説明

アセトアルデヒド・エタノール低減剤

【課題】飲酒時、飲酒後の呼気及び/又は血中のアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度を低減し、これにより飲酒時、飲酒後の不快感を抑制、予防する医薬成分、医薬品(医薬組成物)を提供する。
【解決手段】モズク由来フコイダンを有効成分として使用することにより、優れた効果を有する、新規な飲酒時、飲酒後の呼気及び/又は血中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度低減剤が提供できる。食経験の豊富な天然物由来の物質を有効成分としているため、安全性にも問題がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトアルデヒド、エタノール低減剤に関する。更に詳細には、飲酒時、飲酒後における呼気及び/又は血中のアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度低減作用を示す天然物由来の成分を有効成分とした、アセトアルデヒド、エタノール低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人が飲酒した場合、「酔い」の状態が引き起こされる。これは、エタノールが体内に吸収されて脳に到達し、脳の麻痺状態を引き起こすためと考えられている。そして、過度の飲酒等によって「酔い」の状態(脳の麻痺状態)が進行し、正常な判断力や運動機能などを喪失して「悪酔い」などの様々な問題を引き起こす。そして、体の変調や不快感が翌日まで持ち越された場合が、いわゆる「二日酔い」と呼ばれる状態である。このような飲酒に伴って起こる不快感等を抑制するために様々な医薬品、食品が提案されているが、安全性や効果等の点から充分に満足できるものは極めて少ないのが現状である。
【0003】
エタノールの体内での代謝経路については、まず胃で約20%、そして小腸で残りの約80%が吸収され、肝臓に送られる。ここでアルコール脱水素酵素の働きによりアセトアルデヒドに分解され、さらにアセトアルデヒド脱水素酵素の働きで酸化され、酢酸に変化する。肝臓で分解しきれなかったエタノール及びアセトアルデヒドは、脳を含む全身へと巡っていき、再び肝臓に戻って分解される。これらエタノール及びアセトアルデヒドの一部は、体内で代謝されないまま、尿や汗、呼気に含まれて体外に排出される。
【0004】
このエタノール代謝の中間物質であるアセトアルデヒドは毒性が強く、エタノール代謝が不十分でアセトアルデヒドが体内に残存すると頭痛や吐き気、動悸などの症状が発生する。したがって、アセトアルデヒドは「悪酔い」、「二日酔い」などの不快感の原因物質と考えられており、特に日本人はこのアセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素の能力が低い人が約半数いるともいわれている。
【0005】
したがって、特に我が国では、飲酒に伴って起こる不快感等を抑制するための、体内のエタノール濃度、アセトアルデヒド濃度の低減作用がある、安全性が高く効果も充分に満足できるような医薬成分、医薬品の開発が長年求められていた。
【0006】
一方、食物繊維のひとつであるフコイダンは、沖縄モズク(ナガマツモ科オキナワモズク:Cladosiphon okamuranus)、糸モズク(細モズク)(モズク科モズク:Nemacystus decipieus)、太モズク(Tinocladia crassa)、ヒバマタ(Fucus distichus)、ガゴメコンブ(Kjellmaniella crassifolia)、メカブ(Undaria pinnatifida)などの褐藻類に存在する、分子量数十万のフコースを構成糖とするヘテロ硫酸化多糖であり、食経験の豊富な海藻由来の安全な機能性天然成分として近年注目されている。また、フコイダンを酵素などにより低分子化した低分子フコイダンの開発、及びこの低分子フコイダンを使用した機能性食品等の食品開発も進められている。
【0007】
フコイダンの生理機能を利用した薬剤としては、抗腫瘍剤(特許文献1)、炎症性腸疾患予防治療剤(特許文献2)、抗癌剤の副作用抑制剤(特許文献3)、胃癌細胞増殖抑制剤(特許文献4)、抗ウイルス剤(特許文献5)、アトピー性皮膚炎治療剤(特許文献6)などが開示されている。しかし、フコイダンの生理機能としての体内エタノール濃度、アセトアルデヒド濃度低減効果、及びこの効果を利用したフコイダンを有効成分とする薬剤(医薬組成物)等については、今まで全く報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−138166号公報
【特許文献2】特開2003−146888号公報
【特許文献3】特開2004−75595号公報
【特許文献4】特開2006−306897号公報
【特許文献5】特開2007−217410号公報
【特許文献6】特開2008−44913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、飲酒時、飲酒後の呼気及び/又は血中のアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度を低減する医薬成分、医薬品(医薬組成物)を提供することにある。そして、これにより飲酒時及び/又は飲酒後の不快感(急性的不快感を含む、例えば、飲酒に伴う「悪酔い」や飲酒翌日の「二日酔い」など)を抑制、予防することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、モズク由来のフコイダンに着目した。そして、これを飲酒の一定時間前に経口投与することで、食経験の豊富な天然物由来で安全性の高い物質を有効成分とする、医薬組成物としての飲酒時、飲酒後の呼気及び/又は血中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度の両方の低減剤、あるいはアセトアルデヒド又はエタノール濃度のいずれか一方の低減剤を提供することができることを見出し、本発明に至った。さらに付随して、呼気中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度をガスクロマトグラフィーのみで一度に定性、定量する新規な測定方法も見出した。
【0011】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)モズク由来フコイダンを有効成分として含有することを特徴とする、呼気及び/又は血中及び/又は尿中のアセトアルデヒド及び/又はエタノール濃度低減剤(同低減医薬用剤)。
(2)経口投与により、飲酒の10〜60分前(好ましくは20〜40分前)にフコイダン乾物重換算で10〜5000mg(好ましくは200〜4500mg、更に好ましくは280〜840mg)の量にて投与されることを特徴とする、(1)に記載の飲酒前投与用の剤(飲酒前投与用10〜5000mg経口投与剤)。
(3)モズク由来フコイダンが、モズクの熱水抽出物及び/又はその処理物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の剤。
(4)モズクの熱水抽出物が、モズクと水の混合物を加熱した後、これを濾過し、得られた濾液を脱塩した液体であることを特徴とする(3)に記載の剤。
(5)モズク由来のフコイダンが、モズクの熱水抽出物を更に精製処理して得た精製物及び/又はその処理物であることを特徴とする(3)又は(4)に記載の剤。
(6)該処理物が、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、乳化物、液状物、希釈物から選ばれる少なくともひとつであることを特徴とする(3)〜(5)のいずれか1つに記載の剤。
(7)モズク由来フコイダンが、分子量5万以上の高分子フコイダンであり、かつ硫酸基含有量が10〜20%であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1つに記載の剤。
(8)モズクが、糸モズク、太モズク、沖縄モズクの少なくともひとつであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1つに記載の剤。
(9)呼気を液体窒素で冷却したカラム中のコールドトラップに定量固定してからガスクロマトグラフィーによって測定することで、呼気中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度を一度に定性及び定量することを特徴とする、呼気中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度測定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、モズク由来フコイダンを有効成分とした剤を飲酒の前に経口投与することで、飲酒時、飲酒後の呼気及び/又は血中のアセトアルデヒド及び/又はエタノール濃度を低減し、これにより飲酒時及び/又は飲酒後の不快感(急性的不快感を含む、例えば、飲酒に伴う「悪酔い」や飲酒翌日の「二日酔い」など)を抑制及び/又は予防することができる。本発明は、呼気及び/又は血中及び/又は尿中(これら3者のうちの少なくともひとつ)のアセトアルデヒド、エタノールのいずれかを低減するだけでなく、アセトアルデヒドとエタノールの双方を低減する点でも極めて特徴的である。モズク由来フコイダンは、食経験の豊富な海藻から得られた天然物由来の成分であるため、継続摂取や過剰摂取による副作用等のリスクが非常に少ない、安全性が非常に高い剤の提供をすることが可能となる。さらに、本発明の呼気中の成分測定方法を用いることで、呼気中のアセトアルデヒド及びエタノールの定性及び定量を、ガスクロマトグラフィーのみで一度に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】アルコール負荷試験Iでの被験者(A、B)の呼気中のアセトアルデヒド積算量(飲酒後に採取、測定した呼気中の積算量)を示す。なお、AUC(Area of under curve)とは曲線下面積のことであり、各測定時間のガスクロマトグラフィーのピーク面積から得られたグラフ(折れ線グラフ)の曲線下面積を積算量として算出した(以下のグラフも同様)。
【図2】アルコール負荷試験Iでの被験者(A、B)の呼気中のエタノール積算量(飲酒後に採取、測定した呼気中の積算量)を示す。
【図3】アルコール負荷試験IIでの被験者(10名)の呼気中のアセトアルデヒド量の経時変化を示す(**はp<0.01で有意差あり)。なお、ガスクロマトグラフィーのピーク面積を採取呼気中の成分量とした(以下のグラフも同様)。
【図4】アルコール負荷試験IIでの被験者(10名)の呼気中のアセトアルデヒド積算量(飲酒後に採取、測定した呼気中の積算量)を示す。
【図5】アルコール負荷試験IIでの被験者(10名)の血清中のアセトアルデヒド量の経時変化を示す(*はp<0.05で有意差あり)。
【図6】アルコール負荷試験IIでの被験者(10名)の血清中のアセトアルデヒド積算量(飲酒後に採取、測定した血清中の積算量)を示す。
【図7】アルコール負荷試験IIでの被験者(10名)の呼気中のエタノール量の経時変化を示す(**はp<0.01で有意差あり)。
【図8】アルコール負荷試験IIでの被験者(10名)の呼気中のエタノール積算量(飲酒後に採取、測定した呼気中の積算量)を示す。
【図9】アルコール負荷試験IIでの被験者(10名)の血清中のエタノール量の経時変化を示す(*はp<0.05で有意差あり)。
【図10】アルコール負荷試験IIでの被験者(10名)の血清中のエタノール積算量(飲酒後に採取、測定した血清中の積算量)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明においては、モズク由来フコイダンを使用する。モズクは、沖縄モズク(ナガマツモ科オキナワモズク:Cladosiphon okamuranus)、糸モズク(細モズク)(モズク科モズク:Nemacystus decipieus)、太モズク(Tinocladia crassa)であることが好ましい。
【0016】
モズク由来フコイダンは、モズクから抽出、単離、精製したフコイダンの精製品(市販品を含む)が使用できるのはもちろんのこと、モズクの熱水抽出物、その処理物も使用可能である。また、これに限定されるものではないが、モズク由来フコイダンは、分子量がプルランを基準として5万以上、好ましくは10万以上、更に好ましくは20万〜50万(例えば25万〜35万)でありかつ硫酸基含有量が10%〜20%であること、好ましくは11%〜17%、更に好ましくは13%〜14%であることが望ましい。
【0017】
モズクから本発明の抽出物を抽出するには、酢酸水溶液又は塩酸等により酸性(pH3.0〜6.0)に調整し、50℃以上、好ましくは60〜100℃、更に好ましくは60〜90℃、例えば60〜75℃の熱水を用いて、30分〜3時間生鮮モズク(切断、ペースト化、乾燥、冷凍したもののいずれでもよい)を抽出した後(例えば、オートクレーブで100℃、45分〜1時間30分程度処理した後)、得られた抽出液を電気透析により脱塩する。本発明の熱水抽出物には、上記のようにモズクを単に熱水で抽出して得た抽出液、その濾液、これ(ら)を更に脱塩してなる抽出液が包含されるほか、第4級アンモニウム塩処理、アルコール沈殿、イオン交換樹脂クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、限外濾過、超精密濾過などによって精製した精製物も包含される。
【0018】
また、本発明においては、モズクの熱水抽出物の処理物も使用可能である。該処理物としては、濃縮物、ペースト化物、乾燥物(噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等)、乳化物、液状物、希釈物等が挙げられる。特に乾燥物については、重量が最も軽く容積も小さくなることから製造加工時の適性が高く、また輸送コストを低減できるとともに、フコイダン含有剤の使用者が長距離移動時、つまり旅行時などでも容易に摂取することができる処理物である。
【0019】
モズク由来フコイダンの有効摂取量は、フコイダン乾物重に換算して、10〜5000mg、好ましくは200〜4500mg、更に好ましくは280〜840mgを経口投与するのが適当である。また、摂取のタイミングとしては、飲酒の10〜60分前、好ましくは20〜40分前(飲酒前30分前後)に、1回又は2〜3回に分けて投与されるのが適当である。なお、飲酒の直前(例えば5分前以内)の摂取は満足する効果が得られないため好ましくない。
【0020】
モズク由来フコイダンは、種々の形態で投与される。その投与形態としては、モズク抽出物及びその濃縮物をそのまま経口投与する他に、例えば錠剤(タブレット)、カプセル剤、顆粒剤(細粒剤)、散剤、シロップ剤等による経口投与をあげることができる。これらの各種製剤は、常法にしたがって主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。例えば、主薬(有効成分)としてフコイダン乾物重換算で10〜5000mgを含有した製剤が使用可能であるが、必要に応じて、これを1〜数回分に分けて製剤化しても良い。
【0021】
本発明の有効成分であるモズク由来フコイダンは、食経験が豊富な海藻を由来としているため、安全性についてはまったく問題がない。これは、健常者や通常の体力、抵抗力をもつ人はもちろん、シニア層などのように体力、抵抗力が健常者よりやや低いと考えられる人等にも問題なく使用することができることを示している。
【0022】
なお、本発明においては、新規の呼気中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度測定方法も提供する。成分分析ではガスクロマトグラフィーによる測定がよく行われるが、これは液体をサンプルとする場合には定量性は比較的保障できるが、気体は確実に所定量をインジェクトできないため、定量測定は不可能と考えられていた。本発明の測定方法では、呼気を液体窒素で冷却したカラム中のコールドトラップに定量固定し、その後ガスを一瞬で気化させてからガスクロマトグラフィーによって測定することで定量性を確保し、呼気中の成分の定性及び定量を一度に可能とする。この測定方法によれば、検出目的成分を鋭敏なピークとして測定できる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0024】
(実施例1:モズク由来フコイダンの製造)
実施例2、3で示すアルコール負荷試験には、株式会社海産物のきむらや製品である「高分子フコイダン シーアルガ エフ(登録商標)」をモズク由来フコイダンとして使用した。この製品の製造は、次のようにして行った。
【0025】
モズクとして沖縄モズク(Cladosiphon okamuranus)を用いた。このモズクをその湿重量の1〜5倍量の水に懸濁させ、酢酸水溶液を加えて酸性に調整した。次いで60〜90℃で加熱維持し、フコイダンを溶出させた後、遠心分離して沈殿物を除去した。上清から低分子成分を電気透析によって除去することでフコイダンを濃縮、脱塩し、モズク由来フコイダンを得た。
得られたモズク由来フコイダンの分子量は、プルラン分子量を標準とした換算分子量として約30万、硫酸基含有量は13%であった。
【0026】
(実施例2:アルコール負荷試験I)
モズク由来フコイダンの摂取の有無による、飲酒後の呼気中アセトアルデヒド濃度、エタノール濃度への影響について確認するため、以下のアルコール負荷試験を実施した。
【0027】
被験者2名(A、B)について、絶食条件(水は最低限摂取)で空腹時に試験を行った。
まず、試験開始前30分にモズク由来フコイダンを30ml(フコイダン乾物重換算で840mg)摂取した。そして、30分後に試験を開始し、Aは2合の日本酒(アルコール度数15度)を、Bは3合の日本酒(アルコール度数15度)をそれぞれ5分間で飲酒した。Aは飲酒開始から1、2、4、6時間ごとに、Bは飲酒開始から1、3、5、7、9、11時間ごとに呼気を1Lずつ採取した。対照として、同じ被験者に後日、試験開始前にモズク由来フコイダンを摂取しないで上記と同様にアルコール負荷試験を実施した。
【0028】
採取した呼気は、以下の方法によりガスクロマトグラフィー(GC)で濃度を測定した。
【0029】
採取した呼気100mLを5分間で吸着カラムに吸着させた。そして、GCのキャピラリーカラムの入口部分を液体窒素で冷却した後に吸着カラムをインジェクション部分で15分加熱して、吸着させたガスをキャピラリーカラム内に追い出した(ガスは途中の液体窒素部分(コールドトラップ)で固定される)。15分後、液体窒素からキャピラリーカラムを取り出し(ガスが一瞬で気化する)、測定開始後10分までは30℃でキャピラリーカラムを加熱、以降は毎分20℃の昇温速度で250℃まで経時的に加熱して測定した。
【0030】
測定結果を見ると、いずれの被験者においてもモズク由来フコイダンの飲酒前摂取によって、飲酒後の各時間の呼気内アセトアルデヒド及びエタノール濃度が、フコイダン未摂取時と比較して10〜90%低下していることが確認された。また両者の呼気内アセトアルデヒド量、エタノール量積算値で比較しても、フコイダンの飲酒前摂取による低減効果が確認された(図1、図2)。これらの結果から、モズク由来フコイダンの飲酒前摂取が、飲酒後の呼気内アセトアルデヒド及びエタノール濃度低減に有効であることが確認された。
【0031】
呼気中のアセトアルデヒド、エタノール濃度は、血中のアセトアルデヒド、エタノール濃度と相関することが知られている(例えば、厚生省保健医療局精神保健課監修「適正飲酒ガイドブック」、(社)アルコール健康医学協会、平成3年6月、28頁)。すなわち、呼気中のアセトアルデヒド、エタノール濃度が低いということは、血中のアセトアルデヒド、エタノール濃度も低いということになる。したがって上記試験結果は、モズク由来フコイダンの飲酒前摂取が、血中のアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度低減にも有効であることを示している。
【0032】
なお、モズク由来フコイダンを飲酒5分前に摂取して同様のアルコール負荷試験を行った場合、アセトアルデヒド及びエタノール濃度低減作用が認められなかった。したがって、モズク由来フコイダンのアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度低減作用を発揮させるためには、好ましくは飲酒前30分前後に摂取することが必要であることが示された。
【0033】
(実施例3:アルコール負荷試験II)
モズク由来フコイダンの摂取の有無による、飲酒後の呼気中及び血清中のアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度への影響について確認するため、以下のアルコール負荷試験を実施した。
【0034】
被験者10名(年齢:20〜60代)について、試験開始時に空腹となるような条件で試験を行った。具体的には、被験者に試験当日昼食から同一のメニュー(アルコールは含まない)を摂食させ、昼食後6時間経過したところで試験を開始した。
まず、試験開始前30分に各自モズク由来フコイダンを30ml(フコイダン乾物重換算で840mg)摂取させた。そして、30分後に試験を開始し、各自2合の日本酒(アルコール度数15度)を10分間で摂取させた。飲酒開始直前(0時間)及び飲酒開始から2、4、6、14時間ごとに呼気を1Lずつ及び血液を20mlずつ採取した。なお、試験開始2時間後の呼気及び血液採取後に、被験者に同一メニュー(アルコールは含まない)の食事を摂食させた。対照として、同じ被験者に後日、試験開始前にモズク由来フコイダンを摂取しないで上記と同様にアルコール負荷試験を実施した。なお、呼気中のアセトアルデヒド、エタノール濃度は実施例2と同様の方法で、血清中のアセトアルデヒド、エタノール濃度は常法により測定した。
【0035】
結果としては、フコイダンを摂取することによってアセトアルデヒド、エタノールともに濃度が各測定時間においても総量(積算量)においても低減されていることが確認できた(図3〜10)。特に顕著だったのは、飲酒4時間後の呼気中アセトアルデヒド濃度と飲酒2時間後の呼気中エタノール濃度であり、フコイダンの有無によって非常に顕著な有意差がみられた(p<0.01)。また、飲酒6時間後の血清中アセトアルデヒド濃度及び飲酒2時間後の血清中エタノール濃度においてもフコイダンの有無によって顕著な有意差がみられた(p<0.05)。
よって、上記試験結果は、モズク由来フコイダンの飲酒前摂取が、飲酒後の呼気中及び血清中のアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度低減に非常に有効であることを示している。
【0036】
(実施例4:細粒剤の製造)
モズク由来フコイダンとして、実施例1に記載の「高分子フコイダン シーアルガ エフ(登録商標)」を噴霧乾燥したモズク由来フコイダン(乾燥粉末)70重量部、乳糖20重量部、コーンスターチ10重量部を混合し、得られた混合物をヒドロキシプロピルメチルセルロースの5%水溶液で流動層造粒し、細粒剤を得た。
【0037】
(実施例5:タブレットの製造)
モズク由来フコイダンとして、実施例1に記載の「高分子フコイダン シーアルガ エフ(登録商標)」を噴霧乾燥したモズク由来フコイダン(乾燥粉末)10重量部、結晶セルロース80重量部、乳清カルシウム8重量部、グリセリン脂肪酸エステル2重量部を混合し、粒形状をφ7mm、粒重量200mgに打錠してタブレットを得た。
【0038】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0039】
本発明は、飲酒時、飲酒後の呼気及び/又は血中のアセトアルデヒド濃度、エタノール濃度を低減し、これにより飲酒時、飲酒後の不快感を抑制、予防する医薬成分、医薬品(医薬組成物)を提供することを目的とする。
【0040】
そして、モズク由来フコイダンを有効成分として使用することにより、優れた効果を有する、新規な飲酒時、飲酒後の呼気及び/又は血中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度低減剤が提供できる。本発明は食経験の豊富な天然物由来の物質を有効成分としているため、安全性にも問題がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モズク由来フコイダンを有効成分として含有することを特徴とする、呼気及び/又は血中及び/又は尿中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度低減剤。
【請求項2】
経口投与により、飲酒の10〜60分前にフコイダン乾物重換算で10〜5000mgの量にて投与されることを特徴とする、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
モズク由来フコイダンが、モズクの熱水抽出物及び/又はその処理物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
モズクの熱水抽出物が、モズクと水の混合物を加熱した後、これを濾過し、得られた濾液を脱塩した液体であることを特徴とする請求項3に記載の剤。
【請求項5】
モズク由来のフコイダンが、モズクの熱水抽出物を更に精製処理して得た精製物及び/又はその処理物であることを特徴とする請求項3又は4に記載の剤。
【請求項6】
該処理物が、濃縮物、ペースト化物、乾燥物、乳化物、液状物、希釈物から選ばれる少なくともひとつであることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
モズク由来フコイダンが、分子量5万以上の高分子フコイダンであり、かつ硫酸基含有量が10〜20%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
モズクが、糸モズク、太モズク、沖縄モズクの少なくともひとつであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の剤。
【請求項9】
呼気を液体窒素で冷却したカラム中のコールドトラップに定量固定してからガスクロマトグラフィーによって測定することで、呼気中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度を一度に定性及び定量することを特徴とする、呼気中のアセトアルデヒド及びエタノール濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−150241(P2010−150241A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261881(P2009−261881)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(390016953)株式会社海産物のきむらや (9)
【Fターム(参考)】