説明

アゼチジン誘導体を含有する乳化系

アゼチジン誘導体を含有する乳化系が開示されている。本発明は経口投与用アゼチジン誘導体の新規製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアゼチジン誘導体の安定な製剤に関する。本発明の医薬組成物に使用されるアゼチジン誘導体は下記の一般式(Ia)または(Ib)
【化1】

[式中、Arは場合により1個またはそれ以上の(C1−C4)アルキル、ハロゲン、NO2、CN、(C1−C4)アルコキシまたはOH基で置換される芳香族またはヘテロ芳香族基である]により表される。上記アゼチジン誘導体の定義において、芳香族基は特にフェニルまたはナフチル基を意味し、ヘテロ芳香族基はピリジル、フリル、チエニル、チアゾリル、イミダゾリルまたはオキサゾリル基を意味し、そしてハロゲンはフッ素、塩素、臭素または沃素を意味すると理解される。
【0002】
下記の化合物(Ic)
【化2】

は一般式(Ia)のアゼチジンの具体例である。
【背景技術】
【0003】
特許出願WO 00/15609、WO 01/64633、WO 0064634およびWO 99/01451において、一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体およびそれらの用途が記載されている。特に、これらのアゼチジン誘導体はカンナビノイド受容体、特にCB1型受容体に対して高い親和性を有するため非常に有利である。
【0004】
残念なことに、アゼチジン誘導体はごく僅かしか水に溶解しない生成物である。今までは一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体は特に経口経路により、とりわけセルロース、ラクトースおよび他の賦形剤を含有する製剤において錠剤の形態で投与するものと考えられていた。しかしながら、このような製剤は生体利用性が極度に低いため、これらの水にやや難溶性の生成物に十分に適しているとは限らない。
【0005】
数多くの文献が疎水性の活性成分を可溶化するのに、そして/またはその生体利用性を高めるのに適した系を開示している。しかしながら、試験された系は、安定で生物学的に利用可能なアゼチジン誘導体を含有し且つ前記アゼチジン誘導体が有効な濃度で可溶化されている医薬組成物の製造には効果がないことがこれまで証明されている。
【0006】
特に、J. Pharm. Sciences, 89(8),967(2000年)およびPharmaceutical Technology Europe, 第20頁, (2000年9月)は中鎖トリグリセリド中における水にやや難溶性の活性成分の製剤を記載している。しかしながら、ミグリオール(Miglyol)(登録商標)を基剤とする製剤で行なったこれらの試験はそれらの生体利用性の観点から不十分な結果であった。
【0007】
さらに、国際出願WO 95/24893は、疎水性の活性成分の製剤化およびそれらの生体利用性の増強を目的とした、消化できる油、親油性界面活性剤および親水性界面活性剤を含有する組成物を開示している。国際特許出願PCT/FR02/04514は上記アゼチジン誘導体がこのタイプの製剤において生体利用性が弱過ぎることを明らかにしている。特に、ミグリオール(登録商標)/カプリオール(Capryol)(登録商標)/クレモフォール(Cremophor)(登録商標)系中におけるこのようなアゼチジン誘導体の製剤は生体内で薬物動態学的な観点から不十分である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
今般、本発明の主題を構成するもの、すなわち
(i)液体溶媒に溶解したリン脂質、または
(ii)ミグリオール、カプリオールおよびクレモフォールの組合せ
を含有する系中における、場合により一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の効果を増強することができる他の活性成分と組合せて一般式(Ia)または(Ib)の誘導体を含有する化学的かつ物理的に安定な医薬組成物を製造することができることを見い出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実際に、化合物(Ia)または(Ib)とリン脂質との製剤は、AUC、Cmaxおよび Cmax変動度に関して生体内で予想外の非常に良好な薬物動態学的特性を示し得ることが分かった。同様に、以前のPCT/FR02/04514に記載のものに反して、ミグリオール、カプリオールおよびクレモフォールの組合せにより得られたマイクロエマルジョンと化合物(Ia)または(Ib)との製剤は、AUCおよびCmaxに関して評価した3匹のイヌの中で1匹のイヌについて生体内で非常に良好な薬物動態学的特性を示し得ることが観察された。観察された嘔吐は他の2匹のイヌで得られた不本意な結果の理由の1つである。
【0010】
好ましい製剤は化合物(Ic)を含有する。
【0011】
医薬製剤は好ましくは1gあたり200mgまでのアゼチジン誘導体を含有する。
【0012】
医薬組成物はさらに安定剤、保存剤、粘度を調整することができる物質、または例えば官能特性を変性することができる物質から選択される追加の添加剤を含有することができる。
【0013】
例えば肥満症のような特定の治療において、一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体を摂食量の減少において相乗効果をもたらすシブトラミンと同時に投与することが有利である。
【0014】
シブトラミンおよびその作用は下記の文献に記載されている:WO 90/061110;D. H. RYANらのObesity Research, 3(4), 553(1995年);H. C. JACKSONらのBritish Journal of Pharmacology, 121, 1758(1997年);G. FANGHANELらのInter. J. Obes., 24(2), 144(2000年);G. A. BRAYらのObes. Res., 7(2), 189(1999年)。
【0015】
さらに、統合失調症のような他の治療またはパーキンソン病のような神経疾患の治療において、一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体を脳のドーパミン作動性神経伝達を活性化する1種またはそれ以上の薬剤と同時に投与することが有利である。これらの併用はドーパミン作動性単独療法(レボドパ、ドーパミン作動薬および酵素阻害剤)の効果を増強することができ、また副作用、特に運動障害を減少することができる。
【0016】
ドーパミン作動薬の中で、特に次の製品を挙げることができる:ブロモクリプチン(bromocriptine)(ノバルティス)、カベルゴリン(cabergoline)(ファーマシア社)、アドロゴリド(adrogolide)(アボット研究所)、BAM−1110(マルコ製薬株式会社)、デュオドパ(Duodopa)(登録商標)(ネオファーマ)、L−ドーパ、ドパドス(dopadose)(ネオファーマ)、CHF1512(キエージ)、ニューロセル(NeuroCell)−PD(ダイアクリン社)、PNU−95666(ファルマシア&アップジョン)、ロピニロール(ropinirole)(グラクソスミスクライン・ビーチャム)、プラミペキソール(pramipexole)(ベーリンガー・インゲルハイム)、ロチゴチン(rotigotine)(ディスカバリー・セラピューティクス、ローマン・セラピー・システム)、スフェラミン(spheramine)(チタン・ファーマシューティカルズ)、TV1203(テバ・ファーマシューティカル)、ウリジン(uridine)(ポリファルマ)。
【0017】
さらに、一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体以外でその効果を増強することができる活性成分を含有する組成物は上記段落で定義されたような製品を含有することができ、また前記組成物は本発明の範囲内であると理解される。
【0018】
アゼチジンから誘導される活性成分は好ましくは全組成物の0.01〜70重量%の量で存在する。
【0019】
他の見地において、本発明は、適当ならば、固体または半固体の賦形剤の場合は必要に応じて加熱後に主要な賦形剤の混合物を調製し、次に必要に応じて追加の添加剤との混合物を調製し、次にアゼチジン誘導体(Ia)または(Ib)および適当ならば請求項1で定義されたような一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の効果を増強することができる活性成分を加え、そして均質な混合物を得るために攪拌を維持することによる、最初の態様のアゼチジンを含有する組成物の製造法に関する。
【0020】
他の見地において、本発明は上記で定義された組成物と、アゼチジン誘導体(Ia)または(Ib)の効果を増強することができる活性成分を含む組成物とを含有するプレゼンテーションキットに関する。
【0021】
アゼチジン誘導体の効果を増強することができるプレゼンテーションキットの活性成分は好ましくはシブトラミンである。
【0022】
最後の見地において、本発明は最初の態様の組成物と、脳中のドーパミン作動性神経伝達を活性化する物質を含む組成物とを含有するプレゼンテーションキットに関する。
【0023】
ラットで行なった最初の前臨床試験において、0.5%メチルセルロース/0.2%ツイーン80中における式(I)の薬剤物質の水性懸濁液の経口投与(10mg/kgの投与量)は非常に低い生体利用性(3%)をもたらした。最初の製剤化法はミグリオール812N(これは薬剤物質が油性成分に対してより高い溶解度(ミグリオール812中で35.9mg/mL)を有するために選択された)中における25mg/mL(Ic)の溶液を使用することであった。さらに、この賦形剤(中鎖トリグリセリド)はその消化性および調節受容性について知られている。この製剤化は他の前臨床試験で使用されており、ラットにおける式(Ic)の薬剤物質の生体利用性を増大させた(1mg/kgおよび10mg/kgの投与量でそれぞれ13および37%)。しかしながら、ヒトでの最初の試験では重要な食事効果および個人間変動が観察された:最大許容投与量は絶食条件下で約100mgであり、個人間変動は50%であるが、摂食条件下で最大許容投与量は10分の1であり、個人間変動は30%まで減少した。
【0024】
すべてのこれらの結果に基づいて、新規製剤の開発に必要な条件は次の通りである:
1. より低い薬剤濃度(25mg/gではなく10mg/g)の製剤を開発する。
2. 生体利用性を増大させる。
3. 個人間変動を減少する。
4. 食事効果(摂食/絶食条件)を減少する。
【0025】
標準外の製剤の開発は活性成分の溶解度を増大させることができる賦形剤を使用してなされた。
したがって、薬剤の可溶化/吸収工程を促進する目的で他の製剤に関して別の脂質賦形剤が研究されている。賦形剤の界面活性剤的特性により現場で均質かつ微細なエマルジョンまたはマイクロエマルジョンまたはミセル溶液を生成することができる“脂質を基剤とする製剤”に焦点を合わせて努力がなされた。実際に、ミグリオールは乳化性を示すが、水性媒体と接触すると不均一で粗いエマルジョン(大きな油滴が肉眼で見える)を生成し、それは生体内での結果を説明することができる。“脂質を基剤とする製剤”は純粋な油から重要な量の界面活性剤および共溶媒(より高い極性)を含有する混合物まで様々である。最初に、網羅的な一連の脂質および他の薬用共溶媒に対する化合物(Ic)の溶解度を測定した。
【0026】
化合物(Ic)の製剤化に関して3種の賦形剤を特定し、選択した:
・ 生理的媒体と接触するとすぐに自己乳化することができる、溶液として投与される両親媒性賦形剤(フォーザル(Phosal)50PG, ラブラゾル(Labrasol))(液滴の大きさ1〜10μm)。
・ ミセル化により薬剤を可溶化するために半固体マトリックスとして投与される両親媒性賦形剤(ゲルシーレ(Gelucire)44/14, ビタミンE TPGS)(液滴の大きさ<20nm)。
・ 界面活性剤(クレモフォールRH40またはEL)および共溶媒(カプリオール90)と混合された脂質賦形剤(ミグリオール812N)の混合物:この混合物は胃腸液中で自己的にミクロ乳化することができる(液滴の大きさ<20nm)。
【0027】
選択された賦形剤の化学組成、それらの物理化学的性質および他の主要な特性はすべて以下に記載する。
【0028】
本実験において、すべての特定したプロトタイプ製剤を模擬胃腸液で希釈し、インキュベートした後に生理条件の試験管内での作用に関して評価した。次のパラメーターについて検討した:得られた粒子分散液の微視的/巨視的特性;(腸酵素の存在下または不在下で)製剤のインキュベーションの前後に可溶化された薬剤のフラクションの定量;インキュベーション後の分散液のコロイド安定性の評価。得られた結果から生体内試験で潜在的に興味深いプロトタイプ製剤を特定するための最初のスクリーニングが可能になった。
【0029】
プロトタイプ製剤
前置き:賦形剤の説明
(i)ビタミンE TPGS(イーストマンケミカル):
ビタミンE TPGS(d−α−トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート)は非動物性の天然由来ビタミンEの水溶性誘導体である。
(ii)フォーザル50PG(アヴェンティス・ナッターマン)
フォーザル50PGは少なくとも50%のPCおよびプロピレングリコールを含むホスファチジルコリン濃縮物である。
組成:ホスファチジルコリン約56.8%
プロピレングリコール:約38%
ヒマワリ油モノ/ジグリセリド:約3%
大豆脂肪酸:約2%
パルミチン酸アスコルビル:約0.2%
エタノール:加えて全部で100%とする。
これは大豆レシチンから出発して合成され、ホスホリポン(Phospholipon)に精製され、次に液体担体系中に可溶化される。ナッターマン・ホスホリピッドGmbHはまた、様々な形態で可溶化される他のリン脂質を販売している。例えば、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、アルコール、ステアリン酸グリセリル、オレイン酸およびパルミチン酸アスコルビルを含む担体系中に可溶化したホスファチジルコリンで構成される形態であるフォーザル(登録商標)53MCTである。ホスファチジルコリン含量は約56±3%w/wである。
【0030】
(iii)ラブラゾル(ガットフォセ)
ラブラゾル(登録商標)(カプリロカプロイルマクロゴール−8グリセリド)はモノ−、ジ−およびトリ−グリセリドとポリエチレングリコール(PEG)のモノ−およびジ−脂肪酸で構成される飽和ポリグリコール化グリセリドである。この植物および石油化学由来の両親媒性油は水に可溶性である。
(iv)ラブラフィル(ガットフォセ)
ラブラフィル(登録商標)M 1944 CS(オレイン酸マクロゴール−6グリセリド)、選択された高純度の植物油から誘導される水分散性の両親媒性油(HLB 4)。この賦形剤は微細な分散液の生成による活性成分の胃腸液への可溶化を改善するためにプロトタイプ製剤の親油性を増加することができる。さらに、この物質はコレステロールおよびリン脂質と混和性であり、非活性機構(受動拡散)により膜を通過することができる。
(v)ゲルシーレ(ガットフォセ)
ゲルシーレ(登録商標)44/14(ラウロイルマクロゴール−32グリセリド)はモノ−、ジ−およびトリ−グリセリドとポリエチレングリコール(PEG)のモノ−およびジ−脂肪酸で構成される飽和ポリグリコール化グリセリドである。ゲルシーレ(登録商標)44/14は水素化パーム核油をPEG 1500と反応させることにより得られる。
【0031】
(vi)ミグリオール812はココヤシ(Coco nucifera L.)の胚乳の硬質で乾燥したフラクションから加水分解し、得られた脂肪酸を分別し、再びエステル化することにより抽出される不揮発性油として説明される。それはもっぱら脂肪酸の短鎖および中鎖トリグリセリドの混合物からなり、そのうち少なくとも95%は飽和酸のオクタン(カプリル)酸およびデカン(カプリン)酸である。それは無色から僅かに黄色みがかった色の油性液体であり、実質的に無臭で無味である。
(vii)クレモフォールRH40はポリオキシル40硬化ヒマシ油である。この物質はエチレンオキシドを硬化ヒマシ油と反応させることにより得られる。それは30℃で液化する白色の半固体ペーストとして存在する。それは特徴的な微臭がし、水溶液中で僅かに味がする。
(viii)クレモフォールELはポリオキシル35ヒマシ油(ポリオキシエチレングリセロールトリリシノレエート、グリセロール−ポリエチレングリコールリシノレエート)である。この物質はエチレンオキシドをヒマシ油(ドイツ薬局方が定める品質)と反応させることにより得られる。クレモフォールELはT>26℃で透明である淡黄色の油性液体(25℃での粘度:700〜850 cP)である。それは僅かであるが特徴的な臭いがし、26℃に加熱することにより完全に液化する。
(ix)カプリオール90はプロピレングリコールモノカプリレートである。
この物質は植物および石油化学源から得られ、水に不溶性である。
【0032】
液体:
溶解度データ
最初の工程は植物油、脂質成分、界面活性剤、親水性成分およびリン脂質を含む網羅的な一連の脂質および他の薬用共溶媒に対する化合物(Ic)の溶解度を測定することであった。溶解度測定のプロトコルを書き添える。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
溶解度を測定した後、本発明者らの目的は活性成分の溶解度、それらの登録可能性およびそれらの薬剤物質の生体利用性を(可溶化の改善および吸収促進により)増大させる能力を考慮して幾つかの賦形剤を選択することであった。
【0037】
第3の判断基準に関して、賦形剤を次の事柄に基づいて選択した:
1. 親油性の活性成分を可溶化することができ、また胃腸液に分散または溶解することができるそれらの両親媒性(HLB>10)(ラブラゾル、ゲルシーレ44/14、フォーザル50PG、ビタミンE TPGS)。
2. 混合物として油、親水性の界面活性剤(HLB>10)および親油性の補助界面活性剤(HLB<10)の良好な組合せ(ミグリオール812/クレモフォールRH40/カプリオール90)により胃腸液で希釈した後に現場でマイクロエマルジョンを生成するそれらの能力。
【0038】
フォーザル53 MCTに関して、賦形剤の物理的安定性についての主な問題点は代替物質としてフォーザル50 PGを選択することを導いた。実際に、当該賦形剤の相分離はアベンティス社のストックされたバッチだけでなく、ナッターマン社のストックされたバッチでもまた観察された。フォーザル50 PGは非常に良好な物理的安定性を示した。選択された賦形剤の主な特徴を下表に記載する。
【0039】
【表4】

【0040】
プロトタイプの説明
油性溶液および半固体マトリックス(2成分および3成分混合物)
【表5】

【0041】
ラブラゾルプロトタイプに関して、量が多いとカプセル殻のゼラチンとの配合禁忌というリスクが強調されるため、プロトタイプに含まれるラブラゾルの最大量は60%(w/w)であった。ラブラゾル含量の高い製剤はゼラチン製でないカプセルで使用することができる。この製剤のバルク組成を完成するために、ラブラフィルM 1944 CS、親油性成分(HLB 4)を40%(w/w)で使用することを決めた。
【0042】
自己ミクロ乳化系:油/界面活性剤/補助界面活性剤混合物(疑似3成分混合物)
一組の両親媒性界面活性剤/補助界面活性剤を含有する製剤は幾つかのミセル状態の生成をもたらす。本目的は生理的溶液とマイクロエマルジョンを自発的に生成することができるプロトタイプ製剤を開発することであった。マイクロエマルジョンは透明で等方性の熱力学的に安定な液体として定義することができる。結果として、マイクロエマルジョンは無限に希釈できる。透明性は100nm未満の大きさの微小滴からなる微細構造の結果である。
【0043】
薬学的に関係のあるそれらの主要な特性は次の通りである:薬剤を可溶化する能力が高い;ミセル溶液中の分子をそのままにする希釈能力;およびより容易な吸収を可能にする液滴の大きさによる分散能力。
【0044】
賦形剤の選択
文献およびマイクロエマルジョン製剤について記載した賦形剤で得られた溶解度の結果に基づいて、あるプロトタイプのマイクロエマルジョン製剤を開発することを目的として次の成分を選択した:
油相:ミグリオール812
界面活性剤:クレモフォールRH 40
補助界面活性剤:カプリオール90
水相:生理的溶液
疑似3成分ダイアグラム
【0045】
このダイアグラムの作成によりマイクロエマルジョンの領域を占める賦形剤の割合を定量することができる。マイクロエマルジョンは4成分系であり、それらのグラフ図は3次元で示す必要がある。しかしながら、簡単に表示するために疑似3成分ダイアグラムを使用する。
【0046】
マイクロエマルジョンを
1. 水相
2. 油相(ミグリオール812N)
3. 界面活性剤/補助界面活性剤(クレモフォールRH 40/カプリオール90)
の疑似3成分混合物であると想定する。
【0047】
プロトコル:
最初に、S/CoS(界面活性剤/補助界面活性剤)比を決める。4つの異なる比(1:1、2:1、3:1および4:1)を試験した。それぞれの比について、疑似3成分ダイアグラムを次のように設定して作成する:
・油相の比率(20%、40%、60%および80%)
・S/CoS組の比率(100%から油相の比率を差し引いたもの)
次に、水相を一滴ずつ加える。このようにして、各“成分”の比率は水の添加後に修正される。
【0048】
濁った状態から半透明になるまでの視覚的特徴の変化、およびその逆の変化はマイクロエマルジョン領域の境界を示す。さらに、無限希釈の前後に液滴の大きさを測定(コールター社製ナノサイザーN4+)することにより、マイクロエマルジョンの生成を確認することができた。
【0049】
疑似3成分ダイアグラムは活性成分なしで得られ、さらに活性成分を使用して作成した。
【0050】
結果:
マイクロエマルジョン領域は3:1および4:1のS/CoS比で観察された(ダイアグラムを参照)。この領域では、液滴の大きさは約25nmであった。
【0051】
マイクロエマルジョン領域は低い初期の油相比率(20%)に関してS/CoS比(3:1および4:1)が何れでも高い水分量(55%〜86%)で得られた。
【0052】
自己ミクロ乳化系の初期組成は次の通りであった:
【表6】

【0053】
・マイクロエマルジョン領域は活性成分(濃度:10mg/g)の有無に関らず同じであった。液滴の大きさは同じで約25nmであった。
【0054】
(Ic)を使用した自己ミクロ乳化系の初期組成は次の通りであった:
【表7】

マイクロエマルジョンの生成は等方性特性決定により確認した。
【0055】
粒径
マイクロエマルジョンの生成を確認するために、その熱力学的安定性を侵食条件下で保存した後に、そして水または生理的溶液で高度に希釈した後に確かめた。
【0056】
次の試料を試験した:
・3:1のS/CoS比:86%の水、3%の油相、8%のクレモフォールRH 40および3%のカプリオール90
・4:1のS/CoS比:86%の水、3%の油相、9%のクレモフォールRH 40および2%のカプリオール90
【0057】
マイクロエマルジョンの安定性は侵食条件下での保存の前後および希釈後に液滴の大きさを測定することにより確認した。分析(準弾性光散乱)をコールター社製ナノサイザーN4+装置で行なった。
【0058】
侵食条件下での保存
試料を侵食条件に付した:50℃で2週間、−15℃〜+50℃の温度サイクルで24時間。
【0059】
50℃で2週間保存した後に得られた液滴の大きさ(nmで表示)に関する結果を多分散指数と共に下記に示す:
【表8】

【0060】
温度サイクル後に得られた液滴の大きさ(nmで表示)に関する結果を多分散指数と共に下記に示す:
【表9】

適用した処置で液滴の大きさに変化は観察されなかった:マイクロエマルジョンの構造は高温または熱衝撃に対して敏感でなかった。
【0061】
クレモフォールELを使用する最終製剤
ミグリオール812(液体)、クレモフォールRH 40(室温で半固体、凝固点28℃)およびカプリオール90(液体)の混合物の製造は混合物を60℃に加熱して均質な溶液を得ることが必要であった。さらに、混合物の加熱は化合物Icの化学的安定性に影響を与えることができた。これらの2つの問題を考慮して、クレモフォールRH 40をクレモフォールEL(同じ化学種)に代えることを計画した。クレモフォールEL、ポリオキシル35ヒマシ油は液状界面活性剤である:製造するのに加熱する必要はない。
【0062】
クレモフォールRH 40と比較してクレモフォールELの利益を評価するために2つの試験を行なった:界面活性剤/補助界面活性剤の比率が3:1の疑似3成分ダイアグラムの作成および無限希釈試験。
【0063】
選択されたプロトタイプに関する実験研究
プロトタイプの製造
化合物(Ic)溶液(10mg/g)の製造
・ミグリオール812N(コンディ、バッチ508)
・PEG 400−バッチ5056
・フォーザル50PG(アヴェンティス・ナッターマン、バッチ228188)
・ラブラフィル1944CS(ガットフォセ、バッチ15195)
・ラブラゾル(ガットフォセ、バッチ22478)
・ゲルシーレ44/14(ガットフォセ、バッチ14236)
・マイクロエマルジョン(クレモフォールRH 40またはEL、カプリオール90、ミグリオール812N)
計量した薬剤(50mg)を賦形剤(5gまで)中に分散させ、次に溶解するまで機械的に撹拌した。薬剤をフォーザル50PG中に溶解することは、得られる溶液の濃度(10mg/g)とフォーザル50PG中の化合物Icの最大溶解度(11.5mg/g)との間に少し違いがあるため重要な工程(5時間)である。
【0064】
化合物(Ic)半固体マトリックス(10mg/g)の製造
・化合物Ic
・ビタミンE TPGS(イーストマン・ケミカル、バッチ90001000)
計量した薬剤(50mg)を溶かした賦形剤(5g)中に分散させ、次に溶解するまで50〜60℃で機械的に撹拌した。塊状物を坐薬の鋳型に注ぎ込み、一晩冷蔵した。安定性試験のために、溶かした塊状物を硬質ゼラチンカプセル(サイズ1)に注ぎ込み、一晩冷蔵した。次に、ゼラチン殻を除去した。
【0065】
試験管内における模擬胃腸液との作用
模擬媒体の組成
本実験のために次の模擬媒体を選択した:
・胃液媒体USP、pH1.2
・絶食腸液媒体、pH6.8(参照文献:DressmanらのPharm. Res., 1998)
・摂食腸液媒体、pH5(参照文献:DressmanらのPharm. Res., 1998)
【0066】
【表10】

【0067】
実験条件および結果
すべての化合物(Ic)製剤(400mg)を胃液媒体、絶食腸液媒体または摂食腸液媒体(20ml)で1:50に希釈し、次に機械的撹拌下(300rpm)、37℃で2時間インキュベートした。ろ過(0.2または2μm)の前後にHPLCにより薬剤濃度を測定した。
【0068】
コロイド安定性および自己乳化性の測定
本試験の目的はGI溶液中でインキュベートした後の(Ic)製剤のエマルジョン/マイクロエマルジョン/ミセル溶液のコロイド安定性および自己乳化性を評価することであった。すなわち、試料を2μmのフィルター上でろ過し(>2μmの油滴および>2μmの薬剤結晶を保持することができる)、次にHPLCにより注入した。異なるフィルターサイズ(0.45、2および5μm)を使用してスクリーニングを薬剤の水溶液で行なった後、フィルターサイズ(2μm)を選択した。実際に、図1に示されるように、どのフィルターサイズ(0.45、2および5μm)を使用しても高い薬剤保持が観察され、このことは、5μmより大きい結晶が存在することを示唆している。(調査した範囲の)フィルターサイズは保持されたフラクションに影響を与えないが、一方で媒体の組成は大幅に影響を与える。要約すれば、ろ過したフラクションは胃液媒体で約1%、絶食腸液媒体で2%、摂食腸液で4.5〜5.5%であった。
【0069】
下表に記載され、下図に示されたデータは試験した製剤が何れも対照物質(ミグリオール812NおよびPEG400)と比べて改善された作用を有することを示し、選択された賦形剤がGI液の存在下で自己乳化することができることを確認した。マイクロエマルジョン(3:1および4:1)、ビタミンE TPGSを使用して得られたミセル溶液およびフォーザル50PGを使用して得られたエマルジョンは全媒体中で最も均質で安定な系であった。ナノ結晶は腸液媒体中で安定であったが、一方で“凝集”が胃液媒体中で起こり、その結果薬剤は全てフィルター中に保持された。ラブラフィル/ラブラゾルおよびゲルシーレ44/14を使用して得られたエマルジョンはろ過後に20〜60%(ラブラフィル/ラブラゾル)および40〜90%(ゲルシーレ44/14)の範囲の薬剤濃度を示した。すべての新規製剤に関して、ラブラフィル/ラブラゾルを除けば摂食条件(pH、レシチンおよび胆汁酸塩(biliary salts)の濃度)の効果は観察されなかった。
【0070】
【表11】

【0071】
試験管内におけるGI液との作用についての結論
製剤化した薬剤の自己乳化性およびコロイド安定性に関する一般的な結論として、すべての試験した製剤は対照物質(ミグリオール812NおよびPEG400)と比べて改善された作用を示し、選択された賦形剤がGI液の存在下で自己乳化することができることを確認した。マイクロエマルジョン(3:1および4:1)、フォーザル50PGを使用して得られたエマルジョンおよびビタミンE TPGSを使用して得られたミセル溶液は全媒体中で最も均質で安定な系であった。すべての新規製剤に関して、ラブラフィル/ラブラゾルを除けばコロイド安定性に対して摂食/絶食条件の効果は観察されず、ラブラフィル/ラブラゾルの場合は絶食腸液媒体ではろ過した薬剤フラクションは60%から20%まで減少した。
【0072】
ヒトでは最も適当な1日投与量を選択するために、患者の体重、全身の健康状態、年齢および治療効果に影響を与えるすべての要因を考慮する必要があることは理解されよう。好ましくは、組成物は単位用量が0.1〜50mgの活性生成物を含有するように製造される。
【0073】
一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の中で次の生成物が特に好ましい:
・1−[ビス(4−クロロフェニル)メチル]−3−[(3,5−ジフルオロフェニル)(メチルスルホニル)メチレン]アゼチジン);
・N−{1−[ビス(4−クロロフェニル)メチル]アゼチジン−3−イル}−N−ピリド−3−イルメチルスルホンアミド;
・N−{1−[ビス(4−クロロフェニル)メチル]アゼチジン−3−イル}−N−(3,5−ジフルオロフェニル)メチルスルホンアミド。
【0074】
これらの生成物を含有する本発明の組成物が特に好ましいことは理解されよう。
【0075】
別法として、第2の活性成分が導入される場合、本組成物は加えられる生成物がシブトラミンの時は0.2〜50mgを含有する。しかしながら、この量は場合により低めであってよく、0.2〜10mgと変動する。
【0076】
加えられる生成物がL−ドーパである場合、本組成物は100〜300mg、好ましくは250mgのこの第2の活性成分を含有する。
【0077】
安定剤は例えば特にα−トコフェロール、パルミチン酸アスコルビル、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、没食子酸プロピルまたはリンゴ酸から選択される抗酸化剤である。
【0078】
保存剤は例えばメタ重亜硫酸ナトリウム、プロピレングリコール、エタノールまたはグリセリンから選択される。
【0079】
粘度を調整することができる物質は例としてレシチン、リン脂質、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウムまたはグリセリンが挙げられる。
【0080】
組成物の官能特性を変性することができる物質は例えばリンゴ酸、フマル酸、グリセリン、バニリンまたはメントールである。
【0081】
このような添加剤が使用される場合、それは全組成物の0.001〜5重量%を構成する。
【0082】
本発明によれば、医薬組成物は適当ならば(固体または半固体の賦形剤の場合、必要に応じて加熱後に)主要な賦形剤を混合し、次に必要に応じて追加の添加剤と混合し、次に一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体、および、さらに適当ならば一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の効果を増強することができる活性成分を加え、そして均質な混合物とするために攪拌を維持することにより得られる。
【0083】
この工程の使用は下記の実施例でより詳細に説明される。
【0084】
本発明の組成物は液体、固体または半ペースト状態で提供することができる。
【0085】
これらは硬質ゼラチンカプセル剤または軟質ゼラチンカプセル剤の形態、または経口液剤の形態で提供するのに特に適している。
【0086】
本発明の組成物はそれらの物理的かつ化学的に良好な安定性、および一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の経口投与によりもたらされる生体利用性の増大のため特に有利である。
【0087】
本発明の他の態様によれば、少なくとも1種の一般式(Ia)または(Ib)の活性成分を含有する上記で定義されたような好ましい組成物は一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の効果を増強することができる活性成分の投与の前に、それと同時に、またはその後に投与することができる。
【0088】
一方では上記で定義されたような本発明の好ましい組成物、他方では一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の効果を増強することができる活性成分を含む組成物を含有するプレゼンテーションキットもまた本発明の範囲内であることは理解されよう。プレゼンテーションキットは一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の効果を増強することができる組成物としてシブトラミンを含む組成物または脳中のドーパミン作動性神経伝達を活性化する物質を含む組成物を含有することもまた理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】化合物(Ic)水溶液:回収した化合物(Ic)フラクションにおけるフィルターサイズの効果を示す。
【図2】化合物(Ic)の脂質製剤:37℃で2時間撹拌し、ろ過(2μm)した後の化合物(Ic)濃度における媒体の効果を示す。
【図3】3匹の異なるビーグル犬に対するマイクロエマルジョン製剤としての化合物(Ic)のPK特性を示す。
【図4】3匹の異なるビーグル犬に対するフォーザル50PG製剤としての化合物(Ic)のPK特性を示す。
【図5】3匹の異なるビーグル犬に対するラブラフィル/ラブラゾル製剤としての化合物(Ic)のPK特性を示す。
【図6】3匹の異なるビーグル犬に対するミグリオール812N製剤としての化合物(Ic)のPK特性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)リン脂質、または
(ii)ミグリオール、カプリオールおよびクレモフォールの組合せ、
を含有する系中で、一般式:
【化1】

[式中、Arは場合により1個またはそれ以上の(C1−C4)アルキル、ハロゲン、NO2、CN、(C1−C4)アルコキシまたはOH基で置換される芳香族またはヘテロ芳香族基である]の少なくとも1種のアゼチジン誘導体を、場合により一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の効果を増強することができる他の活性成分と組合せて含有する安定な医薬組成物。
【請求項2】
少なくとも1種のアゼチジン誘導体は、
【化2】

である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
製剤は1gあたり200mgまでのアゼチジン誘導体を含有する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
さらに安定剤、保存剤、粘度を調整することができる物質、または例えば官能特性を変性することができる物質から選択される追加の添加剤を含有する請求項1〜3の何れかの項記載の医薬組成物。
【請求項5】
アゼチジンから誘導される活性成分は全組成物の0.01〜70重量%の量で存在する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
適当ならば固体または半固体の賦形剤の場合は必要に応じて加熱後に主要な賦形剤の混合物を調製し、次に必要に応じて追加の添加剤との混合物を調製し、次に請求項1記載のアゼチジン誘導体および適当ならば請求項1記載の一般式(Ia)または(Ib)のアゼチジン誘導体の効果を増強することができる活性成分を加え、そして均質な混合物を得るために攪拌を維持することによる請求項1〜5の何れかの項記載の組成物を製造する方法。
【請求項7】
請求項1または2記載の組成物と、請求項1記載のアゼチジン誘導体の効果を増強することができる活性成分を含む組成物とを含有するプレゼンテーションキット。
【請求項8】
アゼチジン誘導体の効果を増強することができる活性成分はシブトラミンである請求項7記載のプレゼンテーションキット。
【請求項9】
請求項1または2記載の組成物と、脳中のドーパミン作動性神経伝達を活性化する物質を含む組成物とを含有するプレゼンテーションキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−513559(P2009−513559A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519900(P2006−519900)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008552
【国際公開番号】WO2005/013972
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(598006222)アベンティス・ファーマ・ソシエテ・アノニム (30)
【Fターム(参考)】