説明

アセチレンカルボン酸エステル、アセチレン系重合体の製造方法および電極材料

【課題】 本発明は、ラジカル濃度が高く、リチウムイオン二次電池の小型化・高容量化・軽量化を実現できる電極活物質として利用可能なアセチレン系重合体を製造できるアセチレン系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のアセチレン系重合体の製造方法は、周期表第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いて、ラジカル化した置換基を有する置換アセチレン単量体を重合する重合工程を有する。また、本発明のアセチレン系重合体の製造方法は、周期表第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いて、ニトロキシルラジカル発生サイトを含む置換基を有する置換アセチレン単量体を重合して非ラジカル重合体を形成する重合工程と、重合工程にて得た非ラジカル重合体をラジカル化するラジカル化工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチレン系重合体の原料になるアセチレンカルボン酸エステル、ラジカルを有するアセチレン系重合体の製造方法に関する。さらには、リチウムイオン電池などの電池の電極に使用される電極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や携帯端末など携帯可能な小型電子機器の電源としては、小型化・高容量化を実現するために、リチウムイオン二次電池が使用されているが、リチウムイオン電池に対しても、より一層の小型化・高容量化が求められ、さらに軽量化も求められている。
そこで、様々な検討がなされており、例えば、導電性高分子をリチウムイオン二次電池の正極活物質として利用することが提案されている。しかし、導電性高分子を正極活物質として用いた場合には軽量化は達成できるものの高容量化を満たすことができなかった。
リチウムイオン二次電池を高容量にするためには、主鎖がアセチレン重合体のポリマーからなるラジカル化合物を正極活物質として用いることが考えられる。特許文献1の実施例14には、主鎖がアセチレン重合体のラジカル化合物であるポリ(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニルアセチレンラジカル)を正極活物質として用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2002−151084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の実施例14には誤解があると思われる。特許文献1の実施例14には、5塩化モリブデンを触媒として、アセチル−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニルアセチレンを重合させ、これにより得られた重合体を酸化処理してポリ(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニルアセチレンラジカル)を得た、と記載されている。ところが、5塩化モリブデンを触媒として用いた場合、ラジカル発生点を有さないモノマーを重合した重合体でもラジカル濃度が101920spins/g以上になることが知られている。
また、モリブデンは磁性を有しているから、ラジカル濃度の値を高くすることがある。しかも、モリブデンは重合体に配位している上に、5塩化モリブデンは容易に難溶性加水分解物に変質するために、重合体からモリブデンを除去することは困難である。さらに、特許文献1のいずれの実施例もカーボン等が混在した系でラジカルスピン濃度を測定しており、高分子ラジカル単体が1021以上あることを直接示唆していない。したがって、特許文献1の実施例14に記載されたスピン濃度1021spins/gは殆どモリブデンに基づく値であり、重合体に基づく値ではないと推定される。これらのことから、特許文献1の実施例14では、ポリ(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシフェニルアセチレンラジカル)が得られていないか、重合体に基づくラジカル濃度が低いものであると思われる。このようなものを正極活物質に用いてもリチウムイオン二次電池を高容量化させることはできない。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、ラジカル濃度が高く、リチウムイオン二次電池の小型化・高容量化・軽量化を実現できる電極活物質として利用可能なアセチレン系重合体を製造できるアセチレン系重合体の製造方法を提供することを目的とする。さらには、リチウムイオン二次電池の小型化・高容量化・軽量化を実現できる電極材料を提供することを目的とする。また、上記アセチレン系重合体の原料になるアセチレンカルボン酸エステルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願請求項1のアセチレン系重合体の製造方法は、周期表第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いて、ラジカル化した置換基を有する置換アセチレン単量体を重合する重合工程を有することを特徴とする。
本願請求項2のアセチレン系重合体の製造方法は、周期表第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いて、ニトロキシルラジカル発生サイトを含む置換基を有する置換アセチレン単量体を重合して非ラジカル重合体を形成する重合工程と、
重合工程にて得た非ラジカル重合体をラジカル化するラジカル化工程とを有することを特徴とする。
本発明のアセチレン系重合体の製造方法においては、第8〜10族の元素がロジウムまたはイリジウムであることが好ましい。
本発明の電極材料は、上述したアセチレン系重合体の製造方法により製造されたアセチレン系重合体と、炭素材料とを含有することを特徴とする。
また、本発明のアセチレンカルボン酸エステルは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本願請求項1および本願請求項2のアセチレン系重合体の製造方法によれば、ラジカル濃度が高く、リチウムイオン電池の小型化・高容量化・軽量化を実現できる電極活物質として利用可能なアセチレン系重合体を製造できる。本発明のアセチレン系重合体の製造方法により製造されたラジカルを有するアセチレン系重合体は、リチウムイオン二次電池の電極活物質の他にも、導電材料、発光材料、非線形材料、記録材料に適用可能な有機磁性材料、電磁シールド剤、排水処理剤、耐黄変防止剤、ビニル重合の重合調整剤などに有用である。
本発明の電極材料をリチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることで、リチウムイオン二次電池を小型化・高容量化・軽量化できる。
本発明のアセチレンカルボン酸エステルは、これをモノマーとして用いることでラジカルを有するアセチレン系重合体を簡便に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(第1の実施形態例)
本発明のアセチレン系重合体の製造方法における第1の実施形態例について説明する。第1の実施形態例の製造方法は、ラジカル化した置換基を有する置換アセチレン単量体を、第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いて重合する重合工程を有し、ラジカルを有するアセチレン系重合体を得る方法である。
【0007】
ラジカル化した置換基を有する置換アセチレン単量体としては、下記化学式(1)〜(21)のものが例示される。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

【0012】
【化5】

【0013】
【化6】

【0014】
【化7】

【0015】
【化8】

【0016】
【化9】

【0017】
【化10】

【0018】
【化11】

【0019】
【化12】

【0020】
【化13】

【0021】
【化14】

【0022】
【化15】

【0023】
【化16】

【0024】
【化17】

【0025】
【化18】

【0026】
【化19】

【0027】
【化20】

【0028】
【化21】

【0029】
化学式(1)〜(21)中、X,Yはそれぞれ独立してシクロヘキシレン基、アルキレン基、フェニレン基を示す。また、Rは、下記化学式(22)〜(30)を示す。
【0030】
【化22】

【0031】
【化23】

【0032】
【化24】

【0033】
【化25】

【0034】
【化26】

【0035】
【化27】

【0036】
【化28】

【0037】
【化29】

【0038】
【化30】

【0039】
の中でも、入手容易であり、安定性が高いことから、化学式(22)の2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル基が好ましい。
【0040】
また、Rとしては、下記(31),(32)のフェルダジル基が挙げられる。なお、このフェルダルジル基のどの箇所がアセチレン側の原子と結合するかはその合成方法により異なるので、化学式中に結合箇所を示さない。
【0041】
【化31】

(Rは任意の置換基)
【0042】
これらラジカル化した置換基を有する置換アセチレン単量体の中でも、ラジカル安定性を高める点では、アセチレン重合体の主鎖にカルボニル基が直接結合したもの、すなわち、化学式(5)〜(7),(19)〜(21)が好ましい。特に、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルを含有する本発明のアセチレンカルボン酸エステルがより好ましい。
【0043】
本発明のアセチレンカルボン酸エステルは、三重結合を有するカルボン酸と、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルを含有するアルコールをジクロロメタン等の溶媒中、ジシクロヘキシルカルボジイミドのようなカルボキシル基の活性化剤存在下、場合によっては4−ジメチルアミノピリジンなどの触媒を添加し、反応して得ることができる。この反応における反応温度は、−20〜100℃、好ましくは0〜80℃であり、反応時間は1分〜10時間、好ましくは10分〜8時間である。
【0044】
また、リチウムイオン二次電池をより高容量化させる点では、重合体の繰り返し単位の分子量が小さい方が、あるいは、化学式(33)に示すように繰り返し単位中に複数のラジカルを有することが好ましい。
【0045】
【化32】

【0046】
ラジカル化した置換基を有する置換アセチレン単量体は、ラジカル発生サイトを含む置換基を有する置換アセチレン単量体を、ラジカル化処理することで得られる。ここで、ラジカル発生サイトとは、電子スピン共鳴(ESR)により測定されるラジカル濃度が1020spins/g以上に1秒以上維持される安定ラジカルを発生しうる化学構造のことであり、例えば、分子中に−O−O−、−N=N−、−OH、−NHR−などを含み、酸素や窒素上にラジカルが形成した際にそのラジカルを共鳴などにより安定化できる構造のことである。また、ラジカル化処理とは、フェリシアン化カリウム、過酸化鉛による酸化処理のことである。
また、ラジカル化した置換基を有する置換アセチレン単量体は、合成の段階でラジカル化し、あるいは、ラジカルを有する基を導入して得てもよい。
【0047】
周期表第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒とは、下記一般式(I)で表されるものである。
一般式(I):[MLL’]
(式中、Mは周期表第8〜10族の元素、Lは多重結合を有する化合物に由来する配位子、L’は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子、Xは陰イオン、mは0〜7の整数、nは0〜6の整数、pは1〜2の整数、qは0〜2の整数を表す。)
【0048】
式(I)中のMは、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、白金、パラジウム、イリジウムなどが挙げられ、これらの中でも、重合活性が高いことから、ロジウムまたはイリジウムが好ましい。
Lは多重結合を有する化合物に由来する配位子を表す。好ましいLとしては、オレフィン、アセチレン、ジエン、シクロオレフィン、一酸化炭素、アリル、フェニルアセチレンなどが挙げられ、特に好ましくはシクロオレフィン、アリル、一酸化炭素、フェニルアセチレンなどが挙げられ、より好ましくはシクロオレフィンが挙げられる。シクロオレフィンとしては、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンが好ましく用いられる。
【0049】
L’は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子を表す。好ましいL’としては、窒素、リン、ヒ素、酸素、イオウなどの原子を有する配位子、ハロゲン原子などが挙げられる。特に好ましくはリンを有する配位子、ハロゲン原子が挙げられ、最も好ましくはハロゲン原子が挙げられる。具体的には、窒素を有する配位子としては、例えばピリジン、ビピリジル、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、フェナンスロリンなどが挙げられる。リンを有する化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスファイト、トリフェニルホスフェート、ビスジフェニルホスフィン、n−ノニルフェニルホスフィン、エチレンビスフェニルホスフィンなどが挙げられ、トリフェニルホスフィンが特に好ましい。ヒ素を有する配位子としてはトリフェニルアルシンなどが挙げられる。酸素を有する配位子としてはジフェニルエーテル、アルコキシなどが挙げられる。イオウを有する配位子としては、ジフェニルチオエーテルなどが挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、塩素が特に好ましい。
【0050】
Xは陰イオンを表す。Xは、具体的には、PF、BF、ClO、SOCFなどが挙げられ、PFが好ましく用いられる。
mは0〜7の整数、好ましくは0〜6の整数、特に好ましくは1〜2の整数を表す。nは0〜6の整数、好ましくは0〜5の整数、特に好ましくは1〜2の整数を表す。pは1〜2の整数を表す。qは0〜2の整数、好ましくは1〜2の整数を表す。
【0051】
一般式(I)で表される触媒の具体例としては、[Rh(COD)Cl]、[Rh(NBD)Cl]、[Rh(NBD)OCH、[Rh(COD)bipy]SOCF、[Rh(COD)bipy]PF、[Rh(NBD)bipy]PF、[Rh(COD)bipyam]PF、[Rh(COD)(PPh]PF、[Rh(COD)EDA]Cl、[Rh(COD)TEDA]Cl、Re(Co)Z、Ni(CO)(PPh、Ni(PPh、Pt(PPh(C≡CPh)、Pt(PPh)HCl、Pt(PPhClなどが挙げられる。但し、CODはシクロオクタジエニル、NBDはノルボナジエニル、bipyはビピリジル、bipyamはビピラン、phはフェニル、EDAはエチレンジアミン、TEDAはトリエチレンジアミン、Zはハロゲン原子を示す。
これら中でも、[Rh(COD)Cl]、[Rh(NBD)Cl]、[Rh(NBD)OCHが好ましく、[Rh(NBD)Cl]が特に好ましい。
【0052】
重合は通常溶媒中で行われる。溶媒としては、アセチレン単量体と反応しないものであれば特に制限はない。一般的には、アルコール、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が溶媒として用いられる。溶媒の具体例としては、エタノール、メタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルム、トルエン等が挙げられる。
重合の際、置換アセチレン単量体の濃度は0.01〜10mol/L、好ましくは0.1〜5mol/Lである。また、触媒濃度は1×10−10〜1mol/L、好ましくは1×10−6〜1×10−1mol/Lである。
また、重合温度は−30℃〜120℃、好ましくは0〜100℃、特に好ましくは20〜80℃である。
【0053】
重合後、金属錯体触媒中の第8〜10族の元素は取り除かれることが好ましい。第8〜10族の元素の除去方法としては、得られたアセチレン系重合体をβ−ジケトン類、ニトリル類の有機溶剤で洗浄する方法が挙げられる。
【0054】
以上説明した第1の実施形態例の製造方法では、周期表第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いるので、ラジカル化した置換基を有する置換アセチレン単量体を重合でき、得られたアセチレン系重合体はラジカル濃度が高いものである。このようなアセチレン系重合体をリチウムイオン二次電池の正極活物質として利用した場合には、リチウムイオン二次電池を小型化・高容量化・軽量化できる。
また、高分子反応は反応率が100%ではないため、ラジカル前駆体ポリマーを酸化してラジカルを有するアセチレン系重合体の製造する場合には酸化処理を繰り返す必要があるが、第1の実施形態例の製造方法によれば、簡便に高反応率でラジカルを有するアセチレン系重合体を製造できる。さらに、第1の実施形態例の製造方法によれば、ラジカルモノマーを重合するにもかかわらず、重合速度の低下が防がれている。
【0055】
(第2の実施形態例)
本発明のアセチレン系重合体の製造方法の第2の実施形態例について説明する。
第2の実施形態例の製造方法では、まず、重合工程において、ニトロキシルラジカル発生サイトを含む置換基を有する置換アセチレン単量体を、第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いて重合して非ラジカル重合体を得る。なお、第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒としては、第1の実施形態例と同様のものを使用でき、重合条件等も第1の実施形態例と同様である。また、ニトロキシルラジカル発生サイトを含む置換基とは、−O−O−、OHなど開裂または水素引き抜きによりニトロキシルラジカルを発生し、ニトロキシルラジカル(>N−O・)が形成した際にそのラジカルを共鳴などにより安定化できる構造の置換基のことである。
【0056】
次いで、上記重合工程にて得た非ラジカル重合体を、ラジカル化工程にて、ラジカル化して、ラジカルを有するアセチレン系重合体を得る。ここで、非ラジカル重合体のラジカル化処理としては、例えば、フェリシアン化カリウム、過酸化鉛による酸化処理が挙げられる。
【0057】
以上説明した第2の実施形態例の製造方法では、ニトロキシルラジカル発生サイトを含む置換基を有する置換アセチレン単量体を、第8族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いて重合して非ラジカル重合体を得た後、非ラジカル重合体をラジカル化するので、ラジカル濃度が高いアセチレン系重合体を得ることができる。そして、このアセチレン系重合体をリチウムイオン二次電池の正極活物質として利用した場合には、リチウムイオン二次電池を小型化・高容量化・軽量化できる。
【0058】
(電極材料)
本発明の電極材料は、上述したアセチレン系重合体の製造方法により製造されたラジカルを有するアセチレン系重合体と、炭素材料とを含有するものであり、リチウムイオン二次電池の電極活物質、特に正極活物質として利用できるものである。
電極材料中の炭素材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、炭素繊維などが挙げられる。
電極材料中のアセチレン系重合体の含有量は、炭素材料の粒径や空孔率から適宜選択され、電気抵抗が小さくなるように決定される。具体的には、炭素材料に対して20〜80質量%であることが好ましく、炭素材料に対して50質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
さらに、電極材料には、電解質塩が含まれていてもよい。電解質塩としては、例えば、LiClO、LiAsF、LiPF 、LiBF、LiBr、LiCFSOなどが挙げられる。アルミニウム電極を使用する場合には、該アルミニウム電極を不導体化して充電時のアルミニウムの溶解を防ぐことから、フッ素含有リチウム塩が好ましい。電極材料中の電解質塩の含有量は、炭素材料に対して質量比で0.2〜1.5の割合である。1.5より多いと電池の劣化が速くなる傾向にあり、0.2より少ないと容量が確保できないおそれがある。
また、電極材料はバインダを含有することが好ましい。電極材料がバインダを含有すれば、電極材料を成形しやすくなる。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロースなどが挙げられる。
電極材料中のバインダの含有量は炭素材料に対して10〜50質量%であることが好ましい。
【0060】
この電極材料からなる層を、金属箔からなる集電体上に設けることで正極を得ることができる。金属箔の材質としては、例えば、ニッケル、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、リチウム貼り合わせ銅、ニッケルメッキ銅、金、銀などが挙げられる。また、電池組み立てが容易になることから、金属箔にはリード線が設けられていることが好ましい。
【0061】
このような電極材料は、上述したアセチレン系重合体の製造方法により得られたラジカルを高濃度で有するアセチレン系重合体を含むので、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を大きくすることができ、リチウムイオン二次電池を小型化・高容量化することができる。また、アセチレン系重合体は有機物であるためリチウムイオン二次電池を軽量化できる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。なお、アセチレン化合物及び重合体は、IR(日本電子製JIR−5500)、GC−MS(日本電子製auto mass SUN)を使用して分析した。また、電子スピン共鳴(ESR、日本電子製TE−200)を使用し、マイクロ波出力1mW、変調周波数100kHz、変調幅20μTの条件で340.3mT±10mTの範囲で測定した。
(合成例1)
2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−プロピオレートの合成
プロピオール酸1.00g(14.3mmol)と4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル2.95g(17.1mmol)とをジクロロメタン50ml中、ジシクロヘキシルカルボジイミド3.24g(15.7mmol)、4−メチルアミノピリジン0.14g(0.14mmol)の存在下、室温で3時間反応させた。この反応により得られた生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(移動相;n−ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製して、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−プロピオレートを0.28g(収率;9質量%)得た。
生成物のIR(KBr)分析では、3200cm−1(≡C−H)、2100cm−1(C≡C)、1700cm−1(C=O)にピークが見られた(図1参照)。また、GC−MS分析ではm/zが224であり、ESRにより測定されたラジカルスピン濃度は1.51×1021spins/gであった。
【0063】
(実施例1)
重合缶に、0.20g(0.89mmol)の2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−プロピオレートを仕込み、さらにメタノール2mlを添加した。次いで、重合缶内を脱気後、8.2mg(0.018mmol)の[Rh(NBD)Cl]のメタノール2ml懸濁液を添加し、40℃で4時間反応させた。この反応により生成する重合体はメタノールに不溶であるため、重合反応の進行と共に沈殿物が生じた。反応終了後、沈殿物をメタノールに分散させて洗浄し、濾過し、次いで、減圧下で一日乾燥させて、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−プロピオレート)を28.8mg(収率;14質量%)得た。
生成物のIR(KBr)分析では、1720cm−1(C=O)にピークが見られた(図2参照)。また、ESRにより測定されたラジカルスピン濃度は1.67×1021spins/gであった。
【0064】
(合成例2)
2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−ペンチノエートの合成
ペンチノイック酸0.50g(5.1mmol)と4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル1.32g(7.7mmol)とをジクロロメタン25ml中、ジシクロヘキシルカルボジイミド1.16g(5.6mmol)、4−メチルアミノピリジン0.50g(4.1mmol)の存在下、室温で3時間反応させた。この反応により得られた生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(移動相;n−ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製して、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−ペンチノエートを1.23g(収率;96質量%)得た。
生成物のIR(KBr)分析では、3290cm−1(≡C−H)、2120cm−1(C≡C)、1730cm−1(C=O)にピークが見られた(図3参照)。また、GC−MS分析ではm/zが252であった。
【0065】
(実施例2)
重合缶に、1.00g(3.96mmol)の2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−ペンチノエートを仕込み、さらにメタノール10mlを添加した。次いで、重合缶内を脱気後、36.5mg(0.079mmol)の[Rh(NBD)Cl]のメタノール10ml懸濁液を添加し、40℃で4時間反応させた。反応終了後、得られた液を濃縮し、その濃縮物をイソプロパノールに溶解させ、n−ヘキサンに添加して再沈殿させた。n−ヘキサン中に析出してきた生成重合体をろ過し、減圧下で一日乾燥させて、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−ペンチノエート)を28.4mg(収率;28質量%)得た。
生成物のIR(KBr)分析では、1730cm−1(C=O)にピークが見られた(図4参照)。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】合成例1における2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−プロピオレートのIRスペクトルである。
【図2】実施例1におけるポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−プロピオレート)のIRスペクトルである。
【図3】合成例2における2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−ペンチノエートのIRスペクトルである。
【図4】実施例2におけるポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル−4−イル−ペンチノエート)のIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いて、ラジカル化した置換基を有する置換アセチレン単量体を重合する重合工程を有することを特徴とするアセチレン系重合体の製造方法。
【請求項2】
周期表第8〜10族の元素を中心原子とした金属錯体触媒を用いて、ニトロキシルラジカル発生サイトを含む置換基を有する置換アセチレン単量体を重合して非ラジカル重合体を形成する重合工程と、
重合工程にて得た非ラジカル重合体をラジカル化するラジカル化工程とを有することを特徴とするアセチレン系重合体の製造方法。
【請求項3】
周期表第8〜10族の元素がロジウムまたはイリジウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のアセチレン系重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアセチレン系重合体の製造方法により製造されたアセチレン系重合体と、炭素材料とを含有することを特徴とする電極材料。
【請求項5】
2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルを含有することを特徴とするアセチレンカルボン酸エステル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−63218(P2006−63218A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248582(P2004−248582)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】