説明

アゾ化合物、インク組成物及び着色体

【課題】水を主要成分とする媒体に対する溶解性が高く、高濃度染料水溶液及びインクを長期間保存した場合でも安定であり、印字された画像の濃度が高く、印字された画像の堅牢性、特に耐水性、耐光性、耐オゾンガス性に優れた黒色の記録画像を与え、また、合成が容易でありかつ安価である黒色インク用色素とそのインク組成物を提供する。
【解決手段】下記式で表されるアゾ化合物またはその塩。


(式中、Aはニトロ置換フェニルであり、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基等を、Rは水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基等を、nは0または1を、a及び、bはカルボキシ基の置換位置をそれぞれ表し、*はアゾ基の結合位置を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゾ化合物またはその塩、これらを含有するインク組成物およびそれによる着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー記録法の中でも代表的方法の1つであるインクジェットプリンタによる記録方法は、インクの小滴を発生させこれを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材料とが接触しないため音の発生が少なく静かである。また、小型化、高速化が容易であるという特長を有する為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用のインクとしては、水溶性染料を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されており、これらの水溶性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく一般に水溶性有機溶剤が添加されている。この為、これらの従来のインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求され、また特に水への溶解度が高いこと、インクに添加される水溶性有機溶剤への溶解度が高いことが要求される。更に、形成される画像には耐水性、耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性等の画像堅牢性が求められている。
【0003】
耐オゾンガス性とは、空気中に存在する酸化作用を持つオゾンガスが記録紙中で染料に作用し、印刷された画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。オゾンガスの他にも、この種の作用を持つ酸化性ガスとしては、NOx、SOx等があげられるが、これらの酸化性ガスの中でオゾンガスがインクジェット記録画像の変退色現象をより促進させる主原因物質とされている。写真画質インクジェット専用紙の表面に設けられるインク受容層には、インクの乾燥を早めまた高画質でのにじみを少なくする為に、多孔性白色無機物等の素材を用いているものが多く、このような記録紙上でオゾンガスによる変退色が顕著に見られている。
この酸化性ガスによる変退色現象はインクジェット画像に特徴的なものであるため、耐オゾンガス性の向上は最も重要な課題の1つとなっている。
【0004】
近年のインクジェット技術の発達により、インクジェット印刷における印刷スピードの向上がめざましい。このため、商業印刷やオフィス環境での主用途である普通紙へのドキュメントの印刷に、電子トナーを用いたレーザープリンタと同じ様に、インクジェットプリンタを用いる動きがある。インクジェットプリンタは記録紙の種類を選ばない、機械の価格が比較的安いという利点があり、特にSOHO等の小〜中規模オフィス環境での普及が進んでいる。このように普通紙への印刷を用途としてインクジェットプリンタを使用する場合、印刷物に求められる品質の中でも発色性や耐水性がより重視される傾向がある。これらの性能を満たす為には顔料インクを用いるという方法が提案されている。しかしながら、顔料インクは溶液ではなく固体の顔料を分散させた分散液であるために、顔料インクを用いるとそのインクの保存安定性が不良であるという問題や、プリンターヘッドのノズルが詰まるという問題などが染料インクと比較して起こりやすい。また、顔料インクを使用した場合、印刷画像の耐擦性が低いことも問題とされることが多い。染料インクの場合、色素成分である染料はインク中に溶解しているため、このような顔料インクであるがゆえに生じる問題は比較的起こりにくいとされる。しかし、染料インクは特に発色性、耐光性、耐水性において顔料インクと比較して一般に著しく劣るため、その改良が強く望まれている。
【0005】
今後、インクを用いた印刷方法の使用分野を拡大すべく、インクジェット記録用に用いられるインク組成物及びそれによって着色された着色体には、耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性、耐水性の更なる向上が強く求められている。
【0006】
種々の色相のインクが種々の染料から調製されているが、それらのうち黒色インクはモノカラーおよびフルカラー画像の両方に使用される重要なインクである。これら黒色インク用の染料として今日まで多くのものが提案されているが、市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。提案されている多くの色素はジスアゾ色素であり、これらは色相が浅すぎる(赤味の黒色になる)、演色性(光源により色相が変化する性質)が悪い、耐水性や耐湿性が悪い、耐ガス性が十分でない等の問題がある。また、同様に数多く提案されているアゾ含金色素の場合、金属イオンを含み人体への安全性や環境に対する配慮が十分でない、耐オゾンガス性が十分でない等の問題がある。色相を深くする為に共役系を延ばしたポリアゾ色素について研究開発がされているが、色相濃度が低い、水溶性が低く水溶液やインクの保存安定性が悪い、耐オゾンガス性が十分でない等の問題がまだ残されている。
【0007】
近年最も重要な課題となっている耐オゾンガス性について改良されたインクジェット用黒色インク用色素化合物としては、例えば特許文献1に記載の化合物があげられる。しかし、これらの化合物の耐オゾンガス性は市場要求を十分に満たすものではない。また、本発明の黒色インク用色素化合物に構造的に近似する化合物としては特許文献2、3に記載の化合物があげられるが、市場の要求、特に耐オゾンガス性に関しての要求を十分に満たしているものではない。耐オゾンガス性に優れたインクジェット用黒色インク用色素化合物として特許文献5に記載の化合物があげられる。しかし、これらの化合物を用いて印刷された印刷物は耐水性、特に普通紙における耐水性において市場要求を十分に満たすものではない。
【特許文献1】特開2003−183545号公報
【特許文献2】特開昭62−109872号公報
【特許文献3】特開2003−201412号公報
【特許文献4】国際公開2007/138925号
【特許文献5】国際公開2006/051850号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水を主要成分とする媒体に対する溶解性が高く、高濃度染料水溶液及びインクを長期間保存した場合でも安定であり、印字された画像の濃度が高く、印字された画像の堅牢性、特に耐水性、耐光性、耐オゾンガス性に優れた黒色の記録画像を与え、また、合成が容易でありかつ安価である黒色インク用色素とそのインク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至ったものである。即ち本発明は、
1)
下記式(1)で表されるアゾ化合物またはその塩、
【化1】

【化2】

(式(1)中、Aは式(2)であり、
、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)を、Rは水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基または(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されても良い)を、nは0または1を、a及びbはカルボキシ基の置換位置をそれぞれ表し、*はアゾ基の結合位置を表す。)
2)
上記式(1)において、
がカルボキシ基又はスルホ基、Rがカルボキシ基又はスルホ基であり、nが1である上記1)に記載のアゾ化合物またはその塩、
3)
上記式(1)において、
Aが下記式(3)乃至(7)のいずれかで表される基である上記1)又は2)に記載のアゾ化合物またはその塩、
【化3】

(*はアゾ基の結合位置を表す。)
4)
上記式(1)において、
Aが前記式(3)または(4)である上記3)に記載のアゾ化合物またはその塩、
5)
上記式(1)において、
及びRがそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)であり、
がカルボキシ基又はスルホ基である上記1)乃至4)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
6)
上記式(1)において、
が水素原子であり、
の結合したベンゼン環上のカルボキシ基の置換位置がaである上記1)乃至5)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
7)
上記式(1)において、
及びRがそれぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基又はスルホ基であり、
及びRの少なくとも1つが水素原子である上記1)乃至6)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
8)
上記式(1)において、
及びRが水素原子であり、Rの置換位置がアゾ基の置換位置に対してパラ位である上記1)乃至7)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
9)
上記1)乃至8)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩を少なくとも1種含むことを特徴とするインク組成物、
10)
上記9)に記載のインク組成物を用いるインクジェットプリント記録方法、
11)
上記10)に記載のインクジェットプリント方法における被記録材が情報伝達用シートであるインクジェットプリント記録方法、
12)
上記11)に記載の情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有することを特徴とするインクジェットプリント記録方法、
13)
上記9)に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ、
14)
上記1)乃至8)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩によって着色された着色体、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアゾ化合物は水溶解性に優れるので、インク組成物製造過程でのメンブランフィルターによるろ過性が良好であり、記録液の保存時の安定性や吐出安定性にも優れている。また、このアゾ化合物を含有する本発明のインク組成物は長期間保存後の結晶析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。又、本発明のアゾ化合物を含有するインク組成物は、インクジェット記録用、筆記用具用として用いられ、普通紙及びインクジェット専用紙に記録した場合の記録画像の印字濃度が高く、さらに各種堅牢性、特に耐水性に優れている。マゼンタ、シアン及びイエロー染料と共に用いることで各種堅牢性に優れ、保存性の優れたフルカラーのインクジェット記録が可能である。このように本発明のインク組成物はインクジェット記録用ブラックインクとして極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
一般式(1)及び(2)におけるR、R、R、R及びRにおいて、N−アルキルアミノスルホニル基の例としては例えば、N−メチルアミノスルホニル基、N−エチルアミノスルホニル基、N−(n−ブチル)アミノスルホニル基、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−ジ(n−プロピル)アミノスルホニル基等があげられる。
【0013】
一般式(1)及び(2)におけるR、R、R、R及びRにおいて、ヒドロキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基の例としては例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、ブチルスルホニル、ヒドロキシエチルスルホニル、2−ヒドロキシプロピルスルホニル等があげられる。
【0014】
一般式(1)及び(2)におけるR、R、R、R及びRにおいて、アシル基の例としては例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ベンゾイル、ナフトイル等があげられる。
【0015】
一般式(1)及び(2)におけるR〜Rにおいて、ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられる。
【0016】
一般式(1)及び(2)におけるR〜Rにおいて、ヒドロキシ基若しくは(C1〜C4)アルコキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキル基の例としては例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル、メトキシエチル、2−エトキシエチル、n−プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、n−ブトキシエチル、メトキシプロピル、エトキシプロピル、n−プロポキシプロピル、イソプロポキシブチル、n−プロポキシブチル等があげられる。
【0017】
一般式(1)及び(2)におけるR〜Rにおいて、ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルコキシ基の例としては例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、2−ヒドロキシエトキシ、2−ヒドロキシプロポキシ、3−ヒドロキシプロポキシ、メトキシエトキシ、エトキシエトキシ、n−プロポキシエトキシ、イソプロポキシエトキシ、n−ブトキシエトキシ、メトキシプロポキシ、エトキシプロポキシ、n−プロポキシプロポキシ、イソプロポキシブトキシ、n−プロポキシブトキシ、2−ヒドロキシエトキシエトキシ、カルボキシメトキシ、2−カルボキシエトキシ、3−カルボキシプロポキシ、3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ等があげられる。
【0018】
一般式(1)及び(2)におけるR〜Rにおいて、アシルアミノ基の例としては例えば、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチリルアミノ、イソブチリルアミノ、ベンゾイルアミノ、ナフトイルアミノ等があげられる。
【0019】
一般式(1)及び(2)におけるR〜Rにおいて、アルキルスルホニルアミノ基の例としては例えば、メチルスルホニルアミノ、エチルスルホニルアミノ、プロピルスルホニルアミノ等があげられる。
【0020】
一般式(1)及び(2)におけるR〜Rにおいて、ハロゲン原子若しくはアルキル基若しくはニトロ基で置換されても良いフェニルスルホニルアミノ基の例としては例えば、ベンゼンスルホニルアミノ、トルエンスルホニルアミノ、クロロベンゼンスルホニルアミノ、ニトロベンゼンスルホニルアミノ等があげられる。
【0021】
一般式(1)及び(2)におけるR及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)である。これらのうち、好ましいR及びRは、水素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−メチルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、メチルスルホニル基、ヒドロキシエチルスルホニル基、リン酸基、ニトロ基、アセチル基、ベンゾイル基、ウレイド基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等であり、さらに好ましくは、水素原子、塩素原子、シアノ基、スルファモイル基、アセチル基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基、メトキシ基であり、特に好ましくは、水素原子、カルボキシ基、スルホ基である。RとRの好ましい組み合わせとしては、どちらか一方が水素原子で他方がスルホ基、又はどちらか一方が水素原子で他方がカルボキシ基の組み合わせである。
【0022】
一般式(1)におけるRは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基または(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されても良い)である。これらのうち好ましいRは、水素原子、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基であり、さらに好ましくは、水素原子、カルボキシ基、メチル基、メトキシ基、3−スルホプロポキシ基であり、特に好ましくは、水素原子である。
【0023】
一般式(1)におけるR〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシル基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)である。これらのうち、好ましいR〜Rは、水素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−メチルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、メチルスルホニル基、ヒドロキシエチルスルホニル基、リン酸基、ニトロ基、アセチル基、ベンゾイル基、ウレイド基、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、プロピル基、プロポキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等であり、さらに好ましくは、水素原子、塩素原子、メチル基、メトキシ基、エチル基、エトキシ基、2−エトキシエトキシ基、3−スルホプロポキシ基、4−スルホブトキシ基、カルボキシメトキシ基、2−カルボキシエトキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基であり、特に好ましくは、水素原子、カルボキシ基、スルホ基である。R〜Rの好ましい組み合わせとしてはR及びRが水素原子で、Rがスルホ基又はカルボキシ基の組み合わせである。
【0024】
一般式(1)におけるnは0又は1を表すが、nが1であることが特に好ましい
【0025】
〜R及びnの好ましい組み合わせとしてはRがカルボキシ基又はスルホ基、R、R、R及びRが水素原子、Rがカルボキシ基またはスルホ基、nが1の組み合わせであり、特に好ましい組み合わせとしてはRがスルホ基、R、R、R及びRが水素原子、Rがスルホ基、nが1の組み合わせである。
【0026】
上記式(1)で表される化合物の塩は、無機または有機の陽イオンの塩である。そのうち無機塩の具体例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩およびアンモニウム塩であり、又、有機の陽イオンの塩としては例えば下記一般式(8)で表される化合物の塩があげられるがこれらに限定されるものではない。
【0027】
【化4】

【0028】
一般式(8)におけるZ、Z、Z、Zのアルキル基の例としてはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどが挙げられ、ヒドロキシアルキル基の例としてはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられ、ヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシエトキシエチル基、3−ヒドロキシエトキシプロピル基、2−ヒドロキシエトキシプロピル基、4−ヒドロキシエトキシブチル基、3−ヒドロキシエトキシブチル基、2−ヒドロキシエトキシブチル基等ヒドロキシ(C1〜C4)アルコキシ−(C1〜C4)アルキル基が挙げられ、これらのうちヒドロキシエトキシ−(C1〜C4)アルキル基が好ましい。特に好ましいものとしては水素原子;メチル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ−(C1〜C4)アルキル基;ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシエトキシエチル基、3−ヒドロキシエトキシプロピル基、2−ヒドロキシエトキシプロピル基、4−ヒドロキシエトキシブチル基、3−ヒドロキシエトキシブチル基、2−ヒドロキシエトキシブチル基等のヒドロキシエトキシ−(C1〜C4)アルキル基があげられる。
【0029】
一般式(8)のZ、Z、Z、Zの具体例を表1に示すが、特にこれらに限定されるものではない。
【0030】
【表1】

【0031】
一般式(1)で示される本発明のアゾ化合物は、例えば次のような方法で合成することができる。また、各工程における化合物の構造式は遊離酸の形で表すこととする。
【0032】
下記一般式(9)
【化5】

(式中nは一般式(1)と同じ意味を有する。)
とp−トルエンスルホニルクロライドとのアルカリ存在下での反応により得られる式(10)
【0033】
【化6】

(式中nは一般式(1)と同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化し4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸と酸性下カップリング反応し、生成した式(11)
【0034】
【化7】

(式中nは一般式(1)と同じ意味を有する。)
で表される化合物に、式(12)
【0035】
【化8】

(式中R及びRは一般式(2)と同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化したものをカップリング反応させ、得られる式(13)
【0036】
【化9】

(式中R、R及びnは一般式(1)と同じ意味を有する。)
で表される化合物をアルカリ条件下、加水分解し、式(14)
【0037】
【化10】

(式中R、R及びnは一般式(1)と同じ意味を有する。)
で表される化合物を得る。ここに一般式(15)
【0038】
【化11】

(式中R〜Rは一般式(1)と同じ意味を有する。)
で表されるモノアゾ化合物を常法によりジアゾ化したものを、カップリング反応させる事で、一般式(1)で表される本発明のアゾ化合物またはその塩を得ることができる。
【0039】
一般式(15)のモノアゾ化合物は常法により合成できる。例えば下記一般式(16)
【化12】

【0040】
(式中R、R及びRは一般式(1)と同じ意味を有する。)
で表される化合物を常法によりジアゾ化したものと一般式(17)
【0041】
【化13】

【0042】
(式中Rは一般式(1)と同じ意味を有する。)
で表される化合物とカップリング反応させるか、あるいは一般式(16)で表される化合物を常法によりジアゾ化したものと一般式(18)
【0043】
【化14】

【0044】
(式中Rは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物とカップリング反応させた一般式(19)
【0045】
【化15】

【0046】
(式中R〜Rは前記と同じ意味を有する。)
で表される化合物を酸性或いはアルカリ性で加水分解する事によって得ることができる。
【0047】
一般式(1)に示した化合物の好適な例として、特に限定されるものではないが、具体的に下記の構造があげられる。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
式(9)の化合物とp−トルエンスルホニルクロリドとのエステル化反応はそれ自体公知の方法で実施され、水または水溶性有機媒体中、例えば20〜100℃、好ましくは30〜80℃の温度ならびに中性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは中性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH7〜10で実施される。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩などが使用できる。式(9)の化合物とp−トルエンスルホニルクロリドは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0052】
式(10)の化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(10)の化合物のジアゾ化物と4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性または水溶性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに酸性から中性のpH値で行うことが有利である。カップリング浴は酸性化するが、好ましくは酸性から弱酸性のpH値、たとえばpH1〜4で実施される。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、アンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(10)の化合物と4−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0053】
式(12)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(12)の化合物のジアゾ化物と式(11)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水または水溶性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜25℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH5〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(11)と(12)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0054】
式(13)の化合物の加水分解による一般式(14)の化合物の製造もそれ自体公知の方法で実施される。有利には水性アルカリ性媒質中で加熱する方法であり、たとえば一般式(13)の化合物を含有する溶液に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを加えpHを9.5以上としたのち、例えば20〜150℃の温度、好ましくは30〜100℃の温度に加熱することによって実施される。このとき反応溶液のpH値は9.5〜11.5に維持することが好ましい。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基は前記したものを用いることができる。
【0055】
式(15)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(15)の化合物のジアゾ化物と式(14)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水または水溶性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜25℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH5〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(14)と(15)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0056】
式(16)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施され、たとえば無機酸媒質中例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(16)の化合物のジアゾ化物と式(17)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水または水溶性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜25℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH3〜9で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(16)と(17)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0057】
式(17)の化合物とホルムアルデヒド、重亜硫酸ナトリウムの縮合反応による式(18)の化合物の製造もそれ自体公知の方法で実施される。たとえば重亜硫酸ナトリウムを含有する水溶液中−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度でホルムアルデヒドを加え、例えば30〜80℃、好ましくは45〜65℃で式(17)の化合物を含有する溶液に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを加え、好ましくはpHは5〜8に調整した溶液と縮合することによって実施される。式(17)の化合物、ホルムアルデヒド、重亜硫酸ナトリウムは、ほぼ化学量論量用いる。
【0058】
式(16)の化合物のジアゾ化物と式(18)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水性または水溶性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜25℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH3〜8で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムのごときアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウムのごとき酢酸塩、あるいはアンモニアまたは有機アミンなどが使用できる。式(16)と(18)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0059】
式(19)の化合物の加水分解による一般式(15)の化合物の製造もそれ自体公知の方法で実施される。有利には水性アルカリ性媒質中で加熱する方法であり、たとえば一般式(19)の化合物を含有する溶液に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを加えpHを10.0以上としたのち、例えば20〜150℃の温度、好ましくは30〜100℃の温度に加熱することによって実施される。このとき反応溶液のpH値は9.5〜12.5に維持することが好ましい。このpH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基は上記したものを用いることができる。
【0060】
本発明による一般式(1)で示されるアゾ化合物またはその塩(以下断りの無い限り化合物又はその塩を単に化合物と記す。)は、カップリング反応後、鉱酸の添加により遊離酸の形で単離する事ができ、これから水または酸性化した水による洗浄により無機塩を除去する事が出来る。次に、この様にして得られる低い塩含有率を有する酸型色素は、水性媒体中で所望の無機又は有機の塩基により中和することで対応する塩の溶液とすることが出来る。無機の塩基の例としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられ、有機の塩基の例としては、有機アミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどがあげられるがこれらに限定されるものではない。
【0061】
本発明のインク組成物について説明する。本発明の前記一般式(1)で表されるアゾ化合物を含む水性組成物は、セルロースからなる材料を染色することが可能である。また、その他カルボンアミド結合を有する材料にも染色が可能で、皮革、織物、紙の染色に幅広く用いることができる。一方、本発明の化合物の代表的な使用法としては、液体の媒体に溶解してなるインク組成物があげられる。
【0062】
上記一般式(1)で示される本発明のアゾ化合物を含む反応液は、インク組成物の製造に直接使用する事が出来る。しかし、まずこれを乾燥、例えばスプレー乾燥させて単離するか、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム等の無機塩類によって塩析するか、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸によって酸析するか、あるいは上記した塩析と酸析を組み合わせた酸塩析することによって本発明のアゾ化合物を取り出し、次にこれをインク組成物に加工することもできる。
【0063】
本発明のインク組成物は、一般式(1)で示される本発明のアゾ化合物を通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%含有する、水を主要な媒体とする組成物である。本発明のインク組成物には、さらに水溶性有機溶剤を例えば0〜30質量%、インク調製剤を例えば0〜5質量%含有していても良い。なお、インク組成物のpHとしては、保存安定性を向上させる点で、pH6〜10が好ましく、pH7〜10がより好ましい。また、着色組成物の表面張力としては、25〜70mN/mが好ましく、25〜60mN/mがより好ましい。さらに、着色組成物の粘度としては、30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。
【0064】
本発明のインク組成物は、上記の一般式(1)で示されるアゾ化合物を水または水溶性有機溶剤(水と混和可能な有機溶剤)に溶解し、必要に応じインク調製剤を添加したものである。本発明のインク組成物のpHは6〜10程度が好ましい。このインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、本発明の化合物として金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物の含有量が少ないものを用いるのが好ましく、その含有量の目安は例えば1質量%以下(対色素原体)程度である。無機物の少ない本発明の化合物を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法又は本発明の化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール等のアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、濾過分取、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
【0065】
上記インク組成物の調製において用いられる水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1〜C4アルカノール、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリジン−2−オン等のラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オンまたは1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類、アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトンまたはケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール等の(C2〜C6)アルキレン単位を有するモノマー、オリゴマーまたはポリアルキレングリコールまたはチオグリコール、グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール)、エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル又はジエチレングリコールモノエチルエーテル又はトリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1〜C4)アルキルエーテル、γーブチロラクトンまたはジメチルスルホキシド等があげられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0066】
上記インク組成物の調製において用いられるインク調製剤は、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、染料溶解剤、酸化防止剤、界面活性剤などがあげられる。
【0067】
上記防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等があげられる。これらは着色組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0068】
防腐剤としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、(ダブり)ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオシキド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物があげられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオシキド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、無機塩系化合物としては、例えば無水酢酸ソーダが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等があげられる。その他の防腐防黴剤として、ソルビン酸ソーダ、安息香酸ナトリウム等があげられる。
【0069】
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを例えば5〜11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その例として、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム(アンモニア)、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、酢酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム等の無機塩基などがあげられる。
【0070】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0071】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
【0072】
水溶性紫外線吸収剤としては、例えばスルホン化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物があげられる。
【0073】
水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。
【0074】
染料溶解剤としては、例えばε−カプロラクタム、エチレンカーボネート、尿素などがあげられる。
【0075】
酸化防止剤としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。上記有機系の褪色防止剤としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、複素環類、等があげられる。
【0076】
界面活性剤としては、例えばアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの公知の界面活性剤があげられる。アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸、ジオクチルスルホ琥珀酸塩などがあげられる。カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体などがある。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアリルキルアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどのアセチレングリコール系(例えば、日信化学社製サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTGなど)、などがあげられる。これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0077】
本発明のインク組成物は前記各成分を任意の順序で混合、撹拌することによって得られる。得られたインク組成物は狭雑物を除く為にメンブランフィルター等で濾過を行ってもよい。また、黒の色味を調整するため、種々の色相を有するその他の色素を混合してもよい。その場合、本発明の一般式(1)で示されるアゾ化合物以外に、他の色相を有する黒色や、イエロー色、マゼンタ色、シアン色、その他の色の色素を混合して用いることができる。
【0078】
本発明のインク組成物は、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク等に好適であり、該インク組成物を含有してなるインクジェット用インクとして用いることが、特に好ましく、後述する本発明のインクジェット記録方法において好適に使用される。
【0079】
次に、本発明のインクジェット記録方法について説明する。本発明のインクジェット記録方法は、上記インク組成物を含有してなるインクジェット用インクを用いて記録を行うことを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法においては、上記インク組成物を含有してなるインクジェット用インクを用いて受像材料に記録を行うが、その際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等を用いることができる。なお、前記インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0080】
本発明の着色体は上記の本発明の化合物又はこれを含有するインク組成物で着色されたものであり、より好ましくは本発明のインク組成物を用いてインクジェットプリンタによって着色されたものである。着色されうるものとしては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等があげられる。情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層には、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工することにより、また多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックスなどのインク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工することにより設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙(フィルム)、光沢紙(フィルム)等と呼ばれ、例えば代表的な市販品としてはピクトリコ(旭硝子株式会社製)、プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、マットフォトペーパー(いずれもキヤノン株式会社製)、PM写真用紙(光沢)、PMマット紙(いずれもセイコーエプソン株式会社製)、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルム、フォト用紙(いずれも日本ヒューレット・パッカード株式会社製)フォトライクQP(コニカ株式会社製)等がある。なお、普通紙も利用できることはもちろんである。
【0081】
これらのうち、特に多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録した画像がオゾンガスによって変退色が大きくなることが知られているが、本発明のインク組成物は耐オゾンガス性が優れているため、このような被記録材への記録の際に特に効果を発揮する。
【0082】
本発明のインクジェット記録方法で、被記録材に記録するには、例えば上記のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定位置にセットし、通常の方法で、被記録材に記録すればよい。本発明のインクジェット記録方法では、黒色の本発明のインク組成物、公知公用のマゼンタインク組成物、シアンインク組成物、イエローインク組成物、必要に応じて、グリーンインク組成物、ブルー(又はバイオレット)インク組成物及びレッドインク組成物と併用される。各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、その容器を、本発明のインクジェット記録用水性ブラックインク組成物を含有する容器と同様に、インクジェットプリンタの所定位置に装填されて使用される。インクジェットプリンタとしては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式のプリンタや加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式のプリンタ等があげられる。
【0083】
上記式(1)で表される本発明の水溶性アゾ化合物は、水や水溶性有機溶剤に対する溶解性に優れる。また、本発明のインク組成物を製造する過程での、例えばメンブランフィルターに対する濾過性が良好であるという特徴を有する。本発明のインク組成物は、普通紙及びインク受容層を有する情報伝達用シートといった被記録材上で非常に鮮明で、彩度及び印字濃度が高く、理想的な色相の記録画像を与える。このため、写真調のカラー画像を紙の上に忠実に再現させることも可能である。また、本発明のインク組成物は長期間保存後の固体析出、物性変化、色相変化等もなく、貯蔵安定性が極めて良好である。
本発明のインク組成物をインクジェットインクとして使用しても、ノズル付近におけるインク組成物の乾燥による固体析出は非常に起こりにくく、噴射器(記録ヘッド)を閉塞することもない。また、本発明のインク組成物は連続式インクジェットプリンタを用い、比較的長い時間間隔においてインクを再循環させて使用する場合においても、又はオンデマンド式インクジェットプリンタによる断続的な使用においても、物理的性質の変化を起こさない。
さらに、本発明のインク組成物により、インク受容層を有する情報伝達用シートに記録された画像は、耐水性、耐湿性、耐オゾンガス性、耐擦性、耐光性等の各種堅牢性、特に耐水性、耐光性、耐オゾンガス性が良好であり、この理由から、写真調の画像の長期保存安定性にも優れている。また、従来のインクと比較して、普通紙上での彩度、明度、及び印字濃度等の発色性、特に彩度および発色性の高さにも優れている。
このように、式(1)で表される本発明の水溶性アゾ化合物、及びこれを含有する本発明のインク組成物は、各種の記録インク用途、特にインクジェット記録用のインク用途に極めて有用である。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準であり、また反応温度は内温である。合成した化合物のうち、λmax(最大吸収波長)を測定したものについては、pH7〜8の水溶液中での測定値を示した。また、実施例中で得た化合物の各構造式において、カルボキシ基及びスルホ基等の酸性官能基は、遊離酸の形で記載した。
【0085】
[実施例1]
2−アミノ−5−ナフトール−1,7−ジスルホン酸20.1部とp−トルエンスルホニルクロライド12.6部とをpH8.0〜8.5、70℃で1時間反応させた後、酸性にて塩析、ろ過分取して得られる式(20)の化合物28.4部を水300部中に、炭酸ナトリウムでpH6.0〜8.0に調製しながら溶解し、35%塩酸18.7部の添加後、0〜5℃とし、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.7部を添加し、ジアゾ化した。
【0086】
【化16】

【0087】
このジアゾ懸濁液に4−アミノ−5−ヒドロキシナフタレン−1,7−ジスルホン酸 19.1部を水200部に懸濁した液を添加した後、10〜20℃で溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて2.4〜2.8に保持しながら12時間攪拌した。次いで、pH値を炭酸ナトリウムにて7.0〜8.5として溶解し、式(21)のモノアゾ化合物を含む溶液を得た。
【0088】
【化17】

【0089】
水150部に4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム14.4部を溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸18.8部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液10.6部を添加しジアゾ化した。このジアゾ懸濁液を、上記反応にて得られた式(21)のモノアゾ化合物を含む溶液に10〜20℃、溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.0〜9.0で攪拌し、塩化ナトリウムの添加により塩析し、濾過分取することで式(22)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0090】
【化18】

【0091】
上記で得られたウェットケーキを水400部に溶解し、70℃に加熱後、水酸化ナトリウムにてpH値を10.5〜11.0に保持しながら1時間攪拌した。室温まで冷却後、35%塩酸によりpH7.0〜8.0とし、塩化ナトリウムを加えて塩析を行い、濾過分取して式(23)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0092】
【化19】

【0093】
5〜10℃の冷氷水90部に重亜硫酸ナトリウム29.9部を溶かし、37%ホルマリン23.1部を加えた後、55℃まで加熱した液に、2−アミノベンゼンカルボン酸38.2部を水192部に加え55〜65℃に昇温後、48%水酸化ナトリウム20部を加えPH6〜7に調製した溶液を加え、55〜60℃で2時間攪拌後、加熱を止め終夜攪拌した。その終夜攪拌した溶液に35%塩酸20部、食塩を液量に対して25%加えて塩析を行い、濾過分取して式(24)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0094】
【化20】

【0095】
得られたスルホメチル化合物7.28部を水50部に分散し、重曹2.6部を加えて溶解させた溶液を、5℃以下に冷却した溶液にアニリン−4−スルホン酸5.97部を水70部に分散させ、48%苛性ソーダ3.4部を加えて溶解させた溶液を加え、次いで、35%塩酸8.8部を加え、5〜10℃で亜硝酸ナトリウム2.5部を加えて1時間ジアゾ化反応に付した反応液に、ジアゾ安定化剤として2−ナフタレンスルホン酸2.1部を加えたジアゾ液を加え、炭酸ナトリウムを加えてPH4.6〜4.7、3〜8℃を3時間保ち3時間ジアゾカップリング反応に付した。48%水酸化ナトリウム14部を加え、90〜95℃で3時間攪拌した後、40〜50℃まで放冷し、35%塩酸約20部を加えpHPHを4.6〜4.7に調製した後、食塩を液量に対して20%加えて塩析を行い、濾過分取して式(25)の化合物を含むウェットケーキを得た。
【0096】
【化21】

【0097】
得られたモノアゾ化合物9.26部を水100部に分散し、48%水酸化ナトリウムをpH6.0〜7.0とし、になるまで加えた。液に亜硝酸ナトリウム3.64部を加え、10℃まで冷却した溶液を、水50部、35%塩酸10部とから成る溶液中に20分間かけて滴下後、10〜15℃で2時間ジアゾ化した。
【0098】
このジアゾ懸濁液を、水400部に式(23)の化合物を含むウェットケーキ25.3部を溶解させた溶液に、10〜25℃、溶液のpH値を炭酸ナトリウムにて8.5〜9.5に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.5〜9.5で攪拌し、塩化リチウムの添加により塩析し、濾過分取した。得られたウェットケーキを水400部に溶解し、2−プロパノール1000部の添加により晶析、ろ過分取した。更に得られたウェットケーキを水300部に溶解後、2−プロパノール900部の添加により晶析し、ろ過分取、乾燥して本発明の式(26)のアゾ化合物(表2におけるNo.1の化合物)29.8部を得た。この化合物のpH9の水溶液中での最大吸収波長(λmax)は590nmであり、室温における水に対する溶解度は100g/l以上であった。
【0099】
【化22】

【0100】
[比較例1]
水170部に式(27)の化合物17.0部を水酸化リチウムの添加によりpH7.0〜8.0として溶解し、ここに0〜5℃で35%塩酸17.4部、40%亜硝酸ナトリウム水溶液8.7部を添加しジアゾ化した。
【0101】
【化23】

【0102】
このジアゾ懸濁液を、水400部に式(23)の化合物を含むウェットケーキを溶解させた溶液に、10〜25℃、溶液のpH値を水酸化リチウムにて8.0〜9.0に保持しながら滴下した。滴下終了後、15〜30℃で2時間、pH8.0〜9.0で攪拌し、塩化リチウムの添加により塩析し、濾過分取した。得られたウェットケーキを水400部に溶解し、2−プロパノール1000部の添加により晶析、ろ過分取した。更に得られたウェットケーキを水300部に溶解後、2−プロパノール900部の添加により晶析し、ろ過分取、乾燥して(28)49.0部をリチウム塩として得た。この化合物のpH9の水溶液中での最大吸収波長(λmax)は590nmであり、溶解度は100g/l以上であった。
【0103】
【化24】

【0104】
[評価試験]
[(A)インクの調製]
[実施例2]
色素として上記実施例1で得られた本発明のアゾ色素を用い、表5に示した組成比で各成分を混合して本発明のインク組成物とした後、0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により夾雑物を除き、評価試験用のインクを調製した。このインクの調製を実施例2とする。なお、水はイオン交換水を使用し、インク組成物のpHがおよそ9.5となるように水酸化ナトリウム水溶液で調整後、総量が100部になるように水を加えた。
【0105】
[インク組成物の組成比]
【表5】

【0106】
[比較例2]
比較例2として、色素として実施例1で得られた本発明のアゾ色素のかわりに、比較例1の色素を用いる以外は実施例1と同様にして、比較用のインクを調製した。これを比較例2とする。
【0107】
[比較例3]
比較例3として、色素として実施例1で得られた本発明のアゾ色素のかわりに、C.I.Food Black 2を用いる以外は実施例1と同様にして、比較用のインクを調製した。これを比較例3とする。
【0108】
[(B)インクジェットプリント]
インクジェットプリンタ(キヤノン社製 商品名:PIXUS ip4100)を用いて、実施例2及び比較例2、3で調製したインクを使用し、普通紙1(王子製紙社製 OKH−Jオフ70)にインクジェット記録を行った。インクジェット記録の際、チェック柄のパターン(濃度100%と0%の1.5mm角正方形を交互に組み合わせたパターン)を作成し、コントラストの高いブラック−ホワイトの印字物を得た。耐水性試験の目視判断を行う際には、チェック柄の印刷物を用いた。
【0109】
[(C)耐水性試験]
印刷後24時間乾燥を行ったチェック柄の印字物に対して、イオン交換水中を0.3ml滴下した。水滴を自然乾燥後、パターンの着色部分の色落ち具合とホワイト部分の着色具合とを目視で評価し、以下の基準で3段階に評価した。
滲みが全くない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・○
僅かに滲みが見られるが着色部はほぼ残存している・・・・・△
激しく滲み、色落ちする・・・・・・・・・・・・・・・・・×
結果を表6に示す。
【0110】
[耐水性試験の結果]
【表6】

【0111】
表6の結果より明らかなように、各比較例は、耐水性試験においては、にじみ(耐水性試験)の評価でいずれも良好な結果は得られなかった。これに対して実施例2のインクは、耐水性試験においても、極めて良好な結果が得られ、普通紙での耐水性が各比較例と比べて極めて高いことがわかった。
【0112】
以上の結果から、本発明のアゾ色素及びこれを含有するインク組成物は、インクジェット記録用のインクを調製するのに適しており、各種の堅牢性、特に普通紙を用いた場合の耐水性に極めて優れ、また水溶解性が高い。これらの特徴から、本発明のアゾ色素は各種の記録用インク色素、特にインクジェットインク用のブラック色の色素として非常に有用な化合物であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアゾ化合物またはその塩。
【化1】

【化2】

(式(1)中、Aは式(2)であり、
、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、N−アルキルアミノスルホニル基、N−フェニルアミノスルホニル基、ヒドロキシ基で置換されても良い(C1〜C4)アルキルスルホニル基、ホスホ基、ニトロ基、アシル基、ウレイド基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されていても良い)を、Rは水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシ基、ニトロ基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基または(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)、アシルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基又はフェニルスルホニルアミノ基(ハロゲン原子、アルキル基又はニトロ基で置換されても良い)を、nは0または1を、a及びbはカルボキシ基の置換位置をそれぞれ表し、*はアゾ基の結合位置を表す。)
【請求項2】
前記式(1)において、
がカルボキシ基又はスルホ基、Rがカルボキシ基又はスルホ基であり、nが1である請求項1に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項3】
前記式(1)において、
Aが下記式(3)乃至(7)のいずれかで表される基である請求項1又は2に記載のアゾ化合物またはその塩。
【化3】

(*はアゾ基の結合位置を表す。)
【請求項4】
前記式(1)において、Aが前記式(3)または(4)である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項5】
前記式(1)において、
及びRがそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、(C1〜C4)アルキル基(ヒドロキシ基又は(C1〜C4)アルコキシ基で置換されていても良い)、(C1〜C4)アルコキシ基(ヒドロキシ基、(C1〜C4)アルコキシ基、スルホ基又はカルボキシ基で置換されていても良い)であり、
がカルボキシ基又はスルホ基である請求項4に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項6】
前記式(1)において、
が水素原子であり、
の結合したベンゼン環上のカルボキシ基の置換位置がaである請求項5に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項7】
前記式(1)において、
及びRがそれぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基又はスルホ基であり、
及びRの少なくとも1つが水素原子である請求項6に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項8】
前記式(1)において、
及びRがいずれも水素原子であり、Rの置換位置がアゾ基の置換位置に対してパラ位である請求項7に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩を少なくとも1種含むことを特徴とするインク組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のインク組成物を用いるインクジェットプリント記録方法。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェットプリント方法における被記録材が情報伝達用シートであるインクジェットプリント記録方法。
【請求項12】
請求項11に記載の情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有することを特徴とするインクジェットプリント記録方法。
【請求項13】
請求項9に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ。
【請求項14】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩によって着色された着色体。

【公開番号】特開2013−72061(P2013−72061A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214124(P2011−214124)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】