説明

アスファルト舗装道路のコンクリート床版の電気化学的処理方法

【課題】 路面を供用しながらの処理が可能となる、また、通電による交通遮断の必要がないため通電期間を長く設定でき、処理効率を上げることができる、コンクリート床版中の塩分を電気化学的に除去する方法を提供する。
【解決手段】 コンクリート床版内部に配筋されている主鉄筋直上のコンクリート表面に、電解質溶液が通液可能な電極を設置して陽極とし、該陽極を含むコンクリート床版表面を被覆してアスファルトを敷設してアスファルト舗装道路を構築し、コンクリート床版内部に配筋されている主鉄筋を陰極として、電解質溶液を通液しながら陽極と陰極の間に直流電流を流すアスファルト舗装道路のコンクリート床版の電気化学的処理方法、電解質溶液の通液量が、コンクリート床版表面1m2あたり1〜300リットル/hrである該電気化学的処理方法、並びに、直流電流が、コンクリート床版表面1m2あたり0.1〜10Aである該電気化学的処理方法を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装道路のコンクリート床版の電気化学的処理方法、詳しくは、主鉄筋等鋼材を内部に含むアスファルト舗装道路のコンクリート床版に電気を流す方法、特に、コンクリート床版中の塩分を電気化学的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、種々の環境に対する抵抗性が強く、強アルカリ性であるため、その内部にある鋼材は表面に不動態が形成され、腐食から保護される。このため、コンクリート構造物は耐久性が高いと考えられてきた。
しかしながら、近年、中性化や塩害等による早期劣化が社会問題として取り上げられ、構造物としてのコンクリートの耐用年数の確保や維持管理のあり方に関して議論されている。
【0003】
一方、積雪寒冷地域において、路面の凍結を防止するために凍結防止剤が多く使用されている。
スパイクタイヤ禁止条例の施行以後、凍結防止剤の使用量は年々増加しており、今後の道路網の整備とともにさらに増加することが考えられる。
【0004】
凍結防止剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、及び塩化マグネシウムなどが使用されることが多く、粉末のまま、あるいは、水に溶解して路面に散布されている。
それらに含まれる塩化物イオンがコンクリート内部に浸透し、鉄筋が発錆してコンクリートにひび割れが生じ、構造物としての耐力が損なわれることがある。
【0005】
このように劣化したコンクリート構造物を補修する方法として、電気化学的な手法を用いた補修工法が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
これらの方法は、コンクリートの表面を、電解質溶液とセルロースファイバーからなる付着性塗布材料で一時的に被覆し、この被覆した付着性塗布材料に外部電極を埋設して、コンクリートの内部にある鉄筋と、外部電極間に直流電流を印加することにより、コンクリート内部から外部電極に向かって塩化物イオンを泳動させ、コンクリート内部から塩化物イオンを除去する方法である。
【0007】
また、同様の電気化学的処理方法として、有底構造の容器を用いる方法が提案されている(特許文献3参照)。
これは、コンクリート表面に電解質溶液を溜める有底構造の容器を密着して電解質溶液をコンクリート表面に接触させ、その容器内に外部電極を設置し、外部電極とコンクリート中の電極間に直流電流を印加する方法である。
【0008】
これらの方法では、道路橋の橋脚や床版下部に電極を設置する場合には、路面の供用の面で問題とならないが、道路への凍結防止剤の散布により床版上面側からの劣化が大きく、上面に電極を設置して処理を行う場合には、通電中に交通遮断しなければならず、その間は路面が供用できないという課題がある。
【0009】
【特許文献1】特開平01−176287号公報
【特許文献2】特開平02−302384号公報
【特許文献3】特開平03−093681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、通電中、交通遮断の必要がなく、路面を供用しながら処理が可能となる電気化学的処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、種々検討を行った結果、特定の方法を用いることにより、前記課題を解決できるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、コンクリート床版内部に配筋されている主鉄筋直上のコンクリート表面に、電解質溶液が通液可能な電極を設置して陽極とし、該陽極を含むコンクリート床版表面を被覆してアスファルトを敷設してアスファルト舗装道路を構築し、コンクリート床版内部に配筋されている主鉄筋を陰極として、電解質溶液を通液しながら陽極と陰極の間に直流電流を流すアスファルト舗装道路のコンクリート床版の電気化学的処理方法であり、電解質溶液の通液量が、コンクリート床版表面1m2あたり1〜300リットル/hrである該電気化学的処理方法であり、直流電流が、コンクリート床版表面1m2あたり0.1〜10Aである該電気化学的処理方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電気化学的処理方法を用いることにより、路面を供用しながらの処理が可能となる。通電による交通遮断の必要がないため通電期間を長く設定でき、処理効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
アスファルト舗装道路の表層のアスファルト層を剥がし、コンクリート床版の表面に電解質溶液を通液できる形状の電極を設置する。その際、主鉄筋の位置を、例えば、鉄筋探査器等により調べ、該鉄筋の直上に電極を設置し、陽極とする。
【0016】
陽極の仕様は特に限定されるものではないが、例えば、円筒のもの(図1参照)や円筒を半分に切ったもの(図2参照)などが使用可能である。
即ち、図1に示すように、円筒の側面に穴を開け、内部に電解質溶液を通液して穴から供給するようにしたものを設置し、コンクリート床版の表面との間にできる空間に、電解質溶液を通液できるものが使用可能である。
陽極の大きさは敷設するアスファルト層の厚さなどによるため、一義的に決定することはできないが、例えば、アスファルト層の厚さが5cmで、陽極が円筒の場合、外径1〜3cm程度が好ましい。
本発明において、陽極は電解質溶液の供給をも兼ねるため、電極と電解質溶液の供給とを別々に設置する場合より、施工を簡略化することが可能である。また、所定の通電の終了後、陽極をアスファルトに埋設したままにすることが可能であり、その後、凍結防止剤の散布などにより、再劣化を受けたときには、再度通電を行うことが可能である。
【0017】
陽極の材質としては、電気的な腐食に対する抵抗性が高いものが好ましい。具体的には、チタン、チタン合金、及び白金等、並びに、白金、パラジウム、又は酸化イリジウムなどで表面コーティングした金属やカーボン製のものの使用が好ましい。
【0018】
硬化したコンクリート内部には、飽和状態の水酸化カルシウム水溶液が間隙水として存在する。このため、コンクリートに電流を流すと、この間隙水が電解質の役割をして、コンクリート自身の電気抵抗に応じた電流が流れる。本発明では、さらに、処理作業上、このコンクリートに外部から電解質溶液を供給して、電流を流しやすくする。
【0019】
電解質溶液として好ましいのは、アルカリ性溶液であるが、中性溶液又はpH5以上の弱酸性溶液でも使用可能である。
アルカリ性溶液としては、各種のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等の水溶液が挙げられる。また、アルカリ骨材反応を誘発する恐れが少ないリチウム塩の水溶液や、処理中におけるpHの低下に対して緩衝作用のあるホウ酸又はその塩の併用も好ましい。
【0020】
電解質溶液の通液量としては、コンクリート表面1m2あたり、1〜300リットル/hrが好ましく、3〜100リットル/hrがより好ましい。1リットル/hr未満では電解質溶液の供給量が少なく、脱塩が不充分な場合があり、300リットル/hrを超えると被覆したアスファルトがコンクリート表面から剥離して、構造物としての一体性が損なわれる場合がある。
【0021】
本発明では、コンクリート表面に設置した陽極と、コンクリート内部に含まれる主鉄筋の陰極との間に直流電流を流すが、その量は、コンクリート表面1m2あたり、0.1〜10Aが好ましい。0.1A未満では脱塩が不充分な場合があり、10Aを超えると鉄筋とコンクリートとの付着力が低下する場合がある。
直流電流を流すことにより、コンクリートの内部から陽極に向かって塩化物イオンが泳動し、陽極が主鉄筋直上に設置されているため、鉄筋近傍の塩化物イオンが最短経路で移動し、鉄筋近傍の塩化物イオンの除去を効率的に行うことが可能である。
【0022】
本発明では、コンクリート表面に陽極を設置した後、アスファルトを敷設し、路面を供用しながら電気化学的処理を行う。
アスファルトは、通常、数年で磨耗・劣化するため、敷設し直す際に本方法を適用することも可能である。
また、本方法を行った後、陽極を撤去することも可能であるが、凍結防止剤の散布によるコンクリート床版の再劣化に備えてそのままにしておくことも可能である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実験例により具体的に説明するが、本発明はこれら実験例に限定されるものではない。
【0024】
実験例1
寒冷地に立地する化学工場の構内道路のコンクリート床版に電気化学的処理を行った。
この道路は、冬期の路面凍結を防止するために凍結防止剤を路面に散布しており、処理前におけるコンクリート床版中の鉄筋近傍の塩化物イオン含有量は3.0kg/m3と高く、鉄筋が腐食しやすい状態にあった。
磨耗していたアスファルト層を剥ぎ取り、コンクリート表面に図1に示す形状で、酸化イリジウムで表面コーティングされたチタン製の電極を設置した後、アスファルトを敷設した。
電解質溶液として、K2CO3やホウ酸を各々0.6mol/リットル、0.2mol/リットルとなるように水に溶解したもの調整し、ポンプにて、表1に示す通液量で通液した。
該電極を陽極とし、コンクリート中の鉄筋を陰極として、直流定電流電源によりコンクリート表面1m2あたり、1Aの直流電流を56日間流した。この間、交通遮断の必要はなく、車両の通行に支障はなかった。
その後、鉄筋近傍の塩化物イオン含有量を測定したところ、表1のように塩化物イオン含有量を低減できた。また、試験後にアスファルトとコンクリートの界面を確認したところ、剥離は見られず、構造物としての一体性を確保していた。
【0025】
<測定方法>
塩化物イオン含有量:JIS A 1154:2003「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法」に基づき、全塩化物イオン量を測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
実験例2
通液量を10リットル/hrとし、コンクリート表面1m2あたりの電流量を表2のように変えたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0028】
【表2】

【0029】
比較例1
実験例1に隣接した道路のコンクリート床版のコンクリート表面に、チタン製メッシュを設置してセルロースファイバーを吹付け、電解質溶液を散布し、表3のように通電期間を変えて電気化学的処理を行ったこと以外は、実験例1と同様に行った。
コンクリート上面に、チタン製メッシュとセルロースファイバーを設置するため、通電中は路面が供用できず、交通の妨げとなった。交通遮断期間を短くするために通電期間を短くすると、表3のように塩化物イオン含有量が低減し難かった。
【0030】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の電気化学的処理方法を用いることにより、通電中の交通遮断が必要ないため、特に高速道路や交通量の多い幹線道路等において、路面を供用しながらの処理が可能となる。また、通電期間を長く設定でき、処理効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の電気化学的処理方法の実施例の説明図である。
【0033】
【図2】本発明の陽極の形状を変えた電気化学的処理方法の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1・・・円筒型電極
2・・・コンクリート床版
3・・・主鉄筋
4・・・アスファルト
5・・・直流定電流電源
6・・・リード線
7・・・電解質溶液タンク
8・・・送液ポンプ
9・・・送液ホース
10・・・電解質溶液供給穴
11・・・半円筒型電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート床版とアスファルト層からなるアスファルト舗装道路のコンクリート床版の電気化学的処理方法であって、該コンクリート床版内部に配筋されている主鉄筋直上のコンクリート表面に、電解質溶液が通液可能な電極を設置して陽極とし、該陽極を含むコンクリート床版表面を被覆してアスファルトを敷設してアスファルト舗装道路を構築し、コンクリート床版内部に配筋されている主鉄筋を陰極として、電解質溶液を通液しながら陽極と陰極の間に直流電流を流すアスファルト舗装道路のコンクリート床版の電気化学的処理方法。
【請求項2】
電解質溶液の通液量が、コンクリート床版表面1m2あたり、1〜300リットル/hrである請求項1に記載のアスファルト舗装道路のコンクリート床版の電気化学的処理方法。
【請求項3】
直流電流が、コンクリート床版表面1m2あたり、0.1〜10Aである請求項1又は請求項2に記載のアスファルト舗装道路のコンクリート床版の電気化学的処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate