説明

アスベスト分析方法

【課題】アスベストの分析を短時間で容易に行う。
【解決手段】以下の工程を含んでなる試料中のアスベストの分析方法:(1)試料の重量を測定し重量値W1を得、前記試料を水洗して該試料から水溶性の汚れを除去する水洗工程、(2)前記水洗工程の後に、前記試料からタルク、酸化チタンおよびグラスウールを除去する特定材料除去工程、(3)前記特定材料除去工程の後に、前記試料を有機溶剤で洗浄して該試料から樹脂分を溶解除去する有機溶剤洗浄工程、(4)前記有機溶剤洗浄工程の後に、前記試料を、ガラスフィルタ容器内に入れた状態で、酸溶液中に浸漬し、煮沸し、水洗し、乾燥し、前記試料の重量を測定し重量値W2を得る酸処理工程、および、(5)前記重量値W1,W2の値を用いて、前記水洗工程前の試料中のアスベスト含有率の値を算出するアスベスト含有率算出工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト(石綿)の分析方法に関するものであり、特に、試料中のアスベストの分析を簡易に行うことを企図したものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アスベストを含有する塗膜からのアスベスト飛散による健康障害の回避が強く要望されている。現在では、塗膜等におけるアスベストの使用は規制されている。しかし、過去に塗装された塗膜のうちには、アスベスト含有のものがある。
【0003】
このような現況から、建材(塗膜を含む)等におけるアスベスト分析(アスベスト含有の有無を判定する定性分析及びアスベスト含有量を測定する定量分析)の要請の数が増大している。建材中のアスベスト分析については、厚生労働省労働基準局長通達[基発第0821002号:平成18年8月21日]「建材中の石綿含有率の分析方法について」及び厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長通達[基安化発第0821001号:平成18年8月21日]「建材中の石綿含有率の分析方法に係る留意事項について」に記載されているように、JIS−A−1481「建材製品中のアスベスト含有率測定方法」(非特許文献1)が規定されており、これに基づくアスベスト分析が一般的に実施されている。
【非特許文献1】JIS−A−1481「建材製品中のアスベスト含有率測定方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
JIS−A−1481に規定された方法は、顕微鏡による定性分析及びX線回折による定性分析の組み合わせによってアスベスト含有の有無を判別し、アスベスト含有と判定された場合には、続いてX線回折分析法或いは標準添加法または内標準法(JIS K 0131)による定量分析を行ってアスベスト含有率を求めるものである。しかし、この方法では、アスベスト含有の有無の判別のための定性分析に先立ち、一次分析試料の作製を行わねばならない。この一次分析試料の作製に際しては、有機成分が多く含まれている試料の場合には、先ず450℃で1時間以上加熱して有機物を除去し無機物のみにする。次いで、これを425〜500μmのふるいを通るまで粉砕する。尚、アスベスト定量分析に先立ち、二次分析試料の作製を行う。その際には、一次分析試料を20%蟻酸で処理し、それをガラスファイバフィルタで濾過し、濾過残さを得る。
【0005】
このように、従来のアスベスト分析方法は、含有率0.1%以下の精度を有するものであるが、分析に長時間を要するとともに、測定に熟練を要するなどの難点がある。特に、分析のための試料の調整作業が面倒で長時間を要する。
【0006】
そこで、本発明は、アスベストの分析を短時間で容易に行うことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以上の如き目的を達成するものとして、以下の工程を含んでなる試料中のアスベストの分析方法が提供される。
【0008】
(1)試料の重量を測定し重量値W1を得、前記試料を水洗して該試料から水溶性の汚れを除去する水洗工程、
(2)前記水洗工程の後に、前記試料からタルク、酸化チタンおよびグラスウールを除去する特定材料除去工程、
(3)前記特定材料除去工程の後に、前記試料を有機溶剤で洗浄して該試料から樹脂分を溶解除去する有機溶剤洗浄工程、
(4)前記有機溶剤洗浄工程の後に、前記試料を、ガラスフィルタ容器内に入れた状態で、酸溶液中に浸漬し、煮沸し、水洗し、乾燥し、前記試料の重量を測定し重量値W2を得る酸処理工程、および、
(5)前記重量値W1,W2の値を用いて、前記水洗工程前の試料中のアスベスト含有率の値を算出するアスベスト含有率算出工程。
【0009】
本発明の一態様においては、前記酸処理工程では、酸溶液として塩酸溶液または蟻酸溶液が用いられ、煮沸の時間は5分〜60分である。本発明の一態様においては、前記有機溶剤としてテトラヒドロフランを用いる。本発明の一態様においては、前記特定材料除去工程はフッ酸処理により行われる。
【0010】
本発明の一態様においては、前記ガラスフィルタ容器は、上端部および下端部が開放された筒状体、および該筒状体の内部に上端部側と下端部側とを隔てるように設けられたフィルタ部を備えており、前記下端部には液体流通可能な切欠が設けられている。本発明の一態様においては、前記試料は剥離した塗膜である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるアスベスト分析方法によれば、試料を予め所要の形態にする前処理工程が不要であるので、分析を短時間で容易に行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明によるアスベスト分析方法の一実施形態を説明するための工程図である。本実施形態では、分析対象の試料として、剥離した塗膜を使用する。塗膜としては、例えば、建材または構築材の表面に塗装された塗膜が例示される。
【0014】
(1)水洗工程
この工程では、先ず、試料の重量を測定し、重量値W1を得る。次に、この試料から水溶性の汚れを除去するために、試料をたとえば100メッシュのステンレススチール製の網上に置き、該試料を水洗する。
【0015】
(2)特定材料除去工程
この工程では、試料から、後述の酸処理工程で溶解しない特定材料としてのタルク、酸化チタンおよびグラスウールを除去する。塗膜中には顔料および添加材として無機質分が含まれているが、これらの無機質分のうちで酸処理工程で溶解しないものとして、アスベスト以外には、顔料として含まれるタルクおよび酸化チタン並びに添加材として含まれるグラスウールがある。そこで、これらの特定材料が試料中に存在する場合にこれらの特定材料を除去する。この特定材料除去のための処理としては、例えばフッ酸処理が挙げられる。これによりタルク及びグラスウールはフッ酸溶液中に溶解して除去され、酸化チタンはこの溶液と共に除去される。
【0016】
(3)有機溶剤洗浄工程
この工程では、試料から樹脂分を溶解除去するために、有機溶剤による洗浄を行う。有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフランを使用することができるが、これに限定されるものではない。この有機溶剤洗浄の際にも、上記水洗の場合と同様に、100メッシュのステンレススチール製の網上に試料を置き、洗浄することができる。
【0017】
(4)酸処理工程
この工程では、試料を酸溶液中に浸漬し、煮沸し、水洗し、乾燥する酸処理を行う。この処理は、試料を図2に示されるようなガラスフィルタ容器内2に入れた状態で実施することができる。ガラスフィルタ容器2は、ガラス製であり、上端部および下端部が開放された筒状体21、および該筒状体の内部に上端部側と下端部側とを隔てるように設けられたフィルタ部22を備えている。フィルタ部22は目の粗いもの(例えば1G)を使用するのが好ましい。筒状体21の下端部には、液体流通可能な切欠21aが設けられている。筒状体21内のフィルタ部22上の収容空間に、試料Sが収容される。この試料Sを収容したガラスフィルタ容器2は、図4に示されるように、酸溶液4の入ったビーカなどの酸溶液容器6内に置かれる。酸溶液4は、切欠21aおよびフィルタ部22を通ってガラスフィルタ容器2の収容空間内にまで侵入し、かくして、試料Sが酸溶液4中に浸漬される。
【0018】
酸溶液4としては、10%塩酸水溶液を用いることができるが、これに限定されるものではない。他濃度の塩酸水溶液や適宜濃度の蟻酸水溶液を用いることができる。酸溶液4中に浸漬した状態での試料Sの煮沸は、例えば5分〜60分実施するのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0019】
水洗および乾燥は、試料Sが収容されたガラスフィルタ容器2を酸溶液容器6から取り出して行う。これにより、酸溶液4中に溶解しなかった試料中成分すなわちアスベストがガラスフィルタ容器2内に残る。乾燥は、例えば100℃で1時間実施するのが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0020】
次に、以上のような酸処理後の試料S(すなわち酸溶液4中に溶解しなかった試料成分)の重量を測定し重量値W2を得る。この重量測定は、酸処理後の試料Sを収容したガラスフィルタ容器2の重量を測定し、この重量からガラスフィルタ容器2自体の重量(予め測定しておくことができる)を減ずることで、得ることができる。
【0021】
(5)アスベスト含有率算出工程
この工程では、上記重量W1,W2の値を用いて、当初すなわち水洗工程前の試料中のアスベスト含有率Cの値を、以下の式(1)
C=(W2/W1)×100[%]・・・(1)
により算出する。
【0022】
尚、特定材料検出除去工程以降の各工程では、前工程後の試料のうちの一部のみを使用することができる。その場合には、
(1)水洗工程後の試料重量値をW1bとし、
(2)特定材料除去工程で使用する試料重量値をW’aとし、この工程後の試料重量値をW’bとし、
(3)有機溶剤洗浄工程で使用する試料重量値をW”aとし、この工程後の試料重量値をW”bとし、
(4)酸処理工程で使用する試料重量値をW2aとして、
上記式(1)に代えて、以下の式(2)
C=(W2/W2a/W”b/W”a/W’b/W’a/W1b/W1)
×100[%]・・・(2)
を使用することができる。
【0023】
本発明においては、前記酸処理工程の後に、試料のX線回折測定を行い、アスベストに特有の回折パターンが現れていることを確認する確認工程を実施することができる。このようなアスベストに特有の回折パターンが現れていることを確認した一例として、図3および図4にX線回折図を示す。図3は或る試料につき上記確認工程で得られたX線回折図であり、図4はアスベストの一種であるアモサイトの標準的なX線回折図である。図4に示されているアモサイト第一回折線(2θ=10〜11°)及びアモサイト第二回折線(2θ=29〜30°)の特徴が、図3のX線回折図に現れており、従って、このアスベストはアモサイトであることが確認される。尚、この確認工程は、赤外吸収スペクトルの測定及び標準的な赤外吸収スペクトルとの比較により行うことも可能である。
【0024】
以上の実施形態では、アスベストとしてアモサイトが例示されているが、本発明は、アスベストがクリソタイルまたはクロシドライト等である場合にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明によるアスベスト分析方法の一実施形態を説明するための工程図である。
【図2】ガラスフィルタ容器の使用状態を示す模式的断面図である。
【図3】確認工程で得られたX線回折図である。
【図4】アモサイトのX線回折図である。
【符号の説明】
【0026】
2 ガラスフィルタ容器
21 筒状体
21a 切欠
22 フィルタ部
4 酸溶液
6 酸溶液容器
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含んでなる試料中のアスベストの分析方法:
(1)試料の重量を測定し重量値W1を得、前記試料を水洗して該試料から水溶性の汚れを除去する水洗工程、
(2)前記水洗工程の後に、前記試料からタルク、酸化チタンおよびグラスウールを除去する特定材料除去工程、
(3)前記特定材料除去工程の後に、前記試料を有機溶剤で洗浄して該試料から樹脂分を溶解除去する有機溶剤洗浄工程、
(4)前記有機溶剤洗浄工程の後に、前記試料を、ガラスフィルタ容器内に入れた状態で、酸溶液中に浸漬し、煮沸し、水洗し、乾燥し、前記試料の重量を測定し重量値W2を得る酸処理工程、および、
(5)前記重量値W1,W2の値を用いて、前記水洗工程前の試料中のアスベスト含有率の値を算出するアスベスト含有率算出工程。
【請求項2】
前記酸処理工程では、酸溶液として塩酸溶液または蟻酸溶液が用いられ、煮沸の時間は5分〜60分であることを特徴とする、請求項1に記載のアスベスト分析方法。
【請求項3】
前記有機溶剤としてテトラヒドロフランを用いることを特徴とする、請求項1乃至2のいずれか一項に記載のアスベスト分析方法。
【請求項4】
前記特定材料除去工程はフッ酸処理により行われることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアスベスト分析方法。
【請求項5】
前記ガラスフィルタ容器は、上端部および下端部が開放された筒状体、および該筒状体の内部に上端部側と下端部側とを隔てるように設けられたフィルタ部を備えており、前記下端部には液体流通可能な切欠が設けられていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアスベスト分析方法。
【請求項6】
前記試料は剥離した塗膜であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のアスベスト分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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