説明

アセトアミノフェン含有錠剤

【課題】圧縮成形性に優れたアセトアミノフェン高濃度含有顆粒を調製し、キャッピング等の打錠障害の発生を抑制して、R型の凸面を有する小型のアセトアミノフェン高濃度含有円形錠剤を提供する。
【解決手段】アセトアミノフェンを70〜85質量%、結晶セルロースを5〜15質量%、及びヒドロキシプロピルセルロースを5〜10質量%含有し、ナンテンジツエキスを含有しないことを特徴とするR型の凸面を有する錠径7〜10mmの円形錠剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトアミノフェンを高濃度に含有する錠剤に関し、固形製剤の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
解熱鎮痛成分であるアセトアミノフェンを高濃度に含有する商品としては、ジョンソン・エンド・ジョンソン社が提供するタイレノール(登録商標)が世界的にも著名である。ここで、代表的なタイレノール(登録商標)は、カプレットであり、円形の錠剤ではない。
【0003】
アセトアミノフェンは、圧縮・成形性が悪いという性質を有するため、アセトアミノフェンを高濃度に含有する錠剤を圧縮成形する際にはキャッピングと呼ばれる打錠障害が発生することがある。
【0004】
これに対して、アセトアミノフェン含有顆粒の圧縮成形性を改善し、キャッピング等の打錠障害を改善する方法としては次のような手段が提供されている。
【0005】
例えば、特開2005−47861号公報には、アセトアミノフェン、ナンテンジツエキス及び結晶セルロースを含有する混合物を湿式造粒して得られる顆粒を打錠することにより、錠剤硬度を改善し、キャッピングを抑制する方法が開示されているが(特許文献1の請求項12等を参照)、ナンテンジツエキスの配合が必須となる。
【0006】
また、服用性に鑑みると、錠剤はできるだけ小型である方が好ましいが、そのために錠剤面をR型の凸面とし、錠剤径を10mm以下とすると、圧縮成形時の分散応力等に起因してよりキャッピング等の打錠障害が発生し易くなる。
【0007】
これを改善するために結合剤等の賦形剤を増量すると小型化の要請に反するし、一方、1錠中のアセトアミノフェンの含有量を減らせば、1回の服用錠剤数が増え、これまた服用性の悪化や包装容器の大型化等を招来し、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−47861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、圧縮成形性に優れたアセトアミノフェン高濃度含有顆粒を調製し、キャッピング等の打錠障害の発生を抑制して、R型の凸面を有する小型のアセトアミノフェン高濃度含有円形錠剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アセトアミノフェンの含有量が多くても、繊維系の賦形剤である結晶セルロースと結合剤であるヒドロキシプロピルセルロースの配合量を調整すれば、ナンテンジツエキス等を配合しなくても、圧縮成形性に優れた顆粒が得られ、該顆粒を圧縮成形することにより、キャッピング等の打錠障害を抑制し、R型の凸面を有する小型の円形錠剤が得られることを見出した。
【0011】
かかる知見をもとに得られた本発明の態様は、アセトアミノフェンを70〜85質量%、結晶セルロースを5〜15質量%、及びヒドロキシプロピルセルロースを5〜10質量%含有し、ナンテンジツエキスを含有しないことを特徴とするR型の凸面を有する錠径7〜10mmの円形錠剤である。
【0012】
本発明の他の態様は、アセトアミノフェンを75〜80質量%、結晶セルロースを7〜12質量%、及びヒドロキシプロピルセルロースを5〜7質量%含有し、ナンテンジツエキスを含有しないことを特徴とするR型の凸面を有する錠径7〜10mmの円形錠剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、圧縮成形時のキャッピング等の打錠障害改善されたR型の凸面を有する小型のアセトアミノフェン高濃度含有円形錠剤を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「アセトアミノフェン」の含有(配合)量は、錠剤中70〜85質量%であり、錠剤中のアセトアミノフェンの含有量を高濃度にし、できるだけ錠剤を小型化させ、確実にキャッピングが生じないようにするという点からは、錠剤中75〜80質量%が好ましい。
【0015】
「結晶セルロース」は、固形製剤の分野において汎用されている賦形剤で、種々のタイプ、グレードのものが提供されているが、できるだけ圧縮成形性の良いものが好ましい。
【0016】
結晶セルロースの含有(配合)量は、錠剤中5〜15質量%であり、錠剤中のアセトアミノフェンの含有量との均衡、圧縮成形性を付与し、キャッピング等の打錠障害を抑制するという点からは、錠剤中7〜12質量%が好ましい。
【0017】
「ヒドロキシプロピルセルロース」は、結合剤等として固形製剤の分野において汎用されている賦形剤である。
【0018】
ヒドロキシプロピルセルロースの含有(配合)量は、錠剤中5〜10質量%であり、錠剤中のアセトアミノフェンや結晶セルロースの含有量との均衡、圧縮成形性を付与し、キャッピング等の打錠障害を抑制するという点からは、錠剤中5〜7質量%が好ましい。
【0019】
「ナンテンジツエキス」とは、ナンテン属(めぎ科)Nandina domestica Thumb.の果実(南天実)等から抽出したエキスであり、鎮該作用等を有する。特許文献1として記載した特開2005−47861号公報によれば、顆粒の圧縮性を改善し、キャッピング等の打錠障害の抑制に寄与すると解されるが、本発明においては、顆粒の圧縮性を改善し、キャッピング等の打錠障害を抑制するに際し、ナンテンジツエキスの配合を要せず、その分だけアセトアミノフェン等の錠剤中の含有濃度を高めることができる。
【0020】
本発明の錠剤には、他の公知の添加剤を配合しても良いが、アセトアミノフェンを高濃度に含有する錠剤を提供するという本発明の趣旨を損なわないように、その配合量は自ずと限定されるし、かかる趣旨からアセトアミノフェン以外の有効成分は原則として配合し得ない。
【0021】
本発明の錠剤は、円形で錠剤面がR型の凸面形状を有する故、圧縮成形時の分散応力等に起因する打錠障害、特に固形製剤の分野においてキャッピング(ラミネーションや層間剥離などと呼ばれることもある。)といわれる打錠障害が発生し易い。また、錠剤の服用性等に鑑みるに、その錠径は7〜10mmである。
【0022】
本発明の錠剤は、一例として次のような方法によって製造される。アセトアミノフェン、結晶セルロース及びヒドロキプロピルセルロースを含有し、他に必要があれば、軽質無水ケイ酸のような流動化剤を添加して、混合粉体を調製する。水やエタノールあるいはそれらの混合溶媒にヒドロキシプロピルセルロースを溶解させた造粒用溶液を調製し、前記混合粉体に噴霧して流動層造粒等の湿式造粒を行う。湿粒を乾燥させ、顆粒を得る。得られた顆粒にクロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、硬化油、ステリアン酸マグネシウムを添加・混合し、打錠用顆粒を調製する。該打錠用顆粒を、直径7〜10mmの2段R面等のR型の凸面を有する円形の打錠用杵を使って打錠機で圧縮成形することにより、R型の凸面を有する錠径7〜10mmのアセトアミノフェン含有円形錠剤が得られる。このとき打錠時の圧力は、錠剤の硬度や打錠用杵の耐圧許容度等を考慮して適宜に設定されるが、通常打錠用杵1本当り約300〜5000kg/cm2であり、好ましくは打錠用杵1本当り約1000〜3000kg/cm2である。
【0023】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げて、本発明をより詳しく説明する。
【実施例】
【0024】
実施例1
表1記載の組成となるように原料を秤量後、粉体を混合・粉砕し、造粒用粉末を得た。該造粒用粉末を流動層造粒機(フローコーター;フロイント産業(株)、WSG;(株)パウレック)に仕込み、造粒用溶液(精製水にヒドロキシプロピルセルロースを溶解させたもの)をスプレー添加しながら流動層造粒を行った。調粒後、得られた顆粒に添加剤を後末添加・混合した。得られた打錠用顆粒を打錠機(コレクト、ベラ;(株)菊水製作所)を使用し、9.5mmφ2段R面の杵で打錠した。錠剤の1錠重量は、表1に記載の重量となるように調整し、錠径9.5mmの錠剤を得た。打錠時の圧縮圧力は1000kgf、回転盤の回転数は5rpmに設定した。
【0025】
実施例2、3及び比較例1
表1に記載した処方で実施例1に準拠し、錠径9.5mmの錠剤を得た。
【0026】
試験例1
実施例1〜3及び比較例1で得られた錠剤について水平方向の割れ(キャッピング)の有無を調べた。硬度計(シュロイニゲル社)を用いて各々10錠ずつの錠剤硬度を測定した際に、水平方向の割れ(キャッピング)が発生した錠剤の個数を計測し、結果を表1に記載した。
なお、製品として提供することを考慮すると、硬度測定時に水平方向への割れが全く発生しないことが好ましい。
【0027】
【表1】

【0028】
錠剤中のアセトアミノフェン濃度が低い場合は、キャッピングは確認されなかった(比較例1)。錠剤中のアセトアミノフェン濃度が75質量%から80質量%において、錠剤中の結晶セルロース濃度が11質量%以上、錠剤中のヒドロキシプロピルセルロース濃度が6質量%以上ではキャッピングの発生が観られなかった(実施例1〜3)。
【0029】
実施例4及び比較例2
表2に記載した処方で実施例1に準拠し、錠径9.5mmの錠剤を得た。
【0030】
試験例2
実施例4及び比較例2の錠剤に対し、試験例1と同様に水平方向の割れ(キャッピング)の有無を調べた。結果を表2に記載した。
【0031】
【表2】

【0032】
錠剤中のアセトアミノフェン濃度78質量%、錠剤中のヒドロキシプロピルセルロース濃度7質量%、錠剤中の結晶セルロース濃度2質量%においてキャッピングが発生したが(比較例2)、錠剤中7質量%以上ではキャッピングは発生しなかった(実施例1及び4)。
【0033】
実施例5及び比較例3
表3に記載した処方で実施例1に準拠し、錠径9.5mmの錠剤を得た。
【0034】
試験例3
実施例5及び比較例3の錠剤に対し、試験例1と同様に水平方向の割れ(キャッピング)の有無を調べた。結果を表3に記載した。
【0035】
【表3】

【0036】
錠剤中のアセトアミノフェン濃度78質量%、錠剤中の結晶セルロース濃度12質量%、錠剤中のヒドロキシプロピルセルロース濃度4質量%においてキャッピングが発生したが(比較例3)、錠剤中5質量%以上ではキャッピングは発生しなかった(実施例1及び5)。
【0037】
表4に記載した処方で実施例1に準拠して打錠用顆粒を調製し、打錠機(コレクト;(株)菊水製作所)を使用し、7.0mmφ12R面の杵で打錠した。錠剤の1錠重量は、表4に記載の重量となるように調整し、錠径7.0mmの錠剤を得た。打錠時の圧縮圧力は800kgf、回転盤の回転数は40rpmに設定した。錠径7.0mmの錠剤を得た。
【0038】
試験例4
実施例6の錠剤に対し、試験例1と同様に水平方向の割れ(キャッピング)の有無を調べた。結果を表4に記載した。
【0039】
【表4】

【0040】
錠剤中のアセトアミノフェン濃度78質量%、錠剤中の結晶セルロース濃度12質量%、錠剤中のヒドロキシプロピルセルロース濃度7質量%において、錠径7.0mmの錠剤においてもキャッピングは発生しなかった(実施例6)。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、アセトアミノフェンを高濃度に含有し、服用しやすいR型の凸面形状を有する小型の円形錠剤の製品化が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアミノフェンを70〜85質量%、結晶セルロースを5〜15質量%、及びヒドロキシプロピルセルロースを5〜10質量%含有し、ナンテンジツエキスを含有しないことを特徴とするR型の凸面を有する錠径7〜10mmの円形錠剤。
【請求項2】
アセトアミノフェンを75〜80質量%、結晶セルロースを7〜12質量%、及びヒドロキシプロピルセルロースを5〜7質量%含有し、ナンテンジツエキスを含有しないことを特徴とするR型の凸面を有する錠径7〜10mmの円形錠剤。

【公開番号】特開2010−106014(P2010−106014A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223573(P2009−223573)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】