説明

アスペルギルス・テレウスの変異株によるトリオール酸(I)の新規発酵

【発明の詳細な説明】
【0001】本発明はアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)の変異株を用いた少くとも5.2g/リットルの7−〔1,2,6,7,8,8a(R)−ヘキサヒドロ−2(S),6(R)−ジメチル−8(S)−ヒドロキシ−1(S)ナフチル〕−3(R),5(R)−ジヒドロキシヘプタン酸(トリオール酸、I)を生産し、かつ以下で定義されるようなトリオール酸関連副産物の生成が0.85g/リットル以下及びロバスタチンの生成が0.10mg/リットル未満である新規発酵プロセスで有用なアスペルギルス・テレウス株に関する。
【0002】トリオール酸(I)はコレステロール生合成に関与する酵素3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−補酵素A(HMG−CoA)レダクターゼの阻害剤である。その酵素の阻害剤として、トリオール酸は抗高コレステロール血症剤として有用である。更にそれは他の抗高コレステロール血症剤、特にポリヒドロナフチル環の8位に様々な側鎖を有する化合物の製造用中間体としても有用である。例えば、その部位に2,2−ジメチルブチリルオキシ側鎖を有するシンバスタチンは、米国特許第4,444,784号明細書に記載された操作に従い出発物質としてトリオール酸のラクトン体を用いて製造できる。本発明は詳しくは、少なくとも5.2g/リットルのトリオール酸(I)を0.85g/リットル以下のトリオール酸関連副産物及び0.10mg/リットル未満のロバスタチンと共に産生することができるアスペルギルス・テレウスの株MF−5544、ATCC74064及びその変異株に関する。本発明はここで開示されたアスペルギルス・テレウス株を培養して主要発酵産物としてトリオール酸を産生させる発酵プロセスにも関する。
【0003】高コレステロール血症は西洋諸国における死亡及び廃疾の筆頭原因であるアテローム性動脈硬化症及び冠状心疾患に関する主要リスクファクターの1つとして知られる、胆汁酸金属イオン封鎖剤は抗高コレステロール血症剤として中程度に有用と思われるが、それらは多量に、即ち一度に数グラム用いられねばならず、しかもそれらは美味とはとても言えない。現在市販されるメバコール(MEVACOR・商標)(ロバスタチン)はHMG−CoA レダクターゼ酵素を阻害してコレステロール生合成を制限することにより機能する非常に活性の強い抗高コレステロール血症剤のグループの1つである。天然発酵産物メバスタチン及びロバスタチンに加えて、それらの様々な半合成及び全合成アナログが存在する。例えば、8−アシル部分が2,2−ジメチルブチリルオキシであるシンバスタチンはロバスタチンよりも更に一層強力なHMG−CoA レダクターゼ阻害剤である。シンバスタチンは一部の市場でゾコール(ZOCOR・商標)として現在市販されている。ここで開示されたプロセスで産生されるトリオール酸(I)は、その対応ジオールラクトン(II)へラクトン化されて、ポリヒドロナフチル部分を有し、HMG−CoA レダクターゼ阻害剤として機能するシンバスタチンや他の8−エステルアナログ及び誘導体の形成用の出発物質として役立つ。
【0004】前記ジオールラクトン(II)はエンドーらの公開日本特許出願第86−13798号明細書(1986年)に記載されたようにモナスカス・ルバー(Monascusruber)の発酵により生産されている。遠藤ら、ジャーナル・オブ・アンチバイオティクス(J.Antibiotics),第39巻,第1670頁,1989年による更に最近の文献では、メビノリン(ロバスタチン)及びトリオール酸(I)を産生するモナスクス・ルバーの様々な株が開示されている。更に、トリオール酸(I)及びその対応ジオールラクトン(II)は8−(α−メチルブチリルオキシ)基の化学的加水分解によりロバスタチンから産生されている。しかしながら、アスペルギルス・テレウスの培養物を用いてトリオール酸を高収率で形成し、かつトリオール酸関連副産物の産生が最少であるようなトリオール酸(I)の産生に関しては当業界で教示又は示唆が全くない。実際に、いずれかの微生物により最少のトリオール酸関連副産物産生でかつトリオール酸(I)が高収率で形成されうるという教示又は示唆は従来技術に存在していない。注目されるように、分離困難なこれらのトリオール酸関連副産物が非常に少量しか形成されないことは本発明の重要な利点である。
【0005】以下本発明を詳細に説明する。本発明はアスペルギルス・テレウスの培養物を用いた7−〔1,2,6,7,8,8a(R)−ヘキサヒドロ−2(S),6(R)−ジメチル−8(S)−ヒドロキシ−1(S)−ナフチル〕−3(R),5(R)−ジヒドロキシヘプタン酸(トリオール酸、I)の新規発酵生産に関する。トリオール酸(I)は更にラクトン化条件下でその対応ジオールラクトン(II)に変換してもよい。
【化5】


本発明は有意な量のトリオール酸(I)を産生することがわかったアスペルギルス・テレウスの新規株に関するが、これはアスペルギルス・テレウスが今まで8位エステル側鎖を有する化合物のみを産生するとして知られていた事実からみて意外な発見である。すなわち本発明は、アスペルギルス・テレウスの菌株であって、アスペルギルス・テレウスのロバスタチン産生株の変異誘発から形成され、上記菌株がロバスタチン収率0.002%未満の形成で上記化合物(I)を形成することが出来る菌株である。また本発明は、ロバスタチン収率0.002%未満の形成で化合物(I)を形成することが出来るMF−5544、ATCC74064の菌株又はその変異株である。さらに化合物(I)の形成に適した条件下で上記微生物を培養し、化合物を回収することから成る化合物(I)の形成方法である。さらに本発明は、上記の菌株を含んで成る培養物組成物である。
【0006】本発明に含まれるアスペルギルス・テレウスの新規株は、それらが少なくとも5.2g/リットルのトリオール酸(I)を生産ししかも1g/リットル以下のトリオール酸関連副産物及び特に0.10mg/リットル未満(<0.002%)のロバスタチンしか産生しないという事実で特徴付けられる。“トリオール酸関連副産物”という用語は、共役デセン環系のためにλmax =238nmのUVスペクトルを示すポリヒドロナフチル構造を有する、(I)及び(II)以外のあらゆるHMG−CoA レダクターゼ阻害剤を意味するとしてここでは定義される。本発明に含まれるアスペルギルス・テレウスの新規株が高収率でトリオール酸を産生するが少量のトリオール酸関連副産物しか産生しない、特にロバスタチンを産生しない(<0.002%)という事実は、この分野における従来技術からみて予想外かつ意外である。
【0007】トリオール酸関連副産物はトリオール酸自体と構造上似ており、このため関係産物であるトリオール酸から分離することが困難である。これらのトリオール酸関連副産物が非常に少量しか形成されないことは本発明の重要な利点である。本発明に含まれるアスペルギルス・テレウスの新規株は、公けに入手しうるアスペルギルス・テレウスのロバスタチン産生株を変異誘発して得ることができる。例えば、米国特許第4,231,938号明細書は受理 No.ATCC20541としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)に寄託されたロバスタチン産生株MF−4833について記載している。このような株は変異誘発、例えばUV処理、ニトロソグアニジン及びソラレン架橋変異誘発に付してよい。変異誘発の程度は栄養要求性、即ち親株による正常代謝及び再生産に必要な最小要素を超えた特定の生育因子を変異株が要求すること、により決定される。別のモニターリングシステムでは挿入色素アクリフラビンを用いる。この色素は105 胞子/プレートでまいた場合に親ロバスタチン産生株を全く増殖させないが、変異誘発後には約3〜5コロニー/プレートで増殖が起る。変異株は再単離後、プールされて、更に変異誘発に付され、これら操作の反復により、本発明が関与する株の定義内に属するアスペルギルス・テレウスの変異株が得られる。
【0008】通常は親株において過剰の有害変異の蓄積を避けるために穏やかな変異誘発をめざす。しかしながら、トリオール産生MF−5544変異株は強力な変異誘発物質ニトロソグアニジンによる比較的過酷な変異誘発後に単離された。前記変異誘発操作と実施例1の詳細な記載を用いて、高力価のトリオール酸(I)と検出しえない量(0.10mg/リットル未満)のロバスタチン及び0.85g/リットル未満のトリオール酸関連化合物を生じるアスペルギルス・テレウスの株をつくることができる。
【0009】アスペルギルス・テレウスMF−5544は14日間で5.95g/リットルに達するトリオール酸を産生する。少量(0.85g/リットル未満)のトリオール関連化合物も産生されるが、但しロバスタチンの産生はない(0.10mg/リットル未満)。前記変異誘発操作及び実施例は充分に実施可能なトリオール酸(I)の形成経路を提供する。特定株MF−5544はブダペスト条約に従いATCC74064としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託された。この寄託は本発明の実施上最良の態様を与えるために行われた。アスペルギルス・テレウス株MF−5544は下記の形態学的特徴を示す:
【0010】コロニーは20℃で12時間−12時間の明/暗下、酵母−麦芽エキス寒天〔ディフコ(Difco) 〕上で7日間で径10mmに達する;37℃では7日間で同培地上で径34mmに達する;20℃、オートミール寒天(ディフコ)上では径12mmに達する;37℃、オートミール寒天(ディフコ)上では径45mmに達する。コロニーは20℃の増殖と比較すると37℃では明らかに放射状にひだ即ち褶曲が形成される。20℃で酵母−麦芽エキス寒天上、コロニーは深さ0.5mm以内に達し、わずかに台状でビロード状〜わずかに綿毛状で鈍い光沢があり、端部沈降し、全縁で、端部で透明〜淡黄色状バフ色又は淡いピンクがかったバフ色、明バフ色(Light Buff)、淡オーカーバフ色(Pale Ochraceous-Buff)、淡ピンク状シナモン色(Pale Pinkish Cinnamon)〔リジウェイ,R.(Ridgway,R.),1912年,カラースタンダード及び名称(Color Standards and Nomenclature),ワシントン,D.C.による大文字化色名〕、すぐにピンクがかったバフ色〜ピンクがかった褐色、ピンク状バフ色(Pinkish Baff) 、明ピンクがかったシナモン色(Light Pinkish Cinnamon)、バフピンク色(Buff Pink)、シナモンバフ色(Cinnamon-Buff)になり、最後に端部で濁ピンク状タン皮色、ピンクがかったシナモン色、シナモン色(Cinnamon) 、クレー色(Clay Color) 、裏面は緑が濁黄灰色〜クリーム黄色、クリーム色(Cream Color)、明バフ色(Light Buff) 、暖バフ色(Warm Buff)、但しすぐに黄色〜オーカー色、コロニアルバフ色(Colonial Buff)、深コロニアルバフ色(Deep Colonial Buff) 、セーム革色(Chamois)、黄オーカー色(Yellow Ochre)であり、黄色拡散性色素がコロニーの端部から寒天中に数mm滲出している。
【0011】分生子柄は柄足細胞から生じ、高さ120〜190μm、幅4.5〜6.5μm、直線状又は屈曲状で、時々不規則的にくびれ、頂嚢のすぐ下でわずかにくびれていることが多く、厚壁で、壁は約0.5μm厚、滑らかで無色である。分生子頭は分生子柱の頂部で径50〜100μm、二段梗子で分生子産生細胞群がメトレ(metulae)から生じ、円柱状で、分生子鎖は経時的にやや裂け出し、最初は白色だが、但しすぐに淡ピンク色になり、成熟時には均一にピンクがかったバフ色である。分生子産生細胞は小瓶状で、1〜5個、通常3〜4個5〜10個(1.5〜3μm)の群でメトレから生じ、円柱状で、末端はつぼまるか、又はややひらいたカラレット状である。メツラは広い円柱状〜やや棍棒状で、周辺のメトレは上方に曲がり、6〜10×2.5〜4.5μmである。頂嚢は径10〜26μmで、亜球状〜半球状であり、上部40〜60%がメトレでおおわれている。分生子は径1.5〜4μm、球状〜やや球状、滑らか、KOH 中無色で、無色接合部で鎖状に付着している。菌糸は隔壁を有し、滑らかで、高度に分岐し、径10μm以内で、厚い方の菌糸は屈折率の高い内容物を含み、古くなった内部菌糸は側部及び末端厚膜胞子(“粉状胞子”)を産生する。厚膜胞子は出芽で生じ、豊富で、径6〜10μm、球状〜やや球状、無色で屈折率の高い内容物を含む。ヒュール(Hulle)細胞、菌核及び閉子嚢果は存在しない。
【0012】培地本発明に含まれるアスペルギルス・テレウスの変異株の発酵は他の発酵産物の産生に用いられるような水性培地で行われる。このような培地は微生物により同化しうる炭素源、窒素源及び無機塩を含有している。一般に、糖、例えばラクトース、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、キシロース、マンニトール等のような炭水化物及び穀物、例えばオート麦、ライ麦、コーンスターチ、コーンミール等のようなデンプンが栄養培地中で資化性炭素源として単独で又は組合せていずれかで用いることができる。培地に用いられる炭水化物源の正確な量は培地の他の成分にもよるが、一般に炭水化物の量は通常培地の約18〜35重量%である。これらの炭素源は個別的に用いても又はこのような数種の炭素源が培地で組合されてもよい。一般に多くのタンパク質物質が発酵プロセスで窒素源として用いられる。適切な窒素源としては、例えば酵母加水分解産物、プライマリイースト、大豆ミール、綿実粉、カゼインの加水分解産物、コーンスチープリカー、ディスティラーズソリュブル又はトマトペーストがある。窒素源は単独で又は組合せて、水性培地の約5〜60重量%範囲の量で用いられる。
【0013】培地に配合できる栄養無機塩としてはナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、リン酸、硫酸、塩化物、炭酸等のイオンを生じることができる常用塩がある。コバルト、マンガン、鉄及びマグネシウムのような微量金属も含有される。実施例で記載された培地は用いてよい様々な培地の単なる例示であって、限定するためのものではない。特に、トリオール酸産生培地で用いられる炭素源としてはデキストロース、デキストリン、オート粉、オートミール、糖蜜、クエン酸塩、大豆油、グリセロール、麦芽エキス、タラ肝油、デンプン、エタノール、イチジク、アスコルビン酸ナトリウム及びラード油がある。窒素源としてはペプトン化ミルク、自己消化酵母、酵母RNA、トマトペースト、カゼイン、プライマリイースト、ピーナツミール、ディスティラーズソリュブル、コーンスチープリカー、大豆ミール、コーンミール、NZアミン、ビーフエキス、アスパラギン、綿実ミール及び硫酸アンモニウムがある。主要イオン成分はCaCO3 、KH2PO4、MgSO4 ・7H2O 及びNaClであり、少量の CoCl2・6H2O 及び微量のMn、Mo、B及びCuも存在してよい。諸成分を1リットルフラスコに入れ、容量を蒸留水で1リットルに調整する。pHは培地を継続的に攪拌しながら40%NaOHで7.0に調整し、pHは15分間かけて安定化する。培地はバッフルなしの250mlフラスコ内に30mlずつ分注し、そのまま121℃で20分間オートクレーブ処理する。次いでこれらのフラスコを実施例1に記載する種接種原で接種する。
【0014】発酵プロセス及び条件好ましい実施態様では、発酵は約20〜37℃範囲の温度で行われるが、しかしながら最良の結果を得るには約22〜30℃の温度で発酵を行うことが好ましい。アスペルギルス培養物を増殖させてトリオール酸を産生するのに適した栄養培地のpHは約6.0〜8.0である。トリオール酸は表面及び深部双方の培養で産生されるが、深部状態で発酵を行うことが好ましい。小規模発酵は適切な栄養培地にアスペルギルス培養物を接種し、産生培地に移した後、約28℃の一定温度で数日間シェーカー上で進めることにより都合よく行われる。
【0015】発酵は1回以上の種菌展開段階を経て培地の入った滅菌フラスコ内で開始する。種菌段階用の栄養培地は炭素及び窒素源の適切ないかなる組合せであってもよい。種菌フラスコは約28℃の定温室内で2日間又は十分増殖するまで振盪し、得られた増殖物の一部を第二段階種菌用又は産生培地のいずれかに接種するために用いる。中間段階種菌フラスコを用いる場合も、実質上同様に行う、即ち最後の種菌段階のフラスコ内容物の一部を用い産生培地に接種する。接種したフラスコは一定温度で数日間振盪し、インキュベート期間の最後にフラスコの内容物を遠心又は濾過する。
【0016】大規模培養の場合には、攪拌機及び発酵培地通気手段を備えた適切なタンク内で発酵を行うことが好ましい。この方法によれば、栄養培地はタンク内で調製され、約120℃の温度で加熱することにより滅菌される。冷却後、滅菌された培地に予め増殖させた産生培養用種菌を接種し、発酵は栄養培地を攪拌及び/又は通気して約28℃の温度に維持しながら一定期間、例えば3〜16日間にわたり続ける。このトリオール酸産生方法は特に大量の製造に適している。
【0017】発酵産物の単離トリオール酸は主としてヒドロキシカルボキシレート(開環ラクトン)形で発酵ブロス中に存在する。MF−5544発酵の全ブロス抽出はロバスタチン全ブロス抽出の場合(米国特許第4,231,938号)と同様の操作を用いて行われるのが好ましい。HPLC追跡分析では、全ブロス中に存在する夾雑物のほとんどがpH3.5〜4.5に調整してから行う初めの酢酸イソプロピル(IPAC)抽出で除去され、同時にトリオールの70〜72%がこの工程で回収されることを示した。この後に炭酸塩抽出(pH11〜12)を行ったが、トリオール酸の損失は非常に少なかった。炭酸塩層の最終的IPAC抽出(pH3.5〜4.5)を行って有機相中にトリオール酸を回収するが、収率の減少はほとんどない。
【0018】ラクトン化本発明のプロセスによるアスペルギルス・テレウス株の発酵では主産物としてトリオール酸を生じる。トリオール酸のラクトン化は標準操作、即ち加熱又は酸触媒ラクトン化のいずれかを用いて行われる。ロバスタチン関連化合物の酸触媒ラクトン化に関する操作は米国特許第4,916,239号明細書に記載されている。
【実施例】
【0019】実施例17−〔1,2,6,7,8,8a(R)−ヘキサヒドロ−2(S),6(R)−ジメチル−8(S)−ヒドロキシ−1(S)−ナフチル〕−3(R),5(R)−ジヒドロキシヘプタン酸(トリオール酸I)の製造(a)ニトロソグアニド変異誘発とHPLCアッセイ変異誘発:1)アスペルギルス・テレウスのロバスタチン産生株の純粋培養物をYME+TEの斜面上に画線接種し、通常の室内ケイ光照射下28℃で増殖させた。
2)5〜7日間後、無菌保存原液(5%ラクトース、10%グリセロール、0.005%NP・40)2mlを各斜面に加え、表面を滅菌白金耳で静かにこすって分生子柄を遊離させた。
3)胞子懸濁液を滅菌0.5mmガラスビーズ約25個の入ったスクリューキャップ管に移し、約1分間攪拌した。胞子を血球計数器でカウントし、貯蔵溶液で1×108 胞子/mlに希釈した。胞子懸濁液を使用時まで−80℃で貯蔵した。
4)上記胞子懸濁液1mlずつ4個のスナップキャップ遠心管にいれ、3000×g、4℃で5分間遠心した。上清を捨て、各胞子ペレットをボルテックスミキサーで攪拌してリン酸緩衝液(pH7の100mMリン酸ナトリウム、0.005%NP・40)0.9mlに再懸濁した。
5)3本の管に1mg/mlN−メチル−N−ニトロソ−N′−ニトログアニジン0.1mlを加え、水0.1mlを四番目に加えた。混和後、管を28℃でインキュベートした。コントロールは直ちに3000g、4℃で5分間遠心した。他の3本の管も同様に各々15,30及び60分間遠心した。各遠心の直後に上清を捨て、胞子を上記リン酸緩衝液1mlに再懸濁した。
6)胞子の入った各管を水で1:104 、1:105 及び1:106 に希釈した。各希釈液50μlを数枚のYME+TEプレート上にまき(25ml/100mmプレート)、プレートを室内ケイ光燈下28℃でインキュベートした。4日間後にコロニーを(計数可能な数を有するプレートについて)カウントした。
7)更に2日間後、元の胞子の10〜50%のみが生存するように胞子を変異誘発したプレートから個々のコロニーを取出した。取出されたコロニーを用いてYME+TE斜面に接種し、これを前記のように増殖させた。
8)選択した変異株を植えた斜面が胞子形成したら、胞子懸濁液を前記のように調製し、種培地(5×106 胞子/ml培地;250mlバッフルなしフラスコ中40ml)に接種した。28時間後、種菌を発酵培地(10%持ち込み容量;250mlバッフルなしフラスコ中発酵培地30ml)に接種した。すべてのフラスコをニューブランスウィックG−53(New Brunswick G−53)シェーカーで220rpm 、28℃で振盪した。
9)8日間の発酵後に1倍容量のメタノールを各フラスコに加え、フラスコを30分間攪拌し、内容物を静置し、上清をトリオール及び他のブロス成分の存在に関してHPLCにより調べた。
【0020】培養抽出物のHPLCアッセイ抽出物はワットマン・パーティシル(Whatman Partisil)5C8(4.6mm×25cm)カラム上1.5ml/min でポンプ駆動される45%アセトニトリル及び55%リン酸の均一移動相条件下HPLCにより分析した。検出波長は235nmであった。トリオール産物はトリオールアンモニウム塩標準との比較でそれらの特徴的UVスペクトル及び保持時間により同定した。
【0021】b)斜面培養物の調製アスペルギルス・テレウスMF−5544の培養物はキャップ付ガラス管中YME+TE培地(8ml)含有寒天斜面上で培養して維持した。培養物を27.5℃で5〜7日間斜面上で生育させ、4℃で1か月まで貯蔵し、斜面を種フラスコ用の接種原として用いた。YME+TE培地は下記組成を有する:
【表1】
YME+TE培地(寒天斜面):酵母エキス 4.0g/リットル麦芽エキス 10.0g/リットルグルコース 4.0g/リットル微量元素#2 5.0g/リットル寒天 20.0g/リットルNaOHでpH7.0に調整。121℃で20分間のオートクレーブ処理。
【表2】
微量元素#2FeSO4 ・7H2O 1000mg/リットルMnSO4 ・H2O 1000mg/リットルCuCl2 ・2H2O 25mg/リットルCaCl2 100mg/リットルH3BO3 56mg/リットル(NH4)6Mo7024・4H2O 19mg/リットルZnSO4 ・7H2O 200mg/リットル0.6N HCl で調整し、5℃で貯蔵最大力価は下記成分を有する“HLC”種培地で生育させた種接種原を用いて得られた:
【表3】


アルダミンpHはチャンプレイン・インダストリーズ(Champlain Industries)から入手でき、ブレンドされた一次増殖酵母及びビール酵母である。ファーマメディア(Pharmamedia)はトレーダーズ・プロテイン・カンパニー(Trader's Protein Company) から購入し、“綿実粉”である。上記成分の各々を蒸留水に連続的に加え、次を加える前によく溶解させた。蒸留水800mlを最終容量1000mlになるまで加え、pHを40%NaOHで7.0に調整し、10分間安定化させた。培地を121℃で20分間オートクレーブ処理した。滅菌後pHは6.5〜6.6となっているべきである。
【0022】c)発酵による産生種フラスコ用接種原を調製するため、寒天斜面の1本分内容物を蒸留水又は生理食塩水(0.7%NaCl) 5mlでかきとった。この接種原1mlをオートクレーブで滅菌したHLC種培地40ml含有250mlバッフルなしエーレンマイヤーフラスコに加えた(あるいは実施例2のように、ラクトース/グリセロール胞子懸濁液1mlを用いることもできる)。HLC種フラスコをロータリーシェーカー上220rpm.27.5℃で24〜26時間インキュベートし、このフラスコの内容物1mlを滅菌GP−9産生培地(下記参照)30ml含有250mlバッフルなしエーレンマイヤーフラスコに接種した。このフラスコをロータリーシェーカー上220rpm 、27.5℃で4〜14日間インキュベートした。最大トリオール酸産生は14日目にみられた。
【0023】d)トリオール酸の抽出トリオールは下記のように酢酸イソプロピル(IPAC)を用いた液−液抽出により発酵ブロスから回収した(2リットル;最初HPLC分析により5.98g/リットル):ブロスのpHを10%硫酸(60ml)で4.0〜4.5に調整し、ブロスをIPAC(1:34リットル)と混ぜ、遠心した。IPAC層を回収し、pH11.5の炭酸ナトリウム溶液(400ml)と混ぜて非極性成分を除去した。次いで豊富炭酸塩層(トリオール含有)を85%リン酸(12ml)でpH4.0に調整後IPAC(450ml)に逆抽出した。
【0024】e)ラクトン化70%メタンスルホン酸(MSA)(87μl;2mM)を実施例1(d)のIPAC層に加え、溶液をその原容量(100ml)の〜1/5蒸発濃縮した。濃縮/ラクトン化の完了をHPLC分析で確認した後、IPACを炭酸ナトリウム溶液(100ml)と混ぜて荷電種を除去した。ジオールラクトンは−20℃でIPAC層から結晶化した。
【0025】実施例2米からの凍結分生子の調製アスペルギルス・テレウスMF−5544培養物は凍結胞子懸濁物として維持することができる。“アンクルベン転化長粒米”(Uncle Ben's Converted LongGrain Rice)250gを2800mlエーレンマイヤーフラスコ中において水が透明になるまで水洗した。フラスコから水を捨て、フラスコを121℃で30分間オートクレーブ処理して滅菌した。冷却後、米含有フラスコを(かきとりにより蒸留水又は塩水(0.7%NaCl)5mlに懸濁された)1斜面分の内容物を接種し、振盪してから27.5℃で12〜16日間インキュベートした。胞子を回収するため、5%ラクトース/10%グリセロール含有溶液250〜500mlを加え、フラスコを振盪し、滅菌ステンレススチールメッシュ通して濾液を集めた。ラクトース/グリセロール胞子懸濁液を−90℃で凍結し、前記実施例1のようにHLC種フラスコ用の接種原として用いた。
【0026】実施例3アンモニウム塩の形成細胞ペレット及び/又は細胞砕片を濾過又は遠心により産生フラスコから除去した。次いでこのプロセスからの濾液又は上清を工程1dで示したように抽出するか又は濾液を用いてトリオール酸のアンモニウム塩を単離した。推定トリオール力価29.83g/リットルのIPAC流(5ml)を硫酸マグネシウムで脱水し、しかる後焼結ガラスロートで濾過した。メタノール(0.2ml)を加え、混合液を氷浴(0℃)につけ、水酸化アンモニウム:メタノール(1:3)溶液0.03mlを加えた。混合液にトリオールアンモニウム塩1mgを核として入れ、30分間エージングした。温度を−8℃に下げ、水酸化アンモニウム:メタノール(1:3)0.03mlを2時間にわたり15分間毎に加えた。得られた濃厚スラリーを濾過して、象牙色結晶を得た。ここで特許請求されたアスペルギルス・テレウス株の培養物は式(I)の化合物の形成にとり有害である生存汚染微生物を含まないとして定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アスペルギルス・テレウスの菌株であって、上記株がアスペルギルス・テレウスのロバスタチン産生株の変異誘発から形成され、上記菌株がロバスタチン収率0.002%未満の形成で下記構造の化合物:
【化1】


を形成することができる菌株
【請求項2】 ロバスタチン収率0.002%未満の形成で下記構造(I)の化合物:
【化2】


を形成することができるMF−5544、ATCC74064の菌株又はその変異株。
【請求項3】 構造(I)の化合物が少なくとも5.2g/リットルの力価で形成され、トリオール酸関連副産物が0.85g/リットル以下の収率で形成される、請求項2記載の菌株
【請求項4】 前記菌株が生物学的に純粋な菌株である、請求項1記載の菌株。
【請求項5】 前記菌株が生物学的に純粋な菌株である、請求項2記載の菌株。
【請求項6】 前記菌株が生物学的に純粋な菌株である、請求項3記載の菌株。
【請求項7】 下記構造(I)の化合物:
【化3】


の形成方法であって、化合物(I)の形成に適した条件下で請求項1記載の微生物を培養し、化合物を回収することからなる方法。
【請求項8】 下記構造(I)の化合物:
【化4】


の形成方法であって、上記化合物の形成に適した条件下で請求項2記載の微生物を培養し、化合物を回収することからなる方法。
【請求項9】 化合物(I)が少なくとも5.2g/リットルの力価で形成され、トリオール酸関連副産物が0.85g/リットル以下の収率で形成される、請求項8記載の方法。

【請求項10】 請求項1乃至6のいずれか1項に記載
の菌株を含んで成る培養物組成物。

【特許番号】第2611088号
【登録日】平成9年(1997)2月27日
【発行日】平成9年(1997)5月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−144563
【出願日】平成4年(1992)6月4日
【公開番号】特開平6−7176
【公開日】平成6年(1994)1月18日
【微生物の受託番号】 ATCC   74064
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED