上の全域に凸条6よりも若干高い位置で表層用アスファルト混合物(主として密粒度ストレートアスファルト混合物)を敷き均し、その後その表層用アスファルト混合物を転圧機械により転圧して締め固めることにより、図10(b)に示すようなアスファルト舗装構造が得られる。ここに、本例によれば、シート部材4は横断面M字形ないしは図8のような鋸歯形に折れ曲がった状態で埋設され、凸条6の斜面部6aに対応する各シート面が車線の幅員方向に対して傾斜するようになるが、シート部材4は左右の舗装補強帯域Lb,Rbにおいて一枚が折れ曲がった連続構造とされることに限らず、一つの凸条6に一枚のシート部材4を用い、そのシート部材4を逆V字形に折り曲げて凸条6の左右の斜面6aに宛がうようにするか、あるいは一つの凸条6に対して2つのシート部材4を用い、その各々を凸条6の斜面部6aに別々に宛がうようにするなどしてもよい。
【0040】
又、凸条6は横断面三角形であることに限らず、図11のような横断面台形の凸条7としてもよい。そして、その種の凸条7でも、その左右の斜面部7aにシート部材4を宛がい、次いで基層3a(基層3aを省略する簡易舗装では上層路盤2b)上の全域に凸条7を埋め込むようにして表層用アスファルト混合物を敷き均し、その後その表層用アスファルト混合物を転圧して締め固めることにより、図11(b)に示すようなアスファルト舗装構造が得られる。尚、図11において、シート部材4は斜面部7aにのみ宛がうことに限らず、凸条7を一枚のシート部材4で覆い、そのシート部材4が凸条7の上面に宛がわれるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
L1,L2 車線
Lb,Rb 舗装補強帯域
1 路床
2 路盤
2a 下層路盤
2b 上層路盤
3 アスファルト層
3a 基層
3b 表層
4 シート部材
5 ガイドプレート
6 凸条(横断面三角形)
6a 斜面部
7 凸条(横断面台形)
7a 斜面部
S スリット
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通荷重によるアスファルト混合物の流動変形を抑制する技術に係わり、特に表層材料(アスファルト混合物)の流動による「わだち掘れ」の発生を抑制することのできるアスファルト舗装構造及びアスファルト舗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路面の舗装として、アスファルト舗装やセメントコンクリート舗装が知られている。このうち、アスファルト舗装は、表層、基層、及び路盤からなるものが一般的であるが、幅員が狭く交通量の少ない道路では簡易舗装といって基層を省略することもある。
【0003】
ここに、表層および基層は、アスファルト混合物を締め固めて形成されるが、高温時において軟化する傾向があり、特にアスファルト混合物として加熱アスファルト混合物が用いられるものでは、夏季などの高温時における軟化が顕著となる。そして、軟化した舗装面に交通荷重が作用すると、表層を形成するアスファルト混合物が流動変形し、通行車両の車輪走行位置において「わだち掘れ」と呼ばれる凹部が形成される。
【0004】
「わだち掘れ」が進行すると、車線変更するときなどにハンドルを取られるなど交通安全に支障を来たすことになるので、「わだち掘れ」が進行した舗装面には舗装の供用性を回復するべく表面処理やアスファルトオーバーレイ施工が施されるが、これには長い工期と多くの工費が掛かるのみならず、交通規制による渋滞を招くという問題がある。
【0005】
そこで、アスファルト混合物の耐流動対策として、アスファルトにポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を混合して高温時の流動抵抗性を改善した熱可塑性樹脂入りアスファルトに代表される改質アスファルト混合物を利用したり、天然繊維などからなるシート(舗装用シート)をアスファルト舗装内に敷設したりすることが行われている。
【0006】
尚、シートの利用による耐流動対策には、繊維からなる帯状物をその繊維方向が道路の幅方向となるようにして配置する方法(例えば、特許文献1)や、高弾性率繊維からなるシート状補強材をアスファルトコンクリート舗装内に敷設する方法(例えば、特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−292305号公報
【特許文献2】特開平06−248609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2では、帯状物や補強材と称する舗装用シートを舗装面に平行してアスファルト舗装内に敷設しているに過ぎない。このため、舗装用シートよりも上の表層の流動変形を抑えきれず、交通荷重の作用時において車線両側の車輪走行位置に「わだち掘れ」が発生することを好適に防止することはできない。又、舗装用シートを舗装内全域に敷設するものでは、舗装用シートの使用量が増して工費が高くなる。
【0009】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は可及的少量のシート部材によりアスファルト混合物の耐流動性を上げ、以って舗装面における「わだち掘れ」の発生を好適に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するため、
アスファルト舗装された少なくとも一つの車線を有する舗装道路において、
通行車両の左右の車輪走行位置に対応する車線の幅員方向両側部分で車両の通行方向に沿って表層に埋設されたシート部材を有し、
前記シート部材は、前記車線の幅員方向に対してシート面が直交ないしは傾斜していることを特徴とするアスファルト舗装構造を提供する。
【0011】
尚、前記シート部材は、好ましくは天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布であり、更に好ましくは、ケナフ繊維、シマツナソ繊維、黄麻繊維、ローゼル繊維、又はジュート繊維からなる網状の布帛である。
【0012】
又、本発明は、少なくとも一つの車線を有する道路をアスファルト舗装する方法であり、前記車線の幅員方向両側に通行車両の左右の車輪走行位置に対応して所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域を設定し、その舗装補強帯域に属する表層に、当該表層の表面に対して直交ないしは傾斜するスリットを車両の通行方向に沿って形成し、そのスリット内にシート部材を挿入した後、前記スリットを舗装材料の充填ないしは前記表層の転圧により閉鎖することを特徴とする。
【0013】
更に、本発明は、少なくとも一つの車線を有する道路をアスファルト舗装する方法であり、前記車線の幅員方向両側に通行車両の左右の車輪走行位置に対応して所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域を設定し、その舗装補強帯域に属する基層もしくは路盤上に、車両の通行方向に沿って延びるアスファルト混合物からなる連続構造物であって左右両面が斜面部とされる三角形もしくは台形の横断面を有する凸条を設けると共に、その凸条の斜面部にシート部材を宛がい、次いで前記基層もしくは路盤上の全域に表層用アスファルト混合物を敷き均し、その後その表層用アスファルト混合物を転圧して締め固めることを特徴とする。
【0014】
尚、上記舗装方法において、シート部材には、天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアスファルト舗装構造によれば、車線の幅員方向両側部分で車両の通行方向に沿って表層にシート部材が埋設されると共に、そのシート部材は、車線の幅員方向に対してシート面が直交ないしは傾斜していることから、シート部材の使用量を減らしながら交通荷重による表層材料の流動変形を抑制して「わだち掘れ」の発生を抑制することができる。
【0016】
又、シート部材が繊維材料からなる布帛あるいは不織布であれば、表層の磨耗によりシート部材の一端縁が舗装面上に露出しても、通行車両のタイヤを傷付けない。特に、ケナフ繊維、シマツナソ繊維、黄麻繊維、ローゼル繊維、又はジュート繊維からなる網状の布帛であれば、それらの植物が成長段階で吸収した二酸化炭素を舗装内に閉じ込め、地球温暖化の要因とされる大気中への二酸化炭素排出量を削減して環境負荷を軽減することができる。
【0017】
一方、表層にスリットを形成してシート部材を埋設する方法では、シート部材の埋設を容易かつ迅速に行え、しかも既設のアスファルト舗装に対しても表層全体を排除せずして改修舗装を短期間で容易に行うことができる。
【0018】
又、基層もしくは路盤上にアスファルト混合物からなる凸条を設け、その斜面部にシート部材を宛がって埋設する方法でも、車線の幅員方向に対してシート面が傾斜する状態にしてシート部材を適切に埋設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るアスファルト舗装構造を示す車線の横断面図
【図2】車線の縦断面図
【図3】一つの車線の舗装部分を示す横断面図
【図4】本発明に係る舗装方法の説明図
【図5】シート部材が挿入されたスリットの部分を示す拡大断面図
【図6】本発明に係るアスファルト舗装構造の変更例を示す横断面図
【図7】本発明に係るアスファルト舗装構造の変更例を示す横断面図
【図8】本発明に係るアスファルト舗装構造の変更例を示す横断面図
【図9】スリットの変形例を示す説明図
【図10】本発明に係る舗装方法の他の実施形態を示す説明図
【図11】本発明に係る舗装方法の他の実施形態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。先ず、図1に本発明の適用例として片側1車線の舗装道路(第1の車線L1と当該車線L1とは車両の通行方向が逆むきとなる第2の車線L2とを有する舗装道路)の横断面を示す。尚、車線L1,L2の幅員はそれぞれ2.75〜3.75mであり、その両車線L1,L2はセンターラインCLにより区分されている。
【0021】
図1において、1は路床、2は路床1上に設けられる路盤である。路盤2は砕石などから形成される層であって、下層路盤2aと上層路盤2bとに分けられており、上層路盤2b上には所定厚のアスファルト層3が形成されている。
【0022】
アスファルト層3は、粗粒度アスファルト混合物から形成される基層3aと、密粒度アスファルト混合物から形成される表層3bとにより構成されている。
【0023】
基層3aを形成する粗粒度アスファルト混合物は、粗骨材、細骨材、フィラ、及びアスファルトからなる加熱アスファルト混合物で、合成粒度における2.5mmふるい通過分が20〜35%のものであり、例えば粗骨材として5号砕石30重量%、6号砕石20重量%、細骨材として粗砂17重量%、細砂5重量%、フィラとして石灰岩を粉砕した石粉5重量%、及びアスファルトとしてストレートアスファルト4.8重量%が用いられる。尚、基層4は簡易舗装にして省略することもできる。
【0024】
一方、表層3bを形成する密粒度アスファルト混合物は、粗骨材、細骨材、フィラ、及びアスファルトからなる加熱アスファルト混合物で、合成粒度における2.5mmふるい通過分が35〜50%のものであり、例えば粗骨材として6号砕石34重量%、7号砕石24重量%、細骨材として粗砂33重量%、細砂4重量%、フィラとして石灰岩を粉砕した石粉5重量%、及びアスファルトとしてストレートアスファルト5.6重量%が用いられる。
【0025】
又、表層3bには、通行車両の左右の車輪走行位置に対応する車線L1,L2の幅員方向両側部分においてシート部材4が並列状に埋設されている。特に、シート部材4は、車線L1,L2の幅員方向に所定の間隔をあけて配列される複数枚を一組として、車線L1,L2の幅員方向両側部分に一組ずつ埋設されている。
【0026】
図1および図2から明らかなように、シート部材4は、車線L1,L2上での車両の通行方向(車線L1,L2の長さ方向)に沿って延びる帯状の形態であり、本例では車線L1,L2の幅員方向に対して各々そのシート面4aが直交する状態で埋設されている。
【0027】
尚、シート部材4には、金属板や金網などを用いることもできるが、好ましくはケナフ繊維(ケナフの靭皮繊維)、シマツナソ(モロヘイヤ)繊維、黄麻繊維、ローゼル繊維、ジュート繊維などの天然植物繊維、炭素繊維やガラス繊維といった無機繊維、ビスコースレーヨンなどの再生繊維、ポリエステルやアクリル繊維といった合成繊維、又はアセテートなどの半合成繊維からなる布帛(織布)もしくは不織布が用いられる。このような可撓性を有する柔軟な布帛もしくは不織布であれば、舗装面の摩耗によりシート部材4の上縁部が舗装面上に突出しても、通行車両のタイヤを傷付けず、シート部材4によるパンクを防止することができる。又、布帛として上記のような植物繊維を用いれば、それら植物が成長段階で吸収した二酸化炭素を舗装内に閉じ込めて大気中への二酸化炭素の排出量を削減することが可能になる。
【0028】
次に、図3は一つの車線の舗装部分の横断面を示す。この図で明らかなように、シート部材4の埋設部分は、通行車両の左右の車輪走行位置と対応するよう車両のトレッドT(左右車輪Lw,Rwの中心間距離)を基に定められ、その埋設部分の上に車輪Lw,Rw(正確には車輪に装着したタイヤ)が載る構成とされる。ここに、上記トレッドTは車種により異なり、軽自動車で1.5m程度、大型トラックでは2mを超える。よって、シート部材4は、車線L1,L2上での通行を許容される各種車両のトレッドTに対応して、車線L1,L2の幅員方向に所定幅の帯域(舗装補強帯域Lb,Rb)を設定し、その範囲内において複数枚を埋設することが好ましい。例えば、車線L1,L2の中央から左右にそれぞれ0.5m隔ててその外側に1m幅の舗装補強帯域Lb,Rbを設定し、その左右双方の舗装補強帯域Lb,Rb内にそれぞれ20cm間隔でシート部材4を埋設する。
【0029】
そして、係るシート部材4によれば、交通荷重による表層材料(アスファルト混合物)の流動変形を抑制し、その流動変形に起因する「わだち掘れ」の発生を抑制することができる。ここに、本発明は車線L1,L2の幅員方向両側部分にのみシート部材4を埋設することに限らず、上記のような舗装補強帯域Lb,Rbを設定せずして車線L1,L2の全幅にわたってシート部材4を所定の間隔で埋設するようにしてもよいが、車線L1,L2の中央部分を車両の車輪が走行することは障害物を避けるときなど特別の事情を除いて有り得ない。したがって、車線L1,L2の中央部分にシート部材4を付加的に埋設しても、これによる「わだち掘れ」の抑制効果は得られない。
【0030】
尚、アスファルトコンクリートの供試体(ストレートアスファルト混合物を締め固めた厚さ10cmの塊状物)を用いたWT(Wheel Tracking)試験での供試体断面の画像解析によれば、アスファルト混合物中の骨材は、車輪による加圧部(載荷位置)を中心として、その左右方向に図3の点線で示されるような軌跡をもって移動するところ、本発明に係る舗装構造では、舗装面に対してシートを平行に埋設する舗装に比べて表層材料の流動変形による「わだち掘れ」の発生をより好適に抑制することができる。
【0031】
但し、シート部材4としてケナフの靭皮繊維などからなる布帛を用いた場合、その織目(網目)が粗骨材の粒径より大きいと、多くの骨材がシート部材4を透過して流動抑制効果が低下してしまう。よって、織目は1辺10mm以下、好ましくは0.01〜5mm、更に好ましくは0.01〜2mmとする。これによれば、粗骨材のみならず細骨材の透過を阻止して流動抑制効果、ひいては「わだち掘れ」抑制効果をより高めることができる。
【0032】
次に、以上のようなアスファルト構造物を築造する方法を図4に基づき説明する。尚、図4には一つの車線(L1又はL2)のみを示すが、本発明は車線数に関係なくアスファルト舗装される全ての舗装道路に適用できる。ここに、本例では常法によってアスファルト混合物による表層3bを形成した後、その表層3bに対してシート部材4を埋め込むためのスリットSを形成する。詳しくは、図4(a)のように、車線L1,L2の幅員方向両側に所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域Lb,Rbを設定し、その舗装補強帯域Lb,Rbに属する表層3bに複数条のスリットSを形成する。舗装補強帯域Lb,Rbは、上述のように車線L1,L2を通行する各種車両のトレッドを基に定められる車両の左右の車輪走行位置に対応する領域であり、スリットSはその舗装補強帯域Lb,Rb内において回転刃などにより車両の通行方向に沿って連続的に形成される。尚、本例において、スリットSは表層3bの表面から基層3aに達する深さを有して舗装面(表層3bの表面)に直交する状態に形成される。
【0033】
しかして、表層3bにスリットSを形成したら、その各スリットS内にシート部材4を挿入するのであるが、可撓性を有する柔軟なシート部材4では、幅の狭いスリットSに対して平面状に挿入すること困難である。そこで、図4(b)のように、シート部材4をスリットSに沿って表層3b上に敷き、その中心部を挿入すべきスリットSに向けて金属の薄板などからなるガイドプレート5により押し込む。これによれば、図5のようにシート部材4を二つ折りにした状態でスリットS内に平面状態にして容易かつ迅速に挿入することができる。こうして、全てのスリットSにシート部材4を挿入し終えたら、スリットSにストレートアスファルトなどの舗装材料を充填するか、あるいはその種の舗装材料を充填せずして表層3b(特に舗装補強帯域Lb,Rbの周辺)を転圧し、以ってスリットSを閉鎖する。これにより、図4(c)のように、シート部材4を表層3b内に一体的に埋設することができる。
【0034】
以上、本発明の好適な一例を説明したが、シート部材4は車線L1,L2の幅員方向に対して、シート面4aが直交する状態に埋設されることに限らず、例えば、図6のようにシート面4aが車線L1,L2の幅員方向に対して直交する状態と傾斜する状態に埋設して、その各シート部材4のシート面4aがいずれも図6の点線で示される交通荷重によるアスファルト混合物の移動軌跡に対し直交するような態様としてもよい。これによれば、シート部材4によるアスファルト混合物の流動抑制効果をより一層高めることができる。
【0035】
又、図7のように、シート部材4は各シート面4aが車線L1,L2の幅員方向に対して傾斜する状態に埋設するようにしてもよい。尚、図7ではシート部材4を左右の舗装補強帯域Lb,Rbにそれぞれ横断面M字形にして埋設した状態を便宜的に示しているが、実際の態様として、シート部材4は図8のように横断面鋸歯形となる状態で左右の舗装補強帯域Lb,Rbに属する表層3bに埋設される。
【0036】
ここに、シート部材4を図7、図8のように埋設するには、図9に示される方法や図10に示される方法が適用される。
【0037】
図9に示される方法は、上記例のように車両の通行方向(図示面の直交方向)に沿って舗装補強帯域Lb,Rb内における表層3bにスリットSを形成するものである。特に、本例では、表層3bの表面に対してスリットSを傾斜させ、しかも隣り合うスリットSの傾斜方向を逆向きにして横断面逆V字形(ハの字形でも可)となるよう形成する。しかして、その各スリットSに上記例と同様にしてシート部材4(図7では省略)を挿入した後、スリットSへの舗装材料の充填ないしは表層3bの転圧によりスリットSを閉鎖する。これにより、図7〜図8に示されるような横断面を有するアスファルト舗装構造を得ることができる。
【0038】
一方、図10に示される方法では、舗装補強帯域Lb,Rbに属する基層3b(基層3aを省略する簡易舗装では上層路盤2b)上に、車両の通行方向に沿って延びる凸条6を設ける。特に、凸条6は並列する複数条(図10において2条)を一組として、舗装補強帯域Lb,Rbのそれぞれに一組ずつ設ける。各凸条6は、表層3bの厚さより若干低い高さを有して表層材料と同じアスファルト混合物から形成されるもので、その形態は本例において横断面三角形(二等辺三角形)とされ、その左右両面が車線L1,L2の幅員方向に対して傾斜する斜面部6aとされる。尚、この種の凸条6は、工場などで製作したブロックにして基層3a上に配置したり、基層3a上にてアスファルト混合物を図示せぬモールドにより押し固めたりして形成することができる。又、舗装補強帯域Lb,Rb内において基層3b上にアスファルト混合物を盛って固め、これを横断面三角形に切削するなどしてもよい。
【0039】
続いて、図10(a)のように、複数一組の凸条6に対して一枚のシート部材4を被せ、そのシート部材4を各凸条6に沿って折り曲げて各凸条6の左右の斜面部6aに宛がう。しかして、アスファルトスプレッダなどを用いて基層3a上の全域に凸条6よりも若干高い位置で表層用アスファルト混合物(主として密粒度ストレートアスファルト混合物)を敷き均し、その後その表層用アスファルト混合物を転圧機械により転圧して締め固めることにより、図10(b)に示すようなアスファルト舗装構造が得られる。ここに、本例によれば、シート部材4は横断面M字形ないしは図8のような鋸歯形に折れ曲がった状態で埋設され、凸条6の斜面部6aに対応する各シート面が車線の幅員方向に対して傾斜するようになるが、シート部材4は左右の舗装補強帯域Lb,Rbにおいて一枚が折れ曲がった連続構造とされることに限らず、一つの凸条6に一枚のシート部材4を用い、そのシート部材4を逆V字形に折り曲げて凸条6の左右の斜面6aに宛がうようにするか、あるいは一つの凸条6に対して2つのシート部材4を用い、その各々を凸条6の斜面部6aに別々に宛がうようにするなどしてもよい。
【0040】
又、凸条6は横断面三角形であることに限らず、図11のような横断面台形の凸条7としてもよい。そして、その種の凸条7でも、その左右の斜面部7aにシート部材4を宛がい、次いで基層3a(基層3aを省略する簡易舗装では上層路盤2b)上の全域に凸条7を埋め込むようにして表層用アスファルト混合物を敷き均し、その後その表層用アスファルト混合物を転圧して締め固めることにより、図11(b)に示すようなアスファルト舗装構造が得られる。尚、図11において、シート部材4は斜面部7aにのみ宛がうことに限らず、凸条7を一枚のシート部材4で覆い、そのシート部材4が凸条7の上面に宛がわれるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
L1,L2 車線
Lb,Rb 舗装補強帯域
1 路床
2 路盤
2a 下層路盤
2b 上層路盤
3 アスファルト層
3a 基層
3b 表層
4 シート部材
5 ガイドプレート
6 凸条(横断面三角形)
6a 斜面部
7 凸条(横断面台形)
7a 斜面部
S スリット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト舗装された少なくとも一つの車線を有する舗装道路において、
通行車両の左右の車輪走行位置に対応する車線の幅員方向両側部分で車両の通行方向に沿って表層に埋設されたシート部材を有し、
前記シート部材は、前記車線の幅員方向に対してシート面が直交ないしは傾斜していることを特徴とするアスファルト舗装構造。
【請求項2】
前記シート部材は、天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布であることを特徴とする請求項1記載のアスファルト舗装構造。
【請求項3】
前記シート部材は、ケナフ繊維、シマツナソ繊維、黄麻繊維、ローゼル繊維、又はジュート繊維からなる網状の布帛であることを特徴とする請求項1記載のアスファルト舗装構造。
【請求項4】
少なくとも一つの車線を有する道路をアスファルト舗装する方法であり、前記車線の幅員方向両側に通行車両の左右の車輪走行位置に対応して所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域を設定し、その舗装補強帯域に属する表層に、当該表層の表面に対して直交ないしは傾斜するスリットを車両の通行方向に沿って形成し、そのスリット内にシート部材を挿入した後、前記スリットを舗装材料の充填ないしは前記表層の転圧により閉鎖することを特徴とするアスファルト舗装方法。
【請求項5】
少なくとも一つの車線を有する道路をアスファルト舗装する方法であり、前記車線の幅員方向両側に通行車両の左右の車輪走行位置に対応して所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域を設定し、その舗装補強帯域に属する基層もしくは路盤上に、車両の通行方向に沿って延びるアスファルト混合物からなる連続構造物であって左右両面が斜面部とされる三角形もしくは台形の横断面を有する凸条を設けると共に、その凸条の斜面部にシート部材を宛がい、次いで前記基層もしくは路盤上の全域に表層用アスファルト混合物を敷き均し、その後その表層用アスファルト混合物を転圧して締め固めることを特徴とするアスファルト舗装方法。
【請求項6】
前記シート部材として、天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布を用いることを特徴とする請求項4、又は5記載のアスファルト舗装方法。
【請求項1】
アスファルト舗装された少なくとも一つの車線を有する舗装道路において、
通行車両の左右の車輪走行位置に対応する車線の幅員方向両側部分で車両の通行方向に沿って表層に埋設されたシート部材を有し、
前記シート部材は、前記車線の幅員方向に対してシート面が直交ないしは傾斜していることを特徴とするアスファルト舗装構造。
【請求項2】
前記シート部材は、天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布であることを特徴とする請求項1記載のアスファルト舗装構造。
【請求項3】
前記シート部材は、ケナフ繊維、シマツナソ繊維、黄麻繊維、ローゼル繊維、又はジュート繊維からなる網状の布帛であることを特徴とする請求項1記載のアスファルト舗装構造。
【請求項4】
少なくとも一つの車線を有する道路をアスファルト舗装する方法であり、前記車線の幅員方向両側に通行車両の左右の車輪走行位置に対応して所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域を設定し、その舗装補強帯域に属する表層に、当該表層の表面に対して直交ないしは傾斜するスリットを車両の通行方向に沿って形成し、そのスリット内にシート部材を挿入した後、前記スリットを舗装材料の充填ないしは前記表層の転圧により閉鎖することを特徴とするアスファルト舗装方法。
【請求項5】
少なくとも一つの車線を有する道路をアスファルト舗装する方法であり、前記車線の幅員方向両側に通行車両の左右の車輪走行位置に対応して所定幅を有する左右一対の舗装補強帯域を設定し、その舗装補強帯域に属する基層もしくは路盤上に、車両の通行方向に沿って延びるアスファルト混合物からなる連続構造物であって左右両面が斜面部とされる三角形もしくは台形の横断面を有する凸条を設けると共に、その凸条の斜面部にシート部材を宛がい、次いで前記基層もしくは路盤上の全域に表層用アスファルト混合物を敷き均し、その後その表層用アスファルト混合物を転圧して締め固めることを特徴とするアスファルト舗装方法。
【請求項6】
前記シート部材として、天然繊維、無機繊維、再生繊維、合成繊維、又は半合成繊維からなる布帛もしくは不織布を用いることを特徴とする請求項4、又は5記載のアスファルト舗装方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−106195(P2011−106195A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263711(P2009−263711)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
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