説明

アスベスト固化処理方法及び装置

【課題】アスベストを固化するに際して、アスベスト繊維それ自体の非飛散化を図るための飛散防止剤をアスベスト層中に効率的に浸透させて、より一層の安全性の確保することができるアスベスト固化処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】アスベスト固化処理装置40は、ナノ超微粒子結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤を貯蔵可能な処理剤貯蔵容器42から、処理剤供給手段43の先端に設けられている噴霧アダプタ45に向けて圧送する。圧送された無機質・水溶性セラミック処理剤は、噴霧アダプタ45においてアスベスト層10aに向かって噴霧され、アスベスト層10a内に含浸・浸透され、アスベスト繊維を束化させた状態に一体化して固化する。束化されたアスベスト繊維は非飛散化されるとともに、発がん性の可能性のある長繊維の形状を変化させ飛散による健康被害から守る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井や壁面等に吹き付け等により施工されたアスベスト(石綿)を固化させることでアスベストを非飛散化した上で封じ込めることができ、更にその後のアスベストの簡易な処理をも可能にするアスベスト固化処理方及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、アスベストは建築材料、耐火・断熱材、電気絶縁材料として利用されてきたが、発がん性があるとして現在は使用が禁止されている。
【0003】
そこで、既に施工されているアスベストを処理しなければならないが、これの処理方法としては、アスベストを除去してこれをコンクリートで固める方法、アスベストをベニヤ板等で外に出さないように囲い込む方法、アスベストの表面に塗装加工を施して固化させる封じ込め方法の三つの方法がある。
【0004】
アスベストを除去してこれをコンクリートで固める方法では、アスベストが環境中に飛散する恐れがあって完全ではなく、また、アスベストをベニヤ板等で外に出さないように囲い込む方法は、一時的な飛散防止策であって、地震等による建物崩壊時のアスベストの飛散を防止することはできず、アスベストを除去して非飛散化しない限り根本的な解決にはならない。
【0005】
また、アスベストの表面を固化する方法は、一時的にアスベストの飛散を防止するだけであって、いずれ行うアスベスト除去工事の先送りに過ぎない。
【0006】
そこで、本発明者は、アスベスト内部に、ナノ超微粒子半透明液である無機質・水溶性セラミックコーティング剤を含浸・浸透させて固化・封じ込めることにより、アスベストの集荷・集塵する段階からアスベストの大気中への飛散を防止し得る処理方法を発明し、特許出願をした(特願2006−115072)。このアスベスト処理方法によれば、アスベスト処理対策における課題とされる、除去・封じ込め・囲い込みのいずれの施工方法であってもその時のアスベスト飛散を防止することを解決することができる。即ち、アスベストは所定の形状(太さ及び長さ)の繊維が人体に有害であることを考慮して、ナノ分子構造(超微粒子構造)の処理剤をアスベスト層に含浸・浸透させることでアスベスト繊維それ自体が飛散し得る形態として残らないように固化・封じ込めているので、アスベストの大気中への飛散を防止して、アスベストに対する安全性を確保している。
【0007】
上記の発明は、アスベスト処理対策におけるもう一つの課題である、アスベスト除去後の適正且つ簡易な廃棄処理を行うことも可能にしている。即ち、現状では、処理後のアスベストは、廃棄物処理関連法規上の「特定管理産業廃棄物」であって厳しい規制の対象となっており、二重のプラスチック袋に詰めて土中に埋めるか、コンクリートで固化して土中に埋めることが求められる。しかしながら、これらの処理ではアスベストを無害化しているわけではないので、根本的な対策・処理とは言い難い。アスベスト処理において、「特定管理産業廃棄物」として処理するか、普通の産業廃棄物として処理できるかは、要するコストからアスベストが施工されている建物及び土地の再利用に至るまで、大きな影響を及ぼす。この発明によれば、処理剤が含浸・浸透されて固化された後の除去物は、アスベスト繊維が束化されているために非飛散化され、現在の「アスベスト成形板」以上に飛散性の恐れのない形状に変化させているために、普通の産業廃棄物として処理できる道を開くものであり、管理・取扱いを極めて簡便化する可能性がある。
【0008】
しかしながら、封じ込め処理された壁や天井のアスベスト層を除去して集荷・集塵する場合に、アスベスト繊維が飛散して環境中に出て行くのを阻止するためにアスベスト中に飛散防止剤を隈なく浸透させる作業は、手間と時間とを要するものであって作業行程が複雑化し作業時間が長期化するのが避けられず、アスベスト処理コストが上昇する原因となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、アスベストの発がん性が長繊維の形状(直径2μm以下、長径82μ以上)にあるといわれていることを考慮して、壁や天井に吹き付け施工されたようなアスベストに対してアスベスト繊維それ自体が飛散し得る形態として残さないように非飛散化し、アスベストに対する安全性の確保を図るアスベスト固化処理方法及び装置において、飛散防止剤をアスベスト中に効果的に浸透させる点にある。
【0010】
本発明の目的は、アスベストの環境中への非飛散化による完全な防止策となる封じ込め処理をする場合、または既に完全に非飛散化状態に封じ込め処理されたアスベストを除去する場合において、施工されたアスベスト層中に飛散防止剤を効果的に浸透させることで人為的作業によるアスベスト層中への飛散防止剤の含浸ムラを回避し、施工処理中に万が一でのアスベスト繊維の飛散等による作業員の健康被害を回避して安全で且つ迅速な作業の自動化処理を可能とし、更に足場等の不要による処理コストの低減を図ることができるアスベスト固化処理方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的を達成するため、本発明によるアスベスト固化処理方法は、アスベストの表面に、ナノ超微粒子を結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤を噴霧吹き付けして、前記無機質・水溶性セラミック処理剤を前記アスベストの内部に含浸・浸透させ、前記ナノ超微粒子と前記アスベストとを、アスベスト繊維を束化させた状態に一体化して固化させる工程から成っている。
【0012】
また、本発明によるアスベスト固化処理方法は、アスベストの内部に、ナノ超微粒子を結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤を注入して、前記無機質・水溶性セラミック処理剤を前記アスベストの内部に直接に含浸・浸透させ、前記ナノ超微粒子と前記アスベストとを、アスベスト繊維を束化させた状態に一体化して固化させる工程から成っている。
【0013】
このアスベスト固化処理方法によれば、アスベストに噴霧吹き付けられ又は内部に注入されてアスベストを固化・封じ込める処理剤として、ナノ超微粒子を結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤を使用し、この処理剤は、ナノ分子構造の溶剤であり、微粒子そのものがバインダー(接着剤)機能を有して分子間結合しながらアスベストの内部全体へ深く含浸・浸透し、アスベスト繊維を束化し一体化して固化する。アスベスト繊維は特定の太さ及び長さを持つものが病原性を示すことが判っているので、束化されたアスベスト繊維は非飛散化されているとともに、発がん性の可能性のある長繊維を束化させることでその可能性を解消するような繊維形状に変化させることで、その後の処理をも安全裏に行うことができる。アスベスト層が厚い場合には、アスベスト表面からのみでは、噴霧吹き付けされた処理剤が層厚さに渡って深く含浸・浸透し難いので、無機質・水溶性セラミック処理剤をアスベストの内部に注入することで、アスベストの内部に直接に含浸・浸透させることができる。
【0014】
本発明によるアスベスト固化処理装置は、移動台車と、ナノ超微粒子を結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤を貯蔵可能な処理剤貯蔵容器と、前記移動台車に搭載されており、前記処理剤貯蔵容器から前記無機質・水溶性セラミック処理剤を吸い込んで圧送可能な処理剤供給手段と、前記処理剤供給手段の先端に設けられており、アスベスト層に前記無機質・水溶性セラミック処理剤を適用するアダプタと、を備えている。
【0015】
このアスベスト固化処理装置によれば、ナノ超微粒子結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤は、貯蔵可能な処理剤貯蔵容器から処理剤供給手段によって吸い込まれて、処理剤供給手段の先端に設けられているアダプタに向けて送られる。送された無機質・水溶性セラミック処理剤は、アダプタにおいてアスベスト層に適用される。アスベスト層に適用された無機質・水溶性セラミック処理剤は、アスベスト層内に含浸・浸透され、ナノ超微粒子がアスベスト繊維を束化させた状態に一体化して固化する。アスベスト繊維は特定の太さ及び長さを持つものが病原性を示すとされているので、束化されたアスベスト繊維は非飛散化されているとともに、発がん性の可能性のある長繊維を束化させることでその可能性を解消するような繊維形状に変化させている。移動台車によってアスベスト施工現場を走行可能であり、アスベスト層を隈なく無機質・水溶性セラミック処理剤で含浸・浸透させることができる。ナノ分子構造の処理剤は、たとえ下方からの含浸であっても、毛細管現象による浸透作用によってアスベスト層内を浸透し、上部まで充分にアスベスト繊維に含浸させることができる。
【0016】
このアスベスト固化処理装置において、前記アダプタは、前記アスベスト層の施工表面形態に相応した形状を有するアダプタ表面を備えており、前記アダプタ表面に開口して前記無機質・水溶性セラミック処理剤を噴霧させる多数の噴出孔が形成された噴霧アダプタとすることができる。アスベスト層の施工表面は、通常、平面又は折板状であるので、アダプタ表面をそうした表面形状に相応した形状とすることにより、噴霧アダプタを移動させながら処理剤を噴霧させることで、広いエリアのアスベストに対して処理剤を効率的に含浸・浸透させることができる。また、アダプタに処理剤を噴霧させる多数の噴出孔を形成することによって、処理剤を短時間に均一にアスベスト層に噴霧することができる。
【0017】
また、このアスベスト固化処理装置において、前記アダプタは、前記アスベスト層内に前記無機質・水溶性セラミック処理剤を直接に注入する多数の注入針を備える注入アダプタとすることができる。アスベスト層の厚さが表面への噴霧だけでは早期に且つ充分に内部まで処理剤を含浸・浸透させることができない程度に厚い場合には、注入アダプタに備わる多数の注入針から、アスベスト層内に処理剤を直接に注入するのが効果的である。アスベスト層の内部から処理剤の注入を行うことにより、処理剤をアスベスト層の全体に渡って隈なく含浸・浸透させることができる。また、処理剤を注入するために突き刺して注入後に引き抜かれた注入針によってアスベスト層に針跡が形成されるが、そうした針跡の空隙にも処理剤は速やかに浸透し、注入処理後の後処理が不要であり、針跡からのアスベスト繊維の飛散も皆無となる。
【0018】
注入アダプタを備えたアスベスト固化処理装置において、前記注入アダプタは、前記アスベスト層の表面に当接可能な裏あて板と、前記注入アダプタと前記裏あて板との間に介装されて前記裏あて板を前記アスベスト層の表面に弾性力で押し当てる弾性手段とを備えることができる。裏あて板によって、弾性手段の弾性力でアスベスト層の表面を支えることによって、アスベスト層を崩れさせることなく、安全裏にアスベスト層の内部にセラミック処理剤を注入することができる。
【0019】
このアスベスト固化処理装置において、前記アダプタは、水平軸線周りに回動可能なアームによって支えられており、前記アームの前記水平軸線回りにおける回動位置を選択することにより、側壁上に施工された側壁アスベスト層と天井壁面上に施工された天井アスベスト層とのいずれにも前記無機質・水溶性セラミック処理剤を適用可能である。水平軸線周りに回動可能なアームによってアダプタを支持し、アームの水平軸線回りにおける回動位置を選択して作業モードを切り替えることによって、側壁上に施工された側壁アスベスト層に対しても、天井壁面上に施工された天井アスベスト層に対しても、同じアスベスト固化処理装置によって固化処理を施すことができる。
【0020】
アダプタを水平軸線周りに回動可能なアームによって支えた上記アスベスト固化処理装置において、前記アームは、前記アダプタの高さ及び姿勢を変更するため前記移動台車上に配設されている調整機構によって支持されており、前記調整機構は、前記移動台車上に立設された支柱と前記支柱に対して係合高さ位置が変更可能に係合するキャリアとを備えており、前記アームを前記キャリアに対して前記水平軸線の回りに回動可能で且つ前記回動位置が選択可能に支持することができる。この調整機構を備えることによって天井高さが変わっても噴霧アダプタの高さを変更することができ、また、アームをキャリアに対して水平軸線の回りに回動可能とすることでアダプタの姿勢を変更することができる。
【0021】
アダプタを水平軸線周りに回動可能なアームによって支えた上記アスベスト固化処理装置において、前記アームを、前記処理剤供給手段の一部を構成し前記無機質・水溶性セラミック処理剤を前記アダプタに供給する供給パイプから構成することができる。こうした構成によって、アダプタの支持と処理剤供給手段とが兼用され、アスベスト固化処理装置の構成を簡素化に寄与することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アスベスト除去前にアスベストに含浸された無機質・水溶性セラミック処理剤は、ナノ超微粒子そのものがバインダー(結合剤)機能を有して分子間結合をしながらアスベスト内部全体へ深く含浸・浸透していき、以後アスベスト繊維を束化して一体化して固化して非飛散化するとともに、発がん性の可能性のある長繊維を束化させることで、有害状態からその可能性を解消するような繊維形状に変化させている。そのため、真空吸塵装置によるアスベストの除去・集荷・集塵時において、アスベストの飛散が防止される。即ち、アスベスト除去の際に、作業員や現場周辺の住民への危険性を無くした安心・安全のアスベストの封じ込め効果を得ることができる。
また、費用の高いアスベストの除去まで施工しなくても、比較的安価にアスベストの飛散を完全に無くすことができ、アスベストの発がん性の可能性のある長繊維の形状を失わせてアスベスト封じ込めができる。無機質・水溶性セラミック処理剤は、有機剤とは異なるので経時劣化が生じることがなく、アスベストの飛散を防止して恒久的に封じ込めることができる。
更に、従来は養生・設備の不備等でアスベストが施工区域外に飛散することが必ずしも防ぎ切ることは難しかったが、本発明によれば、施工中においても、除去作業所内にアスベストの飛散がないので、養生・設備の不備の有無にかかわらず、作業員及び現場周辺の住民の安全性が現在以上に高めることができる。
【0023】
アスベスト固化処理装置においては、処理剤供給手段の先端にアダプタが設けられており、アダプタは、アスベスト層の施工表面形態に相応した形状を有するアダプタ表面を備えており、アダプタ表面に無機質・水溶性セラミック処理剤を噴霧させる多数の噴出孔を形成することで、アダプタを移動させながら処理剤を噴霧させると広いエリアのアスベストに対して処理剤を効率的に含浸・浸透させる噴霧アダプタとすることができる。また、アダプタ表面に処理剤を噴霧させる多数の噴出孔を形成することによって、処理剤を短時間に均一にアスベスト層に噴霧させることができる。更に、アダプタは、アスベスト層内に無機質・水溶性セラミック処理剤を直接に注入する多数の注入針を備えた注入アダプタとすることで、厚いアスベスト層内に処理剤を直接に注入することができる。アスベスト層の内部から処理剤の注入を行うことにより、アスベスト層の全体に渡って処理剤を隈なく含浸・浸透させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に図面を参照して、本発明によるアスベスト固化処理方法及び装置を実施するための最良の形態についてその作用と共に説明する。アスベスト固化処理方法において、天井等に吹き付け施工されているアスベスト層を処理するには、先ず、アスベスト層に飛散防止剤としての固化剤が適用され層内に含浸される。
【0025】
固化剤は、常温で硬化するナノ超微粒子の半透明液である無機質・水溶性セラミックコーティング剤(株式会社IDT日板製、商品記号:NRC−600、商品名:セラリア)である。固化剤としては有機系のものも入手可能ではあるが、有機系の処理剤は有機材の径年劣化が必然的であり、塗装層が剥がれたときにはアスベストが飛散することになる可能性が高く、実用面では難しい。そこで、水性の無機系処理剤としては、従来からアルカリ金属シリケートやリン酸アルミニウム塩が知られているが、耐水性があって常温下でも硬化可能な、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属を含まない無アルカリ金属シリケートが考えられる。無機系の処理剤であても、結合材として樹脂(有機系材料)を使用するものでは、耐熱性が低くて燃焼の恐れがあり、紫外線を受けて劣化する等の耐候性も改善されず、静電気特性や汚れ性についても従来の樹脂塗料と大差ない。結合材としてシリコーン樹脂を用い、充填剤、顔料に無機質素材を用いたもののも、耐候性に優位性はあるものの他の性質は樹脂を用いるものと変わりはない。更に、結合剤として、鋳物の砂型の凝固剤等に使用されている水ガラスを用いたものは、水に弱く、多用途の使用には適さない。これに対して、水性シリケート塗料は、シリケートを結合剤として無機着色顔料、体質顔料、水及び分散剤等の添加剤を含んでおり、脱水によって結合反応が進行し、アモルファス状の膜を形成するものである。このような水性シリケート塗料を無機系基材に塗布すると、SiO2の表面にあるSiOHが、基材表面において空気中の水分や炭酸ガスなどによって生じているHO−,HOO−とで脱水縮合反応が起こり、Si−O−基材の共有結合が起こり、強く密着するものと考えられ、含浸性、耐熱性、耐候性、防汚性に優れ、不燃性であり、硬度は極めて高い。無機質・水溶性セラミック処理剤は、珪素が主成分であり、有害物質を一切含まず、環境を汚すこともない。なお、コーティング剤は塗布用の用語ではあるが、本発明ではこれをアスベスト繊維を固化するための処理剤として用いている。
【0026】
無機質・水溶性セラミック処理剤を噴霧装置により、例えば5キロ圧程度の比較的低圧でアスベスト層の表面に噴霧して吹き付け、噴霧させた処理剤をアスベスト層内に含浸・浸透させて、アスベスト飛散防止化のための束化策とする。処理剤は、単位面積(m)当たり300〜800gを含浸施工する。
【0027】
無機質・水溶性セラミック処理剤はナノ超微粒子であるから、分子間結合をしながらアスベスト層の内部へ深く含浸していき、以後アスベスト層と一体化して固化する。即ち、この固化剤の比重は水と同じで、水よりもアスベストに染み込み易い。含浸の際に、処理剤は、厚みのあるアスベスト層であっても層全体に無理なくしみ込み、しかもアスベスト層とアスベストが吹き付けられた基材との間の接着性を落とすことはない。アスベスト層はその内部全体へ深く含浸・浸透した無機質・水溶性セラミック処理剤と一体化して固化しているため、繊維状態としてのアスベストの飛散が防止され、全く飛散の恐れの無い封じ込め処理ができる。また、この封じ込め処理されたアスベストを将来除去する場合にも、安心・安全にアスベストの集荷・集塵作業を行うことができる。
【0028】
次いで、除去する場合では、含浸状態が一日程度経過して、無機質・水溶性セラミック処理剤による完全に固まらない硬化状態下において、アスベスト層からアスベストを除去して集荷・集塵する。アスベストの集荷・集塵は、公知の真空吸塵装置により行われる。
【0029】
この発明によるアスベスト固化処理装置について説明する。図1は、この発明によるアスベスト固化処理装置の一例を示す概念図である。アスベスト固化処理装置40は、車輪41aと荷台41bを備えた移動台車41と、ナノ超微粒子を結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤を貯蔵可能な処理剤貯蔵容器42と、移動台車41に搭載されており、処理剤貯蔵容器42から無機質・水溶性セラミック処理剤を吸い込んで圧送可能な処理剤供給手段43と、処理剤供給手段43の先端に設けられており、アダプタとしてアスベスト層10に向かって無機質・水溶性セラミック処理剤を噴霧させる噴霧アダプタ45とを備えている。処理剤貯蔵容器42は、移動台車41に載せておくことが好ましい。また、処理剤供給手段43は、図示しないポンプや、ポンプから吐出される処理剤を噴霧アダプタ45に供給する供給管44を備えている。
【0030】
アスベスト固化処理装置40において、噴霧アダプタ45は、アーム46の先端部に支持されている。アーム46は、後述する調整機構47によって移動台車41上において高さ及び姿勢を変更に支持されている。調整機構47は、移動台車41上に立設された支柱48と、支柱48に対して係合高さ位置が変更可能に係合するとともに水平軸線周りに回動可能なキャリア49とを備えている。調整機構47を備えることによって、アスベストが施工されている天井高さが変わっても、キャリア49を支柱48に対して上下に移動させることによって噴霧アダプタ45の高さを変更することができる。また、アーム46をキャリア49に対して水平軸線の回りに回動可能とすることで、噴霧アダプタ45の姿勢を変更することができる。キャリア49に対して水平軸線の回りに回動可能なアーム46の向きを定め、且つキャリア49の支柱48に対する高さを変更することにより、図1の右側に示すように、アーム46の先端部に設けられている噴霧アダプタ45の高さ及び姿勢を変更して、そのアダプタ表面(アダプタ噴霧面)45aを、コンクリートスラブ面のような天井Sに吹き付け施工された天井アスベスト層10a、又は側壁に吹き付け施工された側壁アスベスト層10bに選択的に正しく相対させることができる。なお、噴霧アダプタ45には、アスベスト固化処理装置40の遠隔操作用として、モニターカメラ50が付設されている。
【0031】
アスベスト固化処理装置40において、アーム46は、処理剤供給手段43の一部を構成し無機質・水溶性セラミック処理剤を噴霧アダプタ45に供給する供給パイプから構成することができる。こうした噴霧アダプタ45の支持と処理剤供給手段43とを兼用する構成によってアスベスト固化処理装置40の構成が簡素化され、処理剤はアーム46内を通って噴霧アダプタ45に送られる。
【0032】
一般に、アスベスト層10の施工表面は、通常、平面又は折板(又は波板)状であるので、アダプタ表面45aをそうしたアスベスト層10の表面形状に相応した形状とすることにより、噴霧アダプタ45を移動させながら処理剤を噴霧させることができ、広いエリアのアスベストに対して処理剤を効率的に含浸・浸透させることができる。
【0033】
図2には、アスベスト固化処理装置40において用いられる噴霧アダプタの一例の詳細が断面図として示されている。図2に示す例は、コンクリートスラブ面に吹き付け施工されたアスベスト層の厚さが比較的薄い場合に用いられる噴霧アダプタ55である。噴霧アダプタ55は、平面視で1m×60cm角の矩形形状を有する板状の部材である。噴霧アダプタ55には、無機質・水溶性セラミック処理剤を噴霧させる多数の噴出孔56(符号は一部にのみ示す)がアダプタ表面55aにおいて縦横に均等配置で開口するように形成されている。アーム46内に形成された供給路57を通じて処理剤は、所定の圧力(約5kg/cm)で供給され、噴霧アダプタ55内部の空間58を通じて各噴出孔56に至り、ノズルの働きをする噴出孔56から微細な霧状になって噴射される。処理剤は、短時間のうちに均一にアスベスト表面10aに噴霧される。アスベスト表面10aに噴霧された処理剤はアスベスト層10内に浸透し、アスベスト繊維を束化して固化する。
【0034】
図3には、このアスベスト固化処理装置40において処理剤の含浸のために適用されるアダプタの別の例が断面図として示される。図3に示すアダプタは、コンクリートスラブ面に吹き付け施工されたアスベスト層の厚さが比較的厚い場合に用いられる注入アダプタ65である。注入アダプタ65は、アスベスト層10内に無機質・水溶性セラミック処理剤を直接に注入する多数の注入針66を備えたアダプタであり、注入針66はアダプタ表面65aにおいて縦横に均等配置され且つアダプタ表面65aから直立する状態に設けられている。アスベスト層10は図1に示す噴霧アダプタからの噴霧では早期に且つ充分に内部まで処理剤を含浸・浸透させることができない程度に厚いので、注入アダプタ65に備わる多数の注入針66から、アスベスト10層内に処理剤を直接に注入している。注入針66はステンレス仕様の直径5mm程度、長さが5cm程度の針状のもので、先端近傍に2個所の注出孔67,67が開けられている。注入アダプタ65は更に、アダプタ表面65a側に伸縮ばねのような弾性手段69で弾性支持された裏あて板68を備えている。裏あて板68には各注入針66の位置に合わせて孔70が形成されており、裏あて板68は注入針66と干渉することなく且つ弾性手段69の弾性変形に応じて注入アダプタ65に対して進退可能である。
【0035】
注入アダプタ65の適用に際しては、注入針66がアスベスト層10に突き刺すように一斉に押し込まれ、裏あて板68がアスベスト層10を下から(側壁の場合には横から)保持するように弾性手段69によって軽く押し付けられる。こうすることで、突き刺された注入針66の注出孔67,67からは、アスベスト層10に対してその最上部(最深部)に処理剤が注入され、注入された処理剤はアスベスト層10内において徐々に下方(表面側)に広がるので、厚いアスベスト層10の内部全体に処理剤を隈なく含浸させることができる。これによって、アスベスト層の表面への下からの噴霧という不確実な方法の欠点が解消される。また、処理剤の注入はアスベスト層10の最深部からの注入となるので、注入針66としては、アスベスト吹き付け最大厚さ5cm程度に対応するもの一種類を用意すればすべての厚さのアスベスト層に対応することができるので、効率的な処理が可能である。
【0036】
このように、アスベスト層10の表面又は内部から処理剤の噴霧・注入を行うことにより、アスベスト層10の全体に渡って、処理剤を含浸・浸透させることができる。また、注入アダプタ65の場合、突き刺して処理剤を注入後に注入針67,68を引き抜くと、注入針67,68によってアスベスト層10に針跡が形成されるが、そうした針跡の空隙にも処理剤は速やかに浸透するので、注入処理後の後処理が不要であり、針跡からのアスベスト繊維の飛散も皆無となる。上記の各例では、注入針の長さは一種類であるが、アスベスト層10の厚さに応じて二種類以上であってもよい。長さの異なる複数種類のグループに属する注入針については、各長さの注入針を均等に分散配置させて、アスベスト層10の内部にセラミック処理剤を均一に注入することが好ましい。
【0037】
コンクリートスラブ面SCが平坦であり、それに合わせてアスベスト層10の表面も平坦である場合には、噴霧アダプタ55、注入アダプタ65のアダプタ表面55a,65aも平坦な平面とすることができる。また、アスベスト施工面が、折板や波板のような鋼板である場合には、図4に噴霧アダプタを例に採った場合が示されているように、噴霧アダプタ75,85の噴出孔76,86が形成されるアダプタ表面75a,85aも、それらに倣って凹凸面や波形面に形成することができる。注入アダプタの場合には、裏あて板をアスベスト施工面である凹凸面や波形面に倣って形成することで対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明によるアスベスト処理装置に用いられるアダプタの一例を示す断面図。
【図2】本発明によるアスベスト処理装置に用いられるアダプタの別例を示す断面図。
【図3】本発明によるアスベスト処理装置の概略を示す図である。
【図4】平坦面以外のアダプタ表面を持つ噴霧アダプタの例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
40 アスベスト固化処理装置 41 移動台車
41a 車輪 41b 荷台
42 処理剤貯蔵容器 43 処理剤供給手段
44 供給管 45 噴霧アダプタ
45a アダプタ表面(アダプタ噴霧面) 46 アーム
47 調整機構 48 支柱
49 キャリア 50 モニターカメラ
55 噴霧アダプタ 55a アダプタ表面
56 噴出孔 57 供給路
58 空間
65 注入アダプタ 65a アダプタ表面
66 注入針 67 注入孔
68 裏あて板 69 弾性手段
70 孔
75,85 噴霧アダプタ 75a,85a アダプタ表面
76 噴出孔 86 噴出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストの表面に、ナノ超微粒子を結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤を噴霧吹き付けして、前記無機質・水溶性セラミック処理剤を前記アスベストの内部に含浸・浸透させ、前記ナノ超微粒子と前記アスベストとを、アスベスト繊維を束化させた状態に一体化して固化させる工程から成るアスベスト固化処理方法。
【請求項2】
アスベストの内部に、ナノ超微粒子を結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤を注入して、前記無機質・水溶性セラミック処理剤を前記アスベストの内部に直接に含浸・浸透させ、前記ナノ超微粒子と前記アスベストとを、アスベスト繊維を束化させた状態に一体化して固化させる工程から成るアスベスト固化処理方法。
【請求項3】
移動台車と、
ナノ超微粒子を結合剤とする無機質・水溶性セラミック処理剤を貯蔵可能な処理剤貯蔵容器と、
前記移動台車に搭載されており、前記処理剤貯蔵容器から前記無機質・水溶性セラミック処理剤を吸い込んで圧送可能な処理剤供給手段と、
前記処理剤供給手段の先端に設けられており、アスベスト層に前記無機質・水溶性セラミック処理剤を適用するアダプタと、
を備えることから成るアスベスト固化処理装置。
【請求項4】
前記アダプタは、前記アスベスト層の施工表面形態に相応した形状を有するアダプタ表面を備えており、前記アダプタ表面に開口して前記無機質・水溶性セラミック処理剤を噴霧させる多数の噴出孔が形成されている噴霧アダプタであることから成る請求項3に記載のアスベスト固化処理装置。
【請求項5】
前記アダプタは、前記アスベスト層内に前記無機質・水溶性セラミック処理剤を直接に注入する多数の注入針を備えている注入アダプタであることから成る請求項3に記載のアスベスト固化処理装置。
【請求項6】
前記注入アダプタは、前記アスベスト層の表面に当接可能な裏あて板と、前記注入アダプタと前記裏あて板との間に介装されて前記裏あて板を前記アスベスト層の表面に弾性力で押し当てる弾性手段とを備えていることから成る請求項5に記載のアスベスト固化処理装置。
【請求項7】
前記アダプタは、水平軸線周りに回動可能なアームによって支えられており、前記アームの前記水平軸線回りにおける回動位置を選択することにより、側壁上に施工された側壁アスベスト層と天井壁面上に施工された天井アスベスト層とのいずれにも前記無機質・水溶性セラミック処理剤を適用可能であることから成る請求項3〜6のいずれか1項に記載のアスベスト固化処理装置。
【請求項8】
前記アームは、前記アダプタの高さ及び姿勢を変更するため前記移動台車上に配設されている調整機構によって支持されており、前記調整機構は、前記移動台車上に立設された支柱と前記支柱に対して係合高さ位置が変更可能に係合するキャリアとを備えており、前記アームは前記キャリアに対して前記水平軸線の回りに回動可能で且つ前記回動位置が選択可能に支持されていることから成る請求項7に記載のアスベスト固化処理装置。
【請求項9】
前記アームは、前記処理剤供給手段の一部を構成し前記無機質・水溶性セラミック処理剤を前記アダプタに供給する供給パイプから構成されていることから成る請求項7又は8に記載のアスベスト固化処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−95005(P2008−95005A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279865(P2006−279865)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(392023038)宝養生資材株式会社 (18)
【出願人】(502201549)
【出願人】(505018717)株式会社IDT日板 (3)
【Fターム(参考)】