説明

アスベスト判定方法

【課題】アスベストの含有有無を作業現場で瞬時、且つ簡単に判定することができるアスベスト判定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】被検体の酸処理溶解液をアルカリ水溶液で中和し、該中和水溶液にアンモニウム塩水溶液と燐酸塩水溶液からなる沈殿反応試薬を作用させ、上記被検体に含まれるマグネシウムイオンを選択的に沈殿させることにより被検体中のアスベストの含有有無を判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアスベストの含有有無を作業現場で瞬時、且つ簡単に判定することができるアスベスト判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベスト含有の有無判定法については、従来建築材料・器材、土木建設材料・器材、その他器材等からサンプリングした試料を持ち帰り、機器試験室で、偏光顕微鏡法、(「分散染色法」を含む。)、位相差顕微鏡法、電子顕微鏡法、光散乱式繊維状粒子計数法、X線回折法等を使用して、分析判定する方法がある。
【0003】
しかし、上述の光学機器を使用する判定法の中には判定方法には優れた面もあるが、判定時間が掛かりすぎ、且つ分析費用が高い欠点がある。特に、現場での判定が難しく、現場の多様性に対応できない欠点がある。
【0004】
周知のようにアスベストにはクリソタイル、クロシドライトなど数種類が知られているが、その構成元素はシリカ、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、鉄などがあり、その構造式は例えばMg(SiO)(OH)、Ca(Mg,Fe)O22(OH)等で表される。
【0005】
上述の機器分析による替わるアスベスト有無の判定法としてアスベストに含まれる鉄イオンを検出する簡易式判定方法などが報告されている(特許第3341152号)。
【特許文献1】特許第3341152号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許第3341152号に開示されている鉄イオン判定方法の場合には、アスベストを含まない他の素材に含まれる鉄イオンを同時に判定する可能性が高いことから実用に適しないことが考えられる。
【0007】
また、鉄は必ずしもアスベスト中に含まれていないこともあり、したがって鉄の検出によってアスベストの有無を判定することはあまり意味がない。
【0008】
更に、アスベスト中に含まれるカルシウム、ナトリウムに着目し、これを分析することによりアスベストの有無を判定することも考えられるが、カルシウム、ナトリウムは必ずしもアスベスト中に含まれていないこともあり、またアスベストを含まない他の素材に含まれるカルシウム、ナトリウムイオンを同時に検出してしまうこともあり、したがってカルシウム、ナトリウムの検出によってアスベストの有無を判定することは実用に適しない。
【0009】
一方、マグネシウムはアスベスト中に必ず含まれており、しかも現在まで耐摩耗材、不燃耐燃材、絶縁材などにはアスベストを含まないマグネシウム素材が単独では使用されることは皆無であり、したがってマグネシウムはアスベスト有無の判定に最適な構成元素である。
【0010】
しかし、カルシウムとマグネシウムはアルカリ土類金属には属し、化学的性質が非常に類似しているため、マグネシウムには化学反応により含有されるカルシウムと簡単に判別することが難しいという欠点がある。
【0011】
この発明は従来法とは根本的に異なり、アスベストの構成元素にマグネシウムが含まれていることに留意し、マグネシウムだけを選択的に検出することができるアスベスト有無の判定法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は上記実情に鑑み、被検体の酸処理溶解液をアルカリ水溶液で中和し、該中和水溶液にアンモニウム塩水溶液と燐酸塩水溶液からなる沈殿反応試薬を作用させ、上記被検体に含まれるマグネシウムイオンを選択的に沈殿させることにより被検体中のアスベストの含有有無を判定することを特徴とするアスベスト判定方法を提案するものである。
【0013】
以下の反応式に基づいてこの発明の原理を説明すると、
【0014】
【化1】

【0015】
マグネシウムを含む被検体を酸処理して得られた酸処理溶液(1)を中和した後、中和液中のマグネシウムイオンに燐酸ナトリウムと塩化アンモニウムを作用すると、白色沈殿が検出されてマグネシウムの検出が可能である。
【0016】
これに対してマグネシウムの他に、カルシウム、鉄を含む被検体を酸処理して得られた酸処理溶液(3)を中和した後、中和液中のカルシウムイオン乃至鉄イオンに燐酸ナトリウムと塩化アンモニウムを作用させても、カルシウム、鉄イオンは沈殿として検出されない。以上の反応式から明らかなように、マグネシウムイオンは白色沈殿として検出されるが、カルシウム、鉄イオンは沈殿として検出されない。
【0017】
即ち、この発明では被検体中にマグネシウムの他に、カルシウム、鉄が含まれていても、マグネシウムのみを検出して被検体中のマグネシウムの有無を判定できる。
【0018】
したがって、この発明の判定法は他のイオンの干渉を受けることがないから、アスベストの判定に使用できるものである。
【0019】
ここで、被検体としては、アスベストを含有する虞のある石綿工業製品乃至建材製品、絶縁体素材、耐摩耗材などが考えられる。
【0020】
被検体重量は0.01g〜2g、好ましくは0.5g程度でよく、即ち13mm程度の大きさの被検体を使用することが好ましい。
【0021】
この発明において酸処理液としては0.1〜3モル濃度、好ましくは0.5モル濃度の塩酸水溶液等がが使用され、中和用アルカリ溶液としては0.1〜3モル濃度、好ましくは0.6モル濃度の苛性ソーダ水溶液等が使用される。
【0022】
また、アンモニウム塩水溶液と燐酸塩水溶液からなる沈殿反応試薬は例えば塩化アンモニウム水溶液と燐酸ナトリウム水溶液或いは塩化アンモニウム水溶液と燐酸水素ナトリウム水溶液の組み合わせで構成でき、各々水溶液は0.1〜3モル濃度が適当である。
【0023】
この発明に使用する沈殿反応試薬の添加順は任意であるが、好ましくは燐酸塩水溶液を先に添加することが好ましいが、アンモニウム水溶液を先に添加してもよく、またこれらの水溶液を予め混合したものを添加してもよい。
【0024】
この発明において酸処理反応時間は1〜3分、沈殿反応時間は3〜10分程度、好ましくは5分程度である。
【発明の効果】
【0025】
以上要するに、この発明によれば従来のアスベスト判定方法と異なり、作業現場乃至簡易試験室で簡便にアスベスト判定を行うことができ、また判定時間と分析に要する費用が少なくて済み作業現場で多くの箇所での判定を迅速に行うことができる。
【0026】
この発明によれば被検体は0.05g〜2gで済み、判定時間は1分〜10分でアスベスト有無の判定が可能である。
【0027】
しかも、この発明では色素法乃至X線回折法と同程度の判定の精度は高く、したがってこの発明により、アスベストの飛散による公害を事前に防ぐ対策として効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
0.5mgの被検体を採取し、これに0.5モル濃度の塩酸処理溶液に溶解させ、更に0.6モル濃度の苛性ソーダ水溶液を加えて中和し、この中和溶液に1モル濃度の塩化アンモニウム水溶液と1モル濃度の燐酸ナトリウム水溶液からなる沈殿反応試薬を加えて白色沈殿の有無より被検体中のアスベストの有無を判定する。
【実施例】
【0029】
以下、この発明の実施例を説明するが、この発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
なお、この実施例において使用する判定試薬は全て市販の1級試薬乃至特級試薬である。
【0031】
実施例1
0.001モル濃度のマグネシウム水溶液、0.005モル濃度のカルシウムイオン水溶液、0.001モル濃度の鉄イオン水溶液を各々3mlを別々の試験管に入れ、0.5モル濃度に調製したアルカリ処理液を1mlを各々の試験管に加えて1分間よく振り溶液をアルカリ性にする。その溶液に0.1モル濃度に調整したした燐酸ナトリウム及び塩化アンモニウム水溶液を各々3ml加え、よく振りながら反応させ、その後5分間静置した。
【0032】
5分後、マグネシウム水溶液の試験管には白色の沈殿が試験管の底に生じているのが確認されたが、カルシウム水溶液及び鉄イオン水溶液が入っている試験管には沈殿が発生しなかった。
【0033】
実施例2
0.001モル濃度のマグネシウムイオン水溶液3ml、0.005モル濃度のカルシウムイオン水溶液3ml、0.005モル濃度の3価鉄イオン水溶液3mlを試験管に入れて混合した混合液を調整した。一方0,005モル濃度のカルシウムイオン溶液3mlと0.005モル濃度の鉄イオン水溶液3mlを試験管に入れて混合した。
【0034】
この二つの試験管に各々0.5モル濃度に調整した水酸化ナトリウム水溶液3mlを添加してアルカリ水溶液にした。
【0035】
引き続き、0.1モル濃度に調整した燐酸ナトリウム水溶液及び塩化アンモニウム水溶液を各々3mlづつ加えて沈殿は反応を行った。
【0036】
その結果、マグネシウムイオンが入った混合液では沈殿が生じたが、マグネシウムイオンが含まれない混合液では沈殿が発生しなかった。
【0037】
実施例3
ケイカル板(市販のもの)1m角ほどを被検体とした。重量は約0.005g程度であった。
【0038】
この被検体に0.5モル濃度に調整した塩酸酸処理液1ml加え、被検体を溶解させた。この上澄み液を採り、試験管に入れ、0.5モル濃度に調整した水酸化ナトリウム水溶液を3ml加え、溶液をアルカリ性にした。
【0039】
この溶液に0.5モル濃度に調整した燐酸ナトリウム水溶液と0.5モル濃度の塩化アンモニウム水溶液を各々5ml加えて沈殿反応を行った。
【0040】
5分間静置した後、沈殿の有無を調べた結果、沈殿物は発生しなかった。この結果、このケイカル板にはアスベストが含まれていないことが明らかになった。
【0041】
実施例4
採取した繊維状の建材1mm角の被検体を実施例3と同じように検査を行ったが、沈殿は発生しなかった。
【0042】
公的検査機関の検査でもこの発明の判断結果と同様にアスベストは含まれていないことが判明した。
【0043】
実施例5
地下駐車場の天井部分にある建材を採り、5箇所の採取箇所から採取した1mm角程度のもの5個を被検体として判定試験を実施例3と同様に行ったが、その結果全ての被検体で沈殿が発生し、公的検査機関の検査でも陽性であった。
【0044】
実施例6
中古車のブレーキ板に付いている繊維状の摩擦材を採り、1mm1角程度にして被検体として判定試験を実施例3と同様に行ったが、沈殿が生じ、このブレーキ材にアスベストが含まれていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明により、建造物のリニューアル及び立て替え時アスベストの有無を現場で簡単に検査することができ、アスベストが含まれていないと判断できれば、すぐに作業に取り掛かることができる。
【0046】
この発明によりアスベストが含まれていることを短時間で判定することにより、アスベストの飛散による公害を未然に防ぐことができる。
【0047】
アスベストが様々な分野で使用されてきた結果、その使用対象物の判定が非常に難しく且つ現場ですぐに判定することが要求されていることから、この発明はそれらの社会的要求に即応できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の酸処理溶解液をアルカリ水溶液で中和し、該中和水溶液にアンモニウム塩水溶液と燐酸塩水溶液からなる沈殿反応試薬を作用させ、上記被検体に含まれるマグネシウムイオンを選択的に沈殿させることにより被検体中のアスベストの含有有無を判定することを特徴とするアスベスト判定方法。
【請求項2】
沈殿試薬を構成するアンモニウム塩水溶液が塩化アンモニウム水溶液であり、燐酸塩水溶液がが燐酸ナトリウム乃至燐酸水素ナトリウム水溶液である請求項1記載のアスベスト判定方法。

【公開番号】特開2008−107093(P2008−107093A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287427(P2006−287427)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(502350618)株式会社グリーンケミー (2)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【Fターム(参考)】