説明

アセチレン系重合体含有液およびその使用方法

【課題】 安定性が高く、高温条件でも工業的に使用可能できるアセチレン系重合体含有液を提供する。
【解決手段】 本発明のアセチレン系重合体含有液は、アセチレン系重合体を含み、溶存酸素濃度が5ppm以下である。また、本発明のアセチレン系重合体含有液は、酸化防止剤を含むことが好ましい。さらに、本発明のアセチレン系重合体含有液においては、アセチレン系重合体が、下記一般式(I)で示される有機金属錯体の存在下で、置換基を有するアセチレン化合物が重合された重合体であることが好ましい。[MLL'](I)(式中、MはVIIa族又はVIII族の元素、Lは多重結合を有する化合物に由来する配位子、L'は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子、Xは陰イオン、mは0〜7の整数、nは0〜6の整数、pは1〜2の整数、qは0〜2の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、光学材料などに適用可能なアセチレン系重合体含有液およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばTi化合物/有機アルミニウム系、鉄錯体/有機アルミニウム系などのチーグラー・ナッタ触媒、モリブデン、タングステン系などのメタセシス触媒、ロジウム錯体触媒等の存在下、アセチレン化合物を重合してアセチレン系重合体を製造する方法が知られている(例えば特許文献1〜3参照)。
しかしながら、チーグラー・ナッタ触媒系では、直鎖状アルキル基を有するアセチレン化合物に対しては高分子量の重合体を製造できるが、分岐を有する置換基や芳香族基を有するアセチレン化合物に対しては、重合性能がないか、極めて低い分子量の重合体しか製造できないという欠点がある。
また、モリブデン、タングステン触媒系では、分岐を有する置換基や芳香族基を有するアセチレン化合物に対しても重合性能は有するが、頭−頭あるいは尾−尾結合による不規則構造を含む立体規則性の低い重合体しか製造できないなどの問題がある。
【0003】
これらに対して、ロジウム錯体触媒系は、芳香族基を有するアセチレンに対して高い重合性能を有し、立体規則性の高い重合体を製造できる上に、得られた重合体が種々の有機溶剤に溶解することが知られている(例えば非特許文献1参照)。
しかし、ロジウム錯体触媒系で製造した重合体は固体状態では安定であるものの、溶液状態又は懸濁状態では分解して分子量が低下し、更には立体規則性が低下するという問題があった。
【0004】
ロジウム錯体触媒系で得たアセチレン系重合体溶液又は懸濁液の安定化は、工業化に際して非常に重要な課題であり、アセチレン系重合体の溶液又は懸濁液の安定性を向上させる方法として、脱気した溶媒を用いる方法、ラジカルトラップ剤を添加する方法などが提案されている(非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭59−210914号公報
【特許文献2】特開昭63−277212号公報
【特許文献3】特開昭63−275613号公報
【非特許文献1】田畑昌祥ら、「高分子論文集」高分子学会発行、第59巻、第4号、2002年、p168−177
【非特許文献2】ケイ.エス.エム.アブダルら(K.S.M.Abdul et al)、「ジャーナル オブ ポリマーサイエンス パート エイ ポリマーケミストリ(J.Polym.Sci.Part A Polym.Chem)、第39巻、2001年、p3130−3136
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、工業的には、重合体を高温条件で溶媒に溶解させたり、懸濁させたりするのが一般的であるが、アセチレン系重合体では高温になるほど分解速度が速くなる。しかしながら、非特許文献2の方法では、温度の影響について検討されておらず、高温条件においてはアセチレン系重合体の安定性を充分に確保することができなかった。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、安定性が高く、高温条件でも工業的に使用可能できるアセチレン系重合体含有液およびその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアセチレン系重合体含有液は、アセチレン系重合体を含み、溶存酸素濃度が5ppm以下であることを特徴とする。ここで、アセチレン系重合体含有液とは、アセチレン系重合体を溶媒に溶解した溶液または溶媒に懸濁した懸濁液のことである。
本発明のアセチレン系重合体含有液は、酸化防止剤を含むことが好ましい。
本発明のアセチレン系重合体含有液においては、アセチレン系重合体が、下記一般式(I)で示される有機金属錯体の存在下で、置換基を有するアセチレン化合物が重合された重合体であることが好ましい。
[MLL'] (I)
(式中、MはVIIa族又はVIII族の元素、Lは多重結合を有する化合物に由来する配位子、L'は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子、Xは陰イオン、mは0〜7の整数、nは0〜6の整数、pは1〜2の整数、qは0〜2の整数を表す。)
本発明のアセチレン系重合体含有液の使用方法は、アセチレン系重合体含有液を使用するに際し、溶存酸素濃度を5ppm以下に維持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアセチレン系重合体含有液は、安定性が高いため、高温条件でも工業的に使用可能で、アセチレン系重合体の分子量や立体規則性の低下を抑制できる。
本発明のアセチレン系重合体含有液の使用方法では、アセチレン系重合体の安定性を確保できるので、使用中の分子量低下や立体規則性の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアセチレン系重合体含有液は、アセチレン系重合体を含み、溶存酸素濃度が5ppm以下、好ましくは3ppm以下のものである。アセチレン系重合体含有液の溶存酸素濃度が5ppm以下であることで、高温条件でも重合体の分子量や立体規則性の低下を抑制できる。これに対し、溶存酸素濃度が5ppmを超えると重合体の分子量、立体規則性が大きく低下するので工業的でない。
ここで、溶剤中の溶存酸素濃度は、セントラル科学社製溶存酸素計DOメーターUD−1型を使用し、UC−12−SOL型の電極にて測定された値である。
【0009】
アセチレン系重合体含有液の溶存酸素濃度を5ppm以下にするためには、アセチレン系重合体を溶媒に溶解又は懸濁させた後、(1)脱気し、不活性ガスをバブリングして溶存酸素を置換する方法、あるいは、(2)向流接触塔にてアセチレン系重合体含有液に不活性ガスを連続的に向流接触させ、気液平衡を利用して溶存酸素を不活性ガス気流中に追い出す方法などを採用できる。前記(1)または(2)の操作は長時間、数多く繰り返す程、溶存酸素濃度をより低減させることができる。さらに、使用する溶媒も予め脱気し、不活性ガスで置換しておくことがより好ましい。
ここで、不活性ガスの具体例としては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。当然のことながら、不活性ガスは酸素含有量が少ない高純度のものが好ましい。
なお、気相中のガスを不活性ガスで置換しただけでは、溶存酸素濃度が6ppm程度であり不十分である。
【0010】
また、アセチレン系重合体含有液は、安定性をより高くできることから、酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤としては公知のものを使用でき、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ブチルヒドロキシアニソールなどのフェノール系酸化防止剤、α−ナフチルアミン、フェノチアジンなどのアミン系酸化防止剤が挙げられるが、上記の具体例に限定されるものではない。
【0011】
アセチレン系重合体含有液の溶媒としては、アセチレン系重合体と反応しないものであれば使用可能である。アセチレン系重合体を溶解させる際には溶媒として、芳香族炭化水素、含ハロゲン炭化水素、含酸素炭化水素、含窒素炭化水素などが好適に用いられ、具体的には、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジグライム、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。また、アセチレン系重合体を懸濁させる際には溶媒として、脂肪族炭化水素、含酸素炭化水素、含窒素炭化水素、含硫黄炭化水素、アルコール類などが好適に用いられ、具体的には、ヘキサン、アセトン、炭酸プロピレン、ジエチルアミノエタノール、トリエチルアミン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。
【0012】
アセチレン系重合体を溶媒に溶解又は懸濁させる温度、アセチレン系重合体含有液を保存する温度は、使用する溶媒の還流温度を上限とするが、工業的に取り扱うという点からは、通常の使用温度範囲は−20〜150℃が好ましく、20〜120℃がより好ましい。
本発明のアセチレン系重合体含有液では、このような範囲の温度でとりわけ分子量や立体規則性の低下を抑制できる。
【0013】
アセチレン系重合体含有液が溶液である場合、その重合体濃度は、飽和溶解度を上限とし、重合体分子当たりの溶存酸素濃度が低減するという点から、より高濃度の方が好ましい。
また、アセチレン系重合体懸濁液の重合体濃度は特に限定はされないが、上記と同じ理由から、より高濃度の方が好ましい。
【0014】
アセチレン系重合体含有液に含まれるアセチレン系重合体は、アセチレン化合物の重合体であれば制限されないが、機能的である点から、側鎖に置換基を有する重合体であることが好ましい。
側鎖に置換基を有するアセチレン系重合体を得る方法としては、置換基を有するアセチレン化合物を重合する方法が挙げられる。
【0015】
置換基を有するアセチレン化合物は重合可能なものであれば特に制限されず、中でも、一置換のアセチレン化合物が好ましく、さらには、芳香族基、脂肪族基、脂環族基から選ばれる少なくとも1種の置換基を有するアセチレン化合物がより好ましい。ここで、芳香族基、脂肪族基、脂環族基はさらに置換基を有してもよい。芳香族基、脂肪族基、脂環族基に有してもよい置換基とは、炭化水素基、ハロゲン原子、エステル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アミド基、アセチル基、アセトキシ基、シリル基、シアノ基、スルホン基、ニトロ基が挙げられる。これらを有するものは、電子供与基あるいは電子吸引基で置換されたアセチレン化合物である。また、芳香族基、脂肪族基、脂環族基には不斉中心を有していてもよく、その光学活性体も含まれる。
【0016】
このようなアセチレン化合物としては、フェニルアセチレン、あるいは置換フェニルアセチレン、例えば、2−メトキシフェニルアセチレンのような2−アルコキシフェニルアセチレン、2−ニトロフェニルアセチレン、2−クロロフェニルアセチレン、3−メトキシフェニルアセチレンのような3−アルコキシフェニルアセチレン、3,5−ジメトキシフェニルアセチレンあるいはp−メトキシフェニルアセチレンのようなp−アルコキシフェニルアセチレン、p−クロロフェニルアセチレン、2,4,6−トリメトキシフェニルアセチレン、2,4,6−トリクロロフェニルアセチレン、4−メチル−2,6−ジメトキシフェニルアセチレン、4−ジメチルアミノフェニルアセチレン、p−ニトロフェニルアセチレン、p−シアノフェニルアセチレン、2,4,6−トリシアノフェニルアセチレン、1−メチル−2−p−フルオロフェニルアセチレン、4−ニトロ−2メチルフェニルアセチレン、2,6−ジメトキシ−4−ニトロフェニルアセチレン、4−(メトキシジメチルシリル)−フェニルアセチレン等のパラ置換フェニルアセチレン、2,6−ジメチル−4−ニトロフェニルアセチレン、4−メトキシ−2−ニトロフェニルアセチレンのような芳香族基としてベンゼン骨格を有するものが挙げられる。更にまた、1−ナフチルアセチレン、2−ナフチルアセチレン、1−アントラニルアセチレン、1−フェナンチルアセチレン、1−ピレニルアセチレン、2−ブロモ−7−エチニル−9,9−ジオクチルフルオレンのようなナフタレン骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、フルオレン骨格といった縮合多環式系の芳香族基を有するアセチレン化合物、4−アセチレニルピリジン、4−アセチレニル−3,5−ジメチルピリジン、4−アセチレニルキノリン、1,2−ジ−γ−ピリジノエチン、3−アセチレニルイソキノリン、4−アセチレニルコリジン、2−アセチレニルトリアジン、2−アセチレニルピロール、2−アセチレニルフラン、2−アセチレニルチオフェン等の酸素、窒素または硫黄のようなヘテロ原子を有する複素環基で置換されたアセチレン化合物が挙げられる。
【0017】
脂肪族基を有するアセチレン化合物としては、例えば、メチルプロピオレート、エチルプロピオレート、プロピルプロピオレート等のプロピオル酸のアルキルエステル(アルキルは直鎖状でも枝分かれを有しても良く、フッ素などのハロゲン置換されていても良いアルキル基)、フェニルプロピオレート等のプロピオル酸の芳香族エステル、他のプロピオル酸エステル、プロピオル酸アミド、ブチノイック酸エステル、ブチノイック酸アミド、ペンチノイック酸エステル、ペンチノイック酸アミド、2−プロピン−1−オール、2−プロピン−1−オールから誘導されるプロピニルエステル、プロピニルエーテル、プロピニルカルバメート、t−ブチルアセチレン等が挙げられる。脂環族基としてはシクロヘキシルアセチレン等が挙げられる。
これらアセチレン化合物は単独で用いて単独重合体としてもよいし、2種類以上組み合わせて共重合体としてもよい。
【0018】
アセチレン系重合体を、光学材料、電子材料等に使用する場合には、立体規則性の高い重合体であることが好ましい。立体規則性の高い重合体を得るためには、下記一般式(I)で示される有機金属錯体からなる触媒の存在下、置換基を有するアセチレン化合物を重合すればよい。
一般式(I):[MLL’]
(式中、MはVIIa族又はVIII族の元素、Lは多重結合を有する化合物に由来する配位子、L’は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子、Xは陰イオン、mは0〜7の整数、nは0〜6の整数、pは1〜2の整数、qは0〜2の整数を表す。)
【0019】
式(I)中のMは、好ましくはロジウム、ルテニウム、レニウム、ニッケル、白金、パラジウム、イリジウムなどが挙げられ、特に好ましくはロジウムが用いられる。
Lは多重結合を有する化合物に由来する配位子を表す。好ましいLとしては、オレフィン、アセチレン、ジエン、シクロオレフィン、一酸化炭素、アリル、フェニルアセチレンなどが挙げられ、特に好ましくはシクロオレフィン、アリル、一酸化炭素、フェニルアセチレンなどが挙げられ、より好ましくはシクロオレフィンが挙げられる。シクロオレフィンとしては、シクロオクタジエン、ノルボルナジエンが好ましく用いられる。
【0020】
L’は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子を表す。好ましいL’としては、窒素、リン、ヒ素、酸素、イオウなどの原子を有する配位子、ハロゲン原子などが挙げられる。特に好ましくはリンを有する配位子、ハロゲン原子が挙げられ、最も好ましくはハロゲン原子が挙げられる。具体的には、窒素を有する配位子としては、例えばピリジン、ビピリジル、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、フェナンスロリンなどが挙げられる。リンを有する化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスファイト、トリフェニルホスフェート、ビスジフェニルホスフィン、n−ノニルフェニルホスフィン、エチレンビスフェニルホスフィンなどが挙げられ、トリフェニルホスフィンが特に好ましい。ヒ素を有する配位子としてはトリフェニルアルシンなどが挙げられる。酸素を有する配位子としてはジフェニルエーテル、アルコキシなどが挙げられる。イオウを有する配位子としては、ジフェニルチオエーテルなどが挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、塩素が特に好ましい。
【0021】
Xは陰イオンを表す。Xは、具体的には、PF、BF、ClO、SOCFなどが挙げられ、PFが好ましく用いられる。
mは0〜7の整数、好ましくは0〜6の整数、特に好ましくは1〜2の整数を表す。nは0〜6の整数、好ましくは0〜5の整数、特に好ましくは1〜2の整数を表す。pは1〜2の整数を表す。qは0〜2の整数、好ましくは1〜2の整数を表す。
【0022】
一般式(I)で表される触媒の具体例としては、[Rh(COD)Cl]、[Rh(NBD)Cl]、[Rh(NBD)OCH、[Rh(COD)bipy]SOCF、[Rh(COD)bipy]PF、[Rh(NBD)bipy]PF、[Rh(COD)bipyam]PF、[Rh(COD)(PPh]PF、[Rh(COD)EDA]Cl、[Rh(COD)TEDA]Cl、Re(Co)Z、[Re(CO)Cl]、[Re(CO)Cl]、Re(CO)(PPh)Cl、Re(CO)(PPhCl、Re(CO)(bipy)Cl、Re(CO)(C≡CPh)、Re(CO)(phPCHCHPPh)Cl、Ni(CO)(PPh、Ni(PPh、Pt(PPh(C≡CPh)、Pt(PPh)HCl、Pt(PPhClなどが挙げられる。但し、CODはシクロオクタジエニル、NBDはノルボナジエニル、bipyはビピリジル、bipyamはビピラン、phはフェニル、EDAはエチレンジアミン、TEDAはトリエチレンジアミン、Zはハロゲン原子を示す。
これら中でも、[Rh(COD)Cl]、[Rh(NBD)Cl]、[Rh(NBD)OCHが好ましく、[Rh(NBD)Cl]が特に好ましい。
【0023】
以上説明したアセチレン系重合体含有液は、溶存酸素濃度が5ppm以下であるため、酸素がアセチレン系重合体に反応することが防止されており、高温条件でも安定性を確保でき、分子量低下や立体規則性低下が防止されている。
【0024】
本発明のアセチレン系重合体含有液の使用方法は、アセチレン系重合体含有液を使用するに際し、溶存酸素濃度を5ppm以下に維持する方法である。ここで、使用とは、貯蔵、輸送、加工、処理のことである。
使用の際に、溶存酸素濃度を5ppm以下に維持するためには、密封容器内で密封する方法、不活性ガスをバブリングし続ける方法などを採用できる。
このように、溶存酸素濃度を5ppm以下に維持することにより、使用中にアセチレン系重合体の分子量や立体規則性が低下することを防ぐ。よって、所望のアセチレン系重合体を利用できるので工業的である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例より更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
以下の例において分子量分析はGPCを用いた。GPCの測定では、昭和電工製Shodex K−806Lカラムを使用し、ポリスチレンを標準サンプルとし、溶媒にクロロホルムを使用した。またH−NMRの測定では、日本電子製JNM−ECP400(400MHz)を使用し、溶媒に重クロロホルムを使用した。
【0026】
(合成例1)ポリフェニルアセチレンの合成
重合缶に19.6mmolのフェニルアセチレンを仕込み、さらに、メタノール39mlを添加した。次に重合缶内を脱気し、7.8mmolのトリエチルアミンと0.078mmolの[Rh(NBD)Cl]のメタノール39ml懸濁液を加え、40℃で4時間反応させた。アセチレン重合体はメタノールに不溶であるため、重合反応が進行するについて沈澱してきた。重合反応終了後、その沈殿物を一旦メタノールに分散させ洗浄し、濾過し、得られたポリフェニルアセチレンを減圧下で一日乾燥させた。
ポリフェニルアセチレンをクロロホルムに溶解し、GPCで分子量を測定したところ、数平均分子量Mn:71,000、質量平均分子量Mw:162,000であった。また、NMRスペクトルから立体規則的であり、シス体含有量が90%以上であることがわかった。
【0027】
(実施例1)
脱気、アルゴン置換を3回繰り返したクロロホルム67mlに合成例1で得られたポリフェニルアセチレン0.2gを溶解させた。その重合体溶液を冷却後、再度脱気、アルゴン置換を3回繰り返し、50℃で保管した。この場合のアセチレン系重合体溶液の溶存酸素濃度は1.2ppmであった。4時間後、この重合体溶液の分子量をGPCにより測定した。また、この4時間後の重合体溶液を重合体の貧溶媒であるメタノールにて再沈させ重合体を回収し、回収率を求めるとともに、回収重合体のNMRスペクトルによりシス体含有量を求めた。この結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
(実施例2)
酸化防止剤として2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールをクロロホルムに対し1質量%となるように加えた以外は実施例1と同様の操作を行った。この場合のアセチレン系重合体溶液の溶存酸素濃度は1.1ppmであった。分子量、回収率、シス体含有量の結果を表1に示す。
【0030】
(比較例1)
脱気、アルゴン置換を実施しないこと以外は実施例1と同様の操作を行った。この場合のアセチレン系重合体溶液の溶存酸素濃度は6.5ppmであった。分子量、回収率、シス体含有量の結果を表1に示す。
【0031】
(実施例3)
脱気、アルゴン置換を3回繰り返したクロロホルム67mlに合成例1で得られたポリフェニルアセチレン0.2gを溶解させた。その重合体溶液を冷却後、再度脱気、アルゴン置換を3回繰り返し、密封容器中25℃で保管した。この場合のアセチレン系重合体溶液の溶存酸素濃度は1.5ppmであった。24時間後この重合体溶液の分子量をGPCにより測定した。また、この24時間後の重合体溶液を重合体の貧溶媒であるメタノールにて再沈させ重合体を回収し、回収率を求めるとともに、NMRスペクトルによりシス体含有量を求めた。分子量、回収率、シス体含有量の結果を表1に示す。
【0032】
(比較例2)
脱気、アルゴン置換を実施しないこと以外は実施例3と同様の操作を行った。この場合のアセチレン系重合体溶液の溶存酸素濃度は6.9ppmであった。分子量、回収率、シス体含有量の結果を表1に示す。
【0033】
溶存酸素濃度が5ppm以下である実施例1,2のアセチレン系重合体溶液は、50℃という高温でもアセチレン系重合体の分子量の低下が抑制され、回収しにくい低分子量が少ないため、溶液中から重合体を回収する際のロスが小さかった。また、立体規則性が保持されて高いシス体含有量を維持した。
また、実施例3のアセチレン系重合体溶液は、24時間経過後でも分子量の低下が抑制され、高いシス体含有量を維持した。
これに対し、溶存酸素濃度が5ppmを超えた比較例1,2のアセチレン系重合体溶液は、分子量、回収率、シス体含有量が大幅に低下した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のアセチレン系重合体含有液は、リチウムイオン電池や太陽電池等の電池材料、レジスト材料、有機半導体等の導電材料、ドラッグデリバリーシステム(DDS)や光学分割剤等の医薬材料、液晶材料や有機ELや有機LED等のディスプレイ材料、非線形材料、光応答高分子材料、有機磁性体、高分子反応試薬、線種線量計材料、誘電材料、コンタクトレンズ材料等に応用でき、特に有機半導体材料や電機、電子関連材料に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチレン系重合体を含み、溶存酸素濃度が5ppm以下であることを特徴とするアセチレン系重合体含有液。
【請求項2】
酸化防止剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のアセチレン系重合体含有液。
【請求項3】
アセチレン系重合体が、下記一般式(I)で示される有機金属錯体の存在下で、置換基を有するアセチレン化合物が重合された重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のアセチレン系重合体含有液。
[MLL'] (I)
(式中、MはVIIa族又はVIII族の元素、Lは多重結合を有する化合物に由来する配位子、L'は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子、Xは陰イオン、mは0〜7の整数、nは0〜6の整数、pは1〜2の整数、qは0〜2の整数を表す。)
【請求項4】
アセチレン系重合体含有液を使用するに際し、溶存酸素濃度を5ppm以下に維持することを特徴とするアセチレン系重合体含有液の使用方法。


【公開番号】特開2006−45283(P2006−45283A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225435(P2004−225435)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】