説明

アセテート複合紡糸繊維及びその製造方法並びにその織編物

【課題】沸水条件から高圧高温条件に至る均一な染色性と風合いを向上させる効果を有しながら、光沢感をも有するアセテート繊維及びその織編物を提供する。
【解決手段】繊維断面がトリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造で、ジアセテートの少なくとも一部が繊維表面に露出した複合紡糸繊維であって、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有し、トリアセテート100%からなる繊維に比べて沸水染色時の染料吸着率が15%以上大きいことを特徴とするアセテート複合紡糸繊維、及びアセテート複合紡糸繊維を含有した織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風合い、該繊維からの染色性及び発色性が改良されたセルロースアセテート繊維及びその製造法並びに該繊維からの織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースジアセテート繊維は、適度な吸湿性、ドライな風合いを有するとともに、発色性等に優れていることから、衣料用繊維素材として好ましく用いられている。しかしながら、セルロースジアセテート繊維は、100℃以上の高温染色処理を行うと、染料の吐き出し現象が起こりその結果濃色に染まりにくく、又、発色性の低下が起こり易いため、通常100℃以上の染色温度を条件とするポリエステル繊維などと混用して衣料用複合素材とすることが困難である。
一方、セルローストリアセテート繊維は、ビスコースレーヨンと比べ著しく疎水性、すなわち、水中における膨潤性が小さく、また、乾式紡糸法により得られることからミセル間隔を殆ど有しないため、染液や薬液の浸透、分散及び吸着が困難であり、直接染料や、イオン染料に対して十分な染色性を示さず、一般には、分散染料を用い、高圧高温条件下で染色される。しかしながら、セルローストリアセテート繊維は可塑性が大きく、染色温度の設定には繊維物性や風合いとの兼ね合いから十分な考慮が必要であり、特に100℃前後の低温染色時から均染性を達成することが重要である。
【0003】
このため、これらセルロースジアセテート成分とセルローストリアセテート成分とを複合紡糸繊維にすることによって、両特性を併せ持たせることによる染色特性を改良することが行われている。例えば、特許文献1にはジアセテート成分を中間層に、トリアセテート成分を該中間層の外側に配置した三層接合型の複合紡糸繊維が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−55629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしこの手段では、トリアセテート成分のスキン層の配向は、通常のトリアセテート繊維と変わらないことから、濃色性の点では変わりないものであり、また、通常のアセテート繊維では発現する繊維軸方向へのヒダが、トリアセテート成分表面に殆ど発現しないことから、トリアセテート特有の風合いが十分に得られないという問題があった。
したがって本発明の課題は、かかる従来の問題点を解消し、沸水条件から高圧高温条件に至る均一な染色性と、風合いを向上させる効果を有しながら、光沢感をも有するアセテート繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、繊維断面がトリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造からなり、ジアセテートの少なくとも一部がトリアセテートからなる繊維の任意表面に露出した複合紡糸繊維であって、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有し、トリアセテート100%からなる繊維に比べて沸水染色時の染料吸着率が15%以上大きいことを特徴とするアセテート複合紡糸繊維にある。
さらに本発明は、トリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造を形成する複合した紡糸原液を下式(1)〜(2)を満たす条件で乾式紡糸するアセテート複合紡糸繊維の製造方法にある。
(1)0.15<Vf/Vj<0.60
(2)1000<Vj<2000
(式中、Vfは紡出糸の引き取り速度(m/分)、Vjは紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)。また、Vjは(紡糸原液の吐出量/紡糸口金の総孔面積)で定義する。)
さらに本発明は、本発明のアセテート複合紡糸繊維を含有した織編物にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、沸水条件から高圧高温条件に至る均一な染色性と、風合いを向上させる効果を有し、かつ、光沢感も有するアセテート繊維及びその織編物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施の形態について具体的に説明する。
本発明のアセテート複合紡糸繊維は、繊維断面がトリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造を形成しており、中間層を形成するジアセテートの少なくとも一部がトリアセテートからなる繊維表面に露出した、ジアセテートとトリアセテートの接合型複合紡糸繊維である。
本発明のアセテート複合紡糸繊維の断面の1例を図1に示す。図1において、1はトリセテート成分、2はジアセテート成分を示し、3は繊維表面に繊維軸と直角な方向に付与されている微細なヒダを示している。
ジアセテートとトリアセテートからなる複合紡糸繊維において、ジアセテートが繊維表面に大きい比率で露出する複合形態とした場合、高圧高温条件下で染色すると、ジアセテート成分が吐き出した染料はトリアセテート成分に染着し、ジアセテート成分は脱色、すなわち、淡色化してしまうことから、繊維束全体として濃色に見えないという問題となるため、単なる接合構造では本発明の目的は達成できない。
本発明では、トリアセテート成分1、1に挟まれたジアセテート成分2の少なくとも一部が繊維表面に露出していることが重要であり、染色低温時には低温染色特性に優れるジアセテートに多くの染料が染着されると同時にトリアセテートには殆ど染着されないためにトリアセテート成分への染着量が不均一な製品となりにくく、さらに、染色高温時にはジアセテートから吐き出された染料を徐々に染着させる緩染効果をも発現することとなる。芯成分をジアセテートとし、鞘成分をトリアセテートとした芯鞘型複合紡糸繊維では、こうしたジアセテート成分によるトリアセテート成分の均染性は得られない。
【0009】
本発明においては、トリアセテート100%からなる繊維に比べて沸水染色時の染料吸着率が15%以上大きいことが特徴であり、かつ、重要である。これが15%未満であると染色低温時におけるジアセテートへの染着量が少なく、さらには染色高温時における緩染効果が得られないためにトリアセテート成分への染着量が不均一となってしまう。
さらに本発明では、スキン層の配向度を小さくすることにより繊維軸と略直角方向の微細なヒダを繊維表面に付与することが重要であり、これによりスキン層への染着量が多くなり、発色性に優れる効果が得られ、さらには風合いの向上効果をも得られることとなる。このとき繊維断面形状が二層分割されたトリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造とすることで、アセテート繊維特有のヒダが発生しにくく、したがって、不均一なヒダの畝上隆起部が発生せず、光沢感が減少してしまうという問題をも解消できる。
【0010】
上述の本発明のアセテート複合紡糸繊維の製造方法としては、公知の接合型複合紡糸装置を用いればよく、ジアセテートとトリアセテートを三層の接合型に複合した紡糸原液を下式(1)〜(2)を満たす条件で乾式紡糸することが好ましい。
(1)0.15<Vf/Vj<0.60
(2)1000<Vj<2000
(式中、Vfは紡出糸の引き取り速度(m/分)、Vjは紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)。また、Vjは(紡糸原液の吐出量/紡糸口金の総孔面積)で定義する。)
すなわち、アセテートの乾式紡糸法において乾燥固化過程における収縮挙動が繊維軸方向により大きく発生するような条件を採用することが重要であり、紡糸ノズルの吐出直下で形成されるスキン層は配向が小さく、更なる乾燥収縮過程においては繊維軸方向への収縮が進むにつれてスキン層が皺寄せされながら固化することにより、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを発生させることが可能となる。
紡糸条件として上記(1)式でVf/Vj≧0.60及び(2)式でVj≦1000では、得られる複合繊維の軸方向への収縮挙動が得られず、また、(1)式でVf/Vj≦0.15、(2)式でVj≧2000では安定した乾燥固化挙動が得られずに糸切れが発生する。
【実施例】
【0011】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を説明する。実施例、比較例で得られた繊維の評価は次に示す方法で行った。
(染色と吸光度測定)
本発明のセルロースアセテート繊維を編地とし、以下に示す条件で染色し、吸光度[ABS580nm]は、染色後の編地0.5gを塩化メチレン/メタノール混合溶液(質量混合比91/9)500ミリリットルに溶解させ、波長580nmにおける吸光度である。吸光度が大きいほど、繊維に対する染料の取り込み量が多いと考えられる。
・精練
精錬剤:スコアロール900(花王(株)製)0.2質量%水溶液
浴比: 1:100、80℃×30分
・染色
染料:Dianix Black TAN(三菱化成ヘキスト社製)6質量%対繊維質 量
染色助剤:DISPER TL(明成化学(株)製)0.5g/リットル
URTRA MT−N2(大和化学(株)製)0.5g/リットル
浴比: 1:30、Boil×60分
・還元洗浄
ハイドロサルファイト(関東化学(株)製)1g/リットル
無水炭酸ナトリウム(関東化学(株)製)1g/リットル
メイサノールBHS NEW(明成化学(株)製)2g/リットル
60℃×15分
【0012】
(三層複合形態の観察)
本発明のセルロースアセテート繊維を、以下に示す条件でアルカリ処理し、ジアセテート成分のみをセルロース化させることで、トリアセテート成分との光透過性に差を持たせ、繊維断面を光学顕微鏡にてセルロース成分、すなわち、ジアセテート成分が占める断面形状および繊維表面への露出状態を観察する。
・アルカリ処理液:水酸化ナトリウム1質量%水溶液
・処理液浴比: 1:100
・処理温度:60℃
・処理時間:10分
(実施例1)
【0013】
外側層成分として水酸基の97%が酢酸化されているセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合(質量混合比91/9)溶剤に溶解し、固形分濃度が22.0質量%の紡糸原液aを調製した。また、中間層成分として水酸基の80.3%が酢酸化されているセルロースジアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合(質量混合比88/12)溶剤に溶解し、固形分濃度が22.1質量%の紡糸原液bを調製した。
前記2種の紡糸原液を用いて、ノズル孔形状が円形、ノズル孔径が0.026mm、ノズル孔数20の複合紡糸ノズルにて、中間層の占める割合を20容量%とし、かつ、中間層がセルロースジアセテート、外側層がセルローストリアセテートになるように配し、紡糸速度600m/分で乾式複合紡糸し、Vf/Vj=0.30、Vj=1700m/分とし、84dtex/20フィラメントの中間層がセルロースジアセテート、両外側層がセルローストリアセテートの三層接合型のセルロースアセテート複合繊維を得た。
繊維表面には、アセテート繊維特有のヒダが少なく、さらに、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有しており、アルカリ処理後の繊維断面にはジアセテートの一部が繊維表面に露出していた。
この複合繊維を分散黒染料にて沸水染色し、染料吸着率を測定した結果、580nmの吸光度=ABS580nmは0.2427であり、トリアセテート100%からなる次記した比較例1に比べて16.2%大きい結果であった。
上記方法によるアセテート複合紡糸繊維を6錘規模で紡糸し、それぞれを同一染色浴で染色した編地の染色濃度は、バラツキが非常に小さく、均一性に優れていた。また、この編地は、次記比較例1の編地に比べて見た目の光沢感に優れ、アセテート繊維特有の上品な光沢感を有していた。
(比較例1)
【0014】
実施例1の外側層成分として調製した水酸基の97%が酢酸化されているセルローストリアセテートの紡糸原液aを用い、実施例1と同じノズルにて、セルローストリアセテート100%の繊維を実施例1と同じ条件にて乾式紡糸し、84dtex/20フィラメントのセルローストリアセテート繊維を得た。
繊維表面は、アセテート繊維特有のヒダが深く、不均一なヒダの畝上隆起部が発生しており、さらに繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有していた。さらにこの繊維を分散黒染料にて沸水染色し、染料吸着率を測定した結果、580nmの吸光度=ABS580nmは0.2089であった。
本例によるトリアセテート繊維を6錘規模で紡糸し、それぞれを同一染色浴で染色した編地の染色濃度は、バラツキが非常に大きく、均一性に問題があり、また、この編地は、見た目の光沢感が抑えられ、アセテート繊維特有の上品な光沢感が不足していた。
(比較例2)
【0015】
実施例1において中間層の占める割合を15%としたほかは実施例1と同じ条件で乾式複合紡糸し、84dtex/20フィラメントの中間層がセルロースジアセテート、両外側層がセルローストリアセテートの三層接合型のセルロースアセテート複合繊維を得た。繊維表面には、アセテート繊維特有のヒダが少なく、さらに、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有しており、アルカリ処理後の断面形状ではジアセテートの一部が繊維表面に露出していた。
この複合繊維を分散黒染料にて沸水染色し、染料吸着率を測定した結果、580nmの吸光度=ABS580nmは0.2341であり、トリアセテート100%からなる比較例1に比べて12.0%大きい結果であった。
この編地は、比較例1の編地に比べて見た目の光沢感に優れ、アセテート繊維特有の上品な光沢感を有していた。しかしながら、この方法によるアセテート複合紡糸繊維を6錘規模で紡糸し、それぞれを同一染色浴で染色した編地の染色濃度はバラツキがやや大きく、均一性に問題があった。
(比較例3)
【0016】
実施例1に対してノズル孔形状が円形、ノズル孔径が0.038mm、ノズル孔数20の複合紡糸ノズルにて、紡糸速度600m/分で乾式複合紡糸し、Vf/Vj=0.75、Vj=800m/分としたほかは実施例1と同じ条件で乾式複合紡糸し、84dtex/20フィラメントの中間層がセルロースジアセテート、両外側層がセルローストリアセテートの三層接合型のセルロースアセテート複合繊維を得た。繊維表面には、アセテート繊維特有のヒダが少なく、また、繊維表面上には、実施例1の繊維にある繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダが全く無いものであった。
この編地は、比較例1の編地に比べて見た目の光沢感に優れ、アセテート繊維特有の上品な光沢感を有していた。しかしながら、アセテート特有のドライタッチ感は得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による複合紡糸繊維を一部断面で示す斜視図である。
【符号の説明】
【0018】
1 トリアセテート成分
2 ジアセテート成分
3 繊維表面に付与された微小なヒダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維断面がトリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造からなり、ジアセテートの少なくとも一部がトリアセテートからなる繊維の任意表面に露出した複合紡糸繊維であって、繊維表面に繊維軸にほぼ直角方向に微小なヒダを有し、トリアセテート100%からなる繊維に比べて沸水染色時の染料吸着率が15%以上大きいことを特徴とするアセテート複合紡糸繊維。
【請求項2】
トリアセテートの間にジアセテートが挟まれた三層接合構造を形成する複合した紡糸原液を下式(1)〜(2)を満たす条件で乾式紡糸するアセテート複合紡糸繊維の製造方法。
(1)0.15<Vf/Vj<0.60
(2)1000<Vj<2000
(式中、Vfは紡出糸の引き取り速度(m/分)、Vjは紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出線速度(m/分)。また、Vjは(紡糸原液の吐出量/紡糸口金の総孔面積)で定義する。)
【請求項3】
請求項1記載のアセテート複合紡糸繊維からなる織編物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−45735(P2006−45735A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231189(P2004−231189)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】