説明

アゾ化合物、インク組成物及び着色体

【課題】イエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色の色相を有し、発色性に優れ、各種の記録用、特にインクジェット記録用として耐光性に優れ、さらに水に対する溶解性に優れた化合物;及び、該化合物を含有するインク組成物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なアゾ化合物又はその塩、これを含有するインク組成物、該インク組成物を用いたインクジェット記録方法、及びこれらにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー記録方法における代表的方法の一つとして、インクジェットプリンタを用いる記録方法、すなわちインクジェット記録法方が挙げられる。この記録方法は、インクの小滴を発生させこれを種々の被記録材(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材とが直接接触しないため音の発生が少なく静かであり、また小型化や高速化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等用のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性色素を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されている。これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性有機溶剤が添加されている。そしてこれらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与える(印字濃度が高い)こと、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また使用される水溶性色素には、特に水への溶解度が高いこと、インクに添加される水溶性有機溶剤への溶解度が高いことが要求される。更に、形成される記録画像には耐水性、耐光性、耐オゾン性、及び耐湿性等の画像堅牢性が求められている。
【0003】
前記の耐オゾン性とは、空気中に存在する酸化作用を持つオゾンガスが、記録紙上や記録紙中で色素に作用し、記録画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。オゾンガスの他にも、この種の作用を持つ酸化性ガスとしては、NOx、SOx等が挙げられる。しかし、これらの酸化性ガスの中でもオゾンガスがインクジェット記録画像の変退色現象を促進させる主原因物質とされている。
写真画質が得られるインクジェット専用紙の表面には、一般にインク受容層が設けられる。このインク受容層には、インクの乾燥を早め、また高画質を得る目的で色素のにじみを少なくするために、多孔性白色無機物等の材料が用いられることが多い。このようなインクジェット専用紙において、オゾンガスによる記録画像の変退色が顕著に見られる。この酸化性ガス、特にオゾンガスによる変退色現象はインクジェット記録画像に特徴的なものであるため、耐オゾン性の向上はインクジェット記録方法における最も重要な課題の1つとなっている。
【0004】
今後、インクを用いた記録(印刷)方法におけるインクジェット記録方法の使用分野を拡大すべく、インクジェット記録に用いられるインク組成物及びそれによって着色された着色体には、耐光性、耐オゾン性、耐湿性、耐水性等の各種堅牢性の更なる向上が強く求められている。
【0005】
種々の色相のインクが種々の色素から調製されているが、イエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色等の色相を有する色素は、単色で用いられることは当然ながら、他色の色素との配合により異なる色相を表現すること、すなわち調色用色素としても用いられることがある重要な色素の1つである。このため、印字濃度が高いこと、各種の堅牢性に優れることと共に、光への暴露時等における退色に際して、イエロー、マゼンタ、ブラック等の各色相での退色バランスに優れることも要求される。退色バランスが悪い色素を用いた場合、退色した記録画像における特定の色相のみが強調されて画像全体の色彩が大きく変化することにより、画像品質が著しく損なわれる。従って、この退色バランスにすぐれることも、該色素の重要な性能の1つである。
【0006】
特許文献1には、水性ブラックインク組成物に含有するトリアジン染料が開示されている。
また、特許文献2及び3には、イエロー〜レッド色、又は茶色の色相を有するアゾ化合物、及びこれを含有するインク組成物が開示されている。
また、特許文献4及び5には、架橋基を有するイエロー色の色素である水溶性アゾ化合物が開示されている。
しかし、市場の要求を満足する色素は未だ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−332426号公報
【特許文献2】国際公開2006/001274号パンフレット
【特許文献3】特開2005−298636号公報
【特許文献4】国際公開2008/142989号パンフレット
【特許文献5】特開2009−84345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐光性に優れた記録画像を与えるイエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色の色相を有する色素と、該色素を含有するインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の下記式(1)で表される水溶性アゾ化合物又はその塩が、前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0010】
即ち本発明は、
1)
下記式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩、
【0011】
【化1】

【0012】
[式(1)中、
1からR4はそれぞれ独立に、水素原子;C1−C4アルキル基又はC1−C4アルコキシ基を表し、
5及びR6はそれぞれ独立にC1−C4アルキル基を表し、
7及びR8はそれぞれ独立に、水素原子又はC1−C4アルキル基を表し、
nは1から4の整数を表し、
Xは2価の基を表す。]、
【0013】
2)
Xで表される2価の基が、C1−C8アルキレンジアミノ基;ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキレンジアミノ基;C1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C6アルコキシC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C4アルコキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキルアミノ基;キシリレンジアミノ基;ピペラジン−1,4−ジイル基;C1−C4アルキル基若しくはC1−C4アルコキシ基で置換されたピペラジン−1,4−ジイル基;又は、フェニレンジアミノ基;よりなる群から選択されるいずれかの基である前記1)に記載のアゾ化合物又はその塩、
3)
nが1から3の整数である前記1)又は2)に記載のアゾ化合物又はその塩、
4)
式(1)で表されるアゾ化合物が下記式(2)で表されるアゾ化合物である前記1)に記載のアゾ化合物又はその塩、
【0014】
【化2】

【0015】
[式(2)中、
1からR8;n及びXは、式(1)におけるのと同じ意味を表す。]。
【0016】
5)
1及至R4がそれぞれ独立に、水素原子;C1−C4アルキル基;又は、C1−C4アルコキシ基であり、
5及びR6がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
7及びR8が、水素原子又はC1−C4アルキル基であり、
nが1又は2の整数であり、
Xが、C1−C8アルキレンジアミノ基;カルボキシ基で置換されたC1−C8アルキレンジアミノ基;C1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C6アルコキシC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C4アルコキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキルアミノ基;キシリレンジアミノ基;ピペラジン−1,4−ジイル基;C1−C4アルキル基で置換されたピペラジン−1,4−ジイル基;又は、フェニレンジアミノ基;よりなる群から選択されるいずれかの基である、前記1)に記載のアゾ化合物又はその塩、
6)
1及至R4がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
5及びR6がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
7及びR8がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
nが1の整数であり、
Xが、ピペラジン−1,4−ジイル基;である前記1)に記載のアゾ化合物又はその塩、
7)
前記1)乃至6)のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩を少なくとも1種類、色素として含有するインク組成物、
8)
さらに水溶性有機溶剤を含有する前記7)に記載のインク組成物、
9)
前記8)に記載のインク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法、
10)
被記録材が、情報伝達用シートである前記9)に記載のインクジェット記録方法、
11)
情報伝達用シートが、多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである前記10)に記載のインクジェット記録方法、
12)
前記8)に記載のインク組成物を含む容器が装填されたインクジェットプリンタ、
13)
a)前記1)乃至6)のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩、
b)前記7)に記載のインク組成物、又は、
c)前記9)に記載のインクジェット記録方法、のいずれかによって着色された着色体、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアゾ化合物又はその塩は水溶解性に優れ、インク組成物を製造する過程等でのメンブランフィルターによるろ過性が良好である。また、これを含有するインク組成物をインクジェット記録に用いることにより、耐光性に優れたイエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色の色相を有する記録物が提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を詳細に説明する。尚、本明細書においては特に断りがない限り、スルホ基およびカルボキシ基等の酸性官能基は遊離酸の形で表す。
また以下の本明細書においては特に断りがない限り、本発明の水溶性アゾ化合物又はその塩については煩雑さを避けるため、「化合物又はその塩」の両者を含めて「化合物」と便宜上、簡略して記載する。
【0019】
本発明のアゾ化合物は、イエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色を呈する水溶性の色素であり、各種の記録用、特にインクジェット記録用インクに含有する色素として好適に用いることができる。本発明のアゾ化合物は、前記式(1)で表される。
【0020】
前記式(1)中、R1からR4におけるC1−C4アルキル基としては、直鎖、又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。C1−C4アルキル基の具体例としては例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルといった分岐鎖のもの;が挙げられる。好ましい具体例としてはメチル、エチルが挙げられ、メチルが特に好ましい。
【0021】
前記R1からR4におけるC1−C4アルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられる。具体例としてはメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシといった直鎖のもの;イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシといった分岐鎖のもの;等が挙げられる。好ましい具体例としてはメトキシ、エトキシが挙げられ、メトキシが特に好ましい。
【0022】
前記のうち、R1からR4としては、C1−C4アルキル基が好ましい。
【0023】
前記R5及びR6におけるC1−C4アルキル基としては、前記「R1からR4におけるC1−C4アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0024】
前記R7及びR8におけるC1−C4アルキル基としては、前記「R1からR4におけるC1−C4アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
7及びR8としては、C1−C4アルキル基が好ましい。
【0025】
前記式(1)中、nはスルホ基の数を表し、通常1−5の整数、好ましくは1−4、より好ましくは1−3、さらに好ましくは1−2、特に好ましくは1の整数である。
【0026】
前記式(1)において、それぞれ置換位置が特定されていないスルホ基の置換位置は、特に制限されないが、該スルホ基が置換するベンゼン環において、アゾ基の結合位置を1位として、
nが1のとき、2位、3位又は4位、好ましくは3位又は4位;
nが2のとき、2位及び3位、2位及び4位、2位及び5位、2位及び6位、3位及び4位、又は3位及び5位であり、好ましくは2位及び4位、又は2位及び5位;である。
【0027】
前記式(1)中、Xは2価の基を表す。
2価の基としては、式(1)で表される化合物が水に対して溶解性を示す範囲で、2価のものであれば特に制限されない。ここで、水に対する式(1)で表される化合物の溶解性としては、1リットルの水に対して式(1)で表される化合物が通常5g以上、好ましくは10g以上、より好ましくは25g以上、さらに好ましくは50g以上、特に好ましくは100g以上、それぞれ溶解するのが良い。
その具体例としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の2価の原子(好ましくは2価のヘテロ原子);それぞれC1−C8の、アルキレンジアミノ基、アルキレンジオキシ基、又はアルキレンジチオ基;N,N’−ヒドラジンジイル基;アミノアルコキシアルキルアミノ基といった、酸素原子に2つのアルキルアミノ基が置換したもの;及び、アミノアルコキシアルコキシアルキルアミノ基等の、エーテル結合を1つ以上含むアルキレンオキシド鎖の末端に、アミノ基及びアルキルアミノ基が1つずつ置換したもの;等が挙げられる。
Xにおける、これらの2価の基は、炭素原子の置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及びアルコキシ基よりなる群から選択される基を;また窒素原子の置換基として、ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されても良いアルキル基を;それぞれ有しても良い。
【0028】
Xにおける2価の基としては、C1−C8アルキレンジアミノ基;ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキレンジアミノ基;C1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C6アルコキシC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C4アルコキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキルアミノ基;キシリレンジアミノ基;ピペラジン−1,4−ジイル基;C1−C4アルキル基又はC1−C4アルコキシ基で置換されたピペラジン−1,4−ジイル基;又は、フェニレンジアミノ基;よりなる群から選択されるいずれかの基が好ましい。
なお、これらの2価の架橋基はいずれもアミノ基を2つ有する「ジアミノ」基である。従って、例えばピペラジン−1,4−ジイル等の一部の基を除き、該「ジアミノ」のうち、いずれか1つの窒素原子で結合する(すなわち、N,N−ジイルとなる)場合、又は異なる2つの窒素原子で結合する(すなわち、N,N’−ジイルとなる)場合の両者を含む。これらのうち、「N,N’−ジイル」となる後者の場合が特に好ましい。
【0029】
XにおけるC1−C8アルキレンジアミノ基としては、直鎖、又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。炭素数の範囲としては通常C1−C8、好ましくはC2−C8、より好ましくはC2−C6、さらに好ましくはC2−C4が挙げられる。
その具体例としては例えば、エチレンジアミノ、1,3−プロピレンジアミノ、1,4−ブチレンジアミノ、1,5−ペンチレンジアミノ、1,6−ヘキシレンジアミノ、1,7−ヘプチレンジアミノ、1,8−オクチレンジアミノといった直鎖のもの;2−メチル−1,3−プロピレンジアミノ、3−メチル−1,4−ブチレンジアミノ、4−メチル−1,6−ヘキシレンジアミノ等の分岐鎖のもの;等が挙げられる。
【0030】
Xにおけるヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキレンジアミノ基としては、前記C1−C8アルキレンジアミノ基における任意の炭素原子に、これらの置換基を有するものが挙げられる。該置換基の数は特に制限されないが、好ましくは1又は2である。また、置換基を複数有するとき、その種類としては同一でも異なっていても良く、同一のものが好ましい。
その具体例としては例えば、2−ヒドロキシ−1,3−プロピレンジアミノ、2−ヒドロキシ−1,4−ブチレンジアミノ、3−ヒドロキシ−1,6−ヘキシレンジアミノ等のヒドロキシ置換C1−C8アルキレンジアミノ基;1−カルボキシエチレンジアミノ、1−カルボキシ−1,3−プロピレンジアミノ、1−カルボキシ−1,4−ブチレンジアミノ、1−カルボキシ−1,5−ペンチレンジアミノ、1,5−ジカルボキシ−1,5−ペンチレンジアミノ等のカルボキシ置換C1−C8アルキレンジアミノ基;等が挙げられる。
【0031】
XにおけるC1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられる。該「C1−C6」アルキル部分については直鎖のものが好ましい。該「C1−C6」アルキル部分の炭素数の範囲としては通常C1−C6、好ましくはC2−C4、特に好ましくはC2又はC3である。
その具体例としては例えば、メチルアミノエチルアミノ基、エチルアミノエチルアミノ基、プロピルアミノエチルアミノ基、ブチルアミノエチルアミノ基等の、直鎖C1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;イソプロアミノエチルアミノ基、イソブチルアミノエチルアミノ基、sec−ブチルアミノエチルアミノ基、t−ブチルアミノエチルアミノ基等の分岐鎖C1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;等が挙げられる。
【0032】
Xにおける、ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基としては、前記C1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基における任意の炭素原子に、これらの置換基を有するものが挙げられる。置換基の位置は特に制限されないが、窒素原子とヒドロキシ基とが同一の炭素原子に置換しないものが好ましい。炭素数の範囲としては、好ましいものも含めて前記C1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基におけるのと同じ範囲が挙げられる。また、C1−C4アルキル部分の炭素数の範囲としては通常C1−C4、好ましくはC2−C4、より好ましくはC2−C3である。
ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基の置換数は、通常1又は2、好ましくは1である。また、置換基を複数有するとき、その種類は同一でも異なっていても良く、同一のものが好ましい。
その具体例としては例えば、2−ヒドロキシエチルアミノエチルアミノ基、3−ヒドロキシプロピルアミノエチルアミノ基、2−ヒドロキシプロピルアミノエチルアミノ基、4−ヒドロキシブチルアミノエチルアミノ基等のC1−C4アルキル部分がヒドロキシ基で置換されたもの;カルボキシメチルアミノエチルアミノ基、2−カルボキシエチルアミノエチルアミノ基、3−カルボキシプロピルアミノエチルアミノ基、4−カルボキシブチルアミノエチルアミノ基等のC1−C4アルキル部分がカルボキシ基で置換されたもの;等が挙げられる。
【0033】
Xにおける、アミノC1−C6アルコキシC1−C6アルキルアミノ基としては、直鎖、又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。炭素数の範囲としては通常アミノC1−C6アルコキシC1−C6アルキルアミノ基、好ましくはアミノC2−C4アルコキシC2−C4アルキルアミノ基が挙げられ、特に好ましくはアミノC2−C3アルコキシC2−C3アルキルアミノ基が挙げられる。その具体例としては例えば、アミノエトキシエチルアミノアミノ、アミノエトキシプロピルアミノ、アミノプロポキシプロピルアミノ、アミノエトキシペンチルアミノ等が挙げられる。
【0034】
Xにおける、アミノC1−C4アルコキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキルアミノ基としては、直鎖、又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。炭素数の範囲としては通常アミノC1−C4アルコキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキルアミノ基、好ましくはアミノC2−C4アルコキシC2−C4アルコキシC2−C4アルキルアミノ基が挙げられ、特に好ましくはアミノC2−C3アルコキシC2−C3アルコキシC2−C3アルキルアミノ基が挙げられる。
その具体例としては例えば、アミノエトキシエトキシエチルアミノ、アミノエトキシプロポキシエチルアミノ、アミノエトキシブトキシエチルアミノ等の直鎖のもの;アミノエトキシ(2−メチルエトキシ)エチルアミノ、アミノエトキシ(2−メチルプロポキシ)エチルアミノ等の分岐鎖のもの;等が挙げられる。
【0035】
Xにおけるキシリレンジアミノ基としては、例えば、o−キシリレンジアミノ基、m−キシリレンジアミノ基、p−キシリレンジアミノ基が挙げられ、m−キシリレンジアミノ基又はp−キシリレンジアミノ基が好ましい。
【0036】
Xにおける、C1−C4アルキル基又はC1−C4アルコキシ基で置換されたピペラジン−1,4−ジイル基としては、ピペラジン環の環構成原子の任意の炭素原子に、これらの置換基を有するものが挙げられる。該置換基の数は、通常1又は2、好ましくは1である。また、置換基を複数有するとき、その種類としては同一でも異なっていても良く、同一のものが好ましい。
その具体例としては例えば、2−メチルピペラジン−1,4−ジイル基、2−エチルピペラジン−1,4−ジイル基、2,5−ジメチルピペラジン−1,4−ジイル基、2,6−ジメチルピペラジン−1,4−ジイル基、2,5−ジエチルピペラジン−1,4−ジイル基、2−メチル−5−エチルピペラジン−1,4−ジイル基;等が挙げられる。
【0037】
Xにおけるフェニレンジアミノ基としては、o−、m−、及びp−フェニレンジアミノ基が挙げられ、m−又はp−フェニレンジアミノ基が好ましい。
【0038】
前記のうち、Xとしては、C1−C8アルキレンジアミノ基;カルボキシ基で置換されたC1−C8アルキレンジアミノ基;ヒドロキシで置換されたC1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C4アルコキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキルアミノ基;キシリレンジアミノ基;又は、ピペラジン−1,4−ジイル基;が好ましく挙げられる。
より好ましくは、C2−C4アルキレンジアミノ基;カルボキシ基で置換されたC2−C6アルキレンジアミノ基;ヒドロキシ基で置換されたN−C2−C3アルキル−C2−C3アルキレンジアミノ基;アミノC2−C3アルコキシC2−C3アルコキシC2−C3アルキルアミノ基;m−又はp−キシリレンジアミノ基;ピペラジン−1,4−ジイル基;が挙げられる。
これらのうち、好ましい具体例としては、1,2−エチレンジアミノ;1,3−プロピレンジアミノ;1,4−ブチレンジアミノ;1−カルボキシペンチレン−1,5−ジアミノ;N−2−ヒドロキシエチル−エチレンジアミノ;アミノエトキシエトキシエチルアミノ;m−キシリレンジアミノ;又は、ピペラジン−1,4−ジイル;が挙げられる。
中でもピペラジン−1,4−ジイルが特に好ましい。
【0039】
式(1)で表される化合物としては、
1及至R4がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
5及びR6がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
7及びR8がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
nが1の整数であり、
Xが、ピペラジン−1,4−ジイル基;である組み合わせの化合物が特に好ましい。
【0040】
前記式(1)で表される本発明のアゾ化合物のうち、好ましいものが前記式(2)で表される化合物である。
式(2)中、R1からR8、n及びXとしては、前記式(1)においてそれぞれ挙げたものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0041】
前記の式(1)乃至式(2)におけるR1からR8、式(1)におけるR1からR8の置換位置、及び式(1)及び式(2)における置換位置が特定されていないスルホの置換位置、スルホ基の置換数等について、好ましいもの同士を組み合わせた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組み合わせたものはさらに好ましい。さらに好ましいもの同士、好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【0042】
前記式(1)乃至式(2)で表されるアゾ化合物は、例えば次のような方法で合成することができる。なお、化合物の構造式は遊離酸の形で表すものとし、また下記式(3)乃至(23)において適宜使用されるR1からR8、n及びXは、それぞれ式(1)におけるのと同じ意味を表す。
下記式(3)で表される化合物を常法によりジアゾ化し、これと下記式(4)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ下記式(5)で表される化合物を得る。
【0043】
【化3】

【0044】
【化4】

【0045】
【化5】

【0046】
得られた式(5)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(6)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ下記式(7)で表される化合物を得る。
【0047】
【化6】

【0048】
【化7】

【0049】
一方、下記式(8)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(9)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ下記式(10)で表される化合物を得る。
【0050】
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
【化10】

【0053】
前記式(10)で表される化合物の別合成方法としては、以下の方法が挙げられる。すなわち、前記式(8)で表される化合物を常法によりジアゾ化し、これとアニリンのメチル−ω−スルホン酸誘導体とを常法によりカップリング反応させた後、アルカリ条件下で加水分解して下記式(11)で表される化合物を得る。得られた式(11)で表される化合物を発煙硫酸等で処理してスルホ化することにより、前記式(10)で表される化合物を得ることもできる。
【0054】
【化11】

【0055】
得られた式(10)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(12)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ下記式(13)で表される化合物を得る。
【0056】
【化12】

【0057】
【化13】

【0058】
同様にして、前記式(3)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(14)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ、下記式(15)で表される化合物を得る。
【0059】
【化14】

【0060】
【化15】

【0061】
得られた式(15)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(16)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ、下記式(17)で表される化合物を得る。
【0062】
【化16】

【0063】
【化17】

【0064】
同様にして、前記式(10)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(18)で表される化合物とを常法によりカップリング反応させ、下記式(19)で表される化合物を得る。
【0065】
【化18】

【0066】
【化19】

【0067】
得られた前記式(7)で表される化合物とハロゲン化シアヌル、例えば塩化シアヌルとを、常法により縮合反応させ下記式(20)で表される化合物を得る。
【0068】
【化20】

【0069】
次いで、得られた前記式(20)で表される化合物と式(13)で表される化合物とを、常法により縮合反応させ下記式(21)で表される化合物を得る。
【0070】
【化21】

【0071】
同様にして、得られた前記式(17)で表される化合物とハロゲン化シアヌル、例えば塩化シアヌルとを、常法により縮合反応させ下記式(22)で表される化合物を得る。
【0072】
【化22】

【0073】
次いで、得られた前記式(22)で表される化合物と式(19)で表される化合物とを、常法により縮合反応させ下記式(23)で表される化合物を得る。
【0074】
【化23】

【0075】
得られた式(21)で表される化合物、式(23)で表される化合物、及び下記式(24)で表されるXに対応する化合物を、常法により縮合反応させる事により、前記式(1)で表される本発明のアゾ化合物を得ることができる。
【0076】
【化24】

【0077】
式(1)で表される本発明のアゾ化合物の好適な具体例として、特に限定されるものではないが、下記表1乃至21に示す化合物等が挙げられる。
各表においてスルホ基及びカルボキシ基等の官能基は、便宜上、遊離酸の形で記載する。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
【表7】

【0085】
【表8】

【0086】
【表9】

【0087】
【表10】

【0088】
【表11】

【0089】
【表12】

【0090】
【表13】

【0091】
【表14】

【0092】
【表15】

【0093】
【表16】

【0094】
【表17】

【0095】
【表18】

【0096】
【表19】

【0097】
【表20】

【表21】

【0098】
前記式(3)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施される。例えば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは0〜20℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(3)で表される化合物のジアゾ化物と式(4)または式(18)で表される化合物とのカップリング反応も、それ自体公知の反応条件で実施される。例えば水又は水性有機媒体中、0〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに酸性から弱酸性のpH値、例えばpH1〜6で反応を行うことが有利である。ジアゾ化反応液は酸性であり、またカップリング反応の進行により反応系内は更に酸性化してしまうため、塩基の添加によって反応液を前記のpH値へ調整するのが好ましい。塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;酢酸ナトリウム等の酢酸塩;アンモニア又は有機アミン;等が使用できる。式(3)の化合物と式(4)または式(18)の化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0099】
前記式(5)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施される。例えば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは0〜25℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(5)で表される化合物のジアゾ化物と、式(6)又は式(16)で表される化合物とのカップリング反応も、それ自体公知の反応条件で実施される。例えば水又は水性有機媒体中、0〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに酸性から弱酸性のpH値、例えばpH1〜6で反応を行うことが有利である。ジアゾ化反応液は酸性であり、またカップリング反応の進行により反応系内は更に酸性化してしまうため、塩基の添加によって反応液を前記のpH値へ調整するのが好ましい。塩基としては前記と同じものが使用できる。式(5)の化合物と、式(6)又は式(16)の化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0100】
前記式(8)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施される。例えば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは0〜25℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(8)で表される化合物のジアゾ化物と、式(9)で表される化合物とのカップリング反応も、それ自体公知の反応条件で実施される。例えば水又は水性有機媒体中、0〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに酸性から弱酸性のpH値、例えばpH1〜6で反応を行うことが有利である。ジアゾ化反応液は酸性であり、またカップリング反応の進行により反応系内は更に酸性化してしまうため、塩基の添加によって反応液を前記のpH値へ調整するのが好ましい。塩基としては前記と同じものが使用できる。式(8)の化合物と、式(9)の化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0101】
前記式(10)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施される。例えば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは0〜25℃の温度で亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(10)で表される化合物のジアゾ化物と、式(12)又は式(18)で表される化合物とのカップリング反応も、それ自体公知の反応条件で実施される。例えば水又は水性有機媒体中、0〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに酸性から弱酸性のpH値、例えばpH1〜6で反応を行うことが有利である。ジアゾ化反応液は酸性であり、またカップリング反応の進行により反応系内は更に酸性化してしまうため、塩基の添加によって反応液を前記のpH値へ調整するのが好ましい。塩基としては前記と同じものが使用できる。式(10)の化合物と、式(12)又は式(18)の化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0102】
前記式(7)、又は前記式(17)で表される化合物とハロゲン化シアヌル、例えば塩化シアヌルとの縮合反応はそれ自体公知の方法で実施される。例えば水又は水性有機媒体中、0〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに弱酸性から中性のpH値、例えばpH3〜8で反応を行うことが有利である。反応の進行により反応系内は酸性化してしまうため、塩基の添加によって前記のpH値へ調整するのが好ましい。塩基としては前記と同じものが使用できる。式(7)、又は前記式(17)の化合物とハロゲン化シアヌルとは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0103】
前記式(13)で表される化合物と前記式(20)で表される化合物との縮合反応、又は前記式(19)で表される化合物と前記式(22)で表される化合物との縮合反応は、それ自体公知の方法で実施される。例えば水又は水性有機媒体中、10〜80℃、好ましくは25〜70℃の温度ならびに弱酸性から弱アルカリ性のpH値、例えばpH5〜9で反応を行うことが有利である。pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては前記と同じものが使用できる。式(13)で表される化合物と式(20)で表される化合物、又は式(19)で表される化合物と式(22)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0104】
前記式(21)で表される化合物、前記式(23)で表される化合物、及び前記式(24)で表される化合物の縮合反応はそれ自体公知の方法で実施される。例えば水又は水性有機媒体中、50〜100℃、好ましくは60〜95℃の温度ならびに中性から弱アルカリ性のpH値、例えばpH7〜10で行うことが有利である。pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては前記と同じものが使用できる。式(21)で表される化合物1当量と式(23)で表される化合物1当量に対して、式(24)で表される化合物は0.4〜0.6当量、好ましくは0.5当量を用いる。
【0105】
前記式(1)で表される本発明のアゾ化合物の塩は、無機又は有機陽イオンとの塩である。そのうち無機塩の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;アルカリ土類金属塩;及びアンモニウム塩;が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム及びアンモニウム塩である。
また、有機陽イオンの塩としては、例えば下記式(25)で表される4級アンモニウムイオンとの塩が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、本発明のアゾ化合物の遊離酸、及びそれらの各種の塩が混合物であってもよい。例えばナトリウム塩とアンモニウム塩の混合物、遊離酸とナトリウム塩の混合物、リチウム塩、ナトリウム塩及びアンモニウム塩の混合物等、いずれの組み合わせを用いても良い。塩の種類によって溶解性等の物性が異なる場合も有り、必要に応じて適宜塩の種類を選択すること;又は複数の塩等を含む場合にはその比率を変化させること;等により目的に適う物性を有する混合物を得ることも好ましく行われる。
【0106】
【化25】

【0107】
前記式(25)においてZ1、Z2、Z3、及びZ4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基(好ましくはC1−C4アルキル基)、ヒドロキシアルキル基(好ましくはヒドロキシC1−C4アルキル基)及びヒドロキシアルコキシアルキル基(好ましくはヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基)よりなる群から選択される基を表し、少なくともいずれか1つは水素原子以外の基である。
式(23)におけるZ1乃至Z4のアルキル基の具体例としてはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル等が挙げられ、ヒドロキシアルキル基の具体例としてはヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシC1−C4アルキル基が挙げられ、ヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等ヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基(好ましくはヒドロキシエトキシC1−C4アルキル基)が挙げられる。前記のうち、好ましい具体例としては水素原子;メチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等が挙げられる。
【0108】
前記式(25)として好ましい化合物のZ1、Z2、Z3、及びZ4の組み合わせの具体例を下記表22に示す。
【0109】
【表22】

【0110】
式(1)で表される本発明のアゾ化合物の所望の塩を合成する方法としては、式(1)で表される化合物の合成反応における最終工程の終了後、所望の無機塩又は有機の4級アンモニウム塩を反応液に加えて塩析する方法;又は、該反応液に塩酸等の鉱酸を加えて反応液から該アゾ化合物を遊離酸の形で単離した後、得られた遊離酸を、必要に応じて水、酸性の水又は水性有機媒体等で洗浄して、付着した無機塩等の不純物を除去し、再度、水性の媒体中(好ましくは水中)で、該遊離酸に所望の無機塩基又は前記の4級アンモニウム塩に対応する有機塩基を加えて塩形成する方法;等が挙げられる。このような方法により、目的とするアゾ化合物の塩を、溶液又は析出固体の状態として得ることができる。ここで酸性の水とは、例えば硫酸、塩酸等の鉱酸や酢酸等の有機酸を水に溶解し、酸性にしたものをいう。また水性有機媒体とは、いずれも水と混和可能な、有機物質及び/又は有機溶剤等と、水との混和物をいう。
この水と混和可能な有機物質や有機溶剤としては、後述する水溶性有機溶剤等が挙げられる。
式(1)で表される本発明のアゾ化合物を所望の塩とする際に用いる無機塩の例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属のハロゲン塩;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のアンモニウムイオンのハロゲン塩;水酸化アンモニウム(アンモニア水)等のアンモニウムイオンの水酸化物;等が挙げられる。
また、有機陽イオンの塩の例としては、例えばジエタノールアミン塩酸塩、トリエタノールアミン塩酸塩等の、前記式(25)で表される4級アンモニウムイオンのハロゲン塩等が挙げられる。
【0111】
本発明のインク組成物は、色素として本発明のアゾ化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする。本発明のアゾ化合物は、イエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色と広範な色相を呈する化合物を含む。このため、2種類以上の本発明の化合物を配合して望みの色相に調色しても良いし、単一の化合物を使用して、例えばオレンジインクやレッドインク等を調製することもできる。
本発明のインク組成物は、天然及び合成繊維材料又は混紡品の染色、さらには、筆記用インク及び、特にインクジェット記録用インク組成物の製造に適している。
本発明のアゾ化合物を含む反応液、例えば該化合物の合成反応における最終工程終了後の反応液等は、本発明のインク組成物の製造に直接使用する事も出来る。しかし、該反応液から該化合物を、例えば晶析、又はスプレー乾燥等の方法により単離した後、必要に応じて乾燥し、得られた該化合物を使用してインク組成物を調製することもできる。本発明のインク組成物は、本発明のアゾ化合物を色素として、該インク組成物の総質量中に通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%含有する。
【0112】
本発明のインク組成物は、前記式(1)で表される化合物を水又は水性媒体(水溶性有機物質や水溶性有機溶剤と、水との混和液)等に溶解し、必要に応じインク調製剤を添加したものである。このインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、不純物として含有する金属陽イオンの塩化物、例えば塩化ナトリウム;硫酸塩、例えば硫酸ナトリウム;等の無機不純物の含有量が少ないものを用いるのが好ましい。この場合、例えば塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムの総含有量は、本発明のアゾ化合物の総質量中に1質量%以下程度である。下限は検出機器の検出限界以下、すなわち0%でも良い。無機不純物の少ない該化合物を製造する方法としては、例えばそれ自体公知の逆浸透膜を用いる方法;又は、本発明の化合物又はその塩の乾燥品あるいはウェットケーキを、水溶性有機溶剤、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のC1−C4アルカノール(必要に応じて水を含有しても良い)等に加えて懸濁精製し、固体を濾過分離し、乾燥する等の方法;により脱塩処理すればよい。
【0113】
本発明のインク組成物は水を媒体として調製され、必要に応じて水溶性有機溶剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有しても良い。水溶性有機溶剤は、本発明のインク組成物における染料の溶解、乾燥の防止(湿潤状態の保持)、粘度の調整、浸透の促進、表面張力の調整、消泡等の効果を有する場合があり、本発明のインク組成物中には含有する方が好ましい。
インク調製剤としては、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、褪色防止剤、表面張力調整剤、消泡剤等の公知の添加剤が挙げられる。
前記の水溶性有機溶剤の含有量は、本発明のインク組成物の総質量に対して0〜60質量%、好ましくは10〜50質量%であり、インク調製剤は同様に0〜20質量%、好ましくは0〜15質量%用いるのが良い。前記以外の残部は水である。
【0114】
本発明で使用しうる水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1−C4アルカノール;N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はチオジグリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(好ましくはトリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4モノアルキルエーテル;γ−ブチロラクトン;又はジメチルスルホキシド;等があげられる。
【0115】
前記の水溶性有機溶剤として好ましいものは、イソプロパノール;グリセリン;モノ、ジ又はトリエチレングリコール;ジプロピレングリコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;およびブチルカルビトール;であり、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンおよびブチルカルビトールである。これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0116】
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
その他の防腐防黴剤としてソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。防腐防黴剤の他の具体例としては、例えば、アーチケミカル社製 商品名プロクセルRTMGXL(S)及びプロクセルRTMXL−2(S)等が好ましく挙げられる。
なお、本明細書において、上付きの「RTM」は登録商標を意味する。
【0117】
pH調整剤は、インクの保存安定性を向上させる目的で、インクのpHを6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;タウリン等のアミノスルホン酸類;等が挙げられる。
【0118】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0119】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0120】
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物等が挙げられ、さらにベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0121】
粘度調整剤としては、例えば水溶性高分子化合物が挙げられ、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0122】
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。尿素を使用するのが好ましい。
【0123】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及びヘテロ環類等があり、金属錯体としてはニッケル錯体、及び亜鉛錯体等が挙げられる。
【0124】
表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0125】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0126】
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0127】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0128】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;等が挙げられる。
市販品としては、例えば、いずれも日信化学社製の商品名サーフィノールRTM104、82、465;オルフィンRTMSTG;等が挙げられる。
【0129】
消泡剤としては、高酸化油系、グリセリン脂肪酸エステル系、フッ素系、シリコーン系化合物等が必要に応じて用いられる。
【0130】
これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。なお、本発明のインク組成物の表面張力は通常25〜70mN/m、好ましくは25〜60mN/mである。また本発明のインク組成物の粘度は30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下に調整することがより好ましい。
【0131】
本発明のインク組成物を製造するにあたり、インク調製剤等の各薬剤を溶解させる順序には特に制限はない。該組成物を調製するにあたり、用いる水はイオン交換水又は蒸留水等不純物が少ない物が好ましい。さらに、必要に応じメンブランフィルター等を用いて精密濾過を行って夾雑物を除いてもよく、インクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合は精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1μm〜0.1μm、好ましくは、0.5μm〜0.1μmである。
【0132】
本発明のアゾ化合物を含有するインク組成物は、印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング、又は記録(印刷)、特にインクジェット記録における使用に適する。また本発明のインク組成物は、インクジェットプリンタのノズル付近における乾燥に対しても固体析出は起こりにくく、この理由によりヘッドの閉塞もまた起こりにくい。さらに本発明のインク組成物をインクジェット記録に用いた場合、水、湿度、光、オゾン、酸化窒素ガス、及び摩擦に対する良好な耐性を有する、高品質で、印字濃度の高いイエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色の記録物が得られる。
【0133】
本発明のインク組成物は、前記インク調製剤等の各成分を任意の順序で混合、撹拌することによって得られる。また、本発明のインク組成物の色相を微調整する目的で、本発明のアゾ化合物以外に、種々の色相を有する他の色素を、本発明の効果が阻害されない範囲で混合してもよい。その場合は、それぞれ公知のイエロー(例えばC.I.ダイレクトイエロー34、C.I.ダイレクトイエロー58、C.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー132等)、オレンジ(例えばC.I.ダイレクトオレンジ26、C.I.ダイレクトオレンジ29、C.I.ダイレクトオレンジ49等)、ブラウン、スカーレット、レッド(例えばC.I.ダイレクトレッド62、C.I.ダイレクトレッド75、C.I.ダイレクトレッド79、C.I.ダイレクトレッド80、C.I.ダイレクトレッド84等)、マゼンタ、バイオレット、ブルー、ネイビー、シアン、グリーン、その他の色の色素を混合して用いることができる。
【0134】
本発明のアゾ化合物の1つの用途として、調色色素としての利用が挙げられる。本発明のアゾ化合物は、イエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色の色相が得られるため、本発明のアゾ化合物を調色色素として用いて他の色相の色素と配合することにより、多様な色相のインクを調製することも可能である。そのような1例として、ブラックインクの色相の微調整や、高品位とされる無彩色のブラック〜グレー色を再現する目的で、ブラック色素と本発明のアゾ化合物を配合することが挙げられる。
本発明のアゾ化合物をブラックインクの調色に用いる場合、配合相手となるブラック色素としてはどのようなものを用いても良く、例えば下記表23に記載の公知の化合物等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0135】
【表23】

【0136】
前記公知のブラック色素以外にも、例えば、国際公開03/106572号パンフレットの各実施例に記載の色素;国際公開2005/052065号パンフレットの各実施例に記載の色素;特開2005−220338号の表1乃至6に記載の色素;及び、特開2007−314602号の化合物例1乃至38に記載の色素;等を、本発明のアゾ化合物に配合し、ブラックインクを調製することもできる。
【0137】
インクジェットプリンタにおいて、高精細な画像を供給することを目的に、ブラックインクについて、高濃度のインク(濃ブラックインク)と低濃度のインク(淡ブラックインク)の2種類以上のブラックインクが1台のプリンタに装填されたものもある。その場合、本発明のアゾ化合物のみを色素として含有するインク組成物;又は該化合物と、他のブラック色素とを配合したブラックインク組成物;について高濃度のインク組成物と、低濃度のインク組成物とをそれぞれ調製し、それらをインクセットとして使用してもよい。また、どちらか一方だけに該化合物を使用、又は配合してもよい。また本発明の水溶性アゾ化合物の他にも、公知のイエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色の色素等を併用したインク組成物を用いてもよい。公知色素の例としては、前記のC.I.ナンバーが付与された色素等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0138】
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインク組成物が充填された容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、これをインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に付着させることにより記録を行う方法である。本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインク組成物と共に、マゼンタインク、シアンインク、必要に応じて、グリーンインク、ブルー(又はバイオレット)インク、レッドインク、及びブラックインク等を併用しうる。この場合、各色のインクは、それぞれの容器に注入され、それらの容器を、インクジェットプリンタの所定位置に装填して使用する。
インクジェットプリンタには、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式;等を利用したものがある。本発明のインクジェット記録方法は、いかなる方式であっても使用が可能である。
【0139】
本発明のインクジェット記録方法に用いる被記録材としては、本発明のインク組成物により着色される物質であれば、その材質には特に制限はない。具体例としては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられ、これらの中では情報伝達用シートが好ましい。
【0140】
情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば前記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工する方法;又は多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等の、インク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物(通常はその微粒子)を、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に前記基材表面に塗工する方法;等により設けられる。
このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙、又は光沢フィルム等と呼ばれる。
これらの中でも空気中の酸化作用を持つガス、すなわちオゾンガスや酸化窒素ガス等に対して影響を受けやすいとされているのが、前記の多孔性白色無機物を基材表面に塗工したインクジェット専用紙である。
インクジェット専用紙として代表的な市販品の一例を挙げると、キヤノン(株)製、商品名光沢プロ[プラチナグレード]、プロフェッショナルフォトペーパー、および写真用紙光沢ゴールド;セイコーエプソン(株)製、商品名写真用紙クリスピアRTM(高光沢)、写真用紙(光沢)、フォトマット紙;日本ヒューレット・パッカード(株)製、商品名アドバンスフォト用紙(光沢);富士フィルム(株)製、商品名画彩 写真仕上げPro;等がある。
本発明のインク組成物は前記の酸化作用を持つガスへの耐性が優れているため、このような被記録材への記録においても変退色の小さい優れた記録画像を与える。また普通紙にも当然用いることができる。
【0141】
本発明の着色体とは、
a)本発明のアゾ化合物又はその塩、
b)本発明のインク組成物、又は、
c)本発明のインクジェット記録方法、で表される、a)乃至c)のいずれかにより着色された物質を意味する。着色体の材質には特に制限はなく、例えば前記の被記録材等が挙げられる。
着色方法としては、例えば浸染法、捺染法、スクリーン印刷等の印刷法、インクジェットプリンタを使用したインクジェット記録方法等が挙げられ、前記c)に記載の通り、インクジェット記録方法が好ましい。
【0142】
本発明のインク組成物は、イエロー〜オレンジ〜ブラウン〜レッド色であり、各種の記録用途、例えば筆記用具、インクジェット記録用のインク、特にインクジェット記録用インクとして好適に用いられる。普通紙にも使用できるが、特にインクジェット専用紙や光沢紙に記録した画像の印字濃度が高く、またブロンジング現象(色素が金属様の光沢を呈してぎらつく現象。記録画像の品位を著しく劣化させる。)を生じず、インクジェット記録方法に適した色相を有する。また、その記録画像の耐水性、耐光性、及び耐湿性等の各種堅牢度、特に耐光性が非常に高いという特徴を有する。
本発明のインク組成物は、貯蔵中に沈澱、分離することがなく、保存安定性が極めて高い。また、本発明のアゾ化合物は水溶解性に優れるため、これを含有する本発明のインク組成物をインクジェット記録に使用した場合、ノズル付近におけるインク組成物の乾燥による固体析出は非常に起こりにくく、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。本発明のインク組成物は、連続式インクジェットプリンタを用い、比較的長い時間間隔においてインクを再循環させて使用する場合;又はオンデマンド式インクジェットプリンタにより断続的に使用する場合;等のいずれにおいても、物理的性質の変化を起こさない。
【実施例】
【0143】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。
各合成反応及び晶析等の操作は、特に断りのない限り、いずれも攪拌下に行った。
実施例中の各化学式においても、スルホ及びカルボキシ等の酸性官能基は、遊離酸の形で表記した。
合成反応におけるpH値及び反応温度は、いずれも反応系内における測定値を記載した。
合成した化合物の最大吸収波長(λmax)はpH5〜8の水溶液中で測定し、測定した化合物については実施例中に、その測定値を記載した。
なお、最大吸収波長が経時的に変化する挙動を示す化合物については、最大吸収波長の変動が収束し、最大吸収波長の値が一定となったところで、その測定値を記載した。
【0144】
[実施例1]
(工程1)
水200部に、下記式(26)で表される化合物72部、及び35%塩酸36部を加えて溶液とした。この溶液を0〜10℃に冷却し、亜硝酸ナトリウム22.4部を加えた。10℃以下で1時間攪拌してジアゾ化反応を行った。得られた反応液にスルファミン酸0.6部を添加し5分間攪拌してジアゾ反応液を調製した。
一方、40〜50℃の温水200部に、特開2004−083492号公報に記載の方法で得た下記式(27)で表される化合物61.3部及び水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH5〜6に調整し、水溶液を得た。この水溶液に先に調製したジアゾ反応液を0〜10℃、30分間で滴下した。滴下中は炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH2〜3に保持した。滴下終了後、同温度、同pHで1時間攪拌し、下記式(28)で表される化合物を含む水溶液を得た。水溶液は824部であった。
【0145】
【化26】

【0146】
【化27】

【0147】
【化28】

【0148】
(工程2)
実施例1(工程1)で得た式(28)で表される化合物を含む水溶液824部に塩酸28部を加え、pH値を1以下に調整し、20℃以下に保持したまま、亜硝酸ナトリウム19部を加えた。20℃以下で1時間攪拌してジアゾ化反応を行った。得られた反応液にスルファミン酸0.8部を添加し5分間攪拌してジアゾ反応液を調製した。
一方、水200部に2,5−ジメチルアニリン22.2部、35%塩酸22.2部を加えて水溶液を調整した。この水溶液を先に調製したジアゾ反応液に15〜25℃、30分間で滴下した。滴下中は炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH3〜4に保持した。滴下後、同温度、同pHで一晩攪拌した後、水酸化ナトリウム水溶液でpH6に調整した。この時の液量は1900部であった。得られた溶液に塩化ナトリウム80部を加え、析出した固体を濾過分離することにより下記式(29)で表される化合物を含むウェットケーキ84.6部を得た。
【0149】
【化29】

【0150】
(工程3)
水200部に前記式(10)で表されるモノアゾ化合物(市販品のC.I.アシッドイエロー9を使用)35.7部を加え、水酸化ナトリウムでpH6に調整しながら溶解し、次いで亜硝酸ナトリウム7.2部を加えた。この溶液を、35%塩酸32.5部を水200部で希釈した水溶液中に、0〜10℃を保ちながら30分間で滴下した後、20℃以下で1時間攪拌してジアゾ化反応を行った。得られた反応液にスルファミン酸0.4部を添加し5分間撹拌してジアゾ反応液を調製した。
一方、40〜50℃の温水300部に、特開2004−083492号公報に記載の方法で得た前記式(27)で表される化合物24.0部及び25%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH5〜6に調整し、水溶液を得た。この水溶液に、先に調製したジアゾ反応液を15〜25℃、30分間で滴下した。滴下中は炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH5〜6に保持した。滴下終了後、同温度、同pHで2時間撹拌した後、35%塩酸の添加によりpH0〜1に調整した。得られた液を65℃に加熱し、同温度で2時間撹拌した後、室温まで冷却し、析出した固体を濾過分離することにより下記式(30)で表される化合物を含むウェットケーキ140部を得た。
【0151】
【化30】

【0152】
(工程4)
水200部に、実施例1(工程2)で得た式(29)で表される化合物を含むウェットケーキ15部を25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH8〜9として溶解した。この溶液にライオン(株)社製、商品名:レオコールTD50(界面活性剤)0.04部を加えた後、5〜10℃で塩化シアヌル1.5部を添加した。添加後、炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH値を4〜5に保持しながら、5〜10℃で3.5時間攪拌し、懸濁液を得た。
一方、水150部に、実施例1(工程3)で得た式(30)で表される化合物を含むウェットケーキ14部を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH7〜8として溶解し、溶液を得た。この溶液を先に得た懸濁液に添加した後、65〜70℃に加熱し、炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH値を6〜7に保持しながら3時間攪拌した。次にピペラジン0.4部を添加した後、90〜95℃に加熱し、炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH8〜9に保持しながら7時間攪拌した。この時の液量は500部であった。
得られた液に塩化ナトリウムを加えて塩析し、析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ53.2部を得た。得られたウェットケーキを水320部に加え、50℃に加熱して溶液とした。次いで2−プロパノール480部を加え、30分攪拌した。析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ50.3部を得た。
得られたウェットケーキを再度水240部に加え、50℃に加熱して溶液とした。次いで2-プロパノール400部を加え、30分攪拌した。析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ75.1部を得た。
得られたウェットケーキを水160部に加え、50℃に加熱して溶液とした。この溶液に塩化リチウム32部、水100部を加え、30分攪拌した後、2-プロパノール1000部を加え、さらに30分攪拌した。析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ111.5部を得た。
得られたウェットケーキを水240部に加え、50℃に加熱して溶液とした。この溶液に塩化リチウム32部、水200部を加え、30分攪拌した後、2-プロパノール1000部を加え、さらに30分攪拌した。析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ12.5部を得た。
得られたウェットケーキを水320部に溶解し、2−プロパノール1000部を加え、析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ14.9部を得た。
得られたウェットケーキを水300部に溶解し、2-プロパノール1000部を加え、析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ19.4部を得た。
得られたウェットケーキを乾燥することにより、下記式(31)で表される本発明のアゾ化合物(λmax:456nm)8.2部をリチウム塩として得た。
【0153】
【化31】

【0154】
[実施例2]
(工程1)
水200部に、下記式(32)で表される化合物35部、及び35%塩酸60部を加えて溶液とした。この溶液を0〜10℃に冷却し、亜硝酸ナトリウム15部を加え、0〜10℃で1時間攪拌してジアゾ化反応を行った。得られた反応液にスルファミン酸0.8部を添加し、5分間攪拌してジアゾ反応液を調製した。
一方、40〜50℃の温水300部に、特開2004−083492号公報に記載の方法で得た前記式(27)で表される化合物46.6部及び25%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH5〜6に調整し、水溶液を得た。この水溶液を先に調製したジアゾ反応液に0〜10℃、30分間で滴下した。滴下中は炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH2〜4に保持した。滴下終了後、同温度、同pHで1時間攪拌した後、35%塩酸の添加によりpH0〜1に調整した。析出した固体を濾過分離することにより下記式(33)で表される化合物を含むウェットケーキ173部を得た。
【0155】
【化32】

【0156】
【化33】

【0157】
(工程2)
水200部に前記式(33)で表される化合物を含むウェットケーキ86.3部を加え、40〜50℃に加熱して溶液とした。この溶液に35%塩酸30部を加えた後、5〜20℃に冷却し、亜硝酸ナトリウム6.9部を加えた。この液を5〜20℃で1時間攪拌してジアゾ化反応を行った。得られた反応液にスルファミン酸0.7部を添加し、5分間攪拌してジアゾ反応液を調製した。
一方、水100部に2,5−ジメチルアニリン9.7部、及び35%塩酸9.6部を加えて水溶液を調整した。この水溶液を、先に調製したジアゾ反応液に10〜20℃、30分間で滴下した。滴下中は炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH2〜4に保持した。滴下終了後、同温度、同pHで一晩攪拌した後、35%塩酸の添加によりpH0〜1に調整した。析出した固体を濾過分離することにより下記式(34)で表される化合物を含むウェットケーキ120部を得た。
【0158】
【化34】

【0159】
(工程3)
水200部に、実施例2(工程2)で得た式(34)で表される化合物を含むウェットケーキ16部を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH8〜9として溶解した。この溶液にライオン(株)社製、商品名:レオコールTD50(界面活性剤)0.04部を加えた後、5〜10℃で塩化シアヌル2.5部を添加した。添加後、炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH値を4〜5に保持しながら、5〜10℃で2.5時間攪拌し、懸濁液を得た。
一方、水150部に実施例1(工程3)で得た式(30)で表される化合物を含むウェットケーキ14部を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH7〜8として溶解し、溶液を得た。この溶液を、先に得た懸濁液に添加した後、65〜70℃に加熱し、炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH値を6〜7に保持しながら3.5時間攪拌した。得られた液にピペラジン0.5部を添加した後、90〜95℃に加熱し、炭酸ナトリウム水溶液の添加によりpH8〜9に保持しながら6時間攪拌した。
この時の液量は550部であった。得られた液に塩化ナトリウムを加えて塩析し、析出した固体を濾過分離してウェットケーキを得た。
得られたウェットケーキを水600部に溶解し、メタノール50部、2−プロパノール800部を順次加え、30分間攪拌し、析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ72.5部を得た。
得られたウェットケーキを水450部に加え、50℃に加熱して溶液とした。この溶液に2−プロパノール700部を加え、30分攪拌した。析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ54.3部を得た。
得られたウェットケーキを再度水250部に加え、50℃に加熱して溶液とした。この溶液に2-プロパノール700部を加え、30分攪拌した。析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ78.0部を得た。
得られたウェットケーキを水300部に加え、50℃に加熱して溶液とした。この溶液に塩化リチウム40部、水250部を加え、30分攪拌した後、さらに2-プロパノール1000部を加えて30分攪拌した。析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ43.1部を得た。
得られたウェットケーキを水300部に加え、50℃に加熱して溶液とした。この溶液に塩化リチウム40部、水150部を加え、30分攪拌した後、さらに2-プロパノール1000部を加えて30分攪拌した。析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ21.2部を得た。
得られたウェットケーキを水300部に溶解し、2−プロパノール1100部を加え、析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ13.0部を得た。
得られたウェットケーキを水300部に溶解し、2-プロパノール1000部を加え、析出した固体を濾過分離することによりウェットケーキ17.1部を得た。
得られたウェットケーキを乾燥することにより、下記式(32)で表される本発明のアゾ化合物(λmax:450nm)9.8部をリチウム塩として得た。
【0160】
【化35】

【0161】
(A)インクの調製
下記表24に記載の各成分を混合することによりインク組成物を調製し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過することにより試験用のインクを得た。この際、水はイオン交換水を使用し、インク組成物のpHが8〜9になるように、水酸化リチウム水溶液を用いて調整し、総量100.0部となるように適宜、水を加えた。インク中の色素として実施例2で得た化合物を用いたインクの調製を実施例3とする。
なお、下記表24中、「界面活性剤」は、日信化学(株)社製、商品名サーフィノールRTM104PG50を使用した。
【0162】
【表24】

【0163】
[比較例1]
本発明の水溶性アゾ化合物の代わりに、特開2002−332426号公報中の合成例1に開示された下記式(36)で表される化合物を使用し、pHを調整する際に水酸化ナトリウム水溶液を用いる以外は実施例3と同様にして、比較用のインクを得た。この比較用インクの調製を比較例1とする。
【0164】
【化36】

【0165】
[比較例2]
本発明の水溶性アゾ化合物の代わりに、特開2002−332426号公報中の合成例2に開示された下記式(37)で表される化合物を使用し、pHを調整する際に水酸化ナトリウム水溶液を用いる以外は実施例3と同様にして、比較用のインクを得た。この比較用インクの調製を比較例2とする。
【0166】
【化37】

【0167】
(B)インクジェット記録
実施例3、及び各比較例で得たインクをそれぞれ使用し、Canon社製インクジェットプリンタ、商品名PIXUSRTMiP4500を用いて、下記3種類の光沢紙(A)、(B)、及び(C)にそれぞれインクジェット記録を行った。記録の際は、100%、80%、60%、40%、20%、10%濃度の6段階の階調が得られるように画像パターンを作り、ハーフトーンの記録物を得た。これを試験片として用い、下記する各種の試験を行った。
【0168】
光沢紙(A):
富士フィルム社製、商品名 画彩 写真仕上げPro。
光沢紙(B):
セイコーエプソン社製、商品名 写真用紙クリスピア 高光沢。
光沢紙(C):
キヤノン社製、商品名 写真用紙・光沢ゴールド。
【0169】
(C)記録画像の測色
各種の試験及びその評価は、X−rite社製の測色機、商品名SpectroEyeを用いて試験片を測色することにより行った。測色は、濃度基準にDIN、視野角2°、光源D65の条件で行なった。
【0170】
(D)耐光性試験
スガ試験機(株)社製、商品名 低温サイクルキセノンウエザオメータ− XL75に各試験片を設置し、放射照度を100Klux、湿度60%RH、温度24℃の条件下、168時間照射を行った。キセノン光の暴露前と暴露後の各試験片の記録画像について、上記測色条件下にてCIEのL*、a*、b*を測定し、下記式により色差ΔEを算出し、下記の評価基準によって評価した。結果を下記表25に示す。なお、得られた色差ΔEは小さい方が、変色が少ないことを意味し耐光性が優れることを示す。
なお、下記計算式中、ΔL*、Δa*及びΔb*は、それぞれ暴露前後のL*、a*及びb*の差をそれぞれ意味する。
なお、耐光性試験は、試験前後のプリント画像の60%濃度の階調部を測色することにより評価した。

ΔE=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2

A:ΔEの値が15以下。
B:ΔEの値が15より大きく20以下。
C:ΔEの値が20より大きく30以下。
D:ΔEの値が30より大きい。

【0171】
【表25】

【0172】
表25の結果より明らかなように、実施例3のインクを使用して得られた記録画像は、いずれの光沢紙においても、各比較例より耐光性に極めて優れる結果を示した。
従って、本発明の化合物及びこれを含有するインクは、耐光性に優れ、色変化の少ない画像が得られることから各種の記録用、特にインクジェット記録用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩、
【化1】

[式(1)中、
1からR4はそれぞれ独立に、水素原子;C1−C4アルキル基又はC1−C4アルコキシ基を表し、
5及びR6はそれぞれ独立にC1−C4アルキル基を表し、
7及びR8はそれぞれ独立に、水素原子又はC1−C4アルキル基を表し、
nは1から4の整数を表し、
Xは2価の基を表す。]。
【請求項2】
Xで表される2価の基が、C1−C8アルキレンジアミノ基;ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキレンジアミノ基;C1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C6アルコキシC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C4アルコキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキルアミノ基;キシリレンジアミノ基;ピペラジン−1,4−ジイル基;C1−C4アルキル基若しくはC1−C4アルコキシ基で置換されたピペラジン−1,4−ジイル基;又は、フェニレンジアミノ基;よりなる群から選択されるいずれかの基である請求項1に記載のアゾ化合物又はその塩。
【請求項3】
nが1から3の整数である請求項1又は2に記載のアゾ化合物又はその塩。
【請求項4】
式(1)で表されるアゾ化合物が、下記式(2)で表されるアゾ化合物である請求項1に記載のアゾ化合物又はその塩。
【化2】

[式(2)中、
1からR8;n及びXは、式(1)におけるのと同じ意味を表す。]。
【請求項5】
1及至R4がそれぞれ独立に、水素原子;C1−C4アルキル基;又は、C1−C4アルコキシ基であり、
5及びR6がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
7及びR8が、水素原子又はC1−C4アルキル基であり、
nが1又は2の整数であり、
Xが、C1−C8アルキレンジアミノ基;カルボキシ基で置換されたC1−C8アルキレンジアミノ基;C1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;ヒドロキシ基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルアミノC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C6アルコキシC1−C6アルキルアミノ基;アミノC1−C4アルコキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキルアミノ基;キシリレンジアミノ基;ピペラジン−1,4−ジイル基;C1−C4アルキル基で置換されたピペラジン−1,4−ジイル基;又は、フェニレンジアミノ基;よりなる群から選択されるいずれかの基である、請求項1に記載のアゾ化合物又はその塩。
【請求項6】
1及至R4がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
5及びR6がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
7及びR8がそれぞれ独立にC1−C4アルキル基であり、
nが1の整数であり、
Xが、ピペラジン−1,4−ジイル基;である請求項1に記載のアゾ化合物又はその塩。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩を少なくとも1種類、色素として含有するインク組成物。
【請求項8】
さらに水溶性有機溶剤を含有する請求項7に記載のインク組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のインク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項10】
被記録材が、情報伝達用シートである請求項9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
情報伝達用シートが、多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
請求項8に記載のインク組成物を含む容器が装填されたインクジェットプリンタ。
【請求項13】
a)請求項1乃至6のいずれか一項に記載のアゾ化合物又はその塩、
b)請求項7に記載のインク組成物、又は、
c)請求項9に記載のインクジェット記録方法、のいずれかによって着色された着色体。

【公開番号】特開2011−252032(P2011−252032A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124571(P2010−124571)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】