説明

アセトアミノフェンのアッセイ

概して、本発明は、水性試料中のp-アミノフェノールの定量的決定のための信頼性のあるアッセイを提供する。より詳細には、本発明は、試料中のアセトアミノフェンの定量的決定のための迅速な酵素ベースのアッセイを提供する。該アッセイは、キシレノール発色団および好ましくは弱酸化剤である触媒を用いる。該アッセイは、N-アセチルシステイン(NAC)の存在下または不在下で信頼性のある結果をもたらし、したがってNAC治療中にアセトアミノフェン値をモニタリングするために使用できる。水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するための方法およびキットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年4月28日に出願された米国仮出願61/048,406号の利益を主張し、それは参照により本明細書中に組み込まれる。
【0002】
概して、本発明は、試料中に存在するp-アミノフェノール濃度を決定するためのアッセイに関する。より詳細には、本発明は、試料中に存在するアセトアミノフェン濃度を決定するための酵素ベースのアッセイに関する。
【背景技術】
【0003】
薬物毒性は、急性肝不全の主因である。肝不全の評価において、臨床検査は、好適な治療を適時に開始できるように、診断において重要な役割を果たす。
アセトアミノフェン(N-アセチル-p-アミノフェノール)は、長い間、解熱鎮痛剤として処方されている。アセトアミノフェンは処方箋なしに広く入手可能であり、多くの一般的な治療用製剤(風邪薬やインフルエンザ薬など)の活性成分である。この薬剤は、広く使用されていることから、肝機能不全を呈する患者における肝毒性の被疑薬の上位に挙がっている。
【0004】
アセトアミノフェンの治療用量では有害作用はめったに惹起されない一方、アセトアミノフェンの慢性的、過剰使用は肝毒性および腎毒性に至る事例が報告されている。アセトアミノフェンの急性過剰摂取は、肝臓のグルタチオン貯蔵を枯渇させて毒性代謝物を蓄積させ、重症肝不全または致死性肝不全すら惹起する恐れがある。
【0005】
アセトアミノフェンが過剰摂取されると、高反応性の中間体N-アセチル-p-ベンゾキノンイミンが肝臓に蓄積する。この中間体は、肝臓内チオール、特にグルタチオンと反応する。グルタチオンは、グルタチオンジスルフィド(GSSG)に酸化される。肝臓内の過剰濃度のGSSGは壊死を引き起こす。アセトアミノフェン毒性は、通常、血清濃度約20mg/dL(1324μmol/L)超で報告されている。
【0006】
グルタチオンの前駆体であるN-アセチルシステイン(NAC)は、しばしば過剰摂取したアセトアミノフェンの解毒剤として投与される。投与されたNACの約70%が肝臓で代謝される。NACは、少なくとも次の理由:グルタチオン前駆体であり、強力な酸化防止剤であり、肝臓内のGSSG還元酵素の効率を増大することから、解毒剤として機能すると考えられる。NAC投与は、肝臓のグルタチオン貯蔵を補充してGSSG蓄積を防止することによって、過剰摂取したアセトアミノフェンにより惹起される損傷を、少なくとも部分的に、最小限に抑えるまたは防止すると考えられる。
【0007】
高濃度のNACがしばしば初回負荷用量で投与され、続いて維持濃度のNACが治療の全過程で投与される。該負荷用量によって、血清中NAC値2000mg/L以上に到達し得、維持濃度はしばしば約800mg/L〜1000mg/Lである。NAC治療の全過程でアセトアミノフェン値をモニタリングし、確実に好適な治療濃度を維持しつつ、不要または過剰なNACへの曝露を避けることが望ましい。
【0008】
偶発的ならびに意図的なアセトアミノフェン過剰摂取が著しく増大してきている。アセトアミノフェン過剰摂取の診断および治療は、体内での該薬物の早期検出および正確な測定を必要とする。臨床家がNACを好適な治療用量で患者に速やかに投与できるように、患者の体内のアセトアミノフェン量を迅速かつ正確に決定しなければならない。生体試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するための、迅速で信頼性のあるロバスト臨床アッセイに対する高い需要がある。
【0009】
生体試料中アセトアミノフェン値を決定する既知の方法としては、例えば、各種クロマトグラフィー技術および分光分析技術が挙げられる。
ガス液体クロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーは、生体試料中のアセトアミノフェン値を決定する信頼性のある正確な方法であることが示されているが、いずれも実施に高価な機器および高度の技術的手腕を要する時間のかかる手順である。かかる方法は、迅速な結果を要するSTAT検査(緊急検体検査)には特に適していない。
【0010】
示差吸光分光分析は広く使用されているが、この方法は時間のかかる溶媒抽出を必要とし、臨床アッセイには望ましくない。より迅速な分光分析法では、通常、所望の特異性を得ることはできない。
【0011】
比色分析技術としては、簡易比色分析ならびに酵素ベースの比色分析アッセイが挙げられる。各種免疫ベースアッセイも利用可能であるが、これらは著しく高価な傾向にあり、したがって、特に臨床現場においてはあまり望ましくない。
【0012】
酵素ベースアッセイは免疫ベースアッセイよりも便利かつ経済的である一方、通常、頻繁に患者試料中に存在する生体分子(ビリルビンおよびヘモグロビンなど)により干渉を受けやすい点で信頼性に劣る。患者の試料中の高値のかかる分子は偽陽性結果を引き起こし得(例えば、Bertholfら, 2003を参照されたい)、これは誤診ならびに不適切な治療選択もしくは治療用量を招く恐れがある。
【0013】
既知の酵素アッセイは、治療濃度のNAC存在下の干渉も受ける。したがって、通常、酵素アッセイは、測定されたアセトアミノフェン測定値が不正確であるため、NAC治療の全過程においてアセトアミノフェン値をモニタリングするために使用できない。これは既知の酵素的アセトアミノフェンアッセイの著しい欠点である。
【0014】
既知の酵素アッセイでは、3つの主成分:アリールアシルアミダーゼ酵素、発色性(chromogenic)(つまり色形成(color-forming))化合物、およびカップリング反応を触媒するのに十分な酸化電位の酸化剤、が使用される。
【0015】
アリールアシルアミダーゼは、アセトアミノフェンのアミド結合を切断してp-アミノフェノールと酢酸塩を生成させる。次いで、p-アミノフェノールは、酸化触媒存在下の酸化カップリング反応において、発色性化合物と反応し、着色生成物を形成する。典型的な触媒としては、活性酸素種もしくは官能基種の金属塩もしくは金属錯体、例えば、過マンガン酸塩、過ヨウ素酸塩、過硫酸塩、硫酸塩、または酢酸塩などが挙げられる。次いで、吸光度変化(典型的には着色生成物のピーク吸光度を得る波長で測定される)が、試料中アセトアミノフェン濃度を決定するために使用される。これは、得られた吸光度値を、既知濃度のアセトアミノフェンを有し、同一方法でアッセイを行った標準液または標準液セットと比較することによって決定し得る。形成された着色生成物のモル数は、典型的には、試料中に初めに存在したアセトアミノフェンのモル数に比例する。
【0016】
初期の酵素ベースのアセトアミノフェンアッセイは、加水分解反応および酸化カップリング反応のそれぞれにおいて非常に長い(しばしば1時間を超える)インキュベーション時間を要するため、緊急の臨床現場における使用に適さない。
【0017】
Hammondら(1984)は、血清中のアセトアミノフェン濃度を決定するため、アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するアリールアシルアミダーゼを用いた迅速な酵素ベースアッセイを開発した。p-アミノフェノールは続いて、硫酸銅により触媒される酸化カップリング反応においてo-クレゾールと反応し、インドフェノール系染料を形成する。次いで、該染料のピーク波長(615nm)での吸光度変化を用いて、アセトアミノフェン値を決定する。この方法はアセトアミノフェンの迅速な検出を可能にする一方、治療濃度のNAC存在下で有意な干渉を受け、NAC治療中に確実に使用することはできない。酸化触媒の存在下でo-クレゾールを用いる類似の方法は、ビリルビン干渉を受けやすく(Bertholfら, 2003)、高ビリルビン血症患者において偽陽性に至りやすい。
【0018】
Morrisら(1990)は、試料中のアセトアミノフェンを測定するための自動化された酵素ベースアッセイを開示した。自動化されたアッセイは、通常、臨床検査室にとって好ましい。該方法は、アリールアシルアミダーゼを用いてアセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解し、その後マンガンイオン存在下で8-ヒドロキシキノリンと酸化カップリングさせて青色生成物を形成させる。これらの試薬は、安定性を保持するために凍結乾燥し、使用前に再構成する必要がある。再構成工程を含むアッセイは、液状安定アッセイほど望ましくなく、よりエラーを起こしやすい。
【0019】
8-ヒドロキシキノリンまたはその誘導体を発色団として用いた既知のアセトアミノフェンアッセイは、治療濃度(すなわち>800mg/L)のNACの存在下で干渉を受ける。本発明者らは、8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸(8-HQ5SA)または8-ヒドロキシキノリンヘミスルファート(8-HQHS)のいずれかを発色団として含む2つの市販のアセトアミノフェンアッセイ(Genzyme Diagnostics P.E.I. Inc., PEI, Canada)を試験した。NAC不在下では正確なアセトアミノフェン測定値が見られたが、治療濃度のNAC存在下では、アセトアミノフェンの回収は有意に(すなわち>約10%)低減した。NACの存在は、アセトアミノフェンのp-アミノフェノールへの酵素的変換ではなく、該アッセイの酸化カップリング反応に影響することが見出された。8-HQ5SAアッセイと8-HQHSアッセイの回収間にはかなりの差があり、8-HQ5SAアッセイではより有意にNAC干渉を受けやすく、発色団の化学構造のわずかな違いすらNAC存在下のカップリング反応にとって重要であり得ることが示唆された。
【0020】
Chenら(2004)は、職場におけるアニリン曝露を評価するための尿中のp-アミノフェノール定量アッセイについて記載している。尿中のp-アミノフェノール値はアニリン毒性の生体マーカーとして働く。なぜなら、吸収されたアニリンの約15〜60%はインビボ(in vivo)でp-アミノフェノールに酸化するからである。尿を酸性化し、前処理して、尿中排泄される抱合体から遊離p-アミノフェノールを離さなければならない。該アッセイは、2,5-ジメチルフェノール(p-キシレノール)を発色団として用いて着色生成物を形成させる酸化カップリング反応に関与する。該カップリング反応は、過ヨウ素酸ナトリウム(強酸化剤)によって触媒され着色生成物が形成される。尿中のp-アミノフェノール値の定量化はアセトアミノフェン過剰摂取を評価するのに有用であり得ることが推測されたが、この点については探求も提示もされなかった。
【0021】
Afshari and Lui (2001)は、酵素を用いない、血清中アセトアミノフェン定量方法について記載している。遊離した非抱合型アセトアミノフェンは、まず抽出工程によって内因性干渉物質から分離され、続いて熱(すなわち10分間の煮沸)と酸によってp-アミノフェノールに加水分解される。これは酵素反応と比較して、非選択的な加水分解反応である。該加水分解反応の後、過ヨウ素酸ナトリウム(強酸化剤)存在下でp-アミノフェノールを2,5-ジメチルフェノール(p-キシレノール)と酸化カップリングさせて着色生成物を形成させる。アセトアミノフェンを試料から抽出して試料を煮沸する必要性があるため、この方法は緊急の臨床現場における使用に望ましくなく、自動化にも不適切である。
【0022】
酵素的アセトアミノフェンアッセイは便利で、免疫ベースアッセイより手頃な価格である一方、多くの臨床検査室では免疫ベースアッセイが好まれている。なぜなら、免疫ベースアッセイは試料中のNACの存在に影響を受けないからである。NAC治療の過程中に正確にアセトアミノフェン値を測定することが望ましい。免疫ベースのアッセイも、頻繁に患者試料中に存在する生体分子(ビリルビンおよびヘモグロビンなど)の存在下、さほど干渉を受けやすくない。血清ビリルビン値および血清ヘモグロビン値は患者によって予測不能であるため、これらの分子により干渉を受けやすいアッセイでは、すべての患者に対して信頼性のあるロバスト臨床試験は提供されない。
【0023】
したがって、NAC存在下または不在下において正確で信頼性のある、かつ従来の免疫ベースのアッセイより安価で迅速なアセトアミノフェンアッセイを提供することが望ましい。また、既知のアッセイと比較して、患者試料中に存在する生体分子による干渉を同じく受けにくいアッセイを提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Afshari, J.T. and Liu, T-Z. Rapid spectrophotometric method for the quantitation of acetaminophen in serum. Analitica Chimica Acta 2001; 443: 165-169.
【非特許文献2】Bertholf, R.L.; Johannsen, L.M.; Bazooband, A. and Mansouri, V. False-positive acetaminophen results in a hyperbilirubinemic patient. Clinical Chemistry 2003; 49(4): 695-698.
【非特許文献3】Chen, C-F; Tseng, Y-T; Tseng, H-K and Liu T-Z. Automated spectrophotometric assay for urine p-aminophenol by an oxidative coupling reaction. Annals of Clinical and Laboratory Science 2004; 324(3): 336-340.
【非特許文献4】Hammond, P.M.; Scawen, M.D.; Atkinson, T.; Campbell, R.S. and Price, C.P. Development of an enzyme-based assay for acetaminophen. Analytical Biochemistry 1984; 143: 152-157.
【非特許文献5】Morris, H.C; Overton, P.D.; Ramsey, J.R.; Campbell, R.S.; Hammond, P.M.; Atkinson, T. and Price, C.P. Development and validation of an automated enzyme assay for paracetamol (acetaminophen). Clinica Chimica Acta 1990; 187: 95-104.
【非特許文献6】Weeks, J.L. and Rabini, J. The Pulse Radiolysis of Deaerated Aqueous Carbonate Solutions. I. Transient Optical Spectrum and Mechanism II. pK for OH Radicals. The Journal of Physical Chemistry 1966; vol. 70(7): 2100-2106. ここで本発明の実施形態について、添付の図面を例としてのみ参照して記載し、該図面は下記のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】治療濃度のNAC存在下または不在下、8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸(8-HQ5SA)を発色団として用いて実施した先行技術アセトアミノフェンアッセイの結果を示し、本結果により、8-HQ5SAは治療濃度のNAC存在下で有意な干渉を示すことが示される。
【図2】発色団としての8-HQ5SAをp-キシレノールに換えた他は上の図1と同様に実施したアセトアミノフェンアッセイの結果を示し、本結果により、p-キシレノールは治療濃度のNAC存在による影響を比較的受けないことが示される。
【発明の概要】
【0026】
概して、本発明は、試料中のp-アミノフェノールを定量的に決定するための信頼性のあるアッセイに関する。より詳細には、本発明は、試料中のアセトアミノフェンの定量的決定のための酵素ベースのアッセイに関する。該アッセイは、NAC存在下または不在下において正確で信頼性のある結果をもたらし、したがってNAC治療中にアセトアミノフェン値を測定するために使用できる点で先行技術に勝る利点を有する。ある実施形態では、該アッセイは既知のアッセイより改善された性能および低減した生体分子干渉というさらなる利点を有する。
【0027】
驚くべきことに、p-アミノフェノールとの酸化カップリング反応における発色団としてのキシレノール化合物の選択により、NAC存在下、他の既知の発色団よりも改善された精度および低減した干渉が生じることが見出された。
【0028】
一態様では、本発明は、水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定する方法を提供する。該方法は、アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解する工程;適切な触媒の存在下、p-アミノフェノールをキシレノール発色団と酸化カップリングさせて着色生成物を形成させる工程;および形成された着色生成物量を決定する工程を含む。形成された着色生成物量は、水性試料中に初めに存在するアセトアミノフェン量に比例する。該方法は、水性試料中の治療濃度のN-アセチルシステイン(NAC)の存在下または不在下における使用に適している。
【0029】
別の態様では、本発明は、水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するためのアッセイを提供し、該アッセイは下記工程:水性試料を、アリールアシルアミダーゼ酵素および適切な希釈剤を含む第一試薬(R1)と接触させ加水分解液を形成させて任意に該加水分解液を希釈する工程;該加水分解液をインキュベートして、アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに変換する加水分解反応を起こす工程;該加水分解液を、キシレノール発色団および適切な希釈剤を含む第二試薬(R2)と接触させ酸化カップリング溶液を形成する工程;該酸化カップリング溶液をインキュベートして、適切な触媒の存在下でキシレノール発色団がp-アミノフェノールとカップリングして着色生成物を形成させる酸化カップリング反応を起こす工程;および形成された着色生成物量を決定する工程(形成された着色生成物量は、水性試料中に初めに存在するアセトアミノフェン量に比例する)を含み、該アッセイは、水性試料中の治療濃度のN-アセチルシステイン(NAC)の存在下または不在下における使用に適している。
【0030】
別の態様では、本発明は、水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定する方法を提供し、該方法は下記工程:試料を、アリールアシルアミダーゼと接触させて、試料中アセトアミノフェンをp-アミノフェノールへ変換させる工程;触媒の存在下、p-アミノフェノールをキシレノール発色団と酸化カップリングさせて染料を形成させる工程;および該染料濃度を決定する工程(元の試料中アセトアミノフェン量は形成された染料量に比例する)を含む。
【0031】
別の態様では、本発明は、血液試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するためのキットを提供し、該キットはアリールアシルアミダーゼ、キシレノール、および触媒を含む。
別の態様では、本発明は、NAC存在下または不在下、水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するためのキットを提供し、該キットは:アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するためのアリールアシルアミダーゼを含む第一試薬(R1)を含む第一容器;およびp-アミノフェノールとの酸化カップリングのためのキシレノール発色団を含む第二試薬(R2)を含む第二容器を含み、R1またはR2はさらにキシレノール発色団とp-アミノフェノールのカップリングを触媒するために適切な触媒を含む。
【発明を実施するための形態】
【0032】
概して、本発明は、試料中のp-アミノフェノールの定量的決定のための信頼性のあるアッセイに関する。より詳細には、本発明は、試料中のアセトアミノフェンの定量的決定のための酵素ベースのアッセイに関する。該アッセイは、NAC存在下または不在下、正確かつ信頼性のある結果を提供する点で先行技術に勝る利点を有する。ある実施形態では、該アッセイは、既知のアッセイより低減した生体分子による干渉というさらなる利点を有する。
【0033】
試験試料は好ましくは水性試料であり、すなわち水性成分を有する。該アッセイにおいて試験し得る代表的な水性試料としては、水、全血、血漿、血清、リンパ液、胆液、尿、髄液、喀痰、唾液、汗、便分泌物、などが挙げられるが、これらに限定されない。また、該アッセイにおいてヒト組織または動物組織、例えば、骨格筋、心臓、腎臓、肺、脳、骨髄、皮膚、などの液体調製物もあり得る。代表的な液体調製物としては、組織ホモジネートおよびその上清が挙げられる。
【0034】
一実施形態では、水性の試験試料は血漿、血清、または尿である。別の実施形態では、水性試料は血漿または血清である。一実施形態では、水性試料は血清である。
本発明のアッセイは最初の加水分解工程なしに実施し得る(すなわちp-アミノフェノールが試料中で直接測定される場合)ことが理解される一方、最も典型的には、該アッセイは試料中のアセトアミノフェン値の測定に使用され、したがってp-アミノフェノールと選択された発色団との酸化カップリングの前にアセトアミノフェンのp-アミノフェノールへの加水分解を必要とする。本発明に従い選択された発色団は、キシレノール発色団である。酵素を用いない加水分解反応は可能であるが、好ましい反応は酵素によるアセトアミノフェンのp-アミノフェノールへの変換である。
【0035】
本発明のアッセイは、典型的には二段階で実施する。第一段階は、酵素を用いたアセトアミノフェンのp-アミノフェノールへの加水分解に関与する。第二段階は、好適な触媒の存在下、p-アミノフェノールとキシレノール発色団の酸化カップリングによる着色生成物の形成に関与する。いくつかの実施形態では、好ましい触媒は弱酸化剤から選択される。次いで、試料中アセトアミノフェン濃度を、例えば、所定の波長での吸光度変化を測定し、得られた値を、既知濃度のアセトアミノフェンを有する標準液または標準液セットと比較することによって決定し得る。
【0036】
一実施形態では、該アッセイは二段階アッセイで下記のとおり実施される。
第一段階では、試料の一定量を、酵素を含む第一試薬(R1)と接触させて加水分解液を形成する。この第一試薬は酵素試薬と呼び得る。R1中の試料を含む加水分解液を混合し、任意に希釈する。一実施形態では、任意の希釈工程は、適切な希釈剤(脱イオン水など)によるR1の1:1希釈に関与する。該溶液を混合し、加水分解反応を、試料中アセトアミノフェンがp-アミノフェノールに加水分解するのに適した温度で、完了するまで継続する。吸光度値を所定の波長で得る。
【0037】
第二段階では、加水分解完了時、キシレノール発色団を含む第二試薬(R2)を該加水分解液に添加し、得られた混合物を軽く混合する。第二試薬(R2)は発色団試薬と呼び得る。キシレノール発色団とp-アミノフェノールの酸化カップリングには適切な触媒の存在を要する。一実施形態では、酸化カップリング反応の触媒は、R1とR2が混合するまで該触媒が発色団と結合しないように、R1の成分である。あるいは該触媒はR2の成分であり得、またはR1とR2の混合物に添加して酸化カップリング工程を促進し得る。該酸化カップリング反応は、好適な温度で完了するまで継続する。完了時、吸光度を所定の波長で測定し、第一段階と第二段階の吸光度変化を算出する。
【0038】
試料中に初めに存在するアセトアミノフェン量を決定するため、既知濃度のアセトアミノフェンを用いて同一方法で用意した標準液または標準液セットと吸光度変化値を比較する。希釈因子を考慮しなければならない。かかる算出は当業者にとって日常的である。
【0039】
この二段階アッセイは自動化に適している。なぜなら、抽出または分離工程が不要であり、2試薬のみが用いられるからである。オンボード希釈および混合工程も自動化して実施できる。かかるアッセイを実施するための自動化機器は当該分野において周知である。あるいは、該アッセイは手動で実施し得る。
【0040】
加水分解反応に好ましい酵素は、アリールアシルアミダーゼ酵素である。アリールアシルアミダーゼ酵素はアニリドのアニリンへの加水分解を触媒し、IUB(International Union of Biochemistry)EC番号3.5.1.13によって同定される。この酵素分類のCAS登録番号は9025-18-7である。アリールアシルアミダーゼ酵素は、典型的には微生物(細菌など)から産生かつ単離される。アリールアシルアミダーゼ酵素およびそれらを微生物から産生する方法の非制限的な例は、例えば、Hammondらに付与された米国特許第4,430,433号に記載されている。
【0041】
アセトアミノフェンのp-アミノフェノールへの加水分解を好適な反応条件下で効果的に触媒できる限り、任意の適切なアリールアシルアミダーゼ酵素を本発明に従い使用し得る。該反応条件は、選択された特定の酵素を考慮して、本発明から逸脱せずに、当業者によって最適化され得る。
【0042】
該アリールアシルアミダーゼは、任意の適量で存在し得る。該アリールアシルアミダーゼは、好ましくは、試料中に存在する実質的にすべてのアセトアミノフェンをp-アミノフェノールに変換するのに十分な濃度で存在する。一実施形態では、R1は、アリールアシルアミダーゼを約10U/L〜約5000U/L、または約600U/L〜約1200U/L、または約800U/L〜約1000U/Lの濃度で含む。一実施形態では、R1はアリールアシルアミダーゼを約932.7U/Lの濃度で含む。
【0043】
Rlの溶媒または希釈剤は、該アッセイに悪影響を及ぼさない任意の適切な水性溶媒または希釈剤であり得る。一実施形態では、該溶媒または希釈剤は水であり、好ましくは蒸留水、脱イオン水、または逆浸透水である。一実施形態では、該希釈剤は脱イオン水である。該溶媒または希釈剤は各種添加剤および成分を含み得る。
【0044】
アリールアシルアミダーゼの他に、R1は、さらに触媒、補因子、タンパク質可溶化剤、タンパク安定化剤、酵素安定化剤、金属キレート剤、緩衝液、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、希釈剤、溶媒、賦形剤などの1つまたは複数を含み得る。
【0045】
一実施形態では、R1は酸化カップリング反応の触媒を含む。酸化カップリング反応を十分に触媒できる限り、任意の適切な触媒を本発明に従い任意の適切な濃度で用い得る。代表的な触媒としては、限定されないが、過マンガン酸塩、過ヨウ素酸塩、過硫酸塩、酢酸塩、およびその他の金属塩が挙げられる。一実施形態では、該触媒はFeCl3、MnCl2、CuSO4、KlO4またはそれらの誘導体から選択される金属塩である。好ましい実施形態では、該触媒は弱酸化剤である。一実施形態では、該弱酸化触媒は二塩化マンガン、すなわちMnCl2である。一実施形態では、該触媒は二塩化マンガン四水和物、すなわちMnCl2・4H2Oである。
【0046】
ある実施形態では、該触媒は約0.0005g/L〜約1.000g/L、または約0.005g/L〜約1.000g/L、または約0.010g/L〜約0.100g/L、または約0.025g/L〜約0.075g/L、または約0.040g/L〜約0.060g/Lの濃度で存在する。一実施形態では、R1は、触媒としてMnCl2・4H2Oを濃度約0.0525g/Lで含む。MnCl2・4H2Oは触媒特性の他にさらなる機能を担い得る。例えば、MnCl2・4H2Oは酵素安定化剤としても作用し得、それによって酵素試薬(R1)の保存寿命を改善し得ると考えられる。
【0047】
一実施形態では、R1は、少なくとも1つのタンパク安定化剤を含む。タンパク安定化剤は試薬中に存在する酵素の安定化を補助し、それによって試薬の保存寿命を改善する。任意の適切なタンパク安定化剤またはその組み合わせを本発明に従い用い得る。
【0048】
好ましいタンパク安定化剤の1つはPVP-40であり、これは試薬中でタンパク質可溶化剤としても働き得る。本発明者らは、PVP-40は試薬中タンパク質の存在により惹起されるアッセイの測定エラーを低減または除去でき、かつ試薬中のタンパク質の沈澱を防止でき、それによって試薬の保存寿命およびアッセイの全体の性能を改善することを見出した。一実施形態では、R1は、PVP-40を約0.1g/L〜約10g/L、または約0.5g/L〜約5g/L、または約1g/L〜約3g/Lの濃度で含む。一実施形態では、R1はPVP-40を約2g/Lの濃度で含む。
【0049】
一実施形態では、R1は、PVP-40、BSAフラクションV、トレハロース、ナトリウムp-ヒドロキシベンゾアート、p-ヒドロキシ安息香酸またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのタンパク安定化剤を含む。一実施形態では、前記少なくとも1つの酵素安定化剤は、PVP-40、BSAフラクションV、トレハロースおよびナトリウムp-ヒドロキシベンゾアートまたはp-ヒドロキシ安息香酸の組み合わせを含む。該BSAフラクションVは、例えば、約0.1g/L〜約10g/L、または約0.5g/L〜約5g/L、または約1g/L〜約2.5g/Lの濃度で存在し得る。
【0050】
一実施形態では、R1はBSAフラクションVを約1g/Lの濃度で含む。トレハロースは、例えば、約0.1g/L〜約10g/L、または約0.5g/L〜約5g/L、または約1g/L〜約2.5g/Lの濃度で存在し得る。一実施形態では、R1は、トレハロースを約4.04g/Lの濃度で含む。p-ヒドロキシ安息香酸またはp-ヒドロキシ安息香酸は、例えば、約0.1g/L〜約10g/L、または約0.5g/L〜約5g/L、または約1g/L〜約2.5g/Lの濃度で存在し得る。一実施形態では、R1は、ナトリウムp-ヒドロキシベンゾアートを約1g/Lの濃度で含む。一実施形態では、R1は、p-ヒドロキシ安息香酸を約1g/Lの濃度で含む。
【0051】
一実施形態では、R1は、PVP-40約2g/L;BSAフラクションV約1g/L;トレハロース約4.04g/L;およびp-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム約1g/Lを含む。
R1は任意に緩衝液を含み得る。任意の適切な緩衝液を本発明に従い用い得る。適切な緩衝液としては、リン酸、ピロリン酸塩、リン酸カリウム、CAPS(N-シクロヘキシル-3-アミノプロパンスルホン酸)、CAPS/メタホウ酸、CAPS/炭酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、2{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}-1-エタンスルホン酸(TES)、TRIS/炭酸、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]プロパンスルホン酸(EPPES)、2-ヒドロキシ-3-{N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}-プロパンスルホン酸(TAPSO)、およびこれらの組み合わせを挙げ得るが、これらに限定されない。
【0052】
該緩衝液は、例えば、約1〜10g/Lまたは約5〜8g/Lの濃度で存在し得る。一実施形態では、R1はCAPS緩衝液を含む。一実施形態では、R1はCAPS緩衝液を約6.4g/Lの濃度で含む。
R1は任意に防腐剤を含み得る。任意の適切な防腐剤を本発明に従い用い得る。適切な防腐剤としては、硫酸ゲンタマイシン、アジ化ナトリウム、および安息香酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、R1は、硫酸ゲンタマイシンを約0.001g/L〜約0.1g/L、または約0.01g/L〜約0.05g/Lの濃度で含む。一実施形態では、R1は、硫酸ゲンタマイシン約0.01g/Lを含む。一実施形態では、R1は、アジ化ナトリウムを約0.001g/L〜約0.1g/L、または約0.01g/L〜約0.05g/Lの濃度で含む。一実施形態では、R1はアジ化ナトリウム約0.05g/Lを含む。一実施形態では、R1は、硫酸ゲンタマイシン約0.01g/Lおよびアジ化ナトリウム約0.05g/Lを含む。
【0053】
R1は任意に金属キレート剤を含み得る。任意の適切な金属キレート剤を本発明に従い用い得る。適切な金属キレート剤としては、EDTAが挙げられるが、これに限定されない。一実施形態では、R1は、EDTAを濃度約0.001g/L〜約0.1g/L、または約0.01g/L〜約0.05g/Lで含む。一実施形態では、R1は、EDTAを約0.025g/Lの濃度で含む。
【0054】
R1は任意に界面活性剤を含み得る。任意の適切な界面活性剤を本発明に従い用い得る。代表的な界面活性剤としては、Brij(商標登録)-35、トリトン(商標登録)X-100、Olin-10G(商標登録)、TX(商標登録)-102、TX-405(商標登録)、Zonyl FSN(商標登録)、TX-100(商標登録)、およびTX-165(商標登録)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
該加水分解反応は好ましくはpH約5.9〜約12.0、または約6.5〜約9.0、または約7.5〜約9.4、好ましくは約8〜9の範囲で行われる。一実施形態では、該pHは約8.6である。
R1のpHは、当該分野において既知である任意の適切な手段によって調整し得る。例えば、NaOHまたはその他の任意の適切な塩基を用いてpHを増大し得る。HClまたはその他の任意の適切な酸を用いてpHを低減し得る。一実施形態では、R1のpHはNaOHを用いて調節される。一実施形態では、R1は2N NaOH約500μL/L〜約1000μL/L量を含む。一実施形態では、R1は2N NaOH約833μL/Lを含む。
【0056】
代表的なR1製剤を下表1に提示する。この代表的な実施形態に従い、R1は、酵素およびアジ化ナトリウムを除く各成分を適切な希釈剤(好ましくは蒸留水、脱イオン水または逆浸透水)の総100体積%未満に添加することによって調製される。次いで、該pHはNaOH、続いてアジ化ナトリウムを添加して望ましい範囲に調節される。該酵素は最後に添加される。次いで、該製剤を希釈剤で100体積%にする。
【0057】
本発明の自動化されたアッセイの一実施形態では、10μL試料(または対照または標準液)をキュベット内のR1 100μLに添加する。次いで、該R1を100μLの水(好ましくは脱イオン水、蒸留水または逆浸透水)により1:1オンボード希釈し、該溶液を軽く混合する。該加水分解反応をキュベット内で行う。体積は、特定の自動化機器(すなわち化学的分析器)で必要とされるキュベットサイズに応じて調節し得る。一実施形態では、該化学的分析器はHitachi 717(商標登録)Chemical Analyzer(Roche Dignostics)である。
【0058】
該加水分解反応は、温度約10℃〜約60℃、または約30℃〜約5O℃、または約35℃〜約4O℃で行い得る。一実施形態では、該加水分解反応は温度約37℃で行われる。
該加水分解反応は、試料(または標準液)中に存在する実質的にすべてのアセトアミノフェンが加水分解するのに十分な時間、典型的には約2〜20分間または約3〜10分間、進行させる。一実施形態では、該加水分解反応は約5分間継続する。該反応時間は、選択された温度に応じて最適化できる。なぜなら、通常、低温にはより長い反応時間が必要であるからである。
【0059】
該加水分解反応が完了し、試料(または標準液)中の実質的にすべてのアセトアミノフェンがp-アミノフェノールへ変換された後、酸化カップリング工程を実施する。
本発明の自動化されたアッセイの一実施形態では、酸化カップリング工程は発色団を含む第二試薬(R2)を、加水分解液の入ったキュベットに直接添加することにより開始される。上記の実施形態に従い、R2 200μLを加水分解液に添加し、軽く混合して、該キュベット内の酸化カップリング反応の最終体積を410μL(試料10μL+R1 100μL+水100μL+R2 200μL)とする。
【0060】
本発明に従う好ましい発色団はキシレノール発色団である。本発明者らは、驚くべきことに、本明細書のアッセイにおけるキシレノール発色団の選択は、NAC存在下における干渉を有意に低減することを見出した。この驚くべき結果は、NAC治療中の使用に本明細書のアッセイを推奨できる点で先行技術アッセイに勝る利点を提供する。本発明者らは、治療濃度のNAC存在下において信頼性のあるアセトアミノフェン測定値は少なくとも2000mg/Lまでであることを示した。本結果はこれまで、いずれの先行技術の酵素的アセトアミノフェンアッセイにおいても示されていない。
【0061】
一実験において、本発明者らは、驚くべきことに、市販のアセトアミノフェンアッセイ(Genzyme Diagnostics P.E.I. Inc., PEI, Canadaより入手可能)における8-HQ5SA発色団を2,5-ジメチルフェノールに換えると該アッセイにおけるビリルビン干渉を有意に低減させたことも見出し、さらに、発色団の選択が該アッセイにおける干渉レベルに有意に影響を与えることができることを示した。
【0062】
本発明に従い、任意の適切なキシレノール発色団、例えば、2,5-ジメチルフェノール、3,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、3,5-ジメチルフェノールまたは2,3-ジメチルフェノールを用い得る。好ましいキシレノール発色団は、治療濃度のNAC存在下のアッセイにおける干渉を最小限に抑える。実験において、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールまたは2,3-ジメチルフェノールは、干渉アッセイにおいてNAC 1471mg/Lによる干渉を有意に受けないことを示した。一実施形態では、キシレノール発色団は2,5-ジメチルフェノール(p-キシレノール)である。
【0063】
キシレノール発色団は、酸化カップリング反応において、任意の適切な濃度で存在し得る。しかしながら、元の試料中に存在するアセトアミノフェン濃度を正確に算出するために、該発色団は理想的には、加水分解液中の最大p-アミノフェノールモル濃度(元の試料中のアセトアミノフェン量に比例する)に相当するまたはそれ以上のモル濃度で存在すべきである。
【0064】
一実施形態では、R2は、該キシレノール発色団を約0.075g/L〜約115g/L、または約2.5g/L〜約20g/L、または約5g/L〜約10g/Lの濃度で含む。一実施形態では、該キシレノール発色団は2,5-ジメチルフェノールであり、約7.5g/Lの濃度でR2中に存在する。
【0065】
適切な時間内で酸化カップリング反応を行うために、好適な触媒が存在しなければならない。該触媒はR1もしくはR2の成分であり得、またはR1とR2の混合物に添加し得る。本発明に従い種々の触媒(過マンガン酸塩、過ヨウ素酸塩、過硫酸塩、および各種金属塩など)を使用できる。一実施形態では、該触媒は金属塩(FeCl3、MnCl2、CuSO4、またはKlO4など)である。一実施形態では、該触媒は無水物または水和物のMnCl2を含む。驚くべきことに、MnCl2(弱酸化剤)はp-キシレノールとの酸化カップリング工程を触媒する上で、試験したその他の金属塩と比較して、特に効果的であることが見出された。
【0066】
典型的には、アセトアミノフェンアッセイにおける酸化カップリング工程において、カップリング反応の完了を促進するために十分なエネルギーを確実にするために、強酸化電位を有する触媒を選択する。通常使用される触媒は、活性酸素種または官能基種の金属塩(過ヨウ素酸ナトリウム、硫酸銅および酢酸マンガンなど)である。例えば、既知のアセトアミノフェンアッセイでは、酢酸マンガン(すなわちGenzyme Diagnostics P.E.I. Inc., PEI, Canada)による触媒下のヒドロキシキノリンまたはその誘導体;過ヨウ素酸塩(GDS Diagnostics)または硫酸銅(Hammondら, 1984)による触媒下のo-クレゾール;または過ヨウ素酸ナトリウム(Afshari and Lui, 2001)による触媒下のp-キシレノールが用いられる。かかるアセトアミノフェンアッセイは干渉を示すことが知られている。例えば、生体試料中の高値ビリルビンの存在下の干渉は、かかる試料において誤った結果をもたらす。
【0067】
本発明者らは、強酸化触媒の使用は従来のアセトアミノフェンアッセイに見られるビリルビン干渉の要因であり得ると仮定した。例えば、過ヨウ素酸塩は、ある試薬製造業者により、選択的にビリルビンを破壊してビリベルジンを形成させることによってビリルビンを測定するために使用されている。ビリルビンがビリベルジンまたはより高い酸化生成物に酸化される際に吸光度に有意な変化があり、これは従来のアッセイに見られる干渉の一因であり得る。したがって、本発明者らは、(a)弱酸化剤が成功裏にキシレノール発色団(2,5-ジメチルフェノールなど)とp-アミノフェノールの酸化カップリング反応を促進し得るか否か、および(b)弱酸化剤の使用が該アッセイにおけるビリルビン干渉に対して肯定的な効果をもたらすか否かを決定することを試みた。
【0068】
ここで驚くべきことに、過ヨウ素酸ナトリウムまたは活性酸素種を有する他の強酸化剤と比較して低い酸化電位を有する代表的な触媒としてMnCl2などの弱酸化剤を選択すると、p-アミノフェノールと2,5-ジメチルフェノールのカップリング反応を触媒するのに十分なエネルギーが得られることが示された。さらに、触媒として弱酸化剤を選択すると、該アッセイにおけるビリルビン干渉を有意に低減することを成功裏に示した。これは臨床的観点から非常に望ましい所見である。さらに驚くべきことに、該反応を促進するために低濃度のMnCl2を必要としたが、該アッセイにおいて試験したその他の触媒より強く発色することを見出した。試薬中における触媒の低量での使用は、触媒が他の試薬成分または患者試料中に存在する生体成分もしくは化学成分と反応する機会を低減し、それによってアッセイを改善する。
【0069】
したがって、触媒としての弱酸化剤の選択は、キシレノール発色団の自然酸化およびアッセイ試薬中に存在する他の成分との反応の可能性を経時的に低減し得、それによって試薬の安定性を改善し、液状安定試薬の保存寿命を延ばす。当業者は、本発明の実施形態に従って強酸化剤を弱酸化剤から識別でき、触媒として使用するために適切な弱酸化剤を選択できるであろう。
【0070】
発色団試薬への酸化防止剤の添加は、試薬の色の安定性をさらに経時的に改善し得ると仮定した。驚くべきことに、低グルタチオン(発色アッセイにおいて一般的に見られない成分)の添加は、発色団試薬の経時的な発色を防止することを成功裏に示し(これは、キシレノール自己酸化防止に部分的に起因する可能性が高い)、それによって試薬の安定性を改善した。グルタチオンはスカベンジャーとしても機能し、したがって、酸化カップリング反応において潜在的に干渉し得る試薬中ラジカルを除去し得る。
【0071】
ヒドロキシルアミン、3,3'-チオジプロピオン酸、チオ尿素または低グルタチオンを用いて試験を実施した。これらの試薬の経時的な変色について定性的かつ定量的にモニタリングした。該試薬への低グルタチオンの添加は経時的な発色防止において最も効果的であった。
【0072】
したがって、R2は任意に酸化防止剤を含む。任意の適切な酸化防止剤を本発明に従い用い得る。一実施形態では、R2は、酸化防止剤を約0.005g/L〜約5.00g/L、または約0.05g/L〜約5g/L、または約0.1g/L〜約1g/Lの濃度で含む。一実施形態では、酸化防止剤はグルタチオンである。低グルタチオンが特に好ましい。一実施形態では、R2は低グルタチオンを約0.5g/Lの濃度で含む。
【0073】
R2は、任意に1つもしくは複数の緩衝液もしくは界面活性剤またはそれらの組み合わせを含み得る。本発明、例えば、加水分解液に関する上記に従い、任意の適切な緩衝液または界面活性剤を用い得る。該試薬中の界面活性剤の存在は、特にアセトアミノフェン低値(すなわち<200μmol/L)で、該アッセイにおける乳び干渉を阻害し得る。
【0074】
一実施形態では、R2は、TRISを約10〜50g/Lまたは約15〜30g/Lまたは約20〜30g/Lの濃度で含む。一実施形態では、R2はTRIS約24.2g/Lを含む。一実施形態では、R2は、炭酸ナトリウムを約5〜20g/Lまたは約10〜15g/Lの濃度で含む。一実施形態では、R2は炭酸ナトリウム約10.6g/Lを含む。一実施形態では、R2はTRIS約24.2g/Lおよび炭酸ナトリウム約10.6g/Lを含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、該カップリング反応は、約37℃、基本的なpH約9〜12、または約9.5〜11.5、または好ましくは約10〜11で実施する。一実施形態では、該pHは約10を超える。一実施形態では、該pHは約10.8である。
【0076】
該試薬のpHは、当該分野において既知である任意の適切な手段を用いて調整し得る。一実施形態では、NaOHペレットをR2に約1g/L〜約4g/Lまたは約2g/L〜約3g/Lの濃度で添加する。一実施形態では、R2はNaOHペレット約2.5g/Lを含む。
【0077】
代表的なR2製剤を下表2に示す。この代表的な実施形態に従うR2の調製において、グルタチオンおよび2,5-ジメチルフェノールを最後にかつこの順で添加することが推奨される。
【0078】
該アッセイ試薬のpHは、調製後に確認し得、必要に応じてさらに調節できる。
該酸化カップリング反応は温度約1O℃〜約6O℃、または約30℃〜約50℃、または約35℃〜約40℃で行い得る。好ましい一実施形態では、該酸化カップリング反応は温度約37℃で行われる。
【0079】
該酸化カップリング反応は、反応混合物中に存在する実質的にすべてのp-アミノフェノールをキシレノール発色団とカップリングさせるのに十分な時間、典型的には約2〜20分間または約3〜10分間進行させる。一実施形態では、該酸化カップリング反応は約5分間継続する。該反応時間は、選択された温度に応じて最適化できる。なぜなら、通常、低温にはより長い反応時間が必要であるからである。
【0080】
キシレノール発色団とp-アミノフェノールの酸化カップリングにより青色生成物(すなわち染料)が形成され、これはアッセイ混合物の適切な波長での吸光度変化を測定することによって検出し得る。加水分解反応終了時の吸光度を酸化カップリング反応終了時の吸光度から減じる。元の試料中に存在するアセトアミノフェンの化学量論量は、形成された染料の化学量論的量に実質的に相当する。
【0081】
得られた染料の吸光度は全波長範囲にわたり測定できる。該染料の最大吸光度は約610〜615nmで生じる。典型的には、比色分析アッセイにおける測定のために選択される波長は、ピーク吸光度を生じる波長である。二色性分析器を用いる場合、二色性ブランク測定は代替波長(約700nm〜約850nmなど)で行われ、これを主な測定値から減じてアッセイにおけるバックグラウンドノイズを最小限に抑える。アッセイにおけるバックグラウンドノイズを最小限に抑える他の既知の方法も用い得る。
【0082】
本発明者らは、驚くべきことに、オフピーク波長(すなわちピークではなく吸光度曲線のショルダー上)での吸光度測定は、該アッセイにおける生体分子ビリルビンおよびヘモグロビンによる干渉を有意に低減することを見出した。波長約640nm〜約680nm、または約650nm〜670nm、好ましくは約660nmでの吸光度測定は、ビリルビンまたはヘモグロビン存在下でのアセトアミノフェン測定精度を有意に改善することを見出した。ビリルビンおよびヘモグロビン干渉は、既知のアセトアミノフェンアッセイに関連した共通の欠点である。したがって、該アッセイにおける干渉を最小限に抑えるため、吸光度は約660nm下で測定し得る。
【0083】
一実施形態では、吸光度は約610〜665nm下で測定される。
当業者は、試薬溶液中の成分およびそれらの相対的な割合を本発明から逸脱せずに変えることができる一方、混濁、沈殿物およびその他の汚染要素の存在は各溶液および集め合わせた溶液の双方において避けるべきであることを理解するであろう。当該アッセイが液状安定アッセイである場合、試薬またはその成分の安定性(酵素または発色団の安定性など)に悪影響を及ぼし得る改変についてはいずれも慎重に評価すべきである。
【0084】
代表的な一実施形態では、本発明に従う二段階アセトアミノフェンアッセイを下に簡略化したように実施する。
第一段階は、酵素試薬(R1)を、ある一定の試料対試薬の割合でキュベット内の患者の血清試料または血漿試料に添加することからなる。例えば、Hitachi 717上で、試料体積は10μLであり、該R1体積は100μLであり、R1を脱イオン水100μLでオンボード希釈して加水分解液を形成させる。該溶液は、37℃で、指定の時間(5分など)、自動化分析器上でインキュベートする。この間、試薬中に存在するアリールアシルアミダーゼ酵素により試料中アセトアミノフェン分子のアミド結合は切断され、p-アミノフェノールと酢酸塩が生成する。吸光度測定値は、指定の波長かつ特定の時間間隔で、発色団試薬の導入前にモニタリングする。
【0085】
第二段階では、発色団試薬(R2)を指定の時間間隔および特定の体積で加水分解液(希釈した、試料+R1)に導入する。例えば、Hitachi 717上で、R2 200μLを導入し、指定の時間間隔で試験期間完了時まで該反応をモニタリングする。R2中のキシレノール発色団(好ましくは2,5-ジメチルフェノール)を、第一段階で生成したp-アミノフェノールと、アルカリpH、触媒の存在下で、酸化カップリングさせる。好ましい一実施形態では、該酸化カップリング工程をマンガンカチオン存在下で実施する。該反応により、約610nmの最大吸収ピークを有する発色錯体が生成される。
【0086】
該分析器により、R2添加前の吸光度と反応終了時の吸光度との差を測り、バックグラウンドノイズを補正する。光学密度(OD)のその差がその試料の吸光度量である。該吸光度変化を標準曲線と比較して、元の試料中アセトアミノフェン濃度を算出できる。
【0087】
好ましい実施形態では、吸光度を660nmで測定して、該アッセイにおける特定の生体分子による干渉を最小限に抑える。
任意の特定の理論に束縛されることは望まないが、ランベルト・ベールの法則A=εcl(式中、A=吸光度(所定の波長下)、ε=モル吸光係数(すべての化学定数)、l=光路長(すなわち1cm)、およびc=溶質濃度である)として知られている法則によれば、アセトアミノフェン濃度は吸光度に直接比例すると考えられる。
【0088】
したがって、モル吸光係数および光路長が定数である場合、溶質(この場合はアセトアミノフェン)濃度は吸光度に直接比例する。
一実施形態では、最終反応混合物の濃度は:
1)アリールアシルアミダーゼ227.5U/L
2)MnCl2 0.0128g/L
3)2,5-ジメチルフェノール3.66g/L
4)グルタチオン0.244g/L
である。
【0089】
本発明のアッセイは、キットの一部として製造かつ販売し得る。該キット中の試薬は、再構成を必要とする、粉末化または凍結乾燥された試薬であり得る。かかる粉末化または凍結乾燥された試薬を作製する方法は、当技術分野において既知である。好ましくは、これらの試薬は液状安定試薬である。液状安定試薬は使用に便利であり、再構成中に生じ得るエラーが起こりにくい。
【0090】
一実施形態では、該キットは、酵素試薬(R1)を含む容器;発色団試薬(R2)を含む容器;および任意に、該アッセイを実施するための指示書を含む。該キットはさらに、アセトアミノフェンの標準液および直線性標準液セットを調製するための指示書を含み得る。
【実施例1】
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【実施例2】
【0093】
NAC不在下および存在下のアッセイの性能
脱イオン水中の既知濃度のアセトアミノフェン(すなわち250μmol/L、500μmol/L、1000μmol/L、1500μmol/L、2000μmol/L、および2500μmol/L)を有する一連の標準液を調製した。各標準液の一定量10μLを、Hitachi 717(商標登録)Analyzer(Roche Diagnostics)のキュベット内のR1 100μLに添加し、続いて脱イオン水100μLでオンボード希釈した。各混合物を37℃で、5分間インキュベートした。それぞれの最初の吸光度値を得た。R2の一定量200μLをそれぞれのキュベット内に添加した。該酸化カップリング反応を5分間進行させた。最終吸光度値を得た。アセトアミノフェン濃度を、660nm下での最終吸光度と最初の吸光度との差に基づいて算出し、800nmでの吸光度を減じてバックグラウンドノイズを補正した。各種既知濃度の結果を下表3に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
該アッセイでは、広範囲のアセトアミノフェン濃度においてアセトアミノフェン濃度の正確な測定値が示された。
NAC存在下での性能を評価するため、NAC 75mgを脱イオン水1000μLに溶解してストック溶液を作製した。これにより、75g/Lつまり75000mg/LのNAC濃縮ストック溶液を生成した。
【0096】
既知濃度のアセトアミノフェン水溶液の一定量2.5mLを試験管に添加し、これをNACストック溶液50μLでスパイクして、既知濃度のアセトアミノフェン(すなわち245μmol/L、490μmol/L、980μmol/L、1470μmol/L、1960μmol/L、および2450μmol/L)を有するスパイクした一連の標準液を調製した。それぞれのスパイクしたアセトアミノフェン標準液のNAC濃度は1471mg/Lであり、これはNAC治療中の患者血清に見られ得る値である。NACは経時的に分解するため、スパイク後1時間以内に試料を分析した。
【0097】
当該アッセイを上記のとおり実施した。スパイクした標準液の一定量10μLをHitachi 717(商標登録)のキュベット内のR1 100μLに添加し、続いてオンボード希釈した。各混合物を37℃で、5分間インキュベートした。最初の吸光度値を得た。R2の一定量200μLをそれぞれのキュベット内に添加した。該酸化カップリング反応を5分間進行させた。660nmでの吸光度差に基づき、バックグラウンドを補正し、アセトアミノフェン濃度を算出した。比較方法については、Siemens Advia(商標登録)1650上で発色団として8-HQ誘導体を用いた既知のアッセイと比較して行った。各種の既知濃度のアセトアミノフェンの結果を下表4に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
発色団としてp-キシレノールを用いた該アッセイは、発色団として8-HQ誘導体を用いたアッセイと比較して、NAC存在下の干渉に対して耐性があった。臨床アッセイにおける干渉のカットオフは、通常10%差、好ましくは5%未満である。
【実施例3】
【0100】
キシレノール発色団の比較
キシレノール発色団の比較を、R2製剤中の発色団を換えて実施した。他の要素はすべて同一とした。R2緩衝液およびグルタチオンのストック溶液を作製し、次いで6つのバッチに分けた。各異性体7.5g/Lを各バッチ中に溶解し、それによってそれぞれ異なる異性体を有する6つの「異なる」発色団試薬を作製した。R1は一定に保ち、故に当該分析における唯一の変数はR2中の発色団とした。25℃で酵素試薬(R1)のpHは8.6であり、一方、6つの異性体キシレノール試薬のそれぞれは25℃でpH11.5であった。各種の既知異性体の結果を下表5に示す。
【0101】
本結果により、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、および2,3-ジメチルフェノールは、NAC存在下で、許容可能な直線性の結果をもたらすことが示された。最高の性能は2,5-ジメチルフェノールおよび2,6-ジメチルフェノールにおいて見られた。
【0102】
【表5】

【実施例4】
【0103】
Intralipid(商標登録)存在下における2,5-ジメチルフェノールの評価
2,5-ジメチルフェノールの評価を、既知濃度のアセトアミノフェンを含む、Intralipid(商標登録)でスパイクした血清を用いて実施した。アセトアミノフェンが治療濃度(<200μmol/L)の際、2,5-ジメチルフェノール発色団はIntralipid(商標登録)200mg/dLにて許容限界±10%内で回収されたことが示された。該試験はSiemens Advia(商標登録)1650で実施した。
【0104】
まず、血清10mLを大型試験管内に貯留し、混合した。次いで、該血清を試薬特級アセトアミノフェン2.1mgでスパイクし、溶解するまで混合した。スパイクした該プールから一定量4.75mLをピペットで採取して大型試験管に移し、対照プールとして印をつけた。2つ目の一定量4.75mLをピペットで採取して2本目の大型試験管に移し、試験プールとして印をつけた。該対照プールでは、生理食塩水250μLを該プールに添加し、完全に混合した。該試験プールでは、Intralipid(商標登録)20%溶液250μLを添加し、完全に混合した。対照プールと試験プールを各種濃度で混合し、それによって異なる濃度のIntralipid(商標登録)を作製しつつ、アセトアミノフェン濃度は維持することによって、干渉セットを作製した。該2,5-ジメチルフェノールでは、Intralipid(商標登録)の少なくとも200mg/dLまで許容可能な結果が示された。
【実施例5】
【0105】
NACの存在下の異なる発色団の性能
8-ヒドロキシキノリンまたはその誘導体を発色団として用いた既知のアセトアミノフェンアッセイは、治療濃度のNAC(すなわち>800mg/L)の存在下で干渉を受ける。本発明者らは、発色団として8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸(8-HQ5SA)または8-ヒドロキシキノリンヘミスルファート(8-HQHS)のどちらかを含む2つの市販のアセトアミノフェンアッセイ(Genzyme Diagnostics P.E.I. Inc., PEI, Canada)を試験した。NACの不在下ではすべてにおいて正確なアセトアミノフェン測定値が得られた一方、それらはいずれも治療濃度のNAC存在下では、有意に(すなわち>10%)低減したアセトアミノフェン回収を示した。NACの存在は、アセトアミノフェンのp-アミノフェノールへの酵素的変換ではなく、該アッセイの酸化カップリング反応に影響することが見出された。8-HQ5SAアッセイと8-HQHSアッセイの回収間にはかなりの差があり、すなわち8-HQ5SAアッセイではNACによる干渉をより受けやすく、発色団の化学構造のわずかな違いすらNAC存在下のカップリング反応にとって重要であり得ることが示唆された。
【0106】
p-キシレノールと8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸(8HQ5SA)の比較を、市販のキット(Genzyme Diagnostics P.E.I. Inc., PEI, Canada)中の8HQ5SAをp-キシレノールに換えて実施した。試薬およびアッセイにおけるその他の要素はすべて同一とした。アセトアミノフェン標準液1000μmol/Lを用いた手動アッセイを実施した。対照は水でスパイクし、試験試料はNAC 1000mg/Lでスパイクした。吸光度は全波長スペクトルにわたり測定した。
【0107】
図1は、8HQ5SAを発色団としてアッセイを実施した結果を示し、図2はp-キシレノールでの結果を示す。本結果により、p-キシレノールアッセイはNACの存在による影響を比較的受けず、ロバストアッセイであることが示され、対して8HQ5SAを用いたアッセイはNACの存在による影響を有意に受けた。
【実施例6】
【0108】
要素修飾は、ヘモグロビンおよびビリルビンの干渉を低減する
ヘモグロビン干渉は、既知のアセトアミノフェンアッセイの欠点である。1000mg/dLヘモグロビンでスパイクした100μmol/Lのアセトアミノフェン試料のUltrospec(商標登録)3300スキャンを実施し、興味深い観察結果が得られた。すなわち、100μmol/Lのアセトアミノフェン試料と100μmol/L+1000mg/dLヘモグロビン試料間のODシフトは600nm下で660nm下より大きく、これは吸光度ピークのショルダー上であったが依然として主波長と副波長間の良好なODシフトをもたらした。したがって、660nmを主波長として用い、副波長として800nmを維持したさらなる試験を実施した。
【0109】
本結果により、主波長の600nmから660nmへの変化は、当該アッセイにおいてヘモグロビンおよびビリルビンの両方の存在下における干渉を有意に低減することが示された。分析はHitachi 717とSiemens Advia(商標登録)1650の両方で実施した。血清は、一連の濃度のアセトアミノフェンで、次いで各種濃度の干渉物質でスパイクした。該修飾アッセイにより、NAC、ビリルビンおよびヘモグロビンの存在下、許容可能な干渉レベル(すなわち<10%)が示された。
【実施例7】
【0110】
ビリルビン干渉に対する発色団の影響
発色団の他はすべてアセトアミノフェンアッセイと同じ試薬を用いたビリルビン干渉試験を実施した。アッセイを行った試料には、アセトアミノフェン約100μmol/Lまたは330μmol/Lが含まれた。分析した発色団は8-HQ5SAおよびp-キシレノールであった。反応をSiemens Advia(商標登録)1650で分析した。
【0111】
【表6】

【0112】
【表7】

【0113】
本結果により、発色団の選択は当該アッセイにおけるビリルビン干渉に有意に影響を及ぼし得ることが示される。p-キシレノールを用いた当該アッセイは、ビリルビン干渉に対してより有意に耐性を示した。
【0114】
本発明の上記の実施形態は、例としてのみ意図される。特定の実施形態に対する当業者による改変、修飾および変形は、添付の特許請求の範囲のみで定義された本発明の範囲を逸脱することなく成立し得る。
【0115】
本明細書中で引用したすべての参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。
参考文献:
Afshari, J.T. and Liu, T-Z. Rapid spectrophotometric method for the quantitation of acetaminophen in serum. Analitica Chimica Acta 2001; 443: 165-169.

Bertholf, R.L.; Johannsen, L.M.; Bazooband, A. and Mansouri, V. False-positive acetaminophen results in a hyperbilirubinemic patient. Clinical Chemistry 2003; 49(4): 695-698.

Chen, C-F; Tseng, Y-T; Tseng, H-K and Liu T-Z. Automated spectrophotometric assay for urine p-aminophenol by an oxidative coupling reaction. Annals of Clinical and Laboratory Science 2004; 324(3): 336-340.

Hammond, P.M.; Scawen, M.D.; Atkinson, T.; Campbell, R.S. and Price, C.P. Development of an enzyme-based assay for acetaminophen. Analytical Biochemistry 1984; 143: 152-157.

Morris, H.C; Overton, P.D.; Ramsey, J.R.; Campbell, R.S.; Hammond, P.M.; Atkinson, T. and Price, C.P. Development and validation of an automated enzyme assay for paracetamol (acetaminophen). Clinica Chimica Acta 1990; 187: 95-104.

Weeks, J.L. and Rabini, J. The Pulse Radiolysis of Deaerated Aqueous Carbonate Solutions. I. Transient Optical Spectrum and Mechanism II. pK for OH Radicals. The Journal of Physical Chemistry 1966; vol. 70(7): 2100-2106.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定する方法であり、該方法は、下記工程:
アセトアミノフェンを加水分解してp-アミノフェノールを形成させる工程;
適切な触媒の存在下で前記p-アミノフェノールをキシレノール発色団と酸化カップリングさせて着色生成物を形成させる工程;および
前記形成された着色生成物の量を決定する工程(前記形成された着色生成物の量は前記水性試料中に初めに存在するアセトアミノフェン量に比例する)を含み、
前記水性試料中の治療濃度のN-アセチルシステイン(NAC)の存在下もしくは不在下において信頼性のある、
水性試料中アセトアミノフェン濃度を決定する方法。
【請求項2】
アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解する前記工程が前記アセトアミノフェンをアリールアシルアミダーゼと接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記キシレノール発色団が2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒が弱酸化剤である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記キシレノール発色団が2,5-ジメチルフェノールであり、かつ前記触媒が無水物または水和物のMnCl2である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記水性試料が血清または血漿である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するアッセイであり、該アッセイは、下記工程:
前記水性試料を、アリールアシルアミダーゼ酵素および適切な希釈剤を含む第一試薬(R1)と接触させて加水分解液を形成する工程;
任意に、前記加水分解液を希釈する工程;
前記加水分解液をインキュベートして加水分解反応を起こし、前記アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに変換させる工程;
前記加水分解液を、キシレノール発色団および適切な希釈剤を含む第二試薬(R2)と接触させて、酸化カップリング溶液を形成させる工程;
前記酸化カップリング溶液をインキュベートして、適切な触媒の存在下、前記キシレノール発色団がp-アミノフェノールとカップリングする酸化カップリング反応を起こして着色生成物を形成させる工程;ならびに
前記形成された着色生成物の量を決定する工程(形成された着色生成物量は水性試料中に初めに存在するアセトアミノフェン量に比例する)を含み、
該アッセイは前記水性試料中の治療濃度のN-アセチルシステイン(NAC)の存在下または不在下で信頼性のある、
水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するアッセイ。
【請求項8】
R1がアリールアシルアミダーゼを約10U/L〜約5000U/Lの濃度で含む、請求項7に記載のアッセイ。
【請求項9】
前記キシレノール発色団が2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択される、請求項7または8に記載のアッセイ。
【請求項10】
前記触媒が弱酸化触媒であり、かつ前記触媒がR1中に約0.0005g/L〜約1.000g/Lの濃度で存在する、請求項7から9のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項11】
R2が2,5-ジメチルフェノールを約0.075g/L〜約115g/Lの濃度で含み、および/または前記触媒がMnCl2・4H2OでR1中に約2.5g/L〜約20g/Lの濃度で存在する、請求項7から10のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項12】
R2がさらに低グルタチオンを約0.005g/L〜約5.000g/Lの濃度で含む、請求項7から11のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項13】
R1がさらに、1つまたは複数のタンパク質可溶化剤、タンパク安定化剤、酵素安定化剤、金属キレート剤、緩衝液、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、または賦形剤を含む、請求項7から12のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項14】
前記酵素安定化剤がPVP-40、BSAフラクションV、トレハロース、ナトリウムp-ヒドロキシベンゾアート、p-ヒドロキシ安息香酸およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7から13のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項15】
R2がさらに、1つまたは複数の緩衝液、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤または賦形剤を含む、請求項7から14のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項16】
前記希釈剤が脱イオン水であり、前記加水分解液が加水分解反応の前に希釈剤により約1:1希釈される、請求項7から15のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項17】
R1がアリールアシルアミダーゼ約932.7U/LおよびMnCl2・4H2O約0.0525g/Lを含み;ならびにR2が2,5-ジメチルフェノール約7.5g/Lおよび低グルタチオン約0.500g/Lを含む、請求項7から16のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項18】
前記加水分解反応および前記酸化カップリング反応がそれぞれ、温度約37℃で約3〜10分間行われ、前記加水分解反応がpH約8.6で行われ、前記酸化カップリング反応がpH約10.8で行われる、請求項7から17のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項19】
前記アセトアミノフェン濃度が、前記加水分解反応終了時と前記酸化カップリング反応終了時との吸光度差を得ること;ならびに標準液もしくは一連の標準液との差を比較することによって決定され、該吸光度は波長約610nm〜665nmで測定される、請求項7から18のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項20】
前記吸光度が波長約660nmで測定される、請求項19に記載のアッセイ。
【請求項21】
前記水性試料が血清または血漿である、請求項7から20のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項22】
水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するためのキットであり、該キットは:
アセトアミノフェンをp-アミノフェノールに加水分解するためのアリールアシルアミダーゼを含む第一試薬(R1)を含む第一容器;
p-アミノフェノールとの酸化カップリング用に、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択されるキシレノール発色団を含む第二試薬(R2)を含む第二容器;
任意に、アセトアミノフェン標準液;ならびに
請求項7に従いアセトアミノフェン決定アッセイを実施するための説明書を含み、
R1がさらに前記キシレノール発色団と前記p-アミノフェノールの酸化カップリングを触媒するために適した触媒
を含む水性試料中のアセトアミノフェン濃度を決定するためのキット。
【請求項23】
前記キシレノール発色団が2,5-ジメチルフェノールであり、前記触媒が弱酸化剤であり、ならびに前記試薬が液状安定試薬である、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
水性試料中のp-アミノフェノール濃度を決定する方法であり、該方法は、下記工程:
p-アミノフェノールを、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノールおよび2,3-ジメチルフェノールからなる群から選択されるキシレノール発色団と触媒の存在下で酸化カップリングさせて着色生成物を形成させる工程(触媒は弱酸化剤である);ならびに
前記形成された着色生成物の量を決定する工程(前記形成された着色生成物の量は前記水性試料中に初めに存在するp-アミノフェノール量に比例する)
を含む水性試料中のp-アミノフェノール濃度を決定する方法。
【請求項25】
前記触媒がMnCl2水和物であり、および前記キシレノール発色団が2,5-ジメチルフェノールである、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−521622(P2011−521622A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506537(P2011−506537)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000509
【国際公開番号】WO2009/132423
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(391018536)ジェンザイム・コーポレーション (13)
【氏名又は名称原語表記】GENZYME CORPORATION
【Fターム(参考)】