説明

アゾ化合物又はその塩

【課題】溶解性、耐熱性、及び耐光性に優れる新規なアゾ化合物又はその塩を提供すること。
【解決手段】式(I)で表されるアゾ化合物又はその塩。


Aは、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、及びカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を1個又は2個有していてもよいm−又はp−フェニレン基を表す。Rは、置換されていてもよいC8-20脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいC7-20アラルキル基、又は置換されていてもよいC6-20アリール基を表す。Rは、置換されていてもよいC1-5脂肪族炭化水素基、又はトリフルオロメチル基を表す。Rは、水素原子、カルバモイル基、又はシアノ基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料として有用なアゾ化合物又はその塩に関するものである。
【背景技術】
【0002】
染料は、液晶表示パネル、エレクトロルミネッセンス、プラズマディスプレイパネルなどのディスプレイ装置に使用される、カラーフィルタの着色剤として用いられている。一般的に含金アゾ色素は高い耐熱性、及び耐光性を示すことが知られているが、鮮明な色相を有しておらず、ディスプレイ装置に好適に使用することが難しい。
【0003】
染料としては、例えば、特許文献1は、アゾ基に対してオルト位にカルボキシル基を有するピリドンアゾ化合物を開示し、特許文献2は、アゾ基に対してオルト位にニトロ基を有するピリドンアゾ化合物を開示し、特許文献3は、N−置換スルファモイル基上にヘテロ原子を有するピリドンアゾ化合物を開示し、特許文献4は、N−1置換スルファモイル基上にアシル基を有するピリドンアゾ化合物を開示している。
【0004】
一般的に、染料をカラーフィルタの着色剤として使用する際には、特定の溶剤に溶解させて使用することが知られている(特許文献3〜5)。中でも、乳酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、ジアセトンアルコールなどのケトン系溶剤、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルコール系溶剤が用いられている。従来のアゾ化合物の多くは、これらの溶剤に対する溶解性が十分でない。
【0005】
近年、染色時の染料の溶解性、耐熱性、及び耐光性に関して、需要家からの要求が厳しくなっており、特に液晶表示装置へ好適に用いることができるアゾ色素化合物又はその塩が求められている。
【0006】
【特許文献1】特表2003−510398号公報
【特許文献2】特公平7−88633号公報
【特許文献3】特開2006−124634号公報
【特許文献4】特開2007−99840号公報
【特許文献5】特開平10−332930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、溶解性、耐熱性、及び耐光性に優れる新規なアゾ化合物又はその塩を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、アゾ化合物又はその塩の溶解性、耐熱性、及び耐光性を更に改良すべく鋭意検討した結果、式(I)で表されるアゾ化合物は、高い溶解性、耐熱性、及び耐光性を示すことを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、以下を提供する。
1.式(I)で表されるアゾ化合物又はその塩。
【0010】
【化1】

【0011】
(式(I)中、Aは、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、及びカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を1個又は2個有していてもよいm−又はp−フェニレン基を表す。
は、置換されていてもよいC8-20脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいC7-20アラルキル基、又は置換されていてもよいC6-20アリール基を表す。
は、置換されていてもよいC1-5脂肪族炭化水素基、又はトリフルオロメチル基を表す。
は、水素原子、カルバモイル基、又はシアノ基を表す。)
【0012】
2.式(I)で表されるアゾ化合物又はその塩が、式(II)で表されるアゾ化合物又はその塩である、前1項に記載のアゾ化合物又はその塩。
【0013】
【化2】

【0014】
〔式(II)中、R、R及びRは、式(I)におけるものと同様である。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、又はメトキシ基を表す。
、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、又はカルボキシル基を表すが、R、R、及びRのうち少なくとも一つがカルボキシル基を表す。〕
また、本発明のアゾ化合物又はその塩には、式(I)又は(II)で表されるものに加えて、その互変異性体も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアゾ化合物又はその塩は、高い溶解性、耐熱性、及び耐光性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のアゾ化合物又はその塩は、式(I)で表されるように、ピリドンアゾ化合物のアゾ基に結合したベンゼン環が、アゾ基に対してメタ位又はパラ位にカルボキシル基を有し、ピリドン環中の窒素原子上の置換基Rとして比較的炭素数の多い炭化水素基を併せ持つことを特徴とする。なお、式(I)及び(II)で表されるピリドン環の部分には、エノール型のほか、ケト型も含まれる。このような構造により、本発明のアゾ色素化合物又はその塩は、高い溶解性、耐熱性、及び耐光性を示す。なお本発明のアゾ化合物又はその塩が高い溶解性を示す溶媒には、例えば、ヒドロキシカルボン酸エステル類(乳酸エチルなど)、ヒドロキシケトン類(ジアセトンアルコールなど)、エーテル類(プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)などの揮発性が低い溶媒が選ばれる。
【0017】
以下では、式(I)について詳細に説明する。式(I)中、Aは、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、及びカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を1個又は2個有していてもよいm−又はp−フェニレン基を表す。Aは、無置換のm−又はp−フェニレン基、あるいは、メチル基、メトキシ基、又はカルボキシル基を有するm−又はp−フェニレン基であることが好ましい。本発明のアゾ化合物又はその塩は、カルボキシル基を特定部位に有することにより、溶解性、耐熱性、及び耐光性を兼ね備えることができる。溶解性を向上させるために、式(I)中、Aが、1つ以上のメチル基を有することが好ましい。
【0018】
は、置換されていてもよいC8-20脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいC7-20アラルキル基、又は置換されていてもよいC6-20アリール基を表す。
【0019】
の脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分枝鎖状又は環状のいずれでもよい。脂肪族炭化水素基の炭素数には置換基の炭素数を全て含み、その数は、通常、8〜20、好ましくは8〜12である。Rの脂肪族炭化水素基には、例えばn−オクチル基、メチルヘキシル基(1,5−ジメチルヘキシル基など)、エチルヘキシル基(2−エチルヘキシル基など)、シクロオクチル基、メチルシクロヘキシル基(2,2−ジメチルシクロヘキシル基など)、シクロヘキシルアルキル基などが含まれる。Rの脂肪族炭化水素基は、C1-8アルコキシル基などの置換基で置換されていてもよい。この置換脂肪族炭化水素基としては、アルコキシプロピル基(3−(2’−エチルヘキシルオキシ)プロピル基など)などが例示できる。Rの脂肪族炭化水素基は、末端がカルボキシル基で置換されていてもよい。この置換脂肪族炭化水素基としては、8−(カルボキシ)オクチル基などが例示できる。
【0020】
のアラルキル基のアルキル部分は、直鎖状、分枝鎖状又は環状のいずれでもよい。アラルキル基の炭素数は、通常、7〜20、好ましくは7〜10である。このアラルキルとしては、ベンジル基、フェニルブチル基(3−アミノ−1−フェニルブチル基など)などのフェニルアルキル基が代表的である。
【0021】
のアリール基は、無置換であってもよく、脂肪族炭化水素基又はカルボキシル基などの置換基を有していてもよい。前記アリール基の炭素数は、置換基の炭素数を含めて数えられ、通常、6〜20、好ましくは6〜10である。これらアリール基としては、例えばフェニル基、カルボキシフェニル基(2−カルボキシフェニル基など)、トリフルオロメチルフェニル基(4−トリフルオロメチルフェニル基など)などの無置換又は置換フェニル基などが挙げられる。
【0022】
は、置換されていてもよいC1-5脂肪族炭化水素基、又はトリフルオロメチル基を表す。色濃度と色相の観点からは、メチル基が好ましい
【0023】
は、水素原子、カルバモイル基、又はシアノ基を表す。Rに水素原子又はシアノ基を有する本発明のアゾ化合物又はその塩は、特に高い色濃度を示すことができる。
なお本発明において、Ca-bとは、炭素数がa以上、b以下であることを意味する。
【0024】
前記Aは、色濃度、溶解性、耐熱性、及び耐光性などを高める観点から、さらに限定してもよい。特に溶剤への溶解性を高める観点からは、A上のアゾ基とカルボキシル基が、パラ位又はメタ位に位置し、アゾ基のオルト位にカルボキシル基を持たない構造が望ましい。すなわち、式(II)で表される化合物を例示できる。
【0025】
式(II)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、又はメトキシ基を表す。色濃度の面からは、水素原子、又はメチル基であることが好ましい。
【0026】
、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、又はカルボキシル基を表す。そして、R、R、及びRのうち少なくとも一つがカルボキシル基を表す。この部位にカルボキシル基を導入することで、溶剤溶解性を向上させることができる。より好ましくは、R、R、及びRのうち一つがカルボキシル基を表す。
【0027】
なお本発明のアゾ化合物又はその塩には、式(I)及び(II)で表されるものに加えて、その互変異性体も含まれる。式(I)及び(II)で表される化合物は任意の位置で2量体以上の多量体を形成していても良い。
【0028】
アゾ化合物(I)を2種以上併用すると、その1種を単独で用いる場合よりも、有機溶媒への溶解量が大きい。そのため溶解性の観点から、液晶表示装置の色素として、アゾ化合物(I)の2種以上の組合せを用いることも好ましい態様である。溶解性が向上する組合せの例として、2つのカルボキシル基を有するアゾ化合物(ジカルボン酸)と、1つのカルボキシル基を有するアゾ化合物(モノカルボン酸)との組合せが挙げられる。
また、モノカルボン酸はジカルボン酸と比較して分子量が低い為、色濃度の観点から特に好ましい。
【0029】
本発明のアゾ化合物ではRに嵩高い基を選択することで、アゾ色素のスタッキングを低減でき、溶解性を高めることができる。また嵩高い基を選択することで、アゾ基を保護でき、耐光性を高めることができる。前記の嵩高いRとしては、2−エチルヘキシル基などの枝分かれ脂肪族炭化水素基(特に3級脂肪族炭化水素基)などが例示できる。
【0030】
式(I)の好ましい例には、式(I−1)〜(I−26)が挙げられる。
【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
式(I)で表される化合物のうち、色濃度、溶解性、耐熱性、及び耐光性などを高める観点からさらに好ましいのは、式(II)で表されるような、アゾ化合物である。
【0037】
【化8】

【0038】
式(II)の好ましい例は、式(II−1)〜(II−40)である。
【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
【化14】

【0045】
【化15】

【0046】
【化16】

【0047】
本発明は、式(I)及び(II)で表される化合物に限らず、その塩も包含する。塩としては、カルボン酸塩が挙げられる。またこれら塩を形成するカチオンは特に限定されないが、溶媒に対する溶解性を考慮すると、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;アンモニウム塩;及びエタノールアミン塩、アルキルアミン塩のような有機アミン塩などが好ましい。特にアルカリ金属塩(好ましくはナトリウム塩)は、偏光膜基材に含有させる場合に有用である。また有機アミン塩は、樹脂硬化性化合物に含有させる場合に有用であり、さらには非金属塩であるため、絶縁性が重要視される分野でも有用である。
【0048】
本発明のアゾ化合物は、染料分野でよく知られているように、ジアゾニウム塩とピリドン類とをカップリングすることにより製造でき、例えば、式(a)で表されるアミン類(ジアゾ成分)を、亜硝酸、亜硝酸塩又は亜硝酸エステルによりジアゾ化することによって得られる式(b)で表される化合物を、前記ジアゾニウム塩として使用できる。
【0049】
【化17】

【0050】
(式(a)及び(b)中、Aは式(I)におけるものと同じ意味を表す。Xは、無機又は有機アニオンを表す。)
【0051】
前記の無機又は有機アニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、CH−COO、Ph−COOなどが挙げられ、好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、CH−COOが挙げられる。
【0052】
そして式(b)で表されるジアゾニウム塩と、式(c)で表されるピリドン類(カップリング成分)とを、通常、水性溶媒中20〜60℃で反応させることにより、アゾ化合物(I)を製造することができる。
【0053】
【化18】

【0054】
(式(c)中、R1〜Rは、前記と同じ意味を表す。)
【0055】
反応混合物から目的化合物であるアゾ化合物を取得する方法は特に限定されず、公知の種々の手法(酸析、塩析など)が採用できる。濾取した結晶は、通常、水などで洗浄され、次いで乾燥される。また必要に応じて、再結晶などの公知の手法によってさらに精製してもよい。
【0056】
式(c)で表されるピリドン類は、公知の製造法を用いて製造することができる。例えば、特許文献1、特許文献3、又は昭49−40474号公報で開示されている手法を用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお実施例及び比較例中の「%」及び「部」は、特記されない限り、質量%及び質量部である。
【0058】
実施例1
式(a−1)で表される4−アミノ安息香酸5.0部に水25部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7〜8に調節した。以下の操作は氷冷下で行った。亜硝酸ナトリウムを7.6部加えて30分攪拌した。35%塩酸22.8部を少量ずつ加えて褐色溶液とした後、2時間攪拌した。アミド硫酸6.9部を水69部に溶解した水溶液を反応溶液に加えて攪拌し、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を得た。
【0059】
【化19】

【0060】
式(c−1)で表される1−(2−エチルヘキシル)−3−シアノ−4−メチル−6−ヒドロキシピリド−2−オン10.5部にN−メチルピロリドン105部および水53部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節した。
【0061】
【化20】

【0062】
以下の操作は氷冷下で行った。前記ピリドン水溶液を攪拌して無色溶液とした後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節しながら、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を2時間かけてポンプで滴下した。滴下終了後、さらに2時間攪拌することで褐色懸濁液を得た。濾過して得た黄色固体を減圧下60℃で乾燥し、式(II−1)で表されるアゾ化合物を10.9部(収率73%)得た。
【0063】
【化21】

【0064】
アゾ化合物(II−1)の構造は、1H−NMR、13C−NMR、及び質量分析によって決定した。NMR装置はECA−500(日本分光社製)、質量分析装置はJMS−700(日本電子株式会社製)を使用した。
1H−NMR(500MHz、δ値(ppm、TMS基準)、DMSO);0.84−0.88(6H、m)、1.19−1.33(8H、m)、1.77(1H、m)、2.51(3H、s)、3.71−3.79(2H、m)、7.76(2H、br.d、J=8.8Hz)、7.97(2H、br.d、J=8.8Hz)、13.81(1H、br.s)、14.3(1H、br.s)
13C−NMR(125MHz、δ値(ppm、TMS基準)、DMSO):10.30、13.93、16.43、21.03、22.47、23.26、28.01、29.91、36.83、43.12、101.54、114.88、117.12、123.97、128.22、130.87、144.64、159.16、160.23、160.56、166.54、171.98
質量分析:
イオン化モード=FD+:m/z=410
【0065】
得られたアゾ化合物(II−1)0.35gを乳酸エチルに溶解して体積を250cm3とし、そのうちの2cm3を乳酸エチルで希釈して体積を100cm3として(濃度:0.028g/L)、分光光度計〔石英セル、セルの長さは1cm〕を用いて吸収スペクトルを測定した。この化合物は、λmax=431nmで吸光度2.4(任意単位)を示した。
【0066】
実施例2
式(a−1)で表される4−アミノ安息香酸5.0部に水25部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7〜8に調節した。以下の操作は氷冷下で行った。亜硝酸ナトリウムを7.6部加えて30分攪拌した。35%塩酸22.8部を少量ずつ加えて褐色溶液とした後、2時間攪拌した。アミド硫酸6.9部を水69部に溶解した水溶液を反応溶液に加えて攪拌し、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を得た。
【0067】
式(c−2)で表される1−[3’−プロピル(2’’−エチルヘキシルオキシ)]−3−シアノ−4−メチル−6−ヒドロキシピリド−2−オン12.9部にN−メチルピロリドン129部および水64部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節した。
【0068】
【化22】

【0069】
以下の操作は氷冷下で行った。前記ピリドン水溶液を攪拌して無色溶液とした後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節しながら、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を2時間かけてポンプで滴下した。滴下終了後、さらに2時間攪拌することで褐色懸濁液を得た。濾過して得た黄色固体を減圧下60℃で乾燥し、式(II−6)で表されるアゾ化合物を12.5部(収率73%)得た。
【0070】
【化23】

【0071】
アゾ化合物(II−6)の構造は質量分析によって決定した。質量分析装置はJMS−700(日本電子株式会社製)を使用した。
質量分析:
イオン化モード=FD+:m/z=468
【0072】
得られたアゾ化合物(II−6)0.35gを乳酸エチルに溶解して体積を250cm3とし、そのうちの2cm3を乳酸エチルで希釈して体積を100cm3として(濃度:0.028g/L)、分光光度計〔石英セル、セルの長さは1cm〕を用いて吸収スペクトルを測定した。この化合物は、λmax=431nmで吸光度2.2(任意単位)を示した。
【0073】
実施例3
式(a−2)で表される3−アミノ安息香酸5.0部に水25部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7〜8に調節した。以下の操作は氷冷下で行った。亜硝酸ナトリウムを7.6部加えて30分攪拌した。35%塩酸22.8部を少量ずつ加えて褐色溶液とした後、2時間攪拌した。アミド硫酸6.9部を水69部に溶解した水溶液を反応溶液に加えて攪拌し、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を得た。
【0074】
【化24】

【0075】
式(c−1)で表される1−(2−エチルヘキシル)−3−シアノ−4−メチル−6−ヒドロキシピリド−2−オン10.5部にN−メチルピロリドン105部および水53部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節した。
【0076】
【化25】

【0077】
以下の操作は氷冷下で行った。前記ピリドン水溶液を攪拌して無色溶液とした後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節しながら、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を2時間かけてポンプで滴下した。滴下終了後、さらに2時間攪拌することで褐色懸濁液を得た。濾過して得た黄色固体を減圧下60℃で乾燥し、式(II−11)で表されるアゾ化合物を12.3部(収率82%)得た。
【0078】
【化26】

【0079】
アゾ化合物(II−11)の構造は質量分析によって決定した。質量分析装置はJMS−700(日本電子株式会社製)を使用した。
質量分析:
イオン化モード=FD+:m/z=410
【0080】
得られたアゾ化合物(II−11)0.35gを乳酸エチルに溶解して体積を250cm3とし、そのうちの2cm3を乳酸エチルで希釈して体積を100cm3として(濃度:0.028g/L)、分光光度計〔石英セル、セルの長さは1cm〕を用いて吸収スペクトルを測定した。この化合物は、λmax=427nmで吸光度2.0(任意単位)を示した。
【0081】
比較例1
式(a−1)で表される4−アミノ安息香酸45.1部に水225部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7〜8に調節した。以下の操作は氷冷下で行った。亜硝酸ナトリウムを68.0部加えて30分攪拌した。35%塩酸205.4部を少量ずつ加えて褐色溶液とした後、2時間攪拌した。アミド硫酸61.8部を水618.4部に溶解した水溶液を反応溶液に加えて攪拌し、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を得た。
【0082】
式(c−3)で表される1−ブチル−3−シアノ−4−メチル−6−ヒドロキシピリド−2−オン63.0部に水629.7部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節した。
【0083】
【化27】

【0084】
以下の操作は氷冷下で行った。前記ピリドン水溶液を攪拌して無色溶液とした後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節しながら、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を2時間かけてポンプで滴下した。滴下終了後、さらに2時間攪拌することで暗色溶液を得た。精製塩140部を反応溶液に加えて、5時間攪拌した。濾過して得た黄色固体を減圧下60℃で乾燥し、式(d−1)で表されるアゾ化合物を98.4部(収率79%)得た。
【0085】
【化28】

【0086】
アゾ化合物(d−1)の構造は質量分析によって決定した。質量分析装置はJMS−700(日本電子株式会社製)を使用した。
質量分析:
イオン化モード=FD+:m/z=354
【0087】
得られたアゾ化合物(d−1)0.35gを乳酸エチルに溶解して体積を250cm3とし、そのうちの2cm3を乳酸エチルで希釈して体積を100cm3として(濃度:0.028g/L)、分光光度計〔石英セル、セルの長さは1cm〕を用いて吸収スペクトルを測定した。この化合物は、λmax=431nmで吸光度2.5(任意単位)を示した。
【0088】
比較例2
式(a−3)で表される4−アミノ安息香酸イソブチル10.0部に水50部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7〜8に調節した。以下の操作は氷冷下で行った。亜硝酸ナトリウムを10.7部加えて30分攪拌した。35%塩酸32.3部を少量ずつ加えて褐色溶液とした後、2時間攪拌した。アミド硫酸9.7部を水97.4部に溶解した水溶液を反応溶液に加えて攪拌し、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を得た。
【0089】
【化29】

【0090】
式(c−3)で表される1−ブチル−3−シアノ−4−メチル−6−ヒドロキシピリド−2−オン9.9部に水99.2部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節した。
【0091】
以下の操作は氷冷下で行った。前記ピリドン水溶液を攪拌して無色溶液とした後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節しながら、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を2時間かけてポンプで滴下した。滴下終了後、さらに2時間攪拌することで暗色溶液を得た。精製塩140部を反応溶液に加えて、5時間攪拌した。濾過して得た黄色固体を減圧下60℃で乾燥し、式(d−2)で表されるアゾ化合物を15.9部(収率75%)得た。
【0092】
【化30】

【0093】
アゾ化合物(d−2)の構造は質量分析によって決定した。質量分析装置はJMS−700(日本電子株式会社製)を使用した。
質量分析:
イオン化モード=FD+:m/z=410
【0094】
得られたアゾ化合物(d−2)0.35gを乳酸エチルに溶解して体積を250cm3とし、そのうちの2cm3を乳酸エチルで希釈して体積を100cm3として(濃度:0.028g/L)、分光光度計〔石英セル、セルの長さは1cm〕を用いて吸収スペクトルを測定した。この化合物は、λmax=430nmで吸光度2.5(任意単位)を示した。
【0095】
比較例3
式(a−4)で表される2−アミノ−3−メチル安息香酸15.9部に水79.3部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7〜8に調節した。以下の操作は氷冷下で行った。亜硝酸ナトリウムを21.7部加えて30分攪拌した。35%塩酸65.5部を少量ずつ加えて褐色溶液とした後、2時間攪拌した。アミド硫酸19.7部を水197.3部に溶解した水溶液を反応溶液に加えて攪拌し、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を得た。
【0096】
【化31】

【0097】
式(c−3)で表される1−ブチル−3−シアノ−4−メチル−6−ヒドロキシピリド−2−オン20.1部に水200.9部を加えた後、氷冷下、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節した。
【0098】
以下の操作は氷冷下で行った。前記ピリドン水溶液を攪拌して無色溶液とした後、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH8〜9に調節しながら、ジアゾニウム塩を含む懸濁液を2時間かけてポンプで滴下した。滴下終了後、さらに2時間攪拌することで暗色溶液を得た。精製塩140部を反応溶液に加えて、5時間攪拌した。濾過して得た黄色固体を減圧下60℃で乾燥し、式(d−3)で表されるアゾ化合物を28.5部(収率74%)得た。
【0099】
【化32】

【0100】
アゾ化合物(d−3)の構造は質量分析によって決定した。質量分析装置はJMS−700(日本電子株式会社製)を使用した。
質量分析:
イオン化モード=FD+:m/z=368
【0101】
得られたアゾ化合物(d−3)0.35gを乳酸エチルに溶解して体積を250cm3とし、そのうちの2cm3を乳酸エチルで希釈して体積を100cm3として(濃度:0.028g/L)、分光光度計〔石英セル、セルの長さは1cm〕を用いて吸収スペクトルを測定した。この化合物は、λmax=425nmで吸光度2.0(任意単位)を示した。
【0102】
比較例4
特許文献1(特表2003−510398号公報)の実施例17に記載の方法で、下記アゾ化合物を合成した。アゾ化合物(d−4)0.35gを乳酸エチルに溶解して体積を250cmとし、そのうちの2cmをイオン交換水で希釈して体積を100cmとして(濃度:0.028g/L)、分光光度計(石英セル、光路長;1cm)を用いて吸収スペクトルを測定した。この化合物は、λmax=422nmで吸光度2.1(任意単位)を示した。
【0103】
【化33】



【0104】
実施例4
実施例1〜3、及び比較例1〜4のアゾ化合物の溶解性(プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジアセトンアルコール(DAA)への溶解度)を、以下のようにして求めた:
【0105】
50mLサンプル管中、各アゾ化合物と下記表1に示す各溶媒を、それぞれ1%(W/V)及び3%(W/V)の混合割合で混合し、密栓後40℃で10分間超音波振とうを与えた。ついで室温で30分間放置後濾過し、不要物の有無を確認した。
1%(W/V)調整の混合溶液にて不溶物があるものを溶解度1%以下と判断し×で、1%(W/V)調整の混合溶液にて不溶物が無く、3%(W/V)調整の混合溶液にて不溶物があるものを溶解度1〜3%未満と判断し△で、3%(W/V)調整の混合溶液にて不溶物がないものを溶解度3%以上と判断し○で表した。結果を、表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
表1の結果から、特定の部位にカルボキシル基と長鎖アルキル基を導入することにより、アゾ化合物の溶解性が向上することが分かる。
【0108】
以下の実施例で用いる成分は以下の通りであり、以下、省略して表示することがある。
(II−1)着色剤: 実施例1で合成したアゾ化合物
(A−1)着色剤:Solvent Yellow162(BASF社製)
(d−1)着色剤:比較例1で合成したアゾ化合物
(d−4)着色剤:比較例4で合成したアゾ化合物
(F−1)樹脂:HN−122(田岡化学工業社製)
(G−1)溶剤:N,N−ジメチルホルムアミド
【0109】
実施例5
〔着色組成物1の調製〕
(II−1) 0.51質量部
(F−1) 1.19質量部
(G−1) 8.30質量部
を混合して着色組成物1を得た。
【0110】
〔塗布膜の形成〕
次にガラス(#1737;コーニング)上に、上記で得た着色組成物1をスピンコート法で塗布した後、100℃3分間で揮発成分を揮発させて着色組成物1の塗布膜を形成した。
【0111】
〔評価1〕耐熱性評価方法
上記実施例5で得られた着色組成物1の塗布膜を230℃で120分加熱し、加熱前後の色差(ΔEab*)を測色機(OSP−SP−200;OLYMPUS社製)を用いて測定した。
【0112】
〔評価2〕耐光性評価方法
上記実施例5で得られた着色組成物1の塗布膜の上に紫外線カットフィルター[「COLORED OPTICAL GLASS L38」(ホヤ(株)製)、380nm以下の光はカットする。]を配置し、耐光性試験機(SUNTEST CPS+:東洋精機社製)にてキセノンランプ光を48時間照射した。
つぎに、耐光性試験前後での色差(ΔEab*)を測色機(OSP−SP−200;OLYMPUS社製)を用いて測定した。
【0113】
〔塗布膜の評価〕
得られた塗布膜について以上の評価1〜2の方法にて、耐熱性および、耐光性の評価を実施した結果、耐熱性評価での色差(ΔEab*)は4.4であり、耐光性評価での色差(ΔEab*)は0.2であった。
【0114】
比較例5
〔着色組成物2の調製〕
実施例5の着色剤(II−1)を着色剤(A−1)に変更する以外は、実施例5と同様に混合して着色組成物2を得た。
【0115】
〔塗布膜の形成および評価〕
実施例5と同様にして塗布膜を作成し、評価を実施した結果、耐熱性評価での色差(ΔEab*)は4.8であり、耐光性評価での色差(ΔEab*)は0.6であった。
【0116】
比較例6
〔着色組成物3の調製〕
実施例5の着色剤(II−1)を着色剤(d−1)に変更する以外は、実施例5と同様に混合して着色組成物3を得た。
【0117】
〔塗布膜の形成および評価〕
実施例5と同様にして塗布膜を作成し、評価を実施した結果、耐熱性評価での色差(ΔEab*)は38.3であり、耐光性評価での色差(ΔEab*)は1.6であった。
【0118】
比較例7
〔着色組成物4の調製〕
実施例5の着色剤(II−1)を着色剤(d−4)に変更する以外は、実施例5と同様に混合して着色組成物4を得た。
【0119】
〔塗布膜の形成及び評価〕
実施例5と同様にして塗布膜を作成し、評価を実施した結果、耐熱性評価での色差(ΔEab*)は33.9であり、耐光性評価での色差(ΔEab*)は35.4であった。
【0120】
上記の結果から、本発明のアゾ化合物が、従来のアゾ化合物に比べて、溶解性、耐熱性、及び耐光性が向上することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるアゾ化合物又はその塩。
【化1】


〔式(I)中、Aは、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、及びカルボキシル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を1個又は2個有していてもよいm−又はp−フェニレン基を表す。
は、置換されていてもよいC8-20脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいC7-20アラルキル基、又は置換されていてもよいC6-20アリール基を表す。
は、置換されていてもよいC1-5脂肪族炭化水素基、又はトリフルオロメチル基を表す。
は、水素原子、カルバモイル基、又はシアノ基を表す。〕
【請求項2】
式(I)で表されるアゾ化合物又はその塩が、式(II)で表されるアゾ化合物又はその塩である、請求項1に記載のアゾ化合物又はその塩。
【化2】


〔式(II)中、R、R及びRは式(I)におけるものと同様である。
及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、又はメトキシ基を表す。
、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、又はカルボキシル基を表すが、R、R、及びRのうち少なくとも一つがカルボキシル基を表す。〕

【公開番号】特開2009−280691(P2009−280691A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133812(P2008−133812)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】