説明

アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法、及びそれを用いたスクリーニング方法

【課題】
本発明は、放射性標識を使用することなく、高感度で簡便にACCの活性を測定するための新規な測定方法、及びそれ用いた被検物質のACC活性をスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法において、アセチル−CoAカルボキシラーゼの酵素反応で生成するADPを、ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼを用いて過酸化水素を発生させ、次いで当該過酸化水素を定量することを特徴とするアセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法、及びそれを用いたACC活性をスクリーニングする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法に関し、より詳細には、本発明は、アセチル−CoAカルボキシラーゼの酵素反応で生成するADPを、ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼを用いて過酸化水素を発生させ、次いで当該過酸化水素を定量することを特徴とするアセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)は、次に示す反応式により、アセチル−CoAをマロニル−CoAに変換すると同時に、ATPからADP及びリン酸に変化させる酵素である。
ビオチン酵素+HCO+ATP → CO−ビオチン酵素+ADP+リン酸
CO−ビオチン酵素+アセチル−CoA → ビオチン酵素+マロニル−CoA
全体としては次の反応式となる。
HCO+ATP+アセチル−CoA → ADP+リン酸+マロニル−CoA
【0003】
ACCの産物であるマロニル−CoAは、脂肪酸の生合成及び炭素鎖延長による長鎖脂肪酸合成における前駆体であり、ACCは脂肪酸の生合成の律速酵素と考えられている。また、細胞内にACCの産物であるマロニル−CoAが大量に存在する場合、カルニチンパルミチン酸転移酵素I(CPT−I)を阻害して脂肪酸のミトコンドリアへの輸送が阻害され、脂肪酸酸化が抑制される。ACCを欠損したマウスは脂肪酸の酸化が高レベルになり、体脂肪と体重の低下が見られることより、ACCの阻害剤は抗肥満薬の候補となると考えられている(特許文献1及び2参照)。また、ACCを活性化させて細胞内に大量のマロニル−CoAを生成させることにより、細胞内のCoAを低下させ癌細胞を死滅させることも報告されている(特許文献3参照)。
【0004】
このように、ACCは脂肪酸の代謝や分解をコントロールする重要な役割を持ち、サブタイプとしてACC1及びACC2が知られている。ACC1は、肝臓や脂肪組織に多く発現し、主に脂質合成に関わる組織に存在する。ACC2は、心臓や骨格筋に多く発現し、主に脂肪酸のβ酸化に関わる組織に存在する。
ACC1やACC2の阻害により、マロニル−CoAレベルが低下することにより、肝臓などの脂肪組織における長鎖脂肪酸合成が抑制され、骨格筋などにおける脂肪酸β酸化が亢進され、脂肪酸の利用の増加が促される。
したがって、ACC1又はACC2の活性を阻害するACC阻害剤は、メタボリックシンドローム、高脂血症、肥満症、高血圧症、糖尿病、アテローム性動脈硬化症と関連する心血管疾患などの予防及び治療に極めて有用であると考えられている。また、ACCの活性促進剤は、抗癌剤への利用も検討されている(特許文献3参照)。
【0005】
このために、ACCの活性を測定するための多数の測定系が提案されてきている。提案されている測定系としては、(1)放射能標識体を用いる方法、(2)リン酸を測定する方法、(3)ADPを測定する方法、及び(4)マロニルCoAを測定する方法などが報告されている。
放射能標識体を用いる方法としては、炭素14で標識された炭酸塩を用いて生成したマロニルCoAの放射能を測定することによりACCの活性測定を測定する方法がある(非特許文献1参照)。また、炭素14で放射能標識したアセチルCoAを用いて生成するマロニルCoAの放射能を測定する方法(特許文献1参照)、生成したマロニルCoAを、さらに脂肪酸合成酵素を用いて生成したパルミチン酸を測定することによりACCの活性測定を測定する方法がある(特許文献4参照)。
これらの方法は、放射能標識体を用いることにより、感度の高い測定が可能ではあるが、特殊な施設でないと測定できないことや、廃棄物に対しても環境汚染の問題が生じるなどの大きな問題がある。
リン酸を測定する方法としては、マラカイドグリーン試薬を用いて生成したリン酸を測定することによりACCの活性測定を行う方法(特許文献2参照)や、生成したリン酸をマルトースホスホリラーゼ、グルコースオキシダーゼ、パーオキシダーゼをもちいてレゾルフィンの生成量を測定することにより、ACCの活性測定を行う方法(非特許文献2参照)がある。この方法は放射性化合物を使用しないメリットはある。しかし、ACC阻害剤のスクリーニングを行う方法として、リン酸を測定するよりもADPを測定した方がACCに対してより選択性が高いことが報告されており(非特許文献2参照)、測定感度に大きな問題があった。
【0006】
ADPを測定する方法としては、生成したADPと蛍光標識したADP抗体(Alexa-633)とを抗原抗体反応により結合させると、みかけ上の分子量が大きくなり、蛍光偏光が増大する。この蛍光偏光を測定することによりACCの活性測定を行う方法(非特許文献2参照)がある。この方法は、前記したリン酸を測定する方法に比べれば感度は高いが、ADP抗体の特性としてATPが約100分の1の交叉性を持つため、ADPの生成量が少ない場合には測定誤差が大きくなるだけでなく、特殊な蛍光偏光測定装置が必要とされるので、簡便な測定方法ではない。また、次の反応式(1)〜(3)により、生成したADPを、ピルビン酸キナーゼ(下記反応式(2)参照)、乳酸脱水素酵素を用いて(下記反応式(3)参照)NADHの減少量を測定することにより、ACCの活性測定を行う方法(非特許文献3参照)がある。
HCO+ ATP + アセチル−CoA
→ ADP + リン酸 + マロニル−CoA (1)
ホスホエノールピルベート + ADP → ピルベート + ATP (2)
ピルベート + NADH + H → 乳酸 + NAD (3)
NADHは340nmに吸収があり、これがNADに変化することにより吸収が減少するため、340nmにおける吸光度を測定する。この方法は放射性化合物を使用しないメリットはあるが、測定感度が低い。
マロニルCoAを測定する方法としては、下記の反応式(1)、(4)、及び(5)により、まず反応式(1)で生成したマロニルCoAを脂肪酸合成酵素により脂肪酸とCoAにする(下記反応式(4)参照)。次いで、CoAを蛍光試薬(CPM)により測定することによりACCの活性測定を行う方法(非特許文献4参照)がある。
HCO+ ATP + アセチル−CoA
→ ADP + リン酸 + マロニル−CoA (1)
マロニル−CoA + アセチル−CoA + ATP + NADPH
→ パルミチン酸 + ADP + NADH + CoA (4)
CoA + CPM → CoA−CPM (5)
CoA−CPMは励起波長405nmで励起され、530nmの蛍光を発する。
この方法は、脂肪酸合成酵素が市販されていないので、動物臓器又は酵素発現細胞から精製して使用しなければならず、汎用性に乏しい。また、脂肪酸合成酵素に対する影響についても考慮する必要があると思われる。
【0007】
このように、ACCの阻害活性の測定方法の殆どの場合は、感度の点から放射能標識した化合物を用いた方法によっているが、実施場所が限定されることや環境汚染の点などから放射能を用いない方法が望まれる。
しかし、マラカイドグリーン試薬などを使用してリン酸を測定する方法、ADPを測定するためにLDHを用いたUV法などの方法は測定感度が低いため多量の酵素が必要であるだけでなく、信頼性に乏しい。また、ACC阻害剤のスクリーニングを行う方法としては、リン酸を測定するよりもADPを測定した方がACCに対してより選択性が高いことも報告されているが、感度よく簡便に測定できる方法は知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2008−179621号公報
【特許文献2】特開2006−131559号公報
【特許文献3】特表2003−516938号公報
【特許文献4】米国特許明細書第7,384,757号
【非特許文献1】Harwood H. J., Petras S. F., et al., J. Biol. Chem. (2003) 278, 37099-37111
【非特許文献2】Liu Y., Zalameda L., et al., Assay and drug development technologies (2007) 5, 225-235
【非特許文献3】Weatherly S. C., Volrath S. L. et al., Biochem J. (2004) 380, 105-110
【非特許文献4】Chung C. C., Ohwaki K., et al., Assay and Drug Development Technology (2008) 6, 361-374
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、放射性標識を使用することなく、高感度で簡便にACCの活性の測定のための新規な測定方法を提供する。また、本発明は、当該測定方法を用いた被検物質のACC活性をスクリーニングする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)阻害剤などの探索を行うために、高感度で実用性の高いACC活性の測定方法の開発を行ってきた。放射性化合物を使用しないACC活性の測定方法としては、この酵素反応で生成するマロニル−CoAやリン酸を測定する方法などが知られているが、いずれも感度の点で満足できるものではなかった。また、ADPを測定する方法も知られていたが、誤差が大きく感度も十分ではなく、満足できるものではなかった。そこで、本発明者らは、鋭意検討してきた結果、ADPを蛍光法により測定する方法により高感度でACC活性が測定できる新規な方法を見出した。
【0011】
即ち、本発明は、アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法において、アセチル−CoAカルボキシラーゼの酵素反応で生成するADPを、ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼを用いて過酸化水素を発生させ、次いで当該過酸化水素を定量することを特徴とするアセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法に関する。
また、本発明は、このための測定用キット、及びこの方法を用いたスクリーニング方法に関する。
【0012】
本発明をさらに詳細に説明すれば以下のとおりとなる。
(1)アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)の活性を測定する方法において、アセチル−CoAカルボキシラーゼの酵素反応で生成するADPを、ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼを用いて過酸化水素を発生させ、次いで当該過酸化水素を定量することを特徴とするアセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法。
(2)ピルビン酸オキシダーゼを用いる酵素反応が、リン酸の存在下で行われるものである前記(1)に記載の方法。
(3)リン酸が、アセチル−CoAカルボキシラーゼの酵素反応で生成したリン酸である前記(2)に記載の方法。
(4)過酸化水素を定量する方法が、パーオキシダーゼを用いた蛍光試薬を用いる方法である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)蛍光試薬が、アンプレックスレッドであり、パーオキシダーゼとの酵素反応によるレゾルフィンの生成量を測定するものである前記(4)に記載の方法。
(6)アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法が、ワンポットで行われる前記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)アセチル−CoAカルボキシラーゼが、そのサブタイプである前記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法が、被検物質を含有した測定系で行われる前記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼを含有していることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の測定方法を行うための検査キット。
(10)被検物質を含有する測定系において前記(1)〜(8)のいずれかに記載のアセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法を行って、当該被検物質のアセチル−CoAカルボキシラーゼに対する活性を測定することにより、アセチル−CoAカルボキシラーゼに対する活性をスクリーニングする方法。
(11)アセチル−CoAカルボキシラーゼに対する活性の測定が、アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性阻害を測定する方法である前記(10)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、生成したADPをピルビン酸キナーゼ、及びピルビン酸オキシダーゼを用いて過酸化水素を発生させ、これを定量する、例えば、パーオキシダーゼを用いてレゾルフィンの生成量を測定することにより、ACCの活性測定を行うことにより、放射性化合物を全く使用することなく、極めて高感度で、かつ簡便に測定することができる方法を提供する。本発明の方法は、高感度で、高信頼性で、かつ放射性物質による環境汚染も無い安全な方法である。また、本発明のこの方法を使用することにより、簡便で大量に各種の物質のACC活性を測定することができ、被検物質をスクリーニングする方法として極めて優れている。さらに、本発明の方法は、ACCのサブタイプであるACC1及びACC2のいずれに対しても適用可能であり、いずれのサブタイプも使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の方法におけるアセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)[EC 6.4.1.2.]としては、ACC1(ACC-α、ACAC、ACACA、tgfとしても知られている)と、ACC2(ACC-β、ACACB、ACCB、HACC275としても知られている)のいずれのサブタイプであってもよい。また、その由来は特に制限されないが、入手の容易さや信頼性の観点からヒト又はラット由来のものが好ましい。
本発明の方法におけるピルビン酸キナーゼ[EC 2.7.1.40.]としては、哺乳動物の筋肉や心筋などの解糖組織に多く存在するM型、肝臓に主として存在するL型、脾臓に存在するS型、胎生組織に存在するA型(又はK型)があり、そのいずれでもよいが、好ましくはホスホエノールピルビン酸に親和性が高い活性型が挙げられる。この酵素の安定化のために、グリセロール、ジチオトレイトール(DTT)、フルクトース−1,6−ビスリン酸などを併用してもよい。
本発明の方法におけるピルビン酸オキシダーゼ[EC 1.2.3.3.]も、いずれのものでも使用できるが、大腸菌から純化されている市販のものが簡便で好ましい。使用に当たっては、比活性を上げるために脂質や界面活性剤を適宜添加して使用してもよい。
【0015】
本発明における過酸化水素を定量する方法としては、公知の各種の方法を適用することができる。簡便で好ましい方法としては、蛍光試薬を使用した蛍光測定法が挙げられる。好ましい方法としては、例えば、パーオキシダーゼを用いてレゾルフィンの生成量を蛍光により測定する方法が挙げられる。レゾルフィンは励起波長560nmで、590nmの蛍光を発する。
本発明の方法は、アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)の公知の反応条件下で行うことができる。例えば、ACCを含有するACC溶液、好ましくは脂質を含有しないBSA、クエン酸カリウム、及びHEPES(pH7.5)を含む溶液に、被検物質の溶液(DMSO、及びHEPES(pH7.5)を含む溶液が好ましい。)を加え、37℃付近で20〜60分間、好ましくは約30分間プレインキュベーションした後、アセチル−CoA、ATP、及びNaHCOを含有する基質溶液(HEPES(pH7.5)、MgClを含むものが好ましい。)を加えて、37℃付近で30分〜2時間、好ましくは約1時間反応させることにより行うことができる。
本発明のピルビン酸キナーゼによる反応は、前記したアセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)の反応生成物を用いて、これにホスホエノールピルビン酸を加えて、37℃付近で30分〜2時間、好ましくは約1時間反応させることにより行うことができる。本発明のピルビン酸キナーゼによる反応は、アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)による反応と同時に行うこともできる。この場合には、ACCをプレインキュベーションした後にACCの基質溶液と同時にピルビン酸キナーゼ及びホスホエノールピルビン酸を加えて、37℃付近で30分〜2時間、好ましくは約1時間反応させることにより行うことができる。
【0016】
本発明のピルビン酸オキシダーゼによる反応は、前記したアセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)及びピルビン酸キナーゼの反応生成物を用いて、37℃付近で3分〜30分、好ましくは3〜10分、より好ましくは約5分間反応させることにより行うことができる。ピルビン酸オキシダーゼによる反応の際に、蛍光試薬及びパーオキシダーゼ、例えばHRP(horseradish peroxidase)を同時に加えておくことにより、同時に酸化反応を行うこともできる。
蛍光測定は公知の各種の方法で行うことができる。レゾルフィンを測定する場合には、例えば、モレキュラーデバイス社製Spectra Max Gemini EMにより励起波長560nm、蛍光波長590nmにおける蛍光強度を測定することができる。
本発明の方法は、
(1)アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)による反応、
(2)ピルビン酸キナーゼによる反応、
(3)ピルビン酸オキシダーゼによる反応、及び、
(4)過酸化水素による反応、
の4段階の反応であるが、これらの反応を同じ反応容器内でワンポットで行うことができる。また、前記したように、(1)の反応と(2)の反応を同時に行い、(3)の反応と(4)の反応を同じ反応容器内で同時に行うこともできる。
【0017】
本発明の方法をより詳細に説明するが、以下の説明は本発明を説明するためのものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。
ACC阻害剤として公知のCP−640186(R体)を使用して試験を行った。CP−640186は、非特許文献1やStructure, Vol. 12, 1683-1691(2004)に記載されている化合物であり、次の式、
【0018】
【化1】

【0019】
で表される化合物である。
また、これらの試験におけるACCの1mUは、1分間に1ミリモルのNADHからNADに変化する量、即ち1分間に1ミリモルのADPを遊離する量とした。
試験に用いたACC1は、蔗糖負荷した6匹のラット肝臓より細胞質画分を分離し、単量体アビジンを結合させたアフィニティーカラムにより精製した。SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った結果、分子量265Kにほぼ単一バンドとして検出された。
試験に用いたACC2は、ラットの心臓より細胞質画分を分離し、単量体アビジンを結合させたアフィニティーカラムにより精製した。SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った結果、分子量280Kに染色バンドが確認された。
【0020】
比較のために非特許文献2に記載のADP測定法(以下、UV法と略称することがある。)を行った。
まず、UV法によりACC阻害活性を測定するために、ACC1を用いて酵素量の設定を行った。0〜5mU/wellのACC1を含む溶液を用いて37℃で1時間反応後、340nmで測定した結果を図1に示した。図1の横軸はACC1の量(mU/well)であり、縦軸は340nmにおける吸収量を示す。
この結果、0〜2.5mU/wellのACC1を用いた場合には、ほぼ直線的に減少し、それ以上のACC1では一定の値を示した。この結果より、最大反応量の約80%であるACC量2mU/wellを用いることにした。
【0021】
次に、本発明の方法(以下、蛍光法と略称することがある。)によりACC阻害活性を測定するために、ACC1を用いて酵素量の設定を行った。0〜1mU/wellのACC1を含む溶液を用いて37℃で1時間反応した。ピルビン酸測定試薬50μlを加え37℃で5分間反応後、励起波長560nm、蛍光波長590nmにおける蛍光強度を測定した結果を図2に示した。図2の横軸はACC1の量(mU/well)であり、縦軸は590nmにおける蛍光強度を示す。
この結果、0〜0.25mU/wellのACC1を用いた場合には、ほぼ直線的に増加し、それ以上のACC1では緩やかな増加を示した。この結果より、使用するACC量は0.2mU/wellとした。
【0022】
次に、UV法と蛍光法によるCP−640186のACC阻害活性を比較した。
UV法によるCP−640186の活性測定は、2mU/wellのACC1を含む溶液を用いて37℃で1時間反応した。蛍光法によるCP−640186の活性測定は、0.2mU/wellのACC1を含む溶液を用いて37℃で1時間反応した。CP−640186を添加しない場合のACC活性を100%とした時の各濃度における活性(%)を図3に示した。図3の横軸はCP−640186の量(μM)であり、縦軸は酵素活性の残存率(%)を示す。
この結果、CP−640186のACC阻害活性をUV法で測定した場合と蛍光法で測定した場合とで比較すると、殆ど同じ阻害曲線となることがわかった。この試験においては、UV法ではACC量が2mU/wellであり、本発明の蛍光法ではACC量が0.2mU/wellであることから、蛍光法はUV法に比較して約10分の1量のACCで阻害活性を測定することができることがわかる。
【0023】
次に、CP−640186によるACC1とACC2の阻害活性の比較を行った。
CP−640186のACC1活性の測定は、0.2mU/wellのラット肝臓由来ACC1を用い本発明の蛍光法により測定した。CP−640186のACC2活性測定は、0.2mU/wellのラット心臓由来ACC2を用い本発明の蛍光法により測定した。
CP−640186を添加しない場合のACC活性を100%とした時の各濃度における活性(%)を図4に示した。図4の横軸はCP−640186の量(μM)であり、縦軸は酵素活性の残存率(%)を示す。
この結果、CP−640186のACC1とACC2阻害活性を比較すると、殆ど同じ阻害曲線を描くことがわかった。
【0024】
これらの結果から、本発明の蛍光法によるACC活性の測定では、従来のUV法(非特許文献2参照)に比較して使用する酵素量が約10分の1とすることができ、極めて高感度での測定が可能となり、本発明の測定法はACC阻害薬のスクリーニングを行う場合に有用であると考えられる。
【0025】
本発明のスクリーニング方法は、前記してきた本発明の測定方法に準じて、
(1)ACC溶液に被検物質溶液を加え、必要によりプレインキュベーションを行った 後、基質溶液を加えて反応させる工程、
(2)次いで、ピルビン酸キナーゼによる反応を行う工程、
(3)ピルビン酸オキシダーゼによる反応を行う工程、
(4)過酸化水素による反応を行う工程、及び、
(5)過酸化水素による定量を行う工程、
からなる。これらの工程のうち(1)〜(4)の反応は、同じ反応容器内でワンポットで行うことができる。また、前記したように、(1)の反応と(2)の反応を同時に行い、(3)の反応と(4)の反応を同じ反応容器内で同時に行うこともできる。
本発明のスクリーニング方法により、被検物質のACCに対する活性(阻害活性又は亢進活性)を簡便に高感度で行うことができ、メタボリックシンドローム、高脂血症、肥満症、高血圧症、糖尿病、アテローム性動脈硬化症と関連する心血管疾患などの予防及び治療に極めて有用なACC阻害剤や、抗癌剤として期待されているACC活性化剤などを、高信頼性で大量に迅速にスクリーニングすることができる。
【0026】
また、本発明は、本発明の方法を行うための測定キットを提供するものである。本発明の測定キットは、本発明の測定方法に使用するためのピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼを含有していることを特徴とする検査キットである。本発明の検査キットは、ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼのほかに、ACCを含有することが好ましく、これらの酵素は緩衝液などの溶液状態としておくこともできる。さらに、必要に応じて、ピルビン酸キナーゼの基質物質、蛍光試薬、HRP(horseradish peroxidase)などのパーオキシダーゼ、及びこれらの溶液とするための溶媒(緩衝液)などを含有していてもよい。
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0028】
1)ACC1の調製
SDラット(雄性150−200g)6匹を2日間絶食させた後、高糖食(high sucrose diet (AIN76A))で3日間飼育した。エーテル麻酔後肝臓を摘出し、冷却したPBS 1000mlで洗浄した。ホモジネート緩衝液(50mM リン酸カリウム(pH7.5)、10mM EDTA及び10mM 2−メルカプトエタノールを含む溶液)500ml、及びシグマ社製のプロテアーゼ阻害混合物(protease inhibitor cocktail)5mlを加え、ワーリングブレンダーで1分間、4℃でホモジナイズした。3%PEGに調製後、20,000×g、15分間4℃で遠心した。上清を5%PEGに調製後、20,000×g、20分間4℃で遠心した。沈殿物をカラム緩衝液(100mM Tris−HCI(pH7.5)、1mM EDTA、0.1mM DTT、0.5M NaCl及び5%グリセリンを含む溶液)30mlに溶解した。プロメガ社製のアビジンカラム(SoftLink soft release avidin resin)5mlに吸着させた。カラム緩衝液300mlを用いて洗浄した。溶出液(2mMビオチンを添加したカラム緩衝液)30mlを用いてACCを溶出した。活性画分を膜ろ過装置−Ultra−4(分子量画分30,000)を用いて濃縮後−80℃で保存した。
【0029】
2)ACC2の調製
正常食で飼育したSDラット(雄性150−200g)102匹をエーテル麻酔した。心臓を摘出後冷却したPBS 1,000mlで洗浄した。ホモジネート緩衝液(225mMマンニトール、75mMショ糖、10mMトリス−HCl(pH7.5)及び0.05mM EDTAを含む溶液)600ml及びシグマ社製のプロテアーゼ阻害混合物(protease inhibitor cocktail)5mlを加え、ワーリングブレンダーで1分間、4℃でホモジナイズした。1,200×g、10分間4℃で遠心後上清を更に12,000×g、10分間4℃で遠心した。上清に硫安を加えて50%飽和に調製した。12,000×g、10分間4℃で遠心して沈殿物を回収した。沈殿物をカラム緩衝液(100mM Tris−HCI(pH7.5)、1mM EDTA、0.1mM DTT、0.5M NaCl及び5%グリセリンを含む溶液)80mlに溶解した。透析チューブに入れて500mlのカラム緩衝液で1時間透析した。この操作を5回繰り返して硫安を除去した。プロメガ社製のアビジンカラム(SoftLink soft release avidin resin)5mlに吸着させた。カラム緩衝液300mlを用いて洗浄した。溶出液(2mMビオチンを添加したカラム緩衝液)30mlを用いてACCを溶出した。活性画分を膜ろ過装置−Ultra−4(分子量画分30,000)を用いて濃縮後−80℃で保存した。
【実施例1】
【0030】
本発明のACC活性の測定は96wellマイクロプレートを用いて行った。ACC溶液(0.2mU/wellのACC、0.75mg/mlのBSA(fatty acid free)、10mM クエン酸カリウム、及び50mM HEPES(pH7.5)を含む溶液)25μl、及びCP−640186を含む溶液(0.25%DMSO及び50mM HEPES(pH7.5)を含む溶液で希釈したCP−640186溶液)25μlを加え、37℃で30分間プレインキュベーションした。基質溶液(50mM HEPES(pH7.5)、0.66mM アセチル−CoA、4mM MgCl、10mM NaHCO、0.4mM ホスホエノールピルビン酸、2mM ATP、及び2.2U/wellのピルビン酸キナーゼを含む溶液)50μlを加え37℃で1時間反応した。
反応後、ピルビン酸測定試薬(300μM Amplex red(Invitrogen社)、2U/mlのHRP(horseradish peroxidase)、及び2U/mlのピルビン酸オキシダーゼを含む0.05Mリン酸緩衝液(pH 5.8))50μlを加え、37℃で5分間反応させた。
反応後、モレキュラーデバイス社製Spectra Max Gemini EMにより励起波長560nm、蛍光波長590nmにおける蛍光強度を測定した。
なお、ACCの1mUは1分間に1ミリモルのNADHからNADに変化する量、即ち1分間に1ミリモルのADPを遊離する量とした。
【0031】
比較例1 UV法による測定
UV法によるACC活性の測定は96wellマイクロプレートを用いて行った。ACC溶液(2mU/wellのACC、0.75mg/mlのBSA(fatty acid free)、10mM クエン酸カリウム、及び50mM HEPES(pH7.5)を含む溶液)50μl及びCP−640186溶液(0.25%DMSO及び50mM HEPES(pH7.5)を含む溶液で希釈したCP−640186溶液)50μlを加え、37℃で30分間プレインキュベーションした。基質溶液(50mM HEPES(pH7.5)、0.66mM アセチル−CoA、4mM MgCl、25mM NaHCO、1mMのホスホエノールピルビン酸、0.4mM NADH、1mM DTT、2mM ATP、2.2U/wellのピルビン酸キナーゼ、及び4.6U/wellのLDH(lactate dehydrogenase)を含む溶液)100μlを加え37℃で1時間反応した。
反応後、モレキュラーデバイス社製Versa Maxにより波長340nmにおける吸光度を測定した。
なお、ACCの1mUは1分間に1ミリモルのNADHからNADに変化する量、即ち1分間に1ミリモルのADPを遊離する量とした。
【実施例2】
【0032】
本発明の蛍光法における酵素量の設定
本発明の蛍光法によりACC阻害活性を測定するために、ACC1を用いて酵素量の設定を行った。
0〜1mU/wellのACC1を含む溶液25μl及び50mM HEPES(pH7.5)25μlを加え、37℃で30分間プレインキュベーションした。基質溶液50μlを加え37℃で1時間反応した。ピルビン酸測定試薬50μlを加え37℃で5分間反応後、励起波長560nm、蛍光波長590nmにおける蛍光強度を測定した。
結果を図2に示す。0〜0.25mU/wellのACC1を用いた場合には、ほぼ直線的に増加し、それ以上のACC1では緩やかな増加を示した。この結果より、使用するACC量は0.2mU/wellとした。
【0033】
比較例2 UV法における酵素量の設定
UV法によりACC阻害活性を測定するために、ACC1を用いて酵素量の設定を行った。
0〜5mU/wellのACC1を含む溶液50μl及び50mM HEPES(pH7.5)50μlを加え、37℃で30分間プレインキュベーションした。基質溶液100μlを加え37℃で1時間反応後、340nmで測定した。
結果を図1に示す。0〜2.5mU/wellのACC1を用いた場合には、ほぼ直線的に減少し、それ以上のACC1では一定の値を示した。この結果より、最大反応量の約80%であるACC量2mU/wellを用いることにした。
【実施例3】
【0034】
UV法と蛍光法によるCP−640186のACC阻害活性の比較
UV法による阻害活性の測定は、2mU/wellのACC1を含む溶液50μl及びCP−640186(0〜40μM)溶液50μlを加え、37℃で30分間プレインキュベーションした。基質溶液100μlを加え37℃で1時間反応後、340nmで測定した。
本発明の蛍光法による阻害活性の測定は、0.2mU/wellのACC1を含む溶液25μl及びCP−640186(0〜400μM)溶液25μlを加え、37℃で30分間プレインキュベーションした。基質溶液100μlを加え37℃で1時間反応した。ピルビン酸測定試薬50μlを加え37℃で5分間反応後、励起波長560nm、蛍光波長590nmにおける蛍光強度を測定した。
CP−640186を添加しない場合のACC活性を100%とした時の各濃度における活性(%)を計算した。
結果を図3に示す。CP−640186のACC阻害活性をUV法で測定した場合と蛍光法で測定した場合とで比較すると、殆ど同じ阻害曲線を描いた。蛍光法はUV法に比較して約10分の1量のACCで阻害活性を測定することができた。
【実施例4】
【0035】
CP−640186のACC1とACC2との阻害活性の比較
CP−640186のACC1阻害活性の測定は、0.2mU/wellのACC1を含む溶液25μl及びCP−640186(0〜400μM)溶液25μlを加え、37℃で30分間プレインキュベーションした。基質溶液100μlを加え37℃で1時間反応した。ピルビン酸測定試薬50μlを加え37℃で5分間反応後、励起波長560nm、蛍光波長590nmにおける蛍光強度を測定した。
また、CP−640186のACC2阻害活性の測定は、0.2mU/wellのACC2を含む溶液25μlを用い及びCP−640186(0〜40μM)溶液25μlを加えACC1と同様に行った。
CP−640186を添加しない場合のACC活性を100%とした時の各濃度における活性(%)を計算した。
結果を図4に示す。この結果、CP−640186のACC1とACC2阻害活性を比較すると、殆ど同じ阻害曲線を描くことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、メタボリックシンドローム、高脂血症、肥満症、高血圧症、糖尿病、アテローム性動脈硬化症と関連する心血管疾患などの予防及び治療に極めて有用であると考えられているACC阻害剤や、抗癌剤への利用も検討されているACCの活性促進剤などを、簡便で高感度で、かつ放射性物質を使用することなく安全にスクリーニングすることができる新規なACC活性測定方法を提供するものであり、有用な新規な医薬品や食品類の開発に有用な手法となり産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、従来のUV法における酵素量の影響を実験した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の蛍光法における酵素量の影響を実験した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の蛍光法(白丸印)と従来のUV法(黒丸印)における阻害活性を比較したグラフである。
【図4】図4は、本発明の蛍光法におけるサブタイプACC1とACC2における阻害活性を比較したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法において、アセチル−CoAカルボキシラーゼの酵素反応で生成するADPを、ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼを用いて過酸化水素を発生させ、次いで当該過酸化水素を定量することを特徴とするアセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法。
【請求項2】
ピルビン酸オキシダーゼを用いる酵素反応が、リン酸の存在下で行われるものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リン酸が、アセチル−CoAカルボキシラーゼの酵素反応で生成したリン酸である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
過酸化水素を定量する方法が、パーオキシダーゼを用いた蛍光試薬を用いる方法である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
蛍光試薬が、アンプレックスレッドであり、パーオキシダーゼとの酵素反応によるレゾルフィンの生成量を測定するものである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法が、ワンポットで行われる請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
アセチル−CoAカルボキシラーゼが、そのサブタイプである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法が、被検物質を含有した測定系で行われる請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ピルビン酸キナーゼ及びピルビン酸オキシダーゼを含有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の測定方法を行うための検査キット。
【請求項10】
被検物質を含有する測定系において請求項1〜8のいずれかに記載のアセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を測定する方法を行って、当該被検物質のアセチル−CoAカルボキシラーゼに対する活性を測定することにより、アセチル−CoAカルボキシラーゼに対する活性をスクリーニングする方法。
【請求項11】
アセチル−CoAカルボキシラーゼに対する活性の測定が、アセチル−CoAカルボキシラーゼの活性阻害を測定する方法である請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−81894(P2010−81894A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255953(P2008−255953)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】