説明

アセテート加工糸及びその製造方法

【課題】アセテート繊維特有のドライ感、清涼感を向上し、且つ、工程通過性、糸形態安定性に優れたアセテート加工糸及びその製造方法を提供する。
【解決手段】糸条Aの周囲に糸条Bが三重に捲回している多重捲回部と、糸条Bの周囲に糸条Aが一重に捲回している壁撚形状を呈した道中部が交互に形成された加工糸であって、糸条Aはアセテートマルチフィラメント糸を含み、道中部の見掛けの太さが多重捲回部の見掛けの太さの1.5倍〜4倍、且つ、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの1.5倍〜8倍であるアセテート加工糸

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アセテート特有のドライ感、清涼感を有した加工糸及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、アセテートマルチフィラメント糸を使用した布帛はドライ感、清涼感に優れ、他の合成マルチフィラメント糸とは異なった、独特な風合いを得ることが可能であるが、最近の動向として、より一層のドライ感、清涼感の向上および、凹凸感、陰影等の表面変化による意匠性が期待されている。表面変化があり、ドライ感、清涼感を向上させる糸加工手法の一つとして、壁撚形状を形成する撚糸加工が良く知られているが、一般に生産性が低く、加工コストが高価となる欠点を有している。
【0003】これに対し、特開平1−148827号において、仮撚加工機を用い、芯糸と鞘糸の繊度差、仮撚加工条件等を適正化することで、生産性を著しく向上させた壁撚調仮撚加工糸及びその製造方法が開示されている。
【0004】しかしながら、該加工糸はスラブ部と壁撚調形状を呈した道中部とがほぼ同じ糸条太さであり、芯糸として供給される糸条にアセテートマルチフィラメント糸を含む場合においても、アセテート特有の風合いは一部得られるものの、スラブ部の表面に捲回している該アセテートマルチフィラメント糸以外の熱可塑性マルチフィラメント糸の影響も強くなりやすく、アセテート特有の風合いが十分に得られにくいものであった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものであり、意匠性に優れ、アセテート特有のドライ感、清涼感を向上し、且つ、工程通過性、糸形態安定性に優れたアセテート加工糸を提供するものである。
【0006】
【発明を解決するための手段】本発明の第一の要旨は、糸条Aの周囲に糸条Bが三重に捲回している多重捲回部と、糸条Bの周囲に糸条Aが一重に捲回している壁撚形状を呈した道中部が交互に形成された加工糸であって、糸条Aはアセテートマルチフィラメント糸を含み、道中部の見掛けの太さが多重捲回部の見掛けの太さの1.5倍〜4倍、且つ、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの1.5倍〜8倍であるアセテート加工糸にある。
【0007】また本発明の第二の要旨は、糸条Aの加撚域に糸条Aから一定距離にあるガイドを介して糸条Bをオーバーフィード供給し、糸条Aの周囲にトラバース捲回させる仮撚加工において、糸条Aはアセテートマルチフィラメント糸を含み、下記式(1)、(2)及び(3)を満足する条件で加工を行うアセテート加工糸の製造方法にある。
100≦HT1≦160 (1)
200≦HT2≦250 (2)
8≦OF2≦25 (3)
ここで、HT1は仮撚機の第1ヒーター温度(℃)、 HT2は仮撚機の第2ヒーター温度(℃)、 OF2は第2ヒーター内でのオーバーフィード率(%)である。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態について具体的に説明する。
【0009】図1は本発明のアセテート加工糸の多重捲回部の一例であり、図2は該アセテート加工糸の道中部の一例である。
【0010】本発明は、糸条Aの周囲に糸条Bが三重に捲回している多重捲回部と、糸条Bの周囲に糸条Aが一重に捲回している壁撚形状を呈した道中部が交互に形成された加工糸であって、糸条Aはアセテートマルチフィラメント糸を含んでいる。該道中部の見掛けの太さは該多重捲回部の見掛けの太さの1.5倍〜4倍、好ましくは2倍〜3.5倍で、且つ、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの1.5倍〜8倍、好ましくは1.7倍〜7倍であることが必要であり、これにより皮膚に接触する糸条部分は道中部の鞘部に位置するアセテートマルチフィラメント糸が主体となり、壁撚形状の特徴である凹凸感と相まって、アセテート特有のドライ感、清涼感が強調されるものとなる。
【0011】道中部の見掛けの太さが多重捲回部の見掛けの太さの1.5倍未満であると、アセテートマルチフィラメント糸が芯部に位置している多重捲回部が皮膚に接触する割合が多くなり、アセテート特有の風合いが十分に得られないものとなる。また、道中部の見掛けの太さが多重捲回部の見掛けの太さの4倍を超えると、得られる布帛はいわゆるフカツキと云われる締まりのない風合いとなる。
【0012】一方、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの1.5倍未満であると、アセテートマルチフィラメント糸が芯部に位置している多重捲回部の影響が強くなり、アセテート特有の風合いは十分に得られないものとなる。また、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの8倍を超えると、道中部の壁撚形状の崩れが生じる。
【0013】本発明で用いられるアセテートマルチフィラメント糸は、酢化度53%以上57%以下のジアセテートマルチフィラメント糸、または酢化度60%以上62%以下のトリアセテートマルチフィラメント糸のいずれも使用することが可能である。また、糸断面形状は特に限定されるものでなく、本発明の加工糸から得られる織編物の風合い、光沢等を考慮して、菊型、円形、扁平、Y字等を選択すればよい。また、アセテートマルチフィラメント糸を構成する単繊維の繊度も特に限定されるものではないが、単繊維繊度を大きくする、例えば6dtex以上とすることで本発明の加工糸から得られる織編物の風合いにシャリ感やドライ感がより強調されるものとなり、一方、該単繊維繊度を小さくする、例えば1.5dtex以下とすることでソフト感も付与することが可能となる。
【0014】尚、糸条Aは多重捲回部では芯部に位置して糸全体の強力を支える役割も担っているため、糸条Aを構成するアセテートマルチフィラメント糸の合計繊度は、167dtex以上1150dtex以下が好ましく、220dtex以上1000dtex以下がより好ましい。該合計繊度が167dtex未満の場合には仮撚加撚域で芯糸として供給されている糸条Aならびに得られる加工糸の強力が不十分となりやすく、加工時あるいは後工程通過時に糸切れを招きやすくなる。一方、1150dtexを越えると糸条Aの合計繊度が太くなるために仮撚加工時の糸条Bの捲付きが不十分となりやすく、ループ等が発生して糸品位に欠けるものとなりやすい。
【0015】本発明のアセテート加工糸において、糸条Aが2本以上の糸条で構成される場合は、糸条Aを構成する糸相互のもつれ、更には糸条Aと糸条B相互のもつれにより、壁撚形状の形態維持が容易となり、多重捲回部や道中部の壁撚形状の糸形態の安定性、並びに後工程通過性の点で好ましい。
【0016】糸条Aがアセテートマルチフィラメント糸及び該アセテートマルチフィラメント糸以外の熱可塑性マルチフィラメント糸を含む2本以上の糸条で構成される場合は、該糸条Aがアセテートマルチフィラメント糸単独から成る場合の加工糸に対して強度低下を抑制することも可能となり、より好ましい。
【0017】尚、本発明では、糸条Aに用いられるアセテートマルチフィラメント糸以外の熱可塑性マルチフィラメント糸は、例えばポリエステルマルチフィラメント糸やポリアクリロニトリルマルチフィラメント糸やポリアミドマルチフィラメント糸等、特に限定されることなく各種熱可塑性合成マルチフィラメント糸を用いることが可能であり、目的に応じて選択すればよいが、糸質や染色性等の点でポリエステルマルチフィラメント糸が好ましい。又、糸断面形状、繊度や染色特性等に関しても特に限定されるものでなく、目的の風合い、意匠効果、異色効果等を考慮して選択すればよい。
【0018】更に、本発明で用いられるアセテートマルチフィラメント糸は、例えば無機粒子を高濃度に添加した、比重1.35以上の高比重化アセテートマルチフィラメント糸を含むことでドレープ性の向上した織編物を得ることも可能となる。また、糸条Aを構成するアセテートマルチフィラメント糸にカチオン染料可染性アセテートマルチフィラメント糸を含むことで、従来のアセテート特有の特徴に併せて新規な色調効果を得ることも可能となる。
【0019】また、糸条Aにはレーヨン等の再生繊維素マルチフィラメント糸、或いは各種撚糸加工糸、各種仮撚加工糸及び各種エアー加工糸等の加工糸や、各種異種繊維複合糸等を同時に含むことも可能であり、目的に応じて選択すればよい。
【0020】更に本発明のアセテート複合加工糸では、糸条Aを構成するアセテートマルチフィラメント糸の繊度D1と糸条Bを構成するマルチフィラメント糸の繊度D2の繊度比D1/D2が2〜15であることが好ましく、4〜12が望ましい。繊度比D1/D2が2未満では道中部の壁撚形状が不明確となり、アセテート特有のドライ感、清涼感が不十分なものとなりやすく、15を超えると加工安定性に問題が生じやすい。
【0021】また本発明では、糸条Bが多重捲回部で糸条Aの周囲に強固に捲付き、且つ糸形態の崩れを抑制できる熱セット性の良い糸条であることが好ましく、例えばポリエステルマルチフィラメント糸やポリアクリロニトリルマルチフィラメント糸やポリアミドマルチフィラメント糸等が挙げられ、糸質や染色性等の点でポリエステルマルチフィラメント糸が好ましい。尚、糸断面形状、繊度や染色特性等に関しても特に限定されるものでなく、目的の風合い、意匠効果及び色調効果等に応じて選択すればよい。
【0022】次に、本発明のアセテート加工糸の製造方法の一例を、図3により詳細に説明する。
【0023】アセテートマルチフィラメント糸を含む糸条A1はマグネットテンサー2により一定に供給される。また、糸条B3は供給ローラー4により糸条A1に対してオーバーフィード状態で供給される。糸条B3は糸条A1から一定距離にあるガイド5を支点として糸条Aの糸軸方向に対して上下にトラバースしつつ、糸条Bの周囲に三重に捲回している多重捲回部と一重に捲回している道中部とを交互に且つ連続的に形成する。次いで、接触式の第1ヒーター6及び仮撚ユニット7により糸条は加熱固定される。該多重捲回部は三重に捲回して強固に固定されているために、仮撚ユニット7を通過後もそのまま加撚状態を保つ。一方、道中部は仮撚ユニット7を通過後は解撚されて仮撚方向と逆方向の撚り形態を呈する。本発明のアセテート加工糸の道中部は上述の仮撚工程で、糸条B3が道中部の中心に配置し、且つ、糸条A1が糸条B3の周囲に捲付いた壁撚状の形態が形成される。
【0024】引き続いて、第1引き取りローラー8と第2引き取りローラー9の間で、オーバーフィード下で非接触式の第2ヒーター10により高温熱処理することで、道中部における糸条B3を十分に収縮させることにより、糸条Aが糸条Bの周囲に捲付いた形状をとらせ、捲取り機11で捲取る。
【0025】本発明において、仮撚機の接触式の第1ヒーター温度は100℃〜160℃が必要であり、好ましくは110℃〜155℃、更に好ましくは120℃〜150℃である。該温度が100℃未満では、加撚部での糸条Bの捲付け固定が不安定になり、糸形態安定性に問題が生じる。また、該温度が160℃を越えると、アセテートマルチフィラメント糸に対するヒーター加熱のダメージが大きくなり、目的のアセテート特有のドライ感、清涼感が得られない。
【0026】また、仮撚機の第2ヒーター温度は200℃〜250℃が必要であり、好ましくは210℃〜240℃である。該温度が200℃未満では、第1引き取りローラー8と第2引き取りローラー9の間での糸条Bの収縮量が小さくなり、壁撚形状が弱くなる。また、該温度が250℃を越えると、ヒーター設備への負荷が大きくなり温度管理が不安定になるとともにアセテートマルチフィラメント糸の糸質へ過剰な影響を与えケバが発生する。
【0027】更に、第2ヒーター内でのオーバーフィード率は8%〜25%が必要であり、好ましくは10%〜20%である。該オーバーフィード率が8%未満では、道中部における糸条Bの収縮量が十分でない為、道中部のアセテートマルチフィラメント糸の糸条表面への浮き出しが減少し、目的のアセテート特有の風合いが得られない。該オーバーフィード率が25%を越えると、加工安定性が著しく低下し糸切れ等の原因となる。
【0028】尚、本発明のアセテート加工糸の製造方法では、糸条Aがアセテートマルチフィラメント糸及び該アセテートマルチフィラメント糸以外の熱可塑性マルチフィラメント糸を含む2本以上の糸で構成することが、強度低下の抑制、壁撚形状の形態維持、多重捲回部や道中部の捲付き構造の安定性確保の点で好ましい。
【0029】また、本発明において糸条Bは乾熱収縮率が12%以上の熱可塑性マルチフィラメント糸であることが好ましく、乾熱収縮率が15%以上がより好ましい。乾熱収縮率が12%未満の場合は、道中部における糸条Bの収縮量が十分でない為、アセテートマルチフィラメント糸の糸条表面への浮き出しが発生しないこともあり、目的のアセテート特有の風合いが得られにくくなる。
【0030】本発明において、糸条A1からガイド5までのガイド距離12は特に限定されるものではなく、道中部、多重捲回部の平均長さ或いは加工安定性等を考慮して決定すればよいが、5cm〜50cmが好ましい。
【0031】本発明のアセテート加工糸を用いた織編物は、その混率並びに織物組織や編物組織を、目的の風合いや製品外観が得られる範囲で決定すればよく、本発明のアセテート加工糸単独からなる織編物、または、該加工糸と他繊維との合撚糸からなる織編物、本発明の仮撚加工糸を織編物の一部に用いた交編織物でも良く、意匠性に優れ、かつ、アセテート特有のドライ感、清涼感が向上した織編物を得ることが可能である。
【0032】
【実施例】以下、実施例をあげて本発明を説明する。評価方法は次に示す方法で行った。
【0033】(道中部の見掛けの太さ、多重捲回部の見掛けの太さ、太さ比)走査型電子顕微鏡により多重捲回部及び道中部それぞれ10カ所で各1cmサンプリングし、各サンプルの最も太い部分の幅を測定し、それぞれの平均を道中部、多重捲回部の見掛けの太さとし、道中部の見掛けの太さ/多重捲回部の見掛けの太さを太さ比とした。
【0034】(道中部平均長さ、多重捲回部平均長さ、長さ比)光学顕微鏡により糸条5m当たりの道中部、多重捲回部の長さを測定し、その平均を各部の平均長さとし、道中部平均長さ/多重捲回部平均長さを長さ比とした。
【0035】(乾熱収縮率)マルチフィラメント糸の綛を作成し、0.88cN/dtexの荷重をかけて綛長さ(K)を測定し、200℃雰囲気下に10分間乾熱処理した後に、0.88cN/dtexの荷重をかけて綛長さ(K)を測定し、下式より算出した。
乾熱収縮率(%)=100×(K−K)/K(後加工安定性)織編物を形成する際のガイドへの糸条の引っかかり、糸切れ等で評価した。
【0036】(布帛評価)得られたアセテート加工糸を織編物にし、凹凸、陰影、表面変化の意匠性、ドライ感、清涼感等の風合いを目視、ハンドリングにて評価した。評価結果は○:良い、△:並、×:悪い、で表した。
【0037】(実施例1〜5、比較例1〜5)図3の装置を用い、糸条Aとして表1に記載のマルチフィラメント糸を用い、糸条Bに33dtex/8f、乾熱収縮率30%のポリエステルマルチフィラメント糸を用い、仮撚数:(28720/D1/2)T/m[但し、Dは糸条Aの合計繊度(dtex)]、仮撚方向:Z、第1ヒーター温度:140℃、第2ヒーターの温度:230℃、マグネットテンサーの張力(テンサー出側):15g、仮撚加撚域への糸条Bのオーバーフィード率:100%、第1引き取りローラーの速度:60m/分、第1引き取りローラー〜第2引き取りローラー間のオーバーフィード率:15%の条件設定で仮撚加工を行った。得られた加工糸の評価結果を表1に示す。
【0038】実施例1〜5は、糸条Aの表面に糸条Bが三重に捲回した多重捲回部と、糸条Bを中心に糸条Aが捲回した壁撚形状を呈した道中部が交互に形成されたアセテート加工糸が得られた。又、この加工糸の道中部の見掛けの太さと多重捲回部の見掛けの太さの比、並びに、道中部の平均長さと多重捲回部の平均長さの比は表1の通りである。これらのアセテート加工糸を用いて織編物としたところ、いずれも糸割れ、多重捲回部の形態崩れ等の問題は無く、意匠性、ドライ感、清涼感に富んだものが得られた。
【0039】比較例1は道中部の見掛け糸太さが多重捲回部の見掛け糸太さの1.5倍未満であり、道中部のアセテートマルチフィラメント糸の浮き出しが小さく、多重捲回部表面に位置するポリエステルマルチフィラメント糸の風合いが強くなり、アセテート特有のドライ感、清涼感は得られ難いものであった。
【0040】比較例2は、道中部の見掛けの太さが多重捲回部の見掛けの太さの4倍より大きいものであり、道中部のアセテートマルチフィラメント糸の浮き出しが大きく、アセテート特有の風合いは得られるものの、布帛にしたときにいわゆるフカツク風合いとなり、布帛品位の劣るものであった。
【0041】比較例3では、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの1.5倍未満であり、多重捲回部の長さ比率が高まり、ポリエステルマルチフィラメント糸の風合いが強くなり、アセテート特有の風合いは得られないものであった。
【0042】比較例4は、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの8倍より大きいものであり、壁撚形状の崩れが生じやすく糸形態安定性に劣り、後工程通過時に問題を生じるものであった。
【0043】比較例5は、糸条Aがポリエステルマルチフィラメント糸のみからなるため、目的のアセテート特有の風合いは得られないものであった。
【0044】
【表1】


(実施例6〜9、比較例6〜9)図3の装置を用い、糸条Aとして表2に示したトリアセテートマルチフィラメント糸とポリエステルマルチフィラメント糸、糸条Bに33dtex/8f、乾熱収縮率30%のポリエステルマルチフィラメント糸を用い、仮撚数:(28720/D1/2)T/m[但し、Dは糸条Aの合計繊度(dtex)]、仮撚方向:Z、第1ヒーター温度:140℃、第2ヒーターの温度:230℃、マグネットテンサーの張力(テンサー出側):15g、仮撚加撚域への糸条Bのオーバーフィード率:100%、第1引き取りローラーの速度:60m/分、第1引き取りローラー〜第2引き取りローラー間のオーバーフィード率:15%の条件設定で仮撚加工を行った。得られた加工糸の評価結果を表2に示す。
【0045】実施例6〜9は、糸条Aの表面に糸条Bが三重に捲回した多重捲回部と、糸条Bを中心に糸条Aが捲回した道中部が交互に形成されたアセテート加工糸が得られた。又、この加工糸の道中部の見掛けの太さと多重捲回部の見掛けの太さの比、並びに、道中部の平均長さと多重捲回部の平均長さの比は表2の通りである。これらのアセテート加工糸を用いて織編物としたところ、いずれも糸割れ、多重捲回部の形態崩れ等の問題は無く、意匠性、ドライ感、清涼感に富んだものが得られた。
【0046】比較例6は道中部の見掛けの太さが多重捲回部の見掛けの太さの1.5倍未満であり、道中部のアセテートマルチフィラメント糸の浮き出しが小さく、多重捲回部表面に配置するポリエステルマルチフィラメント糸の風合いが強くなり、アセテート特有のドライ感、清涼感は得られ難いものであった。
【0047】比較例7は、道中部の見掛けの太さが多重捲回部の見掛けの太さの4倍より大きいものであり、道中部のアセテートマルチフィラメント糸の浮き出しが大きく、アセテート特有の風合いは得られるものの、布帛にしたときにいわゆるフカツク風合いとなり、布帛品位の劣るものであった。
【0048】比較例8では、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの1.5倍未満であり、多重捲回部の長さ比率が高まり、ポリエステルマルチフィラメント糸の風合いが強くなり、アセテート特有の風合いは得られないものであった。
【0049】比較例9は、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの8倍より大きいものであり、壁撚形状の崩れが生じやすく糸形態安定性に劣り、後工程通過時に問題を生じるものであった。
【0050】
【表2】


(実施例10〜15、比較例10〜15)図3の装置を用い、糸条Aに110dtex/26fのトリアセテートマルチフィラメント糸と220dtex/34fのアセテートマルチフィラメント糸、糸条Bに33dtex/8f、乾熱収縮率30%のポリエステルマルチフィラメント糸を使用し、仮撚数:2600T/m、仮撚方向:Z、マグネットテンサーの張力(テンサー出側)15g、ガイドと糸条Aの距離:15cm、仮撚加撚域への糸条Bのオーバーフィード率:90%、第1引き取りローラーの速度:80m/分、第1引き取りローラー〜第2引き取りローラー間のオーバーフィード率:15%の条件で、第1ヒーターの温度、第2ヒーターの温度、第2ヒーター内でのオーバーフィード率を表3のように変化させ仮撚加工を行った。得られた加工糸の評価結果を表3に示す。
【0051】実施例10〜15については、糸条Aの表面に糸条Bが三重に捲回した多重捲回部と、鞘糸を中心に芯糸が捲回した道中部が交互に形成されたアセテート加工糸が得られた。これらのアセテート加工糸を用いて織編物としたところ、糸割れ、多重捲回部の形態崩れ等の問題は無く良好で、意匠性、ドライ感、清涼感に優れたものが得られた。
【0052】比較例10、比較例13、比較例15は、加工安定性が悪く、実用生産が困難なものであった。
【0053】比較例11は第1ヒーター温度(仮撚温度)が高いために、アセテートマルチフィラメント糸に対する加熱の影響のためにドライ感、清涼感に乏しくアセテート特有の風合いが弱くなった。
【0054】比較例12では、第2ヒーター温度が低いために、道中部の糸条Bの収縮が小さく、アセテートマルチフィラメント糸の糸条表面への浮き出しが減少し、ドライ感、清涼感の不十分なものとなった。
【0055】比較例14では、第2ヒーター内のオーバーフィード率が8%未満であるために、道中部の糸条Bが十分に収縮できず、アセテートマルチフィラメント糸の糸条表面への浮き出しが減少し、アセテート特有の風合いが得られなかった。
【0056】
【表3】


【0057】
【発明の効果】本発明は、糸条Aの周囲に糸条Bが三重に捲回している多重捲回部と、糸条Bの周囲に糸条Aが一重に捲回している壁撚形状を呈した道中部が交互に形成された加工糸であって、糸条Aはアセテートマルチフィラメント糸を含んでいる。
【0058】該道中部の見掛けの太さは該多重捲回部の見掛けの太さの1.5倍〜4倍、且つ、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの1.5倍〜8倍であることから皮膚に接触する糸条部分は道中部の鞘部に位置するアセテートマルチフィラメント糸が主体となり、壁撚形状の特徴である凹凸感と相まって、アセテート特有のドライ感、清涼感が強調されたアセテート加工糸が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるアセテート加工糸の多重捲回部における糸形態の一例図である。
【図2】本発明によるアセテート加工糸の道中部における糸形態の一例図である。
【図3】本発明のアセテート加工糸の製造方法の一例図である。
【符号の説明】
1 アセテートマルチフィラメント糸を含む糸条
2 マグネットテンサー
3 糸条B
4 供給ローラー
5 ガイド
6 第1ヒーター
7 仮撚ユニット
8 第1引き取りローラー
9 第2引き取りローラー
10 第2ヒーター
11 捲取り機
12 ガイド距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】 糸条Aの周囲に糸条Bが三重に捲回している多重捲回部と、糸条Bの周囲に糸条Aが一重に捲回している壁撚形状を呈した道中部が交互に形成された加工糸であって、糸条Aはアセテートマルチフィラメント糸を含み、道中部の見掛けの太さが多重捲回部の見掛けの太さの1.5倍〜4倍、且つ、道中部の平均長さが多重捲回部の平均長さの1.5倍〜8倍であるアセテート加工糸。
【請求項2】 糸条Aを構成するアセテートマルチフィラメント糸を合計した繊度が167dtex以上1150dtex以下である請求項1記載のアセテート加工糸。
【請求項3】 糸条Aが2本以上のアセテートマルチフィラメント糸からなる請求項1または2記載のアセテート加工糸。
【請求項4】 糸条Aがアセテートマルチフィラメント糸及び該アセテートマルチフィラメント糸以外の熱可塑性マルチフィラメント糸からなる2本以上の糸条である請求項1〜3のいずれかに記載のアセテート加工糸。
【請求項5】 糸条Aを構成するアセテートマルチフィラメント糸の繊度D1と糸条Bを構成するマルチフィラメント糸の繊度D2の繊度比D1/D2が2〜15である請求項1〜4のいずれかに記載のアセテート加工糸。
【請求項6】 糸条Bが熱可塑性マルチフィラメント糸である請求項1〜5のいずれかに記載のアセテート加工糸。
【請求項7】糸条Aを構成するアセテートマルチフィラメント糸が比重1.35以上のアセテートマルチフィラメント糸を含む請求項1〜6のいずれかに記載のアセテート加工糸。
【請求項8】 糸条Aを構成するアセテートマルチフィラメント糸がカチオン染料可染性アセテートマルチフィラメント糸を含む請求項1〜7のいずれかに記載のアセテート加工糸。
【請求項9】 糸条Aの加撚域に糸条Aから一定距離にあるガイドを介して糸条Bをオーバーフィード供給し、糸条Aの周囲にトラバース捲回させる仮撚加工において、糸条Aはアセテートマルチフィラメント糸を含み、下記式(1)、(2)及び(3)を満足する条件で加工を行うアセテート加工糸の製造方法。
100≦HT1≦160 (1)
200≦HT2≦250 (2)
8≦OF2≦25 (3)
ここで、HT1は仮撚機の第1ヒーター温度(℃)、 HT2は仮撚機の第2ヒーター温度(℃)、 OF2は第2ヒーター内でのオーバーフィード率(%)である。
【請求項10】 糸条Aがアセテートマルチフィラメント糸及び該アセテートマルチフィラメント糸以外の熱可塑性マルチフィラメント糸からなる2本以上の糸条である請求項9記載のアセテート加工糸の製造方法。
【請求項11】 糸条Bが乾熱収縮率が12%以上の熱可塑性マルチフィラメント糸である請求項9または請求項10記載のアセテート加工糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−3237(P2001−3237A)
【公開日】平成13年1月9日(2001.1.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−354748
【出願日】平成11年12月14日(1999.12.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】