説明

アゾベンゼン架橋型ペプチド核酸を用いたインフルエンザウイルスを測定する方法

【課題】本発明は、熟練した技術や高価な装置を必要とせず、迅速で簡便な操作によって各種インフルエンザウイルスゲノムを測定する方法、及びその測定キットを提供することを主な目的とする。
【課題手段】下記の工程1〜3を含む、検体中のインフルエンザウイルスを定性的又は定量的に測定する方法;
1.インフルエンザウイルスを含有する検体と溶解液を混合し、インフルエンザウイルスゲノムを抽出する工程1、
2.工程1にて得られる抽出液を、特定のアゾベンゼン化合物(1)と接触させ、前記インフルエンザウイルスゲノムと前記アゾベンゼン化合物(1)との複合体を形成させる工程2、
3.工程2によって形成された複合体に対して、該インフルエンザウイルスゲノムが有するヌクレオタンパクに対する抗体を作用させ、該抗体の結合量を基に、該インフルエンザウイルスゲノムを測定する工程3。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中のウイルスを測定する技術に関する。特に、インフルエンザウイルスウイルスを測定する技術に及び測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
2009年、感染性の高いブタ由来の新型インフルエンザウイルスパンデミックがヒト間で流行し、経済、産業、医療分野に大きなダメージを与えた。2008年以降、季節性インフルエンザウイルスの大部分がタミフル耐性であり、タミフル以外の医薬処方の必要性が報告された。また、2006年以降、致死性の高い高病原性トリインフルエンザのヒトへの感染が確認され、未だに世界で毎月感染死亡が報告されている。これら、高感染性、薬剤耐性、高致死性のウイルス間で組換えが起これば、人類は危機的な状況に陥ると予想される。このような危機を回避するために、保健医療機関ではウイルスの感染経路、亜型、薬剤耐性などを明らかにし、パンデミックの予防・抑制や抗体備蓄、抗ウイルス薬の適切な処方に役立てる診断技術が求められた。
【0003】
例えば、抗体検出技術ではインフルエンザ感染患者の鼻汁スワブを滴下するだけでインフルエンザ感染を確認できることから病院や医療施設においては汎用されている。ところが、抗体検出法ではインフルエンザウイルスがA型かB型かを評価できるものの、当該ウイルスの亜型、病原性、薬剤耐性に関する情報は得られない。
一方、ウイルスの亜型、病原性、薬剤耐性に関する情報が得る手法としてはDNAチップ解析が挙げられる。例えばインフルエンザウイルスのような一本鎖RNAをゲノムに持つ病原体をDNAチップを用いて解析する場合、臨床検体からウイルスゲノムRNAを抽出・精製し、これを相補鎖DNA(cDNA)に逆転写する工程、引き続いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてcDNAを増幅しながら蛍光標識する工程、さらにPCRによって増幅された二重鎖蛍光標識化DNAを、チップ上に固定化したDNA等に結合させる工程が必要となる。ここで、DNAとの結合においては、二重鎖蛍光標識化DNAを加熱融解して一本鎖DNAに解き、チップ上に固定化されたDNA等と効果的に結合するように、ゆっくりと温度を低下させる必要があり、全体として解析にかかる時間が長くなるという問題点が生じている。またこの方法では、RNAを対象に様々な処理を行うために熟練の技術が必要であり、さらにチップ上に固定化されたDNA等と結合する蛍光標識化DNAの検出に、蛍光解析用の冷却用CCDカメラのような高価な装置を完備する必要があるという問題点があった。
【0004】
DNAに配列選択的かつ高効率的に結合する分子として、ペプチド核酸(PNA)が存在する。例えば、特許文献1にはDNAとPNAが三重鎖を形成することが記載されている。本文献に記載されるDNAとPNAの結合において、DNAは高度に精製された合成DNAであるか、プラスミドDNAであることから、単にDNA分子そのものと、PNAが結合して三重鎖を形成する技術が開示されているに過ぎず、DNAの解析に有用に用いられることを示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−143864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熟練した技術や高価な装置を必要とせず、迅速で簡便な操作によって各種インフルエンザウイルスゲノムを測定する方法、及びその測定キットを提供することを主な目的とする。中でも、測定を定性的に測定する方法、及び測定キットを提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のリンカー化合物としてアゾベンゼン化合物を用い、その両端にインフルエンザウイルスゲノムと特異的に結合する塩基配列を有するペプチド核酸(PNA)が配置されたプローブが、ヌクレオプロテイン(NP)及びインフルエンザウイルスゲノム(RNA)を含む複合体(RNP Complex)と、高い特異性を持って強固な三重鎖構造(PNA/RNA/PNA)を形成することを見出した。
【0008】
本発明は、係る知見に基いて完成されたものであり、下記の態様の発明を広く包含するものである。
【0009】
項1 下記の工程1〜3を含む、検体中のインフルエンザウイルスを定性的又は定量的に測定する方法;
1.インフルエンザウイルスを含有する検体と溶解液を混合し、インフルエンザウイルスゲノムを抽出する工程1、
2.工程1にて得られる抽出液を、下記化学式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、
Xは、酸素原子、硫黄原子、NH基、又はCH2基を示し、
Aは、水素原子、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示し、
Yは、シングルボンド、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示し、
R1は、前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列とフーグスティン結合を形成するペプチド核酸を示し、
該ペプチド核酸のアミノ末端は、隣接する上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドである場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合しており、
該ペプチド核酸のカルボキシ末端は、隣接するNH基とアミド結合しており、
R2は、前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列と相補的なワトソンクリック結合を形成するペプチド核酸を示し、
該ペプチド核酸のアミノ末端は、上記Xとアミド結合を介して結合しており、
該ペプチド核酸のカルボキシ末端は、上記Yがシングルボンドである場合、下記R3のアミノ末端とアミド結合を介して結合しており、上記Yがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合しており、
R3はスペーサー化合物を示し、
該スペーサー化合物のアミノ末端は、上記Yがシングルボンドである場合、上記R2のカルボキシ末端とアミド結合を介して結合し、上記Yがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合しており、
該スペーサー化合物のカルボキシ末端は、上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合している。)
にて表されるアゾベンゼン化合物(1)と接触させ、前記インフルエンザウイルスゲノムと前記アゾベンゼン化合物(1)との複合体を形成させる工程2、
3.工程2によって形成された複合体に対して、該インフルエンザウイルスゲノムが有するヌクレオタンパクに対する抗体を作用させ、該抗体の結合量を基に、該インフルエンザウイルスゲノムを測定する工程3。
【0012】
項2 R1が、下記化学式(2)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Baseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2-アミノプリン、及び2-チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、nは3〜15の整数を表す。)
で示され、
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列の、5'末端側から順に存在する塩基とフーグスティン結合を形成する塩基をアミノ末端側から順に有するペプチド核酸であり、かつ、
R2が、下記化学式(2)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Baseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2-アミノプリン、及び2-チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、nは3〜15の整数を表す。)
で示され、
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列のうち、5'末端側から順に存在する塩基と相補的なワトソンクリック結合を形成する塩基をカルボキシ末端側から順に有するペプチド核酸である上記項1に記載の方法。
【0017】
項3 R3が、下記化学式(3)
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、mは1〜3の整数を示す。)
で示されるスペーサー化合物である、上記項1又は2に記載の方法。
【0020】
項4 前記抗体が、配列番号3〜6の少なくとも1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に対する抗体である上記項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【0021】
項5 前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列が、配列番号1又は2に示される塩基配列を含む上記項1〜4のいずれかに記載の方法。
【0022】
項6 下記化学式(1)
【0023】
【化1】

【0024】
(式中、
Xは、酸素原子、硫黄原子、NH基、又はCH2基を示し、
Aは、水素原子、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示し、
Yは、シングルボンド、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示し、
R1は、前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列とフーグスティン結合を形成するペプチド核酸を示し、
該ペプチド核酸のアミノ末端は、隣接する上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドである場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合しており、
該ペプチド核酸のカルボキシ末端は、隣接するNH基とアミド結合しており、
R2は、前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列と相補的なワトソンクリック結合を形成するペプチド核酸を示し、
該ペプチド核酸のアミノ末端は、上記Xとアミド結合を介して結合しており、
該ペプチド核酸のカルボキシ末端は、上記Yがシングルボンドである場合、下記R3のアミノ末端とアミド結合を介して結合しており、上記Yがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合しており、
R3はスペーサー化合物を示し、
該スペーサー化合物のアミノ末端は、上記Yがシングルボンドである場合、上記R2のカルボキシ末端とアミド結合を介して結合し、上記Yがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合しており、
該スペーサー化合物のカルボキシ末端は、上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合している。)
にて表されるアゾベンゼン化合物(1)を含む、インフルエンザウイルスの定性的又は定量的測定キット。
【0025】
項7 R1が、下記化学式(2)
【0026】
【化2】

【0027】
(式中、Baseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2-アミノプリン、及び2-チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、nは3〜15の整数を表す。)
で示され、
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列の、5'末端側から順に存在する塩基とフーグスティン結合を形成する塩基をアミノ末端側から順に有するペプチド核酸であり、かつ、
R2が、下記化学式(2)
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、Baseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2-アミノプリン、及び2-チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、nは3〜15の整数を表す。)
で示され、
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列のうち、5'末端側から順に存在する塩基と相補的なワトソンクリック結合を形成する塩基をカルボキシ末端側から順に有するペプチド核酸である上記項6に記載のキット。
【0030】
項8 R3が、下記化学式(3)
【0031】
【化3】

【0032】
(式中、mは1〜3の整数を示す。)
で示されるスペーサー化合物である、上記項6又は7に記載のキット。
【0033】
項9 更に配列番号3〜6の少なくとも1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に対する抗体を含む上記項6〜8のいずれか1項に記載のキット。
【0034】
項10 前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列が、配列番号1又は2に示される塩基配列を含む上記項6〜9のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明の方法によれば、上記のアゾベンゼン化合物(1)を用いることによって、タンパク質と複合体を形成する安定なRNAを直接捕捉することが可能となり、特定のRNA配列を有するインフルエンザウイルスの測定することが可能となる。特に本発明の方法はインフルエンザウイルスを定量的にも定性的にも測定することが可能である。さらに本発明の方法は、目視によってもインフルエンザウイルスの測定が可能であり、熟練した技術、高価な測定機器、並びに十分な測定期間を必要とするDNAチップを用いた検出方法の原理とは全く異なる方法でインフルエンザウイルスの測定を提供するものである。
【0036】
また、インフルエンザウイルスとアゾベンゼン化合物(1)との複合体は、生体内外に著量存在するRNA分解酵素による攻撃に対して高い耐性を有するので、本発明はRNA分解酵素を排除するための特段の配慮を必要としない手段にて、インフルエンザウイルスの測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】PNAとRNPの結合を表す実験結果。
【図2】実施例にて用いた各種PNA。(A)ブタ由来新型インフルエンザウイルス検出用のBis-Azo-PNAと、インフルエンザゲノムRNAの結合模式図。(B)各種PNAの配列、及び構造を示す図。
【図3】各種PNAとRNPとの結合を示す実験。
【図4】各種PNAを用いたインフルエンザゲノムの測定結果(測定限界の評価)。(A)はss-PNAを用いたもの、(B)はBis-PNAを用いたもの、(C)はBis-PNA-AZOを用いたものの結果を示す。
【図5】各種PNAを用いたインフルエンザゲノムの測定結果(特異性の評価)。(A)はss-PNAを用いたもの、(B)はBis-PNA-AZOを用いたものの結果を示す。
【図6】酵素評価系を用いたインフルエンザゲノムの測定結果(目視での検出評価)。(A)は、アルカリフォスファターゼ-BCIP/NBTの発色系を採用した検出結果。(B)は、HRP(西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ)-DABの発色系を採用した測定結果。共に、発色の度合いを写真による像にて示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の測定方法
本発明の検体中のインフルエンザウイルスを定性的又は定量的に測定する方法は、以下の3つの工程を含むものである。
【0039】
項1 下記の工程1〜3を含む、検体中のインフルエンザウイルスを定性的又は定量的に測定する方法;
1.インフルエンザウイルスを含有する検体と溶解液を混合し、インフルエンザウイルスゲノムを抽出する工程1、
2.工程1にて得られる抽出液を、下記化学式(1)
【0040】
【化1】

【0041】
にて表されるアゾベンゼン化合物(1)と接触させ、前記インフルエンザウイルスゲノムと前記アゾベンゼン化合物(1)との複合体を形成させる工程2、
3.工程2によって形成された複合体に対して、該インフルエンザウイルスゲノムが有するヌクレオタンパクに対する抗体を作用させ、該抗体の結合量を基に、該インフルエンザウイルスゲノムを測定する工程3。
【0042】
上述の定量的に測定するとは、検体中のインフルエンザウイルスの量を測定することを意味し、インフルエンザウイルス中に含まれるゲノム(RNA)の量を測定することで達成される。例えば、RNA標準物質を用いて作成した検量線を基に、定量的に測定することが可能となる。
【0043】
上述の定性的に測定するとは、検体中にインフルエンザウイルスが存在するか否かという、インフルエンザウイルスの存在の有無を評価する方法である。このような方法は、例えばインフルエンザウイルスに感染した被験体の生体内から採取した鼻水や血液などの検体中に含まれるインフルエンザウイルスの量を基準として所定の値を設定し、その値よりも高い値であれば検体中にインフルエンザウイルスが存在すると判断され、低い値であれば存在し無いと判断する方法が挙げられる。
【0044】
本発明において存在の有無を判定するインフルエンザウイルスとは、特に限定されるものではなく、PB1、PB2、PA、HA、NP、NA、MP及びNSの8つの一本鎖ゲノムRNA(-)を含有する、オルトミクソウイルス科に属するウイルスであり、表面には前記HA及びNAによってコードされるタンパク質が含まれるエンベロープを有するウイルスである。
【0045】
工程1について
工程1では、インフルエンザウイルスを含有する検体に対して溶解液を加え、インフルエンザウイルスゲノムの抽出を行う。
【0046】
検体とは主にインフルエンザの感染が疑われる被検体から採取されるものであり、インフルエンザウイルスを含む任意の体液(例えば、血液、血清、血漿、尿、鼻汁液、唾液、粘液質、胃液、精液、涙、汗など)、皮膚、毛髪、細胞(特に、有核細胞)、生検、鼻腔スワブ、口腔スワブ又は組織標本などが挙げられる。
【0047】
本発明の方法を適用する非検体としては、脊椎動物、好ましくは鳥類、哺乳類を挙げることができ、哺乳類としてはヒト、ブタ、ウマ等が例示される。
【0048】
本発明の測定対象とするインフルエンザウイルスは、その表面にエンベロープ部を含有しているので、該エンベロープ部を破壊して、内部に存在するインフルエンザゲノムを溶解して抽出すればよい。例えば、上記検体に対して、界面活性剤、有機溶媒などを含む液を所定の温度・時間等の条件下において混合すればよい。
【0049】
例えば、溶解液に界面活性剤としてTritonX-100を添加する場合、0.1〜0.5%程度含有させればよい。またインフルエンザゲノムの抽出温度は、特に限定されないがRNAの安定性を確保する観念から氷上にて行うことが好ましい。
【0050】
本発明の方法では、インフルエンザウイルス中に存在する、ヌクレオプロテイン(NP)及びインフルエンザウイルスゲノム(RNA)を含む複合体(RNP Complex)と直接結合する分子として、下記に示す特定のアゾベンゼン化合物を用いるので、従来ウイルスゲノムの抽出時に採用される除タンパク工程、その後の濃縮工程などは必要としないが、本発明の方法における判定精度を高めるために、抽出したRNAをさらに濃縮工程に供してもよい。
【0051】
インフルエンザウイルスゲノムはRNAであるために、外部に曝されると直ちにRNase等の分解酵素の作用を受けてしまうために、適度なRNase-Freeである環境下で工程を進めることが好ましい。
【0052】
工程2について
工程2では、工程1にて得られる抽出液を、化学式(1)
【0053】
【化1】

【0054】
にて表されるアゾベンゼン化合物(1)と接触させ、前記インフルエンザウイルスと前記アゾベンゼン化合物(1)との複合体を形成させる工程である。
【0055】
上記化学式(1)において、Xは酸素原子、硫黄原子、NH基又はCH2基を示す。本発明の測定方法においては、Xに硫黄原子などの原子半径の大きい原子を導入した場合にもウイルスゲノムを検出できることを確認した。
【0056】
上記化学式(1)において、Aは、水素原子、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示す。より好ましくは、2〜3アミノ酸残基を有するペプチドである。上記のアミノ酸、又は上記ペプチドを構成するアミノ酸としては、リシン、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸、又はグリシン、アラニン等の中性アミノ酸が挙げられる。ここで、アミノ酸とはD体であってもL体であってもよく、上述のような塩基性又は中性を示す範囲において、いわゆるアミノ酸アナログであってもよい。
【0057】
特に上記化学式(1)のアミノ末端側のAでは、インフルエンザウイルスゲノムと強固に結合して捕捉するアゾベンゼン化合物を得るという観点から、塩基性アミノ酸がより好ましい。更に好ましくはリジンである。また、上記化学式(1)のアミノ末端側のAは、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドであることが好ましい。
【0058】
上記化学式(1)において、Yはシングルボンド、水素原子、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示す。より好ましくは、2〜3アミノ酸残基を有するペプチドである。ここで、Yがシングルボンドであるときは、Yの両端に位置するR2とR3が直接結合することを意味し、上記式中において、-X-R2-R3-Aという構造をとることを意味する。また、Yにて規定するアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドは上記Aと同様である。
【0059】
上記化学式(1)において、R1は前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列とフーグスティン結合を形成するペプチド核酸を示す。フーグスティン結合とは、核酸同士の結合様式を示し、グアニンとシトシン、及びアデニンとチミン若しくはウラシルとの間で、水素結合が生じる。但し、核酸同士のフーグスティン結合においては、ワトソンクリック結合のように3'→5'と、5'→3'のようなアンチパラレル配列間の相補塩基対形成ではなく、核酸同士の5’→3’と5’→3’のパラレル配列間における相補塩基対形成である。
【0060】
なお、R1に示すペプチド核酸のアミノ末端は、隣接する上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドである場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又はアミノ酸とアミド結合しており、カルボキシ末端は、隣接するNH基とアミド結合している。
【0061】
本発明の測定方法において、検出感度を上昇させることなどの観点から、R1は下記化学式(2)に示すペプチド核酸であることが好ましい。
【0062】
【化2】

【0063】
上記化学式(2)においてBaseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2−アミノプリン、及び2−チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0064】
また、上記化学式(2)にて示されるペプチド核酸は、前記インフルエンザウイルスゲノム中に含まれる配列の、5'末端側から順に存在する塩基とフーグスティン結合を形成する塩基をアミノ末端側から順に有する。例えば、上記インフルエンザウイルスゲノム中に含まれる配列が、5'-AGAGAAGG-3'である場合、上記化学式(2)のBase該当する塩基配列は、アミノ末端側から順に、TCTCTTCCとなり、アデニンとチミン、及びグアニンとシトシン間の塩基対を確実に形成できるような塩基配列とし、上記塩基対以外の組み合わせは許されないものとする。
【0065】
nは3〜15の整数を表す。フーグスティン結合を形成させるためには8塩基対以上であることが好ましいので、nは6〜15とすることが好ましい。
【0066】
上記化学式(1)において、R2は前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列と相補的にワトソンクリック結合を形成するペプチド核酸を示す。ワトソンクリック結合とは、核酸同士の結合様式を示し、グアニンとシトシン、及びアデニンとチミン若しくはウラシルとの間で、水素結合が生じる。
【0067】
なお、R2に示すペプチド核酸のアミノ末端は、上記Xとアミド結合を介して結合しており、該ペプチド核酸のカルボキシ末端は、上記Yがシングルボンドの場合、下記R3のアミノ末端とアミド結合を介して結合しており、上記Yが上述のアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドである場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合している。
【0068】
本発明の測定方法において、検出感度を上昇させることなどの観点から、R2は下記化学式(2)に示すペプチド核酸であることが好ましい。
【0069】
【化2】

【0070】
上記化学式(2)においてBaseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2-アミノプリン、及び2-チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0071】
また、上記化学式(2)にて示されるペプチド核酸は、前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列のうち、5'末端側から順に存在する塩基と相補的なワトソンクリック結合を形成する塩基をカルボキシ末端側から順に有するペプチド核酸を示す。例えば、上記インフルエンザウイルス中に含まれる配列が、5'-AGAGAAGG-3'である場合、上記化学式(2)のBaseに該当する塩基配列は、カルボキシ末端からTCTCTTCCとなり、アデニンとチミン、及びグアニンとシトシン間の塩基対を確実に形成できるような塩基配列とし、上記塩基対以外の組み合わせは許されないものとする。
nは3〜15の整数を表す。ワトソンクリック結合は、強固な結合であるために、5塩基対程度の結合があればよい。
【0072】
インフルエンザウイルスゲノム中の配列とは、測定を所望する各々のインフルエンザウイルス中に含まれる配列を適宜設定してすればよく、特に限定されるものではなく、インフルエンザウイルスが有するPB2、PB1、PA、HA、NP、NA、MP、及びNSのいずれのゲノムに含まれる配列であっても良い。配列の選択基準としては、上記R1に示すペプチド核酸は、8〜15塩基対を有し、NSゲノム中に含まれる配列とワトソンクリック結合することから、15塩基対程度の配列を選択すればよい。また、上記R2に示すペプチド核酸は、NSゲノム中に含まれる配列とフーグスティン結合することから、アデニン、グアニンを多く含む領域の配列を選択するのが良い。
【0073】
より具体的には、全てのヒト感染性のインフルエンザとして、例えばInfluenza A/Puerto Rico/8/34(H1N1)のPB2ゲノム中の配列であれば、5 '-aaaccagcgacagaccgac-3'(配列番号1)の配列を選択することができる。また、全ブタ由来インフルエンザとして、例えばInfluenza A/Osaka/180/2009(H1N1)のNSゲノム中の配列であれば、5'-uccuggaagagaagg-3'(配列番号2)の配列を選択することができる。
上記化学式(1)において、R3はスペーサー化合物を示す。ここでスペーサー化合物としては、自由度の高い立体構造を有する化合物を挙げることができ、特に限定されるものではなく、エーテル、直鎖アルキル化合物等が挙げられる。また、これらの化合物を重合したもの(重合度は2〜3程度)の化合物であってもよい。
【0074】
このような具体例として、下記化学式(3)に示す化合物を挙げることができる。
【0075】
【化3】

【0076】
(式中、mは1〜3の整数を表す)
上述のスペーサー化合物のアミノ末端は、上記Yがシングルボンドの場合、上記R2のカルボキシ末端とアミド結合を介して結合し、上記Yがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合しており、該スペーサー化合物のカルボキシ末端は、上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合している。
【0077】
上記化学式1は、特許文献1に記載の方法を参照して製造することが可能であり,
例えばFmoc-固相合成法によって製造することができる。Fmoc-固相合成法で使用される、樹脂、カップリング試薬、脱保護試薬、洗浄操作、樹脂からの切り出し、HPLCによる精製等は公知の方法によって製造することができる。ほかにも、Boc(t-ブチルカルボニル)固相合成法によっても製造することができる。
【0078】
本発明の測定方法において、上記アゾベンゼン化合物(1)は予め基板上に固定化されていることが好ましい。上記アゾベンゼン化合物(1)が固定化される基板としては、特に限定されるものではないが、具体的にはスチレン、塩化ビニル、カーボネート、アクリロニトリル、ブタジエン、アルキルエーテル、乳酸等からなる高分子ポリマー樹脂、ガラス、メンブレン、ゲル等の基板が挙げられる。上記アゾベンゼン化合物(1)の基板への固定化は、上記化学式(1)におけるアミノ末端或いはカルボキシ末端側のAによってもたらされる。基板上への結合のために、Aはアミノ酸又はペプチドであることが好ましく、これらのアミノ酸又はペプチドが有するアミノ基が、基板との結合に際して重要な働きを示す。
【0079】
基板への固定化方法は、特に限定はされず公知の方法を用いることが可能である。例えば、上述のアゾベンゼン化合物(1)を適当なマルチウェルプレートに所定の濃度で接触させればよい。
【0080】
工程3について
工程3は、工程2によって形成された複合体に対して、該インフルエンザウイルスゲノムが有するヌクレオタンパクに対する抗体を作用させ、該抗体の結合量を基に、該インフルエンザウイルスゲノムを測定する工程である。
【0081】
上記インフルエンザゲノムが有するヌクレオタンパク質とは、インフルエンザウイルスが有するNPゲノムによってコードされるタンパク質であり、一般的にNPタンパク質と呼ばれ、インフルエンザウイルスと複合体を形成するタンパク質である。この複合体は、一般にRNPと呼ばれる。
【0082】
本発明の工程1では、インフルエンザウイルスゲノムを除タンパク工程に供さず、単にインフルエンザウイルスを溶解させて抽出したものであるため、本来のインフルエンザウイルス保有するNPタンパク質と複合体を形成したRNPの形態にてインフルエンザウイルスゲノムを抽出している。そのため、工程3では係るNPタンパク質に特異的な抗体を用いて、工程2にて捕捉したアゾベンゼン化合物(1)-RNP複合体に作用させて、RNPに含まれるインフルエンザウイルスを測定することができる。
【0083】
上述のヌクレオタンパク質としては、測定を所望するインフルエンザウイルスが有するNPタンパク質を認識する抗体を用いればよく特に限定はされない。具体的には、Influenza A /Osaka/180/2009(H1N1pdm)(配列番号3)、Influenza A /Puerto Rico/8/34/ (H1N1)(配列番号4)、Influenza A /Panama/2007/99(H3N2)(配列番号5)、Influenza B virus /Yamanashi/166/98(配列番号6)にて示されるアミノ酸配列を有するNPタンパク質に対する抗体が挙げられる。
【0084】
本発明において、特定のゲノム配列を有するインフルエンザウイルスを特異的に測定する際において、上述の工程2におけるアゾベンゼン化合物(1)と、インフルエンザウイルスゲノムとが高い特異性で結合するために、NPタンパク質に対して高い特異性を有する抗体を組み合わせて使用すれば、亜型インフルエンザウイルスの測定も可能になる。
【0085】
このような抗体の中でも、比較的入手し易く且つ本発明の測定に影響を与えない抗体としては、LIFESPAN社のAnti-NP IgG2a抗体(Cat ID LS-C70632)が好適に用いられる。
【0086】
本工程において、上述の抗体を作用させた後に、結合した抗体の量を測定する。抗体量の測定方法は、特に限定はされず、従来当業者が用いる方法を適宜選択して行うことができる。具体的には、上述の抗体に予め標識分子を結合させておき、その標識分子が発するシグナル強度等を検出し、抗体の量に変換して測定する方法が挙げられる。
【0087】
その他に、上記抗体分子に酵素を結合させておき、該酵素が特異的に作用する基質を更に作用させて、基質の変化に基くシグナル強度等を検出し、抗体の量に変換して測定する方法、上記抗体を特異的に認識する上述の酵素が結合した抗体を作用させ、該酵素が特異的に作用する基質を更に作用させて、基質の変化に基くシグナル強度等を検出し、抗体の量に変換して測定する方法等が挙げられる。これらの原理は、ELISA法の原理と同様であり、ELISA法を改良する方法を本発明に適用する事も可能である。
【0088】
上記の測定方法の中でも、ELISA法と同様の原理に基く方法が、簡便な検出方法を提供できるので好ましい。ここで酵素としてHRP(西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ)を用いる際には、基質にTMB(Tetramethyl benzidine)、DAB(3,3'-diaminobenzidine)等の公知の発色基質を採用すればよい。他にも、発光基質を用いてもよい。これらの基質はHRPと作用することで示されるそれぞれの最大吸収波長を、プレートリーダー等を用いて検出することにより、定量的にインフルエンザウイルスを測定することが可能である。また、HRPと反応後、これらの基質は鮮やかな色を呈するので、目視によってインフルエンザウイルスの存在の有無を、定性的に測定することも可能である。
【0089】
さらに、酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる際には、基質にBCIP/NBT、pNPP等を採用すればよい。これらの基質も、TMBなどと同様にアルカリフォスファターゼと作用することで示される最大吸収波長を検出することにより、定量的にインフルエンザウイルスを測定することができ、呈色の度合いを目視で判断することによって、インフルエンザウイルスの有無を定性的に測定することも可能である。
【0090】
本発明のキット
本発明のキットは、下記化学式(1)に示されるアゾベンゼン化合物(1)を含むものである。
【0091】
【化1】

【0092】
上記アゾベンゼン化合物(1)については、既に本発明の測定方法にて詳述したものと同様である。また、本発明のキットにおいて、上記化学式(1)にて示されるアゾベンゼン化合物(1)は、基板に固着した形態にて提供されることが好ましい。基板の種類や基板への固定化方法については、上記本発明の測定方法にて詳述したものと同様にすればよい。
【0093】
本発明のキットには、更に配列番号3〜6の少なくとも1つに示すアミノ酸配列を含むタンパク質に対する抗体を含んでいてもよい。この抗体とは、既に本発明の測定方法にて詳述したものと同様にすればよく、中でもLIFESPAN社のAnti-NP IgG2a抗体(Cat ID LS-C70632)が好適に用いられる。
【0094】
本発明のキットには、一般的に酵素抗体法に用いられる試薬を含んでいてもよい。例えば、上記抗体を直接標識する他のキット、上記抗体を認識する酵素標識された抗体、前記酵素の基質となる化合物等が挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例1 ペプチド核酸(PNA)とヌクレオプロテイン(NP)とインフルエンザウイルスゲノム(vRNA)を含む複合体(RNP Complex)との結合
グリセロールグラジエント法(Iris Kemler, et al ., Virology 202, 1028-1033 (1994))により精製したヒト感染性インフルエンザウイルス(Influenza A/Puerto Rico/8/34(H1N1))のリボヌクレオ蛋白溶液(蛋白量を基準にして4.0 mg/mL、表1におけるvRNA)を1μL使用し、これに下記に示す各種PNA、またはRNase Free H2Oを作用させ、25℃で30分インキュベートした(ここでウイルスゲノムとオリゴ核酸を会合させる)。上記の各反応液を下記表1に示す組成になるように調製した。これを8連PCR用チューブに加え、サーマルサイクラーにて、以下の条件でcDNAの合成を行った(30℃ 10 min, 42℃ 20 min, 99℃ 5 min)。
【0096】
実験材料・機器としてサーマルサイクラー装置:BIORAD MJ Mini (BioRad社)、8 連PCR用チューブ:BioRad low tube strip CLR (BioRad社)、Rever Tra Ace-α-キット(東洋紡:本キットには、5×RT buffer、dNTP Mixture、RNase Inhibitorが含まれる)、cDNA合成用primerとして、5'-GATACTACAAAAACCACCGTGG -3'(配列番号7)を使用した。
【0097】
また、各種PNAの塩基配列として、下記の塩基配列を有する3つのペプチド核酸を準備した。上記ヒト由来のインフルエンザゲノムのBP2遺伝子におけるゲノム配列(配列番号1)と100%の相同性を有するMatch配列(PNA_Match)として(N)-CAGCCAGACAGCGACCAAA-(C)(ここで、(N)及び(C)とはそれぞれPNAのアミノ末端側、カルボキシル末端側を示す。本実施例において以下同様。)、上記Match配列のうち、2つの塩基が相補性を有さない塩基を含むMismatch配列(PNA_Mismatch)として(N)-CAGCCATACAGCTACCAAA-(C)(下線部が相補性を有さない塩基を示す)、全くランダムに配列を決定したScramble配列(PNA_Scramble)として(N)-GACACAGCACACAGCACGA-(C)の塩基配列を有するペプチド核酸を用いた。
【0098】
【表1】

【0099】
cDNA合成後の反応溶液を1μL採取し、Platinum SYBR Green qPCR SuperMix-UDG(Invitorgen)を用いて下記表2に示す組成で調整したものを、8連PCR用チューブに加え、サーマルサイクラーにてリアルタイムPCRを行った。結果を図1に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
所定の蛍光強度を示すまでにかかるPCRサイクル数は、PNA_Matchが一番遅く、PNA_Mismatch及びPNA_Scrambleとほぼ同等にPNA_Matchよりも早かった。以上のことから、PNA_Matchは、PNPに特異的に結合してcDNA合成を阻害したことが判明した。また、2つの塩基の相補性を欠失させたPNA_Mismatchでも、PNA_Scrambleの結果を示したことから、PNAの有する塩基配列は、非常に高い選択性をもってRNPと結合することが判明した。
【0102】
合成例 ssPNA、Bis-PNA、及びBis-PNA-AZOの合成
ssPNA、Bis-PNA、及びBis-PNA-AZOは、図2の(B)の模式図にて示されるような化合物である。なお、vRNAとは、Influenza A/Osaka/180/2009(H1N1)のNSゲノムに含まれるRNA配列を示す。ここで、Bis-PNA及びBis-PNA-Azoは、上記RNAを結合するPNAを2つ有するように設計されている。具体的には、図2(A)に示されるように下線部でRNAと結合するPNA(これは、ワトソンクリック結合である。)、及び二重下線部でRNAと結合するPNA(これは、フーグスティン結合である。)を有している。一方で、ssRNAは、上記RNAと下線部にて結合するPNA(これは、ワトソンクリック結合である。)1つのみ有している。
【0103】
図中ACGTとあるのは、特定の塩基を有するペプチド核酸であり、具体的には下記化学式(4)
【0104】
【化4】

【0105】
(式中、BaseはA:アデニン、C:シトシンG:グアニンT:チミンを表す)
にて示されるペプチド核酸である。図中のLysは、アミノ酸の一種であるL-リジンを表し、(Lys)3とあるのは、3つのL-リジンがペプチド結合していること示す。図中Oのとは、2-aminoethyl-2-2ethoxy acetate(AEEA)であり、OOはAEEAが2量体を、OOOは3量体形成していることを表す。多量体の結合は全てアミド結合である。
【0106】
図中の、AZOは下記化学式(5)
【0107】
【化5】

【0108】
にて表される。図2(B)にて示される各PNA化合物は、上記アゾベンゼン化合物がアミド結合にしている。
【0109】
このような化合物の製造方法について、下記に示す。
【0110】
Fmoc-XAL-PEG-PS樹脂(2μmol:PEBiosystems)(ここで、Fmocとは、9-fluorenylmethylを示し、XALとは、Xanthenylamideを示し、PEGとは、ポリエチレングリコールを示す。)をDMF中に10分ほど放置して湿らせ、Fmoc-保護基をDeblock solution(20%piperidineinDMF:500μL)中で5分間、振トウ反応させることで脱保護し、DMF(500μL)にて5回洗浄した。その後、樹脂をBase solution(2,6-lutidine(0.3M)及びDiisopropylethylamine(0.2M)/DMF)(500μL)中で5分インキュベートすることでN末端のアミンの求核性を高めた。一方で、PNAモノマー((以下のいずれか1種、それぞれ10μmolのものを5.3mg使用:Fmoc-A(Bhoc)-aeg-OH(アデニン)、Fmoc-G(Bhoc)-aeg-OH(グアニン)、Fmoc-C(Bhoc)-aeg-OH(シトシン)、Fmoc-T-aeg-OH(チミン)、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-AZO-OH、或いはFmoc-AEEA-OHリンカーにアクティベーター(0.02MHATU/DMF:500μL)を加え、5分間インキュベートすることでカルボン酸の反応性を高め、これをBasesolution溶液中の樹脂に加えて15分間反応させた。反応後、樹脂をDMF(500μL)にて5回洗浄した。続いて、樹脂上で未反応のアミノ基を保護するため、Capping solution(5%無水酢酸、6% 2,6-lutidineを含むDMF溶液、500μL)を5分間作用させ、反応後、樹脂をDMF(500μL)にて5回洗浄した。これらのサイクルを繰り返し、図2(B)に示されるような目的配列をもつssPNA、Bis-PNA、及びBis-PNA-AZOを樹脂上で合成した。なお、上記AZO(アゾベンゼン化合物)については、特許文献1に記載の方法によって製造した。
実施例2 各種PNAとPNPの結合
上述した3種類のPNAとRNPとの結合を確認する実験を行った。ssPNA、Bis-PNA、及びBis-PNA-AZOのいずれも、Influenza A/Osaka/180/2009(H1N1pdm)のゲノムRNAと結合する領域を有しており、特にBis-PNA及びBis-PNA-AZOは、上記ゲノムRNAとワトソンクリック結合及びフーグスティン結合するPNAを有している。
【0111】
270μLのInfluenza A/Osaka/180/2009(H1N1pdm)ウイルス全粒子溶液(6.0×103pfu/mL)とLysisBuffer30μL(20mM Tris-HCl(pH7.6), 140mM NaCl/KCl,1% TritonX-100)を混合し、氷上で30分インキュベートしてウイルスを溶解した。このウイルス溶解液を27μLずつ分注し、そこに4.0, 2.0, 1.0, 0.5μMの上述したそれぞれ3種類のPNA溶液、若しくはRNase Free H2O(Control)を3μLずつ加え、合計30μLの溶液を調整する。
【0112】
この溶液をVirus solutionとして1μLとり、下記の表3に示す組成の反応液を調整した。これを8連PCR用チューブに加え、サーマルサイクラーにて、以下の条件でcDNAの合成を行った(30℃ 10 min, 42℃ 20 min, 99℃ 5 min)。
cDNA合成用プライマーとして、5'-GCGGTCATGGAAAAGAACAT-3'(配列番号10)を使用した。
【0113】
【表3】

【0114】
cDNA合成後の反応溶液を1μL採取し、Platinum SYBR Green qPCR SuperMix-UDG(Invitorgen)を用いて下記表4に示す組成で調整したものを、8連PCR用チューブに加え、サーマルサイクラーにてリアルタイムPCRを行った。
【0115】
【表4】

【0116】
2.0%のAgarose21(wako社) を含む1×TAEバッファー 100mLを加熱溶解させ、コームをさした型枠に流し込み、ゲルを作成する。上記リアルタイムPCRにて作成したsample 50mLにつき5×ローディングバッファー12.5mLを加え、このうち25mLをゲル内の各レーンにローディング後、100Vにて50分間泳動させ、そのゲルを撮影した。結果を図3に示す。
【0117】
ウイルスRNAに対して結合するPNAを1つしか有さないssPNAと比較して、ウイルスRNAに対してワトソンクリック結合、及びフーグスティン結合するPNAを有するBis-PNA及びBis-NA-AZOでは共に、ウイルスRNAを基にしたcDNAの合成が阻害されることが判明した。従ってBis-PNA及びBis-PNA-AZOは、ウイルスRNAに対して強く結合することが明らかとなった。
【0118】
また、特定のアゾベンゼン化合物を有するBis-NA-AZOは、立体的に自由度の高い構造をとり得るリンカー化合物を有するBis-PNAよりもさらに強くウイルスRNAに対して結合することも判明した。
実施例3 Bis-PNA-AZOを用いたインフルエンザウイルスの検出
上述のBis-PNA-AZOを、New ELISA Plate(住友ベークライト社)を用いて固定化した。具体的には同キットに付属している固定化液にてBis-PNA-AZOの濃度が0.5μg/100μlになるように希釈し、続いて同キットに付属する96wellプレートの各wellに上記Bis-PNA-AZO希釈液を100μlずつ分注し、37℃で半日間インキュベートした。その後、固定化液をアスピレーターにて吸引し、300μLのPBS(和光純薬社製)で3回洗浄し、PBSを吸引後に冷蔵庫にて保存した。比較例として、上述のBis-PNA、及びss-PNAも同様にNew ELISA Plateを用いて固定化した。
【0119】
次に、Influenza A/Puerto Rico/8/34(H1N1)、Influenza A/Osaka/63/2009(H1N1pdm)、Influenza A/Panama/2007/99(H3N2)、及びInfluenza B/Yamanashi/166/98インフルエンザウイルスをそれぞれPBS溶液中で6.0×103〜6.0×105 pfu/mL(pfu: plaque formation unit)になるように調整し、上記ウイルス溶液90μLにlysis buffer(20mM Tris-HCl(pH7.6), 140mM NaCl/KCl,1% TritonX-100)を10μL(体積比10%)加え、ice bath中で10分放置した。このウイルス溶解液を上述の各種PNA固定化プレートの各wellに100μlずつ分注し、シェーカー上にて60rpm/minで室温下、1時間インキュベートした。1時間後、ウイルス溶液を吸引し、300μLのPBSで3回洗浄し、PBSを吸引した。
【0120】
引きつづいて、インフルエンザウイルスのヌクレオ蛋白を1次抗体で捕らえ、これに対して酵素(ALP:アルカリフォスファターゼ)をラベル化した2次抗体を結合させ、色素発色の基質を加えることにより発色させた。
【0121】
ウイルス溶液をインキュベートした上記固定化プレートの各wellに、1次抗体としてAnti-NP IgG2a (LIFESPAN)を100μl分注した。シェーカー上にて 60 rpm/minで室温下、2時間インキュベートした後、抗体溶液を除去し、0.05% TritonX-100添加D-PBS(-)にて数回洗浄した後に2次抗体としてAnti-Mouse IgG(ALP-labeled)加えた。所定時間の経過後、抗体溶液を除去し、0.05% TritonX-100添加D-PBS(-)にて数回洗浄した。引き続いて、ALPの基質(BCIP/NBT)を各wellに100μlずつ添加した。15分から30分後に発色(青色)が観察された。
【0122】
測定対象のインフルエンザゲノムとして、Influenza A/Osaka/180/2009(H1N1)ウイルス抽出液を、各種PNA固定化プレートとして、ssPNA(A)、Bis-PNA(B)、及びBis-PNA-AZO(C)を固定化したものを用いて得られた結果を図4に示す。
【0123】
実験に用いたALP基質であるBCIP/NBTの吸収波長である450nm付近の吸光度にて測定結果を評価した。(A)では、いずれの量のインフルエンザも検出することはできなかった。(B)ではウイルス溶解液を用いないcontrolと比較しても、各種量のインフルエンザの測定において有意な差を見出すことはできなかった。一方、Bis-PNA-Azoを固定化したプレートを用いた結果を示す(C)からは、450nmにおいて、インフルエンザウイルスの濃度依存的に吸光度が上昇していることが明らかとなった。従って、Bis-PNA-Azoは、最も有効にインフルエンザウイルスを測定することが可能となり、定量的な測定も可能であることが明らかとなった。
【0124】
図5に示す結果は、インフルエンザウイルスの検出特異性を示す結果である。図中、swH1N1は、Influenza A/Osaka/63/2009(H1N1pdm)インフルエンザウイルスを測定したもの、Bは、Influenza B/Yamanashi/166/98インフルエンザウイルスを測定したもの、H3N2は、Influenza A/Panama/2007/99(H3N2)インフルエンザウイルスを測定したもの、そしてH1N1は、Influenza A/Puerto Rico/8/34(H1N1)インフルエンザウイルスを測定した。
【0125】
(A)では、Influenza A/Osaka/180/2009(H1N1)のRNAゲノムを認識するPNAを有するssPNAが固定化されたプレートに対して、上記各種インフルエンザゲノムを測定した結果である。本来であれば、swH1N1に示されるInfluenza A/Osaka/180/2009(H1N1)をワトソンクリック結合により捕獲し、検出(測定)できるはずであるが、その他のウイルスの測定値と有意な差は見られなかった。
【0126】
一方で、(B)に示すBis-PNA-AZOもss-PNAと同様にInfluenza A/Osaka/180/2009(H1N1)のRNAゲノムを認識するPNAを有しているが、標的核酸をワトソンクリック結合、およびフーグスティン結合により捕獲できると期待される。実際、Bis-PNA-AZOはswH1N1に示されるInfluenza A/Osaka/180/2009(H1N1)を特異的に測定できることが明確になった。従って、本発明のBis-PNA-AZOは、非常に高い特異性で、インフルエンザウイルスを測定することができることが判明した。すなわち、これは突然変異したインフルエンザウイルス亜種の有無を判断する上で、有効に用いることが可能になる。
【0127】
次に、用いる酵素-基質の種類によって、インフルエンザウイルスの測定に影響を及ぼすかどうかを確認した。具体的には、上述の測定方法のうち、2次抗体として用いたAnti-Mouse IgG(ALP-labeled)に代えてAnti-Mouse IgG(HRP-labeled)を用い、基質として用いたBCIP/NBTに代えてDAB(ジアミノベンゼン)を用いた。図6では、Bis-PNA-AZOが固定化されたプレートを用い、Influenza A/Osaka/180/2009(H1N1)インフルエンザウイルスの測定を行った結果を示す。
【0128】
(A)は、ALP-BCIP/NBTの組み合わせで発色させた際の写真像、(B)はHRP-DABの組み合わせで発色させた際の写真像を示している。本発明の方法は酵素-基質の組み合わせに関係なく、目視によってインフルエンザウイルスの測定が可能であることも判明した。例えば、(A)のALP-BCIP/NBTの組み合わせでは、NBTによる青色の発色が確認され、(B)のHRP-DABの組み合わせでは茶色の発色が確認された。また、これらの目視による測定では、6x103〜6x104pfu/mL程度の検出限界でインフルエンザウイルスが測定できることも示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1〜3を含む、検体中のインフルエンザウイルスを定性的又は定量的に測定する方法;
1.インフルエンザウイルスを含有する検体と溶解液を混合し、インフルエンザウイルスゲノムを抽出する工程1、
2.工程1にて得られる抽出液を、下記化学式(1)
【化1】

(式中、
Xは、酸素原子、硫黄原子、NH基、又はCH2基を示し、
Aは、水素原子、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示し、
Yは、シングルボンド、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示し、
R1は、前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列とフーグスティン結合を形成するペプチド核酸を示し、
該ペプチド核酸のアミノ末端は、隣接する上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドである場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合しており、
該ペプチド核酸のカルボキシ末端は、隣接するNH基とアミド結合しており、
R2は、前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列と相補的なワトソンクリック結合を形成するペプチド核酸を示し、
該ペプチド核酸のアミノ末端は、上記Xとアミド結合を介して結合しており、
該ペプチド核酸のカルボキシ末端は、上記Yがシングルボンドである場合、下記R3のアミノ末端とアミド結合しており、上記Yがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合しており、
R3はスペーサー化合物を示し、
該スペーサー化合物のアミノ末端は、上記Yがシングルボンドである場合、上記R2のカルボキシ末端とアミド結合を介して結合し、上記Yがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合しており、
該スペーサー化合物のカルボキシ末端は、上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合している。)
にて表されるアゾベンゼン化合物(1)と接触させ、前記インフルエンザウイルスゲノムと前記アゾベンゼン化合物(1)との複合体を形成させる工程2、
3.工程2によって形成された複合体に対して、該インフルエンザウイルスゲノムが有するヌクレオタンパクに対する抗体を作用させ、該抗体の結合量を基に、該インフルエンザウイルスゲノムを測定する工程3。
【請求項2】
R1が、下記化学式(2)
【化2】

(式中、Baseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2-アミノプリン、及び2-チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、nは3〜15の整数を表す。)
で示され、
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列の、5'末端側から順に存在する塩基とフーグスティン結合を形成する塩基をアミノ末端側から順に有するペプチド核酸であり、かつ、
R2が、下記化学式(2)
【化2】

(式中、Baseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2-アミノプリン、及び2-チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、nは3〜15の整数を表す。)
で示され、
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列のうち、5'末端側から順に存在する塩基と相補的なワトソンクリック結合を形成する塩基をカルボキシ末端側から順に有するペプチド核酸である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R3が、下記化学式(3)
【化3】

(式中、mは1〜3の整数を示す。)
で示されるスペーサー化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が、配列番号3〜6の少なくとも1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に対する抗体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列が、配列番号1又は2に示される塩基配列を含む請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
下記化学式(1)
【化1】

(式中、
Xは、酸素原子、硫黄原子、NH基、又はCH2基を示し、
Aは、水素原子、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示し、
Yは、シングルボンド、アミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドを示し、
R1は、前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列とフーグスティン結合を形成するペプチド核酸を示し、
該ペプチド核酸のアミノ末端は、隣接する上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドである場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合しており、
該ペプチド核酸のカルボキシ末端は、隣接するNH基とアミド結合しており、
R2は、前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列と相補的なワトソンクリック結合を形成するペプチド核酸を示し、
該ペプチド核酸のアミノ末端は、上記Xとアミド結合を介して結合しており、
該ペプチド核酸のカルボキシ末端は、上記Yがシングルボンドである場合、下記R3のアミノ末端とアミド結合を介して結合しており、上記Yがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合しており、
R3はスペーサー化合物を示し、
該スペーサー化合物のアミノ末端は、上記Yがシングルボンドである場合、上記R2のカルボキシ末端とアミド結合を介して結合し、上記Yがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのカルボキシ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合しており、
該スペーサー化合物のカルボキシ末端は、上記Aがアミノ酸、又は2〜5アミノ酸残基を有するペプチドの場合、該ペプチドのアミノ末端のアミノ酸残基、又は前記アミノ酸とアミド結合を介して結合している。)
にて表されるアゾベンゼン化合物(1)を含む、インフルエンザウイルスの定性的又は定量的測定キット。
【請求項7】
R1が、下記化学式(2)
【化2】

(式中、Baseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2-アミノプリン、及び2-チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、nは3〜15の整数を表す。)
で示され、
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列の、5'末端側から順に存在する塩基とフーグスティン結合を形成する塩基をアミノ末端側から順に有するペプチド核酸であり、かつ、
R2が、下記化学式(2)
【化2】

(式中、Baseはアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及び2-アミノプリン、及び2-チオウラシルからなる群より選ばれる塩基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、nは3〜15の整数を表す。)
で示され、
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列のうち、5'末端側から順に存在する塩基と相補的なワトソンクリック結合を形成する塩基をカルボキシ末端側から順に有するペプチド核酸である請求項6に記載のキット。
【請求項8】
R3が、下記化学式(3)
【化3】

(式中、mは1〜3の整数を示す。)
で示されるスペーサー化合物である、請求項6又は7に記載のキット。
【請求項9】
更に配列番号3〜6の少なくとも1つに示されるアミノ酸配列を含むタンパク質に対する抗体を含む請求項6〜8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
前記インフルエンザウイルスゲノム中の配列が、配列番号1又は2に示される塩基配列を含む請求項6〜9のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−75376(P2012−75376A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222951(P2010−222951)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人医薬基盤研究所、委託業務「Bis−PNAによるインフルエンザウイルスゲノムの検出に関する研究」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】